説明

省エネルギー膜ろ過システム

【課題】 温水洗浄排水の保有する熱エネルギーを有効利用することができる省エネルギー膜ろ過システムを提供する。
【解決手段】 原水をろ過するろ過膜を有する膜モジュール41,42と、膜モジュール内に温水を供給してろ過膜を洗浄する温水器6と、温水器から膜モジュールまでの間に設けられた逆洗浄ラインL6,L61,L62と、膜モジュールから排出される洗浄後の温排水が流れる温排水ラインL7,L71,L72と、温排水ライン内を流れる温排水と熱交換可能に設けられ、温排水が保有する熱エネルギーを電気エネルギーに変換するための熱電変換素子を有する熱電変換器7と、熱電変換器で得られた電気エネルギーを利用して駆動され、前記ろ過膜を洗浄する洗浄機器8と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、膜ろ過と洗浄を繰り返す運転サイクルにおいてエネルギーを有効利用する省エネルギー膜ろ過システムに関する。
【背景技術】
【0002】
膜ろ過システムでは、薬品洗浄や膜交換に要する費用を抑制するために、膜の表面に所定の温度で膨張/収縮や親水/疎水の可逆的変化を起こす温度応答性化合物を付加させ、膜表面あるいは膜孔内の付着物(ファウリング原因物質)を温水で洗浄して除去するようにしている。
【0003】
このようなろ過膜の温水洗浄技術は、例えば特許文献1などに記載されている。従来の温水洗浄プロセスでは、膜モジュールの保温ならびに洗浄の開始から終了に至るまで、膜モジュール管を一定温度に保つために大量の温水が消費される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−259945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の膜ろ過システムにおいては、容器内に膜モジュール管の束を積み重ねて充填する多重構造としていることから、それらの膜モジュール管の数に比例して消費される温水の量が増加する。洗浄処理に使用された後の温排水は温度が50℃以下と低いために、加熱炉システムや蒸気タービンシステムなどから排出される高温の排水と同様に熱利用することが困難である。そのため、ヒートポンプで加温した大量の温水洗浄用水が一回の洗浄操作限りでその保有する熱エネルギーとともに系外に排出されてしまい、多量の熱エネルギーが無駄に棄てられている。
【0006】
本発明は、温水洗浄排水の保有する熱エネルギーを有効利用することができる省エネルギー膜ろ過システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る省エネルギー膜ろ過システムは、原水をろ過するろ過膜を有する膜モジュールと、前記膜モジュール内に温水を供給して前記ろ過膜を洗浄する温水器と、前記温水器から前記膜モジュールまでの間に設けられた逆洗浄ラインと、前記膜モジュールから排出される洗浄後の温排水が流れる温排水ラインと、前記温排水ライン内を流れる温排水と熱交換可能に設けられ、前記温排水が保有する熱エネルギーを電気エネルギーに変換するための熱電変換素子を有する熱電変換器と、前記熱電変換器で得られた電気エネルギーを利用して駆動され、前記ろ過膜を洗浄する洗浄機器と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態の省エネルギー膜ろ過システムを示す構成ブロック図。
【図2】膜ろ過と洗浄の処理の繰り返しサイクルにおける圧力損失の変化を示す特性線図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を実施するための好ましい種々の形態を説明する。
【0010】
(1)本発明の実施形態に係る省エネルギー膜ろ過システムは、原水をろ過するろ過膜を有する膜モジュールと、前記膜モジュール内に温水を供給して前記ろ過膜を洗浄する温水器と、前記温水器から前記膜モジュールまでの間に設けられた逆洗浄ラインと、前記膜モジュールから排出される洗浄後の温排水が流れる温排水ラインと、前記温排水ライン内を流れる温排水と熱交換可能に設けられ、前記温排水が保有する熱エネルギーを電気エネルギーに変換するための熱電変換素子を有する熱電変換器と、前記熱電変換器で得られた電気エネルギーを利用して駆動され、前記ろ過膜を洗浄する洗浄機器と、を有することを特徴とする。
【0011】
本実施形態によれば、従来では棄てられていた温水洗浄排水の熱エネルギーを電気エネルギーに変換して回収し、この回収エネルギーをエネルギー源としてろ過膜の洗浄機器を駆動させ、システムの運転において有効利用することができる。
【0012】
(2)上記(1)の膜ろ過システムにおいて、洗浄機器は、熱電変換器で得られた電気エネルギーを利用して超音波を発振し、発振した超音波をろ過膜に伝播させてろ過膜を超音波洗浄する超音波発振器であることが好ましい。
【0013】
本実施形態によれば、電力消費量が比較的小さい超音波発振器を利用して大きな膜洗浄効果が得られる。超音波発振器は、小型で高性能の製品が低価格で入手容易に市販されるようになってきており、他の洗浄機器類(例えば噴霧ノズル等)と比べて消費電力が少ないことから、温水洗浄のような低温度の温排水(50℃以下、通常35〜50℃程度)から回収される小さいエネルギーを有効に利用することができる。とくに薬剤を使用しない温水洗浄に超音波洗浄を組み合わせることで、環境負荷がかからないという利点がある。なお、超音波洗浄において留意すべき点は、超音波発振器の振動子から発振される超音波がろ過膜に効率よく伝播されるように対象物に振動子を取り付けることにあるが、超音波を伝播する伝達媒体として温水は適しており、その点でも温水洗浄と超音波洗浄とを組み合わせることは大きなメリットがある。
【0014】
(3)上記(1)または(2)の膜ろ過システムにおいて、複数の前記膜モジュールを並列に接続してなる膜モジュール群と、前記膜モジュール群によりろ過処理された処理水を貯留する処理水槽と、前記処理水槽から前記温水器まで設けられた処理水供給ラインと、前記温水器に取り付けられ、前記処理水槽から前記処理水供給ラインを通って供給される処理水を加熱する電気ヒータと、をさらに有することが好ましい。
【0015】
膜モジュールの設置数が数十から数百に及ぶ大規模の膜ろ過システムでは、1つ1つの膜モジュールの温排水から回収できるエネルギー量は小さいが、それらの集合体である膜モジュール群から得られる回収エネルギー量は合計すると総量としてかなり大きなものとなるので、比較的定格容量の大きい電気機器のエネルギー補給源となりうる可能性がある。少なくとも太陽電池などの他の電気エネルギー生成源と本実施形態のエネルギー回収システムとを組み合わせて実機に適用することは可能である。このように本実施形態によれば、回収した電気エネルギーを温水洗浄用温水器の電気ヒータに利用することも可能になる。
【0016】
以下、添付の図面を参照して本発明を実施するための好ましい形態を説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の省エネルギー膜ろ過システム1は、原水槽2、ポンプP1、ストレーナ3、ろ過膜を有する複数の膜モジュール41,42、処理水槽5、温水器6、熱電変換器7、超音波発振器8、気体供給装置9および図示しない制御器、センサ、ポンプ、バルブ類を備えている。
【0018】
省エネルギー膜ろ過システム1の全体は、図示しない制御器により常時監視され、設定されたプロセス条件に従って定常運転され、大きな外乱が入ってきた場合であっても設定されたプロセス条件から大きく外れないように各部の動作が制御されて非定常状態から定常状態に戻され、図2に示すように定期的に及び/又は必要に応じて随時に膜モジュール内のろ過膜が温水洗浄されるようになっている。
【0019】
原水槽2は、下水処理、食品排水処理、薬品排水処理等において懸濁物質(水溶性有機物)を多量に含む排水(原水)を受け入れ、一時的に貯留しておくための貯槽タンクである。原水槽2の上方には図示しない凝集剤添加ホッパーが設けられ、凝集剤添加ホッパーから凝集剤が原水槽2内の原水に投入添加されるようになっている。原水槽2の底部には図示しないドレイン管が取り付けられ、凝集・沈殿した沈殿物が定期的に及び/又は随時に原水槽2から排出されるようになっている。
【0020】
原水槽2の出口は原水供給ラインL1に接続されている。原水供給ラインL1はポンプP1の吸込口に接続されている。ポンプP1の吐出口はストレーナ3の入口に接続されている。ストレーナ3の出口は前処理水供給ラインL2に接続され、前処理水供給ラインL2は2つのラインL21,L22に分岐している。2つの分岐ラインL21,L22は第1及び第2の膜モジュール41,42にそれぞれ接続されている。
【0021】
ストレーナ3は、原水に含まれる固形分(砂粒子、金属粒子、プラスチック片など)を分離除去するための前処理装置である。本実施形態ではストレーナを前処理装置に用いたが、前処理装置はこれのみに限定されるものではなく他の前処理装置として砂ろ過器などを用いてもよい。
【0022】
膜モジュール41,42は、多数の中空チューブ状のろ過膜を束ねた膜モジュールを内蔵している。第1及び第2の膜モジュール41,42は、ローテーション処理または同時並列処理するように運転制御されるものである。ローテーション運転では、図2に示すように第1及び第2の膜モジュール41,42の間でろ過と洗浄を交互に行う。同時並列運転では、第1及び第2の膜モジュール41,42において同時にろ過処理し、同時に膜を逆洗浄する。膜モジュール41,42の各々には透過水送水ラインL31,L32および逆洗浄ラインL61,L62がそれぞれ接続されている。
【0023】
処理水槽5は、第1及び第2の膜モジュール41,42からろ過膜を透過した透過水を透過水送水ラインL31,L32を介して受け入れ、一時的に貯留し、図示しない後工程の設備にラインL4を介して透過水を送り出し、また、透過水の一部をラインL5を介して温水器6に送り、温水器6で加熱して温水洗浄水とされるようにしている。
【0024】
温水器6は、処理水槽5から送られてきた透過水を加熱する電気ヒータ61を有し、加熱された温水を逆洗浄ラインL61,L62を介して膜モジュール41,42の各々に図示しないポンプ駆動により送水し、ろ過膜を逆洗浄するものである。電気ヒータ61は、処理水槽5内の水が60℃以上(好ましくは60〜70℃)に加熱する抵抗加熱方式の電気加熱機器である。膜モジュール41,42の各々には逆洗浄水排出ラインL71,L72が接続され、ろ過膜を逆洗浄した後の温排水が熱電変換器7に排出されるようになっている。
【0025】
熱電変換器7は、ビスマス・テルル系の熱電変換素子および充放電回路を有し、逆洗浄水排出ラインL71,L72から導入される温排水(50℃以下)が保有する顕熱を利用して熱電変換して電気エネルギーを生成し、生成した電気を充放電回路に充電し、必要に応じて随時放電する機能を有するものである。
【0026】
超音波発振器8は、膜モジュール41,42内のろ過膜に超音波が伝播されるように取り付けられた超音波振動子を有している。超音波発振器8の電源回路は熱電変換器7に接続されている。
【0027】
気体供給装置9は、膜の逆洗浄時に膜モジュール41,42内に気体を吹き込むものである。
【0028】
次に温水洗浄の対象となりうる種々のろ過膜について説明する。
【0029】
温水洗浄プロセスでは洗浄効果を高めるために、ろ過膜の表面に所定の温度で膨張/収縮や親水/疎水の可逆的変化を起こす温度応答性化合物を付加させ、温度応答性化合物を温水と接触させて可逆的変化を起こさせることにより、膜の細孔を拡張させ、細孔内や細孔周辺に付着したファウリング原因物質が離脱しやすいようにしている。
【0030】
このような機能性ろ過膜には、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、逆浸透膜(NF膜又はRO膜)などが用いられる。MF膜として例えばPTFE系のMF1,MF2(製品番号)、UF膜として例えばアセテートセルロース系のUF100,UF30(製品番号)、NF膜として例えばサルフォネイトポリサルフォン系のNTR7410(製品番号),NTR7430(製品番号),NTR7450(製品番号)およびポリエチルサルフォン系のPES10(製品番号)が用いられる。
【0031】
次にろ過プロセスを説明する。
【0032】
膜処理の前段プロセスの処理水を原水として膜ろ過システムへ供給する。膜供給ポンプP1より供給された原水は、ストレーナ3を経由して供給ラインL2を通流し、各膜モジュール41,42へ供給される。膜モジュール41,42で分離された処理水は、透過水ラインL3を通り、処理水槽5へ送られる。処理水槽5に貯留された処理水は、処理水供給ラインL4を通ってさらに次工程の処理槽(図示せず)に送られる。ここまでは定常運転時の膜ろ過プロセスである。
【0033】
次に洗浄プロセスを説明する。
【0034】
所定のろ過時間経過後、または膜モジュール41,42の膜が固形物や溶質などの付着により閉塞した場合、すなわちファウリングが発生した場合に、温水洗浄を実施する。温水洗浄プロセスでは、先ず処理水をヒータ61で加温し、逆洗浄水ラインL61,L62を介して透過側からろ過膜に温水を送る。さらに気体供給装置9の透過側から気体供給ラインL14を通ってエアを送り、温水洗浄を行う。
【0035】
膜モジュール管を所定の温度にするため、温水を用いて加温する。膜モジュール管から溢れる温水は、排水管から排水されるが、この間の熱交換器11にて排水から余熱エネルギーを回収し、電気エネルギーへ変換させる。その後、生成した電気エネルギーを利用して超音波発生器8から超音波を発振し、温水洗浄と同時並行にろ過膜を超音波洗浄を行う。
【0036】
温水洗浄/超音波洗浄の相乗作用により、膜モジュール管の洗浄効率が高まり、温水洗浄時間が短縮される。その結果、エネルギー消費時間の短縮化と使用温水量の低減化とが実現され、所望の省エネルギー効果が得られる。
【0037】
本実施形態の効果を説明する。
【0038】
排水中に残された熱エネルギーを回収し、電気エネルギーへ変換することが可能である。回収された電気エネルギーを利用して超音波発振器を駆動させ、温水洗浄と併せて超音波洗浄を施すことができるという利点がある。
【0039】
本実施形態では、先ず洗浄後に排出される大量の温水から熱エネルギーを回収し、回収した熱エネルギーを電気エネルギーへ変換させる。このようにして回収した電気エネルギーを利用して超音波を発生させる。発生した超音波を膜モジュール内のろ過膜に照射することで、温水洗浄のみに比べて洗浄効率が大幅に向上する。このように加温に関する熱エネルギーおよび洗浄に使用する温水の量を削減することができ、省エネルギー化を図ることができる。
【0040】
本実施形態によれば、電力消費量が比較的小さい超音波発振器を利用して大きな膜洗浄効果が得られる。超音波発振器は、小型で高性能の製品が低価格で入手容易に市販されるようになってきており、他の洗浄機器類(例えば噴霧ノズル等)と比べて消費電力が少ないことから、温水洗浄のような低温度の温排水(50℃以下、通常35〜50℃程度)から回収される小さいエネルギーを有効に利用することができる。とくに薬剤を使用しない温水洗浄に超音波洗浄を組み合わせることで、環境負荷がかからないという利点がある。なお、超音波洗浄において留意すべき点は、超音波発振器の振動子から発振される超音波がろ過膜に効率よく伝播されるように対象物に振動子を取り付けることにあるが、超音波を伝播する伝達媒体として温水は適しており、その点でも温水洗浄と超音波洗浄とを組み合わせることは大きなメリットがある。
【0041】
本発明によれば、温水洗浄プロセスで加温済みの排水から熱エネルギーを回収し、回収された熱エネルギーを電気エネルギーへ変換させることで、得られた電気エネルギーで超音波発生器に給電し、温水と併せて膜洗浄を行うことで、洗浄効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0042】
1…膜ろ過システム、2…原水槽、3…ストレーナ、
41,42…膜モジュール、
5…処理水槽、6…温水器、61…電気ヒータ、
7…熱電変換器、8…超音波発振器(洗浄機器)、9…気体供給装置、
P1…ポンプ、
L5…処理水供給ライン、
L6,L61,L62…逆洗浄ライン、
L7,L71,L72…温排水ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水をろ過するろ過膜を有する膜モジュールと、
前記膜モジュール内に温水を供給して前記ろ過膜を洗浄する温水器と、
前記温水器から前記膜モジュールまでの間に設けられた逆洗浄ラインと、
前記膜モジュールから排出される洗浄後の温排水が流れる温排水ラインと、
前記温排水ライン内を流れる温排水と熱交換可能に設けられ、前記温排水が保有する熱エネルギーを電気エネルギーに変換するための熱電変換素子を有する熱電変換器と、
前記熱電変換器で得られた電気エネルギーを利用して駆動され、前記ろ過膜を洗浄する洗浄機器と、
を有することを特徴とする省エネルギー膜ろ過システム。
【請求項2】
前記洗浄機器は、前記熱電変換器で得られた電気エネルギーを利用して超音波を発振し、発振した超音波を前記ろ過膜に伝播させて前記ろ過膜を超音波洗浄する超音波発振器であることを特徴とする請求項1記載の省エネルギー膜ろ過システム。
【請求項3】
複数の前記膜モジュールを並列に接続してなる膜モジュール群と、
前記膜モジュール群によりろ過処理された処理水を貯留する処理水槽と、
前記処理水槽から前記温水器まで設けられた処理水供給ラインと、
前記温水器に取り付けられ、前記処理水槽から前記処理水供給ラインを通って供給される処理水を加熱する電気ヒータと、
をさらに有することを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の省エネルギー膜ろ過システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−192321(P2012−192321A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57133(P2011−57133)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】