説明

真空成形体の製造方法、ドローダウン防止方法、及び真空成形用シート

【課題】 熱可塑性樹脂シートの真空成形時におけるドローダウンを防止することにあり、多数個取りであっても歩留まり低下の少ない均一な性状の成形物(真空成形体)を得る方法を提供することにある。
【解決手段】 少なくとも2個の成形を同時に行う真空成形体の製造方法であって、(1)熱可塑性樹脂シートと、該熱可塑性樹脂シート上に成形時に隣り合う基材の境界に位置するような赤外線反射材を設置する工程、又は、成形時に隣り合う基材の境界に位置するように赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シートを設置する工程と、(2)前記熱可塑性樹脂シートに赤外線照射する工程と、(3)前記熱可塑性樹脂シートを真空成形する工程とをこの順に有する真空成形体の製造方法、及びドローダウン防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂シートを使用した真空成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂シートの真空成形時におけるドローダウン(垂下)は、成形物の皺や破れの原因となることや、真空成形同時加飾法(加飾を目的としたシート(加飾シート)を熱成形により三次元形状に成形すると同時に被着体に貼り付けて一体化する方法)における柄位置ずれの原因となったりもする。特に、複数の基材を型あるいは被着体として使用し複数の成形を同時に行ういわゆる多数個取りにおいては、使用する熱可塑性樹脂シートに極度のドローダウンが発生する(図1、2参照)と、シート中央とシート端とのシート展開率が異なるために、シート中央に位置する成形物とシート端に位置する成形物とで物性値や柄に差がでてしまい、歩留まり低下の原因となることがあった。
【0003】
従来、このようなドローダウンに関しては、シート自体の樹脂組成を適宜調整することで制御がなされてきた(例えば特許文献1、2参照)。しかしながらシート自体の樹脂組成を調整する方法は、シート単価や外観、物性等に直接影響することであり、汎用的な方法ではない。
ドローダウンを装置で制御する方法として、特許文献3には、被加熱シートを位置決めする位置決め手段と、上記被加熱シートにおける軟化が必要な部位の周囲を遮蔽して熱遮断を行う熱遮断手段と、上記被加熱シートのシート面を加熱して軟化部位を型成形する熱成形手段とを具備する真空成形装置が記載されている。
【0004】
しかしながら特許文献3に記載の方法は、多数個取りにおける寸法の大きいシートにおいてはドローダウンを完全に制御できるものではない。また、ドローダウンを下方から支持する耐熱性シートを成形の都度交換するといったことや、該耐熱性シートや遮蔽板等をクランプで挟み込む作業が必要となり操作が煩雑であるといった問題がある。また本方法は、基材側に粘接着剤層を有する粘接着剤付きシートを使用した熱成形には使用できないと言った問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−126478号公報
【特許文献2】特開2008−13753号公報
【特許文献3】特開2001−138390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、熱可塑性樹脂シートの真空成形時におけるドローダウンを防止することにあり、多数個取りであっても歩留まり低下の少ない均一な性状の成形物(真空成形体)を得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、熱可塑性樹脂シート上に予め、
成形時に隣り合う基材の境界に位置するような赤外線反射材を設置するか、あるいは熱可塑性樹脂シート自体に、成形時に隣り合う基材の境界に位置するように赤外線反射インキで描いた線を描き、この状態で、真空成形用チャンバー内に設置し、該熱可塑性樹脂シートに赤外線照射して可塑化した後、真空成形することで、課題を解決した。
【0008】
即ち本発明は、少なくとも2個の成形を同時に行う真空成形体の製造方法であって、
(1)熱可塑性樹脂シートと、該熱可塑性樹脂シート上に成形時に隣り合う基材の境界に位置するような赤外線反射材を設置する工程、又は、
成形時に隣り合う基材の境界に位置するように赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シートを設置する工程と、
(2)前記熱可塑性樹脂シートに赤外線照射する工程と
(3)前記熱可塑性樹脂シートを真空成形する工程
とをこの順に有する真空成形体の製造方法を提供する。
【0009】
また本発明は、少なくとも2個の成形を同時に行う真空成形時におけるドローダウン防止方法であって、
(1)熱可塑性樹脂シートと、該熱可塑性樹脂シート上に成形時に隣り合う基材の境界に位置するような赤外線反射材を設置する工程、又は、
成形時に隣り合う基材の境界に位置するように赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シートを設置する工程と、
(2)前記熱可塑性樹脂シートに赤外線照射する工程と
(3)前記熱可塑性樹脂シートを真空成形する工程
とをこの順に有するドローダウン防止方法を提供する。
【0010】
また本発明は、少なくとも2個の成形を同時に行う真空成形法に使用する真空成形用シートであって、熱可塑性樹脂シート上に、成形時に隣り合う基材の境界に位置するような赤外線反射インキで描いた線を有する真空成形用シートを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、熱可塑性樹脂シートの真空成形時におけるドローダウンを防止することができ、多数個取りであっても歩留まり低下の少ない均一な性状の成形物(真空成形体)を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(用語について)
本発明において「真空成形」とは、熱源として赤外線輻射ヒーターを有し、真空を利用して熱可塑性樹脂シートを3次元形状に成形する方法であれば特に限定はない。例えば、ストレート成形、ドレープ成形、プラグアシスト成形等の真空成形機内に金型を設置し、前記熱可塑性樹脂シートを金型を使用して成形する真空成形方法、成形材料の上部から圧縮空気を吹き込んでアシストするようにした圧空真空成形機等を使用した方法や、前記熱可塑性樹脂シートを加飾シートとして、真空成形により三次元形状に成形すると同時に被着体に貼り付けて一体化する、真空成形同時加飾法等が挙げられる。
また本発明において「基材」とは、前者の方法であれば金型等の型を、後者の方法であれば被着体を示す。
また本発明において、「少なくとも2個の成形を同時に行う」とはいわゆる多数個取りを指す。
また本発明において「ドローダウン」とは、クランプ枠で保持された熱可塑性樹脂の成形時の加熱軟化(可塑化)に伴うたわみ変形(垂下)をさす。通常はシート重みに従い下方に垂れるが、完全真空状態で行う真空成形機内では、上方に膨らむ場合もある。
【0013】
(熱可塑性樹脂シート)
本発明で使用する熱可塑性樹脂シートは、特に限定はなく、通常真空成形に使用される熱可塑性樹脂シートであれば何でも使用できる。また、単層または多層フィルムであって顔料もしくは染料等の着色剤を含有しても良い。
具体的には、真空成形等の熱による成形工程を行なうため、軟化点が30〜300℃の範囲にある熱可塑性樹脂を主体とするシートであり、好ましい軟化点は50〜250℃の範囲である。
前記熱可塑性樹脂の例を挙げれば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレートやポリエチルメタクリレート等のアクリル樹脂、アイオノマー樹脂、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン樹脂、メチルメタクリレート−スチレン樹脂、ポリアクリロニトリル、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド樹脂、エチレン−酢酸ビニル、エチレン−アクリル酸樹脂、エチレン−エチルアクリレート樹脂、エチレン−ビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン等の塩素樹脂、ポリフッ化ビニルやポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状ポリオレフィン、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、メチルペンテン樹脂、セルロース系樹脂等が好ましく用いられる。これらの熱可塑性樹脂の中でも熱成形性及び金属調意匠の発現性に優れることからアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびポリオレフィン樹脂の群から選択される少なくとも1種を主成分とするシートが好ましい。
またシートの透明性を損なわない範囲でこれらのブレンド物やポリマーアロイを使用することができる。またこれらは単層、多層で使用しても良い。
また、これらの熱可塑性樹脂シートはゴム変性体としても良い。ゴム変性体とする方法については特に限定はないが、各樹脂の重合時にブタジエン等のゴム成分モノマーを添加して共重合する方法、及び、各樹脂と合成ゴム、もしくは熱可塑性エラストマーとを熱溶融ブレンドする方法が挙げられる。
【0014】
熱可塑性樹脂シートの製造方法は特に限定されず、定法によりシート化すれば良く、更に熱成形時の展延性を阻害しない範囲で一軸もしくは二軸方向に延伸処理を施しても良い。
【0015】
また、これらの熱可塑性樹脂シートには成形性が阻害されない範囲で慣用の添加剤を添加してもよく、例えば、可塑剤、耐光性添加剤(紫外線吸収剤、安定剤等)、酸化防止剤、オゾン化防止剤、活性剤、耐電防止剤、滑剤、耐摩擦剤、表面調節剤(レベリング剤、消泡剤、ブロッキング防止剤等)、防カビ剤、抗菌剤、分散剤、難燃剤及び加流促進剤や加流促進助剤等の添加剤を配合してもよい。これら添加剤は単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。
熱可塑性樹脂シートの厚みは特に制限は無いが、30μm〜400μm程度の膜厚のシートが好ましく使用される。
【0016】
(赤外線反射材)
本発明の製造方法の具体的態様の一例を図3に示す。
また本発明の製造方法における(1)熱可塑性樹脂シートと、該熱可塑性樹脂シート上に成形時に隣り合う基材の境界に位置するような赤外線反射材を設置する工程(以下工程(1−1)と称す)で使用する、赤外線反射材の具体的態様の一例を図5及び6に示す。
【0017】
赤外線反射材は、成形時に隣り合う基材の境界部分の赤外線をカットすることで、該境界部分シートの加熱軟化(可塑化)を遅らせる。赤外線が照射されるシート面積を基材面積に適した大きさに区切ることにより、極度のドローダウンを防止することができる。(図3参照)
具体的には、熱可塑性樹脂シートと、該熱可塑性樹脂シート上に成形時に隣り合う基材の境界に位置するような赤外線反射材を設置した状態で赤外線を輻射すると、前記ヒーターと前記シートとの間に赤外線反射材がないシート部位(以下部位Aと称す)は赤外線が直接輻射されるために可塑化が生じるが、前記ヒーターと前記シートとの間に上に赤外線反射材があるシート部位(以下部位B)は赤外線が直接輻射されないので部位Aよりも熱が加わらず、可塑化が遅れる。即ち、部位Aが成形可能な状態に可塑化された状態であっても部位Bは可塑化が遅れているので、硬く、可塑化された部位Aを保持できるだけの強度を有している(図4参照)。その結果、シートのいずれの部位も極度のドローダウンは生じないので、シート中央とシート端とのシート展開率が異なることもなく、シート中央に位置する成形物とシート端に位置する成形物とで物性値や柄に差がでることもなく、歩留まり低下を抑えることができる。また部位Bは成形時に隣り合う基材の境界に位置するため、成形体に影響を与えることはない。
【0018】
赤外線反射材は、成形時に隣り合う基材の境界に位置するように設置することから、板状あるいはリボン状のある程度の幅を有する細長い形状を有するものであれば、硬さや厚み等には特に限定なく使用できる。真空成形機の大きさや使用するシートの大きさ、基材の数や取り数にもよるが、20mm以上の幅を有するものが、効果がより得られ好ましい。また長さとしては、例えばシートを枠状クランプで保持するのであれば、該クランプ枠の辺と同程度かそれ以上の長さ、部分クランプで保持するのであれば、各クランプ間の距離と同程度かそれ以上の長さであればよい。(図5、6参照)
【0019】
赤外線反射材の素材は、耐熱性を有し且つ赤外線を反射するものであれば特に限定はない。具体的にはアルミニウム、金、銀、銅、真鍮、チタン、クロム、ニッケル、ニッケルクロム、ステンレス等の金属やFe−Cr系複合酸化物、三酸化アンチモン、ジクロム酸アンチモン等を素材とする箔や板等が挙げられる。但し厚みのある金属板の場合には、熱伝導性の良いものは赤外線を反射する率よりも輻射熱を吸収してシートに余分な熱を加える恐れがあるので、あまり熱伝導性のよいものはさけたほうがよい。
【0020】
真空成形機に熱可塑性樹脂シートを設置する際には、クランプを使用する。具体的には、シートの一部分を固定する方法やシートの全周囲を枠状クランプで固定する方法等が挙げられるが、熱可塑性樹脂シートの張力を適正化(均一化)することができるためシートの全周囲を枠状クランプでクランプする方法が好ましい。
前記工程(1)において、熱可塑性樹脂シートと、該熱可塑性樹脂シート上に成形時に隣り合う基材の境界に位置するような赤外線反射材を設置する場合には、前記赤外線反射材の端部を前記シートと共にクランプする方法や、端部を枠の内側に固定する方法等が挙げられる。
【0021】
(赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シート)
本発明の製造方法における(1)赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シート(以下工程(1−2)と称す)において、赤外線反射インキとは、赤外線反射物質を含有するインキであり、照射された赤外線を反射する。
赤外線反射インキが含有する赤外線反射物質は、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、真鍮、チタン、クロム、ニッケル、ニッケルクロム、ステンレス等の金属やFe−Cr系複合酸化物、三酸化アンチモン、ジクロム酸アンチモン等が挙げられる。具体的には、市販されている金属箔等を使用したメタリックインキ等を好適に使用することができる。また、金属箔等を使用したメタリックカラーを呈する油性ペン等も使用可能である。
【0022】
前記熱可塑性樹脂シートに赤外線反射インキで絵柄を設ける方法は、手描きやコーティング、印刷等が挙げられるが、工業的には印刷が好ましい。方法については特に限定はなく、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、刷毛塗り、ロールコーティング、コンマコーティング、ロッドグラビアコーティング、マイクログラビアコーティングなどの方法が挙げられる。中でもグラビア印刷法が好ましい。
【0023】
前記赤外線反射インキで描いた線の太さや長さは、前記赤外線反射材と同様に、幅は20mm以上であり、また長さとしては、例えばシートを枠状クランプで保持するのであれば、該クランプ枠の辺と同程度かそれ以上の長さ、部分クランプで保持するのであれば、各クランプ間の距離と同程度かそれ以上の長さであればよい。(図4、5に準じる)
【0024】
前記赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シートにおいて、赤外線反射インキで描いた線は、前述の工程(1−1)における赤外線反射材と同様の役割をする。即ち、赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シートを設置して(設置方法は前述と同様でよい)赤外線を輻射すると、赤外線反射インキで描いた線を有さないシート部位(以下部位A’と称す)は赤外線が直接輻射されるために可塑化が生じるが、赤外線反射インキで描いた線を有するシート部位(以下部位B’)は赤外線が直接輻射されないので部位A’よりも熱が加わらず、可塑化が遅れる。即ち、部位A’が成形可能な状態に可塑化された状態であっても部位B’は可塑化が遅れているので、硬く、可塑化された部位A’を保持できるだけの強度を有している。その結果、シートのいずれの部位も極度のドローダウンは生じないので、シート中央とシート端とのシート展開率が異なることもなく、シート中央に位置する成形物とシート端に位置する成形物とで物性値や柄に差がでることもなく、歩留まり低下を抑えることができる。また部位B’は成形時に隣り合う基材の境界に位置するため、成形体に影響を与えることはない。
【0025】
(その他の任意の層 接着層)
また、前記熱可塑性樹脂シートは、必要に応じて他の層を有していても良い。例えば真空成形同時加飾法においては、被着体との接着性を高める意味で、可塑性を示す樹脂層からなる接着剤や粘着剤等の接着層を有していてもよい。また、高い温度で可塑性を示す架橋型の樹脂層であっても真空成形できるようなら有していて構わない。このような観点から、耐摩擦性、耐摩傷性、耐候性、耐汚染性、耐水性、耐薬品性、耐熱性等の特性を付与する目的で、延展性を妨げない程度に一部架橋してなる表面保護層を有していても良い。架橋形態は特に限定はなく、イソシアネートと水酸基との熱硬化反応、エポキシ基と水酸基との熱硬化反応、(メタ)アクリロイル基のラジカル重合反応を利用したUVあるいは熱硬化反応、シラノール基や加水分解性シリル基の加水分解縮合反応等既存の反応を利用すればよいが、イソシアネートと水酸基との熱硬化反応が熱成形時にかかる熱を利用して架橋反応を促進することができるため好ましい。
【0026】
本発明の製造方法において、以下、(2)前記熱可塑性樹脂シートに赤外線照射する工程(以下工程(2)と称す)と
(3)前記熱可塑性樹脂シートを真空成形する工程(以下工程(3)と称す)
とは、通常の真空成形時における工程と同様である。
【0027】
前記工程(2)で使用する赤外線輻射ヒーターは、赤色から近赤外、赤外レーザー光の波長域であれば特に限定はなく使用できる。多くの場合、真空成形法、圧空真空成形法等に用いる既存の熱成形機には、加熱手段として赤外線照射装置が設置あるいは外付けできるようになっているので、これを利用することが好ましい。具体的には、遠赤外から近赤外の領域に強い波長ピークをもつハロゲンヒーター、短波長ヒーター、カーボンヒーター、中赤外線ヒーター、遠赤外線ヒーター等が挙げられる。
【0028】
その後、工程(3)で真空成形する。真空成形方法は、使用する真空成形機に準じた方法で行う。
【0029】
(基材)
金型や被着体等の基材の形状は、特に限定はなく、所望の形状で真空成形が可能である。だが、あまり大きな基材よりは、小さな基材を使用する多数個取りの真空成形に本発明の方法は適している。
【0030】
真空成形後はトリミングすることで、各々の成形体を得ることができる。トリミング加工方法についても特に限定はなく、はさみやカッター等でカットする方法、ダイカット法、レーザーカット法、ウォータージェット法、抜き刃プレス法により加工することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により説明する。特に断わりのない限り「部」、「%」は質量基準である。
【0032】
(熱可塑性樹脂シート)
熱可塑性樹脂シートとしては、以下のシートを使用した。
・東洋紡績株式会社製PETシート「ソフトシャインX1130」(膜厚125μm)
・東洋紡績株式会社製PETシート「ソフトシャインX1130」(膜厚188μm)
・サンビック株式会社製PPシート「PP39LMS2−30R黒」(膜厚300μm)
【0033】
(赤外線反射材)
赤外線反射材は以下の素材を使用した。
・アルミニウム箔(膜厚20μm)
【0034】
(赤外線反射インキ:ペン)
赤外線反射インキ(ペン)は以下のインキを使用した。
・三菱鉛筆株式会社製「ペイントマーカー銀色」 赤外線反射インキとして使用。
・三菱鉛筆株式会社製「ペイントマーカー青色」 色インキとして使用。
【0035】
(赤外線反射インキ:光輝性インキ(A))
赤外線反射インキ「光輝性インキ(A)」は以下を混合、使用した。
・Ciba製 「METASHEEEN 71−0010」37部
・DIC株式会社製「XS−756 BKN メジュームB」63部
【0036】
(赤外線反射インキ印刷方法)
前記熱可塑性樹脂シートに、前記インキを使用して、手描きにて、該熱可塑性樹脂シート上に成形時に隣り合う基材の境界に位置するような直線を描いた。
【0037】
(実施例1) 成形時に隣り合う基材の境界に位置するように赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シートを設置した例
布施真空株式会社製真空成形機「NGF−0709型(赤外線ヒーターはシート上方から照射する)」を使用し、真空成形を行った。
赤外線反射インキ「ペイントマーカー銀色」を使用し、熱可塑性樹脂シートである東洋紡績株式会社製PETシート「ソフトシャインX1130」(膜厚125μm 縦700mm×横950mmの長方形シート)のシート面に、長方形の長辺を均等に2分するように、短辺に平行な幅20mmの線を描いた。
前記線を描いた面が赤外線ヒーター側となるように、前記熱可塑性樹脂シートの周囲を完全にクランプして設置した。
線で区切られた前記シート(部位A’)の下に位置する様に可動テーブルに基材を設置し、真空成形機の上下ボックスを閉じ、ボックス内をほぼ完全真空状態にした後、赤外線ヒーターとしてヘリウス社製中赤外線ヒーターを使用し前記熱可塑性樹脂シートを間接加熱し、前記熱可塑性樹脂シートの部位Aの表面温度が放射温度計測定値で194℃になるまで上昇させた。(赤外線ヒーターと熱可塑性樹脂シートとの距離は250mm程度である)
このとき、赤外線反射インキが描かれた部位B’は加熱軟化によるドローダウンは生じずに、シート部位A’はドローダウンの深さが10mm以内に抑えられていた。
その後基材を乗せた可動テーブルを上昇させ、上ボックス中に0.2MPaの圧空を吹き込み、前記熱可塑性樹脂シートを基材に貼り付けて一体成形させ、真空成形を行った。
その後、トリミングを行い、熱可塑性樹脂シートが表面に加飾された2個の真空成形体を得た。得られた2つの真空成形体のシート膜厚の差異や破れ、皺等はなく、均一な品質の真空成形体が得られた。
【0038】
(実施例2)成形時に隣り合う基材の境界に位置するように赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シートを設置した例
実施例1において、熱可塑性樹脂シートの片面(赤外線反射インキを描いた面の反対面)に印刷層を有しているシートを使用した以外は実施例1と同様にして、真空成形を行い、2個の真空成形体を得た。
真空成形時、赤外線反射インキが描かれた部位B’は加熱軟化によるドローダウンは生じずに、シート部位A’はドローダウンの深さが10mm以内に抑えられていた。得られた2つの真空成形体のシート膜厚の差異や破れ、皺等はなく、均一な品質の真空成形体が得られた。
【0039】
(実施例3)成形時に隣り合う基材の境界に位置するように赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シートを設置した例
実施例1において、熱可塑性樹脂シートとして東洋紡績株式会社製PETシート「ソフトシャインX1130」(膜厚188μm)を使用した以外は実施例1と同様にして、真空成形を行い、2個の真空成形体を得た。
真空成形時、赤外線反射インキが描かれた部位B’は加熱軟化によるドローダウンは生じずに、シート部位A’はドローダウンの深さが10mm以内に抑えられていた。得られた2つの真空成形体のシート膜厚の差異や破れ、皺等はなく、均一な品質の真空成形体が得られた。
【0040】
(実施例4)成形時に隣り合う基材の境界に位置するように赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シートを設置した例
実施例1において、熱可塑性樹脂シートとしてサンビック株式会社製PPシート「PP39LMS2−30R黒」(膜厚300μm)を使用し、成形温度を145℃にした以外は実施例1と同様にして、真空成形を行い、2個の真空成形体を得た。
真空成形時、赤外線反射インキが描かれた部位B’は加熱軟化によるドローダウンは生じずに、シート部位A’はドローダウンの深さが10mm以内に抑えられていた。得られた2つの真空成形体のシート膜厚の差異や破れ、皺等はなく、均一な品質の真空成形体が得られた。
【0041】
(実施例5)成形時に隣り合う基材の境界に位置するように赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シートを設置した例
実施例1において、赤外線反射インキ「ペイントマーカー銀色」の代わりに光輝性インキ(A)を刷毛を使用して幅20mmの線を描いた以外は実施例1と同様にして、真空成形を行い、2個の真空成形体を得た。
真空成形時、赤外線反射インキが描かれた部位B’は加熱軟化によるドローダウンは生じずに、シート部位A’はドローダウンの深さが10mm以内に抑えられていた。得られた2つの真空成形体のシート膜厚の差異や破れ、皺等はなく、均一な品質の真空成形体が得られた。
【0042】
(実施例6)成形時に隣り合う基材の境界に位置するように赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シートを設置した例
三和興業株式会社製真空成形機「PLAVAC TV−33(赤外線メインヒーターはシート下方から照射する)」を使用し、真空成形を行った。
赤外線反射インキ「ペイントマーカー銀色」を使用し、熱可塑性樹脂シートである東洋紡績株式会社製PETシート「ソフトシャインX1130」(膜厚125μm 縦320mm×横500mmの長方形シート)のシート面に、長方形の長辺を均等に2分するように、短辺に平行な幅20mmの線を描いた。
前記線を描いた面が赤外線メインヒーター側となるように、前記熱可塑性樹脂シートの周囲を完全にクランプして設置した。
線で区切られた前記シート(部位A’)の下に位置する様に可動テーブルに基材を設置し、赤外線ヒーターとして遠赤外線ヒーターを使用し前記熱可塑性樹脂シートを間接加熱し、前記熱可塑性樹脂シートの部位Aを加熱した。(赤外線ヒーターと熱可塑性樹脂シートとの距離は150mm程度である)
このとき、赤外線反射インキが描かれた部位B’は加熱軟化によるドローダウンは生じずに、シート部位A’はドローダウンの深さが10mm以内に抑えられていた。
その後基材を乗せた可動テーブルを上昇させて前記熱可塑性樹脂シートの真空成形を行った。
その後、トリミングを行い、熱可塑性樹脂シートの2個の真空成形体を得た。得られた2つの真空成形体のシート膜厚の差異や破れ、皺等はなく、均一な品質の真空成形体が得られた。
【0043】
(実施例7)熱可塑性樹脂シートと、該熱可塑性樹脂シート上に成形時に隣り合う基材の境界に位置するような赤外線反射材を設置した例
布施真空株式会社製真空成形機「NGF−0709型」を使用し、真空成形を行った。
熱可塑性樹脂シートである東洋紡績株式会社製PETシート「ソフトシャインX1130」(膜厚125μm 縦700mm×横950mmの長方形シート)のシートと、該シートの長方形の長辺を均等に2分するように、短辺に平行となるように該シート上に設置したアルミニウム箔(膜厚20μm、幅20mm)とを、前記アルミニウム箔の設置面が赤外線ヒーター側となるように、前記アルミニウム箔の端がクランプされるように、前記熱可塑性樹脂シートの周囲を完全にクランプして設置した。
アルミニウム箔で区切られた前記シート(部位A)の下に位置する様に可動テーブルに基材を設置し、真空成形機の上下ボックスを閉じ、ボックス内をほぼ完全真空状態にした後、赤外線ヒーターとしてヘリウス社製中赤外線ヒーターを使用し前記熱可塑性樹脂シートを間接加熱し、前記熱可塑性樹脂シートの部位Aの表面温度が放射温度計測定値で194℃になるまで上昇させた。(赤外線ヒーターと熱可塑性樹脂シートとの距離は250mm程度である)
このとき、赤外線反射インキが描かれた部位Bは加熱軟化によるドローダウンは生じずに、シート部位Aはドローダウンの深さが10mm以内に抑えられていた。
その後基材を乗せた可動テーブルを上昇させ、上ボックス中に0.2MPaの圧空を吹き込み、前記熱可塑性樹脂シートを基材に貼り付けて一体成形させ、真空成形を行った。
その後、トリミングを行い、熱可塑性樹脂シートが表面に加飾された2個の真空成形体を得た。得られた2つの真空成形体のシート膜厚の差異や破れ、皺等はなく、均一な品質の真空成形体が得られた。
【0044】
(比較例1)
実施例1において、赤外線反射インキ「ペイントマーカー銀色」の代わりに色インキ「ペイントマーカー青色」を使用した以外は実施例1と同様にして、真空成形を行い、2個の真空成形体を得た。
真空成形時、色インキが描かれた部位B’は、シート部位A’と全く同様に加熱軟化し、一体となってドローダウンした。それによりドローダウンの深さは50mmほどになった。その結果、賦形時にシートの過剰な伸びが元に戻らず、成形体に皺が残った。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】:多数個取りの真空成形の様子を示した図である。
【図2】:多数個取りの真空成形の様子を示した図である。赤外線照射により熱可塑性樹脂シートがドローダウンしている。
【図3】:本発明の製造方法の具体的態様の一例である。(3個取りの例)
【図4】:本発明における部位Aと部位Bとを模式的に示した図である。
【図5】:本発明における赤外線反射材をクランプに設置した具体的態様の一例である(3個取りの例)。
【図6】:本発明における赤外線反射材をクランプに設置した具体的態様の一例である。(4個取りの例)
【符号の説明】
【0046】
1:熱可塑性樹脂シート
2:赤外線輻射ヒーター
3:赤外線
4:被着体
5:クランプ
6:真空成形機ボックス
7:赤外線反射材
8:部位A、A’
9:部位B、B’

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個の成形を同時に行う真空成形体の製造方法であって、
(1)熱可塑性樹脂シートと、該熱可塑性樹脂シート上に成形時に隣り合う基材の境界に位置するような赤外線反射材を設置する工程、又は、
成形時に隣り合う基材の境界に位置するように赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シートを設置する工程と、
(2)前記熱可塑性樹脂シートに赤外線照射する工程と
(3)前記熱可塑性樹脂シートを真空成形する工程、
とをこの順に有することを特徴とする、真空成形体の製造方法。
【請求項2】
少なくとも2個の成形を同時に行う真空成形時におけるドローダウン防止方法であって、
(1)熱可塑性樹脂シートと、該熱可塑性樹脂シート上に成形時に隣り合う基材の境界に位置するような赤外線反射材を設置する工程、又は、
成形時に隣り合う基材の境界に位置するように赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シートを設置する工程と、
(2)前記熱可塑性樹脂シートに赤外線照射する工程と
(3)前記熱可塑性樹脂シートを真空成形する工程、
とをこの順に有することを特徴とする、ドローダウン防止方法。
【請求項3】
少なくとも2個の成形を同時に行う真空成形法に使用する真空成形用シートであって、熱可塑性樹脂シート上に、成形時に隣り合う基材の境界に位置するような赤外線反射インキで描いた線を有することを特徴とする真空成形用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−189620(P2011−189620A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57500(P2010−57500)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】