説明

真空ポンプ

【課題】ターボ分子ポンプにおいて使用されるオイル潤滑転がり軸受から排出される潤滑剤を低減する。
【解決手段】軸110と、潤滑剤で潤滑され且つ軸を回転可能に支持する軸受150と、軸上に配置されたポンプ作用構造部分140、142とを備えた真空ポンプ100において、軸受150のポンプ作用構造部分に向けられた側に、軸受150における熱によって発生した潤滑剤蒸気を再度液化させて潤滑剤貯蔵装置152側に戻す凝縮要素180を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の真空ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業的真空を発生するための真空ポンプのきわめて多くの構造タイプにおいて、例えば分子ポンプにおいて、ときには数万rpmのきわめて高い回転速度を有する回転構造部分が使用される。この回転構造部分は軸受により回転可能に支持されなければならない。このために、きわめてしばしば、潤滑される転がり軸受が使用される。潤滑のために、グリース潤滑のほかにオイル潤滑が使用され、オイル潤滑においては、一般に、潤滑剤は貯蔵装置から取り出され且つ転がり軸受に供給される。次に、潤滑剤は軸受から貯蔵装置内に流れて戻るので、循環回路が形成される。このような循環回路がドイツ特許公開第102006053237号に開示されている。
【0003】
潤滑剤量は時間の経過と共に減少することが観察され、これにより、貯蔵装置の補充または交換が必要となる。一方で、より長い保守間隔への要望が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】ドイツ特許公開第102006053237号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の課題は、上記の損失を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、請求項1の特徴を有する真空ポンプにより解決される。請求項2−11は有利な変更態様を与える。
請求項1に記載の真空ポンプは凝縮要素を有し、凝縮要素は、潤滑される軸受のポンプ作用構造部分に向けられた側に配置されている。この表面は、潤滑剤が凝縮する温度に存在している。これにより、軸受内において潤滑剤の蒸発により発生する損失が低減される。潤滑剤蒸気はポンプ作用構造部分の方向へ軸に沿って圧力降下に基づいて上昇し、凝縮要素において凝縮し、および滴下して液体として軸受の方向に戻る。同時に、この潤滑剤蒸気がポンプ作用構造部分の範囲内および入口および出口の範囲内における真空を低下させることが阻止される。この場合、ポンプ作用構造部分は、ターボ分子構造タイプのディスク・ロータ、ターボ分子構造タイプの釣鐘ロータ、ホルベック・ポンプ要素およびサイド・チャネル・ポンプ要素等を含んでいてもよい。この軸受のほかに、ポンプ作用構造部分の遊動支持が得られるように、軸端に第2の軸受が設けられている。
【0007】
第1の変更態様により、凝縮要素は軸受と駆動装置との間に配置されているので、駆動装置領域は潤滑剤により汚染されない。さらに、軸とモータ・コイルとの間の隙間が低コンダクタンスの形の他のシールとして利用される。
【0008】
他の一変更態様は、凝縮要素をリング状に形成し、これにより軸線に関して対称的な作用を達成するように設計され、このことは種々の姿勢において真空ポンプの運転を可能にする。
【0009】
一変更態様は、それが電熱変換器を含むような凝縮要素の形態に関するものである。これは簡単な構造を与え、さらに、既に存在する電源の利用を可能にする。その上に、この方法は、振動源の介入を回避させる。
【0010】
電熱変換器は、それがリング状に軸を包囲するように形成されていることにより、さらに改善される。これにより、潤滑剤が凝縮する表面の均等な冷却が達成される。
請求項6に記載の次の変更態様は、潤滑剤が凝縮する表面上に排出構造が設けられているように設計されている。これは凝縮された潤滑剤の排出を容易にさせる。
【0011】
他の一変更態様は、凝縮された潤滑剤を潤滑剤貯蔵装置に戻す戻し通路が設けられていることにより、損失を低減させる。請求項8に記載の方法により、軸受と潤滑剤貯蔵装置との間にも戻し供給手段が使用されたとき、この利点が高められる。
【0012】
真空ポンプが請求項9または10に記載のポンプ作用構造部分を有しているとき、この利点は特に顕著となる。凝縮要素により潤滑剤蒸気をポンプ作用構造部分の領域から遠ざけることは、第2の無潤滑軸受としての永久磁気軸受との協働において特に有利である。
【0013】
実施例に基づき、本発明を詳細に説明し且つそれらの利点を解明することとする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、凝縮要素を有する真空ポンプの断面図を示す。
【図2】図2は、第1の例による凝縮要素の軸線に直角な断面図を示す。
【図3】図3は、第1の例による凝縮要素の軸線に沿った断面図を示す。
【図4】図4は、第2の例による凝縮要素の軸線に沿った断面図を示す。
【図5】図5は、第2の例による凝縮要素の軸線に直角な平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に、真空ポンプ100が軸線112に沿った断面図で示されている。ガスは入口102から真空ポンプ内に流入し、真空ポンプ内で圧縮され、それに続いて出口104から排出される。真空ポンプのハウジング106内に軸110が設けられている。入口に付属された軸端は永久磁気軸受130により回転可能に支持され、永久磁気軸受内において、ロータ側磁気リング132およびステータ側磁気リング134が協働している。反対側軸端は玉軸受として形成された軸受150により支持される。軸は駆動装置120により数万rpmの高速で回転される。駆動装置は、電気コイル124と、および軸上に配置され且つコイルの回転磁界と協働するモータ磁石122とを含む。
【0016】
軸上にポンプ作用構造部分が配置され、ポンプ作用構造部分は、ステータ側構造部分例えば羽根を設けたディスク148と協働してポンプ作用を発生する。図示の例においては、軸側ポンプ作用構造部分は、ターボ分子構造タイプに基づく羽根を設けたディスク140および平滑スリーブ142であり、平滑スリーブは、ねじ山状に形成されたチャネルを有するステータ構成要素144により、ホルベック段を形成する。スリーブはハブ146により支持される。これらの両方のポンプ原理のほかに、他のポンプ構造例えばゲーデ段またはサイド・チャネル・ポンプ段が使用されてもよい。
【0017】
ハウジングは下部部分108を含み、下部部分内に軸受150の支持構造部分が受け入れられている。さらに、下部部分は潤滑剤貯蔵装置152を埋め込んでいる。潤滑剤貯蔵装置内に潤滑剤が貯蔵され、潤滑剤は、潤滑剤供給装置154を介して、軸上に配置された噴霧ナット156に供給される。噴霧ナットは円錐表面を有し、円錐表面の直径は軸受の方向に増大しているので、潤滑剤は遠心力作用により軸受内に供給される。図示の例においては、潤滑剤貯蔵装置はフェルト層からなるパッキン(詰め物)として形成されている。潤滑剤供給装置は芯を含み、芯は少なくとも1つのフェルト層と結合され且つ噴霧ナットと接触している。潤滑剤の移送は毛管作用により行われる。代替態様として、潤滑剤供給装置は噴霧ノズルとして形成されていてもよく、噴霧ノズルにより、潤滑剤は潤滑剤ポンプから噴霧ナットに供給される。
【0018】
軸受のポンプ作用構造部分に向けられた側に、凝縮要素180が配置されている。ポンプ作用構造部分の作用により熱が発生し、熱は軸を介して軸受150に供給される。これにより潤滑剤が加熱されるので、一部が蒸発する。この潤滑剤蒸気は、真空ポンプの内部の圧力勾配に基づいてポンプ作用構造部分の方向に移動し、このとき凝縮要素と軸との間の軸隙間160を通過する。この軸隙間は低コンダクタンスとして作用することが有利である。凝縮要素は、潤滑剤が再び液状に移行する温度に存在している。液化された潤滑剤は、次に、滴下して軸受の方向に戻る。潤滑剤損失のこのような低減により、ポンプ作用構造部分の領域の汚染もまた低減されるので、無潤滑永久磁気軸受と協働してきわめて純粋な真空が得られる。
【0019】
凝縮要素の軸受とは反対側に捕獲室162が設けられていることが有利であり、捕獲室により、戻し通路172から、捕集された潤滑剤が潤滑剤貯蔵装置に戻る。この戻し通路はチャネルとして形成されていてもよいが、多孔材料例えばフェルトを利用することが有利であり、多孔材料は毛管作用により潤滑剤を供給する。
【0020】
同様に、潤滑剤を軸受それ自身から潤滑剤貯蔵装置に供給して戻す戻し供給手段174を設けることが有利である。
戻し通路および戻し供給手段により2つの循環回路が形成され、循環回路は使用された潤滑剤を潤滑剤貯蔵装置に移送して戻すので、損失は明らかに低減され、したがって、真空ポンプの保守間隔は明らかに延長される。特に、このようにして、真空ポンプはあらゆる取付姿勢において運転可能であり、且つこのとき潤滑剤は戻し通路および戻し供給手段を通過して潤滑剤貯蔵装置に到達して戻る。
【0021】
凝縮要素が軸受と駆動装置との間で軸を包囲するように配置されているので、コイル124と軸110との間のモータ隙間164が他のシール隙間として作用することが有利である。
【0022】
凝縮要素は例えば冷却水循環回路への接続を介して十分に冷却可能である。このために、冷却水または他の液体冷媒を真空ポンプの外部から凝縮要素に供給し、凝縮要素を通過して次に再び真空ポンプの外部へ供給する対応する冷却水チャネルまたは組み込まれた銅管が必要である。
【0023】
凝縮要素の有利な実施態様が図2および図3に詳細に示されている。
はじめに、図2は、凝縮要素の軸線に直角な断面図を示す。凝縮要素180は冷却体184を含む。冷却体はリング状に形成されているので、取付状態において、真空ポンプの軸はリングの中央開口内を貫通する。冷却体は周囲に分配された凹部を有し、凹部内に電熱変換器182が配置されている。少なくとも1つの変換器が必要ではあるが、均等な温度分布を達成するためには複数の変換器が有利である。冷却体とハウジングとの間に断熱要素例えば不良熱伝導層が設けられていてもよい。これにより、冷却体の温度低下が容易となる。このような層は例えば酸化シリコンを含んでいてもよい。代替態様として、冷却体とハウジングとの接触面積が低減されるように、凹部が設けられている。
【0024】
図3に、凝縮要素180が軸線に沿った断面図で示されている。捕獲室162に向けられた側は斜面186を有し、斜面に沿って潤滑剤は中心開口から離れる方向に流れることが可能である。潤滑剤はこのようにして戻し通路172に到達する。戻し通路は、潤滑剤を戻すために、例えば十分に狭い隙間として、細い内孔として、または多孔材料からなる少なくとも1つの要素として、毛管作用を得るように形成されている。戻し通路は凝縮要素をリング状に包囲して且つ潤滑剤貯蔵装置まで到達する棒状要素と協働してもよい。斜面とは反対側に、真空ポンプのハウジングの下部部分108に向けられている冷却体の表面が存在する。電熱変換器182と下部部分108との間の接触面188において、電熱変換器が、下部部分を、冷却体を冷却するための吸熱源として利用可能なように、良好な熱伝達が形成されている。
【0025】
図4および図5に、図1に示す真空ポンプに対する第2の実施例による凝縮要素280が示されている。軸線に沿った断面図が図4に示されている。凝縮要素はリング状冷却体284を有し、冷却体は捕獲室162の方向に円錐表面286を有している。円錐は、冷却体の厚さを軸線112から半径方向外側に向けて低減させることにより形成されている。表面上に排出構造290が設けられ、排出構造は軸線から離れて戻し通路172への潤滑剤の排出を支援する。冷却体284とハウジングの下部部分108との間に、軸110を包囲するリング状電熱変換器282が設けられている。電熱変換器は、それに電流が流されると直ちに、温表面294および冷表面292を有し、温表面はハウジング108と熱伝導接触を形成し、冷表面は冷却体と熱伝導接触を形成する。電流の供給は、例えば駆動装置のために既に存在している電源により行われる。
【0026】
図5に、冷却体284の平面図が示されている。排出構造290が螺旋状に伸長する隆起として形成されている。排出構造により、冷表面上で凝縮した潤滑剤が適切に戻し通路172に供給される。真空ポンプの種々の取付姿勢を可能にするために、冷却体の周囲に沿って複数の戻し通路構造部分が設けられている。代替態様として、隆起の代わりに、溝またはスロットが設けられていてもよい。螺旋は複数のコースを含んでいてもよい。円錐表面の内縁領域から外縁領域へ到達する複数の円弧部分または直線が設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0027】
100 真空ポンプ
102 入口
104 出口
106 ハウジング
108 ハウジングの下部部分
110 軸
112 軸線
120 駆動装置
122 モータ磁石
124 電気コイル
130 永久磁気軸受
132 ロータ側磁気リング
134 ステータ側磁気リング
140 羽根を設けたディスク(ロータ側)(ポンプ作用構造部分)
142 平滑スリーブ(ポンプ作用構造部分)
144 ステータ構成要素
146 ハブ
148 羽根を設けたディスク(ステータ側)
150 軸受
152 潤滑剤貯蔵装置
154 潤滑剤供給装置
156 噴霧ナット
160 軸隙間
162 捕獲室
164 モータ隙間
172 戻し通路
174 戻し供給手段
180、280 凝縮要素
182、282 電熱変換器
184、284 冷却体
186 斜面
188 接触面
286 円錐表面
290 排出構造
292 冷表面
294 温表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸(110)と、潤滑剤で潤滑され且つ軸を回転可能に支持する軸受(150)と、軸上に配置されたポンプ作用構造部分(140、142)とを備えた真空ポンプ(100)において、
前記軸受のポンプ作用構造部分に向けられた側に、凝縮要素(180;280)が配置されていることを特徴とする真空ポンプ(100)。
【請求項2】
前記凝縮要素(180;280)が軸受(150)と駆動装置(120)との間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ(100)。
【請求項3】
前記凝縮要素(180;280)がリング状に軸(110)を包囲するように形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプ(100)。
【請求項4】
前記凝縮要素(180;280)が電熱変換器(182;282)を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の真空ポンプ(100)。
【請求項5】
前記凝縮要素(180;280)がリング状電熱変換器(282)を含むことを特徴とする請求項4に記載の真空ポンプ(100)。
【請求項6】
前記凝縮要素(180;280)が排出構造(290)を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の真空ポンプ(100)。
【請求項7】
前記凝縮要素(180;280)によって捕集された潤滑剤がそれにより潤滑剤貯蔵装置(152)に戻される戻し通路(172)が設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の真空ポンプ(100)。
【請求項8】
戻し供給手段(174)が潤滑剤を軸受(150)から潤滑剤貯蔵装置(152)に供給することを特徴とする請求項7に記載の真空ポンプ(100)。
【請求項9】
前記ポンプ作用構造部分(140、142)がターボ分子構造タイプ(140)に従って形成されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の真空ポンプ(100)。
【請求項10】
前記ポンプ作用構造部分(140、142)が、軸(110)上に配置されている、羽根を設けたディスク(140)を含むことを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の真空ポンプ(100)。
【請求項11】
前記軸(110)が、軸受(150)とは反対側端部において永久磁気軸受(130)により回転可能に支持されていることを特徴とする請求項10に記載の真空ポンプ(100)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−247253(P2011−247253A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109231(P2011−109231)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(391043675)プファイファー・ヴァキューム・ゲーエムベーハー (44)
【Fターム(参考)】