説明

直接メタノール型燃料電池

【課題】 高電流密度領域での円滑な電流利用を阻害することなく、十分に電池出力を確保することができ、燃料電池として長時間の安定性を確保することができる直接メタノール型燃料電池の提供。
【解決手段】 本発明に係る直接メタノール型燃料電池は、アノード触媒層20と、アノードGDL層70との間に設けられた第1燃料調整層40、第2燃料調整層50、第3燃料調整層60とを備え、第3燃料調整層60は第2燃料調整層50より小さな細孔を有し、第1燃料調整層40は第2燃料調整層50より小さな細孔を有し、第3燃料調整層60よりも大きなな細孔を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、特に、燃料に液体メタノールを使用した直接メタノール型燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電池内で水素やメタノール等の燃料を電気化学的に酸化させることにより、燃料の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換して取り出すものであり、火力発電のように燃料の燃焼によるNOxやSOxなどの発生が無いため、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。
【0003】
このような燃料電池では、電池出力の向上を図るために、燃料を供給する要求と発生した反応物を移動させる要求とをバランスさせるための構造が必要とされている。例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン等の撥水性材料含有層を燃料極又は酸素極内に設ける技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、ガス拡散電極における、ガス透気度と保湿性とを両立させる構造を備えた固体高分子電解質膜形燃料電池が開示されている(例えば、特許文献2)。特に、直接メタノール型燃料電池(DMFC)は、水素を燃料とするガス燃料用固体高分子燃料電池(PEMFC)などの他の燃料電池に比べ、小型化、軽量化が可能であり、最近では、ノートパソコンや携帯電話などの電源として、様々な研究がなされている。
【0005】
DMFCの基本反応は、以下のとおりである。
【0006】
アノード極:CHOH+HO → CO+6H++6e (式1)
カソード極:(3/2)O+6H++6e → 3HO (式2)
式1に示す通り、アノード極で必要となるのはメタノールと水分子である。例えば白金とルテニウムを主とする合金触媒によって、各1分子のメタノールと水分子から1分子の二酸化炭素を廃棄物とし、6個のプロトンと6個の電子が生成される。電子は外部電気回路を経由させることにより電力出力として利用される。
【0007】
また、式2に示す通り、カソード極で必要となるのは酸素、プロトン、および電子である。6個の電子はプロトン伝導性電解質膜を経由してきた6個のプロトンおよび3/2分子の酸素とカソード極で反応し、3分子の水を廃棄物として生成する。
【0008】
従来のDMFCのアノード極には、疎水性のフッ素化ポリマーと炭素粉末とを混合したスラリーを被覆した被覆炭素ペーパーが用いられている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2001−283875号公報
【特許文献2】特開2005−174607号公報
【特許文献3】特表2005−514747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のDMFCでは、現実には式1では示されない水の消費が燃料中から起こる。例えば、プロトンの移動やアノード極からカソード極への水の拡散である。
【0010】
このように燃料電池では、電池出力の向上を図るために、燃料を供給する要求と発生した反応物を移動させる要求とをバランスさせるための構造が必要とされており、例えば、特許文献1、2に開示されている撥水性材料含有層は、反応ガスの触媒層への供給、生成ガスの排出、特に、カソード電極に蓄積する水の排出を制御する機能を果たす。
【0011】
しかしながら、このような従来の構造では、水の透過量抑制が不十分であり、カソード電極に蓄積する水の排出が不十分であるため、カソードへの酸素の供給が滞り、燃料電池を長時間安定に稼動させることが困難であった。
【0012】
そこで、本発明は、高電流密度領域での円滑な電流利用を阻害することなく、燃料電池として長時間安定に稼動させることが可能な直接メタノール型燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る直接メタノール型燃料電池は、電解質膜と、電解質膜の一方の面に設けられたアノード触媒層と、電解質膜の他方の面に設けられたカソード触媒層と、アノード触媒層の電解質膜が設けられた面に対向する面に設けられ、撥水性及び導電性を有する第1燃料調整層と、第1燃料調整層のアノード触媒層が設けられた面に対向する面に設けられ、撥水性及び導電性を有する第2燃料調整層と、第2燃料調整層の第1燃料調整層が設けられた面に対向する面に設けられ、撥水性及び導電性を有する第3燃料調整層と、第3燃料調整層の第2燃料調整層が設けられた面に対向する面に設けられ、撥水性及び導電性を有するアノードGDL層と、を備え、第3燃料調整層は第2燃料調整層より小さな細孔を有し、第1燃料調整層は第2燃料調整層より小さな細孔を有し、第3燃料調整層よりも大きな細孔を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アノード極からカソード極への水の拡散を抑制することにより、カソードの水の澱みを防止し、カソードへの酸素の供給を阻害することなく、十分に電池出力を確保することができ、燃料電池として長時間の安定性を確保することができる直接メタノール型燃料電池が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。以下の図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付し、重複する記載は省略する。また、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものと異なる。更に、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0016】
最初に、直接メタノール型燃料電池(DMFC)について説明する。直接メタノール型燃料電池の膜電極複合体(燃料電池起電部)は、アノード集電体、アノード触媒層、プロトン伝導性膜、カソード触媒層及びカソード集電体がこの順番で順次積層されたものである。集電体は多孔質導電性材料であり、触媒層へ液体燃料或いは酸化剤ガスを供給する役割もあるため、拡散層とも呼ばれている(以下、拡散層という)。
【0017】
触媒層は、例えば、触媒活性物質と導電性物質とプロトン伝導性物質とを含有する多孔質層から構成される。例えば、触媒層が導電性物質を担持体とした担持触媒の場合、触媒層は、担持触媒とプロトン伝導性物質とを含む多孔質層で構成されている。
【0018】
また、拡散層と触媒層とを総称して電極とも呼び、アノード拡散層とアノード触媒層とで燃料極、カソード拡散層とカソード触媒層とで酸化剤極(酸素極)とも呼ばれる(以下、燃料極、酸化剤極という)。
【0019】
アノード触媒層にメタノールおよび水からなる混合燃料が、カソード触媒層に空気(酸素)が供給されると、それぞれの電極内の触媒層において化学式(1)及び化学式(2)で示す触媒反応が生じる。そのため、触媒層は反応層とも呼ばれている。
【0020】
燃料極:CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- ・・・(1)
酸化剤極:6H++(3/2)O2+6e- → 3H2O ・・・(2)
アノードでは、メタノールと水が反応して、二酸化炭素、プロトンおよび電子が生成される。プロトンは、電解質膜を通ってカソードに到達する。カソードでは、酸素と、プロトンと、外部回路を経由してカソードに到達した電子とが結合して、水が生成される。
【0021】
DMFCでは、液体燃料貯蔵部から燃料極の触媒層にメタノールと水を液体(メタノール水溶液)の状態で供給することにより、触媒上でプロトン(H)、電子(e)、および二酸化炭素が生成され(反応式:CHOH+HO→CO+6H++6e-)、プロトンは高分子固体電解質膜中を透過して酸化剤極の触媒層で酸素と化合して水を生成する。この際、燃料極、酸化剤極を外部回路に接続することで、発生した電子により電力を取り出せる。生成した水は空気極から系外へ放出される。一方、燃料極で発生した二酸化炭素は、液体燃料を直接セルに供給する場合には燃料液相中を拡散し、ガスのみを透過するガス透過膜を介して燃料電池の系外へ排出される。
【0022】
このような燃料電池において、優れた電池特性を得るためには、それぞれの電極に、スムーズに適量な燃料が供給されること、触媒活性物質とプロトン伝導性物質と燃料との三相界面で電極触媒反応が素早く多く発生すること、電子とプロトンとをスムーズに移動させること、反応生成物を素早く排出することが求められる。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。以下の図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付し、重複する記載は省略する。また、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものと異なる。更に、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0024】
図1は、本実施形態に係るDMFCのセルの断面図を示す。
【0025】
本実施形態に係るDMFCは、図1に示すように、電解質膜10と、電解質膜10のアノード電極100側の面に設けられたアノード触媒層20と、電解質膜10のカソード電極200側の面に設けられたカソード触媒層30とを備える。
【0026】
電解質膜10は、例えば、縦40mm横50mm程度に切断された市販のパーフルオロカーボンスルホン酸膜(例えばDupont社 Nafion112 登録商標)を、過酸化水素および硫酸による公知の方法(G.Q. Lu, et al Electrochimica Acta 49(2004)821〜828)を用いて、前処理を行うことで形成することができる。
【0027】
アノード触媒層20は、主に、メタノールおよび水のプロトン、電子および二酸化炭素への反応を促進するために用いられ、例えば、Johnson&Matthey社製のPt/Ru合金触媒(Pt/RuBlackHiSPEC6000)と、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液(Dupont社製Nafion溶液 Aldrich SE−29992 Nafion重量5wt%)を、混合分散し、PTFEシートに塗布し形成したものを用いる事ができる。乾燥後のアノード触媒層20中のPt/Ruの塗布量(以後「Loading量」と呼ぶ)は、例えば約6mg/cmとする。
【0028】
カソード触媒層30は、主に、プロトン、電子および酸素の水への反応を促進するために用いられ、例えば、E−TEK社製のPt/C触媒(HP40wt%PtonVulcanXC−72R)と、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液(Dupont社製Nafion溶液 Aldich SE−20092、Nafion重量5wt%)を、混合分散し、PTFEシートに塗布し形成したものを用いることができる。乾燥後のカソード触媒層30中のPtのLoading量は、約2.6mg/cmとする。
【0029】
PTFEシート上に形成されたアノード触媒層20およびカソード触媒層30を、PTFEシートに載せられたまま縦30mm横40mmの大きさに切り分けた後、アノード触媒層20およびカソード触媒層30を電解質膜10に押し当て、125℃にて、10kg/cmで約3分間熱圧着することにより、電解質膜10にアノード触媒層20及びカソード触媒層30を形成することができる(以下、電解質膜10、アノード触媒層20及びカソード触媒層30の積層体をCCM25(Catalyst Coated Membrane)という)。
【0030】
なお、上記方法を用いてPTFEシートを取り外すことで得られたCCM25は、アノード触媒層20およびカソード触媒層30部分の厚みが約90μmとなる。うち、アノード触媒層20の厚みは約30μmであり、カソード触媒層30の厚みは約30μmである。
【0031】
CCM25のアノード触媒層20側には、アノードGDL層70(アノード電極側多孔質ガス拡散層)が設けられている。アノード触媒層20とアノードGDL層70との間には、燃料調整層150が設けられている。
【0032】
CCM25のカソード触媒層30側には、カソードGDL層90(カソード電極側多孔
質ガス拡散層)が設けられている。カソード触媒層30とカソードGDL層90との間に
は、カソードMPL層80(カソード電極側緻密撥水層)が設けられている。
【0033】
アノードGDL層70の燃料調整層150が設けられた面に対向する面には、アノードGDL層70に液体燃料(メタノール)を供給する図示しない燃料供給手段が設けられている。また、カソードGDL層90のカソードMPL層80が設けられた面に対向する面には、カソードGDL層70に酸化剤ガス(空気)を供給する図示しない酸化剤ガス供給手段が設けられている。
【0034】
アノードGDL層70は、例えば東レ社製カーボンペーパーTGPH−090に対し、約30wt%のPTFEにより撥水処理が施されたE−TEK社製TGPH−090,30wt%.Wetproofedを用いる事ができる。
【0035】
カソードMPL層80及びカソードGDL層90は、カソードGDL層90上にカソードMPL層80が設けられたMPL層付きカソードGDL層(例えばE−TEK社製Elat GDL LT−2500−W(厚さ約360μm))を好適に用いる事ができる。
【0036】
燃料調整層150は、アノード触媒層20の電解質膜10が設けられた面に対向する面に設けられた第1燃料調整層40と、第1燃料調整層40のアノード触媒層20が設けられた面に対向する面に設けられた第2燃料調整層50と、第2燃料調整層50の第1燃料調整層40が設けられた面に対向する面に設けられた第3燃料調整層60と、を備える。
【0037】
第1燃料調整層40は、撥水性材料と導電性材料とを基材とした多孔質基材で構成されている。ここでいう撥水性材料は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)などが挙げられる。また、導電性材料は、導電性カーボンが好適に用いられる。導電性カーボンとしては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、黒鉛化ブラックなどが挙げられる。アノード中間層12を構成する導電性カーボンのDBP吸油量の範囲は、例えば、130〜250ml/100gである。
【0038】
第2燃料調整層50は、繊維55が含有された多孔質基材に撥水性材料と導電性材料とを充填した構成を備えている。ここでいう繊維55は、導電性及び耐食性を有するカーボン繊維が好適に用いられるが、カーボン繊維に限定されない。撥水性材料及び導電性材料は、第1燃料調整層40と同様な材料が用いられる。
【0039】
第3燃料調整層60は、撥水性材料と導電性材料とを基材とした多孔質基材で構成されている。導電性材料及び撥水性材料は、第1燃料調整層40と同様な材料が用いられる。
燃料調整層150の作製方法について説明する。
【0040】
まず始めに、第2燃料調整層50を作製する。最初のスラリーの調整については、例えばCABOT社製カーボン粉末(VULCAN XC−72R)とPTFE 60wt%エマルジョン(ALDRICH Polytetrafluoroethylene,60wt% dispersion in water)がPTFEの重量が全体の約50%となるように混合分散されたスラリーを調整(低い粘度の状態のスラリー)する。
【0041】
次にこのスラリーを用い、例えば東レ製カーボンペーパーTGPH−030(厚さ約100μm)を基材として準備する。なお、この基材は必ずしも撥水処理は必要としない。
【0042】
上記した基材に対して、調整したスラリーを加圧式スプレー法を用いて、両面に吹きつけ充填する。この際、基材に吹きつけられた箇所が少なくとも数秒、理想的には10秒前後乾燥せず、濡れた状態を保つように吹きつける。この加圧式スプレー法は、例えばIwata社製の簡易スプレーガン(EclipseHP−CS)を用いる事ができる。塗布は、吹き付け面が湿らぬようにアノードGDL層25を例えば50℃以上に加熱保持しておくことが好ましい。
【0043】
カーボンペーパーを含めた厚さが約100μmとなるまで吹きつけ充填する。
【0044】
次に第3燃料調整層60を作製する。
【0045】
粘度の調整を行っていないスラリー(低い粘度の状態のスラリー)を、簡易スプレーガンを用い、基材に対して吹きつける点では、加圧式スプレー法を用いた塗布と同様である。しかしながら、吹きつけ充填は、基材に吹きつけられた箇所が少なくとも数秒、理想的には10秒前後乾燥せず、濡れた状態を保つように吹きつける点で異なる。例えばカーボンペーパーを約50℃を維持する様に制御することにより、前述の通り濡れた状態を保つように吹きつけることができ細孔径の制御が可能となる。
【0046】
そして上述の様に、カーボンペーパーを含めた厚さが約160μmとなるまで吹きつけ充填する。
【0047】
最後に第1燃料調整層40を作製する。
【0048】
ここで、吹きつけ充填とは、第3の燃料調整層60の作製実施の形態において説明した加圧式スプレー法を用いた塗布と以下の点で異なる。
【0049】
粘度の調整を行っていないスラリー(低い粘度の状態のスラリー)を、簡易スプレーガンを用い、基材に対して吹きつける点では、加圧式スプレー法を用いた塗布と同様である。しかしながら、吹きつけ充填は、基材に吹きつけられた箇所が少なくとも数秒、理想的には、乾いた状態を保つように噴霧状で吹きつける点で異なる。例えばカーボンペーパーを約65℃を維持する様に制御することにより、前述の通り乾いた状態を保つように吹きつけることができ細孔径の制御が可能となる。
【0050】
上述の様に、カーボンペーパーを含めた厚さが約220μmとなるまで吹きつけ、第2燃料調整層50表面に形成する。
【0051】
本実施の形態におけるアノードMPL層断面の電子顕微鏡写真の一例を図2に示す。図2では、約100μm厚みのカーボンペーパーにスラリーが充填され、更に100μmのスラリーが付加されていることが分かる。
【0052】
第1燃料調整層40内の細孔径は、例えば、0.1〜1μmであり、第2燃料調整層50内の細孔径は、例えば、1〜10μmであり、第3燃料調整層60の細孔径は例えば、0.01〜0.1μmである。細孔径は、水銀圧入法により測定することができる。
【0053】
また、第1から第3燃料調整層の合計の厚みは、例えば、100〜300μmの範囲で構成されている。
【0054】
第3燃料調整層60は、前述したように、第3燃料調整層60内に含まれる細孔の径が、他の調整層と比べて小程度に疎密に形成されている。このため、第3燃料調整層60は、アノードGDL層70に供給された液体燃料の量を抑制して第2燃料調整層50に供給する。第2燃料調整層50は、前述したように、第2燃料調整層50内に含まれる細孔の径が他の調整層と比較して大きく形成されている。このため、第2燃料調整層50は、第3燃料調整層60で量が抑制されて通過した液体燃料をアノード電極の全体に均一になるように拡散させて第1燃料調整層40に供給する。第1燃料調整層40は、前述したように、第1燃料調整層40内に含まれる細孔の径が他の調整層と比べて中程度に形成されている。このため、第1燃料調整層40は、第2燃料調整層50でアノード電極の全体に均一になるように拡散された液体燃料をアノード触媒層20に均一に供給する。
【0055】
以上のように、本実施形態に係るDMFCでは、アノードGDL層とアノード触媒層との間に上述したような細孔径の分布を有する燃料調整層を新たに設けることで、高電流密度領域での円滑な電流利用を阻害することなく、十分に電池出力を確保することができ、燃料電池として長時間の安定性を確保することができる。
【0056】
(実施例1)
本実施形態で説明した構成を備えたDMFCの発電試験を行った。実際作製したDMFCの断面図を図2に示す。また、図3は、実施例1に係るアノード電極の燃料調整層における細孔分布、図4は、カソード電極を構成しているガス拡散層(MPL付きGDL)の細孔分布をそれぞれ示している。図3及び図4の横軸は、各層内の細孔径、縦軸は、その積算容積および微分細孔容積である。図3及び図4中、Pore Size Diameterは細孔径を、Cumulative Intrusion(mL/g)は積算容積を、Log Differential Intrusion(mL/g)は微分細孔容積を示す。
【0057】
図3から、各燃料調整層の細孔分布は細孔径0.15μm付近にピークを示す第一燃料調整層、細孔径4.5μm付近にピークを示す第二燃料調整層、細孔径0.06μm付近にピークを示す第三燃料調整層であることがわかる。
【0058】
図4から、カソードガス拡散層の細孔分布は細孔径0.05μm付近にピークを示すMPLと細孔径25μm付近にピークを示すGDLであることがわかる。
【0059】
図示しない燃料供給手段を用いてアノードGDL層に対して、濃度1.2M、燃料供給量を0.7cc/minの燃料(メタノール水溶液燃料)を供給した。更に、図示しない酸化剤供給手段を用いてカソードGDL層から、酸素濃度20.5%、湿度30%、空気供給量60cc/minの空気(酸化剤)を供給し、長時間(最大20時間)燃料電池を稼動させて出力電圧の電池特性を評価した。この際、図示しない温度調節器により燃料供給手段および酸化剤供給手段に設けられた図示しない温度センサで測定される温度を60℃とし、空気および燃料の予備加熱は行わなかった。
【0060】
以上の運転条件により実施された時の電流電圧特性の結果図を図5に示す。
【0061】
図5では発電運転開始初期は0.15A/cmにおける出力電圧は0.42V前後であるが、発電後20時間経過した後でも出力電圧は約0.42Vであり、20時間の可動においても電池出力の安定性を保つことができることが確認された。
【0062】
(比較例1)
本実施形態で説明した構成のうち、燃料調整層150を設けないで、その他は、実施例1と同様な構成でDMFCを作製し、実施例1と空気供給量は1.5倍にする以外は同様な運転条件により長時間燃料電池を稼動させて出力電圧の電池特性を評価した。空気供給量を大きくした理由は、燃料調整層150を設けていないため、カソードに水が澱みやすくなるため、電圧を維持するのが困難であったためである。
【0063】
以上の運転条件により実施された時の電流電圧特性の結果を図6に示す。
【0064】
図6では発電運転開始初期は0.15A/cmにおける出力電圧は0.40V前後であるが、発電後20時間経過した時点で出力電圧が0.343V前後に低下してしまった。
【0065】
(比較例2)
本実施形態で説明した構成のうち、アノード拡散層とアノード触媒層との間に本願でいう第1燃料調整層40、第2燃料調整層50、第3燃料調整層60を有し、第1燃料調整層40及び第3燃料調整層60は、第2燃料調整層より細孔が小さく、細孔径が同等である場合以外は、実施例1と同様な構成でDMFCを作製し、実施例1と同様な運転条件により長時間燃料電池を稼動させて出力電圧の電池特性を評価した。
【0066】
以上の運転条件により実施された時の電流電圧特性の結果図を図7に示す。
【0067】
図7では発電運転開始初期は0.15A/cmにおける出力電圧は0.43V前後であるが、発電後20時間経過した時点で出力電圧が0.425V前後に低下しまうとともに、高電流側での電圧低下が著しいことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本実施形態に係る直接メタノール型燃料電池のセルの断面図
【図2】実際作製した直接メタノール型燃料電池の断面図
【図3】実施例1に係るアノード電極の燃料調整層における細孔径分布
【図4】カソード電極の細孔径分布
【図5】実施例1における電流電圧特性の結果図
【図6】比較例1における電流電圧特性の結果図
【図7】比較例2における電流電圧特性の結果図
【符号の説明】
【0069】
10 電解質層
20 アノード触媒層
25 CCM(Catalyst Coated Membrane)
30 カソード触媒層
40 第1燃料調整層
50 第2燃料調整層
60 第3燃料調整層
70 アノードGDL層
80 カソードMPL層
90 カソードGDL層
100 アノード電極
150 燃料調整層
200 カソード電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に設けられたアノード触媒層と、
前記電解質膜の他方の面に設けられたカソード触媒層と、
前記アノード触媒層の前記電解質膜が設けられた面に対向する面に設けられ、撥水性及び導電性を有する第1燃料調整層と、
前記第1燃料調整層の前記アノード触媒層が設けられた面に対向する面に設けられ、撥水性及び導電性を有する第2燃料調整層と、
前記第2燃料調整層の前記第1燃料調整層が設けられた面に対向する面に設けられ、撥水性及び導電性を有する第3燃料調整層と、
前記第3燃料調整層の前記第2燃料調整層が設けられた面に対向する面に設けられ、撥水性及び導電性を有するアノードGDL層と、を備え、
前記第3燃料調整層は前記第2燃料調整層より小さな細孔を有し、前記第1燃料調整層は前記第2燃料調整層より小さな細孔を有し、前記第3燃料調整層よりも大きな細孔を有していることを特徴とする直接メタノール型燃料電池。
【請求項2】
前記第2燃料調整層は、導電性及び耐食性を有する繊維が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の直接メタノール型燃料電池。
【請求項3】
前記第1から第3燃料調整層の合計の厚みは90〜300μmで構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の直接メタノール型燃料電池。
【請求項4】
前記第2燃料調整層の細孔径は、1〜10μmで形成され、前記第3燃料調整層の細孔径は、0.01〜0.1μmで形成され、前記第1燃料調整層の細孔径は、0.1〜1μmで形成されていることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池。
【請求項5】
前記カソード触媒層の前記電解質膜が設けられた面に対向する面に設けられ、撥水性及び導電性を有するカソードMPL層と、
前記カソードMPL層の前記カソード触媒層が設けられた面に対向する面に設けられ、撥水性及び導電性を有するカソードGDL層と、を備えることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の直接メタノール型燃料電池。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−243732(P2008−243732A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85767(P2007−85767)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】