説明

真偽判定システム

【課題】 物品の真偽判定を行うにあたり、対象物に対して個別に識別コードを付与する等の処理を必要とせずに透明な対象物に対しても真偽判定が可能となる真偽判定システムを提供することを課題とする。
【解決手段】 特定の波長の光を円偏光の形で反射する光選択反射層を透明体に積層した真偽判定体10に、レーザ光照射部21からレーザを照射し、生じるスペックルパターンを撮像部22で取り込み、そのパターンを予め登録したパターンと比較照合することにより対象物の真偽を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身分証明証、会員証など本人認証のためのカード、あるいは物品あるいは物品の梱包に使われている梱包材、あるいは物品の識別のために付与されるタグ、シールなど真偽判定を必要とする物品の真偽判定を行うための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
身分証明証、会員証など本人認証のためのカード、あるいは工業製品の物品管理などの分野において、対象物の真偽判定を必要とする状況が少なからず存在する。このような真偽判定には、バーコードや2次元コードなどの光学的識別コードの付与、ICチップなど電磁気的な識別素子を付与する方法が用いられることが多い。
しかし、光学的識別コードを利用する場合は対象物に識別コードを個別に印字する、またICチップを利用する場合は対象物にICチップを埋め込む、あるいはICタグを付与するなど、対象物に対して何らかの処理を個別に行うことが必要であり、コストアップやデザイン上の制約が生じ、導入する際の障害になっていた。
【0003】
近年、新たに対象物の表面状態を検出して真偽判定に用いる技術が公開されている。
例えば、特許第3927326号(特許文献1)に示される技術は、対象物にレーザ光を照射し、その際に反射光として生じるスペックルパターンを検出し、認証に利用する技術である。
スペックルパターンは、レーザ光のようなコヒーレントな光が物体に照射された際に、物体の表面の凹凸によるランダム干渉により作り出される斑点状の模様(パターン)であるが、物体が同じ素材であっても対象物毎に異なるパターンを示す。そこで、予め同じ条件で対象物毎のパターンを測定しておき、被検物のパターンと予め測定したパターンを比較照合することにより真偽判定が可能となる。
特許文献1に記載の技術は、対象物に対し個別に印字やICチップを付加する必要がなく、対象物そのものの表面で判別するため、導入に際しての負荷が少ないことが特徴として挙げられる。
【特許文献1】特許第3927326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、レーザ光を照射した際の反射光を利用するため、対象物が透明な場合は適用できないという欠点がある。物品の外装材として透明な素材は広く利用されており、またIDカードでも意匠性を高めるために透明素材が用いられる場合もあるため、このような透明な素材で構成される物品(透明体)に対し、表面の意匠を損なうことなく、また識別のための素子等を付加することなく、真偽判定ができることは極めて有用である。
【0005】
そこで、本発明は、対象物に対して個別に識別コードを付与する等の処理を必要とせずに透明な対象物に対しても真偽判定が可能となるシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の真偽判定システムは、
レーザ光が物体に照射されたときに現れるスペックルパターンを利用した真偽判定システムであって、
真偽判定体表面の予め定められた照射域にレーザ光を照射するレーザ光照射部と、
前記照射域にレーザ光を照射して得られる固有のスペックルパターンを撮像する撮像部とからなる第1のスッペクルパターン検出手段と、
前記第1のスッペクルパターン検出手段から得られるスペックルパターン情報を、真偽判定体を特定する識別コードと関連付けて登録する登録手段と、
レーザ光照射部と撮像部からなる第2のスッペクルパターン検出手段から得られるスペックルパターン情報と前記登録手段に登録されたスペックルパターン情報とを照合する照合手段と
を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の真偽判定システムのレーザ光照射部は円偏光変換フィルタを備え、所定の偏光に変換されたレーザ光を真偽判定体表面に照射することを特徴とする。
さらに、上記撮像部は、円偏光選択フィルタを備え、所定偏光成分のレーザ光を撮像するようにしたことを特徴とする。
また、上記の照射域は、光選択反射層の表面の領域であることを特徴とする。
【0008】
本発明の真偽判定システムでは、レーザ光照射部と真偽判定体とを走査手段により相対的に移動させることで、前記走査域にレーザ光を照射し、前記照射域からのスペックルパターンをフォトセンサで検出することによりスペックルパターン情報を得る。
【0009】
また、本発明の真偽判定システムは、第1のスッペクルパターン検出手段と第2のスッペクルパターン検出手段と前記登録手段はネットワークを介して接続される形態であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の真偽判定システムによれば、判定対象とする対象物に対して、個別に識別コードの印字やICチップなどの判定のための素子等を付加することなく真偽判定のための比較照合が可能となる。特に、通常の手段では検出が困難な透明な対象物に対しても、透明性を損うことなく真偽判定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の真偽判定システムの構成図である。
本発明の真偽判定システム は、光選択反射層を持つ真偽判定体10と、真偽判定体10にレーザ光を照射し、反射したレーザ光が作るスペックルパターンを撮像するスッペクルパターン検出手段1(第1のスペックルパターン検出手段)、同1´(第2のスペックルパターン検出手段)、およびスペックルパターンの登録、照合などを行う真偽判定サーバ50からなり、図の例では、スッペクルパターン検出手段1、1´と真偽判定サーバ50とは、ネットワーク5を介して結ばれた形態としている。
【0012】
スッペクルパターン検出手段1、1´は、それぞれレーザ照射部21と撮像部22を持ち、検査対象物(被検体)上の真偽判定体10にレーザ光を照射し、光選択反射層から反射されるレーザ光が作るパターン(スペックルパターン)を撮像する。なお、スッペクルパターン検出手段1、1´に関しては、図3のようなスッペクルパターン検出装置20を例として後に詳述する。
【0013】
真偽判定サーバ50の登録手段51は、予め、IDコードのような被検体を特定できる識別コードとそのスペックルパターンを登録するためのもので、スッペクルパターン検出手段1からのパターンデータを、被検体のIDと紐付けしてデータ格納部53に格納する。予め全ての被検体について同様の手順を経て、被検体のIDとスペックルパターンを格納する。
【0014】
照合手段52は、真偽判定時に、未知の被検体のスペックルパターンと登録されたスペックルパターンを照合するためのものである。すなわち、未知の被検体をスッペクルパターン検出手段1´で測定し、得られたスッペクルパターンを照合手段52でパターンDB55のパターンと比較照合し、一致するものがあれば「真」、それ以外は「偽」と判定される。
なお、スッペクルパターン検出手段1と同1´は同一装置の場合もあるし、異なる装置となる場合もある。
【0015】
図2に本発明の真偽判定システムにおける真偽判定体の構造を示す。
真偽判定体10は、透明部材からなる基材11と光選択反射層12からなり、光選択反射層12は、入射光のうち所定の中心波長領域の左円偏光もしくは右円偏光のいずれか一方を反射し、残りは透過する特性を有する素材からなる層である。光選択反射層12は、上記中心波長領域以外の光を透過するため、目視では殆ど透明に見えるが、光選択反射層12の特性(円偏光の向き、波長)に合わせたレーザ光を照射すると光選択反射層12によってレーザ光は反射する。このとき、光選択反射層12の固有の状態に応じたスペックルパターンが生じるため、このパターンを検出し照合に用いることにより真偽判定を行うことができる。
【0016】
このような光選択反射層12の特性から、透明部材からなる基材11と光選択反射層12で構成された真偽判定体10は、透明性を持つ一方で、上記のように真偽判定に有効な光を選択的に反射する。すなわち、透明体に対する真偽判定が実現できる。なお、真偽判定体としては、少なくとも基材上の一部に光選択反射層12が形成されていればよい。また、基材11は、透明部材である必要はなく、不透明な部材であってもよいが、本発明の特徴である透明体の真偽判定には、基材に透明部材を用いるのが効果的である。
【0017】
光選択反射層12としては、例えばコレステリック液晶層が挙げられる。コレステリック液晶は所定の選択波長域を中心に左円偏光もしくは右円偏光のいずれか一方を反射する光選択反射性を有する。
コレステリック液晶による円偏光の生成および真偽判定への適用は、本発明と同一の出願人になる特開2000−25373号公報(特許文献2)などに詳説されている。
また、コレステリック液晶を透明基材に塗布、貼付などの方法で透明基材上に積層することにより、本発明で用いられる真偽判定体を得ることができる。コレステリック液晶の形成法は、特許文献2とともに、やはり同一出願人による特開2005−297499号公報(特許文献3)に詳説されている。
【特許文献2】特許第2000−25373号公報
【特許文献3】特許第2005−297499号公報
【0018】
また、透明部材としては、使用目的にもよるので、限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアリレート、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース、ポリエチレン/ビニルアルコール等の各種のプラスチック素材を例示することができる。
【0019】
図3にスッペクルパターン検出装置の構成を示す。
スッペクルパターン検出装置20は真偽判定体10にレーザ光を照射するためのレーザ光源21、および反射光によって生じるスペックルパターンを検出するための撮像部22からなる。レーザ光源の波長は光選択反射層12の選択反射域の中心波長に近いほど好ましい。
レーザ光源からのレーザ光に光選択反射層12で選定された同じ円偏光成分が含まれていればそのまま真偽判定体に照射しても良いが、円偏光変換フィルタ32を介して照射することにより、円偏光成分を増やすことができる。例えば、直線偏光を主成分とするレーザ光源から出る光を、図4(a)に示すような直線偏光板とλ/4板(位相板)による円偏光変換フィルタ32を入れることにより円偏光に変換することができる。
【0020】
位相板31は、複屈折を示す物質に光が通る際の進相軸と遅相軸での速度差から生じる位相の違いから「位相差」を生じさせる光学板である。λ/4板42は、同板を透過した光に1/4波長分(90度)の位相差が生じることを示し、直線偏光成分を円偏光に、また円偏光成分を直線偏光に変換する特性を持つ。
【0021】
反射光を検出するための撮像部22は、真偽判定体からの反射光をそのまま受けてもよいが、光選択反射層12が選択反射する円偏光成分と同じ円偏光成分を透過する円偏光選択フィルタ33を介して受けることが好ましい。円偏光選択フィルタ33を介すことにより、他の偏光成分から成る光が遮蔽されるため、真偽判定体からの反射光を効率よく検出することができる。
【0022】
図4(b)に円偏光選択フィルタ33の構成を示す。λ/4板42と直線偏光板41を適切に組み合わせることで右円偏光もしくは左円偏光成分を有する光のみを透過させることができる。なお、直線偏光板41は不要偏光成分を除去するためのものである。
図4は、λ/4板42と直線偏光板41を組み合せた円偏光フィルタを表したもので、図4(a)は直線偏光を円偏光に、また、図4(b)は円偏光を直線偏光に変換する様子を示す。
【0023】
撮像部22は、例えば二次元CCDのような撮像素子を用い、被検物を固定した状態で真偽判定体の所定の領域からのスペックルパターンを取り込むことができる。
上記の例は、レーザのスポット照射によるスペックルパターンを撮像するが、他に、撮像素子にフォトセンサのような素子を用いて、真偽判定体を動かすことにより一次元あるいは二次元の走査像として取り込み、このパターンで判定することも可能である。この場合は、真偽判定体の移動とともにレーザ光の照射位置も移動するため、スペックルパターンは連続的に変化し、したがってフォトセンサに入力する光は連続的に変化する。この変化のプロファイルを真偽判定に用いればよく、前記走査像は一次元であっても二次元であってもよい。
【0024】
図5は、真偽判定システムの動作フロー図である。図5(A)は、真偽判定のためのパターンの登録までのフローを、また、図5(B)は、未知パターンの照合判定のフローを示す。
図5(A)のパターン登録に当たっては、スペックルパターン検出手段1を用い、まず、検査箇所と決めた所定の検査域にレーザ光が照射されるよう、対象物をセットする(S51)。続いて、レーザ光照射部21で照射したレーザ光で生じるスペックルパターンを撮像部22により取り込む(S52)。取り込まれたスペックルパターンは、対象物固有の識別コードとともに真偽判定サーバ50に送られる(S53)。なお、識別コードとは、個々の対象物を特定できるものであればよく、例えば製造番号のようなものでもよい。
前記スペックルパターンと識別コードは、関連付けてデータ格納部53に記録される。
上記の手順を全ての対象物に対して繰り返すことにより(S55)、パターンデータDB55のようなデータベースが得られる。
【0025】
未知の対象物の判定に当たっては、スペックルパターン検出手段1´を用い、登録の際と同様に、同対象物をセットし、レーザ光を照射し(S61)、スッペクルパターンを取り込む(S62)。取り込まれたスッペクルパターンは、真偽判定サーバ50に送られ(S63)、照合手段52は、同スッペクルパターンとパターンデータDB55に格納されたパターンとを比較照合し(S64)、合致するものがあれば「真」、それ以外は「偽」と判定する(S65)。例えば、結果が「真」であれば、対応する識別コードとともに、結果を操作者等に通知すればよい。
【0026】
以上のように、円偏光とスペックルパターンを用いた本発明の真偽判定システムによれば、判定対象とする対象物に対して、個別に識別コードの印字やICチップなどの判定のための素子等を付加することなく真偽判定のための比較照合が可能となるのはもちろんのこと、特に、通常の手段では検出が困難な透明な対象物に対して、その対象物の透明性や意匠性を損なうことなく真偽判定が可能となる仕組みを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】真偽判定システムの構成図
【図2】真偽判定体の構成図
【図3】スッペクルパターン検出装置の構成図
【図4】円偏光フィルタの動作を示す図
【図5】真偽判定システムの動作フロー図
【符号の説明】
【0028】
1、1´ スッペクルパターン検出手段
5 ネットワーク
10 真偽判定体
11 基材
12 光選択反射層
20 スッペクルパターン検出装置
21 レーザ光照射部
22 撮像部
32 円偏光変換フィルタ
33 円偏光選択フィルタ
41 直線偏光板
42 λ/4板
50 真偽判定サーバ
51 登録手段
52 照合手段
53 データ格納部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペックルパターンを利用した真偽判定システムであって、
真偽判定体表面の予め定められた照射域にレーザ光を照射するレーザ光照射部と、
前記照射域にレーザ光を照射して得られる固有のスペックルパターンを撮像する撮像部とからなる第1のスッペクルパターン検出手段と、
前記第1のスッペクルパターン検出手段から得られるスペックルパターン情報を、真偽判定体を特定する識別コードと関連付けて登録する登録手段と、
レーザ光照射部と撮像部からなる第2のスッペクルパターン検出手段から得られるスペックルパターン情報と前記登録手段に登録されたスペックルパターン情報とを照合する照合手段と
を備えたことを特徴とする真偽判定システム。
【請求項2】
前記レーザ光照射部は円偏光変換フィルタを備え、所定の偏光に変換されたレーザ光を真偽判定体表面に照射することを特徴とする請求項1記載の真偽判定システム。
【請求項3】
前記撮像部は、円偏光選択フィルタを備え、所定偏光成分のレーザ光を撮像するようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の真偽判定システム。
【請求項4】
前記照射域は、光選択反射層の表面の領域であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の真偽判定システム。
【請求項5】
前記レーザ光照射部と真偽判定体とを走査手段により相対的に移動させることで、前記走査域にレーザ光を照射し、前記照射域からのスペックルパターンをフォトセンサで検出してスペックルパターン情報を得ることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の真偽判定システム。
【請求項6】
前記第1のスッペクルパターン検出手段と前記第2のスッペクルパターン検出手段と前記登録手段はネットワークを介して接続されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の真偽判定システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−152739(P2010−152739A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331328(P2008−331328)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】