説明

真空蒸着用電子ビーム装置

【課題】本発明は真空蒸着用電子ビーム装置に関し、電子ビーム形状を向上させることを目的としている。
【解決手段】120度以上電子ビームを偏向し、るつぼ内に貯留されている蒸着材料に対して電子ビームを照射し、該蒸着材料からの蒸気を基板表面に蒸着させるようにした真空蒸着用電子ビーム装置において、熱電子を放出するカソード31の面を電子線放出方向に対して垂直となるようにすると共に、カソード31の有効な熱電子放出面に対して、カソード保持部32aを除くその他のカソード面若しくは周囲面が、カソード31の有効な熱電子放出面に対して90度以内に存在しないようなカソード断面を有するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空蒸着用電子ビーム装置に関し、更に詳しくはフィラメントから放出される熱電子の放射角のばらつきの問題による蒸着材料の加熱効率ロスや電子ビーム形状悪化を改善するためのカソード形状に特徴を持たせ、またカソードの変形をなくすための形状とすることで、カソードの加工性を高めると同時にカソードの変形を可能な限り少なくして、カソード変形に起因したビーム形状悪化を防止し、比較的安価なカソードを提供することができるようにした真空蒸着用電子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、るつぼに蒸着材料を入れて、この蒸着材料に電子線を照射して蒸着材料を加熱し、加熱蒸発する蒸着材料の蒸気を基板表面に蒸着する真空蒸着用電子ビーム装置が知られている。図3は真空蒸着用電子ビーム装置の概念図である。図において、10は架体である。架体10において、1は熱電子を放出するフィラメント、2は該フィラメント1の外側に設けられた電界を印加するためのウェーネルト、3はフィラメント1から放出する熱電子を加速するためのアノードである。フィラメント1の材料としては、例えば高融点材料であるタングステンが用いられる。
【0003】
4はフィラメント1から放出した電子ビームを偏向させる偏向コイル、5は偏向コイル4で偏向された電子ビームを2次元方向に走査する走査コイルである。6は蒸着材料上に照射する電子ビームの形状を調整するためのポールピースである。12はその内部を水が流れて冷やすように構成された水冷るつぼ、13は該水冷るつぼ内に設けられた穴に入れられた蒸着材料である。蒸着材料としては、例えば窒化チタンや窒化クロム等が用いられる。15a〜15cは電子ビームの軌跡である。なお、これら構成要素は何れも真空中に設置される。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0004】
フィラメント1を加熱して、該フィラメント1から熱電子を放出させる。放出した熱電子は、更にアノード3により加速され、偏向コイル4により偏向され、図に示すように270度偏向されて蒸着材料13上に照射される。この場合において、走査コイル5により走査して、蒸着材料13上に照射される電子ビーム位置を走査する。この結果、蒸着材料13は溶融し、蒸着材料の蒸気が発生する。発生した蒸気は、図示しない基板上にまんべんなく蒸着されることになる。
【0005】
従来のこの種の装置としては、電子銃の電子放出部は、コイル状フィラメントを環状に形成し、環の中心軸方向に電子を取り出すようにした技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
また、中心部が空けられた渦巻き状のフィラメント、グリッド、アノードをフィラメントの空間部の中心、グリッドの穴の中心、アノードの穴の中心が大体電子ビーム軌道の中心軸上に位置するように互いに適当な間を開けて配列した技術が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−176437号公報(段落0016〜0018、図1〜図4)
【特許文献2】特開2002−93356号公報(段落0014〜0016、図1,図2,図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図4は電子線出射部の構成例を示す図で、フィラメント部の熱電子軌道のモデルを示している。(a)はフィラメントにスパイラル型のものを使用した時の構成を、(b)はフィラメントにスプリング型のものを使用した場合を示している。図3と同一のものは、同一の符号を付して示す。(a)に示すスパイラル型のものは、スパイラルフィラメント1から電子15が放出される。これに対して、(b)に示すスプリング型のものは、スプリングから電子15が放出される。図より明らかなように、電子15は、各電子毎にフィラメントからいろいろな角度で放出される。
【0009】
フィラメント1は、複雑に折り曲げられ、多数の曲面を有している。フィラメント1が供給する熱電子は、加速電界の影響を受けるフィラメント曲面の任意の点から放出され、熱電子が加速を始める際の放出角は、図4に示すように熱電子が放出した点と加速電界との関係で決まり、ばらつきが多い。
【0010】
熱電子の放出角にばらつきが多いと、蒸着材料上に照射される電子ビームの束を集めるのが難しく、蒸着材料上に照射する電子ビームが散らばってしまい、蒸着材料の加熱効率のロス放出や、蒸着材料上に照射する電子ビームの形状が悪くなるため、材料を均一に溶かすのが難しいなどの問題があり、改善が望まれていた。
【0011】
また、電子銃用のカソードは、0.1mm以内の加工精度が必要であるが、複雑なコイル状に形成することから加工性が悪くてスプリングバック(スプリングがバネにより元に戻ろうとする現象)や加熱時の変形なども起こり易く、カソード形状に起因したビーム形状の悪化の問題もある。
【0012】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、フィラメントから放出される熱電子の放射角のばらつきの問題による蒸着材料の加熱効率ロスや電子ビーム形状悪化を改善するためのカソード形状に特徴を持たせ、またカソードの変形をなくすための形状とすることで、カソードの加工性を高めると同時にカソードの変形を可能な限り少なくして、カソード変形に起因したビーム形状悪化を防止し、比較的安価なカソードを提供することができるようにした真空蒸着用電子ビーム装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の問題を解決するために、本発明は以下のような構成をとっている。
(1)請求項1記載の発明は、120度以上電子ビームを偏向し、るつぼ内に貯留されている蒸着材料に対して電子ビームを照射し、該蒸着材料からの蒸気を基板表面に蒸着させるようにした真空蒸着用電子ビーム装置において、熱電子を放出するカソードの面を電子線放出方向に対して垂直となるようにすると共に、カソードの有効な熱電子放出面に対して、カソード保持部を除くその他のカソード面若しくは周囲面が、カソードの有効な熱電子放出面に対して90度以内に存在しないようなカソード断面を有するように構成したことを特徴とする。
【0014】
ここで、偏向角を120度以上にしたのは、蒸着材料からの蒸気がカソードに付着しないようにするためである。
(2)請求項2記載の発明は、前記カソードをプレート状としたことを特徴とする請求項1記載の真空蒸着用電子ビーム装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以下のような効果を奏する。
(1)請求項1記載の発明によれば、フィラメントから放出される熱電子の放射角のばらつきの問題による蒸着材料の加熱効率ロスや電子ビーム形状悪化を改善するためのカソード形状に特徴を持たせ、またカソードの変形をなくすための形状とすることで、カソードの加工性を高めると同時にカソードの変形を可能な限り少なくして、カソード変形に起因したビーム形状悪化を防止し、比較的安価なカソードを提供することができるようにした真空蒸着用電子ビーム装置を提供することができる。
【0016】
(2)請求項2記載の発明によれば、熱電子を放出するカソード面をプレート状とすることで、カソードから放出される熱電子の放出角が一定となり、蒸着材料への加熱効率や電子ビーム形状を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の要部の構成例を示す図である。
【図2】本発明の電子線出射部の構成例を示す図である。
【図3】真空蒸着用電子ビーム装置の概念図である。
【図4】電子線出射部の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の要部の構成例を示す図で、カソードの形状を示している。(a)は異形カソードの例を、(b)は板状カソードの例を示している。(a)において、21は異形カソードを示している。異形カソード21の電子出射面は出射される電子22の出射軌跡に対して90度になっている。即ち、放出角θ1が90度になっている。放出角を90度にすることにより、カソード21から出射される電子22の放出角のばらつきを抑えることができる。
【0019】
また、アノード(図示せず)と対向したカソード21の表面を平面状に構成しており、アノードとカソード間に形成される加速電界は、カソード21表面と平行した電位分布を有するようになっている。その結果、カソード表面の熱電子22は、カソード表面に対して垂直方向に放出され、熱電子の放出角のばらつきを極力抑えることが可能になる。また、カソード21の表面を平面状(プレート状)に構成しているため、カソードから放出される熱電子の放出角が一定となり、蒸着材料への加熱効率や電子ビーム形状を向上させることができる。
【0020】
本発明によれば、カソード側面をカソード表面に対して90度以内には存在しないような形状としている。即ち、図における角度θ2が90度以上になるようにしている。この結果、カソード側面からの熱電子が積極的に放出されないようにすることができ、電子ビーム形状を向上させることができる。
【0021】
以上、カソードが異形カソードである場合について説明したが、このことは(b)に示す板状カソードについても全く同様である。(b)において、23は板状カソードである。
【0022】
図2は本発明の電子線出射部の構成例を示す図である。図において、31はプレートカソード、32,32aは該プレートカソード31を保持するカソードホルダ、33はプレートカソード31をカソードホルダ32に押し付けるバネである。プレートカソード31は、図に示すようにコの字型のパターンになっており、熱電子放出面が放出される面は平面になっている。カソードホルダ32aには、プレートカソード31の熱膨張を吸収させるためのスライド機構が設けられている。
【0023】
35はプレートカソード31同電位にされ、放出される熱電子の集束レンズとして機能するウェーネルトである。該ウェーネルト35は図に示すように中央部に穴が開いており、プレートカソード36の状態36aが見えている。そしてこの穴の中を熱電子が通過するようになっている。34は熱電子を加速するためのアノードである。プレートカソード31には、該プレートカソード31を加熱するためのカソード加熱電源36が接続されている。
【0024】
アノード34には接地電位が接続され、ウェーネルト35には負の加速電源37が接続されている。真空蒸着用電子ビーム装置の構成は図3に示すものと同じである。また、図上明らかでないが、カソードホルダ32,32aを除くその他のカソード面若しくは周囲面が、カソードの有効な熱電子放出面に対して90度以内に存在しないようになっている。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0025】
カソードホルダ32aを介してウェーネルト35に負電位を、アノード34に接地電位を印加しておき、カソード加熱電源36でプレートカソード31を加熱すると、該プレートカソード31からは熱電子が放出される。この放出された熱電子は、アノード34により加速される。このようにして加速された電子ビームは、図3の偏向コイル4で270度の偏向を受けた後、走査コイル5で走査されて蒸着材料13上を走査する。蒸着材料13は電子ビームの照射により加熱溶融され、その蒸気が発生し、基板(図示せず)上に蒸着されることになる。
【0026】
本発明によれば、熱電子放出させるカソード面を平面状とし、アノードとの間に形成された加速電界に垂直となるようカソード面を配置したことで、熱電子放出角が一定となり電子ビーム形状を向上させることができる。また、カソードをプレート状にしたことで、カソードの加工性を高め、加熱時の変形等によるビーム形状悪化に対する改善が図れると同時に、加工コストを安価に設定できるという効果がある。
【符号の説明】
【0027】
31 プレートカソード
32 カソードホルダ
32a カソードホルダ
33 バネ
34 アノード
35 ウェーネルト
36 カソード加熱電源
37 加速電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
120度以上電子ビームを偏向し、るつぼ内に貯留されている蒸着材料に対して電子ビームを照射し、該蒸着材料からの蒸気を基板表面に蒸着させるようにした真空蒸着用電子ビーム装置において、
熱電子を照射するカソードの面を電子線照射方向に対して垂直となるようにすると共に、カソードの有効な熱電子放出面に対して、カソード保持部を除くその他のカソード面若しくは周囲面が、カソードの有効な熱電子放出面に対して90度以内に存在しないようなカソード断面を有するように構成したことを特徴とする真空蒸着用電子ビーム装置。
【請求項2】
前記カソードをプレート状としたことを特徴とする請求項1記載の真空蒸着用電子ビーム装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−60486(P2011−60486A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206786(P2009−206786)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】