説明

盛土の耐震補強構造及びそれに用いる地中壁の設計方法

【課題】 盛土天端の伸張及びそれに伴う縦割れを合理的な手法で防止する。
【解決手段】本発明に係る盛土の耐震補強構造1は、鉄道軌道(図示せず)が敷設された盛土2に適用されたものであって、該盛土は、支持基盤4の上に積層された液状化地盤3の上に構築してある。液状化地盤3には、盛土2の各法尻近傍から下方に向けてそれぞれ延びるように、かつ液状化地盤3が挟み込まれるように一対の地中壁としての鋼矢板6,6を対向配置してあり、鋼矢板6,6は、それらの上縁において引張材としてのタイロッド5を介して相互に連結してある。ここで、鋼矢板6,6は、それらの下縁における相互の離間距離が、上縁における相互の離間距離よりも小さくなるように、換言すれば逆ハの字状になるように、鉛直面に対してそれぞれ配置角θだけ傾斜させてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として液状化地盤に構築された盛土の耐震補強構造及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤の液状化は、地震時水平力が地盤に作用したとき、該地盤のせん断変形によって砂粒子間の間隙水圧が上昇し、その間隙水圧上昇に伴って有効応力がゼロになる結果、砂粒子間での応力伝達ができなくなって流動性が高くなる現象であり、緩い飽和砂質地盤で起こりやすい(以下、液状化が発生しやすい地盤を液状化地盤と言う)。
【0003】
液状化が進行すると、地盤が鉛直支持力を失って建物の倒壊を招くほか、地盤の側方流動によって杭が損壊するなどの被害が生じ、我が国では、古くは新潟地震から液状化の被害が明確に認識されるようになった。
【0004】
このような液状化被害に対し、従来からさまざまな対策が研究開発されてきたが、液状化地盤上に盛土が構築されている場合においては、盛土の下方領域を挟み込むようにその両脇の法尻から鋼矢板(シートパイル)を鉛直下方に打ち込むとともに、その頭部同士をタイロッドなどの引張材で相互に連結する方法が知られている。
【0005】
かかる対策工によれば、盛土下方に拡がる地盤のせん断変形が鋼矢板によって抑制されるため、地震の際に地盤の液状化が生じにくくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−131207号公報
【特許文献2】特開平11−1926号公報
【特許文献3】特開2009−79415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、現状の設計で想定されている規模を大幅に上回る地震が起きた場合や盛土規模が非常に大きい場合、上述の対策工では必ずしも十分とは言えない場合が生じてくることが本出願人らの研究によって明らかになった。
【0008】
すなわち、液状化が生じた場合、盛土の沈下とともに盛土の底面幅(法尻間の水平距離)が拡がり、さらに、それに伴って盛土の天端幅(法肩間の水平距離)も拡がる現象が起こり、盛土天端に引張応力が発生して、盛土堤体の材軸方向に沿った縦割れが生じる原因となる。
【0009】
かかる盛土天端での伸張は、盛土の上に鉄道用の軌道が敷設されている場合、盛土が崩壊しないまでも、盛土天端の縦割れによって軌道に強制変形が加わり、鉄道の走行安全性に支障が生じるという問題を生じていた。
【0010】
このような液状化における盛土天端の縦割れは、盛土の上に道路が敷設されている場合においても、舗装面に縦割れが生じて自動車を安全に走行させることができないという事態を招く。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、盛土天端の伸張及びそれに伴う縦割れを合理的な手法で防止することが可能な盛土の耐震補強構造及びそれに用いる地中壁の設計方法を提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る盛土の耐震補強構造は請求項1に記載したように、一対の地中壁を盛土の各法尻近傍から下方に向けてそれぞれ延びるようにかつ前記盛土の下方に拡がる地盤が挟み込まれるように該地盤に対向配置するとともに、前記一対の地中壁の上縁を引張材を介して相互に連結してなる盛土の耐震補強構造において、
前記一対の地中壁をそれらの下縁における相互の離間距離が上縁における相互の離間距離よりも小さくなるように鉛直面に対してそれぞれ傾斜配置したものである。
【0013】
また、本発明に係る盛土の耐震補強構造は、前記地盤を液状化地盤としたものである。
【0014】
また、本発明に係る盛土の耐震補強構造は、鉛直面に対する前記地中壁の配置角を20゜以上50゜以下としたものである。
【0015】
また、本発明に係る盛土の耐震補強構造は、前記地中壁の下縁を前記地盤の下方に位置する支持基盤に非貫入としたものである。
【0016】
また、本発明に係る盛土の耐震補強構造は、前記盛土を、天端に鉄道軌道又は道路が敷設されてなる盛土としたものである。
【0017】
また、本発明に係る盛土の耐震補強構造に用いる地中壁の設計方法は請求項6に記載したように、一対の地中壁を盛土の各法尻近傍から下方に向けてそれぞれ延びるようにかつ前記盛土の下方に拡がる地盤が挟み込まれるように該地盤に対向配置するとともに、前記一対の地中壁をそれらの下縁における相互の離間距離が上縁における相互の離間距離よりも小さくなるように鉛直面に対してそれぞれ傾斜配置し、前記一対の地中壁の上縁を引張材を介して相互に連結してなる盛土の耐震補強構造の振動解析用2次元FEMモデルを作成し、
前記振動解析用2次元FEMモデルを用いて所定の入力地震波に対する前記盛土の変形を求めるとともに該盛土の変形からその天端における伸張量を求める演算を、鉛直面に対する前記地中壁の配置角をパラメータとして行い、
前記パラメータ解析の結果から前記盛土天端の伸張量が最小になる前記地中壁の配置角を求めるものである。
【0018】
鉄道軌道や道路が盛土上に敷設されている場合、鉄道や自動車といった車両の走行安全性の観点で、盛土全体の沈下抑制よりも、縦割れの発生原因となる盛土天端位置での伸張の抑制が重要になることがある。
【0019】
しかしながら、現状の設計で想定されている地震や通常規模の盛土に対しては、鋼矢板を鉛直下方に向けて打ち込む従来の耐震補強構造で必要十分な対策工が可能になる反面、想定を上回る規模の地震が起きた場合や盛土規模が非常に大きい場合においては、液状化による盛土の沈下をある程度抑制することはできても、縦割れを引き起こす原因となる盛土天端位置での伸張を十分に防ぐことができない場合があることが本出願人らの解析で明らかになった。
【0020】
これは、地震規模や盛土規模が小さい場合であれば、従来の耐震補強構造であっても、一対の地中壁がそれらの上縁で互いに連結されているため、盛土底面幅(法尻間の水平距離)の伸張、さらにはそれに伴う盛土天端幅(法肩間の水平距離)の伸張もある程度抑えることができるものの、地震時においては、盛土の堤体中央部よりも法面が形成された堤体側方部でひずみが大きくなるため、地震規模や盛土規模が大きくなると、堤体側方部の直下の地盤に流れる鉛直荷重が大幅に増大する。
【0021】
そのため、鉛直下方に打ち込まれた鋼矢板では、かかる鉛直荷重の増加分を支持することができずに、盛土の法尻近傍で堤体側方部が直下の地盤に沈み込み、これが盛土天端の縦割れを引き起こすと考えられる。
【0022】
換言すれば、従来の耐震補強構造では、地震によって生じる荷重伝達バランスの変化に対応できない場合があることがわかった。
【0023】
本出願人らは、かかる知見を踏まえつつ、研究を重ねることによって上述した発明をなしたものであり、本発明に係る盛土の耐震補強構造においては、一対の地中壁を盛土の各法尻近傍から下方に向けてそれぞれ延びるようにかつ盛土の下方に拡がる地盤が挟み込まれるように該地盤に対向配置するとともに、一対の地中壁の上縁を引張材を介して相互に連結する際、一対の地中壁を、それらの下縁における相互の離間距離が上縁における相互の離間距離よりも小さくなるように、換言すれば逆ハの字状になるように鉛直面に対してそれぞれ傾斜配置する。
【0024】
このようにすると、各地中壁は、堤体側方部の地盤の緩みによる鉛直荷重の増加分を鉛直上向き成分の支持力で支持するとともに、地震によるせん断変形については、引張材を介した水平成分の支持力によってこれを拘束することとなり、かくして地中壁に挟まれた領域や地中壁の背面側に拡がる領域での地盤の液状化を防止しつつ、堤体側方部の地盤の緩みによる盛土天端位置での伸張、ひいては盛土天端での縦割れを確実に防止することが可能となる。
【0025】
地中壁は、盛土のうち、堤体中央部を挟む各堤体側方部の地盤の緩みによる鉛直荷重の増加分を面的に支持することができるものであれば、その材質や構造あるいは構築方法は任意であり、鋼矢板(シートパイル)、鋼管矢板、プレキャストコンクリート版をはじめ、現場打ちコンクリートやソイルセメントからなる柱列壁で構成することが可能である。
【0026】
盛土が構築された地盤としては、液状化地盤をはじめ、地震に対する支持力が十分でない地盤、例えば軟弱粘土地盤についても対象となり得る。
【0027】
上述したように、傾斜配置された一対の地中壁は、それらに挟まれた領域やその背面領域において地盤のせん断変形を水平方向に沿って拘束しつつ、直上からの鉛直荷重を支持する必要があるため、鉛直面に対する配置角については、かかる2方向に沿った作用を考慮しながら適宜定めることになるが、例えば以下の演算手順で地中壁の最適な配置角を求めることができる。
【0028】
まず、上述した盛土の耐震補強構造に対応する振動解析用2次元FEMモデルを作成する。
【0029】
次に、振動解析用2次元FEMモデルを用いて、所定の入力地震波に対する盛土の変形を求めるとともに、該盛土の変形からその天端における伸張量を求める演算を、鉛直面に対する地中壁の配置角をパラメータとして行う。
【0030】
次に、上述したパラメータ解析の結果から、盛土天端の伸張量が最小になる地中壁の配置角を求める。
【0031】
ここで、本出願人らが行った解析により、液状化地盤については、地中壁の配置角を5゜〜85゜、望ましくは10゜〜60゜、さらに望ましくは20゜〜50゜とするのがよい。20゜未満だと、地震によって生じる荷重伝達バランスの変化に十分に対応できず、10゜未満だと荷重伝達バランスの変化に対応することが困難となり、5゜未満だとほぼ不可能となるからである。
【0032】
一方、50゜を上回ると、液状化防止に必要な水平方向のせん断変形拘束が不十分となり、60゜を上回ると、せん断変形拘束が困難となり、85゜を上回ると、ほぼ不可能となるからである。
【0033】
地中壁を設置するにあたり、その下端を支持基盤に貫入するかどうかは任意であるが、本発明においては、地中壁の下縁を支持基盤に非貫入とすることが可能である。
【0034】
このようにしたならば、支持基盤の深さや有無に関わらず、本発明を採用することが可能となり、適用可能な対象盛土が大幅に拡がるとともに、地中壁の設置深さが浅くて済むため、耐震補強工事の費用を大幅に軽減することも可能となる。
【0035】
本発明において、盛土の用途は任意であり、河川堤防にも適用することができるが、天端に鉄道軌道又は道路が敷設されてなる盛土とした場合においては、盛土天端での縦割れが防止されるため、鉄道や自動車の走行安全性を十分に確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態に係る盛土の耐震補強構造1の図であり、(a)は全体断面図、(b)は鋼矢板6の上縁近傍でのタイロッド5との連結状況を示した詳細斜視図。
【図2】本実施形態に係る盛土の耐震補強構造1の作用を示した図であり、(a)は、堤体側方部22,22の荷重増加分を、鋼矢板6の鉛直上向き成分の支持力で支持している様子を示した鉛直断面図、(b)は、地震による液状化地盤3のせん断変形を、タイロッド5を介した鋼矢板6,6の水平成分の支持力によって拘束している様子を示した鉛直断面図。
【図3】地震時における盛土及び液状化地盤のせん断変形分布を示したグラフであり、(a)は、鋼矢板の配置角を0゜とした場合、(b)は同じく37゜とした場合、(c)は同じく58゜とした場合についてそれぞれ示したグラフ。
【図4】液状化による盛土の変形状況を示したグラフであり、(a)は、法尻ストレッチ、(b)は天端の沈下量、(c)は法肩ストレッチをそれぞれ示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る盛土の耐震補強構造及びそれに用いる地中壁の設計方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0038】
図1(a)は、本実施形態に係る盛土の耐震補強構造1を示した全体断面図である。同図でわかるように、本実施形態に係る盛土の耐震補強構造1は、鉄道軌道(図示せず)が敷設された盛土2に適用されたものであって、該盛土は、支持基盤4の上に積層された液状化地盤3の上に構築してある。
【0039】
液状化地盤3には、盛土2の各法尻近傍から下方に向けてそれぞれ延びるように、かつ液状化地盤3が挟み込まれるように一対の地中壁としての鋼矢板6,6を対向配置してあり、鋼矢板6,6は、それらの上縁において引張材としてのタイロッド5を介して相互に連結してある。
【0040】
ここで、鋼矢板6,6は、それらの下縁における相互の離間距離が、上縁における相互の離間距離よりも小さくなるように、換言すれば逆ハの字状になるように、鉛直面に対してそれぞれ配置角θだけ傾斜させてある。
【0041】
タイロッド5を介して鋼矢板6,6を相互に連結するには、同図(b)に示すようにタイロッド5の端部を鋼矢板6の上縁に形成された挿通孔9に挿通するとともに、鋼矢板6との当接面が配置角θに対応したテーパ面に形成された座金7に挿通した上、ナット8を螺合して締め付けるようにすればよい。
【0042】
本実施形態に係る盛土の耐震補強構造1を施工するに先立ち、鋼矢板6,6の配置角θを以下の手順で決定する。
【0043】
まず、上述した盛土の耐震補強構造1に対応する振動解析用2次元FEMモデルを作成する。
【0044】
次に、振動解析用2次元FEMモデルを用いて、所定の入力地震波に対する盛土2の変形を求めるとともに、該盛土の変形から盛土2の天端における伸張量を求める演算を、鉛直面に対する鋼矢板6,6の配置角θをパラメータとして行う。
【0045】
次に、上述したパラメータ解析の結果から、盛土2の天端における伸張量が最小になる鋼矢板6,6の配置角θを求める。
【0046】
配置角θは、盛土2の規模や入力地震動の性状によって異なるが、20゜〜50゜、特に30゜〜40゜とするのが望ましい。20゜未満だと、地震によって生じる荷重伝達バランスの変化に十分に対応できず、50゜を上回ると、液状化防止に必要な水平方向のせん断変形拘束が不十分となるからである。一方、30゜〜40゜の範囲であれば、盛土の規模、地層構造あるいは入力地震動が典型的な場合において、地震によって生じる荷重伝達バランスの変化に十分に対応し、かつ液状化防止に必要な水平方向のせん断変形を十分に拘束することができるからである。
【0047】
本実施形態に係る盛土の耐震補強構造1を施工するには、まず、上述の手順で決定された配置角θで鋼矢板6,6を盛土2の法尻近傍から液状化地盤3にそれぞれ打込む。
【0048】
各鋼矢板6の打込み深さは、盛土2や液状化地盤3の土質性状、盛土2の規模、想定される地震動の性状などを考慮して適宜定めればよいが、図1(a)に示すように鋼矢板6の下縁を支持基盤4に貫入する必要はない。
【0049】
鋼矢板6,6が所定の深さまで打ち込まれたならば、次に、タイロッド5を介して鋼矢板6,6をそれらの上縁で互いに連結する。
【0050】
このようにして施工された盛土の耐震補強構造1においては、鋼矢板6,6は図2(a)に示すように、堤体2のうち、堤体中央部21の両側に位置する三角形状断面の堤体側方部22,22の荷重増加分を鉛直上向き成分の支持力で支持する。
【0051】
すなわち、盛土2の規模や地震の規模が大きい場合、地震時において、堤体側方部22,22でせん断ひずみが大きくなり、それらの直下の液状化地盤3に流れる鉛直荷重が大幅に増大する。
【0052】
ここで、鋼矢板6,6が無い場合、あるいは鋼矢板6,6を鉛直に打ち込んでいる場合には、堤体側方部22,22からの鉛直荷重の増加分が支持されないため、堤体側方部22,22は、液状化地盤3に沈み込み、その結果、盛土2の天端に縦割れが起きる事態が想定されるが、本実施形態では、鋼矢板6,6を配置角θだけ傾斜させてある。
【0053】
そのため、堤体側方部22,22からの鉛直荷重の増加分は、鋼矢板6,6の鉛直上向き成分の支持力で支持されることとなり、盛土2の天端に縦割れが生じるような伸張が該盛土の天端位置に発生することはない。
【0054】
一方、地震による液状化地盤3のせん断変形については同図(b)に示すように、タイロッド5を介した鋼矢板6,6の水平成分の支持力によって確実に拘束される。
【0055】
なお、鋼矢板を鉛直打設した場合、一対の鋼矢板は、せん断変形を拘束する反力として、それらの間に挟まれた地盤から下縁が外方に開くような力を受ける。
【0056】
そのため、鋼矢板を鉛直打設する場合には、その下縁を支持基盤に貫入する必要があるが、本実施形態の鋼矢板6,6は、深さ方向に狭くなるような傾斜配置になっているため、それらの下縁を支持基盤4に貫入せずとも、鉛直打設の場合のように、下縁が外方に開いてせん断変形拘束の作用が低下するのを懸念する必要はない。
【0057】
以上説明したように、本実施形態に係る盛土の耐震補強構造1によれば、一対の鋼矢板6,6を盛土2の各法尻近傍から下方に向けてそれぞれ延びるようにかつ液状化地盤3が挟み込まれるように該液状化地盤に対向配置し、鋼矢板6,6の上縁をタイロッド5を介して相互に連結するとともに、鋼矢板6,6を逆ハの字状になるように鉛直面に対して配置各θだけ傾斜させたので、鋼矢板6,6に挟まれた領域や該鋼矢板の背面側に拡がる領域での液状化地盤3のせん断変形を拘束して液状化を防止しつつ、堤体側方部22,22の地盤の緩みによる盛土2の天端位置での伸張、ひいては盛土2の天端での縦割れを確実に防止することが可能となる。
【0058】
また、本実施形態に係る盛土の耐震補強構造1によれば、一対の鋼矢板6,6を支持基盤4に非貫入としたので、支持基盤4が深い場合であっても、鋼矢板6,6を所定深さだけ液状化地盤3に打ち込めば足りるため、耐震補強工事の費用を大幅に軽減することも可能となる。
【0059】
本実施形態では、液状化地盤3に構築された盛土2を対象としたが、本発明に係る盛土の耐震補強構造は、液状化地盤に限定されるものではなく、地震に対する支持力が十分でない地盤、例えば軟弱粘土地盤にも適用することが可能である。
【0060】
また、本実施形態では、鉛直面に対する鋼矢板6,6の配置角を20゜〜50゜としたが、これは地層構成や土質条件あるいは入力地震動が典型的な場合であって、法肩ストレッチを抑制することができる限り、上述の角度範囲に代えて、例えば10゜〜60゜、あるいは5゜〜85゜の範囲で任意に決定することができる。
【0061】
また、本実施形態では、本発明の地中壁を鋼矢板6で構成したが、これに代えて、鋼管矢板やプレキャストコンクリート版とし、あるいは現場打ちコンクリートやソイルセメントからなる柱列壁で構成することができる。
【0062】
また、本実施形態では、鋼矢板6を支持基盤4に非貫入としたが、支持基盤が浅い場合においてまで、非貫入としてはならないという意味ではなく、支持基盤に鋼矢板の下縁を貫入することで、せん断変形をさらに確実に拘束するようにしてもかまわない。
【0063】
また、本実施形態では、天端に鉄道軌道が敷設された盛土2を耐震補強することを前提としたが、これに代えて、道路が敷設されてなる盛土を対象としてもかまわないし、そもそも盛土天端の縦割れを防止する必要がある限り、他の用途、例えば河川堤防を用途とした盛土に適用してもかまわない。
【0064】
また、本実施形態では、最適な地中壁の配置角を解析によって求めるようにしたが、これに代えて、試験あるいは実験によって地中壁の配置角を定めることができることは言うまでもない。
【実施例】
【0065】
図3は、本実施形態に係る盛土の耐震補強構造1を、鋼矢板の配置角がパラメータとして任意に設定できるように振動解析用二次元FEMモデルとしてモデル化し、該モデルにおいて、所定の入力地震動に対して生じたせん断ひずみを描いたものであり、同図(a)は、鋼矢板を鉛直下方に打ち込んだもの、同図(b)は、鋼矢板の配置角θを37゜としたもの、同図(c)は、鋼矢板の配置角θを58゜としたものである。
【0066】
モデル化にあたっては、盛土を、法尻幅が28m、法肩幅が10m、高さが6m、土質が砂質土とし、液状化地盤を、厚さが10m、土質が砂質土、N値が8とし、支持基盤を、厚さが5m、土質が砂質土、N値が50以上とし、鋼矢板6,6を、高さが6m、埋設深さが5mとした。
【0067】
図3(a)と図3(b)を比較すると、鋼矢板を鉛直に打ち込んだ場合に見られる法尻近傍直下の液状化地盤のせん断ひずみは、配置角37゜で斜めに打ち込んだ場合には、ほとんどゼロになっており、鉛直打設の場合には、堤体側方部の緩みによる鉛直荷重の増加が、法尻直下の液状化地盤をせん断変形させるのに対し、配置角37゜での斜め打設の場合には、堤体側方部の緩みによる鉛直荷重の増加が鋼矢板で支持されるため、法尻直下の液状化地盤がほとんどせん断変形しないことがわかる。
【0068】
一方、鋼矢板の配置角を58゜とした場合には、鋼矢板の背面領域でせん断ひずみが大きくなっており、傾斜角が大き過ぎると、水平方向のせん断変形を抑制できないことがわかる。
【0069】
図4は、上述した解析結果を用いて算出されたものであり、同図(a)は、法尻間における水平距離の変化量(法尻ストレッチ)、同図(b)は天端沈下量、同図(c)は、法肩間における水平距離の変化量(法肩ストレッチ)である。
【0070】
これらのグラフから、鋼矢板を打ち込まない場合には、天端沈下量、法尻ストレッチとも非常に大きく、盛土に過大な変形や縦割れが生じるであろうと予想される。
【0071】
これに対し、鋼矢板を打ち込んだ場合、天端沈下量はいずれのケースも大幅に低減される一方、法肩ストレッチについては、鋼矢板の配置角によって差が生じ、配置角が0゜の場合には0.17m、21゜の場合には0.11m、37゜の場合には0.09m、58゜の場合には0.16mとなり、鋼矢板の配置角が37゜のときに法肩ストレッチが最小となった。
【符号の説明】
【0072】
1 盛土の耐震補強構造
2 盛土
3 液状化地盤(地盤)
4 支持基盤
5 タイロッド(引張材)
6 鋼矢板(地中壁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の地中壁を盛土の各法尻近傍から下方に向けてそれぞれ延びるようにかつ前記盛土の下方に拡がる地盤が挟み込まれるように該地盤に対向配置するとともに、前記一対の地中壁の上縁を引張材を介して相互に連結してなる盛土の耐震補強構造において、
前記一対の地中壁をそれらの下縁における相互の離間距離が上縁における相互の離間距離よりも小さくなるように鉛直面に対してそれぞれ傾斜配置したことを特徴とする盛土の耐震補強構造。
【請求項2】
前記地盤を液状化地盤とした請求項1記載の盛土の耐震補強構造。
【請求項3】
鉛直面に対する前記地中壁の配置角を20゜以上50゜以下とした請求項2記載の盛土の耐震補強構造。
【請求項4】
前記地中壁の下縁を前記地盤の下方に位置する支持基盤に非貫入とした請求項2又は請求項3記載の盛土の耐震補強構造。
【請求項5】
前記盛土を、天端に鉄道軌道又は道路が敷設されてなる盛土とした請求項1乃至請求項4のいずれか一記載の盛土の耐震補強構造。
【請求項6】
一対の地中壁を盛土の各法尻近傍から下方に向けてそれぞれ延びるようにかつ前記盛土の下方に拡がる地盤が挟み込まれるように該地盤に対向配置するとともに、前記一対の地中壁をそれらの下縁における相互の離間距離が上縁における相互の離間距離よりも小さくなるように鉛直面に対してそれぞれ傾斜配置し、前記一対の地中壁の上縁を引張材を介して相互に連結してなる盛土の耐震補強構造の振動解析用2次元FEMモデルを作成し、
前記振動解析用2次元FEMモデルを用いて所定の入力地震波に対する前記盛土の変形を求めるとともに該盛土の変形からその天端における伸張量を求める演算を、鉛直面に対する前記地中壁の配置角をパラメータとして行い、
前記パラメータ解析の結果から前記盛土天端の伸張量が最小になる前記地中壁の配置角を求めることを特徴とした盛土の耐震補強構造に用いる地中壁の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−158863(P2012−158863A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16974(P2011−16974)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】