説明

石膏系成形体及びその製造方法

【課題】耐火性能のさらなる向上を十分に図ることができる石膏系成形体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】石膏をマトリックスとして、繊維を0.8〜9.8質量%、コレマナイトを8.5〜85質量%含有する石膏系成形体とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石膏系成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水和性石膏を水和反応させた石膏系成形体は、マトリックスを形成する二水石膏が結晶水を多く含んでいる。このような石膏系成形体においては、100〜200℃に加熱されると、上記結晶水が離脱して放出されることにより、温度上昇が抑制され、耐火性能に優れることから、間仕切壁等の内装建材として広く使用されている。なお、石膏系成形体を自立壁材として使用する場合には、リブが設けられていると好適である(例えば、下記特許文献1等参照)ことから、押出成形法(例えば、下記特許文献2等参照)により製造されることが多い。他方、板状の石膏系成形体を製造する場合には、抄造法(例えば、下記特許文献3等参照)により製造されることが多い。このような押出成形法や抄造法によって製造される石膏系成形体は、代表的な石膏系成形体である石膏プラスタボードのような表裏面の紙が不要であるので、石膏プラスタボードよりもさらに優れた耐火性能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−205022号公報
【特許文献2】特開平1−051359号公報
【特許文献3】特開昭60−042267号公報
【特許文献4】特開平1−224252号公報
【特許文献5】特開平6−001645号公報
【特許文献6】特開2007−303953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述したような石膏系成形体においては、前記結晶水が100〜200℃の温度で離脱してしまうと、温度が急速に上昇してしまうことから、200℃以上の温度で結晶水の離脱反応を生じる化合物をさらに含有させることにより、耐火性能のさらなる向上を図ることが考えられている。
【0005】
このため、例えば、200〜230℃の温度で結晶水の離脱反応を生じる水酸化アルミニウムを前記石膏系成形体にさらに混合することが考えられるものの、水酸化アルミニウムの結晶水の離脱温度が二水石膏の結晶水の離脱温度に近いことから、耐火性能のさらなる向上を十分に図りにくくなっていた。
【0006】
このようなことから、本発明は、耐火性能のさらなる向上を十分に図ることができる石膏系成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決するための、本発明に係る石膏系成形体は、石膏をマトリックスとして、繊維を0.8〜9.8質量%、コレマナイトを8.5〜85質量%含有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る石膏系成形体は、上述した石膏系成形体において、前記コレマナイトの含有量が20質量%以上であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る石膏系成形体は、上述した石膏系成形体において、前記コレマナイトとの合計量が85質量%以下となるように、充填材を含有していることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る石膏系成形体は、上述した石膏系成形体において、1m2面積当たりの1mmの厚さ当たりに含有する単位コレマナイト量UCが145g以上であると共に、3mm以上の厚さを有していることを特徴とする。
【0011】
他方、前述した課題を解決するための、本発明に係る石膏系成形体の製造方法は、水和性石膏10〜89質量%と、繊維1〜10質量%と、コレマナイト10〜86.2質量%とを含む固形原料に対して、水を加えて混合し、成形した後に養生して硬化させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る石膏系成形体の製造方法は、上述した石膏系成形体の製造方法において、前記固形原料の前記コレマナイトの割合が23.3質量%以上であり、前記固形原料の前記水和性石膏の割合が75.6質量%以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る石膏系成形体の製造方法は、上述した石膏系成形体の製造方法において、前記コレマナイトとの合計量が86.2質量%以下となるように、前記固形原料が充填材を含んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る石膏系成形体及びその製造方法によれば、コレマナイトを8.5〜85質量%(より好ましくは20〜85質量%)含有することから、マトリックスを形成している二水石膏の結晶水の離脱温度(100〜200℃)や水酸化アルミニウムの結晶水の離脱温度(200〜230℃)よりも高い温度領域(400℃)でも結晶水をさらに離脱させることができるので、耐火性能のさらなる向上を十分に図ることができ、高性能な耐火間仕切壁等の内装建材として好適に利用することができる。さらに、1m2面積当たりの1mmの厚さ当たりに含有する単位コレマナイト量UCが145g以上であると共に、3mm以上の厚さを有していると、中性子遮蔽性能を向上させることができるので、半導体製造工場やコンピュータルーム等の内装建材として使用すれば、宇宙から地上に降り注ぐ中性子による半導体製品の不良品発生やコンピュータの誤作動の防止等を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る石膏系成形体及びその製造方法の効果を確認するために行った確認試験Bにおける試験体3の示差熱分析(TG−DTA)結果を表すチャートである。
【図2】本発明に係る石膏系成形体及びその製造方法の効果を確認するために行った確認試験Bにおける試験体4の示差熱分析(TG−DTA)結果を表すチャートである。
【図3】本発明に係る石膏系成形体及びその製造方法の効果を確認するために行った確認試験Bにおける試験体6の示差熱分析(TG−DTA)結果を表すチャートである。
【図4】本発明に係る石膏系成形体及びその製造方法の効果を確認するために行った確認試験Bにおける試験体8の示差熱分析(TG−DTA)結果を表すチャートである。
【図5】本発明に係る石膏系成形体及びその製造方法の効果を確認するために行った確認試験Bにおける比較体1の示差熱分析(TG−DTA)結果を表すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る石膏系成形体及びその製造方法の実施形態を以下に説明するが、本発明は以下に説明する実施形態のみに限定されるものではない。
【0017】
本実施形態に係る石膏系成形体は、石膏をマトリックスとして、繊維を0.8〜9.8質量%、コレマナイトを8.5〜85質量%(より好ましくは20〜85質量%)含有するものである。
【0018】
上記石膏としては、II型無水石膏やα−半水石膏やβ−半水石膏等のような水和性石膏が挙げられ、当該水和性石膏を水和反応させて硬化させることにより二水石膏としてマトリックスを形成している。
【0019】
上記繊維は、成形する際の成形助材であると共に、成形後の補強の役割を担うものであり、セルロースパルプを必須とし、ガラス繊維,炭素繊維,ガラスウール,ロックウール,セラミックスウール等のような無機質繊維や、ポリアミド,ポリプロピレン,ポリビニルアルコール(ビニロン),ポリエステル,ポリエチレン,アクリル等の合成繊維等のような補強繊維を上記セルロースパルプの一部と置き換えて利用することができる。
【0020】
上記繊維は、その含有量を0.8〜9.8質量%にする必要がある。なぜなら、上記繊維の含有量が0.8質量%未満であると、十分に補強することが難しくなってしまう一方、上記繊維の含有量が9.8質量%を越えると、前記マトリックス中への当該繊維の分散にムラを生じやすいと共に、均質性や表面平滑性が低下してしまうだけでなく、不燃性能の低下を引き起こしやすくなってしまうからである。
【0021】
このとき、上記セルロースパルプの含有量が0.8質量%未満にならないようにすると共に、上記セルロースパルプと上記補強繊維との合計含有量が9.8質量%を超えないようにする必要がある。なお、上記補強繊維は、その長さが10mm以下(好適には6mm以下)であると好ましく、その含有量が、2.8質量%以下であると好ましい。
【0022】
また、上記セルロースパルプは、必要に応じて、パルパー、ディスクリファイナー、コーン型リファイナー、ディスインテグレータ、ハンマーミル等のような湿式や乾式の汎用の粉砕機や解繊機等によって、叩解を予め施しておくと好ましい。叩解度としては、カナダ標準フリーネス(CSF)で700〜50mlの範囲であると好ましい。
【0023】
カルシウム系硼酸鉱物の一種である上記コレマナイト(2CaO・3B23・5H2O)は、その含有量を8.5〜85質量%(より好ましくは20〜85質量%)にする必要がある。なぜなら、コレマナイトの含有量が8.5質量%未満であると、耐火性能のさらなる向上を十分に図ることが難しくなってしまい、コレマナイトの含有量が85質量%を超えると、強度の低下を引き起こしやすくなってしまうからである。
【0024】
また、上記石膏系成形体は、必要に応じて、石灰石(炭酸カルシウム),珪石,スラグ,フライアッシュ,二水石膏,マイカ,ウォラストナイト等のような粉末や粘土類、パーライト,バーミキュライト,シラスバルーン等のような軽量材、製品の廃材の粉砕品(スクラップ)等の充填材を上記コレマナイトの一部と置き換えて含有することも可能である。
【0025】
このとき、上記コレマナイトの含有量が8.5質量%未満にならないようにすると共に、上記コレマナイトと上記充填材との合計含有量が85質量%を超えないようにする必要がある。なお、上記充填材の含有量は、20質量%以下であると好ましい。
【0026】
このような石膏系成形体を製造する本実施形態に係る石膏系成形体の製造方法は、水和性石膏10〜89質量%(より好ましくは10〜75.6質量%)と、繊維1〜10質量%と、コレマナイト10〜86.2質量%(より好ましくは23.3〜86.2質量%)とを含む固形原料に対して、水を加えて混合し、成形した後に養生して硬化させるようにする。
【0027】
ここで、上記水和性石膏として、上記II型無水石膏を使用する場合には、水和反応速度が遅いことから、水和反応を促進させる反応速度調整剤(硬化促進剤)を適用すると好ましい。他方、上記水和性石膏として、α−半水石膏やβ−半水石膏を使用する場合には、水和反応速度が速いことから、水和反応を遅延させる反応速度調整剤(硬化遅延剤)を適用すると好ましい。
【0028】
上記硬化促進剤としては、Na2SO4,K2SO4等のような硫酸塩、KAl(SO42・12H2O等のようなミョウバン類、NaCl,CaCl2等の塩化物、Na2CO3等のような炭酸塩、NaNO3,NH4NO3等のような硝酸塩等の公知のものを挙げることができ、これらを単独又は併用して利用することができる。
【0029】
上記硬化遅延剤としては、カルボン酸(塩類含む),アミノ酸(塩類含む),蛋白質(変性体含む)等の公知のものを挙げることができ、これらを単独又は併用して利用することができる。
【0030】
上記反応速度調整剤は、上記水和性石膏100質量%に対して、0.005〜3.0質量%(好ましくは0.01〜2.0質量%)の割合(外割)で使用すると好ましい。
【0031】
なお、押出成形により製造する場合には、押出成形を行うための助剤として、増粘剤を固形原料(反応速度調整剤を除く)に対して0.2〜2.0質量%の割合(外割)で加えておくと好ましい。
【0032】
上記増粘剤としては、エチレンオキシド重合体、アクリルアミド重合体、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のような水溶性高分子剤等が挙げられる。
【0033】
また、上記繊維の混合量は、1〜10質量%にする必要がある。なぜなら、上記繊維の混合量が1質量%未満であると、成形体を十分に補強することが難しくなってしまう一方、上記繊維の混合量が10質量%を越えると、成形時に前記マトリックス中に当該繊維が十分に分散しにくくなってしまうと共に、成形体の均質性や表面平滑性が低下してしまうだけでなく、不燃性能の低下を引き起こしやすくなってしまうからである。
【0034】
ここで、上記繊維(セルロースパルプ)の一部を必要に応じて前記補強繊維に置き換えて混合することも可能である。このとき、上記セルロースパルプの混合量が上記下限値未満にならないようにすると共に、上記セルロースパルプと上記補強繊維との合計混合量が上記上限値を超えないようにする必要がある。なお、上記補強繊維の混合量は、3質量%以下にすると好ましい。
【0035】
また、上記コレマナイトの混合量は、10〜86.2質量%(より好ましくは23.3〜86.2質量%)にする必要がある。なぜなら、コレマナイトの含有量が10質量%未満であると、成形体において、耐火性能のさらなる向上を十分に図ることが難しくなってしまい、コレマナイトの含有量が86.2質量%を超えると、成形体の強度の低下を引き起こしやすくなってしまうからである。
【0036】
ここで、上記コレマナイトの一部を必要に応じて前記充填材に置き換えて混合することも可能である。このとき、上記コレマナイトの混合量が上記下限値未満にならないようにすると共に、上記コレマナイトと上記充填材との合計混合量が上記上限値を超えないようにする必要がある。なお、前記充填材の混合量は、20質量%以下にすると好ましい。
【0037】
このような各種原料を用いて、押出成形法や抄造法やモールドプレス成形法等のような各種方法により、上述した石膏系成形体を製造することができる。
【0038】
具体的には、例えば、押出成形法により製造する場合には、アイリッヒ型ミキサー等のような混合機に上記固形原料や上記増粘剤を投入して高速攪拌することにより均一に混合してから、当該固形原料に対して約25質量%の割合(外割)の水(混練水)を加えながらさらに均一に混合して混合物とした後、当該混合物を双腕式ニーダー等のような混合機に投入して均一に混練することにより、混練物を得る。なお、反応速度調整剤を添加する場合には、上記水(混練水)に予め混合しておいて当該水(混練水)と共に上記固形原料に加えることも可能である。
【0039】
そして、上記混練物をスクリュー型真空押出成形機等のような押出成形機により押出成形して、未硬化成形体を得た後、当該未硬化成形体を養生して硬化させることにより、石膏系成形体を得ることができる。
【0040】
また、例えば、抄造法により製造する場合には、パルパー等のような混合装置に前記固形原料を投入すると共に、当該固形原料の濃度が3〜10質量%程度となるように水を加えて混合することにより原料スラリを製造した後、当該スラリを抄造機により抄造し、当該抄造機のメイキングロールに所定の厚さまで巻き取って未硬化成形体を得た後、当該未硬化成形体を必要に応じてプレス機で加圧成形してから、養生して硬化させることにより、石膏系成形体を得ることができる。
【0041】
なお、このような抄造法により製造する場合には、前記繊維を3質量%以上とすると、抄造性を高めることができるので、好ましい。また、反応速度調整剤を添加する場合には、上記水に予め混合しておいて当該水と共に上記固形原料に加えることも可能である。
【0042】
上記養生は、水和性石膏として、II型無水石膏を使用した場合には、例えば、0〜22℃の温度範囲で行われ(例えば、上記特許文献3等参照)、水和性石膏として、α−半水石膏やβ−半水石膏等の半水石膏を使用した場合には、例えば、室内での普通養生により行われる。このような養生により、水和性石膏が水と反応して二水石膏を生成しマトリックスを形成して硬化する。
【0043】
なお、養生が終了した時点における二水石膏への反応割合(二水化率)は、II型無水石膏の場合には、モル比で約55〜85%の範囲であり、半水石膏の場合には、ほぼ100%に近く、大半が二水石膏に反応しており、未反応のまま残存する半水石膏がごくわずかとなっている。
【0044】
このようにして養生して硬化した成形体を必要に応じて乾燥、加工(研磨、切断等)等することにより、見掛け密度が1.6〜1.7g/cm3程度の石膏系成形体を製造することができる。
【0045】
このようにして製造された石膏系成形体は、コレマナイトを8.5〜85質量%(より好ましくは20〜85質量%)含有していることから、二水石膏の結晶水の離脱温度(100〜200℃)や水酸化アルミニウムの結晶水の離脱温度(200〜230℃)よりも高い温度領域(400℃)でも結晶水をさらに離脱させることができるので、耐火性能のさらなる向上を十分に図ることができ、高性能な耐火間仕切壁等の内装建材として好適に利用することができる。
【0046】
また、1m2面積当たりの1mmの厚さ当たりに含有する単位コレマナイト量UCが145g以上であると共に、3mm以上の厚さを有していると、中性子遮蔽性能を向上させることができるので、例えば、半導体製造工場やコンピュータルーム等の内装建材として使用すれば、半導体製品の中性子による不良品発生の防止や、コンピュータの中性子による誤作動の防止等を図ることができる。
【0047】
さらに、コレマナイトが、抗菌性や抗カビ性や防藻性を有していることから、抗菌性や抗カビ性や防藻性を要求される箇所の建材として好適に利用することができる。
【0048】
なお、石膏系成形体は、その形状が特に限定されることはなく、平坦な板型をなす形状はもちろんのこと、例えば、リブ部を有する形状等であっても、本発明を適用することができる。
【0049】
また、上述した実施形態においては、押出成形法や抄造法によって製造する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、モールドプレス成形法による加圧脱水法等のような他の公知の方法によっても製造することができる。
【0050】
ところで、上記繊維、上記コレマナイト、上記充填材は、石膏系成形体における含有割合範囲と、製造時における混合割合範囲とにおいて、その数値に差異があるが、これは、上記水和性石膏が水と反応して二水和物となり、当該石膏の1モル当たりの分子量が変化するからである。
【実施例】
【0051】
本発明に係る石膏系成形体及びその製造方法の効果を確認するため、以下のような確認試験を行った。
【0052】
[試験体の作製]
下記の表1に示す原料を下記の表2,3に示す割合でアイリッヒ型ミキサーに投入して高速回転で乾式混合(1分間)してから、混練水を添加しながら低速回転で湿式混合(5分間)することにより混合物を得た後、当該混合物を双腕式ニーダーに投入して混練することにより(10分間)、上記原料を均一に分散させた混練物1〜5をそれぞれ得た。次に、上記混練物1〜5をスクリュー型真空押出成形機に投入して、下記の表4に示す厚さの板状に押出成形し(幅600mm,長さ1820mm)、養生させて(10℃,RH76%,7日間)硬化させた後、ジェット乾燥機で乾燥させることにより(ノズル吹出130℃で20分)、下記の表4に示す割合の試験体1A,1B,2,3A,3B,4A,4B,5A,5Bをそれぞれ作製した。なお、比較のため、下記の表1〜3に示す混練物αを作製して下記の表4に示す割合の比較体αも併せて作製した。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
[確認試験A]
作製した上記試験体1A,1B,2,3A,3B,4A,4B,5A,5B及び上記比較体αの石膏の水和率、見掛け密度、曲げ強さをそれぞれ求めた。その結果を下記の表5に示す。なお、石膏の水和率は、試験体及び比較体を粉砕して恒温(45℃)となるまで乾燥して質量測定した後、仮焼(200℃)して質量測定し、その質量減少量に基づいて、石膏の混合量から算出し、見掛け密度は、乾燥機(40℃)内で恒量となった試験体及び比較体の質量及び体積を測定して、その質量及び体積から算出し、曲げ強さは、日本工業規格(JIS)「A 5430」で規定されている「10.3.2」に準拠して3号試験片(寸法:400mm×500mm)を適用して測定した(スパン:400mm)。
【0058】
【表5】

【0059】
上記表5からわかるように、試験体1A,1B,2,3A,3B,4A,4B,5A,5B(コレマナイト含有品)は、比較体α(炭酸カルシウム含有品:従来品)と比べると、水和率が約10%程度低くなってしまうと共に、コレマナイトの含有率が大きくなるほど見掛け密度が小さくなる一方、ほとんど同程度の曲げ強さを発現できることが確認された。
【0060】
[確認試験B]
上記試験体2,3A,4A,5A及び上記比較体αの示差熱分析(TG−DTA)を行った。その結果を図1〜5に示す。
【0061】
図1〜5からわかるように、比較体α(炭酸カルシウム含有品:従来品/図5)は、100〜200℃の温度範囲で石膏の脱水反応を生じるだけであるのに対し、試験体2,3A,4A,5A(コレマナイト含有品/図1〜4)は、100〜200℃の温度範囲で石膏の脱水反応を生じると共に、300〜400℃の温度範囲で吸熱反応を生じ、二段階で熱を吸収することが認められた。よって、本発明に係る石膏系成形体は、耐火性能を向上できることが確認された。
【0062】
[確認試験C]
上記試験体1A,1B,2,3A,3B,4A,4B,5A,5B及び上記比較体αの熱中性子遮蔽性能試験を行った。その結果を下記の表6に示す。なお、熱中性子遮蔽性能試験は、独立行政法人日本原子力研究開発機構の研究用原子炉「JPR−3M」の中性子ビーム実験施設内の即発γ線分析装置を使用し、まず、ブランクの状態で、単位時間当たりに通過する熱中性子の計数値(CB)を測定した後、上記試験体1A,1B,2,3A,3B,4A,4B,5A,5B、上記比較体αをセットした状態で、単位時間当たりに透過する熱中性子の計数値(CS)を測定し、下記の式(1)に基づいて、熱中性子遮蔽率NCを求めた。また、1m2面積当たりの1mmの厚さ当たりに含有されている単位コレマナイト量UCも表6に併せて記載する。
【0063】
C(%)=100−(CS/CB)×100 (1)
【0064】
【表6】

【0065】
上記表6からわかるように、比較体α(コレマナイトなし:従来品)は、熱中性子をほとんど遮蔽することなく透過させてしまうのに対し、試験体1A,1B,2,3A,3B,4A,4B,5A,5B(コレマナイト含有)は、熱中性子の60%以上を透過させることなく遮蔽することができ、特に、試験体2,3A,3B,4A,4B,5A,5Bは、熱中性子の90%以上を透過させることなく遮蔽でき、非常に好ましいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る石膏系成形体及びその製造方法は、耐火性能のさらなる向上を十分に図ることができるので、高性能な耐火間仕切壁等の内装建材として好適に利用することができ、さらに、中性子遮蔽性能を向上できることから、半導体製造工場やコンピュータルーム等の内装建材として好適であり、産業上、極めて有益に利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏をマトリックスとして、繊維を0.8〜9.8質量%、コレマナイトを8.5〜85質量%含有する
ことを特徴とする石膏系成形体。
【請求項2】
請求項1に記載の石膏系成形体において、
前記コレマナイトの含有量が20質量%以上である
ことを特徴とする石膏系成形体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の石膏系成形体において、
前記コレマナイトとの合計量が85質量%以下となるように、充填材を含有している
ことを特徴とする石膏系成形体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の石膏系成形体において、
1m2面積当たりの1mmの厚さ当たりに含有する単位コレマナイト量UCが145g以上であると共に、
3mm以上の厚さを有している
ことを特徴とする石膏系成形体。
【請求項5】
水和性石膏10〜89質量%と、繊維1〜10質量%と、コレマナイト10〜86.2質量%とを含む固形原料に対して、水を加えて混合し、成形した後に養生して硬化させる
ことを特徴とする石膏系成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の石膏系成形体の製造方法において、
前記固形原料の前記コレマナイトの割合が23.3質量%以上であり、
前記固形原料の前記水和性石膏の割合が75.6質量%以下である
ことを特徴とする石膏系成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の石膏系成形体の製造方法において、
前記コレマナイトとの合計量が86.2質量%以下となるように、前記固形原料が充填材を含んでいる
ことを特徴とする石膏系成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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