説明

相分離ガラスおよび多孔質ガラス

【課題】高温熱処理や酸処理工程を用いないで、安全でかつ簡素なプロセスで高強度な多孔質ガラスを得ることができる相分離ガラスを提供する。
【解決手段】酸化ナトリウム−酸化ホウ素−酸化ケイ素系の相分離ガラスであって、酸化ナトリウム4重量%以上6.5重量%以下、酸化ホウ素26重量%以上36重量%以下、酸化ケイ素60重量%以上68重量%以下を含有する相分離ガラス。前記酸化ナトリウム、酸化ホウ素および酸化ケイ素の合計の含有量が、相分離ガラスの全体に対し99重量%以上100重量%以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相分離ガラスおよび多孔質ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスの相分離現象を利用して製造される多孔質ガラスは、均一に制御された独特の多孔構造を有し、孔径を一定の範囲内で変化させることができる。このような優れた特徴を生かし、例えば吸着剤、マイクロキャリア担体、分離膜、光学材料等の工業的利用が期待されている。
【0003】
従来より知られている分相領域は、酸化ナトリウムが約7から10重量%、酸化ホウ素が約22から59重量%、酸化ケイ素が約30から80重量%の組成である。多孔質ガラスは、一般的に母体ガラスを500から700℃で熱処理することにより相分離を起こさせ、その後酸エッチングを行うことにより多孔質化させる(たとえば非特許文献1)。
【0004】
特許文献1には、耐水性や耐アルカリ性等の化学的耐久性の向上を目的とし、NaO−B−SiOガラスに、AlおよびZrOを添加した分相性ガラスを用いて多孔質ガラスを得る方法が提案されている。この方法では、多孔質ガラスは分相化のための熱処理や酸処理を用いた従来の方法を用いて作製されている。
【0005】
このように、相分離現象を利用した多孔質ガラスの作製において、(1)分相化のための熱処理、(2)溶出相を取り除くためには酸処理が必要である。しかし、(1)の分相処理は高温でかつ長時間の熱処理を必要とし、(2)の酸処理では酸を用いなければならず取扱いに注意を要する。また酸処理後の水洗浄処理も必要であり、相分離現象を利用した多孔質ガラスの作製には処理工程が多い。従来の技術では、分相化のための熱処理や酸処理工程を行わずに多孔質ガラスを作製する例は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−193341号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】新しいガラスとその物性」第2章、47から50頁、泉谷徹郎監修 経営システム研究所、1987年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、相分離現象を利用した多孔質ガラスの作製において、分相処理は高温でかつ長時間の熱処理を必要とし、酸処理では酸を用いなければならず取扱いに注意を要する。また酸処理後の水洗浄処理も必要であり、相分離現象を利用した多孔質ガラスの作製は取扱い工程が多い。
そのため、取扱上注意を要する高温熱処理や酸処理工程を省略することができ、安全でかつ簡素なプロセスで得ることができる多孔質ガラスが望まれている。
【0009】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、多孔質ガラスの作製において、高温熱処理や酸処理工程を用いないで、安全でかつ簡素なプロセスで高強度な多孔質ガラスを得ることができる相分離ガラスを提供するものである。
また、本発明は、前記相分離ガラスを加熱処理や酸処理を経ることなく水洗処理するこ
とで得られる多孔質ガラスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する相分離ガラスは、酸化ナトリウム−酸化ホウ素−酸化ケイ素系の相分離ガラスであって、酸化ナトリウム4重量%以上6.5重量%以下、酸化ホウ素26重量%以上36重量%以下、酸化ケイ素60重量%以上68重量%以下を含有することを特徴とする。
上記の課題を解決する多孔質ガラスは、上記の相分離ガラスを水洗処理して得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多孔質ガラスの作製において、高温熱処理や酸処理工程を用いないで、安全でかつ簡素なプロセスで高強度な多孔質ガラスを得ることができる相分離ガラスを提供することができる。
また、本発明によれば、前記相分離ガラスを加熱処理や酸処理を経ることなく水洗処理することで得られる多孔質ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1における板状ガラスの水洗処理後のガラス表面の電子顕微鏡観察図である。
【図2】比較例1における板状ガラスの水洗処理後のガラス表面の電子顕微鏡観察図である。
【図3】実施例および比較例のNaO−B−SiOガラス組成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するにあたって、ガラスの相分離現象を利用した多孔質ガラスの一般的な作製方法について述べる。
一般的な分相性母体ガラスの材質としては、例えば、酸化ケイ素系母体ガラスとして酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物、酸化ケイ素−リン酸塩−アルカリ金属酸化物などが挙げられる。なかでも、酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物の硼珪酸系ガラスを分相性母体ガラスに用いることが好ましい。
【0014】
分相性母体ガラスの製造方法は、上記組成となるように原料を調製するほかは、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、各成分の供給源を含む原料を加熱溶融し、必要に応じて所望の形態に成形することにより製造することができる。加熱溶融する場合の加熱温度は、原料組成等により適宜設定すれば良いが、通常は1350から1450℃、特に1380から1430℃の範囲とすることが好ましい。
【0015】
例えば、上記原料として炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素を均一に混合し、1350から1450℃に加熱溶融すれば良い。この場合、原料は、前記のとおりアルカリ金属酸化物、酸化ホウ素及び酸化ケイ素の成分を含むものであればどのような原料を用いても良い。
【0016】
また、多孔質ガラスを所定の形状にする場合は、分相性母体ガラスを合成した後、概ね1000から1200℃の温度下で管状、板状、球状等の各種の形状に成形すれば良い。例えば、上記原料を溶融して分相性母体ガラスを合成した後、溶融温度から温度を降下させて1000から1200℃に維持した状態で成形する方法を好適に採用することができる。
【0017】
一般的には、分相性母体ガラスを加熱処理することにより、分相性母体ガラスを分相させる。「分相」とは、たとえば母体ガラスに酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物の硼珪酸系ガラスを用いた場合、ガラス内部で酸化ケイ素リッチ相とアルカリ金属酸化物−酸化ホウ素リッチ相とに、数nmスケールで分相を起こさせることを意味する。加熱処理温度は400から800℃とし、加熱処理時間は通常20から100時間の範囲内において、得られる多孔質ガラスの細孔径等に応じて適宜設定することができる。
【0018】
このように加熱処理工程より得られる分相性ガラスを酸溶液と接触させることにより酸可溶成分を溶出除去させる。酸溶液としては、例えば塩酸、硝酸等の無機酸等を好ましく用いることができ、酸溶液は通常は水を溶媒とした水溶液の形態で好適に使用することができる。酸溶液の濃度は、通常は0.1から2mol/L(0.1から2規定)の範囲内で適宜設定すれば良い。この酸処理工程では、その溶液の温度を室温から100℃の範囲とし、処理時間は1から50時間程度とすれば良い。その後、水洗浄処理を経て酸化ケイ素による骨格を持つ多孔質ガラスが得られる。水洗浄処理工程における洗浄水の温度は、一般的には室温から100℃の範囲内とすれば良い。水洗浄処理工程の時間は、対象となるガラスの組成、大きさ等に応じて適宜定めることができるが、通常は1から50時間程度とすれば良い。
【0019】
本発明に係る相分離ガラスは、酸化ナトリウム−酸化ホウ素−酸化ケイ素系の相分離ガラスであって、酸化ナトリウム4重量%以上6.5重量%以下、酸化ホウ素26重量%以上36重量%以下、酸化ケイ素60重量%以上68重量%以下を含有することを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る多孔質ガラスは、上記の相分離ガラスを水洗処理して得られることを特徴とする。
本発明では、前記相分離ガラスを前記組成範囲に特定することにより、相分離ガラスを加熱処理や酸処理を経ることなく水洗処理することだけで多孔質ガラスが得られることを特徴とする。
【0021】
本発明において用いる相分離ガラスの好ましい組成は、酸化ナトリウムの含有量は通常4重量%以上6.5重量%以下であり、特に4.5重量%以上6重量%以下であることが好ましい。
酸化ホウ素の含有量は通常26重量%以上36重量%以下であり、特に26.5重量%以上35.5重量%以下であることが好ましい。
酸化ケイ素の含有量は通常60重量%以上68重量%以下であり、特に60.5重量%以上67.5重量%以下であることが好ましい。
【0022】
上記組成を採用することにより、加熱処理や酸処理を必要とすることなく、水洗処理のみで多孔質ガラスを得ることができる。本発明の組成域の分相性母体ガラスはすでに相分離しているため再加熱処理を行う必要はなく、また酸処理も行うことなく水洗処理のみで良好でかつ高強度な多孔質構造を得ることができる。酸処理を行うと、水洗処理のみで行う場合に比べてシリカ骨格が不必要に溶解してしまい強度が低下する恐れがある。水洗処理は、通常中性領域の水を使用し、50℃以上100℃以下の温度の水溶液に浸漬して行う。水洗処理の時間は1から50時間程度とすれば良い。
【0023】
また前記酸化ナトリウム−酸化ホウ素−酸化ケイ素系の相分離ガラスにおいて、酸化ナトリウム、酸化ホウ素および酸化ケイ素の合計の含有量が、前記相分離ガラスの全体に対し99重量%以上100重量%以下であることを特徴とする。一般的な分相性母体ガラスには、上記3成分系酸化物以外に、3成分以上の酸化物からなる系も含まれることがある。たとえば、酸化ケイ素系母体ガラスとして酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化
物−(アルカリ土類金属酸化物,酸化亜鉛,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム)、酸化チタン系母体ガラス(酸化ケイ素−酸化ホウ素−酸化カルシウム−酸化マグネシウム−酸化アルミニウム−酸化チタン)、希土類系母体ガラス(酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物−(酸化セリウム,酸化トリウム,酸化ハフニウム,酸化ランタン))などが挙げられる。3成分以上の第4成分としては、例えば酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、アルカリ土類金属酸化物などが挙げられるが、それらに限定するものではない。第4成分の含有量は1重量%未満であり、1重量%以上含まれると母体ガラスの分相速度に影響を与えるため、本発明における水処理のみで多孔質ガラスを得ることが困難である。
【0024】
本発明の多孔質ガラスは、スピノーダル型多孔構造を有していることを特徴とする。相分離にはスピノーダル型とバイノーダル型に分類される。スピノーダル型相分離により得られる多孔質ガラスの細孔は、表面から内部にまで連結した貫通細孔であり、バイノーダル型相分離ではクローズ孔のものが得られる。細孔径およびこの分布が、製造中の熱処理条件により制御できることがよく知られている。相分離現象のなかでも表面から内部にまで連結した貫通細孔を有する多孔質構造が得られるスピノーダル型相分離が好ましい。
【0025】
本発明の上記の組成範囲の酸化ナトリウム−酸化ホウ素−酸化ケイ素系相分離ガラスは、加熱処理や酸処理を行うことなく水洗処理のみを施すことにより、スピノーダル型の多孔質ガラスを得ることができる。
【0026】
多孔質ガラスの平均細孔径は、特に限定的でないが、1nmから1μmの範囲、特に2nmから0.5μmの範囲、さらには10nmから0.1μmであることが望ましい。多孔質ガラスの気孔率は、通常は10から90%、特に20から80%であることが望ましい。
多孔質ガラスの形状は、特に制限されず、例えば管状、板状等の膜状成形体が挙げられる。これらの形状は、多孔質ガラスの用途等に応じて適宜選択することができる。
【0027】
多孔質ガラスは、多孔構造を均一に制御でき、孔径を一定の範囲内で変化させることが可能なため、吸着剤、マイクロキャリア担体、分離膜、光学材料などの用途が期待される。
【実施例1】
【0028】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
各実施例および比較例の多孔質ガラスの評価は下記の方法で行った。
【0029】
(1)表面観察
走査電子顕微鏡(FE−SEMS−4800、日立製作所製)を用いて多孔質ガラスの表面観察(加速電圧;5kV、倍率;5万倍)を行った。
【0030】
実施例1
ガラス原料として、炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素を用い、それらをNaO:B:SiO=5:30:65(重量%)組成比で均一に混合し、1350から1450℃で加熱溶融し、その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状ガラスを得た。
【0031】
上記板状ガラスを約1cm角に切断した、5NaO・30B・65SiO(重量%)組成の母体ガラスを80℃に温めたイオン交換水中に3時間浸漬して多孔質ガラスを得た。得られた多孔質ガラスのガラス表面を電子顕微鏡観察した結果を図1に示す。図1より、スピノーダル型の多孔質構造が形成されていることがわかる。また、得られた
多孔質ガラスは吸水に伴う割れはみられなかった。
【実施例2】
【0032】
ガラス原料として、炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素を用い、それらをNaO:B:SiO=4.5:34:61.5(重量%)組成比で均一に混合し、1350から1450℃で加熱溶融し、その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状ガラスを得た。
【0033】
上記板状ガラスを約1cm角に切断した、4.5NaO・34B・61.5SiO(重量%)組成の母体ガラスを80℃に温めたイオン交換水中に3時間浸漬して多孔質ガラスを得た。得られた多孔質ガラスのガラス表面を電子顕微鏡観察したところ、実施例1と同様にスピノーダル型の多孔質構造が形成されていることがわかった。また、得られた多孔質ガラスは吸水に伴う割れはみられなかった。
【実施例3】
【0034】
ガラス原料として、炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素を用い、それらをNaO:B:SiO=6:27:67(重量%)組成比で均一に混合し、1350から1450℃で加熱溶融し、その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状ガラスを得た。
【0035】
上記板状ガラスを約1cm角に切断した、6NaO・27B・67SiO(重量%)組成の母体ガラスを80℃に温めたイオン交換水中に3時間浸漬して多孔質ガラスを得た。得られた多孔質ガラスのガラス表面を電子顕微鏡観察したところ、実施例1と同様にスピノーダル型の多孔質構造が形成されていることがわかった。また、得られた多孔質ガラスは吸水に伴う割れはみられなかった。
【0036】
[比較例1]
ガラス原料として、炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素を用い、それらをNaO:B:SiO=14:21:65(重量%)組成比で均一に混合し、1350から1450℃で加熱溶融し、その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状ガラスを得た。
【0037】
上記板状ガラスを約1cm角に切断した、14NaO・21B・65SiO(重量%)組成の母体ガラスを80℃に温めたイオン交換水中に3時間浸漬した。そうして得られたガラス表面を電子顕微鏡観察した結果を図2に示す。図2より、表面は若干荒れている様子はみられるものの多孔質化はみられず、スピノーダル型の多孔質構造が形成されていないことがわかる。
【0038】
[比較例2]
ガラス原料として、炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素を用い、それらをNaO:B:SiO=11:24:65(重量%)組成比で均一に混合し、1350から1450℃で加熱溶融し、その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状ガラスを得た。
【0039】
上記板状ガラスを約1cm角に切断した、11NaO・24B・65SiO(重量%)組成の母体ガラスを80℃に温めたイオン交換水中に3時間浸漬した。そうして得られたガラス表面を電子顕微鏡観察したところ、比較例1と同様に多孔質化はみられず、スピノーダル型の多孔質構造は形成されていなかった。
【0040】
[比較例3]
ガラス原料として、炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素、アルミナを用い、それらをNaO:B:SiO:Al=8:14:76:2(重量%)組成比で均一に混合し、1350から1450℃で加熱溶融し、その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状ガラスを得た。
上記板状ガラスを約1cm角に切断した、8NaO・14B・76SiO・2Al(重量%)組成の母体ガラスを80℃に温めたイオン交換水中に3時間浸漬した。そうして得られたガラス表面を電子顕微鏡観察したところ、比較例1と同様に多孔質化はみられず、スピノーダル型の多孔質構造は形成されていなかった。
【0041】
[比較例4]
ガラス原料として、炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素、アルミナを用い、それらをNaO:B:SiO:Al=14:14:70:2(重量%)組成比で均一に混合し、1350から1450℃で加熱溶融し、その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状ガラスを得た。
【0042】
上記板状ガラスを約1cm角に切断した、14NaO・14B・70SiO・2Al(重量%)組成の母体ガラスを80℃に温めたイオン交換水中に3時間浸漬した。そうして得られたガラス表面を電子顕微鏡観察したところ、比較例1と同様に多孔質化はみられず、スピノーダル型の多孔質構造は形成されていなかった。
【0043】
[比較例5]
ガラス原料として、炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素、アルミナを用い、それらをNaO:B:SiO:Al=9:30.5:59:1.5(重量%)組成比で均一に混合し、1350から1450℃で加熱溶融し、その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状ガラスを得た。
【0044】
上記板状ガラスを約1cm角に切断した、9NaO・30.5B・59SiO・1.5Al(重量%)組成の母体ガラスを80℃に温めたイオン交換水中に3時間浸漬した。そうして得られたガラス表面を電子顕微鏡観察したところ、比較例1と同様に多孔質化はみられず、スピノーダル型の多孔質構造は形成されていなかった。
【0045】
[比較例6]
ガラス原料として、炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素、アルミナを用い、それらをNaO:B:SiO:Al=4.5:19:75:1.5(重量%)組成比で均一に混合し、1350から1450℃で加熱溶融し、その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状ガラスを得た。
【0046】
上記板状ガラスを約1cm角に切断した、4.5NaO・19B・75SiO・1.5Al(重量%)組成の母体ガラスを80℃に温めたイオン交換水中に3時間浸漬した。そうして得られたガラス表面を電子顕微鏡観察したところ、比較例1と同様に多孔質化はみられず、スピノーダル型の多孔質構造は形成されていなかった。
【0047】
上記の実施例および比較例のNaO−B−SiOガラス組成を図3にまとめて示す。図中、Aは本発明のガラス組成の範囲を示す。なお、斜線の○の1から3の符号は実施例1から3を示し、白の○の1から6の符号は比較例1から6を示す。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の相分離ガラスおよびそれらから得られる多孔質ガラスは、分相化のための熱処理やエッチングのための酸処理工程を特に必要としない、安全でかつ簡素なプロセスで得られる多孔質ガラスである。よって、光学部材や分離材料など光学や精密、電子、食品工
業分野において極めて有用な材料として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ナトリウム−酸化ホウ素−酸化ケイ素系の相分離ガラスであって、酸化ナトリウム4重量%以上6.5重量%以下、酸化ホウ素26重量%以上36重量%以下、酸化ケイ素60重量%以上68重量%以下を含有することを特徴とする相分離ガラス。
【請求項2】
前記酸化ナトリウムの含有量は4.5重量%以上6重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の相分離ガラス。
【請求項3】
前記酸化ナトリウム、酸化ホウ素および酸化ケイ素の合計の含有量が、前記相分離ガラスの全体に対し99重量%以上100重量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の相分離ガラス。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の相分離ガラスを水洗処理して得られた多孔質ガラス。
【請求項5】
前記多孔質ガラスがスピノーダル型多孔構造を有していることを特徴とする請求項4記載の多孔質ガラス。
【請求項6】
前記水洗処理は50℃以上100℃以下の温度の水溶液に浸漬して行うことを特徴とする請求項4記載の多孔質ガラス。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−241130(P2011−241130A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116763(P2010−116763)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】