説明

瞬目計測装置

【課題】疲労度と眼の運動とのより確かな相関に基づいて疲労度を算出することができる瞬目計測装置を提供する。
【解決手段】瞬目計測装置1は、計測対象者の眼100を撮像する撮像部5と、撮像部5により撮像された画像データに基づいて、瞬きの際の閉眼時間を算出する算出手段(瞼抽出処理部6及び瞼開閉計測部7)とを備え、閉眼時間を疲労度を示す数値として算出する。これにより、疲労度と眼の運動とのより確かな相関に基づいて疲労度を算出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、瞬目計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、VDT作業等による眼疲労や車の運転等の作業による疲労と、眼の運動との関係が注目を集めている。例えば、特許文献1には、眼疲労の状態(眼疲労度)を推定するパラメータとして、瞬き(瞬目)の開始時の速度および加速度を利用することが記載されている。また、特許文献2には、眼疲労度を推定するパラメータとして、瞬きの回数や頻度を利用することが記載されている。また、非特許文献1には、車を運転するドライバの意識低下状態(特に眠気)を検知・推定するためのパラメータとして、瞬き開始から閉眼状態を経て再び開眼(すなわち瞬きの完了)するまでの時間を利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−289327号公報
【特許文献2】特許第3348956号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】足立和正、他3名、「ドライバの意識低下検知のための動画像処理によるまばたき計測」、電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌)、電気学会、2004年、第124巻、第3号、p.776−783
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2および非特許文献1に記載された装置は、CCDカメラにより取得した顔画像に基づいて各パラメータを算出している。しかし、現在の一般的なCCDカメラは30フレーム/秒といった低速での撮像しかできない。この場合、1フレーム当たりの所要時間は約33ミリ秒である。一方、人間の瞬きに要する時間(瞬き開始から閉眼状態を経て再び開眼するまで)は100〜300ミリ秒程度であり、CCDカメラでは3〜10フレームの画像しか得られないので、眼の運動を精度良く計測することは困難である。したがって、特許文献1,2または非特許文献1に記載されたパラメータが、疲労度を正確に推定できるものであるかといった信頼性には疑問があり、これらの文献による疲労度の推定は、疲労度と眼の運動との正確な相関に基づいているとは言い難い。
【0006】
本発明は、上記した問題点を鑑みてなされたものであり、疲労度と眼の運動とのより確かな相関に基づいて疲労度を算出することができる瞬目計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、1kHz以上といった極めて高速なフレームレートを有する撮像装置を用いて眼の運動を計測することによって、疲労度と目の運動との関係について、これまで知られていなかった事実を突き止めた。すなわち、瞬きにおける閉眼状態の後、開眼する際の開眼速度と疲労度との間には有意な相関が存在しており、疲労度が増すほど開眼速度が低下し、閉眼状態から開眼状態へ移行する為の所要時間が疲労度に応じて長くなるという事実である。
【0008】
そこで、本発明による瞬目計測装置は、計測対象者の眼を撮像する撮像手段と、撮像手段により撮像された画像に基づいて、瞬きの際の閉眼時間を算出する算出手段と、を備え、閉眼時間を疲労度若しくは健康度を示す数値として算出することを特徴としている。このように、閉眼時間を疲労度若しくは健康度を示す数値として算出することにより、疲労度と眼の運動とのより確かな相関に基づいて疲労度若しくは健康度を算出することが可能となる。
【0009】
また、瞬目計測装置は、算出手段が、画像における眼瞼の縁部を検出して眼瞼位置情報を生成する眼瞼位置検出部と、眼瞼位置情報の時間変化に基づいて閉眼時間を算出する演算部とを有することを特徴としてもよい。これにより、瞬きの際の閉眼時間を画像に基づいて好適に算出することができる。
【0010】
また、瞬目計測装置は、眼瞼位置検出部が、画像において最も暗い暗部領域を抽出し、該暗部領域を通り眼瞼の開閉方向を長手方向とする領域の輝度分布に基づいて眼瞼位置情報を生成することを特徴としてもよい。これにより、画像における眼瞼の縁部を精度良く検出して眼瞼位置情報を生成できる。
【0011】
また、瞬目計測装置は、眼瞼位置検出部が、上眼瞼の縁部を検出して眼瞼位置情報を生成することを特徴としてもよい。瞬きの際には上眼瞼の運動量が下眼瞼より大きいので、このように上眼瞼の縁部を検出して眼瞼位置情報を生成することにより、眼瞼位置情報を更に精度良く生成できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明による瞬目計測装置によれば、疲労度と眼の運動とのより確かな相関に基づいて疲労度若しくは健康度を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による瞬目計測装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本実施形態において用いられる撮像部5の内部構成を示す図である。
【図3】光検出部と、アンプ、A/D変換器、及び瞼抽出処理部との電気的接続関係を示す図である。
【図4】(a)(b)瞼抽出処理部における、画像データに基づく眼瞼の縁部の検出方法を示す図である。
【図5】眼瞼位置情報の時間変化に基づいて瞼開閉計測部が開眼速度または開眼速度に相当する数値を算出する際の算出方法の例を示す図である。(a)は上眼瞼の縁部の位置の時間変化を示しており、(b)は上眼瞼の縁部の移動速度の時間変化を示している。
【図6】眼瞼位置情報の時間変化に基づいて瞼開閉計測部が開眼速度または開眼速度に相当する数値を算出する際の算出方法の例を示す図である。(a)は上眼瞼の縁部の位置の時間変化を示しており、(b)は上眼瞼の縁部の移動速度の時間変化を示している。
【図7】眼瞼位置情報の時間変化に基づいて瞼開閉計測部が開眼速度または開眼速度に相当する数値を算出する際の算出方法の例を示す図である。(a)は上眼瞼の縁部の位置の時間変化を示しており、(b)は上眼瞼の縁部の移動速度の時間変化を示している。
【図8】眼瞼位置情報の時間変化に基づいて算出される、開眼速度に相当する数値の他の例について説明するための図である。
【図9】瞬目計測装置の動作に関するフローチャートである。
【図10】本発明者らが実際に行った実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明による瞬目計測装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明による瞬目計測装置の一実施形態を示す概略図である。図1を参照すると、本実施形態による瞬目計測装置1は、照明2、ダイクロイックミラー3、集光レンズ4、撮像部5、瞼抽出処理部6、及び瞼開閉計測部7を備えている。撮像部5は本実施形態における撮像手段である。また、瞼抽出処理部6は本実施形態における瞼位置検出部であり、瞼開閉計測部7は本実施形態における演算部である。瞼抽出処理部6及び瞼開閉計測部7は、本実施形態において開眼速度算出手段を構成している。なお、集光レンズ4、撮像部5、瞼抽出処理部6、及び瞼開閉計測部7は、カメラ8の内部に収容されている。
【0016】
照明2は、計測対象者の眼100およびその周辺を照らす照明手段であり、例えば赤外光を発生する複数のLEDによって好適に構成される。照明2が眼100およびその周辺へ赤外光L1を照射することにより、眼100およびその周辺において赤外光L1が反射して光像L2が生じる。なお、照明2としては赤外光LEDに限らず他の光源を用いることができるが、高速撮像時には、眼100の様子などを照らし出すのに充分な光量の可視光を発光すると被験者にとって眩しいため、赤外光源を用いることが好ましい。
【0017】
ダイクロイックミラー3は、眼100およびその周辺からの光像L2を透過して、該光像L2を撮像部5の光検出部51に入射させるように配置されている。また、ダイクロイックミラー3は、眼100と撮像部5とを結ぶ光軸の脇に設置された視標9を計測対象者が視認可能なように、視標9と眼100とを光学的に結合している。視標9は、例えば可視光を発生するLEDとピンホールマスクとを組み合わせて輝点パターンを発生するように構成されるとよい。ダイクロイックミラー3は、視標9から出射された可視光L3を眼100へ向けて反射する。これにより、視標9を計測対象者に提示して眼100の角膜位置を一定に維持しつつ、眼100およびその周辺を撮像することができる。なお、視標9とダイクロイックミラー3との間には、視力調整用のレンズ9aが設けられていると尚良い。
【0018】
集光レンズ4は、光像L2を集光して撮像部5の光検出部51上に結像させるためのレンズである。集光レンズ4は、ダイクロイックミラー3と撮像部5との間に配置されている。本実施形態の集光レンズ4は、後述する撮像部5が眼100の全体を含む画像を取得できるように、眼100の眼窩全体が撮像部5の画角に入るように構成されている。
【0019】
撮像部5は、眼100からの光像L2を撮像するための手段である。撮像部5は、二次元状に配列された複数の画素を含む光検出部51を有しており、光検出部51に入射した光像L2を各画素において電気信号に変換することにより、光像L2に関する画素毎の入射光量を示す画像データを生成する。撮像部5は、生成した画像データを表示装置や映像出力端子といった出力手段へ出力するとともに、画像データを瞼抽出処理部6に提供する。
【0020】
瞼抽出処理部6は、撮像部5から提供された画像データに基づいて、該画像データにおける眼瞼の縁部101を検出して眼瞼位置情報を生成する。また、瞼開閉計測部7は、瞼抽出処理部6から提供された眼瞼位置情報の時間変化に基づいて、瞬きにおける閉眼状態の後の開眼速度、もしくは開眼速度に相当する数値を算出する。瞼抽出処理部6及び瞼開閉計測部7は、電気回路として実現されてもよいし、中央演算処理装置やメモリを有するコンピュータ内部でソフトウェアとして実現されてもよい。
【0021】
図2は、本実施形態において用いられる撮像部5の内部構成を示す図である。本実施形態の撮像部5は、1kHz以上といった極めて高速なフレームレートを有する撮像装置であり、このような撮像装置としては、例えば浜松ホトニクス製のインテリジェントビジョンシステム(IVS)カメラが挙げられる。撮像部5は、光検出部51、増幅部53、A/D変換部55、及びスイッチ部57を有している。本実施形態においては、光検出部51はいわゆるMOS型の撮像素子であり、二次元状(m行×n列)に配列された複数の画素51aを有している。複数の画素51aのそれぞれは、入射した光の光量に応じた電荷Qを生成する。
【0022】
増幅部53は、光検出部51の行数に対応するm個のアンプ53aを有している。m個のアンプ53aは、それぞれ光検出部51の画素51aの対応する行と電気的に接続されており、n列の画素51aから電荷Qを順次受け取る。そして、アンプ53aは、電荷Qを増幅するとともに電荷Qを電圧信号である画像信号S1に変換する。また、m個のアンプ53aは、それぞれ図示しない制御部と電気的に接続されており、該制御部からの増幅率制御信号S3に従って、電荷Qを画像信号S1に変換する際の増幅率を変化させることができる。
【0023】
A/D変換部55は、光検出部51の行数に対応するm個のA/D変換器55aを有している。m個のA/D変換器55aは、対応するm個のアンプ53aとそれぞれ電気的に接続されており、電圧信号(アナログ信号)である画像信号S1をアンプ53aから受けてディジタル信号である画像データS2に変換する。なお、本実施形態ではディジタル信号に変換された画像データS2を撮像部5からの画像データとしているが、アナログ信号である画像信号S1を撮像部5からの画像データとして用いてもよい。
【0024】
スイッチ部57は、光検出部51の行数に対応するm個のスイッチ57aを有している。m個のスイッチ57aは、対応するm個のA/D変換器55aと瞼抽出処理部6との間に設けられており、A/D変換器55aと瞼抽出処理部6との接続/非接続を制御する。スイッチ57aが接続状態になると、A/D変換器55aからの画像データS2が瞼抽出処理部6へ提供される。m個のスイッチ57aはそれぞれ瞼抽出処理部6と電気的に接続されており、個別に接続/非接続が制御される。
【0025】
ここで、光検出部51及びその周辺回路についてさらに詳しく説明する。図3は、光検出部51と、アンプ53a、A/D変換器55a、及び瞼抽出処理部6との電気的接続関係を示す図である。図3を参照すると、光検出部51は、フォトダイオードといった光電変換素子により構成される複数の画素51aを有している。そして、光検出部51は、複数の画素51aに対応する複数のコンデンサ51b及び複数の読み出し用スイッチ51cを有している。画素51aの光電変換素子とコンデンサ51bとは互いに並列に接続されており、光電変換素子及びコンデンサ51bの一端に読み出し用スイッチ51cの一端が接続されている。読み出し用スイッチ51cの他端は、同一行に含まれる他の読み出し用スイッチ51cの他端と共に、アンプ53aの入力端に接続されている。読み出し用スイッチ51cは、それぞれ図示しない制御部と電気的に接続されており、該制御部からの制御信号S4に従って個別に接続/非接続が制御される。アンプ53aの出力端はA/D変換器55aの入力端と電気的に接続されており、A/D変換器55aの出力端は瞼抽出処理部6の入力端と電気的に接続されている。
【0026】
図3に示した光検出部51及びその周辺回路の動作は、次のとおりである。光検出部51に光像L2が入射すると、各画素51a毎の光像L2の入射光量に応じた電荷がコンデンサ51bに蓄積される。制御部からの指示に応じて読み出し用スイッチ51cが各行において順次接続されると、コンデンサ51bに蓄積された電荷Qがアンプ53aに順次送られる。電荷Qは、アンプ53aによって電圧信号に変換されるとともに増幅されて画像信号S1となる。画像信号S1は、A/D変換器55aによってアナログ信号からディジタル信号へ変換されて画像データS2となる。画像データS2は、瞼抽出処理部6へ提供される。
【0027】
なお、瞼抽出処理部6における演算を高速に行うために、例えば撮像部5が各画素51aのそれぞれに対応する並列演算回路をさらに有することが好ましい。このような並列演算回路は、例えばA/D変換器55aの後段に接続される。
【0028】
図4(a)及び(b)は、瞼抽出処理部6における、画像データS2に基づく眼瞼の縁部の検出方法を示す図である。図4(a)は画像データS2を示しており、画像データS2には図1に示した眼100に対応する画像D1が含まれている。本実施形態の瞼抽出処理部6は、まず、画像データS2において最も暗い暗部領域D2を抽出する。この暗部領域D2は、画像データS2において眼100の角膜(もしくは瞳孔)に相当する領域である。暗部領域D2の抽出は、例えば図4(a)に示すように眼瞼の開閉方向(すなわち顔の上下方向)を長手方向とする領域A1及びA2を設定し、領域A1及びA2における輝度ヒストグラム(輝度分布)の相互比較に基づいて行うとよい。図4(b)は、領域A1及びA2における輝度ヒストグラムの一例を示すグラフである。図4(b)において、グラフG1は領域A1における輝度ヒストグラムを示しており、グラフG2は領域A2における輝度ヒストグラムを示している。瞼抽出処理部6は、図4(b)におけるグラフG1及びG2を比較することにより、グラフG1に含まれる暗部領域D2を判定することができる。
【0029】
続いて、瞼抽出処理部6は、暗部領域D2を通り眼瞼の開閉方向を長手方向とする領域(本実施形態では領域A1)の輝度ヒストグラムに基づいて、眼瞼の縁部101(図1参照)に相当する画像部分D3、D4を検出する。本実施形態の瞼抽出処理部6は、図4(b)に示すグラフG1において輝度が急激に変化するエッジ部分E1、E2を抽出することにより、このような画像部分D3、D4を検出する。そして、眼瞼の開閉方向における画像部分D3、D4の位置を、眼瞼位置情報として瞼開閉計測部7へ提供する。なお、瞬きの際には上眼瞼の運動量が下眼瞼より大きいので、瞼抽出処理部6は、上眼瞼の縁部(画像部分D3)を検出して眼瞼位置情報を生成することが好ましい。これにより、眼瞼位置情報をより精度良く生成できる。
【0030】
また、眼瞼位置に関するその他の判定方法として、例えば、図4(b)に示すグラフG1,G2において、輝度ヒストグラムが急峻に変化するエッジ部分E,Eの位置を相互に比較し、輝度ヒストグラムがグラフG1及びG2に共通の位置で変化している場合に、当該位置を瞼位置として瞼抽出処理部6が判定しても良い。この場合、輝度値ヒストグラム(G1、G2)の変化分が、あらかじめ設定された閾値thと比較されることにより、上瞼位置及び下瞼位置を抽出することが可能となる。
【0031】
図5〜図7は、眼瞼位置情報の時間変化に基づいて瞼開閉計測部7が開眼速度または開眼速度に相当する数値を算出する際の算出方法の例を示す図である。図5〜図7において、(a)は上眼瞼の縁部の位置の時間変化を示しており、(b)は上眼瞼の縁部の移動速度の時間変化(すなわち(a)に示すグラフの時間微分値)を示している。また、これらの図において、時刻t1は瞬きにおける閉眼開始タイミングを示し、時刻t2は閉眼完了タイミングを示し、時刻t3は開眼開始タイミングを示し、時刻t4は開眼完了タイミングを示す。また、期間T5は閉眼期間であり、眼瞼は閉じた状態となっている。
【0032】
例えば、図5(a)及び(b)に示すように、瞼開閉計測部7は、瞬きの際の開眼開始時(時刻t3)から開眼完了時(時刻t4)までの期間T6における眼瞼の縁部の最大移動速度を算出し、これを開眼速度として提示する。具体的には、瞼開閉計測部7は、図5(a)に示す眼瞼位置情報を微分することにより、上眼瞼の縁部の移動速度についての遷移情報(図5(b))を求める。そして、この遷移情報の期間T6における移動速度の最大値Vmaxを、開眼速度として外部に提示する。なお、閉眼開始タイミング(時刻t1)および開眼完了タイミング(時刻t4)は、例えば上眼瞼の位置が図5(a)に示す開眼閾値Zth1を下回る(または上回る)ことによって知ることができる。また、閉眼完了タイミング(時刻t2)および開眼開始タイミング(時刻t3)は、例えば上眼瞼の位置が図5(a)に示す閉眼閾値Zth2(<Zth1)を下回る(または上回る)ことによって知ることができる。
【0033】
或いは、図6(a)及び(b)に示すように、瞼開閉計測部7は、期間T6において、眼瞼の縁部の移動速度が最大となる時刻tvmaxを含む所定期間TAでの眼瞼の縁部の移動距離ΔZを、開眼速度に相当する数値として算出してもよい。具体的には、瞼開閉計測部7は、図6(a)に示す眼瞼位置情報を微分することにより、上眼瞼の縁部の移動速度についての遷移情報(図6(b))を求める。そして、この遷移情報の期間T6において移動速度の最大値Vmaxが得られる時刻tvmaxを中心に、tvmax±Δt(Δtは所定の時間)以内の期間を上記所定期間TAに設定し、この所定期間TAにおける上眼瞼の縁部の移動距離ΔZを、開眼速度に相当する数値として外部に提示するとよい。
【0034】
或いは、図7(a)及び(b)に示すように、瞼開閉計測部7は、期間T6における眼瞼の縁部の移動速度の半値幅を、開眼速度に相当する数値として算出してもよい。具体的には、瞼開閉計測部7は、図7(a)に示す眼瞼位置情報を微分することにより、上眼瞼の縁部の移動速度についての遷移情報(図7(b))を求める。そして、この遷移情報の期間T6において移動速度の最大値Vmaxが得られる時刻tvmaxを基準として、最大値Vmaxの半値が得られる時刻tFWHM1、tFWHM2をそれぞれ求め、その時間差(tFWHM2−tFWHM1)または所定の係数を乗じた時間を、開眼速度に相当する数値として外部に提示するとよい。
【0035】
或いは、瞼開閉計測部7は、開眼速度に相当する数値として、閉眼速度と開眼速度との比、すなわち[開眼速度]/[閉眼速度]もしくは[閉眼速度]/[開眼速度]を算出してもよい。閉眼速度は、図5に基づき、開眼速度の算出手順と同様の手順により、瞬きの際の閉眼開始時(時刻t1)から閉眼完了時(時刻t2)までの期間における眼瞼の縁部の最大移動速度(移動速度の絶対値の最大値)として算出される。また、図6に基づいて算出された上瞼の縁部の移動距離ΔZ、及び図7に基づいて算出された時間差(tFWHM2−tFWHM1)の算出手順と同様の手順により、閉眼時におけるこれらの数値を算出し、開眼時および閉眼時におけるこれらの数値の比を算出して、開眼速度に相当する数値としてもよい。これにより、個人差や計測バラツキなどの影響を抑えた疲労度の計測が可能となる。
【0036】
開眼速度に相当する数値の他の例について、図8を参照しながら説明する。図8に示すグラフG3は瞼位置の遷移(左目盛)であり、グラフG4は瞼速度の遷移(右目盛)である。本実施形態に係る瞬目計測装置1は、瞬目時の瞼の詳細な位置情報を計測値として出力できるため、図8のように、瞼の位置ならびに開眼及び閉眼の速度を計測情報として得ることができる。そこで、以下のような特徴量を算出し、これらを開眼速度に相当する数値として利用してもよい。具体的には、
1.瞬目前瞼位置:閉眼前における瞼位置、すなわち閉眼前の瞼速度が0の時刻における瞼位置
2.完全閉眼時瞼位置:閉眼動作と開眼動作との間における瞼位置、すなわち閉眼完了タイミングと閉眼開始タイミングとの間に挟まれた瞼速度が0の時刻における瞼位置
3.瞬目後瞼位置:開眼後における瞼位置、すなわち開眼後の瞼速度が0の時刻における瞼位置
4.閉眼時最大速度時刻(ta):閉眼速度の絶対値が最大となる時刻
5.閉眼/開眼時極小速度時刻(tb):閉眼動作から開眼動作へ移る際の、瞼位置および瞼速度が極小となる時刻
6.開眼時最大速度時刻(tc):開眼速度の絶対値が最大となる時刻
7.閉眼時10%時刻(td10):瞼位置が、閉眼前の瞼位置から閉眼後の瞼位置までの距離の10%に達した時刻
8.閉眼時50%時刻(td50):瞼位置が、閉眼前の瞼位置から閉眼後の瞼位置までの距離の50%に達した時刻
9.閉眼時90%時刻(td90):瞼位置が、閉眼前の瞼位置から閉眼後の瞼位置までの距離の90%に達した時刻
10.開眼時10%時刻(te10):瞼位置が、開眼前の瞼位置から開眼後の瞼位置までの距離の10%に達した時刻
11.開眼時50%時刻(te50):瞼位置が、開眼前の瞼位置から開眼後の瞼位置までの距離の50%に達した時刻
12.開眼時90%時刻(te90):瞼位置が、開眼前の瞼位置から開眼後の瞼位置までの距離の90%に達した時刻
【0037】
さらに、上記各時刻より、下記の特徴量を算出することも可能となる。
13.閉眼時間:(閉眼時10%時刻(td10)と閉眼時90%時刻(td90)との時間差)
14.開眼時間:(開眼時10%時刻(te10)と開眼時90%時刻(te90)との時間差)
【0038】
また、閉眼/開眼時の特徴を示すために、下記の特徴量を算出することも可能となる。
15.閉眼時の比:(td50−td90)/(td10−td50
16.開眼時の比:(te50−te90)/(te10−te50
【0039】
瞬目計測装置1は、このようにして算出された開眼速度または前記開眼速度に応じた数値を、疲労度(主に眼疲労度)を示す数値として外部に提示する。提示先としては、例えば表示装置(ディスプレイ)や各種の疲労軽減装置(VDTのコントラストや輝度等を調整する装置など)が挙げられる。
【0040】
図9は、瞬目計測装置1の動作に関するフローチャートである。図9に示すように、瞬目計測装置1では、まず図1に示した眼100及びその周辺の撮影を撮像部5が行い、画像データを取得する(ステップS10)。次に、図4(a)に示した暗部領域D2を瞼抽出処理部6が抽出し(ステップS11)、暗部領域D2を通り眼瞼の開閉方向を長手方向とする領域A1の輝度ヒストグラム(図4(b))を作成する(ステップS12)。そして、瞼抽出処理部6は、この輝度ヒストグラムに基づいて、眼瞼の縁部101(図1参照)に相当する画像部分D3を検出し、画像部分D3の位置を示す眼瞼位置情報を作成する(ステップS13)。続いて、瞼開閉計測部7は、この眼瞼位置情報の時間変化に基づいて、開眼速度または開眼速度に相当する数値を算出する(ステップS14)。
【0041】
本実施形態の瞬目計測装置1により得られる効果について、以下に説明する。従来より、CCDカメラにより取得した顔画像に基づいて瞬きに関するパラメータを算出し、このパラメータと疲労度との相関について研究がなされてきた。しかし、CCDカメラの撮像速度は30フレーム/秒(1フレーム当たり約33ミリ秒)程度であるため、100〜300ミリ秒程度といわれている人間の瞬きをCCDカメラを用いて精度良く撮像することは困難である。したがって、上記パラメータは疲労度を正確に推定できるものであるか疑いがある。
【0042】
なお、瞬きを計測する方法としては、画像処理の他に、眼電図(EOG:Electrooculogram)や筋電図(EMG:Electromyography)を用いる計測方法がある。しかし、EOGやEMGは電極を眼の周囲の所定位置に貼り付ける必要があり、簡便性を欠いてしまう。特に、VDT作業や車の運転などの作業中においては、非接触での計測が可能な撮像による計測が望ましい。また、EOGのような筋電位計測では、瞼位置の絶対値を正確に計測することは困難である。そのため、非接触かつ高精度の瞬目計測のツールとして、上記実施形態のような2次元センサ、特に固体撮像素子を用いた高速センシングが非常に有効な手段となる。
【0043】
本発明者らは、1kHz以上といった極めて高速なフレームレートを有する撮像装置(IVSカメラ)を用いて眼の運動を計測することによって、疲労度と目の運動との関係について、これまで知られていなかった事実を突き止めた。すなわち、瞬きにおける閉眼状態(図5〜図7に示した期間T5)の後、開眼する際の開眼速度と疲労度との間には有意な相関が存在しており、疲労度が増すほど開眼速度が低下し、閉眼状態から開眼状態へ移行する為の所要時間が疲労度に応じて長くなるという事実である。
【0044】
図10は、本発明者らが実際に行った実験の結果を示すグラフである。図10には、VDT作業直前、VDT作業を30分継続した直後、およびVDT作業を60分継続した直後のそれぞれにおける、閉眼所要時間(図5〜図7におけるt2−t1)および開眼所要時間(図5〜図7におけるt4−t3)の計測結果が示されている。図10を参照すると、VDT作業の直前では開眼所要時間が約150ミリ秒であるが、VDT作業を30分継続した直後では開眼所要時間が約200ミリ秒と長くなり、VDT作業を60分継続した直後では開眼所要時間が約230ミリ秒と更に長くなった。すなわち、1時間のVDT作業によって開眼所要時間が1.5倍になったのである。
【0045】
なお、図10から明らかなように、開眼動作及び閉眼動作は、その所要時間が50ミリ秒から250ミリ秒程度という極めて高速な現象であり、これらの特徴量を計測するには、好ましくは、それらの1/10倍程度(50ミリ秒の現象を捉える場合には5ミリ秒すなわち200Hz)のサンプリング周期での計測が必要となる。このため、従来のCCDカメラ(30フレーム/秒)では、開眼や閉眼の現象を高精度かつ正確に計測することは困難であった。上記実施形態では、高いフレームレートを有する撮像装置としてMOS型の撮像装置を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、CCDカメラの部分読み出し機能(高速部分読み出し)や、まとめ読み出し(ビニング機能)を利用すれば、高フレームレートを実現することが可能となる。
【0046】
そこで、本実施形態の瞬目計測装置1は、図1に示したように、計測対象者の眼100を撮像する撮像部(撮像手段)5と、撮像部5により撮像された画像データに基づいて、瞬きの際の開眼速度または開眼速度に相当する数値を算出する開眼速度算出手段(瞼抽出処理部6、瞼開閉計測部7)とを備えており、開眼速度または開眼速度に応じた数値を疲労度を示す数値として算出する。このように、開眼速度または開眼速度に応じた数値を疲労度を示す数値として算出することにより、疲労度と眼の運動とのより確かな相関に基づいて疲労度を算出することができる。
【0047】
また、本実施形態のように、開眼速度算出手段は、画像データにおける眼瞼の縁部を検出して眼瞼位置情報を生成する瞼抽出処理部(眼瞼位置検出部)6と、眼瞼位置情報の時間変化に基づいて開眼速度または開眼速度に相当する数値を算出する瞼開閉計測部(演算部)7とを有するとよい。これにより、瞬きの際の開眼速度または開眼速度に相当する数値を画像データに基づいて好適に算出することができる。
【0048】
また、本実施形態のように、瞼抽出処理部6は、画像データにおいて最も暗い暗部領域D2(図4(a)参照)を抽出し、該暗部領域D2を通り眼瞼の開閉方向を長手方向とする領域A1の輝度分布(例えば図4(b)のグラフG1)に基づいて、眼瞼位置情報を生成するとよい。これにより、画像データにおける眼瞼の縁部を精度良く検出して眼瞼位置情報を生成できる。
【0049】
本実施形態による瞬目計測装置1は、次のような応用が可能である。例えば、VDT作業や車の運転、製品検査等に従事する者の眼を計測し、開眼速度または開眼速度に相当する数値が所定の閾値を越えた場合に警告を発して休息を促す等、疲労度モニタとして応用できる。また、瞬目計測装置1により計測される開眼速度または開眼速度に相当する数値に応じて、環境パラメータ(例えば、VDT作業時であれば画面のコントラストや輝度、作業時の部屋の明るさなど)を調整することにより、作業者の疲労度に応じた作業環境の調整を行うことも可能である。また、瞬目計測装置1は小型に構成でき且つ非接触計測が可能なので、携帯電話のカメラ機能やパソコンのWEBカメラなどに組み合わせて手軽な健康度計測装置として利用することもできる。
【0050】
本発明による瞬目計測装置は、上記した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では撮像手段として1kHz以上のフレームレートを有する撮像装置(IVSカメラ)を使用したが、エリアセンサやラインセンサを使用してもよい。ラインセンサを使用する場合、瞬きに伴う眼瞼の位置の変化を検出するために、ラインセンサの長手方向が眼瞼の開閉方向に沿うようにラインセンサを設置するとよい。また、開眼速度または開眼速度に相当する数値は上述した3つの数値(最大移動速度、最大移動速度となる時刻を含む所定期間での移動距離、移動速度の半値幅)に限られるものではなく、開眼速度に関わる他の数値を算出/提示してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…瞬目計測装置、2…照明、3…ダイクロイックミラー、4…集光レンズ、5…撮像部、6…瞼抽出処理部、7…瞼開閉計測部、8…カメラ、9…視標、51…光検出部、51a…画素、53…増幅部、53a…アンプ、55…変換部、55a…変換器、57…スイッチ部、57a…スイッチ、D2…暗部領域、E1,E2…エッジ部分、L1…赤外光、L2…光像、L3…可視光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象者の眼を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段により撮像された画像に基づいて、瞬きの際の閉眼時間を算出する算出手段と
を備え、
前記閉眼時間を疲労度若しくは健康度を示す数値として算出することを特徴とする、瞬目計測装置。
【請求項2】
前記算出手段は、
前記画像における眼瞼の縁部を検出して眼瞼位置情報を生成する眼瞼位置検出部と、
前記眼瞼位置情報の時間変化に基づいて前記閉眼時間を算出する演算部と
を有することを特徴とする、請求項1に記載の瞬目計測装置。
【請求項3】
前記眼瞼位置検出部は、前記画像において最も暗い暗部領域を抽出し、該暗部領域を通り眼瞼の開閉方向を長手方向とする領域の輝度分布に基づいて前記眼瞼位置情報を生成することを特徴とする、請求項2に記載の瞬目計測装置。
【請求項4】
前記眼瞼位置検出部は、上眼瞼の縁部を検出して前記眼瞼位置情報を生成することを特徴とする、請求項2または3に記載の瞬目計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−139562(P2012−139562A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−101436(P2012−101436)
【出願日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【分割の表示】特願2007−300876(P2007−300876)の分割
【原出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】