説明

眼振誘発装置

【課題】 外耳道の湾弯曲度等の個人差のある場合でも、正確に温度管理されたエアを外耳道最深部後上壁に吹き付けることにより、精度の良い検査を行うことができる眼振誘発装置を提供する。
【解決手段】 プローブ10Aに設けられたエアノズル31から外耳道最深部後上壁にエアを吹き付け続けて、正確な温度管理の元、効率よく内耳に刺激を与えて眼振を誘発させ、該眼振から平衡機能障害を検査するための眼振誘発装置1Aであって、前記プローブ10Aは、外耳道最深部後上壁に光を照射するように配置された、少なくとも1つの非発熱性の光源41を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耳内の外耳道最深部後上壁にエアを吹き付けて、内耳に刺激を与えて眼振を誘発させ、この眼振から平衡機能障害を検査する眼振誘発装置に係り、特に、精度良く内耳に刺激を与えることができる眼振誘発装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、平衡機能検査において左右の内耳機能(この場合前庭機能のこと)を別々に評価し得る検査は温度眼振検査(カロリック検査)をおいて他に無い。
【0003】
この温度眼振検査は左右の内耳機能を別々に定量評価することが可能であり、これにより平衡機能障害(メマイなど)の原因を診断し得る重要な検査である。この検査において、検査者は、水または空気を使い被検者の内耳を冷却(または加温)し、眼振を誘発して検査を行うが、この時、水を用いた検査では、水が耳内に流入されることで患者に不快感を強く与える。さらに鼓膜穿孔がある場合は中耳に検査水が流入し感染を起こす可能性がある。一方、空気を使用すると、被検者の不快感は水に比べ非常に軽減され、鼓膜穿孔がある症例でも感染を起こす可能性は極めて低くなる。しかし、空気を用いた場合は水を用いた場合と比べて、検査手技による結果の差が生じやすい。このため、外耳道最深部後上壁を正確に冷却できる改良が必要であった。
【0004】
このように、これらの温度眼振検査は、実際にメマイなどの平衡機能障害の症状を起こしている患者(つまり被検者のこと)に対して施行するため、被検者の身体的負担を少しでも軽減する事は非常に重要な意味を持つ。そこで、媒体に空気を使用することにより被検者の負担を軽減でき、さらに感染の可能性を極めて低くすることが可能であることから、このようなエアを用いた検査(エアカロリック検査)を行うための装置が利用されている。
【0005】
このようなエアカロリック検査を行うための眼振誘発装置の一例として、図4に示すような、眼振誘発装置80が挙げられる。この眼振誘発装置80は、エア発生装置(図示せず)からプローブ70の耳鏡部73の先端に、温度センサ77により温度制御されたエアを送るように構成されている。そして、プローブ70は、検査者が把持するための把持部71と、この把持部71の上方にある支持柱72から延びた耳鏡部73と、耳鏡部73の内部にエアを送るエアノズル74と、エアノズル74の先端を照射する発熱性の光源75と、耳内を拡大視する拡大レンズ76と、を備えている。
【0006】
この眼振誘発装置80を使用する際には、検査者は、耳鏡部73を被検者の外耳道から挿入し、光源75からの照射光を利用して外耳道最深部後上壁を確認する。そして、検査者は、プローブ70の先端からエアを外耳道最深部後上壁に吹き付けて、被検者の内耳に刺激を与え、この刺激により誘発される被検者の眼振の最大緩徐相速度を測定することにより、メマイなどの平衡機能障害の検査を行うことができる。
【0007】
また、この他にも、上流端に空気を加圧する加圧空気導入部と、下流端に加圧空気導入部を吹き出すノズル部を有するプローブと、を備えた温度眼振誘発装置であって、エアノズルの先端には温度センサが設けられ、この温度センサからの測定値に基づいて、空気温度を調整する温度眼振誘発装置が提案されている(特許文献1)。
【0008】
【特許文献1】特開平2001−124467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、このような装置は、たとえ光源を用いた場合であっても、検査者が、耳内の外耳道最深部後上壁を確認できる明るさを確保することができず、正確に、外耳道最深部後上壁にエア(空気)を吹き付け続けることは困難であった。すなわち、耳内の観察視野を確保するためには、エアノズルの近傍に光源を配置し、外耳道にランプを近づけることが好ましいが、光源が発熱するために、エアノズルと共にエアが加熱されて、検査精度が損なわれることから、光源をエアノズルから離さざるをえなかった。
【0010】
さらに、このような装置は、耳鏡部が装置に固定されているため、耳鏡部を用いて外耳道の弯曲をうまく矯正することや、外耳道に生えた毛を押さえつけて外耳道最深部を観察することが難しかった。これに加えて、被検者の外耳道の弯曲度、大きさ、深さ、毛の密度、又は鼓膜の角度には、個人差があり、検査者が、正確にエアを外耳道最深部後上壁に吹き付けることは一層困難なものであった。
【0011】
この他にも、発熱性の光源は、上述したように、配置に制限を受けるため、光源が検査者の目線と重なることもあり、検査時には、検査者の視野を十分確保することができない場合があった。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、たとえ、外耳道の弯曲度等に個人差のある場合であっても、正確に温度管理されたエアを外耳道最深部後上壁に吹き付け続けることにより、より正確に眼振を誘発し、精度の高い適切な検査を行うことができる眼振誘発装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく多くの実験と研究を行うことにより、外耳道最深部後上壁に安定した温度のエアを吹き付け続けるためには、光源を非発熱性の光源にすることが望ましく、このような光源を用いることにより、外耳道に近い箇所に(エアノズルに隣接して)光源を配置することができるとの知見を得た。
【0014】
本発明は、基本的には上記の新たな知見に基づくものであり、本発明に係る眼振誘発装置は、プローブに設けられたエアノズルから外耳道最深部後上壁にエアを吹き付けて、内耳に刺激を与えて眼振を誘発させ、該眼振から平衡機能障害を検査するための眼振誘発装置であって、前記プローブは、前記外耳道最深部後上壁に光を照射するように配置された少なくとも1つの非発熱性の光源を備えることを特徴としている。
【0015】
本発明の如き眼振誘発装置は、外耳道最深部後上壁に照射する光源に、非発熱性の光源を用いたので、この光源は発熱による配置制限を受けることはない。この結果、検査者の目線から外れた箇所であり、かつ、外耳道の奥にまで照射光が届くように、光源を配置することが可能となる。また、ノズル先端から吹き出すエアは加熱されることがないので、より正確に眼振を誘発し、精度の高い適切な検査を行うことができる。
【0016】
より好ましくは、この光源は、光源の照射光の照射方向が、エアノズルのエア吹付け方向と、同一方向となるように、エアノズルに隣接している。このような光源の配置により、この装置は、外耳道に挿入されたエアノズルの先端を確実に照射することが可能となり、検査者が耳内を観察できるに十分な明るさを確保することができる。さらに、光源をエアノズルに隣接して配置したことにより、プローブのコンパクト化が図れ、検査者の負担の軽減につながり検査の作業性が向上する。
【0017】
また、このような光源としては、汎用性があり安価であることから、発光ダイオードからなる光源が好ましいが、所望の光量が確保でき、非発熱性を有するものであれば、例えば光ファイバなどを利用した光源であってもよい。
【0018】
より好ましい態様としては、本発明の眼振誘発装置に係るプローブは、プローブの先端に耳鏡部を備え、該耳鏡部は、前記プローブの本体と分離可能となっている。このように、耳鏡部をプローブの本体に固定せずに分離可能にすることにより、耳鏡部を外耳道に挿入させたときに、検査者は、エアの吹き出しの向きが外耳道最深部後上壁になるように外耳道の弯曲を矯正しながら毛を押さえつけ、エアノズルの先端を容易に誘導できるので、外耳道最深部後上壁にエアノズル先端を近づけてエアを吹き付け続けることができる。より好ましくは、このエアノズルは、可撓性のあるチューブであり、このようなノズルを用いることにより、外耳道などに直接エアノズルが接触しても被検者の痛みが無い利点がある。また、外耳道の矯正仕切れなかった弯曲に合わせてノズルを屈曲させることができる。
【0019】
また好ましい態様としては、このプローブは、耳内の所定位置に照射光が集光するように、光源の一部を覆った集光ガイドをさらに備えており、さらに好ましくは、この集光ガイドは鏡面または白色である。このような、集光ガイドを備えることにより、散乱する光源の光を、照射すべき方向に、集光することができる。
【0020】
また、別の態様としては、本発明に係る眼振誘発装置のプローブは、耳内を拡大視するための観察用レンズと、該レンズを介して前記光源の照射光を集光させるべく、エアノズルの先端と光源との間においてレンズを移動させる移動機構と、をさらに備えている。このように、観察用レンズを配置することにより、耳内を拡大視して確認することができるばかりでなく、観察用レンズをエアノズルの先端と光源との間において、レンズを移動させることにより、観察用レンズに入射された光源の照射光を、エアノズルの先端に、集光することができる。このような移動機構としては、ラックとピニオンからなる機構や、移動方向にスライド溝を設けて、この溝に沿ってレンズの端部を滑動させるようなスライド機構、などが挙げられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の眼振誘発装置によれば、エアが光源により加熱されることが無いので、エアノズルに隣接させて光源を配置し、外耳道近傍から光を照射することができる。この結果、検査者は、吹き付け位置である外耳道最深部後上壁を容易に確認することが可能となる。また、吹き付けるエアは加熱されないので、エア温度を設定温度に保持したまま、外耳道から外耳道最深部後上壁にエアを吹き付き続けることができる。
【0022】
さらに、外耳道の弯曲具合等に個人差がある場合でも、耳鏡部の挿入方向を調整することにより、外耳道の弯曲を矯正しながら毛を押さえつけることができるので、検査者は、エアノズルの先端を外耳道最深部後上壁に近づけることが可能となる。
【0023】
このように、外耳道の弯曲度等の個人差があった場合であっても、温度管理されたエアを正確に外耳道最深部後上壁に吹き付け続けることにより、より正確に眼振を誘発し精度の高い適切な平衡機能障害の検査を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る眼振誘発装置1Aの第一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、第一実施形態に係る眼振誘発装置1Aのプローブ10Aを説明するための斜視図であり、図2は、図1に示す眼振誘発装置1Aの断面図である。尚、眼振誘発装置1Aを構成するエア発生機器、眼振を測定する機器は、従来と同じ機器を用いているので、図示はせず、以下においてこれらの機器の説明は省略する。
【0025】
本実施形態に係る眼振誘発装置1Aは、プローブ10Aに設けられたエアノズル31から外耳道最深部後上壁にエアを吹き付け続けて、内耳に刺激を与え、該刺激により誘発した眼振により平衡機能障害を検査するための装置である。このプローブ10Aは、プローブ本体20A、エアノズル31、LEDランプ41、観察用レンズ50A、及び耳鏡部60を主に備えている。
【0026】
プローブ本体20Aは、把持部21、機器収納部22、及び環状ストッパ23Aからなり、この把持部21は、検査者が該部分を把持しやすいような筒形状をしており、その上部には、機器収納部22が形成されている。また、機器収納部22には、エアノズル31及びLEDランプ41を配置するための凹所22aが設けられている。さらに、機器収納部22のエア吹出し側には、空洞23aを有した環状ストッパ23Aが形成されており、環状ストッパ23Aは、耳鏡部60を耳内に挿入したときに、耳鏡部60が、それ以上機器側に移動して、エアノズル31が直接、被検者の鼓膜に接触しないように、耳鏡部60と当接する当接面23bを形成している。
【0027】
そして、機器収納部22の凹所22aには、エアノズル31及びLEDランプ41が収納されており、エアノズル31は、環状ストッパ23Aを通して、ノズル先端31aが耳鏡部60側に突出している。ただし、エアノズル31は、上述のように耳鏡部60を環状ストッパ23Aに当接させた場合であっても、ノズル先端31aが、耳鏡部60の先端開口から突出することは無い長さとなっており、検査時において、ノズルの先端31aが直接被検者の鼓膜に接触することはないので、検査の安全性は確保される。エアノズル31の基端は、エアホース33に接続されており、このエアホース33は、機器収納部22の凹所22aから、把持部21の空洞25を貫通し、エア発生装置(図示せず)に接続されている。尚、図中には示していないが、前述した図4に示す装置と同様に、ノズル先端31a付近には、温度センサが取り付けられ、この温度センサは、エアの吹き出し温度を制御するために、吹き出し温度を計測している。
【0028】
さらに、非発熱性の光源であるLEDランプ41が、エアノズル31に隣接して配置されており、このランプ41の照射方向は、エアノズル31のエア吹付け方向(ノズルの先端31aの方向)と、同一方向となっている。このように非発熱性の光源であるLEDランプ41を用いることにより、外耳道に近いエアノズル近傍に光源(LEDランプ)を配置することが可能となり、外耳道最深部後上壁にまで十分な光量の光を照射することができる。さらに、エアノズル31及びエアホース33が加熱されないため、設定温度に近いエアをエアノズル31から吹き出すことができる。
【0029】
また、LEDランプ41は、エアノズル先端側が露出するように、鏡面または白色の集光ガイド42により覆われており、この集光ガイド42により、散乱する光をノズル先端31aの方向に集光させることができる。さらに、このLEDランプ41は、リード線43に接続され、リード線43は、機器収納部22の凹所22aを経由し、把持部21の側壁に配線され、この眼振誘発装置1Aとは独立した直流電源(図示せず)に接続されている。このように、LEDランプ41の仕様に合わせて、独立した直流電源を用いることにより、電流を交流から直流に変換する必要がなく、さらに、不具合時に発生するおそれがある漏れ電流等に対して、検査者は、感電等を危惧する必要はない。よって、LEDランプ41の使用に対する、検査者及び被検者の安全は確保され、安全に検査を行うことができる。
【0030】
また、観察用レンズ50Aは、環状ストッパ23Aの空洞23aを介して、エアノズル31の先端近傍が拡大視することができるように、機器収納部22の一端に取付けられている。具体的には、観察用レンズ50Aは、一端に位置調整板50aが設けられており、観察用レンズ50Aは、位置調整板50aに形成された上下方向の長溝(図示せず)を通して、ねじ50bにより機器収納部22の端面に取り付けられている。このような機構にすることにより、観察用レンズ50Aは、図2に示すような矢印の上下方向に、その高さを調整することができる。さらに、耳鏡部60は、プローブの先端に備えられており、検査者が、耳鏡部60を挿入して外耳道の弯曲を矯正し、エアの吹き出し方向が所望の方向に向くよう、耳鏡部60は、プローブの本体と分離可能となっている。
【0031】
前記のように構成された眼振誘発装置1Aの使用方法について、以下に説明する。まず、検査にあたり、被検者を仰臥位の状態で、頭部を30°前屈させ、外側半規管を垂直しして、内リンパ液の対流を起し易い位置に被検者の頭部を固定する。次に、検査者が、被検者の外耳道と鼓膜の異常を確認した後、エア発生装置を起動させ、エアホース33を介して、エアノズル31のノズル先端31aから、エアを吹き出させると共に、LEDランプ41を点灯させる。
【0032】
そして、耳鏡部60を被検者の耳に挿入して、耳鏡部60を用いて被検者の外耳道の弯曲を矯正し、被検者の外耳道最深部後上壁に、ノズル先端31aからのエアが連続してあたるようにプローブ10を固定する。ここでは、エアノズル31と共に耳鏡部60を患者の耳に挿入したが、検査者は、先に耳鏡部60を外耳道に挿入し、外耳道の弯曲を矯正し、外耳道最深部後上壁を確認してから、エアノズル31の先端が、被検者の外耳道最深部後上壁の方向に、誘導されるようにエアノズル31を挿入してもよい。さらに、調整された耳鏡部60を介して、このエアを所定時間(60秒間)、外耳道最深部後上壁に吹き付ける。この吹き付けにより、眼振を誘発させ、眼振の最大緩徐相速度を測定する。
【0033】
このように、耳鏡部60をプローブ10Aの本体20Aに固定せずに分離可能としたことにより、耳鏡部60を外耳道に挿入させたときに、外耳道の弯曲を矯正しながら毛を押さえつけることができるので、検査者は、エアを吹き付けるべき、外耳道最深部後上壁を確認し易くなる。
【0034】
さらに、エアノズル先端が外耳道最深部後上壁に接近すると、LEDランプ41も外耳道近傍に位置することになり、ノズル先端31aの方向に向って照射光を発することができるので、検査者は、外耳道最深部後上壁を確認しながらノズル先端31aを外耳道最深部後上壁に移動し固定することができる。さらに、吹き付けるエアは、非発熱性の光源であるLEDランプ41を用いたので、加熱されることがなく、検査者は、設定温度と同じ温度のエアを吹き付けることができるので、より正確に眼振を誘発し精度の高い適切な検査を行うことが可能となる。
【0035】
図3は、本発明に係る第二実施形態の眼振誘発装置であって、(a)は、その装置の横断面図であり、(b)は、(a)に示す光源の配置を説明するための図である。第二実施形態は、第一実施形態に比べ、LEDランプの配置及び個数、観察用レンズの配置及び機能が主に異なる。なお、先に示した第一実施形態と同じ機能を有するものは、同じ符号を付し、以下の説明は省略する。
【0036】
図3(a)及び(b)に示すように、本実施形態に係る眼振誘発装置1Bのプローブ10Bは、その上部に、環状ストッパ23B、エアノズル31、観察用レンズ50B、LEDランプ41、及びリング板44、が主に配置されている。
【0037】
リング板44は、下部において、ねじ44bによりプローブ本体20Bに固定されており、図3(b)に示すように、リング板44の中央に形成されたリング穴44aの周りには、ノズル先端31a側を照射するために、4つのLEDランプ41が等間隔に配置されている。さらに、これらLEDランプ41は、リード線43に接続されており、これらのリード線43は、プローブ本体20Bに形成された配線溝20aを通過して、第一実施形態と同じように、眼振誘発装置1Bとは独立した直流電源(図示せず)に接続されている。
【0038】
また、観察用レンズ50Bはスライド部50cを備えており、スライド部50cは、プローブ本体20Bに形成されたスライド溝20b上を滑動することにより、管状ノズル31の先端31aとLEDランプ41との間において、観察用レンズ50Bを移動させることが可能となる。このようなスライド部50cとスライド溝20bからなる移動機構を設けることにより、検査者は、リング穴44aを通して、観察用レンズ50Bからノズル先端31a近傍を拡大視することができるばかりでなく、この観察用レンズ50Bを移動させて、観察用レンズ50Bを介してLEDランプ41の照射光を、ノズル先端31aの近傍に集光させることが可能となる。この結果、検査者は、エアを外耳道最深部後上壁に、正確に吹き付けることができる。
【0039】
この他にも、エアノズル31は、2つのピロボール61,62に取り付けられており、環状ストッパ23Bの内部において、ノズル先端31aの方向が調整自在となっている。このようにノズル先端31aの方向が調整自在な機構にすることで、検査者は、所望の方向にノズル先端31aを調整することができる。尚、第一実施形態と同じように、ノズル先端31aには、温度センサ(図示せず)も取り付けられている。
【0040】
[実施例]
健常成人者に本研究の目的を説明後、本発明に係る第一実施形態の眼振誘発装置を用いて以下の検査を行った。まず、暗所において、被検者を仰臥位の状態にし、その頭部を30°前屈させた。次に、赤外線カメラを装着した暗視ゴーグルを着用させ、外耳道と鼓膜の異常の有無を確認した。次に、被検者の首を捻転させ、冷却温度摂氏15度の空気を1分間(流量:6L/min)被検耳の外耳道最深部後上壁に吹き付け続け、誘発した眼振の最大緩徐相速度を測定した。
【0041】
さらに、これらの測定結果から、眼振の最大緩徐相速度が検査値少数点以下を四捨五入したとき20°/sec以上であれば正常(ほぼ正常)とし、10°/sec以上20°/sec未満を反応低下の疑い(低下疑い)とし、10°/sec未満のものを反応低下とした評価を行った。この結果を表1に示す。尚、ここに示す、低下疑いとは、被検者に、平衡機能障害がある疑いを示しており、反応低下とは、被検者に、平衡機能障害がある可能性が高いことを示している。また、それぞれ異なる被検耳(被検耳B〜F)に対して同様の試験を行い、同様の評価を行った。これらの結果を表1に示す。
[比較例]
比較例として、同じ被検耳(被検耳A〜F)に対して、従来型のプローブを用いて、同様の方法により、眼振の最大緩徐相速度を測定し、同様の検査評価を行った。この結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
[結果]
表1に示すように、実施例では、いずれも眼振の最大緩徐相速度は、ほぼ20°/sec以上であり、その評価は、正常であった。また、比較例では、同一対象であるにもかかわらず最大緩徐相速度がほぼ10°/sec以下であり、正常な評価は得られなかった。
【0044】
[考察]
上記結果から、本実施形態の眼振誘発装置を用いた場合は、外耳道最深部まで光を照射することができた結果、検査者は、耳内の外耳道最深部後上壁に、正確にエア(この場合冷風)を当てることが可能となったと考えられる。このことにより、より正確に精度よく内耳が冷却され最大緩徐相速度の数値が上昇し、良好な検査結果が得られたと考えられる。さらに、非発熱性の光源を用いたことにより、設定温度に維持されたエアを吹き付け続けることができたことも起因していると考えられる。以上より、実施形態の如き眼振誘発装置を用いたことにより、平衡機能障害の検査精度が、改善されたと考えられる。
【0045】
以上、本発明の二つの実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0046】
例えば、本実施形態では、光源の個数を2個又は4個と限定したが、耳内に十分な光量を照射することができるのであれば、その個数は限定されるものではなく、光源の配置も限定されるものではない。
【0047】
さらに、本実施形態では、観察用レンズをプローブに装着したが、検査者が耳内を十分に目視可能な明るさが確保することができるのであれば、このレンズは特に装着しなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第一実施形態に係る眼振誘発装置のプローブを説明するための斜視図。
【図2】図1に示す眼振誘発装置の断面を説明するための模式図。
【図3】第二実施形態に係る眼振誘発装置のプローブを説明するための図であり、(a)は、本発明に係る第二実施形態を示した横断面図であり、(b)は、(a)に示す光源の配置を説明するための図。
【図4】従来の眼振誘発装置の斜視図。
【符号の説明】
【0049】
1A,1B…眼振誘発装置、10A,10B…プローブ、20A,20B…プローブ本体、21…把持部、22…機器収納部、23A,23B…環状ストッパ、31…エアノズル、33…エアホース、41…LEDランプ(非発熱性の光源)、42…集光ガイド、50A,50B…観察用レンズ、60…耳鏡部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブに設けられたエアノズルから外耳道最深部後上壁にエアを吹き付けて、内耳に刺激を与えて眼振を誘発させ、該眼振から平衡機能障害を検査するための眼振誘発装置であって、
前記プローブは、前記外耳道最深部後上壁に光を照射するように配置された、少なくとも1つの非発熱性の光源を備えることを特徴とする眼振誘発装置。
【請求項2】
前記プローブは、エアの吹き出し先端に耳鏡部を備え、該耳鏡部は、前記プローブの本体と分離可能となっていることを特徴とする請求項1に記載の眼振誘発装置。
【請求項3】
前記プローブは、外耳道最深部後上壁に照射光が集光するように、光源の一部を覆った集光ガイドをさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の眼振誘発装置。
【請求項4】
前記光源は、該光源の照射光の照射方向が、エアノズルのエア吹付け方向と、同一方向となるように、エアノズルに隣接していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の眼振誘発装置。
【請求項5】
前記プローブは耳内を拡大視するための観察用レンズと、該レンズを介して前記光源の照射光を集光させるべく、エアノズルの先端と光源との間においてレンズを移動させる移動機構と、をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の眼振誘発装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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