説明

石炭の軟化溶融特性評価方法

【課題】コークス炉内において軟化溶融した石炭の周辺の環境を模擬した状態で、石炭の軟化溶融特性を測定して、石炭の軟化溶融特性をより正確に評価できる、石炭の軟化溶融特性評価方法を提供すること。
【解決手段】所定量の石炭を容器に充填して石炭試料1とし、石炭試料1の上に上下面に貫通孔を有する材料2を配置し、石炭試料1と上下面に貫通孔を有する材料2を一定容積に保ちつつ、所定の加熱速度で石炭試料1を加熱する際に、貫通孔へ浸透した溶融石炭の浸透距離を測定し、該測定値を用いて石炭の軟化溶融特性を評価することを特徴とする石炭の軟化溶融特性の評価方法を用いる。または、石炭試料1と上下面に貫通孔を有する材料2を一定容積に保ちつつ、所定の加熱速度で石炭試料1を加熱して、上下面に貫通孔を有する材料2を介して伝達される石炭の圧力を測定し、該測定値を用いて石炭の軟化溶融特性を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はコークス製造用石炭の品質評価法の一つである、石炭乾留時の軟化溶融特性を評価する試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークス製造用石炭にとって、軟化溶融特性は非常に重要な性質である。高炉用コークスにおいては、高炉内通気性を維持するため、堅牢なコークスの製造が求められている。石炭は乾留により、軟化溶融して互いに接着し、コークスとなる。従って、石炭の軟化溶融特性の違いがコークス強度に大きな影響を及ぼしているといえる。
【0003】
石炭の軟化溶融特性を測定する方法として、JIS M 8801に規定されるギーセラプラストメーター法による石炭流動性試験方法が挙げられる。ギーセラプラストメーター法は、425μm以下に粉砕した石炭を所定のるつぼに入れ、規定の昇温速度で加熱し、規定のトルクをかけた撹拌棒の回転速度を測定し、1分ごとの目盛分割をもって試料の軟化溶融特性を表す方法である。
【0004】
ギーセラプラストメーター法がトルク一定での撹拌棒の回転速度を測定しているのに対し、定回転方式でトルクを測定する方法も考案されている。例えば、特許文献1では、回転子を一定の回転速度で回転させながらトルクを測定する方法が記載されている。
【0005】
また、軟化溶融特性として物理的に意味のある粘性を測定することを目的にした、動的粘弾性測定装置による粘度の測定方法がある(例えば、特許文献2参照。)。動的粘弾性測定とは、粘弾性体に周期的に力を加えたときの応答を測定することである。特許文献2に記載の方法では、測定で得られるパラメータ中の複素粘性率により軟化溶融石炭の粘性を評価しており、任意のせん断速度における軟化溶融石炭の粘度を測定可能な点が特徴である。
【0006】
さらに、石炭の軟化溶融特性として、活性炭、またはガラスビーズを用い、それらへの石炭軟化溶融物接着性を測定した例が報告されている。少量の石炭試料を活性炭、ガラスビーズで上下方向から挟んだ状態で加熱し、軟化溶融後に冷却を行い、石炭と活性炭、ガラスビーズとの接着性を外観から観察する方法である。
【0007】
石炭の軟化溶融特性として、流動性以外に膨張性も重要視されている。代表的な方法に、JIS M 8801に規定されているジラトメーター法が挙げられる。さらに、コークス炉内での石炭軟化溶融挙動を模擬するため、石炭軟化溶融時に発生するガスの透過挙動を改善した石炭膨張性試験方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。これは、石炭層とピストンの間、もしくは石炭層とピストンの間と石炭層の下部に透過性材料を配置し、ガスと液状物質の透過経路を増やすことで、測定環境を、よりコークス炉内の膨張挙動に近づけた方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−347392号公報
【特許文献2】特開2000−304674号公報
【特許文献3】特許第2855728号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】諸富ら著:「燃料協会誌」、Vol.53、1974年、p.779
【非特許文献2】宮津ら著:「日本鋼管技報」、vol.67、1979年、p.125
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
コークス炉内での石炭の軟化溶融挙動を評価するためには、コークス炉内において軟化溶融した石炭の周辺の環境を模擬した状態で、石炭の軟化溶融特性を測定することが必要である。しかし、従来方法には以下のような問題がある。
【0011】
ギーセラプラストメーター法は、石炭を容器に充填した状態での測定のため、拘束、浸透条件を全く考慮していない点で問題である。また、ギーセラプラストメーターは高い流動性を示す石炭の測定には適さない。石炭は軟化溶融時、軟化、発泡し、膨張を示すが、高い流動性を示す石炭を測定する場合、容器内側壁部が空洞となる現象(Weissenberg効果)が認められる(例えば、非特許文献1参照。)。この結果、撹拌棒は空回りするため、流動性を正しく測定することは困難である。
【0012】
定回転方式でトルクを測定する方法についても同様に、拘束条件、浸透条件を考慮していない点で不備がある。また、せん断速度一定下での測定のため、上記で述べたように石炭の軟化溶融特性を正しく比較評価することができない。
【0013】
動的粘弾性測定装置は、軟化溶融特性として粘性を対象とし、任意のせん断速度下で粘度が測定可能な装置である。よって、せん断速度をコークス炉内での挙動の値とすれば、コークス炉内での軟化溶融石炭の粘度を測定可能である。しかし、各銘柄のせん断速度を測定、または推定して設定する必要があり、煩雑である。
【0014】
石炭の軟化溶融特性として、活性炭、またはガラスビーズを用い、それらへの接着性を測定する方法は、石炭層の存在について浸透条件を再現しようとしているものの、コークス層と粗大欠陥を模擬していない点で問題がある。また、拘束下での測定でない点でも不十分である。
【0015】
特許文献3に記載されている透過性材料を用いた石炭膨張性試験方法においては、石炭から発生するガス、液状物質の移動を考慮しているが、軟化溶融した石炭自体の移動を考慮していない点で不十分である。これは特許文献3で用いる透過性材料の透過度が、軟化溶融石炭が移動するほど十分に大きくないためであると考えられる。軟化溶融石炭の浸透を起こさせるためには、新たな条件を考慮する必要がある。
【0016】
このように、従来技術ではコークス炉内において軟化溶融した石炭の周辺の環境を模擬した状態で、石炭の軟化溶融特性を測定することができない。
【0017】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、コークス炉内において軟化溶融した石炭の周辺の環境を模擬した状態で、石炭の軟化溶融特性を測定して、石炭の軟化溶融特性をより正確に評価できる、石炭の軟化溶融特性評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
コークス炉内での石炭の軟化溶融挙動を評価するためには、コークス炉内において軟化溶融した石炭の周辺の環境を模擬した状態で、石炭の軟化溶融特性を測定することが必要である。本発明者らは従来の測定方法の検証を行い、新たに拘束条件、浸透条件の2条件を適切に制御することが重要であることを見出した。以下に上記の2条件を制御する根拠について述べる。
【0019】
コークス炉内において、軟化溶融時の石炭は隣接する層に拘束された状態で軟化溶融性を示している。石炭の熱伝導率は小さいため、コークス炉内において石炭は一様に加熱されず、加熱面である炉壁側からコークス層、軟化溶融層、石炭層と状態が異なっている。コークス炉自体は乾留時多少膨張するがほとんど変形しないため、軟化溶融した石炭は隣接するコークス層、石炭層に拘束されている。よって、隣接するコークス層、石炭層の拘束を模擬した条件で測定することが、軟化溶融特性の評価に重要である。
【0020】
また、軟化溶融した石炭は、周囲に存在する欠陥構造へ移動することが考えられる。軟化溶融層周辺の欠陥構造は、石炭層の石炭粒子間空隙、軟化溶融石炭の粒子間空隙、熱分解ガスの揮発により発生した粗大気孔、隣接するコークス層に生じる亀裂など、様々ある。特に、コークス層に生じる亀裂は、その幅が数百ミクロンから数ミリ程度と考えられ、数十〜数百ミクロン程度の大きさである石炭粒子間空隙や気孔に比較して大きい。そのため、このようなコークス層に生じる粗大欠陥へは、石炭から発生する副生物である熱分解ガスや液状物質だけではなく、軟化溶融した石炭自体の移動も起こると考えられる。従って、石炭の軟化溶融特性の評価には、周囲の欠陥構造、特に粗大欠陥の浸透条件を模擬して測定する必要がある。
【0021】
さらに、種々の石炭銘柄に対し、コークス炉内での石炭軟化溶融特性を比較評価するためには、コークス炉内で石炭が軟化溶融し、周辺の欠陥構造へ移動、または変形した範囲内でのせん断速度下において測定する必要がある。この場合、せん断速度は銘柄毎に異なることが予想されるため、各銘柄の軟化溶融時の変形、移動挙動を、コークス炉内での挙動と等しくなるような測定条件にすることが求められる。従って、コークス炉での石炭軟化溶融挙動に基づく石炭軟化溶融特性を評価する場合、せん断速度一定下ではなく、コークス炉内でのせん断速度を再現する必要があり、そのためには拘束条件、透過条件を石炭の銘柄ごとに適正に制御する必要がある。
【0022】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、その特徴は以下の通りである。
(1)所定量の石炭を容器に充填して石炭試料とし、該石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、前記石炭試料と前記上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ、所定の加熱速度で前記石炭試料を加熱する際に、前記貫通孔へ浸透した溶融石炭の浸透距離を測定し、該測定値を用いて石炭の軟化溶融特性を評価することを特徴とする石炭の軟化溶融特性の評価方法。
(2)所定量の石炭を容器に充填して石炭試料とし、該石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、前記石炭試料と前記上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ、所定の加熱速度で前記石炭試料を加熱する際に、前記上下面に貫通孔を有する材料を介して伝達される前記石炭の圧力を測定し、該測定値を用いて石炭の軟化溶融特性を評価することを特徴とする石炭の軟化溶融特性の評価方法。
(3)所定量の石炭を容器に充填して石炭試料とし、該石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、前記上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷しつつ、所定の加熱速度で前記石炭試料を加熱する際に、前記貫通孔へ浸透した溶融石炭の浸透距離を測定し、該測定値を用いて石炭の軟化溶融特性を評価することを特徴とする石炭の軟化溶融特性の評価方法。
(4)所定量の石炭を容器に充填して石炭試料とし、該石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、前記上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷しつつ、所定の加熱速度で前記石炭試料を加熱する際に、前記石炭の膨張率を測定し、該測定値を用いて石炭の軟化溶融特性を評価することを特徴とする石炭の軟化溶融特性の評価方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、コークス炉内での石炭軟化溶融特性に大きな影響を及ぼすと考えられる、コークス炉内での石炭軟化溶融層周辺に存在する欠陥構造、特に軟化溶融層に隣接するコークス層に存在する粗大欠陥の影響を模擬し、また、コークス炉内での軟化溶融物周辺の拘束条件を適切に再現した状態での、石炭軟化溶融特性の評価が可能となる。また、コークス炉内で石炭が軟化溶融し、移動、変形した時のせん断速度での、欠陥構造への石炭軟化溶融物浸透距離、浸透時膨張率、浸透時圧力が測定可能となる。
【0024】
これによりコークス炉内での石炭の軟化溶融挙動を正確に評価することができるようになり、高強度コークスの開発にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明で使用する石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ軟化溶融特性を測定する装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明で使用する石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷させつつ軟化溶融特性を測定する装置の一例を示す概略図である。
【図3】本発明で使用する上下面に貫通孔を有する材料のうち、円形貫通孔をもつものの一例を示す概略図である。
【図4】本発明で使用する上下面に貫通孔を有する材料のうち、球形粒子充填層の一例を示す概略図である。
【図5】本発明で使用する上下面に貫通孔を有する材料のうち、円柱充填層の一例を示す概略図である。
【図6】実施例1で測定した、石炭軟化溶融物の浸透距離の測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例1で測定した、2種類の配合炭のコークス強度測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例2で測定した、石炭軟化溶融物の浸透距離の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1、図2に本発明で使用する装置の一例を示す。図1は石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ石炭試料を加熱する場合の装置、図2は石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷させて石炭試料を加熱する場合の装置である。容器3下部に石炭を充填して石炭試料1とし、石炭試料1の上に、上下面に貫通孔を有する材料2を配置する。石炭試料1を軟化溶融温度域以上に加熱し、石炭を上下面に貫通孔を有する材料2に浸透させ、浸透距離を測定するものである。加熱は不活性ガス雰囲気下で行うものとする。
【0027】
石炭試料1と上下面に貫通孔を有する材料2を一定容積に保ちつつ石炭試料1を加熱する場合、上下面に貫通孔を有する材料2を介して石炭浸透時の圧力を測定することが可能である。図1に示すように、上下面に貫通孔を有する材料2の上面に圧力検出棒4を配置し、圧力検出棒4の上端にロードセル6を接触させ、圧力を測定するものとする。一定容積を保つため、ロードセル6が上下方向に動かないよう固定する。加熱前、容器3に充填された石炭に対し、上下面に貫通孔を有する材料2、圧力検出棒4、ロードセル6間に隙間が出来ないよう、それぞれを密着させておく。上下面に貫通孔を有する材料2が粒子充填層の場合は、圧力検出棒4が粒子充填層に埋没する可能性があるため、上下面に貫通孔を有する材料2と圧力検出棒4の間に板を挟む措置を講ずる必要がある。
【0028】
石炭試料1と上下面に貫通孔を有する材料2に一定荷重を負荷させて石炭試料を加熱する場合、石炭試料1が膨張を示し、上下面に貫通孔を有する材料2が上下方向に移動する。よって、上下面に貫通孔を有する材料2を介して石炭浸透時の膨張率を測定することが可能である。図2に示すように上下面に貫通孔を有する材料2の上面に膨張率検出棒13を配置し、膨張率検出棒13の上端に荷重付加用の重り14を乗せ、その上に変位計15を配置し、膨張率を測定するものとする。変位計15は、石炭膨張率の膨張範囲(−100%〜300%)を測定可能なものを用いれば良い。加熱系内を不活性ガス雰囲気に保持する必要があるため、非接触式の変位計が適しており、光学式変位計を用いることが望ましい。上下面に貫通孔を有する材料2が粒子充填層の場合は、膨張率検出棒13が粒子充填層に埋没する可能性があるため、上下面に貫通孔を有する材料2と膨張率検出棒13の間に板を挟む措置を講ずる必要がある。
【0029】
加熱手段は、石炭試料の温度を測定しつつ、所定の昇温速度で加熱できる方式のものを用いることが望ましい。具体的には、電気炉、高周波誘導炉などの外熱式、またはマイクロ波のような内部加熱式である。内部加熱式を採用する場合は、石炭試料内温度を均一にする工夫を施す必要があり、例えば、容器の断熱性を高める措置を講ずることが挙げられる。
【0030】
加熱速度については、コークス炉内での石炭軟化溶融挙動を模擬するという目的から、コークス炉内での石炭の加熱速度に一致させる必要がある。コークス炉内での石炭の加熱速度を考慮すると、3℃/min程度とすることが望ましい。しかし、非微粘結炭のように流動性の低い石炭の場合、3℃/minでは浸透距離が小さく検出感度が低下する可能性がある。石炭は急速加熱することによりギーセラプラストメーターによる流動性が向上することが知られているため、低流動性石炭、例えば浸透距離が1mm以下の石炭の場合には加熱速度を10〜1000℃/minで測定し検出感度を向上させてもよい。
【0031】
加熱を行なう温度範囲については、石炭軟化溶融特性の評価が目的であるため、石炭軟化溶融温度域まで加熱できればよい。軟化溶融を示す石炭の軟化溶融温度域を考慮すると、0℃(室温)〜550℃の範囲において、所定の加熱速度で加熱すればよい。
【0032】
上下面に貫通孔を有する材料は、透過係数をあらかじめ測定または算出できるものが望ましい。材料の例として、貫通孔を持つ一体型の材料、粒子充填層が挙げられる。貫通孔を持つ一体型の材料としては、例えば、図3に示すような円形の貫通孔16を持つもの、矩形の貫通孔を持つもの、不定形の貫通孔を持つものなどが挙げられる。粒子充填層は、大きく球形粒子充填層、非球形粒子充填層に分けられ、球形粒子充填層としては図4に示すようなビーズの充填粒子17からなるもの、非球形粒子充填層としては不定形粒子や、図5に示すような円柱充填層からなるものなどが挙げられる。測定の再現性を保つため、材料内の透過係数はなるべく均一で、かつ、透過係数の算出が容易なものがよく、測定を簡便にするためにも望ましい。よって、本発明で用いる上下面に貫通孔を有する材料には球形粒子充填層の利用が特に望ましい。上下面に貫通孔を有する材料の材質は、石炭軟化溶融温度域以上、具体的には600℃まで形状がほとんど変化しないものならば特に指定はない。
【0033】
上下面に貫通孔を有する材料の透過係数は、コークス層に存在する粗大欠陥の透過係数を推定して設定する必要がある。本発明に特に望ましい透過係数について、粗大欠陥構成因子の考察や大きさの推定など、本発明者らが検討を重ねた結果、透過係数が1×108〜2×109-2の場合が最適であることを見出した。この透過係数は、下記(1)式で表されるDarcy則に基づき導出されるものである。
ΔP/L=K・μ・u ・・・ (1)
ここで、ΔPは上下面に貫通孔を有する材料内での圧力損失[Pa]、Lは貫通孔を有する材料の高さ[m]、Kは透過係数[m-2]、μは流体の粘度[Pa・s]、uは流体の速度[m/s]である。
【0034】
石炭軟化溶融物の浸透距離は、石炭加熱中に常時測定できることが本来望ましい。しかし、通常は常時測定は困難であるため、石炭軟化溶融物が浸透終了した後、容器全体を冷却し、実際に冷却後の浸透距離を測定することで代用してもよい。例えば、冷却後の容器から上下面に貫通孔を有する材料を取り出し、ノギスや定規で直接測定することが可能である。また、上下面に貫通孔を有する材料として粒子を使用した場合には、粒子間空隙に浸透した軟化溶融物は浸透した部分まで粒子層全体を固着させている。よって、前もって粒子充填層の質量と高さの関係を求めておけば、浸透終了後、固着していない粒子の質量を測定することで、固着している粒子の質量を導出でき、そこから浸透距離を算出することができる。
【0035】
上記の(1)式中には粘度項(μ)が含まれている。よって、本発明で測定したパラメータより、上下面に貫通孔を有する材料内に浸透した軟化溶融物の粘度を推定することが可能である。例えば、石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ石炭試料を加熱した場合では、ΔPは浸透時圧力、Lは浸透距離、uは浸透速度となり、(1)式に代入することにより粘度が導出可能である。また、石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷させて石炭試料を加熱する場合では、ΔPは付加した荷重の圧力、Lは浸透距離、uは浸透速度となり、これも(1)式に代入することにより粘度が導出可能である。
【実施例1】
【0036】
石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積で加熱した場合の測定例を示す。11種類の石炭(A炭〜K炭)について、浸透距離と浸透時圧力の測定を行った。使用した石炭の性状(平均最大反射率:Ro、最高流動度:logMF、揮発分:VM、灰分:Ash)を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
図1に示したものと同様の装置を用い、浸透距離と浸透時圧力の測定を行った。加熱方式を高周波誘導加熱式としたため、図1の発熱体8は誘導加熱コイルとし、容器3の素材は誘電体である黒鉛とした。容器3の直径は18mm、高さ37mmとし、上下面に貫通孔を有する材料2として直径2mmのガラスビーズを用いた。粒度2mm以下に粉砕した石炭を2.04g量りとり、容器に装入し、石炭の上から重さ200gの重りを落下距離20mmで5回落下させることにより石炭を充填して石炭試料1とした。次に2mmガラスビーズを9.36g量りとり、石炭試料1の上に配置したガラスビーズ充填層を上下面に貫通孔を有する材料2とした。ガラスビーズ充填層の上に直径17mm、厚さ5mmのシリマナイト製円盤を、その上に圧力検出棒4として石英製の棒を配置した。不活性ガスとして窒素ガスを使用し、加熱速度3℃/minで550℃まで加熱した。加熱中はロードセル6により圧力検出棒4から付加される圧力を測定した。加熱終了後、窒素雰囲気で冷却を行い、冷却後の容器3から、軟化溶融した石炭と固着していないビーズの質量を計測した。
【0039】
浸透距離は固着したビーズ層の充填高さとした。ガラスビーズ充填層の充填高さと質量の関係をあらかじめ求め、軟化溶融した石炭が固着したビーズの質量よりガラスビーズ充填高さを導出できるようにした。その結果が下記(2)式であり、(2)式より浸透距離を導出した。
L=(9.36−M)×2.63 ・・・ (2)
ここで、Lは浸透距離[mm]、Mは軟化溶融した石炭と固着していないビーズ質量[g]を表す。
【0040】
浸透距離測定結果を表2に、従来の軟化溶融特性指標であるギーセラプラストメーター法の最高流動度(logMF)に対する浸透距離の測定結果を図6に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
図6によれば、浸透距離は最高流動度に対しある程度の相関は認められるが、相関から外れている銘柄も多いため、浸透距離は最高流動度とは傾向の異なる指標であると認められる。特に、表1、表2において石炭Gと石炭Hとを比較すると、最高流動度(logMF)はほぼ等しい値を示しているのに対し、浸透距離には大差が認められた。浸透距離の測定誤差が、同一条件で3回試験を行った結果標準偏差0.5であったため、石炭Gと石炭Hの浸透距離の差は4.7であり、有意な差である。浸透距離の方が、コークス炉内での石炭軟化溶融挙動を模擬できることを考慮すると、従来法のギーセラプラストメーター法は、石炭Gの軟化溶融特性を過大評価しているといえる。
【0043】
浸透距離がコークス炉での軟化溶融挙動を模擬した条件下での流動性を示すパラメータであるとすると、ギーセラプラストメーターによる最高流動度より優れたパラメータであると考えられる。このことを確かめるために、最高流動度がほぼ等しく浸透距離の異なる石炭Gと石炭Hに対し、コークス強度比較試験を実施した。従来理論では、コークス強度は主に、石炭のビトリニット平均反射率(Roの平均値)と、ギーセラプラストメーター法による最高流動度(Max Fluidity:MF)により決定される(例えば、非特許文献2参照。)。そこで、石炭G、または石炭Hを20mass%配合し、配合炭全体のビトリニット平均反射率(Roの平均値)、最高流動度(logMF)が等しくなるように種々の石炭を配合した配合炭(配合炭G、配合炭H)から製造した2種類のコークスの強度を比較した。石炭配合条件を表3、配合炭性状平均値を表4に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
コークス強度は、JIS K 2151の回転強度試験法に基づくドラム強度で評価した。粒度3mm以下100mass%、水分8mass%に調整した配合炭16kgを、嵩密度750kg/m3に充填し、電気炉で乾留した。炉壁温度1050℃で6時間乾留後、窒素冷却し、ドラム強度試験を実施した。JIS K 2151の回転強度試験法に基づき、15rpm、150回転で粒径15mm以上のコークスの質量割合を測定し、回転前との質量比をドラム強度DI150/15として算出した。
【0047】
ドラム強度測定結果を図7に示す。石炭Gを配合した配合炭Gに比べ、石炭Hを配合した配合炭Hの方が高いドラム強度を示した。ギーセラプラストメーター法による最高流動度では、石炭Gの軟化溶融特性を過大評価していたため、配合炭Gが流動性不足となり、ドラム強度が低下したものと考えられる。よって、本発明により測定した浸透距離により、石炭の流動性をより適切に評価することが可能になったといえる。
【0048】
また、各石炭の浸透時の最大圧力測定結果を表2に併せて示す。表2に示す最大圧力は、コークス炉内での膨張挙動を模擬した測定環境での圧力測定結果であるため、コークス強度推定や、コークス炉壁にかかる圧力の推定に用いるパラメータとして有効であるといえる。
【実施例2】
【0049】
石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷させて石炭試料を加熱した場合の測定例を示す。実施例1と同じ11種類の石炭(A炭〜K炭)について、浸透距離と浸透時膨張率の測定を行った。図2に示したものと同様の装置を用い、浸透距離と浸透時膨張率の測定を行った。加熱方式は高周波誘導加熱式としたため、図2の発熱体8を誘導加熱コイルとし、容器3の素材は誘電体である黒鉛とした。容器3の直径は18mm、高さ37mmとし、上下面に貫通孔を有する材料として直径2mmのガラスビーズを用いた。粒度2mm以下に粉砕した石炭を2.04g量りとり、容器3に装入し、石炭の上から重さ200gの重りを落下距離20mmで5回落下させることにより石炭を充填し石炭試料1とした。次に2mmガラスビーズを9.36g量りとり、石炭試料1の上に配置したガラスビーズ充填層を上下面に貫通孔を有する材料2とした。ガラスビーズ充填層の上に直径17mm、厚さ5mmのシリマナイト製円盤を配置し、その上に膨張率検出棒13として石英製の棒を置いた。不活性ガスとして窒素ガスを使用し、加熱速度3℃/minで550℃まで加熱した。加熱中はレーザー変位計により変位を測定し、石炭充填時の高さから膨張率を算出した。加熱終了後、窒素雰囲気で冷却を行い、冷却後の容器から、軟化溶融した石炭と固着していないビーズ質量を計測した。浸透距離は、上記(2)式により導出した。
【0050】
浸透距離測定結果を表5に、浸透距離測定結果とギーセラプラストメーター法の最高流動度(Max Fluidity:MF)の関係を図8に示す。
【0051】
【表5】

【0052】
図8によれば、本実施例で測定した浸透距離は最高流動度とある程度の相関は認められるが、相関から外れている銘柄も複数あり、傾向の異なることが確認できた。本装置での浸透距離の測定誤差が、同一条件で3回試験を行った結果標準偏差0.6であったことを考慮すると、実施例1と同じく、最高流動度がほぼ等しい石炭Gと石炭Hに対して、浸透距離に有意な差が認められた。ドラム強度についても、実施例1で測定した結果より石炭Hを配合した配合炭Hの方が、石炭Gを配合した配合炭Gよりも高い値を示したことから、本発明方法で測定した浸透距離が、ギーセラプラストメーター法の最高流動度と比較して、石炭の流動性をより適切に評価している指標であるといえる。
【0053】
また、各石炭の最終膨張率測定結果を表5に併せて示す。最終膨張率とは、550℃での膨張率の値である。表5の結果は、コークス炉内での膨張挙動を模擬した測定環境での膨張率測定結果であるため、コークス強度推定や、コークス炉壁とコークス塊の隙間の推定に用いるパラメータとして有効であるといえる。
【符号の説明】
【0054】
1 石炭試料
2 上下面に貫通孔を有する材料
3 容器
4 圧力検出棒
5 スリーブ
6 ロードセル
7 温度計
8 発熱体
9 温度検出器
10 温度調節器
11 ガス導入口
12 ガス排出口
13 膨張検出棒
14 重り
15 変位計
16 円形貫通孔
17 充填粒子
18 充填円柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量の石炭を容器に充填して石炭試料とし、該石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、前記石炭試料と前記上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ、所定の加熱速度で前記石炭試料を加熱する際に、前記貫通孔へ浸透した溶融石炭の浸透距離を測定し、該測定値を用いて石炭の軟化溶融特性を評価することを特徴とする石炭の軟化溶融特性の評価方法。
【請求項2】
所定量の石炭を容器に充填して石炭試料とし、該石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、前記石炭試料と前記上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ、所定の加熱速度で前記石炭試料を加熱する際に、前記上下面に貫通孔を有する材料を介して伝達される前記石炭の圧力を測定し、該測定値を用いて石炭の軟化溶融特性を評価することを特徴とする石炭の軟化溶融特性の評価方法。
【請求項3】
所定量の石炭を容器に充填して石炭試料とし、該石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、前記上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷しつつ、所定の加熱速度で前記石炭試料を加熱する際に、前記貫通孔へ浸透した溶融石炭の浸透距離を測定し、該測定値を用いて石炭の軟化溶融特性を評価することを特徴とする石炭の軟化溶融特性の評価方法。
【請求項4】
所定量の石炭を容器に充填して石炭試料とし、該石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置し、前記上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷しつつ、所定の加熱速度で前記石炭試料を加熱する際に、前記石炭の膨張率を測定し、該測定値を用いて石炭の軟化溶融特性を評価することを特徴とする石炭の軟化溶融特性の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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