説明

眼科用超音波診断装置

【課題】 測定時間を長くすることなく、信頼性の高い測定結果を得る。
【解決手段】 被検眼角膜に接触させた超音波プローブによって受信した眼組織からの反射エコーに基づいて眼軸長,角膜厚等の測定対象組織の測定値をサンプリングし、バラツキの所定許容幅に含まれる測定値を有効データとし、該有効データが所定個数になったときに自動的に測定を停止する眼科用超音波診断装置において、
眼組織からの反射エコーに基づいてサンプリングされた測定対象組織の測定値を順次記憶する記憶手段と、
バラツキの所定許容幅で複数個のグループを設定し、前記記憶手段に記憶された測定値について、前記設定された各グループに含まれる測定値の個数をカウントし、該個数が最も多いグループの測定値を有効データとする制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼軸長、角膜厚等の眼球組織の診断に好適な眼科用超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プローブ内の超音波トランスデューサから超音波を送信し、眼球の各組織からの反射エコーを受信して処理することで眼球内部の組織情報を得る眼科用超音波診断装置が知られている。この装置では、眼鏡内部組織からの反射エコーを波形として表示し、眼軸長、角膜厚等の眼球内部組織の長さを算出するAモード法が使用される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−187022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この種の装置では、眼軸長等を算出してその測定結果を表示する際に、連続的にサンプリングされた結果から、所定の許容幅のバラツキの測定値を有効データとし、その有効データが設定個数(例えば、10個)だけ得られ時に自動的に測定が停止されるオート測定がある。
このオート測定のプログラムは、例えば、次のように設定されていた。初めにサンプリングされた測定値を基準にしたバラツキの許容幅から外れた無効データが連続的に3個出現したときは、初めに基準とした測定値が適切でないものとし、それまでの測定値は破棄される。そして、新たにサンプリングされた測定値を基準にして、その後にサンプリングされた測定値について、同様な判断がなされる。これは、一般的に被検眼角膜にプローブを当て始めた測定初期は、プローブが角膜に対して強く接触し、眼軸長や角膜厚の測定値が短く出る傾向にあり、次第に測定値が安定するものとして設定されている。
しかしながら、測定者(検者)が不慣れでプローブを安定して角膜に当てられないときは、測定初期以降も測定値がバラツキ、なかなかオート測定が停止しない場合がある。測定時間が長引くと、被検者及び検者に負担が掛かる。この問題の対応として、一定時間だけ経っても測定終了条件に満たないときは、自動停止の条件の個数を減らす方法(例えば、10個から3個に減らす方法)がある。しかし、この対応方法は測定結果の信頼性が低くなる。したがって、この測定結果の算出方法には、改善が求められていた。
【0004】
本発明は、上記従来装置の問題点に鑑み、測定時間を長くすることなく、信頼性の高い測定結果が得られる眼科用超音波診断装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0006】
(1) 被検眼角膜に接触させた超音波プローブによって受信した眼組織からの反射エコーに基づいて眼軸長,角膜厚等の測定対象組織の測定値をサンプリングし、バラツキの所定許容幅に含まれる測定値を有効データとし、該有効データが所定個数になったときに自動的に測定を停止する眼科用超音波診断装置において、
眼組織からの反射エコーに基づいてサンプリングされた測定対象組織の測定値を順次記憶する記憶手段と、
バラツキの所定許容幅で複数個のグループを設定し、前記記憶手段に記憶された測定値について、前記設定された各グループに含まれる測定値の個数をカウントし、該個数が最も多いグループの測定値を有効データとする制御手段と、
を備えることを特徴とする。
(2) (1)の眼科用超音波診断装置において、前記制御手段は、前記記憶手段に記憶された測定値について、新たな測定値が得られる毎にその測定値を基準に前記所定許容幅のグループを設定することを特徴とする。
(3) (1)の眼科用超音波診断装置において、前記制御手段は、前記記憶手段に記憶された各測定値を基準に前記所定許容幅のグループを設定し、新たな測定値が得られる毎に各グループに含まれる測定値の個数をカウントし直すことを特徴とする。
(4) (1)の眼科用超音波診断装置において、前記制御手段は、前記記憶手段に記憶された測定値について、最短の測定値と最長の測定値とを少なくとも含む範囲を対象とし、前記所定許容幅を所定のステップ幅で移動して複数のグループを設定することを特徴とする。
(5) (1)の眼科用超音波診断装置において、前記制御手段は、前記所定許容幅のグループを所定のステップ幅で予め複数個設定し、又はサンプリングされた初回の測定値を基準として前記所定許容幅のグループを所定のステップ幅で複数個設定し、新たな測定値が得られる毎にその測定値を前記グループに分類し、各グループに含まれる測定値の個数が最も多いグループの測定値を有効データとすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、測定時間を長くすることなく、信頼性の高い測定結果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明についてAモード法により眼軸長等を測定する場合の眼科用超音波診断装置を一実施形態として挙げ、図面に基づいて説明する。図1は本実施形態である眼科用超音波診断装置の外観略図、図2は制御系の要部構成図である。
【0009】
装置本体1にはトランスデューサ12を有するAモード用の超音波プローブ2が接続されており、カラー表示可能な大型の液晶表示パネル3が装置本体1の前面に設けられている。液晶表示パネル3はタッチパネル式であり、検者は表示パネル3に表示される設定項目を選択操作することにより各種条件を設定することができる。測定・診断結果はプリンタ4により出力することができる。
【0010】
制御部10は装置本体1に内蔵され、各種回路等を制御する。制御部10はクロック発生回路11を駆動制御し、送信器を介してプローブ2内に設けられたトランスデューサ12から超音波を発振させる。測定に際して、術者がプローブ2の先端を角膜に接触させると、被検眼の各組織からの反射エコーはトランスデューサ12で受信され、増幅器を介してA/D変換器13でデジタル信号に変換される。デジタル信号化された反射エコー情報は、サンプリングメモリ14に記憶される。制御部10は反射エコー情報を微細時間間隔ごとに抽出し、図3に示すような波形データを得た後、この波形データについての適否を判断する。例えば、所定の閾値レベルSLとの交点CPを順次求めて各組織(角膜厚、前房、水晶体、硝子体)の境界点BPを特定し、各組織の境界点BPが現われるべき範囲がら外れている場合は、適正でない反射エコーであると判断される。反射エコーが適正な場合は、各組織の長さデータが制御部10により演算され、その測定結果がメモリ15に記憶される。なお、眼軸長は角膜エコーから網膜エコーまでの長さとして演算される。測定結果は、表示パネル3に表示される。
【0011】
検者は測定前に、被検眼が有水晶眼、無水晶眼、IOL挿入眼のいずれであるかを表示パネル3に表示される項目から選択する。また、測定対象組織として、眼軸長、角膜厚等の測定モードを選択する。また、各組織の測定において、オート測定モードとマニュアル測定モードを選択できる。オート測定モードでは、測定値及び波形データの適否が判断され、所定のバラツキの許容範囲に入る有効データが所定個数Np個(例えば、10個)得られたときに、測定が自動的に停止される。マニュアル測定モードでは、測定開始スイッチ16により測定値のサンプリングが行われ、有効データか否かの判断無しに、10個の測定結果が得られると、測定が停止される。
【0012】
以下、測定組織として眼軸長を選択し、オート測定による自動停止プログラムの例を説明する。
【0013】
<自動停止プログラムの第1例>
自動停止プログラムの第1例を、図4のフローチャート及び図5に基づいて説明する。図5は、縦軸に眼軸長の測定値の測定番号を取り、横軸に眼軸長の測定値を取り、眼軸長の測定値が得られる毎にその測定結果をプロットした図である。
【0014】
検者がプローブ2を被検眼角膜に接触させると、トランスデューサ12から送信された超音波が被検眼内部の各組織によって反射され、表示パネル3の画面上に図3のような反射エコー波形が表示される。検者は随時表示される反射エコー波形を観察しながら、適正なエコー波形が得られるようにプローブ2の位置や角度を調整し、適正画像が得られるところで測定開始スイッチ16を押す。
【0015】
制御部10は、トリガ信号を受信すると、メモリ14のデータをサンプリングする(S−1)。制御部10は、サンプリングした波形データについての適否を判断する(S−2)。例えば、図3に示すような波形データについて、所定の閾値レベルSLとの交点CPを順次求めて各組織(角膜厚、前房、水晶体、硝子体)の境界点BPを特定し、各組織の境界点BPが現われるべき範囲(人眼において想定される各組織の範囲)から外れている否かを判断する。各組織の境界点BPが現われるべき範囲にあれば、適正とされる。波形データが適正でない場合は、サンプリングデータは削除され(S−4)、新たなサンプリングデータの取得を待つ。
【0016】
サンプリングされた波形データが適正のときは、眼軸長の測定値を演算し、これをメモリ15に記憶する(S−3)。新たに記憶された測定値Tn(n=1,2,3,……)を基準に所定のバラツキの許容幅ΔD(例えば、測定値を中心に±0.1mmの幅)でグループ(測定値を保管するボックス)Dnを設定し(S−5)、メモリ15に記憶された測定値について、新たに設定したグループDn内に含まれる測定値の個数Nnをカウントする(S−6)。この個数Nnが以前に有効データのグループとした測定値の個数Nmaxより多いか否かを比較する(S−7)。個数Nnが個数Nmaxより多い場合は、新たに設定したグループDnに含まれる測定値を有効データとし、また、その個数NnをNmaxとする(S−8)。有効データとされた測定値は、図2の液晶表示パネル3の画面上の表示欄30に表示される(S−9)。そして、有効データの個数Nmaxが自動停止の条件の個数Np(ここでは、10個とする)に達したら(S−10)、測定が停止(フリーズ)される。一方、ステップS−7にて、個数Nnが個数Nmax以下の場合、以前の有効データのグループがそのままとされる(S−11)。
【0017】
図4のフローチャトによる具体的例を、図5の測定結果を例にして説明する。なお、図5において、Dn(n=1,2,…)は、測定値Tnを基準としてバラツキ許容幅ΔDで設定されたグループを示す。また、測定値Tnの右隣に括弧書きの数字は、そのグループDnに含まれる測定値の個数Nnを示す。
【0018】
1回目の測定値T1の25.00mmは、以前にメモリ15に記憶された測定結果が無いため、測定値T1を基準に設定されたグループD1に含まれる測定値の個数Nnが1個とされ、ステップS−7,8にてグループD1の測定値T1はそのまま有効データとされる。個数Nmaxも1個とされ、測定値が表示欄30に表示される(S−9)。
【0019】
2回目の測定値T2(24.85mm)が得られると、これを基準にグループD2が設定される。グループD2に含まれる測定値はT2のみであり、個数Nnは1個となる。有効データは、ステップS−11にて測定値T1のままとされる。
【0020】
3回目の測定値T3(25.08mm)が得られると、これを基準としてグループD3が設定される。グループD3に含まれる測定値はT1,T3であり、個数Nnは2個とされる。そして、これが有効データとされ(Nmaxも2個とされ)、T1,T3の測定値が表示欄30に表示される。
【0021】
4回目の測定値T4(25.29mm)が得られると、これを基準にグループD4が設定される。グループD4に含まれる測定値はT4のみであり、以前に有効データとしたグループD3の測定値T1、T3がそのまま表示される。
【0022】
5回目の測定値T5が得られると、これを基準としてグループD5が設定される。グループD5に含まれる測定値はT4,T5であり、個数Nnは2個とされる。この場合、それ以前の有効データの個数Nmaxは、グループD3の有効データ(T1、T3)の個数Nmax(2個)と同じであるので、ステップS−11にてグループD3の有効データ(T1、T3)がそのまま有効データとされる。6回目の測定値T6が得られた場合も同様である。
【0023】
次に、7回目の測定値T7(25.17mm)が得られた場合、これを基準として許容幅ΔDで設定されるグループD7に含まれる測定値はT3,T5,T7であり、個数Nnは3個とされる。この個数Nnは、以前の有効データのグループD3に含まれる測定値の個数Nmaxの2個より多いため、グループD7の測定値T3,T5,T7が有効データに置き換えられ、また、個数Nmaxが3個とされ、これが表示欄30に表示される。
【0024】
以降、同様な処理ステップにより、15回目の測定値T15が得られたとき、これを基準として設定されたグループD15に含まれる測定値はT4,T5,T6,T7,T8,T10,T11,T13,T14,T15となり、有効データの個数Nmaxが個数Npの10個に達するので、測定が停止される。表示欄30にこれらの測定値が表示される。また、測定が終了すると、有効データとした10個の測定値の平均値(又は代表値)、標準偏差等が演算され、その結果が表示欄31に表示される。
【0025】
ここで、図5の例において、従前の処理方法に従うと、1回目の測定値T1を基準としたバラツキ許容幅ΔDに対して、測定値T3が有効とされるが、測定値T4,T5,T6が連続して無効データとなり、これらが破棄される。そして、新たな測定値T7を基準としたバラツキ許容幅ΔDに対して、その後の測定値の有効/無効が判断される。15回目の測定値T15が得られた段階で、測定値T7を基準としたバラツキ許容幅ΔDに入る有効データは、T7,T8,T12,T13,T14,T15の6個であり、その後も測定が継続される。
【0026】
これに対して、図4の処理フローに従えば、上記のように信頼性の高い測定結果が測定時間を長引かせることなく得られる。
【0027】
なお、図4のステップS−7の個数Nnと以前の有効データの個数Nmaxの比較において、個数Nnと個数Nmaxが等しい場合、以前の有効データをそのままとするステップS−11に進むのでなく、ステップS−8(新たなグループDnに含まれる測定値を有効データとし、また、その個数NnをNmaxとするステップ)に進むものとしても良い。しかし、表示パネル3の表示欄30に表示される測定値が頻繁に切り換わると、検者(使用者)にとって煩わしい印象を与えるかもしれないので、上記の実施形態が好ましい。あるいは、標準偏差が小さくなる方を有効データとしても良い。個数Nnと個数Nmaxが等しい場合に、何れを有効データとするかについては、表示パネル3に選択手段を設けることにより、検者の方針に応じて選択可能にしても良い。
【0028】
<自動停止プログラムの第2例>
自動停止プログラムの第2例を、図6のフローチャート及び図7に基づいて説明する。図7は、図5と同様に、眼軸長の測定値が得られる毎にその測定結果をプロットした図である。
【0029】
第2例は、第1例のフローチャートに対して、ステップS−1からS−4までは同じであり、ステップS−21以降が主に異なる。第1例のステップS−5以降では、新たな測定値Tnが得られると、その測定値Tnを基準にして許容幅ΔDのグループDnを設定し、そのグループDnに含まれる測定値の個数Nnをカウントし、これと以前の有効データの個数Nmaxとを比較して有効データを決定する処理であった。第2例では、新たな測定値Tnが得られると、メモリ15に記憶された測定値T1〜Tn(n=1,2,3,…)について、各測定値を基準とした許容幅ΔDのグループEnをそれぞれ設定し(S−21)、各グループEnに含まれる測定値の個数Nnを改めてカウントし直す(S−22)。次に、各グループEnの測定値の個数Nnを比較し(S−23)、その個数Nnが最大となる個数をNmaxとし、個数NmaxとなるグループEnに含まれる測定値を有効データとする(S−24)。その後のステップS−25,S−26は、第1例のS−9,S−10と同様である。
【0030】
例えば、図7の具体例において、2回目の測定値T2が得られたとき、測定値T2を基準として設定されたグループE2に含まれる測定値は、T1,T2の2個である。さらに、このときに測定値T1を基準として設定されたグループE1に含まれる測定値もT1及びT2となる。
【0031】
4回目の測定値T4が得られたときは、測定値T1を基準としたグループE1に含まれる測定値はT1,T2の2個であり、測定値T2を基準としたグループE2に含まれる測定値はT1,T2,T3,T4の4個である。測定値T3を基準としたグループE3及び測定値T4を基準としたグループE4に含まれる測定値は、それぞれT2,T3,T4の3個である。従って、測定値T4が得られたときは、各グループE1,E2,E3,E4に含まれる測定値の個数を比較すると、グループE2の個数が4個で最大となる。グループE2に含まれる測定値の4個がNmaxとされ、その測定値T1,T2,T3,T4が有効データとされる。表示パネル3の表示欄30には、有効データとされた測定値T1,T2,T3,T4が表示される。
【0032】
この要領にて、新たな測定値Tnが取得されるたびに、各測定値Tnを基準として許容幅ΔD(±0.1mm)のグループEnを設定し、これまでにメモリ15に記憶されたすべての測定値T1〜Tnについて、各グループEnに含まれる測定値の個数Nnをカウントし直し、個数Nnが最大となるときのグループEnの測定値を有効データとする。なお、個数Nnが最大となるパターンが複数あるときは、先の理由により、表示欄30に表示される測定値の変化が少ないパターンを有効データとすることが好ましい。あるいは、さらに標準偏差が小さくなるパターンを有効データとしても良い。
【0033】
図8は、13回目の測定値T13が得られるまでの各測定値を基準として設定されたグループE1〜E13について、各グループに含まれる測定値の個数Nnの結果を示した図である。図8では、縦軸にグループEnを特定する番号、横軸に測定値Tnを特定する番号が示されている。図8の結果を見ると、測定値T13が得られたとき、その測定値T13を基準としたグループE13に含まれる測定値は7個であるが、測定値T3を基準としたグループE3に含まれる測定値の数が10個であり、最大となっている。そして、この最大個数が測定停止条件Npである10個に達しているので、測定値T13が得られたときに測定が停止される。
【0034】
この第2例の処理方法によれば、先の第1例に対して、演算処理が複雑になるが、より少ない測定時間(測定回数)で信頼性の高い測定結果が得られる。
【0035】
<自動停止プログラムの第3例>
自動停止プログラムの第3例を、図9のフローチャート及び図10を基に説明する。図10は、図5及び図7と同様に、眼軸長の測定値が得られる毎にその測定結果をプロットした図である。
【0036】
図9において、ステップS−1〜S−4までは第2例と同様であり、S−31以降のステップが異なる。この第3例のステップS−31では、バラツキ許容幅ΔD(±0.1mm)で設定するグループの基準を測定値Tnとするのでは無く、新たな測定値Tnが得られると、メモリ15に記憶された測定値について、バラツキ許容幅ΔD(この場合は、幅0.2mm)を所定のステップ幅Δdで移動して複数のグループEnを設定する。その後のステップは、第2例のステップS−22以降と同様である。すなわち、各グループEnに含まれる測定値の個数Nnを改めてカウントし直し(S−22)、各グループEnの測定値の個数Nnを比較し(S−23)、その個数Nnが最大となる個数をNmaxとし、個数NmaxとなるグループEnに含まれる測定値を有効データとする(S−24)。
【0037】
グループEnを設定する範囲は、測定値T1〜T13が得られたときを例にとると、測定値T1〜T13のうちで最短距離(図10では、測定値T1)と、測定値T1〜T13のうちで最長距離(図10では、測定値T12)と、の間の範囲SAとすれば十分である。また、範囲SAを許容幅ΔDで移動させるときのステップ幅Δdは、例えば、0.01mm、0.05mm、0.10mm等のように、測定の信頼精度と演算処理速度との関係で設定すればよい。
【0038】
この第3例の処理ステップは、言い換えれば、測定値Tnが得られた範囲SAで許容幅ΔD(幅0.2mm)を持つボックスを所定のステップ幅Δdで移動させ、測定値が最も多く含まれる領域を検索する処理である。
【0039】
図10における各々の測定回数の測定値T1〜T13は、図7の場合と同一としている。測定値T1〜T13が得られた図10の例では、測定値T3の付近を中心とした許容幅ΔDでのグループEfが、最大個数の測定値が含まれる領域とされる。この場合、グループEfに含まれる測定値が有効データとされて表示欄30に表示され(S−25)、その個数が10個に達しているので、測定が停止される(S−26)。
【0040】
<自動停止プログラムの第4例>
自動停止プログラムの第4例を、図11のフローチャート及び図12を基に説明する。図12は、図7等と同様に、眼軸長の測定値が得られる毎にその測定結果をプロットした図である。図11において、ステップS−1,S−2,S−3、S−4までは他の例と同様である。
【0041】
第4例は他の例と基本思想は同じであり、特に第3例と類似する。以下、他の例との相違点を中心に説明する。制御部10はメモリ15に記憶された測定値が初回のものか否かを判別する(S−41)。初回測定値T1の場合、制御部10は、測定値T1を基準(中心)としてバラツキ許容幅ΔD(0.2mmの幅)のグループを所定のステップ幅Δdで複数個設定する(S−42)。図12においては、ステップ幅Δdを許容幅ΔDと同じ0.2mmとし、測定値T1の値を基準にマイナス側の−0.1mmの部分に境界L99、+0.1mmの部分に境界L101を設ける。境界L99より測定値の長さが短くなる方向へは境界L98、L97…とし、境界L101より測定値の長さが長くなる方向へは境界L102、L103…とする。このとき、各境界で区分けされるグループについて、初回測定値T1を含むグループをG100とする。グループG100より眼軸長が短くなる方向へG99、G98…とし、グループG100より眼軸長が長くなる方向へG101、G102…とする。
【0042】
次に、1回目の測定値T1と2回目以降の測定値は、ステップS−42で設定されたグループのいずれかに分類され、分類されたグループに含まれる測定値の個数Ncがカウントされる(S−43)。なお、測定値が2つのグループの境界上に位置する場合(境界L101上に位置する測定値T2のような場合)、両方のグループに属するものとされる(測定値T2の場合、左右のグループG100及びG101の両方のグループに属する)。境界上に位置する測定値が、左右どちらか片方のグループにのみ属したり或いはどちらにも属さない場合は、測定終了までに測定すべき回数が増えるため、左右両方のグループに属する方が好ましい。
【0043】
次に、個数Ncが以前の有効データの個数Nmaxより多いか否かが比較され(S−44)、個数Ncが個数Nmaxより多い場合は、個数Ncが個数Nmaxとなり、個数Nmaxのグループの測定値が有効データとされる(S−45)。グループG100に属する1回目の測定値T1は、以前の有効データが無いため、ステップS−45にて測定値T1が有効データとされる。2回目の測定値T2が得られると、グループG100にて個数Ncが2個とされ、これが有効データとされる。有効データは表示欄30に表示される(S−46)。有効データの個数Nmaxが測定停止個数Np(10個)に達してないときは、測定が継続される(S−47)。ステップS−44にて、個数Ncが以前の有効データの個数Nmax以下の場合は、以前の有効データがそのままとされる(S−48)。
【0044】
以降、同様な処理にて有効データが決定され、有効データの個数Nmaxが10個になると、測定が停止される。図12の例では、13回目の測定値T13が得られたとき、その測定値T13がグループG101に分類され、グループG101に属する測定値の個数が10個に達し、測定が停止される。この第4例においても、メモリ15に記憶された測定値について、単純に無効データとしたものを破棄せずに、バラツキの許容幅ΔDにて設定されたグループに含まれる測定値の個数に応じて有効データを決定する。このため、従来技術に比較して、短時間で信頼性の高い測定結果を得ることができる。
【0045】
上記の例では、演算を簡単にするために、グループGを設定するステップ幅Δdを許容幅ΔDと同じ0.2mmとしたが、Δdを0.1mm、0.05mmとして、各グループの重複する範囲を持つようにしても良い。この場合、グループの区分けが細かくなり、一つの測定値が複数のグループに属するようになるが、さらに信頼性の高い測定結果が得られる。
【0046】
上記の第4例では、ステップS−41にてグループGの設定を初回の測定値を基準としたが、人眼の眼軸長が取り得る範囲はある程度分かっているので、予め固定的に複数個のグループGを設定しておいても良い。
【0047】
以上、上記の何れの例においても、バラツキの許容幅ΔDについては標準偏差σを適用することも可能である。また、本発明の測定は、眼軸長の他、角膜厚、前房深度、水晶体厚、硝子体長等の測定にも適用させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】眼科用超音波診断装置の外観略図である。
【図2】制御部の要部構成図である。
【図3】各組織領域の判別に関する説明図である。
【図4】第1実施例のフローチャートを説明する図である。
【図5】第1実施例の測定結果を説明する図である。
【図6】第2実施例のフローチャートを説明する図である。
【図7】第2実施例の測定結果を説明する図である。
【図8】第2実施例の測定結果を説明する別の図である。
【図9】第3実施例のフローチャートを説明する図である。
【図10】第3実施例の測定結果を説明する図である。
【図11】第4実施例のフローチャートを説明する図である。
【図12】第4実施例の測定結果を説明する図である。
【符号の説明】
【0049】
2 超音波プローブ
3 表示パネル
10 制御部
12 トランスデューサ
14 サンプリングメモリ
15 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼角膜に接触させた超音波プローブによって受信した眼組織からの反射エコーに基づいて眼軸長,角膜厚等の測定対象組織の測定値をサンプリングし、バラツキの所定許容幅に含まれる測定値を有効データとし、該有効データが所定個数になったときに自動的に測定を停止する眼科用超音波診断装置において、
眼組織からの反射エコーに基づいてサンプリングされた測定対象組織の測定値を順次記憶する記憶手段と、
バラツキの所定許容幅で複数個のグループを設定し、前記記憶手段に記憶された測定値について、前記設定された各グループに含まれる測定値の個数をカウントし、該個数が最も多いグループの測定値を有効データとする制御手段と、
を備えることを特徴とする眼科用超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1の眼科用超音波診断装置において、前記制御手段は、前記記憶手段に記憶された測定値について、新たな測定値が得られる毎にその測定値を基準に前記所定許容幅のグループを設定することを特徴とする眼科用超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1の眼科用超音波診断装置において、前記制御手段は、前記記憶手段に記憶された各測定値を基準に前記所定許容幅のグループを設定し、新たな測定値が得られる毎に各グループに含まれる測定値の個数をカウントし直すことを特徴とする眼科用超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1の眼科用超音波診断装置において、前記制御手段は、前記記憶手段に記憶された測定値について、最短の測定値と最長の測定値とを少なくとも含む範囲を対象とし、前記所定許容幅を所定のステップ幅で移動して複数のグループを設定することを特徴とする眼科用超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1の眼科用超音波診断装置において、前記制御手段は、前記所定許容幅のグループを所定のステップ幅で予め複数個設定し、又はサンプリングされた初回の測定値を基準として前記所定許容幅のグループを所定のステップ幅で複数個設定し、新たな測定値が得られる毎にその測定値を前記グループに分類し、各グループに含まれる測定値の個数が最も多いグループの測定値を有効データとすることを特徴とする眼科用超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−86527(P2008−86527A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270139(P2006−270139)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】