説明

真空乾燥装置

【目的】 効率良くかつ均等に被乾燥物を加熱することにより、乾燥効率を高めた真空乾燥装置。
【構成】 内部を気密可能とする槽10と、槽内を排気する排気手段43と、槽内を加熱する加熱手段21と、被乾燥物50を収容すると共に槽内に回転可能に設置される回転体24を具備した遠心脱水機構25とを有した真空乾燥装置において、回転体24に攪拌翼26が配設されていることを特徴とする。
【効果】 遠心脱水時に、被乾燥物の近傍から槽内に気流を生じさせて槽内を攪拌することで、被乾燥物に隈無く熱風が当たり、被乾燥物が均等に加熱され、脱水効率が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、洗浄後の精密電子部品、金属部品、プラスチック成形部品等を乾燥させるための真空乾燥装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、精密電子部品、金属部品、プラスチック成形部品等の洗浄にフロン−113や1,1,1−トリクロロエタン等の洗浄剤が使用されていたが、近年、オゾン層破壊や人体への影響の問題により、上記洗浄剤の使用が制限され、代替洗浄剤による洗浄に移行しつつある。代替洗浄剤としては、水系、アルコール系あるいは炭化水素系のものが使用されているが、特に水系洗浄剤にあっては、気化し易いフロン−113や1,1,1−トリクロロエタンと違って、純水または市水によるすすぎ工程が必要であるため、その後の乾燥工程に時間がかかるという問題があった。
【0003】乾燥工程において使用される乾燥装置として、真空乾燥装置がしばし用いられている。中でも、乾燥工程の時間を短縮するために、水分の付着を極力少なくする目的で、被乾燥物の加熱手段と、遠心脱水機構を有した真空乾燥装置が開発されている。
【0004】この種の真空乾燥装置の例として図4に示すようなものがある。この真空乾燥装置は、槽10と、ヒータ20と、遠心脱水機構30と、真空ポンプ40から概略構成されている。槽10は、被乾燥物を収容する金網等でできたバスケット部材34を内部に設置する槽本体11と、開閉自在の密閉蓋12とからなり、この槽10内にはこれら槽本体11と密閉蓋12とによって空間部17が形成される。槽本体11の底部11aには、水分を槽10の外部へ排出するための排水管13が接続されており、この排水管13には排水バルブ14が設けられている。槽本体11には、槽内にリークガスを供給するためのリーク管15が接続されており、このリーク管15にはリークバルブ16が設けられている。ヒータ20は、槽内を加熱するもので、例えば槽10内に収容されるバスケット部材34の上方に設けられている。
【0005】遠心脱水機構30は、槽10の外部にある駆動モータ31と、駆動モータ31により回転する回転軸32と、この回転軸32と接続された槽10内にある回転体35とで構成されており、回転体35はターンテーブル33と、水分が付着した被乾燥物を入れるためのバスケット部材34から構成されている。この遠心脱水機構30においては、駆動モータ31を駆動させると回転軸32が回転し、この回転軸32と一緒にターンテーブル33も回動するようになっているので、ターンテーブル33上にバスケット部材34を固定しておくと、このバスケット部材34も回転することになる。上記真空ポンプ40は、槽内の気体を排気するためのものであり、この真空ポンプ40と槽本体11とは排気管41で接続されている。この排気管41には排気バルブ42が設けられている。
【0006】このような真空乾燥装置を用いて被乾燥物に付着した水分を乾燥させるには、まず、密閉蓋12、排水バルブ14、リークバルブ16、排気バルブ42を閉にして槽10内を気密にしておく。次いで、ヒータ20で槽10内の空間部17を加熱する。次いで、密閉蓋12を開け、水分が付着した被乾燥物50が入れられたバスケット部材34をターンテーブル33上に固定する。次いで、密閉蓋12を閉め、排水バルブ14を開にした後、駆動モータ31を駆動し、バスケット部材34を回転させて遠心脱水する。ここで脱水された水分は排水として排水管13より外部へ排水される。この後、排水バルブ14を閉じると共に、排気バルブ42を開放し、真空ポンプ40を作動させ、槽10内の気体を排気管41から排気して空間部10を高真空状態にし、被乾燥物50に付着している残留水分を蒸発、乾燥させる。尚、水分の蒸発は、放射熱よりも主として被乾燥物の熱容量が利用され、乾燥と共に被乾燥物の温度は低下する。その後、排気バルブ42を閉にすると共に、リークバルブ16を開にし、大気をリーク管15から槽10内に導入することによって高真空状態を破り、密閉蓋12を開け、被乾燥物50をバスケット部材34ごと取り出す。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の真空乾燥装置にあっては、遠心脱水を行なっても、部分的に脱水されない箇所が生じる場合があった。その為、被乾燥物50に付着した水分を満遍なく乾燥させるためには真空引きを長時間行わねばならない場合があり、乾燥工程の時間短縮という目的を必ずしも達成することはできなかった。また、遠心脱水することで被乾燥物がバスケット中で偏ったりすると、被乾燥物の内側に入り込んでしまった部分には熱が伝わりにくく、やはり十分に乾燥させることが困難であった。さらにまた、遠心脱水による脱水効果を高めようと、回転速度を高めると、被乾燥物が損傷してしまうことがあった。
【0008】本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、熱を効率良くかつ均等に被乾燥物に供給することにより、乾燥効率を高めた真空乾燥装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の真空乾燥装置は、内部を気密可能とする槽と、その槽内を排気する排気手段と、槽内を加熱する加熱手段と、被乾燥物を収容すると共に槽内に回転可能に設置される回転体を具備した遠心脱水機構とを有した真空乾燥装置において、回転体に攪拌翼が配設されていることを特徴とするものである。
【0010】この際、回転体が、ターンテーブルと、それに載置されたバスケット部材より構成されることが好ましい。
【0011】請求項3記載の真空乾燥装置は、ターンテーブルが、底板を有し、その底板に攪拌翼が配設されてなることを特徴とするものである。
【0012】請求項4記載の真空乾燥装置は、ターンテーブルが、環状の周壁と、その周壁の中央部からその周壁に向けて放射状に設けられた攪拌翼を有して構成されることを特徴とするものである。
【0013】
【作用】本発明の真空乾燥装置であると、遠心脱水時に回転体の回転に伴って、攪拌翼も回転し、この回転する攪拌翼が槽内に気流を発生させ、槽内を攪拌するもので、被乾燥物の隅々にまでに熱風が伝わるので、被乾燥物が満遍なく加熱される。したがって、脱水効率が向上し、乾燥工程の時間短縮を図ることができる。また、攪拌翼によって強制的に被乾燥物に熱風を当てるものであるから、被乾燥物が複雑な形状をしていたとしても、また被乾燥物が偏ってしまっても隅々まで加熱することができ、脱水効率を向上することができる。
【0014】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。図1は、本発明の真空乾燥装置の一実施例を示すもので、内部空間を気密可能とする槽19と、その槽19内を排気する排気手段43と、槽19内を加熱する加熱手段21と、槽19内に回転可能に設置される回転体24を具備した遠心脱水機構25とを有して概略構成される。槽19は槽本体18と槽本体18上に載置される蓋12とからなり、内部を気密可能とする。排気手段43は、気密に保たれた槽19内を排気し、槽19内を真空にするもので、真空ポンプ40と、槽内と真空ポンプ40を接続する排気管41と、排気管41に設けられた排気バルブ42とで概略構成される。加熱手段21は、槽19内を加熱するもので、電熱線などの各種ヒータが用いられる。尚、この例では、加熱手段21は槽本体18自体の内部に埋設されているが、槽19内を加熱できるならばこれに限られず、例えば槽19内であって回転体24上方に配置してもかまわない。しかし、図示したように、槽本体18内に設けることによって、被乾燥物を周囲から均等に加熱することができ、より好ましくなる。尚、この構成のときには、槽本体18の内壁面を、ヒータ21により効率よく熱せられるようにするため、熱伝導率が大きい材料で構成することが好ましく、また、加熱効率を高めるために、ヒータ21が取り付られた槽本体18の外側部には保温材を設けることが望ましい。遠心脱水機構25は、回転体24と、回転体24を回転させる駆動力を発生する駆動モータ31と、駆動モータ31の回転力を回転体24に伝達する回転軸32とで概略構成される。回転体24はターンテーブル23と、被乾燥物を収容するバスケット部材22とから構成されている。
【0015】本実施例の真空乾燥装置においては、ターンテーブル23の底板29に複数の攪拌翼26,26,・・・が設けられている。この例では図2に示すように、攪拌翼26は、ターンテーブル23に取り付けられる台座28と、その台座28に立設した翼部27とで構成されており、ターンテーブル23が回転することにより、槽19内に気流を発生させて槽19内の気体を攪拌する作用がある。尚、本実施例では攪拌翼26は図2に示すように、台座28と翼部27とで構成したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ターンテーブルの回転によって槽19内を攪拌し得るものであればどのようなものでも良いことは明らかである。また、攪拌翼26の数は4つに限られるものでもなく、槽19内を効率良く攪拌し得るならば、1つであっても、又は2もしくは3又は5以上であってもかまわない。
【0016】本実施例の真空乾燥装置を用いて被乾燥物を乾燥させるには、まず、蓋12、排水バルブ14、リークバルブ16、排気バルブ42をそれぞれ閉にして槽19内を気密にしておく。次いで、ヒータ21に電源を供給し、槽本体18の内壁面を100℃以上、好ましくは100〜300℃に加熱する。十分に加熱されたところで、蓋12を開け、被乾燥物50を収容したバスケット部材22を速やかにターンテーブル23上に設置、固定し、蓋12を閉める。そして、駆動モータ31を駆動させて回転体24を回転させ、被乾燥物50を遠心脱水する。被乾燥物50から脱水された水分は槽本体18の内壁面に衝突し、加熱されて蒸発し、加熱水蒸気となって槽19内に充満する。そして、この高温の加熱水蒸気が被乾燥物50をさらに加熱することになる。また、本実施例の乾燥装置であると、回転体24と共に回転する攪拌翼26,26,・・・により、槽19内が攪拌され、被乾燥物50に均等にかつ細部にまで加熱水蒸気ないし加熱空気がいき渡り、脱水が十分になされる。この後、排気バルブ42を開にし、真空ポンプ40を作動させ、槽19内に充満している気体を排気管41から排気して槽19内を高真空状態にし、被乾燥物50に付着している残留水分を蒸発、乾燥させる。最後に、排気バルブ42を閉にすると共に、リークバルブ16を開にし、リークガスを槽19内に導入し、蓋12を開放して乾燥物を取り出す。尚、被乾燥物が錆び易い金属の場合には、リークガスとして、窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスを用いることによって、被乾燥物の酸化を防止し、錆を防ぐことができる。
【0017】本実施例の真空乾燥装置であると、遠心脱水時に、回転体24の回転と共に攪拌翼26によって槽19内に気流が生じ、槽19内が攪拌される。よって被乾燥物の隅々にまで均等に熱風が当たり、被乾燥物の温度が上昇し、脱水効率が向上し、乾燥処理が十分になされ、また乾燥工程の時間短縮を図ることもできる。特に、被乾燥物が複雑な形状を有していたり、遠心脱水によって偏ってしまっていても、被乾燥物に攪拌翼による熱風が当たり、被乾燥物を加熱することができる。また、脱水効率が高いことから、必要以上に遠心脱水時の回転速度を高めなくて良く、被乾燥物の損傷を防止できる。
【0018】尚、上記実施例においては、攪拌翼26を回転体24のターンテーブル23に設けたが、攪拌翼26はターンテーブル23以外でも、たとえばバスケット部材22に設けても良い。また、槽内を攪拌することだけを目的とするならば、回転体とは独立して別個に槽内を攪拌し得る攪拌翼を設けることも考えられるが、その場合にはまたあらたな駆動モータ等を設けなければならない。しかしながら、本発明であれば、遠心脱水機構の駆動力を利用するもので、あらたな駆動源を必要とせず、構造が複雑化せず、また小型化を図ることもでき、さらには、被乾燥物の極近傍から攪拌することができるので、攪拌効率も高い。
【0019】また、ターンテーブルを例えば図3に示すようなものとすることもできる。図3に示されているターンテーブル36は、周壁37と、周壁37の中央部に位置する回転軸32から周壁37の内面38に向けて放射状に設けられて、これらを結合する攪拌翼39,39,・・・とで概略構成されるもので、図2に示すターンテーブル23と異なり、底板29を有さない。この構成のターンテーブル36であっても、回転することによって攪拌翼39により槽内が攪拌されて、上述したターンテーブル23を具備する真空乾燥装置と同様の作用効果を奏するに加えて、風量がより増大し、脱水効率が向上すると共に、底板を有さないことから、ターンテーブルの軽量化を図ることができ、運転コストが低減する。また、被乾燥物から脱水された水がターンテーブル上に溜まることがないことからも、さらに脱水効率が向上する。
【0020】(試験例)図1と同様の真空乾燥装置を用意し、上記実施例で説明した乾燥方法に従って、被乾燥物として複数個の円柱体を用いて真空乾燥を行い、操作後における被乾燥物の乾燥状態を観察した。尚、真空乾燥装置は、その内径が406.4mm、高さが415mmのものとし、他の条件は次の通りとした。
■ 被乾燥物 :φ1.6×3.2L、4kg(絶乾:25℃)
■ 付着水分量 :0.2kg■ 設定加熱温度 :200℃■ 回転体の回転数:500rpm■ 遠心脱水時間 :1分間■ 真空排気時間 :2分間その結果、全ての被乾燥物に水分の付着がなく、十分に乾燥していた。尚、被乾燥物の遠心脱水後の温度は、約80℃まで上昇していた。
【0021】(比較試験例)ターンテーブルに攪拌翼を設けていないこと以外は同様の真空乾燥装置を用いて、上記試験と同様の試験を行なった。その結果、被乾燥物の乾燥は不十分であり、むらがあった。また、被乾燥物の遠心脱水後の温度は、約60℃であり、攪拌翼を設けた上記本実施例の真空乾燥装置に比べて被乾燥物の温度上昇が小さいことが分かった。
【0022】
【発明の効果】本発明の真空乾燥装置は、内部を気密可能な槽と、その槽内を排気する排気手段と、槽内を加熱する加熱手段と、被乾燥物を収容すると共に前記槽内に回転可能に設置される回転体を具備した遠心脱水機構とを有した真空乾燥装置において、回転体に攪拌翼が設けられているもので、遠心脱水時に、被乾燥物の極近傍から槽内に気流が生じて槽内が攪拌され、被乾燥物に隈無く熱風が当たり、被乾燥物が均等に加熱されるので、脱水効率が高まり、もって乾燥効率が高くなる。したがって、本発明の真空乾燥装置であれば、乾燥させにくい形状を有するものであっても、短時間で十分に乾燥させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の真空乾燥装置の一実施例を示した側断面図である。
【図2】本実施例のターンテーブルの斜視図である。
【図3】ターンテーブルの他の実施例の斜視図である。
【図4】従来の真空乾燥装置の例を示した側断面図である。
【符号の説明】
10 槽
19 槽
21 加熱手段
22 バスケット部材
24 回転体
25 遠心脱水機構
26 攪拌翼
34 バスケット部材
43 排気手段
50 被乾燥物

【特許請求の範囲】
【請求項1】 内部を気密可能とする槽と、該槽内を排気する排気手段と、槽内を加熱する加熱手段と、被乾燥物を収容すると共に前記槽内に回転可能に設置される回転体を具備した遠心脱水機構とを有した真空乾燥装置において、前記回転体に攪拌翼が配設されていることを特徴とする真空乾燥装置。
【請求項2】 前記回転体が、ターンテーブルと、それに載置されたバスケット部材よりなることを特徴とする請求項1記載の真空乾燥装置。
【請求項3】 前記ターンテーブルが、底板を有し、該底板に攪拌翼が配設されてなることを特徴とする請求項2記載の真空乾燥装置。
【請求項4】 前記ターンテーブルが、周壁と、該周壁の中央部から周壁に向けて放射状に設けられた攪拌翼を有して構成されることを特徴とする請求項2記載の真空乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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