説明

石積みの補強方法

【課題】石積みを撤去することなく、既存の状態で補強可能であるとともに、石積みの隙間を塞ぐことができ、石積みを安定した状態に戻し、かつ、石積みの背面側から受ける土圧に対する強度を十分に回復することができる石積みの補強方法を提供することを目的とする。
【解決手段】充填材と圧縮空気を注入ノズルに供給し、圧縮空気の圧力を用いて、注入ノズルから充填材を吹き込むことにより、充填材を石積みの隙間に満遍なく充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石積みの補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石積みは、長年雨水等にさらされることによって、石積みの目地材や石積みの背面に設けられた砂利や土からなる裏込材が、石積みの隙間(目地)から雨水とともに流出し、空隙が形成される。空隙が形成されることにより、石積みの支持バランスに乱れが生じ、雨水等により何らかの応力が発生した場合には、より一層石積みが崩壊する可能性が高くなる。また、空隙に雑草が生えたり、蛇・モグラ等の小動物が生息するおそれもある。
【0003】
しかし、その空隙を充填する補修を行うとなると、石積みの組み直しが必要となり、大掛かりな補修工事となるため、多大な手間と費用が必要となる。また、石積みの組み直しを行っている最中に、背面側の土が崩れる場合があるため、その対策も必要となる。
【0004】
従来より、石積みの補強方法として、接着性を有する充填材を石積みの隙間や背面に注入する方法があった。しかし、この補強方法では、注入した充填材が重力により下方向に流れてしまうため、石積みに形成された空隙の上部側まで充填材を注入することが困難となる場合が多いといった問題点や、充填材の充填後のダレ(充填材を充填した後、固化までの間に、重力により空隙の上部側の充填材が空隙の下部側に移動し、上部側が薄く、下部側が厚くなる現象)により、石積み背面の水を石積みの表面に抜く水路が塞がれてしまうおそれがあり、水路が塞がれ、水圧が上がることで石積みの背面側から応力を受け、石積みが崩壊する危険な状況になることが懸念されるといった問題点があった。
【0005】
上記の状況下において、石積みの組み直しをすることなく、既存のままで石積みを補強する方法として、特許文献1には、石積みの裏込め補強方法で、石積み背面の空洞部に接着剤を塗布する工程と、空洞部に袋状のパッキング材を挿入し、パッキング材に充填材(注入材)を注入する工程と、石積みの背面とパッキング材を接着する工程等を有する補強方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−79350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載する方法では、上述の問題点は解消されているものの、工程数が多いため、当該方法を実施するためには多大な時間・労力を要することになる。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、石積みの組み直しをすることなく、既存の状態で補強可能であるとともに、石積みの隙間を塞ぐことができ、石積みを安定した状態に戻し、かつ、石積みの背面側から受ける土圧に対する強度を十分に回復することを少ない工程で行うことができる石積みの補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、充填材を圧縮空気の圧力を用いて注入ノズルから石積みの隙間に吹き込み、充填材を石積みの隙間に満遍なく充填することにより、石積みを補強することを目的とする。すなわち、充填材を注入ノズルにより石積みの隙間に注入することによって石積みを補強する石積みの補強方法であって、上記充填材とは別に圧縮空気を注入ノズルに供給し、上記充填材を、該注入ノズルから上記圧縮空気の圧力を用いて、上記石積みの隙間に吹き込んでいく構成とした。
【0010】
上記充填材と圧縮空気を注入ノズルに供給する方法は、例えば、上記充填材を、モルタル供給ポンプによりモルタルホースを介して、上記モルタルホースの先端部に取り付けられた注入ノズルに供給し、空気圧縮機から吐出した圧縮空気を、空気ホースを介して該注入ノズルに供給する方法がある。圧縮空気の圧力を用いることにより、充填材を注入ノズルから石積みの隙間の奥深くまで吹き込むことができる。そのため、たとえ石積みの隙間が奥深く形成されている場合であっても、充填材を吹き込むことが容易となり、充填材を石積みの隙間に満遍なく充填することができる。
【0011】
充填材は、注入ノズルから液状ないし流動状で石積みの隙間に吹き込むことができ、その後硬化するものであればよい。例えば、モルタル、樹脂モルタル、または土質材料と無機塩類と水和反応性硬化剤との混合物などを使用できる。
【0012】
また、充填材の吹き込みに圧縮空気を用いるため、圧縮空気を用いない従来方法とは異なり、粘度が高い(砂の分量が多い)充填材であっても注入ノズルの閉塞を招くことなく施工することができる。充填材の粘度が高いと、充填材吹き付け後、早期に充填材の圧縮強度が増加することにより、第一に、充填材の充填後のダレが少なくなるという効果を有する。第二に、工期を短縮することができ、中でも潮の干満での海水面の高さの差を利用して行わならなければならない場所での護岸工事では、特に有用である。
【0013】
上記注入ノズルの先端から上記充填材を吹き込む距離が短くなるほど、上記注入ノズルからの充填材吐出圧を減少させることが好ましい。注入ノズルからの充填材吐出圧を減少させるためには、空気圧縮機から注入ノズルへの圧縮空気の供給量を減少すればよく、圧縮空気と充填材が注入ノズルで合流するよりも手前で、圧縮空気の供給量を調整できるような位置にバルブを設ければよい。
【0014】
最初は石積みの隙間の奥から充填材を埋めていくが、石積みの隙間の奥が充填材で埋まってくると石積みの隙間の手前部分を充填材で埋めていくことになる。注入ノズルからの充填材吐出圧が大きいほど、充填材を遠くまで吹き込むことができるが、注入ノズルからの充填材吐出圧が大きい状態で充填材を近距離に吹き込むと、注入ノズルからの充填材の噴出速度が速すぎることから、吹き込んだ充填材が跳ね返りにより石積みの隙間から飛び出るおそれがある。そのため、石積みの隙間の手前部分に充填材を吹き込む場合は、注入ノズルからの充填材吐出圧を減少させ、すなわち、充填材を比較的少量の圧縮空気と混合し、注入ノズルからの充填材の噴出速度を比較的遅くして石積みの隙間に吹き込むことにより、吹き込んだ充填材が石積みの隙間から飛び出ることを防ぐことができる。
【0015】
上記充填材は、材齢28日の圧縮強度が15N/mm以上であることが好ましい。また、上記充填材は、材齢28日の圧縮強度が18N/mm以上であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0016】
注入ノズルに圧縮空気を供給し、圧縮空気の圧力を用いて、注入ノズルから充填材を吹き込むことにより、充填材を石積みの隙間に満遍なく充填することができる。そうすると、石積みの組み直しをすることなく既存の状態で補強することができ、さらに、石積みの背面側から受ける土圧に対する強度を十分に回復することができる。また、石積みの隙間を塞ぐことにより、雑草や小動物の存在を懸念する必要もなくなり、加えて、少ない工程で行うことができるので時間・労力を節約することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】充填材の注入に用いる装置を示した図である。
【図2】充填材を充填した後の石積みの状態を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態として、モルタル注入による石積みの補強方法を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0019】
まず、モルタル注入に関する一連の工程を説明する。最初に、下地処理として、高圧洗浄機を用いた石積みの洗浄や、石積みの隙間に生えている雑草の除草を行う。その後、必要があれば、石積みの隙間に水抜きパイプの設置を行う。続いて、以下に説明する図1の装置を用いて石積みの隙間にモルタルを吹き込み、モルタルを石積みの全ての隙間に充填した後に刷毛を使って目地を仕上げていく。図2は、モルタルの充填および目地の仕上げ終了後の石積み8を示したものであり、各石9の間に生じている石積みの隙間10、すなわち、図2のハッチングを付した箇所にモルタルを充填し、その後、目地を仕上げた状態を示している。
【0020】
本発明による一実施形態に係るモルタル注入に用いる方法について図1に基づいて説明する。砂、セメント、および水をモルタルミキサ1で3分間混練し、流動性の良いスラリーとなったモルタルをモルタル供給ポンプ2でモルタルホース6を介して注入ノズル3まで圧送する。なお、モルタルミキサ1で製造したモルタルは、無圧又は低圧であるので、モルタル供給ポンプ2については、モルタルホース6を介して遠隔地まで供給するためには十分な加圧能力を必要とする。また、空気圧縮機4からの圧縮空気を、空気ホース5を介して、注入ノズル3に供給している。続いて、モルタル供給ポンプ2による圧力と圧縮空気の圧力を用いて、注入ノズル3から石積みの隙間にモルタルを吹き込んでいく。
【0021】
次いで、本発明による一実施形態に係る注入ノズル3について図1に基づいて説明する。注入ノズル3は、モルタルを供給する口(以下、モルタル供給口)31、モルタルおよび圧縮空気を吐出する口(以下、吐出口)32、圧縮空気を供給する口(以下、圧縮空気供給口)33の3つの口を有する。モルタル供給ポンプ2で圧送されたモルタルは、モルタル供給口31に供給され、吐出口32から吐出される。圧縮空気供給口33は、注入ノズル3内で吐出口32に向かって圧縮空気が流れるように設けられており、これにより、吐出口32から、圧縮空気の圧力を用いて、石積みの隙間にモルタルを吹き込むことができる。
【0022】
また、注入ノズル3への圧縮空気の供給量を調節できるバルブ7を設ける。バルブ7で圧縮空気の供給量を調節することにより、注入ノズル3からの圧縮空気によるモルタル吐出圧、すなわち注入ノズル3からのモルタルの噴出速度を調節させることを目的とする。そのためには、圧縮空気とモルタルが注入ノズル3内で合流する手前にバルブ7を設ける必要がある。例えば、図1に記載のように、圧縮空気供給口33上にバルブ7を設けることができる。
【0023】
以下、石積みの隙間にモルタルを吹き込むにあたり、バルブ7による注入ノズル3への圧縮空気の供給量を調整する方法について説明する。まず、バルブ7を全開又は全開に近い状態にして、石積みの隙間の奥からモルタルを埋めていく。こうして、石積みの隙間の奥から手前へとモルタルを埋めていくにしたがって、次第にモルタルを吹き込む距離が短くなる。モルタルを吹き込む距離が短くなると、注入ノズル3からのモルタルの噴出速度が速すぎるため、吹き込んだモルタルが跳ね返りにより石積みの隙間から飛び出る場合がある。そこで、バルブ7を少し閉じることにより、注入ノズル3からのモルタルの噴出速度を、吹き込んだモルタルが跳ね返らない程度の速度に減少させる。モルタルを吹き込む距離が短くなるにしたがって、吹き込んだモルタルが跳ね返りやすくなるので、跳ね返りの現象が見られる度に、バルブの閉じ量を大きくし、注入ノズル3からのモルタルの噴出速度を減少させ、吹き込んだモルタルが跳ね返らないようにする。
【0024】
〔使用機材〕
モルタルミキサとしては、TMU−3.5HS(混練容量3.5切(約97L)、トンボ工業株式会社製)を、空気圧縮機としては、EC35SSB−6(最大吐出容量3.7L/min、吐出圧力0.69Mpa、株式会社小松製作所製)を使用した。
【0025】
〔使用材料〕
砂は、左官砂(広島産)を、セメントは、普通ポルトランドセメント(密度3.16g/cm、比表面積3190cm/g)を使用した。
【0026】
〔圧縮強度試験〕
圧縮強度は、JIS A 1132に準拠する供試体の作製方法により準備された供試体について、JIS A 1108に準拠する圧縮強度試験を行うことにより得た。
【0027】
以下、本実施形態に係る実施例を説明する。
なお、本実施形態においては、砂とセメントの合計質量は72kgの一定量とする。
《実施例1》
砂36kg、セメント36kg、および水8リットルを3分間モルタルミキサ1にて混練してモルタルを生成し、28日現場養生した直径50mmの供試体を得た。
《実施例2》
水量を8.5リットルとし、他は実施例1と同様にして供試体を得た。
《実施例3》
水量を9リットルとし、他は実施例1と同様にして供試体を得た。
《実施例4》
砂を48kg、セメントを24kgとし、他は実施例1と同様にして供試体を得た。
《実施例5》
水量を8.5リットルとし、他は実施例4と同様にして供試体を得た。
《実施例6》
水量を9リットルとし、他は実施例4と同様にして供試体を得た。
《実施例7》
砂を54kg、セメントを18kgとし、他は実施例1と同様にして供試体を得た。
《実施例8》
水量を8.5リットルとし、他は実施例7と同様にして供試体を得た。
《実施例9》
水量を9リットルとし、他は実施例7と同様にして供試体を得た。
【0028】
上記9種類の実施例について、モルタル生成に用いた砂、セメント、水の分量、および材齢28日の供試体を用いた圧縮強度試験の試験結果を表1に示す。なお、表1に記載の圧縮強度の値は、各実施例につき、3個の供試体を準備して圧縮強度試験を行い、3個の供試体の圧縮強度を算術平均した値である。
【0029】
【表1】

【0030】
全ての実施例の供試体において、所定の圧縮強度(材齢28日で15N/mm)を上回る圧縮強度を有する。
【0031】
また、砂およびセメントの質量を一定にした場合、水量を増加させるにつれて材齢28日での圧縮強度は減少し、水量を一定にした場合、セメントの割合を減少(砂の割合を増加)させるにつれて材齢28日での圧縮強度は減少する。上記のことより、砂に対するセメントの質量比率が1/3〜1/1(本実施形態では、セメントの質量が18〜36キロ)であって、砂とセメントの合計質量1kgあたりの水量が1/9〜1/8リットル(本実施形態では、砂とセメントの合計質量(72kg)に対して、水が8〜9リットル)である場合、生成したモルタルを注入ノズル3から圧縮空気の圧力を用いて吹き込み、石積みの隙間をモルタルで充填することができ、充填したモルタルは所定の圧縮強度(材齢28日で15N/mm)を上回る圧縮強度を有するといえる。
【0032】
なお、砂とセメントの合計質量に対して、水量を増加させすぎた場合や、水量に対してセメントの割合を減少(砂の割合を増加)させすぎた場合には、モルタルが柔軟になりすぎるため、注入ノズル3の先端部からモルタルが吹き飛ばないおそれがある。また、砂とセメントの合計質量に対して、水量を減少させすぎた場合や、水量に対してセメントの割合を増加(砂の割合を減少)させすぎた場合には、流動性の低いモルタルが生成されるため、石積みの隙間を充填するようにモルタルを吹き込むことが困難となるおそれがある。しかし、上記実施例1〜9においてはこれらの問題は生じない。
【符号の説明】
【0033】
1 モルタルミキサ
2 モルタル供給ポンプ
3 注入ノズル
4 空気圧縮機
5 空気ホース
6 モルタルホース
7 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填材を注入ノズルにより石積みの隙間に注入することによって石積みを補強する石積みの補強方法であって、
上記充填材とは別に圧縮空気を注入ノズルに供給し、
上記充填材を、該注入ノズルから上記圧縮空気の圧力を用いて、上記石積みの隙間に吹き込んでいく
ことを特徴とする石積みの補強方法。
【請求項2】
請求項1に記載の石積みの補強方法において、
上記注入ノズルの先端から上記充填材を吹き込む距離が短くなるほど、上記注入ノズルからの上記圧縮空気による充填材吐出圧を減少させる
ことを特徴とする石積みの補強方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の石積みの補強方法において、
上記充填材は、材齢28日の圧縮強度が15N/mm以上である
ことを特徴とする石積みの補強方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一に記載された石積みの補強方法において、
上記充填材は、モルタルである
ことを特徴とする石積みの補強方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−87579(P2012−87579A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236808(P2010−236808)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(510280707)株式会社あらい (1)
【出願人】(598043766)中鋼産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】