説明

真空中重量管理を使用した電解液注入装置

【課題】真空環境下で注液速度と注液精度の双方を満足する真空中重量管理を使用した電解液注入装置を提供する。
【解決手段】注液工程を高速注液工程(101)と精密注液工程(102)に区分し、高速注液工程(101)では最高注液速度Aで注液し、受液重量が最終目標秤量Nに近い変曲点での目標秤量nに達したら次の精密注液工程(102)に移行する。精密注液工程(102)では、速度Aが最低注液速度X(<速度A)になるまでオーバシュートを引き起こさない範囲の速度差で段階的に減速し、受液重量が最終目標秤量Nに達したら速度Xを0に減速して注液を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池製造工程において高精度・高速度で所定量の電解液を電池電層内に注入する電解液注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の製造においては、電池容器に収められた積層体(シート状の電極とセパレータを交互に重ねた構造)の隙間に決められた量の電解液を均等に注入することが、電池特性や寿命の向上につながる。ところが高密度に積層された積層体の小さな隙間に電解液を浸透させるのは容易でなく、一度に注入できる電解液の量も僅かで、所定量の電解液を注入するのに長時間を要する。従って、高い製造品質と生産性に優れた電池を製造するためには高精度・高速度な注液技術が必要になる。
【0003】
そのため特許文献1には定量ポンプを用いて真空減圧下の容器に高精度・高速度で注液する方法が示されている。すなわち、図6に示すように、まず、第1のバルブ101を閉じ、第2及び第3のバルブ102、103を開放する。そして、大気雰囲気下に置かれた液体タンク104内にある液体を定量ポンプ105で一定量だけバッファータンク106に送液する。次に、第2及び第3のバルブ102、103を閉じてバッファータンク106を外界から遮断する。そして、第1のバルブ101を開放する。すると、バッファータンク106に閉じ込められた空気の圧力によりバッファータンク106内に貯められた液体が吐出部107を経由して減圧チャンバ108内にある容器109に注液される
【0004】
上記構成では、大気圧下で一度バッファータンク106へ注液し、その後、バッファータンク106内の液体を全て減圧チャンバ108内の容器109に注液する。そのため容器109への注液量は定量ポンプ105の吐出精度に正確に依存するから高い注液精度が得られる。しかしながら上記構成は定量ポンプによる容積計量である為、電解液に空気が混在している場合、注液精度に大きく影響を及ぼす。これを改善する為、容積計量ではなく重量管理で注液を行う。
【0005】
重量管理で注液を行なう際、注液を比較的高速な速度Aで行い、注液量が目標に達した時点で注液を停止すると、図7に示すように、急激な速度変化に追従できず、注液量が目標の注液量を通り越すオーバシュートを引き起こし、高精度での注液が困難になる。
【0006】
反対に注液を比較的低速な速度Xで行うと、図8に示すように、注液停止時の速度変化が小さく応答速度の追従性がよくなるので、指令と同時に注液が停止し、高精度での注液が可能になる。しかしながら、図9に示すように、注液開始直後から速度Xで注液する場合の注液時間TXが、注液開始直後から速度Aで注液する場合の注液時間TAに比べ、必要以上に長くなる。その結果、高速度での注液が困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−20001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は以上のような点であり、本発明は、真空環境下で注液速度と注液精度の双方を満足するため、注液速度可変なダイレクト注液を採用し併せて重量管理を行うようにした電解液注入装置を提供することを目的になされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのため本発明は、大気圧下に設置して電解液を注液する定量吐出ポンプと、真空圧下に設置して前記電解液を受液する電池容器と、前記定量吐出ポンプの注液停止時の引き込み負圧を阻止する負圧阻止手段と、前記電池容器の受液重量をリアルタイムで測定する重量測定手段と、測定した受液重量をフィードバックして前記定量吐出ポンプの注液速度を制御する注液速度制御手段とを備えて真空環境下でのダイレクト注液を可能にした構成において、前記電解液の注液工程を高速注液工程と精密注液工程に区分し、高速注液工程では最高注液速度Aで注液し、受液重量が最終目標秤量Nに近い変曲点での目標秤量nに達したら次の精密注液工程に移行し、精密注液工程では速度Aが最低注液速度X(<速度A)になるまで段階的に減速し、受液重量が最終目標秤量Nに達したら速度Xを0に減速して注液を停止することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、受液重量が最終目標秤量Nに近い変曲点での目標秤量nに達するまで最高注液速度Aで注液する。そのため注液の大部分が最高注液速度Aで行われ、高い注液速度でダイレクト注液が可能になる。また、目標秤量nに達したら速度Aが最低注液速度Xになるまで段階的に減速し、受液重量が最終目標秤量Nに達したら速度Xを0に減速して注液を停止する。そのため注液停止が最低注液速度Xで行われ、注液停止時の速度変化が小さく応答速度の追従性がよくなるので最後の液吹きを防止でき、高い注液精度でダイレクト注液が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を実施した電解液注入装置の構成図である。
【図2】本発明を実施した電解液注入処理のタイムチャートである。
【図3】図2の速度変化グラフである。
【図4】本発明を実施した電解液注入処理のフローチャートである。
【図5】減速時の指令速度と応答速度の関連を示す図である。
【図6】従来の定量液体注液装置のブロック図である。
【図7】速度Aで注液停止時の指令速度と応答速度の関連を示す図である。
【図8】速度Xで注液停止時の指令速度と応答速度の関連を示す図である。
【図9】速度Aの注液時間TAと速度Xの注液時間TXの比較グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1に、本発明を実施した電解液注入装置の構成図を示す。
電解液注入装置は、真空チャンバ1に定量吐出ポンプ2と真空ポンプ3を接続して真空引きした電池容器4内に電解液aをダイレクトに滴下する構成で、定量吐出ポンプ2は真空チャンバ1の前面扉5を貫通して注液管6を垂下し、注液管6の出口に負圧阻止手段としてのチェック弁7を設けて着脱可能にニードル8を取り付ける。ニードル8の先端は真空チャンバ1内に収容した電池容器4の開口部に臨ませる。
【0014】
電池容器4は、重量測定手段としての電子天びん9の上に載置して吐出した電解液aの重量を測定する。その際、真空度による浮力換算を行って真空中での重量を測定する。
真空ポンプ3は真空チャンバ1の側壁を貫通して吸気管10を接続し、吸気管10の途中に真空を開閉する開閉弁11を設ける。真空チャンバ1は、図示しない大気開放ポートを開いて大気開放し、前面扉5を閉じて密閉する。また、前面扉5を開いて中の電池容器4を出し入れする。前面扉5の開閉は手動・自動のいずれで行ってもよい。
【0015】
定量吐出ポンプ2は、中空のシリンジ12内に往復動可能なプランジャ13を挿嵌し、変換機14でモータ15の回転を直線運動に変換してプランジャ13を押し出し、シリンジ12内に採取した電解液aをmg単位の精度で定量吐出する。電解液aの注液速度は、単位時間当たり吐出量を設定して決定し、吐出量はプランジャ13の押し出し量を設定して決定する。
【0016】
モータ15と電子天びん9はコントローラ16を介してパソコン17に接続し、電子天びん9を用いて電池容器4の受液重量をリアルタイムで測定する。受液重量の測定結果はコントローラ16を介してモータ15にフィードバックし、プランジャ13の押し出し量を決定してパソコン17からの指令に従って定量吐出ポンプ2の注液速度を制御する。
【0017】
チェック弁7は、定量吐出ポンプ2の吐出圧力がクラッキング圧力(通しはじめの圧力)を超えると開弁し、定量吐出ポンプ2を停止すると吐出圧力が消滅して直ちに閉弁する。
そのため注液時以外は常に閉じた状態になり、注液を停止しても引き込み負圧がブロックされるので負圧の影響を受けることなく大気圧下と同じ精度で定量吐出が可能になる。
【0018】
図2に、本発明を実施した電解液注入処理のタイムチャートを示す。
タイムチャートは、注液工程を高速注液工程(101)と精密注液工程(102)に区分し、高速注液工程(101)では最高注液速度Aで注液し、受液重量が最終目標秤量Nに近い変曲点での目標秤量nに達したら次の精密注液工程(102)に移行する。精密注液工程(102)では、図3に示すように、速度Aが最低注液速度X(<速度A)になるまでオーバシュート・ハンチングを引き起こさない範囲の速度差で段階的に減速し、受液重量が最終目標秤量Nに達したら速度Xを0に減速して注液を停止する。
【0019】
このとき速度A=電解液aが電池容器4の積層体へ浸透する速度と同じ注液速度、速度X=指令に対する応答遅れがほとんどなく十分遅いため直ちに注液が停止できる注液速度とする。また、変曲点での目標秤量n=最終目標秤量N−精密注液工程における受液重量Wとし、可変要素である精密注液工程における受液重量Wはあらかじめ実測によって求める。
【0020】
精密注液工程における受液重量Wは、多めに設定すると変曲点での目標秤量nの値が低くなり、早めに注液速度の遅い精密注液工程(102)に移行するので全体の注液速度が低下する。反対に少なめに設定すると変曲点での目標秤量nの値が高くなり、速度Xになる前に受液重量が最終目標秤量Nに達してしまい、速度Xより高い注液速度で注液を停止することになるので注液停止時の速度変化が大きく、応答遅れが発生して注液精度が低下する。
【0021】
図4に、本発明を実施した電解液注入処理のフローチャートを示す。
フローチャートは、まず、注液開始速度をA、最終注液速度をXに設定する(201)。
次に、変曲点での目標秤量をn、最終目標秤量をNに設定する(202)。
その後、高速注液工程に入り、速度Aで注液を開始する(203)。
高速注液工程では、現在秤量(注液量)が目標秤量nに達したかどうか判定し(204)、達したら、精密注液工程1に移る。達してなかったら、203に戻って速度Aで注液を継続する。
【0022】
精密注液工程1では、まず、指令速度を所定の速度差で1段階減速する(205)。次に、減速後の指令速度が速度Xと等しくなったかどうか判定し(206)、等しくなったら、精密注液工程2に移る。等しくなってなければ、減速後の指令速度で注液を開始する(207)。
【0023】
減速後の指令速度による注液は、図5に示すように、実際の速度(応答速度)が目標の速度(指令速度)に追いつく(一致する)までの時間(応答遅れ時間)t1+追いついた(一致した)後の余裕分を含む一定時間t2をかけて行う。そのため次に、現在速度が減速後の指令速度に追いついた(一致した)かどうか判定し(208)、追いついて(一致して)いれば、次に、一定時間経過したかどうか判定する(209)。追いついて(一致して)なければ、207に戻って減速後の指令速度で注液を継続する。209において、一定時間経過していれば205に戻って更に指令速度を所定の速度差で1段階減速する。一定時間経過してなければ、207に戻って減速後の指令速度で注液を継続する。
【0024】
精密注液工程2では、まず、速度Xで注液を開始する(210)。次に、現在秤量(注液量)が最終目標秤量Nに達したかどうか判定し(211)、達したら、注液を停止する(212)。達してなかったら、210に戻って速度Xで注液を継続する。
【符号の説明】
【0025】
1 真空チャンバ
2 定量吐出ポンプ
3 真空ポンプ
4 電池容器
5 前面扉
6 注液管
7 チェック弁
8 ニードル
9 電子天びん
10 吸気管
11 開閉弁
12 シリンジ
13 プランジャ
14 変換機
15 モータ
16 コントローラ
17 パソコン
101 第1のバルブ
102 第2のバルブ
103 第3のバルブ
104 液体タンク
105 定量ポンプ
106 バッファータンク
107 吐出部
108 減圧チャンバ
109 容器
a 電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧下に設置して電解液を注液する定量吐出ポンプと、
真空圧下に設置して前記電解液を受液する電池容器と、
前記定量吐出ポンプの注液停止時の引き込み負圧を阻止する負圧阻止手段と、
前記電池容器の受液重量をリアルタイムで測定する重量測定手段と、
測定した受液重量をフィードバックして前記定量吐出ポンプの注液速度を制御する注液速度制御手段と、
を備えて真空環境下でのダイレクト注液を可能にした構成において、
前記電解液の注液工程を高速注液工程と精密注液工程に区分し、
高速注液工程では最高注液速度Aで注液し、
受液重量が最終目標秤量Nに近い変曲点での目標秤量nに達したら次の精密注液工程に移行し、
精密注液工程では速度Aが最低注液速度X(<速度A)になるまで段階的に減速し、
受液重量が最終目標秤量Nに達したら速度Xを0に減速して注液を停止することを特徴とする真空中重量管理を使用した電解液注入装置。
【請求項2】
前記速度Aを電解液が電池容器の積層体へ浸透する速度と同じ注液速度に設定したことを特徴とする請求項1記載の真空中重量管理を使用した電解液注入装置。
【請求項3】
前記速度Xを指令に対する応答遅れがほとんどなく十分遅いため直ちに注液が停止できる注液速度に設定したことを特徴とする請求項1記載の真空中重量管理を使用した電解液注入装置。
【請求項4】
前記精密注液工程においてはオーバシュート・ハンチングを引き起こさない範囲の速度差で段階的に減速することを特徴とする請求項1記載の真空中重量管理を使用した電解液注入装置。
【請求項5】
前記変曲点での目標秤量nは最終目標秤量Nから精密注液工程における受液重量Wを差し引いたものであり、受液重量Wはあらかじめ実測によって求めたものであることを特徴とする請求項1記載の真空中重量管理を使用した電解液注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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