砂型鋳物のシミュレーション方法
【課題】 鋳鋼や鋳鉄からなる鋳物を、砂型鋳造で得る際に、鋳物に生じる歪み、変位又は応力の少なくとも1つを、高精度に解析できる砂型鋳物のシミュレーション方法を得る。
【解決手段】 少なくとも鋳物要素及び鋳型要素からなる解析モデルを作成する要素作成工程(S1)と、前記鋳物要素及び前記鋳型要素の伝熱を経時的に解析して、前記鋳物要素及び前記鋳型要素の温度を求める熱伝導解析工程(S3)と、前記熱伝導解析工程(S3)により得られた前記鋳型要素の温度に基づいて、鋳型による鋳物の拘束条件を設定する拘束条件設定ステップ(S41)と、設定された拘束条件、前記鋳物要素の温度変化量及び熱膨張係数に基づいて、前記鋳物要素の変形を経時的に解析して、前記鋳物要素の歪み、変位又は応力の少なくとも1つを求める弾塑性解析ステップ(S42)と、をもつ熱変形解析工程(S4)と、を有する。
【解決手段】 少なくとも鋳物要素及び鋳型要素からなる解析モデルを作成する要素作成工程(S1)と、前記鋳物要素及び前記鋳型要素の伝熱を経時的に解析して、前記鋳物要素及び前記鋳型要素の温度を求める熱伝導解析工程(S3)と、前記熱伝導解析工程(S3)により得られた前記鋳型要素の温度に基づいて、鋳型による鋳物の拘束条件を設定する拘束条件設定ステップ(S41)と、設定された拘束条件、前記鋳物要素の温度変化量及び熱膨張係数に基づいて、前記鋳物要素の変形を経時的に解析して、前記鋳物要素の歪み、変位又は応力の少なくとも1つを求める弾塑性解析ステップ(S42)と、をもつ熱変形解析工程(S4)と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂型鋳物のシミュレーション方法に関し、詳しくは、例えば、鋳鉄や鋳鋼からなる鋳物を砂型鋳造で得る際に、鋳物に生じる歪み、変位又は応力の少なくとも1つを求める砂型鋳物のシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物の製造にあたっては、引け巣や湯境等の湯流れや凝固に起因する鋳造欠陥はもとより、鋳造時に発生する変形、寸法不良、きれ、割れ等の鋳造欠陥を抑制することが課題となる。変形、寸法不良、きれ、割れ等は、鋳造時に鋳物各部に生じる歪み(内部歪み、永久歪み、塑性歪みなど)、変位又は応力に起因して発生する。歪み、変位又は応力は、鋳造時に鋳物各部の冷却速度の違いにより生じる不均一な温度分布と、これによる不均一な熱膨脹及び熱収縮によって生じる。また、歪み、変位又は応力は、鋳型による鋳物の拘束の状態によって、その発生の程度に影響を受ける。なお、鋳型による鋳物の拘束とは、鋳物に生じる歪みや変位によって、鋳物が鋳型のキャビティの内壁面を越えて移動することを規制することを意味する。
【0003】
従来は、鋳物に鋳造欠陥として変形、寸法不良、きれ、割れ等が発生すると、これを対策するために、例えば、鋳造用模型や鋳造方案の修正、発生した変形や寸法不良の矯正などの施策を経験や実験に基づいて試行錯誤を繰り返して実施するとういう方法が採られていた。したがって変形、寸法不良、きれ、割れ等の鋳造欠陥を対策するには、再鋳造や再検査に労力を要し、工数とコストが費やされるという問題があった。
【0004】
近年では、鋳造の設計段階において、CAE(Computer Aided Engineering)により、湯流れ解析や凝固解析を行って、事前に、鋳造に最適な鋳造方案を得て、引け巣や湯境の発生を予知、防止することが行われてきている。一方、鋳造時に発生する変形、寸法不良、きれ、割れ等は、引け巣や湯境と同様に鋳造時に留意すべき課題であるにも関わらず、これらの現象を設計段階で事前に解析する手法はほとんど存在せず、一部存在する解析手法も実際の鋳物に生じる歪み、変位又は応力の予測として一層の解析精度の向上が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ダイカスト鋳造により得られた鋳物に存在する残留歪及び残留応力を予測するダイカストシミュレーション方法として、鋳型要素、鋳物要素、および加圧要素としての微小要素に分割する要素作成ステップと、熱的特性値に基づいて鋳物要素の温度と固相率を求める凝固解析ステップと、鋳物要素の機械的特性値を求めると共に、加圧要素によって鋳物要素に加圧力を付加し、加圧力と機械的特性値とを基にして、鋳物要素の歪み、変位及び応力を求める途中応力解析ステップと、鋳物要素の全てが固相になった後に熱的特性値に基づいて鋳物要素の温度を求める冷却解析ステップと、途中応力解析ステップにおいて得られた鋳物要素の歪み、変位および応力を初期値として用い、鋳物要素の歪み、変位及び応力を求める熱応力解析ステップとを有する、解析技術を開示している。
【0006】
この特許文献1のシミュレーション方法によれば、凝固途中における各鋳物要素の歪み、変位及び応力を得て、これに積み重ねるように凝固後における各鋳物要素の歪み、変位及び応力を求めることで、残留歪みおよび残留応力の小さい鋳物を設計することができるとしている。
【0007】
また、非特許文献1には、「砂型鋳鉄鋳物に発生する残量応力のFEM解析」と題して、汎用の有限要素法(FEM)解析による温度分布解析と残留応力解析により複雑形状の鋳鉄鋳物の残留応力分布を予測する解析手法を開示している。非特許文献1では、温度分布解析において、熱応力・熱変形解析に必要な温度分布は、鋳物−鋳型間を含めた熱解析(湯流れ時の溶湯温度変化を考虜した凝固解析)により求めるのではなく、熱電対により実測した鋳物の温度より推定して求めた温度分布を与えることにより考慮したとしている。また、残留応力解析においては、解析開始の初期条件として鋳物全体が弾性化する時期として、鋳物の最も冷却の遅い部位が弾性状態へ遷移する温度である共析変態温度以下の温度となった時期以降の温度変化について弾塑性応力解析を行ったとしている。また、鋳型の拘束については、通常解枠が共析変態温度付近で行われること、砂型のため拘束の影響が小さいと考えられるため解析の対象からはずしたとしている。
【0008】
非特許文献1によれば、開示した解析手法を実部品である砂型鋳造の鋳鉄製シリンダブロックに適用して解析値と実測値とを比較すると、絶対値的には残留応力の解析精度は低いものの、残留応力分布および鋳物形状や鋳造時の冷却条件など鋳造条件を変更した場合の残留応力の変化割合は解析と実測とで良く一致したとしている。
【0009】
【特許文献1】特開2006−26723号公報
【非特許文献1】牧野浩、外3名、「鋳物」、社団法人日本鋳物協会、1991年12月25日、第63巻、第12号、p.959−964
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来提案されてきた鋳造時に発生する歪み、変位又は応力の解析方法では充分な解析精度が得られない場合があった。特に鋳造で用いる鋳型が金型の場合と砂型の場合とでは、鋳型による鋳物の拘束の状態が相違するため、実際の鋳物と解析とで発生する歪みや変位が乖離することがあった。
【0011】
例えば、アルミニウム合金などの鋳物を金型で鋳造する場合、金型では鋳物が室温に冷却されるまで、鋳型(金型)による鋳物の拘束の状態は変化しないと考えられる。したがって金型鋳造での歪み、変位又は応力を解析する場合には、拘束状態の変化を考慮することなく、例えば解析の開始から終了までの終始、鋳物が鋳型による拘束を受けた条件を設定して解析しても、解析と実際の鋳物とで得られた結果の乖離は小さく、解析精度への影響は少ない。
【0012】
一方、砂型鋳造の場合、砂型が鋳物となる高温の溶湯に曝されると、砂粒同士を固着する粘結材が融解又は分解して鋳型強度が低下する。例えば、鋳鉄や鋳鋼の鋳造などで1300℃以上の高温の溶湯を砂型からなる鋳型に注湯する場合には、鋳型に対する入熱量が多く鋳型強度の低下が大きいため、鋳物への拘束の状態が変化する。また、入熱により硬化する鋳型や、逆に入熱により崩壊し易い鋳型など、鋳型(砂型)の種類によって、鋳造時の鋳物への拘束の状態も変化する。例えば、崩壊性の良いシェル鋳型や、鋳造時に水分凝縮層を生成する生砂からなる鋳型(生型)は、注湯後、短時間で鋳型強度が低下して拘束が解放される。一方、フラン鋳型やCO2鋳型は比較的高い強度と硬度を有し、注湯後、比較的長時間に亘って鋳型強度を保持して拘束を維持する。
【0013】
また、例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金など比重が小さく低融点の鋳物を、砂型からなる鋳型で鋳造する場合、鋳物から鋳型への入熱量が少なく鋳型の強度低下が小さいため、鋳物が室温に冷却されるまで鋳型はその強度を保持する。したがって、このような鋳物と鋳型の組み合せの場合には、例え鋳型が砂型であっても、金型と同様に、鋳物が鋳型による拘束を受けた状態が変化しない。
【0014】
このように鋳造時の鋳型による鋳物の拘束の状態は、鋳型が金型と砂型とで相違し、また鋳型が砂型でもその種類によって、さらには鋳物と砂型との組み合せによっても相違する。従来、鋳型、特に砂型による鋳物の拘束条件まで考慮して鋳物の歪み、変位又は応力を解析する方法についての提案は見当たらない。
【0015】
特許文献1のダイカストシミュレーション方法は、鋳物に生じる歪み、変位及び応力を求める解析技術を開示しているが、鋳型はダイカスト、即ち金型であって、砂型鋳造の場合の鋳型による鋳物の拘束状態の変化について考慮されていないため、砂型鋳物に生じる歪み、変位又は応力の予測として十分な解析精度を得られない虞がある。
【0016】
非特許文献1の砂型鋳鉄鋳物に発生する残留応力のFEM解析では、熱応力・熱変形解析で必要な温度分布は、実測した数十点の鋳物の温度から推定して求めた温度分布を与えており、注湯から室温まで冷却する過程での温度分布と時間変化を湯流れ解析や凝固解析で計算していない。さらに非特許文献1では、鋳型の拘束については、砂型のため拘束の影響が小さいと考えられるため解析の対象からはずした、として鋳型が無い状態で弾塑性応力解析を行っており、鋳型による鋳物の拘束は解析に考慮されていない。
【0017】
本発明の課題は、上記した実情に鑑みてなされたもので、例えば、鋳鉄や鋳鋼からなる鋳物を、砂型鋳造で得る際に、鋳物に生じる歪み、変位又は応力の少なくとも1つを、高精度に解析できる、砂型鋳物のシミュレーション方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究した。その結果、実際の砂型鋳造では、一般に鋳型が溶湯と接触、加熱されて鋳型の形状を保持できなくなる点に着目して、砂型鋳物のシミュレーションにおいて、鋳型要素の温度に基づいて鋳型による鋳物の拘束条件を設定して熱変形解析することで、上記課題が解決できるとの知見を得て本発明に想到した。
【0019】
すなわち、本発明の砂型鋳物のシミュレーション方法は、少なくとも一部が砂型からなる鋳型内に溶湯を注入して凝固させることにより所望形状の鋳物を得る際に、鋳物に生じる歪み、変位又は応力の少なくとも1つを求める砂型鋳物のシミュレーション方法であって、少なくとも鋳物要素及び鋳型要素からなる解析モデルを作成する要素作成工程(S1)と、前記鋳物要素及び前記鋳型要素の伝熱を経時的に解析して、前記鋳物要素及び前記鋳型要素の温度を求める熱伝導解析工程(S3)と、前記熱伝導解析工程(S3)により得られた前記鋳型要素の温度に基づいて、鋳型による鋳物の拘束条件を設定する拘束条件設定ステップ(S41)と、設定された拘束条件、前記鋳物要素の温度変化量及び熱膨張係数に基づいて、前記鋳物要素の変形を経時的に解析して、前記鋳物要素の歪み、変位又は応力の少なくとも1つを求める弾塑性解析ステップ(S42)と、をもつ熱変形解析工程(S4)と、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の砂型鋳物のシミュレーション方法においては、前記拘束条件設定ステップ(S41)は、前記鋳型要素の温度変化に基づいて鋳型による鋳物の拘束条件判定の要否を決定する拘束条件判定要否設定ステップ(S411)と、拘束条件判定を要する場合に、前記鋳型要素の温度と鋳型の拘束判定温度とを比較して拘束の有無を判定する拘束条件判定ステップ(S412)と、前記鋳物要素に拘束条件を設定するステップと、を有することが好ましい。前記鋳型の拘束判定温度は、鋳型温度と鋳型強度との関係から、鋳型の形状を保持できないものと見なせる温度とすることが望ましい。
【0021】
本発明の砂型鋳物のシミュレーション方法においては、前記熱伝導解析工程(S3)の前に、溶湯が前記鋳物要素を流動して充填される挙動を経時的に解析して、前記鋳物要素の温度を求める流動解析工程(S2)を行い、前記流動解析工程(S2)で得られた溶湯の充填完了時の前記鋳物要素の温度を前記熱伝導解析工程(S3)の初期温度として付与することが好ましい。
【0022】
本発明の砂型鋳物のシミュレーション方法は、前記鋳型に金属製部材を含み、前記熱変形解析工程(S4)の解析の開始から終了まで終始、前記金属製部材に拘束有りの拘束条件を設定してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の砂型鋳物のシミュレーション方法によれば、例えば、鋳鉄や鋳鋼からなる鋳物を砂型鋳造で得る際に、鋳物各部の不均一な熱膨脹及び熱収縮によって生じる歪み、変位又は応力の少なくとも1つを、鋳型の拘束状態の変化も考慮して高精度に求めることができる。これにより、鋳造の設計段階で、鋳造時に生じる歪み、変位又は応力を正確に求められるので、これらに起因する変形、寸法不良、きれ、割れ等の鋳造欠陥の予知、防止に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。図1は、本発明の実施の形態における砂型鋳物のシミュレーション方法の全体の流れを示すフローチャートである。図2は、図1における熱変形解析工程において実施する拘束条件設定の手順を示すフローチャートである。なお、本発明のシミュレーション方法は、以下に説明する実施の形態に従って作成されたプログラムをコンピュータにより実行することで実現される。
【0025】
(1)要素作成工程(S1)
要素作成工程S1では、少なくとも製品となる鋳物の形状データを3次元CADデータとして作成し又は予め作成された該形状データを取り込んで、また、鋳造に必要な湯口、湯道、押湯、堰などの鋳造方案部の形状データ、さらに鋳物の周囲に鋳型の形状データを作成し、これらの各形状データを多面体からなる複数の微小要素に分割した後、該微小要素を鋳物又は鋳型と定義し、少なくとも鋳物要素及び鋳型要素からなる解析モデルを作成する工程である。なお、解析モデルは、鋳物要素及び鋳型要素のほかに、必要に応じて空気要素を作成する。
【0026】
本発明においては、鋳物の外側を形成する外型である主型や、鋳物の中空部を形成する中子など、鋳型のうち少なくとも一部が砂型から構成される鋳造方法を解析の対象とし、砂型からなる鋳型を砂型要素と定義する。また、砂型のみから構成されるものの他に、砂型以外の部材として金属製部材が含まれてもよい。金属製部材としては、例えば、引け巣の発生を抑制するためのチルと呼ばれる冷却部材や、主型としての金型が挙げられる。チルや金型などの金属製部材が鋳型に含まれる場合は、鋳型要素のうち、金属製部材の位置する微小要素を金属製部材要素として、砂型要素とは別に定義する。鋳型要素のうち、主型を金型として金属製部材要素として、中子を砂型要素として定義すれば、例えば、アルミニウム合金の低圧鋳造法やグラビティ(重力)鋳造法を対象とした解析モデルを作成できる。
【0027】
なお、複数の微小分割要素の作成には、部位毎に微小要素に分割する位置を座標として与える方法や、所望の微小要素の大きさを与えれば自動で微小要素を生成する要素作成プログラムなどを用いてもよい。また、鋳型要素を作成する場合には、鋳物の形状データのみから、鋳型の厚さを定義して、鋳物要素の周囲に鋳型要素を簡易に作成してもよい。
【0028】
予め作成された鋳物の形状を取り込むための3次元CADデータの形式は、様々な形式のデータを用いることができる。例えば、国際規格IGES(Initial Graphics Exchange Specification)形式やSTL(Stereo Lithography)形式などが利用できる。
【0029】
(2)流動解析工程(S2)
流動解析工程S2は必ずしも実施しなくてもよいが、実施すれば、後述する熱伝導解析工程S3における、各要素の初期温度などをより実際の鋳造に近づけて設定できるので解析精度の向上に寄与して好ましい。流動解析工程S2は、溶湯が鋳物要素に充填される挙動を流動解析で計算する。本工程S2は、上記要素作成工程S1で作成した、鋳物要素の一部である湯口要素に溶湯の流入量又は流入圧力を、各要素に密度、比熱、熱伝導率及び粘性係数などの物性値、初期温度及び初期圧力を、鋳物要素と鋳型要素など異種要素間の伝熱条件として熱伝達係数を、付与した後、例えば、ナビエ−ストークスの式などを利用して、鋳物要素における溶湯の位置、温度、圧力などを求める。鋳物要素が充填完了した時の各要素の温度を、次の熱伝導解析工程S3の初期温度として利用する。
【0030】
なお、湯境など湯流れ(溶湯の流動)に起因する鋳造欠陥を注視しなくともよい場合や、鋳物の歪み、変位又は応力の解析として必要な精度が確保できる場合や、歪み、変位又は応力の解析結果の絶対値には拘らず相対的、定性的な結果のみ得ようとする場合などは、流動解析工程S2を省略してもよい。これにより解析工数(手間)や計算時間を短縮できる。
【0031】
(3)熱伝導解析工程(S3)
熱伝導解析工程S3は、熱移動や潜熱を考慮した非定常熱伝導解析によって各要素についての熱の伝導を計算する工程である。本工程S3は、少なくとも鋳物要素及び鋳型要素に密度、比熱、熱伝導率及び凝固潜熱などの物性値及び初期温度を付与し、また鋳物要素と鋳型要素など異種要素間の伝熱条件として熱伝達係数などを付与した後、全ての鋳物要素に溶湯が充填した初期状態から、微小時間間隔毎に鋳物要素と鋳型要素の経時的な温度を求める。
【0032】
熱伝導解析工程S3で付与する各要素の初期温度は、流動解析工程S2を実施した場合は、鋳物要素が充填完了した時の各要素の温度を利用することができる。一方、流動解析工程S2を省略した場合は、鋳物要素、鋳型要素の所定の初期温度を直接付与する。
【0033】
熱伝導解析工程S3は、鋳物の引け巣予測を目的に実施されるので、通常は、鋳物の凝固が終了した時点で解析を終了する。しかし、本発明においては、鋳物の歪、変位又は応力を求めるため、鋳物の凝固が終了した後も継続して鋳物が所定の温度に低下するまで解析を継続する必要がある。熱伝導解析工程S3は、全ての鋳物要素が所定の温度として室温、例えば25℃に達した後に解析を終了すれば、高い解析精度が得られるので好ましい。なお、鋳物の歪み、変位又は応力の解析として必要な精度が確保できる場合は、鋳物要素の最も高い温度が所定の温度として、例えば200℃に達した時点で解析を終了してもよい。これにより、解析時間の短縮を図れる。
【0034】
(4)熱変形解析工程(S4)
熱変形解析工程S4は、上記の熱伝導解析工程S3で得られた鋳物要素及び鋳型要素の温度と、後述する鋳型による鋳物の拘束条件とに基づいて、弾塑性解析によって鋳物要素の熱膨脹及び熱収縮にともなう歪み、変位又は応力を計算する工程である。本工程S4は、鋳物要素に耐力、ヤング率、歪み硬化指数、ポアソン比などの機械的性質、熱膨張係数及び拘束条件を付与した後、上記の熱伝導解析工程S3において経時的に求めた鋳物要素の温度から、微少時間間隔毎の鋳物要素の温度変化量を求め、求めた温度変化量に付与した熱膨張係数を乗じて、弾塑性解析によって鋳物要素の変形を経時的に求める。次いで求めた変形の解析結果と機械的性質に基づいて、歪み、変位又は応力を求める。
【0035】
本工程S4で付与する拘束条件は、初期条件としては鋳型による鋳物の拘束有りとして計算を開始し、計算開始後は、本工程S4に含まれる後述する拘束条件設定ステップS41において、鋳型による鋳物の拘束の有無を判定して与える。なお、機械的性質は、温度によってその値が変化する場合は温度毎に値を与えるが、その値の変化量が少ない場合には一定値を用いてもよい。
【0036】
熱変形解析工程S4と熱伝導解析工程S3は微小時間間隔毎に夫々の解析工程を順次行ってもよいし、熱伝導解析工程S3の終了後に、熱変形解析工程S4を行ってもよい。熱伝導解析工程S3終了後に熱変形解析工程S4を行う場合には、熱伝導解析工程S3で求めた鋳物要素と鋳型要素の経時的な温度を、微小時間間隔毎又はこれより長い時間間隔毎に保存しておき、熱変形解析工程S4ではこの保存した温度を読み込んで解析を行ってもよい。また、熱変形解析工程S4と熱伝導解析工程S3の微小時間間隔は同一であってもよいし、異なってもよい。例えば、熱変形解析工程S4の微小時間間隔を、熱伝導解析工程S3のそれよりも長い時間間隔とすればシミュレーション全体に要する計算時間を短縮できる。
【0037】
熱変形解析工程S4は、熱伝導解析工程S3の開始、即ち全ての鋳物要素に溶湯が充填した初期状態から、鋳物要素の温度が凝固終了温度以下の所定の温度に到達するまで解析を実施する(S5)。本工程S4の解析の開始は、要求される解析精度を確保できれば、熱伝導解析工程S3で全ての鋳物要素が凝固終了温度に到達した温度から開始してもよい。また、本工程S4の解析の終了は、全ての鋳物要素が所定の温度として室温、例えば25℃に達した後に解析を終了すれば、高い解析精度が得られるので好ましい。なお、鋳物の歪み、変位又は応力の解析として必要な精度が確保できる場合は、鋳物要素の最も高い温度が所定の温度として、例えば200℃に達した時点で解析を終了してもよい。これにより、解析時間の短縮を図れる。
【0038】
要素作成工程S1、流動解析工程S2、熱伝導解析工程S3及び熱変形解析工程S4の弾塑性解析S42で使用する解析用のプログラムは特に限定されるものではなく、有限要素法、直交差分法を用いた市販の解析プログラムを使用できる。
【0039】
(5)拘束条件設定ステップ(S41)
次に熱変形解析工程S4で鋳物要素に付与する拘束条件の設定手順について図2に示す拘束条件設定ステップS41に沿って説明する。本ステップS41は本発明を特徴づける主要なステップである。実際の砂型鋳造では、注湯前の鋳型はその温度が室温で強度を発現して形状を保持して鋳物を拘束しているが、注湯後の鋳型は溶湯と接触して温度上昇して強度が低下して、特定の温度以上ではその形状を保持できなくなり、鋳物を拘束しなくなる。拘束条件設定ステップS41は、この実際の鋳造で生じる現象を解析で再現するため、鋳型要素の温度に応じて、鋳型による鋳物の拘束の有無を判定して、鋳物要素に拘束条件を設定する。
【0040】
本発明で「拘束する」又は「拘束有りに設定する」とは、熱変形解析工程S4で実施する弾塑性解析の際に、鋳物要素の節点(頂点)が、後述する拘束判定温度未満の温度の鋳型要素の領域には移動できないように設定することをいう。「拘束しない」又は「拘束無しに設定する」とは、熱変形解析工程S4で実施する弾塑性解析の際に、鋳物要素の節点(頂点)が、後述する拘束判定温度以上の温度の鋳型要素の領域に移動できるように設定することをいう。
【0041】
なお、鋳型にチルや金型などの金属製部材を配設する場合は、金属製部材は温度が上昇しても砂型のように崩壊せず、鋳型としての形状を保持するので、鋳物の温度が、注湯から所定の温度に至る全温度範囲で鋳物を拘束する。従って、熱変形解析工程S4では、解析の開始から終了までの終始、鋳物要素の節点が、金属製部材の領域には変位できない条件(拘束有り)を設定する。なお、金属製部材の材質としては、鋳鋼、鋳鉄、鋼、銅合金など各種の金属材料を使用できる。
【0042】
拘束条件設定ステップS41は、図2に示すように拘束条件を判定するか否かを決定する拘束条件判定要否設定ステップS411と、拘束条件の判定が必要な場合に、鋳型要素の温度と予め求めた鋳型が鋳物を拘束できなくなる温度(以下、拘束判定温度という)とを比較して拘束条件を判定する拘束条件判定ステップS412とからなる。
【0043】
まず、拘束条件判定要否設定ステップS411では、鋳型の温度変化に基づいて拘束条件を判定するか否かを決定する。具体的には、鋳型要素の温度について1つ前の計算結果と最新の計算結果とを比較して、鋳型要素の温度が上昇していれば、拘束条件判定ステップS412に進み、鋳型要素の温度が等しければ又は下降していれば拘束条件の判定はしないと判断する。拘束条件の判定をしない場合は、1つ前の計算で用いた拘束条件の設定のまま弾塑性解析ステップS42を行う。鋳型の温度変化に基づいて拘束条件を判定することとしたのは、温度が上昇する場合は拘束条件が変化する可能性があり、温度が等しい又は下降する場合は拘束条件が変化しないと判断されるためである。
【0044】
拘束条件判定ステップS412では、予め実験等により求めた鋳型の拘束判定温度により拘束の有無を判定して拘束条件を設定する。具体的には、最新の計算で求めた鋳型要素の温度と、拘束判定温度とを比較して、鋳型要素の温度が、拘束判定温度未満なら拘束有り、拘束判定温度以上なら拘束無しと判断する。
【0045】
拘束有りと判断された場合は、鋳物要素の節点に対して、これが拘束判定温度未満の温度の鋳型要素の領域に移動できない設定を付与する。一方、拘束無しと判断された場合は、鋳物要素の節点に対して、これが拘束判定温度以上の温度の鋳型要素の領域に移動できる設定を付与する。
【0046】
次に、拘束条件判定ステップS412で設定された拘束条件を用いて弾塑性解析ステップS42を行う。なお、弾塑性解析ステップS42の初回の計算は、全ての鋳物要素に対して拘束有りの条件で開始する。
【0047】
(5−1)鋳型の拘束判定温度
鋳型による拘束の有無判定など拘束条件設定のためには、砂型からなる鋳型が温度上昇して強度が低下して鋳物を拘束しなくなる温度、即ち鋳型の拘束判定温度を予め求めて、拘束条件判定ステップS412で付与しておく必要がある。鋳型が鋳物を拘束しなくなる温度を厳密に求めることは困難なことから、本発明においては、鋳型がその形状を保持できないと見なせる温度をもって鋳型の拘束判定温度と定義した。
【0048】
本実施の形態では、実験に基づく経験的方法として、鋳型温度と鋳型強度との関係を調査して拘束判定温度を設定する場合について例示的に以下説明する。ここでは鋳型の拘束判定温度は、加熱した鋳型の強度の測定から求めた鋳型温度−鋳型強度特性に基づく強度の変化と、加熱状態での鋳型の観察結果と、から鋳型の形状を保持できないと見なせる温度と定義した。
【0049】
図3は、砂型の1つであるシェル鋳型の鋳型温度−鋳型強度特性の一例を示す図である。シェル鋳型での鋳型温度−鋳型強度特性を得る方法として、寸法10mm×10mm×60mmのシェル鋳型の試験片を作製し、得られた試験片を恒温保持可能な加熱炉で大気雰囲気中100〜1000℃の所定の温度で3分間加熱し、試験片を加熱炉から取出し後速やかに鋳型強度を測定した。鋳型強度は代表値として曲げ強さで評価し、その測定方法は、JIS K−6910規格「フェノール樹脂試験方法」に規定の曲げ強さ試験での操作、計算を適用した。なお、鋳型強度の代表値としては特に限定されず、曲げ強さ、圧縮強さ、抗圧力、抗折力などから鋳型温度−鋳型強度特性を得ることができる。また、鋳型強度の測定方法としては、JISや(社)日本鋳造技術協会(現在、(社)日本鋳造協会に統合)で規定する各種試験方法を適用できる。
【0050】
図3の鋳型温度−鋳型強度特性に示すように、例示したシェル鋳型の鋳型強度は、鋳型温度の上昇とともに、約400℃までは暫減し、約400〜500℃の温度範囲では激減し、約500℃以上では再び暫減する、という変化を示した。加熱炉内での加熱中又は取出し、運搬等の取り扱い中など、加熱状態での試験片(鋳型)の観察結果によれば、約400℃までは鋳型の表面からの砂粒の脱落が認められるもののその量は僅かであり、約400℃を超えると鋳型表面からの砂粒の脱落、剥離が顕著となり、約500℃で表面から深さ方向で数mmの表層部分が剥離して崩壊した。
【0051】
このことから、例示したシェル鋳型は、約400℃までは砂粒同士を固着する粘結材の軟化や一部融解によって鋳型強度が低下し、約400℃以上では粘結材の融解又は分解が顕著となるために砂粒同士を固着する結合力が消失して鋳型表面から砂粒が脱落、剥離して鋳型が崩壊を開始し、更なる加熱にともなって鋳型の崩壊が表面から内部に及び、約500℃付近で最も崩壊が顕著となり、500℃以上では更に内部までは崩壊しない状態に達したものと推察される。
【0052】
上記した鋳型温度−鋳型強度特性と加熱状態での鋳型の観察結果とから、例示したシェル鋳型では、加熱により鋳型強度が激減から再び暫減に転じる温度に達すると、表面から内部まで崩壊が進んでしまい鋳型の形状を保持できないものと見なし、当該温度を拘束判定温度とし、鋳型温度がそれ以上では鋳型が鋳物を拘束しなくなるものと定義した。具体的には、500℃を拘束判定温度として設定し、拘束条件判定ステップS412において、熱伝導解析工程S3で求めた鋳型温度が500℃未満では鋳型による鋳物の拘束有り、500℃以上では拘束無しと判定する。
【0053】
本発明では、上記例示のようにして求められる拘束判定温度を、解析の対象となる鋳型毎に設定しておき、上記拘束条件判定ステップS412で記載したように、求めた鋳型要素の温度と拘束判定温度とを比較して、拘束の有無を判定して拘束条件を設定する。
【0054】
なお、一旦、鋳型温度が上昇して拘束判定温度以上となった場合、即ち、鋳型の形状を保持できないと見なされる場合には、既に砂粒同士を固着する結合力は消失しているので、その後、鋳物や鋳型の冷却により鋳型温度が再び低下しても砂粒同士を固着する結合力が回復することなく鋳型は崩壊したままである。このように砂型は不可逆的な性質を有するので、鋳物の冷却にともなって鋳型温度の低下により鋳型要素の温度が再び拘束判定温度以下の温度となって拘束有りの領域に入っても、一旦拘束無しに設定した拘束条件は変更しない。前述した拘束条件判定要否設定ステップS411で鋳型要素の温度変化を判定しているのは、上述の砂型の不可逆的な性質を考慮して、鋳型要素の温度変化が上昇局面であれば拘束条件が変化する可能性があるので拘束条件判定ステップS412に進み、一方、鋳型要素の温度変化が停滞又は下降の局面であれば拘束条件は変化しないので拘束条件判定ステップS412に進まないと判断させるためである。
【0055】
以上、本実施の形態では、鋳型の拘束判定温度の求め方として、鋳型温度と鋳型強度との関係を調査してこれを求める場合を例示して説明したが、拘束判定温度の求め方は、上記に限定されず、理論的方法や実験に基づいた経験的方法を用いて求めることができる。例えば、鋳型を加熱して温度毎に表面安定度を測定し、表面安定度を評価指標として鋳型がその形状を保持できないと見なせる温度を定義して拘束判定温度を決定してもよい。
【0056】
また、本実施の形態では、砂型としてシェル鋳型を例示して説明したが、本発明のシミュレーション方法は、対象とする鋳型の種類は特に限定されず、シェル鋳型以外に、有機CO2鋳型、水ガラスCO2鋳型、コールドボックス鋳型、ウォームボックス鋳型、フラン鋳型、エステル硬化鋳型、フェノールウレタン鋳型、生型など各種の砂型に適用できる。
【0057】
例えば、図4は、CO2ガス硬化型アルカリフェノール鋳型からなる有機CO2鋳型の鋳型温度−鋳型強度特性の一例を示す図である。図4の鋳型温度−鋳型強度特性に示すように、例示した有機CO2鋳型では、鋳型温度の上昇とともに鋳型強度が低下し、約400〜600℃の温度範囲で顕著な低下を示し、約600℃以上では暫減する現象を示すとともに、約600℃で鋳型表面から数mmの表層部分が剥離、崩壊した。例示した有機CO2鋳型は、鋳型の形状を保持できないと見なせる拘束判定温度を600℃として設定することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例として、砂型鋳物のシミュレーション方法について説明する。本実施例では、試験鋳物を砂型鋳造する際に発生する変位と応力について、本発明のシミュレーション方法による解析を実施するとともに、解析精度を検証するために実際の鋳造を実施し、得られた解析値と実測値とを比較評価した。なお本実施例では、何れも市販の有限要素法のソフトとして、要素作成工程S1での要素分割には自動要素分割ソフトを、流動解析工程S2の計算には湯流れ解析ソフトを、熱伝導解析工程S3の計算には熱伝導解析ソフトを、弾塑性解析ステップS42の計算には熱変形解析ソフトを使用した。
【0059】
図5は、実施例に供した試験鋳物100を示し、本発明のシミュレーション方法で予測され、また実際の鋳造で発生した変位と応力の評価位置を示した図である。図6は、図5に示す試験鋳物100を解析及び鋳造するための試験鋳型200の概略形状を示し、(a)は平面図、(b)は(a)での矢視X−X断面図である。この試験鋳型200は、部位1〜6から構成される試験鋳物100と堰5、6とを造型したキャビティ101、及び砂型201からなる。試験鋳型200を用いて、図示しない注湯口と方案部を経由して、堰5、6から溶湯を注入、凝固させることを想定した本発明のシミュレーション方法を実施するとともに実際の試験鋳物100を鋳造した。試験鋳物100は、平行する2本の柱1、2と、該柱1、2の両端部を連結する三角形状の締結部3、4とを有し、柱1を幅20mm、柱2を幅40mmとし、柱1、2及び締結部3、4の肉厚を5mmとしている。
【0060】
次に本実施例での変位と応力の評価方法について説明する。変位は、解析終了及び実際の鋳造後に室温に達した試験鋳物100について、図5に示す点21を基準点(ゼロ(0)点)として、前記基準点21に対する後述する各評価点のz座標方向(図5の紙面に対して垂直方向)の移動量(mm)をもって変位量(以下、z方向変位量という)として評価した。評価点は、図5で符合22〜25で示す4点、及び各点(21と22、22と23、21と24、24と25)を結ぶ直線上の任意の複数点とした。なお、解析の変位量は、本発明の熱伝導解析工程を開始する前の評価点21における鋳物要素の節点の位置をゼロとして基準点とし、基準点に対する熱伝導解析工程を終了後の各評価点に対応する鋳物要素の節点の相対的な位置データからz方向変位量を算出した。また、実際の鋳物の変位量は、鋳造後の試験鋳物100の各評価点について、接触式の3次元測定器を用いてz方向変位量を実測した。なお、z座標方向の移動量を評価したのは、試験鋳物100のような、相対的に肉厚に対して広い平面を有する薄肉鋳物では、歪や変形がz座標方向に顕著に発生するためである。
【0061】
応力は、解析終了及び実際の鋳造後に室温に達した試験鋳物100に残留する応力(残留応力)をもって評価し、図5に示す鋳物側面の評価点31〜35の残留応力を求めた。解析値の残留応力は、熱伝導解析工程終了後の各評価点に対応する鋳物要素の節点の応力データを残留応力とした。また、実際の鋳物の残留応力は、試験鋳物100の評価点31〜35に歪みゲージを貼り付け、その後、切断面C1、C2を機械的に切断して切断前後での歪み量の差を歪みゲージで検出し、実測した歪み量の差から残留応力を算出した。
【0062】
(実施例1)
実施例1は、図6に示す砂型201を有機CO2鋳型、試験鋳物100をオーステナイト系鋳鋼からなる鋳物、と想定して本発明の方法による砂型鋳物のシミュレーションを行った。
【0063】
(要素作成工程S1)
実施例1の要素作成工程S1では、鋳物要素、鋳型要素及び空気要素から構成される解析モデルを作成した。まず、図5、6に示す試験鋳物100の形状を3次元CADデータとして作成し、堰5、6及び図示しない湯口、湯道などの鋳造方案部及び鋳型として砂型201の形状データを作成した後、当該データを多面体からなる複数の微小要素に分割した。次に微小要素のうち、試験鋳物100、及び堰5、6などの鋳造方案部に位置する微小要素を鋳物要素に、砂型201に位置する微小要素を砂型要素に、さらに砂型201の外周部に図示しない空気を空気要素として定義して解析モデルとした。実施例1における微小要素の大きさは、要素の一辺の長さとして、鋳物要素で1.5〜3mm、鋳型要素及び空気要素で3〜5mmであった。
【0064】
(熱伝導解析工程S3)
実施例1は、流動解析工程S2を省略して熱伝導解析工程S3を実施した。まず、要素作成工程S1で作成した解析モデルの鋳物要素及び鋳型要素に物性値として密度、比熱、熱伝導率及び凝固潜熱などを付与し、鋳物要素と鋳型要素、鋳物要素と空気要素、鋳型要素と空気要素など、異種要素間の伝熱条件として熱伝達係数を付与した。また、各要素に所定の初期温度として、鋳物要素には注湯温度1600℃を、鋳型要素及び空気要素には室温25℃を付与した。なお、各要素の初期温度は、予め実験等で求めた実測の温度があれば、これを付与してもよい。次に、付与した初期温度、物性値及び熱伝達係数に基づいて、非定常熱伝導解析によって熱の伝導を計算し、全ての鋳物要素に溶湯が充填した状態から、全ての鋳物要素の温度が室温になるまで、微小時間間隔毎に鋳物要素と鋳型要素の経時的な温度を求めた。
【0065】
(熱変形解析工程S4)
熱変形解析工程S4では、鋳物要素に耐力、ヤング率、歪み硬化指数、ポアソン比などの機械的性質、熱膨張係数及び初期の拘束条件を付与した。本実施例では、鋳物要素の温度に依存して機械的性質及び熱膨張係数の値が変化するように設定した。また、初期の拘束条件として、鋳物要素に鋳型による鋳物の拘束有りを設定した。次に、付与した機械的性質、熱膨張係数及び初期の拘束条件と、上記の熱伝導解析工程S3で経時的に求めた鋳物要素と鋳型要素の温度データと、後述する拘束条件設定ステップS41で設定した鋳型による鋳物の拘束条件とに基づいて、弾塑性解析ステップS42を実施した。弾塑性解析ステップS42では、微少時間間隔毎の鋳物要素の温度変化量と付与した熱膨張係数から、熱膨脹及び熱収縮にともなう鋳物要素の変形を求め、次いで求めた変形の解析結果と機械的性質に基づいて、変位又は応力を経時的に求めた。
【0066】
(拘束条件設定スッテプS41)
熱変形解析工程S4の弾塑性解析ステップS42を行う際に鋳物要素に付与する拘束条件としては、上述したとおり初期条件は拘束有りとして計算を開始し、計算開始後は、拘束条件設定ステップS41で拘束の有無を判定して与えた。拘束条件設定ステップS41では、まず鋳型の温度変化に基づいて拘束条件を判定するか否かを決定する拘束条件判定要否設定ステップS411を実施し、鋳型要素の温度が上昇していれば、拘束条件判定ステップS412に進み、前記温度が不変又は下降していれば拘束条件の判定をしないで、1つ前の計算で用いた拘束の設定を用いて弾塑性解析ステップS42を行った。
【0067】
拘束条件判定ステップS412では、予め実験により求めた鋳型の拘束判定温度により拘束の有無を判定して拘束条件を設定した。実施例1の拘束判定温度は、前述した実施の形態で図4に示した有機CO2鋳型の拘束判定温度を用いて600℃に設定した。実施例1の拘束条件判定ステップS412では、熱伝導解析工程S3で経時的に求めた鋳型要素の温度データのうち鋳型要素の温度と拘束判定温度600℃とを比較して、鋳型要素の温度が、600℃未満なら鋳型による鋳物の拘束有り、600℃以上なら拘束無しと判定して鋳物要素に拘束条件を設定した。
【0068】
拘束有りの設定では、弾塑性解析ステップS42を実施する際に、鋳型による鋳物の拘束があるものとして、鋳物要素の節点が、拘束判定温度600℃未満の温度の鋳型要素の領域には移動できないように設定し、一方、拘束無しの設定では、弾塑性解析ステップS42を実施する際に、鋳型による鋳物の拘束がないものとして、鋳物要素の節点が、拘束判定温度600℃以上の温度の鋳型要素の領域に移動できるように設定した。次に設定した拘束条件を用いて弾塑性解析ステップS42を行った。
【0069】
熱変形解析工程S4は、熱伝導解析工程S3の開始、即ち全ての鋳物要素に溶湯が充填した初期状態から、鋳物要素の変形の解析を開始し、全ての鋳物要素の温度が、所定の温度として200℃に到達したところで解析を終了した。
【0070】
実施例1の解析方法によって得られた変位と応力について、その解析値と鋳造での実測値とを比較評価した。図7は、実施例1の試験鋳物100のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。図7は横軸に各評価点をとり、縦軸にz方向変位量をとったものである。図7から、解析値と実測値とのz方向変位量の差は小さく、解析値は実測値によく一致して高い解析精度を示すことがわかる。なお、解析値と実測値のz方向変位量の誤差([解析値と実測値のz方向変位量の差/実測値のz方向変位量]×100)は、最大で28%であった。
【0071】
図8は、実施例1の試験鋳物100の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。図8は横軸に各評価点をとり、縦軸には残留応力を引張又は圧縮に区別して表したものである。図8から、解析値と実測値との残留応力の差は、残留応力の絶対値が小さい評価点34、35でやや大きいものの、実際の鋳造で問題視される、残留応力の絶対値が大きく、かつ引張の残留応力を示した評価点34、35では、解析値と実測値との残留応力の差は小さく、解析値は実測値によく一致して高い解析精度を示すことがわかる。なお、解析値と実測値の残留応力の誤差([解析値と実測値の残留応力の絶対値の差/実測値の残留応力の絶対値]×100)は、最大で10%であった。
【0072】
(実施例2)
実施例2では、実施例1で省略した流動解析工程S2も含めて本発明の砂型鋳物のシミュレーションを行った。実施例2は、実施例1と同様に、図6に示す砂型201を有機CO2鋳型、試験鋳物100をオーステナイト系鋳鋼からなる鋳物、と想定して本発明の解析方法により砂型鋳物のシミュレーションを行った。以下、流動解析工程S2の実施にともない実施例1と相違する点についてのみ説明する。
【0073】
(流動解析工程S2)
実施例1と同様に要素作成工程S1で解析モデルを作成した後、熱伝導解析工程S3を実施する前に、溶湯が鋳物要素に流入して充填される挙動を計算する流動解析工程S2を実施した。まず、要素作成工程S1で作成した解析モデルの鋳物要素及び鋳型要素に物性値として密度、比熱、熱伝導率、凝固潜熱、粘性係数及び初期圧力などを付与し、鋳物要素の一部である図示しない湯口要素に物性値及び初期圧力にくわえて更に鋳物要素に流入する溶湯の流量を付与し、実施例1と同様に、異種要素間の伝熱条件として熱伝達係数を付与した。また、各要素に所定の初期温度として、湯口要素には溶湯の注湯温度1600℃を、鋳型要素及び空気要素には室温25℃を付与した。
【0074】
流動解析工程S2では、鋳物となる溶湯が湯口要素から注入され鋳物要素に流入して充填される過程で、溶湯が砂型と接する部分で冷却される条件も加味して、鋳物要素が溶湯で充填されるまで、鋳物要素における溶湯の位置、温度、圧力などを求めた。流動解析工程S2の解析結果のうち、鋳物要素が充填完了した時の各要素の温度を、次の熱伝導解析工程S3の初期温度として用いた。
【0075】
次に、上記の流動解析工程S2により算出された鋳物及び鋳型の温度を、熱伝導解析工程S3の初期温度として付与した以外は実施例1と同様の方法で熱伝導解析工程S3及び熱変形解析工程S4を実施した。鋳型の拘束判定温度は、実施例1と同じく、前述した実施の形態で図4に示した有機CO2鋳型の拘束判定温度600℃を使用した。
【0076】
実施例2の解析方法によって得られた変位と応力について、その解析値と鋳造での実測値とを比較評価した。なお、変位と応力を評価した評価点は、図5に示す実施例1と同一の部位とした。また、変位と応力の実測値は実施例1と同一のデータを用いた。
【0077】
図9は、実施例2の試験鋳物100のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。図9は、実施例1の図7と同様、横軸に各評価点を、縦軸にz方向変位量をとったものである。図9から、解析値と実測値とのz方向変位量の差は小さく、解析値は実測値によく一致して高い解析精度を示すことがわかる。なお、実施例2での解析値と実測値のz方向変位量の誤差は、最大18%であり、流動解析工程S2を省略した実施例1の最大誤差28%に対して、誤差は凡そ半減しており、より高精度に変位を予測できることがわかる。これは、熱変形解析工程S4に先立って実施した流動解析工程S2で得られた鋳物及び鋳型の温度を、熱変形解析工程S4の初期温度として用いることで、より実際の鋳造に近い状態を解析できたためと考えられる。
【0078】
図10は、実施例2の試験鋳物100の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。図10は横軸に各評価点をとり、縦軸に引張又は圧縮に区別した残留応力を表したものである。図10から、解析値と実測値との残留応力の差は小さく、解析値が実測値によく一致して高い解析精度を示すことがわかる。なお、解析値と実測値の残留応力の誤差は、最大で5%であり、流動解析工程S2を省略した実施例1の最大誤差10%に対して、誤差は半減しており、より高精度に応力を予測できることがわかる。
【0079】
(実施例3)
実施例3では、鋳型として、砂型をシェル鋳型とし、鋳型の一部に冷却部材(チル)として金属製部材を配設し、鋳物をオーステナイト系鋳鋼とした場合を想定して本発明の解析方法により砂型鋳物のシミュレーションを行った。
【0080】
図11は、実施例3の試験鋳物100を解析及び鋳造するための金属製部材300を配設した試験鋳型200の概略形状を示し、(a)は平面図、(b)は(a)での矢視Y−Y断面図である。図11の試験鋳型200は、砂型201をシェル鋳型とし、砂型201中に金属製部材300を配設した以外は図6に示す試験鋳型200と同様な構成とし、試験鋳物100の形状、寸法等も図5及び図6と同様な構成としている。図11で、試験鋳型200には、試験鋳物100の柱1のキャビティを構成する上下の鋳型の一部に砂型201に替えて冷却部材として金属製部材300を配設している。なお、金属製部材300の材質は、試験鋳物100と同一材質のオーステナイト系鋳鋼とした。
【0081】
実施例3は、上記した鋳型の構成部材を変更した以外は実施例2と同様に解析を実施した。以下、鋳型の構成の変更にともない実施例2と相違する点についてのみ説明する。
【0082】
(要素作成工程S1)
鋳型要素のうち、金属製部材300の位置する座標にある微小要素を金属製部材要素として定義した以外は実施例2と同様に解析モデルを作成した。
【0083】
(流動解析工程S2)
鋳型要素として、砂型の要素にシェル鋳型の物性値を、金属製部材要素にオーステナイト系鋳鋼の物性値を付与し、砂型要素及び金属製部材要素とそれ以外の要素との異種要素間の熱伝達係数を付与し、金属製部材要素の初期温度を室温として25℃を付与した。上記した以外は実施例2の流動解析工程S2と同様に、必要な条件を付与した後、鋳物要素が溶湯で充填するまで流動解析を実施して、充填完了時の各要素の温度を求めた。
【0084】
(熱伝導解析工程S3)
鋳型要素である砂型要素及び金属製部材要素について、上記の流動解析工程S2と同様に、シェル鋳型及びオーステナイト系鋳鋼の夫々の物性値と異種要素間の熱伝達係数を付与するとともに、流動解析工程S2で算出された溶湯の充填完了時の鋳物及び鋳型の各要素の温度を初期温度として付与した。上記以外は、実施例2と同様として、全ての鋳物要素の温度が室温になるまで熱伝導解析工程S3を実施して、微小時間間隔毎に鋳物要素と鋳型要素の経時的な温度を求めた。
【0085】
(熱変形解析工程S4)
初期の拘束条件として、砂型要素及び金属製部材要素何れの鋳型からも鋳物が拘束される条件を鋳物要素に設定した。熱変形解析工程S4の開始後の拘束条件は、砂型要素については、実施例2と同様に後述する拘束条件設定ステップS41を実施して鋳型による鋳物の拘束条件を設定した。一方、金属製部材は、温度が上昇しても砂型のように崩壊せず、鋳型としての形状を保持するので、後述する拘束条件設定ステップS41は実施することなく、解析の開始から終了までの終始、鋳型による鋳物の拘束有りとして設定した。上記以外は、実施例2と同様の方法で熱変形解析工程S4を実施した。
【0086】
(拘束条件設定ステップS41)
拘束条件設定ステップS41では、使用した拘束判定温度が異なる以外は実施例1で説明したと同様の方法で、拘束条件判定要否設定ステップS411、拘束条件判定ステップS412及び弾塑性解析ステップS42を実施した。実施例3の拘束判定温度は、前述した実施の形態で図3に示したシェル鋳型の拘束判定温度を用いて500℃に設定した。実施例3の拘束条件判定ステップS412では、熱伝導解析工程S3で経時的に求めた鋳型要素の温度データのうち鋳型要素の温度と拘束判定温度500℃とを比較して、鋳型要素の温度が、500℃未満なら鋳型による鋳物の拘束有り、500℃以上なら拘束無しと判定して拘束条件を設定した。
【0087】
実施例3の解析方法によって得られた変位と応力について、その解析値と鋳造での実測値とを比較評価した。なお、変位と応力を評価した評価点は、図5に示す実施例1と同一の部位とした。また、変位と応力の実測値は、砂型をシェル鋳型として一部に金属製部材300を配設した試験鋳型200を用いて、オーステナイト系鋳鋼からなる試験鋳物100を実際に鋳造して得られたデータを用いた。
【0088】
図12は、実施例3の試験鋳物100のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。図12は、横軸に各評価点を、縦軸にz方向変位量をとったものである。図12から、解析値と実測値とのz方向変位量の差は小さく、高い解析精度を示すことがわかる。図12から、評価点21を略中央としてその近傍となる、金属製部材300と接触する鋳物部位Dのz方向変位量は、ほぼゼロに近い値を示すとともに、解析値は実測値に極めてよく一致し、金属製部材が鋳物を終始拘束するために鋳物に変形が生じない現象を正確に予測していることがわかる。なお、実施例3の金属製部材300と接触する部位D以外の解析値と実測値のz方向変位量の誤差は、最大12%であり、解析値が実測値によく一致して高精度に変位を予測できることがわかる。
【0089】
図13は、実施例3の試験鋳物100の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。図13は横軸に各評価点をとり、縦軸に引張又は圧縮に区別した残留応力を表したものである。図13から、解析値と実測値との残留応力の差は小さく、解析値が実測値によく一致して高い解析精度を示すことがわかる。なお、解析値と実測値の残留応力の誤差は、最大7%であり、高精度に応力を予測できることがわかる。
【0090】
(比較例)
本発明の比較例として、熱変形解析工程S4での鋳物要素に付与する拘束条件を、初期条件から解析終了に至るまで、鋳型による鋳物の拘束が無く、鋳物が自由に変形できるものとして、実施例2と同様、有機CO2鋳型を用いたオーステナイト系鋳鋼の鋳造を想定して砂型鋳物のシミュレーションを実施した。比較例では、要素作成工程S1、流動解析工程S2及び熱伝導解析工程S3は、本発明の解析方法を実施したが、熱変形解析工程S4では、拘束条件設定ステップS41を実施せず、鋳型による鋳物の拘束は無いものとして弾塑性解析ステップS42のみ行って解析を終了した。
【0091】
比較例の解析方法によって得られた変位と応力について、その解析値と鋳造での実測値とを比較評価した。なお、変位と応力を評価した評価点は、実施例1と同一の部位とした。また、変位と応力の実測値は実施例1と同一のデータを用いた。
【0092】
図14は、比較例の試験鋳物のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。図14は横軸に各評価点を、縦軸にz方向変位量をとったものである。図14から、比較例では、解析値と実測値とのz方向変位量の差が大きく、基準点とした評価点21から遠ざかるにしたがって、解析値が実測値から乖離していることがわかる。比較例での解析値と実測値のz方向変位量の誤差は、最大で57%であり、上記した実施例1、2と比較してz方向変位量の予測精度が低く、変位を定量的に予測するに充分な解析精度が得られない。
【0093】
図15は、比較例の試験鋳物の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。図15は横軸に各評価点をとり、縦軸に残留応力を引張又は圧縮に区別して表したものである。図15から、比較例では、解析値と実測値との残留応力の差が大きいことがわかる。比較例での解析値と実測値の残留応力の誤差は、最大で72%であり、上記した実施例1、2と比較して残留応力の予測精度が低く、鋳造時の応力を予測するに充分な解析精度が得られない。
【0094】
以上、実施例で説明したとおり、本発明の砂型鋳物のシミュレーション方法は、鋳型の拘束判定温度に基づいて、鋳型の形状を保持するか否かの拘束条件を付与して熱変形解析することで、z方向変位量と残留応力で評価した場合の解析値が実測値によく一致して誤差が小さく、高い解析精度を示し、砂型鋳物に生じる歪み、変位又は応力を高精度に予測できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の実施の形態における砂型鋳物のシミュレーション方法の全体の流れを示すフローチャートである。
【図2】図1における熱変形解析工程において実施する拘束条件設定の手順を示すフローチャートである。
【図3】シェル鋳型の鋳型温度−鋳型強度特性の一例を示す図である。
【図4】有機CO2鋳型の鋳型温度−鋳型強度特性の一例を示す図である。
【図5】実施例に供した試験鋳物と変位と応力の評価位置を示す図である。
【図6】試験鋳物を解析及び鋳造するための試験鋳型の概略形状を示す図である。
【図7】実施例1の試験鋳物のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。
【図8】実施例1の試験鋳物の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。
【図9】実施例2の試験鋳物のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。
【図10】実施例2の試験鋳物の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。
【図11】実施例3の試験鋳物を解析及び鋳造するための金属製部材を配設した試験鋳型の概略形状を示す図である。
【図12】実施例3の試験鋳物のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。
【図13】実施例3の試験鋳物の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。
【図14】比較例の試験鋳物のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。
【図15】比較例の試験鋳物の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。
【符号の説明】
【0096】
100:試験鋳物
101:キャビティ
200:試験鋳型
201:砂型
300:金属製部材
1、2:柱
3、4:締結部
5、6:堰
21:基準点
22〜25:z方向変位量の評価点
31〜35:残留応力の評価点
C1、C2:切断面
D:金属製部材と接触する鋳物部位
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂型鋳物のシミュレーション方法に関し、詳しくは、例えば、鋳鉄や鋳鋼からなる鋳物を砂型鋳造で得る際に、鋳物に生じる歪み、変位又は応力の少なくとも1つを求める砂型鋳物のシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物の製造にあたっては、引け巣や湯境等の湯流れや凝固に起因する鋳造欠陥はもとより、鋳造時に発生する変形、寸法不良、きれ、割れ等の鋳造欠陥を抑制することが課題となる。変形、寸法不良、きれ、割れ等は、鋳造時に鋳物各部に生じる歪み(内部歪み、永久歪み、塑性歪みなど)、変位又は応力に起因して発生する。歪み、変位又は応力は、鋳造時に鋳物各部の冷却速度の違いにより生じる不均一な温度分布と、これによる不均一な熱膨脹及び熱収縮によって生じる。また、歪み、変位又は応力は、鋳型による鋳物の拘束の状態によって、その発生の程度に影響を受ける。なお、鋳型による鋳物の拘束とは、鋳物に生じる歪みや変位によって、鋳物が鋳型のキャビティの内壁面を越えて移動することを規制することを意味する。
【0003】
従来は、鋳物に鋳造欠陥として変形、寸法不良、きれ、割れ等が発生すると、これを対策するために、例えば、鋳造用模型や鋳造方案の修正、発生した変形や寸法不良の矯正などの施策を経験や実験に基づいて試行錯誤を繰り返して実施するとういう方法が採られていた。したがって変形、寸法不良、きれ、割れ等の鋳造欠陥を対策するには、再鋳造や再検査に労力を要し、工数とコストが費やされるという問題があった。
【0004】
近年では、鋳造の設計段階において、CAE(Computer Aided Engineering)により、湯流れ解析や凝固解析を行って、事前に、鋳造に最適な鋳造方案を得て、引け巣や湯境の発生を予知、防止することが行われてきている。一方、鋳造時に発生する変形、寸法不良、きれ、割れ等は、引け巣や湯境と同様に鋳造時に留意すべき課題であるにも関わらず、これらの現象を設計段階で事前に解析する手法はほとんど存在せず、一部存在する解析手法も実際の鋳物に生じる歪み、変位又は応力の予測として一層の解析精度の向上が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ダイカスト鋳造により得られた鋳物に存在する残留歪及び残留応力を予測するダイカストシミュレーション方法として、鋳型要素、鋳物要素、および加圧要素としての微小要素に分割する要素作成ステップと、熱的特性値に基づいて鋳物要素の温度と固相率を求める凝固解析ステップと、鋳物要素の機械的特性値を求めると共に、加圧要素によって鋳物要素に加圧力を付加し、加圧力と機械的特性値とを基にして、鋳物要素の歪み、変位及び応力を求める途中応力解析ステップと、鋳物要素の全てが固相になった後に熱的特性値に基づいて鋳物要素の温度を求める冷却解析ステップと、途中応力解析ステップにおいて得られた鋳物要素の歪み、変位および応力を初期値として用い、鋳物要素の歪み、変位及び応力を求める熱応力解析ステップとを有する、解析技術を開示している。
【0006】
この特許文献1のシミュレーション方法によれば、凝固途中における各鋳物要素の歪み、変位及び応力を得て、これに積み重ねるように凝固後における各鋳物要素の歪み、変位及び応力を求めることで、残留歪みおよび残留応力の小さい鋳物を設計することができるとしている。
【0007】
また、非特許文献1には、「砂型鋳鉄鋳物に発生する残量応力のFEM解析」と題して、汎用の有限要素法(FEM)解析による温度分布解析と残留応力解析により複雑形状の鋳鉄鋳物の残留応力分布を予測する解析手法を開示している。非特許文献1では、温度分布解析において、熱応力・熱変形解析に必要な温度分布は、鋳物−鋳型間を含めた熱解析(湯流れ時の溶湯温度変化を考虜した凝固解析)により求めるのではなく、熱電対により実測した鋳物の温度より推定して求めた温度分布を与えることにより考慮したとしている。また、残留応力解析においては、解析開始の初期条件として鋳物全体が弾性化する時期として、鋳物の最も冷却の遅い部位が弾性状態へ遷移する温度である共析変態温度以下の温度となった時期以降の温度変化について弾塑性応力解析を行ったとしている。また、鋳型の拘束については、通常解枠が共析変態温度付近で行われること、砂型のため拘束の影響が小さいと考えられるため解析の対象からはずしたとしている。
【0008】
非特許文献1によれば、開示した解析手法を実部品である砂型鋳造の鋳鉄製シリンダブロックに適用して解析値と実測値とを比較すると、絶対値的には残留応力の解析精度は低いものの、残留応力分布および鋳物形状や鋳造時の冷却条件など鋳造条件を変更した場合の残留応力の変化割合は解析と実測とで良く一致したとしている。
【0009】
【特許文献1】特開2006−26723号公報
【非特許文献1】牧野浩、外3名、「鋳物」、社団法人日本鋳物協会、1991年12月25日、第63巻、第12号、p.959−964
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来提案されてきた鋳造時に発生する歪み、変位又は応力の解析方法では充分な解析精度が得られない場合があった。特に鋳造で用いる鋳型が金型の場合と砂型の場合とでは、鋳型による鋳物の拘束の状態が相違するため、実際の鋳物と解析とで発生する歪みや変位が乖離することがあった。
【0011】
例えば、アルミニウム合金などの鋳物を金型で鋳造する場合、金型では鋳物が室温に冷却されるまで、鋳型(金型)による鋳物の拘束の状態は変化しないと考えられる。したがって金型鋳造での歪み、変位又は応力を解析する場合には、拘束状態の変化を考慮することなく、例えば解析の開始から終了までの終始、鋳物が鋳型による拘束を受けた条件を設定して解析しても、解析と実際の鋳物とで得られた結果の乖離は小さく、解析精度への影響は少ない。
【0012】
一方、砂型鋳造の場合、砂型が鋳物となる高温の溶湯に曝されると、砂粒同士を固着する粘結材が融解又は分解して鋳型強度が低下する。例えば、鋳鉄や鋳鋼の鋳造などで1300℃以上の高温の溶湯を砂型からなる鋳型に注湯する場合には、鋳型に対する入熱量が多く鋳型強度の低下が大きいため、鋳物への拘束の状態が変化する。また、入熱により硬化する鋳型や、逆に入熱により崩壊し易い鋳型など、鋳型(砂型)の種類によって、鋳造時の鋳物への拘束の状態も変化する。例えば、崩壊性の良いシェル鋳型や、鋳造時に水分凝縮層を生成する生砂からなる鋳型(生型)は、注湯後、短時間で鋳型強度が低下して拘束が解放される。一方、フラン鋳型やCO2鋳型は比較的高い強度と硬度を有し、注湯後、比較的長時間に亘って鋳型強度を保持して拘束を維持する。
【0013】
また、例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金など比重が小さく低融点の鋳物を、砂型からなる鋳型で鋳造する場合、鋳物から鋳型への入熱量が少なく鋳型の強度低下が小さいため、鋳物が室温に冷却されるまで鋳型はその強度を保持する。したがって、このような鋳物と鋳型の組み合せの場合には、例え鋳型が砂型であっても、金型と同様に、鋳物が鋳型による拘束を受けた状態が変化しない。
【0014】
このように鋳造時の鋳型による鋳物の拘束の状態は、鋳型が金型と砂型とで相違し、また鋳型が砂型でもその種類によって、さらには鋳物と砂型との組み合せによっても相違する。従来、鋳型、特に砂型による鋳物の拘束条件まで考慮して鋳物の歪み、変位又は応力を解析する方法についての提案は見当たらない。
【0015】
特許文献1のダイカストシミュレーション方法は、鋳物に生じる歪み、変位及び応力を求める解析技術を開示しているが、鋳型はダイカスト、即ち金型であって、砂型鋳造の場合の鋳型による鋳物の拘束状態の変化について考慮されていないため、砂型鋳物に生じる歪み、変位又は応力の予測として十分な解析精度を得られない虞がある。
【0016】
非特許文献1の砂型鋳鉄鋳物に発生する残留応力のFEM解析では、熱応力・熱変形解析で必要な温度分布は、実測した数十点の鋳物の温度から推定して求めた温度分布を与えており、注湯から室温まで冷却する過程での温度分布と時間変化を湯流れ解析や凝固解析で計算していない。さらに非特許文献1では、鋳型の拘束については、砂型のため拘束の影響が小さいと考えられるため解析の対象からはずした、として鋳型が無い状態で弾塑性応力解析を行っており、鋳型による鋳物の拘束は解析に考慮されていない。
【0017】
本発明の課題は、上記した実情に鑑みてなされたもので、例えば、鋳鉄や鋳鋼からなる鋳物を、砂型鋳造で得る際に、鋳物に生じる歪み、変位又は応力の少なくとも1つを、高精度に解析できる、砂型鋳物のシミュレーション方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究した。その結果、実際の砂型鋳造では、一般に鋳型が溶湯と接触、加熱されて鋳型の形状を保持できなくなる点に着目して、砂型鋳物のシミュレーションにおいて、鋳型要素の温度に基づいて鋳型による鋳物の拘束条件を設定して熱変形解析することで、上記課題が解決できるとの知見を得て本発明に想到した。
【0019】
すなわち、本発明の砂型鋳物のシミュレーション方法は、少なくとも一部が砂型からなる鋳型内に溶湯を注入して凝固させることにより所望形状の鋳物を得る際に、鋳物に生じる歪み、変位又は応力の少なくとも1つを求める砂型鋳物のシミュレーション方法であって、少なくとも鋳物要素及び鋳型要素からなる解析モデルを作成する要素作成工程(S1)と、前記鋳物要素及び前記鋳型要素の伝熱を経時的に解析して、前記鋳物要素及び前記鋳型要素の温度を求める熱伝導解析工程(S3)と、前記熱伝導解析工程(S3)により得られた前記鋳型要素の温度に基づいて、鋳型による鋳物の拘束条件を設定する拘束条件設定ステップ(S41)と、設定された拘束条件、前記鋳物要素の温度変化量及び熱膨張係数に基づいて、前記鋳物要素の変形を経時的に解析して、前記鋳物要素の歪み、変位又は応力の少なくとも1つを求める弾塑性解析ステップ(S42)と、をもつ熱変形解析工程(S4)と、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の砂型鋳物のシミュレーション方法においては、前記拘束条件設定ステップ(S41)は、前記鋳型要素の温度変化に基づいて鋳型による鋳物の拘束条件判定の要否を決定する拘束条件判定要否設定ステップ(S411)と、拘束条件判定を要する場合に、前記鋳型要素の温度と鋳型の拘束判定温度とを比較して拘束の有無を判定する拘束条件判定ステップ(S412)と、前記鋳物要素に拘束条件を設定するステップと、を有することが好ましい。前記鋳型の拘束判定温度は、鋳型温度と鋳型強度との関係から、鋳型の形状を保持できないものと見なせる温度とすることが望ましい。
【0021】
本発明の砂型鋳物のシミュレーション方法においては、前記熱伝導解析工程(S3)の前に、溶湯が前記鋳物要素を流動して充填される挙動を経時的に解析して、前記鋳物要素の温度を求める流動解析工程(S2)を行い、前記流動解析工程(S2)で得られた溶湯の充填完了時の前記鋳物要素の温度を前記熱伝導解析工程(S3)の初期温度として付与することが好ましい。
【0022】
本発明の砂型鋳物のシミュレーション方法は、前記鋳型に金属製部材を含み、前記熱変形解析工程(S4)の解析の開始から終了まで終始、前記金属製部材に拘束有りの拘束条件を設定してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の砂型鋳物のシミュレーション方法によれば、例えば、鋳鉄や鋳鋼からなる鋳物を砂型鋳造で得る際に、鋳物各部の不均一な熱膨脹及び熱収縮によって生じる歪み、変位又は応力の少なくとも1つを、鋳型の拘束状態の変化も考慮して高精度に求めることができる。これにより、鋳造の設計段階で、鋳造時に生じる歪み、変位又は応力を正確に求められるので、これらに起因する変形、寸法不良、きれ、割れ等の鋳造欠陥の予知、防止に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。図1は、本発明の実施の形態における砂型鋳物のシミュレーション方法の全体の流れを示すフローチャートである。図2は、図1における熱変形解析工程において実施する拘束条件設定の手順を示すフローチャートである。なお、本発明のシミュレーション方法は、以下に説明する実施の形態に従って作成されたプログラムをコンピュータにより実行することで実現される。
【0025】
(1)要素作成工程(S1)
要素作成工程S1では、少なくとも製品となる鋳物の形状データを3次元CADデータとして作成し又は予め作成された該形状データを取り込んで、また、鋳造に必要な湯口、湯道、押湯、堰などの鋳造方案部の形状データ、さらに鋳物の周囲に鋳型の形状データを作成し、これらの各形状データを多面体からなる複数の微小要素に分割した後、該微小要素を鋳物又は鋳型と定義し、少なくとも鋳物要素及び鋳型要素からなる解析モデルを作成する工程である。なお、解析モデルは、鋳物要素及び鋳型要素のほかに、必要に応じて空気要素を作成する。
【0026】
本発明においては、鋳物の外側を形成する外型である主型や、鋳物の中空部を形成する中子など、鋳型のうち少なくとも一部が砂型から構成される鋳造方法を解析の対象とし、砂型からなる鋳型を砂型要素と定義する。また、砂型のみから構成されるものの他に、砂型以外の部材として金属製部材が含まれてもよい。金属製部材としては、例えば、引け巣の発生を抑制するためのチルと呼ばれる冷却部材や、主型としての金型が挙げられる。チルや金型などの金属製部材が鋳型に含まれる場合は、鋳型要素のうち、金属製部材の位置する微小要素を金属製部材要素として、砂型要素とは別に定義する。鋳型要素のうち、主型を金型として金属製部材要素として、中子を砂型要素として定義すれば、例えば、アルミニウム合金の低圧鋳造法やグラビティ(重力)鋳造法を対象とした解析モデルを作成できる。
【0027】
なお、複数の微小分割要素の作成には、部位毎に微小要素に分割する位置を座標として与える方法や、所望の微小要素の大きさを与えれば自動で微小要素を生成する要素作成プログラムなどを用いてもよい。また、鋳型要素を作成する場合には、鋳物の形状データのみから、鋳型の厚さを定義して、鋳物要素の周囲に鋳型要素を簡易に作成してもよい。
【0028】
予め作成された鋳物の形状を取り込むための3次元CADデータの形式は、様々な形式のデータを用いることができる。例えば、国際規格IGES(Initial Graphics Exchange Specification)形式やSTL(Stereo Lithography)形式などが利用できる。
【0029】
(2)流動解析工程(S2)
流動解析工程S2は必ずしも実施しなくてもよいが、実施すれば、後述する熱伝導解析工程S3における、各要素の初期温度などをより実際の鋳造に近づけて設定できるので解析精度の向上に寄与して好ましい。流動解析工程S2は、溶湯が鋳物要素に充填される挙動を流動解析で計算する。本工程S2は、上記要素作成工程S1で作成した、鋳物要素の一部である湯口要素に溶湯の流入量又は流入圧力を、各要素に密度、比熱、熱伝導率及び粘性係数などの物性値、初期温度及び初期圧力を、鋳物要素と鋳型要素など異種要素間の伝熱条件として熱伝達係数を、付与した後、例えば、ナビエ−ストークスの式などを利用して、鋳物要素における溶湯の位置、温度、圧力などを求める。鋳物要素が充填完了した時の各要素の温度を、次の熱伝導解析工程S3の初期温度として利用する。
【0030】
なお、湯境など湯流れ(溶湯の流動)に起因する鋳造欠陥を注視しなくともよい場合や、鋳物の歪み、変位又は応力の解析として必要な精度が確保できる場合や、歪み、変位又は応力の解析結果の絶対値には拘らず相対的、定性的な結果のみ得ようとする場合などは、流動解析工程S2を省略してもよい。これにより解析工数(手間)や計算時間を短縮できる。
【0031】
(3)熱伝導解析工程(S3)
熱伝導解析工程S3は、熱移動や潜熱を考慮した非定常熱伝導解析によって各要素についての熱の伝導を計算する工程である。本工程S3は、少なくとも鋳物要素及び鋳型要素に密度、比熱、熱伝導率及び凝固潜熱などの物性値及び初期温度を付与し、また鋳物要素と鋳型要素など異種要素間の伝熱条件として熱伝達係数などを付与した後、全ての鋳物要素に溶湯が充填した初期状態から、微小時間間隔毎に鋳物要素と鋳型要素の経時的な温度を求める。
【0032】
熱伝導解析工程S3で付与する各要素の初期温度は、流動解析工程S2を実施した場合は、鋳物要素が充填完了した時の各要素の温度を利用することができる。一方、流動解析工程S2を省略した場合は、鋳物要素、鋳型要素の所定の初期温度を直接付与する。
【0033】
熱伝導解析工程S3は、鋳物の引け巣予測を目的に実施されるので、通常は、鋳物の凝固が終了した時点で解析を終了する。しかし、本発明においては、鋳物の歪、変位又は応力を求めるため、鋳物の凝固が終了した後も継続して鋳物が所定の温度に低下するまで解析を継続する必要がある。熱伝導解析工程S3は、全ての鋳物要素が所定の温度として室温、例えば25℃に達した後に解析を終了すれば、高い解析精度が得られるので好ましい。なお、鋳物の歪み、変位又は応力の解析として必要な精度が確保できる場合は、鋳物要素の最も高い温度が所定の温度として、例えば200℃に達した時点で解析を終了してもよい。これにより、解析時間の短縮を図れる。
【0034】
(4)熱変形解析工程(S4)
熱変形解析工程S4は、上記の熱伝導解析工程S3で得られた鋳物要素及び鋳型要素の温度と、後述する鋳型による鋳物の拘束条件とに基づいて、弾塑性解析によって鋳物要素の熱膨脹及び熱収縮にともなう歪み、変位又は応力を計算する工程である。本工程S4は、鋳物要素に耐力、ヤング率、歪み硬化指数、ポアソン比などの機械的性質、熱膨張係数及び拘束条件を付与した後、上記の熱伝導解析工程S3において経時的に求めた鋳物要素の温度から、微少時間間隔毎の鋳物要素の温度変化量を求め、求めた温度変化量に付与した熱膨張係数を乗じて、弾塑性解析によって鋳物要素の変形を経時的に求める。次いで求めた変形の解析結果と機械的性質に基づいて、歪み、変位又は応力を求める。
【0035】
本工程S4で付与する拘束条件は、初期条件としては鋳型による鋳物の拘束有りとして計算を開始し、計算開始後は、本工程S4に含まれる後述する拘束条件設定ステップS41において、鋳型による鋳物の拘束の有無を判定して与える。なお、機械的性質は、温度によってその値が変化する場合は温度毎に値を与えるが、その値の変化量が少ない場合には一定値を用いてもよい。
【0036】
熱変形解析工程S4と熱伝導解析工程S3は微小時間間隔毎に夫々の解析工程を順次行ってもよいし、熱伝導解析工程S3の終了後に、熱変形解析工程S4を行ってもよい。熱伝導解析工程S3終了後に熱変形解析工程S4を行う場合には、熱伝導解析工程S3で求めた鋳物要素と鋳型要素の経時的な温度を、微小時間間隔毎又はこれより長い時間間隔毎に保存しておき、熱変形解析工程S4ではこの保存した温度を読み込んで解析を行ってもよい。また、熱変形解析工程S4と熱伝導解析工程S3の微小時間間隔は同一であってもよいし、異なってもよい。例えば、熱変形解析工程S4の微小時間間隔を、熱伝導解析工程S3のそれよりも長い時間間隔とすればシミュレーション全体に要する計算時間を短縮できる。
【0037】
熱変形解析工程S4は、熱伝導解析工程S3の開始、即ち全ての鋳物要素に溶湯が充填した初期状態から、鋳物要素の温度が凝固終了温度以下の所定の温度に到達するまで解析を実施する(S5)。本工程S4の解析の開始は、要求される解析精度を確保できれば、熱伝導解析工程S3で全ての鋳物要素が凝固終了温度に到達した温度から開始してもよい。また、本工程S4の解析の終了は、全ての鋳物要素が所定の温度として室温、例えば25℃に達した後に解析を終了すれば、高い解析精度が得られるので好ましい。なお、鋳物の歪み、変位又は応力の解析として必要な精度が確保できる場合は、鋳物要素の最も高い温度が所定の温度として、例えば200℃に達した時点で解析を終了してもよい。これにより、解析時間の短縮を図れる。
【0038】
要素作成工程S1、流動解析工程S2、熱伝導解析工程S3及び熱変形解析工程S4の弾塑性解析S42で使用する解析用のプログラムは特に限定されるものではなく、有限要素法、直交差分法を用いた市販の解析プログラムを使用できる。
【0039】
(5)拘束条件設定ステップ(S41)
次に熱変形解析工程S4で鋳物要素に付与する拘束条件の設定手順について図2に示す拘束条件設定ステップS41に沿って説明する。本ステップS41は本発明を特徴づける主要なステップである。実際の砂型鋳造では、注湯前の鋳型はその温度が室温で強度を発現して形状を保持して鋳物を拘束しているが、注湯後の鋳型は溶湯と接触して温度上昇して強度が低下して、特定の温度以上ではその形状を保持できなくなり、鋳物を拘束しなくなる。拘束条件設定ステップS41は、この実際の鋳造で生じる現象を解析で再現するため、鋳型要素の温度に応じて、鋳型による鋳物の拘束の有無を判定して、鋳物要素に拘束条件を設定する。
【0040】
本発明で「拘束する」又は「拘束有りに設定する」とは、熱変形解析工程S4で実施する弾塑性解析の際に、鋳物要素の節点(頂点)が、後述する拘束判定温度未満の温度の鋳型要素の領域には移動できないように設定することをいう。「拘束しない」又は「拘束無しに設定する」とは、熱変形解析工程S4で実施する弾塑性解析の際に、鋳物要素の節点(頂点)が、後述する拘束判定温度以上の温度の鋳型要素の領域に移動できるように設定することをいう。
【0041】
なお、鋳型にチルや金型などの金属製部材を配設する場合は、金属製部材は温度が上昇しても砂型のように崩壊せず、鋳型としての形状を保持するので、鋳物の温度が、注湯から所定の温度に至る全温度範囲で鋳物を拘束する。従って、熱変形解析工程S4では、解析の開始から終了までの終始、鋳物要素の節点が、金属製部材の領域には変位できない条件(拘束有り)を設定する。なお、金属製部材の材質としては、鋳鋼、鋳鉄、鋼、銅合金など各種の金属材料を使用できる。
【0042】
拘束条件設定ステップS41は、図2に示すように拘束条件を判定するか否かを決定する拘束条件判定要否設定ステップS411と、拘束条件の判定が必要な場合に、鋳型要素の温度と予め求めた鋳型が鋳物を拘束できなくなる温度(以下、拘束判定温度という)とを比較して拘束条件を判定する拘束条件判定ステップS412とからなる。
【0043】
まず、拘束条件判定要否設定ステップS411では、鋳型の温度変化に基づいて拘束条件を判定するか否かを決定する。具体的には、鋳型要素の温度について1つ前の計算結果と最新の計算結果とを比較して、鋳型要素の温度が上昇していれば、拘束条件判定ステップS412に進み、鋳型要素の温度が等しければ又は下降していれば拘束条件の判定はしないと判断する。拘束条件の判定をしない場合は、1つ前の計算で用いた拘束条件の設定のまま弾塑性解析ステップS42を行う。鋳型の温度変化に基づいて拘束条件を判定することとしたのは、温度が上昇する場合は拘束条件が変化する可能性があり、温度が等しい又は下降する場合は拘束条件が変化しないと判断されるためである。
【0044】
拘束条件判定ステップS412では、予め実験等により求めた鋳型の拘束判定温度により拘束の有無を判定して拘束条件を設定する。具体的には、最新の計算で求めた鋳型要素の温度と、拘束判定温度とを比較して、鋳型要素の温度が、拘束判定温度未満なら拘束有り、拘束判定温度以上なら拘束無しと判断する。
【0045】
拘束有りと判断された場合は、鋳物要素の節点に対して、これが拘束判定温度未満の温度の鋳型要素の領域に移動できない設定を付与する。一方、拘束無しと判断された場合は、鋳物要素の節点に対して、これが拘束判定温度以上の温度の鋳型要素の領域に移動できる設定を付与する。
【0046】
次に、拘束条件判定ステップS412で設定された拘束条件を用いて弾塑性解析ステップS42を行う。なお、弾塑性解析ステップS42の初回の計算は、全ての鋳物要素に対して拘束有りの条件で開始する。
【0047】
(5−1)鋳型の拘束判定温度
鋳型による拘束の有無判定など拘束条件設定のためには、砂型からなる鋳型が温度上昇して強度が低下して鋳物を拘束しなくなる温度、即ち鋳型の拘束判定温度を予め求めて、拘束条件判定ステップS412で付与しておく必要がある。鋳型が鋳物を拘束しなくなる温度を厳密に求めることは困難なことから、本発明においては、鋳型がその形状を保持できないと見なせる温度をもって鋳型の拘束判定温度と定義した。
【0048】
本実施の形態では、実験に基づく経験的方法として、鋳型温度と鋳型強度との関係を調査して拘束判定温度を設定する場合について例示的に以下説明する。ここでは鋳型の拘束判定温度は、加熱した鋳型の強度の測定から求めた鋳型温度−鋳型強度特性に基づく強度の変化と、加熱状態での鋳型の観察結果と、から鋳型の形状を保持できないと見なせる温度と定義した。
【0049】
図3は、砂型の1つであるシェル鋳型の鋳型温度−鋳型強度特性の一例を示す図である。シェル鋳型での鋳型温度−鋳型強度特性を得る方法として、寸法10mm×10mm×60mmのシェル鋳型の試験片を作製し、得られた試験片を恒温保持可能な加熱炉で大気雰囲気中100〜1000℃の所定の温度で3分間加熱し、試験片を加熱炉から取出し後速やかに鋳型強度を測定した。鋳型強度は代表値として曲げ強さで評価し、その測定方法は、JIS K−6910規格「フェノール樹脂試験方法」に規定の曲げ強さ試験での操作、計算を適用した。なお、鋳型強度の代表値としては特に限定されず、曲げ強さ、圧縮強さ、抗圧力、抗折力などから鋳型温度−鋳型強度特性を得ることができる。また、鋳型強度の測定方法としては、JISや(社)日本鋳造技術協会(現在、(社)日本鋳造協会に統合)で規定する各種試験方法を適用できる。
【0050】
図3の鋳型温度−鋳型強度特性に示すように、例示したシェル鋳型の鋳型強度は、鋳型温度の上昇とともに、約400℃までは暫減し、約400〜500℃の温度範囲では激減し、約500℃以上では再び暫減する、という変化を示した。加熱炉内での加熱中又は取出し、運搬等の取り扱い中など、加熱状態での試験片(鋳型)の観察結果によれば、約400℃までは鋳型の表面からの砂粒の脱落が認められるもののその量は僅かであり、約400℃を超えると鋳型表面からの砂粒の脱落、剥離が顕著となり、約500℃で表面から深さ方向で数mmの表層部分が剥離して崩壊した。
【0051】
このことから、例示したシェル鋳型は、約400℃までは砂粒同士を固着する粘結材の軟化や一部融解によって鋳型強度が低下し、約400℃以上では粘結材の融解又は分解が顕著となるために砂粒同士を固着する結合力が消失して鋳型表面から砂粒が脱落、剥離して鋳型が崩壊を開始し、更なる加熱にともなって鋳型の崩壊が表面から内部に及び、約500℃付近で最も崩壊が顕著となり、500℃以上では更に内部までは崩壊しない状態に達したものと推察される。
【0052】
上記した鋳型温度−鋳型強度特性と加熱状態での鋳型の観察結果とから、例示したシェル鋳型では、加熱により鋳型強度が激減から再び暫減に転じる温度に達すると、表面から内部まで崩壊が進んでしまい鋳型の形状を保持できないものと見なし、当該温度を拘束判定温度とし、鋳型温度がそれ以上では鋳型が鋳物を拘束しなくなるものと定義した。具体的には、500℃を拘束判定温度として設定し、拘束条件判定ステップS412において、熱伝導解析工程S3で求めた鋳型温度が500℃未満では鋳型による鋳物の拘束有り、500℃以上では拘束無しと判定する。
【0053】
本発明では、上記例示のようにして求められる拘束判定温度を、解析の対象となる鋳型毎に設定しておき、上記拘束条件判定ステップS412で記載したように、求めた鋳型要素の温度と拘束判定温度とを比較して、拘束の有無を判定して拘束条件を設定する。
【0054】
なお、一旦、鋳型温度が上昇して拘束判定温度以上となった場合、即ち、鋳型の形状を保持できないと見なされる場合には、既に砂粒同士を固着する結合力は消失しているので、その後、鋳物や鋳型の冷却により鋳型温度が再び低下しても砂粒同士を固着する結合力が回復することなく鋳型は崩壊したままである。このように砂型は不可逆的な性質を有するので、鋳物の冷却にともなって鋳型温度の低下により鋳型要素の温度が再び拘束判定温度以下の温度となって拘束有りの領域に入っても、一旦拘束無しに設定した拘束条件は変更しない。前述した拘束条件判定要否設定ステップS411で鋳型要素の温度変化を判定しているのは、上述の砂型の不可逆的な性質を考慮して、鋳型要素の温度変化が上昇局面であれば拘束条件が変化する可能性があるので拘束条件判定ステップS412に進み、一方、鋳型要素の温度変化が停滞又は下降の局面であれば拘束条件は変化しないので拘束条件判定ステップS412に進まないと判断させるためである。
【0055】
以上、本実施の形態では、鋳型の拘束判定温度の求め方として、鋳型温度と鋳型強度との関係を調査してこれを求める場合を例示して説明したが、拘束判定温度の求め方は、上記に限定されず、理論的方法や実験に基づいた経験的方法を用いて求めることができる。例えば、鋳型を加熱して温度毎に表面安定度を測定し、表面安定度を評価指標として鋳型がその形状を保持できないと見なせる温度を定義して拘束判定温度を決定してもよい。
【0056】
また、本実施の形態では、砂型としてシェル鋳型を例示して説明したが、本発明のシミュレーション方法は、対象とする鋳型の種類は特に限定されず、シェル鋳型以外に、有機CO2鋳型、水ガラスCO2鋳型、コールドボックス鋳型、ウォームボックス鋳型、フラン鋳型、エステル硬化鋳型、フェノールウレタン鋳型、生型など各種の砂型に適用できる。
【0057】
例えば、図4は、CO2ガス硬化型アルカリフェノール鋳型からなる有機CO2鋳型の鋳型温度−鋳型強度特性の一例を示す図である。図4の鋳型温度−鋳型強度特性に示すように、例示した有機CO2鋳型では、鋳型温度の上昇とともに鋳型強度が低下し、約400〜600℃の温度範囲で顕著な低下を示し、約600℃以上では暫減する現象を示すとともに、約600℃で鋳型表面から数mmの表層部分が剥離、崩壊した。例示した有機CO2鋳型は、鋳型の形状を保持できないと見なせる拘束判定温度を600℃として設定することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例として、砂型鋳物のシミュレーション方法について説明する。本実施例では、試験鋳物を砂型鋳造する際に発生する変位と応力について、本発明のシミュレーション方法による解析を実施するとともに、解析精度を検証するために実際の鋳造を実施し、得られた解析値と実測値とを比較評価した。なお本実施例では、何れも市販の有限要素法のソフトとして、要素作成工程S1での要素分割には自動要素分割ソフトを、流動解析工程S2の計算には湯流れ解析ソフトを、熱伝導解析工程S3の計算には熱伝導解析ソフトを、弾塑性解析ステップS42の計算には熱変形解析ソフトを使用した。
【0059】
図5は、実施例に供した試験鋳物100を示し、本発明のシミュレーション方法で予測され、また実際の鋳造で発生した変位と応力の評価位置を示した図である。図6は、図5に示す試験鋳物100を解析及び鋳造するための試験鋳型200の概略形状を示し、(a)は平面図、(b)は(a)での矢視X−X断面図である。この試験鋳型200は、部位1〜6から構成される試験鋳物100と堰5、6とを造型したキャビティ101、及び砂型201からなる。試験鋳型200を用いて、図示しない注湯口と方案部を経由して、堰5、6から溶湯を注入、凝固させることを想定した本発明のシミュレーション方法を実施するとともに実際の試験鋳物100を鋳造した。試験鋳物100は、平行する2本の柱1、2と、該柱1、2の両端部を連結する三角形状の締結部3、4とを有し、柱1を幅20mm、柱2を幅40mmとし、柱1、2及び締結部3、4の肉厚を5mmとしている。
【0060】
次に本実施例での変位と応力の評価方法について説明する。変位は、解析終了及び実際の鋳造後に室温に達した試験鋳物100について、図5に示す点21を基準点(ゼロ(0)点)として、前記基準点21に対する後述する各評価点のz座標方向(図5の紙面に対して垂直方向)の移動量(mm)をもって変位量(以下、z方向変位量という)として評価した。評価点は、図5で符合22〜25で示す4点、及び各点(21と22、22と23、21と24、24と25)を結ぶ直線上の任意の複数点とした。なお、解析の変位量は、本発明の熱伝導解析工程を開始する前の評価点21における鋳物要素の節点の位置をゼロとして基準点とし、基準点に対する熱伝導解析工程を終了後の各評価点に対応する鋳物要素の節点の相対的な位置データからz方向変位量を算出した。また、実際の鋳物の変位量は、鋳造後の試験鋳物100の各評価点について、接触式の3次元測定器を用いてz方向変位量を実測した。なお、z座標方向の移動量を評価したのは、試験鋳物100のような、相対的に肉厚に対して広い平面を有する薄肉鋳物では、歪や変形がz座標方向に顕著に発生するためである。
【0061】
応力は、解析終了及び実際の鋳造後に室温に達した試験鋳物100に残留する応力(残留応力)をもって評価し、図5に示す鋳物側面の評価点31〜35の残留応力を求めた。解析値の残留応力は、熱伝導解析工程終了後の各評価点に対応する鋳物要素の節点の応力データを残留応力とした。また、実際の鋳物の残留応力は、試験鋳物100の評価点31〜35に歪みゲージを貼り付け、その後、切断面C1、C2を機械的に切断して切断前後での歪み量の差を歪みゲージで検出し、実測した歪み量の差から残留応力を算出した。
【0062】
(実施例1)
実施例1は、図6に示す砂型201を有機CO2鋳型、試験鋳物100をオーステナイト系鋳鋼からなる鋳物、と想定して本発明の方法による砂型鋳物のシミュレーションを行った。
【0063】
(要素作成工程S1)
実施例1の要素作成工程S1では、鋳物要素、鋳型要素及び空気要素から構成される解析モデルを作成した。まず、図5、6に示す試験鋳物100の形状を3次元CADデータとして作成し、堰5、6及び図示しない湯口、湯道などの鋳造方案部及び鋳型として砂型201の形状データを作成した後、当該データを多面体からなる複数の微小要素に分割した。次に微小要素のうち、試験鋳物100、及び堰5、6などの鋳造方案部に位置する微小要素を鋳物要素に、砂型201に位置する微小要素を砂型要素に、さらに砂型201の外周部に図示しない空気を空気要素として定義して解析モデルとした。実施例1における微小要素の大きさは、要素の一辺の長さとして、鋳物要素で1.5〜3mm、鋳型要素及び空気要素で3〜5mmであった。
【0064】
(熱伝導解析工程S3)
実施例1は、流動解析工程S2を省略して熱伝導解析工程S3を実施した。まず、要素作成工程S1で作成した解析モデルの鋳物要素及び鋳型要素に物性値として密度、比熱、熱伝導率及び凝固潜熱などを付与し、鋳物要素と鋳型要素、鋳物要素と空気要素、鋳型要素と空気要素など、異種要素間の伝熱条件として熱伝達係数を付与した。また、各要素に所定の初期温度として、鋳物要素には注湯温度1600℃を、鋳型要素及び空気要素には室温25℃を付与した。なお、各要素の初期温度は、予め実験等で求めた実測の温度があれば、これを付与してもよい。次に、付与した初期温度、物性値及び熱伝達係数に基づいて、非定常熱伝導解析によって熱の伝導を計算し、全ての鋳物要素に溶湯が充填した状態から、全ての鋳物要素の温度が室温になるまで、微小時間間隔毎に鋳物要素と鋳型要素の経時的な温度を求めた。
【0065】
(熱変形解析工程S4)
熱変形解析工程S4では、鋳物要素に耐力、ヤング率、歪み硬化指数、ポアソン比などの機械的性質、熱膨張係数及び初期の拘束条件を付与した。本実施例では、鋳物要素の温度に依存して機械的性質及び熱膨張係数の値が変化するように設定した。また、初期の拘束条件として、鋳物要素に鋳型による鋳物の拘束有りを設定した。次に、付与した機械的性質、熱膨張係数及び初期の拘束条件と、上記の熱伝導解析工程S3で経時的に求めた鋳物要素と鋳型要素の温度データと、後述する拘束条件設定ステップS41で設定した鋳型による鋳物の拘束条件とに基づいて、弾塑性解析ステップS42を実施した。弾塑性解析ステップS42では、微少時間間隔毎の鋳物要素の温度変化量と付与した熱膨張係数から、熱膨脹及び熱収縮にともなう鋳物要素の変形を求め、次いで求めた変形の解析結果と機械的性質に基づいて、変位又は応力を経時的に求めた。
【0066】
(拘束条件設定スッテプS41)
熱変形解析工程S4の弾塑性解析ステップS42を行う際に鋳物要素に付与する拘束条件としては、上述したとおり初期条件は拘束有りとして計算を開始し、計算開始後は、拘束条件設定ステップS41で拘束の有無を判定して与えた。拘束条件設定ステップS41では、まず鋳型の温度変化に基づいて拘束条件を判定するか否かを決定する拘束条件判定要否設定ステップS411を実施し、鋳型要素の温度が上昇していれば、拘束条件判定ステップS412に進み、前記温度が不変又は下降していれば拘束条件の判定をしないで、1つ前の計算で用いた拘束の設定を用いて弾塑性解析ステップS42を行った。
【0067】
拘束条件判定ステップS412では、予め実験により求めた鋳型の拘束判定温度により拘束の有無を判定して拘束条件を設定した。実施例1の拘束判定温度は、前述した実施の形態で図4に示した有機CO2鋳型の拘束判定温度を用いて600℃に設定した。実施例1の拘束条件判定ステップS412では、熱伝導解析工程S3で経時的に求めた鋳型要素の温度データのうち鋳型要素の温度と拘束判定温度600℃とを比較して、鋳型要素の温度が、600℃未満なら鋳型による鋳物の拘束有り、600℃以上なら拘束無しと判定して鋳物要素に拘束条件を設定した。
【0068】
拘束有りの設定では、弾塑性解析ステップS42を実施する際に、鋳型による鋳物の拘束があるものとして、鋳物要素の節点が、拘束判定温度600℃未満の温度の鋳型要素の領域には移動できないように設定し、一方、拘束無しの設定では、弾塑性解析ステップS42を実施する際に、鋳型による鋳物の拘束がないものとして、鋳物要素の節点が、拘束判定温度600℃以上の温度の鋳型要素の領域に移動できるように設定した。次に設定した拘束条件を用いて弾塑性解析ステップS42を行った。
【0069】
熱変形解析工程S4は、熱伝導解析工程S3の開始、即ち全ての鋳物要素に溶湯が充填した初期状態から、鋳物要素の変形の解析を開始し、全ての鋳物要素の温度が、所定の温度として200℃に到達したところで解析を終了した。
【0070】
実施例1の解析方法によって得られた変位と応力について、その解析値と鋳造での実測値とを比較評価した。図7は、実施例1の試験鋳物100のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。図7は横軸に各評価点をとり、縦軸にz方向変位量をとったものである。図7から、解析値と実測値とのz方向変位量の差は小さく、解析値は実測値によく一致して高い解析精度を示すことがわかる。なお、解析値と実測値のz方向変位量の誤差([解析値と実測値のz方向変位量の差/実測値のz方向変位量]×100)は、最大で28%であった。
【0071】
図8は、実施例1の試験鋳物100の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。図8は横軸に各評価点をとり、縦軸には残留応力を引張又は圧縮に区別して表したものである。図8から、解析値と実測値との残留応力の差は、残留応力の絶対値が小さい評価点34、35でやや大きいものの、実際の鋳造で問題視される、残留応力の絶対値が大きく、かつ引張の残留応力を示した評価点34、35では、解析値と実測値との残留応力の差は小さく、解析値は実測値によく一致して高い解析精度を示すことがわかる。なお、解析値と実測値の残留応力の誤差([解析値と実測値の残留応力の絶対値の差/実測値の残留応力の絶対値]×100)は、最大で10%であった。
【0072】
(実施例2)
実施例2では、実施例1で省略した流動解析工程S2も含めて本発明の砂型鋳物のシミュレーションを行った。実施例2は、実施例1と同様に、図6に示す砂型201を有機CO2鋳型、試験鋳物100をオーステナイト系鋳鋼からなる鋳物、と想定して本発明の解析方法により砂型鋳物のシミュレーションを行った。以下、流動解析工程S2の実施にともない実施例1と相違する点についてのみ説明する。
【0073】
(流動解析工程S2)
実施例1と同様に要素作成工程S1で解析モデルを作成した後、熱伝導解析工程S3を実施する前に、溶湯が鋳物要素に流入して充填される挙動を計算する流動解析工程S2を実施した。まず、要素作成工程S1で作成した解析モデルの鋳物要素及び鋳型要素に物性値として密度、比熱、熱伝導率、凝固潜熱、粘性係数及び初期圧力などを付与し、鋳物要素の一部である図示しない湯口要素に物性値及び初期圧力にくわえて更に鋳物要素に流入する溶湯の流量を付与し、実施例1と同様に、異種要素間の伝熱条件として熱伝達係数を付与した。また、各要素に所定の初期温度として、湯口要素には溶湯の注湯温度1600℃を、鋳型要素及び空気要素には室温25℃を付与した。
【0074】
流動解析工程S2では、鋳物となる溶湯が湯口要素から注入され鋳物要素に流入して充填される過程で、溶湯が砂型と接する部分で冷却される条件も加味して、鋳物要素が溶湯で充填されるまで、鋳物要素における溶湯の位置、温度、圧力などを求めた。流動解析工程S2の解析結果のうち、鋳物要素が充填完了した時の各要素の温度を、次の熱伝導解析工程S3の初期温度として用いた。
【0075】
次に、上記の流動解析工程S2により算出された鋳物及び鋳型の温度を、熱伝導解析工程S3の初期温度として付与した以外は実施例1と同様の方法で熱伝導解析工程S3及び熱変形解析工程S4を実施した。鋳型の拘束判定温度は、実施例1と同じく、前述した実施の形態で図4に示した有機CO2鋳型の拘束判定温度600℃を使用した。
【0076】
実施例2の解析方法によって得られた変位と応力について、その解析値と鋳造での実測値とを比較評価した。なお、変位と応力を評価した評価点は、図5に示す実施例1と同一の部位とした。また、変位と応力の実測値は実施例1と同一のデータを用いた。
【0077】
図9は、実施例2の試験鋳物100のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。図9は、実施例1の図7と同様、横軸に各評価点を、縦軸にz方向変位量をとったものである。図9から、解析値と実測値とのz方向変位量の差は小さく、解析値は実測値によく一致して高い解析精度を示すことがわかる。なお、実施例2での解析値と実測値のz方向変位量の誤差は、最大18%であり、流動解析工程S2を省略した実施例1の最大誤差28%に対して、誤差は凡そ半減しており、より高精度に変位を予測できることがわかる。これは、熱変形解析工程S4に先立って実施した流動解析工程S2で得られた鋳物及び鋳型の温度を、熱変形解析工程S4の初期温度として用いることで、より実際の鋳造に近い状態を解析できたためと考えられる。
【0078】
図10は、実施例2の試験鋳物100の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。図10は横軸に各評価点をとり、縦軸に引張又は圧縮に区別した残留応力を表したものである。図10から、解析値と実測値との残留応力の差は小さく、解析値が実測値によく一致して高い解析精度を示すことがわかる。なお、解析値と実測値の残留応力の誤差は、最大で5%であり、流動解析工程S2を省略した実施例1の最大誤差10%に対して、誤差は半減しており、より高精度に応力を予測できることがわかる。
【0079】
(実施例3)
実施例3では、鋳型として、砂型をシェル鋳型とし、鋳型の一部に冷却部材(チル)として金属製部材を配設し、鋳物をオーステナイト系鋳鋼とした場合を想定して本発明の解析方法により砂型鋳物のシミュレーションを行った。
【0080】
図11は、実施例3の試験鋳物100を解析及び鋳造するための金属製部材300を配設した試験鋳型200の概略形状を示し、(a)は平面図、(b)は(a)での矢視Y−Y断面図である。図11の試験鋳型200は、砂型201をシェル鋳型とし、砂型201中に金属製部材300を配設した以外は図6に示す試験鋳型200と同様な構成とし、試験鋳物100の形状、寸法等も図5及び図6と同様な構成としている。図11で、試験鋳型200には、試験鋳物100の柱1のキャビティを構成する上下の鋳型の一部に砂型201に替えて冷却部材として金属製部材300を配設している。なお、金属製部材300の材質は、試験鋳物100と同一材質のオーステナイト系鋳鋼とした。
【0081】
実施例3は、上記した鋳型の構成部材を変更した以外は実施例2と同様に解析を実施した。以下、鋳型の構成の変更にともない実施例2と相違する点についてのみ説明する。
【0082】
(要素作成工程S1)
鋳型要素のうち、金属製部材300の位置する座標にある微小要素を金属製部材要素として定義した以外は実施例2と同様に解析モデルを作成した。
【0083】
(流動解析工程S2)
鋳型要素として、砂型の要素にシェル鋳型の物性値を、金属製部材要素にオーステナイト系鋳鋼の物性値を付与し、砂型要素及び金属製部材要素とそれ以外の要素との異種要素間の熱伝達係数を付与し、金属製部材要素の初期温度を室温として25℃を付与した。上記した以外は実施例2の流動解析工程S2と同様に、必要な条件を付与した後、鋳物要素が溶湯で充填するまで流動解析を実施して、充填完了時の各要素の温度を求めた。
【0084】
(熱伝導解析工程S3)
鋳型要素である砂型要素及び金属製部材要素について、上記の流動解析工程S2と同様に、シェル鋳型及びオーステナイト系鋳鋼の夫々の物性値と異種要素間の熱伝達係数を付与するとともに、流動解析工程S2で算出された溶湯の充填完了時の鋳物及び鋳型の各要素の温度を初期温度として付与した。上記以外は、実施例2と同様として、全ての鋳物要素の温度が室温になるまで熱伝導解析工程S3を実施して、微小時間間隔毎に鋳物要素と鋳型要素の経時的な温度を求めた。
【0085】
(熱変形解析工程S4)
初期の拘束条件として、砂型要素及び金属製部材要素何れの鋳型からも鋳物が拘束される条件を鋳物要素に設定した。熱変形解析工程S4の開始後の拘束条件は、砂型要素については、実施例2と同様に後述する拘束条件設定ステップS41を実施して鋳型による鋳物の拘束条件を設定した。一方、金属製部材は、温度が上昇しても砂型のように崩壊せず、鋳型としての形状を保持するので、後述する拘束条件設定ステップS41は実施することなく、解析の開始から終了までの終始、鋳型による鋳物の拘束有りとして設定した。上記以外は、実施例2と同様の方法で熱変形解析工程S4を実施した。
【0086】
(拘束条件設定ステップS41)
拘束条件設定ステップS41では、使用した拘束判定温度が異なる以外は実施例1で説明したと同様の方法で、拘束条件判定要否設定ステップS411、拘束条件判定ステップS412及び弾塑性解析ステップS42を実施した。実施例3の拘束判定温度は、前述した実施の形態で図3に示したシェル鋳型の拘束判定温度を用いて500℃に設定した。実施例3の拘束条件判定ステップS412では、熱伝導解析工程S3で経時的に求めた鋳型要素の温度データのうち鋳型要素の温度と拘束判定温度500℃とを比較して、鋳型要素の温度が、500℃未満なら鋳型による鋳物の拘束有り、500℃以上なら拘束無しと判定して拘束条件を設定した。
【0087】
実施例3の解析方法によって得られた変位と応力について、その解析値と鋳造での実測値とを比較評価した。なお、変位と応力を評価した評価点は、図5に示す実施例1と同一の部位とした。また、変位と応力の実測値は、砂型をシェル鋳型として一部に金属製部材300を配設した試験鋳型200を用いて、オーステナイト系鋳鋼からなる試験鋳物100を実際に鋳造して得られたデータを用いた。
【0088】
図12は、実施例3の試験鋳物100のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。図12は、横軸に各評価点を、縦軸にz方向変位量をとったものである。図12から、解析値と実測値とのz方向変位量の差は小さく、高い解析精度を示すことがわかる。図12から、評価点21を略中央としてその近傍となる、金属製部材300と接触する鋳物部位Dのz方向変位量は、ほぼゼロに近い値を示すとともに、解析値は実測値に極めてよく一致し、金属製部材が鋳物を終始拘束するために鋳物に変形が生じない現象を正確に予測していることがわかる。なお、実施例3の金属製部材300と接触する部位D以外の解析値と実測値のz方向変位量の誤差は、最大12%であり、解析値が実測値によく一致して高精度に変位を予測できることがわかる。
【0089】
図13は、実施例3の試験鋳物100の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。図13は横軸に各評価点をとり、縦軸に引張又は圧縮に区別した残留応力を表したものである。図13から、解析値と実測値との残留応力の差は小さく、解析値が実測値によく一致して高い解析精度を示すことがわかる。なお、解析値と実測値の残留応力の誤差は、最大7%であり、高精度に応力を予測できることがわかる。
【0090】
(比較例)
本発明の比較例として、熱変形解析工程S4での鋳物要素に付与する拘束条件を、初期条件から解析終了に至るまで、鋳型による鋳物の拘束が無く、鋳物が自由に変形できるものとして、実施例2と同様、有機CO2鋳型を用いたオーステナイト系鋳鋼の鋳造を想定して砂型鋳物のシミュレーションを実施した。比較例では、要素作成工程S1、流動解析工程S2及び熱伝導解析工程S3は、本発明の解析方法を実施したが、熱変形解析工程S4では、拘束条件設定ステップS41を実施せず、鋳型による鋳物の拘束は無いものとして弾塑性解析ステップS42のみ行って解析を終了した。
【0091】
比較例の解析方法によって得られた変位と応力について、その解析値と鋳造での実測値とを比較評価した。なお、変位と応力を評価した評価点は、実施例1と同一の部位とした。また、変位と応力の実測値は実施例1と同一のデータを用いた。
【0092】
図14は、比較例の試験鋳物のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。図14は横軸に各評価点を、縦軸にz方向変位量をとったものである。図14から、比較例では、解析値と実測値とのz方向変位量の差が大きく、基準点とした評価点21から遠ざかるにしたがって、解析値が実測値から乖離していることがわかる。比較例での解析値と実測値のz方向変位量の誤差は、最大で57%であり、上記した実施例1、2と比較してz方向変位量の予測精度が低く、変位を定量的に予測するに充分な解析精度が得られない。
【0093】
図15は、比較例の試験鋳物の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。図15は横軸に各評価点をとり、縦軸に残留応力を引張又は圧縮に区別して表したものである。図15から、比較例では、解析値と実測値との残留応力の差が大きいことがわかる。比較例での解析値と実測値の残留応力の誤差は、最大で72%であり、上記した実施例1、2と比較して残留応力の予測精度が低く、鋳造時の応力を予測するに充分な解析精度が得られない。
【0094】
以上、実施例で説明したとおり、本発明の砂型鋳物のシミュレーション方法は、鋳型の拘束判定温度に基づいて、鋳型の形状を保持するか否かの拘束条件を付与して熱変形解析することで、z方向変位量と残留応力で評価した場合の解析値が実測値によく一致して誤差が小さく、高い解析精度を示し、砂型鋳物に生じる歪み、変位又は応力を高精度に予測できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の実施の形態における砂型鋳物のシミュレーション方法の全体の流れを示すフローチャートである。
【図2】図1における熱変形解析工程において実施する拘束条件設定の手順を示すフローチャートである。
【図3】シェル鋳型の鋳型温度−鋳型強度特性の一例を示す図である。
【図4】有機CO2鋳型の鋳型温度−鋳型強度特性の一例を示す図である。
【図5】実施例に供した試験鋳物と変位と応力の評価位置を示す図である。
【図6】試験鋳物を解析及び鋳造するための試験鋳型の概略形状を示す図である。
【図7】実施例1の試験鋳物のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。
【図8】実施例1の試験鋳物の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。
【図9】実施例2の試験鋳物のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。
【図10】実施例2の試験鋳物の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。
【図11】実施例3の試験鋳物を解析及び鋳造するための金属製部材を配設した試験鋳型の概略形状を示す図である。
【図12】実施例3の試験鋳物のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。
【図13】実施例3の試験鋳物の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。
【図14】比較例の試験鋳物のz方向変位量を、解析値と実測値とで比較した図である。
【図15】比較例の試験鋳物の残留応力を、解析値と実測値とで比較した図である。
【符号の説明】
【0096】
100:試験鋳物
101:キャビティ
200:試験鋳型
201:砂型
300:金属製部材
1、2:柱
3、4:締結部
5、6:堰
21:基準点
22〜25:z方向変位量の評価点
31〜35:残留応力の評価点
C1、C2:切断面
D:金属製部材と接触する鋳物部位
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が砂型からなる鋳型内に溶湯を注入して凝固させることにより所望形状の鋳物を得る際に、鋳物に生じる歪み、変位又は応力の少なくとも1つを求める砂型鋳物のシミュレーション方法であって、少なくとも鋳物要素及び鋳型要素からなる解析モデルを作成する要素作成工程(S1)と、前記鋳物要素及び前記鋳型要素の伝熱を経時的に解析して、前記鋳物要素及び前記鋳型要素の温度を求める熱伝導解析工程(S3)と、前記熱伝導解析工程(S3)により得られた前記鋳型要素の温度に基づいて、鋳型による鋳物の拘束条件を設定する拘束条件設定ステップ(S41)と、設定された拘束条件、前記鋳物要素の温度変化量及び熱膨張係数に基づいて、前記鋳物要素の変形を経時的に解析して、前記鋳物要素の歪み、変位又は応力の少なくとも1つを求める弾塑性解析ステップ(S42)と、をもつ熱変形解析工程(S4)と、を有することを特徴とする砂型鋳物のシミュレーション方法。
【請求項2】
前記拘束条件設定ステップ(S41)は、前記鋳型要素の温度変化に基づいて鋳型による鋳物の拘束条件判定の要否を決定する拘束条件判定要否設定ステップ(S411)と、拘束条件判定を要する場合に、前記鋳型要素の温度と鋳型の拘束判定温度とを比較して拘束の有無を判定する拘束条件判定ステップ(S412)と、前記鋳物要素に拘束条件を設定するステップと、を有する請求項1に記載の砂型鋳物のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記熱伝導解析工程(S3)の前に、溶湯が前記鋳物要素を流動して充填される挙動を経時的に解析して、前記鋳物要素の温度を求める流動解析工程(S2)を行い、前記流動解析工程(S2)で得られた溶湯の充填完了時の前記鋳物要素の温度を前記熱伝導解析工程(S3)の初期温度として付与することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の砂型鋳物のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記鋳型の拘束判定温度が、鋳型温度と鋳型強度との関係から、鋳型の形状を保持できないと見なせる温度である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の砂型鋳物のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記鋳型に金属製部材を含み、前記熱変形解析工程(S4)の解析の開始から終了まで終始、前記金属製部材に拘束有りの拘束条件を設定することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の砂型鋳物のシミュレーション方法。
【請求項1】
少なくとも一部が砂型からなる鋳型内に溶湯を注入して凝固させることにより所望形状の鋳物を得る際に、鋳物に生じる歪み、変位又は応力の少なくとも1つを求める砂型鋳物のシミュレーション方法であって、少なくとも鋳物要素及び鋳型要素からなる解析モデルを作成する要素作成工程(S1)と、前記鋳物要素及び前記鋳型要素の伝熱を経時的に解析して、前記鋳物要素及び前記鋳型要素の温度を求める熱伝導解析工程(S3)と、前記熱伝導解析工程(S3)により得られた前記鋳型要素の温度に基づいて、鋳型による鋳物の拘束条件を設定する拘束条件設定ステップ(S41)と、設定された拘束条件、前記鋳物要素の温度変化量及び熱膨張係数に基づいて、前記鋳物要素の変形を経時的に解析して、前記鋳物要素の歪み、変位又は応力の少なくとも1つを求める弾塑性解析ステップ(S42)と、をもつ熱変形解析工程(S4)と、を有することを特徴とする砂型鋳物のシミュレーション方法。
【請求項2】
前記拘束条件設定ステップ(S41)は、前記鋳型要素の温度変化に基づいて鋳型による鋳物の拘束条件判定の要否を決定する拘束条件判定要否設定ステップ(S411)と、拘束条件判定を要する場合に、前記鋳型要素の温度と鋳型の拘束判定温度とを比較して拘束の有無を判定する拘束条件判定ステップ(S412)と、前記鋳物要素に拘束条件を設定するステップと、を有する請求項1に記載の砂型鋳物のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記熱伝導解析工程(S3)の前に、溶湯が前記鋳物要素を流動して充填される挙動を経時的に解析して、前記鋳物要素の温度を求める流動解析工程(S2)を行い、前記流動解析工程(S2)で得られた溶湯の充填完了時の前記鋳物要素の温度を前記熱伝導解析工程(S3)の初期温度として付与することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の砂型鋳物のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記鋳型の拘束判定温度が、鋳型温度と鋳型強度との関係から、鋳型の形状を保持できないと見なせる温度である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の砂型鋳物のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記鋳型に金属製部材を含み、前記熱変形解析工程(S4)の解析の開始から終了まで終始、前記金属製部材に拘束有りの拘束条件を設定することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の砂型鋳物のシミュレーション方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−52019(P2010−52019A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220321(P2008−220321)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
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