説明

石綿管の除去方法

【課題】石綿管が埋設されている建造物の解体時の石綿の飛散を防止すると共に作業効率の向上と安全性を向上させた石綿管の除去方法の提供。
【解決手段】石綿管を超高圧水の噴射で除去する方法であって、下端に噴射ノズルヘッドを備えた送水管をエアーモーターで回転させられるようになっている送水管回転装置を、ワイヤーによって巻き下げ装置につないで該石綿管の上部から吊り下げ、該噴射ノズルヘッドから超高圧水を噴射させつつ、該送水管回転装置を用いてエアーモーターでその軸芯の周りに回転させつつ、手動で該石綿管の上端から下方に向かって移動させながら該石綿管を徐々に除去していき、送水管ランスの長さが足りなくなった時点で、追加の送水管ランスを、連結器具を用いて継ぎ足しつつ、石綿管を上から下まで除去すると共に、除去された石綿管の粉砕物を、該粉砕物を含有する処理水と共に吸引装置を用いて吸引除去する石綿管の除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石綿管が埋設されている建造物の解体工事時における石綿管の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から使用されてきた石綿は、耐久性、耐熱性、電気絶縁性等の特性が非常に優れており、更に安価であるため、建設資材、電気製品、自動車部品等、様々な用途に広く使用されてきた。しかし、空気中に飛散した石綿が肺に吸収されると、約20〜40年の潜伏期間を経た後に、肺癌や中皮腫等に疾病を引き起こす可能性があることから、1975年以降においては、吹き付け石綿工法が禁止され、続いて2004年には石綿を1%以上含む製品の出荷が原則禁止されている。
【0003】
しかし、1970年以前に建築された建造物の多くは、主に断熱保熱を目的に石綿が大量に使用され、その石綿を使用した建造物の耐用期限が近年において本格的に到来することから、解体工事時における現場や周辺地域に対して石綿公害が懸念されると共に、その撤去作業の工法が重要視されている。
【0004】
上記の問題を解決しようと、特許文献1には、埋設石綿管の撤去方法及びそのための装置が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、ガイド支柱を必要とし、回転駆動源と昇降駆動源に電動モーターを使用しており、一方水の使用は必須であるため、漏電や感電のおそれがある。また、除去作業が石綿管の下方から開始されるために作業開始に時間がかかり、作業開始時に石綿管除去が順調に進んでいるか否かの目視確認ができないまま作業が進行して終了となってしまう。
【0006】
石綿管除去の要求は、ますます高くなってきており、かかる公知技術では不十分であり、更なる改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−226942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、石綿管が埋設されている建造物の解体工事時の石綿の飛散を防止すると共に、石綿管の除去の効率向上と簡便化を目的とし、安全性をも考慮した石綿管の除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、エアーモーターを用いた送水管回転装置を、ワイヤーによって巻き下げ装置につないで、噴射ノズルヘッドから超高圧水を噴射させつつ、該噴射ノズルヘッドを下端に有する送水管を、手動で、該石綿管の上端から下方に向かって移動させながら該石綿管を徐々に除去していき、送水管を構成する送水管ランスの長さが足りなくなった時点で、追加の送水管ランスを、連結器具を用いて継ぎ足しつつ、該石綿管の下端まで水噴射ノズルを移動させることによって、極めて簡便に効率よく安全に石綿管を完璧に除去できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、
建造物内に鉛直に設けられた石綿管を、超高圧水を噴射して除去する方法であって、
下端に噴射ノズルヘッドを備えた送水管ランスからなる送水管をその軸芯の周りにエアーモーターで回転させられるようになっている送水管回転装置を、ワイヤーによって巻き下げ装置につないで、巻き下げが可能なように該石綿管の上端の上部から吊り下げる一方、該石綿管の下端付近には、除去された石綿管の粉砕物と該粉砕物を含有する処理水とを吸引する排水吸引ホースを設け、該排水吸引ホースを吸引装置に接続して吸引できるように配置し、
該噴射ノズルヘッドから超高圧水を噴射させつつ、該噴射ノズルヘッドを下端に有する送水管を、該送水管回転装置を用いてエアーモーターでその軸芯の周りに回転させつつ、該送水管回転装置を、該巻き下げ装置を用いて、手動で、該石綿管の上端から下方に向かって移動させながら該石綿管を徐々に除去していき、
送水管を構成する送水管ランスの長さが足りなくなった時点で、追加の送水管ランスを、連結器具を用いて継ぎ足しつつ、該石綿管の下端まで水噴射ノズルを移動させることによって石綿管を上から下まで除去するとともに、
除去された石綿管の粉砕物を、該粉砕物を含有する処理水と共に吸引装置を用いて吸引除去することを特徴とする石綿管の除去方法に存する。
【0011】
また、本発明は、上記巻き下げ装置を用いて、手動で石綿管の上端から下方に向かって上記噴射ノズルヘッドを移動させながら石綿管を除去していく作業開始段階で、石綿管の上方から目視で石綿管の除去状態を観察することによって、該石綿管の適切な除去条件の確認又は該石綿管の除去条件の適切な除去条件への調整を行った後、更に下方に向かって、上記噴射ノズルヘッドを移動させながら石綿管を除去していく上記の石綿管の除去方法に存する。
【0012】
また、本発明は、上記石綿管の下端付近から上記吸引装置までの間に貯留ドラム缶を設け、該貯留ドラム缶に石綿管の粉砕物を含有する処理水が一定量貯まった時点で、該石綿管の粉砕物を含有する処理水を回収する上記の石綿管の除去方法に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の石綿管の除去方法によれば、巻き下げ装置を用いて、石綿管の上方から下方に向かって噴射ノズルヘッドを移動させながら石綿管を除去していく手段を採っていることから、作業開始の時点で、石綿管の上方から目視で石綿管の除去状態を観察できるので、作業開始時点から該石綿管の粉砕状況にあわせた適切な除去条件の設定が可能になる。すなわち、作業開始段階で、石綿管の上方から目視で石綿管の除去状態を観察することによって、該石綿管が適切な除去条件で除去できているならばそのことの確認ができ、適切な除去条件で除去できていなければ、石綿管の除去条件を適切な除去条件への調整を行うことができる。除去条件は、超高圧水の水圧、噴射ノズルヘッドの下降速度、噴射ノズルヘッドの回転速度、噴射ノズルヘッドの大きさ、噴射ノズルヘッドにおける噴射ノズルの方向(超高圧水の噴射角度)等である。
【0014】
また、石綿管が粉砕されて生じた粉砕物は、超高圧水であった処理水と共に下方に落下するが、落下方向(下方)はまだ石綿管が除去されておらず、従って内壁が平滑であるため、石綿管の粉砕物が途中で詰まり難い。逆に下方から除去を開始すると、落下方向は石綿管が除去された結果、石綿管の外側にあるコンクリートの粗骨材である砂利がむき出しになり、石綿管の粉砕物が途中で詰まってしまう場合がある。なお、石綿管の厚さは、石綿管が除去された結果、内径が大きくなって石綿管の粉砕物が詰まり難くなる程には厚くはない。
【0015】
また、超高圧水は、噴射ノズルヘッドから下方に向かって噴射されることが好ましいが(噴射ノズルは斜め下方に向かっていることが好ましいが)、そのため、石綿管の上方から除去することによって、図8に示したように、超高圧水が石綿管とコンクリートの界面にも噴射されるので、より効率的に石綿管を除去することが可能となる。
【0016】
本発明の石綿管の除去方法によれば、「送水管を下方に向かって備える送水管回転装置」を、ワイヤーによって該石綿管の上端の上部に単に吊り下げるだけなので、送水管のガイド支柱をわざわざ設置する必要がない。ガイド支柱はある程度頑丈である必要があるため、その設置には人手と時間を要するが、本発明ではその必要がない。また、そのことによって、本発明では特に作業開始までの時間を節約できる。
【0017】
また、本発明では、巻き下げ装置のハンドル等をオペレータが手動で回転させ、石綿管の上方から下方に向かって噴射ノズルヘッドを移動させるため、石綿管の粉砕状況に合わせて、水噴射ノズルの下降速度を調節できる。電動で水噴射ノズルの下降を行うと、下降速度の微調整ができない。
【0018】
送水管回転装置の重量は、斜め下方に向かって超高圧水が噴射され、その反作用(反力)によってワイヤーにかかる重量は実際には小さくなるため、送水管回転装置は、単に吊り下げるだけで十分であり、送水管回転装置は巻き下げ装置を用いれば手動であっても上下に容易に移動できる。
【0019】
更に、本発明によれば、該噴射ノズルヘッドを下端に有する送水管を、該送水管回転装置を用いてエアーモーターでその軸芯の周りに回転させるのであって、電気モーターを使用していないので、軽くなることに加えて安全性が格段に向上する。すなわち、本発明は超高圧水の噴射で石綿管を除去するので水の使用は必須であり、漏電やそれによる感電のおそれがあるが、エアーモーターで回転させるのでそのおそれが全くない。また、噴射ノズルヘッドや送水管の下降も上記したように手動で行うので、漏電やそれによる感電のおそれは全くない。
【0020】
また、本発明の石綿管の除去方法は、超高圧水の水圧を除去すべき石綿管の圧縮強度の3倍以上に設定することが好ましい。
【0021】
また、噴射ノズルが、鉛直下方向に対して、好ましくは15°〜80°の範囲から選ばれた1つの噴射角度方向に向けて少なくとも1組の噴射ノズルを備え、石綿管の上方から下方に向かって移動させながら石綿管を徐々に除去していくことによって、石綿管の外側を覆っているコンクリートに含まれる粗骨材を除去しないという優れた効果を奏する。余計な粗骨材が石綿管の粉砕物と共に処理水に含まれてしまうと、産業廃棄物の体積と重量が必要以上に大きくなってしまうが、それを回避することができる。
【0022】
また、本発明の石綿管の除去方法によれば、更に、石綿管の下端付近から吸引装置までの間に貯留ドラム缶を設けることによって、該貯留ドラム缶に石綿管の粉砕物を含有する処理水が一定量貯まった時点で、該石綿管を含有する処理水を汲み取り廃水処理を施せば、そのまま下水処理できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の石綿管の除去方法の全体概要を示す説明図である。
【図2】本発明の石綿管の除去方法における一例の足場養生概要図である。
【図3】本発明の石綿管の除去方法における送水管回転装置の設置状態の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の石綿管の除去方法に使用される送水管回転装置の一例の断面説明図である。
【図5】本発明の石綿管の除去方法に使用される噴射ノズルヘッドの一例を示す断面説明図である。
【図6】本発明の石綿管の除去方法の石綿管の設置状況の一例を示す説明図である。
【図7】本発明の石綿管の除去方法の工程を示す説明図である。
【図8】本発明の石綿管の除去方法における石綿管の除去の状況の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、建造物K内に鉛直に設けられた石綿管40を、超高圧水Sを噴射して除去する方法であって、
下端に噴射ノズルヘッド30を備えた送水管ランス21からなる送水管22をその軸芯の周りにエアーモーター24で回転させられるようになっている送水管回転装置20を、ワイヤー15によって巻き下げ装置14につないで、巻き下げが可能なように該石綿管40の上端の上部から吊り下げる一方、
該石綿管40の下端付近には、除去された石綿管の粉砕物43と該粉砕物を含有する処理水44とを吸引する排水吸引ホース51が設けられ、該排水吸引ホース51を吸引装置60に接続して吸引できるように配置し、
該噴射ノズルヘッド30から超高圧水Sを噴射させつつ、該噴射ノズルヘッド30を下端に有する送水管22を、該送水管回転装置20を用いてエアーモーター24でその軸芯の周りに回転させつつ、
該送水管回転装置20を、該巻き下げ装置14を用いて、手動で、該石綿管40の上端から下方に向かって移動させながら該石綿管40を徐々に除去していき、
送水管22を構成する送水管ランス21の長さが足りなくなった時点で、追加の送水管ランス21を、連結器具23を用いて継ぎ足しつつ、該石綿管40の下端まで噴射ノズル31を移動させることによって石綿管40を上から下まで除去すると共に、
除去された石綿管の粉砕物43を、該粉砕物を含有する処理水44と共に吸引装置60を用いて吸引除去することを特徴とするものである。
【0025】
以下、図面を基に本発明を説明するが、本発明は、本発明の技術的思想の範囲内であれば、以下の具体的説明や図面の具体的態様には限定されない。
【0026】
図1は、本発明の石綿管の除去方法の全体概要を示す説明図である。
<各装置の配置>
(1)石綿管40が埋設される多数階の建造物Kの屋上に工事機材を搬入し、単管足場11を仮設すると共に、建造物Kの各階の作業現場を要すればビニールシート18で養生し、途中階の上方に設けられる排熱口67を封鎖板68で封鎖する。
(2)単管足場11の梁用パイプ13に回転リール17を吊り下げ、鋼管パイプ12の一部に、巻き下げ装置14を取り付ける。
(3)送水管回転装置20、送水管22(最初は第1段目送水管ランス21a)、連結器具23、噴射ノズルヘッド30を準備し、巻き下げ装置14からのワイヤー15を、送水管回転装置20のフック26に掛けて吊り下げる。
(4)水道水蛇口ホース69を超高圧水発生装置63に接続する。
(5)超高圧水発生装置63の超高圧水ホース64を、回転リール17を介して送水管回転装置20に接続する。スイベルロータリージョイント25を介在させて、超高圧水Sが漏れないように回転体と静止体を接続する。
(6)圧縮空気発生装置65の圧縮空気ホース66を、回転リール17を介して送水管回転装置20に接続する。
(7)送水管回転装置20を、これから除去する石綿管40に対して、真上に鉛直になるようにセットする。
(8)石綿管40の下端付近に、除去された石綿管の粉砕物43と該粉砕物を含有する処理水44とを吸引する排水吸引ホース51を設け、該排水吸引ホース51を吸引装置60に接続して吸引できるように配置する。石綿管40の下端付近の石綿管に横抜き管がある場合はそれを利用したり、カッターで穴をあけたりして排水口67を設けることもできる。
(9)好ましくは、建造物Kの下方の石綿管40の下端42を、排水吸引ホース51を用いて貯留ドラム缶53に接続する。そして、貯留ドラム缶53と排水回収装置62とを、吸引ホース61を用いて接続する。
(10)車両に積載されている超高圧水発生装置63の超高圧水ホース64を建造物Kの屋上の送水管回転装置20にスイベルロータリージョイント25で接続する。
(11)車両に積載されている圧縮空気発生装置65の圧縮空気ホース66を、建造物Kの屋上の送水管回転装置20のエアーモーター24に接続する。
【0027】
<石綿管の除去作業の手順>
(1)超高圧水発生装置63と圧縮空気発生装置65を稼動させて、送水管ランス21の噴射ノズルヘッド30から超高圧水Sを噴射すると共に、送水管22と噴射ノズルヘッド30を回転させる。
(2)上記巻き下げ装置14を用いて、手動で石綿管40の上端から下方に向かって上記噴射ノズルヘッド30を移動させながら石綿管40を除去していく作業開始段階で、石綿管40の上方から目視で石綿管40の除去状態を観察することによって、該石綿管40の適切な除去条件の確認又は該石綿管40の除去条件の適切な除去条件への調整を行う。
(3)この時、噴射ノズルヘッド30の大きさ、噴射ノズル31の種類、噴射角度α、噴射圧、回転数等を、石綿管40の粉砕状況を確認して、必要ならば調整する。
(4)粉砕状況を上方から目視で確認しながら、巻き下げ装置14を用いて送水管回転装置20とそれに接続している送水管22を手動で巻き降ろして、送水管22を下方に移動させていく。すなわち、下方に向かって、上記噴射ノズルヘッド30を移動させながら石綿管40を除去していく。その際、オペレータPは、巻き下げ装置14の好ましくはハンドル27を手動で回して、吊り下げられた送水管回転装置20を降ろしていく。
(5)粉砕除去された石綿管の粉砕物43と該粉砕物を含有する処理水44とを、排水吸引ホース51を用いて貯留ドラム缶53に貯留する。
(6)噴射ノズルヘッド30を下端に有する第1段目送水管ランス21aを、送水管回転装置20を用いてエアーモーター24でその軸芯の周りに回転させつつ、巻き下げ装置14を用いて、手動で、該石綿管40の上端から下方に向かって移動させる。
(7)送水管22を構成する第1段目送水管ランス21aの長さが足りなくなった時点で、追加の第2段目以降送水管ランス21bを、連結器具23を用いて継ぎ足す。
(8)石綿管40の下端まで噴射ノズル31を移動させることによって、石綿管40を上端から下端まで全て除去する。
(9)その間、除去された石綿管の粉砕物43は、該粉砕物を含有する処理水44と共に吸引装置60を用いて吸引除去され、貯留ドラム缶53に貯留される。
【0028】
<更に追加される好ましい作業手順>
(10)貯留ドラム缶53に貯留された石綿管の粉砕物43と処理水とは、要すればノッチタンク54等に移され、オーバーフローさせることによって、石綿管の粉砕物43と処理水とにできる限り分離する。
(11)石綿管の粉砕物43が濃縮された処理水を、特別産業廃棄物として処理する。
【0029】
図2は、本発明の石綿管の除去方法に用いられる単管足場11の一例を示す概要図である。単管足場11は、建造物Kの屋上に鋼管パイプ12を仮設して組み立てられ、要すれば、周囲をビニールシート18で覆って養生され、巻き下げ装置14や回転リール17を梁用パイプ13に取り付けた作業用の足場である。単管足場11の天井部に設けられる梁用パイプ13に回転リール17を吊り下げ、鋼管パイプ12に巻き下げ装置14を取り付け、送水管22や噴射ノズルヘッド30を備える送水管回転装置20のフック26に巻き下げ装置14からのワイヤー15を掛けて装備されるものである。
【0030】
巻き下げ装置14は、鋼管パイプ12の一部に取り付けられ、石綿管40の粉砕状況を確認しながら、足場上のオペレータPが手動でワイヤー15を巻き下げて石綿管40内の送水管22を下方に移動させる。下方への移動速度は、効率よく石綿管40が除去できれば特に限定はないが、5〜80cm/分が効率のよい石綿管40の除去のために好ましく、7〜50cm/分がより好ましく、10〜30cm/分が特に好ましい。後述するが、送水管ランス21の最も好適な長さは約2mであるので、1個の送水管ランス21を、その長さ分だけ降下させるのに要する時間は、5分〜40分が好ましく、10分〜20分が特に好ましい。すなわち、上記時間経過ごとに、次の送水管ランス21(2段目以降送水管ランス21b)を継ぎ足すことが好ましい。ここで、「送水管ランス21(21a、21bも含む)」とは、連結器具23で複数本つなぎ込まれて送水管22を形成する1本ずつのものをいう。
【0031】
回転リール17は、超高圧水ホース64と圧縮空気ホース66を梁用パイプ13に引っ掛けて使用するもので、送水管回転装置20の上方に設置される。
【0032】
図3は、本発明の石綿管の除去方法の送水管回転装置20の設置状態を示す説明図である。ワイヤー15を送水管回転装置20のフック26に掛け、石綿管40の上端真上にセットし、超高圧水Sによる噴射と、エアーモーター24による送水管22の回転と、巻き下げ装置14からのワイヤー15による吊り下げによって、送水管22の下端(すなわち、1段目送水管ランス21aの下端)に設置された噴射ノズルヘッド30を、石綿管40の上方から下方に移動させつつ石綿管40を破壊して除去する。
【0033】
図4は、本発明の石綿管の除去方法に使用される送水管回転装置20の断面説明図である。送水管回転装置20は、超高圧水Sを送水管22に送る機能と、エアーモーター24により送水管22を回転させる機能と、ワイヤー15によって吊り下げられる機能を少なくとも有するもので、上部には、超高圧水ホース64が接続されるスイベルロータリージョイント25を設け、エアーモーター24によって送水管22を回転させると共に、更に送水管22の先端部の噴射ノズルヘッド30に超高圧水Sを送れるような構造を有している。
【0034】
例えば、全長30cm〜70cm程度、幅径7〜30cm程度の略筒体の形状を有しており、全体を吊り下げて石綿管40の真上の位置で稼動して、オペレータPによって手動で下方に移動させられるものである。
【0035】
第1段目送水管ランス21aは、送水管ランス21同士を結合させる連結器具23と噴射ノズルヘッド30で構成されるものである。送水管22は、石綿管40を上方から一定の長さの除去作業が終了するたびに、連結器具23によって、送水管ランス21を継ぎ足して延長されるものである。
【0036】
送水管22は、超高圧発生装置63から送られる超高圧水Sを導き、更に送水管回転装置20内に備えられるエアーモーター24によって送水管22自体が回転し、先端部には噴射ノズルヘッド30が接続されているもので、約2m単位で連結器具23によって石綿管40の長さにあわせて継ぎ足されて使用されるものである。
【0037】
エアーモーター24は、コンプレッサー等の圧縮空気発生装置65から、圧縮空気ホース66を介して送水管回転装置20に接続されるもので、その特徴としては、軽量・小型であり作業性が良いことや、現場で電気を使用しないため、漏電やそれによる感電の心配がなく作業上の安全性が高いことが挙げられる。エアーモーター24による送水管22の軸周りの回転数、すなわち噴射ノズルヘッド30の回転数は、効率よく石綿管40が除去できれば特に限定はないが、100rpm〜1000rpmが効率のよい石綿管40の除去のために好ましく、130rpm〜700rpmがより好ましく、200rpm〜500rpmが特に好ましい。
【0038】
超高圧水Sの水圧は、石綿管40が除去でき不必要に高過ぎなければ特に限定はないが、除去すべき石綿管40の圧縮強度の3倍以上に設定することが好ましい。
【0039】
図5は、本発明の石綿管の除去方法に使用される噴射ノズルヘッド30の一例を示す断面説明図である。噴射ノズルヘッド30は、送水管22の先端部に装着され、送水管22と共に回転し、超高圧水Sを噴射ノズル31の噴射口32から噴射して、石綿管40を除去する。噴射ノズルヘッド30は、形状的には特に限定はなく、石綿管40の内径等を勘案して決められる。
【0040】
噴射ノズルヘッド30は噴射ノズル31を備えている。噴射ノズル31は、下方に向かって超高圧水Sを噴射できるようになっていることが好ましい。より好ましい噴射ノズルヘッド30は、鉛直下方向に対して斜め15°〜80°の範囲から選ばれた1つの角度の方向に噴射する少なくとも1組の噴射ノズル31を有するものである。すなわち、噴射角度αは、石綿管の除去の効率の高さの点から、より好ましくは15°〜80°、特に好ましくは20°〜65°の範囲である。噴射ノズルヘッド30と噴射ノズル31は、超高圧水Sをこの角度で噴射させつつ、石綿管40の上端41から下端42に向かって移動させながら、石綿管40を徐々に除去していくようになっている。
【0041】
噴射ノズル31の直径、噴射ノズルヘッド30の1組の噴射ノズル31の個数、組数等は、石綿管40の除去の効率等を勘案して決められる。図5は、「1組の噴射ノズル」が「2個の噴射ノズル」であり、噴射ノズル31が左右対称に位置している噴射ノズルヘッド30を示している。
【0042】
図6は、石綿管40の設置の代表的な形態を示す説明図である。石綿管40は、建造物Kの、主に排熱、排煙等のために使用されているもので、石綿と接着剤の役目をするセメントで形成されている。石綿管40は、通常は、モルタルと粗骨材(砂利等)で形成されているコンクリート45で囲まれている。
【0043】
石綿管40は、ジョイント金具46で継ぎ目47を有して連結され、コンクリート45内に埋設されている。一般的な埋設形態については、コンクリート45の壁厚100〜300mmであり、石綿管40の1本の長さは約3m前後、石綿管40の厚みは5〜25mm、内径はおおよそ100〜200mmである。
【0044】
図7は、本発明の石綿管の除去方法の工事状況を示す説明図である。
(a):
超高圧水発生装置63から延びてきた超高圧水ホース64を、回転リール17を介して送水管回転装置20に接続し、圧縮空気発生装置65から延びてきた圧縮空気ホース66を、回転リール17を介して送水管回転装置20に接続する。また、巻き下げ装置14から延びてきたワイヤー15を送水管回転装置20のフック26に掛けて、送水管回転装置20を石綿管40の上方真上にセットする。図7(a)参照。
【0045】
次いで、超高圧水発生装置63と圧縮空気発生装置65を稼動させて、第1段目送水管ランス21aの下端にある噴射ノズルヘッド30から超高圧水Sを噴射すると共に、送水管回転装置20を用いて、送水管22(現段階では第1段目送水管ランス21a)をエアーモーター24で回転させて、建造物Kに埋設されている石綿管40の内面を粉砕除去する作業を開始する。
【0046】
巻き下げ装置14を手動で回転させてワイヤー15を緩めて、すなわち巻き下げ装置14のワイヤー15を手動で巻き下げて、第1段目送水管ランス21aを下方に移動させつつ、石綿管40の除去作業を進行させていく。送水管22はエアーモーター24で送水管22の中心軸を中心に回転しているので、噴射ノズルヘッド30から石綿管40の内壁の円周方向全てに均一に超高圧水Sが噴射されつつ下方に移動するようになっている。
【0047】
(b):
上記のようにして、第1段目送水管ランス21aのほぼ全てを下方に移動させる。すなわち、第1段目送水管ランス21aの長さの石綿管40を除去し終える。そうすると、送水管22の長さが足りなくなるので、超高圧水Sの噴射と送水管22の回転を一旦止めて、送水管回転装置20と第1段目送水管ランス21aとを切り離す。図7(b)参照。
【0048】
(c):
切り離したら、巻き下げ装置14を用いてワイヤー15を手動で巻き上げ、送水管回転装置20を、ほぼ第2段目以降送水管ランス21bの長さ分だけ引き上げ、第2段目の送水管ランス21を連結器具23で継ぎ足して、再び送水管22を、石綿管40内を下方に移動させて粉砕除去作業を進める。このときの送水管22は、第1段目送水管ランス21aと第2段目以降送水管ランス21bとから構成されている。図7(c)参照。
【0049】
(d):
第2段目の送水管ランス21bがほぼ全て下方に移動しきった段階で、更に第3段目の送水管ランス21を、(b)及び(c)の操作で継ぎ足し、同様に送水管22や噴射ノズルヘッド30を回転させつつ超高圧水Sを噴射させて、下方に移動させ石綿管40を除去していく。図7(d)参照。
【0050】
(e):
(b)〜(d)を繰り返し行い、第2段目以降送水管ランス21bを継ぎ足していき、噴射ノズルヘッド30を石綿管40の最下端まで移動させ、石綿管40を除去し終える。除去し終わったら、送水管22を、巻き下げ装置14を用いて手動で引き上げ、連結器具23を解いて、送水管22を第2段目以降送水管ランス21bと第1段目送水管ランス21aに切り離しつつ、送水管22を抜き取る。図示せず。
【0051】
図8は、本発明の石綿管の除去方法における、除去の状況の一例を示す説明図である。石綿管40を、送水管ランス21の噴射ノズル31から噴射される超高圧水Sで粉砕除去する状況を示すもので、上方から下方に移動させて石綿管40を除去する方法を採用することで、石綿管40とコンクリート45の界面にも超高圧水Sが当たり、石綿管40が容易に除去できる様子を示すものある。また、石綿管の粉砕物43は、まだ粉砕されていない内壁が平坦な石綿管40内を落下するので、途中で詰まることが少ない。
【0052】
本発明においては、上記石綿管40の下端付近から上記吸引装置60までの間に貯留ドラム缶53を設け(図1参照)、該貯留ドラム缶53に石綿管の粉砕物43を含有する処理水が一定量貯まった時点で、該石綿管の粉砕物43を含有する処理水を移動又は回収することも好ましい。すなわち、粉砕除去された石綿管40の下端42から、排水吸引ホース51を用い、石綿管の粉砕物43とそれを含有する処理水44を、吸引装置60の吸引力で貯留ドラム缶53に一旦送り、その後、それらを移動又は回収することも好ましい。ただし、本発明においては、貯留ドラム缶53は必須のものではない。
【0053】
貯留ドラム缶53を用いる場合には、貯留ドラム缶53に貯まった「石綿管の粉砕物43と石綿管の粉砕物43を含有する処理水44」は、例えば、ノッチタンク54に移され濃縮されて、要すればセメント固化処理し、特別産業廃棄物として廃棄する。
【0054】
排水吸引ホース51は、石綿管40の下端42付近から貯留ドラム缶53までの間に設けられるもので、石綿管の粉砕物43と石綿管の粉砕物43を含有する処理水44を貯留ドラム缶53に送る役目を果たすものである。貯留ドラム缶53がないときは、排水吸引ホース51と吸引ホース61は連結される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の超高圧水の噴射を用いた石綿管の除去方法は、石綿管の除去効率、感電に対する安全性、石綿の飛散に対する安全性、作業開始までの時間短縮、装置の簡便性等に優れているため、石綿管が埋設されているあらゆる建造物に対して広く利用されるものである。
【符号の説明】
【0056】
11 単管足場
12 鋼管パイプ
13 梁用パイプ
14 巻き下げ装置
15 ワイヤー
17 回転リール
18 ビニールシート
20 送水管回転装置
21 送水管ランス
21a 第1段目送水管ランス
21b 第2段目以降送水管ランス
22 送水管
23 連結器具
24 エアーモーター
25 スイベルロータリージョイント
26 フック
27 ハンドル
30 噴射ノズルヘッド
31 噴射ノズル
32 噴射口
40 石綿管
41 上端
42 下端
43 石綿管の粉砕物
44 粉砕物を含有する処理水
45 コンクリート
46 ジョイント金具
47 継ぎ目
51 排水吸引ホース
53 貯留ドラム缶
54 ノッチタンク
60 吸引装置
61 吸引ホース
62 排水回収装置
63 超高圧水発生装置
64 超高圧水ホース
65 圧縮空気発生装置
66 圧縮空気ホース
67 排熱口又は排水口
68 封鎖板
69 水道水蛇口ホース
K 建造物
S 超高圧水
P オペレータ
α 噴射角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物内に鉛直に設けられた石綿管を、超高圧水を噴射して除去する方法であって、下端に噴射ノズルヘッドを備えた送水管ランスからなる送水管をその軸芯の周りにエアーモーターで回転させられるようになっている送水管回転装置を、ワイヤーによって巻き下げ装置につないで、巻き下げが可能なように該石綿管の上端の上部から吊り下げる一方、該石綿管の下端付近には、除去された石綿管の粉砕物と該粉砕物を含有する処理水とを吸引する排水吸引ホースを設け、該排水吸引ホースを吸引装置に接続して吸引できるように配置し、
該噴射ノズルヘッドから超高圧水を噴射させつつ、該噴射ノズルヘッドを下端に有する送水管を、該送水管回転装置を用いてエアーモーターでその軸芯の周りに回転させつつ、該送水管回転装置を、該巻き下げ装置を用いて、手動で、該石綿管の上端から下方に向かって移動させながら該石綿管を徐々に除去していき、送水管を構成する送水管ランスの長さが足りなくなった時点で、追加の送水管ランスを、連結器具を用いて継ぎ足しつつ、該石綿管の下端まで水噴射ノズルを移動させることによって石綿管を上から下まで除去すると共に、除去された石綿管の粉砕物を、該粉砕物を含有する処理水と共に吸引装置を用いて吸引除去することを特徴とする石綿管の除去方法。
【請求項2】
上記巻き下げ装置を用いて、手動で石綿管の上端から下方に向かって上記噴射ノズルヘッドを移動させながら石綿管を除去していく作業開始段階で、石綿管の上方から目視で石綿管の除去状態を観察することによって、該石綿管の適切な除去条件の確認又は該石綿管の除去条件の適切な除去条件への調整を行った後、更に下方に向かって、上記噴射ノズルヘッドを移動させながら石綿管を除去していく請求項1記載の石綿管の除去方法。
【請求項3】
上記超高圧水の水圧を、除去すべき石綿管の圧縮強度の3倍以上に設定する請求項1又は請求項2記載の石綿管の除去方法。
【請求項4】
上記噴射ノズルヘッドが、鉛直下方向に対して斜め15°〜80°の範囲から選ばれた1つの角度の方向に噴射する少なくとも1組の噴射ノズルを有するものである請求項1ないし請求項3のいずれかの請求項記載の石綿管の除去方法。
【請求項5】
上記石綿管の下端付近から上記吸引装置までの間に貯留ドラム缶を設け、該貯留ドラム缶に石綿管の粉砕物を含有する処理水が一定量貯まった時点で、該石綿管の粉砕物を含有する処理水を回収する請求項1ないし請求項4のいずれかの請求項に記載の石綿管の除去方法。
【請求項6】
上記石綿管の下端付近から上記貯留ドラム缶までの間に排水吸引ホースを設け、上記貯留ドラム缶から吸引装置までの間に吸引ホースを設ける請求項5記載の石綿管の除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−208368(P2011−208368A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74263(P2010−74263)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(390020422)日進機工株式会社 (7)
【Fターム(参考)】