説明

眼内レンズ用硬化性樹脂組成物、眼内レンズ用材料、及び眼内レンズ

【課題】高屈折率で、柔軟性及び透明性に優れた眼内レンズを提供する。
【解決手段】(a)下記一般式(I)で表される化合物より選択される少なくとも1種の第一モノマーと、(b)多官能の第ニモノマーと、(c)ラジカル重合開始剤とを含有する眼内レンズ用硬化性樹脂組成物。


[一般式(I)中、Rは水素原子又はアルキル基を表す。Xは酸素原子又は硫黄原子を表し、Xが硫黄原子を表す場合、XはCHRを表し、Rは水素原子又はアルキル基を表す。Xが酸素原子を表す場合、XはC=Oを表す。nは0又は1を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状アリルスルフィド化合物を含む眼内レンズ用硬化性樹脂組成物、並びに、この硬化性樹脂組成物から得られる眼内レンズ用材料及び眼内レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
白内障治療においては、混濁した水晶体を除去した後、眼内レンズを挿入することが広く実施されている。近年では、眼内レンズの光学部の材質として軟性材料を用いることにより、小さな切開創から眼内に挿入可能とした軟性眼内レンズが臨床に広く使用され始めている。
この軟性眼内にレンズでは、透明性及び柔軟性に優れていることが要求される。透明性及び柔軟性に優れた眼内レンズ材料として、(メタ)アクリレート系モノマーと架橋性モノマーを含む混合物の共重合体(特許文献1参照)、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートをモノマー成分として含むモノマー混合物と架橋剤とを重合させて得られた共重合体(特許文献2参照)等が知られている。
【0003】
これらの文献に記載の材料で形成された眼内レンズは、いずれも比較的優れた透明性及び柔軟性を有している。しかし、これらの眼内レンズは、いわゆるグリスニング(glistening)が起こることが問題となっている。グリスニングとは、眼内に埋植した後に光学部の材料内部に水滴が溜まることにより、眼内レンズの透明性が著しく低下又は失われる現象である。
【0004】
このグリスニングの問題を解決する材料として、主要な構成モノマーとして、アリールアクリル疎水性モノマーと親水性モノマーとを用いた共重合体(特許文献3参照)、水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドモノマー及びN−ビニルラクタム等の親水性モノマーを重合させた重合体(特許文献4参照)などが開示されている。更に、グリスニングを抑制し、かつ高屈折率で柔軟性に優れた材料として、特定構造の(メタ)アクリレート系モノマー及び架橋性モノマーのモノマー混合物の共重合体(特許文献5参照)が開示されている。
【0005】
その他の眼内レンズ用材料として、単官能の(メタ)アクリレートモノマー、二官能の(メタ)アクリレートモノマー、及び芳香族官能(メタ)アクリレートモノマーを含むモノマー混合物の共重合体(特許文献6参照)が開示されている。この特許文献6の材料によれば、強度が高く、高屈折率で柔軟性に優れた眼内レンズ用材料が得られる。
【0006】
また、眼内レンズは、上記のように従来からアクリロイル基やメタクリロイル基といった汎用的な重合性基を有する化合物が一般的に用いられているが、これらの材料は硬化による体積収縮が大きく、形状を制御することに問題がある。また、特許文献3〜6に記載の重合体においては水に浸漬すると白濁が生じる等外観及びグリスニングの面で課題があり改善が望まれている。
一方、硬化による体積収縮の小さいモノマーとして、環状アリルスルフィドモノマーが開示されている(非特許文献1、2、3、4及び特許文献7,8参照)。これらの文献には、接着用途、歯科用途、レンズに使用できるという記載はあるものの、眼内レンズに用いることができる旨の記載は全くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−292609号公報
【特許文献2】特開平8−173522号公報
【特許文献3】特開2001−316426号公報
【特許文献4】特開平11−56998号公報
【特許文献5】特開2006−249381号公報
【特許文献6】特表2008−543432号公報
【特許文献7】特許第3299542号明細書
【特許文献8】特許第4153031号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Macromolecules,1994,27,7935.
【非特許文献2】Macromolecules,1996,29,6983.
【非特許文献3】Macromolecules,2000,33,6722.
【非特許文献4】J.Po1ym. Sci.:Part A Polym.Chem.2001,39,202.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように種々の技術が開発されているが、更に、高屈折率で、柔軟性及び透明性に優れ、水中においても外観の変化がなくグリスニングが防止され、硬化による体積収縮の小さい眼内レンズ用材料の開発が望まれている。
本発明の目的は、高屈折率で、柔軟性及び透明性に優れ、水中においても外観の変化がなくグリスニングの発生が少ない眼内レンズ用材料及び眼内レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、以下の点を見出した。すなわち、汎用的なラジカル重合性モノマーであるメタクリレートや、アクリレートモノマーは、重合がビニル基への付加を行う反応であるため、側鎖である置換基が炭素原子2つごとに導入される。これによりTgが上昇し、折り曲げ可能な柔軟性が損なわれることを見出した。
これに対し、一般式(I)で表される環状アリルスルフィドモノマーは、例えば8員環の環状アリルスルフィドモノマーを用いる場合は炭素硫黄原子などの8つの連結鎖に一つ置換基が導入される。そのため、Tgの上昇を抑えることができ、柔軟性を保つことができる点に着目した。また、炭素−硫黄−炭素の結合は結合距離が長く、また結合角が小さいため、そのもの自身に柔軟性があるポリマーが形成できる。更に、一般式(I)で表される環状アリルスルフィドモノマーは、主鎖に硫黄原子を有することから、従来の(メタ)アクリレート系ポリマーに比べ、高い屈折率を有する。
【0011】
そして、一般式(I)で表される環状アリルスルフィドモノマーを(a)第一モノマーとし、(b)多官能の第ニモノマーと、(c)ラジカル重合開始剤とを併用することにより、柔軟性に優れ、高い屈折率を有し、軟性眼内レンズとして好適に使用できる眼内レンズ材料を提供することができることを見出した。しかも、この眼内レンズ材料を用いて眼内レンズを形成すると、その作用機構は定かではないが、眼内に埋植した後に発生するグリスニングを抑制できることを見出した。更に、この眼内レンズ用硬化性樹脂組成物は、硬化による体積収縮が小さく、形成された硬化物の変形を小さくすることができるので、非常に寸度安定性が高く、高度な形状制御が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の上記課題は、以下の手段により解決することができる。
〔1〕
(a)下記一般式(I)で表される化合物より選択される少なくとも1種の第一モノマーと、(b)多官能の第ニモノマーと、(c)ラジカル重合開始剤とを含有する眼内レンズ用硬化性樹脂組成物。
【0012】
【化1】

【0013】
[一般式(I)中、Rは水素原子又はアルキル基を表す。Xは酸素原子又は硫黄原子を表し、Xが硫黄原子を表す場合、XはCHRを表し、Rは水素原子又はアルキル基を表す。Xが酸素原子を表す場合、XはC=Oを表す。R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基又はハロゲン原子を表す。nは0又は1を表す。]
〔2〕
前記一般式(I)において、Xが硫黄原子を表し、XはCRを表し、nが1である、〔1〕に記載の眼内レンズ用硬化性樹脂組成物。
〔3〕
前記(b)多官能の第ニモノマーが、下記一般式(AI)で表される化合物及び多官能(メタ)アクリレートモノマーより選択される少なくとも1種である、〔1〕又は〔2〕に記載の眼内レンズ用硬化性樹脂組成物。
【0014】
【化2】

【0015】
[一般式(AI)中、RA1は水素原子又はアルキル基を表す。XA1は酸素原子又は硫黄原子を表し、XA1が硫黄原子を表す場合、XA2はCHRA2を表し、RA2は水素原子又はアルキル基を表す。XA1が酸素原子を表す場合、XA2はC=Oを表す。RA3〜RA5はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基又はハロゲン原子を表す。nは0又は1を表す。mは2〜6を表す。一般式(AI)はRA1〜RA5のいずれかを介して結合した2〜6量体を表す。]
〔4〕
前記(b)多官能の第ニモノマーを、組成物中のモノマー総量に対して0.05〜40質量%含む、〔1〕〜〔3〕のいずれか1つに記載の眼内レンズ用硬化性樹脂組成物。
〔5〕
更に、紫外線吸収能を有するモノマーを、組成物中のモノマー総量に対して0.05〜8質量%含む、〔1〕〜〔4〕のいずれか1つに記載の眼内レンズ用硬化性樹脂組成物。
〔6〕
更に、黄色着色能を有するモノマーを、組成物中のモノマー総量に対して0.0001〜0.5質量%含む、〔1〕〜〔5〕のいずれか1つに記載の眼内レンズ用硬化性樹脂組成物。
〔7〕
〔1〕〜〔6〕のいずれか1つに記載の眼内レンズ用硬化性樹脂組成物を重合反応させて得られる眼内レンズ材料。
〔8〕
光学部と、前記光学部を眼内の所定位置に固定するための支持部とを有する眼内レンズであって、前記光学部が、〔7〕に記載の眼内レンズ材料から形成された、眼内レンズ。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る硬化性樹脂組成物によれば、高屈折率で、柔軟性及び透明性に優れ、しかもグリスニングの発生が少ない眼内レンズ用材料及び眼内レンズを提供することができる。従って、本発明に係る眼内レンズは、特に、折り曲げることによって小さな切開創から眼内に挿入可能な、軟性眼内レンズとして好適に用いることができる。また、本発明に係る硬化性樹脂組成物は、硬化による体積収縮が小さく高度な形状制御が可能であり、酸素による重合阻害を受けにくいため、製造時における樹脂の硬化を高速化することができ、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る眼内レンズの一実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明に係る眼内レンズの一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔眼内レンズ用硬化性樹脂組成物〕
本発明の眼内レンズ用硬化性樹脂組成物は(a)下記一般式(I)で表される化合物より選択される少なくとも1種の第一モノマーと、(b)多官能の第ニモノマーと、(c)ラジカル重合開始剤とを含有する。
【0019】
【化3】

【0020】
[一般式(I)中、Rは水素原子又はアルキル基を表す。Xは酸素原子又は硫黄原子を表し、Xが硫黄原子を表す場合、XはCHRを表し、Rは水素原子又はアルキル基を表す。Xが酸素原子を表す場合、XはC=Oを表す。R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基又はハロゲン原子を表す。nは0又は1を表す。]
【0021】
本発明において、硬化性樹脂組成物とは、光照射、放射線照射、加熱、ラジカル重合開始剤の使用等により、含有される重合性成分の重合反応を起こすことができる組成物をいうものとする。
【0022】
<(a)一般式(I)で表される化合物>
【0023】
【化4】

【0024】
[一般式(I)中、Rは水素原子又はアルキル基を表す。Xは酸素原子又は硫黄原子を表し、Xが硫黄原子を表す場合、XはCHRを表し、Rは水素原子又はアルキル基を表す。Xが酸素原子を表す場合、XはC=Oを表す。R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基又はハロゲン原子を表す。nは0又は1を表す。]
【0025】
本発明における一般式(I)で表される化合物は、単官能の環状アリルスルフィドモノマーである。ここで、単官能の環状アリルスルフィドモノマーとは環状アリルスルフィドモノマー1分子中に一般式(I)(あるいは、後述の一般式(II)、一般式(III))に対応する構造を1つ有する環状アリルスルフィドモノマーをいう。
以後、一般式(I)で表される化合物を、単官能の環状アリルスルフィドモノマー又は単官能の環状アリルスルフィド化合物と称する。この一般式(I)で表される単官能の環状アリルスルフィドモノマーは、重合性成分として機能することができる。すなわち、このモノマーは、加熱及び光照射の少なくとも一方により直接、若しくはラジカル重合開始剤の作用によってラジカル重合を起こし、開環重合により二重結合を有するポリマーに変化する。重合反応は以下の式のように表される。
【0026】
【化5】

【0027】
[上記スキーム中、Rは水素原子又はアルキル基を表す。Xは酸素原子又は硫黄原子を表し、Xが硫黄原子を表す場合、XはCHRを表し、Rは水素原子又はアルキル基を表す。Xが酸素原子を表す場合、XはC=Oを表す。R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基又はハロゲン原子を表す。nは0又は1を表す。lは繰り返し単位の数を表す。]
【0028】
従来の汎用的なラジカル重合性モノマーであるメタクリレートモノマーやアクリレートモノマーは、溶存酸素等によりある程度の重合阻害を受ける。これに対し、一般式(I)で表される単官能の環状アリルスルフィドモノマーは、成長ラジカルが硫黄ラジカルであることと、硫黄原子のα位の水素(隣の炭素の水素)原子を有するため、チオールエン反応に見られるような酸素重合阻害を受けないという特徴を有する。そのため、環状アリルアリルスルフィドモノマーを用いた場合は、汎用モノマーよりも酸素存在下若しくは溶存酸素存在下においても重合反応が進行しやすく、重合阻害を受けにくいために少ないラジカル開始剤量で硬化が可能であり、製造時における樹脂の硬化を高速化することができ、生産性を向上させることができる。
【0029】
また、汎用的なラジカル重合性モノマーであるメタクリレートや、アクリレートモノマーは、重合がビニル基への付加を行う反応であるため、側鎖である置換基が炭素原子が2つごとに導入される。これによりTgが上昇し、折り曲げ可能な柔軟性が損なわれるが、一般式(I)で表される単官能の環状アリルスルフィドモノマーは、例えば8員環の環状アリルスルフィドモノマーを用いる場合は炭素硫黄原子などの8つの連結鎖に一つ置換基が導入される。そのため、Tgの上昇を抑えることができ、柔軟性を保つことができる。また、炭素−硫黄−炭素の結合は結合距離が長く、また結合角が小さいため、そのもの自身に柔軟性があるポリマーが形成できる。従って、本発明に係る硬化性樹脂組成物により形成された眼内レンズ材料は、柔軟性に優れており、小さな切開創から眼内に挿入可能とした軟性眼内レンズとして好適に使用できる。
【0030】
また、本発明に係る眼内レンズ用硬化性樹脂組成物から形成される眼内レンズ材料は、主鎖に硫黄原子を有することから、従来の(メタ)アクリレート系ポリマーに比べ、高い屈折率を有する。従って、レンズの薄型化・軽量化を図ることができる。
また、この眼内レンズ材料は透明性が高い。しかも、このポリマーを用いて眼内レンズを形成すると、その作用機構は定かではないが、眼内に埋植した後に発生するグリスニングを抑制できる。
【0031】
更に、このポリマーは、硬化による体積収縮が小さく、形成された硬化物の変形を小さくすることができるので、非常に寸度安定性が高く、高度な形状制御が可能である。特に眼内レンズが回折型のものである場合は微細構造を作製する必要があるため有用である。
一般式(I)中、Rは水素原子又はアルキル基を表す。Rで表されるアルキル基としては直鎖であっても分岐を有していてもよく、また、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜3であることが特に好ましい。なお、本発明において、ある基について「炭素数」とは、置換基を有する基については、該置換基を含まない部分の炭素数をいうものとする。
【0032】
、R〜Rで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ターシャリーオクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、2,3−ジブロモプロピル基、アダマンチル基、ベンジル基、4−ブロモベンジル基などが挙げられる。これらは更に置換基を有していてもよい。
【0033】
一般式(I)中、R、R、Rで表されるアリール基としては、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は6〜30であることが好ましく、6〜20であることが特に好ましい。アリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基などが挙げられる。これらは更に置換基を有していてもよい。
一般式(I)中、R、R、Rで表されるヘテロ環基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数4〜14のヘテロ環基であることが好ましく、炭素数4〜10のヘテロ環基であることがより好ましく、炭素数5のヘテロ環基であることが特に好ましい。R13、R14、R15で表されるヘテロ環基の具体例としては、ピリジン環、ピペラジン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環が挙げられる。これらは更に置換基を有していてもよい。前記ヘテロ環の中でもピリジン環が特に好ましい。
【0034】
一般式(I)中、R、R、Rで表されるアルコキシ基は、直鎖であっても分岐を有していてもよく、また、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ノルマルプロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ノルマルブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、ターシャリーブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ターシャリーオクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、2,3−ジブロモプロピルオキシ基、アダマンチルオキシ基、ベンジルオキシ基、4−ブロモベンジルオキシ基などが挙げられる。
【0035】
一般式(I)中、R、R、Rで表されるアリールオキシ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は6〜30であることが好ましく、6〜20であることが特に好ましい。具体例としては、例えば、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントラニルオキシ基などが挙げられる。
【0036】
一般式(I)中、R、R、Rで表されるアルキルチオ基は、直鎖であっても分岐を有していてもよく、また、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなアルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、ノルマルプロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ノルマルブチルチオ基、イソブチルチオ基、ターシャリーブチルチオ基、ペンチルチオ基、シクロペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、ターシャリーオクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基、デシルチオ基、ドデシルチオ基、オクタデシルチオ基、2,3−ジブロモプロピルチオ基、アダマンチルチオ基、ベンジルチオ基、4−ブロモベンジルチオ基などが挙げられる。
【0037】
一般式(I)中、R、R、Rで表されるアリールチオ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は6〜30であることが好ましく、6〜20であることが特に好ましい。具体例としては、例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、アントラニルチオ基などが挙げられる。
【0038】
一般式(I)中、R、R、Rで表されるアルコキシカルボニル基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアルコキシカルボニル基としては、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ノルマルプロピルオキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基、ノルマルブチルオキシカルボニル基、イソブチルオキシカルボニル基、ターシャリーブチルオキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ターシャリーオクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、デシルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基などが挙げられる。
【0039】
一般式(I)中、R、R、Rで表されるアリールオキシカルボニル基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は7〜30であることが好ましく、7〜20であることが特に好ましい。具体例としては。例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、アントラニルオキシカルボニル基などが挙げられる。
【0040】
一般式(I)中、R、R、Rで表されるアシルオキシ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアシルオキシ基としては、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ノルマルプロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、ノルマルブチルカルボニルオキシ基、イソブチルカルボニルオキシ基、ターシャリーブチルカルボニルオキシ基、ペンチルカルボニルオキシ基、シクロペンチルカルボニルオキシ基、ヘキシルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、ヘプチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ターシャリーオクチルカルボニルオキシ基、2−エチルヘキシルカルボニルオキシ基、デシルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。
【0041】
一般式(I)中、R、R、Rで表されるアリールカルボニルオキシ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は7〜30であることが好ましく、7〜20であることが特に好ましい。具体例としては、例えば、フェニルカルボニルオキシ基、ナフチルカルボニルオキシ基、アントラニルカルボニルオキシ基などが挙げられる。
【0042】
一般式(I)中、R、R、Rで表されるアシルアミノ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアシルアミノ基としては、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基などが挙げられる。
一般式(I)中、R、R、Rで表されるスルホニルアミノ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなスルホニルアミノ基としては、メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基などが挙げられる。
【0043】
一般式(I)中、R、R、Rで表されるアミノ基は、一置換アミノ基であっても、二置換のアミノ基であってもよく、二置換のアミノ基が好ましい。無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などが挙げられる。
一般式(I)中、R、R、Rで表されるアシル基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアシル基としては、アセチル基、ベンゾイル基などが挙げられる。
一般式(I)中、R、R、Rで表されるハロゲン原子としては、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などが挙げられ、ブロモ基が好ましい。
【0044】
一般式(I)中、R、R、R、Rで表される基が更に置換基を有する場合、置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アシル基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、スルホンアミド基、シアノ基、カルボキシ基、水酸基、スルホン酸基などが挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基が特に好ましい。
一般式(I)中、nは0又は1の整数を表す。nは1であることが好ましい。
【0045】
一般式(I)中において、Rが水素原子又はアルキル基を表す。Rが水素原子を表すことが好ましい。
【0046】
一般式(I)はXが硫黄原子を表す場合、XはCHRを表し、Rは水素原子又はアルキル基を表す。Xが硫黄原子を表す場合は、下記に示す一般式(II)で表される。
また、一般式(I)におけるXが酸素原子を表す場合、XはC=Oを表す。Xが酸素原子を表す場合は後述する一般式(III)で表される。
以下に、一般式(II)、及び(III)について説明する。
【0047】
【化6】

【0048】
[一般式(II)中、Rは一般式(I)におけるRの定義と同義である。R12は水素原子又はアルキル基を表し、R13、R14及びR15はそれぞれ一般式(I)におけるR、R及びRの定義と同義である。nは0又は1を表す。]
【0049】
一般式(II)中、nは0又は1の整数を表す。nは1であることが好ましい。
【0050】
及びR12は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、水素原子であることが好ましい。
【0051】
一般式(II)で表される化合物の好ましい態様としては、R及びR12は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、水素原子であることが好ましい。R13、R14及びR15はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、アミノ基又はアシル基を表す化合物を挙げることができる。
【0052】
13は水素原子又はアルキル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
14は複数の場合はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシルオキシ基又はアリールカルボニルオキシ基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
15は水素原子、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基であることが好ましく、アルキル基、又はアシルオキシ基であることがより好ましく、アシルオキシ基であることが更に好ましい。
【0053】
【化7】

【0054】
[一般式(III)中、Rは一般式(I)におけるRの定義と同義である。R23、R24及びR25はそれぞれ一般式(I)におけるR、R及びRの定義と同義である。nは0又は1を表す。]
【0055】
一般式(III)中、nは0又は1の整数を表す。nは0であることが好ましい。
【0056】
23は水素原子又はアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
24は複数の場合はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアシルオキシ基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
25は水素原子、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基又はアリールカルボニルオキシ基であることが好ましく、水素原子、アルキル基、アシルオキシ基又はアリールカルボニルオキシ基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
【0057】
以下に、一般式(I)及び(II)、(III)で表される単官能の環状アリルスルフィド化合物の具体例を示す。但し、本発明は下記具体例に限定されるものではない。
【0058】
【化8】

【0059】
【化9】

【0060】
【化10】

【0061】
以上説明した一般式(I)〜(III)で表される化合物の合成方法は、例えば、Macromolecules,1994,27,7935.Macromolecules,1996,29,6983.やMacromolecules,2000,33,6722.やJ.Polym.Sci.:Part A Polym.Chem.2001,39,202.等に詳細に記載されている。
【0062】
前記環状アリルスルフィド化合物は、一種のみ用いてもよく、二種以上を併用することもできる。
【0063】
(a)第一モノマーである単官能の環状アリルスルフィドモノマーの含有量は、特に制限はないが、組成物全体の質量に対して10〜99質量%が好ましく、40〜99質量%がより好ましく、80〜98質量%が更に好ましい。
【0064】
<(b)多官能の第ニモノマー>
本発明に係る硬化性樹脂組成物に含有される(b)多官能の第ニモノマーについて説明する。
(b)多官能の第ニモノマーとしては、一般式(AI)で表される化合物や、一般式(AI)で表される化合物以外の多官能のモノマー(以下「他の多官能モノマー」と称する場合がある)を挙げることができる。
【0065】
本発明における一般式(AI)で表される化合物は、多官能の環状アリルスルフィドモノマーである。以下一般式(AI)で表される化合物を多官能の環状アリルスルフィドモノマー又は多官能の環状アリルスルフィド化合物と称する場合がある。ここで、多官能の環状アリルスルフィドモノマーとは環状アリルスルフィドモノマー1分子中に一般式(I)(あるいは、一般式(II)、一般式(III))に対応する構造を複数有する環状アリルスルフィドモノマーをいう。
一般式(AI)で表される多官能の環状アリルスルフィドモノマーは、一般式(I)で表される単官能の環状アリルスルフィドモノマーと同様に、重合性成分として機能することができる。
一般式(AI)で表される化合物
【0066】
【化11】

【0067】
[一般式(AI)中、RA1は水素原子又はアルキル基を表す。XA1は酸素原子又は硫黄原子を表し、XA1が硫黄原子を表す場合、XA2はCHRA2を表し、RA2は水素原子又はアルキル基を表す。XA1が酸素原子を表す場合、XA2はC=Oを表す。RA3〜RA5はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基又はハロゲン原子を表す。nは0又は1を表す。mは2〜6を表す。一般式(AI)はRA1〜RA5のいずれかを介して結合した2〜6量体を表す。]
【0068】
一般式(AI)中、RA1〜RA5、XA1、XA2及びnはそれぞれ一般式(I)におけるR〜R、X、X及びnの定義と同義である。
【0069】
一般式(AI)はRA1〜RA5のいずれかを介して結合した2〜6量体を形成し、RA5を介して結合した2〜6量体であることが好ましく、RA5を介して結合した2〜4量体であることがより好ましい。
一般式(AI)は、RA1、RA3〜RA5として、アリールカルボニルオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基を介して結合することが好ましく、アリールカルボニルオキシ基を介して結合することがより好ましい。
より具体的には、RA1、RA3〜RA5として単結合及び下記の連結基(a)〜(n)を挙げることができる。
【0070】
【化12】

【0071】
*は結合位置を表す。上記の中でも(d)、(e)、(g)又は(h)が好ましく、(h)がより好ましい。架橋距離が短くなることにより、強度が高くなるという利点があるためである。
【0072】
本発明においては、(a)第一モノマーと、(b)第二モノマーとして一般式(AI)で表される化合物とを併用する態様が好ましい。
【0073】
単官能の環状アリルスルフィドモノマーと多官能の環状アリルスルフィドモノマーを併用することにより、多官能の環状アリルスルフィドモノマーが架橋性モノマーとして機能し、得られたコポリマーをレンズ形状に加工したときに、レンズの塑性変形を防止し機械的強度のさらなる向上を図ることができる。
【0074】
【化13】

【0075】
【化14】

【0076】
他の多官能モノマーとしては、メタクリレートモノマーやアクリレートモノマーが好ましい。環状アリルスルフィドモノマーとメタクリレートモノマーやアクリレートモノマーが共重合可能であることが確認されている。(b)多官能の第ニモノマーは一種のみ用いてもよく、二種以上を併用することもできる。本発明に係る硬化性樹脂組成物は(a)第一モノマーと、(b)多官能の第ニモノマーとを含むことにより、架橋密度が向上し、破壊されにくい共重合体が得られ、水中においても外観の変化がなくグリスニングが防止された眼内レンズを形成し得る。
【0077】
多官能の第ニモノマーのうち他の多官能モノマーとして、特に多官能(メタ)アクリレートモノマーを使用することが好ましい。
多官能(メタ)アクリレートモノマーとは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を分子内に2つ以上有する(メタ)アクリレートモノマーをいう。多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1−アクリロイキシ−3−メタクロキシプロパン、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記の中でも、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレートが好ましく、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0078】
(a)第一モノマーと、(b)多官能の第ニモノマーとの好ましい組み合わせとしては、下記の(1)〜(3)が挙げられる。
(1)一般式(I)で表される単官能モノマーと、一般式(AI)で表される化合物以外の多官能のモノマー(他の多官能モノマー)
(2)一般式(I)で表される単官能モノマーと、一般式(AI)で表される多官能モノマーと、他の多官能モノマー
(3)一般式(I)で表される単官能モノマーと、一般式(AI)で表される多官能モノマー
【0079】
本発明の眼内レンズ用硬化性樹脂組成物は上記(1)〜(3)を含むことで柔軟性に優れ、高い屈折率を有し、水中においても外観の変化がなくグリスニングの発生を防止された眼内レンズを形成し得る。
【0080】
(b)多官能の第ニモノマーの量は、本発明に係る硬化性樹脂組成物中のモノマー総量に対して0.05〜40質量%含まれることが好ましく、0.1〜30質量%含まれることがより好ましく、2〜8質量%含まれることがより好ましい。(b)多官能の第ニモノマーとして一般式(AI)で表される多官能モノマーと他の多官能モノマーとを併用する場合、一般式(AI)で表される多官能モノマーは、他の多官能モノマーに対して50〜90質量%含まれることが好ましく、60〜85質量%含まれることがより好ましく、65〜80質量%含まれることがより好ましい。この範囲とすることにより、好適な機械強度と柔軟性が両立した硬化物を得ることができる。
【0081】
また、本発明に係る硬化性樹脂組成物は、紫外線吸収能を有するモノマーを含有することが好ましい。
紫外線吸収能を有するモノマーは、組成物中のモノマー総量に対して0.05〜8質量%含まれることが好ましく、3〜6質量%含まれることがより好ましい。モノマー量がこの範囲にあることで好適な紫外線防止効果が得られる。
【0082】
紫外線吸収能を有するモノマーとしては、紫外線吸収能を有し、環状アリルスルフィドモノマーと反応し得るモノマーであれば、いずれも用いることができるが、特に、2−(2’−ヒドロキシ−3’−テトラ−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−(2’−メタクロキシメチル)ベンゾトリアゾールを挙げることができる。
【0083】
また、本発明に係る硬化性樹脂組成物は、黄色着色能を有するモノマーを含有することが好ましい。
黄色着色能を有するモノマーは、組成物中のモノマー総量に対して0.0001〜0.5質量%含まれることが好ましく、0.0001〜0.2質量%含まれることがより好ましい。モノマー量がこの範囲にあることで施術をされた患者が青みを強く感じすぎることを抑制できる。
【0084】
黄色着色能を有するモノマーとしては、黄色着色能を有し、環状アリルスルフィドモノマーと反応し得るモノマーであれば、いずれも用いることができるが、(4−(5−ヒドロキシ−3−メチル−1−フェニル−4−ピラゾリルメチレン)−3−メタクリルアミノ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン)を挙げることができる。
【0085】
<(c)ラジカル重合開始剤>
本発明の硬化性樹脂組成物は、ラジカル重合開始剤を含有する。
ラジカル重合性開始剤としては、光、放射線又は熱に対してラジカルを生成するものであればよく、特に限定されない。本発明の硬化性樹脂組成物においては、併用する重合性化合物の種類、目的とする眼内レンズの各種特性に応じて、公知のラジカル重合開始剤を適宜選択して使用することができる。
【0086】
具体的には、ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−65)、2,2−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等のアゾ系開始剤、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ベンゾイルパーオキサイド、1,1,3,3、−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノールパーオキサイド等の有機過酸化物を挙げることができる。好ましくは、AIBN、V−65、V−601である。
また、光重合開始剤としては、例えば、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メトキシ−1−フェニルプロパンー1−オン、1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル〕−2−ヒドロキシ−2メチル−1プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドなどを挙げることができる。
重合開始剤は単独で又は二種以上を混合して用いることができる。重合開始剤の使用量は、モノマー総量に対して0.1〜5質量%程度が好ましい。
【0087】
〔眼内レンズ用材料〕
本発明に係る眼内レンズ用材料は、本発明に係る眼内レンズ用硬化性樹脂組成物を重合反応させることによって得られる。
より具体的には、前記環状アリルスルフィドモノマーやその他の重合可能な成分を含有するモノマー溶液を調製した後、このモノマー溶液に対し加熱又は光照射を行い、重合反応させることにより得られる。
モノマー溶液の調製は、十分に撹拌して均質なモノマー溶液とすることが好ましい。撹拌条件としては、常法に従うことができる。
熱重合法の場合、反応温度は40〜120℃の温度範囲とすることができ、好ましくは、80〜100℃である。反応時間は1時間〜80時間であることが好ましく、2時間〜48時間であることがより好ましい。光重合法の場合、反応時間は1分〜3時間であることが好ましく、2分〜2時間であることがより好ましい。
【0088】
重合反応の終了は、得られた反応物に対し、アセトン、メチルエチルケトン等の良溶媒を用いて超臨界抽出、溶媒抽出などの抽出操作を加え、抽出された未反応モノマーの量をガスクロマトグラフ質量分析計などを用いて測定することにより、確認することができる。
【0089】
本発明の眼内レンズ用材料が、複数種の環状アリルスルフィドモノマーあるいは、環状アリルスルフィドモノマー及びその他のモノマーとの共重合体である場合、ブロック共重合体、ランダム共重合体のいずれでもよい。通常ランダム共重合体である。
【0090】
本発明の眼内レンズ用材料は、最も好ましい用途である軟性眼内レンズが有すべき特性を有するのが好ましい。例えば、外観は無色透明であることが好ましい。また、屈折率は1.50〜1.65の範囲が好ましく、1.51〜1.65の範囲がより好ましい。
【0091】
〔眼内レンズ〕
本発明の眼内レンズの具体的な実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る眼内レンズの斜視図である。図1に示すように、本実施形態に係る眼内レンズ10は、所定の屈折力を有する光学部11と、光学部11を眼内の所定位置に固定するための支持部12とを有する。
【0092】
光学部11は、前記(a)一般式(I)で表される化合物より選択される少なくとも1種の第一モノマーと、(b)多官能の第ニモノマーと、(c)ラジカル重合開始剤とを含む硬化性樹脂組成物を重合反応させて得られる、眼内レンズ材料から形成されている。
支持部12を形成する材料は特に限定されず、例えば、ポリプロピレン、PMMA(ポリメチルメタアクリレート)、ポリイミド等を用いることができる。また、支持部12を、光学部11と同一又は異種の眼内レンズ材料で形成することも可能である。
【0093】
光学部11(図1)を製造するには、特に限定されず、常法に従って製造することができる。好ましい態様としては、上記の重合反応を眼内レンズ用モールド内にて行う、モールド重合法と呼ばれる方法で行うことである。具体的には、原料となるモノマー溶液を光学部11の形状に対応する形状を有するモールドに充填した後、適宜加圧し、重合と成形を同一型内で行うことにより、光学部11を形成することができる。
【0094】
また、別の製造方法としては、上記重合反応を適当な型又は容器中で行うことにより、棒状、ブロック状、板状等のポリマーを得て、旋盤によって切り出し、切削、研磨工程を経て、所望の形状の光学部11を形成することも可能である。
【0095】
光学部11の表面に対して、アルゴン、酸素、窒素ガスを用いたプラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
本発明に係る眼内レンズは、上記のようにして作製した光学部11に、別途作製した支持部12を取り付けることによって作製することができる。
【0096】
なお、上記実施形態では、図1に示すように光学部11と支持部12とが別部材からなる眼内レンズ10を一例に説明したが、本発明の眼内レンズはこのような形態に限定されない。例えば、本発明の眼内レンズは、図2に示すように、光学部21と支持部22とが一体的に形成された眼内レンズ20のような形態であってもよい。なお、このような形態の眼内レンズ20は、光学部21と支持部22を一体成形可能なモールドを用いて作製することができる。
その他、本実施形態において例示した各種部材の材質、形状、形態、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【実施例】
【0097】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
〔一般式(I)で表される化合物の合成例〕
例示化合物M−15、M−16、M−24を、J.Polym.Sci.:Part A Polym.Chem.2001,39,202.に記載の方法に準じ、下記スキーム(Rは、M−15合成時はメチル基、M−16合成時はフェニル基、M−24合成時は水素原子)によって合成した。出発原料を変更した以外は同様の方法により、合成した。出発原料の置換基を変更することにより、様々な置換基を有する環状アリルスルフィド化合物を合成することができる。
【0098】
【化15】

【0099】
以下に得られた物性データを記述する。
M−15;H NMR (300 MHz,CDCl) δ2.00 (s,3H),3.05(m,4H),3.21(s,4H),4.95(m,1H),5.20(s,2H)
M−16;H NMR(300 MHz,CDCl) δ3.16(d,2H),3.18(d,2H),3.23(s,4H),5.20(s,2H),5.20(m,1H),7.30(m,3H),8.0(m,2H)
M−24;H NMR(300 MHz,CDCl) δ1.54(d,3H),2.92〜3.10(m,2H),3.59(dd,1H),4.51(t,2H),5.51(s,1H),5.63(s,1H)
M−A3;H NMR (300 MHz,CDCl)δ3.18(m,8H),3.24(s,8H),5.29(s,6H),5.29(m,2H),8.05(s,4H)
M−A14;H NMR(300 MHz,CDCl)δ1.65(m,4H),2.20(t,4H),3.02(d,8H),3.21(s,8H),5.01(m,2H),5.22(s,4H)
【0100】
〔眼内レンズの作製〕
(実施例1)
一般式(I)の環状アリルスルフィドモノマーとして、例示化合物M−15を100g、及び、例示化合物M−A14を5g、重合開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN)を0.4gを、容量30mlのサンプル管に加えて十分に撹拌し、均質なモノマー混合溶液を得た。
このモノマー混合溶液をポリプロピレン製の眼内レンズ作成用モールド内に注入した。加圧重合炉で圧力2.5kgf/cm(0.245MPa)の窒素雰囲気中、温度100℃まで昇温した後2時間重合反応を行い、図1に示す眼内レンズ10の光学部11と同様の形状の光学部(直径6mm、厚さ0.6mm)を作製した。
また、上記モノマー混合溶液を別途箱状の容器内で重合させて、シート状試料片(縦15mm、横15mm、厚み0.6mm)を得た。
得られた各試料について、メタノール100ml中に浸漬して未重合モノマーを除去した後、後述の評価を行った。
【0101】
(実施例2〜12、比較例1〜11)
原料モノマー及び重合開始剤の種類及び使用量を表1に示すように変更したほかは実施例1と同様にして、光学部及びシート状試料片を得た。
【0102】
【表1】

【0103】
表1中の各略号に対応する化合物を以下に示す。
・EDMA:エチレングリコールジメタクリレート(和光純薬社製)
・DEDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート(和光純薬社製)
・T−150:2−(2’−ヒドロキシ−3’−テトラ−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−(2’−メタクロキシメチル)ベンゾトリアゾール
・HMPO:4−(5−ヒドロキシ−3−メチル−1−フェニル−4−ピラゾリルメチレン)−3−メタクリルアミノ−1−フェニルー2−ピラゾリンー5−オン
・GAMA:2−ヒドロキシ−1−アクリロイキシ−3−メタクロキシプロパン(合成品)
・PEA:2−フェニルエチルアクリレート(和光純薬社製)
・HPPA:2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート(和光純薬社製)
・POEMA:2−フェノキシエチルメタクリレート(アルドリッチ社製)
・BA:ブチルアクリレート(和光純薬社製)
・AIBN :アゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)
・V−65 :2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬社製)
・V−601:ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬社製)
【0104】
なお、実施例1〜6、8〜11で得られた各試料を、アセトン、メチルエチルケトンなどの良溶媒で6時間ソックスレー抽出し、ガスクロマトグラフ質量分析計で未反応モノマー総量を測定したところ、何れも50ppm以下であった。
一方、比較例1〜11で得られた各試料に対して、同様に未反応モノマー総量を測定したところ何れも50ppm以下であった。
【0105】
〔評価〕
実施例1〜6、8〜11及び比較例1〜6で作製した各試料について、以下の項目の評価を行った。
1.外観
上記で作製した光学部を23℃の水中に24時間浸漬した後、光学部の側面に白色ランプ光(オリンパス(株)社製・LG−PS2)を照射し、これを肉眼にて観察して、透明性及び変色の有無を調べた。評価は以下の基準に基づいて行った。
(評価基準)
○:無色透明、△:わずかに白濁、×:白濁
【0106】
2.屈折率
アタゴ(株)社製屈折率計DR−M2を用いて、上記で作製した光学部の23℃におけるe線(546.1nm)での屈折率を測定した。
【0107】
3.グリスニング
上記で作製した光学部を33℃の水中に24時間浸漬し、ついで28℃又は23℃の水中に浸漬した後、実体顕微鏡(オリンパス(株)社製・U−PMTVC)を用いて外観を観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
A:水中において、33℃から23℃への温度変化でも水泡や白濁がなく、優れた透明性が維持されている。
B:水中において、33℃から23℃への温度変化では僅かに水泡や白濁が認められるが、33℃から28℃への温度変化においては水泡や白濁がなく、優れた透明性が維持されている。
C:水中において、33℃から23℃への温度変化では水泡や白濁が著しく、33℃から28℃への温度変化でもわずかに水泡や白濁が認められる。
D:水中において、33℃から28℃への温度変化でも水泡や白濁が著しい。
E:温度変化にかかわらず、最初から材料に水泡や白濁が存在し不透明である。
【0108】
【表2】

【0109】
表2より、実施例1〜6、8〜11の材料は、水中での外観も問題なく、眼内レンズとして好適な物性を有することがわかる。また、屈折率は各ポリマーとも1.55以上で、水中での温度変化においてグリスニングを抑制する効果が高いことがわかる。グリスニングに関しては、親水性モノマーを添加することでグリスニングを抑制できるという従来の知見はあるものの、本発明に係るモノマーはそのような親水性モノマーではないため、予期せぬ効果が現れていることが示されている。
一方、比較例1〜6の材料は、特にグリスニングの発生が顕著であることがわかる。
【符号の説明】
【0110】
10,20 眼内レンズ
11,21 光学部
12,22 支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式(I)で表される化合物より選択される少なくとも1種の第一モノマーと、(b)多官能の第ニモノマーと、(c)ラジカル重合開始剤とを含有する眼内レンズ用硬化性樹脂組成物。
【化1】

[一般式(I)中、Rは水素原子又はアルキル基を表す。Xは酸素原子又は硫黄原子を表し、Xが硫黄原子を表す場合、XはCHRを表し、Rは水素原子又はアルキル基を表す。Xが酸素原子を表す場合、XはC=Oを表す。R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基又はハロゲン原子を表す。nは0又は1を表す。]
【請求項2】
前記一般式(I)において、Xが硫黄原子を表し、XはCHRを表し、nが1である、請求項1に記載の眼内レンズ用硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(b)多官能の第ニモノマーが、下記一般式(AI)で表される化合物及び多官能(メタ)アクリレートモノマーより選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の眼内レンズ用硬化性樹脂組成物。
【化2】

[一般式(AI)中、RA1は水素原子又はアルキル基を表す。XA1は酸素原子又は硫黄原子を表し、XA1が硫黄原子を表す場合、XA2はCHRA2を表し、RA2は水素原子又はアルキル基を表す。XA1が酸素原子を表す場合、XA2はC=Oを表す。RA3〜RA5はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基又はハロゲン原子を表す。nは0又は1を表す。mは2〜6を表す。一般式(AI)はRA1〜RA5のいずれかを介して結合した2〜6量体を表す。]
【請求項4】
前記(b)多官能の第ニモノマーを、組成物中のモノマー総量に対して0.05〜40質量%含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼内レンズ用硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
更に、紫外線吸収能を有するモノマーを、組成物中のモノマー総量に対して0.05〜8質量%含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の眼内レンズ用硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
更に、黄色着色能を有するモノマーを、組成物中のモノマー総量に対して0.0001〜0.5質量%含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の眼内レンズ用硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の眼内レンズ用硬化性樹脂組成物を重合反応させて得られる眼内レンズ材料。
【請求項8】
光学部と、前記光学部を眼内の所定位置に固定するための支持部とを有する眼内レンズであって、前記光学部が、請求項7に記載の眼内レンズ材料から形成された、眼内レンズ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−246902(P2010−246902A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61628(P2010−61628)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】