説明

直接通電加熱方法

【課題】例えばホットプレス加工に際し、直接電流を流すことによりメッキ鋼鈑を加熱する直接通電加熱方法において、溶融したメッキが偏る不具合を解消する。
【解決手段】直接電流を流すことによりメッキ鋼鈑1を加熱する直接通電加熱方法において、メッキ鋼鈑1の電流が流れる方向に延びる側縁11に対して絶縁間隙2を挟んで延びる側縁31を有する補助通電板3を前記メッキ鋼鈑1と同一平面内に並べ、メッキ鋼鈑1及び補助通電板3に同位相の電流を通電することを特徴とする直接通電加熱方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばホットプレス加工に際し、直接電流を流すことによりメッキ鋼鈑を加熱する直接通電加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばホットプレス加工に際するメッキ鋼鈑の加熱方法の一つに、前記メッキ鋼鈑に直接電流を流す直接通電加熱方法(抵抗加熱方法とも呼ばれる)がある。直接通電加熱方法は、電流を流すメッキ鋼鈑の電気抵抗に比例して発熱することを利用して前記メッキ鋼鈑を加熱する方法であり、電力を無駄なく熱に変換して利用できるほか、短時間にメッキ鋼鈑を焼き入れ温度にまで昇温できる利点がある。メッキ鋼鈑に流す電流は、直流又は交流いずれでも構わないが、一般に商用電力がそのまま利用されるため、交流が通例である。交流を用いる場合、メッキ鋼鈑が厚いと表皮効果による電気抵抗の増加が見込めるので、より効率的にメッキ鋼鈑を加熱できる。
【0003】
ホットプレス加工するメッキ鋼鈑は、メッキ鋼鈑を焼き入れするまで昇温するのでメッキが一時的に溶融し、偏ってしまう問題が知られている。例えば平面視長方形のメッキ鋼鈑の延在方向に電流を流した場合、溶融したメッキが幅方向中央に偏って山盛りとなり、逆に側縁近傍のメッキが薄くなってしまう。メッキは、加熱されたメッキ鋼鈑の表面にスケール(酸化皮膜)が発生することを防止ししたり、ホットプレス加工後の防錆皮膜として働くことが期待されるが、メッキの偏りが生ずると、スケールの発生を防止できなくなったり、ホットプレス加工後の防錆性能が期待できなくなる。
【0004】
特許文献1は、通電による磁界の影響(フレミングの左手の法則による引力)により溶融したメッキが移動して偏る(特許文献1・[0007])ことから、メッキが厚い場合に電流密度を小さくし、逆にメッキが薄い場合に電流密度を大きくして、メッキの偏りを防止するホットプレス成形方法を提案している。具体的には、メッキの厚みと電流密度とを特定の関係(特許文献1・式(1))に対応づけ、メッキの膜厚に応じて決定される電流密度以下の電流を流す。特許文献1が開示するホットプレス加工方法は、メッキの厚みと電流密度とを特定の関係から、メッキの厚みは最大22μmである(特許文献1・[0009])。また、メッキの厚みが十分に小さいと、メッキと鋼板とが速やかに合金化され、メッキの偏りが効果的に防止されるとしている(特許文献1・[0014])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-070800公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
メッキ鋼鈑に施されたメッキは、上述の通り、加熱されて表面にスケール(酸化皮膜)が発生することを防止したり、ホットプレス加工後の防錆皮膜として働くことが期待され、厳密な膜厚管理は必要がない。むしろ、前記働きを十分にするには、メッキの膜厚が大きい程好ましい。また、メッキは、膜厚管理が容易であるものの、形成される膜厚が比較的薄い電気メッキ法より、膜厚管理が難しいが、比較的厚く、安価である溶融メッキ法を利用する方が、製造コストを低減できることから好ましい。これから、メッキ鋼鈑に施されるメッキは厚い程好ましいことになるが、この場合、特許文献1が開示するホットプレス成形方法は利用し難くなる。
【0007】
直接通電における磁界の影響を仔細に検討したところ、メッキの偏りは、メッキ鋼鈑の周囲に発生する磁界の一部のみの影響であることが判明した。延在方向に直接通電したメッキ鋼鈑に発生する磁界は、メッキ鋼鈑の幅方向断面をぐるりと囲むように発生する磁束により形成される。メッキ鋼鈑の表面及び裏面と平行に発生する磁束は、前記表面及び裏面に向けて押さえつけるローレンツ力を溶融したメッキに働かせるので、溶融したメッキを移動させることがない。すなわち、メッキ鋼鈑の表面及び裏面と平行に発生する磁束は、メッキの偏りに大きく影響しない。
【0008】
しかし、メッキ鋼鈑の側縁を巻き込んで上向き又は下向きに発生する磁束(例えば右側縁側に上向きの磁束が発生すれば、左側縁側に下向きの磁束が発生する)は、メッキ鋼鈑の幅方向中心に向けて移動させるローレンツ力を溶融したメッキに働かせる。前記ローレンツ力は、メッキ鋼鈑の側縁から遠ざかるに連れて弱くなるが、側縁にある溶融したメッキがメッキ鋼鈑の幅方向中心に向けて移動しようとして、溶融したメッキがメッキ鋼鈑の幅方向中心寄りに向けて順次押していくような格好となり、全体としてメッキ鋼鈑の幅方向中心にメッキが偏ってしまう。
【0009】
ここで、直接通電する電流が交流であると、メッキ鋼鈑の側縁を巻き込んで発生する磁束は、方向が短時間に入れ替わることから、磁束の向きによっては、溶融したメッキをメッキ鋼鈑の幅方向中心から遠ざける方向にも押すようにも見える。しかし、ローレンツ力は、メッキ鋼鈑の側縁から遠ざかるに連れて弱くなることから、メッキ鋼鈑の幅方向中心に向けたローレンツ力は逆向きのローレンツ力より常に大きくなり、結果として溶融したメッキはメッキ鋼鈑の幅方向中心に向けて移動する。
【0010】
これから、メッキ鋼鈑の側縁を巻き込んで上向き(又は下向き)に発生する磁束を弱める、少なくとも前記磁束に起因するローレンツ力を小さくできると、メッキの偏りが防止できることが理解される。そこで、例えばホットプレス加工に際し、直接電流を流すことによりメッキ鋼鈑を加熱する直接通電加熱方法において、溶融したメッキが偏る不具合を解消できるように、メッキ鋼鈑の側縁を巻き込んで上向き(又は下向き)に発生する磁束に起因するローレンツ力を小さくする直接通電加熱方法を開発するため、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
検討の結果開発したものが、直接電流を流すことによりメッキ鋼鈑を加熱する直接通電加熱方法において、メッキ鋼鈑の電流が流れる方向に延びる側縁(以下、メッキ鋼鈑の側縁)に対して絶縁間隙を挟んで延びる側縁を有する補助通電板を前記メッキ鋼鈑と同一平面内に並べ、メッキ鋼鈑及び補助通電板に同位相の電流を通電することを特徴とする直接通電加熱方法である。メッキ鋼鈑の電流が流れる方向に延びる側縁は、前記電流を流す方向を挟んで一対あるから、補助通電板は前記側縁に対してそれぞれ1枚、計2枚が用いられる。
【0012】
本発明の直接通電加熱方法は、同一平面内に並べたメッキ鋼鈑及び補助通電板に同位相の電流を通電し、メッキ鋼鈑及び補助通電板それぞれの幅方向断面をぐるりと囲むように同じ向きの磁束を発生させて、メッキ鋼鈑の側縁を巻き込んで上向き(又は下向き)に発生する磁束と、前記メッキ鋼鈑の側縁に対向する位置関係にある補助通電板の側縁を巻き込んで下向き(又は上向き)に発生する磁束とを打ち消し合わせ、メッキ鋼鈑の側縁を巻き込んで発生する磁束を弱める。
【0013】
メッキ鋼鈑及び補助通電板に流す電流は、直流又は交流を問わない。同位相の電流とは、直流や、同じ周波数で位相差のない交流を意味する。メッキ鋼鈑及び補助通電板に流す電流が交流である場合、メッキ鋼鈑の側縁を巻き込んで発生する磁束や、前記メッキ鋼鈑の側縁に対向する位置関係にある補助通電板の側縁を巻き込んで発生する磁束は、向きを変化させるため、同じ周波数で位相差をなくすることで、常に打ち消し合うことができる。
【0014】
「メッキ鋼鈑の電流が流れる方向に延びる側縁」とは、流す電流に平行なメッキ鋼鈑の側縁を意味し、通常、延在方向(長手方向)に電流を流すので、前記延在方向の側縁となる。ホットプレス加工におけるメッキ鋼鈑は、直接通電により加熱し、焼き入れすることが目的となるから、昇温速度が延在方向で一様になる必要がある。これから、ホットプレス加工におけるメッキ鋼鈑、延在方向における電気抵抗が一様になるように、同幅で延在する平面視長方形であることが通例であり、左右一対に形成される「メッキ鋼鈑の電流が流れる方向に延びる側縁」は平行になる。
【0015】
補助通電板がメッキ鋼鈑の「側縁に対して絶縁間隙を挟んで延びる側縁を有する」とは、メッキ鋼鈑の側縁に対向する側にある補助通電板の側縁がメッキ鋼鈑の側縁と平行であることを意味する。絶縁間隙は、メッキ鋼鈑と補助通電板との間で絶縁破壊を招かない大きさの隔たりを意味し、最も簡易には空隙であが、メッキ鋼鈑及び補助通電板の側縁間に絶縁板を挟んで構成してもよい。メッキ鋼鈑の側縁から遠い側にある補助通電板の側縁は、電流が流れる方向の電流密度を同じにし、補助通電板の幅方向断面をぐるりと囲む磁束を延在方向に一様にするため、メッキ鋼鈑の側縁に平行として、補助通電板の断面積を一定にすることが好ましい。
【0016】
メッキ鋼鈑と補助通電板とを「同一平面内に並べ」るとは、メッキ鋼鈑及び補助通電板それぞれの平面を平行かつ面一に揃え、上述した側縁同士を対向させる位置関係で並べることを意味する。この場合、メッキ鋼鈑の側縁を巻き込んで発生する磁束と、前記メッキ鋼鈑の側縁に対向する位置関係にある補助通電板の側縁を巻き込んで発生する磁束とを打ち消し合わせることができれば、メッキ鋼鈑に対して補助通電板が平行に上下又は左右に若干ずれたり、斜めになったりしても構わない。
【0017】
具体的な補助通電板は、プレス成形されたメッキ鋼鈑の端材部分や、別のメッキ鋼鈑を挙げることができる。プレス成形されたメッキ鋼鈑の端材部分を補助通電板とした場合、メッキ鋼鈑の電流が流れる方向に延びる側縁に対してスリットを設けて絶縁間隙を形成し、延在方向両端をメッキ鋼鈑と繋げて前記メッキ鋼鈑と共用の電極接続板にするとよい。共用の電極接続板を設けることにより、メッキ鋼鈑と補助通電板とに同位相の電流を流しやすくなる。
【0018】
また、別のメッキ鋼鈑を補助通電板とした場合、電流を流す方向に延びる側縁間に絶縁間隙を残して複数のメッキ鋼鈑を同一平面内に並べる。これは、電流を流す方向に直交して、複数のメッキ鋼鈑を並べて一度に直接通電する直接通電加熱方法であり、一度に多くのメッキ鋼鈑を加熱する場合に好適である。並べたメッキ鋼鈑のうち、両端に位置するメッキ鋼鈑の隣り合うメッキ鋼鈑がない側の側縁に対しては、別体の補助通電板を配置したり、前記側縁についてのみ端材部分を残して補助通電板にするとよい。
【0019】
直接電流を流すことによりメッキ鋼鈑を加熱する直接通電加熱方法において、メッキ鋼鈑の電流が流れる方向に延びる側縁に沿って延びる側縁を有する補助通電板を、前記メッキ鋼鈑の平面と絶縁間隙を挟んで対向する平行平面内に並べ、メッキ鋼鈑及び補助通電板に逆位相の電流を通電することを特徴とする直接通電加熱方法も、本発明の技術的特徴である磁束の打ち消し合いを利用して、メッキ鋼鈑の側縁を巻き込んで発生する磁束を弱めることができる。
【0020】
メッキ鋼鈑及び補助通電板それぞれの平面を対向させる上記直接通電加熱方法は、平行平面それぞれに並べたメッキ鋼鈑及び補助通電板に逆位相の電流を通電し、メッキ鋼鈑及び補助通電板それぞれの幅方向断面をぐるりと囲むように逆向きの磁束を発生させて、例えば上段のメッキ鋼鈑の側縁を巻き込んで上向き(又は下向き)に発生する磁束と、前記側縁と上下に対向する下段の補助通電板の側縁を巻き込んで下向き(又は上向き)に発生する磁束とを打ち消し合わせ、上段のメッキ鋼鈑の側縁を巻き込んで発生する磁束を弱める。
【0021】
平行平面それぞれに並べたメッキ鋼鈑及び補助通電板は、例えば上下に分かれた上段及び下段の平行平面それぞれと面一に並べ、メッキ鋼鈑及び補助通電板それぞれの側縁を水平方向に揃える。メッキ鋼鈑及び補助通電板それぞれの側縁を水平方向に揃えるには、メッキ鋼鈑と補助通電板とを平面視同形状にするとよい。これから、上記直接通電加熱方法は、補助通電板を別のメッキ鋼鈑として、メッキ鋼鈑の電流が流れる方向に延びる側縁を、メッキ鋼鈑同士を対向させる方向に直交する方向に一致して揃え、絶縁間隙を挟んで対向する平行平面内それぞれにメッキ鋼鈑を並べてもよい。この場合、一度の加熱処理で、2枚のメッキ鋼鈑を同時に加熱できることになる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、例えばホットプレス加工に際し、直接電流を流すことによりメッキ鋼鈑を加熱する直接通電加熱方法において、メッキ鋼鈑の側縁を巻き込んで発生する磁束を、補助通電板の側縁を巻き込んで発生する磁束で打ち消し合うことにより弱め、メッキ鋼鈑の側縁を巻き込んで発生する磁束に起因するローレンツ力を小さくして、溶融したメッキが偏る不具合を解消する効果を有する。また、本発明は、メッキの膜厚に関係がなく前記効果を得ることができ、例えば特許文献1の発明と併用することもできる。
【0023】
本発明を利用するには、従来の直接通電加熱方法に比べて、別途補助通電板が必要になる。しかし、補助通電板の追加は、直接通電加熱においてそれほど大きな労力及びコストの増加をもたらさない。また、例えば補助通電板をプレス成形されたメッキ鋼鈑の端材部分としたり、別のメッキ鋼鈑とすることにより、補助通電板を簡易に追加できる。特に、補助通電板を別のメッキ鋼鈑とすれば、メッキの偏りを生じさせることなく、多数のメッキ鋼鈑を一度に加熱できる利点が得られる。
【0024】
メッキ鋼鈑と補助通電板とをそれぞれ平行平面内に並べ、逆位相の電流を通電する直接通電加熱方法は、メッキ鋼鈑及び補助通電板を平面の直交方向に重ねていくことになり、本発明を利用した直接通電加熱装置の設置面積を抑制できる効果を有する。また、補助通電板を別のメッキ鋼鈑にすれば、処理効率を向上させることができる。更に、例えばメッキ鋼鈑と補助通電板又は別のメッキ鋼鈑とを交互に重ねていく構成にすれば、一度に加熱処理できるメッキ鋼鈑の数が増え、更に処理効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】メッキ鋼鈑と補助通電板とを同一平面内に並べた本発明の直接通電加熱方法の一例を表す斜視図である。
【図2】図1中A−A断面図である。
【図3】側縁と平行に延びる端材を補助通電板とした本発明の直接通電加熱方法の一例を表す斜視図である。
【図4】別のメッキ鋼鈑を補助通電板とした本発明の直接通電加熱方法の一例を表す斜視図である。
【図5】メッキ鋼鈑と補助通電板又は別のメッキ鋼鈑とをそれぞれ平行平面内に並べた本発明の直接通電加熱方法の一例を表す斜視図である。
【図6】図5中B−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。本発明による直接通電加熱方法は、図1に見られるように、例えば長手方向に長尺である平面視長方形のメッキ鋼鈑1と、長さがメッキ鋼鈑1と同じで幅がメッキ鋼鈑1より狭い平面視長方形の補助通電板3,3とを、メッキ鋼鈑1を短手方向に挟む位置関係で、それぞれの側縁11,31の間に絶縁間隙2を設けて同一平面内で並べ、メッキ鋼鈑1及び補助通電板3の長手方向両端部を一体に挟んだ電極4,4により、メッキ鋼鈑1及び補助通電板3の長手方向にそれぞれ同位相の電流Iを通電する。
【0027】
本発明は、図2に見られるように、同一平面内に並べたメッキ鋼鈑1及び補助通電板3に同位相の電流Iを通電し、メッキ鋼鈑1及び補助通電板3それぞれの短手方向(幅方向)断面をぐるりと囲むように、同じ向きの磁束Bを発生させ、メッキ鋼鈑1の側縁11を巻き込んで下向きに発生する磁束B(図2中下向きの太矢印)と、補助通電板3の側縁31を巻き込んで上向きに発生する磁束B(図2中上向きの太矢印)とを打ち消し合わせ、メッキ鋼鈑1の側縁11を巻き込んで発生する磁束Bを弱めて、前記側縁11から短手方向中央に向けて働くローレンツ力Fを弱める。図示を省略するが、メッキ鋼鈑1の反対側の側縁11でも同様な磁束Bの打ち消しが生じている。
【0028】
図2中、フレミング左手の法則を表す矢印群は、下向きの破線矢印が打ち消し合う前のメッキ鋼鈑1の側縁11に発生する磁束Bを、下向きの実線矢印が打ち消し合った後のメッキ鋼鈑1の側縁11に働く磁束Bをそれぞれ表し、また左向きの破線白抜き矢印が、磁束Bが打ち消し合う前にメッキ鋼鈑1の側縁11付近に働くローレンツ力Fを、左向きの実線白抜き矢印が、磁束Bが打ち消し合った後にメッキ鋼鈑1の側縁11付近に働くローレンツ力Fをそれぞれ表している。前記矢印群から理解されるように、メッキ鋼鈑1の側縁11付近に働くローレンツ力Fが弱められるので、前記ローレンツ力Fにより溶融したメッキが偏る事態が抑制又は防止できる。
【0029】
本発明の直接通電加熱方法は、上述した補助通電板3(図1参照)に代えて、図3に見られるように、プレス成形されたメッキ鋼鈑1の端材部分12を利用することもできる。この場合、長手方向に長尺である平面視長方形のメッキ鋼鈑1と、長さがメッキ鋼鈑1と同じで幅がメッキ鋼鈑1より狭い平面視長方形の端材部分12,12とが、それぞれの側縁11,121の間に絶縁間隙2を設けて同一平面内で並び、長手方向両端に形成された電極接続板122により繋がった状態にあり、前記電極接続板122を挟んだ電極4,4により、メッキ鋼鈑1及び端材部分12の長手方向にそれぞれ同位相の電流Iを通電する。直接通電加熱が例えばホットプレス加工を目的としていた場合、ホットプレス加工後、端材部分12及び電極接続板122を切除する。
【0030】
また、上述した補助通電板3(図1参照)に代えて、図4に見られるように、別のメッキ鋼鈑1を利用することもできる。この場合、例えば同形である複数のメッキ鋼鈑1を、それぞれの側縁11,11間に絶縁間隙2を設けて同一平面内で並べ、すべてのメッキ鋼鈑1の長手方向両端部を一体に挟んだ電極4,4により、メッキ鋼鈑1の長手方向にそれぞれ同位相の電流Iを通電する。これにより、隣り合うメッキ鋼鈑1,1相互が相手方に対して補助通電板3(図1参照)と同じ役割を果たす。ここで、両端に位置するメッキ鋼鈑1の隣り合うメッキ鋼鈑1がない側の側縁11に対して、上述同様、補助通電板3を配置している。両端に位置するメッキ鋼鈑1の隣り合うメッキ鋼鈑1がない側の側縁11についてのみ端材部分を残してもよい(図示略)。
【0031】
本発明による直接通電加熱方法は、図5に見られるように、例えば長手方向に長尺である平面視長方形のメッキ鋼鈑1と、平面視形状が前記メッキ鋼鈑1と同じである別のメッキ鋼鈑1とを、対向する平面間に絶縁間隙2を設けてそれぞれ平行平面内に並べ、メッキ鋼鈑1,1の長手方向両端部を一体に挟んだ電極4,4により、メッキ鋼鈑1,1の長手方向にそれぞれ同位相の電流Iを通電する態様でもよい。絶縁間隙2は、メッキ鋼鈑1,1の間に介装される絶縁板5により、安定して維持される。別のメッキ鋼鈑1に代えて、平面視形状がメッキ鋼鈑1と同じである補助通電板3を用いてもよい(図5中、符号を括弧書きしている)。
【0032】
メッキ鋼鈑1,1を平行平面内に並べた場合、図6に見られるように、前記メッキ鋼鈑1,1に逆位相の電流Iを通電し、メッキ鋼鈑1,1それぞれの短手方向(幅方向)断面をぐるりと囲むように、同じ向きの磁束Bを発生させ、上段のメッキ鋼鈑1の側縁11を巻き込んで上向きに発生する磁束B(図6中上向きの太矢印)と、下段のメッキ鋼板1の側縁11を巻き込んで下向きに発生する磁束B(図6中下向きの太矢印)とを打ち消し合わせ、各メッキ鋼鈑1の側縁11を巻き込んで発生する磁束Bを弱めて、前記側縁11から短手方向中央に向けて働くローレンツ力Fを弱める。図示を省略するが、メッキ鋼鈑1の反対側の側縁11でも同様な磁束Bの打ち消しが生じている。
【0033】
図6中、フレミング左手の法則を表す矢印群は、上向き又は下向きの破線矢印が打ち消し合う前のメッキ鋼鈑1の側縁11に発生する磁束Bを、上向き又は下向きの実線矢印が打ち消し合った後のメッキ鋼鈑1の側縁11に働く磁束Bをそれぞれ表し、また左向きの破線白抜き矢印が、磁束Bが打ち消し合う前にメッキ鋼鈑1の側縁11付近に働くローレンツ力Fを、左向きの実線白抜き矢印が、磁束Bが打ち消し合った後にメッキ鋼鈑1の側縁11付近に働くローレンツ力Fをそれぞれ表している。上段のメッキ鋼鈑1と下段のメッキ鋼鈑1とでは、電流Iの流れる向きが逆になるため、発生する磁束Bの方向も逆になり、ローレンツ力Fのみが同じ向きを向くことになる。
【符号の説明】
【0034】
1 メッキ鋼鈑
11 メッキ鋼鈑の側縁
12 端材部分
121 端材の側縁
122 電極接続板
2 絶縁間隙
3 補助通電板
31 補助通電板の側縁
4 電極
5 絶縁板
I 電流
B 磁束
F ローレンツ力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接電流を流すことによりメッキ鋼鈑を加熱する直接通電加熱方法において、
メッキ鋼鈑の電流が流れる方向に延びる側縁に対して絶縁間隙を挟んで延びる側縁を有する補助通電板を前記メッキ鋼鈑と同一平面内に並べ、メッキ鋼鈑及び補助通電板に同位相の電流を通電することを特徴とする直接通電加熱方法。
【請求項2】
補助通電板は、成形されたメッキ鋼鈑の端材部分であり、メッキ鋼鈑の電流が流れる方向に延びる側縁に対してスリットを設けて絶縁間隙を形成し、延在方向両端をメッキ鋼鈑と繋げて前記メッキ鋼鈑と共用の電極接続板にする請求項1記載の直接通電加熱方法。
【請求項3】
補助通電板は、別のメッキ鋼鈑であり、電流が流れる方向に延びる側縁間に絶縁間隙を残して複数のメッキ鋼鈑を同一平面内に並べる請求項1記載の直接通電加熱方法。
【請求項4】
直接電流を流すことによりメッキ鋼鈑を加熱する直接通電加熱方法において、
メッキ鋼鈑の電流が流れる方向に延びる側縁に沿って延びる側縁を有する補助通電板を、前記メッキ鋼鈑の平面と絶縁間隙を挟んで対向する平行平面内に並べ、メッキ鋼鈑及び補助通電板に逆位相の電流を通電することを特徴とする直接通電加熱方法。
【請求項5】
補助通電板は、別のメッキ鋼鈑であり、メッキ鋼鈑の電流が流れる方向に延びる側縁を、メッキ鋼鈑同士を対向させる方向に直交する方向に一致して揃え、絶縁間隙を挟んで対向する平行平面内それぞれにメッキ鋼鈑を並べる請求項4記載の直接通電加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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