説明

砂壁状塗料組成物

【課題】既存の凹凸感のある意匠性仕上げ塗材の上に塗布することにより、独特の砂壁状の質感が損なわれることがない砂壁状塗料組成物を提供する。
【解決手段】合成樹脂エマルション、充填材、顔料、成膜助剤を含む塗料組成物であり、前記充填材のうち平均粒子径1.0〜40μmの充填材の重量配合部数で、平均粒子径70〜500μmの充填材の重量配合部数を除した値が0.1〜5.0であることを特徴とする砂壁状塗料組成物であり、これを用いて既存の仕上塗材の上に塗布することを特徴とする改修施工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として建築物の内外壁に意匠性を付与する一液型の水系塗料であって、詳しくは既に建築物の内外壁に左官鏝等により凹凸状の塗り壁仕上げがされている意匠性塗材の上に改修を目的として塗布可能な砂壁状塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の内外壁表面に意匠性を付与するには、左官鏝や刷毛、ローラー刷毛、エアコンプレッサーとスプレーガン等を使用しての吹き付け等により、扇模様、ゆず肌模様、リシン模様、スタッコ模様等を付与して仕上げる方法がある。これらの意匠性塗材の表面が経年により汚れたり色褪せたりした場合は、あらためて、下地補修処理を行い、シーラー又は下地調整材を塗布し、新たに当初塗布した意匠性仕上げ塗材と同等の塗材により所定の意匠付けを行なうか、既存塗材の上に薄塗りの塗料を塗布している。
【0003】
あらためて意匠性仕上げ塗材を塗布する方法では、すでに凹凸を有する既存の塗材表面を下地調整材で平滑にした上で、当該意匠性仕上げ塗材を塗布する必要があるため、手間がかかりコスト高になるという課題があった。
【0004】
一方、既存塗材の上に薄塗りの塗料を塗布する方法において使用する塗料には、塗布ムラがなく平滑性に優れた艶消し塗料として、塗膜形成樹脂(A)及び顔料分(B)を含有する塗料組成物であって、該顔料(B)が粒度分布0.1〜5μmの重質炭酸カルシウムを全顔料重量に対して10〜70重量%含むものであり、かつ塗料中における顔料体積濃度が20〜60%であることを特徴とする塗料組成物が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、貯蔵安定性に優れた艶消し塗料としては、平均粒子径が1.5〜4.0μmのポリウレタン水分散体Aと、平均粒子径が0.01〜1.0μmのポリウレタン水分散体Bとを含有していることを特徴とする塗料用樹脂組成物が提案されている(特許文献2)
【0006】
さらには、優れた質感を有する塗料として架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂が用いられてなる多孔質粒子とリン酸とが含有されているpH1.5以下の樹脂粒子混合リン酸水溶液を作製する混合液作製工程と、該混合液作製工程で作製された前記樹脂粒子混合リン酸水溶液を水で希釈してpH2.0以上の希釈液を作製する希釈工程と、該希釈工程で作製された前記希釈液と水酸化カルシウムとを混合してアルカリ性の懸濁液を作製する懸濁液作製工程と、該懸濁液作製工程で作製された懸濁液とリン酸とを混合し、第二リン酸カルシウム粒子または第三リン酸カルシウム粒子のいずれかのリン酸カルシウム粒子を析出させて、該リン酸カルシウム粒子と前記多孔質粒子とが含有されている混合粒子願有益を作製するリン酸カルシウム粒子析出工程とが実施されて作製された前記リン酸カルシウム粒子ならびに前記多孔質粒子が含有されていることを特徴とする艶消し塗料が提案されている(特許文献3)。
【0007】
しかしこれらの塗料は質感や仕上がり性が優れてはいるが、既存のJIS A 6909建築用仕上塗材に規定される薄付け仕上塗材Eに代表される凹凸感のある意匠性仕上げ塗材の上に塗布すると、独特の砂壁状等の風合いや質感が損なわれるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−201419号公報
【特許文献2】特開2007−308587号公報
【特許文献3】特開2009−013281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、既存のJIS A 6909建築用仕上塗材に規定される薄付け仕上塗材Eに代表される凹凸感のある意匠性仕上げ塗材の上に塗布しても、独特の砂壁状の風合いや質感が損なわれることがない砂壁状塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、合成樹脂エマルション、充填材、顔料、成膜助剤を含む塗料組成物であり、前記充填材のうち平均粒子径1.0〜40μmの充填材の重量配合部数で、平均粒子径70〜500μmの充填材の重量配合部数を除した値が0.1〜5.0であることを特徴とする砂壁状塗料組成物であり、これを既存の凹凸感のある意匠性仕上げ塗材の上に塗布しても、既存塗材の風合いや質感を損なうことがなく、色調や鮮やかさが甦る。
【0011】
請求項2記載の発明は、前記充填材が炭酸カルシウム及び硅砂であることを特徴とする砂壁状塗料組成物であり、これを既存の凹凸感のある意匠性仕上げ塗材の上に塗布しても、既存塗材の風合いや質感を損なうことがなく、色調や鮮やかさが甦り、他の充填材と比較して塗膜強度が高く、低コストである。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の砂壁状塗料組成物を既存仕上塗材の上に塗布することを特徴とする改修施工方法であり、同様に既存塗材の風合いや質感を損なうことがなく、色調や鮮やかさが甦る施工方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の砂壁状塗料組成物及び改修工法は、既存塗材表面の凹凸感やテクスチャーを損なうことがなく、色替えを行なうことができると共に、砂壁状の風合いや質感を甦らせることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】既存塗材の表面を示す、あやめランダムカット仕上げの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明の砂壁状塗料組成物は、合成樹脂エマルション、充填材、顔料、成膜助剤を含む塗料組成物であり、前記充填材のうち平均粒子径1.0〜40μmの重量配合部数で、平均粒子径70〜500μmの重量配合部数を除した値が0.1〜5.0であり、必要に応じ分散剤、増粘剤、防藻・防カビ剤が配合される。
【0016】
合成樹脂エマルションには、アクリル樹脂エマルションやアクリルウレタン樹脂エマルション、酢酸ビニルエマルション、酢酸ビニル−アクリル樹脂エマルション、エチレン−酢酸ビニルエマルション、シリコンアクリルエマルション等を使用することが出来る。合成樹脂エマルションの重量配合部数としては10〜50重量%、好ましくは15〜35重量%であり、10重量%未満では塗膜強度が不足し、50重量%では保存安定性が不良となると共に乾燥時間が長時間となる。15重量%未満では塗膜強度が低下する傾向にあり、35重量%超では乾燥時間が遅延する傾向にある。
【0017】
充填材は、重質炭酸カルシウムに代表される炭酸カルシウムや硅砂が使用できるが、このほかにクレー、カオリン、タルク、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム等が使用できる。これらの充填材のうち平均粒子径1.0〜40μmの充填材の重量配合部数で、平均粒子径70〜500μmの充填材の重量配合部数を除した値が0.1〜5.0であり、より好ましくは1.0〜3.0である。0.1未満では凹凸感の無い仕上がりとなり5.0超では隠蔽性が不足する。1.0未満では凹凸感が低下する傾向にあり、3.0超では隠蔽性が低下する傾向にある。充填材の塗料組成物全体に対する配合割合は、20〜70重量%、好ましくは40〜60重量%であり、20重量%未満では砂壁状の風合いが無くなり、蒸気透過性が低下する。70重量%超では塗膜強度が不足する。40重量%未満では蒸気透過性が低下する傾向にあり、60重量%超では塗膜強度が低下する傾向にある。
【0018】
顔料には、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、酸化第二鉄(弁柄)、クロム酸鉛、黄鉛、黄色酸化鉄等の無機系顔料等が使用できるが、中でも酸化チタンは下地の隠蔽性に優れ、白色であるため主たる顔料として使用することが出来る。顔料の重量配合部数としては、0.5〜20重量%、好ましくは2〜10重量%であり、0.5重量%未満では隠蔽性が不足し、20重量%超では保存安定性が不良となる。2重量%未満では隠蔽性が低下する傾向にあり、20重量%超では保存安定性が低下する傾向にある。
【0019】
成膜助剤には、エマルジョンのポリマー粒子の融着を促進し、ポリマーによる均一な皮膜を形成させることを目的で配合し、エチレングリコールジエチルエーテル、ベンジルアルコール、ブチルセロソルブ、エステルアルコールが使用される。 成膜助剤の重量配合部数としては、0.1〜5.0重量%、好ましくは1.0〜3.0重量%であり、0.1重量%未満では硬化時間が長時間となり、5.0重量%超では可使時間が短く塗布作業性に支障を生じる。1.0重量%未満では硬化時間が遅延する傾向にあり、3.0重量%超では可使時間が短くなる傾向にある。
【0020】
上記の配合成分の他に、塗材中の巻き込み等による泡を消失させるために消泡剤や、充填材や顔料等を均一に分散させるための分散剤、その他に増粘剤、防藻・防カビ剤が配合されることがある。
【0021】
本発明の砂壁状塗料組成物は、市販のローラー刷毛によって既存の塗材の上に塗布されるが、既存塗材の凹凸感及び風合いを損なわないように、0.5kg/m〜1.0kg/mで塗布することが好ましく、また砂壁状塗料組成物の適正粘度としては、30〜150Pa・sが好ましく、このような粘度とするには、適当量の水を加えることで調製することが出来る。
【実施例】
【0022】
以下に実施例及び比較例を示すが、本発明はこの実施例に限定されることはない。
【0023】
ウルトラゾールD−22(アクリル樹脂エマルション、固形分55%、粘度500〜2500mPa・s/25℃、ガンツ化成社製、商品名)を21部、水道水を21部、顔料酸化チタンR−820(平均粒子径D50 0.26μm、石原産業社製、商品名)を5部、成膜助剤テキサノールCS−12(チッソ株式会社製、商品名)を1部、 増粘剤hiメトローズ90SH−15000(セルロース系増粘剤、信越化学社製、商品名)を0.5部、その他添加剤を2.5部、充填材を49部(各々重量配合部数)を混合し、アクリルエマルション樹脂系塗料を得た。このときの充填材49部の重量配合部数を表1に示す。
【0024】
充填材は、平均粒子径D50によって分類し、平均粒子径70〜500μmの充填材は分類Aとし、平均粒子径が1.0〜40μmの充填材は分類Bとし、分類Aの合計重量配合部数を分類Bの合計重量配合部数で除した値をA/Bとして表1中に示した。
【0025】
実施例1
実施例1として、平均粒子径200μmの重質炭酸カルシウムK−250(旭鉱末社製、商品名)を12部、平均粒子径20μmの重質炭酸カルシウムSFT−2000(三共精粉社製、商品名)を37部とした。
【0026】
実施例2
実施例2として、平均粒子径200μmの重質炭酸カルシウムK−250(旭鉱末社製、商品名)を28部、平均粒子径20μmの重質炭酸カルシウムSFT−2000(三共精粉社製、商品名)を15部、平均粒子径10μmの重質炭酸カルシウムBF−200(備北粉化社製、商品名)を6部とした。
【0027】
実施例3
実施例3として、平均粒子径200μmの重質炭酸カルシウムK−250(旭鉱末社製、商品名)を28部、平均粒子径10μmの重質炭酸カルシウムBF−200(備北粉化社製、商品名)を21部とした。
【0028】
実施例4
実施例4として、平均粒子径200μmの重質炭酸カルシウムK−250(旭鉱末社製、商品名)を28部、平均粒子径10μmの重質炭酸カルシウムBF−200(備北粉化社製、商品名)を6部、平均粒子径10μmの硅砂QUARTS WG200(東洋化成社製、商品名)を15部とした。
【0029】
実施例5
実施例5として、平均粒子径200μmの重質炭酸カルシウムK−250(旭鉱末社製、商品名)を28部、平均粒子径20μmの重質炭酸カルシウムSFT−2000(三共精粉製、商品名)を9部、平均粒子径10μmの重質炭酸カルシウムBF−200(備北粉化社製、商品名)を12部とした。
【0030】
実施例6
実施例6として、平均粒子径200μmの重質炭酸カルシウムK−250(旭鉱末社製、商品名)を36部、平均粒子径20μmの重質炭酸カルシウムSFT−2000(三共精粉製、商品名)を10部、平均粒子径10μmの重質炭酸カルシウムBF−200(備北粉化社製、商品名)を3部とした。
【0031】
実施例7
実施例7として、平均粒子径300μmの重質炭酸カルシウムK−40(三共精粉社製、商品名)を10部、平均粒子径200μmの重質炭酸カルシウムK−250(旭鉱末社製、商品名)を28部、平均粒子径150μmの硅砂サラワクサンド(トウチュウ社製、商品名)を4部、平均粒子径10μmの重質炭酸カルシウムBF−200(備北粉化社製、商品名)を3部、平均粒子径10μmの硅砂QUARTS WG200(東洋化成社製、商品名)を4部とした。
【0032】
比較例1
比較例1として、平均粒子径300μmの重質炭酸カルシウムK−40(三共精粉社製、商品名)を15部、平均粒子径200μmの重質炭酸カルシウムK−250(旭鉱末社製、商品名)を28部、平均粒子径10μmの重質炭酸カルシウムBF−200(備北粉化社製、商品名)を6部とした。
【0033】
比較例2
比較例2として、平均粒子径200μmの重質炭酸カルシウムK−250(旭鉱末社製、商品名)を43部、平均粒子径10μmの重質炭酸カルシウムBF−200(備北粉化社製、商品名)を6部とした。
【0034】
比較例3
比較例3として、平均粒子径200μmの重質炭酸カルシウムK−250(旭鉱末社製、商品名)を28部、平均粒子径150μmの硅砂サラワクサンド(トウチュウ社製、商品名)を15部、平均粒子径10μmの重質炭酸カルシウムBF−200(備北粉化社製、商品名)を6部とした。
【0035】
試験体作成方法
タイカボード(JISA6901チヨダウーテ社製石膏ボード商品名)にジョリパット水系シーラーJS−90(アクリルエマルション系下塗り材、アイカ工業株式会社製、商品名)を0.2kg/mになるように塗布・乾燥し、ジョリパットJP−100(JISA6909アクリル樹脂エマルション系薄塗り仕上げ塗材E、アイカ工業株式会社製、商品名)を1.0kg/mになるように塗布・乾燥し、仕上げのテクスチャーとして、図1に示すような、骨材ムラや隠蔽性の差異が顕著にわかるあやめランダムカット仕上げとした。このテクスチャーは凹凸部分の段差が大きく(約1〜2mm程度)、凸部分に骨材が均一に載らない場合に、ムラに見える傾向にあるためである。これに、実施例1〜4及び比較例1〜6までの配合の砂壁状塗料を0.4kg/mになるように汎用ウールローラースモールローラーB(大塚刷毛株式会社製、商品名)で塗布・乾燥させた。
【0036】
あやめランダムカット仕上げの作製方法
仕上げのテクスチャーとして使用したあやめランダムカット仕上げの作製方法について示す。ジョリパットJP−100を2.0kg/mになるよう均一に配り塗りをする。直後にあやめローラーJR−30(アイカ工業株式会社製、商品名)を横方向に転がし塗布量が均一となるようムラ切りした後、いわゆるクロス掛けをして×印をランダムに描くようローラーを転がして、パターン付けを行う。直後にヘッドカットローラーJR−26(アイカ工業株式会社製、商品名)を灯油に浸してから、表面を軽く押さえる。
【0037】
評価方法
【0038】
骨材の均一性
上記試験体作成方法によって作製された試験体塗膜外観を約100cmの距離から目視で確認した。評価は下記とした。
○・・・テクスチャー凹凸部に関わらず充填材が均一に載っている状態
△・・・○と×の中間
×・・・テクスチャー凹凸部の凹部に大部分の充填材が埋まっている状態
【0039】
隠蔽性
上記試験体作成方法によって作製された試験体塗膜外観を約100cmの距離から目視で確認した。評価は下記とした。
○・・・テクスチャー凹凸部に関わらず下地の透けがなく、均一になっている状態
△・・・○と×の中間
×・・・テクスチャー凹凸部の凸部が透けており、下地の色が見える状態
【0040】
仕上げ面状態
上記試験体作成方法によって作製された試験体表面に触れ、表面の粗さ(砂壁質感)を確認した。評価は下記とした。
○・・・JISA6909薄付け仕上げ塗材Eに代表される粗い骨材による仕上げ面の状態
△・・・○と×の中間
×・・・合成樹脂エマルションペイントに代表されるような平滑な仕上げ面の状態
【0041】
上記評価方法による評価結果を表1に示す。
【0042】
【表1】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂エマルション、充填材、顔料、成膜助剤を含む塗料組成物であり、前記充填材のうち平均粒子径1.0〜40μmの充填材の重量配合部数で、平均粒子径70〜500μmの充填材の重量配合部数を除した値が0.1〜5.0であることを特徴とする砂壁状塗料組成物。
【請求項2】
充填材が炭酸カルシウム及び硅砂であることを特徴とする請求項1記載の砂壁状塗料組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の砂壁状塗料組成物を既存仕上げ塗材の上に塗布することを特徴とする改修施工方法。



【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−248304(P2010−248304A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96654(P2009−96654)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】