説明

直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜、その製造方法及びこれを含む直接酸化型燃料電池システム

【課題】 本発明によって、電気化学的特性、熱安定性、寸法安定性及び機械的特性が優れており、炭化水素燃料のクロスオーバーを減少させることができる直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜を提供する。
【解決手段】 本発明は、直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜、その製造方法及びそれを含む直接酸化型燃料電池システムに関し、前記高分子電解質膜は、複数個の気孔を有する多孔性高分子支持体、及び前記高分子支持体に存在する陽イオン交換樹脂及びこの陽イオン交換樹脂内に分散された無機添加物を含む炭化水素燃料拡散防止層を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜、その製造方法及びこれを含む直接酸化型燃料電池システムに関し、より詳しくは薄膜状態でも炭化水素燃料の電解質膜透過が抑制されて、高出力密度を示す電池を提供できる直接酸化型燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、メタノール、エタノール、天然ガスのような炭化水素系の物質内に含まれている水素と酸化剤の化学反応エネルギーを直接電気エネルギーに変換させる発電システムである。
【0003】
燃料電池システムの代表的な例としては、高分子電解質型燃料電池(PEMFC)、直接酸化型燃料電池がある。前記直接酸化型燃料電池の燃料としてメタノールを使用する場合は、直接メタノール燃料電池(DMFC)がある。
【0004】
前記高分子電解質型燃料電池は、化石エネルギーを代替することができる環境に優しいエネルギー源であり、出力密度及びエネルギー転換効率が高くて、常温で作動が可能で、小型化及び密閉化できるため、無公害自動車、家庭用発電システム、移動通信装備の携帯用電源、軍事用装備などの分野に幅広く使用することが可能である。
【0005】
前記高分子電解質型燃料電池は、エネルギー密度が大きい長所を有するが、水素ガスの取扱いに注意を要し、高燃料ガスの水素を生産するために、メタンやメタノール及び天然ガスなどを改質するための燃料改質装置などの設備を要する問題点がある。
【0006】
これに反し、直接酸化型燃料電池は、高分子電解質型燃料電池に比べて、エネルギー密度は低いが、燃料の取扱いが容易で運転温度が低いため、特に燃料改質装置を要しない特徴があるため、小型及び汎用移動用電源に適したシステムとして認められている。
【0007】
このような燃料電池において、電気を実質的に発生させるスタックは、膜−電極接合体(MEA)とセパレータ(または二極式プレート(Bipolar Plate))で構成される単位セルが数個乃至数十に積層された構造を有する。前記膜−電極接合体は、水素イオン伝導性高分子を含む高分子電解質膜を間に置いて、アノード電極(「燃料極」または「酸化電極」ともいう)と、カソード電極(「空気極」または「還元電極」ともいう)が接着された構造を有する。
【0008】
前記高分子電解質膜としては、伝導性、機械的物性及び耐薬品性が優れたペルフルオロスルホン酸樹脂(デュポン社の商品名:Nafion)で製造されたペルフルオロスルホン酸樹脂膜が主に用いられている。前記ペルフルオロスルホン酸樹脂膜の厚さが厚くなるほど、寸法安定性及び機械的物性は向上するが樹脂膜のイオン伝導を妨げる膜抵抗が増加し、逆に厚さが減少すると、樹脂膜の抵抗は低くなるが、機械的物性が低下し、電池作動中に未反応燃料の気体及び液体が高分子膜を通過して燃料の損失が発生して、電池性能を低下させる問題(クロスオーバーという)がある。
【0009】
特に、白金触媒電極と熱圧着された状態で、温度と水和程度とによって、高分子電解質膜は15乃至30%の膜の厚さ変化と体積変化を伴い、3乃至50重量%のメタノール燃料によっては、最大200%以上の体積変化が発生する。このような電解質膜の膨潤による厚さ増加は、電極基材である気体拡散層に過度の応力を生じさせる他、面方向の寸法変化が、燃料電池の長期運転時に触媒粒子と電解質膜界面の物理的劣化を誘発する。
【0010】
このような問題点を解決するために、多孔性ポリテトラフルオロエチレン薄膜支持体にペルフルオロスルホン酸(perfluoro sulfonic acid)などの樹脂溶液を塗布・乾燥させて、支持体の気孔(細孔)に充填する方法が米国特許第5,547,551号及び第5,599,614号に記述されている。このように製造された膜は、ポリテトラフルオロエチレン支持体の作用によって、厚さを25μm程度に薄膜化しても機械的特性と寸法安定性が非常に優れているので、薄膜化が可能である。しかし、この強化複合膜を、メタノールを燃料として使用する直接酸化型燃料電池の高分子電解質膜として適用する場合には、薄膜を通して高い割合でメタノールクロスオーバーが発生するため、メタノール燃料電池への無制限な使用は問題があると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,547,551号明細書
【特許文献2】米国特許第5,599,614号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の第1目的は、電気化学的特性、熱安定性、寸法安定性及び機械的特性が優れており、炭化水素燃料のクロスオーバーを減少させることができる直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜を提供することである。
【0013】
本発明の第2目的は、前記直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜の製造方法を提供することである。
【0014】
本発明の第3目的は、前記高分子電解質膜を含む膜−電極接合体を提供することである。
【0015】
本発明の第4目的は、前記膜−電極接合体を含む直接酸化型燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は前記第1目的を達成するために、複数個の気孔を有する多孔性高分子支持体及びこの高分子支持体に形成され、陽イオン交換樹脂及びこの陽イオン交換樹脂内に分散された無機添加物を含む炭化水素燃料拡散防止層を含む直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜を提供する。
【0017】
前記無機添加物は、前記陽イオン交換樹脂内にナノメートル級の薄膜として剥離されて存在するのが好ましい。
【0018】
前記無機添加物としては、シリカ、アルミナ、ゼオライト、バリウムチタネート、セラミック、無機シリケート、ジルコニウムハイドロジェンホスフェート、α−Zr(Oa1PCHa2OH)(Ob1PCb2b4SOb5H)・nHO(ここで、a1、a2、a、b1、b2、b4、b5及びbは、同一または互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、ν−Zr(POa1)(Ha2POa3(HOb1PCb2b3SOb4H)・nHO(ここで、a1、a2、a3、a、b1、b2、b3、b4及びbは、同一または、互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、Zr(Oa1PCa2a3(ここで、a1、a2、a3、a及びbは、同一または、互いに独立的に0乃至14の整数である)、Zr(Oa1PCHa2OH)・nHO(ここで、a1、a2、a及びbは同一、または互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、α−Zr(Oa1PCa2a3SOa4H)・nHO(ここで、a1、a2、a3、a4及びaは、同一または、互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、α−Zr(Oa1POH)・HO(ここで、a1は0乃至14の整数である)、(P(ZrO(ここで、a及びbは、同一または、互いに独立的に0乃至14の整数である)ガラス及びP−ZrO−SiOガラスで構成される群より選択される一つまたは一つ以上の混合物が好ましく、無機シリケートが最も好ましい。
【0019】
前記シリケートとしては、板状層状構造を有する滑石(pyrophylite−talc)、モンモリロナイト(montmorillonite:MMT)、フルオロヘクトライト(fluorohectorite)、カオリナイト(kaolinite)、バーミキュライト(苦土ひる石:vermiculite)、イライト(illite)、雲母(mica)、または脆雲母(brittle mica)が好ましい。前記シリケートは、前記陽イオン交換樹脂内にナノメートル級の薄膜として分散されて、分散されたこの板状シリケートに高分子鎖がインターカレーション形式に浸透して、シリケートを薄く剥離させるのが好ましい。
【0020】
前記無機シリケートの層状粒子は、長軸長さに対して厚さが小さく、1/30乃至1/1000の縦横比を有することが好ましく、前記無機シリケートの長軸長さは0.05乃至0.5μmが好ましい。無機シリケートが陽イオン交換樹脂内で剥離されている場合、シリケート層間距離は最少3nmが好ましい。
【0021】
シリケート層間距離は、高分子鎖がシリケート板状層間に浸透されて、層と層の間が剥離される時の層間距離を示し、最少3nmであり、高分子鎖が順次に浸透して層と層の間が段々広くなるうちに、シリケート層などが無定形状に分散され、層と層の間の距離として定義するには適切でないため、その間の距離を測定することができない。従って、層間距離は最少3nmであれば十分であり、最大値は意味がない。
【0022】
また、前記高分子電解質膜の厚さは、5乃至100μmであるのが好ましい。
【0023】
同時に、前記高分子支持体の厚さは、10乃至15μmであるのが好ましく、前記炭化水素燃料拡散防止層は2乃至10μm厚さが好ましい。
【0024】
本発明は前記の第2目的を達成するために、側鎖に陽イオン交換基を有する陽イオン交換樹脂を第1有機溶媒に溶解して製造された陽イオン交換樹脂液と、固形状または液状の無機添加物を混合して混合溶液を得る段階、及び前記混合溶液を多孔性高分子支持体にコーティングして、高分子膜を製膜する段階を含む高分子電解質膜の製造方法を提供する。
【0025】
本発明の好ましい実施例によると、前記第1有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、テトラメチルウレア、トリメチルホスフェート、ブチロラクトン、イソホロン、カルビトールアセテート、メチルイソブチルケトン、N−ブチルアセテート、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、エチルアセトアセテート、グリコールエーテル、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、またはこれらの混合物であることが好ましい。
【0026】
また、前記混合溶液内の無機添加物の混合比は、前記陽イオン交換樹脂液100重量部を基準に0.5乃至10重量部であるのが好ましい。
【0027】
本発明は前記の第3目的を達成するため、前記本発明による高分子電解質膜を利用して製造された燃料電池用膜−電極接合体を提供する。
【0028】
本発明は前記の第4目的を達成するため、前記膜−電極接合体を含む燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0029】
本発明による直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜は、陽イオン交換樹脂と無機添加物の混合溶液を多孔性高分子支持体の気孔に浸透させて製造される。これにより、多孔性支持体の気孔を閉塞させることが効果的にでき、縦横比が高い層状構造のシリケート添加物が高分子電解質膜内に剥離分散されているため、液体及び気体状態の炭化水素燃料の拡散距離を増加させることができ、炭化水素燃料に対する遮断特性が優れており、多孔性支持体を使用した従来の強化複合膜に比べて、薄膜状態でも直接酸化型燃料電池への適用が可能になる。
【0030】
また、従来の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜の厚さ130乃至180μmに比べて、約1/5程度に膜の厚さを減少させても総メタノール透過量が同一またはそれ以下に維持されるため、電解質膜の厚さを減少させることによって、伝導性を向上させることができる高出力電池を提供することができる。
【0031】
また、寸法安定性の強化によって、電極/電解質界面の耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1のAは、本発明による高分子電解質膜の断面図である。図1のBは、本発明で使用された無機シリケートの構造を示した図である。 図1のCは、本発明による膜−電極アセンブリの断面図である。
【図2】本発明の直接酸化型燃料電池システムの構造を概略的に示した概略図である。
【図3】本発明の実施例1によって製造された高分子電解質膜にAlマッピングしたSEM写真である。
【図4】比較例1によって製造された高分子電解質膜にAlマッピングしたSEM写真である。
【図5】本発明の実施例1及び比較例1と3によって製造された高分子電解質膜の体積変化率がメタノール濃度変化により、変化する様子を示したグラフである。
【図6】本発明の実施例1によって製造された高分子電解質膜の断面モルフォロジを示した図面である。
【図7】比較例1によって製造された高分子電解質膜の断面モルフォロジを示した図面である。
【図8】本発明の実施例1によって製造された燃料電池の出力密度を示したグラフである。
【図9】本発明の実施例1と比較例3によって製造された燃料電池の出力安定性を示したグラフである。
【図10】本発明の実施例2によって製造された高分子電解質膜の透過電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0034】
本発明は直接酸化型燃料電池の高分子電解質膜に関し、本発明の高分子電解質膜14は、図1のAに図示されているように、複数個の気孔を有する多孔性高分子支持体10及びこの多孔性高分子支持体に形成された炭化水素燃料拡散防止層12を含む。この炭化水素燃料拡散防止層は、陽イオン交換樹脂とこの陽イオン交換樹脂内に分散されている無機添加物を含む。本発明の燃料とは、気体または液体状態の炭化水素燃料を意味し、その代表的な例としてメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールまたは天然ガスがある。
【0035】
このような構成を有する本発明の高分子電解質膜は、5乃至100μm、さらに好ましくは、5乃至50μmの厚さに形成しても、前記支持体によって、水分による膨潤及び乾燥時の収縮などに対する高分子電解質膜の寸法安定性が向上して、安定な電極/電解質界面物性が維持されるため、電池の寿命を向上させることができる。
【0036】
従って、通常、膜抵抗が増加する問題点があるにもかかわらず、直接酸化型燃料電池では、厚さが130乃至180μm程度に厚いペルフルオロスルホン酸膜のみを使用した問題を解決することができる。
【0037】
また、高分子電解質膜の厚さを縮小させることができるため、膜抵抗を減少させることができ、燃料電池システムの全体サイズを減少させることができ、燃料電池を携帯電話などのような小型携帯電子機器に適用することもできる。
【0038】
従来無機添加剤を高分子電解質膜に使用する技術に関しては、韓国特許公開第2004−51287号、第2003−45234号及び第2004−47240号に開示されている。
【0039】
しかし、これら特許には、全て多孔性高分子支持体を使用しない高分子電解質膜で、多孔性高分子支持体を使用しない場合、本発明のように約30μm程度の薄膜にすると、機械的強度が弱過ぎ、水素透過はよくなるが、メタノールのような炭化水素燃料のクロスオーバーが過度に発生する問題がある。従って、前記特許からは当該分野に従事する者にも本願発明の効果を予測したり、本願発明の効果を得ることは非常に難しいことであった。
【0040】
前記多孔性高分子支持体としては、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリビニリデンフルオライド(polyvinylidenefluoride)、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)、ポリイミド(polyimide)、ポリベンズオキサゾール(polybenzoxazole)またはポリベンズイミダゾール(polybenzimidazole)の中で選択されるホモポリマーまたはこれらのコポリマーを使用することができる。好ましい陽イオン交換樹脂がフルオロ系の樹脂であるため、これに合せて高分子支持体と陽イオン交換樹脂の界面接合力を向上させるためには、ポリテトラフルオロエチレンまたはポリビニリデンフルオライドのホモポリマーまたはコポリマーが好ましく、ポリテトラフルオロエチレンのホモポリマーが最も好ましい。
【0041】
陽イオン交換樹脂としては、側鎖にスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基及び、これらの誘導体で構成される群より選択される陽イオン交換基を有する高分子樹脂は全て使用することができる。
【0042】
陽イオン交換樹脂の代表的な例としては、フルオロ系高分子、ベンズイミダゾール系高分子、ポリイミド系高分子、ポリエーテルイミド系高分子、ポリフェニレンスルフィド系高分子、ポリスルホン系高分子、ポリエーテルスルホン系高分子、ポリエーテルケトン系高分子、ポリエーテル−エーテルケトン系高分子またはポリフェニルキノキサリン系高分子の中から選択される1種以上の水素イオン伝導性高分子があって、フルオロ系高分子、ポリベンズイミダゾール系高分子またはポリスルホン系高分子が好ましい。
【0043】
フルオロ系高分子の例としては、下記化学式1のポリ(ペルフルオロスルホン酸)(商品名:Nafion(E.I.Dupont de Nemours社)、Aciplex(旭化成社)、Flemion(旭硝子社)及びFumion(ドイツ:Fumatech社)などとして販売されている。また、下記の化学式2のフルオロカーボンビニルエーテル、または下記の化学式3のフルオロ化ビニルエーテルを使用することができる。
【0044】
さらに、米国特許第4,330,654号、第4,358,545号、第4,417,969号、第4,610,762号、第4,433,082号及び第5,094,995号、第5,596,676号及び第4,940,525号に記載されたポリマーを使用することができる。
【化1】

【0045】
(化学式1で、Xは、H、Li、Na、K、Cs、テトラブチルアンモニウムまたはNRであり、R、R、R及びRは、独立的にH、CHまたはCであり、mは1以上、nは2以上、xは約5乃至3.5、そしてyは1、000以上である。)
【化2】

【0046】
(化学式2で、Rfはフッ素またはC1乃至C10のペルフルオロアルキル基であり、Yはフッ素またはトリフルオロメチル基であり、nは1乃至3の整数であり、Mはフッ素、ヒドロキシル基、アミノ基及び−OMe(Meはアルカリ金属または4級アンモニウム基)で構成される群より選択される。)
【化3】

【0047】
(化学式3で、kは0または1であり、lは3乃至5の整数である)
化学式1で表される構造を持つポリ(ペルフルオロスルホン酸)(商品名:Nafion)は、鎖末端のスルホン酸基が水和される場合、ミセル形態の構造を有するが、これは水素イオン移動のための通路を提供し、典型的な水溶液酸と同じ作用をする。本発明で陽イオン交換樹脂にペルフルオロスルホン酸(商品名:Nafion)を使用する場合、側鎖末端のイオン交換基(−SOX)で、Xを水素、ナトリウム、カリウム、セシウムなどの一価イオンまたはテトラブチルアンモニウムで置換することができる。
【0048】
または、ベンズイミダゾール系高分子、ポリイミド系高分子、ポリエーテルイミド系高分子、ポリフェニレンスルフィド系高分子、ポリスルホン系高分子、ポリエーテルスルホン系高分子、ポリエーテルケトン系高分子、ポリエーテル−エーテルケトン系高分子またはポリフェニルキノキサリン系高分子の具体的な例としては、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリスルホン、ポリスルホン誘導体、スルホン化されたポリ(エーテルエーテルケトン)(sulfonated−poly(ether−etherketone:略称s-PEEK))、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリホスファゼンなどを使用することができる。
【0049】
また、ポリエチレン、ポリプロピレン、フルオロエチレンポリマー、エチレン/テトラフルオロエチレン(ethylene/tetrafluoroethylene)ポリマーにポリスチレンスルホン酸高分子がグラフト重合された形態の電解質膜を使用することもできる。
【0050】
陽イオン交換樹脂は、当量重量に応じて水素イオンの伝導度を調節することができる。
【0051】
一方、「イオン交換樹脂のイオン交換比」は、高分子主鎖の炭素及び陽イオン交換基の数によって定義されるが、本発明ではイオン交換比が3乃至33のイオン交換樹脂が好ましい。これは約700乃至2,000の当量重量(EW)に相当する。
【0052】
当量重量値は、1当量の塩基(NaOH)を中和させるため要求される酸性高分子の重量と定義されて、もし当量重量が過度に大きい場合には、前記抵抗が、その分増加する反面、小さい場合には機械的性質が低下するので、適切な範囲で調節することが好ましい。
【0053】
前記無機添加物は、機械的強度の増加と、メタノールのような炭化水素燃料のクロスオーバー減少の役割を果たし、その代表的な例としては、シリカ(特にfumed silicaが好ましく、商品名としてはAerosil、Cab−O−silなどがある)、アルミナ、雲母、ゼオライト(商品名としてSAPO−5、XSM−5、AIPO−5、VPI−5、MCM−41などがある)、バリウムチタネート、セラミック、無機シリケート、ジルコニウムハイドロジェンホスフェート、α−Zr(Oa1PCHa2OH)(Ob1PCb2b4SOb5H)・nHO(ここで、a1、a2、a、b1、b2、b4、b5及びbは、同一または互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、ν−Zr(POa1)(Ha2POa3(HOb1PCb2b3SOb4H)・nHO(ここで、a1、a2、a3、a、b1、b2、b3、b4及びbは、同一または互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、Zr(Oa1PCa2a3(ここで、a1、a2、a3、a及びbは、同一または互いに独立的に0乃至14の整数である)、Zr(Oa1PCHa2OH)・nHO(ここで、a1、a2、a及びbは、同一または互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、α−Zr(Oa1PCa2a3SOa4H)・nHO(ここで、a1、a2、a3、a4及びaは、同一または互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、α−Zr(Oa1POH)・HO(ここで、a1は0乃至14の整数である)、(P(ZrO(ここで、a及びbは、同一または互いに独立的に0乃至14の整数である)ガラス及びP−ZrO−SiOガラスで構成される群より選択される一つまたは一つ以上の混合物が好ましく、無機シリケートを使用することが最も好ましい。
【0054】
無機シリケートは、クレイ、つまり、一般に、ほとんど層状シリケートであって、基本構造は図1のBに示したように、シリカ四面体のシート(話題になっている層を構成する薄層)とアルミナ八面体シートの組合せで構成され、これら二つのシートが水酸基縮合反応を経て層状構造を構成する。
【0055】
シリケートは、内部の陰電荷量の程度によって、滑石(pyrophylite−talc)、モンモリロナイト(montmorillonite:MMT)、フルオロヘクトライト(fluorohectorite)、カオリナイト(kaolinite)バーミキュライト(苦土ひる石:vermiculit)、イライト(illite)、雲母(mica)、または脆雲母(brittle mica)に分類されるもので、これらは本発明で使用することができる。特に本発明ではモンモリロナイトを使用するのが好ましい。
【0056】
モンモリロナイトは、アルミナ八面体シートでAl3+イオンの代りに、Mg2+、Fe2+、Fe3+イオンが、シリケート四面体シートにSi4+イオンの代りにAl3+イオンが置換された構造であって、全体的に陰電荷量を持つようになる。また、全体的に電荷の平衡を合せるために、シリケート層の間に交換可能な陽イオンと水分子を含有している。
【0057】
シリケートは、短軸(厚さ方向)と長軸の比(縦横比)が1/30乃至1/1000が好ましく、1/100乃至1/800がさらに好ましく、1/500乃至1/800が最も好ましい。
【0058】
シリケートの短軸と長軸の比が1/30より大きい場合、剥離されたシリケートが気体及び液体の拡散バリアとして作用できないため、分離能が低下して好ましくない。
【0059】
また、シリケートの短軸と長軸の比が1/1000より小さい場合、短軸方向の原子数が2個以下になることがあり、陽イオン交換樹脂鎖の浸透によって剥離され難いため、結果的に製造される高分子電解質膜で陽イオン交換樹脂内に分散され難いため好ましくない。
【0060】
また、シリケートの長軸長さは0.05乃至0.5μmが好ましく、0.05乃至0.2μmがさらに好ましい。シリケートの長軸長さが0.05μmより小さい場合には、板状構造が形成されず炭化水素燃料遮断効果が減少し、0.5μmより大きい場合には、支持体の気孔内に浸透が難しいため好ましくない。
【0061】
同時に、シリケートの層状構造が剥離されている場合、シリケート層間距離は最少3nmが好ましい。シリケート層間距離は、高分子鎖がシリケート板状に浸透されて、層と層の間が剥離される時の距離を示し、最少3nmであり、高分子鎖が順次に浸透して層と層の間が徐々に広くなってシリケート層などが無定形に分散されると、層と層の間の距離として定義するのが不適切であるため、その間の距離を測定することができない。従って、層間距離は最少3nmであれば十分であり、最大値は意味がない。
【0062】
シリケートは有機化剤で処理して使用することが好ましく、このように有機化剤で処理する場合、強力なファン・デル・ワールス引力によって、高分子樹脂に剥離及び分散され難い板状シリケート層構造の間に低分子量の有機化剤が挿入されて、高分子樹脂浸透が容易になって、剥離、分散され易くなるため好ましい。
【0063】
有機化剤としては、炭素数1乃至20のアルキルアミン、炭素数1乃至20のアルキレンジアミン、炭素数1乃至20の4級アンモニウム塩、アミノヘキサンまたは窒素含有ヘテロ環式化合物を使用することができる。
【0064】
アルキルアミンの具体的な例としては、塩酸メチルアミン(methylamine hydrochloride)、プロピルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、N−メチルオクタデシルアミンなどがある。
【0065】
アルキレンジアミンの例としては1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,12−ドデカンジアミンがある。
【0066】
4級アンモニウム塩としては、ジメチル4級アンモニウム、ベンジル4級アンモニウム、2−エチルヘキシル4級アンモニウム、ビス−2−ヒドロキシエチル4級アンモニウム、メチル4級アンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、ブロム(臭素)化オクタデシルトリメチルアンモニウム、臭素化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭素化ジオクタデシルジメチルアンモニウム、塩化ビス(2−ヒドロキシエチル)メチルオクタデシルアンモニウムなどを使用することができる。
【0067】
アミノヘキサンとしては、6−アミノヘキサン、12−アミノヘキサンなどを使用することができ、窒素含有ヘテロ環式化合物としては、塩化1−ヘキサデシルピリジウムなどを使用することができる。
【0068】
また、無機シリケートを有機化剤で処理して使用することもできるが、既に有機化処理された無機シリケートを直接使用することもできる。このように有機化処理された無機シリケートの例としては、米国Southern Clay Products,Inc.社の商品名として、Cloisite 6A、Cloisite 10A、Cloisite 15A、Cloisite 20A、Cloisite 25A、Cloisite 30Bなどがあり、Cloisite 10Aを使用するのが好ましい。
【0069】
陽イオン交換樹脂及び無機添加物は、高分子支持体の気孔及び表面に全て存在することができる。または陽イオン交換樹脂は、高分子支持体の気孔及び表面に全て存在し、無機添加物は表面にだけ存在することもできる。最も好ましくは気孔及び表面に全て存在することである。
【0070】
また、高分子支持体は80%以上、好ましくは80乃至90%の多孔度を有する。この高分子支持体の多孔度が80%未満である場合、非伝導性高分子重量成分が高すぎて、複合膜の伝導度降下が発生するため好ましくない。また、多孔度が80乃至90%である場合が特に好ましく、支持体の機械的特性を一層向上させることができて、フィルム形成のための連続工程に適切である。
【0071】
本発明の高分子電解質膜の一面及びこれに対向する他の一面、つまり、触媒層が形成される両面の伝導度の差が5%以下が好ましく、3乃至5%がさらに好ましい。高分子電解質膜の厚さ方向で伝導度が低い面の値が膜抵抗を決定するので、伝導度間差が5%以下の小さい場合が、水素イオン伝導が起こり易いため好ましい。
【0072】
同時に、本発明の高分子電解質膜の多孔度は、1乃至10%が好ましく、1乃至5%がさらに好ましい。
【0073】
本発明の高分子電解質膜で前記支持体の厚さは、10乃至15μmが好ましく、炭化水素燃料拡散防止層の厚さは2乃至10μmが好ましい。炭化水素燃料拡散防止層の厚さが前記範囲に含まれると、電解質膜表面粗度が増加して、単位面積での有効表面積が増加するので、触媒/電解質膜の接触面積が増加するため好ましい。
【0074】
前記炭化水素燃料拡散防止層の厚さが10μmより厚い場合は、遮断性は向上するが表面がフラットになって、触媒/電解質膜の接触面積を増加させる効果を得られなくなり、2μmより薄い場合は、接触面積は増加するが、遮断性が低下して好ましくない。
【0075】
このような構成の高分子電解質膜は、層状構造の無機添加物が陽イオン交換樹脂鎖の浸透によってナノメートル級の薄膜として剥離されていて、液相または気相の燃料がこの高分子電解質膜を通過する場合、伝達経路を長くして、つまり、燃料遮断役割を果たす。また、前記高分子支持体は、薄膜化された状態で高分子電解質膜の寸法安定性と機械的物性を向上させることができる。
【0076】
本発明の高分子電解質膜において、前記陽イオン交換樹脂は、50乃至90重量%、前記多孔性高分子支持体は、2乃至30重量%、及び無機添加物0.5乃至20重量%存在し、好ましくは陽イオン交換樹脂70乃至80重量%、多孔性高分子支持体2乃至15重量%及び無機添加物0.5乃至10重量%の量で存在する。
【0077】
多孔性高分子支持体と無機添加物の含量が前記範囲より大きい場合、二つの物質全てが非伝導性であるので、伝導低下が発生して好ましくなく、多孔性高分子支持体と無機添加物の含量が前記範囲より小さい場合、機械的強度、寸法安定性補完及び炭化水素燃料遮断性強化など所望の効果を得られないので好ましくない。
【0078】
また、本発明において、炭化水素燃料拡散防止層は、低分子量のアクリレート系高分子をさらに含む事もできる。アクリレート系高分子としては、分子量1,000以内のポリエチレングリコールジアクリレート、またはポリエチレングリコールジメタクリレートを使用することができる。このような低分子量のアクリレート系高分子は、分子量が低いので、これらを追加的にさらに用いると、より容易に無機添加物に挿入することができ、結果的に無機添加物の剥離をより活性化することができて好ましい。アクリレート系高分子の含量は、陽イオン交換樹脂100重量部に対して5乃至10重量部の量で使用するのが好ましい。
【0079】
本発明による高分子電解質膜の製造方法は次の通りである。
【0080】
側鎖に陽イオン交換基を有する陽イオン交換樹脂を第1有機溶媒に溶解して製造された陽イオン交換樹脂液と、固形状または液状の無機添加物とを混合して混合溶液を製造する。
【0081】
この混合工程で陽イオン交換樹脂鎖が無機添加物の層間に浸透して、無機添加物の層はナノサイズ(ナノメートル級、例えば、0.5nm乃至15nm)の板状に剥離される。従って、この溶液で電解質膜を製造する場合、製造された電解質膜で陽イオン交換樹脂内に板状の無機添加物が分散されて、高分子電解質膜の機械的物性を顕著に増加させる一方、液状または気体状の燃料が高分子電解質膜を通過する時、伝達経路を長くさせて、燃料の透過を顕著に減少させることができる。
【0082】
つまり、ナノサイズの板状無機添加物が高分子電解質膜内で剥離・分散されると、有機物である高分子と無機物である無機添加物の接触表面積が広くなり、分子間引力が増加して機械的物性が増加し、このように剥離されると、燃料透過に対する障壁として作用して気体または液体炭化水素燃料のクロスオーバーを顕著に減少させることができる。
【0083】
陽イオン交換樹脂液は、第1有機溶媒100重量部に対して陽イオン交換樹脂1乃至10重量部を溶解して製造するのが好ましい。陽イオン交換樹脂を1重量部未満で使用する場合には、陽イオン交換樹脂が無機添加物の層間に挿入されることは容易であるが、乾燥工程が長くなって、粘性の低下により多孔性高分子支持体上にコーティング(スプレー、印刷、膜貼付け、ローラー塗り、刷毛塗りなど、広義の塗布あるいは被覆)が難しくなり、10重量部を超えて用いると無機添加物の層間の挿入工程が長くなるので好ましくない。
【0084】
この工程で、陽イオン交換樹脂として、溶媒に溶解されて市販されているものを使用する場合、例えばペルフルオロスルホン酸である商品名ナフィオンは、5重量%ナフィオン/HO/2−プロパノール溶液の形態で販売されているので、これを常温で乾燥させて、HO/2−プロパノール溶媒を完全に除去した後、有機溶媒に再溶解して用いるとされる。
【0085】
前記溶解工程は、90乃至120℃で6乃至72時間撹拌して実施する。
【0086】
第1有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(N−methyl−2−pyrrolidone;NMP)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide;DMF)、ジメチルアセトアミド(dimethylacetamide;DMA)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran;THF)、ジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide;DMSO)、アセトン、メチルエチルケトン(methylethylketone;MEK)、テトラメチルウレア(tetramethylurea)、トリメチルホスフェート(trimethylphosphate)、ブチロラクトン(butyrolactone)、イソホロン(isophorone)、カルビトールアセテート(carbitolacetate)、メチルイソブチルケトン(methylisobutylketone)、N−ブチルアセテート(N−butylacetate)、シクロヘキサノン(cyclohexanone)、ジアセトンアルコール(diacetonealcohol)、ジイソブチルケトン(diisobutylketone)、エチルアセトアセテート(ethylacetoacetate)、グリコールエーテル(glycolether)、プロピレンカーボネート(propylenecarbonate)、エチレンカーボネート(ethylenecarbonate)、ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate)またはこれらの混合物を使用することができる。
【0087】
無機添加物としては、無機添加物を固形状そのまま使用することもでき、第2有機溶媒に分散させて無機添加物液を製造して使用することもできる。本明細書に記す無機添加物液とは、無機添加物と有機溶媒の懸濁状態、分散状態または溶解状態など無機添加物が液状の有機溶媒に添加されている限り、その状態に限定されないことを意味する。
【0088】
無機添加物を液状態で使用する場合、無機添加物を第2有機溶媒に添加して無機添加物液を製造する。この時第2有機溶媒として、1−プロパノール、2−プロパノールまたはこれらの混合物を使用することができる。
【0089】
陽イオン交換樹脂液と無機添加物の混合比率は、陽イオン交換樹脂100重量部に対して無機添加物が0.5乃至10重量部になるようにするのが好ましい。無機添加物の量が0.5重量部未満である場合は、分散の程度が少ないので炭化水素燃料透過程度が高まるために好ましくないし、10重量部を超える場合は、過量の無機添加物が製造された高分子電解質膜で陽イオン交換樹脂内に分散されて、板状の無機添加物が剥離されないため、機械的強度が低下する問題点がある。
【0090】
また、前記混合溶液に低分子量のアクリレート系高分子をさらに添加することもできる。前記低分子量のアクリレート系高分子は、一般に液状状態で使用される。アクリレート系高分子の添加量は、陽イオン交換樹脂100重量部に対して5乃至10重量部の量として使用するのが好ましい。
【0091】
得られた混合溶液を高分子支持体にコーティングして高分子電解質膜を製造する。コーティング工程の方法としては、一般的なコーティング工程はいかなる方法でも差し支えないが、その回数は本発明の効果を得るためには重要である。つまり、2回以上コーティング工程を実施することは、高分子電解質膜のイオン伝導度を均一にすることができて好ましく、3乃至5回実施するのがさらに好ましい。また、コーティング工程時使用されるコーティング液の使用量は、高分子支持体のフィルム厚さに合わせて調節することができて、前記混合溶液約1gでほぼ50μm厚さの高分子支持体200cmをコーティングすることができるが、これより多少過量を一般的に使用する。
【0092】
コーティング工程を1回だけ実施する場合、または前記混合溶液をそのままキャスティングしてフィルム状態の高分子電解質膜を製造する場合、支持体の気孔が完全に閉塞されないのでイオンの伝導度が不均一になって好ましくない。
【0093】
また、コーティング工程は、高分子支持体の両面にコーティングすることがより効果的である。また、製造された高分子電解質膜の厚さは、5乃至100μmが好ましく、このような厚さの高分子電解質膜を得るためには、コーティング工程後、100℃以上で乾燥すべきである。
【0094】
また、前記混合溶液を高分子支持体にコーティングする前に、陽イオン交換樹脂液のみを高分子支持体にコーティングする工程をさらに実施することもできる。このさらなる工程を実施すると、高分子支持体の内部、つまり、気孔には陽イオン交換樹脂だけが存在して、気孔は陽イオン交換樹脂に完全に閉塞されて、高分子支持体の表面には陽イオン交換樹脂と無機添加物が存在する炭化水素燃料拡散防止層を有する高分子電解質膜が製造される。この工程では炭化水素燃料拡散防止層の厚さは高分子支持体厚さの1/3以上であった方が好ましい。
【0095】
また、コーティング工程時、多孔性高分子支持体の両面に多孔性基材を密着させた後、炭素紙上に前記混合溶液を塗布してローリングして乾燥させる過程を繰り返した後、多孔性基材を除去すれば、毛細管現象によって前記混合溶液が均一に支持体の微細気孔に浸透して溶媒が乾燥されることによって、支持体の気孔が完全に剥離された無機添加物と陽イオン交換樹脂によって閉塞できるためさらに好ましい。
【0096】
ペルフルオロスルホン酸など既存の高分子電解質膜の場合、炭化水素燃料クロスオーバーを抑制するために130乃至180μmの厚さを使用しているが、厚さが増加するほど水素イオン伝導度が減少して高分子電解質膜の費用が増加する短所がある。
【0097】
これに対して本発明による高分子電解質膜の場合、高分子支持体とナノサイズの板状無機添加物の役割で機械的物性を向上させることができ、また、炭化水素燃料クロスオーバーを顕著に減少させることができて、高分子膜の厚さが5乃至100μm、さらに好ましくは5乃至50μmまで薄くしても優れた効果を得ることができる。
【0098】
高分子電解質膜は、分散された無機添加物が樹脂に存在するため、炭化水素燃料の拡散経路が長くなって、炭化水素燃料の透過度を減少させることができる。
【0099】
従って、約5乃至100μmの薄膜に製造しても、既存180μmの厚い高分子電解質膜を使用したことと同じ、またはそれ以上の炭化水素燃料遮断効果を得ることができるため、高出力密度燃料電池を提供することができる。また、製造方法が簡単で大量生産が可能になる。
【0100】
図1のCに図示したように、本発明の高分子電解質膜14は、カソード16とアノード18の間に位置して膜−電極接合体を構成する。
【0101】
カソード及びアノード は、電極基材と触媒層で構成される。触媒層は関連反応(燃料の酸化及び酸化剤の還元)を触媒的に手助けするいわゆる金属触媒を含むものであって、白金、ルテニウム、オスミウム、白金−ルテニウム合金、白金−オスミウム合金、白金−パラジウム合金または白金−M合金(MはGa、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnで構成される群から選択される1種以上の遷移金属)の中から選択される1種以上の触媒を含むのが好ましく、白金、ルテニウム、オスミウム、白金−ルテニウム合金、白金−オスミウム合金、白金−パラジウム合金、白金−コバルト合金または白金−ニッケル合金の中から選択される1種以上の触媒を含むことがさらに好ましい。
【0102】
また、一般に金属触媒としては、担体に支持されたものが使用される。担体としては、アセチレンブラック、黒鉛のような炭素を使用することもでき、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニアなどの無機物微粒子を使用することもできる。担体に担持された貴金属を触媒として用いる場合には、商品化され市販されているものを使用することもでき、また、担体に貴金属を担持させて製造して使用することもできる。担体に貴金属を担持させる工程は、当該分野において広く知られた内容であるので本明細書で詳細な説明は省略しても、当該分野に従事する人々に容易に分かることができる内容である。
【0103】
燃料電池の燃料をアノード電極に供給して、空気または酸素のような酸化剤をカソード電極に供給して、アノード電極とカソード電極の電気化学反応によって電気を生成する。アノードで燃料の酸化反応が起こって、カソードで酸化剤の還元反応が起きて二つの電極間の電位差を発生させる。
【0104】
電極基材としては、炭素紙、炭素布、炭素フェルトまたは金属布を用いることができるが、これに限られるわけではない。電極基材は、燃料電池用電極を支持する役割をしながら、触媒層に反応ガスを拡散させて触媒層で反応気体が容易に接近できるようにする。
【0105】
また、電極基材は、炭素紙や炭素布をフッ素系樹脂で撥水処理したものを使用することが、燃料電池の駆動時発生する水によって気体拡散効率が低下することを防止できるため好ましい。フッ素系樹脂としては、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂、フルオロエチレンポリマーなどを用いることができる。
【0106】
また、電極は、電極基材と触媒層の間に気体拡散効果をさらに増進させるために、微細気孔層をさらに含む事も出来る。
【0107】
微細気孔層は、導電性粉末物質、バインダー及び必要に応じてイオノマーを含む組成物を塗布して形成される。導電性粉末としては、例えば炭素粉末、カーボンブラック、アセチレンブラック、活性炭、またはカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノワイヤー、カーボンナノホーン(ナノサイズ炭素錐管)、またはカーボンナノ環(ナノサイズ炭素環)などのような、いわゆるナノカーボンなどを用いることができる。バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニリデンフルオライドヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)、ポリビニルアルコール、セルロースアセテートなどを用いることができる。
【0108】
本発明の膜−電極接合体を含む本発明の燃料電池システムは、少なくとも一つの電気発生部、燃料供給部及び酸化剤供給部を含む。
【0109】
電気発生部は、高分子電解質膜とこの高分子電解質膜両面に存在するカソード及びアノード電極を含む膜−電極接合体、及びこの膜−電極接合体の両面に存在するセパレータを含む。電気発生部は、燃料の酸化反応及び酸化剤の還元反応を通じて電気を発生させる役割をする。
【0110】
燃料供給部は、燃料を電気発生部に供給する役割を果たして、酸化剤供給部は、酸化剤を電気発生部に供給する役割をする。
【0111】
本発明の燃料電池システムの概略的な構造が図2に示されており、これを参照してより詳細に説明する。
【0112】
図2に示した構造は、燃料及び酸化剤をポンプで電気発生部に供給するシステムを示したが、本発明の燃料電池システムがこのような構造に限定されることはなく、ポンプを使用せずに拡散方式を利用する燃料電池システム構造に使用できることは無論である。
【0113】
本発明の燃料電池システム400は、燃料と酸化剤の電気化学的な反応を通じて電気エネルギーを発生させる、少なくとも一つの電気発生部40を有するスタック43と、燃料を供給する燃料供給部4と、酸化剤を電気発生部40に供給する酸化剤供給部5を含んで構成される。
【0114】
また、燃料を供給する燃料供給部4は、燃料を貯蔵する燃料タンク45と、燃料タンク45に連結設置される燃料ポンプを備えることができる。燃料ポンプは、所定のポンピング力により燃料タンク45に貯蔵された燃料を排出させる機能をする。
【0115】
スタック43の電気発生部40に酸化剤を供給する酸化剤供給部5は、所定のポンピング力で空気を吸入する少なくとも一つの空気ポンプ13を備える。
【0116】
電気発生部40は、燃料と酸化剤を酸化/還元反応させる膜−電極接合体51と、この膜−電極接合体の両側に燃料と酸化剤を供給するためのセパレータ(二極式プレートを用いてもよい)53、55で構成される。
【0117】
以下、本発明の好ましい実施例及び比較例を記載する。しかし、下記の実施例は本発明の好ましい一実施例であり、本発明が下記の実施例に限られることはない。
【実施例1】
【0118】
商業的に市販されている5重量%ナフィオン/HO/2−プロパノール(Solution Technology,Inc.社、当量重量EW=1,100)溶液を常温で撹拌して減圧蒸発させて固体ナフィオン樹脂を得た。得られた固体ナフィオン樹脂をジメチルアセトアミド(Aldrich社、DMAC)100重量部に対して、5重量部の量で添加して100℃で24時間程機械的に撹拌して、陽イオン交換樹脂液(5重量%Nafion/DMAC)を製造した。
【0119】
陽イオン交換樹脂液に有機化剤で処理されたモンモリロナイト(Southern Clay Product社、商品名:Cloisite 10A)、縦横比:1/500(有機化剤が完全に層間挿入した状態で、長軸長さ:約0.3μm)を陽イオン交換樹脂100重量部に対して2重量部の割合で添加した後、100℃で24時間磁石撹拌器で混合して、超音波を印加して、モンモリロナイトの層間に陽イオン交換樹脂鎖を層間挿入させて、シリケートが剥離された陽イオン交換樹脂混合液(Nafion/MMT/DMAC)を製造した。この時シリケート層間の剥離距離は3nm以上であった。
【0120】
30cmの多孔性ポリテトラフルオロエチレン高分子支持体(W.L.Gore社、17mm Gore−Tex、気孔度:80%)を固定させて、支持体両面に炭素紙(東レ社、商品名:TGPH−090)を付着させた後、ナフィオン/MMT/DMAC混合溶液15gを注いでローラを利用して反復的にコーティングした後、100℃で乾燥させる過程を5回繰り返して、全体厚さが25μmで、多孔性高分子支持体及び炭化水素燃料拡散防止層を有する直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜を製造した。この時、高分子支持体は、コーティング過程で水平方向に引張られて厚さは15μmに減少し、炭化水素燃料拡散防止層は10μmであった。
【0121】
製造された高分子電解質膜で陽イオン交換樹脂、高分子支持体及びモンモリロナイトの重量比率は100:13.6:2であった。
【0122】
5重量%ナフィオン/HO/2−プロパノール溶液、ジプロピレングリコール及び脱イオン水をPt−Ruブラック(担体に担持されない微粒子触媒を示す、Johnson Matthey社、HiSpec 6000)及びPtブラック(Johnson Matthey社、HiSpec 1000)粒子と各々混合して触媒スラリーを製造した後、テフロン(登録商標)・フィルム上にスクリーンプリンティングして乾燥させ、得られた触媒層を別途製造された高分子電解質膜上に各々配置した後、200℃で2000N/cmの圧力で3分間熱圧着して、高分子電解質膜上に各々4mg/cmローディング量になるようにカソード及びアノードの電極触媒層を形成した。
【0123】
続けて、高分子電解質膜を中間に置いて、カソード電極触媒層及びアノード電極触媒層にE-Tek社のELAT電極基材兼気体拡散層を配置して、結着することによって膜−電極接合体を製造した。
【0124】
製造された膜−電極接合体をポリテトラフルオロエチレンがコーティングされたガラス繊維ガスケットの間に挿入した後、所定形状の気体流路チャンネルと冷却チャンネルが形成された2つのセパレータで挟んだ後、銅製端板の間で加圧組立てして、単位電池を製造し、1Mメタノールと乾燥空気を流入した状態で作動温度による単位電池の出力変化を測定した。
【実施例2】
【0125】
モンモリロナイトを陽イオン交換樹脂100重量部に対して10重量部使用したこと以外は、実施例1と同様に実施した。製造された高分子電解質膜における陽イオン交換樹脂、高分子支持体及びモンモリロナイトの重量比率も実施例1と同程度の約100:13.6:2であった。
【実施例3】
【0126】
実施例1で得られた陽イオン交換樹脂液に、カオリナイトを混合して陽イオン交換樹脂混合液を製造したこと以外は、実施例1と同様に実施した。製造された高分子電解質膜で陽イオン交換樹脂、高分子支持体及びカオリナイトの重量比率は約100:13.6:2であった。
【実施例4】
【0127】
実施例1で得られた陽イオン交換樹脂液に、フルオロヘクトライトを混合して陽イオン交換樹脂混合液を製造したこと以外は、実施例1と同様に実施した。製造された高分子電解質膜で陽イオン交換樹脂、高分子支持体及びフルオロヘクトライトの重量比率は約100:13.6:2であった。
【実施例5】
【0128】
実施例1で得られたナフィオン/MMT/DMAC陽イオン交換樹脂混合液130gを30μmの多孔性ポリテトラフルオロエチレン支持体に反復コーティングして高分子電解質膜を製造したこと以外は、実施例1と同様に実施した。製造された高分子電解質膜で陽イオン交換樹脂、高分子支持体及びモンモリロナイトの重量比率は約100:13.6:2であった。
【実施例6】
【0129】
実施例1で得られた固体ナフィオン樹脂をジメチルアセトアミドに溶解して製造されたナフィオン/DMAC溶液45gを15μmの多孔性ポリテトラフルオロエチレン支持体に反復コーティングして乾燥させ無機添加物を含まない15μmナフィオン/ポリテトラフルオロエチレン膜を製造した後、ナフィオン/ポリテトラフルオロエチレン膜の両面に追加的に実施例1で得られたナフィオン/MMT/DMAC陽イオン交換樹脂混合液を20gコーティングして、中間層にはシリケートが存在しない高分子電解質膜を製造したこと以外は、実施例1と同様に実施した。製造された高分子電解質膜で陽イオン交換樹脂、高分子支持体及びモンモリロナイトの重量比率は、約100:13.6:2であった。
【実施例7】
【0130】
実施例1で製造された陽イオン交換樹脂100重量部に対してモンモリロナイトを4重量部及び2重量部の量で各々添加して、第1及び第2陽イオン交換樹脂混合液を各々製造し、第1及び第2陽イオン交換樹脂混合液を多孔性ポリテトラフルオロエチレン高分子支持体の両面にコーティングしたこと以外は、実施例1と同様に実施した。第1陽イオン交換樹脂混合液がコーティングされた面がアノード電極側に位置するようにして、実施例1と同様な方法で単位電池を製造した。製造された高分子電解質膜で陽イオン交換樹脂、高分子支持体及びモンモリロナイトの重量比率は約100:13.6:2であった。
【実施例8】
【0131】
ナフィオン/MMT/DMAC陽イオン交換樹脂混合液を炭素紙を使用せずに直接コーティングしたこと以外は実施例1と同様に実施した。製造された高分子電解質膜で陽イオン交換樹脂、高分子支持体及びモンモリロナイトの重量比率は約100:13.6:2であった。
【0132】
比較例1
実施例1と同じ方法でモンモリロナイトの層間に陽イオン交換樹脂鎖が浸透されてシリケートが剥離された混合溶液(ナフィオン/MMT/DMAC)を製造した。
【0133】
混合溶液を水平ガラス基板上に塗布して、110℃で12時間以上乾燥して溶媒を蒸発させて、30μm厚さのナフィオン/MMT高分子電解質膜を製造した。製造された高分子電解質膜の表面状態を均一に調節するために、50μm厚さのデュポン社カプトン膜で挟んで、100℃・2時間・275kPaの圧力を印加した。
【0134】
比較例2
実施例1で使用した厚さ17μm多孔性ポリテトラフルオロエチレン支持体に、商業用5重量%ナフィオン/HO/2−プロパノール(Solution TechnologyInc.社、当量重量EW=1,100)溶液を反復コーティングして、全厚さ25μmの無機添加物が存在しない高分子電解質膜を製造した。
【0135】
比較例3
市販されているE.I.Dupont社のNafion 115(厚さ125μm)膜を各々100℃の3%過酸化水素、0.5M硫酸水溶液で1時間処理した後、100℃の脱イオン水で1時間洗浄して高分子電解質膜を製造した。
【0136】
*SEM/EDS測定
実施例1及び比較例1によって製造された高分子電解質膜のSEM/EDSによるシリケート元素のうち、Alマッピング分析結果を図3及び4に各々示した。図4に示したように、比較例1の通常の単純溶媒蒸発(つまり、キャスティング工程)によって製造されたナフィオン/MMT高分子電解質膜は、二つの材料間の密度差によって、無機シリケートが溶媒蒸発中に沈降が発生するため、電解質膜内で無機物粒子の分散が均一でなく、底面に集中することを確認することができる。また、これを防止するために多層構造を作る場合には、電解質膜の層と層の間で抵抗成分が増加する場合もあるため、好ましくない。
【0137】
それに反し図3に示された実施例1のように、コーティング工程を5回実施して製造された場合には、無機添加物の分布が電解質膜全体断面にわたって一定であることを確認することができる。
【0138】
*イオンの伝導度測定
実施例1及び比較例1によって製造された電解質膜のイオンの伝導度は、BekkTech社の伝導度測定セルを使用して加湿水素を電解質膜に流入し、電解質膜の相対湿度を調整した状態で100Hzから1MHzの周波数区間と、10mVの摂動(小信号重畳)電圧で交流インピーダンス法によって測定した。その測定結果を下記表1に示した。
【表1】

【0139】
表1に示したように、実施例1及び比較例1により製造された電解質膜のイオン伝導度を両面で測定した時、比較例1の場合に両端間伝導度の偏差発生が分かり、実施例1の場合は電解質膜両面の伝導度が同程度であることが分かる。このような結果は、実施例1は無機添加物が高分子電解質膜全体的に均一に分散されていることに対し、比較例1は一側面に主に分布されているためだと考えられる。
【0140】
*寸法安定性
実施例1と比較例1及び3の高分子電解質膜の脱イオン水とメタノール/脱イオン水混合溶媒による寸法安定性の変化をASTM-D570によって測定し、電解質膜のメタノール濃度による体積変化率を測定した結果を図5に示した。図5に示したように、高分子支持体によって電解質膜が強化されて無機添加物がナノメートル級の薄膜として分散された実施例1の場合、最も優れた寸法安定性を示して、長期間電池実駆動時電解質膜の膨潤による気体拡散層への過度な応力伝達が防止できることが確認された。
【0141】
*高分子支持体の閉塞性
実施例1と比較例2の高分子支持体の状態を示すSEM写真を図6及び図7に各々示した。図6及び図7から分かるように、実施例1の高分子電解質膜は、比較例2に比べて高分子支持体上の気孔が陽イオン交換樹脂及びシリケートによって効果的に閉塞されている。
【0142】
*BET気孔度
陽イオン交換樹脂と高分子支持体間の結着性を知るために、実施例1及び比較例1乃至3のBET気孔度を測定してその結果を下記表2に示した。表2によれば、誘電常数が高い有機溶媒に溶解された実施例1の陽イオン交換樹脂混合液は、比較例2のようにアルコール系溶媒を使用して、高分子支持体にコーティングする場合より、疎水性の高い高分子支持体における陽イオン交換樹脂及び無機添加物の吸水性を向上させて、気孔度が減少することが確認された。また、実施例1の高分子電解質膜は、陽イオン交換樹脂と無機添加物間の強い相互結合によって、比較例3の商業用電解質膜より低い気孔率を得て、メタノール燃料の透過遮断性を得ることができることが分かる。
【表2】

【0143】
*メタノール透過度
電解質膜のメタノール透過度は、2−区画放電セルに電解質膜試料を置いて、両側区画に15重量%メタノール/脱イオン水混合液体と脱イオン水を各々循環させた時、電解質膜を透過したメタノールの濃度を屈折率変化で測定した。機械的物性はASTM-D882によって測定した。
【表3】

【0144】
表3に示したように、実施例1及び2のメタノール透過度が比較例2乃至3に比べて顕著に低いことが分かる。特に、従来用いられていた厚さ130μmの高分子電解質膜に比べてメタノール透過度が低いことが分かる。これは先に説明した図6及び7に示したように、実施例1の高分子電解質膜が比較例2及び3に比べて高分子支持体上の気孔が効果的に閉塞されたためだと考えられる。
【0145】
また、図8に示したように、実施例1のメタノール透過度と表3に示した比較例1のメタノール透過度は類似しているが、実施例1の電解質膜両端の伝導性が同程度であるという特徴によって電池出力密度は比較例1よりさらに優れていたことが分かる。
【0146】
図9は、実施例1及び比較例3の高分子電解質膜を利用して製造された燃料電池に燃料として1Mメタノールを注入して、また、酸化剤として空気の水分状態及び流量を調節して注入して、60℃で一日に1回電池を作動させて、再びシャット−ダウン(shut−down)しながら(図9で On/Off回数として示す)、単位電池を駆動して出力密度の傾斜の変化を測定した結果、電解質膜の膜抵抗(厚さ/伝導度)、燃料遮断性、寸法安定性などが優れた実施例1が商業用ナフィオン115膜を使用した比較例3に比べて優れた出力安定性を示した。
【0147】
図10は、実施例2によって製造された電解質膜の透過電子顕微鏡写真であり、層状構造を有する無機シリケートの板状に陽イオン交換樹脂鎖が浸透して、シリケート添加物の板と板の距離が拡張されて、約3nmの層間距離を有することが分かり、シリケートが陽イオン交換樹脂内で剥離されてメタノール遮断性を得るためには、シリケートが一定の層間距離を有する板状構造が崩れるか、シリケート層間の距離が3nm以上に維持されるべきであることを確認した。しかし、少数であるシリケート粒子が陽イオン交換樹脂内に過量に添加される場合には、陽イオン交換樹脂の水和を妨害して伝導性の低下が発生する。
【符号の説明】
【0148】
4 燃料供給部
5 酸化剤供給部
14 高分子電解質膜
40 電気発生部
43 スタック
45 燃料タンク
51 膜−電極接合体
53、55 セパレータ(二極式プレートの場合もある)
400 燃料電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気孔を有する多孔性高分子支持体;及び
前記高分子支持体に形成され、陽イオン交換樹脂及びこの陽イオン交換樹脂内に分散された無機添加物を含む炭化水素燃料拡散防止層;
を含む直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項2】
前記気孔に陽イオン交換樹脂及び無機添加物が存在することを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項3】
前記多孔性高分子支持体は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズイミダゾール、及びこれらのコポリマーで構成される群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項4】
前記多孔性高分子支持体は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、及びこれらのコポリマーで構成される群より選択されることを特徴とする請求項3に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項5】
前記多孔性高分子支持体は、ポリテトラフルオロエチレンのホモポリマーであることを特徴とする請求項4に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項6】
前記多孔性高分子支持体は、80%以上の気孔度を有することを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項7】
前記多孔性高分子支持体は、80%乃至90%の気孔度を有することを特徴とする請求項6に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項8】
前記陽イオン交換樹脂は、側鎖にスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、及びこれらの誘導体で構成される群より選択される陽イオン交換基を有する高分子樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項9】
前記陽イオン交換樹脂は、イオン交換比が3乃至33であり、当量重量が700乃至2,000の一つ以上の高分子樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項10】
前記陽イオン交換樹脂は、フルオロ系高分子、ベンズイミダゾール系高分子、ポリイミド系高分子、ポリエーテルイミド系高分子、ポリフェニレンスルフィド系高分子、ポリスルホン系高分子、ポリエーテルスルホン系高分子、ポリエーテルケトン系高分子、ポリエーテル−エーテルケトン系高分子、及びポリフェニルキノキサリン系高分子で構成される群より選択される1種以上の水素イオン伝導性高分子であることを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項11】
前記陽イオン交換樹脂は、フルオロ系高分子、ポリベンズイミダゾール系高分子、及びポリスルホン系高分子で構成される群より選択されることを特徴とする請求項10に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項12】
前記無機添加物は、前記高分子電解質膜内にナノメートル級の薄膜として剥離されて存在することを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項13】
前記無機添加物は、シリカ、アルミナ、雲母、ゼオライト、バリウムチタネート、セラミック、無機シリケート、ジルコニウムハイドロジェンホスフェート、α−Zr(Oa1PCHa2OH)(Ob1PCb2b4SOb5H)・nHO(ここで、a1、a2、a、b1、b2、b4、b5、及びbは、同一、または互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、ν−Zr(POa1)(Ha2POa3(HOb1PCb2b3SOb4H)・nHO(ここで、a1、a2、a3、a、b1、b2、b3、b4、及びbは同一、または互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、Zr(Oa1PCa2a3(ここで、a1、a2、a3、a及びbは、同一、または互いに独立的に0乃至14の整数である)、Zr(Oa1PCHa2OH)・nHO(ここで、a1、a2、a、及びbは、同一、または互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、α−Zr(Oa1PCa2a3SOa4H)・nHO(ここで、a1、a2、a3、a4及びaは、同一、または互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、α−Zr(Oa1POH)・HO(ここで、a1は0乃至14の整数である)、(P(ZrO(ここで、a及びbは同一、または互いに独立的に0乃至14の整数である)ガラス及びP−ZrO−SiOガラスで構成される群より選択される一つまたは一つ以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項14】
前記無機添加物は、無機シリケートであることを特徴とする請求項13に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項15】
前記無機シリケートは、滑石(pyrophylite−talc)、モンモリロナイト(montmorillonite:MMT)、フルオロヘクトライト(fluorohectorite)、カオリナイト(kaolinite)、バーミキュライト(苦土ひる石:vermiculit)、イライト(illite)、雲母(mica)及び 脆雲母 (brittle mica)で構成される群より選択されることを特徴とする請求項14に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項16】
前記無機シリケートは、1/30乃至1/1000の縦横比を有することを特徴とする請求項14に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項17】
前記無機シリケートは、0.05乃至0.5μmの長軸長さを有することを特徴とする請求項14に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項18】
前記無機シリケートは、剥離された層状構造を有して、各層間の距離が3nm以上であることを特徴とする請求項14に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項19】
前記無機シリケートは、有機化剤処理された無機シリケートであることを特徴とする請求項14に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項20】
前記有機化剤は、炭素数1乃至20のアルキルアミン、炭素数1乃至20のアルキレンジアミン、炭素数1乃至20の4級アンモニウム、炭素数1乃至20のアルキルアンモニウム塩、アミノヘキサン及び窒素含有ヘテロ環式化合物で構成される群より選択されることを特徴とする請求項19に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項21】
前記高分子電解質膜は、前記陽イオン交換樹脂を50乃至90重量%含み、前記高分子支持体を2乃至30重量%含み、前記無機添加剤を0.5乃至20重量%含むことを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項22】
前記高分子電解質膜は、前記陽イオン交換樹脂を70乃至80重量%含み、前記高分子支持体を2乃至15重量%含み、前記無機添加剤を0.5乃至10重量%含むことを特徴とする請求項21に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項23】
前記炭化水素燃料拡散防止層は、低分子量のアクリレート系高分子をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項24】
前記炭化水素燃料拡散防止層は、低分子量のアクリレート系高分子を前記陽イオン交換樹脂100重量部に対して5乃至10重量部の量でさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項25】
前記多孔性高分子支持体は、10乃至15μmの厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項26】
前記炭化水素燃料拡散防止層は、2乃至10μmの厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項27】
前記高分子電解質膜は、5乃至100μmの厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項28】
前記高分子電解質膜の一面とこれに対向する他面のイオンの伝導度の差は、5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項29】
前記高分子電解質膜は、1乃至10%の気孔度を有することを特徴とする請求項1に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項30】
側鎖に陽イオン交換基を有する陽イオン交換樹脂を、第1有機溶媒に溶解し製造された陽イオン交換樹脂液と、固形状または液状の無機添加物を混合して、混合溶液を得る段階;及び前記混合溶液を多孔性高分子支持体にコーティングして、支持体の気孔を陽イオン交換樹脂及び無機添加物で閉塞して製膜する段階;
を含むことを特徴とする直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項31】
前記製膜工程前に、前記多孔性高分子支持体を前記陽イオン交換樹脂液でコーティングする工程をさらに実施することを特徴とする請求項30に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項32】
前記第1有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、テトラメチルウレア、トリメチルホスフェート、ブチロラクトン、イソホロン、カルビトールアセテート、メチルイソブチルケトン、N−ブチルアセテート、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、エチルアセトアセテート、グリコールエーテル、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びこれらの混合物で構成される群より選択されることを特徴とする請求項30に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項33】
前記無機添加物は、シリカ、アルミナ、ゼオライト、バリウムチタネート、セラミック、無機シリケート、ジルコニウムハイドロジェンホスフェート、α−Zr(Oa1PCHa2OH)(Ob1PCb2b4SOb5H)・nHO(ここで、a1、a2、a、b1、b2、b4、b5、及びbは、同一、または互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、ν−Zr(POa1)(Ha2POa3(HOb1PCb2b3SOb4H)・nHO(ここで、a1、a2、a3、a、b1、b2、b3、b4、及びbは同一、または互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、Zr(Oa1PCa2a3(ここで、a1、a2、a3、a及びbは、同一、または互いに独立的に0乃至14の整数である)、Zr(Oa1PCHa2OH)・nHO(ここで、a1、a2、a、及びbは、同一、または互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、α−Zr(Oa1PCa2a3SOa4H)・nHO(ここで、a1、a2、a3、a4及びaは同一、または互いに独立的に0乃至14の整数であり、nは0乃至50の整数である)、α−Zr(Oa1POH)・HO(ここで、a1は0乃至14の整数である)、(P(ZrO(ここで、a及びbは同一、または互いに独立的に0乃至14の整数である)ガラス及びP−ZrO−SiOガラスで構成される群より選択される一つまたは一つ以上の混合物であることを特徴とする請求項30に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項34】
前記無機添加物は、無機シリケートであることを特徴とする請求項33に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項35】
前記無機シリケートは、有機化剤処理されることを特徴とする請求項34に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項36】
前記有機化剤は、炭素数1乃至20のアルキルアミン、炭素数1乃至20のアルキレンジアミン、炭素数1乃至20の4級アンモニウム、炭素数1乃至20のアルキルアンモニウム塩、アミノヘキサン及び窒素含有ヘテロ環式化合物で構成される群より選択されることを特徴とする請求項35に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項37】
前記液状の無機添加物は、前記無機添加物を第2有機溶媒に添加して製造された無機添加物液であることを特徴とする請求項30に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項38】
前記第2有機溶媒は、1−プロパノール、2−プロパノール及びこれらの混合物で構成される群より選択されることを特徴とする請求項37に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項39】
前記陽イオン交換樹脂液と前記無機添加物の混合比率は、前記陽イオン交換樹脂液100重量部に対して前記無機添加物が0.5乃至10重量部であることを特徴とする請求項30に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質の製造方法。
【請求項40】
前記混合溶液は、低分子量のアクリレート系高分子をさらに含むことを特徴とする請求項30に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項41】
前記混合溶液は、低分子量のアクリレート系高分子を前記陽イオン交換樹脂100重量部に対して5乃至10重量部の量でさらに含むことを特徴とする請求項30に記載の直接酸化型燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項42】
互いに対向して位置したアノード電極及びカソード電極;及び、
前記アノード電極と前記カソード電極の間に位置する請求項1乃至請求項29のうちのいずれか一項に記載の高分子電解質膜を含む燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項43】
互いに対向配置されたアノード電極及びカソード電極と、前記アノード電極と前記カソード電極の間に配置された請求項1乃至請求項29のうちのいずれか一項に記載の高分子電解質膜とを含む、少なくとも一つの膜−電極接合体及びセパレータを含み、燃料の酸化反応と酸化剤の還元反応により電気を生成させる少なくとも一つの電気発生部;
燃料を前記電気発生部に供給する燃料供給部;及び
酸化剤を前記電気発生部に供給する酸化剤供給部を含むことを特徴とする直接酸化型燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−69536(P2012−69536A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3772(P2012−3772)
【出願日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【分割の表示】特願2005−299086(P2005−299086)の分割
【原出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】