説明

短時間接着方法

【課題】充分長い塗り置き時間を有し優れた作業性を発揮するとともに、水性接着剤を用いて年間通じて常温3〜10分の短時間圧締で耐水性能に優れる接着を可能とする接着方法を提供する。
【解決手段】15℃〜80℃に調温したアセトアセチル基含有合成樹脂エマルジョン組成物を用い、少なくとも一方が多孔質材料である被着材を接着することを特徴とする接着方法である。好ましい形態としては、前記アセトアセチル基含有合成樹脂エマルジョン組成物が、アセトアセチル化ポリビニルアルコールを含有することを特徴とする前記接着方法である。また、別の好ましい形態としては、前記アセトアセチル基含有合成樹脂エマルジョン組成物が、アセトアセチル基含有単量体と他の単量体を共重合させて得られた樹脂を含有することを特徴とする前記いずれかの接着方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性接着剤を用いて、少なくとも一方が多孔質材料である被着材を接着する方法に関するものであり、年間を通じて常温3〜10分の短時間圧締で耐水性能に優れる接着を可能とするものである。
【背景技術】
【0002】
近年、木材製品や無機質板製品を製造する工業においては変量多品種生産に対応するため、接着工程において許容解放時間あるいは閉鎖堆積時間は可能な限り長く、かつ短時間圧締で接着が完了する事が強く要求されている。また、日本農林規格(JAS)製品である複合木質フローリングや階段踏み板は突板化粧MDF、突板化粧合板と合板、LVL、MDF等が複合接着されているが、複合フローリングのJASでは2類浸せきはく離試験に合格する事を要求しており、耐水性能を有する事が必要である。
【0003】
短時間圧締で接着を完了する方法としては、水性2液型の接着剤が提案されている。例えば、分子内にイミド構造を有する合成高分子化合物の中和物水溶液とスチレン−ブタジエンゴムラテックス、ポリ酢酸ビニルエマルジョンなどの水性ラテックス類との混合物を第1液とし、グリオキザール等のポリアルデヒド水溶液を第2液として用いる2液分別塗布型水性接着剤(特許文献1)や、または分子内にアセトアセチル基を有する高分子化合物の水溶液又はエマルジョンを第1液とし、アルデヒド化合物又はヒドラジン化合物を含む液を第2液とする2液分別塗布型の接着剤組成物(特許文献2)が知られている。しかし、それぞれ2液の分別塗布が必要なため、少なくとも2本の接着剤塗布ラインが必要である。また、両者とも耐水性に乏しいため、前者は多官能エポキシ樹脂を第3液として、後者は液状のポリメリックメチレンジフェニルジイソシアネートを第3液として使用しなければJAS2類浸せきはく離試験に合格できない。この場合、接着剤の計量、混合といった作業まで行う必要があり、接着工程はさらに煩雑なものとなる。さらに前者の接着剤組成物の第2液と第3液は皮膚刺激性が高いことが知られており、接触する個人差はあるが著しい発疹を生じさせる欠点も指摘されている。
【特許文献1】特開昭56−90867号公報
【特許文献2】特開昭60−202176号公報
【0004】
また、短時間圧締で接着を完了する目的のために被着材の一方、または両方を接着剤塗布前にホットプレスや乾燥炉を設置して予備加熱する方法も行われているが、ホットプレスや乾燥炉のようないずれも大きな投資と広い設置空間を設けなければならない欠点が指摘されている。
【0005】
短時間圧締でありながら耐水性能に優れる接着を完了する目的のために少なくとも一種類の結晶性ポリエステルポリオールを2モル以上のメチレンジフェニルジイソシアネート等のポリイソシアネートでウレタン結合させる事により両末端をイソシアネート化させた常温で固体のプレポリマーである、いわゆる反応性ホットメルトを使用する提案もされている。しかし、この接着剤の分子量は1,000〜10,000程度であり、結晶性ポリエステルの構造から常温で固体なのであり、両末端のイソシアネート基が接着後、湿気で硬化するまでの数時間の間は強い凝集力は発揮できず、実際には短時間圧締の数分〜数十分の間は分子量が数十〜数百万の合成樹脂エマルジョンより接着強さは低い。
【0006】
また、加熱して溶融状態の液状として塗布して貼り合わせ、冷却されると固体になる接着剤のため、塗布から圧締工程までの許容解放あるいは閉鎖堆積時間は極めて短く作業性が悪い。この許容解放あるいは閉鎖堆積時間を長くしようとすると、原料のポリエステルポリオールとして非結晶性や液状の原料を併用する事になり、この方法では固化時間が著しく長くなり短時間圧締直後の接着強さはより乏しいものとなっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、前記の如き従来技術が有する欠点を除去し、充分長い塗り置き時間を有し優れた作業性を発揮するとともに、水性接着剤を用いて年間通じて常温3〜10分の短時間圧締で耐水性能に優れる接着を可能とする接着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、充分長い塗り置き時間を有し、1液型のため優れた作業性を発揮するとともに、安全性に優れる水性接着剤を用いて年間通じて常温3〜10分の短時間圧締で耐水性能に優れる接着を可能とする接着方法を開発することができ、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は15℃〜80℃に調温したアセトアセチル基含有合成樹脂エマルジョン組成物を用い、少なくとも一方が多孔質材料である被着材を接着することを特徴とする接着方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の接着方法により、煩雑な接着工程を必要とせず、充分長い塗り置き時間を有しながら短時間圧締で耐水性能に優れる接着を行うことができる。また、ホットプレスや乾燥炉等の設備が不要であるため、変量多品種生産に効率良く対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の各構成について詳細に説明する。
本発明のアセトアセチル基含有合成樹脂エマルジョン組成物(以下、AA基含有Emと略す)を構成する合成樹脂エマルジョンとしては、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョン、アクリル樹脂系エマルジョン、ポリウレタン樹脂系エマルジョンやSBRラテックス、MBRラテックス、NBRラテックス、クロロプレンゴム系ラテックス等が挙げられる。また、他の樹脂エマルジョンの存在下で単量体を重合することによって得られる複合樹脂エマルジョンであっても良い。これらの合成樹脂エマルジョンは単独または2種以上を併用することができる。アセトアセチル基を含有させる方法としては、前記合成樹脂エマルジョンの重合時にアセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタアクリレート、アセトアセトキシアリル等のアセトアセチル基を有する単量体を他の単量体と共重合させる方法や、アセトアセチル化ポリビニルアルコールを保護コロイドとして使用する方法等が挙げられる。また、合成樹脂エマルジョンにアセトアセチル化ポリビニルアルコール水溶液を添加するような方法であっても良く、これらの方法が2種以上併用されても良い。詳細な理由は明らかではないが、合成樹脂エマルジョンにアセトアセチル基を含有させることにより、15℃〜80℃に調温して少なくとも一方が多孔質材料である被着材を接着すると、特異的に短時間の圧締でも接着を完了できる。また、別の効果としてはアセトアセチル基同士の自己架橋反応により耐水性能を発揮できる。
【0011】
アセトアセチル基の導入量には特に制限は無いが、アセトアセチル化ポリビニルアルコールやアセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタアクリレート、アセトアセトキシアリル等のアセトアセチル基と不飽和二重結合を有する単量体は、その他の水性接着剤原料と比較すると相対的に高価であり多すぎると不経済となるだけである。
【0012】
また、AA基含有Emには水溶性高分子や無機や有機の充填剤を配合することができる。特に、炭酸カルシウムは配合することにより耐水性が向上するため、使用することが好ましい。耐水性が向上する理由としては、アセトアセチル基とカルシウムが配位する効果によるものと推測される。
【0013】
AA基含有Emの不揮発分としては、40〜80%が好ましい。40%未満の場合でも圧締時間を短縮する効果はあるものの、被着材の温度が低下する冬季には3〜10分程度の圧締時間で接着を完了することは難しい。また、80%を超えると流動性、塗布性が著しく低下するため好ましくない。
【0014】
なお、AA基含有Emの配合条件等によっては保存中に架橋反応が進行してしまい、十分な保存安定性が得られない場合がある。このような場合は、オキシカルボン酸、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、メタ重亜硫酸塩、チオ硫酸塩等の添加により保存安定性を改良することができる。特に好ましいのは無水重亜硫酸ソーダである。
【0015】
本発明に用いるAA基含有Emは、各使用態様に応じて各種の配合材料を添加することができる。斯かる配合材料には、粘着付与樹脂、充填剤、増粘剤、分散剤、レベリング剤、耐水化剤、防腐剤、消泡剤、界面活性剤、架橋剤としてイソシアネート化合物、エポキシ化合物、シランカップリング剤、オキサゾリン系化合物、金属酸化物などが挙げられる。
【0016】
本発明では接着に際し、AA基含有Emを15〜80℃に調温することを特徴とする。AA基含有Emは15℃以上に調温することにより極めて短時間の内に実用的な接着強度が発現するため、気温や被着材温度が高く短時間接着に有利な夏季のみならず、気温や被着材温度が低く短時間接着に不利な冬季においても3〜10分程度の圧締時間で接着を完了することができ、短時間の圧締後はすぐに次工程の加工を行うことができる。調温方法としてはAA基含有Emを15〜80℃に調温できればどのような方法でも良く、予め加温設備付きのサービスタンクで貯蔵することにより加温しても良いし、加熱装置付きローラーグルースプレッダーを用いても良い。なお、夏季のように特に調温しなくともAA基含有Emが15〜80℃に保たれている場合、改めて調温を行う必要はない。冬季のようにAA基含有Em温度が15℃未満となる場合、前記装置を用いる等して15〜80℃に調温することにより、本発明の効果が得られる。AA基含有Emの温度が15℃未満の場合、3〜10分程度の圧締時間では被着材温度が低い冬季の接着にばらつきが出やすい。また、80℃を超える場合、被着材に塗布される前に水が揮発してしまったり、塗布後に別の被着体と貼り合わせる前に水が揮発して乾燥接着になってしまうため好ましくない。
【0017】
本発明の水性接着剤を用い、常温3〜10分の短時間圧締で耐水性能に優れる接着を可能とする接着方法の塗布量は、固形分で25〜200g/mが適当で特に50〜150g/mが好適である。
【0018】
本発明の被着材の少なくとも一方は紙、木材や合板、LVL、集成材、パーティクルボード、MDF、OSB等の木質材料や繊維強化セメント板、珪酸カルシウム板等の無機質材料のような多孔質材料である事が必要である。被着材の少なくとも一方が多孔質材料でないと水性接着剤の水分が吸収されないため、常温3〜10分の短時間圧締で耐水性能に優れる接着を可能とする事ができなくなる。被着材の少なくとも一方が多孔質材料であれば、もう一方の被着材はメラミン樹脂含浸化粧板等のプラスチックス材料やアルミニウム板、鋼板等の金属材料のような非孔質材料であっても接着することができる。従って、複合木質フローリング、階段踏板、木質フラッシュパネル、化粧合板、プレハブパネル、集成材などの平面接着や縁貼り、ホゾ、ダボ、トメ、ハギ、角木、その他の組立などの作業が、迅速化、省力化され、省エネルギーにも寄与する事ができる。
【0019】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。しかしながら、これらの実施例によって本発明は何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
接着剤1の製造方法
アセトアセチル化ポリビニルアルコール(ゴーセファイマーZ−200、日本合成化学株式会社製、商品名)10部、未変性ポリビニルアルコールであるH−17(電気化学工業株式会社製、商品名)14部、B−05(電気化学工業株式会社製、商品名)6部を水220部に分散し、80℃にて1時間撹拌溶解して保護コロイドとした。その後、洒石酸(重合助触媒)の10%水溶液5部と、過酸化水素(重合触媒)の1%水溶液10部を加えた後、酢酸ビニルモノマー180部、アセトアセトキシエチルメタクリレート20部、過酸化水素の1%水溶液40部を、3時間で滴下して乳化重合を行い、さらに80℃で1時間熟成後、フェニルグリコール−H(日本乳化剤社製、商品名)9部、重亜硫酸ソーダ(重合禁止剤)の10%水溶液1部を添加して冷却した。平均粒子径2ミクロンの重質炭酸カルシウム70部を水70部に混合分散させたペースト合計140部を加え、不揮発分45%である接着剤1(AA基含有Em)を得た。
【0021】
接着剤2の製造方法
接着剤1の製造方法において、ポリビニルアルコール分散用の水の量を170部から155部とし、重質炭酸カルシウムを水に混合分散させたペーストを添加しなかったものを接着剤2(AA基含有Em)とした。不揮発分は53%であった。
【0022】
接着剤3の製造方法
接着剤1の製造方法において、B−05 6部の代わりにB−33(電気化学工業株式会社製、商品名)6部を用い、ポリビニルアルコール分散用の水の量を170部から330部としたものを接着剤3(AA基含有Em)とした。不揮発分は37%であった。
【0023】
接着剤4の製造方法
アセトアセチル基を含有しない酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤であるA−340L(アイカ工業株式会社製、商品名、不揮発分36%)を接着剤4として用いた。
【0024】
実施例1
23℃に調温した接着剤1、0℃に調温した被着材をそれぞれ用いて、後述する試験方法により最短圧締時間を決定したところ7分であった。また、耐水性能も全ての条件において良好な結果であった。
【0025】
実施例2〜8、比較例1〜8
表1記載の接着剤、接着剤温度、被着材条件にて実施例1と同様に実施した。結果は表1のとおりであった。
【0026】
【表1】

【0027】
最短圧締時間
12mm厚合板(50mm×40mm)の両面に各接着剤を固形分が75g/mとなるように塗布後、12mm厚合板(75mm×40mm)を図1に示す形状となるよう貼り合わせ、直ちに圧締した。所定時間圧締後に解圧し、図1に示すように鋼製治具を使用し矢印方向の割裂荷重をかけ、破断時の最大荷重を測定した。割裂接着強さが300N/(40mm×50mm)以上となった最短の圧締時間を求めた。
【0028】
耐水性能
12mm厚合板に各接着剤を150g/m塗布し、ナラ突板化粧接着済みの3mm厚MDFと貼り合わせ、所定の閉鎖堆積時間経過後、圧締接着した。解圧後、常温で3日間養生し、75mm×75mmの試験片を裁断し合板の日本農林規格JAS2類浸せきはく離試験(JAS複合フローリングの浸せきはく離試験と同じ)とJAS1類浸せきはく離試験を実施し、適否を判断した。
【0029】
表1記載のように、AA基含有Emである接着剤1、接着剤2を15℃以上に調温して用いた場合、被着材の温度が0℃の場合であっても短時間の圧締で良好な接着性能が得られた。また、接着剤3を用いた場合、被着材温度が23℃の場合は短時間の圧締で良好な接着性能が得られた。接着剤4を用いた場合は、どの条件においても耐水性能が不足していた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】最短圧締時間の試験方法の図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
15℃〜80℃に調温したアセトアセチル基含有合成樹脂エマルジョン組成物を用い、少なくとも一方が多孔質材料である被着材を接着することを特徴とする接着方法。
【請求項2】
前記アセトアセチル基含有合成樹脂エマルジョン組成物が、アセトアセチル化ポリビニルアルコールを含有することを特徴とする請求項1記載の接着方法。
【請求項3】
前記アセトアセチル基含有合成樹脂エマルジョン組成物が、アセトアセチル基含有単量体と他の単量体を共重合させて得られた樹脂を含有することを特徴とする請求項1または2記載の接着方法。
【請求項4】
前記アセトアセチル基含有合成樹脂エマルジョン組成物の不揮発分が、40〜80%であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の接着方法。
【請求項5】
圧締時間が3〜10分であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の接着方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−1761(P2008−1761A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170848(P2006−170848)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】