説明

矩形構造部材の製造方法

【課題】形鋼を素材とした矩形構造部材を、簡便かつ作業環境を悪化させることなく製造する。
【解決手段】素材溝形鋼7のフランジ部とウェブ部の交線と当該溝形鋼の長手方向に垂直な直線とが交わる点から互いに90度をなす方向に伸びる二つの直線l2とl3を山にして溝形鋼の両フランジ部を、山となる前記二つの直線が互いに当接するまで当該溝形鋼の内側に折り込み、それに伴ってウェブ部をフランジ部形成側に直角に折り曲げる。
この折り曲げる工程を経て得た同サイズの2個のL字型構造部材のそれぞれの端部同士を接合して矩形構造部材を得てもよいし、前記直角に折り曲げる工程を3回繰り返し、端部同士を接合して矩形構造部材を得てもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレハブ住宅用の外壁フレームや、外壁パネルを梁等に取付けるために用いられる取付け用ブラケット等の形鋼を素材とした矩形構造部材を簡便に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばプレハブ住宅用の外壁フレームを形作っている建築用矩形構造部材は、図1に部分的に示すように、溝形鋼1,2を素材とし、左右の縦材と上下の横材の端部を順次接合して矩形に形作られている。この例では、一方の端部3に押圧加工を施してフランジ間隔を狭め、他方の端部に嵌め合せて溶接法、リベット接合法、かしめ接合法等を用いて両溝形鋼を固定している。なお、図1中、4はリベットである。全体的な構造部材が示されている事例として、特許文献1が挙げられる。
また、図2に示すように、溝形鋼5の両フランジ部に90度の切り欠き6を入れて曲げ加工した後、当接したフランジ部を溶接接合して順次矩形に組み立てることも提案されている。
【0003】
例えば特許文献2では、矩形状の形材の互いに対向する2辺に沿った両側部分に、当該2辺と直交して頂角が向かい合うようにして、それぞれ直角二等辺三角形状の切欠きを設け、これら二等辺三角形の各頂角を通って前記2辺に平行な線を折り目として、互いに向き合うように前記両側部を垂直に曲折した後、前記頂角同士を結ぶ線を折り目として、当該折り目の両側部分を直角に曲折してL字型構造部材を製造している。
現実的には、上記技術を発展させて次のような製造形態を採用している。すなわち、図2に示すように、溝形鋼5の両フランジ部に90度の切り欠き6を入れて曲げ加工した後、フランジ部の切り欠き端を突き合わせてL字型構造部材を形作っている。
そしてこのようなL字型構造部材を組み合わせれば矩形の構造部材が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−248663号公報
【特許文献2】特開2000−336768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図1に示されるようなL字型構造部材を製造するには、副資材が必要となって、資材管理が煩雑となる。また工程も複雑化するために、結果的にコスト高となってしまう。さらに、溶接法を採用するとヒュームが発生するために作業環境が悪化すると言った問題点もある。
図2に示されたような方法では、フランジ部の切り欠き端を突き合わせたとき、当該突き合わせ面にずれが生じやすく、また、ずれた結果、強度が不安定になってしまう。そこで、ずれを解消して所要の強度を安定的に発現させるために、突き合わせ部を溶接接合している。この方法も切り欠きを入れる分だけ手間がかかってしまうし、溶接をすると作業環境の悪化にも繋がっている。また、溶接部の仕上げや補修が必要となる。
さらに、L字型構造部材が簡便に製造できたとしても、矩形構造部材を得るために追加の溶接接合作業を必要とし、結果的にコストがかかる。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、形鋼を素材とした矩形構造部材を、簡便かつ作業環境を悪化させることなく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の矩形構造部材の製造方法は、その目的を達成するため、素材溝形鋼のフランジ部とウェブ部の交線と当該溝形鋼の長手方向に垂直な直線とが交わる点から互いに90度となる方向に伸びる二つの直線を山にして溝形鋼の両フランジ部を、山となる前記二つの直線が互いに当接するまで当該溝形鋼の内側に折り込むとともに、ウェブ部をフランジ部形成側に直角に折り曲げる工程を含むことを特徴とする。
素材が山形鋼である場合、素材山形鋼の両方の辺の交線と当該山形鋼の長手方向に垂直な直線とが交わる点から互いに90度となる方向に伸びる二つの直線を山にして山形鋼の一方の辺を、山となる前記二つの直線が互いに当接するまで当該山形鋼の他の辺側に折り込み、それに伴って山形鋼の他方の辺を前記一方の辺形成側に折り曲げることによって矩形構造部材が製造される。
【0007】
前記直角に折り曲げる工程を経て得た同サイズの2個のL字型構造部材のそれぞれの端部同士を接合して矩形構造部材を得てもよいし、前記直角に折り曲げる工程を3回繰り返し、端部同士を接合して矩形構造部材を得てもよい。
端部同士の接合法としては、従来と同様、溶接法、リベット接合法、かしめ接合法等が用いられる。
端部同士の接合は、素材が溝形鋼の場合、接合する端部の内の一方に、予め両フランジ部の板厚に相当する分だけフランジ部間隔を狭める加工を施した後に、また、素材が山形鋼である場合、接合する端部の内の一方の辺に、予め山形鋼の辺の板厚に相当する分だけ山高さを減ずる加工を施した後に行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、形鋼を素材とした矩形構造部材が低コストで、しかも強度を低下させることなく安定的に製造することができる。
したがって、本発明法により、例えばプレハブ住宅用外壁フレーム等、住宅用鋼製構造部材を低コストで安定的に供給することができるようになり、鋼板の住宅関連部材への適用範囲の拡大に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】溝形鋼の端部を嵌合したL字型構造部材の構造を説明する図
【図2】切欠き形成と溶接を組み合わせたL字型構造部材製造法を説明する図
【図3】本発明の基本となるL字への曲げ方法を説明する概念図
【図4】L字曲げによるフランジ部の変形過程を説明する図
【図5】本発明の基本となるL字曲げに用いる金型の形状を説明する図
【図6】金型を用いてL字型構造部材を製造する方法を説明する図
【図7】山形鋼をL字曲げ加工する態様を説明する図
【図8】本発明方法により矩形構造部材を製造する方法を説明する図
【図9】本発明方法により製造された矩形構造部材の一例を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
前記した通り、溝形鋼を素材としてL字型構造部材を製造する際に図2に示されたような方法を採用すると、フランジ部の切り欠き端を突き合わせたときに突き合わせ面にずれが生じて強度が低下する虞があるので、当該突き合わせ部を溶接接合せざるを得なくなる。このために、各種の問題点が生じている。
そこで、本発明者等は、切り欠きを入れず、しかも溶接を行わなくても所要の強度を発現するL字構造部材の製造方法について鋭意検討を重ねてきた。
その過程で、溝形鋼のフランジ部を内側に折り込んで曲げ加工を行えば、強度の高いL字型構造部材が簡便に構築できることを見出した。そして、このL字型構造部材の構築法を活用すれば、建築用などの矩形構造部材が簡便に製造できることを見出した。
また、山形鋼を素材とした場合にあっても、山形鋼の一方の辺を他の辺側に折り込んで曲げ加工する手段を活用すれば、同様に、矩形構造部材が簡便に製造できる。
以下にその詳細を説明する。
【0011】
素材としての溝形鋼、山形鋼には制限はない。ここでは、とりあえず、溝形鋼を素材とした製造法を説明する。図2に示すような従来の方法で用いられるものと同じ形鋼7が用いられる(図3の(a)参照)。
従来法で採用していた切欠きの形成に替えて折り曲げ線を仮想する。図3(b)に示すように、素材溝形鋼の両フランジ部外表面に、当該素材溝形鋼の長手方向に垂直な直線l1と、フランジ部とウェブ部の交線と前記長手方向に垂直な直線とが交わる点から互いに90度となる方向に伸びる二つの直線l2およびl3を仮に描く。仮想線l2およびl3は仮想線l1に対して45度の方向に伸びるように描くことが好ましい。
【0012】
次に、前記仮想線l1,l2およびl3に沿って両フランジ部に曲げ加工を施す。すなわち、図3(c)に示すように、仮想線l1を谷に、仮想線l2およびl3を山にしてフランジ部に当該素材溝形鋼の内側に向けて鋭角的に、仮想線l2とl3とが互いに当接するまで折り込む。この際、ウェブ部もフランジ部形成側に自ずと曲げられ、ウェブ部が互いに直交するまでに曲げられたL字型構造部材が得られる(図3(d)参照)。
【0013】
図4を用いて再度説明する。形鋼7の両フランジ部に、互いに直交する直線l2とl3とを山とするような予備曲げ加工を施した後、ウェブ部が互いに直交するようになるまで折り曲げる。フランジ部が折込まれ、前記直線l2とl3とが当接してウェブ部が互いに直交するL字型構造部材が得られる。
前記のような曲げ加工を施すに当たっては、図5に示すような金型を用いることが好ましい。
【0014】
すなわち、本発明に適用される金型は、図5に示すように、曲げパンチ11、左右一対の予備曲げパンチ12および前後一対の回転ダイ13より構成されている。
曲げパンチ11は、溝形鋼を所定の角度に曲げ加工できるように、V溝が形成されているおり、溝形鋼より若干広い幅が望ましい。本加工方法では、溝形鋼がパンチ肩を摺動するため、かじり等による外観不良が懸念される。かじり等を防止するためにはパンチ肩部分に適度なRを取っておくことが望ましい。
【0015】
予備曲げパンチ12は、前記の仮想線l2およびl3に沿って予備曲げ加工する形状となる。予備曲げパンチの形状は、フランジの曲げ線部分とフランジの開放端の交点を頂点とした三角錐であり、その各コーナー部はRを取っておくことが望ましい。回転ダイ13に対して、板厚以上のクリアランスにすることが望ましい。
曲げパンチ11の押し込みによって回転する前後一対の回転ダイ13は、加工後にダイ同士が接触しないように曲げ線側にテーパを有している。また、回転ダイ13の幅は、被加工材のフランジの幅より若干狭いことが望ましい。ダイは加工後の折込みフランジが変形しないように板厚以上の隙間を取っておくことが望ましい。
【0016】
この金型を用いて溝形鋼を、L字形に曲げ加工する方法を説明する。
L字型構造部材の製造に用いられる金型は、前記した通り、被加工材を設置する前後一対の回転ダイ13、当該回転ダイ13の上部に設置した曲げパンチ11および回転ダイ13の側方に配置した左右一対の予備曲げパンチ12より構成される。
まず、上面を水平にした一対の回転ダイ13上に、曲げ加工位置が各々の回転ダイ13の間になるように、被加工材8を設置する(図6(a))。設置された被加工材8の両側方より、予備曲げパンチ12を押し当て、フランジの両面に予備曲げ加工を施す(図6(b))。なお、この予備曲げ加工は、被加工材8をL字型に曲げる際にフランジを優先的に座屈させ、L字型構造部材の角度を調整するためにおこなうものであって、フランジが破断しない程度の変形量で行うことが好ましい。
予備曲げ加工後、予備曲げパンチを両面から解除する。
【0017】
予備曲げ加工後、回転ダイ13の上に設置された被加工材8の上方より所定の角度のV溝を有する曲げパンチ11を押し込む(図6(c))。この時回転ダイ13が曲げパンチ11のV溝に沿うように円周方向に回転して、両フランジを折込むように曲げ加工を行う。折込まれたフランジは回転ダイ13のテーパ部により挟み込まれるようにして成形される(図6(d))。
曲げ加工後、曲げパンチ11を上方に復帰させ、L字型構造部材9を取り出す。
【0018】
上記方法により製造されたL字型構造部材は、折込み部を備えたまま折り曲げ仮想線l2とl3が当接するまでに折り込まれている。したがって、切り欠きを形成した場合に生じるフランジ切り欠き端のズレに起因するような強度低下は起こりえない。しかも、折込みフランジ部の加工硬化により従来のL字型構造部材に比べて、変形に対する強度が高くなっている。
なお、さらに高い剛性を必要とする場合には、折込みフランジ部をかしめやリベット接合等によって機械的に接合してもよいし、曲げ線部あるいは折込みフランジ部を溶接接合してもよい。
【0019】
素材が山形鋼である場合の加工法も、基本的には溝形鋼の場合と同じである。
上面を水平にした一対の回転ダイ13上に、曲げ加工位置が各々の回転ダイ13の間になるように、被加工材14を設置する(図7(a))。設置された被加工材14の側方より、予備曲げパンチ15を押し当て、山形鋼の一方の辺16に予備曲げ加工を施す(図7(b))。
予備曲げ加工後、予備曲げパンチを外す。
【0020】
予備曲げ加工後、回転ダイ13の上に設置された被加工材14の上方より所定の角度のV溝を有する曲げパンチ11を押し込む(図7(c))。この時回転ダイ13が曲げパンチ11のV溝に沿うように円周方向に回転して、山形鋼の他方の辺を折込むように曲げ加工を行う。折込まれた辺は回転ダイ13のテーパ部により挟み込まれるようにして成形される(図7(d))。なお、山形鋼の一方の辺16に曲げ加工を施し、その後他の辺に曲げ加工を施す際、フランジ押え17を用いることにより山形鋼のズレを防ぐ必要がある。
曲げ加工後、曲げパンチ11を上方に復帰させ、L字型構造部材18を取り出す。
【0021】
このような曲げ加工により得られた二つのL字型構造部材を、それぞれの端部同士を接合することにより矩形構造部材が得られる(図8(b)参照)。図8(a)に示すように、前記直角に折り曲げる曲げ加工工程を3回繰り返し、端部同士を接合して矩形構造部材を得てもよい。
接合法としては、溶接法、リベット接合法、かしめ接合法等、従来と同様の方法が用いられる。
【0022】
いずれにしても、製造しようとする矩形構造部材の縦横サイズに合致する位置での曲げ加工が必要である。
なお、図8の(a),(b)の態様の違いはあっても、接合端となる素材溝形鋼の一端にはスエージ加工等を施して、フランジ部間の間隔を両フランジ部の板厚分だけ小さくして他のフランジ部に挿入できるようにしておくことが好ましい。挿入後の接合が容易に行え、精度のよい矩形構造部材が得やすくなる。また、山形鋼を素材としている場合には、接合する端部の内の一方の辺に、溝型鋼と同様にスエージ加工等で予め山形鋼の辺の板厚に相当する分だけ山高さを減ずる加工を施しておくと、端部同士を接合した際に、段差がなく、精度のよい矩形構造部材が得られる。
【0023】
図9に示す矩形構造部材は、スエージ加工を施して一端にフランジ部間隔をフランジ部板厚の2倍分狭めた溝形鋼に3回の曲げ加工を順次施し、フランジ部間を狭めた一端を他端のフランジ部間に挿入したものである。挿入部に何らかの固定手段を施せば、成形精度の高い矩形構造部材が容易に得られる。
したがって、本発明方法により、住宅の非耐力壁フレーム等が低コストで安定的に提供できることになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝形鋼を素材とした矩形構造部材の製造方法であって、素材溝形鋼のフランジ部とウェブ部の交線と当該溝形鋼の長手方向に垂直な直線とが交わる点から互いに90度となる方向に伸びる二つの直線を山にして溝形鋼の両フランジ部を、山となる前記二つの直線が互いに当接するまで当該溝形鋼の内側に折り込むとともに、ウェブ部をフランジ部形成側に直角に折り曲げる工程を含むことを特徴とする矩形構造部材の製造方法。
【請求項2】
山形鋼を素材とした矩形構造部材の製造方法であって、素材山形鋼の両方の辺の交線と当該山形鋼の長手方向に垂直な直線とが交わる点から互いに90度となる方向に伸びる二つの直線を山にして山形鋼の一方の辺を、山となる前記二つの直線が互いに当接するまで当該山形鋼の他の辺側に折り込み、それに伴って山形鋼の他方の辺を前記一方の辺形成側に折り曲げることを特徴とする矩形構造部材の製造方法。
【請求項3】
前記直角に折り曲げる工程を経て得た同サイズの2個のL字型構造部材のそれぞれの端部同士を接合して矩形構造部材を得る請求項1または2に記載の矩形構造部材の製造方法。
【請求項4】
前記直角に折り曲げる工程を3回繰り返し、端部同士を接合して矩形構造部材を得る請求項1または2に記載の矩形構造部材の製造方法。
【請求項5】
接合する端部の内の一方に、予め両フランジ部の板厚に相当する分だけフランジ部間隔を狭める加工を施した後、端部同士を接合する請求項3または4に記載の矩形構造部材の製造方法。
【請求項6】
接合する端部の内の一方の辺に、予め山形鋼の辺の板厚に相当する分だけ山高さを減ずる加工を施した後、端部同士を接合する請求項3または4に記載の矩形構造部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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