短繊維の製造方法
【課題】 繊維同士が融着していない短繊維を、作業性良く製造することのできる、短繊維の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の短繊維の製造方法は、平均繊維径が4μm以下の長繊維束に油剤を付与する付与工程、長繊維束の全部をシート状物で囲んで固定する固定工程、切断領域よりも外側にシート状物が存在する状態で長繊維束を切断する切断工程、又はシート状物の切断側から最も遠い部分に切れ目が入っているものの繋がっているように長繊維束を切断する切断工程、及び前記シート状物を取り除く除去工程、を含む。
【解決手段】 本発明の短繊維の製造方法は、平均繊維径が4μm以下の長繊維束に油剤を付与する付与工程、長繊維束の全部をシート状物で囲んで固定する固定工程、切断領域よりも外側にシート状物が存在する状態で長繊維束を切断する切断工程、又はシート状物の切断側から最も遠い部分に切れ目が入っているものの繋がっているように長繊維束を切断する切断工程、及び前記シート状物を取り除く除去工程、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は短繊維の製造方法に関する。特には、平均繊維径が4μm以下の長繊維を切断して短繊維を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平均繊維径が4μm以下の極細短繊維を含む不織布は、濾過性能、柔軟性、隠蔽性、払拭性などの諸特性に優れているため、好適に使用することができる。このような極細短繊維を含む不織布を製造する1つの方法として、ある溶液によって除去可能な樹脂成分(海成分)中に、この溶液によって除去が困難な樹脂成分(島成分)が分散した短繊維(いわゆる海島型短繊維)を使用して、カード法やエアレイ法などにより海島型短繊維を含む繊維ウエブを形成し、次いでニードルや水流の作用によって繊維同士を絡合させて絡合繊維ウエブとした後に、海島型短繊維の海成分を溶液で溶解除去する方法が知られている。
【0003】
この方法によれば、極細短繊維を含む不織布を製造することができるが、極細短繊維が束となった状態にあるため、この極細短繊維束を解すため、又は形態安定性を付与するために、水流などの流体流を作用させる必要があった。しかしながら、流体流を作用させると、地合いを悪くするという問題があった。
【0004】
そこで、海島型長繊維の海成分を除去して極細長繊維束とした後に、所望長さに切断して極細短繊維とし、この極細短繊維を用いて湿式法により繊維ウエブを形成すれば、地合の優れる不織布を製造できると考えられた。しかしながら、極細長繊維束を切断する際に極細短繊維同士が融着してしまい、地合いの優れる不織布を製造することが困難であった。
【0005】
そのため、本願出願人は、極細長繊維束に油剤を付与し、フィルムなどのシート状物によって極細長繊維束を固定した後に切断する極細短繊維の製造方法を提案した(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−119668号公報(請求項3、請求項7、段落番号0033、0050)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この製造方法によれば、極細短繊維同士を融着させることなく、極細短繊維を製造することができるため、地合いの優れる不織布を製造することができた。しかしながら、この方法によって極細短繊維を製造した場合、極細長繊維束を固定しているフィルムなどのシート状物も一緒に切断してしまい、極細短繊維とシート状物の切断片とが混在してしまうため、シート状物の切断片を取り除く必要があり、非常に煩雑であった。
【0008】
そこで本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、繊維同士が融着していない短繊維を、作業性良く製造することのできる、短繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1にかかる発明は、「長繊維束の一部又は全部をシート状物で囲んで固定する固定工程、前記シート状物が少なくとも一部で繋がっており、シート状物に由来する切断片を発生しないように前記長繊維束を切断する切断工程、及び前記シート状物を取り除く除去工程、を含むことを特徴とする、短繊維の製造方法。」である。
【0010】
本発明の請求項2にかかる発明は、「切断工程が、切断領域よりも外側にシート状物が存在する状態で、長繊維束を切断する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の短繊維の製造方法。」である。
【0011】
本発明の請求項3にかかる発明は、「切断工程が、シート状物の切断側から最も遠い部分が繋がっているように、長繊維束を切断する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の短繊維の製造方法。」である。
【0012】
本発明の請求項4にかかる発明は、「シート状物の切断側から最も遠い部分に切れ目が入っていることを特徴とする、請求項3に記載の短繊維の製造方法。」である。
【0013】
本発明の請求項5にかかる発明は、「固定工程が、支持シート状物上に支持された長繊維束を被覆シート状物により被覆するとともに、被覆シート状物の支持シート状物側表面の少なくとも一部が、前記支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する状態で長繊維束を固定する工程であり、切断工程が、前記被覆シート状物の支持シート状物側表面が支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分が繋がっており、かつ前記支持シート状物の被覆シート状物側表面に切れ目が入るものの、支持シート状物が繋がった状態に、長繊維束を切断する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の短繊維の製造方法。」である。
【0014】
本発明の請求項6にかかる発明は、「被覆シート状物の支持シート状物側表面が支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分が、長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端において存在することを特徴とする、請求項5に記載の短繊維の製造方法。」である。
【0015】
本発明の請求項7にかかる発明は、「被覆シート状物の支持シート状物側表面が支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分が、長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端以外にも存在することを特徴とする、請求項5又は請求項6に記載の短繊維の製造方法。」である。
【0016】
本発明の請求項8にかかる発明は、「長繊維の平均繊維径が4μm以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれかに記載の短繊維の製造方法。」である。
【0017】
本発明の請求項9にかかる発明は、「固定工程の前に、長繊維束に油剤を付与する付与工程を更に含むことを特徴とする、請求項1〜請求項8のいずれかに記載の短繊維の製造方法。」である。
【0018】
本発明の請求項10にかかる発明は、「切断工程が、繊維長3mm以下に切断する工程であることを特徴とする、請求項1〜請求項9のいずれかに記載の短繊維の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1にかかる発明は、シート状物が少なくとも一部で繋がっており、シート状物に由来する切断片を発生しないように長繊維束を切断しているため、長繊維束切断後に容易にシート状物を取り除くことができ、作業性良く短繊維を製造することができる。
【0020】
本発明の請求項2にかかる発明は、切断領域よりも外側にシート状物が存在する状態で長繊維束を切断し、シート状物は少なくとも切断領域よりも外側の領域で繋がった状態にあるため、容易にシート状物を取り除くことができ、作業性良く短繊維を製造することができる。
【0021】
本発明の請求項3にかかる発明は、シート状物の切断側から最も遠い部分が繋がっているように長繊維束を切断し、シート状物は少なくとも切断側から最も遠い部分が繋がっているため、容易にシート状物を取り除くことができ、作業性良く短繊維を製造することができる。
【0022】
本発明の請求項4にかかる発明は、シート状物の切断側から最も遠い部分に切れ目が入っていると、確実に長繊維束を切断して、短繊維を製造することができる。
【0023】
本発明の請求項5にかかる発明は、支持シート状物と被覆シート状物の2枚のシート状物を使用し、被覆シート状物で長繊維束を被覆して固定しているため、簡易な装置構成で長繊維束を固定することができる。また、被覆シート状物、支持シート状物のいずれも繋がった状態で長繊維束を切断するため、容易に支持シート状物及び被覆シート状物を取り除くことができ、作業性良く短繊維を製造することができる。更に、支持シート状物に切れ目が入る程度に長繊維束を切断しているため、確実に長繊維束を切断して、短繊維を製造することができる。
【0024】
本発明の請求項6にかかる発明は、長繊維束切断後において、長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端、つまり被覆シート状物の幅方向における両端が切断されておらず、繋がった状態にあり、被覆シートの両端に力を作用させて取り除くことができるため、被覆シートの切断箇所が踊るのを抑制し、安定して取り除くことができる。
【0025】
本発明の請求項7にかかる発明は、長繊維束切断後において、長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端(幅方向における両端)以外、つまり、被覆シート状物の中間部にも切断されておらず、繋がった状態の箇所がある。そのため、被覆シートの切断箇所が踊るのを抑制し、更に安定して取り除くことができる。
【0026】
本発明の請求項8にかかる発明は、長繊維の平均繊維径が4μm以下の細い繊維であっても、確実に切断して極細短繊維を製造することができる。
【0027】
本発明の請求項9にかかる発明は、固定工程の前に、長繊維束に油剤を付与する付与工程を更に含んでいるため、長繊維束を切断する際の熱を吸収することができ、また、長繊維間に被膜を形成できるため、短繊維同士の融着を効率的に防止することができる。
【0028】
本発明の請求項10にかかる発明は、繊維長3mm以下に切断しても、シート状物を取り除くのが容易であるため、作業性良く短繊維を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の短繊維の製造方法においては、まず、長繊維束の一部又は全部をシート状物で囲んで固定する固定工程を実施する。この長繊維束の固定は切断時に長繊維束がずれないように、長繊維束をシート状物で囲んで固定するが、長繊維束の周囲全部を囲んで固定しても、長繊維束の周囲の一部のみを囲んで固定しても良いが、切断時における長繊維束のずれによる切断不良や融着を確実に防止できるように、長繊維束の周囲全部をシート状物で囲んで固定するのが好ましい。この好適である、長繊維束の周囲全部をシート状物で囲んで固定した状態の、長繊維束の横断面における模式図を図1〜4、9、11に示す。図1は1枚のシート状物2によって、長繊維束1の周囲全部をシート状物2で囲んで固定し、長繊維束1の一方の外側(長繊維束の長さ方向に直交する方向における一方の端部、つまり、シート状物の幅方向における一方の端部)にのみシート状物2が重なって存在する状態であり、図2は1枚のシート状物2によって、長繊維束1の周囲全部をシート状物2で囲んで固定し、長繊維束1の両方の外側(長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端、つまり、シート状物の幅方向における両端)にシート状物2が重なって存在する状態であり、図3は2枚のシート状物2によって、長繊維束1の周囲全部をシート状物2で囲んで固定し、長繊維束1の両方の外側(長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端、つまり、シート状物の幅方向における両端)にシート状物2が重なって存在する状態であり、図4は1枚のシート状物2によって、長繊維束1の周囲全部をシート状物2で囲んで固定し、長繊維束1の外側(長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端、つまり、シート状物の幅方向における両端)にはシート状物2の重なりが存在しない状態である。
【0030】
また、図9は長繊維束1を支持する支持シート状物2sと長繊維束1を被覆する被覆シート状物2cの2枚のシート状物によって、長繊維束1の周囲全部を囲んで固定し、長繊維束1の両方の外側(長繊維束1の長さ方向に直交する方向における両端、つまり、支持シート状物2s又は被覆シート状物2cの幅方向における両端)において、支持シート状物2sよりも被覆シート状物2cの方がより外側まで伸びている。図9においては、被覆シート状物2cの支持シート状物2sよりも外側に伸びた部分(以下、「突出部分2p1、2p2」ということがある)が、支持シート状物2sとの境界で屈曲し、被覆シート状物2cの突出部分2p1、2p2の支持シート状物側表面2fsが支持シート状物2sの被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置している。なお、図9においては、突出部分2p1、2p2の支持シート状物側表面全部が支持シート状物2sの被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置しているが、突出部分2p1、2p2の支持シート状物側表面2fsの一部が支持シート状物2sの被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置していても良いし、突出部分2p1、2p2の支持シート状物側表面2fsの一部又は全部が支持シート状物2sの被覆シート状物側表面の反対表面よりも被覆シート状物側(但し、全部の場合には、支持シート状物2sの被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側)に位置していても良いし、突出部分2p1、2p2の支持シート状物側表面2fsの一部又は全部が支持シート状物2sの被覆シート状物側表面の反対表面よりも更に支持シート状物側に位置していても良いが、図9のように、突出部分2p1、2p2の支持シート状物側表面全部が支持シート状物2sの被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置していると、支持シート及び被覆シートの搬送性に優れ、しかも突出部分2p1、2p2は後述の切断工程によっても切断されにくいため、最も好ましい態様である。また、図9においては、被覆シート状物2cの支持シート状物側表面2fsが支持シート状物2sの被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分(図9においては突出部分2p1、2p2)が、長繊維束1の長さ方向に直交する方向における両端、つまり、支持シート状物2s又は被覆シート状物2cの幅方向における両端に存在しているが、両端である必要はなく、一方の端部だけであっても良いし、一方の端部に加えて両端の間の中間部に存在していても良いし、場合によっては、両端の間の中間部のみに存在していても良い。しかしながら、両端に存在していると、後述の切断工程によっても被覆シート状物2cの幅方向における両端が切断されておらず、繋がった状態にあり、被覆シートの両端に力を作用させて、被覆シートの切断箇所が踊るのを抑制し、安定して取り除くことができるため、少なくとも両端に存在しているのが好ましい。
【0031】
図11は長繊維束11を支持する支持シート状物2s1、長繊維束12を支持する支持シート状物2s2、長繊維束13を支持する支持シート状物2s3、及び長繊維束11、12、13を被覆する被覆シート状物2cによって、各長繊維束11、12、13の周囲全部を囲んで固定し、各長繊維束11、12、13の長さ方向に直交する方向における両端、つまり、被覆シート状物2cの幅方向における両端において、支持シート状物2s1及び支持シート状物2s3よりも被覆シート状物2cの方がより外側まで伸びて被覆シート状物2cのみが存在していることに加えて、支持シート状物2s1と支持シート状物2s2との間、及び支持シート状物2s2と支持シート状物2s3との間においても、被覆シート状物2cのみが存在している。なお、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2及び支持シート状物2s3は同じ厚さからなり、また、被覆シート状物側表面の反対表面は同一平面に位置している。
【0032】
この支持シート状物2s1及び支持シート状物2s3よりも被覆シート状物2cの方がより外側まで伸びて被覆シート状物2cのみが存在している部分(突出部分2p1、2p2)が、支持シート状物2s1及び支持シート状物2s3との境界で屈曲し、被覆シート状物2cの突出部分2p1の支持シート状物側表面2fsが支持シート状物2s1の被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置し、被覆シート状物2cの突出部分2p2の支持シート状物側表面2fsが支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置している。
【0033】
また、支持シート状物2s1と支持シート状物2s2の間における被覆シート状物2cのみが存在している部分(以下、「凹部2d1」ということがある)は支持シート状物2s1及び支持シート状物2s2との境界で屈曲し、被覆シート状物2cの凹部2d1の支持シート状物側表面2fsが支持シート状物2s1及び支持シート状物2s2の被覆シート状物側表面の反対表面は同一平面に位置している。
【0034】
更に、支持シート状物2s2と支持シート状物2s3の間における被覆シート状物2cのみが存在している部分(以下、「凹部2d2」ということがある)は支持シート状物2s2及び支持シート状物2s3との境界で屈曲し、被覆シート状物2cの凹部2d2の支持シート状物側表面2fsが支持シート状物2s2及び支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面は同一平面に位置している。
【0035】
したがって、被覆シート状物2cの突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2における支持シート状物側表面と、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面は全て同一平面に位置している。
【0036】
なお、図11においては、被覆シート状物2cの突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2における支持シート状物側表面と、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面は全て同一平面に位置しているが、被覆シート状物2cの突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2の支持シート状物側表面の一部が、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置していても良いし、被覆シート状物2cの突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2の支持シート状物側表面の一部又は全部が支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面よりも被覆シート状物側(但し、全部の場合には、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側)に位置していても良いし、被覆シート状物2cの突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2の支持シート状物側表面の一部又は全部が、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面よりも更に支持シート状物側に位置していても良いが、図11のように、突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2の支持シート状物側表面全部が、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置していると、支持シート状物2s1、2s2、2s3及び被覆シート状物2cの搬送性に優れ、しかも突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2は後述の切断工程によっても切断されにくいため、最も好ましい態様である。
【0037】
また、図11においては、被覆シート状物2cの支持シート状物側表面2fsが支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分(図11においては突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2)が、長繊維束1の長さ方向に直交する方向における両端、つまり、被覆シート状物2cの幅方向における両端と、両端の間の中間部の2ヶ所に存在しているが、被覆シート状物2cの幅方向における一端と、両端の間の中間部に存在していても良いし、両端の間の中間部にのみ存在していても良い。また、いずれの場合においても、両端の間の中間部における凹部の数は図11のように2ヶ所である必要はなく、1ヶ所でも、3ヶ所以上であっても良い。特に、図11のように、被覆シート状物の両端に加えて、中間部にも被覆シート状物の支持シート状物側表面が支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分が存在すると、長繊維束切断後において、長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端(幅方向における両端)以外に、被覆シート状物の中間部も切断されておらず、繋がった状態の箇所があるため、被覆シートの切断箇所が踊るのを抑制し、更に安定して取り除くことができるため好適である。
【0038】
更に、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2及び支持シート状物2s3は同じ厚さである必要はないし、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2及び支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面は同一平面に位置している必要はない。
【0039】
なお、長繊維束1を構成する長繊維は特に限定するものではないが、従来の方法によっては融着してしまい、切断するのが困難であった、平均繊維径が4μm以下の細い繊維であっても、融着させることなく、確実に切断して短繊維を製造することができる。特には、平均繊維径が3μm以下、更には平均繊維径が2μm以下の長繊維であっても、融着させることなく、確実に切断して短繊維を製造することができる。他方、長繊維の平均繊維径の下限は、本発明の製造方法により製造できる平均繊維径であり、特に限定するものではない。なお、平均繊維径が4μm以下の長繊維(特には、3μm以下の繊維、2μm以下の繊維)は、海島型長繊維の海成分を溶液で除去して得ることができる。本発明における「平均繊維径」とはJIS L 1015に記載されている振動法によって測定された繊度から繊維の密度を考慮して、次式で算出したものをいう。
平均繊維径(μm)={(D×4)/(9000×ρ×π)}(1/2)×103
ここで、Dは繊度(デニール)を意味し、ρは密度(g/cm3)を意味する。
【0040】
また、長繊維の構成材料も特に限定するものではないが、本発明の製造方法においては、比較的融点が低く、融着しやすい合成長繊維であっても融着させることなく切断して、短繊維を製造することができる。例えば、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリアミド系樹脂及び/又はポリオレフィン系樹脂を2種類以上複合又は混合した長繊維(例えば、横断面における配置が芯鞘型、サイドバイサイド型、海島型、多重バイメタル型、オレンジ型長繊維など)であっても、融着させることなく切断して、短繊維を製造することができる。勿論、その他の融点の高い合成長繊維、機能性長繊維(例えば、アラミド長繊維など)、或いはガラス長繊維等の無機長繊維であっても、本発明の製造方法により短繊維を製造することができる。
【0041】
また、シート状物2(支持シート状物2s、被覆シート状物2cを含む、以下、同様)は長繊維束1を囲んで固定することができる限り、特に限定するものではないが、例えば、フィルム、不織布、織物、紙などを挙げることができる。これらの中でも、切断によって屑の発生しにくいフィルムであるのが好ましい。なお、シート状物2は長繊維束1を切断した後に繋がった状態にあり、容易に取り除くことができるため、シート状物2を構成する樹脂は特に限定するものではない。また、シート状物の厚さは特に限定するものではないが、後述のシート状物の切断側から最も遠い部分に切れ目を入れるように長繊維束を切断する場合(例えば、支持シート状物2sに切れ目を入れて長繊維束を切断する場合)には、シート状物が繋がった状態で切断しやすく、切断後の取り扱いによってシート状物が破断しにくいように、50μm以上であるのが好ましく、100μm以上であるのが更に好ましい。なお、厚さの上限は長繊維束を切断することができる限り、特に限定するものではない。
【0042】
なお、このような固定工程は公知の方法(例えば、特開2003−119662号公報)によって実施することができる。また、支持シート状物2sと被覆シート状物2cとで長繊維束を固定する場合には、送り出した支持シート状物2s上に長繊維束を載置するように供給した後、支持シート状物2sよりも幅の広い被覆シート状物2cを、長繊維束を被覆するように供給することによって実施することができる。この場合、被覆シート状物2cの支持シート状物側表面の少なくとも一部が、支持シート状物2sの被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に確実に位置するように、被覆シート状物2cで長繊維束を被覆した後に、一対のロール等により加圧するのが好ましい。このように、支持シート状物2sと被覆シート状物2cとで長繊維束を固定する場合、簡易な装置構成で長繊維束を固定することができる。
【0043】
次いで、シート状物が少なくとも一部で繋がっており、シート状物に由来する切断片を発生しないように長繊維束を切断する切断工程を実施する。この切断工程の1つとして、切断領域(切断刃等が作用する領域)よりも外側にシート状物が存在する状態で、長繊維束を切断する工程がある。例えば、図1のように長繊維束1をシート状物2で固定した場合、図5に切断時における長繊維束1の横断面方向の模式図を示すように、切断刃3等により切断される切断領域Cの一方の外側にもシート状物2が存在するように供給し、切断刃3等により長繊維束1及びシート状物2を切断することができる。この場合、切断刃3等により切断されない非切断領域Rにもシート状物2が存在することによって、長繊維束1を切断した後においても、シート状物2の一部(非切断領域Rに存在していた部分)が繋がった状態にあり、シート状物2に由来する切断片を発生しないため、次工程において、容易にシート状物2を除去することができる。なお、このような切断はギロチンタイプの固定刃と移動刃との組み合わせによって実施することができる。
【0044】
別の切断時における長繊維束の横断面方向の模式図を図6に示す。この図6は図2のように長繊維束1をシート状物2で固定した後、切断刃3等により切断される切断領域Cの両方の外側にもシート状物2が存在するように供給し、切断刃3等により長繊維束1及びシート状物2を切断する態様である。この場合であっても、非切断領域Rにもシート状物2が存在するため、長繊維束1を切断した後においても、シート状物2の一部(非切断領域Rに存在していた部分)が繋がった状態にあり、シート状物2に由来する切断片を発生しないため、次工程において、容易にシート状物2を除去することができる。なお、このような切断はギロチンタイプの固定刃と移動刃との組み合わせによって実施することができる。
【0045】
更に別の切断時における長繊維束の横断面方向の模式図を図7に示す。この図7は図3のように長繊維束1をシート状物2で固定した後、切断刃3等により切断される切断領域Cの両方の外側にもシート状物2が存在するように供給し、切断刃3等により長繊維束1及びシート状物2を切断する態様である。この場合であっても、非切断領域Rにもシート状物2が存在するため、長繊維束1を切断した後においても、シート状物2の一部(非切断領域Rに存在していた部分)が繋がった状態にあり、シート状物2に由来する切断片を発生しないため、次工程において、容易にシート状物2を除去することができる。なお、このような切断はギロチンタイプの固定刃と移動刃との組み合わせによって実施することができる。
【0046】
更に別の切断時における長繊維束の横断面方向の模式図を図8に示す。この図8は図4のように長繊維束1をシート状物2で固定した後、切断刃3等により切断するものの、切断刃3等が存在する切断側から最も遠い部分Fが繋がっているように、長繊維束1を切断する態様である。この場合であっても、シート状物2の一部(切断側から最も遠い部分F)が繋がった状態にあり、シート状物2に由来する切断片を発生しないため、次工程において、容易にシート状物2を除去することができる。なお、切断側から最も遠い部分Fが繋がっているように切断する場合、切断刃3等がシート状物2に切れ目Bが入るように切断する(図8の態様)ことも、入らないように切断することもできるが、切れ目Bが入るように長繊維束1を切断すると、切断刃3等がシート状物2まで到達していることを保証していることになるため、確実に長繊維束1を切断して、短繊維を製造することができ、好適な態様である。このようにシート状物2に切れ目Bが入るように切断するには、例えば、ハーフカット加工機により実施することができる。なお、図5〜図7のように長繊維束1を切断する場合であっても、切断側から最も遠い部分が繋がっているように切断することができ、特に、シート状物に切れ目が入るように切断することができる。
【0047】
更に別の切断時における長繊維束の横断面方向の模式図を図10に示す。この図10は図9のように長繊維束1を支持シート状物2sと被覆シート状物2cとで固定した後、切断刃3等により切断するものの、切断刃3等が存在する切断側から最も遠い部分Fが繋がっているように、長繊維束1を切断する態様である。この場合、切断側から最も遠い部分Fには、支持シート状物2sと被覆シート状物2cの幅方向における両端部が存在しており、被覆シート状物2cの支持シート状物側表面が支持シート状物2sの被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置しているため、切断刃3等が支持シート状物2sに切れ目Bが入るものの、支持シート状物2sが繋がった状態であるように切断するため、支持シート状物2sが繋がった状態にあるのはもちろんのこと、被覆シート状物2cも両端部(突出部分2p1、2p2)において切れ目Bが入るものの繋がった状態にあり、支持シート状物2s又は被覆シート状物2cに由来する切断片を発生しないため、次工程において、容易に支持シート状物2s及び被覆シート状物2cを除去することができる。なお、支持シート状物2sに切れ目Bが入るように長繊維束1を切断するため、確実に長繊維束1を切断して、短繊維を製造することができる。このように支持シート状物2sに切れ目Bが入るように切断するには、例えば、ハーフカット加工機により実施することができる。なお、切断刃3等によって支持シート状物2sに切れ目Bを入れる際には、被覆シート状物2cの支持シート状物側表面がどの位置にあるかを考慮する必要がある。つまり、支持シート状物2sに入れる切れ目Bの深さを、支持シート状物2sの被覆シート状物側表面よりも深く、かつ被覆シート状物2cの支持シート状物側表面よりも浅くする(但し、支持シート状物2sが繋がって状態であるように切れ目を入れる)。このような切れ目の深さによって、被覆シート状物2cの両端部(突出部分2p1、2p2)は切れ目が入っている場合がある(図10)し、切れ目が入っていない場合もある。
【0048】
更に別の切断時における長繊維束の横断面方向の模式図を図12に示す。この図12は図11のように長繊維束11、12、13を支持シート状物2s1、2s2、2s3と被覆シート状物2cとで固定した後、切断刃3等により切断するものの、切断刃3等が存在する切断側から最も遠い部分Fが繋がっているように、長繊維束11、12、13を切断する態様である。この場合、切断側から最も遠い部分Fには、支持シート状物2s1、2s2、2s3、被覆シート状物2cの幅方向における両端部(突出部分2p1、2p2)、及び被覆シート状物2cの凹部2d1、2d2が存在しており、被覆シート状物2cの突出部分2p1、2p2の支持シート状物側表面、被覆シート状物2cの凹部2d1、2d2の支持シート状物側表面、及び支持シート状物2s1、2s2、2s3の被覆シート状物側表面の反対側表面が同一平面に位置しているため、切断刃3等が支持シート状物2s1、2s2、2s3に切れ目Bが入るものの、各支持シート状物2s1、2s2、2s3が繋がった状態であるように切断すると、各支持シート状物2s1、2s2、2s3が繋がった状態にあるのはもちろんのこと、被覆シート状物2cも両端部(突出部分2p1、2p2)及び凹部2d1、2d2において繋がった状態にあり、各支持シート状物2s1、2s2、2s3及び被覆シート状物2cに由来する切断片を発生しないため、次工程において、容易に各支持シート状物2s1、2s2、2s3及び被覆シート状物2cを除去することができる。なお、各支持シート状物2s1、2s2、2s3に切れ目Bが入るように長繊維束1を切断するため、確実に長繊維束11、12、13を切断して、短繊維を製造することができる。このように各支持シート状物2s1、2s2、2s3に切れ目Bが入るように切断するには、例えば、ハーフカット加工機により実施することができる。なお、切断刃3等によって各支持シート状物2s1、2s2、2s3に切れ目Bを入れる際には、被覆シート状物2cの支持シート状物側表面がどの位置にあるかを考慮する必要がある。つまり、各支持シート状物2s1、2s2、2s3に入れる切れ目Bの深さを、各支持シート状物2s1、2s2、2s3の被覆シート状物側表面よりも深く、かつ被覆シート状物2cの支持シート状物側表面よりも浅くする(但し、各支持シート状物2s1、2s2、2s3が繋がって状態であるように切れ目を入れる)。このような切れ目の深さによって、被覆シート状物2cの両端部(突出部分2p1、2p2)及び凹部2d1、2d2に切れ目が入っている場合がある(図12)し、切れ目が入っていない場合もある。
【0049】
以上のような切断工程における長繊維束1の切断長さは特に限定するものではないが、従来はシート状物2を取り除くのに多大な労力を必要とした繊維長3mm以下に切断しても、シート状物2から切断片は発生しないため、容易にシート状物2を取り除くことができ、作業性良く短繊維を製造することができる。なお、切断長さの下限は切断することのできる長さであり、特に限定するものではない。
【0050】
そして、シート状物2を取り除く除去工程を実施することによって、短繊維を製造することができる。前述の通り、シート状物2は少なくとも一部で繋がっており、シート状物2に由来する切断片を発生しないため、容易に取り除くことができる。この除去工程は、例えば、巻き取りロールによってシート状物2を巻き取ることによって実施できる。場合によっては手で取り除くこともできる。なお、長繊維束切断後において、シート状物の長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端、つまりシート状物(被覆シート状物も含む)の幅方向における両端が繋がった状態にあると、シート状物の両端に力を作用させ、シート状物の切断箇所が踊るのを抑制できるため、安定して取り除くことができる。特に、シート状物の幅方向における両端に加えて、両端の中間部も繋がった状態にあると、シート状物の切断箇所が踊るのを抑制できるため、更に安定して取り除くことができる。
【0051】
以上は、基本的な短繊維の製造方法であるが、固定工程の前に、長繊維束1に油剤を付与する付与工程を更に含んでいるのが好ましい。長繊維束1に油剤を付与することによって、長繊維束1を切断する際の熱を吸収することができ、また、長繊維間に被膜を形成できることによって、短繊維同士の融着を効率的に防止することができるためである。この油剤付与の効果は長繊維の平均繊維径が4μm以下の細い場合に顕著である。この油剤は長繊維の構成材料によって異なるため、特に限定するものではないが、例えば、ポリアミド系長繊維、ポリオレフィン系長繊維、或いはポリアミド系樹脂及び/又はポリオレフィン系樹脂を2種類以上複合又は混合した長繊維である場合には、ポリエーテルエステル型ノニオン活性剤を含んでいるのが好ましい。また、短繊維使用時におけるスラリー中における分散性も考慮すると、ポリエーテルエステル型ノニオン活性剤に加えて、エーテル型ノニオン活性剤を含んでいるのが好ましい。なお、ポリエーテルエステル型ノニオン活性剤とエーテル型ノニオン活性剤の両方を含む場合、その質量比率は1:9〜9:1であるのが好ましく、2:8〜8:2であるのがより好ましく、3:7〜7:3であるのが更に好ましい。エーテル型ノニオン活性剤量が少なすぎると、長繊維束1の内部へ浸透しにくいためかスラリー中において繊維の分散性が悪くなる傾向があり、ポリエーテルエステル型ノニオン活性剤量が少なすぎると、切断時に融着しやすくなる傾向があるためである。なお、油剤の濃度は1〜10質量%であるのが好ましく、2〜8質量%であるのがより好ましく、3〜6質量%であるのが更に好ましい。
【0052】
このような油剤を長繊維束1に付与する場合、融着防止性に優れるように、長繊維束1の水分率が60質量%以上となるように付与するのが好ましく、70質量%以上となるように付与するのがより好ましく、80質量%以上となるように付与するのが更に好ましい。なお、水分率の上限は長繊維束1が保持することのできる量であり、特に限定するものではない。この「水分率」は、JIS L 1015に記載の水分率測定法に則り、次式より算出したものをいう。
水分率(%)=(W−W’)/W’×100
ここで、Wは長繊維束1に油剤を付与した後の質量(g)を意味し、W’は長繊維束1を絶乾した時の質量(g)を意味する。
【0053】
なお、長繊維束1への油剤の付与方法としては、油剤浴へ長繊維束1を浸漬する方法、又は油剤をスプレーする方法を挙げることができる。
【実施例】
【0054】
次に、実施例に基づいて、本発明による短繊維の製造方法をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
海島型繊維の海成分を溶解除去して形成した、平均繊維径2μmのポリプロピレン長繊維を10万dtexに集束した長繊維束を形成した。次いで、この長繊維束を、ポリエーテルエステル型ノニオン活性剤とエーテル型ノニオン活性剤とを、1:1で混合した後、水で希釈し、濃度4.5質量%とした混合油剤の浴中に浸漬し、余剰の混合油剤を搾取して、長繊維束の水分率を70質量%とした。
【0056】
次いで、図3に示すように、前記油剤を含浸した長繊維束の上下を2枚のポリエチレンフィルム(厚さ:100μm)で挟み、長繊維束の周囲全部を囲んで固定した(長繊維束の両方の外側にシート状物が存在)後、切断領域よりも外側にフィルムが存在するように、ハーフカット加工機へ供給し、フィルムの切断側から最も遠い部分に切れ目が入るように、長繊維束を繊維長2mmに切断して、短繊維を製造した。なお、フィルムは切断領域の外側の領域及び切断側から最も遠い部分において繋がっており、切断片を発生しなかった。
【0057】
その後、一部が繋がった状態にあるフィルム2枚を手で取り除き、短繊維を製造した。フィルムは繋がった状態にあったため、容易に取り除くことができた。
【0058】
そして、この短繊維70mass%と、別途用意したポリプロピレン(芯)−ポリエチレン(鞘)から構成される芯鞘型繊維(繊維径:17.5μm、繊維長:10mm)30mass%とを湿式抄紙した後、温度138℃に設定したオーブンによって、芯鞘型繊維を融着させて、不織布を製造した。得られた不織布における短繊維の分散状態を、電子顕微鏡により観察したところ、短繊維同士が融着していない、地合いの優れるものであった。
【0059】
(実施例2)
支持シート状物として作用する、幅150mmのポリエステル支持フィルム(厚さ:100μm)を供給し、このポリエステル支持フィルム上に、実施例1と同様にして形成した、混合油剤を含む長繊維束(水分率:70質量%)を載置するように供給するとともに、被覆シート状物として作用する、幅200mmのポリエステル被覆フィルム(厚さ:100μm)を供給し、長繊維束を被覆した後、一対のゴムロールにより加圧し、図9で示すように、長繊維束1の周囲全部を囲んで固定した。つまり、ポリエステル支持フィルムの両側よりもポリエステル被覆フィルムが外側に伸びた突出部分(突出長さ:25mm)を有しており、ポリエステル被覆フィルムの突出部はポリエステル支持フィルムとの境界で屈曲し、突出部分のポリエステル支持フィルム側表面がポリエステル支持フィルムのポリエステル被覆フィルム側表面の反対表面と同一平面に位置していた。
【0060】
次いで、ポリエステル支持フィルムとポリエステル被覆フィルムとで固定した長繊維束をハーフカット加工機へ供給し、ポリエステル支持フィルムに切れ目が入るように、長繊維束を繊維長2mmに切断して、短繊維を製造した。なお、ポリエステル支持フィルムは切れ目が入っているものの、幅方向全体にわたって繋がっており、切断片を発生せず、ポリエステル被覆フィルムは突出部分に切れ目が入っているものの、繋がっているため切断片は発生しなかった。
【0061】
その後、ポリエステル支持フィルム、ポリエステル被覆フィルムをそれぞれ巻き取りロールにより巻き取ることにより取り除き、短繊維を製造した。いずれのフィルムも繋がった状態にあったため、容易に取り除くことができた。
【0062】
そして、この短繊維70mass%と、別途用意したポリプロピレン(芯)−ポリエチレン(鞘)から構成される芯鞘型繊維(繊維径:17.5μm、繊維長:10mm)30mass%とを湿式抄紙した後、温度138℃に設定したオーブンによって、芯鞘型繊維を融着させて、不織布を製造した。得られた不織布における短繊維の分散状態を、電子顕微鏡により観察したところ、短繊維同士が融着していない、地合いの優れるものであった。
【0063】
(比較例)
実施例1と同様にして形成した、混合油剤を含む長繊維束(水分率:70質量%)を、図4で示すように、1枚のポリエステルフィルム(厚さ:100μm)で周囲全体を囲んで固定した(長繊維束の両方の外側にフィルムが存在しない)後、固定刃と移動刃とを組み合わせたギロチンカット機へ供給し、長繊維束及びフィルムを完全に切断して、繊維長2mmの短繊維を製造した。
【0064】
その後、短繊維とフィルムの切断片との混合物から切断片のみを取り除く作業を手作業で行なったが、多大な労力を必要とする、非常に煩雑な作業であった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】長繊維束の周囲全部をシート状物で囲んで固定した状態の、長繊維束の横断面における模式図
【図2】長繊維束の周囲全部をシート状物で囲んで固定した状態の、長繊維束の横断面における模式図
【図3】長繊維束の周囲全部をシート状物で囲んで固定した状態の、長繊維束の横断面における模式図
【図4】長繊維束の周囲全部をシート状物で囲んで固定した状態の、長繊維束の横断面における模式図
【図5】切断時における長繊維束の横断面方向の模式図
【図6】切断時における長繊維束の横断面方向の模式図
【図7】切断時における長繊維束の横断面方向の模式図
【図8】切断時における長繊維束の横断面方向の模式図
【図9】長繊維束の周囲全部を支持シート状物と被覆シート状物とで囲んで固定した状態の、長繊維束の横断面における模式図
【図10】切断時における長繊維束の横断面方向の模式図
【図11】長繊維束の周囲全部を支持シート状物と被覆シート状物とで囲んで固定した状態の、長繊維束の横断面における模式図
【図12】切断時における長繊維束の横断面方向の模式図
【符号の説明】
【0066】
1 長繊維束
11、12、13 長繊維束
2 シート状物
2c 被覆シート状物
2s 支持シート状物
2p1、2p2 突出部分
2fs 支持シート状物側表面
2s1、2s2、2s3 支持シート状物
2d1、2d2 凹部
3 切断刃
C 切断領域
R 非切断領域
F 最も遠い部分
B 切れ目
【技術分野】
【0001】
本発明は短繊維の製造方法に関する。特には、平均繊維径が4μm以下の長繊維を切断して短繊維を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平均繊維径が4μm以下の極細短繊維を含む不織布は、濾過性能、柔軟性、隠蔽性、払拭性などの諸特性に優れているため、好適に使用することができる。このような極細短繊維を含む不織布を製造する1つの方法として、ある溶液によって除去可能な樹脂成分(海成分)中に、この溶液によって除去が困難な樹脂成分(島成分)が分散した短繊維(いわゆる海島型短繊維)を使用して、カード法やエアレイ法などにより海島型短繊維を含む繊維ウエブを形成し、次いでニードルや水流の作用によって繊維同士を絡合させて絡合繊維ウエブとした後に、海島型短繊維の海成分を溶液で溶解除去する方法が知られている。
【0003】
この方法によれば、極細短繊維を含む不織布を製造することができるが、極細短繊維が束となった状態にあるため、この極細短繊維束を解すため、又は形態安定性を付与するために、水流などの流体流を作用させる必要があった。しかしながら、流体流を作用させると、地合いを悪くするという問題があった。
【0004】
そこで、海島型長繊維の海成分を除去して極細長繊維束とした後に、所望長さに切断して極細短繊維とし、この極細短繊維を用いて湿式法により繊維ウエブを形成すれば、地合の優れる不織布を製造できると考えられた。しかしながら、極細長繊維束を切断する際に極細短繊維同士が融着してしまい、地合いの優れる不織布を製造することが困難であった。
【0005】
そのため、本願出願人は、極細長繊維束に油剤を付与し、フィルムなどのシート状物によって極細長繊維束を固定した後に切断する極細短繊維の製造方法を提案した(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−119668号公報(請求項3、請求項7、段落番号0033、0050)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この製造方法によれば、極細短繊維同士を融着させることなく、極細短繊維を製造することができるため、地合いの優れる不織布を製造することができた。しかしながら、この方法によって極細短繊維を製造した場合、極細長繊維束を固定しているフィルムなどのシート状物も一緒に切断してしまい、極細短繊維とシート状物の切断片とが混在してしまうため、シート状物の切断片を取り除く必要があり、非常に煩雑であった。
【0008】
そこで本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、繊維同士が融着していない短繊維を、作業性良く製造することのできる、短繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1にかかる発明は、「長繊維束の一部又は全部をシート状物で囲んで固定する固定工程、前記シート状物が少なくとも一部で繋がっており、シート状物に由来する切断片を発生しないように前記長繊維束を切断する切断工程、及び前記シート状物を取り除く除去工程、を含むことを特徴とする、短繊維の製造方法。」である。
【0010】
本発明の請求項2にかかる発明は、「切断工程が、切断領域よりも外側にシート状物が存在する状態で、長繊維束を切断する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の短繊維の製造方法。」である。
【0011】
本発明の請求項3にかかる発明は、「切断工程が、シート状物の切断側から最も遠い部分が繋がっているように、長繊維束を切断する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の短繊維の製造方法。」である。
【0012】
本発明の請求項4にかかる発明は、「シート状物の切断側から最も遠い部分に切れ目が入っていることを特徴とする、請求項3に記載の短繊維の製造方法。」である。
【0013】
本発明の請求項5にかかる発明は、「固定工程が、支持シート状物上に支持された長繊維束を被覆シート状物により被覆するとともに、被覆シート状物の支持シート状物側表面の少なくとも一部が、前記支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する状態で長繊維束を固定する工程であり、切断工程が、前記被覆シート状物の支持シート状物側表面が支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分が繋がっており、かつ前記支持シート状物の被覆シート状物側表面に切れ目が入るものの、支持シート状物が繋がった状態に、長繊維束を切断する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の短繊維の製造方法。」である。
【0014】
本発明の請求項6にかかる発明は、「被覆シート状物の支持シート状物側表面が支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分が、長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端において存在することを特徴とする、請求項5に記載の短繊維の製造方法。」である。
【0015】
本発明の請求項7にかかる発明は、「被覆シート状物の支持シート状物側表面が支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分が、長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端以外にも存在することを特徴とする、請求項5又は請求項6に記載の短繊維の製造方法。」である。
【0016】
本発明の請求項8にかかる発明は、「長繊維の平均繊維径が4μm以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれかに記載の短繊維の製造方法。」である。
【0017】
本発明の請求項9にかかる発明は、「固定工程の前に、長繊維束に油剤を付与する付与工程を更に含むことを特徴とする、請求項1〜請求項8のいずれかに記載の短繊維の製造方法。」である。
【0018】
本発明の請求項10にかかる発明は、「切断工程が、繊維長3mm以下に切断する工程であることを特徴とする、請求項1〜請求項9のいずれかに記載の短繊維の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1にかかる発明は、シート状物が少なくとも一部で繋がっており、シート状物に由来する切断片を発生しないように長繊維束を切断しているため、長繊維束切断後に容易にシート状物を取り除くことができ、作業性良く短繊維を製造することができる。
【0020】
本発明の請求項2にかかる発明は、切断領域よりも外側にシート状物が存在する状態で長繊維束を切断し、シート状物は少なくとも切断領域よりも外側の領域で繋がった状態にあるため、容易にシート状物を取り除くことができ、作業性良く短繊維を製造することができる。
【0021】
本発明の請求項3にかかる発明は、シート状物の切断側から最も遠い部分が繋がっているように長繊維束を切断し、シート状物は少なくとも切断側から最も遠い部分が繋がっているため、容易にシート状物を取り除くことができ、作業性良く短繊維を製造することができる。
【0022】
本発明の請求項4にかかる発明は、シート状物の切断側から最も遠い部分に切れ目が入っていると、確実に長繊維束を切断して、短繊維を製造することができる。
【0023】
本発明の請求項5にかかる発明は、支持シート状物と被覆シート状物の2枚のシート状物を使用し、被覆シート状物で長繊維束を被覆して固定しているため、簡易な装置構成で長繊維束を固定することができる。また、被覆シート状物、支持シート状物のいずれも繋がった状態で長繊維束を切断するため、容易に支持シート状物及び被覆シート状物を取り除くことができ、作業性良く短繊維を製造することができる。更に、支持シート状物に切れ目が入る程度に長繊維束を切断しているため、確実に長繊維束を切断して、短繊維を製造することができる。
【0024】
本発明の請求項6にかかる発明は、長繊維束切断後において、長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端、つまり被覆シート状物の幅方向における両端が切断されておらず、繋がった状態にあり、被覆シートの両端に力を作用させて取り除くことができるため、被覆シートの切断箇所が踊るのを抑制し、安定して取り除くことができる。
【0025】
本発明の請求項7にかかる発明は、長繊維束切断後において、長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端(幅方向における両端)以外、つまり、被覆シート状物の中間部にも切断されておらず、繋がった状態の箇所がある。そのため、被覆シートの切断箇所が踊るのを抑制し、更に安定して取り除くことができる。
【0026】
本発明の請求項8にかかる発明は、長繊維の平均繊維径が4μm以下の細い繊維であっても、確実に切断して極細短繊維を製造することができる。
【0027】
本発明の請求項9にかかる発明は、固定工程の前に、長繊維束に油剤を付与する付与工程を更に含んでいるため、長繊維束を切断する際の熱を吸収することができ、また、長繊維間に被膜を形成できるため、短繊維同士の融着を効率的に防止することができる。
【0028】
本発明の請求項10にかかる発明は、繊維長3mm以下に切断しても、シート状物を取り除くのが容易であるため、作業性良く短繊維を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の短繊維の製造方法においては、まず、長繊維束の一部又は全部をシート状物で囲んで固定する固定工程を実施する。この長繊維束の固定は切断時に長繊維束がずれないように、長繊維束をシート状物で囲んで固定するが、長繊維束の周囲全部を囲んで固定しても、長繊維束の周囲の一部のみを囲んで固定しても良いが、切断時における長繊維束のずれによる切断不良や融着を確実に防止できるように、長繊維束の周囲全部をシート状物で囲んで固定するのが好ましい。この好適である、長繊維束の周囲全部をシート状物で囲んで固定した状態の、長繊維束の横断面における模式図を図1〜4、9、11に示す。図1は1枚のシート状物2によって、長繊維束1の周囲全部をシート状物2で囲んで固定し、長繊維束1の一方の外側(長繊維束の長さ方向に直交する方向における一方の端部、つまり、シート状物の幅方向における一方の端部)にのみシート状物2が重なって存在する状態であり、図2は1枚のシート状物2によって、長繊維束1の周囲全部をシート状物2で囲んで固定し、長繊維束1の両方の外側(長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端、つまり、シート状物の幅方向における両端)にシート状物2が重なって存在する状態であり、図3は2枚のシート状物2によって、長繊維束1の周囲全部をシート状物2で囲んで固定し、長繊維束1の両方の外側(長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端、つまり、シート状物の幅方向における両端)にシート状物2が重なって存在する状態であり、図4は1枚のシート状物2によって、長繊維束1の周囲全部をシート状物2で囲んで固定し、長繊維束1の外側(長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端、つまり、シート状物の幅方向における両端)にはシート状物2の重なりが存在しない状態である。
【0030】
また、図9は長繊維束1を支持する支持シート状物2sと長繊維束1を被覆する被覆シート状物2cの2枚のシート状物によって、長繊維束1の周囲全部を囲んで固定し、長繊維束1の両方の外側(長繊維束1の長さ方向に直交する方向における両端、つまり、支持シート状物2s又は被覆シート状物2cの幅方向における両端)において、支持シート状物2sよりも被覆シート状物2cの方がより外側まで伸びている。図9においては、被覆シート状物2cの支持シート状物2sよりも外側に伸びた部分(以下、「突出部分2p1、2p2」ということがある)が、支持シート状物2sとの境界で屈曲し、被覆シート状物2cの突出部分2p1、2p2の支持シート状物側表面2fsが支持シート状物2sの被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置している。なお、図9においては、突出部分2p1、2p2の支持シート状物側表面全部が支持シート状物2sの被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置しているが、突出部分2p1、2p2の支持シート状物側表面2fsの一部が支持シート状物2sの被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置していても良いし、突出部分2p1、2p2の支持シート状物側表面2fsの一部又は全部が支持シート状物2sの被覆シート状物側表面の反対表面よりも被覆シート状物側(但し、全部の場合には、支持シート状物2sの被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側)に位置していても良いし、突出部分2p1、2p2の支持シート状物側表面2fsの一部又は全部が支持シート状物2sの被覆シート状物側表面の反対表面よりも更に支持シート状物側に位置していても良いが、図9のように、突出部分2p1、2p2の支持シート状物側表面全部が支持シート状物2sの被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置していると、支持シート及び被覆シートの搬送性に優れ、しかも突出部分2p1、2p2は後述の切断工程によっても切断されにくいため、最も好ましい態様である。また、図9においては、被覆シート状物2cの支持シート状物側表面2fsが支持シート状物2sの被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分(図9においては突出部分2p1、2p2)が、長繊維束1の長さ方向に直交する方向における両端、つまり、支持シート状物2s又は被覆シート状物2cの幅方向における両端に存在しているが、両端である必要はなく、一方の端部だけであっても良いし、一方の端部に加えて両端の間の中間部に存在していても良いし、場合によっては、両端の間の中間部のみに存在していても良い。しかしながら、両端に存在していると、後述の切断工程によっても被覆シート状物2cの幅方向における両端が切断されておらず、繋がった状態にあり、被覆シートの両端に力を作用させて、被覆シートの切断箇所が踊るのを抑制し、安定して取り除くことができるため、少なくとも両端に存在しているのが好ましい。
【0031】
図11は長繊維束11を支持する支持シート状物2s1、長繊維束12を支持する支持シート状物2s2、長繊維束13を支持する支持シート状物2s3、及び長繊維束11、12、13を被覆する被覆シート状物2cによって、各長繊維束11、12、13の周囲全部を囲んで固定し、各長繊維束11、12、13の長さ方向に直交する方向における両端、つまり、被覆シート状物2cの幅方向における両端において、支持シート状物2s1及び支持シート状物2s3よりも被覆シート状物2cの方がより外側まで伸びて被覆シート状物2cのみが存在していることに加えて、支持シート状物2s1と支持シート状物2s2との間、及び支持シート状物2s2と支持シート状物2s3との間においても、被覆シート状物2cのみが存在している。なお、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2及び支持シート状物2s3は同じ厚さからなり、また、被覆シート状物側表面の反対表面は同一平面に位置している。
【0032】
この支持シート状物2s1及び支持シート状物2s3よりも被覆シート状物2cの方がより外側まで伸びて被覆シート状物2cのみが存在している部分(突出部分2p1、2p2)が、支持シート状物2s1及び支持シート状物2s3との境界で屈曲し、被覆シート状物2cの突出部分2p1の支持シート状物側表面2fsが支持シート状物2s1の被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置し、被覆シート状物2cの突出部分2p2の支持シート状物側表面2fsが支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置している。
【0033】
また、支持シート状物2s1と支持シート状物2s2の間における被覆シート状物2cのみが存在している部分(以下、「凹部2d1」ということがある)は支持シート状物2s1及び支持シート状物2s2との境界で屈曲し、被覆シート状物2cの凹部2d1の支持シート状物側表面2fsが支持シート状物2s1及び支持シート状物2s2の被覆シート状物側表面の反対表面は同一平面に位置している。
【0034】
更に、支持シート状物2s2と支持シート状物2s3の間における被覆シート状物2cのみが存在している部分(以下、「凹部2d2」ということがある)は支持シート状物2s2及び支持シート状物2s3との境界で屈曲し、被覆シート状物2cの凹部2d2の支持シート状物側表面2fsが支持シート状物2s2及び支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面は同一平面に位置している。
【0035】
したがって、被覆シート状物2cの突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2における支持シート状物側表面と、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面は全て同一平面に位置している。
【0036】
なお、図11においては、被覆シート状物2cの突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2における支持シート状物側表面と、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面は全て同一平面に位置しているが、被覆シート状物2cの突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2の支持シート状物側表面の一部が、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置していても良いし、被覆シート状物2cの突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2の支持シート状物側表面の一部又は全部が支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面よりも被覆シート状物側(但し、全部の場合には、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側)に位置していても良いし、被覆シート状物2cの突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2の支持シート状物側表面の一部又は全部が、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面よりも更に支持シート状物側に位置していても良いが、図11のように、突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2の支持シート状物側表面全部が、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置していると、支持シート状物2s1、2s2、2s3及び被覆シート状物2cの搬送性に優れ、しかも突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2は後述の切断工程によっても切断されにくいため、最も好ましい態様である。
【0037】
また、図11においては、被覆シート状物2cの支持シート状物側表面2fsが支持シート状物2s1、支持シート状物2s2、支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分(図11においては突出部分2p1、凹部2d1、凹部2d2、突出部分2p2)が、長繊維束1の長さ方向に直交する方向における両端、つまり、被覆シート状物2cの幅方向における両端と、両端の間の中間部の2ヶ所に存在しているが、被覆シート状物2cの幅方向における一端と、両端の間の中間部に存在していても良いし、両端の間の中間部にのみ存在していても良い。また、いずれの場合においても、両端の間の中間部における凹部の数は図11のように2ヶ所である必要はなく、1ヶ所でも、3ヶ所以上であっても良い。特に、図11のように、被覆シート状物の両端に加えて、中間部にも被覆シート状物の支持シート状物側表面が支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分が存在すると、長繊維束切断後において、長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端(幅方向における両端)以外に、被覆シート状物の中間部も切断されておらず、繋がった状態の箇所があるため、被覆シートの切断箇所が踊るのを抑制し、更に安定して取り除くことができるため好適である。
【0038】
更に、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2及び支持シート状物2s3は同じ厚さである必要はないし、支持シート状物2s1、支持シート状物2s2及び支持シート状物2s3の被覆シート状物側表面の反対表面は同一平面に位置している必要はない。
【0039】
なお、長繊維束1を構成する長繊維は特に限定するものではないが、従来の方法によっては融着してしまい、切断するのが困難であった、平均繊維径が4μm以下の細い繊維であっても、融着させることなく、確実に切断して短繊維を製造することができる。特には、平均繊維径が3μm以下、更には平均繊維径が2μm以下の長繊維であっても、融着させることなく、確実に切断して短繊維を製造することができる。他方、長繊維の平均繊維径の下限は、本発明の製造方法により製造できる平均繊維径であり、特に限定するものではない。なお、平均繊維径が4μm以下の長繊維(特には、3μm以下の繊維、2μm以下の繊維)は、海島型長繊維の海成分を溶液で除去して得ることができる。本発明における「平均繊維径」とはJIS L 1015に記載されている振動法によって測定された繊度から繊維の密度を考慮して、次式で算出したものをいう。
平均繊維径(μm)={(D×4)/(9000×ρ×π)}(1/2)×103
ここで、Dは繊度(デニール)を意味し、ρは密度(g/cm3)を意味する。
【0040】
また、長繊維の構成材料も特に限定するものではないが、本発明の製造方法においては、比較的融点が低く、融着しやすい合成長繊維であっても融着させることなく切断して、短繊維を製造することができる。例えば、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリアミド系樹脂及び/又はポリオレフィン系樹脂を2種類以上複合又は混合した長繊維(例えば、横断面における配置が芯鞘型、サイドバイサイド型、海島型、多重バイメタル型、オレンジ型長繊維など)であっても、融着させることなく切断して、短繊維を製造することができる。勿論、その他の融点の高い合成長繊維、機能性長繊維(例えば、アラミド長繊維など)、或いはガラス長繊維等の無機長繊維であっても、本発明の製造方法により短繊維を製造することができる。
【0041】
また、シート状物2(支持シート状物2s、被覆シート状物2cを含む、以下、同様)は長繊維束1を囲んで固定することができる限り、特に限定するものではないが、例えば、フィルム、不織布、織物、紙などを挙げることができる。これらの中でも、切断によって屑の発生しにくいフィルムであるのが好ましい。なお、シート状物2は長繊維束1を切断した後に繋がった状態にあり、容易に取り除くことができるため、シート状物2を構成する樹脂は特に限定するものではない。また、シート状物の厚さは特に限定するものではないが、後述のシート状物の切断側から最も遠い部分に切れ目を入れるように長繊維束を切断する場合(例えば、支持シート状物2sに切れ目を入れて長繊維束を切断する場合)には、シート状物が繋がった状態で切断しやすく、切断後の取り扱いによってシート状物が破断しにくいように、50μm以上であるのが好ましく、100μm以上であるのが更に好ましい。なお、厚さの上限は長繊維束を切断することができる限り、特に限定するものではない。
【0042】
なお、このような固定工程は公知の方法(例えば、特開2003−119662号公報)によって実施することができる。また、支持シート状物2sと被覆シート状物2cとで長繊維束を固定する場合には、送り出した支持シート状物2s上に長繊維束を載置するように供給した後、支持シート状物2sよりも幅の広い被覆シート状物2cを、長繊維束を被覆するように供給することによって実施することができる。この場合、被覆シート状物2cの支持シート状物側表面の少なくとも一部が、支持シート状物2sの被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に確実に位置するように、被覆シート状物2cで長繊維束を被覆した後に、一対のロール等により加圧するのが好ましい。このように、支持シート状物2sと被覆シート状物2cとで長繊維束を固定する場合、簡易な装置構成で長繊維束を固定することができる。
【0043】
次いで、シート状物が少なくとも一部で繋がっており、シート状物に由来する切断片を発生しないように長繊維束を切断する切断工程を実施する。この切断工程の1つとして、切断領域(切断刃等が作用する領域)よりも外側にシート状物が存在する状態で、長繊維束を切断する工程がある。例えば、図1のように長繊維束1をシート状物2で固定した場合、図5に切断時における長繊維束1の横断面方向の模式図を示すように、切断刃3等により切断される切断領域Cの一方の外側にもシート状物2が存在するように供給し、切断刃3等により長繊維束1及びシート状物2を切断することができる。この場合、切断刃3等により切断されない非切断領域Rにもシート状物2が存在することによって、長繊維束1を切断した後においても、シート状物2の一部(非切断領域Rに存在していた部分)が繋がった状態にあり、シート状物2に由来する切断片を発生しないため、次工程において、容易にシート状物2を除去することができる。なお、このような切断はギロチンタイプの固定刃と移動刃との組み合わせによって実施することができる。
【0044】
別の切断時における長繊維束の横断面方向の模式図を図6に示す。この図6は図2のように長繊維束1をシート状物2で固定した後、切断刃3等により切断される切断領域Cの両方の外側にもシート状物2が存在するように供給し、切断刃3等により長繊維束1及びシート状物2を切断する態様である。この場合であっても、非切断領域Rにもシート状物2が存在するため、長繊維束1を切断した後においても、シート状物2の一部(非切断領域Rに存在していた部分)が繋がった状態にあり、シート状物2に由来する切断片を発生しないため、次工程において、容易にシート状物2を除去することができる。なお、このような切断はギロチンタイプの固定刃と移動刃との組み合わせによって実施することができる。
【0045】
更に別の切断時における長繊維束の横断面方向の模式図を図7に示す。この図7は図3のように長繊維束1をシート状物2で固定した後、切断刃3等により切断される切断領域Cの両方の外側にもシート状物2が存在するように供給し、切断刃3等により長繊維束1及びシート状物2を切断する態様である。この場合であっても、非切断領域Rにもシート状物2が存在するため、長繊維束1を切断した後においても、シート状物2の一部(非切断領域Rに存在していた部分)が繋がった状態にあり、シート状物2に由来する切断片を発生しないため、次工程において、容易にシート状物2を除去することができる。なお、このような切断はギロチンタイプの固定刃と移動刃との組み合わせによって実施することができる。
【0046】
更に別の切断時における長繊維束の横断面方向の模式図を図8に示す。この図8は図4のように長繊維束1をシート状物2で固定した後、切断刃3等により切断するものの、切断刃3等が存在する切断側から最も遠い部分Fが繋がっているように、長繊維束1を切断する態様である。この場合であっても、シート状物2の一部(切断側から最も遠い部分F)が繋がった状態にあり、シート状物2に由来する切断片を発生しないため、次工程において、容易にシート状物2を除去することができる。なお、切断側から最も遠い部分Fが繋がっているように切断する場合、切断刃3等がシート状物2に切れ目Bが入るように切断する(図8の態様)ことも、入らないように切断することもできるが、切れ目Bが入るように長繊維束1を切断すると、切断刃3等がシート状物2まで到達していることを保証していることになるため、確実に長繊維束1を切断して、短繊維を製造することができ、好適な態様である。このようにシート状物2に切れ目Bが入るように切断するには、例えば、ハーフカット加工機により実施することができる。なお、図5〜図7のように長繊維束1を切断する場合であっても、切断側から最も遠い部分が繋がっているように切断することができ、特に、シート状物に切れ目が入るように切断することができる。
【0047】
更に別の切断時における長繊維束の横断面方向の模式図を図10に示す。この図10は図9のように長繊維束1を支持シート状物2sと被覆シート状物2cとで固定した後、切断刃3等により切断するものの、切断刃3等が存在する切断側から最も遠い部分Fが繋がっているように、長繊維束1を切断する態様である。この場合、切断側から最も遠い部分Fには、支持シート状物2sと被覆シート状物2cの幅方向における両端部が存在しており、被覆シート状物2cの支持シート状物側表面が支持シート状物2sの被覆シート状物側表面の反対表面と同一平面に位置しているため、切断刃3等が支持シート状物2sに切れ目Bが入るものの、支持シート状物2sが繋がった状態であるように切断するため、支持シート状物2sが繋がった状態にあるのはもちろんのこと、被覆シート状物2cも両端部(突出部分2p1、2p2)において切れ目Bが入るものの繋がった状態にあり、支持シート状物2s又は被覆シート状物2cに由来する切断片を発生しないため、次工程において、容易に支持シート状物2s及び被覆シート状物2cを除去することができる。なお、支持シート状物2sに切れ目Bが入るように長繊維束1を切断するため、確実に長繊維束1を切断して、短繊維を製造することができる。このように支持シート状物2sに切れ目Bが入るように切断するには、例えば、ハーフカット加工機により実施することができる。なお、切断刃3等によって支持シート状物2sに切れ目Bを入れる際には、被覆シート状物2cの支持シート状物側表面がどの位置にあるかを考慮する必要がある。つまり、支持シート状物2sに入れる切れ目Bの深さを、支持シート状物2sの被覆シート状物側表面よりも深く、かつ被覆シート状物2cの支持シート状物側表面よりも浅くする(但し、支持シート状物2sが繋がって状態であるように切れ目を入れる)。このような切れ目の深さによって、被覆シート状物2cの両端部(突出部分2p1、2p2)は切れ目が入っている場合がある(図10)し、切れ目が入っていない場合もある。
【0048】
更に別の切断時における長繊維束の横断面方向の模式図を図12に示す。この図12は図11のように長繊維束11、12、13を支持シート状物2s1、2s2、2s3と被覆シート状物2cとで固定した後、切断刃3等により切断するものの、切断刃3等が存在する切断側から最も遠い部分Fが繋がっているように、長繊維束11、12、13を切断する態様である。この場合、切断側から最も遠い部分Fには、支持シート状物2s1、2s2、2s3、被覆シート状物2cの幅方向における両端部(突出部分2p1、2p2)、及び被覆シート状物2cの凹部2d1、2d2が存在しており、被覆シート状物2cの突出部分2p1、2p2の支持シート状物側表面、被覆シート状物2cの凹部2d1、2d2の支持シート状物側表面、及び支持シート状物2s1、2s2、2s3の被覆シート状物側表面の反対側表面が同一平面に位置しているため、切断刃3等が支持シート状物2s1、2s2、2s3に切れ目Bが入るものの、各支持シート状物2s1、2s2、2s3が繋がった状態であるように切断すると、各支持シート状物2s1、2s2、2s3が繋がった状態にあるのはもちろんのこと、被覆シート状物2cも両端部(突出部分2p1、2p2)及び凹部2d1、2d2において繋がった状態にあり、各支持シート状物2s1、2s2、2s3及び被覆シート状物2cに由来する切断片を発生しないため、次工程において、容易に各支持シート状物2s1、2s2、2s3及び被覆シート状物2cを除去することができる。なお、各支持シート状物2s1、2s2、2s3に切れ目Bが入るように長繊維束1を切断するため、確実に長繊維束11、12、13を切断して、短繊維を製造することができる。このように各支持シート状物2s1、2s2、2s3に切れ目Bが入るように切断するには、例えば、ハーフカット加工機により実施することができる。なお、切断刃3等によって各支持シート状物2s1、2s2、2s3に切れ目Bを入れる際には、被覆シート状物2cの支持シート状物側表面がどの位置にあるかを考慮する必要がある。つまり、各支持シート状物2s1、2s2、2s3に入れる切れ目Bの深さを、各支持シート状物2s1、2s2、2s3の被覆シート状物側表面よりも深く、かつ被覆シート状物2cの支持シート状物側表面よりも浅くする(但し、各支持シート状物2s1、2s2、2s3が繋がって状態であるように切れ目を入れる)。このような切れ目の深さによって、被覆シート状物2cの両端部(突出部分2p1、2p2)及び凹部2d1、2d2に切れ目が入っている場合がある(図12)し、切れ目が入っていない場合もある。
【0049】
以上のような切断工程における長繊維束1の切断長さは特に限定するものではないが、従来はシート状物2を取り除くのに多大な労力を必要とした繊維長3mm以下に切断しても、シート状物2から切断片は発生しないため、容易にシート状物2を取り除くことができ、作業性良く短繊維を製造することができる。なお、切断長さの下限は切断することのできる長さであり、特に限定するものではない。
【0050】
そして、シート状物2を取り除く除去工程を実施することによって、短繊維を製造することができる。前述の通り、シート状物2は少なくとも一部で繋がっており、シート状物2に由来する切断片を発生しないため、容易に取り除くことができる。この除去工程は、例えば、巻き取りロールによってシート状物2を巻き取ることによって実施できる。場合によっては手で取り除くこともできる。なお、長繊維束切断後において、シート状物の長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端、つまりシート状物(被覆シート状物も含む)の幅方向における両端が繋がった状態にあると、シート状物の両端に力を作用させ、シート状物の切断箇所が踊るのを抑制できるため、安定して取り除くことができる。特に、シート状物の幅方向における両端に加えて、両端の中間部も繋がった状態にあると、シート状物の切断箇所が踊るのを抑制できるため、更に安定して取り除くことができる。
【0051】
以上は、基本的な短繊維の製造方法であるが、固定工程の前に、長繊維束1に油剤を付与する付与工程を更に含んでいるのが好ましい。長繊維束1に油剤を付与することによって、長繊維束1を切断する際の熱を吸収することができ、また、長繊維間に被膜を形成できることによって、短繊維同士の融着を効率的に防止することができるためである。この油剤付与の効果は長繊維の平均繊維径が4μm以下の細い場合に顕著である。この油剤は長繊維の構成材料によって異なるため、特に限定するものではないが、例えば、ポリアミド系長繊維、ポリオレフィン系長繊維、或いはポリアミド系樹脂及び/又はポリオレフィン系樹脂を2種類以上複合又は混合した長繊維である場合には、ポリエーテルエステル型ノニオン活性剤を含んでいるのが好ましい。また、短繊維使用時におけるスラリー中における分散性も考慮すると、ポリエーテルエステル型ノニオン活性剤に加えて、エーテル型ノニオン活性剤を含んでいるのが好ましい。なお、ポリエーテルエステル型ノニオン活性剤とエーテル型ノニオン活性剤の両方を含む場合、その質量比率は1:9〜9:1であるのが好ましく、2:8〜8:2であるのがより好ましく、3:7〜7:3であるのが更に好ましい。エーテル型ノニオン活性剤量が少なすぎると、長繊維束1の内部へ浸透しにくいためかスラリー中において繊維の分散性が悪くなる傾向があり、ポリエーテルエステル型ノニオン活性剤量が少なすぎると、切断時に融着しやすくなる傾向があるためである。なお、油剤の濃度は1〜10質量%であるのが好ましく、2〜8質量%であるのがより好ましく、3〜6質量%であるのが更に好ましい。
【0052】
このような油剤を長繊維束1に付与する場合、融着防止性に優れるように、長繊維束1の水分率が60質量%以上となるように付与するのが好ましく、70質量%以上となるように付与するのがより好ましく、80質量%以上となるように付与するのが更に好ましい。なお、水分率の上限は長繊維束1が保持することのできる量であり、特に限定するものではない。この「水分率」は、JIS L 1015に記載の水分率測定法に則り、次式より算出したものをいう。
水分率(%)=(W−W’)/W’×100
ここで、Wは長繊維束1に油剤を付与した後の質量(g)を意味し、W’は長繊維束1を絶乾した時の質量(g)を意味する。
【0053】
なお、長繊維束1への油剤の付与方法としては、油剤浴へ長繊維束1を浸漬する方法、又は油剤をスプレーする方法を挙げることができる。
【実施例】
【0054】
次に、実施例に基づいて、本発明による短繊維の製造方法をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
海島型繊維の海成分を溶解除去して形成した、平均繊維径2μmのポリプロピレン長繊維を10万dtexに集束した長繊維束を形成した。次いで、この長繊維束を、ポリエーテルエステル型ノニオン活性剤とエーテル型ノニオン活性剤とを、1:1で混合した後、水で希釈し、濃度4.5質量%とした混合油剤の浴中に浸漬し、余剰の混合油剤を搾取して、長繊維束の水分率を70質量%とした。
【0056】
次いで、図3に示すように、前記油剤を含浸した長繊維束の上下を2枚のポリエチレンフィルム(厚さ:100μm)で挟み、長繊維束の周囲全部を囲んで固定した(長繊維束の両方の外側にシート状物が存在)後、切断領域よりも外側にフィルムが存在するように、ハーフカット加工機へ供給し、フィルムの切断側から最も遠い部分に切れ目が入るように、長繊維束を繊維長2mmに切断して、短繊維を製造した。なお、フィルムは切断領域の外側の領域及び切断側から最も遠い部分において繋がっており、切断片を発生しなかった。
【0057】
その後、一部が繋がった状態にあるフィルム2枚を手で取り除き、短繊維を製造した。フィルムは繋がった状態にあったため、容易に取り除くことができた。
【0058】
そして、この短繊維70mass%と、別途用意したポリプロピレン(芯)−ポリエチレン(鞘)から構成される芯鞘型繊維(繊維径:17.5μm、繊維長:10mm)30mass%とを湿式抄紙した後、温度138℃に設定したオーブンによって、芯鞘型繊維を融着させて、不織布を製造した。得られた不織布における短繊維の分散状態を、電子顕微鏡により観察したところ、短繊維同士が融着していない、地合いの優れるものであった。
【0059】
(実施例2)
支持シート状物として作用する、幅150mmのポリエステル支持フィルム(厚さ:100μm)を供給し、このポリエステル支持フィルム上に、実施例1と同様にして形成した、混合油剤を含む長繊維束(水分率:70質量%)を載置するように供給するとともに、被覆シート状物として作用する、幅200mmのポリエステル被覆フィルム(厚さ:100μm)を供給し、長繊維束を被覆した後、一対のゴムロールにより加圧し、図9で示すように、長繊維束1の周囲全部を囲んで固定した。つまり、ポリエステル支持フィルムの両側よりもポリエステル被覆フィルムが外側に伸びた突出部分(突出長さ:25mm)を有しており、ポリエステル被覆フィルムの突出部はポリエステル支持フィルムとの境界で屈曲し、突出部分のポリエステル支持フィルム側表面がポリエステル支持フィルムのポリエステル被覆フィルム側表面の反対表面と同一平面に位置していた。
【0060】
次いで、ポリエステル支持フィルムとポリエステル被覆フィルムとで固定した長繊維束をハーフカット加工機へ供給し、ポリエステル支持フィルムに切れ目が入るように、長繊維束を繊維長2mmに切断して、短繊維を製造した。なお、ポリエステル支持フィルムは切れ目が入っているものの、幅方向全体にわたって繋がっており、切断片を発生せず、ポリエステル被覆フィルムは突出部分に切れ目が入っているものの、繋がっているため切断片は発生しなかった。
【0061】
その後、ポリエステル支持フィルム、ポリエステル被覆フィルムをそれぞれ巻き取りロールにより巻き取ることにより取り除き、短繊維を製造した。いずれのフィルムも繋がった状態にあったため、容易に取り除くことができた。
【0062】
そして、この短繊維70mass%と、別途用意したポリプロピレン(芯)−ポリエチレン(鞘)から構成される芯鞘型繊維(繊維径:17.5μm、繊維長:10mm)30mass%とを湿式抄紙した後、温度138℃に設定したオーブンによって、芯鞘型繊維を融着させて、不織布を製造した。得られた不織布における短繊維の分散状態を、電子顕微鏡により観察したところ、短繊維同士が融着していない、地合いの優れるものであった。
【0063】
(比較例)
実施例1と同様にして形成した、混合油剤を含む長繊維束(水分率:70質量%)を、図4で示すように、1枚のポリエステルフィルム(厚さ:100μm)で周囲全体を囲んで固定した(長繊維束の両方の外側にフィルムが存在しない)後、固定刃と移動刃とを組み合わせたギロチンカット機へ供給し、長繊維束及びフィルムを完全に切断して、繊維長2mmの短繊維を製造した。
【0064】
その後、短繊維とフィルムの切断片との混合物から切断片のみを取り除く作業を手作業で行なったが、多大な労力を必要とする、非常に煩雑な作業であった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】長繊維束の周囲全部をシート状物で囲んで固定した状態の、長繊維束の横断面における模式図
【図2】長繊維束の周囲全部をシート状物で囲んで固定した状態の、長繊維束の横断面における模式図
【図3】長繊維束の周囲全部をシート状物で囲んで固定した状態の、長繊維束の横断面における模式図
【図4】長繊維束の周囲全部をシート状物で囲んで固定した状態の、長繊維束の横断面における模式図
【図5】切断時における長繊維束の横断面方向の模式図
【図6】切断時における長繊維束の横断面方向の模式図
【図7】切断時における長繊維束の横断面方向の模式図
【図8】切断時における長繊維束の横断面方向の模式図
【図9】長繊維束の周囲全部を支持シート状物と被覆シート状物とで囲んで固定した状態の、長繊維束の横断面における模式図
【図10】切断時における長繊維束の横断面方向の模式図
【図11】長繊維束の周囲全部を支持シート状物と被覆シート状物とで囲んで固定した状態の、長繊維束の横断面における模式図
【図12】切断時における長繊維束の横断面方向の模式図
【符号の説明】
【0066】
1 長繊維束
11、12、13 長繊維束
2 シート状物
2c 被覆シート状物
2s 支持シート状物
2p1、2p2 突出部分
2fs 支持シート状物側表面
2s1、2s2、2s3 支持シート状物
2d1、2d2 凹部
3 切断刃
C 切断領域
R 非切断領域
F 最も遠い部分
B 切れ目
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維束の一部又は全部をシート状物で囲んで固定する固定工程、
前記シート状物が少なくとも一部で繋がっており、シート状物に由来する切断片を発生しないように前記長繊維束を切断する切断工程、及び
前記シート状物を取り除く除去工程、
を含むことを特徴とする、短繊維の製造方法。
【請求項2】
切断工程が、切断領域よりも外側にシート状物が存在する状態で、長繊維束を切断する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の短繊維の製造方法。
【請求項3】
切断工程が、シート状物の切断側から最も遠い部分が繋がっているように、長繊維束を切断する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の短繊維の製造方法。
【請求項4】
シート状物の切断側から最も遠い部分に切れ目が入っていることを特徴とする、請求項3に記載の短繊維の製造方法。
【請求項5】
固定工程が、支持シート状物上に支持された長繊維束を被覆シート状物により被覆するとともに、被覆シート状物の支持シート状物側表面の少なくとも一部が、前記支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する状態で長繊維束を固定する工程であり、
切断工程が、前記被覆シート状物の支持シート状物側表面が支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分が繋がっており、かつ前記支持シート状物の被覆シート状物側表面に切れ目が入るものの、支持シート状物が繋がった状態に、長繊維束を切断する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の短繊維の製造方法。
【請求項6】
被覆シート状物の支持シート状物側表面が支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分が、長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端において存在することを特徴とする、請求項5に記載の短繊維の製造方法。
【請求項7】
被覆シート状物の支持シート状物側表面が支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分が、長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端以外にも存在することを特徴とする、請求項5又は請求項6に記載の短繊維の製造方法。
【請求項8】
長繊維の平均繊維径が4μm以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれかに記載の短繊維の製造方法。
【請求項9】
固定工程の前に、長繊維束に油剤を付与する付与工程を更に含むことを特徴とする、請求項1〜請求項8のいずれかに記載の短繊維の製造方法。
【請求項10】
切断工程が、繊維長3mm以下に切断する工程であることを特徴とする、請求項1〜請求項9のいずれかに記載の短繊維の製造方法。
【請求項1】
長繊維束の一部又は全部をシート状物で囲んで固定する固定工程、
前記シート状物が少なくとも一部で繋がっており、シート状物に由来する切断片を発生しないように前記長繊維束を切断する切断工程、及び
前記シート状物を取り除く除去工程、
を含むことを特徴とする、短繊維の製造方法。
【請求項2】
切断工程が、切断領域よりも外側にシート状物が存在する状態で、長繊維束を切断する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の短繊維の製造方法。
【請求項3】
切断工程が、シート状物の切断側から最も遠い部分が繋がっているように、長繊維束を切断する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の短繊維の製造方法。
【請求項4】
シート状物の切断側から最も遠い部分に切れ目が入っていることを特徴とする、請求項3に記載の短繊維の製造方法。
【請求項5】
固定工程が、支持シート状物上に支持された長繊維束を被覆シート状物により被覆するとともに、被覆シート状物の支持シート状物側表面の少なくとも一部が、前記支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する状態で長繊維束を固定する工程であり、
切断工程が、前記被覆シート状物の支持シート状物側表面が支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分が繋がっており、かつ前記支持シート状物の被覆シート状物側表面に切れ目が入るものの、支持シート状物が繋がった状態に、長繊維束を切断する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の短繊維の製造方法。
【請求項6】
被覆シート状物の支持シート状物側表面が支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分が、長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端において存在することを特徴とする、請求項5に記載の短繊維の製造方法。
【請求項7】
被覆シート状物の支持シート状物側表面が支持シート状物の被覆シート状物側表面よりも支持シート状物側に位置する部分が、長繊維束の長さ方向に直交する方向における両端以外にも存在することを特徴とする、請求項5又は請求項6に記載の短繊維の製造方法。
【請求項8】
長繊維の平均繊維径が4μm以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれかに記載の短繊維の製造方法。
【請求項9】
固定工程の前に、長繊維束に油剤を付与する付与工程を更に含むことを特徴とする、請求項1〜請求項8のいずれかに記載の短繊維の製造方法。
【請求項10】
切断工程が、繊維長3mm以下に切断する工程であることを特徴とする、請求項1〜請求項9のいずれかに記載の短繊維の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−231653(P2008−231653A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236178(P2007−236178)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】
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