説明

真球状メソポーラスシリカ及びその製造方法

【課題】 新規な細孔構造を有する真球状のメソポーラスシリカ及びその製造法を提供する。
【解決手段】 非イオン性界面活性剤を含む水溶液中に、特定構造の水溶性シラン誘導体を添加し、静置することによって、沈降物として、細孔構造がL相構造であり、且つ粒子形状が真球状のメソポーラスシリカが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真球状メソポーラスシリカ及びその製造方法、特に新規な細孔構造を有する真球状のメソポーラスシリカの開発に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔体(ポーラス素材)は、通常その孔径によって、2nm以下のものがマイクロポーラス、2〜50nmのものがメソポーラス、50nm以上のものがマクロポーラスに分類される。界面活性剤ミセルを鋳型に用いたテンプレート法により製造されるメソポーラスシリカは、高い比表面積、均一な細孔径を有し、その構造的特徴から様々な分野に応用されており、現在までに、各種の界面活性剤を用いたメソポーラスシリカの合成法が確立されている。
【0003】
このようなテンプレート法によるメソポーラスシリカの調製に関し、従来、その粒子形状を制御する研究も行われており、例えば、球状のメソポーラスシリカを調製する方法がいくつか報告されている(例えば、特許文献1〜4参照)。しかしながら、テンプレート法では、メソポーラスシリカの細孔構造は、界面活性剤の種類や配合濃度、シリケートモノマーの濃度、更にはそれらの混合方法や混合温度に強く依存しているため、これらの方法ではその細孔構造の制御は多分に試行的であった。加えて、これらの方法は、いずれも特定構造の界面活性剤(アルキルアンモニウム塩等)を構造導入剤として用いているため、得られる細孔構造(界面活性剤会合体構造)が限定されてしまうという問題があった。
【0004】
他方、近年、テンプレート法によるメソポーラスシリカとして、L相構造の細孔を有するメソポーラスシリカが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、この方法により得られたメソポーラスシリカは、モノリス状であり、L相構造の細孔を有し、且つ真球状のメソポーラスシリカについては未だ得られていない。
【0005】
【特許文献1】特開平10−328558号公報
【特許文献2】特開2002−29733号公報
【特許文献3】特開2005−89218号公報
【特許文献4】特開2006−27985号公報
【非特許文献1】McGrathら,SCIENCE,277巻,25号,1997年,552〜556頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術の課題に鑑みて行われたものであり、その目的は、新規な細孔構造を有する真球状のメソポーラスシリカ及びその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来技術の課題に鑑み、本発明らが鋭意検討を行なった結果、非イオン性界面活性剤を含む水溶液中に、特定構造の水溶性シラン誘導体を添加し、静置することによって、沈降物として、細孔構造がL相構造であり、且つ粒子形状が真球状のメソポーラスシリカが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明にかかるメソポーラスシリカは、細孔構造がL相であり、且つ粒子形状が真球状であることを特徴とするものである。
また、前記真球状メソポーラスシリカにおいて、粒子径が100〜5000nmであることが好適である。
【0009】
また、本発明にかかるメソポーラスシリカの製造方法は、非イオン性界面活性剤を含む水溶液中に、下記一般式(1)で示される水溶性シラン誘導体を添加し、静置した後、沈降物として真球状のメソポーラスシリカを得ることを特徴とするものである。
Si−(OR (1)
(式中、Rは少なくとも1つが多価アルコール残基であり、その他はアルキル基であってもよい。)
また、前記真球状メソポーラスシリカの製造方法において、非イオン性界面活性剤の添加量が混合物全量中0.1〜20質量%、水溶性シラン誘導体の添加量が混合物全量中2.5〜20質量%であることが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、非イオン性界面活性剤を含む水溶液中に、特定構造の水溶性シラン誘導体を添加し、静置することによって、沈降物として、細孔構造がL相構造であり、且つ粒子形状が真球状のメソポーラスシリカが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明にかかるメソポーラスシリカは、細孔構造がL相構造であり、且つ粒子形状が真球状であることを特徴とするものである。
本発明にかかるメソポーラスシリカの細孔構造は、L相構造である。なお、L相構造とは、公知の界面活性剤/水系の会合体構造の1つであり、光学的等方性を有した、多重に連結した二重層からなるランダムネットワーク構造である。ここで、任意のメソポーラスシリカ粒子の細孔構造がL相構造であるかどうかは、例えば、偏光顕微鏡観察や小角X線散乱測定等を行なうことによって特定することができる。
【0012】
また、本発明にかかるメソポーラスシリカの粒子外形は、真球状である。本発明において、真球状とは具体的には、いずれの方向から投影して見た場合にも概略真円状を示すものであって、粒子径の最小値が最大値の80%以上、より好ましくは90%以上であることを意味する。
【0013】
また、本発明にかかるメソポーラスシリカにおいて、その粒子径は特に限定されるものではないが、通常の場合、10〜10000nmの粒子として得られる。なお、本発明にかかるメソポーラスシリカにおいて、粒子径100〜5000nmであることが特に好ましい。
【0014】
本発明にかかるメソポーラスシリカは、非イオン性界面活性剤を含む水溶液中に、下記一般式(1)で示される水溶性シラン誘導体を添加し、静置することによって、沈降物として得られるものである。
Si−(OR (1)
(式中、Rは少なくとも1つが多価アルコール残基であり、その他はアルキル基であってもよい。)
【0015】
非イオン性界面活性剤
本発明の製造方法において用いられる非イオン性界面活性剤は、水に溶解させた場合に適当な温度範囲及び濃度範囲において界面活性剤会合体構造を形成し得るものであれば、特に制限されるものではない。また、このような非イオン性界面活性剤であれば、単独で用いてもよく、あるいは目的に応じて2種以上を混合して用いることもできる。本発明に用いられる親水性非イオン性界面活性剤としては、例えば、POE−ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、POE−ソルビタンモノオレエート、POE−ソルビタンモノステアレート、POE−ソルビタンモノオレエート、POE−ソルビタンテトラオレエート等);POEソルビット脂肪酸エステル類(例えば、POE−ソルビットモノラウレート、POE−ソルビットモノオレエート、POE−ソルビットペンタオレエート、POE−ソルビットモノステアレート等);POE−グリセリン脂肪酸エステル類(例えば、POE−グリセリンモノステアレート、POE−グリセリンモノイソステアレート、POE−グリセリントリイソステアレート等のPOE−モノオレエート等);POE−脂肪酸エステル類(例えば、POE−ジステアレート、POE−モノジオレエート、ジステアリン酸エチレングリコール等);POE−アルキルエーテル類(例えば、POE-ラウリルエーテル、POE−オレイルエーテル、POE−ステアリルエーテル、POE−ベヘニルエーテル、POE−2−オクチルドデシルエーテル、POE−コレスタノールエーテル等);プルロニック型類(例えば、プルロニック等);POE・POP−アルキルエーテル類(例えば、POE・POP−セチルエーテル、POE・POP−2−デシルテトラデシルエーテル、POE・POP−モノブチルエーテル、POE・POP−水添ラノリン、POE・POP−グリセリンエーテル等);テトラ POE・テトラPOP−エチレンジアミン縮合物類(例えば、テトロニック等);POE−ヒマシ油硬化ヒマシ油誘導体(例えば、POE−ヒマシ油、POE−硬化ヒマシ油、POE−硬化ヒマシ油モノイソステアレート、POE−硬化ヒマシ油トリイソステアレート、POE−硬化ヒマシ油モノピログルタミン酸モノイソステアリン酸ジエステル、POE−硬化ヒマシ油マレイン酸等);POE−ミツロウ・ラノリン誘導体(例えば、POE−ソルビットミツロウ等);アルカノールアミド(例えば、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミド、脂肪酸イソプロパノールアミド等);POE−プロピレングリコール脂肪酸エステル;POE−アルキルアミン;POE−脂肪酸アミド;ショ糖脂肪酸エステル;アルキルエトキシジメチルアミンオキシド;トリオレイルリン酸等が挙げられる。
【0016】
また、親油性非イオン界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ペンタ−2−エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン、テトラ−2−エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン等);グリセリンポリグリセリン脂肪酸類(例えば、モノ綿実油脂肪酸グリセリン、モノエルカ酸グリセリン、セスキオレイン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、α,α’−オレイン酸ピログルタミン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリンリンゴ酸等);プロピレングリコール脂肪酸エステル類(例えば、モノステアリン酸プロピレングリコール等);硬化ヒマシ油誘導体;グリセリンアルキルエーテル等が挙げられる。
【0017】
また、本発明において、上記非イオン性界面活性剤の好適な添加量は、非イオン性界面活性剤の種類によっても異なるが、混合物全量中0.1〜20質量%の範囲で用いることが好ましい。非イオン性界面活性剤の添加量が0.1質量%未満であると、水溶性シラン誘導体がバルク相で重合し、系全体が固化してしまい、メソポーラスシリカ粒子が得られない場合がある。また、20質量%を超えると、生成したシリカ粒子が、シリカ重合の過程で連結してネットワークを形成し、結果として系全体を固化してしまい、メソポーラスシリカ粒子が得られない場合がある。
【0018】
水溶性シラン誘導体
本発明の製造方法において用いられる水溶性シラン誘導体は、上記一般式(1)に示されるものである。上記一般式(1)に示される水溶性シラン誘導体において、Rは少なくとも1つが多価アルコール残基であり、その他はアルキル基であってもよい。多価アルコール残基は、多価アルコールにおける1つの水酸基が除かれた形として示される。なお、水溶性シラン誘導体は、通常、テトラアルコキシシランと多価アルコールとの置換反応により調製することができ、Rの多価アルコール残基は、使用する多価アルコールの種類によって異なるが、例えば、多価アルコールとしてエチレングリコールを用いた場合、Rは−CH−CH−OHとなる。なお、Rの少なくとも1つが、置換多価アルコール残基であればよく、その他は未置換のアルキル基であってもよい。
【0019】
上記一般式(1)におけるRの多価アルコール残基としては、例えば、エチレングリコール残基、ジエチレングリコール残基、トリエチレングリコール残基、テトラエチレングリコール残基、ポリエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ジプロピレングリコール残基、ポリプロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、ヘキシレングリコール残基、グリセリン残基、ジグリセリン残基、ポリグリセリン残基、ネオペンチルグリコール残基、トリメチロールプロパン残基、ペンタエリスリトール残基、マルチトール残基等が挙げられる。これらのうち、Rがエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、グリセリン残基のいずれかであることが好ましい。
【0020】
本発明に用いられる水溶性シラン誘導体としては、より具体的には、Si−(O−CH−CH−OH)、Si−(O−CH−CH−CH−OH)、Si−(O−CH−CH−CHOH−CH、Si−(O−CH−CHOH−CH−OH)等が挙げられる。
【0021】
本発明に用いられる水溶性シラン誘導体は、例えば、テトラアルコキシシランと多価アルコールとを、固体触媒の共存下で反応させることにより調製することができる。
【0022】
テトラアルコキシシランは、ケイ素原子に4つのアルコキシ基が結合したものであればよく、特に限定されるものではない。水溶性シリケートモノマーの製造に用いるテトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。これらのうち、入手のし易さ、及び反応副生成物の安全性の点から、テトラエトキシシランを用いるのが最も好ましい。
【0023】
なお、テトラアルコキシシランの代替化合物として、モノ、ジ、トリハロゲン化アルコキシシラン、例えばモノクロロトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、モノブロモトリエトキシシラン等、あるいはテトラハロゲン化シラン、例えばテトラクロロシラン等を用いる事も考えられるが、これらの化合物は、多価アルコールとの反応において、塩化水素、臭化水素などの強酸を生成するため、反応装置の腐食が生じたり、さらには反応後の分離除去が困難であるため、実用的であるとは言い難い。
【0024】
多価アルコールは、分子中に2つ以上の水酸基を有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。水溶性シリケートモノマーの製造に用いる多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、マルチトール等が挙げられる。これらのうち、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンのいずれかを用いるのが好ましい。
【0025】
固体触媒は、用いられる原料成分、反応溶媒、及び反応生成物に対して不溶な固体状の触媒であり、ケイ素原子上の置換基交換反応に対して活性を有する酸点及び/又は塩基点を有する固体であればよい。本発明に用いられる固体触媒としては、例えば、イオン交換樹脂、及び各種無機固体酸/塩基触媒が挙げられる。
【0026】
固体触媒として用いられるイオン交換樹脂としては、例えば、酸性陽イオン交換樹脂及び塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。これらのイオン交換樹脂の基体をなす樹脂としてはスチレン系、アクリル系、メタクリル系樹脂等が挙げられ、また、触媒活性を示す官能基としてはスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、4級アンモニウム、3級アミン、1,2級ポリアミン等が挙げられる。また、イオン交換樹脂の基体構造としては、ゲル型、ポーラス型、バイポーラス型等から、目的に応じて選択することができる。
【0027】
酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRC76、FPC3500、IRC748、IRB120B Na、IR124 Na、200CT Na(以上、ロームアンドハース社製)、ダイヤイオン SK1B、PK208(以上、三菱化学社製)、Dow EX モノスフィア650C、マラソンC、HCR−S、マラソンMSC(以上、ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。また、塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRA400J CL、IRA402BL CL、IRA410J CL、IRA411 CL、IRA458RF CL、IRA900J CL、IRA910CT CL、IRA67、IRA96SB(以上、ロームアンドハース社製)、ダイヤイオン SA10A、SAF11AL、SAF12A、PAF308L(以上、三菱化学社製)、Dow EX モノスフィア550A、マラソンA、マラソンA2、マラソンMSA(以上、ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。
【0028】
固体触媒として用いられる無機固体酸/塩基触媒としては、特に限定されるものではない。無機固体酸触媒としては、Al、SiO、ZrO、TiO、ZnO、MgO、Cr等の単元系金属酸化物、SiO−Al、SiO−TiO、SiO−ZrO、TiO−ZrO、ZnO−Al、Cr−AlO3、SiO−MgO、ZnO−SiO等の複合系金属酸化物、NiSO、FeSO等の金属硫酸塩、FePO等の金属リン酸塩、HSO/SiO等の固定化硫酸、HPO/SiO等の固定化リン酸、HBO/SiO等の固定化ホウ酸、活性白土、ゼオライト、カオリン、モンモリロナイト等の天然鉱物又は層状化合物、AlPO−ゼオライト等の合成ゼオライト、HPW1240・5HO、HPW1240等のヘテロポリ酸等が挙げられる。また、無機固体塩基触媒としては、NaO、KO、RbO、CsO、MgO、CaO、SrO、BaO、La、ZrO、ThO等の単元系金属酸化物、NaCO、KCO、KHCO、KNaCO、CaCO、SrCO、BaCO、(NHCO、NaWO・2HO、KCN等の金属塩、Na−Al、K−SiO等のアルカリ金属担持金属酸化物、Na−モルデナイト等のアルカリ金属担持ゼオライト、SiO−MgO、SiO−CaO、SiO−SrO、SiO−ZnO、SiO−Al、SiO−ThO、SiO−TiO、SiO−ZrO、SiO−MoO、SiO−WO、Al−MgO、Al−ThO、Al−TiO、Al−ZrO、ZrO−ZnO、ZrO−TiO、TiO−MgO、ZrO−SnO等の複合系金属酸化物等が挙げられる。
【0029】
固体触媒は、反応終了後にろ過あるいはデカンテーション等の処理を行なうことによって、容易に生成物と分離することができる。
【0030】
なお、水溶性シラン誘導体の製造においては、反応時に溶媒を用いなくてもよいが、必要に応じて各種溶媒を用いても構わない。反応に用いる溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、セロソルブ、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエステル、エーテル、ケトン系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、さらにはクロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒が挙げられる。ここで、原料として用いるテトラアルコキシシランの加水分解縮合反応を抑制するため、溶媒は予め脱水しておくことが好ましい。また、これらのうちで、反応時に副生成するエタノール等のアルコールと共沸混合物を形成して系外へと除去することで反応を促進することのできるアセトニトリル、トルエン等を用いることが好ましい。
【0031】
本発明の製造方法において、上記水溶性シラン誘導体好適な添加量は、特に限定されるものではないが、混合物全量中2.5〜20質量%の範囲で用いることが好ましい。2.5質量%未満であると、シリカ原料としての量が十分でない場合があり、また、20質量%を超えると、バルク相でシリカの重合が生じ、系全体を固化してしまい、メソポーラスシリカが得られない場合がある。
【0032】
また、本発明の製造方法において、上記非イオン性界面活性剤と、上記水溶性シラン誘導体とを、1:0.01〜1:3の質量比率で用いることが好適であり、特に1:0.02〜1:1の質量比率で用いることが好適である。質量比率が前記範囲を逸脱すると、非イオン性界面活性剤あるいは水溶性シラン誘導体のいずれかが過剰となり、真球状のメソポーラスシリカが得られない場合がある。
【0033】
そして、上記非イオン性界面活性剤を含む水溶液中に、上記水溶性シラン誘導体を添加し、静置することによって、沈降物として、真球状のメソポーラスシリカが得られる。
【0034】
本発明の製造方法において、用いられる溶媒としては、水又はこれと相溶性のある有機溶媒と水との混合物を含む溶媒を使用することができ、非イオン性界面活性剤の自己組織体生成を促進する観点で、好ましくは水単独、又は界面活性剤の溶解性向上のための各種アルコール類との混合溶媒であり、より好ましくは水単独、水−エタノールまたは水−メタノールの混合溶媒である。
【0035】
本発明の製造方法において、温度条件は特に制限されるものではなく、通常、室温から使用する溶媒の沸騰温度の範囲で行われるが、混合及び反応促進の観点から、好ましくは非イオン性界面活性剤が会合体構造を安定に生成する温度範囲で製造される。非イオン性界面活性剤が、その水和物の融点に相当するクラフト温度、あるいは界面活性剤ミセルの可溶化限界温度である曇点を示す場合は、クラフト温度以上で曇点以下の温度が好ましい。
【0036】
本発明の製造方法において、静置時間は、通常、1分〜168時間の範囲で行われ、水溶性シラン誘導体の加水分解、縮重合の観点から、好ましくは5分〜48時間であり、より好ましくは30分〜20時間である。なお、本発明の製造方法においては、生成した真球状メソポーラスシリカを、沈降物として外部から確認することができ、視認による観察結果に併せて適宜反応を終了してもよい。
【0037】
なお、以上説明した工程により得られる真球状メソポーラスシリカは、メソポーラスシリカ複合体である。真球状メソポーラスシリカ複合体の生成確認は、走査型ないし透過型電子顕微鏡観察、粉末X線回折などにより行うことができる。また、以上のようにして得られる真球状メソポーラスシリカ複合体は、酸性水溶液,水と相溶性のある有機溶媒あるいはその水溶液で洗浄して真球状メソポーラスシリカ外殻としたり、あるいは焼成して真球状メソポーラスシリカとする他、水分および溶媒保持体として化粧品成分や塗料、建築材料その他各種複合材料に使用することが期待される。また、フィルムや薄膜に使用することが期待される。
【0038】
以上のようにして得られる真球状メソポーラスシリカ複合体を、更に酸性水溶液、水、又は水と相溶性のある有機溶媒もしくはその水溶液で洗浄することにより、真球状メソポーラスシリカ外殻を製造することができる。
【0039】
真球状メソポーラスシリカ外殻の製造において使用される処理溶媒としては、特に限定されるものではなく、各種溶媒を使用することができるが、メソポーラスシリカ外殻の構造保持の観点で、好ましくは極性溶媒であり、より好ましくは水やアルコールである。
【0040】
真球状メソポーラスシリカ外殻製造の際の処理温度は、通常、室温から使用する溶媒の沸騰温度の範囲で行われるが、真球状メソポーラスシリカ外殻の構造保持、真球状メソポーラスシリカ外殻の収率、及び処理溶媒の沸点の観点で、好ましくは室温〜100℃であり、より好ましくは室温〜80℃である。
【0041】
真球状メソポーラスシリカ外殻製造の際の処理時間は、通常1〜72時間の範囲で行われるが、真球状メソポーラスシリカ外殻の構造保持及び真球状メソポーラスシリカ外殻の収率の観点から、好ましくは8〜48時間であり、より好ましくは24〜48時間である。
【0042】
真球状メソポーラスシリカ外殻製造の際の処理pHは、通常0〜4の範囲で行われるが、真球状メソポーラスシリカ外殻の構造保持及び真球状メソポーラスシリカ外殻の収率の観点から、好ましくは0〜2であり、より好ましくは0〜1である。
【0043】
真球状メソポーラスシリカ外殻製造の際の処理に使用される酸としては、特に限定されるものではなく、通常に存在する各種の酸を使用することができる。例えば、塩酸、酢酸、硝酸、硫酸,シュウ酸及びリン酸であり、真球状メソポーラスシリカ外殻の収率の観点から、好ましくは塩酸、酢酸、硝酸及び硫酸であり、より好ましくは塩酸及び酢酸である。
【0044】
以上のようにして製造される真球状メソポーラスシリカ外殻生成の確認は、粉末X線回折、窒素吸着・脱着測定、電子顕微鏡観察などにより行うことができる。また、以上のようにして得られる真球状メソポーラスシリカ外殻は、非イオン性界面活性剤の自己組織化構造をテンプレートとして得られたメソポーラス空間との相互作用を利用して、混合物からの特定分子の吸着分離材料、あるいは特定物質を吸着した複合体としての使用が期待される。また、フィルムや薄膜に形態を変化させて使用することも期待される。
【0045】
そして、以上のようにして得られた真球状メソポーラスシリカ複合体または真球状メソポーラスシリカ外殻を焼成することによって、本発明にかかる真球状メソポーラスシリカを製造することができる。
【0046】
真球状メソポーラスシリカ製造の際の焼成温度は、通常、300〜900℃の範囲で行われるが、真球状メソポーラスシリカの構造保持及び非イオン性界面活性剤の完全除去の観点で、好ましくは400〜650℃であり、より好ましくは500〜600℃である
【0047】
真球状メソポーラスシリカ製造の際の焼成時間は、通常、2〜24時間の範囲で行われるが、界面活性剤の完全除去の観点で、好ましくは4〜12時間であり、より好ましくは6〜10時間である。
【0048】
以上のようにして製造される真球状のメソポーラスシリカは、従来の形状のものと同様に、触媒、吸着剤等として使用することができる。触媒や吸着剤等として使用する場合には、本発明の真球状メソポーラスシリカ複合体、真球状メソポーラスシリカ外殻、および真球状メソポーラスシリカは、差支えがなければ、これらの2種または3種を組み合わせて同時に使用することもできる。
【実施例1】
【0049】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
まず最初に、本発明に用いられる水溶性シラン誘導体の製造方法について説明する。
【0050】
合成例1:エチレングリコール置換シラン誘導体
テトラエトキシシラン20.8g(0.1モル)と、エチレングリコール24.9g(0.4モル)とをアセトニトリル150ml中に添加し、さらに固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.8gを添加した後、室温で混合攪拌した。当初、二層に分離していた反応液は約一時間後に均一に溶解した。その後、5日間攪拌を続けた後、固体触媒をろ過分離し、エタノールとアセトニトリルを減圧下留去して、透明の粘性液体39gを得た。H−NMR分析の結果、生成物が目的とするエチレングリコール置換体(テトラ(2−ヒドロキシエトキシ)シラン)であることを確認した(収率:72.5%)。
【0051】
合成例2:グリセリン置換シラン誘導体
テトラエトキシシラン60.1g(0.28モル)と、グリセリン106.33g(1.16モル)とを混合し、無溶媒下、固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.1gを添加した後、85℃で混合攪拌した。約3時間の後、混合物は一層透明溶液となった。さらに5時間30分反応を続けた後、得られた溶液を終夜静置した。減圧下、固体触媒をろ過分離した後、少量のエタノールで洗浄した。さらにこの溶液からエタノールを留去して、透明の粘性液体112gを得た。生成物は、同量の水と室温中で混合することにより、やや発熱し、均一で透明なゲルを形成した(収率:97%)
【0052】
本発明者らは、上記合成例に準じて多価アルコール置換水溶性シラン誘導体を調製し、非イオン性界面活性剤を各種濃度で含む水溶液中に、当該水溶性シラン誘導体を各種濃度で添加、静置し、得られた組成物についての検討を行なった。試験内容は以下のとおりである。結果を下記表1及び図1に、また、得られた組成物についての小角X線回折測定結果を図2に示す。
【0053】
〈試験内容〉
非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン(7モル)ドデシルエーテル(C12EO)、多価アルコール置換シラン誘導体としてエチレングリコール置換水溶性シラン誘導体(THEGS)を用い、それぞれの濃度を各種変化させ、各種濃度の非イオン性界面活性剤水溶液中に、水溶性シラン誘導体を各種濃度で添加、60℃にて静置し、18時間後の組成物の状態を目視により観察した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1及び図1に示されるように、非イオン性界面活性剤を含む水溶液中に多価アルコール置換水溶性シラン誘導体を添加、静置した場合、特定の濃度範囲において、白色の沈降物(シリカ重合物)が生成することが明らかになった。また、この濃度範囲以外では、系全体がシリカによって透明又は白濁状にゲル化してしまうことがわかった。また、図2に示すように、得られた組成物は、いずれも小角X線回折のピークを示しており、界面活性剤の会合体構造が保持されているものと認められた。
【0056】
つづいて、本発明者らは、上記試験において得られた組成物(シリカ重合物)を洗浄、乾燥して得られたシリカ粒子について電子顕微鏡による観察を行い、得られたシリカ粒子の形状についての検討を行った。図3に、水溶性シラン誘導体濃度15質量%の条件で得られたシリカ粒子の電子顕微鏡写真図を示す。
【0057】
図3に示されるように、水溶性シラン誘導体15質量%の条件において、非イオン性界面活性剤が2質量%及び15質量%の条件では、1〜2μm程度の、ほぼ真球状のメソポーラスシリカ粒子が得られていることが確認された。また、5質量%及び10質量%の条件においては、半球状あるいは1/4球状のメソポーラスシリカ粒子の存在が確認された。なお、これらはもともと大きな球状であったメソポーラスシリカ粒子が、洗浄、乾燥時において崩壊してしまったものと考えられる。以上の結果から、上記試験において得られた白色の沈降物が、ほぼ真球状のメソポーラスシリカ粒子であることが認められた。
【0058】
また、本発明者らは、非イオン性界面活性剤と水溶性シラン誘導体の種類を替えて、上記試験と同様の試験を行い、真球状メソポーラスシリカの生成の有無について検討を行った。結果を下記表2及び表3に示す。
【0059】
非イオン性界面活性剤:ポリオキシエチレン(7モル)ドデシルエーテル(C12EO
水溶性シラン誘導体:グリセリン置換水溶性シラン誘導体(TDPOS)
【表2】

【0060】
非イオン性界面活性剤:ポリオキシエチレン(25モル)ドデシルエーテル(C12EO25
水溶性シラン誘導体:グリセリン置換水溶性シラン誘導体(TDPOS)
【表3】

【0061】
表2及び表3に示されるように、非イオン性界面活性剤と水溶性シラン誘導体の種類を変化させた場合にも、特定の濃度範囲において、白色の沈降物(シリカ重合物)の生成が認められた。また、得られた沈降物について、別途検討を行ったところ、いずれも真球状のメソポーラスシリカ粒子であることが確認された。
【0062】
また、本発明者らは、メソポーラスシリカ粒子の微細構造について、さらに詳しく検討するため、上記製法と同様にしてメソポーラスシリカ粒子を調製し、得られた粒子を切断した断面について透過型電子顕微鏡による観察を行った。なお、試験に用いたメソポーラスシリカ粒子の製造方法は以下に示すとおりである。得られた真球状メソポーラスシリカ粒子の透過型電子写真図を図4に示す。
【0063】
非イオン性界面活性剤:ポリオキシエチレン(25モル)ポリオキシプロピレン(30モル)コポリマー(プルロニックL−64)
水溶性シラン誘導体:エチレングリコール置換水溶性シラン誘導体(THEGS)
〈製造方法〉
ポリオキシエチレン(25モル)ポリオキシプロピレン(30モル)コポリマー(プルロニックL−64:旭電化工業社製)の5質量%水溶液200gに、エチレングリコール置換水溶性シラン誘導体(THEGS)10gを混合し、室温で18時間静置した。遠心分離して上澄みを除去後、150mlのエタノールを用いて室温で2時間洗浄した。ろ過の後、50℃で乾燥して白色のシリカ粉末を得た。得られたシリカ粉末は、メソ孔を有し、真球状であった。
【0064】
図4に示されるように、上記製法により得られた真球状メソポーラスシリカ粒子においては、粒子内部(図中ほぼ中央部)にL相構造と考えられる波状の模様が見られ、10〜20nm程度の細孔が存在していることが確認された(なお、図中、平行に並んだ縦方向の線は、粒子切断時の痕跡である)。以上の結果から、本発明の製造方法、すなわち、非イオン性界面活性剤を含む水溶液中に、特定構造の水溶性シラン誘導体を添加し、静置することによって、沈降物として、細孔構造がL相構造であり、且つ粒子形状が真球状のメソポーラスシリカが得られることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】各種濃度のポリオキシエチレン(7モル)ドデシルエーテル(C12EO)水溶液中に、各種濃度のエチレングリコール置換シラン誘導体(THEGS)を添加、静置して得られた組成物の写真図(試験管を斜めに傾けて撮影)。
【図2】各種濃度のポリオキシエチレン(7モル)ドデシルエーテル(C12EO)水溶液中に、各種濃度のエチレングリコール置換シラン誘導体(THEGS)を添加、静置して得られた組成物の小角X線回折測定の結果をまとめたものである。
【図3】エチレングリコール置換水溶性シラン誘導体濃度15質量%の条件で得られたシリカ粒子の電子顕微鏡写真図である(右下の数値はポリオキシエチレン(7モル)ドデシルエーテル濃度(質量%)である)。
【図4】ポリオキシエチレン(25モル)ポリオキシプロピレン(30モル)コポリマー、及びエチレングリコール置換水溶性シラン誘導体を用いて得られた真球状メソポーラスシリカ粒子を切断した断面の透過型電子顕微鏡写真図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔構造がL相構造であり、且つ粒子形状が真球状であることを特徴とするメソポーラスシリカ。
【請求項2】
請求項1に記載の真球状メソポーラスシリカにおいて、粒子径が100〜5000nmであることを特徴とする真球状メソポーラスシリカ。
【請求項3】
非イオン性界面活性剤を含む水溶液中に、下記一般式(1)で示される水溶性シラン誘導体を添加し、静置した後、沈降物として真球状のメソポーラスシリカを得ることを特徴とするメソポーラスシリカの製造方法。
Si−(OR (1)
(式中、Rは少なくとも1つが多価アルコール残基であり、その他はアルキル基であってもよい。)
【請求項4】
請求項3に記載の真球状メソポーラスシリカの製造方法において、非イオン性界面活性剤の添加量が混合物全量中0.1〜20質量%、水溶性シラン誘導体の添加量が混合物全量中2.5〜20質量%であることを特徴とする真球状メソポーラスシリカの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−63209(P2008−63209A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245800(P2006−245800)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】