説明

真核生物における全長抗体の表面提示

酵母及び糸状菌を含む真核宿主細胞の表面に組換え全長免疫グロブリン又は免疫グロブリンライブラリーを提示するための方法について記載する。前記方法は該当抗原に特異的な免疫グロブリンを同定するために真核宿主細胞で組換えグロブリンのライブラリーをスクリーニングするのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は哺乳動物、植物、酵母及び糸状菌細胞を含む真核宿主細胞の表面に全長免疫グロブリン又は免疫グロブリンライブラリーを提示するための方法に関する。前記方法は目的の性質をもつ特定の免疫グロブリンを同定するために組換えグロブリンを産生する真核宿主細胞のライブラリーをスクリーニングするのに有用である。前記方法は該当免疫グロブリンを高レベルで発現する宿主細胞と、特定抗原に対して高い親和性をもつ免疫グロブリンを発現する宿主細胞を同定するために真核宿主細胞で免疫グロブリンライブラリーをスクリーニングするのに特に有用である。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体の発見はヒトcDNA又は合成DNAライブラリーから抗体の選択を行うために抗体を作製するハイブリドーマ技術から生まれた。これは抗体の効力を改善するために抗体の結合親和性及び特異性の改善を図る要望によっても進められている。そこで、コンビナトリアルライブラリースクリーニング及び選択法は蛋白質の認識特性を改変させる一般的なツールとなっている(Ellman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:2779−2782(1997);Phizicky & Fields,Microbiol.Rev.59:94−123(1995))。抗体ライブラリーをインビトロ構築及びスクリーニングできるならば、抗体−抗原相互作用の強度と特異性の制御を改善できると期待される。
【0003】
抗体ライブラリーを構築及びスクリーニングする技術として最も広く知られているのは、該当蛋白質をバクテリオファージコート蛋白質とのポリペプチド融合体として発現させた後に、固相化又は可溶性ビオチン化リガンドと結合することによりスクリーニングするファージディスプレイ法である。ファージの先端に3〜5コピー存在する遺伝子III蛋白質(pIII)と呼ばれるマイナーコート蛋白質との融合体を作製するのが最も一般的である。こうして構築されたファージは表現型(提示される抗体の結合活性)と遺伝子型(該当抗体をコードする遺伝子)の両方を1つのパッケージに併有するコンパクトな遺伝子「単位」とみなすことができる。ファージディスプレイ法は抗体、DNA結合性蛋白質、プロテアーゼ阻害剤、短鎖ペプチド及び酵素への適用に成功している(Choo & Klug,Curr.Opin.Biotechnol.6:431−436(1995);Hoogenboom,Trends Biotechnol.15:62−70(1997);Ladner,Trends Biotechnol.13:426−430(1995);Lowman et al.,Biochemistry 30:10832−10838(1991);Markland et al.,Methods Enzymol.267:28−51(1996);Matthews & Wells,Science 260:1113−1117(1993);Wang et al.,Methods Enzymol.267:52−68(1996))。
【0004】
「パンニング」と呼ばれる方法で固相化抗原と結合することにより望ましい結合特性をもつ抗体を選択する。非特異的抗体をもつファージを洗浄により除去した後、結合したファージを溶出させ、大腸菌の感染により増幅する。多数の抗原に対する抗体を作製するためにこのアプローチが適用されている。
【0005】
しかし、ファージディスプレイ法にはいくつかの欠点がある。抗体ファージディスプレイライブラリーのパンニングは強力な技術であるが、その広範な適用の成功を阻むいくつかの固有の欠点がある。例えば、真核生物の分泌型蛋白質と細胞表面蛋白質には細菌細胞では得られないグリコシル化や大規模なジスルフィド異性化等の翻訳後修飾を必要とするものがある。更に、ファージディスプレイ法の性質により、リガンド結合パラメーターの定量的な直接識別が不可能である。例えば、非常に強い抗体−抗原相互作用を停止させるために必要な溶出条件は一般にファージ粒子が非感染性に変性するほど苛酷(例えば低pH、高塩)であるため、非常に高親和性の抗体(Kd≦1nM)をパンニングにより単離することは困難である。
【0006】
更に、抗原を固相表面に物理的に固相化する必要があるため、多くの技術的問題が生じる。例えば、抗原表面密度が高いと、アビディティー効果を生じ、真の親和性が得られなくなる。また、物理的な繋留により抗原の並進及び回転エントロピーが低下し、抗体結合後にDSが低下し、その結果、可溶性抗原に対するよりも結合親和性が過大評価され、混合及び洗浄工程での変動の影響も大きいため、再現性に問題が生じる。更に、ファージ1粒子当たり1〜数個の抗体しか存在しないため、実質的な確率的変動が生じ、同様の親和性の抗体間の区別が不可能になる。例えば、効率的な区別には6倍以上の親和性の差が必要になることが多い(Riechmann & Weill,Biochem.32:8848−55(1993))。最後に、より迅速に増殖する野生型ファージにより集団が追い越される可能性がある。特に、pIIIはファージ生活環に直接関与するので、所定の抗体又は結合抗原の存在は結合したファージの増幅を妨げたり、遅らせるであろう。
【0007】
他の細菌細胞表面提示法も開発されている(Francisco,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:10444−10448(1993);Georgiou et al.,Nat.Biotechnol.15:29−34(1997))。しかし、原核発現系を使用すると、予想外の発現バイアスが生じる場合があり(Knappik & Pluckthun,Prot.Eng.8:81−89(1995);Ulrich et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:11907−11911(1995);Walker & Gilbert,J.Biol.Chem 269:28487−28493(1994))、細菌莢膜多糖層は拡散バリヤーとなり、このような系を小分子リガンドに制限する(Roberts,Annu.Rev.Microbiol.50:285−315(1996))。大腸菌は巨大分子結合反応の立体障害となり得るリポ多糖層又は莢膜をもつ。実際に、細菌莢膜の生理的機能は細胞を免疫系から保護するために、細胞膜への巨大分子拡散の制限であると推定される(DiRienzo et al.,Ann.Rev.Biochem.47:481−532,(1978))。大腸菌のペリプラズムは抗体フラグメントのフォールディング及びアセンブリ用の区画として進化していないので、大腸菌における抗体の発現は一般に非常にクローン依存的であり、クローンによって十分に発現するものと、全く発現しないものがある。このような変動は大腸菌の表面に発現される抗体ライブラリー中の可能な全配列の均等な提示に関する問題を生じる。更に、ファージディスプレイ法は抗体の特異性又は親和性を変化させることができるグリコシル化等の所定の重要な翻訳後修飾を実施できない。循環モノクローナル抗体の約3分の1は可変領域に1個以上のN−結合型グリカンを含む。場合により、可変領域におけるこれらのN−グリカンは抗体機能に重要な役割を果たすと考えられる。
【0008】
モノクローナル抗体治療薬の効率的な生産は酵母細胞等の下等真核細胞を利用する代替試験システムの開発により助長されると思われる。B細胞提示抗体と酵母細胞提示抗体の構造的類似性により、糸状菌ファージで得られるよりも密接なインビボ親和性成熟との類似が得られる。特に、下等真核細胞はグリコシル化蛋白質を産生することができるが、糸状菌ファージは産生できないので、下等真核宿主細胞で産生されるモノクローナル抗体は下等真核宿主細胞を利用する試験システムでそうであるように、ヒト及び他の哺乳動物でも同様の活性を示す可能性が高い。
【0009】
更に、酵母では増殖培養が容易で遺伝子操作も簡単なため、大きな集団を迅速に突然変異誘発及びスクリーニングすることが可能になろう。哺乳動物体内における条件との対比により、抗体操作実験の自由度を更に増すように広範なpH、温度及びイオン強度内で酵母培養に合わせて結合及び選択の物理化学的条件を変えることができる。コンビナトリアル蛋白質ライブラリーのスクリーニング用の酵母表面提示システムの開発については記載されている。
【0010】
米国特許第6,300,065号及び6,699,658号はコンビナトリアル抗体ライブラリーのスクリーニング用の酵母表面提示システムと、抗体−抗原解離速度に基づくスクリーニング法の開発について記載している。このシステムは突然変異誘発法を使用して酵母細胞壁蛋白質と融合した抗体又は抗体フラグメントを発現するベクターを酵母にトランスフェクトし、抗体又は抗体フラグメントの突然変異体の多様化集団を作製した後に、望ましい高い表現型特性をもつ抗体又は抗体フラグメントを産生する細胞をスクリーニング及び選択する。米国特許第7,132,273号は各種酵母細胞壁アンカー蛋白質と、外来酵素又はポリペプチドを細胞壁に固相化するためにこれらの蛋白質を使用する表面発現システムを開示している。
【0011】
注目すべきものとしては、Flo1pアンカーシステムを使用したPichia pastoris細胞表面提示システムの構築を開示するTanino et al.,Biotechnol.Prog.22:989−993(2006);Flo1pアンカーシステムを使用したPichia pastoris細胞表面提示システムにおけるアデノレグリンの提示を開示するRen et al.,Molec.Biotechnol.35:103−108(2007);S.cerevisiae α−アグルチニンのC末端側半分に融合したK.lactis黄色酵素の提示を開示するMergler et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.63:418−421(2004);α−アグルチニンを使用したPichia pastorisの表面への蛋白質の提示を開示するJacobs et al.,Abstract T23,Pichia Protein expression Conference,San Diego,CA(October 8−11,2006);特定のレクチンと結合する蛋白質を同定するための酵母提示システムの使用を開示するRyckaert et al.,Abstracts BVBMB Meeting,Vrije Universiteit Brussel,Belgium(December 2,2005);分泌される産物と結合する捕捉部分を細胞表面に固定した後に検出手段を使用して同定することにより、細胞により分泌される産物に基づいて細胞を同定する方法を開示する米国特許第7,166,423号;特定の抗体を発現する細胞を同定するために細胞の表面にプロテインA又はGを結合するためのビオチン−アビジンシステムを開示する米国特許出願公開第2004/0219611号;表面捕捉部分と蛋白質を細胞中で発現させ、捕捉部分と蛋白質の複合体を形成させ、細胞の表面に提示させることにより、特定蛋白質を発現する細胞を同定する方法を開示する米国特許第6,919,183号;細胞中で発現される細胞壁蛋白質と融合した結合性蛋白質から構成される融合蛋白質を使用して酵母又は真菌の表面に蛋白質を固相化する方法を開示する米国特許第6,114,147号が挙げられる。
【0012】
癌治療、腫瘍画像診断、敗血症等のヒト疾患の診断及び治療用の抗体を工学的に設計する潜在的用途は遠大である。これらの用途では、高い親和性(即ちKd≦10nM)と高い特異性をもつ抗体が非常に望ましい。事例証拠と上記演繹的考察によると、ファージディスプレイ又は細菌提示システムはナノモル未満の親和性の抗体を安定して作製しにくいと思われる。また、ファージディスプレイ又は細菌提示システムを使用して同定された抗体を真核細胞で商業的規模の生産に利用することも難しそうである。今日までに、このような目的を達成することができるシステムは開発されておらず、使用もされていない。
【0013】
従って、有効な蛋白質提示により免疫グロブリンの組換え生産用の遺伝的に強化された細胞の開発を助長するような改良型ベクター及び宿主細胞株に基づく別の蛋白質発現システムの開発が望ましい目標である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6,300,065号明細書
【特許文献2】米国特許第6,699,658号明細書
【特許文献3】米国特許第7,132,273号明細書
【特許文献4】米国特許第7,166,423号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0219611号明細書
【特許文献6】米国特許第6,919,183号明細書
【特許文献7】米国特許第6,114,147号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Ellman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:2779−2782(1997)
【非特許文献2】Phizicky & Fields,Microbiol.Rev.59:94−123(1995)
【非特許文献3】Choo & Klug,Curr.Opin.Biotechnol.6:431−436(1995)
【非特許文献4】Hoogenboom,Trends Biotechnol.15:62−70(1997)
【非特許文献5】Ladner,Trends Biotechnol.13:426−430(1995)
【非特許文献6】Lowman et al.,Biochemistry 30:10832−10838(1991)
【非特許文献7】Markland et al.,Methods Enzymol.267:28−51(1996)
【非特許文献8】Matthews & Wells,Science 260:1113−1117(1993)
【非特許文献9】Wang et al.,Methods Enzymol.267:52−68(1996)
【非特許文献10】Riechmann & Weill,Biochem.32:8848−55(1993)
【非特許文献11】Francisco,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:10444−10448(1993)
【非特許文献12】Georgiou et al.,Nat.Biotechnol.15:29−34(1997)
【非特許文献13】Knappik & Pluckthun,Prot.Eng.8:81−89(1995)
【非特許文献14】Ulrich et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:11907−11911(1995)
【非特許文献15】Walker & Gilbert,J.Biol.Chem 269:28487−28493(1994)
【非特許文献16】Roberts,Annu.Rev.Microbiol.50:285−315(1996)
【非特許文献17】DiRienzo et al.,Ann.Rev.Biochem.47:481−532,(1978)
【非特許文献18】Tanino et al.,Biotechnol.Prog.22:989−993(2006)
【非特許文献19】Ren et al.,Molec.Biotechnol.35:103−108(2007)
【非特許文献20】Mergler et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.63:418−421(2004)
【非特許文献21】Jacobs et al.,Abstract T23,Pichia Protein expression Conference,San Diego,CA(October 8−11,2006)
【非特許文献22】Ryckaert et al.,Abstracts BVBMB Meeting,Vrije Universiteit Brussel,Belgium(December 2,2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本願の提示システムの最も強力な用途の1つは免疫グロブリン工学の領域におけるその使用である。結合特異性及び親和性の明白な低下を生じずに下等真核宿主細胞の表面にscFv抗原結合単位を発現させることができることが分かっている(例えば米国特許第6,300,065号参照)。例えばハイブリドーマとCHO細胞の表面に全長抗体を捕捉及び結合できることも分かっている(米国特許第6,919,183号及び7,166,423号参照)。ファージディスプレイ技術を使用して多数の多様な抗原に対する抗体及びそのフラグメントの単離に成功しているが、真核宿主細胞、特に下等真核宿主細胞で免疫グロブリンを作製するための堅牢な提示システムが依然として必要とされている。ヒト様グリコシル化パターンをもつ免疫グロブリンを作製するための堅牢な提示システムを得ることが特に望ましい。種々のヒト様グリコシル化パターンをもつ糖蛋白質を産生する遺伝子組換え真核細胞が米国特許第7,029,872号と、例えばChoi et al.,Hamilton,et al.,Science 313;1441 1443(2006);Wildt and Gerngross,Nature Rev.3:119−128(2005);Bobrowicz et al.,GlycoBiol.757−766(2004);Li et al.,Nature Biotechnol.24:210−215(2006);Chiba et al.,J.Biol.Chem.273:26298−26304(1998);及びMara et al.,Glycoconjugate J.16:99−107(1999)に記載されている。
【0017】
本願に開示する方法はグリコシル化経路を変更又は改変するように宿主細胞が遺伝子操作されている場合に細胞の表面に特定のグリコシル化パターンをもつ全長免疫グロブリンの非常に多様なレパートリーを提示できるため、この用途に特に適している。多くの点で、本願の提示システムは天然免疫系に似ている。クローン化抗体H及びL鎖のディスプレイライブラリーから高親和性で結合するものを選択することにより抗原刺激を行うことができる。DNA及び蛋白質としてのクローン化H及びL鎖のシャフリングと部位特異的組換えの使用により、発生中のB細胞におけるH及びL鎖遺伝子の組換え中に生じる多数の鎖置換に似せることができる(Geoffory et al.Gene 151:109−113(1994))。H及びL鎖のCDR領域に突然変異を導入することにより体細胞突然変異と同様の変異を生じることもできる。
【0018】
「パンニング」と呼ばれる方式の親和性選択を使用して望ましい結合特異性又は親和性をもつ免疫グロブリンを同定することができる(Parmley & Smith,Gene 73:305−318(1988))。まず免疫グロブリンのライブラリーを該当抗原の存在下でインキュベートした後に免疫グロブリンと結合した抗原を捕捉する。こうして回収した免疫グロブリンを次に増幅し、再び抗原と結合するものを選択し、該当抗原と結合する免疫グロブリンを増加する。1ラウンド以上の選択で望ましい特異性又はアビディティーをもつ抗体又はそのフラグメントの単離が可能になろう。従って、1回の実験で10を上回る別個の抗体から望ましい抗体又はそのフラグメントを発現する希少な宿主細胞を容易に選択することができる。その後、個々の宿主細胞クローンのヌクレオチド配列により結合免疫グロブリンの一次構造を推定する。提示される免疫グロブリンでヒトVH及びVL領域を使用する場合には、本願の提示システムは非ヒト免疫グロブリンを新たに操作せずにヒト免疫グロブリンの選択を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
従って、1態様では、該当免疫グロブリンを発現する真核宿主細胞の作製方法を提供し、本方法は、第1の調節性プロモーターと機能的に連結された免疫グロブリンと特異的に結合することが可能な結合部分と融合した細胞表面アンカー蛋白質を含む捕捉部分をコードする第1の核酸分子を含む宿主細胞を準備する段階と;免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の遺伝的に多様な集団をコードする複数の核酸分子(ここで、重鎖又は軽鎖をコードする核酸分子の少なくとも一方は第2の調節性プロモーターと機能的に連結されている)を宿主細胞にトランスフェクトし、免疫グロブリンをその表面に提示することが可能な複数の遺伝的に多様な宿主細胞を作製する段階と;宿主細胞の表面に捕捉部分を産生するために十分な時間にわたって捕捉部分をコードする第1の核酸分子の発現を誘導する段階と;宿主細胞において捕捉部分をコードする第1の核酸分子の発現を阻害し、免疫グロブリンをコードする核酸分子の発現を誘導し、細胞の表面に該当免疫グロブリンを提示する宿主細胞を作製する段階を含む。他の側面において、前記方法は更に、その表面に提示される該当免疫グロブリンと特異的に結合する検出手段と宿主細胞を接触させる段階と;検出手段が結合した宿主細胞を単離し、該当免疫グロブリンを発現する宿主細胞を選択する段階を含む。
【0020】
別の態様では、該当免疫グロブリンを発現する真核宿主細胞の作製方法を提供し、本方法は、第1の調節性プロモーターと機能的に連結された免疫グロブリンと特異的に結合することが可能な結合部分と融合した細胞表面アンカー蛋白質を含む捕捉部分をコードする第1の核酸分子を含む宿主細胞を準備する段階と;免疫グロブリンをコードする1個以上の第2の核酸分子(ここで、重鎖又は軽鎖をコードする分子のいずれかは第2の調節性プロモーターと機能的に連結されている)を宿主細胞にトランスフェクトし、突然変異誘発法を使用して免疫グロブリンの突然変異体の多様化集団をコードする複数の宿主細胞を作製する段階と;宿主細胞の表面に捕捉部分を産生するために十分な時間にわたって捕捉部分の発現を誘導する段階と;宿主細胞において捕捉部分の発現を阻害し、免疫グロブリンの突然変異体の多様化集団の発現を誘導する段階と;該当免疫グロブリンと結合する検出手段と前記複数の宿主細胞を接触させ、該当免疫グロブリンをその表面に提示する宿主細胞を前記複数の宿主細胞中で同定する段階を含む。他の態様において、前記方法は更に、その表面に該当免疫グロブリンを提示する宿主細胞を単離し、該当免疫グロブリンを発現する宿主細胞を作製する段階を含む。
【0021】
別の態様では、該当免疫グロブリンを発現する真核宿主細胞の作製方法を提供し、本方法は、第1の調節性プロモーターと機能的に連結された免疫グロブリンと特異的に結合することが可能な結合部分と融合した細胞表面アンカー蛋白質を含む捕捉部分をコードする第1の核酸分子を含む宿主細胞を準備する段階と;免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖をコードする1個以上の核酸分子(ここで、核酸分子をコードする重鎖又は軽鎖の少なくとも一方は第2の調節性プロモーターと機能的に連結されている)を宿主細胞にトランスフェクトし、免疫グロブリンの突然変異体の多様化集団をコードする複数の宿主細胞を作製する段階と;宿主細胞の表面に捕捉部分を産生するために十分な時間にわたって捕捉部分の発現を誘導する段階と;宿主細胞において捕捉部分の発現を阻害し、免疫グロブリンの突然変異体の多様化集団の発現を誘導し、宿主細胞を作製する段階を含む。他の態様において、前記方法は更に、該当免疫グロブリンと結合する検出手段と宿主細胞を接触させ、該当免疫グロブリンをその表面に提示する宿主細胞を同定する段階と;該当免疫グロブリンをその表面に提示する宿主細胞を単離し、該当免疫グロブリンを発現する宿主細胞を作製する段階を含む。
【0022】
別の態様では、該当免疫グロブリンを発現する真核宿主細胞の作製方法を提供し、本方法は、第1の調節性プロモーターと機能的に連結された免疫グロブリンと特異的に結合することが可能な結合部分と融合した細胞表面アンカー蛋白質を含む捕捉部分をコードする第1の核酸分子を含む宿主細胞を準備する段階と;免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の遺伝的に多様な集団をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含む複数の核酸分子(ここで、捕捉部分が重鎖と結合する場合には、少なくとも重鎖をコードするORFは第2の調節性プロモーターと機能的に連結されており、あるいは捕捉部分が軽鎖と結合する場合には、少なくとも軽鎖をコードするORFは第2の調節性プロモーターと機能的に連結されている)を宿主細胞にトランスフェクトし、免疫グロブリンをその表面に提示することが可能な複数の遺伝的に多様な宿主細胞を作製する段階と;宿主細胞の表面に捕捉部分を産生するために十分な時間にわたって捕捉部分をコードする核酸分子の発現を誘導する段階と;宿主細胞において捕捉部分をコードする核酸分子の発現を阻害し、免疫グロブリンをコードする核酸分子の発現を誘導し、宿主細胞を作製する段階を含む。他の態様において、前記方法は更に、宿主細胞の細胞表面に提示される該当免疫グロブリンと特異的に結合する検出手段と宿主細胞を接触させる段階と;検出手段が結合した宿主細胞を単離し、該当免疫グロブリンを発現する宿主細胞を選択する段階を含む。
【0023】
別の態様では、VHドメインとVLドメインをもち、更に該当抗原に対する結合特異性を備える抗原結合部位をもつ免疫グロブリンを産生する真核宿主細胞の作製方法を提供し、本方法は、(a)VHドメインとVLドメインを含む免疫グロブリンをその表面に提示する真核宿主細胞のライブラリーを準備する段階(ここで、前記ライブラリーは、(i)免疫グロブリンと結合することが可能な部分と融合した細胞表面アンカー蛋白質を含む捕捉部分を発現する真核宿主細胞(ここで、捕捉部分の発現は第1の調節性プロモーターにより行われる)を準備し;(ii)免疫グロブリンの遺伝的に多様な集団をコードする核酸分子のライブラリーを宿主細胞にトランスフェクトし、各々免疫グロブリンを発現する複数の宿主細胞を作製する(ここで、免疫グロブリンの遺伝的に多様な集団のVHドメインは1種以上のVH遺伝子ファミリーに対して正のバイアスを示し、免疫グロブリンの重鎖又は軽鎖の少なくとも一方の発現は第2の調節性プロモーターにより行われる)ことにより作製される)と;(b)宿主細胞の表面に捕捉部分を産生するために十分な時間にわたって宿主細胞において捕捉部分の発現を誘導する段階と;(c)宿主細胞において捕捉部分の発現を阻害し、核酸配列のライブラリーの発現を誘導し、各宿主細胞にその表面に免疫グロブリンを提示させ、宿主細胞を作製する段階を含む。他の態様において、前記方法は更に、(d)複数の宿主細胞を該当抗原と接触させ、その表面に提示された免疫グロブリンと該当抗原を結合させた宿主細胞を検出することにより、該当抗原に対して結合特異性をもつ免疫グロブリンをその表面に提示する宿主細胞を前記複数の宿主細胞中で同定し、VHドメインとVLドメインをもち、更に該当抗原に対する結合特異性を備える抗原結合部位をもつ免疫グロブリンを産生する宿主細胞を作製する段階を含む。
【0024】
上記態様の別の側面において、免疫グロブリンは合成ヒト免疫グロブリンVHドメインと合成ヒト免疫グロブリンVLドメインを含み、合成ヒト免疫グロブリンVHドメインと合成ヒト免疫グロブリンVLドメインはフレームワーク領域と超可変ループを含み、フレームワーク領域とVHドメイン及びVLドメインの両方の最初から2個の超可変ループは本質的にヒト生殖細胞系列であり、VHドメインとVLドメインは改変型CDR3ループをもつ。上記態様の別の側面において、改変型CDR3ループをもつことに加えて、ヒト合成免疫グロブリンVH及びVLドメインは他のCDRループにも突然変異を含む。上記態様の更に別の側面において、各ヒト合成免疫グロブリンVHドメインCDRループはランダム配列であり、上記態様の更に別の側面において、ヒト合成免疫グロブリンVHドメインCDRループは公知標準構造であり、ランダム配列成分を含む。
【0025】
別の態様では、調節性プロモーターと機能的に連結された免疫グロブリンと結合することが可能な結合部分と融合した細胞表面アンカー蛋白質を含む捕捉部分をコードする核酸分子と、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖をコードする1個以上の核酸分子を含む真核宿主細胞を提供し、重鎖又は軽鎖をコードする核酸分子の少なくとも一方は第2の調節性プロモーターと機能的に連結されている。特定態様では、重鎖及び軽鎖の両方をコードする核酸分子が第2の調節性プロモーターと機能的に連結されている。他の態様では、重鎖をコードする核酸分子が第2の調節性プロモーターと機能的に連結されており、軽鎖をコードする核酸分子が第3の調節性プロモーター又は構成的プロモーターと機能的に連結されている。他の態様では、軽鎖をコードする核酸分子が第2の調節性プロモーターと機能的に連結されており、重鎖をコードする核酸分子が第3の調節性プロモーター又は構成的プロモーターと機能的に連結されている。特定側面において、重鎖と軽鎖は別々のオープンリーディングフレーム(ORF)によりコードされ、各ORFはプロモーターと機能的に連結されている。他の側面において、重鎖と軽鎖は単一のORFによりコードされ、タンデム配置の重鎖と軽鎖を含む単一の融合ポリペプチドとなり、ORFは調節性プロモーターと機能的に連結されている。単一のポリペプチドは重鎖と軽鎖に開裂可能であり、別々の重鎖及び軽鎖蛋白質となり、その後、会合して機能性抗体分子を形成することができる。
【0026】
上記態様又は側面のいずれか1種の各種側面において、免疫グロブリンと結合する結合部分は免疫グロブリンのFc領域と結合する。このような結合部分の例としては、限定されないが、プロテインA、プロテインA ZZドメイン、プロテインG及びプロテインL、並びに免疫グロブリンとの結合能を維持するそのフラグメントから構成される群から選択されるものが挙げられる。他の結合部分の例としては、限定されないが、Fc受容体(FcR)蛋白質とその免疫グロブリン結合性フラグメントが挙げられる。FCR蛋白質としては、γ免疫グロブリン(IgG)と結合するFcγ受容体(FcγR)ファミリー、ε免疫グロブリン(IgE)と結合するFcε受容体(FcεR)ファミリー、及びα免疫グロブリン(IgA)と結合するFcα受容体(FcαR)ファミリーのメンバーが挙げられる。IgGと結合し、本願の結合部分を構成することができる特定のFcR蛋白質としては、FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB1、FcγRIIB2、FcγRIIIA、FcγRIIIB又はFcγRn(新生児)の少なくともIgG結合領域が挙げられる。
【0027】
上記態様又は側面のいずれか1種の他の側面において、検出手段は該当免疫グロブリンと結合することが可能な抗原である。特定側面では、抗原を蛍光部分と共役ないし蛍光部分で標識する。他の側面において、検出手段は更に免疫グロブリン−抗原複合体に特異的であるか又は抗原上の別のエピトープに特異的な検出用免疫グロブリンを含み、この検出用免疫グロブリンを蛍光部分等の検出部分と共役ないし前記部分で標識する。
【0028】
上記態様又は側面のいずれか1種の他の側面において、細胞表面アンカー蛋白質はグリコシルホスファチジルイノシトール係留型(GPI)蛋白質である。特定側面において、細胞表面アンカー蛋白質はα−アグルチニン、Cwp1p、Cwp2p、Gas1p、Yap3p、Flo1p、Crh2p、Pir1p、Pir4p、Sed1p、Tip1p、Wpip、Hpwp1p、Als3p及びRbt5pから構成される群から選択される。他の側面において、細胞表面アンカー蛋白質はSed1pである。
【0029】
使用することができる宿主細胞としては、下等及び高等両者の真核細胞が挙げられる。高等真核細胞としては、哺乳動物、昆虫及び植物細胞が挙げられる。上記態様又は側面のいずれか1種の他の側面において、真核生物は下等真核生物である。他の側面において、宿主細胞は酵母又は糸状菌細胞であり、特定側面ではPichia pastoris、Pichia finlandica、Pichia trehalophila、Pichia koclamae、Pichia membranaefaciens、Pichia minuta(Ogataea minuta、Pichia lindneri)、Pichia opuntiae、Pichia thermotolerans、Pichia salictaria、Pichia guercuum、Pichia pijperi、Pichia stipitis、Pichia methanolica、Pichia種、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces種、Hansenula polymorpha、Kluyveromyces種、Kluyveromyces lactis、Candida albicans、Aspergillus nidulans、Aspergillus niger、Aspergillus oryzae、Trichoderma reesei、Chrysosporium lucknowense、Fusarium種、Fusarium gramineum、Fusarium venenatum及びNeuraspora crassaから構成される群から選択される。特定側面において、真核生物は酵母であり、他の側面において、酵母はPichia pastorisである。Pichia pastorisを宿主細胞として使用して本願の方法を例示しているが、本願に開示する同一目的のために他の下等真核又は高等真核細胞でも本願の方法を使用することができる。
【0030】
上記方法のいずれか1種の他の側面では、宿主細胞における糖蛋白質のO−グリコシル化を抑制する。即ち、C−グリカン含有量とマンノース鎖長を減らす。酵母等の下等真核宿主細胞では、1種以上の蛋白質O−マンノシルトランスフェラーゼ(Dol−P−Man:蛋白質(Ser/Thr)マンノシルトランスフェラーゼ遺伝子)(PMT)をコードする遺伝子を欠損させるか又は1種以上のPmtp阻害剤を添加した培地で宿主を増殖させることにより、O−グリコシル化を抑制することができる。他の側面において、宿主細胞はPMTをコードする遺伝子の1種以上の欠損を含み、1種以上のPmtp阻害剤を添加した培地で宿主細胞を培養する。Pmtp阻害剤としては限定されないが、ベンジリデンチアゾリジンジオンが挙げられる。使用することができるベンジリデンチアゾリジンジオンの例は5−[[3,4−ビス(フェニルメトキシ)フェニル]メチレン]−4−オキソ−2−チオキソ−3−チアゾリジン酢酸;5−[[3−(1−フェニルエトキシ)−4−(2−フェニルエトキシ)]フェニル]メチレン]−4−オキソ−2−チオキソ−3−チアゾリジン酢酸;及び5−[[3−(1−フェニル−2−ヒドロキシ)エトキシ)−4−(2−フェニルエトキシ)]フェニル]メチレン]−4−オキソ−2−チオキソ−3−チアゾリジン酢酸である。更に他の側面において、宿主細胞は更に分泌に導くシグナルペプチドをもつα−1,2−マンノシダーゼをコードする核酸を含む。
【0031】
上記方法のいずれか1種の他の側面において、宿主細胞としては更に、β−マンノシルトランスフェラーゼ遺伝子(例えばBMT1,BMT2,BMT3及びBMT4)(米国特許出願公開第2006/0211085号参照)の1種以上を欠損もしくは破壊するか又は干渉性RNA、アンチセンスRNA等を使用してβ−マンノシルトランスフェラーゼの1種以上をコードするRNAの翻訳を阻止することによりα−マンノシダーゼ耐性N−グリカンをもつ糖蛋白質を排除するように遺伝子操作された下等真核細胞(例えばPichia pastoris等の酵母)が挙げられる。
【0032】
本願の方法のいずれか1種の他の側面において、宿主細胞としては更に、ホスホマンノシルトランスフェラーゼ遺伝子PNO1及びMNN4B(例えば米国特許第7,198,921号及び7,259,007号参照)の一方又は両方を欠損又は破壊することによりホスホマンノース残基をもつ糖蛋白質を排除するように遺伝子操作された下等真核細胞(例えばPichia pastoris等の酵母)が挙げられ、他の側面では更にMNN4A遺伝子を欠損又は破壊してもよいし、干渉性RNA、アンチセンスRNA等を使用してホスホマンノシルトランスフェラーゼの1種以上をコードするRNAの発現を阻止してもよい。
【0033】
更に他の側面において、宿主細胞は複合型N−グリカン、ハイブリッド型N−グリカン及び高マンノース型N−グリカンから構成される群から選択されるN−グリカンを主体とする糖蛋白質を産生するように遺伝子改変されており、複合型N−グリカンはManGlcNAc、GlcNAC(1−4)ManGlcNAc、Gal(1−4)GlcNAc(1−4)ManGlcNAc、及びNANA(1−4)Gal(1−4)ManGlcNAcから構成される群から選択され;ハイブリッド型N−グリカンはManGlcNAc、GlcNAcManGlcNAc、GalGlcNAcManGlcNAc、及びNANAGalGlcNAcManGlcNAcから構成される群から選択され;高マンノース型N−グリカンはManGlcNAc、ManGlcNAc、ManGlcNAc及びManGlcNAcから構成される群から選択される。
【0034】
上記態様又は側面のいずれか1種において、第1の調節性プロモーターは第2の調節性プロモーターの発現を誘導せずに誘導可能なプロモーターである。第2の調節性プロモーターは第1の調節性プロモーターの発現を誘導せずに誘導可能なプロモーターである。他の側面において、第2の調節性プロモーターのインデューサーは第1の調節性プロモーターからの転写を阻害する。宿主細胞が酵母である特定側面において、第1の調節性プロモーターはGUT1プロモーターであり、第2の調節性プロモーターはGADPHプロモーターである。他の側面において、第1の調節性プロモーターはPCK1プロモーターであり、第2の調節性プロモーターはGADPHプロモーターである。
【0035】
一般に、上記態様又は側面において、免疫グロブリンはIgG分子となり、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4免疫グロブリンとその亜種が挙げられる。他方、上記の特定側面において、免疫グロブリンはIgA、IgM、IgE、ラクダ重鎖及びラマ重鎖から構成される群から選択される。
【0036】
本願の宿主細胞及び方法からの情報を使用して親和性成熟免疫グロブリン、抗体の誘導体及び修飾免疫グロブリンを作製することができ、あるいは目的の免疫グロブリンをコードする核酸を免疫グロブリンの作製又は親和性成熟用の別の宿主細胞にサブクローニングすることができる。従って、上記方法のいずれか1種を使用して同定された免疫グロブリンを発現する宿主細胞も提供するが、この細胞は必ずしも免疫グロブリンを同定するために使用した宿主細胞でなくてもよい。宿主細胞は原核又は真核宿主細胞とすることができる。
【0037】
上記態様又は側面のいずれか1種により作製された免疫グロブリンも提供する。
【0038】
特に指定しない限り、以下の用語は以下の意味をもつものとする。
【0039】
本願で使用する「N−グリカン」及び「グリコフォーム」なる用語は同義に使用し、N−結合型オリゴ糖、例えばアスパラギン−N−アセチルグルコサミン結合によりポリペプチドのアスパラギン残基と結合したものを意味する。N−結合型糖蛋白質は蛋白質中にアスパラギン残基のアミド窒素と結合したN−アセチルグルコサミン残基を含む。糖蛋白質上に存在する主要な糖はグルコース、ガラクトース、マンノース、フコース,N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)及びシアル酸(例えばN−アセチルノイラミン酸(NANA))である。N−結合型糖蛋白質では糖基のプロセシングはERの内腔で翻訳と同時に行われ、ゴルジ装置で続行する。
【0040】
N−グリカンはManGlcNAcの共通5糖コアをもつ(「Man」はマンノースを意味し、「Glc」はグルコースを意味し、「NAc」はN−アセチルを意味し、GlcNAcはN−アセチルグルコサミンを意味する)。N−グリカンはManGlcNAc(「Man」)コア構造(別称「トリマンノースコア」、「5糖コア」又は「パウチマンノースコア」)に付加された末端糖鎖(例えばGlcNAc、ガラクトース、フコース及びシアル酸)を含む分岐(側鎖)の数が相違する。N−グリカンはその分岐成分に従って分類される(例えば高マンノース型、複合型又はハイブリッド型)。「高マンノース」型N−グリカンは5個以上のマンノース残基をもつ。「複合」型N−グリカンは一般に1,3マンノースアームに結合した少なくとも1個のGlcNAcと、「トリマンノース」コアの1,6マンノースアームに結合した少なくとも1個のGlcNAcをもつ。複合型N−グリカンは更に場合によりシアル酸又は誘導体(例えば「NANA」ないし「NeuAc」、ここで「Neu」はノイラミン酸を意味し、「Ac」はアセチルを意味する)で修飾されたガラクトース(「Gal」)又はN−アセチルガラクトサミン(「GalNAc」)残基をもつ場合がある。複合型N−グリカンは更に「分岐型」GlcNAcとコアフコース(「Fuc」)を含む分子鎖内置換をもつ場合がある。複合型N−グリカンは更に「トリマンノースコア」に複数の側鎖をもつ場合があり、「複数側鎖グリカン」と呼ぶことが多い。「ハイブリッド」型N−グリカンはトリマンノースコアの1,3マンノースアームの末端に少なくとも1個のGlcNAcをもち、トリマンノースコアの1,6マンノースアームに0個以上のマンノースをもつ。各種N−グリカンを「グリコフォーム」とも言う。
【0041】
本願で使用する略語は当分野で通常使用されている通りであり、例えば上記の糖の略語を参照されたい。他の一般的な略語としては、「PNGアーゼ」ないし「グリカナーゼ」ないし「グルコシダーゼ」が挙げられ、いずれもペプチドN−グリコシダーゼF(EC3.2.2.18)を意味する。
【0042】
「機能的に連結された」発現制御配列なる用語は、該当遺伝子を制御するために発現制御配列が該当遺伝子と隣接している結合と、該当遺伝子を制御するためにトランス又は距離を隔てて作用する発現制御配列を意味する。
【0043】
「発現制御配列」又は「調節配列」なる用語は同義に使用し、本願で使用する場合にはこれらの配列を機能的に連結したコーディング配列の発現に作用するために必要なポリヌクレオチド配列を意味する。発現制御配列は核酸配列の転写、転写後イベント及び翻訳を制御する配列である。発現制御配列としては、適切な転写開始、終結、プロモーター及びエンハンサー配列;スプライシングシグナルやポリアデニル化シグナル等の効率的なRNAプロセシングシグナル;細胞質mRNAを安定化させる配列;翻訳効率を増加する配列(例えばリボソーム結合部位);蛋白質安定性を増加する配列;更に必要に応じて蛋白質分泌を増加する配列が挙げられる。このような制御配列の種類は宿主生物により異なり、原核生物では、このような制御配列として一般にプロモーター、リボソーム結合部位及び転写終結配列が挙げられる。「制御配列」なる用語は最低限でその存在が発現に不可欠な全成分を含むものとし、更に存在すると有利な他の成分(例えばリーダー配列や融合パートナー配列)も含むことができる。
【0044】
本願で使用する「組換え宿主細胞」(「発現宿主細胞」、「発現宿主系」、「発現系」又は単に「宿主細胞」)なる用語は組換えベクターを導入した細胞を意味するものとする。当然のことながら、このような用語は特定対象細胞だけでなく、このような細胞の子孫も意味するものとする。突然変異又は環境的影響により子孫世代には所定の変異が生じる場合があるので、このような子孫は実際には親細胞と同一でない場合もあるが、やはり本願で使用する「宿主細胞」なる用語の範囲に含まれる。組換え宿主細胞は単離細胞でも培養増殖させた細胞株でもよいし、生体組織又は生体内に存在する細胞でもよい。
【0045】
「トランスフェクト」、「トランスフェクション」、「トランスフェクトする」等の用語は高等及び下等両者の真核細胞への異種核酸の導入を意味する。従来では、酵母又は真菌細胞への核酸の導入を表すために「形質転換」なる用語が使用されているが、本願では酵母及び真菌細胞を含めて任意真核細胞への核酸細胞の導入を表すために「トランスフェクション」なる用語を使用する。
【0046】
「真核」なる用語は有核細胞又は生物を意味し、昆虫細胞、植物細胞、哺乳動物細胞、動物細胞及び下等真核細胞が挙げられる。
【0047】
「下等真核細胞」なる用語は酵母及び糸状菌を包含する。酵母及び糸状菌としては限定されないが、Pichia pastoris、Pichia finlandica、Pichia trehalophila、Pichia koclamae、Pichia membranaefaciens、Pichia minuta(Ogataea minuta、Pichia lindneri)、Pichia opuntiae、Pichia thermotolerans、Pichia salictaria、Pichia guercuum、Pichia pijperi、Pichia stipitis、Pichia methanolica、Pichia種、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces種、Hansenula polymorpha、Kluyveromyces種、Kluyveromyces lactis、Candida albicans、Aspergillus nidulans、Aspergillus niger、Aspergillus oryzae、Trichoderma reesei、Chrysosporium lucknowense、Fusarium種、Fusarium gramineum、Fusarium venenatum、Physcomitrella patens及びNeurospora crassa、Pichia種、任意Saccharomyces種、Hansenula polymorpha、任意Kluyveromyces種、Candida albicans、任意Aspergillus種、Trichoderma reesei、Chrysosporium lucknowense、任意Fusarium種、及びNeurospora crassaが挙げられる。
【0048】
本願で使用する「抗体」、「免疫グロブリン」、「免疫グロブリン類」及び「免疫グロブリン分子」なる用語は同義に使用する。各免疫グロブリン分子はその特異抗原と結合できるようなユニークな構造をもつが、全免疫グロブリンは本願に記載するような同一の全体構造をもつ。基本的な免疫グロブリン構造単位はサブユニットの四量体からなることが知られている。各四量体は同一の2対のポリペプチド鎖をもち、各対は「軽」鎖(約25kDa)1本と「重」鎖(約50〜70kDa)1本をもつ。各鎖のアミノ末端部分は主に抗原認識に関与する約100〜110アミノ酸又はそれ以上の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は主にエフェクター機能に関与する定常領域を規定する。軽鎖はκ又はλに分類される。重鎖はγ、μ、α、δ又はεに分類され、抗体のアイソタイプを夫々IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEに規定する。
【0049】
軽鎖と重鎖は可変領域と定常領域に分けられる(一般に、Fundamental Immunology(Paul,W.,ed.,2nd ed.Raven Press,N.Y.,1989),Ch.7参照)。各軽鎖/重鎖対の可変領域は抗体結合部位を形成する。従って、無傷の抗体は2つの結合部位をもつ。二官能性又は二重特異性抗体を除き、2つの結合部位は同一である。全鎖は比較的保存されたフレームワーク(FR)に3つの超可変領域(別称相補性決定領域ないしCDR)が結合した同一の一般構造を示す。各対の2本の鎖からのCDRはフレームワーク領域により整列され、特異的エピトープと結合することが可能になる。これらの用語は天然に存在する形態に加え、フラグメントと誘導体も含む。免疫グロブリン(Ig)のクラス、即ちIgG、IgA、IgE、IgM及びIgDもこの用語の範囲に含む。IgGのサブタイプ、即ちIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4もこれらの用語の範囲に含む。この用語は最も広義に使用し、単独のモノクローナル抗体(アゴニスト及びアンタゴニスト抗体を含む)に加え、複数のエピトープ又は抗原と結合する抗体組成物も含む。これらの用語は具体的にモノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及びCH2ドメインのN−結合型グリコシル化部位を含む重鎖免疫グロブリン定常領域のCH2ドメインの部分を少なくとも含むかもしくは前記部分を含むように修飾されているという条件で抗体フラグメント、又はその変異体に対応する。イムノアドヘシン(米国特許出願公開第20040136986号)等のFc領域のみから構成される分子、Fc融合体及び抗体様分子もこれらの用語に含む。
【0050】
「Fc」フラグメントなる用語はCH2ドメインとCH3ドメインを含む抗体の「結晶性フラグメント」C末端領域を意味する。「Fab」フラグメントなる用語はVH、CH1、VL及びCLドメインを含む抗体の「抗原結合性フラグメント」領域を意味する。
【0051】
本願で使用する「モノクローナル抗体」(mAb)なる用語は実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を意味し、即ち、集団を構成する個々の抗体は微量で存在する場合がある天然突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は単一抗原部位に対して高度に特異的である。更に、従来の(ポリクローナル)抗体製剤は一般に種々の決定基(エピトープ)に対する種々の抗体を含有するが、これとは対照的に、各mAbは抗原上の単一の決定基に特異的である。その特異性に加え、モノクローナル抗体は他の免疫グロブリンに汚染されないハイブリドーマ培養により合成できるという利点もある。「モノクローナル」なる用語は実質的に均質な抗体集団から得られるという抗体の特性を表し、特定方法による抗体の作製が必要であると解釈すべきではない。例えば、本発明に従って使用するモノクローナル抗体はKohler et al.,(1975)Nature,256:495により最初に記載されたハイブリドーマ法により作製してもよいし、組換えDNA法(例えばCabillyらの米国特許第4,816,567号参照)により作製してもよい。
【0052】
「抗体」又は「免疫グロブリン」なる用語の範囲内の「フラグメント」なる用語は、フラグメントが標的分子との特異的結合能を維持するという条件で、各種プロテアーゼによる消化により生成されるもの、化学的切断及び/又は化学的解離により生成されるもの、並びに組換えにより生成されるものを包含する。このようなフラグメントとしては、Fc、Fab、Fab’、Fv、F(ab’)、及び1本鎖Fv(scFv)フラグメントが挙げられる。以下、「免疫グロブリン」なる用語は「フラグメント」なる用語も包含する。
【0053】
免疫グロブリンは更に、配列を改変されているが、標的分子との特異的結合能を維持する免疫グロブリン又はフラグメントも包含し、種間キメラ及びヒト化抗体;抗体融合体;ヘテロマー抗体複合体及び抗体融合体(例えばダイアボディ(二重特異性抗体)、1本鎖ダイアボディ及びイントラボディ)が挙げられる(例えばIntracellular Antibodies:Research and Disease Applications,(Marasco,ed.,Springer−Verlag New York,Inc.,1998)参照)。
【0054】
「触媒抗体」なる用語は生化学反応を触媒することが可能な免疫グロブリン分子を意味する。触媒抗体は当分野で周知であり、Schochetmanらの米国特許出願第7205136号、4888281号、5037750号と、Barbas,IIIらの米国特許出願第5733757号、5985626号及び6368839号に記載されている。
【0055】
本願で使用する場合に、「から本質的に構成される」なる用語は、指定する整数又は整数群の包含を意味するものとするが、指定する整数を著しく変化又は変更させるような変更又は他の整数は除く。N−グリカンの種に関して、指定するN−グリカン「から本質的に構成される」なる用語は、N−グリカンが糖蛋白質のアスパラギン残基と直接結合したN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)をフコシル化されているか否かに関係なく、N−グリカンを包含するものとする。
【0056】
本願で使用する場合に、「主体とする」なる用語又は「主体」や「主体となる」等のその変形は、糖蛋白質をPNGアーゼで処理し、遊離したグリカンを質量分析法(例えばMALDI−TOF MS又はHPLC)により分析した後に総中性N−グリカンの最高モルパーセント(%)を占めるグリカン種を意味するものとする。換言するならば、「主体とする」なる用語は他のどの個別物質よりも高いモルパーセントで存在する特定グリコフォーム等の個別物質として定義される。例えば、組成物が40モルパーセントの種Aと、35モルパーセントの種Bと、25モルパーセントの種Cから構成される場合、組成物は種Aを主体とし、種Bは2番目に主体となる種であると言える。宿主細胞によっては中性N−グリカンとマンノシルリン酸等の荷電N−グリカンを含む組成物を産生するものもある。従って、糖蛋白質の組成物は複数の荷電及び非荷電又は中性N−グリカンを含有する場合がある。本発明では、組成物中の複数の総中性N−グリカンに対して主体となるN−グリカンを決定する。従って、本願で使用する場合に、「主体となるN−グリカン」とは組成物中の複数の総中性N−グリカンのうちで主体となるN−グリカンが特定構造であることを意味する。
【0057】
本願で使用する場合に、フコースやガラクトース等の特定糖残基を「本質的に含まない」なる用語は、糖蛋白質組成物がこのような残基を含むN−グリカンを実質的に含まないことを表すために使用する。純度で表した場合、本質的に含まないとは、このような糖残基を含むN−グリカン構造の量が10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満、最も好ましくは0.5%未満であることを意味し、ここで百分率は重量又はモルパーセントである。従って、本発明の糖蛋白質組成物中の実質的に全N−グリカン構造はフコース又はガラクトース又は両方を含まない。
【0058】
本願で使用する場合に、検出可能な量のフコースやガラクトース等の特定糖残基がN−グリカン構造上に常に存在しないとき、糖蛋白質組成物はこのような糖残基を「欠損する」又は「欠損している」。例えば、本発明の好ましい態様において、糖蛋白質組成物は酵母(例えばPichia種;Saccharomyces種;Kluyveromyces種;Aspergillus種)を含む上記のような下等真核生物により産生され、これらの生物の細胞はフコシル化N−グリカン構造を産生するために必要な酵素をもたないため、前記組成物は「フコースを欠損する」。従って、「本質的にフコースを含まない」なる用語は「フコースを欠損する」なる用語を包含する。他方、上記のように組成物がフコシル化N−グリカン構造をかつて含有していた場合又は限定量ではあるが、検出可能な量のフコシル化N−グリカン構造を含有している場合であっても、組成物は「本質的にフコースを含まない」と言える。
【0059】
抗体及び抗体−抗原複合体と免疫系の細胞の相互作用並びに各種応答(抗体依存性細胞障害性(ADCC)及び補体依存性細胞障害性(CDC)、免疫複合体のクリアランス(食作用)、B細胞による抗体産生並びにIgG血清半減期を含む)は夫々Daeron et al.,1997,Annu.Rev.Immunol.15:203−234;Ward and Ghetie,1995,Therapeutic Immunol.2:77−94;Cox and Greenberg,2001,Semin.Immunol.13:339−345;Heyman,2003,Immunol.Lett.88:157−161;及びRavetch,1997,Curr,Opin.Immunol.9:121−125に定義されている。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】免疫グロブリン(Ig)軽鎖及び重鎖を別々に発現させ、該当免疫グロブリンを発現する細胞を標識抗原により検出する態様を使用する方法の一般操作を示す。
【図2A】プラスミドベクターpGLY642の構築を示す。
【図2B】プラスミドベクターpGLY642の構築を示す。
【図3】プラスミドベクターpGLY2233の構築を示す。
【図4A】プラスミドベクターpGFI207tの構築を示す。
【図4B】プラスミドベクターpGFI207tの構築を示す。
【図5】プラスミドベクターpGLY1162の構築を示す。
【図6】本発明の操作を実証するために使用した酵母株のいくつかの系図を示す。
【図7】プラスミドベクターpGLY2988のマップを示す。
【図8】プラスミドベクターpGLY3200のマップを示す。
【図9】プラスミドベクターpGLY4136及びpGLY4124のマップを示す。
【図10】プラスミドベクターpGLY4116及びpGLY4137のマップを示す。
【図11】株yGLY4134(抗Her2抗体を発現)、プロテインA/SED1融合蛋白質をコードするpGLY4136をトランスフェクトした株yGLY2696(空の株)、及びプロテインA/SED1融合蛋白質をコードするpGLY4136をトランスフェクトした株yGLY4134(抗Her2抗体を発現)をヤギ抗ヒトIgG(H+L)−Alexa 488の存在下でインキュベートした蛍光顕微鏡観察結果を示す。
【図12】プロテインA/SED1融合蛋白質をコードするpGLY4136をトランスフェクトした株yGLY2696(空の株)を抗Her2抗体の存在下でインキュベートした蛍光顕微鏡観察結果を示す。細胞表面に係留したプロテインA/SED1融合蛋白質と結合した抗抗体の検出用にヤギ抗ヒトIgG(H+L)−Alexa 488を使用した。
【図13】プロテインA/SED1融合蛋白質をコードするpGLY4136をトランスフェクトした株yGLY2696(空の株)、プロテインA/SED1融合蛋白質をコードするpGLY4136をトランスフェクトした株yGLY3920(抗CD20抗体を発現)、及びプロテインA/SED1融合蛋白質をコードするpGLY4136をトランスフェクトした株yGLY4134(抗Her2抗体を発現)を抗Her2抗体の存在下でインキュベートした蛍光顕微鏡観察結果を示す。細胞表面に係留したプロテインA/SED1融合蛋白質と結合した抗抗体の検出用にヤギ抗ヒトIgG(H+L)−Alexa 488を使用した。
【図14】FcRIII/SED1融合蛋白質をコードするpGLY4116をトランスフェクトした株yGLY2696(空の株)を抗Her2抗体の存在下でインキュベートした蛍光顕微鏡観察結果を示す。細胞表面に係留したプロテインA/SED1融合蛋白質と結合した抗抗体の検出用にヤギ抗ヒトIgG(H+L)−Alexa 488を使用した。
【図15】プラスミドベクターpGLY439及びpGLY4144のマップを示す。
【図16】pGLY4136(AOXプロモーター−プロテインA/SED1融合蛋白質)をトランスフェクトした株yGLY4134(AOXプロモーター抗Her2抗体)、pGLY4139(GAPDHプロモーター−プロテインA/SED1融合蛋白質)をトランスフェクトした株yGLY4134(AOXプロモーター抗Her2抗体)、及びpGLY4139(GUT1プロモーター−プロテインA/SED1融合抗体)をトランスフェクトした株yGLY5434(GAPDHプロモーター抗Her2抗体)の蛍光顕微鏡観察結果を示す。細胞表面に係留したプロテインA/SED1融合蛋白質と結合した抗抗体の検出用にヤギ抗ヒトIgG(H+L)−Alexa 488を使用した。
【図17】種々に組合せたプロモーターの制御下におけるプロテインA/SED1融合蛋白質と抗体の仮想発現を示す。
【図18】各々GUT1プロモーターの制御下でプロテインA/SED1融合蛋白質をコードするpGLY4144をトランスフェクトした株yGLY5757(GAPDHプロモーターの制御下で抗CD20抗体を発現)及び株yGLY5434(GAPDHプロモーターの制御下で抗Her2抗体を発現)の蛍光顕微鏡観察結果を示す。先ずグリセロール条件下でプロテインA/SED1融合蛋白質発現(GUT1プロモーター)を誘導した後に、プロテインA/SED1融合蛋白質の発現も阻害するデキストロース条件下でGAPDHプロモーターからの抗体発現を誘導した。細胞表面に係留したプロテインA/SED1融合蛋白質と結合した抗抗体の検出用にヤギ抗ヒトIgG(H+L)−Alexa 488を使用した。
【図19A】図18に示した細胞のFACSソーティングの結果を示す。赤線は抗体を同時発現させない陰性対照を表す。青線は抗Her2又は抗CD20発現株のコロニーを表す。
【図19B】図18に示した細胞のFACSソーティングの結果を示す。赤線は抗体を同時発現させない陰性対照を表す。青線は抗Her2又は抗CD20発現株のコロニーを表す。
【図20】プラスミドベクターpGLY3033のマップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明は真核宿主細胞の表面に多様な免疫グロブリンライブラリーを提示することが可能な蛋白質提示システムを提供する。本願の組成物と方法は発見(即ちスクリーニング)又は分子進化プロトコールの関連で免疫グロブリン集合の提示に特に有用である。本願の方法の顕著な特徴は、表面アンカー蛋白質と融合した融合蛋白質として又は細胞表面に結合した捕捉部分により免疫グロブリンを捕捉することができる他の部分として該当免疫グロブリン分子を発現させる必要なしに無傷の全長の該当免疫グロブリン分子を宿主細胞の表面に提示することができる提示システムを提供する点である。本願の方法の別の特徴は、宿主細胞中の多様な免疫グロブリンライブラリーから該当免疫グロブリンを産生するライブラリー中の宿主細胞をスクリーニングした後に、該当免疫グロブリンを発現しないライブラリー中の他の宿主細胞から前記宿主細胞を分離することができる。重要な点として、単離した宿主細胞をその後、治療又は診断用の該当免疫グロブリンの作製に使用することができる。これは、scFV又はFabフラグメントの多様なライブラリーから該当scFV又はFabを発現する宿主細胞をスクリーニングした後に、該当scFV又はFabの特徴をもつ全長免疫グロブリンを発現する哺乳動物宿主細胞を構築するための一連の工程で使用するファージ及び酵母提示法の改善である。これらの後続工程には、scFV又はFabを全長免疫グロブリンに変換する成熟工程中に同定されたscFV又はFabの望ましい親和性又は特異性が消失又は低下する可能性があるという危険がある。
【0062】
現行のファージ法は実質的なライブラリー多様性を提供し、免疫グロブリンの開発法を著しく改善したが、ライブラリーを構築するために使用される原核宿主細胞がN−結合型グリコシル化糖蛋白質を産生しないという欠点がある。グリコシル化等の翻訳後修飾は免疫グロブリンの特異性又は親和性を変化させる可能性がある。完全に哺乳動物細胞に由来する循環モノクローナル抗体の約15〜20%は可変領域に1個以上のN−結合型グリカンを含むと推定される(Jefferis,Biotechnol Progress 21:11−16(2005))。場合により、可変領域におけるこれらのN−グリカンは免疫グロブリン機能に重要な役割を果たすと考えられる。例えば、可変領域をN−グリコシル化した抗体分子には抗原結合にプラスとマイナス両方の影響が認められている。抗デキストラン抗体のCDR2領域内に付加したN−グリコシル化コンセンサス部位は種々の構造の糖鎖で満たされ、部位依存的に親和性、半減期及び組織ターゲティングの変化を示した(Coloma et al.,The Journal of Immunology 162:2162−2170(1999))。従って、原核宿主細胞で作製され、スクリーニングされたライブラリーは可変領域をグリコシル化された免疫グロブリン種に対して負のバイアスを示し易い。そのため、可変領域の1以上の部位のグリコシル化に完全又は部分的に起因する特に望ましい特異性又は親和性をもつ免疫グロブリンが同定されなくなる。逆に、原核スクリーニング法により同定された抗体を真核宿主で発現させると、フォールディング又は親和性に悪影響のあるグリコシル化構造をもつ可能性がある。本願の方法とシステムはライブラリーが可変領域をグリコシル化された免疫グロブリンの集団を含む場合に免疫グロブリンライブラリーのスクリーニングを初めて可能にする。これはライブラリーの多様性が配列のみに基づく場合に予想される状況に対してライブラリーの多様性を増すという潜在的効果がある。この改善は現行方法で得られるよりも高い特異性又は親和性をもつ免疫グロブリンを開発する可能性を増すと予想される。
【0063】
本願の方法とシステムは更に特定のN−グリカン構造を主体とする糖蛋白質を産生するように遺伝子操作した真核宿主細胞を使用できるという点で現行方法に勝る利点もある。N−グリカン構造としては、ヒト免疫グロブリンに現在認められるN−グリカン構造又は高等真核生物に由来する糖蛋白質に認められない特徴をもたないN−グリカン構造の任意のものが挙げられる。例えば、酵母の場合には、N−グリカンが過剰にマンノシル化されていない免疫グロブリンを産生するように宿主細胞を遺伝子操作することができる。O−グリコシル化の量を制限したり、哺乳動物細胞におけるO−グリコシル化に似せるようにO−グリコシル化を改変するように宿主細胞を遺伝子操作することができる。
【0064】
前記方法とシステムの顕著な利点は、免疫グロブリンを作製するために宿主細胞又は免疫グロブリンをコードする核酸分子を新たに開発又は操作せずに、目的の免疫グロブリンを産生するとしてライブラリーで同定された宿主細胞を使用できる点である。即ち、細胞が目的の免疫グロブリンを分泌する前、後又はそれと同時に捕捉部分の発現を誘導せずに目的の免疫グロブリンの発現を誘導する条件下で目的の免疫グロブリンを発現するとして本願で同定された宿主細胞を培養した後に、当分野で周知の方法を使用して培養培地から回収することができる。重要な点は、産生される免疫グロブリンが無傷の全長免疫グロブリン分子であるという点である。現行のファージ又は酵母システムでは、このようにライブラリー細胞を使用して無傷の全長免疫グロブリンを作製することができない。これらのシステムでは、無傷の全長免疫グロブリンをコードする核酸分子を構築するために目的のFab又はscFVをコードする核酸分子を更に操作する必要があり、その後、無傷の全長免疫グロブリンを産生させるために哺乳動物細胞にトランスフェクトする。従って、本願の方法とシステムは治療又は診断用の免疫グロブリンの開発及び作製に著しい改善をもたらす。
【0065】
複数の免疫グロブリンを発現する宿主細胞のライブラリーから該当免疫グロブリンを発現する真核宿主細胞を構築及び単離するための方法も提供する。本方法は望ましい特異性及び/又は親和性をもつ免疫グロブリンの構築と選択を可能にする。一般に、本方法は、第1の調節性プロモーターと機能的に連結された免疫グロブリンと特異的に結合することが可能な結合部分と融合した細胞表面アンカー蛋白質を含む捕捉部分をコードする第1の核酸分子を含む宿主細胞を準備する段階を含む。主体となる特定のN−グリカン構造をもつ免疫グロブリンを産生するように宿主細胞を更に遺伝子操作することができる。
【0066】
1側面では、宿主細胞を培養増殖させて多数の宿主細胞を得た後に、複数の第2の核酸分子をトランスフェクトし、各核酸分子は免疫グロブリンの重鎖及び/又は軽鎖をコードし、捕捉部分が重鎖と結合する場合には、少なくとも重鎖をコードする核酸は第2の調節性プロモーターと機能的に連結されており、あるいは捕捉部分が軽鎖と結合する場合には、少なくとも軽鎖をコードする核酸は第2の調節性プロモーターと機能的に連結されている。こうして複数の宿主細胞を作製し、複数の宿主細胞の各宿主細胞は免疫グロブリンをその表面に提示することが可能であり、複数の宿主細胞の各宿主細胞は特定の別個の免疫グロブリン種を提示することが可能である。一般に、複数の宿主細胞における宿主細胞集団の多様性は宿主細胞にトランスフェクトされた核酸分子のライブラリーの多様性に依存することになろう。
【0067】
別の側面では、宿主細胞を培養増殖させて多数の宿主細胞を得た後に、免疫グロブリンの重鎖及び/又は軽鎖をコードする1個以上の第2の核酸分子をトランスフェクトし、捕捉部分が重鎖と結合する場合には、少なくとも重鎖をコードする核酸は第2の調節性プロモーターと機能的に連結されており、あるいは捕捉部分が軽鎖と結合する場合には、少なくとも軽鎖をコードする核酸は第2の調節性プロモーターと機能的に連結されており、コードされる免疫グロブリンをその表面に提示することが可能な多数の宿主細胞が得られる。多数の宿主細胞の突然変異誘発を使用し、免疫グロブリンの突然変異体の多様化集団をコードする複数の宿主細胞を作製する。多様性は使用する突然変異誘発法に依存する。適切な突然変異誘発法としては、限定されないが、カセット突然変異誘発法、エラープローンPCR、化学的突然変異誘発法、又は親核酸分子に似せた改変配列の規定レパートリーを作製するためのシャフリング法が挙げられる。
【0068】
他の側面では、宿主細胞を培養増殖させて多数の宿主細胞を得た後に、複数の第2の核酸分子をトランスフェクトし、各核酸分子は免疫グロブリンの重鎖及び/又は軽鎖をコードし、捕捉部分が重鎖と結合する場合には、少なくとも重鎖をコードする核酸は第2の調節性プロモーターと機能的に連結されており、あるいは捕捉部分が軽鎖と結合する場合には、少なくとも軽鎖をコードする核酸は第2の調節性プロモーターと機能的に連結されており、免疫グロブリンをその表面に提示することが可能な複数の宿主細胞を作製する。その後、突然変異誘発を使用し、免疫グロブリンをその表面に提示することが可能な複数の宿主細胞の多様性を更に増す。
【0069】
特定態様では、重鎖及び軽鎖の両方をコードする核酸分子が第2の調節性プロモーターと機能的に連結されている。他の態様では、重鎖の少なくとも1本をコードする核酸分子が第2の調節性プロモーターと機能的に連結され、軽鎖をコードする核酸分子は第3の調節性プロモーター又は構成的プロモーターと機能的に連結されている。特定側面では、重鎖のサブ集団をコードする複数の核酸を提供し、各サブ集団の発現は、種々のサブ集団を特定時点で発現させ、他のサブ集団をこの時点で発現させないように、第2、第3又は第4以下の調節性プロモーターにより実施される。
【0070】
一般に、重鎖と軽鎖は別々のオープンリーディングフレーム(ORF)によりコードされ、各ORFはプロモーターと機能的に連結されている。他方、他の態様において、重鎖と軽鎖は単一のORFによりコードされ、タンデム配置の重鎖と軽鎖を含む単一の融合ポリペプチドとなり、ORFは調節性プロモーターと機能的に連結されている。単一のポリペプチドは重鎖と軽鎖に開裂可能であり、別々の重鎖及び軽鎖蛋白質となり、その後、会合して機能性抗体分子を形成することができる。(例えば米国特許出願公開第2006/0252096参照)。
【0071】
上記側面のいずれか1種では、捕捉部分を産生し、捕捉部分が宿主細胞から分泌される免疫グロブリン分子と結合できるように宿主細胞の表面に輸送後、結合させるために十分な時間にわたって捕捉部分をコードする第1の核酸分子の発現を誘導する。次に捕捉部分の発現を低下又は阻害し、第2の調節性プロモーターに機能的に連結された免疫グロブリンの重鎖及び/又は軽鎖をコードする核酸分子の発現を誘導する。重鎖及び軽鎖の両方の発現を誘導することもできるが、特定側面では、重鎖の発現を誘導し、軽鎖の発現を構成的にする。他の側面では、捕捉部分が軽鎖と結合する場合には、軽鎖の発現を調節し、重鎖の発現を構成的にすることができる。従って、軽鎖又は重鎖のどちらの発現が調節されるかは、重鎖又は軽鎖のどちらが捕捉されるかにより決定される。
【0072】
捕捉部分の発現の阻害は、捕捉部分の発現を誘導するインデューサーを提供しないこと、あるいは捕捉部分の発現を阻害する第1の調節性プロモーターの阻害剤を提供すること、あるいは捕捉部分の発現も阻害する第2以下の誘導性プロモーターと機能的に連結された免疫グロブリン重鎖及び/又は軽鎖の発現のインデューサーを使用することにより実施することができる。阻害は発現の完全な抑制でもよいし、重鎖及び軽鎖のプロセシングと分泌経路輸送を妨害しないように捕捉部分を発現させるような量までの発現低下でもよい。発現させた免疫グロブリン重鎖及び/又は軽鎖をプロセシングし、宿主細胞分泌経路を通って細胞表面まで輸送し、提示のために宿主細胞表面と結合した捕捉部分により捕捉させる。発現させた免疫グロブリンを複数の宿主細胞の表面に提示させた後、該当免疫グロブリンと結合するが、他の免疫グロブリンとは結合しない検出手段を使用してスクリーニングし、該当免疫グロブリンを提示しない宿主細胞から該当免疫グロブリンをその表面に提示する宿主細胞を同定する。該当免疫グロブリンを発現及び提示しない宿主細胞から該当免疫グロブリンを発現及び提示する宿主細胞を分離し、該当免疫グロブリンを提示する宿主細胞のみから構成されるか又はこのような細胞を多く含む宿主細胞集団を作製する。これらの分離した宿主細胞を増殖させ、目的用途に必要な量の該当免疫グロブリンを産生させるために使用することができる。免疫グロブリンをコードする核酸を決定し、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖をコードする発現ベクターを構築及び使用し、原核又は真核宿主細胞であり得る別の宿主細胞にトランスフェクトすることができる。
【0073】
該当免疫グロブリンを発現する宿主細胞の検出と分析は該当免疫グロブリンにより特異的に認識される抗原で宿主細胞を標識することにより実施することができる。特定側面では、抗原を検出部分で標識する。他の側面では、抗原を標識せず、該当免疫グロブリンと結合しない抗原のエピトープと結合する検出用免疫グロブリンを検出部分で標識して使用することにより検出を行う。こうして、検出用免疫グロブリンと結合したエピトープ以外のエピトープで抗原と結合する免疫グロブリンを産生する宿主細胞を選択することができる。別の側面において、検出用免疫グロブリンは免疫グロブリン−抗原複合体に特異的である。検出手段に関係なく、ラベルの検出量が多いと、該当免疫グロブリンは望ましい結合性をもつと判断され、ラベルの検出量が少ないと、該当免疫グロブリンは望ましい結合性をもたないと判断される。
【0074】
標識に適した検出部分は当分野で周知である。検出部分の例としては、限定されないが、フルオレセイン(FITC)、Alexa Fuor 488等のAlexa Fluor類(Invitrogen)、緑色蛍光蛋白質(GFP)、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)、DyLight Fluor類(Thermo Fisher Scientific)、HyLite Fluor類(AnaSpec)、及びフィコエリスリンが挙げられる。他の検出部分としては、限定されないが、該当抗原又は該当免疫グロブリンもしくは免疫グロブリン−抗原複合体に特異的な免疫グロブリンをコートした磁気ビーズが挙げられる。特定側面では、標識抗原又は免疫グロブリン上の蛍光ラベルに特異的な抗フルオロクロム免疫グロブリンを磁気ビーズにコートする。従って、宿主細胞を標識抗原又は免疫グロブリンの存在下でインキュベートした後に、蛍光ラベルに特異的な磁気ビーズの存在下でインキュベートする。
【0075】
細胞集団の分析と、検出部分の存在に基づく該当免疫グロブリンを提示する宿主細胞のセルソーティングは当分野で公知の多数の技術により実施することができる。該当免疫グロブリンを提示する細胞は例えばフローサイトメトリー、磁気ビーズ又は蛍光活性化セルソーティング(FACS)により分析又は選別することができる。これらの技術は細胞の1種以上のパラメーターに従って分析及び選別することができる。通常では、1又は複数の分泌パラメーターを細胞の他の測定可能なパラメーター(限定されないが、細胞型、細胞表面抗原、DNA含量等)と共に同時に分析することができる。データを分析し、測定したパラメーターの任意式又は組合せを使用して該当免疫グロブリンを提示する細胞を選別することができる。セルソーティング及び細胞分析法は当分野で公知であり、例えば、The Handbook of Experimental Immunology,1〜4巻(D.N.Weir編)及びFlow Cytometry and Cell Sorting(A.Radbruch編,Springer Verlag,1992)に記載されている。例えばレーザー走査型顕微鏡、蛍光顕微鏡等の顕微鏡技術を使用して細胞を分析することもでき、これら等の技術を画像分析システムと併用してもよい。他のセルソーティング法としては、例えばパンニングや、プレート、ビーズ及びカラム等の固相担体を使用する技術を含めてアフィニティー技術を使用する分離法が挙げられる。
【0076】
他の側面では、特定抗原に対して望ましい特異性及び/又は親和性をもつ免疫グロブリンを産生する細胞を同定及び選択するためのライブラリー法を提供する。本方法は、VHドメインとVLドメインを含む免疫グロブリンをその表面に提示する真核宿主細胞のライブラリーを準備する段階を含み、前記ライブラリーは、(i)免疫グロブリンと結合することが可能な部分と融合した細胞表面アンカー蛋白質を含む捕捉部分を発現する真核宿主細胞(ここで、捕捉部分の発現は第1の調節性プロモーターにより行われる)を準備し;(ii)免疫グロブリンの遺伝的に多様な集団をコードする核酸配列のライブラリーを宿主細胞にトランスフェクトし、複数の宿主細胞を作製することにより作製され、ここで、免疫グロブリンの遺伝的に多様な集団のVHドメインは1種以上のVH遺伝子ファミリーに対して正のバイアスを示し、少なくとも1本以上の重鎖又は軽鎖の発現は第2の調節性プロモーターにより行われ、前記複数の宿主細胞の各宿主細胞は免疫グロブリン種を発現する。宿主細胞の表面に捕捉部分を産生するために十分な時間にわたって前記複数の宿主細胞において捕捉部分の発現の発現を誘導する。次に前記複数の宿主細胞において核酸配列のライブラリーの発現を誘導しながら捕捉部分の発現を阻害し、各宿主細胞にその表面に免疫グロブリン種を提示させる。前記複数の宿主細胞を該当抗原と接触させ、その表面に提示された免疫グロブリンと該当抗原を結合させた宿主細胞を検出することにより、該当抗原に対して結合特異性をもつ免疫グロブリンをその表面に提示する宿主細胞を前記複数の宿主細胞中で同定し、VHドメインとVLドメインをもち、更に該当抗原に対する結合特異性を備える抗原結合部位をもつ免疫グロブリンを産生する宿主細胞を作製する。特定側面において、免疫グロブリンは合成ヒト免疫グロブリンVHドメインと合成ヒト免疫グロブリンVLドメインを含み、更に合成ヒト免疫グロブリンVHドメインと合成ヒト免疫グロブリンVLドメインはフレームワーク領域と超可変ループを含み、フレームワーク領域とVHドメイン及びVLドメインの両方の最初から2個の超可変ループは本質的にヒト生殖細胞系列であり、VHドメインとVLドメインは改変型CDR3ループをもつ。
【0077】
こうして、複数の免疫グロブリン分子を発現することが可能な宿主細胞のライブラリーが得られ、特定抗原に特異的な免疫グロブリンと結合することができる検出手段により検出するために細胞表面に捕捉、提示させることができ、従って、ライブラリー中の前記複数の宿主細胞から免疫グロブリンを発現する宿主細胞を同定することができる。一般に、検出手段は通常では、検出部分で標識された抗原を使用する。細胞集団中の特定細胞の選択に現在使用されている任意手段(例えばFACSソーティング)により前記複数の宿主細胞からこれらの宿主細胞を単離することができる。
【0078】
従って、本方法は少なくとも2成分からなる。第1の成分は捕捉部分をコード及び発現する第1の核酸分子を含む発現カセットを含むヘルパーベクターであり、特定態様において前記捕捉部分は、免疫グロブリンと結合することが可能な結合部分とそのN又はC末端で融合しており、宿主細胞の表面に結合又は固定化することが可能な細胞表面アンカー蛋白質又は細胞壁結合性蛋白質を含む。結合部分が免疫グロブリンと相互作用できるように、細胞外環境に露出した細胞表面アンカー蛋白質の末端に結合部分を配置する。免疫グロブリン結合部分はプロテインA、プロテインG、プロテインL等の分子又はFc受容体に由来する免疫グロブリン結合ドメインを含む。
【0079】
第2の成分は該当免疫グロブリン又は該当免疫グロブリンを選択するライブラリー(例えば免疫グロブリンを発現するベクターのライブラリー)の重鎖及び軽鎖をコード及び発現する発現カセットを含む1個以上のベクターである。特定側面において、免疫グロブリンをコードする核酸分子は免疫グロブリン(例えばVHドメインとVLドメインをもち、更に該当抗原に対する結合特異性を備える抗原結合部位をもつ免疫グロブリン)の重鎖と軽鎖の両方をコードするヌクレオチド配列を含むことができる。他の側面において、重鎖と軽鎖は別々の核酸分子でコードされる。いずれの場合も、これらの核酸分子は望ましい場合には、選択された宿主細胞において免疫グロブリンをコードするmRNAの翻訳を強化するように更にコドン最適化してもよい。核酸分子は望ましい場合には、選択された宿主細胞に適切なシグナルペプチドで内在性シグナルペプチドを更に置換してもよい。
【0080】
1側面において、上記核酸分子は第2の調節性プロモーターと機能的に連結された単一の発現カセットを含むことができ、軽鎖と重鎖のオープンリーディングフレーム(ORF)はインフレームであり、プロテアーゼ開裂部位をインフレームでコードする核酸分子により分離され、発現されると融合蛋白質となり、プロテアーゼ開裂部位に特異的なプロテアーゼで翻訳後プロセシングされ、免疫グロブリンの軽鎖と重鎖となる。これらの発現カセットの例は例えば米国特許出願公開第2006/0252096号に記載されている。別の側面では、軽鎖と重鎖の各々をコードするORFを第2の調節性プロモーターと機能的に連結した別々の発現カセットから重鎖及び軽鎖免疫グロブリンを発現させる。これらの発現カセットの例は例えば米国特許第4,816,567号及び4,816,397号に記載されている。別の側面では、重鎖をコードするORFを第2の調節性プロモーターと機能的に連結しれ、軽鎖をコードするORFを構成的プロモーターと機能的に連結した別々の発現カセットから重鎖及び軽鎖免疫グロブリンを発現させる。
【0081】
特定側面において、コードされる免疫グロブリンは合成ヒト免疫グロブリンVHドメインと合成ヒト免疫グロブリンVLドメインを含み、合成ヒト免疫グロブリンVHドメインと合成ヒト免疫グロブリンVLドメインはフレームワーク領域と超可変ループを含み、フレームワーク領域とVHドメイン及びVLドメインの両方の最初から2個の超可変ループは本質的にヒト生殖細胞系列であり、VHドメインとVLドメインは改変型CDR3ループをもつ。更に他の側面において、改変型CDR3ループをもつことに加え、ヒト合成免疫グロブリンVH及びVLドメインは他のCDRループにも突然変異を含む。他の側面において、各ヒト合成免疫グロブリンVHドメインCDRループはランダム配列である。更に他の側面において、ヒト合成免疫グロブリンVHドメインCDRループは公知標準構造であり、ランダム配列成分を含む。
【0082】
両方の成分をベクターに配置し、相同組換えにより核酸分子を宿主細胞のゲノムに組込む。相同組換えはダブルクロスオーバー又はシングルクロスオーバー相同組換えとすることができる。ロールインシングルクロスオーバー相同組換えはNett et al.,Yeast 22:295−304(2005)に記載されている。各成分をゲノム内の同一遺伝子座に組込んでもよいし、ゲノム内の別々の遺伝子座に組込んでもよい。あるいは、一方又は両方の成分を宿主細胞で一過的に発現させてもよい。
【0083】
図1は免疫グロブリン軽鎖及び重鎖を別々に発現させ、標識抗原により検出する態様を使用する方法の一般操作を示す。図1はプロモーターAと機能的に連結された捕捉部分融合蛋白質をコードする発現カセットと、各々プロモーターBと機能的に連結された免疫グロブリン(Ig)軽鎖及び重鎖をコードする発現カセットを示す。図示するように、宿主細胞に発現カセットをトランスフェクトし、プロモーターAにより捕捉部分融合蛋白質の発現を誘導する条件下で形質転換細胞を増殖させる。捕捉部分融合蛋白質を細胞表面に係留する。次に捕捉部分融合蛋白質の発現を阻害又は低下させ且つプロモーターBにより免疫グロブリン軽鎖及び重鎖の発現を誘導する条件下で細胞を増殖させる。免疫グロブリンを細胞から分泌させ、細胞表面に係留した捕捉部分融合蛋白質により捕捉する。次に検出部分で標識した抗原を使用して免疫グロブリンを捕捉した細胞を該当Igについてスクリーニングする。図示するように、全細胞が該当免疫グロブリンを産生するわけではない。標識抗原と結合する細胞を選択し、該当免疫グロブリンを産生しない細胞から分離する。こうして、該当免疫グロブリンを発現する細胞を作製する。これらの細胞は治療用又は診断用免疫グロブリンを作製するために使用することができる。あるいは、細胞を突然変異誘発させ、免疫グロブリンをコードする発現カセットに突然変異を導入し、突然変異誘発前の免疫グロブリンの性質から改変又は変更した望ましい性質をもつ免疫グロブリンを産生する細胞について細胞をスクリーニングする。改変又は変更した望ましい性質をもつ免疫グロブリンを発現する細胞を他の細胞から分離し、治療用又は診断用免疫グロブリンを作製するために使用することができる。
【0084】
グリコシルホスファチジルイノシトール係留型(GPI)蛋白質は捕捉部分を宿主細胞の表面に繋留するのに適した手段となる。GPI蛋白質はヒトから酵母及び真菌類に至る広範な種で同定され、特性決定されている。従って、本願に開示する方法の特定側面において、細胞表面アンカー蛋白質はGPI蛋白質又は細胞表面に係留することができるそのフラグメントである。下等真核細胞は発現された蛋白質がこれを発現した細胞の細胞壁に有効に提示されるように、発現された蛋白質を細胞壁に係留ないし繋留するのに関与するGPI蛋白質系をもつ。例えば、66種類の推定GPI蛋白質がSaccharomyces cerevisiaeで同定されている(de Groot et al.,Yeast 20:781−796(2003)参照)。本願の方法で使用することができるGPI蛋白質としては、限定されないが、Saccharomyces cerevisiae CWP1、CWP2、SED1及びGAS1;Pichia pastoris SP1及びGAS1;並びにH.polymorpha TIP1が挙げられる。その他のGPI蛋白質が有用な場合もある。その他の適切なGPI蛋白質は本願に記載及び例示する本発明の方法と材料を使用して同定することができる。
【0085】
適切なGPI蛋白質の選択は宿主細胞で産生させる特定の組換え蛋白質と、組換え蛋白質で実施する特定の翻訳後修飾により異なる。例えば、特定のグリコシル化パターンをもつ免疫グロブリンの作製には特定のグリコシル化パターンをもつ糖蛋白質を産生する組換え宿主細胞の使用が必要になろう。ManGlcNAc N−グリコシル化を主体とする抗体又はそのフラグメントを作製するためのシステムで最適なGPI蛋白質は必ずしもGalGlcNAcManGlcNAc N−グリコシル化を主体とする抗体又はそのフラグメントを作製するためのシステムで最適なGPI蛋白質でなくてもよい。更に、あるエピトープ又は抗原に特異的な免疫グロブリンを作製するためのシステムで最適なGPIは必ずしも別のエピトープ又は抗原に特異的な免疫グロブリンを作製するためのシステムで最適なGPI蛋白質でなくてもよい。
【0086】
従って、特定の免疫グロブリンを作製するために使用する宿主細胞の構築用ライブラリー法も提供する。一般に、宿主細胞により産生される特定の免疫グロブリンに付与される望ましい特性に基づいて、特定の免疫グロブリンを作製するのに望ましい宿主細胞を選択する。例えば、ManGlcNAc又はGalGlcNAcManGlcNAc N−グリコシル化を主体とする糖蛋白質を産生する宿主細胞を選択した後、1個以上の免疫グロブリン捕捉部分と融合したGPI蛋白質をコードするベクターのライブラリーを準備する(GPI−IgG捕捉部分)。次に宿主細胞のライブラリーを構築し、ライブラリーの各宿主細胞種がある特定のGPI−IgG捕捉部分融合蛋白質を発現するように、ライブラリーを構成する各宿主細胞にGPI−IgG捕捉部分融合蛋白質をコードするベクターライブラリー中のベクターの1個をトランスフェクトする。次にライブラリーの各宿主細胞種に目的の特定免疫グロブリンをコードするベクターをトランスフスクトする。宿主細胞の表面に前記特定免疫グロブリンを最良に提示する宿主細胞を特定免疫グロブリンの産生用宿主細胞として選択する。
【0087】
一般に、本願に開示する方法で使用するGPI蛋白質はそのN末端を免疫グロブリン捕捉部分のC末端に融合したGPI蛋白質を含むキメラ蛋白質又は融合蛋白質である。捕捉部分のN末端をシグナル配列又はペプチドのC末端に融合し、分泌経路を通ってGPI−IgG捕捉部分融合蛋白質を細胞表面に輸送し、GPI−IgG捕捉部分融合蛋白質を選択後、細胞表面に結合できるようにする。所定の側面において、GPI−IgG捕捉部分融合蛋白質は全長GPI蛋白質を含み、他の側面において、GPI−IgG捕捉部分融合蛋白質は細胞表面と結合することが可能なGPI蛋白質の部分を含む。
【0088】
免疫グロブリン捕捉部分は免疫グロブリンと結合することが可能な任意分子を含むことができる。その重鎖との相互作用により哺乳動物免疫グロブリンに対して親和性をもつ表面蛋白質を発現する多数のグラム陽性細菌種が同定されている。これらの免疫グロブリン結合性蛋白質のうちで最もよく知られているのはタイプ1ブドウ球菌プロテインAとタイプ2連鎖球菌プロテインGであり、主にヒト免疫グロブリンのFc領域のC2−C3界面を通って相互作用することが分かっている。更に、どちらも免疫グロブリン重鎖を介してFab領域と弱く相互作用することも分かっている。
【0089】
最近、Peptococcus magnumsに由来する新規蛋白質であるプロテインLが報告され、その軽鎖との相互作用のみを介してヒト、ウサギ、ブタ、マウス及びラット免疫グロブリンと結合することが判明している。ヒトにおいて、この相互作用はκ鎖のみに生じることが分かっている。κ及びλ軽鎖はいずれも種々のクラスで共通であるため、プロテインLはヒトの全クラス、特にマルチサブユニットIgMと強く結合し、プロテインL軽鎖結合を示す種で同様に全クラスと結合すると予想される。
【0090】
他の結合部分の例としては、限定されないが、Fc受容体(FcR)蛋白質とその免疫グロブリン結合性フラグメントが挙げられる。FCR蛋白質としては、γ免疫グロブリン(IgG)と結合するFcγ受容体(FcγR)ファミリー、ε免疫グロブリン(IgE)と結合するFcε受容体(FcεR)ファミリー、及びα免疫グロブリン(IgA)と結合するFcα受容体(FcαR)ファミリーのメンバーが挙げられる。IgGと結合し、本願に開示する捕捉部分を構成するために使用することができる特定のFcR蛋白質としては、FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB1、FcγRIIB2、FcγRIIIA、FcγRIIIB又はFcγRn(新生児)のいずれか1種の少なくとも免疫グロブリン結合部分が挙げられる。
【0091】
本願に開示する方法の実施に使用することができる調節配列としては、シグナル配列、プロモーター及び転写ターミネーター配列が挙げられる。使用する調節配列は宿主細胞と同一もしくは近縁であるか又は選択される宿主細胞型で利用可能な種又は属に由来することが一般に好ましい。シグナル配列の例としては、Saccharomyces cerevisiaeインベルターゼ;Aspergillus nigerアミラーゼ及びグルコアミラーゼ;ヒト血清アルブミン;Kluyveromyces maxianusイヌリナーゼ;並びにPichia pastoris接合因子及びKar2のシグナル配列が挙げられる。酵母及び糸状菌で有用であるとして本願に示すシグナル配列としては、限定されないが、Saccharomyces cerevisiaeに由来するα接合因子プレ配列及びプレプロ配列と、多数の他の種に由来するシグナル配列が挙げられる。
【0092】
プロモーターの例としては多数の種に由来するプロモーターが挙げられ、限定されないが、アルコール調節型プロモーター、テトラサイクリン調節型プロモーター、ステロイド調節型プロモーター(例えばグルココルチコイド、エストロゲン、エクジソン、レチノイド、チロイド)、金属調節型プロモーター、病原体調節型プロモーター、温度調節型プロモーター及び光調節型プロモーターが挙げられる。当分野で周知の調節性プロモーターシステムの特定例としては、限定されないが、金属誘導性プロモーターシステム(例えば酵母銅−メタロチオネインプロモーター)、植物除草剤薬害軽減剤活性化プロモーターシステム、植物熱誘導性プロモーターシステム、植物及び哺乳動物ステロイド誘導性プロモーターシステム、Cymリプレッサー−プロモーターシステム(Krackeler Scientific,Inc.Albany,NY)、RheoSwitch System(New England Biolabs,Beverly MA)、安息香酸誘導性プロモーターシステム(WO2004/043885参照)、並びにレトロウイルス誘導性プロモーターシステムが挙げられる。当分野で周知の他の特定調節性プロモーターとしては、テトラサイクリン調節型システム(例えばBerens & Hillen,Eur J Biochem 270:3109−3121(2003)参照)、RU486誘導性システム、エクジソン誘導性システム及びカナマイシン誘導性システムが挙げられる。下等真核生物特異性プロモーターとしては、限定されないが、Saccharomyces cerevisiae TEF−1プロモーター、Pichia pastoris GAPDHプロモーター、Pichia pastoris GUT1プロモーター、PMA−1プロモーター、Pichia pastoris PCK−1プロモーター、並びにPichia pastoris AOX−1及びAOX−2プロモーターが挙げられる。GPI−IgG捕捉部分と免疫グロブリンの一時的発現には、GPI−IgG捕捉部分をコードする核酸分子に機能的に連結されたPichia pastoris GUT1プロモーターと、免疫グロブリンをコードする核酸分子に機能的に連結されたPichia pastoris GAPDHプロモーターが本願の実施例で有用であることが分かっている。
【0093】
転写ターミネーター配列の例としては、多数の種及び蛋白質に由来する転写ターミネーターが挙げられ、限定されないが、Saccharomyces cerevisiaeチトクロームCターミネーターと、Pichia pastoris ALG3及びPMA1ターミネーターが挙げられる。
【0094】
免疫グロブリンをコードする核酸分子はインビボ又はインビトロ起源から得られる脾細胞、肝細胞及び抗原刺激抗体産生細胞を含む任意の適切な起源から得ることができる。起源に関係なく、細胞VH及びVL mRNAをVH及びVL cDNA配列に逆転写する。逆転写は1段階で実施してもよいし、場合により逆転写/PCR工程を組合せてもよく、複数の免疫グロブリンをコードするDNA分子を含むcDNAライブラリーを作製する(例えばMarks et al.,J.Mol.Biol.222:581−596(1991)参照)。科学文献中の配列に基づいて核酸分子を新規合成することもできる。目的配列に対応するオーバーラップするオリゴヌクレオチドの伸長により核酸分子を合成することもできる(例えばCaldas et al.,Protein Engineering,13:353−360(2000)参照)。任意起源に由来する1個以上のライブラリー中のcDNAから相補性決定領域(CDR)をPCR増幅し、ヒト免疫グロブリンフレームワークをコードする核酸分子にPCR増幅したCDRをコードする核酸分子を組込み、複数のヒト化免疫グロブリンをコードするcDNAライブラリーを作製することにより、ヒト化免疫グロブリンをコードするcDNAライブラリーを構築することができる(例えば米国特許第6,180,370号;6,632,927号;及び6,872,392号参照)。ある種に由来するcDNAライブラリー中のcDNAから可変領域をPCR増幅し、別の種に由来する免疫グロブリン定常領域をコードする核酸分子にPCR増幅した可変領域をコードする核酸分子を組込み、複数のキメラ免疫グロブリンをコードするcDNAライブラリーを作製することにより、キメラ免疫グロブリンをコードするcDNAライブラリーを構築することができる(例えば米国特許第5,843,708号参照)。蛋白質ライブラリー内に多様性を創出するために開発された各種方法を使用又は応用して本願に開示する免疫グロブリンを発現する複数の宿主細胞と、免疫グロブリンと特異的に結合することが可能な結合部分と融合した細胞表面アンカー蛋白質を含む捕捉部分を作製することができ、このような方法としては、ランダム突然変異誘発法(Daugherty et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA,97:2029−2034(2000);Boder et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA,97:10701−10705(2000);Holler et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA,97:5387−5392(2000))、インビトロDNAシャフリング(Stemmer,Nature,370:389−391(1994);Stemmer,Proc.Natl Acad.Sci.USA,91:,10747−10751(1994))、インビボDNAシャフリング(Swers et al.,Nucl.Acid Res.32:e36(2004))、及び部位特異的組換え(Rehberg et al.,J.Biol.Chem.,257:11497−11502(1982);Streuli et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA,78:2848−2852(1981);Waterhouse et al.,(1993)Nucl.Acids Res.,21:2265−2266(1993);Sblattero & Bradbury,Nat.Biotechnol.,18:75−80(2000))が挙げられる。
【0095】
活性な免疫グロブリンを作製するには、細胞による産生及び分泌時に蛋白質の正しいフォールディングが必要である。大腸菌では、抗体が複雑で寸法が大きいため、発現された軽鎖及び重鎖ポリペプチドの正しいフォールディングとアセンブリに支障を来たし、無傷の抗体の収率が不良になる。有効な分子シャペロン蛋白質の介在が必要になる場合があり、あるいはその介在により、細胞が正しく折り畳まれた蛋白質を産生及び分泌する能力を強化することができる。酵母における免疫グロブリンの産生を改善するために分子シャペロン蛋白質を使用することは米国特許第5,772,245号;米国特許第5,700,678号及び5,874,247号;米国特許出願公開第2002/0068325号;Toman et al.,J.Biol.Chem.275:23303−23309(2000);Keizer−Gunnink et al.,Martix Biol.19:29−36(2000);Vad et al.,J.Biotechnol.116:251−260(2005);Inana et al.,Biotechnol.Bioengineer.93:771−778(2005);Zhang et al.,Biotechnol.Prog.22:1090−1095(2006);Damasceno et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.74:381−389(2006);Huo et al.,Protein Express.Purif.54:234−239(2007);並びに2008年2月20日に出願された同時係属出願第61/066,409号に開示されている。
【0096】
本願で使用する場合に、上記方法は免疫グロブリンと結合することが可能な結合部分と融合した細胞表面アンカー蛋白質を含む捕捉部分と無傷の全長免疫グロブリンを発現するように改変することが可能な任意種類の細胞系に由来する宿主細胞を使用することができる。本発明の範囲内で、「細胞」なる用語は個々の細胞、組織、臓器、昆虫細胞、鳥類細胞、爬虫類細胞、哺乳動物細胞、ハイブリドーマ細胞、初代細胞、連続細胞株、幹細胞、植物細胞、酵母細胞、糸状菌細胞の培養及び/又は遺伝子組換え細胞(グリコシル化免疫グロブリンを発現及び提示する組換え細胞)を意味する。
【0097】
別の態様では、酵母や糸状菌等の下等真核生物は経済的に培養することができ、収率が高く、適切に改変すると、適切なグリコシル化が可能であるため、免疫グロブリンの発現と提示にこのような下等真核生物を使用する。酵母は特に迅速な形質転換、試験蛋白質局在化ストラテジー及び平易な遺伝子ノックアウト技術を可能にする遺伝子工学材料として定着している。適切なベクターは必要に応じてプロモーター(3−ホスホグリセリン酸キナーゼ又は他の糖分解酵素を含む)等の発現制御配列、複製起点、終結配列をもつ。
【0098】
本発明で有用な宿主細胞としては、Pichia pastoris、Pichia finlandica、Pichia trehalophila、Pichia koclamae、Pichia membranaefaciens、Pichia minuta(Ogataea minuta、Pichia lindneri)、Pichia opuntiae、Pichia thermotolerans、Pichia salictaria、Pichia guercuum、Pichia pijperi、Pichia stipitis、Pichia methanolica、Pichia種、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces種、Hansenula polymorpha、Kluyveromyces種、Kluyveromyces lactis、Candida albicans、Aspergillus nidulans、Aspergillus niger、Aspergillus oryzae、Trichoderma reesei、Chrysosporium lucknowense、Fusarium種、Fusarium gramineum、Fusarium venenatum及びNeurospora crassaが挙げられる。K.lactis、Pichia pastoris、Pichia methanolica及びHansenula polymorpha等の各種酵母は高い細胞密度まで増殖し、大量の組換え蛋白質を分泌することができるので、細胞培養に特に適している。同様に、Aspergillus niger、Fusarium種、Neurospora crassa等の糸状菌も本発明の糖蛋白質を工業的規模で生産するために使用することができる。下等真核生物の場合には、捕捉部分の発現を誘導する条件下で細胞を常法により約1.5〜3日間増殖させる。約1〜2日間、捕捉部分の発現を阻害しながら免疫グロブリンの発現を誘導する。その後、該当免疫グロブリンを提示する細胞について細胞を分析する。
【0099】
グリコシル化パターンがヒト様又はヒト化型である糖蛋白質を発現するように下等真核生物、特に酵母と糸状菌を遺伝子改変することができる。こうして、目的とする特定のグリコフォームが組成物中で主体となる糖蛋白質組成物を作製することができる。これは、US2004/0018590に記載されているように哺乳動物グリコシル化経路の全部又は一部に似せるように、選択された内在性グリコシル化酵素を排除すること、及び/又は宿主細胞を遺伝子操作すること、及び/又は外来酵素を供給することにより実現できる。必要に応じて、コアフコシル化を伴うか又は伴わない糖蛋白質を産生できるように、グリコシル化を更に遺伝子操作してもよい。下等真核宿主細胞を使用すると、これらの細胞は糖蛋白質の主体となるグリコフォームが組成物中の糖蛋白質の30モルパーセントを上回るように、糖蛋白質の高度に均質な組成物を産生することができるという点で更に有利である。特定側面において、主体となるグリコフォームは組成物中に存在する糖蛋白質の40モルパーセント、50モルパーセント、60モルパーセント、70モルパーセントを上回ることができ、最も好ましくは80モルパーセントを上回ることができる。
【0100】
グリコシル化パターンがヒト様又はヒト化型である糖蛋白質を発現するように下等真核生物、特に酵母を遺伝子改変することができる。これは、Gerngrossら,US20040018590に記載されているように選択された内在性グリコシル化酵素を排除すること及び/又は外来酵素を供給することにより実現できる。例えば、低下させないと糖蛋白質上のN−グリカンにマンノース残基を付加してしまう1,6−マンノシルトランスフェラーゼ活性を低下させるように宿主細胞を選択又は設計することができる。
【0101】
1態様において、宿主細胞は更に、通常ではα1,2−マンノシダーゼ触媒ドメインと結合しておらず、α1,2−マンノシダーゼ活性を宿主細胞のER又はゴルジ装置にターゲティングするように選択された細胞内ターゲティングシグナルペプチドと融合したα1,2−マンノシダーゼ触媒ドメインを含む。組換え糖蛋白質が宿主細胞のER又はゴルジ装置を通過すると、ManGlcNAcグリコフォームを含む組換え糖蛋白質(例えばManGlcNAcグリコフォームを主体とする組換え糖蛋白質組成物)が産生される。例えば、米国特許第7,029,872号と米国特許出願公開第2004/0018590号及び2005/0170452号はManGlcNAcグリコフォームを含む糖蛋白質を産生することが可能な下等真核宿主細胞を開示している。
【0102】
別の態様において、前記宿主細胞は更に、通常ではGlcNAcトランスフェラーゼI触媒ドメインと結合しておらず、GlcNAcトランスフェラーゼI活性を宿主細胞のER又はゴルジ装置にターゲティングするように選択された細胞内ターゲティングシグナルペプチドと融合したGlcNAcトランスフェラーゼI(GnT I)触媒ドメインを含む。組換え糖蛋白質が宿主細胞のER又はゴルジ装置を通過すると、GlcNAcManGlcNAcグリコフォームを含む組換え糖蛋白質(例えばGlcNAcManGlcNAcグリコフォームを主体とする組換え糖蛋白質組成物)が産生される。米国特許第7,029,872号と米国特許出願公開第2004/0018590号及び2005/0170452号はGlcNAcManGlcNAcグリコフォームを含む糖蛋白質を産生することが可能な下等真核宿主細胞を開示している。上記細胞で産生された糖蛋白質をヘキソサミニダーゼでインビトロ処理し、ManGlcNAcグリコフォームを含む組換え糖蛋白質を作製することができる。
【0103】
別の態様において、前記宿主細胞は更に、通常ではマンノシダーゼII触媒ドメインと結合しておらず、マンノシダーゼII活性を宿主細胞のER又はゴルジ装置にターゲティングするように選択された細胞内ターゲティングシグナルペプチドと融合したマンノシダーゼII触媒ドメインを含む。組換え糖蛋白質が宿主細胞のER又はゴルジ装置を通過すると、GlcNAcManGlcNAcグリコフォームを含む組換え糖蛋白質(例えばGlcNAcManGlcNAcグリコフォームを主体とする組換え糖蛋白質組成物)が産生される。米国特許第7,029,872号と米国特許出願公開第2004/0230042号はマンノシダーゼII酵素を発現し、GlcNAcManGlcNAcグリコフォームを主体とする糖蛋白質を産生することが可能な下等真核宿主細胞を開示している。上記細胞で産生された糖蛋白質をヘキソサミニダーゼでインビトロ処理し、ManGlcNAcグリコフォームを含む組換え糖蛋白質を作製することができる。
【0104】
別の態様において、前記宿主細胞は更に、通常ではGlcNAcトランスフェラーゼII触媒ドメインと結合しておらず、GlcNAcトランスフェラーゼII活性を宿主細胞のER又はゴルジ装置にターゲティングするように選択された細胞内ターゲティングシグナルペプチドと融合したGlcNAcトランスフェラーゼII(GnT II)触媒ドメインを含む。組換え糖蛋白質が宿主細胞のER又はゴルジ装置を通過すると、GlcNAcManGlcNAcグリコフォームを含む組換え糖蛋白質(例えばGlcNAcManGlcNAcグリコフォームを主体とする組換え糖蛋白質組成物)が産生される。米国特許第7,029,872号と米国特許出願公開第2004/0018590号及び2005/0170452号はGlcNAcManGlcNAcグリコフォームを含む糖蛋白質を産生することが可能な下等真核宿主細胞を開示している。上記細胞で産生された糖蛋白質をヘキソサミニダーゼでインビトロ処理し、ManGlcNAcグリコフォームを含む組換え糖蛋白質を作製することができる。
【0105】
別の態様において、前記宿主細胞は更に、通常ではガラクトシルトランスフェラーゼ触媒ドメインと結合しておらず、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を宿主細胞のER又はゴルジ装置にターゲティングするように選択された細胞内ターゲティングシグナルペプチドと融合したガラクトシルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含む。組換え糖蛋白質が宿主細胞のER又はゴルジ装置を通過すると、GalGlcNAcManGlcNAcもしくはGalGlcNAcManGlcNAcグリコフォーム又はその混合物を含む組換え糖蛋白質(例えばGalGlcNAcManGlcNAcグリコフォームもしくはGalGlcNAcManGlcNAcグリコフォーム又はその混合物を主体とする組換え糖蛋白質組成物)が産生される。米国特許第7,029,872号と米国特許出願公開第2006/0040353号はGalGlcNAcManGlcNAcグリコフォームを含む糖蛋白質を産生することが可能な下等真核宿主細胞を開示している。上記細胞で産生された糖蛋白質をガラクトシダーゼでインビトロ処理し、GlcNAcManGlcNAcグリコフォームを含む組換え糖蛋白質(例えばGlcNAcManGlcNAcグリコフォームを主体とする組換え糖蛋白質組成物)を作製することができる。
【0106】
別の態様において、前記宿主細胞は更に、通常ではシアリルトランスフェラーゼ触媒ドメインと結合しておらず、シアリルトランスフェラーゼ活性を宿主細胞のER又はゴルジ装置にターゲティングするように選択された細胞内ターゲティングシグナルペプチドと融合したシアリルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含む。組換え糖蛋白質が宿主細胞のER又はゴルジ装置を通過すると、NANAGalGlcNAcManGlcNAcグリコフォームもしくはNANAGalGlcNAcManGlcNAcグリコフォーム又はその混合物を主体とする組換え糖蛋白質が産生される。酵母や糸状菌等の下等真核宿主細胞では、N−グリカンに転移するためにCMP−シアル酸を提供するための手段を更に宿主細胞に加えると有用である。米国特許出願公開第2005/0260729号はCMP−シアル酸合成経路をもつように下等真核生物を遺伝子操作するための方法を開示しており、米国特許出願公開第2006/0286637号はシアル酸が付加された糖蛋白質を産生するように下等真核生物を遺伝子操作するための方法を開示している。上記細胞で産生された糖蛋白質をノイラミニダーゼでインビトロ処理し、GalGlcNAcManGlcNAcグリコフォームもしくはGalGlcNAcManGlcNAcグリコフォーム又はその混合物を主体とする組換え糖蛋白質を作製することができる。
【0107】
上記宿主細胞の任意1種は更に、米国特許出願公開第2004/074458号及び2007/0037248号に開示されているような分岐型(GnT III)及び/又は複数側鎖(GnT IV、V、VI及びIX)N−グリカン構造をもつ糖蛋白質を産生するようにGnT III、GnT IV、GnT V、GnT VI及びGnT IXから構成される群から選択される1種以上のGlcNAcトランスフェラーゼを含むことができる。
【0108】
他の態様において、GlcNAcManGlcNAc N−グリカンを主体とする糖蛋白質を産生する宿主細胞は更に、通常ではガラクトシルトランスフェラーゼ触媒ドメインと結合しておらず、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を宿主細胞のER又はゴルジ装置にターゲティングするように選択された細胞内ターゲティングシグナルペプチドと融合したガラクトシルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含む。組換え糖蛋白質が宿主細胞のER又はゴルジ装置を通過すると、GalGlcNAcManGlcNAcグリコフォームを主体とする組換え糖蛋白質が産生される。
【0109】
別の態様において、GalGlcNAcManGlcNAc N−グリカンを主体とする糖蛋白質を産生する前記宿主細胞は更に、通常ではシアリルトランスフェラーゼ触媒ドメインと結合しておらず、シアリルトランスフェラーゼ活性を宿主細胞のER又はゴルジ装置にターゲティングするように選択された細胞内ターゲティングシグナルペプチドと融合したシアリルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含む。組換え糖蛋白質が宿主細胞のER又はゴルジ装置を通過すると、NANAGalGlcNAcManGlcNAcグリコフォームを含む組換え糖蛋白質が産生される。
【0110】
上記各種宿主細胞は更に、UDP−GlcNAcトランスポーター(例えばキラー酵母Kluyveromyces lactis及びハツカネズミMus musculus UDP−GlcNAcトランスポーター)、UDP−ガラクトーストランスポーター(例えばキイロショウジョウバエDrosophila melanogaster UDP−ガラクトーストランスポーター)、及びCMP−シアル酸トランスポーター(例えばヒトシアル酸トランスポーター)等の1種以上の糖トランスポーターを含む。酵母や糸状菌等の下等真核宿主細胞は上記トランスポーターをもたないので、上記トランスポーターを加えるように酵母や糸状菌等の下等真核宿主細胞を遺伝子操作することが好ましい。
【0111】
宿主細胞としては更に、β−マンノシルトランスフェラーゼ遺伝子(例えばBMT1,BMT2,BMT3及びBMT4)(米国特許出願公開第2006/0211085号参照)の1種以上を欠損又は破壊することによりα−マンノシダーゼ耐性N−グリカンをもつ糖蛋白質を排除し、ホスホマンノシルトランスフェラーゼ遺伝子PNO1及びMNN4B(例えば米国特許第7,198,921号及び7,259,007号参照)の一方又は両方を欠損又は破壊することによりホスホマンノース残基をもつ糖蛋白質を排除するように遺伝子操作された下等真核細胞(例えばPichia pastoris等の酵母)が挙げられ、他の側面では更にMNN4A遺伝子を欠損又は破壊してもよい。破壊としては、特定酵素をコードするオープンリーディングフレームの破壊又はオープンリーディングフレームの発現の妨害、あるいは干渉性RMA、アンチセンスRNA等を使用してβ−マンノシルトランスフェラーゼ及び/又はホスホマンノシルトランスフェラーゼの1種以上をコードするRNAの翻訳を阻止する方法が挙げられる。宿主細胞としては更に、特定のN−グリカン構造を産生するように改変した上記宿主細胞の任意1種以上が挙げられる。
【0112】
宿主細胞としては更に、蛋白質O−マンノシルトランスフェラーゼ(Dol−P−Man:蛋白質(Ser/Thr)マンノシルトランスフェラーゼ遺伝子)(PMT)の1種以上(米国特許第5,714,377号参照)を欠損もしくは破壊することにより糖蛋白質のO−グリコシル化を抑制するように遺伝子改変するか、あるいは国際出願公開第WO2007061631号に開示されているようにPmtp阻害剤及び/又はα−マンノシダーゼの存在下で増殖させるか、あるいはその両方を実施した下等真核細胞(例えばPichia pastoris等の酵母)が挙げられる。破壊としては、Pmtpをコードするオープンリーディングフレームの破壊又はオープンリーディングフレームの発現の妨害、あるいは干渉性RNA、アンチセンスRNA等を使用してPmtpの1種以上をコードするRNAの翻訳を阻止する方法が挙げられる。宿主細胞としては更に、特定のN−グリカン構造を産生するように改変した上記宿主細胞の任意1種以上が挙げられる。
【0113】
Pmtp阻害剤としては、限定されないが、ベンジリデンチアゾリジンジオンが挙げられる。使用することができるベンジリデンチアゾリジンジオンの例は5−[[3,4−ビス(フェニルメトキシ)フェニル]メチレン]−4−オキソ−2−チオキソ−3−チアゾリジン酢酸;5−[[3−(1−フェニルエトキシ)−4−(2−フェニルエトキシ)]フェニル]メチレン]−4−オキソ−2−チオキソ−3−チアゾリジン酢酸;及び5−[[3−(1−フェニル−2−ヒドロキシ)エトキシ)−4−(2−フェニルエトキシ)]フェニル]メチレン]−4−オキソ−2−チオキソ−3−チアゾリジン酢酸である。
【0114】
特定態様では、少なくとも1種の内在性PMT遺伝子の機能又は発現を低下、妨害又は欠損させる。例えば、特定態様では、PMT1、PMT2、PMT3及びPMT4遺伝子から構成される群から選択される少なくとも1種の内在性PMT遺伝子の機能又は発現を低下、妨害又は欠損させるか、あるいは1種以上のPMT阻害剤の存在下で宿主細胞を培養する。他の態様において、宿主細胞は1種以上のPMT遺伝子が欠損又は破壊され、1種以上のPmtp阻害剤の存在下で宿主細胞を培養する。これらの態様の特定側面において、宿主細胞は分泌型α−1,2−マンノシダーゼも発現する。
【0115】
PMT欠損もしくは破壊及び/又はPmtp阻害剤はO−グリコシル化度を低下させることにより、即ちグリコシル化される糖蛋白質上のO−グリコシル化部位の合計数を減らすことによりO−グリコシル化を抑制する。細胞により分泌されるα−1,2−マンノシダーゼを更に加えると、糖蛋白質上に存在するO−グリカンのマンノース鎖長を減らすことによりO−グリコシル化が抑制される。従って、PMT欠損もしくは破壊及び/又はPmtp阻害剤を分泌型α−1,2−マンノシダーゼの発現と併用すると、O−グリコシル化度と鎖長を減らすことによりO−グリコシル化が抑制される。特定状況では、特定の異種糖蛋白質(例えば抗体)を種々の程度の効率で発現させ、ゴルジ装置を通って輸送することができ、従って、PMT欠損又は破壊、Pmtp阻害剤及びα−1,2−マンノシダーゼの特定の組合せが必要になると思われるので、PMT欠損又は破壊、Pmtp阻害剤及びα−1,2−マンノシダーゼの特定の組合せは経験的に決定される。別の側面では、1種以上の内在性マンノシルトランスフェラーゼ酵素をコードする遺伝子を欠損させる。この欠損を分泌型α−1,2−マンノシダーゼ及び/又はPMT阻害剤の供給と組合せてもよいし、分泌型α−1,2−マンノシダーゼ及び/又はPMT阻害剤の供給の代用としてもよい。
【0116】
従って、本願に開示する宿主細胞において総収率又は正しくアセンブリされた糖蛋白質の収率を改善させながら特定糖蛋白質を産生させるためにはO−グリコシル化の抑制が有用であると思われる。全長抗体は分泌経路を通って細胞表面に輸送されるので、O−グリコシル化の低下又は阻止は全長抗体のアセンブリと輸送に有益な効果があると思われる。従って、O−グリコシル化が抑制された細胞において、正しくアセンブリされた抗体フラグメントの収率はO−グリコシル化が抑制されていない宿主細胞で得られる収率よりも増加する。
【0117】
更に、O−グリコシル化は抗原に対する抗体の親和性及び/又はアビディティーに影響を与えると思われる。抗体産生用の最終宿主細胞が抗体を選択するために使用された宿主細胞と同一でない場合にこれは特に顕著であると思われる。例えば、O−グリコシル化は抗原に対する抗体の親和性を妨害する可能性があり、従って、O−グリコシル化は抗体が抗原と結合する能力を妨害する可能性があるので、抗原に対して高い親和性をもつ抗体を同定できなくなる可能性がある。他方、O−グリコシル化は抗原に対する抗体のアビディティーを妨害するため、抗原に対して高いアビディティーをもつ抗体を同定できない可能性がある。前者の2例では、抗体の同定及び選択用の宿主細胞は別の細胞型、例えば酵母又は真菌細胞(例えばPichia pastoris宿主細胞)であったため、哺乳動物細胞株で産生される場合に特に有効な抗体を同定できない可能性がある。酵母におけるO−グリコシル化が哺乳動物細胞におけるO−グリコシル化と著しく相違する場合があることはよく知られている。野生型酵母のo−グリコシル化を哺乳動物におけるムチン型又はジストログリカン型O−グリコシル化と比較すると、この点は特に顕著である。特定の場合では、O−グリコシル化が抗原に対する抗体の親和性又はアビディティーを妨害するのではなく、増加する場合もある。抗体を同定及び選択するために使用される宿主細胞と産生宿主細胞を別のものにする場合(例えば同定と選択を酵母で実施し、産生宿主は哺乳動物細胞とする場合)には、産生宿主ではO−グリコシル化は抗原に対する親和性又はアビディティーの増加を生じた型ではなくなるため、この効果は望ましくない。従って、O−グリコシル化を抑制すると、宿主細胞のO−グリコシル化システムにより影響される抗体を同定及び選択せずに抗原に対する抗体の親和性又はアビディティーに基づいて特定抗原に対して特異性をもつ抗体を同定及び選択するために本願の材料と方法を使用することが可能になる。このため、O−グリコシル化を抑制すると、哺乳動物細胞株で最終的に産生される抗体を同定及び選択する際の酵母又は真菌宿主細胞の有用性が更に増す。
【0118】
状況によっては、哺乳動物又はヒトシャペロン蛋白質をコードする核酸分子を過剰発現させるか、あるいは1種以上の内在性シャペロン蛋白質をコードする遺伝子を1種以上の哺乳動物又はヒトシャペロン蛋白質をコードする核酸分子で置換することにより、抗体の収率を改善することができる。更に、宿主細胞で哺乳動物又はヒトシャペロン蛋白質を発現させても細胞におけるO−グリコシル化が抑制されると思われる。従って、本願に開示する宿主細胞であって、シャペロン蛋白質をコードする少なくとも1種の内在性遺伝子の機能を低下又は阻止し、シャペロン蛋白質の少なくとも1種の哺乳動物又はヒトホモログをコードするベクターを宿主細胞で発現させるものも本願に含まれる。内在性宿主細胞シャペロンと哺乳動物又はヒトシャペロン蛋白質を発現させる宿主細胞も含まれる。他の側面において、下等真核宿主細胞は酵母又は糸状菌宿主細胞である。収率を改善し、組換え蛋白質のO−グリコシル化を低下又は抑制するためにヒトシャペロン蛋白質を導入する宿主細胞のシャペロンの使用の例は米国仮出願第61/066409号(出願日2008年2月20日)及び61/188,723号(出願日2008年8月12日)に開示されている。上記と同様に、上記のように内在性シャペロン蛋白質の1種以上をコードする遺伝子を1種以上の哺乳動物又はヒトシャペロン蛋白質をコードする核酸分子で置換すること、あるいは1種以上の哺乳動物又はヒトシャペロン蛋白質を過剰発現させることに加え、蛋白質O−マンノシルトランスフェラーゼ(PMT)蛋白質をコードする少なくとも1種の内在性遺伝子の機能又は発現を低下、妨害又は欠損させた下等真核宿主細胞も本願に含まれる。特定態様では、PMT1、PMT2、PMT3及びPMT4遺伝子から構成される群から選択される少なくとも1種の内在性PMT遺伝子の機能を低下、妨害又は欠損させる。
【0119】
従って、本願に開示する方法はN−グリカン組成物を含まない糖蛋白質を産生するように遺伝子改変された任意宿主細胞を使用することができ、主体となるN−グリカンは複合型N−グリカン、ハイブリッド型N−グリカン及び高マンノース型N−グリカンから構成される群から選択され、複合型N−グリカンはManGlcNAc、GlcNAc(1−4)ManGlcNAc、Gal(1−4)GlcNAc(1−4)ManGlcNAc、及びNANA(1−4)Gal(1−4)ManGlcNAcから構成される群から選択され;ハイブリッド型N−グリカンはManGlcNAc、GlcNAcManGlcNAc、GalGlcNAcManGlcNAc、及びNANAGalGlcNAcManGlcNAcから構成される群から選択され;高マンノース型N−グリカンはManGlcNAc、ManGlcNAc、ManGlcNAc及びManGlcNAcから構成される群から選択される。特定側面において、N−グリカンの組成物は概算でGlcNACManGlcNAc 39%、GalGlcNACManGlcNAc 40%、及びGalGlcNACManGlcNAc 6%又は概算でGlcNACManGlcNAc 60%、GalGlcNACManGlcNAc 17%、及びGalGlcNACManGlcNAc 5%、又はその相互混合物を含有する。
【0120】
酵母細胞が1,6−マンノシルトランスフェラーゼ活性を示さない(即ちoch1pをコードするOCH1遺伝子が破壊又は欠損している)上記態様において、宿主細胞は接合することができない。従って、形質転換効率に応じて、軽鎖及び重鎖の潜在的ライブラリー多様性は約10〜10の多様性の重鎖ライブラリーと、約10〜10の多様性の軽鎖ライブラリーに制限されると思われる。他方、接合可能な酵母宿主細胞では、軽鎖ライブラリーを発現する宿主細胞と重鎖ライブラリーを発現する宿主細胞を接合させ、重鎖/軽鎖ライブラリーを発現する宿主細胞を作製することができるので、多様性を約10〜1012まで増加することができる。従って、特定態様において、宿主細胞は1,6−マンノシルトランスフェラーゼ活性を示す(即ちoch1p機能をコードするOCH1遺伝子をもつ)が、細胞表面に抗体又はそのフラグメントを提示するように本願に記載するように改変されたPichia pastoris等の酵母細胞である。これらの態様において、宿主細胞はその天然グリコシル化経路をもつ宿主細胞とすることができる。
【0121】
本発明で使用することができる酵母選択マーカーとしては、薬剤耐性マーカーと、酵母宿主細胞に必須細胞栄養素(例えばアミノ酸)を合成させる遺伝子機能が挙げられる。酵母で一般に使用される薬剤耐性マーカーとしては、クロラムフェニコール、カナマイシン、メトトレキセート、G418(ゲネチシン)、ゼオシン等が挙げられる。酵母宿主細胞に必須細胞栄養素を合成させる遺伝子機能は対応するゲノム機能に栄養要求性突然変異をもつ入手可能な酵母株で使用する。一般的な酵母選択マーカーはロイシン(LEU2)、トリプトファン(TRP1及びTRP2)、プロリン(PRO1)、ウラシル(URA3,URA5 URA6)、ヒスチジン(HIS3)、リジン(LYS2)、アデニン(ADE1又はADE2)等を合成するための遺伝子機能を提供する。他の酵母選択マーカーとしては、亜ヒ酸塩の存在下で増殖させる酵母細胞に亜ヒ酸塩耐性を付与するS.cerevisiaeに由来するARR3遺伝子が挙げられる(Bobrowicz et al.,Yeast,13:819−828(1997);Wysocki et al.,J.Biol.Chem.272:30061−066(1997))。多数の適切な組込み部位としては米国特許出願公開第2007/0072262号に記載されているものが挙げられ、Saccharomyces cerevisiae及び他の酵母又は真菌類に公知の遺伝子座のホモログが挙げられる。ベクターを酵母に組込む方法は周知であり、例えば米国特許第7,479,389号、WO2007136865及びPCT/US2008/13719を参照されたい。挿入部位の例としては、限定されないが、Pichia ADE遺伝子;Pichia TRP(TRP1〜TRP2を含む)遺伝子;Pichia MCA遺伝子;Pichia CYM遺伝子;Pichia PEP遺伝子;Pichia PRB遺伝子;及びPichia LEU遺伝子が挙げられる。Pichia ADE1及びARG4遺伝子はLin Cereghino et al.,Gene 263:159−169(2001)と米国特許第4,818,700号に記載されており、HIS3及びTRP1遺伝子はCosano et al.,Yeast 14:861−867(1998)に記載されており、HIS4はGenBank Accession No.X56180に記載されている。
【0122】
全長抗体を発現する態様では、分子の297位(グリコシル化部位)のアスパラギン残基をコードするコドンを、他の任意アミノ酸残基をコードするコドンで置換するように、抗体又はその重鎖フラグメントをコードする核酸分子を改変する。従って、宿主細胞で産生される抗体はグリコシル化されていない。この態様では、軽鎖ライブラリーを提示する宿主細胞に重鎖ライブラリーを提示する宿主細胞を接合し、得られたコンビナトリアルライブラリーを本願に教示するようにスクリーニングする。抗体はN−グリコシル化を欠損するので、目的の抗原に対する抗体親和性を妨害する宿主細胞の非ヒト酵母N−グリカンは組換え抗体上に存在しない。該当抗原に対する望ましい親和性をもつ抗体を産生する細胞を選択する。その抗体の重鎖及び軽鎖をコードする核酸分子を細胞から取出し、297位にアスパラギン残基を再導入するように、重鎖をコードする核酸分子を改変する。こうして、従来記載されているようなハイブリッド型又は複合型N−グリカンをもつ糖蛋白質を産生するように操作された宿主細胞にその抗体をコードする核酸分子を導入すると、抗体又はそのフラグメントの297位に適切なヒト様グリコシル化が得られる。
【0123】
免疫グロブリンの組換え発現及び提示に使用される細胞系は更に動物界に由来する任意高等真核細胞、組織、生物(例えばトランスジェニックヤギ、トランスジェニックウサギ、CHO細胞、昆虫細胞及びヒト細胞株)とすることができる。動物細胞の例としては、限定されないが、SC−I細胞、LLC−MK細胞、CV−I細胞、CHO細胞、COS細胞、マウス細胞、ヒト細胞、HeLa細胞、293細胞、VERO細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、MDOK細胞、CRFK細胞、RAF細胞、TCMK細胞、LLC−PK細胞、PK15細胞、WI−38細胞、MRC−5細胞、T−FLY細胞、BHK細胞、SP2/0,NSO細胞及びその誘導体が挙げられる。昆虫細胞としてはキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)由来細胞が挙げられる。細胞が特定又は主に特定のN−グリカンをもつ免疫グロブリンを産生できるようにこれらの細胞を遺伝子操作することができる。例えば、米国特許第6,949,372号はシアル酸が付加された糖蛋白質を昆虫細胞で産生させる方法を開示している。Yamane−Ohnuki et al.Biotechnol.Bioeng.87:614−622(2004)、Kanda et al.,BiotechnoL Bioeng.94:680−688(2006)、Kanda et al.,Glycobiol.17:104−118(2006)、並びに米国特許出願公開第2005/0216958号及び2007/0020260号はN−グリカンがフコースを含有しないか又は含有量の少ない免疫グロブリンを産生することが可能な哺乳動物細胞を開示している。
【0124】
特定態様において、高等真核細胞、組織、生物は植物界に由来するものでもよい(例えばコムギ、イネ、トウモロコシ、タバコ等)。あるいは、例えばPhyscomitrella、Funaria、Sphagnum、Ceratodon、Marchantia及びSphaerocarpos属の種からコケ植物細胞を選択することもできる。植物細胞の例としては、WO2004/057002及びWO2008/006554に開示されているPhyscomitrella patensのコケ植物細胞が挙げられる。細胞が特定N−グリカンを主体とする免疫グロブリンを産生できるようにグリコシル化経路を改変するように、植物細胞を使用する発現システムを更に操作することができる。例えば、コアフコシルトランスフェラーゼを機能低下もしくは欠損及び/又はキシロシルトランスフェラーゼを機能低下もしくは欠損及び/又はβ1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼを機能低下もしくは欠損させるように細胞を遺伝子操作することができる。あるいは、残基を除去する酵素で処理することにより、ガラクトース、フコース及び/又はキシロースを免疫グロブリンから除去することができる。当分野で公知のN−グリカンからガラクトース、フコース及び/又はキシロース残基を遊離させる任意酵素を使用することができ、例えばα−ガラクトシダーゼ、β−キシロシダーゼ及びα−フコシダーゼが挙げられる。あるいは、1,3−フコシルトランスフェラーゼ及び/又は1,2−キシロシルトランスフェラーゼ及び/又は1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼにより基質として使用することができない改変型N−グリカンを合成する発現システムを使用することができる。植物細胞におけるグリコシル化経路の改変方法は米国特許出願公開第2004/0018590号に記載されている。
【0125】
本願に開示する方法は哺乳動物、昆虫及び植物細胞で使用するように適応させることができる。哺乳動物、昆虫又は植物細胞における発現カセットの発現を調節するために選択される調節性プロモーターは選択される細胞型で機能できるように選択すべきである。適切な調節性プロモーターの例としては、限定されないが、テトラサイクリン調節性プロモーター(例えばBerens & Hillen,Eur.J.Biochem.270:3109−3121(2003)参照)、RU486誘導性プロモーター、エクジソン誘導性プロモーター及びカナマイシン調節性システムが挙げられる。実施例に記載する発現カセットに例示するプロモーターの代わりにこれらのプロモーターを使用することができる。選択される細胞型で使用するのに適した細胞表面アンカー蛋白質に捕捉部分を融合することができる。GPI蛋白質を含む細胞表面アンカー蛋白質は哺乳動物、昆虫及び植物細胞でよく知られている。GPI係留型融合蛋白質はKennard et al.,Methods Biotechnol.Vo.8:Animal Cell Biotechnology(Ed.Jenkins.Human Press,Inc.,Totowa,NJ)pp.187−200(1999)に記載されている。実施例に例示するゲノムターゲティング及び組込み配列の代わりに、安定な形質転換体を作製するために発現カセットを宿主細胞ゲノムに組込むためのゲノムターゲティング配列を使用することができる。安定的及び一過的にトランスフェクトした哺乳動物、昆虫、植物宿主細胞を作製するためのトランスフェクション法は当分野で周知である。トランスフェクトした宿主細胞を本願に開示するように構築後、本願に開示するように該当免疫グロブリンの発現について細胞をスクリーニングし、選択することができる。
【0126】
本発明は更に適切なパッケージに本発明の発現及びヘルパーベクターを含むキットも包含する。各キットは宿主細胞内へのベクターの送達を可能にする試薬を必須とする。ベクターの送達を助長する試薬の選択は使用する特定トランスフェクション又は感染方法により異なる。キットは更に外来配列と蛋白質産物の検出用の標識ポリヌクレオチドプローブ又は蛋白質プローブを作製するために有用な試薬を含むことができる。各試薬は固体形態で供給してもよいし、在庫保存と、その後に実験を実施する際に反応媒体への交換又は添加に適した液体緩衝液に溶解/懸濁してもよい。適切なパッケージを提供する。キットは場合により操作で有用な他のコンポーネントを提供することができる。これらの非必須コンポーネントとしては、限定されないが、緩衝液、捕捉用試薬、展開用試薬、標識剤、反応表面、検出手段、対照サンプル、説明書及び解釈情報が挙げられる。
【0127】
本願に引用する全刊行物、特許及び他の文献は全体を本願に援用する。
【0128】
以下の実施例は本発明を更に理解し易くすることを目的とする。
【実施例1】
【0129】
Pichia pastorisをモデルとして使用して本発明の有用性を実証した。糖鎖組換え型Pichia pastoris株yGLY2696をバックグラウンド株として使用した。株yGLY2696では、内在性PDIをコードする遺伝子がヒトPDIをコードする核酸分子で置換され、ヒトGRP94蛋白質をコードする核酸分子がPEP4遺伝子座に挿入されている。ManGlcNAc N−グリカンを主体とする糖蛋白質を産生するように内在性グリコシル化経路を改変するようにこの株を更に操作した。株YGLY2696は2008年2月20日に出願された同時係属出願第61/066,409号に開示されている。この株は免疫グロブリンを作製するため及びO−グリコシル化を低下させた免疫グロブリンを作製するために有用であることが分かった。株yGLY2696の構築は以下の工程を要した。
【0130】
ヒトPDI蛋白質をコードする発現カセットと、Pichia pastoris PDI1をコードする遺伝子を、ヒトPDIをコードする核酸分子で置換するためにプラスミドベクターをPichia pastoris PDI1遺伝子座にターゲティングするための核酸分子を含む発現/組込みプラスミドベクターpGLY642の構築を以下のように実施し、図8に示す。プライマーとしてhPDI/UP1:5’AGCGC TGACG CCCCC GAGGA GGAGG ACCAC 3’(配列番号1)及びhPDI/LP−PacI:5’CCTTA ATTAA TTACA GTTCA TCATG CACAG CTTTC TGATC AT 3’(配列番号2)と、Pfu turbo DNAポリメラーゼ(Stratagene,La Jolla,CA)と、ヒト肝cDNA(BD Bioscience,San Jose,CA)を使用してヒトPDI1をコードするcDNAをPCRにより増幅した。PCR条件は95℃で2分間を1サイクル、95℃で20秒間、58℃で30秒間及び72℃で1.5分間を25サイクル後、72℃で10分間を1サイクルとした。得られたPCR産物をプラスミドベクターpCR2.1にクローニングし、プラスミドベクターpGLY618を作製した。ヒトPDI1のヌクレオチド配列とアミノ酸配列(夫々配列番号39及び40)を表1に示す。
【0131】
Pichia pastoris PDI1のヌクレオチド配列とアミノ酸配列(夫々配列番号41及び42)を表1に示す。Pichia pastorisゲノムDNAに由来する領域のPCR増幅により、Pichia pastoris PDI1 5’及び3’領域を含む核酸分子の単離を行った。プライマーとしてPB248:5’ATGAA TTCAG GCCAT ATCGG CCATT GTTTA CTGTG CGCCC ACAGT AG 3’(配列番号3);PB249:5’ATGTT TAAAC GTGAG GATTA CTGGT GATGA AAGAC 3’(配列番号4)を使用して5’領域を増幅した。プライマーとしてPB250:5’AGACT AGTCT ATTTG GAGAC ATTGA CGGAT CCAC 3’(配列番号5);PB251:5’ATCTC GAGAG GCCAT GCAGG CCAAC CACAA GATGA ATCAA ATTTT G−3’(配列番号6)を使用して3’領域を増幅した。Pichia pastoris株NRRL−11430ゲノムDNAをPCR増幅に使用した。PCR条件は95℃で2分間を1サイクル、95℃で30秒間、55℃で30秒間及び72℃で2.5分間を25サイクル後、72℃で10分間を1サイクルとした。得られたPCRフラグメントPpPDI1(5’)及びPpPDI1(3’)を別々にプラスミドベクターpCR2.1にクローニングし、夫々プラスミドベクターpGLY620及びpGLY617を作製した。pGLY678を構築するために、プラスミドベクターをPichia pastoris ARG3遺伝子座にターゲティングする組込みプラスミドベクターpGLY24のDNAフラグメントPpARG3−5’及びPpARG−3’を、プラスミドベクターpGLY678をPDI1遺伝子座にターゲティングしてPDI1遺伝子座の発現を妨害するDNAフラグメントPpPDI(5’)及びPpPDI(3’)で夫々置換した。
【0132】
次にヒトPDIをコードする核酸分子をプラスミドベクターpGLY678にクローニングし、ヒトPDIをコードする核酸分子をPichia pastoris GAPDHプロモーター(PpGAPDH)の制御下においたプラスミドベクターpGLY642を作製した。5’末端NotI制限酵素部位と平滑3’末端をもつSaccharomyces cerevisiae α接合因子(MF)プレ配列シグナルペプチド(ScαMFプレシグナルペプチド)をコードする核酸分子と、プラスミドベクターpGLY618からヒトPDIをコードする核酸分子をAfeIとPacIで遊離させて作製した平滑5’末端と3’末端PacI部位をもつ核酸分子を含む発現カセットを、NotIとPacIで消化したプラスミドベクターpGLY678にライゲーションすることにより、発現/組込みプラスミドベクターpGLY642を構築した。得られた組込み/発現プラスミドベクターpGLY642はPichia pastorisプロモーターと機能的に連結されたヒトPDI1/ScαMFプレシグナルペプチド融合蛋白質をコードする発現カセットと、PDI1遺伝子座の破壊とPDI1遺伝子座への発現カセットの組込みのためにプラスミドベクターをPichia pastoris PDI1遺伝子座にターゲティングするための核酸分子配列を含む。図2はプラスミドベクターpGLY642の構築を示す。ScαMFプレシグナルペプチドのヌクレオチド配列とアミノ酸配列を夫々配列番号27及び28に示す。
【0133】
ヒトGRP94蛋白質をコードする発現/組込みベクターpGLY2233の構築を以下のように実施し、図3に示す。プライマーとしてhGRP94/UP1:5’−AGCGC TGACG ATGAA GTTGA TGTGG ATGGT ACAGT AG−3’(配列番号15);及びhGRP94/LP1:5’−GGCCG GCCTT ACAAT TCATC ATGTT CAGCT GTAGA TTC 3’(配列番号16)を使用してヒトGRP94をヒト肝cDNA(BD Bioscience)からPCR増幅した。PCR条件は95℃で2分間を1サイクル、95℃で20秒間、55℃で20秒間及び72℃で2.5分間を25サイクル後、72℃で10分間を1サイクルとした。PCR産物をプラスミドベクターpCR2.1にクローニングし、プラスミドベクターpGLY2216を作製した。ヒトGRP94のヌクレオチド配列とアミノ酸配列(夫々配列番号43及び44)を表1に示す。
【0134】
プラスミドベクターpGLY2216からヒトGRP94をコードする核酸分子をAfeIとFseIで遊離させた。次に上記のようにNotI末端と平滑末端をもつScαMPプレシグナルペプチドをコードする核酸分子に前記核酸分子をライゲーションし、Pichia pastoris PEP4 5’及び3’領域(夫々PpPEP4−5’及びPpPEP4−3’領域)を含む核酸分子をもつプラスミドベクターpGLY2231をNotIとFseIで消化し、プラスミドベクターpGLY2229を作製した。プラスミドベクターpGLY2229をBglIIとNotIで消化し、プラスミドベクターpGLY2187からPpPDI1プロモーターを含むDNAフラグメントをBglIIとNotIで切出し、このDNAフラグメントをpGLY2229にライゲーションし、プラスミドベクターpGLY2233を作製した。プラスミドベクターpGLY2233はPichia pastoris PDIプロモーターの制御下でヒトGRP94融合蛋白質をコードし、PEP4遺伝子座の破壊とPEP4遺伝子座への発現カセットの組込みのためにプラスミドベクターをゲノムのPEP4遺伝子座にターゲティングするためにPichia pastoris PEP4遺伝子の5’及び3’領域を含む。図3はプラスミドベクターpGLY2233の構築を示す。
【0135】
プラスミドベクターpGLY1162、pGLY1896及びpGFI207tの構築を以下のように実施した。全Trichoderma reesei α−1,2−マンノシダーゼ発現プラスミドベクターはS.cerevisiae αMATプレシグナルペプチド(ScαMPプレシグナルペプチド)に融合したT.reesei α−1,2−マンノシダーゼ触媒ドメイン(国際出願公開第WO2007061631号参照)をコードし、発現をPichia pastoris GAPプロモーターの制御下におき、プラスミドベクターの組込みをPichia pastoris PRO1遺伝子座にターゲティングし、選択にPichia pastoris URA5遺伝子を使用するpGFI165に由来するものとした。プラスミドベクターpGFI165のマップを図4に示す。
【0136】
pGFI165のGAPプロモーターをPichia pastoris AOX1(PpAOX1)プロモーターで置換することによりプラスミドベクターpGLY1162を作製した。これは、pGLY2028からEcoRI(平滑化)−BglIIフラグメントとしてPpAOX1プロモーターを単離し、NotI(平滑化)とBglIIで消化したpGFI165に挿入することにより実施した。プラスミドベクターの組込みはPichia pastoris PRO1遺伝子座を標的とし、選択にはPichia pastoris URA5遺伝子を使用する。プラスミドベクターpGLY1162のマップを図5に示す。
【0137】
プラスミドベクターpGLY1896はS.cerevisiae MNN2膜挿入リーダーペプチド融合蛋白質(Choi et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:5022(2003)参照)と融合したマウスα−1,2−マンノシダーゼ触媒ドメインをコードする発現カセットをプラスミドベクターpGFI165に挿入したものである(図5)。これは、XhoI(末端平滑化)とPmeIで消化したpGLY1433からGAPp−ScMNN2−マウスMNSI発現カセットを単離し、PmeIで消化したpGFI165にフラグメントを挿入することにより実施した。プラスミドベクターの組込みはPichia pastoris PRO1遺伝子座を標的とし、選択にはPichia pastoris URA5遺伝子を使用する。プラスミドベクターpGLY1896のマップを図4に示す。
【0138】
プラスミドベクターpGFI207tは亜ヒ酸塩耐性を付与するS.cerevisiae ARR3(ScARR3)遺伝子でURA5選択マーカーを置換した以外はpGLY1896と同様である。これはAscI(AscI末端平滑化)とBglIIで消化したpGFI166からScARR3遺伝子を単離し、SpeI(SpeI末端平滑化)とBglIIで消化したpGLY1896にフラグメントを挿入することにより実施した。プラスミドベクターの組込みはPichia pastoris PRO1遺伝子座を標的とし、選択にはSaccharomyces cerevisiae ARR3遺伝子を使用する。プラスミドベクターpGFI207tのマップを図4に示す。S.cerevisiaeに由来するARR3遺伝子は亜ヒ酸塩の存在下で増殖させる細胞に亜ヒ酸塩耐性を付与する(Bobrowicz et al.,Yeast,13:819−828(1997);Wysocki et al.,J.Biol.Chem.272:30061−066(1997))。
【0139】
上記発現/組込みベクターによる酵母トランスフェクションを以下のように実施した。Pichia pastoris株をYPD培地(酵母エキス(1%),ペプトン(2%),デキストロース(2%))50mL中でODが約0.2〜6になるまで一晩増殖させた。氷上で30分間インキュベーション後、2500〜3000rpmで5分間遠心することにより細胞をペレット化した。培地を捨て、細胞を氷冷滅菌1Mソルビトールで3回洗浄後、氷冷滅菌1Mソルビトール0.5mlに再懸濁した。直鎖化DNA10μL(5〜20μg)と細胞懸濁液100μLをエレクトロポレーションキュベットに加え、氷上で5分間インキュベートした。プリセットPichia pastorisプロトコール(2kV,25μF,200Ω)に従ってBio−Rad GenePulser Xcellでエレクトロポレーションを実施し、直後にYPDS回収培地(YPD培地+1Mソルビトール)1mLを加えた。トランスフェクトした細胞を室温(26℃)で4時間〜一晩回収後、細胞を選択培地に撒いた。
【0140】
細胞株の作製を以下のように実施し、図6に示す。従来記載されている方法(例えばNett and Gerngross,Yeast 20:1279(2003);Choi et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:5022(2003);Hamilton et al.,Science 301:1244(2003)参照)を使用して株yGLY24−1(ura5△::MET1 och1△::lacZ bmt2△::lacZ/KlMNN2−2/mnn4L1△::lacZ/MmSLC35A3 pno1△mnn4△::lacZ met16△::lacZ)を構築した。BMT2遺伝子はMille et al.,J.Biol.Chem.283:9724−9736(2008)及び米国特許出願公開第20060211085号に開示されている。PNO1遺伝子は米国特許第7,198,921号に開示されており、mnn4L1遺伝子(別称mnn4b)は米国特許第7,259,007号に開示されている。mnn4とはmnn4L2又はmnn4aを意味する。遺伝子型において、KlMNN2−2はKluveromyces lactis GlcNAcトランスポーターであり、MmSLC35A3はMus musculus GlcNAcトランスポーターである。URA5欠損によりyGLY24−1株をウラシル栄養要求性(米国特許出願公開第2004/0229306号参照)にし、これを使用して以下のヒト化シャペロン株を構築した。本願の実施例では各種発現カセットをPichia pastorisゲノムの特定遺伝子座に組込んだが、当然のことながら、本発明の操作は組込みに使用する遺伝子座から独立している。本願に開示する遺伝子座以外の遺伝子座も発現カセットの組込みに使用することができる。適切な組込み部位としては、米国特許出願公開第20070072262号に列挙されている部位が挙げられ、Saccharomyces cerevisiae及び他の酵母又は真菌類に公知の遺伝子座のホモログを含む。
【0141】
内在性Pichia pastoris PDI1遺伝子の不在下にPichia pastoris細胞で発現されるヒトPDI1の有効性を試験するために株yGLY702及びyGLY704を作製した。株yGLY702及びyGLY704(huPDI)を以下のように作製した。構成的PpGAPDHプロモーターの制御下でヒトPDIをコードする発現カセットを含むプラスミドベクターpGLY642をyGLY24−1にトランスフェクトすることにより株yGLY702を作製した。プラスミドベクターpGLY642は更にPichia pastoris URA5をコードする発現カセットを含むため、株yGLY702はウラシル原栄養性であった。5−FOAプレートでyGLY702を対抗選択することによりURA5発現カセットを除去し、Pichia pastoris PDI1遺伝子がヒトPDI遺伝子で安定的に置換され、株がウラシル栄養要求性である株yGLY704を作製した。
【0142】
Pichia pastoris AOX1プロモーターと機能的に連結されたTrichoderma Reeseiマンノシダーゼ(TrMNS1)をコードする発現カセット(PpAOX1−TrMNS1)を含むプラスミドベクターpGLY1162をyGLY704のPRO1遺伝子座にトランスフェクトすることにより株yGLY733を作製した。この株はPichia pastoris PD1をコードする遺伝子がヒトPDI1をコードする発現カセットで置換され、PpAOX1−TrMNS1発現カセットがPRO1遺伝子座に組込まれており、URA5栄養要求株である。メタノールの存在下で細胞を増殖させると、PpAOX1プロモーターにより過剰発現が可能になる。
【0143】
各々プラスミドベクターpGFI207tでPichia pastoris GAPDHプロモーターと機能的に連結されたTrMNS1とマウスマンノシダーゼIA(MuMNS1A)をコードする発現カセットを対照株yGLY733のPichia pastorisゲノムの5’PRO1遺伝子座UTRに組込むことにより株yGLY762を構築した。この株はPichia pastoris PD1をコードする遺伝子がヒトPDI1をコードする発現カセットで置換され、PpGAPDH−TrMNS1及びPpGAPDH−MuMNS1A発現カセットがPRO1遺伝子座に組込まれており、URA5栄養要求株である。
【0144】
5−FOAプレート上でyGLY762を対抗選択することにより株yGLY2677を作製した。この株はPichia pastoris PD1をコードする遺伝子がヒトPDI1をコードする発現カセットで置換され、PpAOX1−TrMNS1発現カセットがPRO1遺伝子座に組込まれ、PpGAPH−TrMNS1及びPpGAPDH−MuMNS1A発現カセットがPRO1遺伝子座に組込まれており、URA5原栄養株である。
【0145】
ヒトGRP94蛋白質をコードするプラスミドベクターpGLY2233をPEP4遺伝子座に組込むことにより株yGLY2696を作製した。この株はPichia pastoris PD1をコードする遺伝子がヒトPDI1をコードする発現カセットで置換され、PpAOX1−TrMNS1発現カセットがPRO1遺伝子座に組込まれ、PpGAPDH−TrMNS1及びPpGAPDH−MuMNS1A発現カセットがPRO1遺伝子座に組込まれ、ヒトGRP64がPEP4遺伝子座に組込まれており、URA5原栄養株である。このシャペロンヒト化株の系図を図6に示す。
【実施例2】
【0146】
抗Her2抗体と抗CD20抗体をコードする発現ベクターを以下のように構築した。
【0147】
発現/組込みプラスミドベクターpGLY2988は抗Her2抗体の重鎖と軽鎖をコードする発現カセットを含む。α−MATプレシグナルペプチドのN末端に融合した抗Her2重鎖(HC)及び軽鎖(LC)をGeneArt AGにより合成した。α−アミラーゼシグナルペプチドのヌクレオチド配列とアミノ酸配列を配列番号27及び28に示す。各々ユニークな5’EcoR1及び3’Fse1部位を付けて合成した。抗Her2 HCのヌクレオチド配列とアミノ酸配列を夫々配列番号29及び30に示す。抗Her2 LCのヌクレオチド配列とアミノ酸配列を夫々配列番号31及び32に示す。ユニークな5’EcoR1及び3’Fse1部位を使用してHC及びLC融合蛋白質をコードする核酸分子フラグメントの両者を別々に(Pichia pastoris TRP2ターゲティング核酸分子とゼオシン耐性マーカーを含む)発現プラスミドベクターpGLY2198にサブクローニングし、夫々プラスミドベクターpGLY2987及びpGLY2338を形成した。BamHIとNotIで消化することにより、Pichia pastoris AOX1プロモーターとSaccharomyces cerevisiae CYCターミネーターの制御下にLC融合蛋白質をコードするLC発現カセットをプラスミドベクターpGLY2338から切出した後、BamH1とNot1で消化したプラスミドベクターpGLY2987にDNAフラグメントをクローニングし、最終発現プラスミドベクターpGLY2988(図7)を作製した。
【0148】
発現/組込みプラスミドベクターpGLY3200(マップはLCとHCがα−アミラーゼシグナル配列をもつ抗CD20である以外はpGLY2988と同一である)。抗CD20配列は軽鎖(LC)フレームワーク配列がVκ3生殖細胞系列に由来する配列に一致する以外はGenMab配列2C6に由来するものとした。(Aspergillus niger由来)α−アミラーゼシグナルペプチドのN末端に融合した重鎖(HC)及びLC可変配列をGeneArt AGにより合成した。α−アミラーゼシグナルペプチドのヌクレオチド配列とアミノ酸配列を配列番号33及び34に示す。IgG1及びVκ定常領域を含む発現ベクターに可変領域を直接クローニングできるように、各々ユニークな5’EcoRI及び3’KpnI部位を付けて合成した。抗CD20 HCのヌクレオチド配列とアミノ酸配列を夫々配列番号37及び38に示す。抗CD20 LCのヌクレオチド配列とアミノ酸配列を夫々配列番号35及び36に示す。HC及びLC融合蛋白質の両方を夫々IgG1プラスミドベクターpGLY3184及びVκプラスミドベクターpGLY2600(各プラスミドベクターはPichia pastoris TRP2ターゲティング核酸分子とゼオシン耐性マーカーを含む)にサブクローニングし、夫々プラスミドベクターpGLY3192及びpGLY3196を形成した。BamHIとNotIで消化することにより、Pichia pastoris AOX1プロモーターとSaccharomyces cerevisiae CYCターミネーターの制御下にLC融合蛋白質をコードするLC発現カセットをプラスミドベクターpGLY3196から切出した後、BamH1とNot1で消化したプラスミドベクターpGLY3192にDNAフラグメントをクローニングし、最終発現プラスミドベクターpGLY3200(図8)を作製した。
【0149】
上記抗Her2又は抗CD20抗体発現/組込みプラスミドベクターによる株yGLY2696のトランスフェクションを原則的に以下のように実施した。ODが約0.2〜6になるまで適切なPichia pastoris株をYPD培地(酵母エキス(1%),ペプトン(2%),デキストロース(2%))50mL中で一晩増殖させた。氷上で30分間インキュベーション後、細胞を2500〜3000rpmで5分間遠心することによりペレット化した。培地を捨て、細胞を氷冷滅菌1Mソルビトールで3回洗浄後、氷冷滅菌1Mソルビトール0.5mlに再懸濁した。直鎖化DNA10μL(5〜20μg)と細胞懸濁液100μLをエレクトロポレーションキュベットに加え、氷上で5分間インキュベートした。プリセットPichia pastorisプロトコール(2kV,25μF,200Ω)に従ってBio−Rad GenePulser Xcellでエレクトロポレーションを実施し、直後にYPDS回収培地(YPD培地+1Mソルビトール)1mLを加えた。トランスフェクトした細胞を室温(26℃)で4時間〜一晩回収後、細胞を選択培地に撒いた。抗HER2抗体をコードするpGLY2988をトランスフェクトした株yGLY2696をyGLY4134と命名した。抗CD20抗体をコードするpGLY3200をトランスフェクトした株yGLY2696をyGLY3920と命名した。
【実施例3】
【0150】
本実施例は免疫グロブリンと結合することが可能な結合部分と融合した細胞表面アンカー蛋白質をコードする発現カセットを含み、Pichia pastorisで使用するのに適したプラスミドの構築について記載する。このようなプラスミドは細胞表面アンカー蛋白質であるsed1pをコードする核酸分子を含み、前記蛋白質は結合したグリコホスファチジルイノシトール(GPI)による翻訳後修飾を内在的に含み、細胞壁に係留される。sed1pをコードする核酸分子を、無傷の全長抗体と結合することが可能な抗体結合部分をコードする核酸分子とインフレームで連結した。
【0151】
抗体結合部分/細胞表面アンカー融合蛋白質発現カセットを含む4種類のプラスミドを構築した。プラスミドpGLY4136はSaccharomyces cerevisiae SED1(ScSED1)遺伝子に続いてCYCターミネーターに融合したプロテインAの5個のFc結合ドメインをいずれもAOXプロモーターの制御下でコードする(図9)。プラスミドpGLY4116はScSED1遺伝子に融合したFc受容体III(FcRIII(LF))をコードする(図10)。プラスミドpGLY4137はScSED1遺伝子に融合したFc受容体I(FcRI)をコードし(図10)、プラスミドpGLY4124(図9)はScSED1遺伝子に融合したプロテインAに由来するZZドメインをコードする。ZZドメインは5個のFc結合ドメインのうちの2個から構成される。全4種類のプラスミドはpUC19大腸菌起点と亜ヒ酸塩耐性マーカーを含み、Pichia pastorisゲノムのURA6遺伝子座に組込まれる。
【0152】
その内在性シグナルペプチドをもたないSaccharomyces cerevisiae SED1 GPIアンカー蛋白質(SED1フラグメント)を含む融合蛋白質をコードする発現カセットを含むプラスミドpGLY3033は2008年3月3日に出願された同時係属出願第61/067,965号に記載されている。その内在性シグナルペプチドをもたないSED1アミノ酸配列を配列番号60に示す。SED1フラグメントをコードする核酸分子をGeneArt AGにより合成した。このフラグメントをコードするコドンはPichia pastorisでの発現用に最適化されている。SED1フラグメントをコードするヌクレオチド配列を配列番号61に示す。Pichia pastoris URA6遺伝子座をGPIアンカー蛋白質発現カセットの組込み部位として選択した。URA6遺伝子をPichia pastorisゲノムDNAからPCR増幅し、pCR2.1 TOPO(Invitrogen,La Jolla,CA)にクローニングし、プラスミドpGLY1849を作製した。クローニングの目的でサイレント突然変異により遺伝子内のBglII及びEcoRI部位を突然変異させた。プラスミドpGLY2184のTRP2ターゲティング核酸分子をpGLY1849に由来するPichia pastoris URA6遺伝子で置換した。更に、Pichia pastoris ARG1選択マーカーをプラスミドpGFI8に由来する亜ヒ酸塩マーカーカセットで置換した。最終プラスミドをpGFI30tと命名し、そのアミノ末端でGR2コイルドコイルペプチドに融合したSED1フラグメント蛋白質をコードする核酸分子を含む発現カセットと、PpAOX1プロモーターに機能的に連結されたAspergillus niger α−アミラーゼシグナルペプチドを含むプラスミドpGLY3033(図20)を作製するために使用した。GR2コイルドコイルとシグナルペプチドをコードするフラグメントをEcoRI及びSalI消化により切出し、抗体捕捉部分で置換すると、捕捉部分を細胞表面アンカー蛋白質に融合した融合蛋白質を作製することができる。
【0153】
AOX1プロモーターの制御下でSED1フラグメントに融合したプロテインAの5個のFc結合ドメインをコードする発現カセットを含むプラスミドpGLY4136を以下のように構築した。N末端でSaccharomyces cerevisiae α接合因子プレシグナル配列に融合し、C末端でHA及び9×HISタグ配列に融合した5個のFc結合ドメインをコードすると共に、EcoRI 5’末端とSalI 3’末端をもつように、プロテインAに由来する5個のFc結合ドメインをコードする核酸分子フラグメントをGeneArtにより合成した。フラグメントapre−5xBD−Htagは配列番号45に示すヌクレオチド配列をもつ。apre−5xBD−Htag融合蛋白質は配列番号46に示すアミノ酸配列をもつ。apre−5xBD−Htag融合蛋白質をコードする核酸分子をEcoRIとSalIで消化し、EcoRIとSalIで消化してGR2コイルドコイルをコードするフラグメントを切出しておいたpGLY3033にフラグメントをクローニングした。こうして、PpAOX1プロモーターに機能的に連結され、SED1フラグメントをコードする核酸分子にインフレームで連結されたapre−5xBD−Htag融合蛋白質をコードする核酸分子を含むプラスミドpGLY4136を作製した。このプラスミドはプラスミドをURA6遺伝子座にターゲティングする組込み/発現ベクターである。この組込み/挿入プラスミドにより発現される融合蛋白質を本願ではプロテインA/SED1融合蛋白質と言う。
【0154】
プロテインA/SED1融合蛋白質をGAPDHプロモーターの制御下におくために、プラスミドpGLY4136をBglIIとEcoRIで消化し、AOX1プロモーターを遊離させ、pGLY880に由来するPichia pastoris GAPDHプロモーターを挿入した。こうしてプラスミドpGLY4139を作製した。
【0155】
AOX1プロモーターの制御下でSED1フラグメントと融合したプロテインA ZZドメインをコードする発現カセットを含むプラスミドpGLY4124を以下のように構築した。以下のプライマー:プライマーα−amy−ProtAZZ/up:
【0156】
【化1】

及びHA−ProtAZZ−XhoIZZ/lp:
【0157】
【化2】

を使用してGeneArtプラスミド0706208 ZZHAtagに由来するZZドメインをPCR増幅した。α−amy−ProtAZZ/upプライマーはAspergillus niger α−アミラーゼシグナルペプチド(下線部)の最初から20個のアミノ酸のコーディング配列をインフレームで含む。これらのプライマーはコーディング領域の5’末端にEcoRI部位を導入し、3’末端にXhoI部位を導入する。EcoRI/XhoIフラグメントとしてのZZドメインの核酸配列を配列番号49に示す。ZZドメインのアミノ酸配列を配列番号50に示す。PCR条件は95℃で2分間を1サイクル、98℃で10秒間、65℃で10秒間及び72℃で1分間20サイクル後、72℃で10分間を1サイクルとした。
【0158】
PCRフラグメントをプラスミドpCR2.1 TOPOにクローニングし、クローニングしたフラグメントをシーケンシングし、配列がプロテインA ZZドメインをコードすることを確認した。ZZドメインフラグメントをEcoRI及びXhoI消化によりpCR2.1 TOPOベクターから切出し、EcoRIとSalIで消化してGR2コイルドコイルをコードするフラグメントを切出しておいたプラスミドpGLY3033にEcoRI/XhoIフラグメントをクローニングした。こうして、PpAOX1プロモーターと機能的に連結され、SED1フラグメントをコードする核酸分子とインフレームで連結されたプロテインA ZZドメイン−αアミラーゼシグナルペプチド融合蛋白質をコードする核酸分子を含むプラスミドpGLY4124を作製した。このプラスミドはプラスミドをURA6遺伝子座にターゲティングする組込み/発現ベクターである。この組込み/挿入プラスミドにより発現される融合蛋白質を本願ではZZ/SED1融合蛋白質と言う。
【0159】
AOX1プロモーターの制御下でSED1フラグメントに融合したFcRIIIa LF受容体をコードする発現カセットを含むプラスミドpGLY4116を以下のように構築した。FcRIIIa LF受容体をコードする核酸分子をEcoRI/SalIフラグメントとしてプラスミドpGLY3247(FcRIIIa LF)からPCR増幅した。プラスミドpGLY3247において、FcRIIIa LF受容体は内在性シグナルペプチドをα−MFプレプロで置換した融合蛋白質である。5’プライマーはシグナルペプチドをコードする配列にアニールし、3’プライマーは受容体の末端でHisタグにアニールし、受容体の停止コドンを省略する。5’プライマーは5Ecoapp:AACGGAATTCATGAGATTTCCTTCAATTTTTAC(配列番号51)とし、3’プライマーは3HtagSal CGATGTCGACGTGATGGTGATGGTGGTGATGATGATGACCACC(配列番号52)とした。PCR条件は95℃で2分間を1サイクル、95℃で30秒間、58℃で30秒間及び72℃で70秒間を25サイクル後、72℃で10分間を1サイクルとした。
【0160】
受容体融合蛋白質をコードするPCRフラグメントをプラスミドpCR2.1 TOPOにクローニングし、クローニングしたフラグメントをシーケンシングし、配列が受容体をコードすることを確認した。EcoRI/SalIフラグメントとしてのFcRIII(LF)のヌクレオチド配列を配列番号53に示す。αMFプレシグナル配列をもつFcRIII(LF)のアミノ酸配列を配列番号54に示す。
【0161】
プラスミドpCR2.1 TOPOをEcoRIとSalIで消化し、EcoRIとSalIで消化してGR21コイルドコイルをコードするフラグメントを切出しておいたpGLY3033に受容体をコードするEcoRI/SalIフラグメントをクローニングした。こうして、PpAOX1プロモーターと機能的に連結され、SED1フラグメントをコードする核酸分子とインフレームで連結されたFcRIIIa LF/α−MFプレプロシグナルペプチド融合蛋白質をコードする核酸分子を含むプラスミドpGLY4116を作製した。このプラスミドはプラスミドをURA6遺伝子座にターゲティングする組込み/発現ベクターである。この組込み/挿入プラスミドにより発現される融合蛋白質を本願ではFcRIIIa融合蛋白質と言う。
【0162】
SED1フラグメントと融合したFcRI受容体をコードするプラスミドpGLY4137を以下のように構築した。FcRI受容体をコードする核酸分子をEcoRI/SalIフラグメントとしてプラスミドpGLY3248からPCR増幅した。プラスミドpGLY3248において、FcRI受容体は内在性シグナルペプチドをα−MFプレプロで置換した融合蛋白質である。5’プライマーはシグナルペプチドをコードする配列にアニールし、3’プライマーは受容体の末端でHisタグにアニールし、受容体の終止コドンを省略する。5’プライマーは5Ecoapp:AACGGAATTCATGAGATTTCCTTCAATTTTTAC(配列番号51)とし、3’プライマーは3HtagSal CGATGTCGACGTGATGGTGATGGTGGTGATGATGATGACCACC(配列番号52)とした。PCR条件は95℃で2分間を1サイクル、95℃で30秒間、58℃で30秒間及び72℃で70秒間を25サイクル後、72℃で10分間を1サイクルとした。
【0163】
受容体融合蛋白質をコードするPCRフラグメントをプラスミドpCR2.1 TOPOにクローニングし、クローニングしたフラグメントをシーケンシングし、配列が受容体をコードすることを確認した。EcoRI/SalIフラグメントとしてのFcRIのヌクレオチド配列を配列番号55に示す。αMFプレシグナル配列をもつFcRIのアミノ酸配列を配列番号56に示す。
【0164】
プラスミドpCR2.1 TOPOをEcoRIとSalIで消化し、EcoRIとSalIで消化してGR21コイルドコイルをコードするフラグメントを切出しておいたpGLY3033に受容体をコードするEcoRI/SalIフラグメントをクローニングした。こうして、PpAOX1プロモーターと機能的に連結され、SED1フラグメントをコードする核酸分子とインフレームで連結されたFcRI/α−MFプレプロシグナルペプチド融合蛋白質をコードする核酸分子を含むプラスミドpGLY4116を作製した。このプラスミドはプラスミドをURA6遺伝子座にターゲティングする組込み/発現ベクターである。この組込み/挿入プラスミドにより発現される融合蛋白質を本願ではFcRI融合蛋白質と言う。
【実施例4】
【0165】
Pichia pastorisにおける抗体と抗体結合部分/細胞表面アンカー融合蛋白質の同時発現を以下のように実施した。
【0166】
Pichia pastoris株yGLY4134(抗HER2抗体を発現)及びyGLY3920(抗CD20抗体を発現)に各々pGLY4116(FcRIII受容体/SED融合蛋白質を発現)、pGLY4136(プロテインA/SED融合蛋白質を発現)、pGLY4124(プロテインA ZZドメイン/SED融合蛋白質を発現)、又はpGLY4137(FcRI受容体/SED融合蛋白質を発現)をトランスフェクトした。yGLY2696にも同様に上記4種類の発現/組込みベクターの各々をトランスフェクトした。トランスフェクションでは、培養液が約OD600=2.0の密度に達するまでBMGY培地50mL中で株を増殖させる。細胞を1Mソルビトールで3回洗浄し、1Mソルビトール1mLに再懸濁する。直鎖化プラスミド約1〜2μgを細胞と混合する。Pichia pastorisへの核酸分子のエレクトロポレーションに特有の製造業者のプログラムを使用してBioRadエレクトロポレーション装置でトランスフェクションを実施する。回収培地1mLを細胞に加えた後、亜ヒ酸塩50μg/mLを添加したYPG(酵母エキス:ペプトン:グリセロール培地)に撒く。
【0167】
以下のように細胞表面標識を行った。株yGLY4134(抗Her2抗体を発現)、pGLY4136をトランスフェクトした株yGLY4134(抗Her2抗体とプロテインA/SED1融合蛋白質を発現)、及びpGLY4136をトランスフェクトした株YGLY2696(プロテインA/SED1融合蛋白質を発現)を96穴ディープウェルプレートでBMGY(緩衝最少グリセロール培地−酵母エキス,Invitrogen)600μL中又は250mL容振盪フラスコでBMGY 50mL中にて2日間増殖させた。細胞を遠心により採取し、上清を捨てた。WO2007/061631に教示されている方法に従い、BMMY 300μL又は25mL中でPmti−3阻害剤を加えて一晩インキュベートすることにより細胞を誘導した。Pmti−3は米国特許第7,105,554号及び国際出願公開第WO2007061631号に記載されているような3−ヒドロキシ−4−(2−フェニルエトキシ)ベンズアルデヒド;3−(1−フェニルエトキシ)−4−(2−フェニルエトキシ)ベンズアルデヒドである。Pmti−3阻害剤はO−グリコシル化度、即ち抗体分子上の総O−グリカン数を低下させる。前記細胞は更に抗体分子上に存在する総O−グリカンの鎖長を制御するようにSaccharomyces cerevisiae αMATプレシグナルペプチドと連結されたT.reesei α−1,2−マンノシダーゼ触媒ドメインを発現する。
【0168】
誘導した細胞を以下のようにヤギ抗ヒト重鎖及び軽鎖(H+L)Alexa 488(Invitrogen,Carlsbad,CA)共役抗体で標識し、蛍光顕微鏡を使用して観察した。誘導後、約0.5〜1.0 OD600の密度の細胞を遠心により1.5mL管に採取した。細胞をPBS 1mLで2回リンスし、ヤギ抗ヒトIgG(H+L)−Alexa 488(1% BSA/PBS溶液中1:500)0.5mLを加えた。管を37℃で1時間回転させ、遠心し、PBS 1mLで3回リンスし、検出抗体を除去した。細胞をPBS 約50〜100μLに再懸濁し、10μLアリコートを蛍光顕微鏡で観察し、写真撮影した(図2)。予想通り、プロテインA/SED1融合蛋白質をコードするpGLY4136を導入しない抗Her2抗体発現株yGLY4134と、プロテインA/SED1融合蛋白質をコードするpGLY4136を導入したが、抗Her2抗体を発現しないyGLY2696はいずれも表面標識を示さなかった。pGLY4136をトランスフェクトしたyGLY2696の細胞で検出された弱い標識はヤギ抗ヒト重鎖及び軽鎖(H+L)Alexa 488共役抗体と発現されたプロテインAの交差反応によるものであると思われる。他方、同様に図11から明らかなように、プロテインA/SED1融合蛋白質と抗Her2抗体を同時発現させると(pGLY4136をトランスフェクトした株yGLY4134)、細胞表面に抗体は提示されず、バックグラウンド標識しか示さなかった。この結果から、抗体とプロテインA/SED1蛋白質を同時に発現させると、細胞表面への抗体の提示が妨げられ、あるいはプロテインA/SED1蛋白質が細胞表面に正しく係留されないと予想された。
【実施例5】
【0169】
本実施例はプロテインA/SED1融合蛋白質が細胞表面に正しく係留されることと、抗Her2抗体とプロテインA/SED1融合蛋白質を同時に発現させると、細胞表面への抗体の捕捉と提示が妨げられることを実証する。
【0170】
プロテインA/SED1融合蛋白質自体が細胞表面に提示されるか否かを試験するために、プロテインA/SED1融合蛋白質をコードするpGLY4136をトランスフェクトした株yGLY2696を前記実施例に記載したように増殖させ、誘導した。約0.5〜1.0 OD600の細胞密度で細胞を遠心により1.5mL管に採取し、PBS 1mLで2回リンスした。抗Her2抗体10又は50ngを外部から細胞に加え、細胞を1時間インキュベートした。その後、細胞をPBS 1mlで3回洗浄し、前記実施例に記載したようにヤギ抗ヒトH+Lで標識した。その結果、抗Her2抗体は細胞の表面に捕捉され、提示された。これを図12に示すが、強い細胞表面染色が認められる。この結果、プロテインA/SED1融合蛋白質が発現され、発現された融合蛋白質が細胞表面に正しく挿入され、融合蛋白質が細胞表面に抗体を捕捉及び提示できることが確認される。
【0171】
同時発現が細胞表面への抗体の提示を妨げるか否かを試験するために、pGLY4136をトランスフェクトした株yGLY2696(プロテインA/SED1融合蛋白質を発現する空の株)、pGLY4136をトランスフェクトした株yGLY4134(抗Her2抗体とプロテインA/SED1融合蛋白質を発現する株)、及びpGLY4136をトランスフェクトした株yGLY3920(抗CD20抗体とプロテインA/SED1融合蛋白質を発現する株)を前記実施例と同様に増殖させ、誘導した。抗Her2抗体10ngを外部から加えて細胞をインキュベートし、前記実施例と同様に標識し、検出した。図13はプロテインA/SED1融合蛋白質のみを発現する空の株(pGLY4136をトランスフェクトしたyGLY2696)では強い細胞表面標識を示すが、プロテインA/SED1融合蛋白質と抗体を同時発現させた場合の株(pGLY4136をトランスフェクトしたyGLY4134と、pGLY4136をトランスフェクトしたyGLY3920)では弱い染色しか示さない。プロテインA/SED1融合蛋白質を発現する細胞は外部から加えた抗体を捕捉して提示することができたが、抗体とプロテインA/SED1融合蛋白質を同時に発現する細胞は外部から加えた抗体を捕捉できず、それ自体が分泌した抗体を提示することもできなかった。
【0172】
これらの結果から、プロテインA/SED1融合蛋白質は抗体同時発現株では細胞表面に十分に提示されないと思われた。これは、メタノール誘導下でプロテインA/SED1融合蛋白質と強力なAOXプロモーターに由来する抗体を同時に発現させると、ERに抗体とプロテインA/SED1融合蛋白質の複合体が凝集し、分解するためであると思われる。あるいは、ERで産生された抗体とプロテインA/SED1融合蛋白質の複合体はその分子量又は立体障害により十分に分泌されないと思われる。
【実施例6】
【0173】
P.pastorisの細胞表面に抗体を提示する能力について他の抗体結合部分を試験した。Fc受容体I(FcRI)、Fc受容体III(FcRIII)及びプロテインA ZZドメインを試験した。株yGLY2696(空)、yGLY4134(抗Her2抗体を発現)及びyGLY3920(抗CD20抗体を発現)にプラスミドpGLY4116(FcRIII/SED1融合蛋白質をコードする)、pGLY4124(プロテインA ZZドメイン/SED1融合蛋白質をコードする)、及びpGLY4136(プロテインA/SED1融合蛋白質をコードする)の各々を別々にトランスフェクトし、実施例4と同様に増殖させ、誘導し、標識した。
【0174】
ZZドメインの結果は染色が多少弱かったが、プロテインAの結果と同様であった。このことから、2個のFc結合ドメインは5個のFc結合ドメインをもつ無傷のプロテインAに比較して抗体に対する親和性が低いと考えられる。
【0175】
FcRIII/SED1融合蛋白質と抗体を同時に発現させると、細胞表面染色を生じなかった。pGLY4116(FcRIII/SED1融合蛋白質をコードする)をトランスフェクトした株yGLY2696を実施例4に記載したように増殖させ、誘導し、抗Her2抗体10又は50ng外部から加えて細胞をインキュベートした。プロテインA/SED1融合蛋白質を発現した株からの結果とは逆に、多少の細胞内染色は認められるが、細胞表面染色は認められなかった(図14)。以上の結果から、FcRIII/SED1融合蛋白質を細胞で発現させることはできるが、分泌されなかったようである。
【実施例7】
【0176】
本実施例はプロテインA/SED1融合蛋白質と抗体の一時的な発現により、分泌された抗体を細胞表面に正しく発現及び捕捉できることを実証する。
【0177】
上記実験の結果、抗体結合部分/細胞表面アンカー融合蛋白質と抗体を同時に発現させると、アンカーを細胞表面に提示できないと思われた。上記実験では、抗体結合部分/細胞表面アンカー融合蛋白質と抗体の両方を強力なAOX誘導性プロモーターと機能的に連結した核酸分子から発現させた。先ず抗体結合部分/細胞表面アンカー融合蛋白質の発現を誘導後、十分な抗体結合部分/細胞表面アンカー融合蛋白質を産生させて細胞表面に係留した後に、抗体結合部分/細胞表面アンカー融合蛋白質の発現を阻害し、抗体の発現を誘導すると、抗体結合部分/細胞表面アンカー融合蛋白質により抗体を細胞表面に捕捉できるのではないかと仮定した。従って、抗体結合部分/細胞表面アンカー融合蛋白質をコードする核酸分子と抗体の一時的な発現を可能にすると思われる種々のプロモーターを試験した。
【0178】
GUT1プロモーターはグリセロールの存在下で増殖させた細胞中で誘導され、グリセロールを含有せず且つデキストロースを含有する培地に細胞を交換すると抑制されるプロモーターである。PCRを使用し、プライマー5gutBglII ATTGAGATCT ACCCAATTTA GCAGCCTGCA TTCTC(配列番号57)及びプライマー3gutEcoRI GTCAGAATTC ATCTGTGGTA TAGTGTGAAA AAGTAG(配列番号58)を使用してGUT1プロモーターをPichia pastorisのゲノムDNAからBglII/EcoRIフラグメントとして増幅した。次にPCRフラグメントをpCR2.1 TOPOベクターにクローニングした後、シーケンシングし、配列を確認した。BglII/EcoRI消化によりpCR2.1 TOPOベクターからGUT1プロモーターフラグメントを切出し、BglII/EcoRIで消化したpGLY4136にクローニングし、AOX1プロモーターをGUT1プロモーターで置換した。BglI及びEcoRI末端を含むGUT1プロモーターのヌクレオチド配列を配列番号59に示す。
【0179】
プロテインA/SED1融合蛋白質プラスミドpGLY4136に由来するAOXプロモーターをPpGAPDHプロモーターで置換し、プラスミドpGLY4139を作製し、又はGUT1プロモーターで置換し、プラスミドpGLY4144を作製した(図15)。PpGAPDHプロモーターはデキストロース中で誘導され、グリセロール中ではこのレベルの約80%で誘導されるが、GUT1プロモーターはグリセロール中で誘導され、デキストロース中では抑制される。AOXプロモーターの制御下で抗Her2抗体を発現するyGLY4134にpGLY4139をトランスフェクトした。更に、抗Her2発現がGAPDHプロモーターにより調節される株yGLY5434(pGLY4142をトランスフェクトしたyGLY2696)にpGLY4144をトランスフェクトした。
【0180】
プロテインA/SED1融合蛋白質と抗Her2抗体の発現がどちらもAOXプロモーターにより調節されるpGLY4136をトランスフェクトした株yGLY4134を96穴ディープウェルプレートでBMGY(グリセロールを炭素源とする)600μL中又は250mL容振盪フラスコでBMGY 50mL中にて2日間増殖させた。細胞を遠心により採取し、上清を捨てた。BMMY(メタノールを炭素源とする)300μL又は25mL中でPMTi阻害剤を加えて一晩インキュベートすることにより細胞を誘導した。
【0181】
プロテインA/SED1融合蛋白質の発現がPpGAPDHプロモーターにより調節され、抗Her2抗体の発現がAOXプロモーターにより調節されるpGLY4139をトランスフェクトした株yGLY4134をBMGY(グリセロールを炭素源とする)中で増殖させ、BMMY(メタノールを炭素源とする)中にてPMTi阻害剤で誘導した。
【0182】
プロテインA/SED1融合蛋白質の発現がGUT1プロモーターにより調節され、抗Her2抗体の発現がGAPDHプロモーターにより調節されるpGLY4144をトランスフェクトした株yGLY5434をBMGY(グリセロールを炭素源とする)中で増殖させ、BMDY(デキストロースを炭素源とする)中にてPMTi阻害剤で誘導した。デキストロースはGUT1プロモーターからの転写を阻害する。誘導後、全3種の株を実施例1に記載したようにヤギ抗ヒトIgG(H+L)−Alexa 488で標識した。一般に、増殖は1.5日〜3日間、誘導は1〜2日間とすることができる。通常では株を2日間増殖させた後に更に2日間誘導した後に分析を行う。
【0183】
図16は上記株の細胞表面染色の結果を示す。実施例5に示したように、プロテインA/SED1融合蛋白質と抗Her2抗体をいずれも強力なAOXプロモーター下に同時に発現させると(pGLY4136をトランスフェクトしたyGLY4134)、細胞表面標識を示さない。グリセロール中で増殖中にGAPDHプロモーター下でプロテインA/SED1融合蛋白質を発現させ、メタノールで誘導中にAOXプロモーターにより調節される抗Her2抗体を発現させると(pGLY4139をトランスフェクトしたyGLY4134)、多少弱いが、明白な細胞表面標識を示す。この場合には、GAPDHプロモーターはメタノール誘導条件下で完全に抑制されないので、プロテインA/SED1融合蛋白質は抗体の誘導中にまだ多少のレベルで発現される。しかし、グリセロール中で増殖中にGUT1プロモーター下でプロテインA/SED1融合蛋白質を発現させた後にデキストロース中で誘導中にGAPDHプロモーターにより調節される抗Her2抗体を誘導すると(pGLY4144をトランスフェクトしたYGLY5434)、強い細胞表面標識を示した。この場合には、GUT1プロモーターはデキストロース中で完全に抑制されるので、プロテインA/SED1融合蛋白質は抗体誘導条件下で発現されなかった。
【0184】
図17はプロモーターの各種組み合わせの制御下におけるプロテインA/SED1融合蛋白質と抗体の予想発現パターンを示す図である。グリセロール増殖期に抑制され、メタノール誘導期に誘導される強力なAOXプロモーター下でプロテインA/SED1融合蛋白質と抗体を発現させると、検出可能な細胞表面提示は生じなかった。同様に、同時発現の結果、プロテインA/SED1融合蛋白質と抗体の複合体がER中に形成され、細胞表面に分泌されないか又は分解する。
【0185】
グリセロール中で増殖中にGAPDHプロモーター下でプロテインA/SED1融合蛋白質を発現させ、メタノール中で誘導中にAOXプロモーター下で抗体を発現させると、弱い細胞表面提示が生じた。この場合には、GAPDHプロモーターはメタノール誘導条件下で完全に抑制されないので、プロテインA/SED1融合蛋白質は抗体の誘導中にまだ多少のレベルで発現される。即ち、誘導条件下ではER中にプロテインA/SED1融合蛋白質と抗体の複合体が形成され、分泌経路を詰まらせるため、細胞表面には少量のプロテインA/SED1融合蛋白質しか得られないと思われる。
【0186】
グリセロール中で増殖中にGUT1プロモーター下でプロテインA/SED1融合蛋白質を発現させた後に、デキストロースで抗体発現の誘導中にGAPDHプロモーター下で抗体を発現させると同時にプロテインA/SED1融合蛋白質の発現を抑制すると、強い細胞表面提示を生じた。従って、先ずプロテインA/SED1融合蛋白質を発現させた後に抗体誘導中に完全に抑制すると、プロテインA/SED1融合蛋白質は細胞壁に分泌され、分泌時に抗体を捕捉することができる。GAPDHプロモーターはグリセロール下で抑制されないので、抗体はプロテインA/SED1融合蛋白質増殖中に多少のレベルで発現されるが、抗体の発現レベルは十分に低いため、プロテインA/SED1融合蛋白質分泌を妨げないと思われる。
【0187】
GUT1プロモーター下で調節されるプロテインA/SED1融合蛋白質による全長抗体の細胞表面提示が種々の抗体で得られることを実証するために、プロテインA/SED1融合蛋白質をコードし、GUT1プロモーターにより発現を調節されるプラスミドpGLY4144を抗CD20抗体発現株yGLY5757にもトランスフェクトした。株yGLY5757はプラスミドpGLY4078をトランスフェクトした株yGLY2696である。プラスミドpGLY4078はGAPDHプロモーターの調節下で抗CD20抗体の重鎖及び軽鎖をコードする。
【0188】
GAPDHプロモーターと機能的に連結された抗CD20抗体を発現し、pGLY4144(GUT1プロモーターの制御下でプロテインA/SED1融合蛋白質をコードする)をトランスフェクトした株yGLY5757と、GAPDHプロモーターと機能的に連結された抗Her2抗体を発現し、pGLY4144をトランスフェクトした株yGLY5434を図6について記載したようにプロテインA/SED1融合蛋白質発現のためにグリセロール中で増殖させた後に、抗体発現及び分泌のためにデキストロース中で誘導した。どちらの抗体でも強い細胞表面染色が認められた(図18)。従って、一時的調節により抗Her2抗体抗体だけでなく、種々の抗体を係留抗体結合部分により酵母表面に提示できることが明らかである。
【0189】
図19は図8からのサンプルのFACSソーティングの結果を示す。pGLY4144をトランスフェクトした抗Her2発現株yGLY5757、pGLY4144をトランスフェクトした抗CD20発現株yGLY5434及びpGLY4144をトランスフェクトした空の株yGLY2696をグリセロール中で増殖させた後、デキストロース中で誘導した。細胞をヤギ抗ヒトIgG(H+L)−Alexa 488で標識し、FACSソーティングにより分析した。図9に示すように、抗体を発現しない空の株はバックグラウンド蛍光染色を示したが、抗CD20発現株の3個のクローンでは、蛍光は右側に移動し、細胞表面標識を示した。抗Her2発現株でも同じことが認められた。この株の1個のクローンは細胞表面標識を示さなかったが、抗体又はアンカーを発現しないトランスフェクションからの疑陽性であると思われる。これらの結果から、FACSソーティングを使用して全長抗体を提示する細胞を選別できることが明らかである。
【0190】
【表1】
















【0191】
本願では例証する態様に関して本発明を説明するが、当然のことながら、本発明はこれらの態様に限定されない。本願の教示に接した当業者はその範囲内の他の変形及び態様に想到しよう。従って、本発明は添付の特許請求の範囲のみに限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
該当免疫グロブリンを発現する真核宿主細胞の作製方法であって、
(a)第1の調節性プロモーターと機能的に連結された免疫グロブリンと特異的に結合することが可能な結合部分と融合した細胞表面アンカー蛋白質を含む捕捉部分をコードする第1の核酸分子を含む宿主細胞を準備する段階と;
(b)免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の遺伝的に多様な集団をコードする複数の核酸分子(ここで、重鎖又は軽鎖をコードする核酸分子の少なくとも一方は第2の調節性プロモーターと機能的に連結されている)を宿主細胞にトランスフェクトし、免疫グロブリンをその表面に提示することが可能な複数の遺伝的に多様な宿主細胞を作製する段階と;
(c)宿主細胞の表面に捕捉部分を産生するために十分な時間にわたって捕捉部分をコードする核酸分子の発現を誘導する段階と;
(d)宿主細胞において捕捉部分をコードする核酸分子の発現を阻害し、免疫グロブリンをコードする核酸分子の発現を誘導し、提示される該当免疫グロブリンを発現する宿主細胞を作製する段階を含む前記方法。
【請求項2】
前記方法が更に、
(e)宿主細胞の細胞表面に提示される該当免疫グロブリンと特異的に結合する検出手段と宿主細胞を接触させる段階と;
(f)検出手段が結合した宿主細胞を単離し、該当免疫グロブリンを発現する宿主細胞を作製する段階を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
結合部分が免疫グロブリンのFc領域と結合する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
結合部分がプロテインA、プロテインA ZZドメイン、プロテインG及びプロテインLから構成される群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
細胞表面アンカー蛋白質がGPI蛋白質である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該当免疫グロブリンを発現する真核宿主細胞の作製方法であって、
(a)第1の調節性プロモーターと機能的に連結された免疫グロブリンと特異的に結合することが可能な結合部分と融合した細胞表面アンカー蛋白質を含む捕捉部分をコードする第1の核酸分子を含む宿主細胞を準備する段階と;
(b)免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖をコードする1個以上の核酸分子(ここで、重鎖又は軽鎖をコードする核酸分子の少なくとも一方は第2の調節性プロモーターと機能的に連結されている)を宿主細胞にトランスフェクトし、免疫グロブリンの突然変異体の多様化集団をコードする複数の宿主細胞を作製する段階と;
(c)宿主細胞の表面に捕捉部分を産生するために十分な時間にわたって捕捉部分の発現を誘導する段階と;
(d)宿主細胞において捕捉部分の発現を阻害し、免疫グロブリンの突然変異体の多様化集団の発現を誘導し、該当免疫グロブリンを発現する宿主細胞を作製する段階を含む前記方法。
【請求項7】
前記方法が更に、
(e)該当免疫グロブリンと結合する検出手段と宿主細胞を接触させ、該当免疫グロブリンをその表面に提示する宿主細胞を同定する段階と;
(f)該当免疫グロブリンをその表面に提示する宿主細胞を単離し、該当免疫グロブリンを発現する宿主細胞を作製する段階を含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
結合部分が免疫グロブリンのFc領域と結合する請求項6に記載の方法。
【請求項9】
結合部分がプロテインA、プロテインA ZZドメイン、プロテインG及びプロテインLから構成される群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項10】
細胞表面アンカー蛋白質がGPI蛋白質である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
VHドメインとVLドメインをもち、更に該当抗原に対する結合特異性を備える抗原結合部位をもつ免疫グロブリンを産生する真核宿主細胞の作製方法であって、
(a)VHドメインとVLドメインを含む免疫グロブリンをその表面に提示する真核宿主細胞のライブラリーを準備する段階(ここで、前記ライブラリーは、
(i)免疫グロブリンと結合することが可能な部分と融合した細胞表面アンカー蛋白質を含む捕捉部分を発現する真核宿主細胞(ここで、捕捉部分の発現は第1の調節性プロモーターにより行われる)を準備し;
(ii)免疫グロブリンの遺伝的に多様な集団をコードする核酸分子のライブラリーを宿主細胞にトランスフェクトし、各々免疫グロブリンを発現する複数の宿主細胞を作製する(ここで、免疫グロブリンの遺伝的に多様な集団のVHドメインは1種以上のVH遺伝子ファミリーに対して正のバイアスを示し、免疫グロブリンの重鎖又は軽鎖の少なくとも一方の発現は第2の調節性プロモーターにより行われる)ことにより作製される)と;
(b)宿主細胞の表面に捕捉部分を産生するために十分な時間にわたって宿主細胞に捕捉部分の発現を誘導する段階と;
(c)宿主細胞において捕捉部分の発現を阻害し、核酸分子配列のライブラリーの発現を誘導し、各宿主細胞にその表面に免疫グロブリンを提示させ、VHドメインとVLドメインをもち、更に該当抗原に対する結合特異性を備える抗原結合部位をもつ免疫グロブリンを産生する宿主細胞を作製する段階を含む前記方法。
【請求項12】
免疫グロブリンが合成ヒト免疫グロブリンVHドメインと合成ヒト免疫グロブリンVLドメインを含み、合成ヒト免疫グロブリンVHドメインと合成ヒト免疫グロブリンVLドメインがフレームワーク領域と超可変ループを含み、フレームワーク領域とVHドメイン及びVLドメインの両方の最初から2個の超可変ループが本質的にヒト生殖細胞系列であり、VHドメインとVLドメインが改変型CDR3ループをもつ請求項11に記載の方法。
【請求項13】
改変型CDR3ループをもつことに加えて、ヒト合成免疫グロブリンVH及びVLドメインが他のCDRループにも突然変異を含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
各ヒト合成免疫グロブリンVHドメインCDRループがランダム配列である請求項12に記載の方法。
【請求項15】
ヒト合成免疫グロブリンVHドメインCDRループが公知標準構造であり、ランダム配列成分を含む請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記方法が更に、
(d)複数の宿主細胞を該当抗原と接触させ、その表面に提示された免疫グロブリンと該当抗原を結合させた宿主細胞を検出することにより、該当抗原に対して結合特異性をもつ免疫グロブリンをその表面に提示する宿主細胞を前記複数の宿主細胞中で同定し、VHドメインとVLドメインをもち、更に該当抗原に対する結合特異性を備える抗原結合部位をもつ免疫グロブリンを産生する宿主細胞を作製する段階を含む請求項11に記載の方法。
【請求項17】
抗体がIgG、IgA、IgM及びIgEから構成される群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項18】
結合部分が免疫グロブリンのFc領域と結合する請求項11に記載の方法。
【請求項19】
結合部分がプロテインA、プロテインA ZZドメイン、プロテインG及びプロテインLから構成される群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項20】
細胞表面アンカー蛋白質がGPI蛋白質である請求項11に記載の方法。
【請求項21】
請求項1、6もしくは11に記載の方法を使用して作製された免疫グロブリン及びその誘導体。
【請求項22】
請求項21に記載の免疫グロブリンを発現する真核宿主細胞。
【請求項23】
請求項1、6又は11に記載の方法を使用して同定された免疫グロブリンを発現する宿主細胞。
【請求項24】
調節性プロモーターと機能的に連結された免疫グロブリンと結合することが可能な結合部分と融合した細胞表面アンカー蛋白質を含む捕捉部分をコードする核酸分子と、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖をコードする1個以上の核酸分子を含む真核宿主細胞であって、重鎖又は軽鎖をコードする核酸分子の少なくとも一方が第2の調節性プロモーターと機能的に連結されている前記真核宿主細胞。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20】
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【公表番号】特表2011−527576(P2011−527576A)
【公表日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517488(P2011−517488)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/049507
【国際公開番号】WO2010/005863
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(390023526)メルク・シャープ・エンド・ドーム・コーポレイション (924)
【Fターム(参考)】