説明

目的タンパク質を高蓄積する遺伝子組換え植物

【課題】所望の機能性成分の収量性が向上した遺伝子組換え植物を提供すること。
【解決手段】目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチドとを導入した遺伝子組換え植物;当該遺伝子組換え植物の栽培方法;遺伝子組換え植物を栽培し、種子を採集することを含む、遺伝子組換え植物の種子の生産方法;目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチドとを含む発現ベクター;目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターのセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子組換え植物に関し、詳しくは、所望の目的タンパク質を高蓄積するように形質転換された遺伝子組換え植物に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の品種改良法として、遺伝子組換え技術が応用され、すでに、除草剤耐性や害虫耐性などの機能が付加された大豆、トウモロコシ、ナタネ、ワタ、ジャガイモ等の遺伝子組換え農作物が開発され実用化されている。さらに近年では、医薬または検査薬等の機能性タンパク質やペプチドを生産する手段として、有用な外来遺伝子を植物の染色体上に導入し、遺伝子組換え植物を作出する研究開発も進められている。なお、遺伝子組換え植物を用いて生産する機能性成分には、導入した遺伝子の産物であるタンパク質やペプチドだけでなく、例えば導入した酵素タンパク質の反応による生成物等も含まれる。植物での機能性成分生産には多くの利点があり、特に、動物トランスジェニック系に比べてコストが削減されること、市場規模に応じた生産規模の調節が容易なこと、ウイルスおよびプリオンなどの動物由来病原体が混入する恐れがないことがある。
【0003】
機能性成分を効率的に植物で生産する技術に関しては、例えば、機能性成分の発現の時期、発現の場所、発現量を制御するために、機能性成分を蓄積する組織に特異的なプロモーターを遺伝子組換えに利用する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、高い生産性を有する作物を生産する技術に関しては、例えば、植物の窒素吸収能力を向上させ、生産効率を向上させるために、アンモニウムトランスポーターの遺伝子を導入して形質転換された植物(例えば、特許文献2参照)や、硝酸トランスポーター遺伝子を導入して形質転換された植物(例えば、非特許文献1)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−306941号公報
【特許文献2】特開2006−020605号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】滋賀県農業技術振興センター報告書 2007年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
機能性成分を植物体内に高蓄積させる技術を開発する場合、上記の特許文献1では、機能性成分を高発現させるプロモーターを遺伝子組換え植物に利用する技術に留まり、機能性成分の生産性という観点からは未だ改良の余地がある。また、上記の特許文献2や非特許文献1では、その効果は施肥量の削減や植物の生産効率の向上に留まり、機能性成分の生産性については言及されていない。
【0008】
上記のような状況に鑑み、本発明は、所望の機能性成分の収量性が向上した遺伝子組換え植物を提供することを目的とする。なお、本明細書において、遺伝子組換え植物に高発現させることを所望する任意のタンパク質やペプチドのことを「目的タンパク質」という場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を進めたところ、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチドを植物体内に導入することで、植物体内に目的タンパク質を高蓄積させることに成功した。本発明は、植物体内に目的タンパク質が高蓄積された遺伝子組換え植物を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所望の目的タンパク質をより収量性高く生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、栽培管理等のスケジュールの概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、遺伝子組換え植物およびその栽培方法、ならびに遺伝子組換え植物の種子の生産方法を提供する。
【0013】
1)遺伝子組換え植物
本発明の遺伝子組換え植物は、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、および窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチドを、植物細胞に導入することにより、これらのポリヌクレオチドが導入された植物細胞(形質転換体)を入手し、次いで、入手した形質転換体を、再分化させることにより作製できる。以下、1−1)目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、および窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチド、ならびにそれらの関連事項、1−2)ポリヌクレオチドが導入される植物、1−3)ポリヌクレオチドの植物細胞への導入法、1−4)形質転換体の再分化について詳述する。
【0014】
1−1)目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、および窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチド、ならびにそれらの関連事項
A)目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドが連結されるプロモーター
A−1)目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド
目的タンパク質は、種子中に高発現させることを予定する任意のタンパク質(例、ポリペプチド、オリゴペプチド)であり得る。好ましい一実施形態としては、所謂機能性タンパク質などが挙げられる。機能性タンパク質とは、人類にとって有用なタンパク質を意味する。機能性タンパク質としては、例えば、抗菌タンパク質、酵素、ワクチンとして使用できる抗原タンパク質(例、スギ花粉の抗原ペプチドまたはその融合タンパク質)、医薬として使用できるタンパク質(例、増殖因子等の可溶性タンパク質)が挙げられる。目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、cDNAまたはゲノムDNAのクローニングなどの手法によって得ることができる。また、予めそのヌクレオチド配列が明らかにされているものであれば、これらを化学合成して得てもよい。さらに、ヌクレオチド配列が明らかでなくとも、アミノ酸配列が明らかであれば、アミノ酸配列から推定されるヌクレオチド配列を化学合成し得る。
【0015】
A−2)目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが連結されるプロモーター
目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、プロモーターの制御下に配置され得る。プロモーターとしては、植物の任意の組織で目的タンパク質を発現できる任意のプロモーターを使用でき、例えば、カリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーター、ノパリン合成酵素のプロモーターなどが挙げられるが、好ましくは、植物の種子で発現するタンパク質のプロモーターが使用される。このようなプロモーターは、例えば、以下の方法により得ることができる。
【0016】
<種子で発現するタンパク質のプロモーターの取得>
種子で発現するタンパク質には、ヌクレオチド配列若しくはアミノ酸配列または機能等が既知のデータベースなどに登録されているものが存在する。また、種子のタンパク質を電気泳動等により分離し、種々のタンパク質解析法により、アミノ酸配列およびヌクレオチド配列を特定してもよい。種子のタンパク質の発現を調節するプロモーターの位置およびヌクレオチド配列もまた公知となっている場合がある。本発明においては、公知のヌクレオチド配列を利用してプロモーターを特定してもよいし、タンパク質のヌクレオチド配列から、その上流のヌクレオチド配列をプロモーターとして利用してもよい。プロモーターの特定は、例えば、転写領域の上流部にあるTATAボックス、CCAATボックス、GCリッチな配列などのプロモーターに共通的に観察されるヌクレオチド配列を手がかりに特定してもよいし、既知のタンパク質をコードするポリヌクレオチドとプロモーターと推察されるヌクレオチド配列を連結し、既知のタンパク質の発現量を測定して特定してもよい。
【0017】
<種子で発現するタンパク質のプロモーターの選抜方法>
種子で発現するタンパク質のプロモーターは、当該分野で周知の方法により選抜することができる。このようなプロモーターとして、特定の選抜方法により得られるものを使用してもよい。好ましくは、本発明で好適に用いられ得るプロモーターの選抜方法は、概要として次の工程Aと工程Bの2つの工程に分けることができる。工程Aは、所定の植物において、高窒素栽培条件下で高発現するRNA、または高窒素栽培条件下で高発現する種子貯蔵タンパク質を検出する工程である。工程Bは、高窒素栽培条件下で高発現するRNAおよび種子貯蔵タンパク質の発現を調節するプロモーターを単離する工程である。
【0018】
<工程A:RNAの検出>
工程AのRNAの検出においては、少なくとも2つの異なる窒素条件下で植物を栽培し、RNAの含有量の違いを指標として、ある植物種において所定の高窒素栽培条件下で高発現するRNAを検出するものである。
【0019】
工程AのRNAの検出方法の実施形態としては、下記式(1)を満たすRNAを検出する。
V/W>1.0 ・・・(1)
(但し、式(1)において、Vは、開花予定日の30日前から開花日までの間の一定期間、硝酸態窒素が70mg/L〜750mg/L、および/または、アンモニウム態窒素が70mg/L〜750mg/Lとなるように調整した培地にて所定の植物を栽培した場合における該植物の種子に含まれるRNA量である。Wは、開花予定日の30日前から開花日までの間の一定期間、窒素0mg/L〜50mg/Lとなるように調整した培地にて該植物を栽培した場合における該植物の種子に含まれるRNA量である。)
【0020】
上記式(1)を満たすRNAは、高窒素栽培条件下で高発現するRNAである。このようにして検出されたRNAの情報から高窒素栽培条件下でRNAの発現を促進するプロモーターなどの発現調節領域を採集することができる。
【0021】
上記V/Wの比は>1.0であり、好ましくは>1.25であり、より好ましくは>1.50であり、さらに好ましくは>2.0である。
【0022】
<工程A:種子貯蔵タンパク質の検出>
工程Aの種子貯蔵タンパク質の検出においては、少なくとも2つの異なる窒素条件下で植物を栽培し、種子貯蔵タンパク質の蓄積量の違いを指標として、ある植物種において所定の高窒素栽培条件下で高発現する種子貯蔵タンパク質を検出するものである。
【0023】
工程Aの種子貯蔵タンパク質の検出方法の実施形態としては、下記式(2)を満たす種子貯蔵タンパク質を検出する。
X/Y>1.0 ・・・(2)
(但し、式(2)において、Xは、開花予定日の30日前から開花日までの間の一定期間、硝酸態窒素が70mg/L〜750mg/L、および/または、アンモニウム態窒素が70mg/L〜750mg/Lとなるように調整した培地で植物を栽培したときの該植物の種子貯蔵タンパク質含有量である。Yは、開花予定日の30日前から開花日までの間の一定期間、窒素0mg/L〜50mg/Lとなるように調整した培地で植物を栽培したときの該植物の種子貯蔵タンパク質含有量である。)
【0024】
上記式(2)を満たす種子貯蔵タンパク質は、高窒素栽培条件下で高発現する種子貯蔵タンパク質である。このようにして検出された種子貯蔵タンパク質の情報から高窒素栽培条件下で種子貯蔵タンパク質の発現を促進するプロモーターなどの発現調節領域を採集することができる。
【0025】
<被検対象の植物>
工程Aにおける「所定の植物」とは、被検対象とする植物のことを意味する。工程Aにおいて被検対象とする植物は、RNAおよび種子貯蔵タンパク質の発現を促進するプロモーターを探索する対象とする植物であり、後に作製する遺伝子組換え植物の種類等の条件も参酌しつつ、適宜選択してよい。RNAおよび種子貯蔵タンパク質の検出対象となる植物としては、種子が形成されるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、双子葉植物としては、タバコ、ナタネ、ダイズ等を、単子葉植物としては、イネ、トウモロコシ、オオムギ、コムギ等の穀類や、アスパラガス等を、代表的なものとして挙げることができる。これらのうちでもイネは、種子中へのタンパク質の蓄積能力が高く、種子の保存性が良好という点で好適な植物である。
【0026】
<栽培条件>
被検対象となる植物は、少なくとも2つの異なる窒素条件下で栽培される。好ましい実施形態としては、第1の栽培条件および第2の栽培条件で栽培を行う。第1の栽培条件下は、供給される窒素濃度が高い条件下である。他方、第2の栽培条件は、第1の栽培条件より相対的に窒素濃度の低い条件下である。具体的には、次のような条件が例示される。
【0027】
第1の栽培条件:開花予定日の30日前から開花日までの間の一定期間に、硝酸態窒素が50mg/L〜750mg/L、および/または、アンモニウム態窒素が50mg/L〜750mg/Lとなるよう調整した培地で栽培する。
【0028】
第2の栽培条件:開花予定日の30日前から開花日までの間の一定期間に、窒素0mg/L〜50mg/Lとなるよう調整した培地で栽培する。
【0029】
培地中の窒素条件は、開花予定日の30日前の時点から開始する。開花予定日は植物ごとに異なるが、栽培作物類でのどの時点かは各植物ごとに研究がなされている。例えば、イネの場合であれば、開花予定日の30日前は、幼穂分化期に該当する。
【0030】
培地中の窒素条件は、開花予定日の30日前から開花日の間の一定期間において調整する。この期間中に少なくとも一度高窒素条件に植物を曝し、一定の生理的刺激を与えることが重要である。すなわち、ここでいう「一定期間」とは、植物に対し一定の生理的刺激を与えるに足る期間でよい。高窒素条件にする期間は、植物の生育状態や植物の種類などの条件によって適宜調整してよい。植物の生育状態や植物の種類などの条件によっても異なるが、好ましくは1週間程度、より好ましくは2週間程度、高窒素栽培条件下で栽培することが好ましい。また、開花予定日の30日前を経過した直後および/または開花の直前の一定期間に高窒素栽培条件下に植物をおくことが好ましい。イネの場合、開花予定日の30日前から開花日までの全期間に渡って高窒素栽培条件下に置いてもよい。
【0031】
植物の栽培においては、植物による養分の吸収や、培地の肥料を保持する能力等に起因して、培地中の窒素濃度は容易に変動する。上記第1および第2の栽培条件では、培地中の窒素濃度を常に一定に保つ必要は必ずしもなく、上記の濃度範囲の間に収まるように施肥管理を行えばよい。培地中の窒素濃度を上記のように管理する限りにおいて、施肥のタイミング、回数、肥料の濃度などは適宜調整してよい。
【0032】
また、培地中の窒素濃度の測定は、培地の種類などに応じて、硝酸イオンメーターやアンモニア態窒素メーター、また、農林水産省が定める肥料分析法などの、一般的な、土壌分析法、肥料分析法に基づき行うことができる。
【0033】
硝酸態窒素とは、硝酸イオンのように酸化窒素の形態で存在する窒素成分のことである。通常はNOの形の硝酸イオンに金属が結合した硝酸塩の形で存在している。
【0034】
また、アンモニウム態窒素とは、窒素成分のうちアンモニウム塩の形態で存在する窒素成分のことである。
【0035】
培地中の窒素源の調整は、培地中の硝酸態窒素が70mg/L〜750mg/L、および/または、培地中のアンモニウム態窒素が70mg/L〜750mg/Lとなるように行う。すなわち、硝酸態窒素とアンモニウム態窒素の両方を窒素源として用い、それらの濃度をそれぞれ調整してもよいし、いずれか一方のみを窒素源として用い、その濃度を調整してもよい。好ましくは、両者を窒素源として用いる。硝酸態窒素とアンモニウム態窒素の含有量の比率は、例えば、750:0〜0:750、好ましくは100:1〜1:100であり、より好ましくは30:1〜1:30であり、より好ましくは10:1〜1:10であり、さらに好ましくは、3:1〜1:3程度である。
【0036】
第1の栽培条件における硝酸態窒素の含有量は、70mg/L〜750mg/Lであり、好ましくは100mg/L〜700mg/Lであり、より好ましくは150mg/L〜700mg/Lである。硝酸態窒素の含有量を70mg/L以下に調整した場合、種子貯蔵タンパク質含有量が減少し、第2の栽培条件の場合と比較する適切な指標を得にくくなりやすい。他方、硝酸態窒素の含有量を750mg/L以上に調整した場合、根腐れを起こし生育不良となりやすい。
【0037】
第1の栽培条件におけるアンモニウム態窒素の含有量は、70mg/L〜750mg/Lであり、好ましくは100mg/L〜700mg/Lであり、より好ましくは150mg/L〜700mg/Lである。アンモニウム態窒素の含有量を70mg/L以下に調整した場合、種子の貯蔵タンパク質含有量が減少し、第2の栽培条件の場合と比較する適切な指標を得にくくなりやすい。他方、アンモニウム態窒素の含有量を750mg/L以上に調整した場合、根腐れを起こし生育不良となりやすい。
【0038】
上記のように、異なる所定の窒素条件下とする以外の点については、栽培する植物の種類などに応じ、適宜その植物に適した施肥管理を行ってよい。培地に含まれる他の成分としては、リン、カリウム、マンガン、ホウ素、鉄、カルシウム、銅、亜鉛、マグネシウム等が挙げられる。
【0039】
植物の栽培は、水耕栽培または土耕栽培が挙げられる。土耕栽培では、土中に肥料成分が吸着されるため、肥料成分の急激な変動を抑制できるという利点があるが、その反面、植物が利用できる肥料成分が減少してしまう。他方、水耕栽培では、培地中の肥料成分はすべて植物が利用できる状態である。本発明の植物の選抜方法では、窒素を所定の条件に整えるように施肥管理を行う必要があるため、水耕栽培の方が培地中の肥料成分を調整しやすいという点においては、より好ましい。
【0040】
<種子に含まれるRNAの測定およびRNAの決定>
上記第1および第2の栽培条件下でそれぞれ栽培された植物から得られた種子に含まれるRNAを測定する。第1の栽培条件下で栽培された植物の種子に含まれるRNA量をV、第2の栽培条件下で栽培された植物の種子含まれるRNA量をWとする。
【0041】
上記RNA含有量VおよびWは、様々な公知のRNA検出方法を利用し得る。一実施形態としては、例えば、次のようにマイクロアレイを利用して、RNA量を測定することができる。まず、種子からRNAを抽出し、蛍光標識をしたcDNAを合成した後に、マイクロアレイ上のDNA断片とハイブリダイズさせる。スキャナーを用いてマイクロアレイ画像を取り込んだ後、解析ソフトを用いて各スポットの蛍光強度を算出する。算出されたスポット強度からRNA量を求めることができる。
【0042】
測定対象とするRNAは、種子に含まれるRNAであればよい。RNA含有量VおよびWに基づき、下記式(1):
V/W>1.0 ・・・(1)
を満たすRNAを選抜する。式(1)を満たすRNAは、所定の高窒素栽培条件下において高発現を示し得る。また、このようなRNAのプロモーターは、高窒素栽培条件下でRNAの発現をより促進し得る。上記式(1)を満たすRNAとしては、例えば、AK101497、AK120826、AJ002893、Os05g0329200、AK107271(グルテリンA−3)、AK102194、AK120697、AK067141、AK065009、AF017360、AK071205、AK059164、AK107238、AB016505、AK099086、AY166458、AY987390(グルテリンB−2)、AK107314、X15833、AY196923(グルテリンB−5)、AK061894、AK107343(グルテリンB−1)、AK063995、J100041C23、J090009I07、AK065456、AK107314、AK107633、U43530、AK064310、AK064485、AK101309、AK107983、AK099918、AK100306、X83434、AK070414、AK103220、AK121856、AK062758、AK103306、AK061207、AK068266、Os06g0598500、AK119900、L19598、AK070851、Os01g0840300、AK059805、AK106244、AK108127、AK108230、AK061237、AK062517、AK065259、AK065604、AK106964、AK060983、J075074G08、AK099719(GenBank Accession No.)、グルテリン、グロブリン、プロラミンなどが挙げられる(参考例2および表5を参照)。これらのRNAが由来する植物としては、特に限定されないが、例えば、イネが挙げられる。V/Wの値は、好ましくは1.25以上であり、より好ましくは1.50以上であり、さらに好ましくは2.0以上である。このような値を示すRNAは、例えば、参考例2および表5の記載より明らかである。したがって、このようなRNAのプロモーターが、目的タンパク質のプロモーターとして好適に使用される。
【0043】
<種子貯蔵タンパク質含有量の測定および種子貯蔵タンパク質の決定>
上記第1および第2の栽培条件下でそれぞれ栽培された植物から得られた種子に貯蔵されるタンパク質を測定する。第1の栽培条件下で栽培された植物の種子貯蔵タンパク質含有量をX、第2の栽培条件下で栽培された植物の種子貯蔵タンパク質含有量をYとする。
【0044】
上記種子貯蔵タンパク質含有量XおよびYは、様々な公知のタンパク質検出方法を利用し得る。一実施形態としては、例えば、次のように電気泳動法を利用して、タンパク質含有量を測定することができる。まず、二次元ゲル電気泳動法により各種子貯蔵タンパク質をゲル上で単一のスポットに分離する。次に、ゲルの情報をスキャナーで画像ファイルに変換した後、画像解析ソフトを用いて、各スポットの蛍光強度として算出する。算出されたスポット強度からタンパク質含有量を求めることができる。
【0045】
測定対象とするタンパク質は、種子貯蔵タンパクであればよい。種子貯蔵タンパク質含有量XおよびYに基づき、下記式(2):
X/Y>1.0 ・・・(2)
を満たす種子貯蔵タンパク質を選抜する。式(2)を満たす種子貯蔵タンパク質は、所定の高窒素栽培条件下において高発現を示し得る。また、このような種子貯蔵タンパク質のプロモーターは、高窒素栽培条件下でタンパク質の発現をより促進し得る。上記式(2)を満たすタンパク質としては、例えば、グルテリン、グロブリン、プロラミンタンパク質などが挙げられ、より具体的には、グルテリンB−1、グルテリンB−2、グルテリンB−5、グルテリンA−3、グロブリン、13KDaプロラミンなどが挙げられる(参考例3および表6を参照)。これらのタンパク質が由来する植物としては、特に限定されないが、例えば、イネが挙げられる。X/Yの値は、好ましくは1.5以上であり、より好ましくは2.0以上である。このような値を示すタンパク質は、例えば、参考例3および表6の記載より明らかである。したがって、このようなタンパク質のプロモーターが、目的タンパク質のプロモーターとして好適に使用される。
【0046】
以上のようにして、所定の高窒素栽培条件下において発現量が多くなるRNAおよび種子貯蔵タンパク質を選抜し得る。このようにして選抜した種子貯蔵タンパク質のプロモーターは、窒素により活性が向上するプロモーターであり、窒素トランスポーター遺伝子を導入した植物体内で、タンパク質の発現をより促進する。このようなプロモーターは以下に説明する遺伝子組換え植物に導入することにより、所望の目的タンパク質を高発現する遺伝子組換え植物の材料となり得る。
【0047】
<工程B:高窒素栽培条件下で高発現するRNAおよび種子貯蔵タンパク質の発現を調節するプロモーターの単離>
工程Bでは、高窒素栽培条件下で高発現するRNAおよび種子貯蔵タンパク質の発現を調節するプロモーターを単離する。このようなプロモーターは、例えば、上記工程Aで被検対象とされ、高窒素栽培条件下で高発現するRNAおよび種子貯蔵タンパク質が検出された植物から単離することができる。プロモーターは、RNAおよび種子貯蔵タンパク質をコードするポリヌクレオチドの上流に位置する発現調節領域から単離し得る。
【0048】
RNAおよび種子貯蔵タンパク質およびそれをコードするヌクレオチド配列については既知のデータベースなどにより様々なものが知られている。RNAおよび種子貯蔵タンパク質の発現を調節するプロモーターの位置およびヌクレオチド配列もまた公知となっている場合がある。本発明においては、公知のヌクレオチド配列を利用してプロモーターを特定してもよいし、工程Aで選抜されたRNAおよび種子貯蔵タンパク質をコードするヌクレオチド配列を探索し、その上流のヌクレオチド配列をプロモーターとして利用してもよい。プロモーターの特定は、例えば、転写領域の上流部にあるTATAボックス、CCAATボックス、GCリッチなヌクレオチド配列などのプロモーターに共通的に観察されるヌクレオチド配列を手がかりに特定してもよいし、既知のタンパク質をコードするポリヌクレオチドとプロモーターと推察されるヌクレオチド配列を連結し、既知のタンパク質の発現量を測定して特定してもよい。
【0049】
B)窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドが連結されるプロモーター
B−1)窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチド
本発明において、窒素トランスポーターとは、アンモニウムトランスポーター(AMT:Ammonium Transporter)と硝酸イオントランスポーター(NRT:Nitrate Transporter)を指す。植物には複数種類のアンモニウムトランスポーターと硝酸イオントランスポーターが存在し、ヌクレオチド配列もしくはアミノ酸配列または機能等が既知のデータベースなどに登録されているのもが存在する。本発明においては、公知のヌクレオチド配列もしくはアミノ酸配列を利用して窒素トランスポーターを特定してもよいし、ヌクレオチド配列の相同性比較、アミノ酸配列の相同性比較、タンパク質の構造比較等から窒素トランスポーターと予測されるヌクレオチド配列を探索し、使用してもよい。使用する窒素トランスポーターのヌクレオチド配列は、ゲノムDNAやcDNA等のクローニングの手法により所得しても良いし、配列情報を基にヌクレオチド配列を人工合成して取得しても良い。さらに、ヌクレオチド配列が明らかでなくとも、アミノ酸配列が明らかであれば、アミノ酸配列から推定されるヌクレオチド配列を化学合成し得る。硝酸イオントランスポーター(NRT)としては、NRT1、NRT2が挙げられ、イネのNRT2については、4つのNRT2(NRT2.1、NRT2.2、NRT2.3、NRT2.4)が存在する。このうち、NRT2.1を用いることが好ましい。
【0050】
B−2)窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチドが連結されるプロモーター
窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチドは、プロモーターの制御下に配置され得る。プロモーターとしては、窒素トランスポーターを植物の根で発現可能な任意のプロモーターを使用できる。このようなプロモーターとしては、例えば、窒素トランスポーターを植物の根で特異的に発現可能なプロモーター、窒素トランスポーターを植物の任意の組織で非特異的に発現可能なプロモーターが挙げられる。窒素トランスポーターを植物の根で特異的に発現可能なプロモーターとしては、例えば、AB028882、Ay023261、J03469、O10273、P80627、AF019212(NCBI accession No.)等の、根で高発現しているタンパク質のプロモーター領域が挙げられる。窒素トランスポーターを植物の任意の組織で非特異的に発現可能なプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーター、ノパリン合成酵素のプロモーター、35Sプロモーターに種々のΩ配列を付加した35SΩプロモーター等が挙げられる。
【0051】
C)発現ベクター
目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドおよび/または窒素トランスポーターは、上述したように、プロモーターの制御下に配置され得る。したがって、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、および窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチドは、好ましくは、発現ベクターの形態で提供されてもよい。本発明の遺伝子組換え植物の作製において用いられ得る発現ベクターとしては、例えば、(i)目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター(目的タンパク質の発現ベクター)、(ii)窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター(窒素トランスポーターの発現ベクター)、(iii)目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチドとを含む発現ベクター(目的タンパク質および窒素トランスポーターの発現ベクター)が挙げられる。本発明はまた、このような発現ベクターまたはそのセットを提供する。
【0052】
C−1)目的タンパク質の発現ベクター
目的タンパク質の発現ベクターは、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドに機能可能に連結されたプロモーターを含む。目的タンパク質の発現ベクターは、上記のように単離されたプロモーターの下流に、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを機能可能な様式で連結することにより作製できる。使用されるプロモーターは、選抜された植物の細胞から単離してもよいし、また、合成してもよい。
【0053】
目的タンパク質の発現ベクターは、さらに、ターミネーター(例、熱ショックタンパク質をコードする遺伝子、ノパリン合成酵素遺伝子またはカリフラワーモザイクウイルス由来のターミネーター、種子貯蔵タンパク質をコードする遺伝子のターミネーター領域)、マーカー遺伝子(例、カナマイシン耐性遺伝子(NPTII遺伝子)、ハイグロマイシン耐性遺伝子(htp遺伝子)、ビアラホス(bialaphos)に対する抵抗性を付与するホスフィノスリシンアセチルトランスフェラーゼ(bar)遺伝子)、発現促進エレメントなどを含んでいてもよい。ベクターは公知または市販のものを使用できる。このようなベクターとしては、例えば、pTL7、pBI101、pBI121、pBI2113、pBI2113Not、pBI221、pBIG、pGA482、pGAH、pLGV23Neo、pMON200、pNCATが挙げられる。また、目的タンパク質の発現ベクターとしては、pGluBsig7CrpKDELを用いてもよい(特開2004−321079を参照)。
【0054】
C−2)窒素トランスポーターの発現ベクター
窒素トランスポーターの発現ベクターは、窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドに機能可能に連結されたプロモーターを含む。窒素トランスポーターの発現ベクターは、上記のようなプロモーターの下流に、窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチドを機能可能な様式で連結することにより作製できる。使用されるプロモーターは、選抜された植物の細胞から単離してもよいし、また、合成してもよい。
【0055】
窒素トランスポーターの発現ベクターは、ターミネーター(例、上述したターミネーター)、マーカー遺伝子(例、上述した遺伝子)、発現促進エレメントなどをさらに含んでいてもよい。ベクターとしては、公知または市販のものを使用できる。このようなベクターとして、例えば、上述したベクターを用いてもよい。
【0056】
C−3)目的タンパク質および窒素トランスポーターの発現ベクター
目的タンパク質および窒素トランスポーターの発現ベクターの一例は、目的タンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドおよび窒素トランスポーターをコードする第2のポリヌクレオチド、ならびに当該第1および第2のポリヌクレオチドに機能可能に連結されたプロモーターを含む発現ベクターである。この発現ベクターは、目的タンパク質および窒素トランスポーターをコードするポリシストロニックmRNAの転写、続いて目的タンパク質および窒素トランスポーターの翻訳を可能にする。目的タンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドは、窒素トランスポーターをコードする第2のポリヌクレオチドに対して上流に位置していてもよいし、下流に位置していてもよい。プロモーターとしては、種子および根でタンパク質を発現可能なプロモーターが用いられ得る。このようなプロモーターとしては、例えば、前述のプロモーターが挙げられる。
【0057】
目的タンパク質および窒素トランスポーターの発現ベクターの別の例は、目的タンパク質をコードする第1のポリヌクレオチド、および当該第1のポリヌクレオチドに機能可能に連結された第1のプロモーターから構成される第1の発現単位、ならびに窒素トランスポーターをコードする第2のポリヌクレオチド、および当該第2のポリヌクレオチドに機能可能に連結された第2のプロモーターから構成される第2の発現単位を含む発現ベクターである。第1のプロモーターは、上記A−2)で述べたものと同様であり、第2のプロモーターは、上記B−2)で述べたものと同様であり得る。
【0058】
目的タンパク質および窒素トランスポーターの発現ベクターは、ターミネーター(例、上述したターミネーター)、マーカー遺伝子(例、上述した遺伝子)、発現促進エレメントなどをさらに含んでいてもよい。ベクターとしては、公知または市販のものを使用できる。このようなベクターとして、例えば、上述したベクターを用いてもよい。
【0059】
1−2)ポリヌクレオチドが導入される植物
上記のようにして作製された発現ベクターまたはそのセットが導入される宿主としては、遺伝子組換え植物として目的タンパク質を生産する植物の細胞が用いられる。宿主とする植物の種類は、上記のプロモーターが認識され、目的タンパク質を発現し得るものであればよく、その他の点について限定されるものではない。宿主とする植物は、栽培管理の容易さ、栽培地の環境、成育期間、収穫の容易性、並びに、種子の性質、大きさ及び収量などの条件を考慮し、目的タンパクの生産面から好適なものを適宜選択してよい。好ましい一実施形態としては、プロモーターの由来と同じ植物種を宿主として選択する形態が挙げられる。
【0060】
宿主とする植物、すなわち、遺伝子組換え植物として栽培が予定される植物としては、例えば、種子植物が挙げられる。種子植物としては、例えば、タバコ、ナタネ、ダイズ等の双子葉植物や、イネ、トウモロコシ、オオムギ、コムギ等の穀類や、アスパラガス等の単子葉植物などを挙げることができる。これらのうちでも、種子中へのタンパク質の蓄積能力が高く、種子の保存性が良好という点で、イネ科の植物、特にイネが好適な植物である。
【0061】
1−3)ポリヌクレオチドの植物細胞への導入法
構築した発現ベクターまたはそのセットを用いて植物の形質転換細胞が作製される。形質転換される植物細胞は、例えば、遺伝子組換え植物として大量に栽培し得る植物由来の細胞であり得る。
【0062】
構築した発現ベクターまたはそのセットを植物細胞に導入する方法としては、例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、融合法、高速バリスティックベネトレーション法等の物理的・化学的手法が挙げられる(I.Potrykus、Annu.Rev.Plant Physiol.Plant Mol.Biol.、42:205、1991)。また、植物細胞に対しては、植物に感染するウイルスや細菌を介して行う、間接導入法も使用することができる(I.Potrykus、Annu.Rev.Plant Physiol.Plant Mol.Biol.、42:205、1991)。この場合、ウイルスとしては、カリフラワーモザイクウイルス、ジェミニウイルス、タバコモザイクウイルス、ブロムモザイクウイルス等が使用でき、細菌としては、アグロバクテリウム・ツメファシエンス、アグロバクテリウム・リゾジェネス等が使用できる。
【0063】
1−4)形質転換体の再分化
次に、上記の方法で外来遺伝子を導入した植物細胞から、組換え組織または組換え個体を培養する。遺伝子導入処理を行った細胞を、適宜、目的遺伝子や選抜マーカー遺伝子による特定形質の発現、遺伝子の欠失等による特定形質の消失などを指標として選抜を行いつつ、定法によって増殖させ、再分化させ、組換え組織または組換え個体を培養することができる。再分化して得られた植物から種子を採取し、得られた種子を利用して、遺伝子組換え体を繁殖させることができる。
【0064】
必ずしも明確ではないが、本発明により所望の目的タンパク質の生産性が向上する一つの理由としては、次のように推測される。植物の窒素代謝は、硝酸イオンまたはアンモニウムイオンにより、トランスポーター遺伝子が活性化されることにより、活性化することが知られている。窒素トランスポーターを植物に導入することにより、栄養成長期にアミノ酸生成の原料となる窒素分を効率よく吸収することが可能になり、その結果アミノ酸の合成に関与する遺伝子を活性化できると推察される。また、種子の登熟期に入ると、植物体中に高蓄積したアミノ酸の影響で種子のタンパク質合成遺伝子が活性化すると推察される。種子中のタンパク質量が増加するのに伴い、目的タンパク質量も増加すると考えられる。窒素代謝関連の遺伝子群の活性を向上させることで、目的タンパク質が増加すると考えられるため、グルタミン酸トランスポーター等、高発現させることで、窒素代謝関連の遺伝子群の活性を向上させる働きがあるタンパク質に関して、窒素トランスポーターと同様の効果が期待できると推察される。
【0065】
2)遺伝子組換え植物の栽培方法
上記「遺伝子組換え植物の作製方法」により作製された遺伝子組換え植物は、既知の栽培方法で栽培することができる。本発明の遺伝子組換え植物はまた、任意の窒素条件下(公知の肥料管理方法、公知の培地(培養土・水耕養液))で栽培してもよいが、以下の工程Cに記載される窒素条件下で栽培してもよい。
【0066】
<工程C:所定の窒素条件下での遺伝子組換え植物の栽培>
好ましくは、該植物の開花予定日の30日前から開花日までの間の一定期間、硝酸態窒素が70mg/L〜750mg/L、および/または、アンモニウム態窒素が70mg/L〜750mg/Lとなるよう調整した培地で栽培する。なお、窒素条件以外の具体的な栽培条件は、遺伝子組換え植物についての植物の種類に応じて適宜調整してよい。より好ましくは、水耕栽培法により、上記肥料条件で栽培する。
【0067】
3)種子の生産方法
本発明で栽培された遺伝子組換え植物は、そのまま使用してもよいし、あるいは導入された目的タンパク質を分離・精製して利用してもよい。
【0068】
遺伝子組換え植物が種子植物である場合、本発明の遺伝子組換え植物の栽培方法は、種子の生産方法でもある。種子植物としては、例えば、単子葉植物(例、イネ、トウモロコシ、オオムギ、コムギ等の穀類、ならびにアスパラガス)、双子葉植物(例、タバコ、ナタネ、ダイズ)が挙げられるが、種子タンパク質の貯蔵性が高いことから、イネ科の植物が好ましく、イネがより好ましい。
【0069】
種子の生産の場合、種子が形成され、所定の成熟度に達したら採取する。ここでいう採取とは、農業、園芸などの分野でいう収穫と同義である。したがって、種子そのものを単離することのみならず、栽培地から種子を含む植物体を回収することを広く含む。
【0070】
本発明の種子植物の生産方法で生産された種子には、目的タンパク質が高発現している。種子からその目的タンパク質を精製してもよいし、或いは、その種子自体をそのまま利用してもよい。目的タンパク質が、ヒトが摂取可能な機能性タンパク質である場合、種子をそのまま摂取してもよいし、あるいは任意の処理(例、調理、加工)に供した後に、摂取してもよい。種子またはその処理物は、例えば、食品(例、機能性食品)、医薬品(例、ワクチン、抗体)、試薬(例、診断薬、培養試薬)として有用である。
【0071】
一旦上記のような遺伝子組換え植物が作製されれば、その植物種の通常の繁殖方法に従って、その遺伝子組換え植物の系統を維持できる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、更に詳細な実験操作は、特に述べる場合を除き、分子生物学的手法についてはMolecular Cloning(Sambrook et.al.,1989)または、製造業者の取り扱い説明書に従い行われた。
【0073】
[実施例1]
1.遺伝子組換え植物の作製
<遺伝子導入用ベクターの作成>
PCRにより、N末端にSse8387Iサイト、C末端にXbaIサイトを付加した35Sプロモーター断片(断片A)(Primer1:AACCTGCAGGGAACATGGTGGAGCACGACACTCT(配列番号1)、Primer2:TTAGATCTTGTAGTTGTAGAATGTAAAATGTATGTTG(配列番号2))を得た。
【0074】
Nrt2のmRNA配列(ACCESSION AB008519)をNCBI HomePage,Nucleotide Databaseより取得した。取得した配列情報を基に、N末端にXbaIサイトを付加したPCRプライマー(Primer3:AATCTAGAATGGACTCGTCGACGGTGGGCGCTC(配列番号3))と、C末端にKpnIサイトを付加したPCRプライマー(Primer4:TTCCATGGTTAGGCGTGCTCCGGCGAGTTG(配列番号4))を設計した。設計したプライマーと日本晴より抽出したTotal RNAを用いて、TaKaRa RNA PCR Kit(AMV) Ver.3.0(タカラバイオ社より購入)により、N末端にXbaIサイト、C末端にKpnIサイトを付加したNrt2断片(断片B)を得た。
【0075】
HSPターミネーターを含むプラスミドpRI910 35S−GUS−HSPを鋳型にPCRを行い、N末端にKpnIサイト、C末端にEcoRIサイトを付加したHSPターミネーター断片(断片C)(Primer5:AAGGTACCATATGAAGATGAAGATGAAA(配列番号5)、Primer6:AAGAATTCCTTATCTTTAATCATATTCC(配列番号6))を得た。
【0076】
取得した断片AとpUC18をSse8387I(タカラバイオ社より購入)とXbaI(タカラバイオ社より購入)で処理後、DNA Ligation Kit(タカラバイオ社より購入)を用いて連結し、DH5−α(タカラバイオ社より購入)に導入して増幅した。得られた断片Aを含むpUC18と断片BをXbaIとKpnI(タカラバイオ社より購入)で処理後、DNA Ligation Kitを用いて連結し、DH5−αに導入して増幅した。得られた断片Aと断片Bを含むpUC18と断片CをKpnIとEcoRI(タカラバイオ社より購入)で処理後、DNA Ligation Kitを用いて連結し、DH5−αに導入して増幅した。得られた断片Aと断片Bと断片Cを含むpUC18をSse8387IとEcoRIで処理後、断片A,B,CをプラスミドpTL7(H.Ebinuma et al.、Molecular Methods of Plant Analysis、22:95、2002)のEcoRI−Sse8387I制限酵素部位間に、DNA Ligation Kitを用いて連結し、発現ベクターを構築した。
【0077】
<アグロバクテリウムへの導入>
アグロバクテリウム ツメファシエンス(A.ツメファシエンス)EHA105株を、10mlのYEB液体培地(5g/lビーフエキス、1g/l酵母エキス、5g/lペプトン、5g/lショ糖、2mM MgSO、22℃でのpH7.2(以下、特に示さない場合、22℃でのpHとする。))に接種し、OD.630が0.4から0.6の範囲に至るまで、28℃で培養した後、培養液を6900×g、4℃、10分間遠心して菌体を回収した。回収した菌体は、20mlの10mM HEPES(pH8.0)に懸濁して、再度6900×g、4℃、10分間遠心することにより集菌し、この菌体を200μlのYEB液体培地に懸濁して、プラスミド導入用菌液とした。0.5mlチューブ内で、上記プラスミド導入用菌液50μlと発現ベクターとを混合し、エレクトロポレーション法(ジーンパルサーIIシステム(BIORAD社より購入))を用いて、A.ツメファシエンスEHA105株への発現ベクター導入処理を行った。発現ベクター導入処理後の菌体は、200μlのYEB液体培地を加えて25℃で、振とうしつつ1時間培養を行ってから、50mg/lカナマイシン添加YEB寒天培地(寒天1.5w/v%、他の組成は上記に同じ。)に播種し、28℃、2日間培養した。次いで、生じた菌コロニーをYEB液体培地に移植して更に培養し、増殖した菌体からアルカリ法でプラスミドを抽出して、これらの菌体に発現ベクターが導入されていることを確認した。
【0078】
<アグロバクテリウムEHA105によるイネの形質転換>
アレルゲン特異的ヒトT細胞エピトープ連結ペプチド(7CRP)を生産するイネ(7CRPイネ:特開2004−321079に記載。グルテリンB−1のプロモーターに連結された、7CRPをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターpGluBsig7CrpKDELが導入されている)の完熟種子を、細胞工学別冊 植物細胞工学シリーズ4 モデル植物の実験プロトコール(p93−98)の方法に従い殺菌した後、この完熟種子を、N6Cl2培地(N6無機塩類及びビタミン類(Chu C.C.、1978,Proc.Symp.Plant TissueCuture、Sience Press Peking、pp.43−50)、30g/lシュークロース、2.8g/lプロリン、0.3g/lカザミノ酸、2mg/l 2,4−D、4g/lゲルライト、pH=5.8)に置床し、サージカルテープでシールしてから28℃明所で培養して発芽させ、アグロバクテリウムEHA105による感染材料とした。YEB寒天培地(15g/lバクトアガー、他の組成は上記に同じ。)にて培養した発現ベクターを導入したアグロバクテリウムEHA105を、YEB液体培地に移植して、25℃、180rpmで一晩培養した後、3000rpm、20分間遠心して集菌し、アセトシリンゴン10mg/lを含むN6液体培地(N6無機塩類及びビタミン類、30g/lシュークロース、2mg/l 2,4−D、pH=5.8)に、OD.630=0.15となるように懸濁し、感染用アグロバクテリウム懸濁液とした。調整したイネの発芽種子を50mlチューブに入れ、感染用アグロバクテリウム懸濁液を注いで1.5分間浸漬した。浸漬後、アグロバクテリウム懸濁液を捨て、発芽種子を滅菌したろ紙の上に置いて余分な水分を除去してから、この種子を、共存培養培地N6Cl2培地(N6無機塩類及びビタミン類、30g/lシュークロース、2.8g/lプロリン、0.3g/lカザミノ酸、2mg/l 2,4−D、4g/lゲルライト、pH=5.2)に置床し、サージカルテープでシールして28℃暗所で3日間培養し、次いで、N6Cl2TCH25培地(N6無機塩類及びビタミン類、30g/lシュークロース、2.8g/lプロリン、0.3g/lカザミノ酸、2mg/l 2,4−D、500mg/lカルベニシリン、25mg/lハイグロマイシン、4g/lゲルライト)に移植して培養した。
【0079】
<形質転換体の再分化>
上記N6Cl2TCH25培地での培養開始から1週間後、発芽した芽を胚盤組織から除去して、残った胚盤組織を、N6Cl4TCH25培地(N6無機塩類及びビタミン類、30g/lシュークロース、2.8g/lプロリン、0.3g/lカザミノ酸、4mg/l 2,4−D、500mg/lカルベニシリン、25mg/lハイグロマイシン、4g/lゲルライト)で1週間培養し、更に、MSRC培地(MS無機塩類及びビタミン類(Murashige、T. and Skoog、F.、1962 Physiol.Plant.、15、473)、30g/lシュークロース、30g/lソルビトール、2g/lカザミノ酸、500mg/lカルベニシリン、4g/lゲルライト)に移植して培養することにより、芽又は幼植物体を再分化させた。
【0080】
2.7CRP発現プロモーターのV/WおよびX/Yの測定
下記のように第1の栽培条件および第2の栽培条件で、イネを栽培した。栽培のスケジュールの概要を図1に示す。また、用いた栽培液Aおよび栽培液Bの組成を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
<RNA含有量Vおよび種子貯蔵タンパク質Xを測定するための第1の栽培条件>
イネの一品種である日本晴の種子を次亜塩素酸とエタノールで殺菌後、滅菌水が入ったシャーレに均等に広げ、遮光した後、28度で5日間培養した。
【0083】
人工太陽光室の室内にて、育苗箱の中に水を含ませたウレタンマットを敷き、出芽した種子を播種した。明条件:気温28度、湿度50%、11時間、暗条件:気温23度、湿度50%、13時間で15日間苗を培養した。
【0084】
湛液方式の栽培ベッド(M式水耕研究所製)に100Lの栽培液A(表1参照)を充填し、得られた苗を1本ずつ77株植え付け、明条件:気温28度、湿度50%、11時間、暗条件:気温23度、湿度50%、13時間で45日間培養した。
【0085】
栽培液B(表1参照)の成分になるよう追肥を行い、明条件:気温28度、湿度50%、11時間、暗条件:気温23度、湿度50%、13時間で45日間培養後、種子を得た。
【0086】
上記のように水耕栽培を行ったので、栽培ベッド内の水分の窒素濃度を制御することにより、培地中の窒素濃度を制御した。硝酸態窒素濃度は、硝酸イオン複合電極(東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した。またアンモニウム態窒素濃度は、アンモニア複合電極(東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した。
【0087】
<RNA含有量Wおよび種子貯蔵タンパク質Yを測定するための第2の栽培条件>
日本晴の種子を次亜塩素酸とエタノールで殺菌後、滅菌水が入ったシャーレに均等に広げ、遮光した後、28度で5日間培養した。
【0088】
人工太陽光室の室内にて、育苗箱の中に水を含ませたウレタンマットを敷き、出芽した種子を播種した。明条件:気温28度、湿度50%、11時間、暗条件:気温23度、湿度50%、13時間で15日間培養した。
【0089】
栽培ポットに窒素を50mg/L含有する土壌を5L充填し、得られた苗を1本植え付け、明条件:気温28度、湿度50%、11時間、暗条件:気温23度、湿度50%、13時間で45日間培養した。
【0090】
土壌中の窒素が50mg/Lとなるように追肥を行い、明条件:気温28度、湿度50%、11時間、暗条件:気温23度、湿度50%、13時間で45日間培養後、種子を得た。
【0091】
2.RNAの解析
<マイクロアレイ用試料の調整>
上記条件で栽培して得た開花後20日目の各々の種子を、液体窒素で凍結後、乳鉢で破砕し、Fruit−mate for RNA Purification(タカラバイオ社より購入)で処理後、RNAiso Plus(タカラバイオ社より購入)で抽出した。その後Recombinant DNase I(RNase−free)(タカラバイオ社より購入)で処理し、OligotexTM−dT30<Super> mRNA Purification Kit(From Total RNA)(タカラバイオ社より購入)で精製して、RNA溶液を得た。
【0092】
第1の栽培条件で栽培したイネの種子から得たTotal RNAと、第2の栽培条件で栽培したイネの種子から得たTotal RNAを800ng/1サンプルとなるように調整し、シアニン 3−CTP色素ラベル用400ng、シアニン 5−CTP色素ラベル用400ngとなるようにそれぞれチューブに分注した。Low RNA Fluorescent Linear Amplification Kit PLUS, 2カラー用(アジレント・テクノロジー株式会社より購入)を用いて、シアニンラベル化 cDNAを生成し、RNeasy mini kit(Qiagen社より購入)を用いて、精製した。
【0093】
<ハイブリダイゼーション>
シアニン3−CTP色素ラベルした第1の栽培条件で栽培したイネの種子から得たcDNA825ngとシアニン5−CTP色素ラベルした第2の栽培条件で栽培したイネの種子から得たcDNA825ngをそれぞれチューブに分注し、Gene Expression Hybridization Kit(アジレント・テクノロジー株式会社より購入)で処理後、イネオリゴDNAマイクロアレイ4x44K RAP−DB(アジレント・テクノロジー株式会社より購入)へ充填し、ハイブリダイゼーションさせた。
【0094】
<画像解析>
DNAマイクロアレイスキャナ(アジレント・テクノロジー株式会社製)で画像をスキャンし、スポットを数値化した。さらに、画像解析ソフトGeneSpring GX(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて、3−CTP色素と5−CTP色素の蛍光強度を比較し、V/Wを測定した。
【0095】
3.タンパク質の解析
<2次元ゲル用試料の調製>
上記第1および第2の栽培条件下で栽培して得たそれぞれの種子を、胚盤を取り除いた後に、マルチビーズショッカー(安井器械社製)で破砕し、8M尿素、4%(w/v)SDS、20%(w/v)グリセロール、50mMリン酸バッファーを含有する抽出溶液中にホモジナイズして、タンパク質溶液を得た。得られたタンパク質溶液をReadyPre 2−D Cleanup Kit(BIO−RAD LABORATORIES社(以下、BIO−RAD社と略称する)より購入)で精製し、ReadyStrip 7−10 Buffer(BIO−RAD社より購入)を添加した。RC DC Protein Assay(BIO−RAD社より購入)を用いて全タンパク質濃度を決定した。
【0096】
<2次元ゲル電気泳動>
1次元目のタンパク質分離用等電点電気泳動は、PROTEAN IEF cell(BIO−RAD社より購入)および7cm ReadyStrip IPG Strip 3−7NL(BIO−RAD社より購入)を用いて実施した。2次元目のタンパク質分離用電気泳動は、IPG Stripをequilibration buffer I、equilibration buffer II(BIO−RAD社より購入)で平衡化し、PROTEAN cell(BIO−RAD社より購入)および10−20% resolving Ready Gel Precast Gel(BIO−RAD社より購入)を用いて実施した。画像解析の際のタンパク質スポットの分子量および等電点計算のために、試料は分子量マーカーおよび等電点pl較正マーカーとともに泳動した。2次元SDS−PAGEの直後に、Gelを40%エタノール、10%酢酸を含有する固定液に2時間浸透し、Flamingo Gelstain(BIO−RAD社より購入)で処理した。
【0097】
<2次元ゲルの画像解析>
処理したゲルをPharos FX Molecular Imager(BIO−RAD社より購入)を用いてデジタル化した。Quantity OneおよびPDQuest(BIO−RAD社より購入)を用いて、6種類の種子貯蔵タンパク質のスポット位置をそれぞれ特定し、スポット強度からX/Yを測定した。6種類の種子貯蔵タンパク質は、グロブリン、グルテリン、グルテリンB−5、グルテリンB−1、10KDaプロラミン、および13KDaプロラミンである。
【0098】
4.遺伝子組換え植物の栽培
上記「1.遺伝子組換え植物の作製」で得られたイネを以下の要領にて栽培した。栽培に用いた栽培液Cおよび栽培液Dの組成を表2に示す。
【0099】
まず、上記「1.遺伝子組換え植物の作製」により得られた胚盤組織から再分化させた芽又は幼植物体を、発根培地に移植して背丈20cm程度の幼苗となるまで生育させた。
【0100】
湛液方式の栽培ベッド(M式水耕研究所製)に100Lの栽培液C(表2参照)を充填し、得られた苗を1本ずつ77株植え付け、明条件:気温28度、湿度50%、11時間、暗条件:気温23度、湿度50%、13時間で45日間培養した。
【0101】
栽培液D(表2参照)の成分になるよう追肥を行い、明条件:気温28度、湿度50%、11時間、暗条件:気温23度、湿度50%、13時間で45日間培養した。
【0102】
【表2】

【0103】
5.タンパク質含有量の測定
上記「4.遺伝子組換え植物の栽培」にて得られた植物から種子を採取し、種子中のタンパク質含有量を、下記の要領にて測定した。
【0104】
<種子の総タンパク質含有量>
杯盤を除去した種子中のタンパク質含有量を、近赤外線タンパク質解析装置NIRFLEX N−500(BUCHI社製)で測定し、種子重量から総タンパク質含有量を算出した。
【0105】
<機能性タンパク質(花粉症緩和ペプチド:7crp)の量>
種子中のタンパク質と既知濃度のタンパク質マーカーをSDS−PAGEキット(BIO−RAD社より購入)で泳動し、Gelを40%エタノール、10%酢酸を含有する固定液に2時間浸透し、Flamingo Gelstain(BIO−RAD社より購入)で処理した。処理したゲルをPharos FX Molecular Imager(BIO−RAD社より購入)を用いてデジタル化した。Quantity One(BIO−RAD社より購入)を用いて7crpのバンド位置を特定し、濃度既知のマーカーのバンド強度と比較して、花粉症緩和ペプチド(7crp)の重量を算出した。このようにして、遺伝子組換え植物から採取された種子中の総タンパク質の量と、形質転換により導入された機能性タンパク質の量とを求めた。
【0106】
[実施例2]
7CRP発現プロモーターをV/W=1.59、X/Y=2.40のグルテリンB−5とした以外は、実施例1と同様にして遺伝子組換え植物の栽培、タンパク質含有量の測定を行った。
【0107】
[実施例3]
培養液Dのアンモニウム態窒素含有量を150mg/Lとした以外は、実施例1と同様にして遺伝子組換え植物の栽培、タンパク質含有量の測定を行った。
【0108】
[実施例4]
培養液Dの硝酸態窒素含有量を50mg/Lとし、アンモニウム態窒素含有量を150mg/Lとした以外は、実施例1と同様にして遺伝子組換え植物の栽培、タンパク質含有量の測定を行った。
【0109】
[実施例5]
培養液Dの硝酸態窒素含有量を70mg/Lとし、アンモニウム態窒素含有量を70mg/Lとした以外は、実施例1と同様にして遺伝子組換え植物の栽培、タンパク質含有量の測定を行った。
【0110】
[実施例6]
培養液Dの硝酸態窒素含有量を750mg/Lとし、アンモニウム態窒素含有量を750mg/Lとした以外は、実施例1と同様にして遺伝子組換え植物の栽培、タンパク質含有量の測定を行った。
【0111】
[実施例7]
W,Yの栽培条件を水耕栽培とした以外は、実施例1と同様にして、遺伝子組換え植物の栽培、タンパク質含有量の測定を行った。
【0112】
[実施例8]
培養液Bのアンモニウム態窒素含有量を20mg/Lとした以外は、実施例1と同様にして、遺伝子組換え植物の栽培、タンパク質含有量の測定を行った。
【0113】
[実施例9]
培養液Bの硝酸態窒素含有量を20mg/Lとした以外は、実施例1と同様にして、遺伝子組換え植物の栽培、タンパク質含有量の測定を行った。培養液Bの硝酸態窒素含有量を20mg/Lとした以外は、実施例1と同様にして、遺伝子組換え植物の栽培、タンパク質含有量の測定を行った。
【0114】
[実施例10]
7CRP発現プロモーターをV/W=0.80の10KDaプロラミンのプロモーターとした以外は、実施例1と同様にして、遺伝子組換え植物の栽培、タンパク質含有量の測定を行った。
【0115】
[実施例11]
培養液Bの硝酸態窒素含有量を20mg/Lとし、アンモニウム態窒素含有量を20mg/Lとした以外は、実施例1と同様にして、遺伝子組換え植物の栽培、タンパク質含有量の測定を行った。
【0116】
[比較例1]
7CRPイネを栽培に用いた以外は、実施例1と同様にして、遺伝子組換え植物の栽培、タンパク質含有量の測定を行った。
【0117】
[比較例2]
アグロバクテリウムEHA105によるイネの形質転換に、日本晴を用いた以外は、実施例1と同様にして、遺伝子組換え植物の栽培、タンパク質含有量の測定を行った。
【0118】
[比較例3]
日本晴を栽培に用いた以外は、実施例1と同様にして、遺伝子組換え植物の栽培、タンパク質含有量の測定を行った。
【0119】
実施例1〜11、比較例1〜3について、導入遺伝子、および目的遺伝子のプロモーターの詳細を、表3に示す。
【0120】
【表3】

【0121】
実施例1〜11、比較例1〜3について、遺伝子組換え植物の栽培条件、ならびに種子中の総タンパク質量、および種子中の目的タンパク質(7CRP)量の詳細を、表4に示す。
【0122】
【表4】

【0123】
[参考例1]
実施例1に記載される第1の栽培条件および第2の栽培条件で、天然のイネ(非遺伝子組換え植物)を栽培した。栽培のスケジュールの概要は、図1に示されるとおりであった。また、用いた栽培液Aおよび栽培液Bの組成は、表1に示されるとおりであった。具体的には、イネの一品種である日本晴の種子を、実施例1に記載される第1の栽培条件および第2の栽培条件でそれぞれ培養し、種子を得た。
【0124】
[参考例2]
参考例1に記載される条件で栽培して得た開花後20日目の各々の種子を、上記「2.RNAの解析」に記載された処理に供して、V/W>1となるRNAを検出した。測定されたスポット強度の値を表5に示す。
【0125】
【表5】

【0126】
[参考例3]
参考例1に記載される条件で栽培して得た開花後45日目の各々の種子を、上記「3.タンパク質の解析」に記載された処理に供した。測定されたスポット強度の値を表6に示す。
【0127】
【表6】

【0128】
上記参考例1〜3については、2009年2月2日に出願された日本出願(出願番号:2009−021846)を基礎とする、2009年8月26日に出願されたPCT出願(出願番号:PCT/JP2009/64876)もまた参照のこと。
【配列表フリーテキスト】
【0129】
配列番号1:35Sプロモーター断片をクローニングするためのフォワードプライマー(Primer1)
配列番号2:35Sプロモーター断片をクローニングするためのリバースプライマー(Primer2)
配列番号3:Nrt2断片をクローニングするためのフォワードプライマー(Primer3)
配列番号4:Nrt2断片をクローニングするためのリバースプライマー(Primer4)
配列番号5:HSPターミネーター断片をクローニングするためのフォワードプライマー(Primer5)
配列番号6:HSPターミネーター断片をクローニングするためのリバースプライマー(Primer6)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチドとを導入した遺伝子組換え植物。
【請求項2】
前記目的タンパク質および/または前記窒素トランスポーターが、プロモーターの制御下に配置されている、請求項1に記載の遺伝子組換え植物。
【請求項3】
前記窒素トランスポーターが、硝酸トランスポーター(NRT)である、請求項1または2に記載の遺伝子組換え植物。
【請求項4】
前記窒素トランスポーター(NRT)が、NRT2である、請求項3に記載の遺伝子組換え植物。
【請求項5】
前記NRT2が、イネのNRT2.1である、請求項4に記載の遺伝子組換え植物。
【請求項6】
前記目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが、種子で発現するタンパク質のプロモーターの制御下に配置されている、請求項2から5のいずれかに記載の遺伝子組換え植物。
【請求項7】
前記種子で発現するタンパク質のプロモーターが下記式(1):
V/W>1.0 ・・・(1)
(但し、式(1)において、Vは、開花予定日の30日前から開花日までの間の一定期間、硝酸態窒素が70mg/L〜750mg/L、および/または、アンモニウム態窒素が70mg/L〜750mg/Lとなるように調整した培地にて所定の植物を栽培した場合における該植物の種子に含まれるRNA量である。Wは、開花予定日の30日前から開花日までの間の一定期間、窒素0mg/L〜50mg/Lとなるように調整した培地にて該植物を栽培した場合における該植物の種子に含まれるRNA量である。)を満たす種子で発現するRNAの発現を調節するプロモーターである、請求項6に記載の遺伝子組換え植物。
【請求項8】
前記の種子で発現するタンパク質のプロモーターが下記式(2)
X/Y>1.0 ・・・(2)
(但し、式(2)において、Xは、開花予定日の30日前から開花日までの間の一定期間、硝酸態窒素が70mg/L〜750mg/L、および/または、アンモニウム態窒素が70mg/L〜750mg/Lとなるように調整した培地にて所定の植物を栽培した場合における該植物の種子に含まれる種子貯蔵タンパク質の含有量である。Yは、開花予定日の30日前から開花日までの間の一定期間、窒素0mg/L〜50mg/Lとなるように調整した培地にて該植物を栽培した場合における該植物の種子に含まれる該種子貯蔵タンパク質の含有量である。)を満たす種子貯蔵タンパク質の発現を調節するプロモーターである、請求項6に記載の遺伝子組換え植物。
【請求項9】
前記所定の植物と前記遺伝子組換え植物とが、同種の植物種である、請求項7または8に記載の遺伝子組換え植物。
【請求項10】
前記所定の植物と前記遺伝子組換え植物とが、イネ科の植物である、請求項9に記載の遺伝子組換え植物。
【請求項11】
前記プロモーターが、グルテリン、グロブリン、およびプロラミンからなる群より選ばれる種子貯蔵タンパク質の発現を調節するプロモーターである、請求項6〜10のいずれかに記載の遺伝子組換え植物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の遺伝子組換え植物を栽培することを含む、遺伝子組換え植物の栽培方法。
【請求項13】
栽培が、遺伝子組換え植物の開花予定日の30日前から開花日まで間の一定期間、硝酸態窒素が70mg/L〜750mg/L、および/または、アンモニウム態窒素が70mg/L〜750mg/Lとなるように調整した培地にて行われる、請求項12に記載の栽培方法。
【請求項14】
前記遺伝子組換え植物の栽培を、水耕栽培によって行う、請求項12または13に記載の栽培方法。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれかに記載の方法で遺伝子組換え植物を栽培し、種子を採集することを含む、遺伝子組換え植物の種子の生産方法。
【請求項16】
前記植物がイネであり、前記種子が米である、請求項15に記載の種子の生産方法。
【請求項17】
請求項1から11のいずれかに記載の遺伝子組換え植物の種子。
【請求項18】
目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチドとを含む発現ベクター。
【請求項19】
目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および窒素トランスポーターをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターのセット。
【請求項20】
請求項18に記載の発現ベクターまたは請求項19に記載の発現ベクターのセットを植物に導入し、形質転換された遺伝子組換え植物を得ることを含む、遺伝子組換え植物の作製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−24052(P2012−24052A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168163(P2010−168163)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度経済産業省「植物機能を活用した高度モノ作り基盤技術開発/植物利用高付加価値物質製造基盤技術開発」委託研究に係わる、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】