説明

石灰化組織を標的とする痛みの緩和、骨癌の治療および骨表面の調節のためのラジウム−223の製剤および使用

【課題】その変換からの放射性崩壊生成物が骨に取り込まれた後に顕著に転位しない(投与から少なくとも3日後で有効である)ことが示される、医薬として有用な向骨性放射性核種を提供すること。
【解決手段】溶解した向骨性のラジウム−223塩を含み、安定化するアルカリ土類金属カチオンアナログ担体として1つのカチオンまたはいくつかのカチオンの組合せを含むかまたは含まず、コロイドの沈殿および/または生成を防止する薬剤を含むかまたは含まず、さらに製薬上許容しうる担体およびアジュバントを含むことを特徴とするインビボ投与のための生理的に許容しうる製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石灰化組織、例えば骨を標的とする「カルシウムアナログ」のアルカリ土類放射性核種のラジウム−223および223Raを含む生理的に許容しうる溶液の製剤および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
痛みの緩和および/または癌治療のための放射性核種の生物医学的使用は、検出し得ない転移の減退/不活性化するための骨表面の予防的治療を包含し、β線放射体および転換電子放射体に基づくものである。
【0003】
癌患者の実質的な割合は骨格転移により影響される。進行した肺癌、前立腺癌および乳癌を伴う患者の85%にのぼる割合では骨転移が生じている(Garret, 1993; Nielsen等, 1991)。ホルモン療法、化学療法および外部放射線療法などの確立された治療はしばしば一時的な応答を起すが、最終的にほとんどの骨癌患者は再発を経験する(Kanis, 1995)。ゆえに、痛みを緩和し、腫瘍の進行を減退させる新たな治療法が強く求められている。骨治療用放射性核種は骨格の癌を治療するための臨床試験に含められてきた(De Klerk等, 1992, Fossa等., 1992, Lee等, 1996, Silberstein, 1996)。これらの放射性医薬はβ粒子放射体に基づいており(Atkins, 1998)、近年は転換電子放射体にも基づいている(Atkins 等, 1995)。これまで米国の食品医薬品局[US Food and Drug Administration, Le]により認可されているこれらの化合物の中には、ストロンチウム−89(MetastronTM)および153Sm EDTMP(LexidronamTM)がある。ストロンチウム−89化合物は、有意な抗腫瘍治療の投与レベルに達する前に顕著な骨髄毒性が生じてしまうために(Silberman, 1996)、腫瘍の治療のためではなく、痛みを緩和するのに充分な量においてのみ投与可能である。
【0004】
最近、ある刊行物(Larsen等, 1999)の著者である本発明者の一人は、線量計測法によりα線放射体が骨シーカー(bone seeker)としてβ線放射体よりも有益となりうることを示している。すなわち、発生源が骨表面に位置する場合、より短い飛程のα線放射体は骨髄被爆をほとんどひき起さない。この研究において、2つのα線放射性ビスホスホネート骨シーカーが、類似の化学構造および骨親和性を有する2つのβ線放射性化合物と比較された。線量計測の計算は、マウスにおいて骨表面対骨髄の線量比がβ線放射体と比較してα線放射体では約3倍高いことを示した。これは、照射線量が骨表面でより強力に集中しうるために、α線放射骨シーカーがβ線および/または電子線放射性化合物に対して有益であることを示唆する。その短い半減期(t1/2=7.2h)のため、およびその製造が世界で2〜3カ所のみに限定されるため、アスタチン−211は存在するものの、現在でもなお大規模な市場では入手できない。
【0005】
アスタチン−211に加えて、現在、生物医学的用途に有用と考えられるα粒子を放射する放射性同位元素は2〜3しか存在しない(Feinendegen等, 1997)。鉛−212/ビスマス−212系は既に向骨性製剤の製造に使用されている。エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP)または1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン1,4,7,10-テトラ(メチレンホスホン酸)(DOTMP)と錯化したビスマス−212は、有意の骨親和性を示した。しかし、ビスマス-212の短い半減期(t1/2=60.2分)のために、放射性医薬の取り込み段階の間に正常組織の被爆が著しいものとなる(Hassfjell等, 1994, 1997)。このことは、生物医学用途が検討されている他のα線放射性ビスマス同位元素、ビスマス−213(t1/2=46分)についてより著しい。212Biのインビボ・ジェネレータとしてβ線放射性鉛−212(t1/2=10.6h)を用いることが試みられたことがある。しかし、α線放射体の腎臓高蓄積を示す顕著な転位が観察された(Hassfjell等, 1997)。生物医学的用途に潜在的に有用な他のα線放射性同位元素はラジウム同位元素224および226である。他の11の構成員アルカリ土類金属と同様、カチオン状態のラジウムは、天然の骨シーカーである。
【0006】
一部はその骨親和性のために、既にラジウム同位元素224および226が部分的に研究されてきた(Loyd 等, 1982, 1991; Muggenburg 等, 1996, Muller, 1971; Raabe等, 1993; Rundo, 1978)。ラジウム−226は、その長い半減期(1600年)と希ガスのラドン−222娘核種(t1/2=3.8日)を理由に、標的放射性核種治療には有用でないと考えられている。その化学的性質のため、ラドンはインビボ条件下でも化学結合に対して不活性である。従って、母核種の崩壊から生じる場合にはインビボで容易に転位させることができる(Rundo, 1978)。吸入したラドンは主に体液および脂肪に溶解し、主に呼気により体外へ排出される(Rundo, 1978)。骨試料を用いた実験において、Lloyd と Bruenger(1991)は、ラジウム-226をイヌに投与してラドン−222の89.5〜94.25%が骨から抜け出ることを報告した。ラジウム−226とは違って、ラジウム−224は生物医学的用途にきわめて適すると考えられる半減期(t1/2=3.64日)を有する。224Raは強直性脊椎炎を治療するために長年医学的に使用されてきた(Delikan, 1978)。不運にも、ラジウム−224の娘核種同位元素が主にラドン−220(t1/2=55.6秒)であるために、そのほとんどの画分が骨から抜け出てしまう(Lloyd 等., 1982; Muller 等, 1971; Rundo, 1978)。
【0007】
ゆえに、先の研究から、ラジウム同位元素224Raおよび226Raを骨中に取り込ませた場合に、これら2つのラジウム同位元素の知られた発ガン作用を少なくとも部分的に説明する、そのラドン娘核種の顕著な転位が生じることがわかる。これが、α線放射が、骨格の癌に対する向骨性放射性医薬として臨床的に評価されてこなかった理由の1つである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、その変換からの放射性崩壊生成物が骨に取り込まれた後に顕著に転位しない(投与から少なくとも3日後で有効である)ことが示される、医薬として有用な向骨性放射性核種を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、骨に局在する223Raからラドン娘核種(同様にその崩壊系列の他の放射性核種もまた)がほとんど生じないという重要でかつやや予想外の発見をなした。このことから、223Ra系列は、放射性核種が(骨髄中への拡散も含めて)顕著に転位することなく、骨表面を照射するために用いることができる。さらに、ラジウム-223は、その半減期(11.4日)が224Raの3倍であり、崩壊が起こる前に骨表面の基質中により深く取り込まれ得るために、向骨性放射性医薬としてより好適である。また、より重要なこととしては、娘核種のラドン−219は半減期(3.9秒)が短く、ラドン段階において、またはその結果として転位を減少させる。223Raおよび娘核種の崩壊の間に放出される4つのα粒子のうち3つは、223Ra変換の直後に放出され(Seelman-Eggebert等,1981)、すなわち223Raに続く最初の3つの変換のうち、3.9秒の219Rnα崩壊は最も長い半減期を有するものである(表1)。223Ra系列における最後のα線放射体である211Bi(t1/2=2.15分)はβ線放射鉛−211(t1/2=36.1分)の崩壊の後に起こり、ゆえに一部転位が見られる。しかし、前駆体の鉛−211が骨基質の内部に捕捉されると、223Ra系列における最後のα粒子は骨表面領域に届く。また、α粒子は、高い線エネルギー付与(高−LET)照射であり、ほ乳類細胞に対して極度に細胞毒性である(Hall, 1994; Ritter等,1977)。標的組織に局在するα粒子放射性の線源は、より小さい標的領域に放射線を与え、ゆえにβ線放射体と比較して正常な組織の被爆を減少させる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、石灰化組織、例えば骨を標的とするカルシウムアナログアルカリ土類放射性核種ラジウム−223および223Raを含む生理的に許容しうる溶液の製剤およびその使用に関する。
【0011】
本発明において、発明者は223Raの新規な利用、すなわち石灰化組織、例えば骨表面および骨の腫瘍病巣を標的とするα線放射の放射性医薬を発明した。放射性核種の性質と同様に本願に例示する実施例により示されるように、ラジウム−223は、向骨性放射性医薬として適する。一例として、本発明は、骨の表面に未検出の微小転移を高確率で有するであろう患者の骨表面に集束した線量を投与することにより予防的な癌治療に用いることができる。その潜在的用途の別の例は、上述したような痛みの緩和のためのβ線および電子放射の放射性医薬として、上記と類似の方法にて痛みの激しい骨の部位の治療に使用することである。
【0012】
骨表面および/または石灰化腫瘍に局在したラジウム−223は、その娘核種とともに、α粒子の強力かつ集中した線量を、現在使用されているβ線放射性および/または電子線放射性の放射性医薬と比べて低い骨髄線量にて投与することができる。骨格の疾患、例えば骨に対する原発性または転移性癌は、223Ra放射性医薬を用いて治療することができる。
【0013】
本発明は、カチオン性核種としておよび/またはキレート化剤または石灰化組織に対して親和性を有する担体分子の別の形態と結合した核種を使用することを含む。これはまた、ラジウム−223と石灰化組織に対して親和性を有する分子と後で抱合させ得るキレート化剤との組合せが含まれるが、これに限定されるものではない。この目的は、放射性同位元素を用いて、種々の疾患により生じる痛みを緩和するためおよび/または骨格の疾患の可能性を最小限にする予防的用途のためおよび/または骨に存在する癌の治療的処置のために、骨表面および/または石灰化腫瘍にα粒子のカスケードを生じさせることである。放射性同位元素を使用しうる疾患には、前立腺癌、乳癌、腎臓癌および肺癌の骨格転移、同様に原発性骨癌並びに多発性骨髄腫が包含されるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
ラジウム-223溶液は、石灰化組織の標的治療に使用するためまたは骨表面の照射のために調製される。下記の例は、骨における223Raの取り込みが高く、かつ選択的であるが、娘核種の再局在化がきわめて低いことを示している。これは、骨の表面を滅菌して、癌細胞の顕微鏡的な沈着を不活性化しうること、および緩和または治療のためにこの同位元素を用いて石灰化癌性病巣を照射しうることを示唆している。本化合物は、主たる線量源成分がしばしば使用されるβ線および電子線放射体と比較してきわめて短い飛程を有するα粒子から発せられるために、一般的に使用されている骨親和性の他の放射性医薬とは相違している。ゆえに、赤色骨髄に達する線量は、この新規な化合物を用いて顕著に減少させることができる、すなわち骨髄毒性が低下する。ラジウム−223は、既に使用されている医療用放射性核種であるラジウム−224とは次の点にて異なる:(1)223Raは、この同位元素のきわめて大部分が崩壊が生じる前に軟組織から排除されるために、より良好に骨対軟組織比に影響を及ぼす顕著に長い半減期を有すること。(2)より長い半減期はまた、これにより転位しかねない娘核種の滞留を潜在的に改善すること。その化学的拡散および核反跳のために、骨合成が進行するにつれて骨表面中への放射性核種のより深部への取り込みを可能にすること。(3)224Raから220Rnのものと比較して、223Raから219Rnのより短い半減期は、223Ra系列からの娘核種の転位を低くすることである。
【0015】
223Ra塩またはその誘導体は、必要としているヒトといったほ乳類に、あらゆる可能な投与経路、たとえば経口、皮下、静脈内、動脈内、経皮的に投与されるだろう。好ましくは、この活性化合物は、注射または注入により投与される。
【0016】
経口投与は、錠剤、カプセル剤、粉剤または液体の形態、例えば懸濁液、溶液、シロップもしくはエマルジョンを用いることにより行う。錠剤に製剤する場合には、慣用される賦形剤、潤滑剤、結合剤を用いる。液体として投与する場合には、慣用される液体担体を用いる。注射または注入用溶液として投与する場合には、担体はラジウムカチオンを安定化して、ラジウム塩または不溶性錯体の沈殿を防止する薬剤を含むまたは含まない等張生理食塩水が好ましい。
【0017】
本発明の作用の原理は、骨および軟組織を冒す非悪性疾患および悪性疾患の予防、緩和および治療の処置において用いることができる。悪性疾患は、前立腺癌、乳癌、腎臓および泌尿器の癌、原発性骨癌、肺癌並びに多発性骨髄腫よりなる群から選択される。また非悪性疾患は、関節および骨格を冒す自己免疫疾患、例えばリウマチ様関節炎、硬皮症および脊椎関節症よりなる群から選択される。
【0018】
本発明のインビボ投与のための生理的に許容しうる製剤は、溶解した223Ra塩を含み、安定化するアルカリ土類金属カチオンアナログ担体として、単一のカチオンまたはいくつかのカチオンとの組合せを含むまたは含まない、コロイドの沈殿および/または生成を防止する薬剤を含むまたは含まない、さらに製薬上許容しうる担体およびアジュバントを含む。安定化するアルカリ土類金属カチオンとして作用するカチオンは、マグネシウム、カルシウムおよびストロンチウムよりなる群から選択される。さらに、コロイドの沈殿および/または生成を防止する薬剤は、シュウ酸、オキサロ酢酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸およびマロン酸といったカルボン酸またはカルボン酸の組合せである。製剤中の本化合物の濃度は、一般的に個々のLD50用量未満、例えばLD50用量の20%未満であり、ゆえに種々の成分により変わる。223Raの活性は、投与のタイプ、経路、基本的症状または疾病に依存し、約50kBqから10MBqの範囲で変わり、ほ乳類、例えばヒトに対して単一または複数回にて投与される。
【0019】
本発明によれば、ラジウム-223はさらに、骨、骨表面および軟組織を冒す非悪性疾患および悪性疾患を緩和する、および治療する処置のための医薬活性製剤を製造するために用いることができる。製剤は緩和または治療するための有効量にて、必要としているヒトまたは動物、すなわちイヌなどのほ乳類に投与される。
【0020】
本発明によれば、ラジウム−223は、223Ra製剤を次の種類の治療法:ビスホスホン酸を伴う化学療法、外科療法、外部ビーム照射、向骨性の放射性医薬を放射する低LET照射およびホルモン療法と併用される併用治療において用いることができる。
【0021】
さらに本発明は、本発明の方法により製造される223Ra、安定化するアルカリ土類金属カチオンアナログ担体としてのカチオン、コロイドの沈殿および/または生成を防止する薬剤、さらに製薬上許容しうる担体、並びに適する投与装置を含むキットに関する。
【0022】
次に、本発明を実施例により詳細に記載するが、これは添付される請求の範囲に記載される本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0023】
表1は、ラジウム−223およびその娘核種の物理的特性を表す(Ekstrom等, 1989)。ラジウム−223およびその娘核種の崩壊は、4つのα粒子の放出を引き起こす。そのようなα粒子のカスケードは、大きい放射線量を限定された容積に到達させることができる。ゆえに、ラジウム−223はほとんどのα放射体と比較してきわめて高い細胞毒性を有する(Howell 等, 1997)。
【0024】
次のものは、ラジウム−223および娘核種崩壊系列を下記に示す(括弧内に半減期および崩壊の様式):
【0025】
【数1】

【0026】
【表1】

【0027】
223Raおよび娘核種の完全崩壊系列に関連する照射放射線から合わせたエネルギー:〜27.5MeV
α粒子として放出されたエネルギーの割合:≧96%
β粒子として放出されたエネルギーの割合:≦ 3%
ガンマ線(総計( 0.3 MeV)の一部はまた崩壊中に放射され、ガンマ線分光法を使用して試料中の同位元素の定性および定量を行なうために用いることができる。例えば、ラジウム−223は154.19KeV(5.59% 同位体存在比(abundance))において特性ガンマ線ピークを有し、ラドン−219は401.78keV(6.6%)においてピークを有し、ビスマス−211は351.0keV(12.8%)においてピークを有する(Ekstrom 等, 1989)。これらを用いてインビボで娘核種同位元素に再分配が生じるかを測定することができる。また、223Raは13.6%同位体存在比について269.41KeVのピークを有するが、これは219Rnの9.9%同位体存在比について271.23KeVのピークと区別することは困難である。
【0028】
製造方法はラジウム-223について記載されている(Atcher 等, 1989; Howell等, 1997)。223Raは、231Th(t1/2=25.6年)を介してU(t1/2=7×108年)および系列231Th→231Pa(t1/2=3.3×104年)→227Ac(t1/2=21.7年)→227Th(t1/2=18.7日)→223Ra(t1/2=11.4日)から発生する天然の放射性ファミリーの一員である。Atcher 等(1989) はカチオン交換システム(Bio-rad AG 50)を用いて227Acから223Raを生じさせた。Howell 等 (1997) は、226Ra(n,γ)227Ra核反応を用いて223Raを生じさせた。227Ra(t1/2=42分)は、226Ra標的物質から別の方法により分離しうる227Ac(t1/2=21.77年)に急速に変換される。Howell 等 (1997)は、標的溶液から化学的に227Acを分離した。227Acがその娘核種生成物とともにアニオン交換カラムに移された後、この核種の母核種および娘核種が溶出される間に227Thは保持された。10日後、223Raは該イオン交換カラムから溶出することができた。臨床用バッチをジェネレーター原理を用いて調製する場合、有機性骨格に基づくイオン交換カラムの適用は、放射線分解がこのタイプの物質に基づくラジウムジェネレーターの長期にわたる多重使用を妨げるために最も望ましいとはいえない(Atcher 等, 1989)。
【0029】
近年、新規な材料が開発されて市販されており、これはアクチニド放射性核種の分離に有用である(f−元素対アルカリ土類金属に対する選択性)。これらは、活性基と共有結合したまたは活性基を含浸したシリカ粒子に基づく。カラムは、他の元素を保持しうる条件においてある元素を溶出するこの材料を用いて調製することができる。
【0030】
有機相および水相を用いる湿潤/湿潤(wet/wet)抽出系における分離に活性基を使用することも可能である。
【実施例】
【0031】
下記の実施例1において、223Raを製造した。生物医学的に使用する223Raを製造するための本発明の新規な方法は、無機マトリックスカラムと液体/液体系との両方からなる。無機マトリックス上にメタンビスホスホン酸誘導体を含むジェネレーターカラム、または該方法は同様に液体/液体抽出法の操作を含み、1つ以上のP,P′ジエステル化メチレンビスホスホン酸誘導体を相転移剤として用いる。
【0032】
該方法において、シリカ・マトリックス上のP,P′ジオクチル化メタンビスホスホン酸を含むジェネレーターカラムおよび液体/液体抽出法は、P,P′ジオクチル化メタンビスホスホン酸またはP,P′ジ(2-エチルヘキシル)メタンビスホスホン酸誘導体またはこれらの組合せを相転移剤として用いて実施される。ジェネレーターカラムについての操作は、中和後に生理的に適合するその塩溶液を与えうる鉱酸、好ましくは硝酸または塩酸を用いて実施される。前記鉱酸の濃度は、0.01M〜8Mの範囲、好ましくは0.1M〜2M、最も好ましくは0.5M〜1Mである。液体/液体抽出工程は鉱酸、好ましくは硝酸または塩酸からなる水相を用いて実施し、その鉱酸濃度は0.01M〜8Mの範囲、より好ましくは0.1M〜2M、最も好ましくは0.8M〜1.5Mである。
【0033】
実施例1
227Acおよび227Thは、27年前に製造した231Pa供給源(試料はRadiochemistry Group, Department of Chemistry, University of Oslo, Norwayにより提供された)からf−元素選択的抽出クロマトグラフィー樹脂を用いて単離した。精製した227Acおよび227Thは次いで別のf−元素選択的抽出クロマトグラフィー樹脂に吸着させ、223Raのカウ(cow)として用いた。後者の材料は、225Acを基とする213Bi用ジェネレーターの構築のためにWu 等 (1997)により用いられている。
【0034】
方法:5M H2SO4および1MHFの水溶液中の231Pa(娘核種を含む)の試料を1M HClで10倍に希釈した。TRU−樹脂(EiChroM Industries, Darien, IL, USA)を含み、予め1MHClで平衡化された内径3mm、長さ70mmのカラムに該溶液を供した。227Ac、227Thおよび223Raを、負荷させそして付加的に10mlの1M HClを用いて部分的にカラムを洗浄することにより溶出する一方、231Paをカラムに保持させた。この後、223RaジェネレーターはWu 等 (1997)により記載されたカラム充填技術の改良法を用いて作製した。20〜50μmの範囲の直径を有するシリカ粒子上にP,P′ジオクチルメタンビスホスホン酸(DIPEX, EiChroM Industries, Darien, IL, USA)からなるシリカアクチニド樹脂(EiChroM, Darien, IL, USA)の3×50mmカラムを作製し、1MHClで予め調整した。次いで、約半分の樹脂をカラムから取り出し、TRU−樹脂カラムからの溶出液と混合した。
【0035】
227Ac、227Thおよび223Raを含有する溶出液は、その後30〜50μmのシリカ(EiCroM Industries, Darien IL, USA))上にアクチニド樹脂(AC−樹脂)を含有する内径3mm、長さ50mmのカラムに供した。簡単には、カラムはWu 等 (1997)の方法に従って製造した。1M HClを用いてカラムを予め調整した後、材料の半分を取り出し、前の工程からの溶出液と混合した。
【0036】
室温で4時間穏やかに攪拌した後、放射性核種を含むスラリーをカラムに供した。最終的に、カラムを5mlの1M HClで洗浄した。カラムは227Acおよび227Thを保持するが、一方223Raは、その親核種およびさらにその親核種の放射性核種がほとんど壊変することなく、HClまたはHNO3のいずれか2〜3mlで溶出することができる。所望するならば、223Ra溶出液を第2のAC−樹脂カラム中を通して、微量の母核種およびさらにその母核種を除去することにより、その後に精製工程を加えることができる。223Raを含有するHCl溶液は、緩衝液にて希釈し濾過滅菌してそれだけで使用することができる。あるいは、精製した223Raは使用する前にそのHCl溶液を、樹脂、例えばAG 50W-X4-16 (Bio-Rad, Richmond, CA, USA)を含む内径2mm、長さ25mmのカラムに供することにより濃縮できた。その後、223Raは、少量の6M HNO3によりほぼ定量的に溶出した。HNO3はその後に蒸発させ、残留物を溶液に溶解して、次いで濾過滅菌した。
【0037】
ガンマ線分光用にEG&G Ortec (Oak Ridge, TN, USA)からの増幅器およびバイアスサプライと組み合わされたGe−検出器(Canberra, Meriden, CT, USA)および/またはα線分光用にEG&G Ortecと組み合わされたCanberra(モデル7404-0 1 A)のいずれかを用いて放射能の定性および定量の測定を実施した。
【0038】
結果:TRU−樹脂カラムにおいて、231Paは定量的に保持された、すなわち壊変が娘核種の活性と比較して0.5%の検出限界未満であった。227Acおよび227Thの90%を超える量をTHU−樹脂からの溶出液中に集められた。AC−樹脂については、複数の実験が、回収溶液の最初の2〜3ml中でカラム(カウまたはジェネレーターと称される)において100kBqの227Th当たり60〜85kBqが典型的な収率であることを示した。227Acおよび227Thの壊変を測定したところ、223Raと比較して4×103未満であった(検出能により制限された)。記載した分離法が226Ra(n, γ)227Ra→227Acを介して226Raから生成した227Acを用いて実施できたことは注目すべきである。
【0039】
結論:一連の方法は、生物学的用途に有用な高収率および高純度をもたらす223Raの製造について記載している。その優れた点は、227Acから臨床に適する活性レベルの223Raを定常的に製造することをきわめて容易にすることである。これは有機性マトリックスを含有し、より高い放射分解感受性のイオン交換樹脂(Atcher 等, 1989)を伴う既存の方法とは対照的に、シリカ・マトリックスを基材とするジェネレーターカラム(Wu等, 1997)を用いて実施される。
【0040】
実施例2
実施例1に記載するよう製造したラジウム−223の生体内分布を検討した。
【0041】
方法:体重19〜21gの若い雄のBalb/Cマウスに、等張生理食塩水150μlの9kBqの223Raを注射した。5匹のグループを注射後6時間と3日に屠殺し、切開した。試料の重さを測定し、試料は、(A)Scaler Timer ST7 (NE Technology Ltd, Reading, UK) デジタルユニットと組み合わせた「ウェルタイプ」NaIシンチレーションクリスタル(Harshaw Chemie BV, De Meern, Holland)、(B)ベックマンLS 6500 (Beckman Instruments Inc. Fullerton, CA, USA)を用いてカウントした。放射性核種の相対存在量を、血液、肝臓、腎臓、および平衡にある母核種/娘核種を有する標準試料について、EG&G Ortec(Oak Ridge, TN, USA)からの増幅器およびバイアスサプライと組み合わせたGe-検出器(Canberra, Meriden, CT, USA)を用いて調べた。
【0042】
結果:生体内分布のデータを表2に示す。データは、223Raが軟組織と比較すると選択的に骨に集中していたことを示す。すべての軟組織での値が注射後6時間と3日の間で減少するにもかかわらず、骨での値は時間とともに増加した。大腿骨対血液の比は6時間から3日で129から691に増加した。脾臓は軟組織の中で最も高く保持していたが、大腿骨対脾臓の比は注射後6時間から3日で6.4から23.7に増加した。
【0043】
【表2】

【0044】
ガンマ線分光データに基づき、骨とほとんどの軟組織においてラジウム-223と211Biの存在量により測定したその娘核種の相対的分布に有意の差は観察できなかった。211Bi:223Raの比は脾臓では6時間の時点は標準溶液と比較して平均54%であった。一方、肝臓と腎臓では、試料中の211Bi:223Raの比は、それぞれ標準の平均256%および207%であった。これは、軟組織において一部転位が生じていることを示す。また、軟組織中の211Bi活性は、一般的にこの核種の骨中の活性と比較してきわめて低かった。軟組織中の211Biは、軟組織中の223Raから生じていたかもしれない。
【0045】
結論:骨対通常組織の優れた放射活性の比が223Raとその娘核種について得られ、このことはこの放射性核種系列を用いた石灰化組織の標的化の顕著な可能性を示唆している。
【0046】
実施例3
骨試料のラジウム−223とビスマス−211の間に放射性同位元素の滞留に差が存在するかを調べるために、平衡にある223Raと娘放射性核種を用いた骨対標準溶液についてのガンマ線分光データを調査した。
【0047】
方法:ゲルマニウム検出器(Canberra, Meriden, CT, USA)を用いたガンマ線分光法を、屠殺および切開した直後のマウスからの大腿骨の試料について適用した。平衡にある223Raおよび娘放射性核種の標準溶液の試料を調査した。351.0keV(211Bi)および154.2keV(223Ra)にある明確なガンマ線ピークを用いた。局在指数(LI)を次のように決定した:
【0048】
【数2】

【0049】
6時間群および3日群からのそれぞれ5試料のガンマ線スペクトルは、ステューデントのt検定用データカラムを用いてそれぞれ標準溶液からの5つおよび3つの試料に対して比較した。
【0050】
結果:LI値は、6時間の時点において平均0.85(P=0.059)、3日の時点において平均0.97(P=0.749)であった。しかし、データセットにおいてP=0.05水準で、差は有意なものではなかった。
【0051】
結論:223Raからの系列における4番目の変換、211Pb−変換を示す放射性核種でさえ、骨における保持は223Raのものと類似していた。
【0052】
実施例4
223Raが骨に取り込まれた後、核反跳または拡散過程のいずれかによる娘放射性核種の放出の可能性を調査するために、注射後6時間に屠殺した5匹の動物および3日後に屠殺した5匹の動物からの大腿骨を検査した。
【0053】
方法:骨は縦断的に分割し、赤色骨髄(スポンジ状)領域を露出させ、その後3mg未満の小さな断片に切断した。次に試料は遠心法を用いてDulbeccos PBS(Sigma-Aldrich CO. LTD., Irvine, UK)で洗浄した。上澄みを除き、シンチレーション液(Insta-Gel 11 plus, Packard BioScience BV, Groningen, The Netherlands)と混合し、シンチレーションカウンター(Beckman Instruments Inc. Fullerton, CA, USA)にて計測した。1日後に試料計測を繰り返した。2回の測定間における223Ra崩壊について補正した後、カウントの差は骨基質からの娘核種の放出指数として用いた。
【0054】
結果:6時間後に屠殺した動物は、骨からの活性の放出を少し示した。骨における総活性と比較して、平均1.8%は洗浄中にPBSに溶解した。これは、洗浄溶液を12時間後に再度計測した場合、そのときの活性は骨試料の平均0.2%であったことを示す。娘放射性同位元素の一部転位が生じたが、きわめて低い程度(おそらく娘同位元素の2%未満)であった。3日後に屠殺した動物は、洗浄後の洗浄溶液中にはバックグラウンドと比較して顕著なカウントを示さなかった。これは、転位が生じたとしても検出限界よりも低く、骨の総放射能の1%未満と目算されたことを示す。
【0055】
結論:細かく断片化した骨試料から抽出可能な放射能画分に基づいて、骨基質からの娘核種の放出(転位)はラジウム−223系列においては低いことを示している。
【0056】
実施例5
ヒトの患者においてしばしば観察されているものときわめて類似している実験的転移パターンを有する動物モデルが開発されている(Engebraaten と Fodstad, 1999)。これらのモデルの1つはヌードラットに心臓注射したMT−1細胞からなり、動物の後肢麻痺が一貫して進行することにより特徴づけられる。化学療法用のシスプラチンまたはドキソルビシンを用いた治療(腫瘍細胞の接種後7日)は、生存率を改善できなかった。腫瘍に冒された動物からの脊椎の解剖および顕微鏡的検査は、大量の腫瘍細胞が正常な骨髄細胞と置き換わり、脊椎の骨部分を侵食していることを明らかにした。
【0057】
上述の開発されたモデルにおける骨格の関与は、骨格転移に対する本発明の223Raによる治療の可能性を実証するのに適するものとした。
【0058】
方法:ラジウム−223の治療能は、MT−1/ヌードラットモデルにおいて調べられた。動物は記載されているように(Engebraaten とFodstad, 1999)左心室に注射することにより、1×106個のMT−1ヒト乳癌細胞を接種されている。通常、これらの動物では脊椎中における腫瘍の増殖により引き起こされる麻痺が進行する。各4匹および5匹の群は次いで7日後に本発明のラジウム−223、10kBqを含むまたは含まないベヒクル溶液200μlを静脈注射することにより処置した。
【0059】
結果:ベヒクル溶液のみで処置した4匹の群は麻痺に陥り、脊椎中で腫瘍が増殖することにより冒され、腫瘍細胞の注射後20〜25日(平均22.25日)の間に死に至った。223Raを含有するベヒクル溶液を受容した5匹の群において、1匹は26日後に麻痺し、1匹は40日後そしてもう1匹は64日後に麻痺したが、残りの2匹は腫瘍細胞の接種後90日間の実験期間を通じて生存し、麻痺の兆候は見られなかった。
【0060】
結論:223Raは、骨格転移を有する動物において顕著な抗腫瘍作用を示した。
【0061】
【表3】

【0062】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解した向骨性のラジウム−223塩を含み、安定化するアルカリ土類金属カチオンアナログ担体として1つのカチオンまたはいくつかのカチオンの組合せを含むかまたは含まず、コロイドの沈殿および/または生成を防止する薬剤を含むかまたは含まず、さらに製薬上許容しうる担体およびアジュバントを含むことを特徴とするインビボ投与のための生理的に許容しうる製剤。
【請求項2】
安定化するアルカリ土類金属カチオンとして作用する上記カチオンがマグネシウム、カルシウムおよびストロンチウムよりなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
コロイドの沈殿および/または生成を防止する薬剤がカルボン酸またはカルボン酸の組合せであることを特徴とする請求項1または2に記載の製剤。
【請求項4】
上記カルボン酸がシュウ酸、オキサロ酢酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸およびマロン酸よりなる群から選択されることを特徴とする請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
注射、注入もしくは摂取またはその組合せのために調製されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製剤。
【請求項6】
罹病した骨および骨の表面を治療する医薬活性製剤を製造するためのラジウム−223の使用。
【請求項7】
製剤が、他の治療的に有効な構成要素、例えばビスホスホン酸を含む化学療法、外科的療法、外部ビーム照射、向骨性の放射性医薬を放射する低LET照射およびホルモン治療との併用治療において使用される請求項6に記載の使用。
【請求項8】
溶解した向骨性のラジウム−223塩を含む製剤が骨および/または軟組織を冒す非悪性疾患および悪性疾患に関連する治療および/または緩和に使用される、請求項6または7に記載の使用。
【請求項9】
悪性疾患が、前立腺癌、乳癌、腎臓および泌尿器癌、原発性骨癌、肺癌および多発性骨髄腫よりなる群から選択される、請求項8に記載の使用。

【公開番号】特開2010−168397(P2010−168397A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96736(P2010−96736)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【分割の表示】特願2000−592029(P2000−592029)の分割
【原出願日】平成11年12月17日(1999.12.17)
【出願人】(505385723)
【Fターム(参考)】