説明

短鎖ハロゲン化ポリシランを製造する方法および装置

本発明は、長鎖ハロゲン化ポリシランの熱分解により、短鎖ハロゲン化ポリシラン、ならびに/または短鎖ハロゲン化ポリシランおよびハロゲン化物含有ケイ素を製造するための方法および装置に関する。低分子ハロシランで希釈された長鎖ハロゲン化ポリシランの熱分解がハロシランの雰囲気下で行われることにより、簡単で費用対効果の高い方法で、工業的な規模でそのような生成物を確実に製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長鎖ハロゲン化ポリシランの熱分解により、短鎖ハロゲン化ポリシラン、ならびに/または短鎖ハロゲン化ポリシランおよびケイ素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
当該の短鎖ハロゲン化ポリシランは、しばしば、ハロゲン化オリゴシランまたはオリゴハロシランとも呼ばれ、少なくとも1つの直接的なSi−Si結合をそれぞれに有し、その置換基は、ハロゲンおよび水素を含むが、好ましくは専ら、ハロゲン、またはハロゲンおよび水素からなる化合物である。これらの化合物は、一般式Sinop(X=F,Cl,Br,I、n=1〜8、o=0から2n+1、p=1から2n+2)により定義されることがあり、式中、本発明のさらなる実施形態によれば2n−2≦(o+p)≦2n+2が成り立つ。それは、o<pについて好ましい。それは、o=0についてさらに好ましい。
【0003】
長鎖ポリシランは、上記に定義された短鎖ポリシランより長い鎖を有するが、その他の点では同じ構造を有する。より詳細には、長鎖ポリシランも、直接的に相互結合したケイ素原子から構成され、その自由原子価は塩素原子により飽和される。本発明の実施形態によれば、長鎖ポリシランは、一般式Sinop(式中、n≧9)(X=F,Cl,Br,I、o=0から2n+1、p=1から2n+2、式中、(o+p)≦2n+2)の化合物である。それは、o=0についてさらに好ましい。本発明のさらなる実施形態において、より詳細には、実験式SiXp(式中、p<2n−2、特に、p<1)を有する架橋した固体も利用され得る。
【0004】
ハロゲン化シランを分解する様々な方法が、先行技術において知られている。それらは主に、ケイ素元素を製造するために用いられる。例えばケイ素を堆積させるための、加熱されたケイ素ロッドまたはケイ素ワイヤにおける気体ケイ素化合物の熱分解が開示されている(例えば、特許文献1または特許文献2参照)。800〜1300℃の温度、および混合物中におけるHSiCl3またはSiCl4が水素とともに頻繁に用いられる。多結晶ケイ素を堆積させるための、ケイ素上の少なくとも700℃における、気体塩素化ポリシランSinCl2n+2(n=2〜4)の熱分解が記載されている(例えば、特許文献3参照)。水素およびハロゲン化モノシランの気体混合物に放電を適用することによるケイ素元素の粉末の形成が特許請求されている(例えば、特許文献4参照)。非晶質ケイ素を製造するための、250〜700℃におけるポリシランSinCl2n+2(n≧2)の熱分解が記載されている(例えば、特許文献5参照)。ケイ素化合物をプラズマ炎の中で水素により還元した後における、あらかじめ加熱された基材上のケイ素の堆積が記載されている(例えば、特許文献6参照)。プラズマ区域の中におけるSiF4の水素との反応からの、回転した円筒の中のこのプラズマ区域を通って下降するケイ素粒子上へのケイ素の堆積が開示されている(例えば、特許文献7参照)。流動床の反応器の中におけるケイ素結晶母粒上への気体ハロゲン化シランの水素との熱反応によるケイ素の堆積を記載したいくつかの特許文献がある(例えば、特許文献8、特許文献9または特許文献10参照)。従来的な抵抗加熱、反応器の内容物のマイクロ波照射、または反応領域の外側で反応ガスおよび結晶母粒をあらかじめ加熱すること等の様々な加熱方法が特許請求されている。使用されるケイ素の気体の供給源には、ハロゲン化モノシランの他に、化合物SinCl2n+2(n=2〜4)も挙げられる。気体SiF2から得られた固体(SiF2x、または他の全フッ素置換ポリシランが、加熱によりケイ素元素を放出することが記載されている(例えば、特許文献11または12参照)。
【0005】
非晶質ケイ素の気相からの堆積により、多量の他の元素を含有する生成物が生成されることが(例えば、非特許文献1から)知られている。SiCl4/H2/Heの気体混合物中における大気圧下での電気のグロー放電により、水素の他に約1%のClをなお含有する非晶質ケイ素が製造される。
【0006】
Si2Cl6の分子量より大きい分子量を有する過塩素化ポリシランが、不活性雰囲気中または減圧中において500℃から1450℃の間の温度で分解されて、ケイ素を形成し得ることが開示されている(例えば、特許文献13参照)。非晶質または結晶性のケイ素を製造するための、250〜1300℃の温度における過塩素化ポリシランSinCl2n+2の還元が記載されている(例えば、特許文献14参照)。
【0007】
ポリマーのハロシラン層が、250〜550℃において気体のハロゲン化ジシランまたはポリシランから基材上に堆積されることが開示されている(例えば、特許文献15参照)。
【0008】
テトラハロシランが高温でケイ素元素と反応して、全ハロゲン置換ポリシラン(SiX2xを形成することが報告されている(例えば、非特許文献2〜7参照)。容器中における、塩素化ポリシランの、または不揮発性の過塩素化オリゴシランの熱処理により、温度および処理時間に依存して、組成SiClx(x<2)を有する生成物が生成されることが開示されている(例えば、非特許文献8、2、3,4または6参照)。
【0009】
190〜250℃におけるケイ素合金の塩素ガスとの反応により、気流の外に凝縮された過塩素化ポリシラン(PCS)の混合物が生成されることが開示されている(例えば、特許文献16参照)。蒸留によりシランの2%のみが6より大きいnを有することが明らかになるので、これらの混合物の平均モル質量は比較的小さい。
【0010】
触媒との反応による、Si2Cl6からのPCSの湿式の化学的な製造が記載されている(例えば、特許文献17参照)。得られる混合物は、触媒をなお含有するので、有機溶媒で洗浄される。このように得られるPCSは分岐が多い。さらに、湿式の化学的な方法が示されており(例えば、非特許文献9または特許文献18参照)、すなわち、ナトリウムまたはリチウムによるハロゲン化アリールオリゴシランの還元、およびそれに続く芳香族化合物を脱離させるためのHCl/AlCl3の使用、
遷移金属で触媒される、アリール化H−シランの脱水素重合、およびそれに続くHCl/AlCl3による脱アリール化、
アニオンで触媒される、テトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)による(SiCl25の開環重合(ROP)、
TBAFまたはPh3SiKによる(SiAr25のROP、およびそれに続くHCl/AlCl3による脱アリール化である。
【0011】
適切な方法でのハロシランの脱アリール化、開環および水素化を組み合わせることにより、部分的にハロゲン化された短鎖ポリシランを得ることが可能である(例えば、非特許文献10参照)。
【0012】
熱分解の他に、それは、主にSiCl4を生成する、Cl2およびケイ素の間の反応であり、それは、塩素化ポリシランを製造するためにも用いられる。過塩素化ポリシランの収率を向上させるためには、反応温度を低くしなければならない。140〜300℃におけるSiの銅触媒反応により、SiCl4を含むSi2Cl6およびSi3Cl8の混合物が製造される(例えば、特許文献19参照)。ポリシランの収率は、使用されたSiの量に対して40%超に達する。SiCl4は、生成物の混合物中に50重量%未満しか存在しない。
【0013】
プラズマ化学的な方法によりこの種のハロゲン化ポリシランを製造することが、さらに知られている。例えば、特許文献20は、プラズマ放電を生成することによりハロシランをハロゲン化ポリシランに変換する第1のステップと、500℃超に加熱することによりハロゲン化ポリシランをケイ素に分解する、それに続く第2のステップとを含む、ハロシランからケイ素を製造する方法に関する。ポリシランは、ワックス質の白から黄褐色または褐色の小さく緻密な固体材料の形態で得られる。
【0014】
HSiCl3の合成ための高圧プラズマ法が、さらに記載されているが、PCSは、少量の副生成物として得られる(例えば、特許文献21参照)。これらのPCSは、極めて高い気体温度で生成されるので、それらは、比較的短鎖であり分岐が多い。さらに、このPCSは、水素化の条件に起因して、高い水素含有率を有する(HSiCl3合成)。気体または液体のPCSが主成分としてのSi2Cl6とともに得られる同様の反応がさらに記載されている(例えば、特許文献22の3頁、[00161])。
【0015】
ハロゲン化シランを分解する先行技術の方法の主要な部分により、ケイ素元素が製造される。使用されるハロゲン化シランの分解度、したがって、生成物の組成は、しばしば、とても制御し難い。ハロゲンおよび水素の残留濃度は低い。比較的低いケイ素含有率を有する固体材料は、専ら副生成物として生成される。先行技術の方法の同様に主要な部分は、分解工程の中に供給される気体ハロゲン化シランに依存しているので、高沸点の化合物を分解するためには用いられ得ない。モノシランは、出発化合物として主に用いられ、その分解により、水素等のさらなる反応ガスを供給することが必要になり得る。
【0016】
公知の方法は、短鎖ハロゲン化ポリシランが副生成物として形成されるのみなので、工業的な規模でのこのやり方は利用可能でないという点で、一般に、費用がかかり不都合でもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】独国特許発明第1102117号明細書
【特許文献2】米国特許第3042494号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0282037号明細書
【特許文献4】英国特許第838378号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0264722号明細書
【特許文献6】米国特許第4292342号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2004/0250764号明細書
【特許文献8】米国特許第6451277号明細書
【特許文献9】国際公開02/40400号
【特許文献10】特開平01−197309号公報
【特許文献11】米国特許第4070444号明細書
【特許文献12】米国特許第4138509号明細書
【特許文献13】米国特許第4374182号明細書
【特許文献14】特開平01−192716号公報
【特許文献15】欧州特許第140660号明細書
【特許文献16】英国特許第702349号明細書
【特許文献17】独国特許発明第3126240号明細書
【特許文献18】米国特許出願公開第2007/0078252号明細書
【特許文献19】欧州特許第283905号明細書
【特許文献20】独国特許出願公開第102005024041号明細書
【特許文献21】国際公開第81/03168号
【特許文献22】独国特許出願公開第102006034061号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】オー・エイチ・ヒラルド(O.H.Giraldo)、ダブル・エス・ウィリス(W.S.Willis)、エム・マルケス(M.Marquez)、エス・エル・スイバ(S.L.Suib)、ワイ・ハヤシ(Y.Hayashi)、エイチ・マツモト(H.Matsumoto)、化学・材料科学(Chemistry of Materials)、(米国)、10巻、1998年、P366〜371
【非特許文献2】アール・シュワルツ(R.Schwarz)、アンゲヴァンテケミー(Angewandte Chemie)、(独国)、51巻、1938年、P328
【非特許文献3】アール・シュワルツ(R.Schwarz)、ユー・グレゴア(U.Gregor)、無機化学ジャーナル(Zeitschrift fur anorganische und allgemeine Chemie)、(独国)、241巻、1939年、P395
【非特許文献4】アール・シュワルツ(R.Schwarz)、エー・コステロ(A.Koster)、無機化学ジャーナル(Zeitschrift fur anorganische und allgemeine Chemie)、(独国)、270巻、1952年、P2
【非特許文献5】エム・シュマイザー(M.Schmeisser)、エム・シュワルツマン(M.Schwarzmann)、ツァイトシュリフト・フューア・ナトゥーアフォルシュング(Zeitschrift fur Naturforschung)、(独国)、11b巻、1956年、P278
【非特許文献6】エム・シュマイザー(M.Schmeisser)、ピー・ヴォス(P.Voss)、無機化学ジャーナル(Zeitschrift fur anorganische und allgemeine Chemie)、(独国)、334巻、1964年、P50
【非特許文献7】ピー・ダブル・シェンク(P.W.Schenk)、エイチ・ブロチング(H.Bloching)、無機化学ジャーナル(Zeitschrift fur anorganische und allgemeine Chemie)、(独国)、334巻、1964年、P57
【非特許文献8】アール・シュワルツ(R.Schwarz)、エイチ・メックバッハ(H.Meckbach)、無機化学ジャーナル(Zeitschrift fur anorganische und allgemeine Chemie)、(独国)、232巻、1937年、P241
【非特許文献9】イー・ヘンゲ(E.Hengge)、ディー・コバール(D.Kovar)、ジャーナル オブ オルガノメタリック ケミストリー(Journal of organometallic Chemistry)、125巻、1977年、C29
【非特許文献10】イー・ヘンゲ(E.Hengge)、ジー・ミクラウ(G.Miklau)、無機化学ジャーナル(Zeitschrift fur anorganische und allgemeine Chemie)、(独国)508巻、1984年、P33
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、短鎖ハロゲン化ポリシラン、ならびに/または短鎖ハロゲン化ポリシランおよびケイ素を製造する方法を提供することであり、その方法により、工業的な規模での簡単で安価な方法で、そのような生成物を製造することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、ハロシラン雰囲気中において、低分子ハロシランで希釈された長鎖ハロゲン化ポリシラン、または無希釈の長鎖ハロゲン化ポリシランの熱分解を実行することによるそのような方法で、この目的を達成する。
【0021】
本発明による方法の主目的は、短鎖ハロゲン化ポリシランを製造することである。そのような製造により、元素の形態のケイ素が生成される可能性もあるが、その製造は本発明の主目的ではない。最初に定義したようなこれらの短鎖ハロゲン化ポリシランは、できたとしても、先行技術の方法により、困難を伴って得ることしかできない。しかし、短鎖ハロゲン化ポリシランは、ケイ素の製造、および対応する誘導体の合成のための重要な出発材料である。
【0022】
本発明による方法は、良好な収率で短鎖ハロゲン化ポリシランを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】長鎖ハロゲン化ポリシランの熱分解のための装置を通る垂直な長手方向の断面を示す図である。
【図2】図1の装置の一部を通る水平断面を示す図である。
【図3】図2に示される図1の装置のその部分を通る垂直断面を示す図である。
【図4】図1におけるA−A’線に沿った断面を示す図である。
【図5】図1におけるB−B’線に沿った断面を示す図である。
【図6】図1におけるC−C’線に沿った断面を示す図である。
【図7】熱分解のための装置のさらなる実施形態を通る、概略的な長手方向断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明による方法において、一般式SiXmo(X =F,Cl,Br,I、0<m<2.7、0≦o<2.7)の長鎖ハロゲン化ポリシランは、熱分解により分解される。熱分解は、適切な温度範囲内で、より詳細には、200℃を超えケイ素元素の融点未満の温度で、特に、300℃から1000℃、好ましくは、400℃から950℃の温度で行われる。熱分解を受けた長鎖ハロゲン化ポリシランは、低分子ハロシランで希釈されるが、希釈のために用いられる低分子ハロシランは、好ましくは、ハロゲン化ポリシラン、より詳細には、例えば、一般式Sin2n+2(式中、n=1〜4)の短鎖ハロゲン化ポリシランである。より詳細には、一般式HSiX3、SiX4またはSi26の液体ハロゲン化シランも用いられ得る。
【0025】
長鎖ハロゲン化ポリシランSino1p(X1=F,Cl,Br,I、o=0から2n+1、p=1から2n+2、式中(o+p)≦2n+2)は、好ましくは、そのハロゲン置換基が長鎖ハロゲン化ポリシランにおけるのと同じ、すなわち、X1=X2である、低分子短鎖ハロゲン化ポリシランSin22n+2(式中n=1〜4)で希釈される。無希釈の長鎖ハロゲン化ポリシランが用いられる場合において、ハロシランが長鎖ハロゲン化ポリシランと同じ置換基を有するハロシランの雰囲気を用いることが同様に好ましい。
【0026】
別の実施形態において、希釈のために用いられる低分子ハロシランは、低粘度の液体ハロゲン化シラン、例えば、HSiCl3、SiCl4またはSi2Cl6である。ここで、とても低分子のハロシランを用いることが好ましい。
【0027】
本発明の熱分解法は、ハロシラン雰囲気中において行われる。本発明のさらなる実施形態によれば、ハロシラン雰囲気は、気相に変換される長鎖ハロゲン化ポリシランを希釈するために用いられる低分子短鎖ハロゲン化ポリシランにより生成され得る。気相への変換は、好ましくは、長鎖ハロゲン化ポリシランの熱分解中に生じる。
【0028】
あるいはまたはさらに、熱分解のための長鎖ハロゲン化ポリシランは、ハロシラン雰囲気をすでに含有する反応器の中に導入され得る。これは、例えば、無希釈の長鎖ハロゲン化ポリシランを用いる場合である。その方法が連続的に行われる場合において、すでに熱分解された長鎖ハロゲン化ポリシランの揮発性の分解生成物は、さらなる長鎖ハロゲン化ポリシランの熱分解のためのハロシラン雰囲気に同様に寄与することができる。
【0029】
本発明による方法は、好ましくは、短鎖塩素化ポリシラン(過塩素化ポリシラン PCS)を製造するために用いられ、そのために、長鎖塩素化ポリシランは熱分解を受ける。その方法は、好ましくは、クロロシラン雰囲気中で行われ、使用される長鎖塩素化ポリシランは、低分子クロロシランで、特に、SiCl4で、または他のクロロシランで希釈される。
【0030】
本発明の方法を用いて熱分解されるべき出発材料である長鎖ハロゲン化ポリシランは、固体または液体の形態で用いられることがあり、いずれにせよ、本発明に従って希釈される。あらかじめ加熱することにより粘度をさらに減少させることは、同様に可能である。
【0031】
本発明による方法は、10mbar〜500mbar、好ましくは、10hPaから300hPaの負圧において有利に行われる。
【0032】
保護的な気流は、一般に、本発明の方法を行うために必要ではない。しかしこれにより、そのような保護的な気流が用いられ得る可能性は除外されない。水素は、還元ガスとして添加され得る。
【0033】
本発明の方法は、好ましくは、連続的に行われる。これは、本発明による特別な特徴により達成される。
【0034】
特に、熱的またはプラズマ化学的に製造された長鎖ハロゲン化ポリシランが、本発明に従って分解される。より詳細には、使用される長鎖ハロゲン化ポリシランは、純粋な化合物、または化合物の混合物としてのハロゲン化ポリシランであることができ、前記化合物は、少なくとも1つの直接的なSi−Si結合をそれぞれに有し、その置換基がハロゲンから、またはハロゲンおよび水素からなり、その組成における置換基:ケイ素についての原子比が少なくとも1:1であり、
a.ハロゲンは、塩素、臭素、フッ素およびヨウ素、ならびにそれらの組合せから選択され、
b.29Si NMRスペクトルにおけるその有意な生成物のシグナルは、ハロゲンが塩素である場合において、+15ppmから−7ppmの化学シフトの範囲内であり、29Si NMRスペクトルにおけるその有意な生成物のシグナルは、ハロゲンが臭素である場合において、−10ppmから−42ppm、−48ppmから−52ppm、および/または−65ppmから−96ppmの化学シフトの範囲内であり、29Si NMRスペクトルにおけるその有意な生成物のシグナルは、ハロゲンがフッ素である場合において、8ppmから−30ppm、および/または−45ppmから−115ppmの化学シフトの範囲内であり、29Si NMRスペクトルにおけるその有意な生成物のシグナルは、ハロゲンがヨウ素である場合において、−20ppmから−55ppm、−65ppmから−105ppm、および/または−135ppmから−181ppmの化学シフトの範囲内であることを特徴とする。
【0035】
本発明のさらなる実施形態によれば、ハロゲン化ポリシランが用いられることがあり、ハロゲンは塩素であり、その場合において、ハロゲン化ポリシランは、さらに、1より大きいI100/I132のラマン分子振動スペクトルを有し、I100が100cm-1におけるラマン強度であり、I132が132cm-1におけるラマン強度であり、ポリシランの水素含有率が、2原子%未満であり、ポリシランが、短鎖の分岐した鎖および環をほとんど含有せず、短鎖の画分中、より詳細には、ネオヘキサシラン、ネオペンタシラン、イソテトラシラン、イソペンタシラン、ペルクロロ−2,3−ジシリルテトラシランおよびイソヘキサシランの全ハロゲン置換誘導体の合計の画分中における分岐点の量が、生成物の混合物全体に対して1mol%未満である。
【0036】
本明細書において、分岐点の量は、第三級および第四級のケイ素原子についての29Si NMRシグナルを積分することにより決定される。ハロゲン化ポリシランの短鎖の画分は、6個以下のケイ素原子を有する任意のシランを指すと理解されるべきである。代わりの実施形態によれば、全ハロゲン置換短鎖シランの量は、過塩素化化合物により例示されるように、以下の手順を用いて決定するのが特に速い。すなわち、まず、29Si NMRにおける+23ppmから−13ppmの範囲を積分し(第一級および第二級のケイ素原子からのシグナルが特にその中に現れる)、次に、以下の化合物、すなわち、ネオヘキサシラン、ネオペンタシラン、イソテトラシラン、イソペンタシラン、ペルクロロ−2,3−ジシリルテトラシランおよびイソヘキサシランのそれぞれの過塩素化誘導体の−18ppmから−33ppm、および−73ppmから−93ppmの範囲内における第三級および第四級のケイ素原子についてのシグナルを積分する。その後に、それぞれの積分の比、I短鎖:I第一級/第二級を決定する。これは、ネオヘキサシラン、ネオペンタシラン、イソテトラシラン、イソペンタシランおよびイソヘキサシランのそれぞれの過塩素化誘導体についての合計した積分に対して、1:100未満である。
【0037】
置換基が臭素またはヨウ素またはフッ素であるが塩素でない長鎖ハロゲン化ポリシランの場合において、29Si NMRスペクトルの有意な生成物のシグナルは、他の化学シフトの範囲内、例えば、置換基が臭素であるときに、−10ppmから−42ppm、−48ppmから−52ppm、および/もしくは−65ppmから−96ppmの化学シフトの範囲内、置換基がヨウ素であるときに、−20ppmから−55ppm、−65ppmから−105ppm、および/もしくは−135ppmから−181ppmの化学シフトの範囲内に現れ、または29Si NMRスペクトルにおいて有意な生成物のシグナルは、置換基がフッ素であるときに、8ppmから−30ppm、および/もしくは−45ppmから−115ppmの化学シフトの範囲内に現れる。
【0038】
これらの長鎖ハロゲン化ポリシランの合成および特性決定は、これを参照することにより特性決定および合成について完全に本明細書に援用されている、WO 2009/143823 A2の特許出願に記載されている。
【0039】
さらに、本発明の方法において用いられ得る長鎖ハロゲン化ポリシランは、同様に、これを参照することによりこの特性決定および合成について完全に本明細書に援用されている、例えばWO 2006/125425 A1に記載されている。
【0040】
本発明の方法を用いて得られる最終生成物は、様々な組成の、異なる成分の混合物の形態で得られる短鎖ハロゲン化ポリシランである。本発明の方法は、場合によって、ハロゲン化物含有ケイ素も提供する。
【0041】
希釈のために用いられる短鎖低分子ハロシランは、好ましくは、式Sin2n+2(式中、n=1〜4)のものである。短鎖塩素化ポリシランが製造されるべきである場合において、特に、低分子クロロシランが希釈のために用いられる。
【0042】
好ましくは、本発明によれば、熱分解は、無希釈のハロシラン雰囲気中において実行される。それは、熱分解が希釈剤および反応生成物のハロシラン流の中で(反応生成物が凝縮されるまで)実行される場合においてさらに好ましい。
【0043】
本発明による方法の特に好ましい実施形態において、希釈のために用いられる低分子ハロシランは、ハロシラン雰囲気の供給源としての役目をする。行われる加熱により、液体低分子ハロシランが気体ハロシラン雰囲気に変換される。
【0044】
したがって、本発明の方法は、特定の方法で低分子ハロシランにより希釈された長鎖ハロゲン化ポリシランを含み、希釈剤は、好ましくは、所望のハロシラン雰囲気の供給源として用いられる。ハロシラン雰囲気への変換は、負圧により促進され得る。
【0045】
本発明による方法は、短鎖ハロゲン化ポリシラン、および/またはハロゲン化物含有ケイ素と組み合わせた短鎖ハロゲン化ポリシランのいずれかを提供する。得られるハロゲン化物含有ケイ素は、より詳細には、実験式または分析式SiXn(X=ハロゲン、n=0.01から0.8)を有する。実験式を決定するために、例えば、塩化物の決定は、Mohrにより記載されているように行われることがあり、例えばその場合において、次いでSiは、差分秤量により決定され得る。
【0046】
本発明のさらなる実施形態において、塩化物含有ケイ素の一部、特に、合計量の0.1重量%超は、気相中に粉塵の形態で分散する。
【0047】
本発明の一実施形態において、長鎖ハロゲン化ポリシランの熱分解は、不均化を伴う。すなわち、中位の正の酸化数を有する長鎖ハロゲン化ポリシランは、より高い正の酸化数を有するより短鎖のハロゲン化ポリシランと、より低い正の酸化数を有するより長鎖のポリシランとに分解される。より詳細には、熱分解中において同様に形成され得るハロゲン化物含有ケイ素は、長鎖ハロゲン化ポリシランの高分子量の分解生成物とみなされ得る。ハロゲン化物含有ケイ素は、使用された長鎖ハロゲン化ポリシランを比べて、より低い酸化数を有する。
【0048】
粉塵の形態の塩素含有ケイ素の一部は、短鎖塩素化ポリシランを凝縮および/また還流させることにより、反応器の中に洗い戻されることがあり、それにより、より高い収率が与えられ得る。
【0049】
以下に、本発明の実施形態を、具体例を用いてより詳細に明示する。
【0050】
具体例1
連続的な熱分解において、温度を、適切な反応容器中で450℃に調節し、その反応容器を250mbarに排気した。実験式SinCl2n+2およびSinCl2n(φn=18)を有するポリクロロシラン混合物を、低分子の希釈剤として、SiCl4中80重量%溶液の形態で、120℃の局部温度の熱分解区域の上流に滴下すると、とりわけハロゲン雰囲気が、SiCl4を蒸発させることにより形成される。ポリクロロシラン混合物を、装置の熱区域(450℃)を通る前進手段により前進させる一方で、蒸発した熱分解生成物は、クロロシラン雰囲気に寄与する。それにより、ポリクロロシラン混合物は、固体で、実験式SiCl0.7の高架橋性過塩素化ポリシラン(塩素含有ケイ素)と、短鎖クロロシランとに変換した。SiCl0.7を、収集容器中に収集した。希釈剤SiCl4、および熱分解により形成された短鎖クロロシラン(SiCl4、Si2Cl6、Si3Cl8)を、蒸気として抜き出し、凝縮させた。
【0051】
収率は、20重量%のSiCl0.7、および80重量%の短鎖クロロシラン(希釈剤量を含まず)であった。
【0052】
具体例2
低分子の希釈剤としての、SinCl2n(φn=18)の平均的な実験式を有するポリクロロシラン混合物のSiCl4中50〜60%溶液を、ガラス容器に最初に充填し、300から500mbarの圧力で2から3時間、300℃に加熱する。その後、圧力を段階的に、最終的には10mbarに下げ、900℃への加熱を3時間実行する。最後に、温度を900℃で1時間維持する。ポリクロロシラン混合物の熱分解中に形成される蒸気を、液体窒素で冷却された冷トラップ中に凝縮させる。ポリクロロシラン混合物は、固体で、実験式SiCl0.05からSiCl0.07の高架橋性過塩素化ポリシラン(塩素含有ケイ素)と、異性体の混合物としての一般式SinCl2n+2(式中、n=1から8)の短鎖クロロシランとに変換した。反応が終了した後に、容器を冷却させ、固体生成物を取り除いた。
【0053】
出発材料を基準とした収率は、10〜15重量%のSiCl0.05からSiCl0.07、および85〜90重量%の短鎖クロロシラン(希釈剤量を含まず)であった。
【0054】
具体例3
次に、長鎖ハロゲン化ポリシランのための原料貯蔵容器21に、保護ガスの向流(保護ガスのバルブ23)の下で補充ノズル22を経て、全部で2200gのポリクロロポリシランを含有するSiCl4溶液2966gを充填する。出発材料を、放出バルブ24を経て供給ライン25の中に計量し、それはそこから、揮発物が即座に泡立ち蒸発する、回転可能な熱分解管29の第1の加熱区域27の中に、接続コネクタ26を経て流れる。熱分解管29は、1分あたり15回転でその長手軸を中心に回転し、それにより、存在する超高純度ケイ素の粉砕ボールが、最初に形成する泡状の生成物を壊す。第1の加熱区域27は、600℃の温度に設定されており、その結果として、褐色で、砂状から粉塵状の生成物が、粉砕ボールの上または間に形成する。希釈剤の、および分解生成物(SiCl4およびOCS)の生成蒸気が、蒸気出口32を経て漏れ出ると、灰色がかった褐色の粉塵が出てくる。微減圧(300〜500mbar)がバルブ41を経て適用されて、蒸気は事実上完全に蒸気出口32を通って収集凝縮器33の中に入れられ、それらは、大部分の粉塵と一緒に凝縮し、フラスコ34の中に流れる。これにより、SiCl4の他に、異性体混合物としての一般式SinCl2n+2(式中、n=2から5)の少量の短鎖塩素化オリゴシランと、大部分が一晩かけて沈降する少量のケイ素の粉塵(約5g)とを含有する、灰色がかった褐色の懸濁液2180gが得られる。褐色の粉末状固体を、900℃に加熱される第2の加熱区域42を通って、熱分解管の回転運動により、それが篩37を通ってフラスコ38の中に流れる放出口36に運搬する。これにより、黒みがかった灰色の固体316gが得られる。この固体は、ケイ素のX線回折の強度を示し、4.6%の塩素含有率を有する。
【0055】
3つすべての具体例において、短鎖ハロゲン化ポリシランを、生成物の混合物の分画後に、29Si NMRにより分光学的に同定し、鎖長n>6を有するポリシランを、構造的に、完全ではないが特性決定した。しかし、これらの化合物は、例えば新化合物の領域内の特性シグナルによりNMRスペクトル中において検出可能である。
【0056】
本発明はさらに、短鎖ハロゲン化ポリシランを得るための、長鎖ハロゲン化ポリシランの熱分解のための装置に関する。
【0057】
そのような熱分解反応は公知である。本発明は、工業的な規模の連続的な方法で、そのような熱分解を行うのに適した装置を提供する目的を有する。
【0058】
この目的は、本発明によれば、以下の構成要素、すなわち、長手軸を有する反応器ハウジング、出発材料(長鎖ハロゲン化ポリシラン)を供給するための反応器ハウジングの一端の領域内の供給手段、反応器ハウジングの長手方向に出発材料を運搬するための、反応器ハウジング内部における運搬手段、熱分解のために必要とされる熱エネルギーをハウジング内部に供給するための加熱手段、および熱分解された最終生成物を取り出すための、反応器ハウジングの別の端の領域内の取出手段を含む装置により達成される。
【0059】
一実施形態において、出発材料を構成する長鎖ハロゲン化ポリシランは固体であり、供給手段により反応器ハウジングの中に導入される。反応器ハウジング内部の運搬手段により、固体の出発材料は、反応器ハウジングの長手方向に運搬され、それにより熱エネルギーを受けるので、それらは短鎖ハロゲン化ポリシランに分解され、それらは取出手段により気体の形態で反応器ハウジングから取り除かれる。
【0060】
その方法の別の変形において、固体の長鎖ハロゲン化ポリシランは、希釈され、反応器ハウジングの中に、希釈された、すなわち、液体の状態で導入され、対応する様式で熱分解される。
【0061】
運搬手段により、出発材料は、連続的な方法で反応器ハウジングの中の加熱区域を通って輸送されるので、熱分解の連続工程が行われる。それにより、その装置について、連続運転が達成される。分解温度、および装置内における材料の滞留時間により、ハロゲン化ポリシランの分解度が決定されるので、最終生成物の組成物が得られる。
【0062】
上述のように、長鎖ハロゲン化ポリシランは、液体の形態でも、反応器ハウジングの中に導入され得る。この場合において、出発材料は、標準状態の下でそれ自体が液体であり得る、溶媒中での溶解、もしくは希釈剤中での希釈により液体状態にされ得る、および/または200℃より低い温度にあらかじめ加熱することにより融解され得る。
【0063】
したがって、本発明に従って構成される装置は、好ましくはさらに、出発材料を、溶解、希釈、および/またはあらかじめ加熱するための手段を含む。
【0064】
熱分解のために必要とされる熱エネルギーをハウジング内部に供給するための加熱手段により、特に300℃から1000℃の温度範囲が反応器ハウジングの加熱区域の中において確実に維持される。必要とされる熱エネルギーは、例えば、電圧、または交流の電磁場により生成され得る。
【0065】
電気的な抵抗加熱手段が好ましい。
【0066】
本発明に従って構成される装置は、上述の反応器ハウジングを含む反応器を有する。反応器は、好ましくは、丸い側面の内壁、および定義された長手軸を有する中空体として構成されるが、他の断面形状も可能である。内部空間は、例えば、円筒、円錐台、球状キャロットまたは楕円管に対応する。
【0067】
運搬手段は、中空体の長手方向に搭載された1つまたは複数の内部構造を含む。これらの内部構造は、中空体の長手軸に平行に、または長手軸に沿って回転対称である中空体の中に配置され、長手軸に沿って螺旋状に巻かれることがある。それぞれの内部構造は、平坦な、角のあるまたは丸い断面を有することがあり、1つまたは複数の付属の刃構造を有することがある。これらの翼構造は、対応する内部構造の長手軸に平行して延在することがある、またはその内部構造の周りに螺旋状に巻かれることがある。角のある断面の内部構造は、それらの長手軸に沿って螺旋状にねじられることがある。
【0068】
運搬手段である、内部構造、および/または付属の翼構造は、好ましくは、反応器ハウジングの内壁の近くに達する。0から5mmの最小の間隔が、運転条件下において構造的な構成要素の間で維持されることが特に好ましい。装置が2つ以上の内部構造を含有する場合において、これらは、いろいろな構造を有することがある、および/またはそれぞれともしくは互いに噛み合わされることがある。任意の刃構造を含む隣り合う内部構造の間の最小の間隔は、好ましくは、運転条件下において0から5mmの範囲内である。
【0069】
好ましくは、運搬手段および反応器ハウジングは、互いに対して回転可能であるように配置されている。特別な一実施形態において、内部構造は、運転中に長手軸に沿ってハウジングの内壁に対して回転する。例えば、ハウジングは静止したままであることができ、内部構造は中空体の長手軸に平行して回転することができる。
【0070】
相互に噛み合わされた内部構造は、反対方向の回転を有するはずである。あるいは、ハウジングが、静止した内部構造である運搬手段の周りに回転することもできる、または両方の構造的な構成要素は、反対方向の回転で動くことができる、もしくは異なる速度で同方向に回転することができる。ハウジングの内壁、および運搬手段である内部構造の間、ならびに/または隣り合う内部構造の間における、対応する相対運動は、材料を少なくとも部分的にその支持表面から脱離させる役目をする。
【0071】
運搬手段は、材料が回転運動の結果として長手軸方向に輸送されるように構成される。
【0072】
反応器の長手軸は、好ましくは水平である、または反応器ハウジングの一端の領域(供給手段をもつ)からその別の端の領域(取出手段をもつ)の方へ下に傾いている。傾きの角度は、水平に対して0°〜90°であることができる。
【0073】
本発明の好ましい実施形態において、反応器ハウジングは、さらに、気体分解生成物のための少なくとも1つの放出手段、ならびに/または保護ガス(不活性ガス)および/もしくはハロシラン雰囲気のための少なくとも1つの供給手段を含む。反応器ハウジングは、さらに、負圧適用手段を備えていることができる。そのうえ、反応器ハウジングは、軸方向に複数の異なる熱処理の区域を有することができるので、異なる温度区域がハウジングの軸方向に維持され得る。例えば、複数の加熱区域および冷却区域が提供されることがあるので、定義された温度勾配が軸方向に設定され得る。
【0074】
反応器ハウジングの内壁は、好ましくは、化学的に不活性な材料から、より詳細には、石英ガラス、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ケイ素等からなる。これにより、反応器ハウジングが、行われる熱分解による影響を受けないことが確実になる。
【0075】
運搬手段は、好ましくは、スクリューコンベヤとして、または刃を備えたシャフトとして構成される。
【0076】
反応器ハウジングは、好ましくは、外部から加熱される。
【0077】
本発明に従って構成される装置の別の実施形態において、反応器ハウジングは、少なくとも1つの平坦な境界面を含み、前記境界面に沿って材料が半径方向に移動する。境界面を横切る材料の移動は、対応する内部構造が境界面に対する回転運動をなす運搬手段に起因するものである。回転運動の回転軸は、境界面に垂直である。特に、内部構造は、境界面に対してシート様の構成を有することがある、および/または刃構造を備えていることがある。
【0078】
この実施形態においても、運搬手段(内部構造、および/または付属の刃構造)は、好ましくは、平坦な終端面近くに達する。0から5mmの間隔が、運転条件下において構造的な構成要素の間で維持されることが特に好ましい。本発明に従って提供される運搬手段により、上記に説明したように、回転運動を行うことにより材料が運搬され得る。しかし、それは、並進運動を行って材料を運搬することもできる。そのような並進運動は、それに重畳された回転運動を有することができる。
【0079】
なお他の実施形態において、反応器ハウジング内部の運搬手段は、内部の表面上の適切な運搬要素、例えば、螺旋構造、刃構造等が設けられた反応器ハウジング自体により形成される。したがって、この実施形態は、ハウジング内部に搭載されたさらなる運搬手段を必要としない。ハウジングの適切な回転手段により、軸方向に材料が運搬される。
【0080】
特にこの実施形態において、任意の形状の粉砕手段が、反応器ハウジング内部に存在して、材料の粉砕、および/またはハウジングの内壁からの材料の脱離を実行するまたは促進することができる。その工程における粉砕手段は、反応器の中に連続的に留まる、または反応器を離脱することがあり、さらなる粉砕手段の添加により置き換えられることがある。これらの粉砕手段は、新しい粉砕手段、およびすでに使用された粉砕手段であることができる。
【0081】
本発明に従って構成される装置の特定の一実施形態において、反応器ハウジングは、供給、および/もしくは生成物の取出しのために軸方向に延在するラインを、ならびに/または測定ラインを、その内側に備えた内管を、一端の領域内に備えている。当該のラインは、内管の周囲にわたり均一な間隔で分布され得る。ラインの端は、例えば、反応器ハウジングの壁を通り、またはそれぞれに反応器の内部へ延在し、半径方向に延在する入口/出口の開口を有することができる。そのラインは、例えば、出発材料を移入する、気体生成物を排出する、保護ガスを移入する、および圧力測定ラインとしての役目をすることができる。
【0082】
以下に、本発明を、図面に関連する例示的な実施形態を参照して詳細に説明する。
【0083】
図1に、この例において石英ガラス管として構成される反応器ハウジング1を有する、長鎖ハロゲン化ポリシランの熱分解のための概略的に表した装置の長手方向断面を示す。反応器ハウジング1は回転可能であり、駆動部6を有する。反応器ハウジング1は、中心シャフト3、およびその上に配置された前方供給コイル4からなる運搬手段2を含有する。シャフト3の回転により、その図において右から左に対応する材料が輸送される。
【0084】
その図における反応器ハウジング1の右側の端に、供給、および/もしくは生成物の取出しのために軸方向に延在するラインを、ならびに/または測定ラインを、その内側に備えた内管5が固定される。これらのラインは、以下の断面の叙述において詳細に示される。図1における反応器ハウジング1の左側の端に、固定された構成を有し、下方向につながる漏斗を含む、熱分解された最終生成物のための取出手段8がある。ガラス管として構成される反応器ハウジング1は、適切なシールにより取出手段8の中に回転可能に搭載される。
【0085】
反応器ハウジングの中央の領域内であるがその外側である加熱区域7は、ハウジングの中の雰囲気に熱エネルギーを供給するのに適切な加熱手段、例えば、抵抗加熱器を含む。
【0086】
上述の装置は、回転式の管状オーブンとして構成される。分解されるべきポリシラン材料は、固定された内管5を経て、回転するハウジング1の中に導入され、運搬手段2により、図における反応器ハウジングの左側の端に輸送される。そのようにして、材料は加熱区域を通過し、工程における熱分解を受ける。最終生成物は、手段8の漏斗を経て反応器ハウジングを離れる。例えば、保護ガスは、内管5を経て、ハウジング1の中に軸方向に導入され得る。さらに、生成した気体反応生成物は、内管5を経て取り出され得る。
【0087】
図2に、水平断面における拡大された内管5を示す。内管5が、熱分解されるべき材料を供給するためのライン9、および保護ガスを供給するためのライン10を含むことは明白である。これらのラインは、内管5の中において半径方向に延在する入口および出口の開口を有する。運搬手段2のシャフト3は、固定された内管5を通って延在する。
【0088】
図3に、垂直断面における拡大された内管5を示す。内管5が、圧力測定ライン11、および気体反応生成物のための除去ライン12をさらに有することは明白である。これらのラインも、半径方向に延在する入口および出口の開口を有する。
【0089】
図4のA−A’断面は、固定された内管5がその周囲に沿って管の内側に配置された上述の4つのライン9、10、11および12を含むことを表す。図5における断面B−B’は、分解されるべき材料のための供給ライン9を示す。図6における断面C−C’は、その上に配置された中心シャフト3および螺旋4をもつ運搬手段2を示す。
【0090】
図7に、熱分解装置のさらなる実施形態を示す。その装置は、補充ノズル22および保護ガスのバルブ23をもつ、長鎖ハロゲン化ポリシランのための原料貯蔵容器21を有する。出発材料は、放出バルブ24を経て供給ライン25の中に計量され、そこから、好ましくは石英ガラスから構成され、運転中にその長手軸を中心に回転する回転可能な熱分解管29の第1の加熱区域27の中に接続コネクタ26を経て流れる。一変形において、出発材料は、粉砕手段30により固体材料のいかなる付着も防止される反応器の領域40内に到達するように注入される。第1の加熱区域27は、希釈剤(例えばSiCl4)が同時に蒸発するような温度設定(350〜500℃)を有するので、例えば、球状または棒の形態で形態化されることがあり汚染を避けるために超高純度のケイ素からなるべきである粉砕手段30に、材料が固着し、熱分解が生じて脆く流動可能な固体生成物31が生じる。この区域40の中の温度は、硬質な層の付着が避けられ得るように、結晶性ケイ素を形成するほど高いべきではない(理想的には600℃未満)。希釈剤のおよび分解生成物の蒸気(SiCl4およびOCS)は、好ましくは、凝縮する蒸気が容易に出て流れていくことができるように、外部に向かって厳密に単調に下降する構成を有する蒸気出口32を経て出て、凝縮器33を経てOCSのための収集装置34の中に通る。収集装置34は、減圧を増加的に適用するために用いられ得る、または蒸気をオーブンの外に送ることができ圧力上昇を防止できるように圧力の同等化を少なくとも確実にすることができる。蒸気の出口の中への粉砕品の侵入を防止するために、蒸気の出口は保護フード35を有することができる。凝縮したOCSが逆流することを阻止するために、蒸気の出口32は、サイホン様の構成を有することができる。
【0091】
固体成分は、反応器(熱分解管)の回転運動、および除去口36の方向に粉砕手段30の粉砕活性により運搬され、この運搬の方向を増大するために、反応器は、好ましくは、この方向にわずかに下降するように搭載される。粗い篩37が、好ましくは、粉砕手段のいかなる排出も防止され得るように、開口36の前に取り付けられる。生成した長鎖塩素化ポリシランまたは塩素含有ケイ素は、フラスコ38の中に収集される。フラスコ38の中におけるOCS蒸気のいかなる凝縮も防止するために、遅い流れのキャリアガス、例えば、アルゴンが、バルブ39により調節され得る。キャリアガスを節約するために、それは、例えば、バルブ41からバルブ39の方向にダイアフラムポンプを用いて循環されることもある。
【0092】
材料は、第2の加熱区域42を通って移動するときに、所望の最終的な温度に加熱されるので、熱分解が生じることができる。それにより、物質が蒸気の形態で再び出る。
【0093】
有効な粉砕性能を達成するために、反応器29は、好ましくは、例えば、粉砕手段30が次に粉砕品上に落ちてくる直前にこれらを持ち上げる、長手方向の溝の形態の中身を含有する(ボールミルの原理)。
【0094】
反応器(熱分解管)29の回転可能性を確実にするために、コネクタ26(接続コネクタ)は、空気が系内に入ることができないように、回転可能な密封装置を含有しなければならない。特別な実施形態は、反応器29が管の材料の弾性の範囲を逸脱することなく少なくとも1回回転できるように、複数のコイルを有する柔軟な管の形態の供給ライン25および蒸気出口32の両方を設計することにある。次いで、回転は常に前後交互である一方で、反応物質および生成物はラインの内部に輸送され得る。これにより、密封したシールが提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長鎖ハロゲン化ポリシランの熱分解により、短鎖ハロゲン化ポリシラン、ならびに/または短鎖ハロゲン化ポリシランおよびハロゲン化物含有ケイ素を製造する方法であって、
無希釈の、または低分子ハロシランで希釈された前記長鎖ハロゲン化ポリシランの熱分解が、ハロシラン雰囲気中において実行される方法。
【請求項2】
使用される前記長鎖ハロゲン化ポリシランが、純粋な化合物、または化合物の混合物としてのハロゲン化ポリシランであり、前記化合物が、少なくとも1つの直接的なSi−Si結合をそれぞれに有し、その置換基がハロゲンから、またはハロゲンおよび水素からなり、その組成における置換基:ケイ素についての原子比が少なくとも1:1であり、
a.前記ハロゲンが、塩素、臭素、フッ素およびヨウ素、ならびにそれらの組合せから選択され、
b.29Si NMRスペクトルにおけるその有意な生成物のシグナルが、ハロゲンが塩素である場合において、+15ppmから−7ppmの化学シフトの範囲内であり、29Si NMRスペクトルにおけるその有意な生成物のシグナルが、ハロゲンが臭素である場合において、−10ppmから−42ppm、−48ppmから−52ppm、および/または−65ppmから−96ppmの化学シフトの範囲内であり、29Si NMRスペクトルにおけるその有意な生成物のシグナルが、ハロゲンがフッ素である場合において、8ppmから−30ppm、および/または−45ppmから−115ppmの化学シフトの範囲内であり、29Si NMRスペクトルにおけるその有意な生成物のシグナルが、ハロゲンがヨウ素である場合において、−20ppmから−55ppm、−65ppmから−105ppm、および/または−135ppmから−181ppmの化学シフトの範囲内である
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハロゲンが塩素であり、ハロゲン化ポリシランが、さらに、
1より大きいI100/I132のラマン分子振動スペクトルを有し、I100が100cm-1におけるラマン強度であり、I132が132cm-1におけるラマン強度であり、
ポリシランの水素含有率が、2原子%未満であり、
ポリシランが、短鎖の分岐した鎖および環をほとんど含有せず、短鎖の画分中、より詳細には、ネオヘキサシラン、ネオペンタシラン、イソテトラシラン、イソペンタシラン、ペルクロロ−2,3−ジシリルテトラシランおよびイソヘキサシランの全ハロゲン置換誘導体の合計の画分中における分岐点の量が、生成物の混合物全体に対して1mol%未満である、
請求項1および2の1項に記載の方法。
【請求項4】
使用される前記長鎖ハロゲン化ポリシランが、純粋な化合物、または化合物の混合物としてのハロゲン化ポリシランであり、前記化合物が、少なくとも1つの直接的なSi−Si結合をそれぞれに有し、その置換基がハロゲンからなり、その組成における置換基:ケイ素についての原子比が少なくとも1:1であり、
ポリシランが生成物の混合物全体に対して>1%である高い分岐点量を有する環および鎖からなり、I100/I132<1のラマン分子振動スペクトルを有し、I100が100cm-1におけるラマン強度であり、I132が132cm-1におけるラマン強度であり、29Si NMRスペクトルにおけるその有意な生成物のシグナルが、+23ppmから−13ppm、−18ppmから−33ppm、および−73ppmから−93ppmの化学シフトの範囲内であることを特徴とする、
請求項1から3の1項に記載の方法。
【請求項5】
短鎖塩素化ポリシランの一部が、反応器中において還流される、請求項1から4の1項に記載の方法。
【請求項6】
塩化物含有ケイ素の一部か、特に、合計量の0.1重量%超が、気相中に粉塵の形態で分散する、請求項1から5の1項に記載の方法。
【請求項7】
粉塵の形態の塩素含有ケイ素の一部が、短鎖塩素化ポリシランを凝縮および/また還流させることにより、反応器の中に洗い戻される、請求項1から6の1項に記載の方法。
【請求項8】
希釈のために用いられる低分子ハロシランが、ハロゲン化ポリシラン、より詳細には、短鎖ハロゲン化ポリシランである、請求項1から7の1項に記載の方法。
【請求項9】
希釈のための用いられる短鎖低分子ハロシランが、式Sin2n+2(式中、n=1〜4)を有する、請求項1から8の1項に記載の方法。
【請求項10】
希釈のための短鎖塩素化ポリシランが、低分子クロロシランを用いて製造される、請求項1から9の1項に記載の方法。
【請求項11】
希釈のために用いられる低分子ハロシランが、低粘度の液体ハロゲン化シラン、例えば、HSiCl3、SiCl4またはSi2Cl6である、請求項1から10の1項に記載の方法。
【請求項12】
200℃を超えケイ素元素の融点未満の温度で、より詳細には、300℃から1000℃、好ましくは、400℃から950℃の温度で行われる、請求項1から11の1項に記載の方法。
【請求項13】
10hPaから500hPaの圧力において、好ましくは、10hPaから300hPaにおいて行われる、請求項1から12の1項に記載の方法。
【請求項14】
水素が還元ガスとして添加される、請求項1から13の1項に記載の方法。
【請求項15】
保護ガス流なしに行われる、請求項1から14の1項に記載の方法。
【請求項16】
連続的に行われる、請求項1から15の1項に記載の方法。
【請求項17】
熱的に製造された長鎖ハロゲン化ポリシランが分解される、請求項1から16の1項に記載の方法。
【請求項18】
プラズマ化学的に製造された長鎖ハロゲン化ポリシランが分解される、請求項1から17の1項に記載の方法。
【請求項19】
熱分解が、無希釈のハロシラン雰囲気の中で実行される、請求項1から18の1項に記載の方法。
【請求項20】
熱分解が、希釈剤のハロシラン流、および反応生成物の中で実行される、請求項1から19の1項に記載の方法。
【請求項21】
希釈のために用いられる低分子ハロシランが、ハロシラン雰囲気の供給源としての役目をする、請求項1から20の1項に記載の方法。
【請求項22】
長手軸を有する反応器ハウジング(1)、
出発材料を供給するための反応器領域(1)の一端の領域内の供給手段、
反応器ハウジング(1)の長手方向に出発材料を運搬するための、反応器ハウジング内部における運搬手段(2)、
熱分解のために必要とされる熱エネルギーをハウジング内部に供給するための加熱手段、および
熱分解された最終生成物を取り出すための、反応器ハウジング(1)の別の端の領域内の取出手段(8)
を含む、短鎖ハロゲン化ポリシランを得るための、長鎖ハロゲン化ポリシランの熱分解のための装置。
【請求項23】
運搬手段(2)および反応器ハウジング(1)が、互いに対して回転可能であるように配置されていることを特徴とする、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記運搬手段(2)が、反応器ハウジングの内壁の近くに延在することを特徴とする、請求項22または23に記載の装置。
【請求項25】
前記反応器ハウジング(1)が、その別の端の領域の方へ下に傾いていることを特徴とする、請求項22から24の1項に記載の装置。
【請求項26】
前記反応器ハウジング(1)が円筒の形状であることを特徴とする、請求項22から25の1項に記載の装置。
【請求項27】
前記反応器ハウジング(1)が、さらに、気体分解生成物のための少なくとも1つの放出手段、および/または保護ガス(不活性ガス)のための少なくとも1つの供給手段を有することを特徴とする、請求項22から26の1項に記載の装置。
【請求項28】
前記反応器ハウジングが、負圧適用手段を備えていることを特徴とする、請求項22から27の1項に記載の装置。
【請求項29】
前記反応器ハウジングが、軸方向に複数の異なる熱処理の区域を含むことを特徴とする、請求項22から28の1項に記載の装置。
【請求項30】
前記反応器ハウジングの内壁が、化学的に不活性な材料から、より詳細には、石英ガラス、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ケイ素等からなることを特徴とする、請求項22から29の1項に記載の装置。
【請求項31】
前記運搬手段(2)が、スクリューコンベヤとして、または刃を備えたシャフトとして構成されることを特徴とする、請求項22から30の1項に記載の装置。
【請求項32】
外部から加熱される反応器ハウジング(1)を含むことを特徴とする、請求項22から31の1項に記載の装置。
【請求項33】
前記反応器ハウジングが、少なくとも1つの平坦な境界面を含み、前記境界面に沿って材料が半径方向に移動することを特徴とする、請求項22から32の1項に記載の装置。
【請求項34】
前記反応器ハウジング(1)が、供給、および/もしくは生成物の取出しのために軸方向に延在するライン(9、10、11、12)を、ならびに/または測定ラインを、その内側に備えた内管(5)を、一端の領域内に有することを特徴とする、請求項22から33の1項に記載の装置。
【請求項35】
前記反応器ハウジング(1)の上流に、出発材料を、希釈、および/またはあらかじめ加熱するための手段を有することを特徴とする、請求項22から34の1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−512840(P2013−512840A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541508(P2012−541508)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068733
【国際公開番号】WO2011/067333
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(510313360)シュパウント プライベート ソシエテ ア レスポンサビリテ リミテ (14)
【氏名又は名称原語表記】Spawnt Private S.a.r.l
【住所又は居所原語表記】16, Rue Jean l’Aveugle, 1148 Luxembourg, Luxembourg
【Fターム(参考)】