直動案内ユニット
【課題】 スライダとガイドレールとの間の高シール性能を長期にわたって保つことができるシール構造を備えた直動案内ユニットを、部品点数を少なくして、よりコンパクトに実現することである。
【解決手段】 ガイドレール1にまたがって摺動するスライダ2の端面に取り付けられるゴム製のエンドシール14は、ガイドレール1の接触面にリップ部14bを一体に設け、スライダ2に取り付ける取り付け面とは反対側に凹部を形成している。上記リップ部14bが凹部底面14cよりもスライダ2側に位置する関係にするとともに、このエンドシール14の凹部にオイルを含浸したワイパーシール17を組み込み、上記凹部に組み込んだワイパーシール17の外側にスクレーパ9を沿わせ、このスクレーパ9と上記凹部底面14cとの間で、ワイパーシール17を挟持させる。
【解決手段】 ガイドレール1にまたがって摺動するスライダ2の端面に取り付けられるゴム製のエンドシール14は、ガイドレール1の接触面にリップ部14bを一体に設け、スライダ2に取り付ける取り付け面とは反対側に凹部を形成している。上記リップ部14bが凹部底面14cよりもスライダ2側に位置する関係にするとともに、このエンドシール14の凹部にオイルを含浸したワイパーシール17を組み込み、上記凹部に組み込んだワイパーシール17の外側にスクレーパ9を沿わせ、このスクレーパ9と上記凹部底面14cとの間で、ワイパーシール17を挟持させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械など、異物が発生しやすい環境下で用いるのに適した直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、直動案内ユニットは、工作機械のワークの位置決めなどに用いられているが、装置の小型化やコストダウンの観点から、カバーなどを設けず、ガイドレールをむき出しにして使用される機会が多くなっている。このように、ガイドレールをむき出しにした直動案内ユニットを、切りくずなどの異物が発生する環境下で使用すると、ガイドレール表面に異物が付着し、これがスライダとガイドレールの摺動面に入り込んだ場合、スライダのスムーズな移動を妨げ、故障の原因になることがあった。
そこで、スライダの外側にシール部材を設けて、上記摺動部分への異物の侵入を防止することが行なわれている。さらに、上記シール部材より外側にスクレーパを設けたり、ガイド面にオイルを供給して異物を浮かせたりして、異物の侵入を防ぐようにしているものがある。
【0003】
この種の直動案内ユニットの中で、特に、ガイド面に十分なオイルを供給できるとともに、シール部材の耐久性を向上させたものとして、本願出願人が、特願2007−319697号で提案した直動案内ユニットがある。
この従来の直動案内ユニットは、図7、図8に示すように、ガイドレール1をまたいでスライドするスライダ2を備えたものであるが、スライダ2の両端に取り付けたエンドキャップ2aの外側に、ゴム製のエンドシール4を備え、さらにその外側に、樹脂製の取付板5を介して樹脂製のワイパーシール組立体6を取り付けている。
【0004】
上記エンドシール4は、図9に示すように、芯金4aにゴムを焼き付けて形成したものであり、リップ部4bを備え、このリップ部4bの端部をガイドレール1に押し付けて、上記スライダ2とガイドレール1との隙間をシールするようにしている。
そして、このエンドシール4の外側に設けた上記取付板5は、図9に示すように、エンドシール4側で、上記リップ部4bを保護する空間10を形成する形状にしている。
【0005】
さらに、この取付板5の外側に取り付けるワイパーシール組立体6は、図9、図10に示すようにエンドシール4と反対側を底面6aとする凹部を備え、この凹部内に、オイルを含浸した2枚のワイパーシール7と金属製の封止プレート8を組み込んでいる。上記封止プレート8は、オイル含浸素材であるワイパーシール7に腰を与えて、変形し難くするための部材である。さらに、このワイパーシール組立体6の外側にはスクレーパ9を設けている。
【0006】
そして、図11に示すように、上記取付板5、上記エンドシール4及びエンドキャップ2aを、ボルト11によってスライダ2のケーシング2bに固定し、上記スクレーパ9の外側からは、別のボルト12と上記取付板5に設けたナット13とによって、スクレーパ9及びワイパーシール組立体6を上記取付板5に固定している。このように2本のボルト11,12を用いたのは、エンドキャップ2aの外側に全ての部品を取り付けたとき、その摺動方向の長さが長くなり、長い1本のボルトでは、全部品を取り付けにくいためである。
なお、図11中符号3は、エンドキャップ2aの端面に形成した凹部にはめ込まれたオイル含浸部材で、上記エンドシール4より内側で、エンドキャップ2a内に設けられた転動体などにオイルを供給するためのものである。
【0007】
このような直動案内ユニットでは、スライダ2が往復移動する際、上記スクレーパ9によってガイドレール1上の大きな異物を除去するが、このスクレーパ9をすり抜けた異物は、上記ワイパーシール7と、エンドシール4とによってスライダ2側へ入り込まないようにしている。特に、ワイパーシール7から供給されるオイルとワイパーシール7の摺動によって、異物がエンドシール4側に入り込み難くなるので、エンドシール4が異物によって破損することもなく、長期にわたって高いシール性を保つことができる。
【特許文献1】特開2007−255498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、従来の直動案内ユニットは、スライダ2のエンドキャップ2aの外側に、エンドシール4、取付板5、ワイパーシール7及び封止プレート8を組み込んだワイパーシール組立体6、スクレーパ9の順に配置している。このように、高シール性を有する上記従来の直動案内ユニットは、スライダ2の端部に取り付ける部品点数が多い。そのため、各部品の取り付けの手間がかかるとともに、スライダ2の摺動方向の寸法も大きくなり、直動案内ユニットを小型化できないという問題があった。
【0009】
この発明の目的は、スライダとガイドレールとの間の高シール性能を長期にわたって保つことができるシール構造を備えた直動案内ユニットを、部品点数を少なくして、よりコンパクトに実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、長手方向に沿ってガイド面が形成されたガイドレールと、このガイドレールにまたがって摺動するスライダと、ガイドレールにまたがってスライダの端面に取り付けられるとともにガイドレールの接触面にリップ部を一体に設けたゴム製のエンドシールと、このエンドシールの外側に設け、オイルを含浸したワイパーシールとを備えた直動案内ユニットにおいて、上記エンドシールは、スライダに取り付ける取り付け面とは反対側に凹部を形成し、上記リップ部が上記凹部の底面よりもスライダ側に位置する構成にするとともに、上記凹部にオイルを含浸したワイパーシールを組み込み、この凹部に組み込んだワイパーシールの外側にスクレーパを沿わせ、このスクレーパと上記凹部底面との間で、ワイパーシールを挟持させた点に特徴を有する。
【0011】
第2の発明は、長手方向に沿ってガイド面が形成されたガイドレールと、このガイドレールにまたがって摺動するスライダと、ガイドレールにまたがってスライダの端面に取り付けられるとともにガイドレールの接触面にリップ部を一体に設けたゴム製のエンドシールと、このエンドシールの外側に設け、オイルを含浸したワイパーシールとを備えた直動案内ユニットにおいて、上記エンドシールを複数備え、これらエンドシールは、スライダ側とは反対側面に凹部を形成し、上記リップ部が上記凹部の底面よりもスライダ側に位置する構成にするとともに、上記凹部にオイルを含浸したワイパーシールを組み込み、これらエンドシールを重ね合わせてエンドシール間でワイパーシールを挟持し、最も外側に位置するエンドシールの凹部に組み込んだワイパーシールの外側にスクレーパを沿わせ、このスクレーパと上記凹部底面との間で、ワイパーシールを挟持させた点に特徴を有する。
【0012】
第3の発明は、上記第1または第2の発明を前提とし、上記凹部底面とワイパーシールとの間に、金属製の封止プレートを介在させた点に特徴を有する。
第4の発明は、上記いずれかの発明を前提とし、上記エンドシールの凹部底面には、補強用のリブを形成するとともに、このリブの中央にはエンドシールを貫通する貫通孔を設け、この貫通孔に棒状の補強部材を貫通させた点に特徴を有する。
【0013】
第5の発明は、上記いずれかの発明を前提とし、上記ワイパーシールは、輪郭が鮮明なオープンポアを有する三次元構造の骨格組織からなるポリエステル系ポリウレタンフォームを、厚さ方向に圧縮成形したシート状部材である点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0014】
第1〜第4の発明によれば、スライダとガイドレールとの間の高シール性能を長期にわたって保つことができるシール構造を備えた直動案内ユニットの部品点数を少なくすることができるとともに、コンパクト化も可能になる。
第2の発明は、エンドシールを複数設けることによってより高いシール性を発揮させることができる。
【0015】
第3の発明によれば、ワイパーシールに腰を付与することができ、ワイパーシールの機能を安定化できる。また、ワイパーシールが折れ曲がって、エンドシールのリップ部に接触するなど、悪影響を与えることも防止できる。
第4の発明によれば、エンドシールの摺動方向の変形を抑えて、リップ部の安定したシール性を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、この発明の第1実施形態を説明する。
この第1実施形態の直動案内ユニットは、図1に示すようにガイドレール1にまたいで摺動自在に取り付けたスライダ2を備えたものであり、このガイドレール1とスライダ2とは、図7、図8に示した上記従来の直動案内ユニットと同様の構成である。そして、上記スライダ2は、上記エンドキャップ2a内で方向転換する図示していない転動体を介して、ガイドレール1のガイド面に接触するようにしている。また、上記スライダ2のエンドキャップ2aには、潤滑オイルの給油口が設けられ、そこにグリースニップル24を取り付けている。
ただし、この発明の直動案内ユニットとしては、スライダ2がガイドレール1に沿って往復移動可能であればよく、スライダ2の内部構造やレール形状などはどのようなものでもよい。
【0017】
そして、この第1実施形態では、図2、図3に示すように上記スライダ2のエンドキャップ2aの外側に、ワイパーシール17及び封止プレート18を組み込んだエンドシール14とスクレーパ9とを取り付けている。なお、上記エンドキャップ2aの外側面が、この発明のスライダの端面である。
上記ワイパーシール17、封止プレート18及びスクレーパ9は、上記従来のワイパーシール7、封止プレート8およびスクレーパ9と同様の機能を備えたものであるが、上記封止プレート18及びワイパーシール17をエンドシール14に組み込んだ点がこの第1実施形態の最大の特徴である。
そして、この第1実施形態のエンドシール14は、図2〜図4に示すように、芯金14aにゴムを焼き付けて形成した部材で、ガイドレール1をまたぐ部分に、リップ部14bを形成している。
【0018】
また、このエンドシール14をスライダ2のエンドキャップ2aに取り付けたとき、外側、すなわち上記スライダ2と反対側となる側に凹部を形成し、この凹部の底面を凹部底面14cとする。そして、図3、図4に示すように、この凹部底面14cよりも、上記リップ部4bの最も外側に位置する先端Pが、スライダ2側に位置するようにしている。すなわち、上記リップ部14b全体が、上記凹部底面14cよりもスライダ2側に位置するということである。このような位置関係を保つことによって、上記凹部底面14cに接触させて設けた封止プレート18が、リップ部14bに接触することがないようにしている(図3,4参照)。
なお、図3,図4は、上記エンドキャップ2aの外側に設けたシール部分の断面図であるが、その断面位置を図2に示している。
【0019】
上記のように、リップ部14bに上記凹部底面14cよりも外側に設けた部材が接触しないようにしたのは、以下の理由による。
上記リップ部14bは、適度に変形し、ガイドレール1のガイド面に押し付けられてシール性を保つものである。このようなリップ部14bに、上記凹部に組み込んだ封止プレート18などの部材が接触して、外力を作用させることがあると、リップ部14bのガイドレール1に対する押圧状態が変化して、シール性が損なわれる可能性がある。そのため、上記の位置関係を維持して、リップ部14bに悪影響を与えないようにしているのである。
【0020】
さらに、このエンドシール14には、上記リップ部14bと上記凹部底面14cとの間に、潤滑オイルを保持するためのオイル保持溝15を形成している。なお、このオイル保持溝15は、スライダ2をガイドレール1に取り付けたとき、リップ部14bが変形するのを許容する空間としても機能する。
また、このエンドシール14の外周付近には、複数のボルト孔20を形成するとともに、上記凹部底面14cには、位置決めピン21と、この発明の補強用のリブ16とを形成している。このリブ16には、後で説明するこの発明の棒状の補強部材を貫通させるための貫通孔16aを形成している。
【0021】
一方、図3〜図5に示すワイパーシール17は、従来のワイパーシール7と同様に、発泡樹脂からなるシート状部材であって、一対の位置決め孔17a,17a(図5参照)を備え、この位置決め孔17a,17aに、上記エンドシール14の位置決めピン21,21を挿入したとき、エンドシール14の凹部内にぴったり嵌る形状をしている。また、ワイパーシール17の外周には、上記エンドシール14のリブ16に一致する凹部17bや、ボルト孔20の周囲に形成されたリブに一致する凹部17cを形成し、これらのリブと凹部とによっても位置決めされるようにしている。
【0022】
また、エンドシール14には、封止プレート18も組み込むが、この封止プレート18は、従来の封止プレート8と同様の金属製のプレートであって、ワイパーシール17に腰を付与するためのものである。そして、特に図示していないが、この封止プレート18は、図5に示すワイパーシール17とほぼ同形である。ただし、封止プレート18は、ガイドレール1をまたぐ開口を、ワイパーシール17よりも大きくしている。そして、この封止プレート18にも、ワイパーシール17の位置決め孔17aに相当する位置決め孔を形成し、この位置決め孔をエンドシール14の上記位置決めピン21にはめることによって、図3,図4に示すように封止プレート18がガイドレール1に接触しない位置を保つようにしている。このように、封止プレート18を、ガイドレール1に接触しないようにしているのは、金属製の封止プレート18がガイドレール1上を摺動すると、ガイドレール1を傷つけてしまうからである。
【0023】
この第1実施形態では、上記のようなエンドシール14の凹部に、封止プレート18を組み込んでから、その上にワイパーシール17を2枚重ねて組み込み、その開口で、ワイパーシール17にスクレーパ9を沿わせて、スクレーパ9と上記凹部底面14cとで、上記封止プレート18及びワイパーシール17,17を挟持するようにしている。
ただし、この実施形態では、上記スクレーパ9を取り付ける前に、エンドシール14の貫通孔16aに、この発明の補強部材である樹脂製の筒部材19を貫通させる。この筒部材19は、上記貫通孔16aに挿入したとき、一端がスライダのエンドキャップ2aの端面に当接し、他端がスクレーパ9に当接する長さを有するものである。この筒部材19によって、上記エンドキャップ2aとスクレーパ9との距離を保持し、エンドシール14の変形を防止することができる。
【0024】
なお、上記スクレーパ9は、図10に示す従来のスクレーパ9と同様のもので、このスクレーパ9に形成したボルト孔9aから、エンドシール14のボルト孔20にボルト22を挿入して、このボルト22をスライダ2のエンドキャップ2aに設けたネジ孔に締め付けることによって、上記スクレーパ9、ワイパーシール17、封止プレート18及びエンドシール14をスライダ2に取り付けることができる。
【0025】
上記のように、この第1実施形態の直動案内ユニットは、エンドシール14に封止プレート18とワイパーシール17とを組み込んで、スライダ2に取り付けるようにしているので、従来のように、ワイパーシールを保持するための組立体や、エンドシールのリップ部を保護する取付板を、別部品として設ける必要がない。つまり、従来と比べて、部品点数を少なくでき、エンドキャップ2aの外側における摺動方向の長さも短くできる。従って、取り付け作業を簡単にできるとともに、ユニットの小型化も実現できる。
また、上記スライダ2の端面からスクレーパ9までの距離が短くなれば、スクレーパ9及びエンドシール14をスライダ2に固定するためのボルトも、1本で足りる。
【0026】
この第1実施形態の直動案内ユニットも、従来の直動案内ユニットと同様に、最終的にエンドシール14のリップ部14bによってスライダ2とガイドレール1との隙間のシールを保つようにし、最も外側に設けたスクレーパ9によってガイドレール1上の大まかな異物を除去するようにしている。そして、スクレーパ9をすり抜けた異物は、ワイパーシール17によって除去するとともに、ワイパーシール17から供給されるオイルによって上記リップ部14bを保護するようにしている。
【0027】
なお、上記ワイパーシール17の材質は、オイルを保持できるものならば、フェルトなどの繊維部材や、樹脂フォームなど、どのようなものでもよい。ただし、樹脂フォームの中でも、輪郭が鮮明なオープンポアを有する三次元構造の骨格組織からなるポリエステル系ポリウレタンフォームを厚さ方向に圧縮成形したシート状部材を用いれば、フェルトなどの繊維部材と比べて、特にオイルの保持能力が高く、耐摩耗性の高いワイパーシールを実現できる。
上記輪郭が鮮明なオープンポアを有する三次元構造の骨格組織からなるポリエステル系ポリウレタンフォームとは、ポリエステル系ポリウレタンフォームの発泡膜を後処理で除去して、表面に輪郭が明確な開口を形成した素材のことであり、この輪郭が鮮明なオープンポアによってオイルの保持能力を高めることができる。
また、上記ポリエステル系ポリウレタンフォームの骨格構造から、高摺動性と高耐摩耗性を実現できる。
【0028】
さらに、ポリエステル系ポリウレタンフォームを厚み方向に圧縮すれば、シート状部材の腰を強くできるので、このような素材で形成したワイパーシール17は、ガイドレール1に対する摺動を繰り返しても折れ曲がり難く、ワイパーシールとしての機能をより長く維持することができる。
その結果、上記エンドシール14のリップ部14bをより長期にわたって保護でき、良好な密封性と、スライダ2のスムーズな摺動を維持できることになる。
【0029】
さらに、上記第1実施形態では、金属製の封止プレート18をリップ部14b側に設けてワイパーシール17に腰を付与するようにしている。このように、ワイパーシール17に腰を付与するようにしたのは、ワイパーシール17の腰が弱すぎると、ガイドレール1に対する押圧力が不安定になったり、繰り返しの摺動によってワイパーシール17が折れ曲がってしまったりして、ガイドレール1上の異物を払拭できなくなってしまうことがあるからである。しかし、この封止プレート18は必須の要素ではなく、これを設けなくても、ワイパーシール17を備えた直動案内ユニットを、部品点数を少なくして実現できるメリットはある。
例えば、上記したように、ワイパーシール17を構成する樹脂フォームを厚み方向に圧縮して、ワイパーシール17の硬度を適当な値に保てば、封止プレート18を設けなくても、ワイパーシール17の腰を維持し、耐久性を上げることができる。
【0030】
さらにまた、上記第1実施形態では、補強部材として筒部材19を備え、エンドシール14の変形を防止しているが、この筒部材19はなくてもよい。ただし、上記筒部材19を設ければ、摺動抵抗などによって、リップ部14bに力が作用しても、ゴム製のエンドシール14が全体的に歪んでしまうようなことが起こり難い。
エンドシール14が歪んでしまうと、ワイパーシール17部分でのシール性及び、異物の払拭機能が低下するだけでなく、リップ部14bでのシール性も低下してしまうが、上記筒部材19を用いれば、そのようなことがない。特に、エンドシール14内に複数枚のワイパーシール17を組み込んで、凹部底面14cとスクレーパ9との距離が長くなる場合には、上記筒部材19を設けることは有用である。なお、この発明の補強部材は筒部材に限らず、所定の長さを有する棒状部材ならよい。
【0031】
また、上記実施形態では、1つのエンドシール14内に2枚のワイパーシール17を組み込んだ例を説明しているが、エンドシール14内に組み込むワイパーシール17は、1枚でも、3枚以上でもよい。ただし、エンドシール14に組み込むワイパーシール17の枚数に応じて、エンドシール14の凹部の深さを調整し、スクレーパ9と凹部底面14cとによってワイパーシール17を挟持できるようにする必要がある。
【0032】
図6に示す第2実施形態は、エンドシール14内に、1枚の封止プレート18と1枚のワイパーシール17とを組み込み、図1に示す第1実施形態と同様のスライダ2におけるエンドキャップ2aの外側に、上記エンドシール14を2枚設け、最も外側にスクレーパ9を設けた直動案内ユニットである。
上記したように、この第2実施形態では、エンドシール14に組み込むワイパーシール17が1枚なので、第1実施形態のエンドシール14と比べて、ワイパーシール17の厚み分だけ凹部の深さを浅くするが、その他の構成は上記第1実施形態と同じである。そして、この第2実施形態において、上記第1実施形態と同様の構成要素には、同じ符号を用いて説明する。
【0033】
この第2実施形態のエンドシール14にも、スライダ2に取り付ける取付面とは反対側に、凹部底面14cを有する凹部を形成し、この凹部底面14cに接触させて、封止プレート18を組み込み、その外側にワイパーシール17を組み込んでいる。そして、エンドキャップ2aの外側に、第1のエンドシール14を直接設け、その外側に第2のエンドシール14を設け、さらに、第2のエンドシール14の外側には、スクレーパ9を設けて、これらを図示していないボルトによってスライダ2に取り付けている。この実施形態では、上記第2のエンドシール14が、この発明の最も外側に位置するエンドシールとなる。
そして、上記第2のエンドシール14と第1のエンドシール14の凹部底面14cとによって、第1のエンドシール14に組み込んだワイパーシール17及び封止プレート18を挟持し、スクレーパ9と第2のエンドシール14の凹部底面14cとによって、第2のエンドシール14に組み込んだワイパーシール17及び封止プレート18を挟持している。
【0034】
このように構成した直動案内ユニットは、2つのエンドシール14のリップ部14bと2つのワイパーシール17とを備え、上記第1実施形態よりも、さらに高いシール性を備えたものとなる。
このように、2つのエンドシール14,14と2つのワイパーシール17,17を備えているこの第2実施形態の直動案内ユニットも、図8に示す従来の直動案内ユニットのシール構造を2つ設ける場合と比べると、部品点数はもちろん、摺動方向の寸法も小さくできる。
【0035】
また、スライダ2の端部に設けるエンドシール14の枚数は、何枚でもよく、多くすればするほどシール性は高まることになる。エンドシール14を多数設ける場合にも、最も外側に位置するエンドシール14の外側にのみスクレーパ9を設け、その他のエンドシール14の外側には、直接、エンドシール14を設けて、隣り合うエンドシール14間でワイパーシール17及び封止プレート18を挟持するようにする。
このように、エンドシール14の枚数を多くすればするほど、スライダ2の摺動方向の長さは長くなるが、それでも、従来の取付板5及び組立体6を不要にすることによって、部品点数は少なくでき、摺動方向長さも小さくできる。
【0036】
なお、この第2実施形態においては図示していないが、エンドシール14に補強用のリブと貫通孔を形成し、この貫通孔に棒状の補強部材を設けるようにしている。特に、この第2実施形態では、エンドシール14を複数設けているので、シール機構の摺動方向の長さが大きくなるが、全てのエンドシール14を貫通する棒状の補強部材を設けることによって、全長を保って変形を防止できるメリットは大きい。ただし、この第2実施形態のように、エンドシール14を複数枚設けたものにおいても、棒状の補強部材は必須要素ではない。
また、第2実施形態でも、上記封止プレート18の機能及び、これを設けなくてもよいことは、上記第1実施形態と同様である。
【0037】
上記第1、第2実施形態において、エンドシール14に形成する凹部の深さは、この凹部に組み込む封止プレート18やワイパーシール17の厚みに応じて設定するが、ワイパーシール17が自然状態のときの厚みよりもやや狭くすれば、エンドシール14の凹部底面14cとスクレーパ9との間、あるいは、エンドシール14間で、ワイパーシール17が圧縮された状態で挟持されることになり、ワイパーシール17を確実に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1実施形態の直動案内ユニットの正面図である。
【図2】第1実施形態のエンドシールの平面図である。
【図3】第1実施形態のワイパーシールを組み込んだエンドシールをエンドキャップに取り付けた状態の断面図であって、図2のIII-III線に対応する位置の断面図である。
【図4】第1実施形態のワイパーシールを組み込んだエンドシールをエンドキャップに取り付けた状態の断面図であって、図2のIV-IV線に対応する位置の断面図である。
【図5】第1実施形態のワイパーシールの平面図である。
【図6】第2実施形態のシール部分の断面図である。
【図7】従来の直動案内ユニットの正面図である。
【図8】従来の直動案内ユニットの側面図である。
【図9】従来のシール部分の断面図である。
【図10】従来のワイパーシール組立体の分解斜視図である。
【図11】従来のスライダの1方の端部を示す分解図である。
【符号の説明】
【0039】
1 ガイドレール
2 スライダ
2a エンドキャップ
14 エンドシール
14b リップ部
14c 凹部底面
16 リブ
16a 貫通孔
17 ワイパーシール
18 封止プレート
19 筒部材
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械など、異物が発生しやすい環境下で用いるのに適した直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、直動案内ユニットは、工作機械のワークの位置決めなどに用いられているが、装置の小型化やコストダウンの観点から、カバーなどを設けず、ガイドレールをむき出しにして使用される機会が多くなっている。このように、ガイドレールをむき出しにした直動案内ユニットを、切りくずなどの異物が発生する環境下で使用すると、ガイドレール表面に異物が付着し、これがスライダとガイドレールの摺動面に入り込んだ場合、スライダのスムーズな移動を妨げ、故障の原因になることがあった。
そこで、スライダの外側にシール部材を設けて、上記摺動部分への異物の侵入を防止することが行なわれている。さらに、上記シール部材より外側にスクレーパを設けたり、ガイド面にオイルを供給して異物を浮かせたりして、異物の侵入を防ぐようにしているものがある。
【0003】
この種の直動案内ユニットの中で、特に、ガイド面に十分なオイルを供給できるとともに、シール部材の耐久性を向上させたものとして、本願出願人が、特願2007−319697号で提案した直動案内ユニットがある。
この従来の直動案内ユニットは、図7、図8に示すように、ガイドレール1をまたいでスライドするスライダ2を備えたものであるが、スライダ2の両端に取り付けたエンドキャップ2aの外側に、ゴム製のエンドシール4を備え、さらにその外側に、樹脂製の取付板5を介して樹脂製のワイパーシール組立体6を取り付けている。
【0004】
上記エンドシール4は、図9に示すように、芯金4aにゴムを焼き付けて形成したものであり、リップ部4bを備え、このリップ部4bの端部をガイドレール1に押し付けて、上記スライダ2とガイドレール1との隙間をシールするようにしている。
そして、このエンドシール4の外側に設けた上記取付板5は、図9に示すように、エンドシール4側で、上記リップ部4bを保護する空間10を形成する形状にしている。
【0005】
さらに、この取付板5の外側に取り付けるワイパーシール組立体6は、図9、図10に示すようにエンドシール4と反対側を底面6aとする凹部を備え、この凹部内に、オイルを含浸した2枚のワイパーシール7と金属製の封止プレート8を組み込んでいる。上記封止プレート8は、オイル含浸素材であるワイパーシール7に腰を与えて、変形し難くするための部材である。さらに、このワイパーシール組立体6の外側にはスクレーパ9を設けている。
【0006】
そして、図11に示すように、上記取付板5、上記エンドシール4及びエンドキャップ2aを、ボルト11によってスライダ2のケーシング2bに固定し、上記スクレーパ9の外側からは、別のボルト12と上記取付板5に設けたナット13とによって、スクレーパ9及びワイパーシール組立体6を上記取付板5に固定している。このように2本のボルト11,12を用いたのは、エンドキャップ2aの外側に全ての部品を取り付けたとき、その摺動方向の長さが長くなり、長い1本のボルトでは、全部品を取り付けにくいためである。
なお、図11中符号3は、エンドキャップ2aの端面に形成した凹部にはめ込まれたオイル含浸部材で、上記エンドシール4より内側で、エンドキャップ2a内に設けられた転動体などにオイルを供給するためのものである。
【0007】
このような直動案内ユニットでは、スライダ2が往復移動する際、上記スクレーパ9によってガイドレール1上の大きな異物を除去するが、このスクレーパ9をすり抜けた異物は、上記ワイパーシール7と、エンドシール4とによってスライダ2側へ入り込まないようにしている。特に、ワイパーシール7から供給されるオイルとワイパーシール7の摺動によって、異物がエンドシール4側に入り込み難くなるので、エンドシール4が異物によって破損することもなく、長期にわたって高いシール性を保つことができる。
【特許文献1】特開2007−255498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、従来の直動案内ユニットは、スライダ2のエンドキャップ2aの外側に、エンドシール4、取付板5、ワイパーシール7及び封止プレート8を組み込んだワイパーシール組立体6、スクレーパ9の順に配置している。このように、高シール性を有する上記従来の直動案内ユニットは、スライダ2の端部に取り付ける部品点数が多い。そのため、各部品の取り付けの手間がかかるとともに、スライダ2の摺動方向の寸法も大きくなり、直動案内ユニットを小型化できないという問題があった。
【0009】
この発明の目的は、スライダとガイドレールとの間の高シール性能を長期にわたって保つことができるシール構造を備えた直動案内ユニットを、部品点数を少なくして、よりコンパクトに実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、長手方向に沿ってガイド面が形成されたガイドレールと、このガイドレールにまたがって摺動するスライダと、ガイドレールにまたがってスライダの端面に取り付けられるとともにガイドレールの接触面にリップ部を一体に設けたゴム製のエンドシールと、このエンドシールの外側に設け、オイルを含浸したワイパーシールとを備えた直動案内ユニットにおいて、上記エンドシールは、スライダに取り付ける取り付け面とは反対側に凹部を形成し、上記リップ部が上記凹部の底面よりもスライダ側に位置する構成にするとともに、上記凹部にオイルを含浸したワイパーシールを組み込み、この凹部に組み込んだワイパーシールの外側にスクレーパを沿わせ、このスクレーパと上記凹部底面との間で、ワイパーシールを挟持させた点に特徴を有する。
【0011】
第2の発明は、長手方向に沿ってガイド面が形成されたガイドレールと、このガイドレールにまたがって摺動するスライダと、ガイドレールにまたがってスライダの端面に取り付けられるとともにガイドレールの接触面にリップ部を一体に設けたゴム製のエンドシールと、このエンドシールの外側に設け、オイルを含浸したワイパーシールとを備えた直動案内ユニットにおいて、上記エンドシールを複数備え、これらエンドシールは、スライダ側とは反対側面に凹部を形成し、上記リップ部が上記凹部の底面よりもスライダ側に位置する構成にするとともに、上記凹部にオイルを含浸したワイパーシールを組み込み、これらエンドシールを重ね合わせてエンドシール間でワイパーシールを挟持し、最も外側に位置するエンドシールの凹部に組み込んだワイパーシールの外側にスクレーパを沿わせ、このスクレーパと上記凹部底面との間で、ワイパーシールを挟持させた点に特徴を有する。
【0012】
第3の発明は、上記第1または第2の発明を前提とし、上記凹部底面とワイパーシールとの間に、金属製の封止プレートを介在させた点に特徴を有する。
第4の発明は、上記いずれかの発明を前提とし、上記エンドシールの凹部底面には、補強用のリブを形成するとともに、このリブの中央にはエンドシールを貫通する貫通孔を設け、この貫通孔に棒状の補強部材を貫通させた点に特徴を有する。
【0013】
第5の発明は、上記いずれかの発明を前提とし、上記ワイパーシールは、輪郭が鮮明なオープンポアを有する三次元構造の骨格組織からなるポリエステル系ポリウレタンフォームを、厚さ方向に圧縮成形したシート状部材である点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0014】
第1〜第4の発明によれば、スライダとガイドレールとの間の高シール性能を長期にわたって保つことができるシール構造を備えた直動案内ユニットの部品点数を少なくすることができるとともに、コンパクト化も可能になる。
第2の発明は、エンドシールを複数設けることによってより高いシール性を発揮させることができる。
【0015】
第3の発明によれば、ワイパーシールに腰を付与することができ、ワイパーシールの機能を安定化できる。また、ワイパーシールが折れ曲がって、エンドシールのリップ部に接触するなど、悪影響を与えることも防止できる。
第4の発明によれば、エンドシールの摺動方向の変形を抑えて、リップ部の安定したシール性を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、この発明の第1実施形態を説明する。
この第1実施形態の直動案内ユニットは、図1に示すようにガイドレール1にまたいで摺動自在に取り付けたスライダ2を備えたものであり、このガイドレール1とスライダ2とは、図7、図8に示した上記従来の直動案内ユニットと同様の構成である。そして、上記スライダ2は、上記エンドキャップ2a内で方向転換する図示していない転動体を介して、ガイドレール1のガイド面に接触するようにしている。また、上記スライダ2のエンドキャップ2aには、潤滑オイルの給油口が設けられ、そこにグリースニップル24を取り付けている。
ただし、この発明の直動案内ユニットとしては、スライダ2がガイドレール1に沿って往復移動可能であればよく、スライダ2の内部構造やレール形状などはどのようなものでもよい。
【0017】
そして、この第1実施形態では、図2、図3に示すように上記スライダ2のエンドキャップ2aの外側に、ワイパーシール17及び封止プレート18を組み込んだエンドシール14とスクレーパ9とを取り付けている。なお、上記エンドキャップ2aの外側面が、この発明のスライダの端面である。
上記ワイパーシール17、封止プレート18及びスクレーパ9は、上記従来のワイパーシール7、封止プレート8およびスクレーパ9と同様の機能を備えたものであるが、上記封止プレート18及びワイパーシール17をエンドシール14に組み込んだ点がこの第1実施形態の最大の特徴である。
そして、この第1実施形態のエンドシール14は、図2〜図4に示すように、芯金14aにゴムを焼き付けて形成した部材で、ガイドレール1をまたぐ部分に、リップ部14bを形成している。
【0018】
また、このエンドシール14をスライダ2のエンドキャップ2aに取り付けたとき、外側、すなわち上記スライダ2と反対側となる側に凹部を形成し、この凹部の底面を凹部底面14cとする。そして、図3、図4に示すように、この凹部底面14cよりも、上記リップ部4bの最も外側に位置する先端Pが、スライダ2側に位置するようにしている。すなわち、上記リップ部14b全体が、上記凹部底面14cよりもスライダ2側に位置するということである。このような位置関係を保つことによって、上記凹部底面14cに接触させて設けた封止プレート18が、リップ部14bに接触することがないようにしている(図3,4参照)。
なお、図3,図4は、上記エンドキャップ2aの外側に設けたシール部分の断面図であるが、その断面位置を図2に示している。
【0019】
上記のように、リップ部14bに上記凹部底面14cよりも外側に設けた部材が接触しないようにしたのは、以下の理由による。
上記リップ部14bは、適度に変形し、ガイドレール1のガイド面に押し付けられてシール性を保つものである。このようなリップ部14bに、上記凹部に組み込んだ封止プレート18などの部材が接触して、外力を作用させることがあると、リップ部14bのガイドレール1に対する押圧状態が変化して、シール性が損なわれる可能性がある。そのため、上記の位置関係を維持して、リップ部14bに悪影響を与えないようにしているのである。
【0020】
さらに、このエンドシール14には、上記リップ部14bと上記凹部底面14cとの間に、潤滑オイルを保持するためのオイル保持溝15を形成している。なお、このオイル保持溝15は、スライダ2をガイドレール1に取り付けたとき、リップ部14bが変形するのを許容する空間としても機能する。
また、このエンドシール14の外周付近には、複数のボルト孔20を形成するとともに、上記凹部底面14cには、位置決めピン21と、この発明の補強用のリブ16とを形成している。このリブ16には、後で説明するこの発明の棒状の補強部材を貫通させるための貫通孔16aを形成している。
【0021】
一方、図3〜図5に示すワイパーシール17は、従来のワイパーシール7と同様に、発泡樹脂からなるシート状部材であって、一対の位置決め孔17a,17a(図5参照)を備え、この位置決め孔17a,17aに、上記エンドシール14の位置決めピン21,21を挿入したとき、エンドシール14の凹部内にぴったり嵌る形状をしている。また、ワイパーシール17の外周には、上記エンドシール14のリブ16に一致する凹部17bや、ボルト孔20の周囲に形成されたリブに一致する凹部17cを形成し、これらのリブと凹部とによっても位置決めされるようにしている。
【0022】
また、エンドシール14には、封止プレート18も組み込むが、この封止プレート18は、従来の封止プレート8と同様の金属製のプレートであって、ワイパーシール17に腰を付与するためのものである。そして、特に図示していないが、この封止プレート18は、図5に示すワイパーシール17とほぼ同形である。ただし、封止プレート18は、ガイドレール1をまたぐ開口を、ワイパーシール17よりも大きくしている。そして、この封止プレート18にも、ワイパーシール17の位置決め孔17aに相当する位置決め孔を形成し、この位置決め孔をエンドシール14の上記位置決めピン21にはめることによって、図3,図4に示すように封止プレート18がガイドレール1に接触しない位置を保つようにしている。このように、封止プレート18を、ガイドレール1に接触しないようにしているのは、金属製の封止プレート18がガイドレール1上を摺動すると、ガイドレール1を傷つけてしまうからである。
【0023】
この第1実施形態では、上記のようなエンドシール14の凹部に、封止プレート18を組み込んでから、その上にワイパーシール17を2枚重ねて組み込み、その開口で、ワイパーシール17にスクレーパ9を沿わせて、スクレーパ9と上記凹部底面14cとで、上記封止プレート18及びワイパーシール17,17を挟持するようにしている。
ただし、この実施形態では、上記スクレーパ9を取り付ける前に、エンドシール14の貫通孔16aに、この発明の補強部材である樹脂製の筒部材19を貫通させる。この筒部材19は、上記貫通孔16aに挿入したとき、一端がスライダのエンドキャップ2aの端面に当接し、他端がスクレーパ9に当接する長さを有するものである。この筒部材19によって、上記エンドキャップ2aとスクレーパ9との距離を保持し、エンドシール14の変形を防止することができる。
【0024】
なお、上記スクレーパ9は、図10に示す従来のスクレーパ9と同様のもので、このスクレーパ9に形成したボルト孔9aから、エンドシール14のボルト孔20にボルト22を挿入して、このボルト22をスライダ2のエンドキャップ2aに設けたネジ孔に締め付けることによって、上記スクレーパ9、ワイパーシール17、封止プレート18及びエンドシール14をスライダ2に取り付けることができる。
【0025】
上記のように、この第1実施形態の直動案内ユニットは、エンドシール14に封止プレート18とワイパーシール17とを組み込んで、スライダ2に取り付けるようにしているので、従来のように、ワイパーシールを保持するための組立体や、エンドシールのリップ部を保護する取付板を、別部品として設ける必要がない。つまり、従来と比べて、部品点数を少なくでき、エンドキャップ2aの外側における摺動方向の長さも短くできる。従って、取り付け作業を簡単にできるとともに、ユニットの小型化も実現できる。
また、上記スライダ2の端面からスクレーパ9までの距離が短くなれば、スクレーパ9及びエンドシール14をスライダ2に固定するためのボルトも、1本で足りる。
【0026】
この第1実施形態の直動案内ユニットも、従来の直動案内ユニットと同様に、最終的にエンドシール14のリップ部14bによってスライダ2とガイドレール1との隙間のシールを保つようにし、最も外側に設けたスクレーパ9によってガイドレール1上の大まかな異物を除去するようにしている。そして、スクレーパ9をすり抜けた異物は、ワイパーシール17によって除去するとともに、ワイパーシール17から供給されるオイルによって上記リップ部14bを保護するようにしている。
【0027】
なお、上記ワイパーシール17の材質は、オイルを保持できるものならば、フェルトなどの繊維部材や、樹脂フォームなど、どのようなものでもよい。ただし、樹脂フォームの中でも、輪郭が鮮明なオープンポアを有する三次元構造の骨格組織からなるポリエステル系ポリウレタンフォームを厚さ方向に圧縮成形したシート状部材を用いれば、フェルトなどの繊維部材と比べて、特にオイルの保持能力が高く、耐摩耗性の高いワイパーシールを実現できる。
上記輪郭が鮮明なオープンポアを有する三次元構造の骨格組織からなるポリエステル系ポリウレタンフォームとは、ポリエステル系ポリウレタンフォームの発泡膜を後処理で除去して、表面に輪郭が明確な開口を形成した素材のことであり、この輪郭が鮮明なオープンポアによってオイルの保持能力を高めることができる。
また、上記ポリエステル系ポリウレタンフォームの骨格構造から、高摺動性と高耐摩耗性を実現できる。
【0028】
さらに、ポリエステル系ポリウレタンフォームを厚み方向に圧縮すれば、シート状部材の腰を強くできるので、このような素材で形成したワイパーシール17は、ガイドレール1に対する摺動を繰り返しても折れ曲がり難く、ワイパーシールとしての機能をより長く維持することができる。
その結果、上記エンドシール14のリップ部14bをより長期にわたって保護でき、良好な密封性と、スライダ2のスムーズな摺動を維持できることになる。
【0029】
さらに、上記第1実施形態では、金属製の封止プレート18をリップ部14b側に設けてワイパーシール17に腰を付与するようにしている。このように、ワイパーシール17に腰を付与するようにしたのは、ワイパーシール17の腰が弱すぎると、ガイドレール1に対する押圧力が不安定になったり、繰り返しの摺動によってワイパーシール17が折れ曲がってしまったりして、ガイドレール1上の異物を払拭できなくなってしまうことがあるからである。しかし、この封止プレート18は必須の要素ではなく、これを設けなくても、ワイパーシール17を備えた直動案内ユニットを、部品点数を少なくして実現できるメリットはある。
例えば、上記したように、ワイパーシール17を構成する樹脂フォームを厚み方向に圧縮して、ワイパーシール17の硬度を適当な値に保てば、封止プレート18を設けなくても、ワイパーシール17の腰を維持し、耐久性を上げることができる。
【0030】
さらにまた、上記第1実施形態では、補強部材として筒部材19を備え、エンドシール14の変形を防止しているが、この筒部材19はなくてもよい。ただし、上記筒部材19を設ければ、摺動抵抗などによって、リップ部14bに力が作用しても、ゴム製のエンドシール14が全体的に歪んでしまうようなことが起こり難い。
エンドシール14が歪んでしまうと、ワイパーシール17部分でのシール性及び、異物の払拭機能が低下するだけでなく、リップ部14bでのシール性も低下してしまうが、上記筒部材19を用いれば、そのようなことがない。特に、エンドシール14内に複数枚のワイパーシール17を組み込んで、凹部底面14cとスクレーパ9との距離が長くなる場合には、上記筒部材19を設けることは有用である。なお、この発明の補強部材は筒部材に限らず、所定の長さを有する棒状部材ならよい。
【0031】
また、上記実施形態では、1つのエンドシール14内に2枚のワイパーシール17を組み込んだ例を説明しているが、エンドシール14内に組み込むワイパーシール17は、1枚でも、3枚以上でもよい。ただし、エンドシール14に組み込むワイパーシール17の枚数に応じて、エンドシール14の凹部の深さを調整し、スクレーパ9と凹部底面14cとによってワイパーシール17を挟持できるようにする必要がある。
【0032】
図6に示す第2実施形態は、エンドシール14内に、1枚の封止プレート18と1枚のワイパーシール17とを組み込み、図1に示す第1実施形態と同様のスライダ2におけるエンドキャップ2aの外側に、上記エンドシール14を2枚設け、最も外側にスクレーパ9を設けた直動案内ユニットである。
上記したように、この第2実施形態では、エンドシール14に組み込むワイパーシール17が1枚なので、第1実施形態のエンドシール14と比べて、ワイパーシール17の厚み分だけ凹部の深さを浅くするが、その他の構成は上記第1実施形態と同じである。そして、この第2実施形態において、上記第1実施形態と同様の構成要素には、同じ符号を用いて説明する。
【0033】
この第2実施形態のエンドシール14にも、スライダ2に取り付ける取付面とは反対側に、凹部底面14cを有する凹部を形成し、この凹部底面14cに接触させて、封止プレート18を組み込み、その外側にワイパーシール17を組み込んでいる。そして、エンドキャップ2aの外側に、第1のエンドシール14を直接設け、その外側に第2のエンドシール14を設け、さらに、第2のエンドシール14の外側には、スクレーパ9を設けて、これらを図示していないボルトによってスライダ2に取り付けている。この実施形態では、上記第2のエンドシール14が、この発明の最も外側に位置するエンドシールとなる。
そして、上記第2のエンドシール14と第1のエンドシール14の凹部底面14cとによって、第1のエンドシール14に組み込んだワイパーシール17及び封止プレート18を挟持し、スクレーパ9と第2のエンドシール14の凹部底面14cとによって、第2のエンドシール14に組み込んだワイパーシール17及び封止プレート18を挟持している。
【0034】
このように構成した直動案内ユニットは、2つのエンドシール14のリップ部14bと2つのワイパーシール17とを備え、上記第1実施形態よりも、さらに高いシール性を備えたものとなる。
このように、2つのエンドシール14,14と2つのワイパーシール17,17を備えているこの第2実施形態の直動案内ユニットも、図8に示す従来の直動案内ユニットのシール構造を2つ設ける場合と比べると、部品点数はもちろん、摺動方向の寸法も小さくできる。
【0035】
また、スライダ2の端部に設けるエンドシール14の枚数は、何枚でもよく、多くすればするほどシール性は高まることになる。エンドシール14を多数設ける場合にも、最も外側に位置するエンドシール14の外側にのみスクレーパ9を設け、その他のエンドシール14の外側には、直接、エンドシール14を設けて、隣り合うエンドシール14間でワイパーシール17及び封止プレート18を挟持するようにする。
このように、エンドシール14の枚数を多くすればするほど、スライダ2の摺動方向の長さは長くなるが、それでも、従来の取付板5及び組立体6を不要にすることによって、部品点数は少なくでき、摺動方向長さも小さくできる。
【0036】
なお、この第2実施形態においては図示していないが、エンドシール14に補強用のリブと貫通孔を形成し、この貫通孔に棒状の補強部材を設けるようにしている。特に、この第2実施形態では、エンドシール14を複数設けているので、シール機構の摺動方向の長さが大きくなるが、全てのエンドシール14を貫通する棒状の補強部材を設けることによって、全長を保って変形を防止できるメリットは大きい。ただし、この第2実施形態のように、エンドシール14を複数枚設けたものにおいても、棒状の補強部材は必須要素ではない。
また、第2実施形態でも、上記封止プレート18の機能及び、これを設けなくてもよいことは、上記第1実施形態と同様である。
【0037】
上記第1、第2実施形態において、エンドシール14に形成する凹部の深さは、この凹部に組み込む封止プレート18やワイパーシール17の厚みに応じて設定するが、ワイパーシール17が自然状態のときの厚みよりもやや狭くすれば、エンドシール14の凹部底面14cとスクレーパ9との間、あるいは、エンドシール14間で、ワイパーシール17が圧縮された状態で挟持されることになり、ワイパーシール17を確実に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1実施形態の直動案内ユニットの正面図である。
【図2】第1実施形態のエンドシールの平面図である。
【図3】第1実施形態のワイパーシールを組み込んだエンドシールをエンドキャップに取り付けた状態の断面図であって、図2のIII-III線に対応する位置の断面図である。
【図4】第1実施形態のワイパーシールを組み込んだエンドシールをエンドキャップに取り付けた状態の断面図であって、図2のIV-IV線に対応する位置の断面図である。
【図5】第1実施形態のワイパーシールの平面図である。
【図6】第2実施形態のシール部分の断面図である。
【図7】従来の直動案内ユニットの正面図である。
【図8】従来の直動案内ユニットの側面図である。
【図9】従来のシール部分の断面図である。
【図10】従来のワイパーシール組立体の分解斜視図である。
【図11】従来のスライダの1方の端部を示す分解図である。
【符号の説明】
【0039】
1 ガイドレール
2 スライダ
2a エンドキャップ
14 エンドシール
14b リップ部
14c 凹部底面
16 リブ
16a 貫通孔
17 ワイパーシール
18 封止プレート
19 筒部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿ってガイド面が形成されたガイドレールと、このガイドレールにまたがって摺動するスライダと、ガイドレールにまたがってスライダの端面に取り付けられるとともにガイドレールの接触面にリップ部を一体に設けたゴム製のエンドシールと、このエンドシールの外側に設け、オイルを含浸したワイパーシールとを備えた直動案内ユニットにおいて、上記エンドシールは、スライダに取り付ける取り付け面とは反対側に凹部を形成し、上記リップ部が上記凹部の底面よりもスライダ側に位置する構成にするとともに、上記凹部にオイルを含浸したワイパーシールを組み込み、この凹部に組み込んだワイパーシールの外側にスクレーパを沿わせ、このスクレーパと上記凹部底面との間で、ワイパーシールを挟持させた直動案内ユニット。
【請求項2】
長手方向に沿ってガイド面が形成されたガイドレールと、このガイドレールにまたがって摺動するスライダと、ガイドレールにまたがってスライダの端面に取り付けられるとともにガイドレールの接触面にリップ部を一体に設けたゴム製のエンドシールと、このエンドシールの外側に設け、オイルを含浸したワイパーシールとを備えた直動案内ユニットにおいて、上記エンドシールを複数備え、これらエンドシールは、スライダ側とは反対側面に凹部を形成し、上記リップ部が上記凹部の底面よりもスライダ側に位置する構成にするとともに、上記凹部にオイルを含浸したワイパーシールを組み込み、これらエンドシールを重ね合わせてエンドシール間でワイパーシールを挟持し、最も外側に位置するエンドシールの凹部に組み込んだワイパーシールの外側にスクレーパを沿わせ、このスクレーパと上記凹部底面との間で、ワイパーシールを挟持させた直動案内ユニット。
【請求項3】
上記凹部底面とワイパーシールとの間に、金属製の封止プレートを介在させた請求項1または2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】
上記エンドシールの凹部底面には、補強用のリブを形成するとともに、このリブの中央にはエンドシールを貫通する貫通孔を設け、この貫通孔に棒状の補強部材を貫通させた請求項1〜3のいずれか1に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】
上記ワイパーシールは、輪郭が鮮明なオープンポアを有する三次元構造の骨格組織からなるポリエステル系ポリウレタンフォームを、厚さ方向に圧縮成形したシート状部材である請求項1〜4のいずれか1に記載の直動案内ユニット。
【請求項1】
長手方向に沿ってガイド面が形成されたガイドレールと、このガイドレールにまたがって摺動するスライダと、ガイドレールにまたがってスライダの端面に取り付けられるとともにガイドレールの接触面にリップ部を一体に設けたゴム製のエンドシールと、このエンドシールの外側に設け、オイルを含浸したワイパーシールとを備えた直動案内ユニットにおいて、上記エンドシールは、スライダに取り付ける取り付け面とは反対側に凹部を形成し、上記リップ部が上記凹部の底面よりもスライダ側に位置する構成にするとともに、上記凹部にオイルを含浸したワイパーシールを組み込み、この凹部に組み込んだワイパーシールの外側にスクレーパを沿わせ、このスクレーパと上記凹部底面との間で、ワイパーシールを挟持させた直動案内ユニット。
【請求項2】
長手方向に沿ってガイド面が形成されたガイドレールと、このガイドレールにまたがって摺動するスライダと、ガイドレールにまたがってスライダの端面に取り付けられるとともにガイドレールの接触面にリップ部を一体に設けたゴム製のエンドシールと、このエンドシールの外側に設け、オイルを含浸したワイパーシールとを備えた直動案内ユニットにおいて、上記エンドシールを複数備え、これらエンドシールは、スライダ側とは反対側面に凹部を形成し、上記リップ部が上記凹部の底面よりもスライダ側に位置する構成にするとともに、上記凹部にオイルを含浸したワイパーシールを組み込み、これらエンドシールを重ね合わせてエンドシール間でワイパーシールを挟持し、最も外側に位置するエンドシールの凹部に組み込んだワイパーシールの外側にスクレーパを沿わせ、このスクレーパと上記凹部底面との間で、ワイパーシールを挟持させた直動案内ユニット。
【請求項3】
上記凹部底面とワイパーシールとの間に、金属製の封止プレートを介在させた請求項1または2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】
上記エンドシールの凹部底面には、補強用のリブを形成するとともに、このリブの中央にはエンドシールを貫通する貫通孔を設け、この貫通孔に棒状の補強部材を貫通させた請求項1〜3のいずれか1に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】
上記ワイパーシールは、輪郭が鮮明なオープンポアを有する三次元構造の骨格組織からなるポリエステル系ポリウレタンフォームを、厚さ方向に圧縮成形したシート状部材である請求項1〜4のいずれか1に記載の直動案内ユニット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−236192(P2009−236192A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81553(P2008−81553)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】
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