説明

着色舗装用バインダー組成物のための剥離防止剤

【課題】マレイン化有機化合物よりなる剥離防止剤に優るとも劣らない新規な剥離防止剤の提供。
【解決手段】酸価50〜300のトール油脂肪酸および/またはトール油誘導体よりなることを特徴とする着色舗装用バインダー組成物のための剥離防止剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色舗装用バインダー組成物と骨材との付着力を強め、両者が剥離しないようにするための新規な剥離防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
舗装用バインダー組成物と骨材との剥離を防止するための技術としては、剥離防止剤として、酸性有機リン化合物を用いる方法(特許文献1)や平均分子量200〜10,000、酸価10〜250を有するマレイン化有機化合物を用いる方法(特許文献2)、さらに下記式のマレイン化有機化合物であって数平均分子量が500〜20,000のポリマーを用いる方法(特許文献3)などが提案されている。
【化1】

〔式中、R〜Rは水素または炭素数1〜30で、直鎖または分岐鎖のアルキル基もしくはアルケニル基であり、かつ、6≦(RのC数+RのC数+RのC数)≦30を満足し、更にnは数平均分子量500〜20,000を満足する整数である。〕
【0003】
前記式で示されるポリマーは、その実施例で記載されているとおり、オクタデセンと無水マレイン酸との共重合物(数平均分子量Mn=5,000)、炭素数16のオレフィンと無水マレイン酸との共重合物(Mn=6,000)、炭素数32のオレフィンと無水マレイン酸との共重合物(Mn=15,000)、炭素数8のオレフィンと無水マレイン酸との共重合物〔(i)Mn=500、(ii)Mn=5,000、(iii)Mn=20,000〕、炭素数18のオレフィンと無水マレイン酸との共重合物〔(i)Mn=600、(ii)Mn=6,000、(iii)Mn=18,000〕、などであり、いずれもわざわざ新しく合成しなければならず、そのための新規設備を必要とする。
【0004】
また、着色可能な舗装用バインダー組成物と骨材の剥離を防止するための技術としては、剥離防止剤として無水マレイン酸、マレイン化有機化合物を用いる方法(特許文献4、特許文献5、特許文献6)が提案されている。
これらの方法に用いる無水マレイン酸は腐食性、爆発性、引火性などの危険性があり、取扱に細心の注意を要すること、また、マレイン化有機化合物はいずれもわざわざ新しく合成しなければならず、そのための新規設備を必要とする。
【0005】
さらに、舗装用バインダー組成物の剥離防止剤としては、アミン系材料を用いる方法が知られているが、アミン系材料はバインダー組成物の製造過程中などにおいて高温にさらされたとき、アンモニア臭を含む悪臭を発生したり、場合によっては装置を腐食したり、爆発の危険が生じたりする。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−188462号公報
【特許文献2】特開昭54−139925号公報
【特許文献3】特開平7−292259号公報
【特許文献4】特開昭56−4668号公報
【特許文献5】特開昭61−97369号公報
【特許文献6】特開平2−101610号各公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前記マレイン化有機化合物よりなる剥離防止剤に優るとも劣らない新規な剥離防止剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、酸価50〜300のトール油脂肪酸および/またはトール油誘導体よりなることを特徴とする着色舗装用バインダー組成物のための剥離防止剤に関する。
【0009】
トール油脂肪酸やトール油誘導体(蒸留トール油など)の用途としては今まで紙サイズ剤、合成樹脂塗料、印刷インキ、接着剤、界面活性剤、洗剤、農薬乳剤、可塑剤、触媒、防錆剤、浮遊選鉱剤、金属石鹸、セメント添加剤、潤滑油、切削油、絶縁剤、皮革油剤、剥離剤など多数が知られているが、これを着色舗装用バインダー組成物と骨材との間の剥離防止剤に使用しようとする考え方は、全く未知のものである。
【0010】
前記トール油脂肪酸もしくはトール油誘導体は、硫酸塩パルプやソーダパルプ製造の廃液から得られる樹脂酸や脂肪酸などからなる油状副産物などから製造することができる。具体例は以下に列挙するが、これらのうちから酸価が50〜300のものを選択する必要がある。
【0011】
前記トール油脂肪酸やトール油誘導体は、よう素価が200以下(通常5以上)、好ましくは10〜180、さらに好ましくは20〜150であることがのぞましい。よう素価が200を上回るような場合には、耐熱性が悪いため加熱貯蔵中に剥離抵抗性が低下する。
【0012】
前記樹脂酸としては、(1)脂肪族:アビエチン酸(ロジン中)、ネオアビエチン酸(ロジン中)、d−ピマル酸(ロジン中)、イソ−d−ピマル酸(ロジン中)、ポドカルプ酸(Podocarpuscupressinusの脂肪中)、アガテンジカルボン酸(コーパル樹脂中)など、(2)芳香族:安息香酸(安息香、キリンケツ中)、ケイ皮酸(トルーバルサム、ペルーバルサム、安息香、ソゴウ香、アカロイド樹脂中)、p−オキシケイ皮酸(アカロイド樹脂中)など、が挙げられる。
【0013】
トール油脂肪酸としては、不飽和脂肪酸であるオレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられるが、これに併用して、飽和脂肪酸としてミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸なども使用できる。
【0014】
また、トール油誘導体としては、例えばモノマー酸、炭素数36のダイマー酸、ヒドロキシ脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸エステル、炭素数45のダイマー酸、トリマー酸などが挙げられる。
【0015】
前記例示化合物は、個々の化合物を列記したが、前記油状副産物の形で得られるトール油脂肪酸やトール油誘導体は通常種々の化合物の形態であり、その代表的組成の1つは、脂肪酸80〜98重量%、樹脂酸0.5〜11.0重量%、不けん化物1.5〜10.0重量%(全量100重量%)よりなり、その酸価は150〜200、よう素価70〜150のものであり、前記脂肪酸としては飽和酸1〜50重量%、不飽和酸99〜50重量%よりなるものであって、不飽和酸の代表的なものはオレイン酸やリノール酸であることができる。また、他の1つの組成としては、モノマー酸0〜10重量%、ダイマー酸60〜99重量%、トリマー酸0〜25重量%(全量で100重量%)で、酸価190〜200、よう素価100〜120のものであることができる。
【0016】
本発明の剥離防止剤を配合することのできる着色舗装用バインダー組成物におけるバインダーとしては、特開昭61−97369号、特開平4−100862号に開示されているような、石油系溶剤抽出油、石油樹脂、熱可塑性エラストマーからなるバインダー組成物であれば特に制限はない。
【0017】
本発明の剥離防止剤を配合した好ましい着色舗装用バインダー組成物としては、
石油系溶剤抽出油 20〜90重量%
石油樹脂 80〜20重量%
熱可塑性エラストマー 0.5〜10重量%
酸価50〜300のトール油脂肪酸および/
またはトール油誘導体よりなる剥離防止剤 0.1〜5重量%
よりなる組成物を挙げることができる。
【0018】
石油系溶剤抽出油は、昭和46年11月30日 石油連盟発行「石油製品のできるまで」第101頁、図6−1「一般的な潤滑油製造工程」に記載されているとおり、原油から潤滑油を製造する過程において、溶剤抽出によって得られる芳香族およびナフテン分に富んだ油状物質であり、一般に沸点(大気圧下)350℃以上、粘度5〜100cSt/100℃、好ましくは30〜100cSt/100℃、針入度(JIS K2207)1000以上、軟化点(JIS K2207)20℃以下のものであり、とくに芳香族とナフテン分の合計が45wt%以上(環分析による)を占め、引火点が240℃以上のものが好ましい。
【0019】
石油樹脂は、ナフサを熱分解してエチレンやプロピレンなどを製造する際の分解生成物の重合物であり、シクロペンタジエン(CPD)やジシクロペンタジエン(DCPD)の含有量が多いものはその軟化点が高い。分子量約200〜2000、一般には1000〜1500、軟化点100〜150℃で、無色〜淡黄色の樹脂である。
【0020】
熱可塑性エラストマーは、スチレンやアクリロニトリルのようなビニル系モノマーの重合体鎖とブタジエンやイソプレンのようなジエン系モノマーの重合体鎖よりなるブロックポリマーのように加硫しなくても使用できる重合物であり、代表的なものとしては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体などがあるが、とくに末端セグメントとしてポリスチレンセグメントを有し、ゴム成分セグメントとしては、例えばポリブタジエンセグメント、ポリイソプレンセグメント、ポリエチレン、ブチレンセグメントなどを有する鎖状または枝状ブロック共重合体が好ましい。代表的なものとしてはSBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体)、SIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)、SEBS(スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体)などを挙げることができる。分子量は5×10以上、ポリスチレン含量10〜50wt%、比重0.9以上のものが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
(1)本発明の剥離防止剤の使用により、水の介在による着色舗装用バインダー組成物と骨材の剥離を防止することができる。
(2)本発明の剥離防止剤を予め着色舗装用バインダー組成物に添加しておけば、合材プラントでは通常の製造方法でアスファルト混合物が製造できる。
(3)本発明の剥離防止剤を含む着色舗装用バインダー組成物を使用することにより、舗装の耐久性が向上する。舗装寿命を延長することは、経済的効果や社会的影響も大きい。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何等限定されるものではない。
【0023】
各実施例および比較例をつぎの表3〜6に示す組成に従って調整した。
なお、着色舗装用バインダー組成物と本発明の剥離防止剤との混合はホモミキサーを用い、混合温度180℃、混合回転数3000rpm、混合時間2時間で行った。
【0024】
表3〜6中の用語について説明する。
石油系溶剤抽出油 :100℃での粘度が68センチストークス、芳香族分33重量%
、ナフテン分26重量%、パラフィン分41重量%、引火点
254℃のものである。
石油樹脂A :C9留分を原料とする石油樹脂で、その性状は、軟化点140℃
、酸価0.1(mgKOH:JIS K0070)、臭素価25
(g:JIS K2543)、平均分子量約1000(GPC法
、ポリエチレン換算)のものである。
石油樹脂B :C9留分を原料とする石油樹脂で、その性状は、軟化点135℃
、酸価0.1以下(mgKOH:JIS K0070)、臭素価
20(g:JIS K2543)、平均分子量約1750(GPC
法、ポリエチレン換算)のものである。
石油樹脂C :C9留分を原料とする石油樹脂で、その性状は、軟化点145℃
、酸価0.0(mgKOH:JIS K0070)、臭素価25
(g:JIS K2543)、平均分子量約2200(GPC法、
ポリエチレン換算)のものである。
石油樹脂D :C9留分を原料とする石油樹脂で、その性状は、軟化点140℃
、酸価0.0(mgKOH:JIS K0070)、臭素価55(
g:JIS K2543)、平均分子量約500(GPC法、ポリ
エチレン換算)のものである。
熱可塑性エラストマー:スチレン−ブタジエン−スチレン・ブロック共重合体の熱可塑性
エラストマーであり、その性状は、比重0.94、硬度(ショアA
)72、300%モジュラス29Kg/cm、引っ張り強度33
0Kg/cm、伸び880%、溶液粘度4000cps(ポリマ
ー濃度25wt%トルエン溶液、25℃)である。
剥離防止剤A :酸価190(mgKOH:JIS K0070)、ヨウ素価11
0で、炭素数18のモノマー酸7重量%、炭素数36のダイマー酸
76重量%、炭素数54のトリマー酸7重量%よりなる混合物で、
平均分子量は約590である。
剥離防止剤B :酸価185(mgKOH:JIS K0070)、ヨウ素価10
0で、炭素数18のモノマー酸5重量%、炭素数36のダイマー酸
25重量%、炭素数54のトリマー酸70重量%よりなる混合物で
ある。
剥離防止剤C :酸価160(mgKOH:JIS K0070)、ヨウ素価13
0の蒸留トール油である。
剥離防止剤D :市販のアミン系アスファルト剥離防止剤。
【0025】
実施例1〜8および比較例1〜6の各アスファルト組成物の剥離抵抗性の評価は、各舗装用バインダー組成物を製造した直後に実施した。なお、JPI剥離試験における硬質砂岩、石英粗面岩は試験に用いた骨材の種類を示すものである。
【0026】
以下の表3〜6における各項目の定義と測定方法は、つぎの通りである。
針入度は、JIS K2207の針入度に相当する。
軟化点は、JIS K2207の軟化点に相当する。
【0027】
JPI剥離試験/剥離率は、JPI−5S−27に準拠したものであり、アスファルト被覆した骨材を高温で水浸させた時の剥離面積率を求めたものである。試験方法はつぎのとおりである。
骨材容器に準備した乾燥骨材(骨材の材質は表1の右側に表示したものであり、13.2mmのふるいは通過するが、9.5mmのふるいにはとどまる程度のものを良く洗い、一定の重量になるまで110℃で乾燥したもの)100gを入れ、骨材の質量を測定する。一方、アスファルトを溶融し、骨材100gに対して5.5±0.2g(質量比)のアスファルト組成物を混合用容器に0.1g単位で計り取る。前記骨材の入った骨材容器を、アスファルト組成物の動粘度が180cStとなる温度より5℃高い温度に保った乾燥器に1時間入れて加熱する。一方、アスファルト組成物の入った混合用容器とへらを同じ乾燥器中で15分間加熱し、乾燥器中で骨材をアスファルト組成物の入った混合容器に移し、へらで1〜1.5分間十分混合し、このようにして得られたアスファルト被覆骨材20個をへらでガラス板上に重ならないように置き、1時間室温まで放冷する。一方、煮沸脱気水の入った恒温槽を80±1℃に保ち、その中に前記ガラス板を3時間水浸させる。その後室温の水が入った平らな容器に移す。これを水面上から観察し、骨材20個に見られるアスファルトの剥離状態を一括してとらえ、その平均的な剥離面積率を標本写真を対象にして目視によって求める。
【0028】
マーシャル安定度試験および残留安定度
表1に示す骨材を用い、舗装試験法便覧〔(社)日本道路協会、1988〕第506頁に記載の方法に従い、表2の条件でマーシャル安定度試験供試体を作成した。ついで、供試体の標準マーシャル安定度を測定し、更に供試体を60℃恒温水槽に48時間水浸させ、その後に供試体の水浸マーシャル安定度を再び測定した。2つのマーシャル安定度試験の結果から、次式により水浸マーシャル試験の残留安定度を算出した。
【数1】

【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
【表5】

【0034】
【表6】

【0035】
実施例1〜8は、JPI剥離試験において、硬質砂岩、石英粗面岩ともに剥離率0%と非常に良好な耐剥離性を示している。また、マーシャル安定度、残留安定度について、特に残留安定度が80%以上と、混合物に及ぼす水分の影響が小さく、耐剥離性が良好なことを示している。これらは、舗装体として実用に供した場合、耐久性に優れていることを示している。
【0036】
比較例1〜4では、剥離防止剤を添加していないが、これらは実施例に比べJPI剥離試験結果は悪く、また、マーシャル安定度は同程度だが、残留安定度は60〜63%と低い値に留まっている。比較例5では、本発明品である剥離防止剤の添加量が少ないため、JPI剥離試験では良好な耐剥離性を示したものの、混合物の残留安定度は剥離防止剤無添加の比較例1〜4に比べ向上しているが、いまだ不十分である。比較例6では、アミン系剥離防止剤を使用しているが、JPI剥離試験、残留安定度ともに不十分な値にとどまっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸価50〜300のトール油脂肪酸および/またはトール油誘導体よりなることを特徴とする着色舗装用バインダー組成物のための剥離防止剤。

【公開番号】特開2008−184617(P2008−184617A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105747(P2008−105747)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【分割の表示】特願平10−170691の分割
【原出願日】平成10年6月3日(1998.6.3)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】