説明

眼内挿入用レンズの挿入器具

【課題】生理食塩水等の液体を潤滑剤として使用するのに特に好適な眼内挿入用レンズの挿入器具を提供する。
【解決手段】挿入器具は、ノズル12cを先端に有する本体と、該本体内に配置された眼内挿入用レンズを、ノズルを通して眼内に押し出す押出し軸とを有する。押出し軸は、液体を注入するための注入部と、該注入部から注入された液体を本体の内部に流入させる流路とを有する。また、挿入器具は、ノズルの周壁の内部又は内面に、本体内から液体を流出させるための流路28が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白内障で水晶体を摘出した後に水晶体の代わりに挿入されたり、屈折異常を矯正する等の目的で眼内に挿入されたりする眼内挿入用レンズを眼内に挿入するための挿入器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在の白内障の手術では、眼球の前嚢の中心部を切除し、白濁した水晶体を超音波吸引装置によって除去した後、そこに人工の眼内挿入用レンズを配置する。レンズを眼内に配置する際には、該レンズの可撓性を利用し、折畳むなどして小さく変形させて小さな切開創から眼内へ挿入する術法が主流となっている。これにより、術後の乱視が防止される。
【0003】
そして、手術においては、器具本体に装填されたレンズを押出し軸によって該器具本体内を移動させながら小さく変形させ、切開創に差し込まれた挿入筒(ノズル)の先端開口からレンズを眼内に押し出す挿入器具が多く用いられている。このような挿入器具は、白内障の手術だけではなく、視力補正治療等での眼内挿入用レンズの挿入手術においても用いられる。
【0004】
これらの挿入器具を用いてレンズを眼内に挿入する際には、レンズが挿入器具内でスムーズに移動し、かつ変形するように、挿入器具内にヒアルロン酸ナトリウム等の粘弾性物質が潤滑剤として注入される。また、粘弾性物質には、レンズが挿入される眼の前房の空間を膨らませる(広げる)という役割もある。
【0005】
従来は、注射器を用いて、挿入筒の先端開口から粘弾性物質を注入したり、挿入器具本体に設けられた注入口から粘弾性物質を注入したりしている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−351196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、粘弾性物質を使用すると、以下のような問題が生じる。
【0007】
1.レンズとともに眼内に入った粘弾性物質は、その粘性によって、眼内から除去することが困難又は手間を要する。したがって、手術の時間が長くなる。
【0008】
2.眼内においてレンズを挿入するための空間は狭いため、粘弾性物質がレンズより先に眼内に入ると、該空間が粘弾性物質によりブロックされてしまい、レンズを該空間へ挿入し難くなる。
【0009】
3.ヒアルロン酸ナトリウム等の粘弾性物質は高価なものが多い。
【0010】
このように、粘弾性物質は潤滑剤としては有効であるが、欠点もある。このため、粘弾性物質に代えて、手術で一般的に使用される、粘性が低く、安価な生理食塩水の使用が望まれている。
【0011】
本発明は、生理食塩水等の液体を潤滑剤として使用するのに特に好適な眼内挿入用レンズの挿入器具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面としての挿入器具は、ノズルを先端に有する本体と、該本体内に配置された眼内挿入用レンズを、ノズルを通して眼内に押し出す押出し軸とを有する。そして、押出し軸は、液体を注入するための注入部と、該注入部から注入された液体を本体の内部に流入させる流路とを有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の他の側面としての挿入器具は、ノズルを先端に有する本体と、該本体内に配置された眼内挿入用レンズを、ノズルを通して眼内に押し出す押出し軸とを有する。そして、ノズルの周壁の内部に、本体内から液体を流出させるための流路が形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の他の側面としての挿入器具は、ノズルを先端に有する本体と、該本体内に配置された眼内挿入用レンズを、ノズルを通して眼内に押し出す押出し軸とを有する。そして、ノズルの周壁の内面に、本体内から液体を流出させるための流路となる溝が形成されていることを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明の他の側面としての挿入器具は、ノズルを先端に有する本体と、該本体内に配置された眼内挿入用レンズを、ノズルを通して眼内に押し出す押出し軸とを有する。そして、ノズルの周壁に、本体内から液体を流出させるための開口が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生理食塩水等の液体を、押出し軸に設けられた注入部および流路を通じて本体内に流入させることができる。本体内に流入した液体は、本体内においてレンズが移動する空間(ノズル内部も含む)を流れて、ノズルの先端から排出される。このため、粘弾性物質を使用しなくても、液体の流量を適切に設定することで、レンズの本体内での潤滑機能と眼の前房の空間を膨らませる機能とを果たさせることができる。
【0017】
しかも、粘性の低い生理食塩水等の液体を使用することで、眼内のレンズ挿入空間がブロックされることがなく、レンズをスムーズに眼内に挿入することができる。
【0018】
また、ノズルの周壁の内部に液体の流路を形成したり、ノズルの周壁の内面に溝を形成したりすることにより、ノズル内にレンズが存在する状態でも液体の眼内又は眼外への流量を十分に確保することができる。
【0019】
さらに、ノズルの周壁に液体を流出させる開口を形成することにより、ノズルの眼内への挿入量を調節するだけで、液体の眼内への流入量をコントロールすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0021】
図1には、本発明の実施例1である眼内挿入用レンズの挿入システムを示す。図1中の上側の図は上面図、下側の図は側面図である。
【0022】
10は本実施例の眼内挿入用レンズ(以下、単にレンズと記す)の挿入器具であり、15は生理食塩水等の液体14を挿入器具10に供給する供給装置である。
【0023】
挿入器具10は、本体12と、押出し軸16とにより構成されている。本体12は、筒部12aと、該筒部12aの先端に設けられたレンズ保持部12bと、該レンズ保持部12bの先端に設けられたノズル部12cと、筒部12aよりも基端側(ノズル部12cとは反対側)に設けられた持ち手部12eとを有する一体部品として形成されている。筒部12aと持ち手部12eは中空構造を有し、その内部には押出し軸16が挿入されている。
【0024】
レンズ保持部12bは、中空の平板形状を有し、その内部には、レンズ1がその光学部(眼内で水晶体に代わる部分)1aに実質的に応力がかからない状態で収容保持されている。ここにいう実質的に応力がかからない状態とは、長期間保管されても、光学部1aの光学的機能に影響するような応力や変形が生じない状態をいう。レンズ1は、光学部1aと、線材等で形成され、該光学部1aを眼内で支持する支持部1bとを有する。レンズ保持部12bへのレンズ1の装填を可能とするために、レンズ保持部12bは上下に2分割される構成又は蓋が開閉する構成を有する。
【0025】
なお、レンズ1の形態はこれらに限らず、光学部と平板状の支持部を有するものでもよい。また、本実施例では、該挿入器具の工場出荷時等、病院に納入される前に予めレンズ1をレンズ保持部12bに装填しておくいわゆるプリロードタイプの挿入器具について説明するが、本発明は、これ以外の挿入器具にも適用することができる。例えば、挿入器具とレンズとが別々に保管され、手術直前にレンズが挿入器具に装填されるタイプのものにも本発明を適用することができる。
【0026】
さらに、本実施例では、持ち手部12e〜ノズル部12cまでを一体成形した本体12を有する場合について説明するが、本発明の挿入器具はこれに限られない。例えば、ノズルを持ち手部からレンズ保持部までが一体成形された本体に装着して使用するものでもよい。また、ノズル部とレンズ保持部を有する部品を、筒部と持ち手部とを有する本体に装着して使用するものでもよい。これらいずれの場合も、組み立て後(使用時)には、持ち手部からノズル部までが一体化されて本体として機能するので、本実施例と同様に、本発明の挿入器具に含まれる。
【0027】
押出し軸16は、レンズ1の眼内への挿入前の状態において本体12から露出した第1の軸部16aと、該第1の軸部16aの先端に設けられ、本体12内にて軸方向に延びる第2の軸部16bとを有する。第2の軸部16bの先端には、レンズ1の眼内への挿入時にレンズ保持部12bに保持されたレンズ1に接触してこれをノズル部12cを通して眼内に押し出すレンズ接触部16cが形成されている。
【0028】
押出し軸16(第1の軸部16a)の基端部には、注入部24が形成されている。該注入部24には、供給装置15から延びるチューブ13が接続されている。
【0029】
注入部24の内側には、該チューブ13からの生理食塩水を取り込むための注入口24aが形成されている。さらに、第1の軸部16aの内部には、注入口24aから先端方向(軸方向)に延びる流路16dが形成されている。この流路16dの先端は、第1の軸部16aの先端部、言い換えれば、押出し軸16におけるレンズ接触部16cよりも基端側の部分(中間部)において本体12内の空間に開放されている。この開放口が、生理食塩水の本体12内への流出口16eとなる。
【0030】
供給装置15としては、液体14をボトルに入れ、液面を挿入器具10よりも高くすることで生じる圧力差を利用して挿入器具10に供給する装置を用いることができる。また、白内障手術で一般的に用いられる超音波乳化吸引装置のイリゲーション部を供給装置15として用いてもよい。
【0031】
このように構成された挿入システムにおいて、供給装置15から生理食塩水等の液体14が挿入器具10の注入部24(注入口24a)に供給されると、液体14は、押出し軸16内の流路16dを通り、流出口16eから本体12の持ち手部12eの内部空間に流入する。そして、液体14は、筒部12aの内部空間を通って、レンズ保持部12b、さらにはノズル部12cに流れ、ノズル部12cの先端開口12dから外部に排出される。
【0032】
図2には、ハッチングにより、供給装置15からノズル部12cの先端開口12dまで連通する液体14の流路を示している。供給装置15からの液体14の流量を適切に設定することにより、常に液体14を本体12内をノズル部12cの方向に流し、かつノズル部12cの先端開口12dから排出させることができる。
【0033】
ところで、図1に示す挿入器具10では、本体12の内部空間の開口部分として、ノズル部12cの先端開口12d以外に、本体12における持ち手部12eよりも基端側に開口部20を形成している。具体的には、本体12の基端部には、レンズ挿入時に押出し軸16をネジ作用によって押出し方向に進めるためのネジ部を有する筒部材22が挿入されており、該筒部材22の外周と本体12との間に開口部20が隙間又は溝状の通路として形成されている。これは、レンズ保持部12bが上下に2分割された構成や開閉可能な蓋を有する場合において、その隙間から本体12内の液体14が漏れ出て、レンズ保持部12bから持ち手部12eまでの特に手で持つ部分が濡れてしまうことを防止するためである。すなわち、持ち手部12eよりも基端側に設けた開口部20から余分な液体14を排出させることにより、レンズ保持部12bから液体14が漏れ出ることを防止し、挿入器具10の持ち易さが低下しないようにしている。
【0034】
なお、このような水抜き用の開口部は、ノズル部12cに供給されるべき液体14の流れに直接影響を及ぼさなければ、その数や大きさ、場所は問わない。また、注入部24からノズル部12cに向かう流路(図2にてハッチングした部分)に、該流路内での流れに影響を与えない程度の小さな径を有する水抜き用の通路をつなげてもよい。
【0035】
上述した筒部材22の内側には、本体12の基端部から筒部12aの先端近くまで延びる筒状の中間部材25が圧入されている。そして、中間部材25の内面における第1の軸部16aのうち流出口16eよりも若干基端側の部分には、シーリング用のOリング23が取り付けられている。このため、筒部材22の内側から液体14が漏れ出ることは阻止されている。
【0036】
このように、流出口16eをOリング23によるシール部より若干ノズル部12c側に配置すると、流出口16eから本体12内に流れ込むときに、一部の液体はノズル部12c側とは反対側に流れるが、そのすぐ基端側はOリング23でシールされているので、該液体14はすぐにノズル部12cに向けて流れる。
【0037】
そして、このような逆流防止構成によって、水抜き用の開口部20付近への液体14の流れを抑制し、該開口部20からの水漏れを最小限とすることができる。すなわち、不必要な液漏れを防止することができる。
【0038】
なお、Oリング23を1つ用いただけでは、水漏れを完全に防止できないことが多い。このため、本実施例では、複数のOリング23を用いている。但し、複数のOリング23を用いると、そのOリング23と中間部材25との摩擦抵抗が増大し、押出し軸16のスムーズかつ微妙な操作が行いにくくなる。このため、1つのOリング23は水漏れの遮断機能を重視して径を大きめとし、他のOリング23は若干漏れた水の流出を回避できる程度に径を小さめにする等の工夫をするとよい。すなわち、サイズの異なるOリング23を複数設けることで、水漏れの防止と押出し軸16の適度な操作感とを両立させることができる。
【0039】
図3A及び図3Bには、ノズル部12cの断面形状を示している。これらの図の右側の図がノズル部12cをレンズ押出し方向に沿って切断した断面であり、左側の図が該ノズル部12cのレンズ押出し方向に直交する断面である。
【0040】
レンズ1がノズル部12c内を通過する際には、レンズ1の存在によってノズル部12c内で液体14が通過する空間が非常に狭くなる。このため、ノズル部12cから流出する液体14の流量が少なくなり、眼の前房を十分に膨らませることができなくなるおそれがある。
【0041】
このため、本実施例では、図3A及び図3Bに示すように、ノズル部12cの周壁の内部(すなわち、周壁の厚み内)又は内面(内周面)に、液体14の流路面積を確保するための穴(流路)28や溝29を形成している。これらの穴28や溝29は、ノズル部12cの基端部にて開口し、ここから先端開口12dまで長手方向に延びている。
【0042】
また、図3Cに示すように、ノズル部12cの周壁内面に、ノズル部12cの基端部から先端開口12dまで長手方向に延びる複数のレール30を形成してもよい。レンズ1がレール30と接しながらノズル部12c内を移動することにより、該レンズ1の外周には液体14の流路となる溝29′が形成される。
【0043】
これらによれば、ノズル部12cの内側にレンズ1が存在していても、本体12(筒部12a)からノズル部12cを介して眼内に流入させる液体14の流量を十分に確保することができる。したがって、前房を十分に膨らませて、スムーズにレンズ1を挿入することができる。
【0044】
また、図3Dに示すように、ノズル部12cのうち眼に挿入される先端部分の付近まで、ノズル部12cの周壁内部にて長手方向に延びる穴(流路)31を形成し、ノズル部12cのうち眼に挿入される部分の周壁外面にて該穴31を開口させて液体14が排出されるようにしてもよい。このような周壁外面の開口31aを有する穴31を形成することにより、眼の前房の膨らみが不十分である場合には該開口31aを含めてノズル部12cを前房内に挿入することで、液体14を前房内に流入させ、該前房を十分に膨らませることができる。一方、眼の前房の膨らみが十分である場合には、ノズル部12cのうち開口31aよりも先方の部分のみを前房内に挿入し、開口31aを眼外に露出させることで、液体14がそれ以上前房内に流入することを回避でき、前房の膨らみ(圧力)が過度にならないようにすることができる。すなわち、ノズル部12cの前房への挿入量を調節するだけで、液体14の眼内への流量をコントロールすることができ、前房内の圧力をレンズ挿入に対して最適にすることができる。
【0045】
なお、図3Dに示した穴31と、図3A〜図3Cに示した穴28や溝29,29′とを同じノズル部12cに形成してもよい。
【0046】
前述したように、本実施例では、チューブ13を接続する注入部24を、押出し軸16の基端部に設けているが、注入部24とチューブ13が露出したままだと、押出し軸16の押し込み操作や回転操作を行いにくい。また、押出し軸16を操作する手でチューブ13を変形させ、挿入器具10への液体14の供給を妨げるおそれもある。
【0047】
このため、本実施例では、図1に示すように、注入部24とこれに接続されるチューブ13の端部付近を覆うカバー32を押出し軸16に取り付けている。押出し軸16を操作する際は該カバー32を持つことで、チューブ13を変形させることなく容易に操作を行うことができる。
【0048】
注入部24に接続されるチューブ13の径には様々なサイズがある。例えば、超音波乳化吸引装置のイリゲーション部のコネクタのサイズは、その装置のメーカーによって異なり、これに応じてチューブ13のサイズも異なる。また、液体14の流量をチューブ13のサイズで調整することができれば便利である。
【0049】
このため、図4に示すように、押出し軸16の基端部に、サイズ(接続可能なチューブ13のサイズ)が異なる複数の注入部24を設けてもよい。この場合、チューブ13を接続しない注入部24には、栓又は蓋ができるようにするとよい。
【0050】
また、本システムでは、粘性の低い生理食塩水等の液体14を使用するため、粘弾性部材を使用する場合に比べて押出し軸16の操作が軽くなり、押出し軸16を勢いよく押してしまうことが考えられる。Oリング23の径を増加させることである程度このような不適切な操作を回避できるが、完全ではない。
【0051】
このため、本実施例では、本体12の基端部(押出し軸16の外周)にばね35を配置している。これにより、押出し軸16の押し込み操作に抵抗を与え、不適切に勢いのある押し込み操作が行われることを確実に回避している。
【0052】
レンズ1と生理食塩水等の液体14を排出できる本システムでは、眼内への液体14の流入量をコントロールできれば、使用感が向上する。手術時には様々な状況が起こりえるため、レンズ1を挿入する際に眼圧を低めに設定したいときなどに対応できるからである。
【0053】
そこで、前述した図3Dに示すような穴31をノズル部12cの周壁内部に形成してもよいが、図5A及び図5Bに示すように、ノズル部12cの先端開口12dの付近に、ノズル部12cの周壁を径方向に貫通するスリット36やノズルホール37を形成してもよい。スリット36は、先端開口12dにつながった溝形状の開口である。また、ノズルホール37は、先端開口12dとは別に形成された穴である。
【0054】
また、図5Cに示すように、ノズル部12cの先端開口12d′を、レンズ押出し方向に対して斜めになるように形成してもよい。
【0055】
前房の膨らみが不十分である場合には、これらスリット36及びノズルホール37を先端開口12dとともに前房内に挿入したり、斜めの先端開口12d′の全部を前房内に挿入したりする。
【0056】
一方、眼の前房の膨らみが十分である場合には、スリット36、ノズルホール37及び先端開口12d′のうち少なくとも一部を前房外に露出させることで、ノズル部12cに流れ込んだ液体14の一部を眼外へ排出することができる。これにより、ノズル部12cの先端開口12d,12d′から眼内に流れ込む液体14の量をコントロールできる。
【0057】
また、手術中、常に液体14が流れている必要はないので、必要に応じて液体14の流れを停止させることができれば、使いやすい。このため、本実施例では、図1に示すように、チューブ13にクリップ38を設け、必要に応じてクリップ38を脱着して液体14を流したり止めたりできるようにしている。これにより、液体14の使用量が少なくなり、不必要な液体14の排出による手術室の水濡れが防止される。
【実施例2】
【0058】
図6には、本発明の実施例2である挿入システムの上面図および側面図を示している。なお、本実施例において、実施例1と共通する構成要素又は構成部分には、実施例1と同符号を付している。
【0059】
本実施例の挿入器具10Aでは、供給装置15からチューブ13を介して、本体12の筒部12aに設けられた注入部24’に液体が供給される。この場合、実施例1で説明した押出し軸16内の流路は不要である。このため、実施例1の挿入器具に比べて構成が簡単になる。
【実施例3】
【0060】
図7には、本発明の実施例3である挿入システムの側面図を示している。なお、本実施例において、実施例1,2と共通する構成要素又は構成部分には、実施例1,2と同符号を付している。
【0061】
本実施例の挿入器具10Bでも、本体12の筒部12aに注入部24″が設けられている。但し、本実施例では、注入部24″に注射器40の針を刺し、該注射器40から液体14を本体12内に注入する。
【0062】
この場合も、実施例1で説明した押出し軸16内の流路は不要である。このため、実施例1の挿入器具に比べて構成が簡単になる。また、本体12に対するチューブの接続が不要であるため、挿入器具の扱いが容易になる。
【実施例4】
【0063】
図8には、本発明の実施例4である挿入器具10Cの上面図および側面図を示している。この挿入器具10Cは、筒部12a、レンズ保持部12bおよび持ち手部12eを有する本体12と、レンズ保持部12bの先端に装着されるノズル12cとを有する。
【0064】
レンズ保持部12bには、レンズ1に実質的に応力をかけないで保持した状態から、レンズ1を変形させながらレンズ保持部12bの内側下方の空間に押し込む変形機構18が設けられている。レンズ1を該空間に押し下げることで、押出し軸16による眼内への押出しが可能になる。
【0065】
この挿入器具10Cの押出し軸16にも、図1の挿入器具10と同様に、注入部24及び流路16dが形成され、押出し軸16の中間部には、不図示の流出口が形成されている。
【0066】
なお、本実施例の挿入器具10Cにおいて、実施例2,3と同様に、筒部12aに注入部を設け、ここにチューブを接続したり注射器の針を刺したりして液体を注入するようにしてもよい。
【0067】
また、本実施例と実施例2,3に示した挿入器具10A〜10Cにおいても、図3A〜図3Dや図5A〜図5Cに示したように、ノズル(部)12cの周壁に、液体14の流路又は排出口となる穴、溝又は開口を形成してもよい。
【0068】
さらに、図3A〜図3Dや図5A〜図5Cに示した構成は、本体に注入部を有さない挿入器具であっても適用することは可能である。例えば、ノズルの先端開口を、ビーカー等の容器内の液体に挿入し、押出し軸をレンズ挿入方向とは反対側に引くことで、本体内に液体を導入するタイプの挿入器具にも適用することができる。
【0069】
このように、本発明は、様々な形態の挿入器具に適用することができる。なお、本発明で用いられる液体は、生理食塩水に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施例1である眼内挿入用レンズの挿入システムを示す上面図および側面図。
【図2】図1の上面断面図であり、流路をハッチングで表した図。
【図3A】実施例1におけるノズル部の構成例を示す断面図。
【図3B】実施例1におけるノズル部の構成例を示す断面図。
【図3C】実施例1におけるノズル部の構成例を示す断面図。
【図3D】実施例1におけるノズル部の構成例を示す断面図。
【図4】実施例1の挿入システムの変形例を示す図。
【図5A】実施例1におけるノズル部の構成例を示す斜視図。
【図5B】実施例1におけるノズル部の構成例を示す斜視図。
【図5C】実施例1におけるノズル部の構成例を示す斜視図。
【図6】本発明の実施例2である眼内挿入用レンズの挿入システムを示す上面図および側面図。
【図7】本発明の実施例3である眼内挿入用レンズの挿入システムを示す側面図。
【図8】本発明の実施例4である眼内挿入用レンズの挿入システムの上面図および側面図。
【符号の説明】
【0071】
1 眼内挿入用レンズ
12 本体
12a 筒部
12b レンズ保持部
12c ノズル部
13 チューブ
14 液体
15 供給装置
16 押出し軸
16d 流路
16e 流出口
23 Oリング
24,24′,24″ 注入部
28,31 穴
29,29′溝
36 スリット
37 ノズルホール
35 ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルを先端に有する本体と、
該本体内に配置された眼内挿入用レンズを、前記ノズルを通して眼内に押し出す押出し軸とを有し、
前記押出し軸は、液体を注入するための注入部と、該注入部から注入された液体を前記本体の内部に流入させる流路とを有することを特徴とする眼内挿入用レンズの挿入器具。
【請求項2】
前記注入部は、前記押出し軸の基端部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の眼内挿入用レンズの挿入器具。
【請求項3】
前記押出し軸は、先端部に前記眼内挿入用レンズに接触するレンズ接触部を有し、
前記流路から前記本体の内部に液体を流出させる流出口は、前記押出し軸における前記レンズ接触部よりも基端部に近い位置に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の眼内挿入用レンズの挿入器具。
【請求項4】
前記注入部が前記押出し軸に複数設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の眼内挿入用レンズの挿入器具。
【請求項5】
前記押出し軸に取り付けられ、前記注入部と該注入部に接続されて液体を供給するチューブの端部とを覆うカバーを有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の眼内挿入用レンズの挿入器具。
【請求項6】
ノズルを先端に有する本体と、
該本体内に配置された眼内挿入用レンズを、前記ノズルを通して眼内に押し出す押出し軸とを有し、
前記ノズルの周壁の内部に、前記本体内から液体を流出させるための流路が形成されていることを特徴とする眼内挿入用レンズの挿入器具。
【請求項7】
前記流路は、前記ノズルの周壁の外面にて開口していることを特徴とする請求項6に記載の眼内挿入用レンズの挿入器具。
【請求項8】
ノズルを先端に有する本体と、
該本体内に配置された眼内挿入用レンズを、前記ノズルを通して眼内に押し出す押出し軸とを有し、
前記ノズルの周壁の内面に、前記本体内から液体を流出させるための流路となる溝が形成されていることを特徴とする眼内挿入用レンズの挿入器具。
【請求項9】
前記ノズルの周壁の内面における周方向複数箇所に前記溝が形成され、該複数の溝の間に前記レンズを押出し方向にガイドするガイド面が形成されていることを特徴とする請求項8に記載の眼内挿入用レンズの挿入器具。
【請求項10】
ノズルを先端に有する本体と、
該本体内に配置された眼内挿入用レンズを、前記ノズルを通して眼内に押し出す押出し軸とを有し、
前記ノズルの周壁に、前記本体内から液体を流出させるための開口が形成されていることを特徴とする眼内挿入用レンズの挿入器具。
【請求項11】
前記開口は、前記ノズルの先端に形成された前記レンズが通過する開口とは別に形成されていることを特徴とする請求項10に記載の眼内挿入用レンズの挿入器具。
【請求項12】
前記開口は、前記ノズルの先端に形成された前記レンズが通過する開口につながるように形成されていることを特徴とする請求項10に記載の眼内挿入用レンズの挿入器具。


【図5A】
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【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−190360(P2007−190360A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205397(P2006−205397)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(391041981)キヤノンスター株式会社 (21)
【Fターム(参考)】