説明

短いスライド可能なモールドを備えるエレクトロスラグ再溶解装置のスラグのレベルを連続的に検出する装置および方法

【課題】スラグラインのレベルを連続的に検出することができ、かつ、スラグラインのレベルを任意に制御することのできるエレクトロスラグ再溶解装置およびエレクトロ再溶解方法を提供する。
【解決手段】本発明のエレクトロスラグ再溶解方法では、スラグ浴9の液面11のレベルが、レーダー式の測定プローブ3を用いて測定される。レーダー式の測定プローブ3は、好ましくは、エレクトロスラグ再溶解装置10のモールド蓋2または保護ガスフードに設けられる。レーダー式の測定プローブ3のレーダービーム12をスラグ浴9の液面11に当てることで得られた数値は、評価部15を介して表示したり、鋳造体の引出しを制御する制御部20の入力信号として使用したりすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
エレクトロスラグ再溶解装置(「ESR装置」と称されることもある)で使用される短い水冷式のスライド可能なモールド(鋳型)では、装置に過度の熱負荷やダメージが加わらないように、スラグライン(スラグの液面)のレベル(高さ)、すなわち、溶融金属ライン(溶融金属の液面)のレベルを、当該水冷式のモールドの上縁部に対してほぼ一定に保持する必要がある。これは、装置の種類にもよるが、再溶解によって得られた鋳造体を、再溶解量に応じて、固定位置に配置されたモールドから下方に連続的にまたは段階的に引き抜くことで達成される。固定されたベースプレート(底板)に鋳造体が形成される場合には、モールドは上方に引き上げられる。いずれにしろ、鋳造体は、その表面とモールドの壁との間で相対的な運動を生じながら、モールドから下に引き出されることになる。
【0002】
エレクトロスラグ再溶解法では、一般的な再溶解速度に基づいて溶融金属から鋳造体を凝固させた場合、鋳造体の成長率は、直径300mm以下の小型の鋳造体で10〜15mm/分、直径1000mm以上の大型の鋳造体で1.5〜3mm/分である。したがって、開放型の再溶解装置、すなわち、蓋のない再溶解装置の場合、目視しつつ、予め所定値に調節された鋳造体の引出速度を時折再調節することにより、十分確実にモールド内のスラグラインのレベルを一定に保持することができる。
【0003】
再溶解法で得られる製品の品質向上の需要に応えるために、今日のエレクトロ再溶解装置のほぼ大半が、保護ガスフード(フードとは、キャップ、カバーのような覆いのことを指す)を備える閉じた装置となっている。したがって、目視で調節することができない。スラグラインを間接的に確認する方法、例えば、鋳造に用いる溶融金属の量と実際に形成された鋳造体の引出速度とを比較してスラグラインのレベルを算出する方法なども有用ではあるが、十分とはいえない。そのため、それらのような間接的な確認方法に加えて、保護ガスフードを時折持ち上げて目視を行う必要がある。原則的には、このような方法でも、再溶解中に特に異常が生じないかぎりはスラグラインのレベルの確認を十分に行うことができる。このような従来方法の短所として、保護ガス効果が妨げられる点や、スラグ上方の空間に空気が侵入する点などが挙げられる。これは、鋳造体の品質面からみて望ましくない。
【0004】
上述した運転態様のさらなる短所として、スラグのレベル(スラグの液面高さ)の急激な変化を引き起こす各種異常を、タイミング良く検出できない点が挙げられる。このような異常の例として、スラグや溶鋼の漏れなどが挙げられる。このような漏れは、通常ゆっくりと始まるが、最終的にスラグ浴の全体および金属溜まりの一部の漏出を引き起こし、スラグラインのレベルの急激な低下を招く可能性がある。また、このような漏れは、スラグ浴への電極の浸漬深さを一定に保持するコントローラが故障した場合に発生しかねない。電極が過度に深く浸漬された場合、スラグラインのレベルが予測不能に上昇する可能性がある。
【0005】
さらに、各鋳造体ごとにスラグラインのレベルを異ならせたり、モールドの寿命を向上させるためにスラグラインのレベルを所定の範囲内で選択的に変化させたりできれば望ましい。これは、現在利用されている確認方法では不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の先行技術に関する説明を踏まえて、本発明の目的は、開放型の再溶解装置のスラグラインのレベルを連続的に検出するだけでなく、特に、保護ガスフードで閉じられた再溶解装置において、再溶解装置の制御部と作業者との協働により、以下の機能を自動的に起動させるかまたは常に実行することである:
・ スラグラインのレベルが所定値に達すると、鋳造体の引出しを開始する。
・ 鋳造体を引き出している間、スラグラインの所定値のレベルを確認しながら鋳造体の引出しを制御することにより、スラグラインのレベルをその所定値に保持する。
・ 再溶解中の各種異常を監視する。
・ 再溶解中のスラグラインのレベルを、所望の位置に変化するように制御する。
【0007】
さらなる目的は、スラグレベルの急激な変化を引き起こす各種異常を即座に検出することである。そのような異常の例として、以下のものが挙げられる:
・ 溶融金属および/またはスラグの漏れと、それに伴うレベル(液面高さ)の急激な低下。
・ 再溶解中(特に、電極を変更もしくは交換した後)の電極の過度の浸漬深さと、それに伴うレベル(液面高さ)の予測不能な上昇。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鋭意研究を重ねた結果、上述の目的は、既知のレーダー式の測定プローブを、本発明に基づいて使用することにより達成できることが判明した。
【0009】
本発明は、短いスライド可能なモールドを備えるESR(エレクトロスラグ再溶解)装置のスラグラインを連続的に(常に)確認する方法に関する。この方法の特徴として、既知のレーダー式のプローブ(好ましくは、モールド蓋(鋳型の蓋)または保護ガスフードに設けられる)を用い、スラグの液面に対してレーダービームをほぼ垂直に発射することにより、モールドの上縁部に対するスラグのレベル(スラグの液面高さ)を連続的に(常に)測定する点と、得られた信号を鋳造体の引出しの自動制御に利用することにより、モールド内のスラグラインの位置を一定に保持するか、またはモールド内のスラグラインの位置を所定の範囲内で選択的に変化させる点とが挙げられる。
【0010】
また、本発明にかかる運転態様により、スラグラインの急激かつ顕著な変化を即座に検出して、警告(アラーム)を発したり、主制御システムによる調整の自動開始を起動させたりすることができる。
【0011】
本発明では、上述の方法を実行するために、モールド蓋または保護ガスフードにレーダー式の測定プローブが取り付けられてもよく、当該レーダー式の測定プローブは、必要に応じて、水冷式のシールドハウジング内に配置される。このレーダー式の測定プローブは測定用管体を有しており、当該測定用管体から、レーダービームがスラグ浴の液面に対してほぼ垂直に当たるように案内される。測定用管体は、レーダービームを方向転換するように構成されていてもよく、例えば、曲げられている。このようにして得られた信号、すなわち、スラグのレベル(スラグの液面高さ)は、機器や表示スクリーンにおいて表示または表現(例えば、グラフィカルに)される。
【0012】
また、得られた信号は、モールドからの鋳造体の引出しを制御する入力信号として利用されてもよいし、またはスラグラインのレベルが急激かつ顕著に変化した場合もしくはスラグラインのレベルが所定の閾値を上回るかもしくは下回った場合に警告を発するために利用されてもよい。
【0013】
以下において、本発明を例示的な実施形態および図面を用いながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】レーダー式の測定プローブが装着されたESR装置を示す平面図である。
【図2】レーダー式の測定プローブが内蔵されたシールドハウジングを含むESR装置を部分的に切欠して示す平面図と、回路構成を示すブロック図とを組み合わせた組合せ図である。
【図3】ESR装置の要部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、レーダー式の測定プローブ3の配置の一実施形態を示す平面図である。同図において、レーダー式の測定プローブ3は、水冷式のシールドハウジング1内に収納された状態で、ESR(エレクトロスラグ再溶解)装置10の同じく水冷式のモールド蓋(鋳型の蓋)2にフランジを介して取り付けられている。
【0016】
図2は、レーダー式の測定プローブ3を内部に有し、モールド蓋2にフランジを介して取り付けられたシールドハウジング1の一部切欠平面図を含む。同図において、シールドハウジング1は、モールドの内部空間の上方で曲げられて延在する測定用管体4、ガスをパージするためのパージ接続部5、およびレーダー式の測定プローブ3に給電したり測定信号を伝達したりするためのライン(配線)6を有する。同図に示すように、ライン6は、評価部15に接続されていてもよい。評価部15は、レーダー式の測定プローブ3によって得られた液面11(図3)のレベルを表示または表現するように構成されている。変形例として、またはこの構成に加えて、ライン6は、ESR装置10の制御部20に接続されていてもよい。制御部20は、スラグ浴9(図3)の液面11のレベルを一定に保持するか、またはスラグ浴9の液面11のレベルを一定時間ごとに所定の範囲内で選択的に変化させる。制御部20は、さらに、警告部21に接続されていてもよい。警告部21は、液面11のレベルが閾値を上回るか下回った際、または所定の変化速度および変化を超えて急激かつ顕著に変化した際に警告(アラーム)を発する。
【0017】
図3は、シールドハウジング1およびその周辺の縦断面図である。同図からは、シールドハウジング1がレーダー式の測定プローブ3および曲げられた測定用管体4を有する様子と、測定用管体4が円錐状のホーンアンテナ7へと変化する様子とが見て取れる。同図からは、さらに、水冷式の上下スライド可能なモールド13の内壁8と、スラグ浴9の液面11(メタルライン)を見ることができる。また、同図には、レーダー式の測定プローブ3によって生成されるレーダービーム12が示されている。レーダービーム12は測定用管体4内で所定角度、例えば90°方向転換したうえで、好ましくは、液面11に対してほぼ垂直に当たる。レーダー式の測定プローブ3は公知の原理によって液面11のレベルを、好ましくは連続的に、検出する。
【0018】
図示の例示的な実施形態では、シールドハウジング1は、二重壁(二重シェル)構造のハウジングとして構成されており、二重壁の内部に冷却水を流すことにより、水冷可能である。また、シールドハウジング1の外表面または内表面(二重壁の内面も含む)には、任意で、電磁場を遮断するためのミューメタル層が設けられてもよい。ミューメタル層とは、比較的高い透磁率を有する軟質金属合金のことを指す。ミューメタル層は、特には、ニッケルを約75〜80%、鉄を約15%、ならびに銅、コバルトおよびモリブデンからなる群から選択された成分を約3〜4%含み得る。
【符号の説明】
【0019】
2 モールド蓋または保護ガスフード
3 レーダー式の測定プローブ
9 スラグ浴
10 エレクトロスラグ再溶解装置
11 スラグ浴の液面
12 測定プローブのレーダービーム
13 スライド可能なモールド
15 評価部
20 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短いスライド可能なモールド(13)を用いたエレクトロスラグ再溶解方法であって、エレクトロスラグ再溶解装置(10)のスラグ浴(9)の液面(11)のレベルが監視される、エレクトロスラグ再溶解方法において、
前記スラグ浴(9)の液面(11)のレベルが、レーダー式の測定プローブ(3)によって測定され、
前記レーダー式の測定プローブ(3)によって生成されたレーダービーム(12)が、前記スラグ浴(9)の液面(11)に当たるように案内され、
得られた液面(11)のレベルが評価部(15)を介して表示もしくは表現され、および/または得られた液面(11)のレベルを、前記スライド可能なモールド(13)からの鋳造体の引出しを制御する制御部(20)の入力信号として使用することにより、前記エレクトロスラグ再溶解装置(10)の運転中の前記スラグ浴(9)の液面(11)のレベルを一定に保持するか、もしくは一定時間ごとに所定の範囲内で選択的に変化させることを特徴とする、エレクトロスラグ再溶解方法。
【請求項2】
請求項1において、前記レーダービーム(12)を、前記スラグ浴(9)の液面(11)に対してほぼ垂直に当てることを特徴とする、エレクトロスラグ再溶解方法。
【請求項3】
請求項1または2において、前記スラグ浴(9)の液面(11)のレベルが急激かつ顕著に変化した場合、または前記スラグ浴(9)の液面(11)のレベルが所定の閾値を上回るかもしくは下回った場合に、警告を発することを特徴とする、エレクトロスラグ再溶解方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、前記レーダー式の測定プローブ(3)を、前記エレクトロスラグ再溶解装置(10)のモールド蓋(2)または保護ガスフードに設けることを特徴とする、エレクトロスラグ再溶解方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項において、前記レーダー式の測定プローブ(3)により、前記スラグ浴(9)の液面(11)のレベルを連続的に測定することを特徴とする、エレクトロスラグ再溶解方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のエレクトロスラグ再溶解方法を実行するエレクトロスラグ再溶解装置(10)であって、スラグ浴(9)を覆うためのモールド蓋(2)または保護ガスフードを備える、エレクトロスラグ再溶解装置において、
前記スラグ浴(9)の液面(11)のレベルを検出するレーダー式の測定プローブ(3)が、前記モールド蓋(2)または保護ガスフードに設けられており、
前記測定プローブ(3)のレーダービーム(12)を前記スラグ浴(9)の液面(11)に当てることを特徴とする、エレクトロスラグ再溶解装置。
【請求項7】
請求項6において、前記レーダー式の測定プローブ(3)が測定用管体(4)を有しており、前記レーダービーム(12)は、前記測定用管体(4)を介して方向転換されて前記スラグ浴(9)の液面(11)に対してほぼ垂直に当たることを特徴とする、エレクトロスラグ再溶解装置。
【請求項8】
請求項6または7において、前記スラグ浴(9)の液面(11)のレベルを表示または表現するための評価部(15)が設けられている、エレクトロスラグ再溶解装置。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか一項において、前記レーダー式の測定プローブ(3)の信号が制御部(20)に供給され、当該制御部(20)が、前記信号を、スライド可能なモールド(13)からの鋳造体の引出しを制御するための入力信号として使用することを特徴とする、エレクトロスラグ再溶解装置。
【請求項10】
請求項9において、前記制御部(20)が、前記スラグ浴(9)の液面(11)のレベルが急激かつ顕著に変化した場合、または前記スラグ浴(9)の液面(11)のレベルが所定の閾値を上回るかもしくは下回った場合に警告部(21)を起動させることを特徴とする、エレクトロスラグ再溶解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−240407(P2011−240407A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105826(P2011−105826)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(507377469)インテコ・スペシャル・メルティング・テクノロジーズ・ゲー・エム・ベー・ハー (6)
【氏名又は名称原語表記】Inteco Special Melting Technologies GmbH
【Fターム(参考)】