目的物質の塗布方法、及びマイクロ化学チップ
【課題】微小断面の流路の内壁面の微小エリアに、精度良く目的物質を塗布できるようにする。
【解決手段】まず、流路B3の内壁における第1領域(図(a) に符号M1で示す斜線領域であって、流路B3の長手方向Jと交差する方向K1,K2,K3に沿った領域)に親和性物質を塗布する。次に、目的物質を含む第1溶液D1と、目的物質を含まない第2溶液D2とを層流状態で前記流路B3に流す。これにより、前記第1領域M1のうち、前記第1溶液D1と接触する第2領域(つまり、図(b)
に符号M2で示す部分)に精度良く目的物質が付着される。
【解決手段】まず、流路B3の内壁における第1領域(図(a) に符号M1で示す斜線領域であって、流路B3の長手方向Jと交差する方向K1,K2,K3に沿った領域)に親和性物質を塗布する。次に、目的物質を含む第1溶液D1と、目的物質を含まない第2溶液D2とを層流状態で前記流路B3に流す。これにより、前記第1領域M1のうち、前記第1溶液D1と接触する第2領域(つまり、図(b)
に符号M2で示す部分)に精度良く目的物質が付着される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小断面の流路の内壁の微小エリアに目的物質を塗布するための塗布方法及びマイクロ化学チップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化学反応を微小空間で実現させるためのマイクロ化学チップが、種々の分野で利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかるマイクロ化学チップには、微小断面の流路が形成されているが、化学反応に必要な特定の物質(本明細書においては“目的物質”とする)を該流路の内壁に塗布したい場合がある。
【特許文献1】特開2003−215140公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、極めて微小なエリアに目的物質を塗布するための有効な塗布方法は未だ提案されていない。
【0005】
本発明は、流路内壁の微小エリアに目的物質を塗布するための塗布方法、及びマイクロ化学チップを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、図1(a) に例示するように、流路(B3)の内壁における、該流路(B3)の長手方向(J)と交差する方向(K1,K2,K3)に沿った第1領域(M1)に親和性物質を塗布する工程と、
図1(b) に例示するように、目的物質を含む第1溶液(D1)を層流状態で前記流路(B3)に流すことによって、前記親和性物質が塗布された領域(M1)のうち、前記第1溶液(D1)と接触する第2領域(M2)に前記目的物質を付着させる工程と、を備えたことを特徴とする目的物質の塗布方法に関する。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、図1(b) に例示するように、前記流路(B3)には、前記第1溶液(D1)、及び前記目的物質を含まない第2溶液(D2)を層流状態で流すことを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、前記目的物質は、血液中の血小板を凝集させるための凝集惹起剤であり、
前記親和性物質は、該凝集惹起剤を吸着することのできる生体親和性物質であることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、図2及び図3に例示するものであって、目的物質を含む第1溶液(D1)が流れる第1流路(B1)と、
目的物質をほとんど含まない第2溶液(D2)が流れる第2流路(B2)と、
これら第1及び第2流路(B1,B2)の下流側に接続されることにより前記第1溶液(D1)及び前記第2溶液(D2)が層状に流される第3流路(B3)と、を備えたマイクロ化学チップ(A)に関する。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項4に係る発明において、前記第1流路(B1)への前記第1溶液(D1)の供給量を制御することに基づき前記第3流路(B3)中における前記第1溶液(D1)の層流幅(W1)を調整するように構成された第1溶液供給手段(P1)と、
前記第2流路(B2)への前記第2溶液(D2)の供給量を制御することに基づき前記第3流路(B3)中における前記第2溶液(D2)の層流幅(W2)を調整するように構成された第2溶液供給手段(P2)と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
なお、括弧内の番号などは、図面における対応する要素を示す便宜的なものであり、従って、本記述は図面上の記載に限定拘束されるものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1乃至5に係る発明によれば、流路内壁の所定エリアに精度良く目的物質を塗布することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1乃至図4に沿って、本発明を実施するための最良の形態について説明する。ここで、図1(a) は、流路内壁に親和性物質を塗布する工程を示す斜視図であり、図1(b) は、目的物質を含む第1溶液を層流状態で流すことにより、親和性物質が塗布された領域に目的物質を付着させる工程を示す斜視図であり、図2は、目的物質が塗布されるマイクロ化学チップの構造を示す平面図であり、図3は、図2のマイクロ化学チップの詳細構造を示す拡大図である。また、図4は、該マイクロ化学チップの利用方法の一例を説明するための断面図である。
【0014】
本発明は、微小断面の流路(具体的には、その内壁面の微小領域)に目的物質を塗布するための塗布方法、及び該目的物質が塗布されるマイクロ化学チップについてのものである。また、本発明は、微小断面の流路中を流れる流体の特性を利用して前記目的物質を塗布するための塗布方法、及び目的物質が塗布されるマイクロ化学チップについてのものである。
【0015】
本発明に係る目的物質の塗布方法は、図1に例示するように、
・ 流路B3の内壁における第1領域(符号M1で示す斜線領域であって、流路B3の長手方向Jと交差する方向K1,K2,K3に沿った領域)に親和性物質を塗布する工程と、
・ 目的物質を含む第1溶液D1を層流状態で前記流路B3に流すことによって、前記第1領域M1のうち、前記第1溶液D1と接触する第2領域(つまり、図1(b) に符号M2で示す部分)に前記目的物質を付着させる工程と、
からなる。ここで、前記第1溶液D1を層流状態で前記流路B3に流す方法としては、目的物質を含まない第2溶液D2を第1溶液D1と共に流路B3に流す方法を挙げることができる。また、前記目的物質としては、血液中の血小板を凝集させるための凝集惹起剤を挙げることができ、前記親和性物質としては、該凝集惹起剤を吸着することのできる生体親和性物質を挙げることができる。なお、前記第1領域M1の幅(長手方向Jの幅)は例えば50μmとし、前記第1溶液D1の層流幅W1は例えば50μmにすると良い。ところで、図1の流路B3は矩形断面であるが、もちろんこれに限られるものではなく、他の形状であっても良い。また、図1(a) では、親和性物質を上壁及び両側壁に塗布しているが、もちろんこれに限られるものではない。
【0016】
一方、目的物質が塗布されるマイクロ化学チップとしては、図2及び図3に符号Aで例示するもののように、目的物質を含む第1溶液D1が流れる第1流路B1、目的物質をほとんど含まない(全く含まないか、含んだとしても微量である)第2溶液D2が流れる第2流路B2、並びに、これら第1及び第2流路B1,B2の下流側に接続されることにより前記第1溶液D1及び前記第2溶液D2が層状に流される第3流路B3を有する構造のものを挙げることができる。なお、図2中の符号Cは、第1流路B1及び第2流路B2の合流部を示す。また、図3中の符号Eは、前記第1溶液D1及び前記第2溶液D2の界面を示す。さらに、図2中の符号Iは、図1(a) 中の符号Iと同じ方向を示す。
【0017】
この場合、前記第1流路B1に第1溶液供給手段P1を接続しておいて前記第1流路B1への前記第1溶液D1の供給量を制御できるようにしておき、その制御によって、前記第3流路B3中における前記第1溶液D1の層流幅W1を調整できるようにしておくと良い。同様に、前記第2流路B2に第2溶液供給手段P2を接続しておいて前記第2流路B2への前記第2溶液D2の供給量を制御できるようにしておき、その制御によって、前記第3流路B3中における前記第2溶液D2の層流幅W2を調整できるようにしておくと良い。これらの溶液供給手段P1,P2により各溶液D1,D2の層流幅W1,W2を調整することにより、適正な幅の領域に目的物質を塗布することができる。なお、図5に示すように、第3流路B3の下流側を、第1溶液D1が流れる側に配置される第4流路B4と、第2溶液D2が流れる側に配置される第5流路B5に分岐しておいて、第1流路B1には第1溶液供給手段としての押出ポンプP1を配置し、第5流路B5には密閉容器L1を介して第1吸引ポンプ(第2溶液供給手段)P3を配置するようにしても良い。このような装置において押出ポンプP1を最初に稼動させると、第1流路B1、第3流路B3、第4流路B4及び第5流路B5が第1溶液D1により満たされることとなる。この状態で第1吸引ポンプP3を稼動させると、その吸引力は、密閉容器L1内の空気→第5流路B5中の第1溶液D1→第3流路B3中の第1溶液D1を介して第2流路B2中の第2溶液D2にまで及ぶこととなり、その結果、第5流路B5中の第1溶液D1及び第3流路B3中の第1溶液D1が該容器L1内に排出され、それに伴って、第2溶液D2が第2流路B2から第3流路B3に供給されて層流状態で流れ、その後、第5流路B5から前記容器L1内に排出される。押出ポンプP1による第1溶液D1の押出量と、第1吸引ポンプP3による第2溶液D2の吸引量とを調整することにより、第1溶液D1の層流幅W1と第2溶液D2の層流幅W2とを変化させることができる。また、第2流路B2には第2溶液供給手段としての押出ポンプを配置し(図2の符号P2参照)、前記第4流路B4に第1溶液供給手段としての第2吸引ポンプ(不図示)を配置するようにしても良い。また、図6に示すように、第1流路B1には第1溶液供給手段としての押出ポンプP1を配置し、第2流路B2にはバルブVを配置し、第4流路B4には密閉容器L2を介して第1溶液供給手段としての第2吸引ポンプP4を配置し、第5流路B5には密閉容器L1を介して第2溶液供給手段としての第1吸引ポンプP3を配置するようにしても良い。このような装置において、バルブVを閉じると共に各吸引ポンプP3,P4を停止状態として押出ポンプP1だけを稼動させると、第1流路B1、第3流路B3、第4流路B4及び第5流路B5が第1溶液D1により満たされることとなる。この状態で両方の吸引ポンプP3及びP4を稼動させると、その吸引力は、密閉容器L1及びL2内の空気→第5流路B5及び第4流路B4中の第1溶液D1→第3流路B3中の第1溶液D1を介して第2流路B2中の第2溶液D2にまで及ぶこととなる。このとき、バルブVを開けていくと同時に押出ポンプP1の押出量をある一定のところまで低下させると、各流路B4,B5中の第1溶液D1及び第3流路B3中の第1溶液D1が該容器L1及びL2内に排出され、それに伴って、第2溶液D2が第2流路B2から第3流路B3に供給されて層流状態で流れ、その後、第5流路B5から前記容器L1内に排出される。第1吸引ポンプP3による第2溶液D2の吸引量と、第2吸引ポンプP4による第1溶液D1の吸引量とを調整することにより、第1溶液D1の層流幅W1と第2溶液D2の層流幅W2とを変化させることができる。あるいは、吸引ポンプP3及びP4とともに、押出ポンプP1も同時に稼動させ、吸引ポンプP3と押出ポンプP1の両方によって、第1流路B1、第3流路B3、第4流路B4を流れる緩衝液D1の流路幅を調整してもよい。
【0018】
なお、上述したマイクロ化学チップAの本体部分はガラスや樹脂により形成しておくと良い。
【0019】
次に、上述のようにして凝集惹起剤を流路内壁に塗布したマイクロ化学チップの利用方法について説明する。
【0020】
このマイクロ化学チップを利用するに当たっては、第1溶液D1として緩衝液を流し、第2溶液D2として血液を流す。そして、前記第1溶液供給手段P1により前記緩衝液D1の供給量が調整され、前記第2溶液供給手段P2により前記血液D2の供給量が調整されることに基づいて、前記第3流路B3における、前記緩衝液D1と血液D2の層流幅W1,W2が調整されることとなり、
・ 図4(a) に示すように、凝集惹起剤Gが緩衝液D1とのみ接触していて、血液D2とは接触していない状態、
・ 図4(b) に示すように、血液D2が凝集惹起剤Gに接触し始める状態
・ 図4(c) に示すように、凝集惹起剤Gの塗布領域全てが血液D2と接触している状態
を作り出すことができる。
【0021】
これにより、血小板の未凝集状態、及び凝集される様子を観察することができ、詳細な分析(例えば、凝集塊の大きさや面積や体積が時間と共にどのように変化するかの分析)を行うことができる。また、未凝集状態と凝集状態との比較のために静止画像や動画像を撮らなければならない場合においても、“凝集惹起剤が塗布された箇所G”を撮影するだけで足り、撮影作業はいたって簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1(a) は、流路の内壁面に親和性物質を塗布する工程を示す斜視図であり、図1(b) は、目的物質を含む第1溶液を層流状態で流すことにより、親和性物質が塗布された領域に目的物質を付着させる工程を示す斜視図である。
【図2】図2は、目的物質が塗布されるマイクロ化学チップの構造を示す平面図である。
【図3】図3は、図2のマイクロ化学チップの詳細構造を示す拡大図である。
【図4】図4は、マイクロ化学チップの利用方法の一例を説明するための、図2のH部分の拡大図である。
【図5】図5は、マイクロ化学チップに目的物質を塗布する装置の構成の一例を示す平面図である。
【図6】図6は、マイクロ化学チップに目的物質を塗布する装置の構成の一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0023】
A マイクロ化学チップ
B1 第1流路
B2 第2流路
B3 第3流路
D1 第1溶液
D2 第2溶液
J 流路の長手方向
M1 第1領域
M2 第2領域
P1 第1溶液供給手段
P2 第2溶液供給手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小断面の流路の内壁の微小エリアに目的物質を塗布するための塗布方法及びマイクロ化学チップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化学反応を微小空間で実現させるためのマイクロ化学チップが、種々の分野で利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかるマイクロ化学チップには、微小断面の流路が形成されているが、化学反応に必要な特定の物質(本明細書においては“目的物質”とする)を該流路の内壁に塗布したい場合がある。
【特許文献1】特開2003−215140公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、極めて微小なエリアに目的物質を塗布するための有効な塗布方法は未だ提案されていない。
【0005】
本発明は、流路内壁の微小エリアに目的物質を塗布するための塗布方法、及びマイクロ化学チップを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、図1(a) に例示するように、流路(B3)の内壁における、該流路(B3)の長手方向(J)と交差する方向(K1,K2,K3)に沿った第1領域(M1)に親和性物質を塗布する工程と、
図1(b) に例示するように、目的物質を含む第1溶液(D1)を層流状態で前記流路(B3)に流すことによって、前記親和性物質が塗布された領域(M1)のうち、前記第1溶液(D1)と接触する第2領域(M2)に前記目的物質を付着させる工程と、を備えたことを特徴とする目的物質の塗布方法に関する。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、図1(b) に例示するように、前記流路(B3)には、前記第1溶液(D1)、及び前記目的物質を含まない第2溶液(D2)を層流状態で流すことを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、前記目的物質は、血液中の血小板を凝集させるための凝集惹起剤であり、
前記親和性物質は、該凝集惹起剤を吸着することのできる生体親和性物質であることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、図2及び図3に例示するものであって、目的物質を含む第1溶液(D1)が流れる第1流路(B1)と、
目的物質をほとんど含まない第2溶液(D2)が流れる第2流路(B2)と、
これら第1及び第2流路(B1,B2)の下流側に接続されることにより前記第1溶液(D1)及び前記第2溶液(D2)が層状に流される第3流路(B3)と、を備えたマイクロ化学チップ(A)に関する。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項4に係る発明において、前記第1流路(B1)への前記第1溶液(D1)の供給量を制御することに基づき前記第3流路(B3)中における前記第1溶液(D1)の層流幅(W1)を調整するように構成された第1溶液供給手段(P1)と、
前記第2流路(B2)への前記第2溶液(D2)の供給量を制御することに基づき前記第3流路(B3)中における前記第2溶液(D2)の層流幅(W2)を調整するように構成された第2溶液供給手段(P2)と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
なお、括弧内の番号などは、図面における対応する要素を示す便宜的なものであり、従って、本記述は図面上の記載に限定拘束されるものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1乃至5に係る発明によれば、流路内壁の所定エリアに精度良く目的物質を塗布することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1乃至図4に沿って、本発明を実施するための最良の形態について説明する。ここで、図1(a) は、流路内壁に親和性物質を塗布する工程を示す斜視図であり、図1(b) は、目的物質を含む第1溶液を層流状態で流すことにより、親和性物質が塗布された領域に目的物質を付着させる工程を示す斜視図であり、図2は、目的物質が塗布されるマイクロ化学チップの構造を示す平面図であり、図3は、図2のマイクロ化学チップの詳細構造を示す拡大図である。また、図4は、該マイクロ化学チップの利用方法の一例を説明するための断面図である。
【0014】
本発明は、微小断面の流路(具体的には、その内壁面の微小領域)に目的物質を塗布するための塗布方法、及び該目的物質が塗布されるマイクロ化学チップについてのものである。また、本発明は、微小断面の流路中を流れる流体の特性を利用して前記目的物質を塗布するための塗布方法、及び目的物質が塗布されるマイクロ化学チップについてのものである。
【0015】
本発明に係る目的物質の塗布方法は、図1に例示するように、
・ 流路B3の内壁における第1領域(符号M1で示す斜線領域であって、流路B3の長手方向Jと交差する方向K1,K2,K3に沿った領域)に親和性物質を塗布する工程と、
・ 目的物質を含む第1溶液D1を層流状態で前記流路B3に流すことによって、前記第1領域M1のうち、前記第1溶液D1と接触する第2領域(つまり、図1(b) に符号M2で示す部分)に前記目的物質を付着させる工程と、
からなる。ここで、前記第1溶液D1を層流状態で前記流路B3に流す方法としては、目的物質を含まない第2溶液D2を第1溶液D1と共に流路B3に流す方法を挙げることができる。また、前記目的物質としては、血液中の血小板を凝集させるための凝集惹起剤を挙げることができ、前記親和性物質としては、該凝集惹起剤を吸着することのできる生体親和性物質を挙げることができる。なお、前記第1領域M1の幅(長手方向Jの幅)は例えば50μmとし、前記第1溶液D1の層流幅W1は例えば50μmにすると良い。ところで、図1の流路B3は矩形断面であるが、もちろんこれに限られるものではなく、他の形状であっても良い。また、図1(a) では、親和性物質を上壁及び両側壁に塗布しているが、もちろんこれに限られるものではない。
【0016】
一方、目的物質が塗布されるマイクロ化学チップとしては、図2及び図3に符号Aで例示するもののように、目的物質を含む第1溶液D1が流れる第1流路B1、目的物質をほとんど含まない(全く含まないか、含んだとしても微量である)第2溶液D2が流れる第2流路B2、並びに、これら第1及び第2流路B1,B2の下流側に接続されることにより前記第1溶液D1及び前記第2溶液D2が層状に流される第3流路B3を有する構造のものを挙げることができる。なお、図2中の符号Cは、第1流路B1及び第2流路B2の合流部を示す。また、図3中の符号Eは、前記第1溶液D1及び前記第2溶液D2の界面を示す。さらに、図2中の符号Iは、図1(a) 中の符号Iと同じ方向を示す。
【0017】
この場合、前記第1流路B1に第1溶液供給手段P1を接続しておいて前記第1流路B1への前記第1溶液D1の供給量を制御できるようにしておき、その制御によって、前記第3流路B3中における前記第1溶液D1の層流幅W1を調整できるようにしておくと良い。同様に、前記第2流路B2に第2溶液供給手段P2を接続しておいて前記第2流路B2への前記第2溶液D2の供給量を制御できるようにしておき、その制御によって、前記第3流路B3中における前記第2溶液D2の層流幅W2を調整できるようにしておくと良い。これらの溶液供給手段P1,P2により各溶液D1,D2の層流幅W1,W2を調整することにより、適正な幅の領域に目的物質を塗布することができる。なお、図5に示すように、第3流路B3の下流側を、第1溶液D1が流れる側に配置される第4流路B4と、第2溶液D2が流れる側に配置される第5流路B5に分岐しておいて、第1流路B1には第1溶液供給手段としての押出ポンプP1を配置し、第5流路B5には密閉容器L1を介して第1吸引ポンプ(第2溶液供給手段)P3を配置するようにしても良い。このような装置において押出ポンプP1を最初に稼動させると、第1流路B1、第3流路B3、第4流路B4及び第5流路B5が第1溶液D1により満たされることとなる。この状態で第1吸引ポンプP3を稼動させると、その吸引力は、密閉容器L1内の空気→第5流路B5中の第1溶液D1→第3流路B3中の第1溶液D1を介して第2流路B2中の第2溶液D2にまで及ぶこととなり、その結果、第5流路B5中の第1溶液D1及び第3流路B3中の第1溶液D1が該容器L1内に排出され、それに伴って、第2溶液D2が第2流路B2から第3流路B3に供給されて層流状態で流れ、その後、第5流路B5から前記容器L1内に排出される。押出ポンプP1による第1溶液D1の押出量と、第1吸引ポンプP3による第2溶液D2の吸引量とを調整することにより、第1溶液D1の層流幅W1と第2溶液D2の層流幅W2とを変化させることができる。また、第2流路B2には第2溶液供給手段としての押出ポンプを配置し(図2の符号P2参照)、前記第4流路B4に第1溶液供給手段としての第2吸引ポンプ(不図示)を配置するようにしても良い。また、図6に示すように、第1流路B1には第1溶液供給手段としての押出ポンプP1を配置し、第2流路B2にはバルブVを配置し、第4流路B4には密閉容器L2を介して第1溶液供給手段としての第2吸引ポンプP4を配置し、第5流路B5には密閉容器L1を介して第2溶液供給手段としての第1吸引ポンプP3を配置するようにしても良い。このような装置において、バルブVを閉じると共に各吸引ポンプP3,P4を停止状態として押出ポンプP1だけを稼動させると、第1流路B1、第3流路B3、第4流路B4及び第5流路B5が第1溶液D1により満たされることとなる。この状態で両方の吸引ポンプP3及びP4を稼動させると、その吸引力は、密閉容器L1及びL2内の空気→第5流路B5及び第4流路B4中の第1溶液D1→第3流路B3中の第1溶液D1を介して第2流路B2中の第2溶液D2にまで及ぶこととなる。このとき、バルブVを開けていくと同時に押出ポンプP1の押出量をある一定のところまで低下させると、各流路B4,B5中の第1溶液D1及び第3流路B3中の第1溶液D1が該容器L1及びL2内に排出され、それに伴って、第2溶液D2が第2流路B2から第3流路B3に供給されて層流状態で流れ、その後、第5流路B5から前記容器L1内に排出される。第1吸引ポンプP3による第2溶液D2の吸引量と、第2吸引ポンプP4による第1溶液D1の吸引量とを調整することにより、第1溶液D1の層流幅W1と第2溶液D2の層流幅W2とを変化させることができる。あるいは、吸引ポンプP3及びP4とともに、押出ポンプP1も同時に稼動させ、吸引ポンプP3と押出ポンプP1の両方によって、第1流路B1、第3流路B3、第4流路B4を流れる緩衝液D1の流路幅を調整してもよい。
【0018】
なお、上述したマイクロ化学チップAの本体部分はガラスや樹脂により形成しておくと良い。
【0019】
次に、上述のようにして凝集惹起剤を流路内壁に塗布したマイクロ化学チップの利用方法について説明する。
【0020】
このマイクロ化学チップを利用するに当たっては、第1溶液D1として緩衝液を流し、第2溶液D2として血液を流す。そして、前記第1溶液供給手段P1により前記緩衝液D1の供給量が調整され、前記第2溶液供給手段P2により前記血液D2の供給量が調整されることに基づいて、前記第3流路B3における、前記緩衝液D1と血液D2の層流幅W1,W2が調整されることとなり、
・ 図4(a) に示すように、凝集惹起剤Gが緩衝液D1とのみ接触していて、血液D2とは接触していない状態、
・ 図4(b) に示すように、血液D2が凝集惹起剤Gに接触し始める状態
・ 図4(c) に示すように、凝集惹起剤Gの塗布領域全てが血液D2と接触している状態
を作り出すことができる。
【0021】
これにより、血小板の未凝集状態、及び凝集される様子を観察することができ、詳細な分析(例えば、凝集塊の大きさや面積や体積が時間と共にどのように変化するかの分析)を行うことができる。また、未凝集状態と凝集状態との比較のために静止画像や動画像を撮らなければならない場合においても、“凝集惹起剤が塗布された箇所G”を撮影するだけで足り、撮影作業はいたって簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1(a) は、流路の内壁面に親和性物質を塗布する工程を示す斜視図であり、図1(b) は、目的物質を含む第1溶液を層流状態で流すことにより、親和性物質が塗布された領域に目的物質を付着させる工程を示す斜視図である。
【図2】図2は、目的物質が塗布されるマイクロ化学チップの構造を示す平面図である。
【図3】図3は、図2のマイクロ化学チップの詳細構造を示す拡大図である。
【図4】図4は、マイクロ化学チップの利用方法の一例を説明するための、図2のH部分の拡大図である。
【図5】図5は、マイクロ化学チップに目的物質を塗布する装置の構成の一例を示す平面図である。
【図6】図6は、マイクロ化学チップに目的物質を塗布する装置の構成の一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0023】
A マイクロ化学チップ
B1 第1流路
B2 第2流路
B3 第3流路
D1 第1溶液
D2 第2溶液
J 流路の長手方向
M1 第1領域
M2 第2領域
P1 第1溶液供給手段
P2 第2溶液供給手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路の内壁における、該流路の長手方向と交差する方向に沿った第1領域に親和性物質を塗布する工程と、
目的物質を含む第1溶液を層流状態で前記流路に流すことによって、前記親和性物質が塗布された領域のうち、前記第1溶液と接触する第2領域に前記目的物質を付着させる工程と、
を備えたことを特徴とする目的物質の塗布方法。
【請求項2】
前記流路には、前記第1溶液、及び前記目的物質を含まない第2溶液を層流状態で流す、
ことを特徴とする請求項1に記載の目的物質の塗布方法。
【請求項3】
前記目的物質は、血液中の血小板を凝集させるための凝集惹起剤であり、
前記親和性物質は、該凝集惹起剤を吸着することのできる生体親和性物質である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の目的物質の塗布方法。
【請求項4】
目的物質を含む第1溶液が流れる第1流路と、
目的物質をほとんど含まない第2溶液が流れる第2流路と、
これら第1及び第2流路の下流側に接続されることにより前記第1溶液及び前記第2溶液が層状に流される第3流路と、
を備えたマイクロ化学チップ。
【請求項5】
前記第1流路への前記第1溶液の供給量を制御することに基づき前記第3流路中における前記第1溶液の層流幅を調整するように構成された第1溶液供給手段と、
前記第2流路への前記第2溶液の供給量を制御することに基づき前記第3流路中における前記第2溶液の層流幅を調整するように構成された第2溶液供給手段と、
を備えたことを特徴とする請求項4に記載のマイクロ化学チップ。
【請求項1】
流路の内壁における、該流路の長手方向と交差する方向に沿った第1領域に親和性物質を塗布する工程と、
目的物質を含む第1溶液を層流状態で前記流路に流すことによって、前記親和性物質が塗布された領域のうち、前記第1溶液と接触する第2領域に前記目的物質を付着させる工程と、
を備えたことを特徴とする目的物質の塗布方法。
【請求項2】
前記流路には、前記第1溶液、及び前記目的物質を含まない第2溶液を層流状態で流す、
ことを特徴とする請求項1に記載の目的物質の塗布方法。
【請求項3】
前記目的物質は、血液中の血小板を凝集させるための凝集惹起剤であり、
前記親和性物質は、該凝集惹起剤を吸着することのできる生体親和性物質である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の目的物質の塗布方法。
【請求項4】
目的物質を含む第1溶液が流れる第1流路と、
目的物質をほとんど含まない第2溶液が流れる第2流路と、
これら第1及び第2流路の下流側に接続されることにより前記第1溶液及び前記第2溶液が層状に流される第3流路と、
を備えたマイクロ化学チップ。
【請求項5】
前記第1流路への前記第1溶液の供給量を制御することに基づき前記第3流路中における前記第1溶液の層流幅を調整するように構成された第1溶液供給手段と、
前記第2流路への前記第2溶液の供給量を制御することに基づき前記第3流路中における前記第2溶液の層流幅を調整するように構成された第2溶液供給手段と、
を備えたことを特徴とする請求項4に記載のマイクロ化学チップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2007−315754(P2007−315754A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142215(P2006−142215)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】
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