説明

矢板埋設機およびそれを用いた矢板埋設工法

【課題】矢板の埋設を機械的にかつ安全に行うことができるとともに、作業効率を高めて施工期間を短縮しつつ施工コストを削減することができる矢板埋設機および矢板埋設工法を提供する。
【解決手段】矢板支持装置30に鋼矢板50を支持した状態でチェーンカッタ40を周回させつつ、その全体を地中に降下させることにより地面を掘削して鋼矢板50を地中に挿入する。次いで、係止装置60を作動させて矢板支持装置30への鋼矢板50の係止を解除し、矢板支持装置30を上昇させて鋼矢板50のみを地中に残す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に矢板を埋設する矢板埋設機およびそれを用いた矢板埋設工法に関し、より詳しくは、矢板の埋設を機械的にかつ安全に行うことができるとともに、作業効率を高めて施工期間を短縮しつつ施工コストを削減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土木建築構造物の地下部分を構築するために地面を掘り下げる際には、山留壁を構築して土砂の崩落や地下水の侵出を防止するべく、親杭横矢板工法、シートパイル工法(SP工法)、ソイルセメント柱列壁工法(SMW工法)等の各種工法が用いられている(例えば、下記特許文献1,2を参照)。
【0003】
このとき親杭横矢板工法においては、地面を掘り下げる部分の境界線に沿って所定の間隔を開けて杭穴を掘削するととともに、この杭穴にH形鋼を所定の向きに順次挿入する。
それから、掘り下げ部分を掘削して親杭を露出させ、左右一対のH形鋼の内側溝部分に横矢板(木製)を挿入して土留めを行う。
そして、掘り下げ部分が深くなるに連れて順次横矢板を追加して土留壁を構築することにより、周囲の地盤の崩落を防止しながら掘り下げ工事を行うことができる。
【0004】
【特許文献1】特開平9−111754号公報
【特許文献2】特開2002−180459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の親杭横矢板工法においては、左右一対のH形鋼の間に横矢板を取り付けるときに、外側の土砂が掘り下げ部分の内側に崩落するおそれがある。
【0006】
さらに、上述したシートパイル工法(SP工法)およびソイルセメント柱列壁工法(SMW工法)においては、施工に用いるベースマシンが大型なものであるため、そのリース費用が嵩むため、工事全体のコストが増大することになる。
【0007】
そこで本発明の目的は、上述した従来技術が有する問題点を解消し、矢板の埋設を機械的にかつ安全に行うことができるとともに、作業効率を高めて施工期間を短縮しつつ施工コストを削減することができる矢板埋設機および矢板埋設工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための請求項1に記載した手段は、
矢板を地中に埋設する矢板埋設機であって、
前記矢板が上下方向に延びるように支持する矢板支持装置と、
前記矢板支持装置に対して前記矢板を係脱自在に係止する係止装置と、
前記矢板支持装置に支持されて前記矢板の周りを周回するチェーンカッタと、
前記チェーンカッタを駆動して周回させる駆動装置と、
前記矢板支持装置を地面より上方にある位置と地中に挿入した位置との間で昇降させる昇降装置と、を備えることを特徴とする。
【0009】
すなわち、請求項1に記載した矢板埋設機は、埋設しようとする矢板の周りで周回するチェーンカッタによって地中に溝を掘削しつつ、矢板と矢板支持装置およびチェーンカッタを一体に地中に挿入するものである。
そして、地中への矢板の挿入が完了すると、係止装置を作動させて矢板を矢板支持装置から分離した後、矢板支持装置およびチェーンカッタを一体に地上に引き上げる。
これにより、地中への矢板の挿入を完全に機械的にかつ安全に行うことができる。
また、左右一対のH形鋼の間に矢板を挿入するときには、H形鋼の内側溝部分にある土砂をチェーンカッタによって除去しつつ矢板を地中に挿入することができるから、作業効率を高めて施工期間を短縮しつつ施工コストを削減することができる。
【0010】
なお、チェーンカッタは、矢板支持手段の角部に回転自在に支持された複数のスプロケット間に掛け回すことができる。
そして、請求項2に記載した矢板埋設機のように、チェーンカッタを構成する多数の掘削ビットのうち、第1の掘削ビットの掘削幅は、矢板支持装置および矢板を一体に地中に挿入できる幅の掘削溝を掘削できるように設定する。
また、チェーンカッタを構成する多数の掘削ビットのうち、第2の掘削ビットの掘削幅は、矢板を地中に残した状態で矢板支持装置およびチェーンカッタを一体に地上側に引き上げるときに、チェーンカッタと矢板とが干渉しないようにその掘削幅を設定する。
そして、第2の掘削ビットは、チェーンカッタの周回路のうち、少なくとも矢板の下辺に沿って延びる部分において連続して並ぶことができるように互いに接続する。
これにより、チェーンカッタの一部を切り離して矢板支持装置から取り外すことなく、矢板支持装置およびチェーンカッタを一体に地上側に引き上げることができるから、作業効率を高めて施工期間を短縮しつつ施工コストを削減することができる。
【0011】
矢板支持装置は、埋設する矢板とほぼ同じ大きさの板状部材とし、その表面に矢板を密着させた状態で支持することができる。
また、矢板支持装置は、矢板の周縁あるは角部のみを保持する枠体として構成することもできる。
【0012】
係止装置は、矢板支持装置あるいは矢板のいずれか一方に固定した係止部材と、矢板支持装置あるいは矢板のいずれか他方に設けられて前記係止部材が係脱自在に係合する係止部と、これらの係止部材と係止部とが係合する方向に矢板を付勢する油圧シリンダとから構成することができる。
また、矢板支持装置に対して矢板が上方に相対変位したときに係止部材と係止部とが係合するようにするとともに、油圧シリンダは矢板を上方に向かって付勢するようにし、油圧シリンダによる付勢を止めると矢板がその自重によって下方に変位して係止部材と係止部との係合が解除されるようにすることができる。
さらに、係止装置は、油圧シリンダを用いて矢板の一部を矢板支持装置に向かって水平方向に押圧し、両者の間に生じる摩擦力によって矢板を矢板支持装置に係止するとともに、油圧シリンダによる押圧を止めると矢板がその自重によって下方に変位し、矢板支持装置に対する矢板の係止を解除することもできる。
加えて、係止装置を矢板支持装置の上部に設けることにより、常に地上側に位置するようにすることができる。
【0013】
駆動装置は、矢板埋設作業に先立って施工する杭孔の掘削作業に用いるものを流用することができる。
あるいは、チェーンカッタを巻回すスプロケットと同軸な油圧モータとして矢板支持装置に固定することもできる。
手段を上昇させることにより、鋼矢板のみを地中に残して埋設することができる。
【0014】
また、上記の課題を解決するための請求項3に記載した手段は、請求項1に記載した矢板埋設機を用いて矢板を地中に埋設する工法であって、
前記矢板支持装置に前記矢板を装着し、
前記係止装置を用いて前記矢板を前記矢板支持装置に係止し、
前記チェーンカッタを周回させた状態で前記昇降装置により前記矢板支持装置および前記矢板と一体に降下させることにより、地盤を掘削しつつ前記矢板を地中に挿入し、
前記係止装置による前記矢板支持装置に対する前記矢板の係止を解除し、
前記昇降手段により前記矢板支持装置および前記チェーンカッタを一体に上昇させて前記矢板のみを地中に残すことを特徴とする。
【0015】
すなわち、請求項2に記載した矢板埋設工法によれば、鋼矢板の地中への埋設を機械的にかつ安全に行うことができるから、作業効率を高めて施工期間を短縮しつつ施工コストを削減することができる。
【0016】
なお、請求項4に記載した矢板埋設工法のように、所定の深さまで前記矢板を地中に挿入した後に、前記第2の掘削ビットが前記矢板の下辺に沿って並ぶように前記チェーンカッタの周回を停止させ、次いで前記昇降手段により前記矢板支持装置および前記チェーンカッタを一体に上昇させて前記矢板のみを地中に残すことができる。
【発明の効果】
【0017】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、矢板の埋設を機械的にかつ安全に行うことができるとともに、作業効率を高めて施工期間を短縮しつつ施工コストを削減することができる矢板埋設機および矢板埋設工法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1〜図15を参照し、本発明に係る矢板埋設機および矢板埋設工法の一実施形態およびその変形例について詳細に説明する。
なお、以下の説明においては、同一の部分に同一の符号を用いて重複した説明を省略する。
また、地中に埋設する矢板の幅方向を左右方向と、鉛直方向を上下方向と言う。
【0019】
まず最初に図1および図2を参照して本実施形態の矢板埋設機の全体構造について説明すると、この矢板埋設機100は、杭穴掘削作業およびH形鋼の建て込み作業に用いるベースマシン1のリーダマスト2に容易に装着することができるものであり、駆動装置10、駆動力伝達装置20、矢板支持装置30、チェーンカッタ40,埋設する鋼矢板50を矢板支持装置30に係脱自在に係止するための係止装置60とを備えている。
【0020】
駆動装置10は、図3に示したように、リーダマスト2の頂部から下方に延びるワイヤ11がシーブ12に巻き付けられるとともに、その案内部13がリーダマスト2のガイド部とスライド自在に係合し、リーダマスト2に沿って自在に昇降させることができる。
また、その内部には油圧モータ14および減速機15が内蔵されており、駆動軸16を正逆両方向に回転させることができる。
【0021】
駆動力伝達装置20は、油圧モータ14の回転駆動出力をチェーンカッタ40に伝達するためのもので、図3および図4に示したように、駆動装置10の下部に接続された支持腕21によって吊り下げられているとともに、その案内部22がリーダマスト2のガイド部とスライド自在に係合し、リーダマスト2に沿って駆動装置10と一体に昇降させることができる。
また、駆動軸16の下端の傘歯車23と噛み合う傘歯車24によって、回転駆動力は水平支軸25に伝達される。
そして、水平支軸25と一体に回転するスプロケット26にはチェーン27が巻き掛けられており、チェーンカッタ40側に駆動力を伝達するようになっている。
【0022】
矢板支持装置30は、図2に示したように、埋設する鋼矢板50の幅方向にはほぼ等しいが上下方向寸法には長い正面視で矩形状の形をしており、その上端に連設されている接続部31が駆動力伝達装置20の下端に堅固に接続されていて、駆動装置10および駆動力伝達装置20と一体に昇降するようになっている。
そして、その矩形板状の本体部材32の上部には、図3および図4に示したように、鋼矢板50の上縁と係合する左右一対の係止部材33がそれぞれ固設されており、かつ係止装置60のくさび状部材63を挿通するための左右一対の挿通孔34が貫設されている。
また、図5に示したように、本体部材32の下部に貫設されている貫通孔35の上縁には、鋼矢板50側の係止部材52の上下動を案内するための左右一対の案内部材36が固設されている。
さらに、貫通孔35より下方の表面には、鋼矢板50のみを地中に残して矢板支持装置30およびチェーンカッタ40を地上に引き上げるときに係止部材52との干渉を防止するために、左右一対の凹溝37が上下方向に延びるように凹設されている。
加えて、図8および図9に示したように、本体部材32の左右の側縁および上下の側縁には、チェーンカッタ40の周回を案内するためのガイド部材38,39が所定の間隔を開けてそれぞれ固定されている。
【0023】
チェーンカッタ40は、多数の掘削ビットを鎖要素によって無端状に連結したものであり、図2に示したように、矢板支持装置30の四隅に回転自在に支持されているスプロケット41,42,43,44に巻回されて、鋼矢板50の周りを周回できるようになっている。
また、図3および図4に示したように、1つのスプロケット41を回転自在に支持している回転軸45にはスプロケット46が固定されて一体に回転するようになっている。
そして、上述した駆動力伝達装置20のチェーン27がこのスプロケット46に巻回されており、油圧モータ14を作動させることによって鋼矢板50の周りにチェーンカッタ40を周回させることができるようになっている。
【0024】
チェーンカッタ40は、掘削幅が異なる2種類の掘削ビットから構成されている。
すなわち、図8に示したように、第1の掘削ビット48の掘削幅はW1であり、矢板支持装置30および鋼矢板50を地中に挿入できる幅の掘削溝を掘削できるようになっている。
これに対して、図9および図10に示した第2の掘削ビット49の掘削幅はW2であり、鋼矢板50を地中に残したまま矢板支持装置30およびチェーンカッタ40を引き上げるときに、鋼矢板50と干渉しないような幅となっている。
なお、チェーンカッタ40は、矢板支持装置30の周りを周回するため、掘削幅の狭い第2の掘削ビット49を有していても、第1の掘削ビット48によって掘削幅W1の溝を掘削することができる。
【0025】
また、第2の掘削ビット49の個数については、スプロケット43のやや上方から鋼矢板50の下辺に沿ってスプロケット44のやや上方に至る、図5中に矢印Lで示した範囲を第2の掘削ビット49だけで占めることができるよう設定されている。
これにより、第2の掘削ビット49の列が上述した範囲Lのところに来るように、チェーンカッタ40の周回を停止させると、図10に示したように、矢板支持装置30およびチェーンカッタ40を引き上げるときに鋼矢板50とチェーンカッタ40とが干渉することはない。
【0026】
鋼矢板50は平坦かつ矩形状の鋼板で、その寸法は、例えば、厚さ25ミリメートル、幅1.5メートル、上下方向寸法5〜8メートルとすることができる。
また、その上部には、図3および図4に示したように、係止装置60のくさび状部材63を挿通するための左右一対の挿通孔51が貫設されている。
さらに、その下部には、図5および図9に示したように、矢板支持装置30の貫通孔35の上縁と係合する左右一対の係止部材52が固設されている。
なお、鋼矢板50を吊り上げるときに便利なように、吊り上げフックを鋼矢板50に取り付けておくことが好ましい。
【0027】
これにより、矢板支持装置30の本体部材32の表面と鋼矢板50の裏面とが密着するように矢板支持装置30に鋼矢板50を装着した後、本体部材32に対して鋼矢板50を上方にスライドさせると、図3に示したように鋼矢板50の上縁が本体部材32側の係止部材33に係合し、かつ図9に示したように鋼矢板50の下部にある係止部材52が本体部材32の貫通孔35の上縁と係合するので、矢板支持装置30に鋼矢板50を一体に保持することができる。
【0028】
係止装置60は、図3に示したように、矢板支持装置30の接続部31の下方に堅固に支持された油圧シリンダ61を有している。
そして、この油圧シリンダ61のピストンは、接続部31に支持された筒状の保持部材62によってスライド自在に保持されており、かつその先端にはくさび状部材63が固定されている。
これにより、図6に示したように、油圧シリンダ61が一杯に伸張した状態では、くさび状部材63の先端が本体部材32の挿通孔34および鋼矢板50の挿通孔51を介して鋼矢板50の表側に突出する。
そして、くさび状部材63の下面が本体部材32の挿通孔34の下縁に当接するとともに、その傾斜した上面が挿通孔51の上縁に当接して、鋼矢板50を上方に押し上げる。
これにより、図6に示したように鋼矢板50の上縁が係止部材33と係合し、かつ図9に示したように係止部材52が本体部材32の貫通孔35の上縁と係合するから、鋼矢板50は矢板支持装置30の本体部材32の表面に密着した状態で係止される。
【0029】
これに対して、図7に示したように、油圧シリンダ61が一杯に短縮した状態では、くさび状部材63が鋼矢板50の裏面側に後退するので、矢板支持装置30の本体部材32に対する鋼矢板50の係止が解除される。
これにより、鋼矢板50はその自重によって、矢板支持装置30の本体部材32に対して下方に相対変位できる状態となる。
【0030】
次に、図1、図11および図12を参照し、本実施形態の矢板埋設機100を用いて鋼矢板50を埋設する矢板埋設工法について説明する。
【0031】
鋼矢板50の埋設に先立ち、ベースマシン1を用いた杭孔の掘削、ソイルセメントの注入、杭孔の内部へのH形鋼の建て込みを行う。
そして、ソイルセメントの固化が完了した後、左右一対のH形鋼の間への鋼矢板50の埋設を行う。
【0032】
鋼矢板50を埋設する作業の最初の段階では、図1に示したように矢板埋設機100を地面Gより上方において吊り下げた状態とし、埋設する鋼矢板50を吊り上げて矢板支持装置30の本体部材32の表面に密着させる。
次いで、鋼矢板50を吊り上げてわずかに上方にスライドさせると、図3に示したように鋼矢板50の上縁が係止部材33と係合し、かつ図9に示したように係止部材52が本体部材32の貫通孔35の上縁と係合する。
その後、係止装置60の油圧シリンダ61を一杯に伸張させると、くさび状部材63が鋼矢板50の挿通孔51の上縁を上方に押し上げるので、鋼矢板50は矢板支持装置30の本体部材32の表面に密着した状態で係止される。
【0033】
それから、駆動装置10の油圧モータ14を作動させると、チェーンカッタ40が矢板支持装置30および鋼矢板50の周りを周回する状態となる。
この状態において、駆動装置10のシーブ12に巻回されているワイヤ11を下方に延ばすと、矢板埋設機100および鋼矢板50が一体となって降下し、チェーンカッタ40が地盤を掘削する。
このとき、チェーンカッタ40が地盤を掘削する掘削幅は、矢板支持装置30および鋼矢板50の合計厚み寸法をわずかに上回っているから、図11に示したように、矢板支持装置30、チェーンカッタ40および鋼矢板50を地中に挿入することができる。
【0034】
矢板支持装置30および鋼矢板50の所定の深さまでの挿入が完了すると、チェーンカッタ40の周回速度を減少させ、図5に矢印Lで示した範囲に第2の掘削ビット49が位置するようにチェーンカッタ40の周回を停止させる。
これにより、図10に示したように、鋼矢板50を地中に残して矢板支持装置30およびチェーンカッタ40を引き上げることができる状態となる。
【0035】
次いで、図7に示したように、係止装置60の油圧シリンダ61を一杯に短縮させると、くさび状部材63は鋼矢板50の裏面側に後退する。
これにより、鋼矢板50は、その自重により矢板支持装置30の本体部材32に対して下方に変位できる状態となる。
この状態において、矢板支持装置30およびチェーンカッタ40を上昇させると、鋼矢板50の下端に取り付けられている係止部材52は、本体部材32の表面に凹設されている凹溝37の内側および第2の掘削ビット49の近傍を通過するので、互いに干渉して矢板支持装置30およびチェーンカッタ40の上昇を妨げることはない。
そして、矢板支持装置30およびチェーンカッタ40をさらに上昇させると、図12に示したように、鋼矢板50のみが地中に残存した状態で、矢板埋設機100の全体を地面Gの上方に上昇させることができる。
【0036】
変形例
次に図13〜図15を参照し、矢板支持装置の本体部材32に鋼矢板50を係止するための係止装置の変形例について説明する。
【0037】
上述した係止装置60は、本体部材32の挿通孔34および鋼矢板50の挿通孔51にくさび状部材63を挿通することにより鋼矢板50を係止する構造であった。
これに対してこの変形例の係止装置80は、回動するカム部材82を用いて鋼矢板50を支持部に押圧し、摩擦力によって鋼矢板50を係止する構造となっている。
【0038】
具体的に説明すると、図13に示した変形例の矢板支持装置70は、駆動力伝達装置20の下端に堅固に接続された接続部31と、この接続部31の下方に連設された支持部71とを有しており、本体部材32は支持部71によって堅固に支持されている。
また、支持部71には、鋼矢板50の表面に密着する押圧部72が設けられている。
さらに、本体部材32の裏面側に配置された支持部73には、支軸81によってカム部材82が回動自在に支持されている。
加えて、支持部74によって吊り下げられた状態の油圧シリンダ83のピストン84は、カム部材82と一体に回動する腕部85に接続されている。
【0039】
これにより、図14に示したように油圧シリンダ83を短縮させると、カム部材82が図示時計方向に回動し、本体部材32の上部に貫設されている挿通孔34を介して鋼矢板50の裏面に当接する。
そして、油圧シリンダ83をさらに短縮させると、カム部材82が鋼矢板50を押圧部72に強く押圧する。
したがって、鋼矢板50は、押圧部72との間に生じる摩擦力によって堅固に係止された状態となり、本体部材32に対する相対変位が不能となる。
【0040】
これに対して、図15に示したように油圧シリンダ83を伸張させると、カム部材82が図示反時計方向に回動して鋼矢板50の裏面から離間する。
これにより、鋼矢板50は本体部材32に対して相対変位可能な状態となるから、鋼矢板50を地中に残したまま、矢板支持装置70およびチェーンカッタ40を一体に引き上げることができる状態となる。
【0041】
以上、本発明に係る矢板埋設機およびそれを用いた矢板埋設工法の一実施形態および変形例について詳しく説明したが、本発明は上述した実施形態によって限定されるものではなく、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
例えば、上述した実施形態および変形例においては、いずれも鋼矢板が平板となっているが、例えば波形の鋼矢板を用いることができることは言うまでもない。
また、親杭としての左右一対のH形鋼の間に鋼矢板を埋設する場合を例にとって説明したが、親杭の背面側に鋼矢板を埋設することもできるし、親杭とは無関係に鋼矢板を任意の場所に埋設することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】一実施形態の矢板埋設機を示す側面図。
【図2】図1に示した矢板埋設機の正面図。
【図3】図1に示した矢板埋設機の要部拡大側面図。
【図4】図1に示した矢板埋設機の要部拡大正面図。
【図5】図1に示した矢板埋設機の要部拡大正面図。
【図6】図3に示した係止装置の作動を示す要部拡大側面図。
【図7】図3に示した係止装置の作動を示す要部拡大側面図。
【図8】図5中に示したVIII−破断線に沿った要部拡大断面図。
【図9】図5中に示したIX−破断線に沿った要部拡大断面図。
【図10】鋼矢板を地中に残したまま矢板支持装置およびチェーンカッタを引き上げる状態を示す図9と同じ要部拡大断面図
【図11】図1の矢板埋設機を用いて鋼矢板を埋設する手順を説明する側面図。
【図12】図1の矢板埋設機を用いて鋼矢板を埋設する手順を説明する側面図。
【図13】変形例の矢板埋設機を示す側面図。
【図14】図13に示した係止装置の作動を説明する要部拡大側面図。
【図15】図13に示した係止装置の作動を説明する要部拡大側面図。
【符号の説明】
【0043】
1 ベースマシン
2 リーダマスト
10 駆動装置
11 ワイヤ
12 シーブ
13 案内部
14 油圧モータ
15 減速機
16 駆動軸
20 駆動力伝達装置
21 支持腕
22 案内部
23,24 傘歯車
25 水平支軸
26 スプロケット
27 チェーン
30 矢板支持装置
32 本体部材
33 係止部材
34 挿通孔
35 貫通孔
36 案内部材
37 凹溝
38,39 ガイド部材
40 チェーンカッタ
41,42,43,44 スプロケット
45 回転軸
46 スプロケット
48 第1の掘削ビット
49 第2の掘削ビット
50 鋼矢板
51 挿通孔
52 係止部材
60 係止装置
61 油圧シリンダ
62 保持部材
63 くさび状部材
71 支持部
72 押圧部
73 支持部
74 カム部材
75 支軸
76 支持部
77 油圧シリンダ
78 腕部
100 一実施形態の矢板埋設機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矢板を地中に埋設する矢板埋設機であって、
前記矢板が上下方向に延びるように支持する矢板支持装置と、
前記矢板支持装置に対して前記矢板を係脱自在に係止する係止装置と、
前記矢板支持装置に支持されて前記矢板の周りを周回するチェーンカッタと、
前記チェーンカッタを駆動して周回させる駆動装置と、
前記矢板支持装置を地面より上方にある位置と地中に挿入した位置との間で昇降させる昇降装置と、を備えることを特徴とする矢板埋設機。
【請求項2】
前記チェーンカッタは、多数の掘削ビットを鎖要素によって無端状に接続したものであり、
前記掘削ビットは、
前記矢板支持装置および前記矢板を一体に地中に挿入できる幅の掘削溝を掘削できるようにその掘削幅が設定された第1の掘削ビットと、
前記矢板を地中に残した状態で前記矢板支持装置および前記チェーンカッタを一体に地上側に引き上げるときに、前記チェーンカッタと前記矢板とが干渉しないようにその掘削幅が設定された第2の掘削ビットと、を有し、
かつ前記第2の掘削ビットは、前記チェーンカッタの周回路のうち、少なくとも前記矢板の下辺に沿って延びる部分において連続して並ぶことができるように互いに接続されていることを特徴とする請求項1に記載した矢板埋設機。
【請求項3】
請求項1に記載した矢板埋設機を用いて矢板を地中に埋設する工法であって、
前記矢板支持装置に前記矢板を装着し、
前記係止装置を用いて前記矢板を前記矢板支持装置に係止し、
前記チェーンカッタを周回させた状態で前記昇降装置により前記矢板支持装置および前記矢板と一体に降下させることにより、地盤を掘削しつつ前記矢板を地中に挿入し、
前記係止装置による前記矢板支持装置に対する前記矢板の係止を解除し、
前記昇降手段により前記矢板支持装置および前記チェーンカッタを一体に上昇させて前記矢板のみを地中に残すことを特徴とする矢板埋設工法。
【請求項4】
請求項2に記載した矢板埋設機を用いて矢板を地中に埋設する工法であって、
所定の深さまで前記矢板を地中に挿入した後に、
前記第2の掘削ビットが前記矢板の下辺に沿って並ぶように前記チェーンカッタの周回を停止させ、
次いで前記昇降手段により前記矢板支持装置および前記チェーンカッタを一体に上昇させて前記矢板のみを地中に残すことを特徴とする矢板埋設工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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