説明

研磨用メディア、研磨用メディアの製造方法および研磨方法

【課題】小さくても研磨力が高く、かつ長期間使用しても研磨力が低下し難い研磨用メディア、かかる研磨用メディアを効率よく製造し得る研磨用メディアの製造方法、および、ムラなく効率的に研磨を行うことができる研磨方法を提供すること。
【解決手段】研磨用メディア1は、バレル研磨に使用されるものであり、金属組織とセラミックス組織とが混在した焼結体で構成されている。このような研磨用メディア1は、金属粉末とセラミックス粉末との混合粉末を、射出成形法により成形し、得られた成形体を焼結して製造されたものであることが好ましい。また、セラミックス組織は酸化アルミニウムで構成されていることが好ましく、金属組織はタングステンで構成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用メディア、研磨用メディアの製造方法および研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワーク(被研磨物)の表面を研磨する方法の1つにバレル研磨がある。このようなバレル研磨は、例えばセラミックス製あるいは金属製のワーク表面のバリ取り、面取り、表面仕上げ等の目的で行われる。
バレル研磨は、バレル研磨槽の中にワークと研磨用メディアとを入れ、これらを撹拌することにより行う。ワークと研磨用メディアとを撹拌すると、ワークと研磨用メディアとが衝突したり摩擦したりすることにより、ワーク表面が研磨される。
バレル研磨に用いられる研磨用メディアの材質としては、高い硬度が必要とされることからセラミックス材料が用いられる。特許文献1には、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素等からなるバレル石が開示されている。
【0003】
ところで、ワークが小さかったり、凹部を含むような複雑な形状をなしている場合、ワークと研磨用メディアとの接触が不十分になる箇所が発生し、この箇所における研磨が不十分になる。このため、このようなワークに対してバレル研磨を施す場合には、ワークの大きさや形状に対応した小さな研磨用メディアを使用する必要がある。
しかしながら、小さな研磨用メディアは、その分、質量が小さくなり、ワークに対する衝突エネルギーも小さくなるため、そもそも研磨力(研磨効率)が不足する。このため、研磨に多大な時間がかかることになる。まして、セラミックス材料は金属材料等に比べて比重が小さいため、研磨用メディアの質量がより小さくなってしまう。
【0004】
一方、特許文献2には、金属製ボールコアの表面に、ダイヤモンド、CBN等の超硬度の塗粒を含む砥材層を設けてなるバレル研磨用メディアが開示されている。このような研磨用メディアであれば、表面の硬度を下げることなく、ワークの質量を大きくすることができるので、研磨用メディアを小さくした場合でも研磨力が低下し難い。
ところが、バレル研磨ではワークと研磨用メディアとが擦れ合い、双方が摩耗することによっても研磨が進行するが、研磨用メディアの摩耗が進行した場合、特許文献2に記載のメディアでは、砥材層が摩耗した時点で研磨力が失われることとなる。このため、研磨用メディアの寿命が短いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−293753号公報
【特許文献2】特開昭63−267157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、小さくても研磨力が高く、かつ長期間使用しても研磨力が低下し難い研磨用メディア、かかる研磨用メディアを効率よく製造し得る研磨用メディアの製造方法、および、ムラなく効率的に研磨を行うことができる研磨方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の研磨用メディアは、金属組織とセラミックス組織とが混在した焼結体で構成されていることを特徴とする。
これにより、小さくても研磨力が高く、かつ長期間使用しても研磨力が低下し難い研磨用メディアが得られる。
【0008】
本発明の研磨用メディアでは、当該研磨用メディアの横断面において、前記金属組織が占める面積を1としたとき、前記セラミックス組織が占める面積は、0.1以上1未満であることが好ましい。
これにより、研磨用メディアに亀裂や欠損等が生じ難くなる。その結果、研磨用メディアの研磨力と耐久性との両立を高度に図ることができる。
【0009】
本発明の研磨用メディアでは、当該研磨用メディアは、柱状または錐状をなしていることが好ましい。
これにより、研磨特性に優れた有用な研磨用メディアが得られる。
本発明の研磨用メディアでは、前記セラミックス組織は、酸化アルミニウムで構成されていることが好ましい。
酸化アルミニウムは、硬度が高く、かつ耐衝撃性にも比較的優れているため、研磨用メディアの研磨力を高めることができる。
本発明の研磨用メディアでは、前記金属組織は、タングステンで構成されていることが好ましい。
タングステンは、比較的高比重であり、かつ焼結性に富んでいるため、研磨用メディアの比重および耐衝撃性を高めることができる。
【0010】
本発明の研磨用メディアでは、前記セラミックス組織は、金属酸化物で構成されており、
前記金属組織に含まれる金属元素の酸化反応の標準生成自由エネルギーが、前記金属酸化物に含まれる金属元素の酸化反応の標準生成自由エネルギーより大きいことが好ましい。
これにより、金属組織中の金属材料とセラミックス組織中のセラミックス材料の双方が焼結体中において安定的に存在することができ、研磨用メディアの耐久性の低下を防止することができる。
【0011】
本発明の研磨用メディアでは、前記焼結体は、金属粉末とセラミックス粉末との混合粉末を、射出成形法により成形し、得られた成形体を焼結してなるものであることが好ましい。
これにより、寸法バラツキが小さく、安定した研磨特性を示す研磨用メディアが得られる。
【0012】
本発明の研磨用メディアの製造方法は、金属粉末とセラミックス粉末との混合粉末を、射出成形法により成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼結し、焼結体を得る工程と、を有することを特徴とする。
これにより、寸法バラツキが小さく、安定した研磨特性を示す研磨用メディアを効率よく製造することができる。
本発明の研磨方法は、セラミックス組織と金属組織とが混在した焼結体で構成された研磨用メディアと、被研磨物と、をバレル研磨槽中で撹拌することを特徴とする。
これにより、ムラなく効率的に研磨を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の研磨用メディアの実施形態を模式的に示す図である。
【図2】図1に示す研磨用メディアの横断面図である。
【図3】本発明の研磨方法に用いるバレル研磨槽を模式的に示す図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の研磨用メディア、研磨用メディアの製造方法および研磨方法について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
<研磨用メディア>
まず、本発明の研磨用メディアについて説明する。
図1は、本発明の研磨用メディアの実施形態を模式的に示す図である。
研磨用メディアは、バレル研磨等の研磨処理に用いられるものであり、被研磨物であるワークとともにバレル研磨槽中に入れられ、ワークとの衝突、摩擦を繰り返すことによってワーク表面を研磨する。
【0015】
図1に示す研磨用メディア1は、それぞれが略円柱状の粒体であり、その粒体は、金属組織とセラミックス組織とが混在した焼結体で構成されている。このような焼結体で構成されていることにより、研磨用メディア1は、金属に起因する高い比重、優れた耐衝撃性および靭性と、セラミックスに起因する高い硬度や耐摩耗性と、を高度に両立したものとなる。このため、研磨用メディア1は、小さくても研磨力の高いものとなり、小さなワークや表面に凹部を含むような形状のワークについても、短時間で効率よく研磨処理を施すことのできるものとなる。
【0016】
また、焼結体で構成された研磨用メディア1は、全体がほぼ均質であるため、亀裂や剥離、欠損等の不具合が発生し難い。さらには、全体が均質であるため、摩耗が進んでも研磨特性の変化が生じ難い。したがって、研磨用メディア1は、長期にわたって安定した研磨力を発揮する。
図2は、図1に示す研磨用メディア1の横断面図である。なお、バレル研磨の際、バレル研磨槽中には研磨用メディアが多数投入されるが、以下では研磨用メディアの1つについて説明する。
【0017】
図2に示すように、研磨用メディア1は、複数の金属組織2と複数のセラミックス組織3とが混在して構成されており、各組織の間は化学的に結合されている。この結合は焼結現象によるものであり、液相焼結、固相焼結等に基づく原子拡散を伴っている。
金属組織2を構成する金属材料としては、特に限定されないが、例えば、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ca、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、Po等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を含む合金、混合物、金属間化合物等が用いられる。
【0018】
このうち、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、タングステン等を含むものが好ましく用いられ、タングステンを含むものが特に好ましく用いられる。これらの金属材料は、比較的高比重であり、かつ焼結性に富んでおり、研磨用メディア1の比重および耐衝撃性を高めることができるので、金属組織2を構成する材料として好適である。なお、タングステンを含む金属材料としては、例えば、タングステン単体の他に、タングステン−クロム系合金、タングステン−鉄系合金、タングステン−コバルト系合金、タングステン−Ni系合金、タングステンーレニウム系合金、タングステン−ニオブ系合金、タングステン−モリブデン系合金、タングステン−タンタル系合金等が挙げられる。また、金属組織2は、それを形成する際に不可避的に混入する元素を含んでいてもよい。
【0019】
また、用いられる金属材料は、その比重が8.5以上であるのが好ましく、9以上であるのがより好ましい。これにより、研磨用メディア1は、小さくても十分な研磨力を発揮する程度の質量を有するものとなる。
また、金属組織2は、磁性材料で構成されていてもよい。金属組織2が磁性材料で構成されていることにより、研磨用メディア1は、磁気バレル研磨に使用可能な磁性メディアとなる。
【0020】
磁性材料としては、純鉄、フェライト系ステンレス鋼、センダスト、パーマロイ、パーメンジュール、Fe−SiのようなFe系磁性材料の他、Ni系磁性材料、Co系磁性材料等が挙げられる。このうち、好ましくはFe系磁性材料が用いられ、より好ましくは純鉄またはフェライト系ステンレス鋼が用いられる。これらは、磁気特性が高いことから磁性メディアとして有用なものとなる。
【0021】
なお、前記磁性材料は、硬磁性材料であってもよいが、好ましくは軟磁性材料とされる。軟磁性材料であれば、保磁力が小さいので、磁気バレル研磨後、バレル研磨槽から研磨用メディア1を取り出した際に、研磨用メディア1同士が凝集し難い。このため、研磨用メディア1の取り扱い性が向上することとなる。
金属組織2の大きさは、特に限定されないが、平均粒径が0.5μm以上30μm以下であるのが好ましく、1μm以上20μm以下であるのがより好ましく、2μm以上10μm以下であるのがさらに好ましい。金属組織2の平均粒径を前記範囲内に設定することにより、研磨用メディア1は、金属組織2同士および金属組織2とセラミックス組織3との結合性に優れ、耐衝撃性等の機械的特性に優れたものとなる。
【0022】
なお、金属組織2の平均粒径は、以下のようにして測定される。
まず、研磨用メディア1を切断し、その切断面(横断面)を光学顕微鏡、電子顕微鏡等で観察する。次いで、研磨用メディア1の横断面において1つの金属組織2が占める面積を画像処理等により測定する。そして、得られた面積と同じ面積の円の直径(円相当径)を、当該金属組織2の粒径とする。同様の測定を100個の金属組織2について行い、測定された粒径の平均値を平均粒径とする。なお、研磨用メディア1の横断面において金属組織2とセラミックス組織3との境界線が明瞭でない場合は、横断面について元素マッピング分析を行い、元素の分布状態から金属組織2が占める領域を特定するようにしてもよい。
【0023】
また、金属組織2の形状は、特に限定されないが、略球状のような粒子状であるのが好ましい。これにより、金属組織2とセラミックス組織3との充填性が向上し、研磨用メディア1の機械的特性をより高めることができる。
なお、金属組織2は、結晶組織であっても、非晶質組織であってもよい。またこれらが混在した組織であってもよい。
【0024】
一方、セラミックス組織3を構成するセラミックス材料としては、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄のような酸化物系セラミックス、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタンのような窒化物系セラミックス、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化タングステンのような炭化物系セラミックス、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタンのようなホウ化物系セラミックス等が挙げられ、これらのうちの2種以上が混在していてもよい。また、コージェライト、ムライト、ステアタイトのように多種類のセラミックスが混在した系のものも用いられる。
【0025】
このうち、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化タングステンが好ましく用いられ、酸化アルミニウムが特に好ましく用いられる。これらのセラミックス材料は、硬度が高く、かつ耐衝撃性にも比較的優れており、研磨用メディア1の研磨力を高めることができるので、セラミックス組織3を構成する材料として好適である。
【0026】
セラミックス組織3の大きさは、特に限定されないが、平均粒径が0.1μm以上20μm以下であるのが好ましく、0.2μm以上10μm以下であるのがより好ましく、0.3μm以上5μm以下程度であるのがさらに好ましい。セラミックス組織3の平均粒径を前記範囲内に設定することにより、研磨用メディア1は、セラミックス組織3同士およびセラミックス組織3と金属組織2との結合性に優れ、耐衝撃性等の機械的特性に優れたものとなる。
【0027】
なお、セラミックス組織3の平均粒径は、金属組織2と同様の方法で測定される。
また、セラミックス組織3の平均粒径は、金属組織2の平均粒径より大きくてもよいが、好ましくは小さくなるよう設定される。研磨用メディア1ではセラミックス組織3がワーク表面の研磨に寄与する割合が大きいため、セラミックス組織3にはより大きな負荷が加わる。そこで、セラミックス組織3の平均粒径が金属組織2より小さければ、この負荷が加わっても研磨用メディア1から脱落し難くなる。つまり、セラミックス組織3が金属組織2によって固定され易くなる。
【0028】
具体的には、金属組織2の平均粒径を1としたとき、セラミックス組織3の平均粒径は、好ましくは0.05以上0.5以下とされ、より好ましくは0.1以上0.3以下とされる。なお、この比率は、例えば研磨用メディア1が金属粉末とセラミックス粉末とを用いた焼結体で構成されている場合には、金属粉末の平均粒径とセラミックス粉末の平均粒径から求めた比率とほぼ同じになる。
【0029】
また、セラミックス組織3の形状は、特に限定されないが、金属組織2の場合と同様、略球状のような粒子状であるのが好ましい。
また、セラミックス組織3は、磁性材料で構成されていてもよい。セラミックス組織3が磁性材料で構成されていることにより、研磨用メディア1は、磁気バレル研磨に使用可能な磁性メディアとなる。
【0030】
磁性材料としては、例えば、フェライトセラミックス等が挙げられる。
研磨用メディア1における金属組織2とセラミックス組織3との存在比は、特に限定されないが、金属組織2の割合が多い方が好ましい。これは、金属の方がセラミックスに比べて焼結後の耐衝撃性に優れていることから、金属組織2の割合を多くし、研磨用メディア1全体において金属組織2由来の特性を支配的にすることによって、研磨用メディア1に亀裂や欠損等が生じ難くすることができるからである。
【0031】
なお、金属組織2とセラミックス組織3との存在比は、以下のようにして測定される。
まず、研磨用メディア1を切断し、その切断面(横断面)を光学顕微鏡、電子顕微鏡等で観察する。次いで、研磨用メディア1の横断面の、金属組織2とセラミックス組織3がそれぞれ100個以上含まれる領域について、金属組織2が占める面積とセラミックス組織3が占める面積とを測定し、その比を前記存在比とする。なお、研磨用メディア1の横断面において金属組織2とセラミックス組織3との境界線が明瞭でない場合は、横断面について元素マッピング分析を行い、元素の分布状態から金属組織2が占める領域およびセラミックス組織3が占める領域を特定するようにしてもよい。
【0032】
またこの場合、金属組織2が占める面積を1としたとき、セラミックス組織3が占める面積は、0.1以上1未満であるのが好ましく、0.15以上0.7以下であるのがより好ましく、0.2以上0.5以下であるのがさらに好ましい。これにより、前述した効果がより顕著なものとなり、研磨力と耐久性との両立を高度に図ることができる。なお、この割合は、研磨用メディア1を製造する際に用いられる金属材料とセラミックス材料との体積比とほぼ同じになる。
【0033】
さらに、金属組織2を構成する金属材料とセラミックス組織3を構成するセラミックス材料との組み合わせは、焼結体の状態で安定的に存在し得る組み合わせであれば特に限定されないが、好ましくは金属材料中の主たる金属元素と、セラミックス材料中の主たる金属元素(ケイ素等を含む。)との間において、金属材料中の金属元素の標準生成自由エネルギーが、セラミックス材料中の金属元素の標準生成自由エネルギーより大きくなるような組み合わせが好ましい。このように材料選択を行うことで、金属材料とセラミックス材料の双方が焼結体中において安定的に存在することができ、研磨用メディア1の耐久性の低下を防止することができる。
【0034】
なお、比較すべき標準生成自由エネルギーは、セラミックス材料の種類に応じて決まることとなる。例えば、酸化物系セラミックスの場合は、酸化反応の標準生成自由エネルギーを比較すればよい。
以上、金属組織2およびセラミックス組織3について説明したが、研磨用メディア1には必要に応じてその他の組織が含まれていてもよい。その他の組織としては、例えば、炭素組織等が含まれていてもよく、空隙が含まれていてもよい。ただし、研磨用メディア1の横断面の面積を1としたとき、研磨用メディア1において金属組織2およびセラミックス組織3が占める割合は、0.9以上であるのが好ましく、0.93以上であるのがより好ましい。このような研磨用メディア1は、十分に緻密なものとなり、機械的特性に優れたものとなる。
【0035】
本発明の研磨用メディアは、いかなる形状をなしていてもよい。例えば、円柱、角柱のような柱状体、円錐、角錐のような錐状体、真球、楕円球のような球状体等が挙げられ、形状が均一でない異形状であってもよい。また、異なる形状のものが混在して使用されてもよい。さらには、表面の一部が凹んでいたり突出していたりする形状であってもよい。
このうち、研磨用メディア1の形状は、柱状または錐状をなしているのが好ましい。このような形状であれば、研磨用メディア1は、表面が湾曲している側面と、表面が平坦な底面と、それらの境界で構成された角部と、を有するものとなるため、研磨用メディア1が転動することにより、ワークに対して削り作用と磨き作用とをもたらす。その結果、バリ取りと表面仕上げとを同時に行うことができる等、有用な研磨用メディア1となる。
【0036】
図1に示す研磨用メディア1は、略円柱状をなしている。
研磨用メディア1のサイズは、ワークのサイズや形状等に応じて適宜選択されるが、一例として、最大長が0.1mm以上10mm以下であるのが好ましく、0.3mm以上5mm以下であるのがより好ましい。本発明の研磨用メディアは、このような小さなものであっても、十分な研磨力を有していることから、小さなワークや表面に凹部を含むようなワークの研磨において有用である。
また、研磨用メディア1の形状は、異方的形状であってもよいが、好ましくは等方的形状とされる。これにより、均一な研磨が可能になる。例えば、図1に示すような略円柱状の研磨用メディア1の場合、上下面の形状は真円に近い形状であり、その円の直径と円柱の高さとがほぼ同じであればよい。
【0037】
ところで、研磨用メディア1をバレル研磨に供されると、ワーク表面が研磨されるのと同時に、研磨用メディア1の表面も摩耗する。従来の研磨用メディアの中には、この摩耗によって摩耗前とは異なる特性の表面が現れ、それによって研磨特性も異なってしまうものがあった。このような状態になると、ワークの研磨状態が不均一になる。
これに対し、本発明の研磨用メディア1は、全体が金属組織とセラミックス組織とが混在した焼結体で均質に構成されているので、その表面が摩耗したとしても摩耗前と同じ特性の表面が次々と現れることとなる。このため、常に同じ特性で研磨することができ、ワークの研磨状態を均一にすることができる。
【0038】
<研磨用メディアの製造方法>
次に、研磨用メディア1の製造方法(本発明の研磨用メディアの製造方法)について説明する。
研磨用メディア1は、金属粉末とセラミックス粉末との混合粉末を成形し、得られた成形体を焼結させる粉末冶金法により製造される。
この製造方法は、[1]混合粉末を混練工程と、[2]成形体を製造する成形工程と、[3]脱脂処理を施す脱脂工程と、[4]焼成を行う焼成工程とを有する。以下、各工程について順次説明する。
【0039】
[1]混練工程
まず、金属粉末と、セラミックス粉末と、バインダーとを用意し、これらを混練機により混練し、混練物(組成物)を得る。得られた混練物中では、金属粉末とセラミックス粉末とが均一に混在し、さらにバインダーが均一に分散している。
用いる金属粉末およびセラミックス粉末としては、その平均粒径が、前述した金属組織2およびセラミックス組織3の平均粒径と同程度のものが用いられる。
【0040】
バインダーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、またはこれらの共重合体等の各種樹脂や、各種ワックス、パラフィン、高級脂肪酸(例:ステアリン酸)、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等の各種有機バインダーが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることができる。
このうち、バインダーとしては、ポリオレフィンを主成分とするものが好ましい。ポリオレフィンは、還元性ガスによる分解性が比較的高い。このため、ポリオレフィンをバインダーの主成分として用いた場合、より短時間で確実に成形体の脱脂を行うことができる。
【0041】
また、バインダーの含有率は、混練物全体の10体積%以上70体積%以下程度であるのが好ましく、20体積%以上60体積%以下程度であるのがより好ましい。バインダーの含有率が前記範囲内であることにより、成形性よく成形体を形成することができるとともに、密度を高め、成形体の形状の安定性等を特に優れたものとすることができる。また、これにより、成形体と脱脂体との大きさの差、いわゆる収縮率を最適化して、最終的に得られる焼結体の寸法精度の低下を防止することができる。
【0042】
また、混練物中には、必要に応じて、可塑剤が添加されていてもよい。この可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル(例:DOP、DEP、DBP)、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、セバシン酸エステル等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
さらに、混練物中には、上記の他に、例えば、酸化防止剤、脱脂促進剤、界面活性剤、分散剤、滑剤等の各種添加物を必要に応じて添加することができる。
【0043】
なお、混練条件は、用いる金属粉末の組成や粒径、バインダーの組成、およびこれらの配合量等の諸条件により異なるが、その一例を挙げれば、混練温度が50℃以上200℃以下程度、混練時間を15分以上210分以下程度とすることができる。
また、混練物は、必要に応じ、ペレット(小塊)化される。ペレットの粒径は、例えば、1mm以上15mm以下程度とされる。
なお、混練物に代えて、造粒粉末を製造するようにしてもよい。
【0044】
[2]成形工程
次に、混練物を成形して、目的の焼結体と同形状の成形体を製造する。
成形体の製造方法(成型方法)としては、特に限定されず、例えば、圧粉成形(圧縮成形)法、金属粉末射出成形(MIM:Metal Injection Molding)法、押出成形法等の各種成形法を用いることができるが、研磨用メディア1の製造においては特に金属粉末射出成形を用いるのが好ましい。この成形法によれば、複雑な形状の研磨用メディア1を製造する場合であっても、最終形状に近い形状の成形体を得ることができる。このため、得られた成形体を脱脂、焼成しさえすれば、様々な形状の研磨用メディア1を、後加工を省略して簡単にかつ安定的に製造することができるので、製造効率および寸法バラツキ抑制の観点から有利である。特に、研磨用メディア1の場合、その形状が研磨特性に大きな影響を及ぼすことから、各研磨用メディア1の形状が一定であることは、一定の研磨特性を得るために必要なことである。
【0045】
金属粉末射出成形法の場合の成形条件は、諸条件によって異なるものの、材料温度が80℃以上210℃以下程度、射出圧力が5MPa以上500MPa以下(0.05t/cm以上5t/cm以下)程度であるのが好ましい。このようにして得られた成形体では、金属粉末やセラミックス粉末の各粒子の間隙に、バインダーが一様に分布した状態となる。
【0046】
なお、圧粉成形法の場合の成形条件は、用いる金属粉末の組成や粒径、バインダーの組成、およびこれらの配合量等の諸条件によって異なるが、成形圧力が200MPa以上1000MPa以下(2t/cm以上10t/cm以下)程度であるのが好ましい。
また、押出成形法の場合の成形条件は、諸条件によって異なるものの、材料温度が80℃以上210℃以下程度、押出圧力が50MPa以上500MPa以下(0.5t/cm以上5t/cm以下)程度であるのが好ましい。
なお、いずれの場合も、作製される成形体の形状寸法は、以降の脱脂工程および焼成工程における成形体の収縮分を見込んで決定される。
【0047】
[3]脱脂工程
次に、得られた成形体に脱脂処理(脱バインダー処理)を施し、脱脂体を得る。
具体的には、成形体を加熱して、バインダーを分解することにより、成形体中からバインダーを除去して、脱脂処理がなされる。
この脱脂処理は、例えば、成形体を加熱する方法、バインダーを分解するガスに成形体を曝す方法等が挙げられる。
【0048】
成形体を加熱する方法を用いる場合、成形体の加熱条件は、バインダーの組成や配合量によって若干異なるものの、温度100℃以上750℃以下、脱脂時間0.1時間以上20時間以下程度であるのが好ましく、150℃以上600℃以下、0.5時間以上15時間以下程度であるのがより好ましい。これにより、成形体を焼結させることなく、成形体の脱脂を必要かつ十分に行うことができる。その結果、脱脂体の内部にバインダー成分が多量に残留してしまうのを確実に防止することができる。
また、成形体を加熱する際の雰囲気は、特に限定されず、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、大気のような酸化性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。
【0049】
一方、バインダーを分解するガスとしては、例えば、オゾンガス等が挙げられる。
なお、このような脱脂工程は、脱脂条件の異なる複数の過程(ステップ)に分けて行うことにより、成形体中のバインダーをより速やかに、そして、成形体に残存させないように分解・除去することができる。
また、必要に応じて、脱脂体に対して切削、研磨、切断等の機械加工を施すようにしてもよい。脱脂体は、硬度が比較的低く、かつ比較的可塑性に富んでいるため、脱脂体の形状が崩れるのを防止しつつ、容易に機械加工を施すことができる。このような機械加工によれば、最終的に寸法精度の高い焼結体を容易に得ることができる。
【0050】
[4]焼成工程
前記工程[3]で得られた脱脂体を、焼成炉で焼成して焼結体を得る。
この焼結により、金属粉末は、粒子同士の界面で拡散が生じ、焼結に至る。また、一部、セラミックス粉末との界面でも拡散が生じると考えられる。以上のようにして、金属組織2とセラミックス組織3とが均一に混在した焼結体が得られる。
【0051】
さらに、セラミックス粉末より金属粉末の混合量が多い場合、高い確率でセラミックス粒子を囲うように金属粒子同士が焼結する。これにより、金属粉末とセラミックス粉末との結合力が弱い場合でも、研磨用メディア1の機械的特性が低下するのを防止して、破壊し難いメディアを得ることができる。なお、セラミックス粒子は、一般に異形状になり易いことから、この周りを取り囲むように金属粒子が配置されることになると、セラミックス粒子と金属粒子との間では粒子ズレが生じ難くなる。その結果、セラミックス粒子を容易に固定することができ、研磨用メディア1の機械的特性がより向上することとなる。
【0052】
なお、本工程における焼成条件は、成形体および脱脂体の製造に用いた金属粉末およびセラミックス粉末の組成や粒径等によって若干異なるものの、温度1100℃以上1600℃以下で、焼成時間0.2時間以上7時間以下程度であるのが好ましく、温度1200℃以上1500℃以下で、焼成時間1時間以上4時間以下程度であるのがより好ましい。これにより、焼結が進み過ぎて過焼結となり結晶組織が肥大化するのを防止しつつ、脱脂体全体を十分に焼結させることができる。その結果、高密度であり、かつ特に機械的特性に優れた焼結体を得ることができる。
【0053】
また、焼成の際の雰囲気は、特に限定されないが、金属粉末の酸化を防止することを考慮した場合、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が好ましく用いられる。
以上のようにして焼結体で構成された研磨用メディア1が得られる。
なお、研磨用メディア1の製造方法は、上記の方法に限定されず、例えば、セラミックス粉末を分散させた溶融金属を所定の形状に鋳造する鋳造法、あるいは直接成形型に射出するダイカスト法等により製造することもできる。
【0054】
<研磨方法>
次に、本発明の研磨方法について説明する。
図3は、本発明の研磨方法に用いるバレル研磨槽を模式的に示す図(断面図)である。
バレル研磨槽は、円柱形状や多角形状等をなす容器である。この中にワーク40と研磨用メディア1とを入れ、容器を振動、回転等させる。これにより、ワーク40と研磨用メディア1とが運動し、両者の相対運動差を利用してワーク40の表面が研磨される。
【0055】
バレル研磨には、内容物の運動形態によっていくつかの方式があり、例えば、回転バレル研磨、振動バレル研磨、遠心バレル研磨、渦流バレル研磨、磁気バレル研磨等が知られているが、研磨用メディア1はこれらのいずれにも用いられる。
図3に示すバレル研磨槽10は、八角形の柱状をなす回転バレル研磨用の研磨槽である。柱状体の軸線は水平方向に沿って配置され、この軸線がバレル研磨槽10の回転軸となる。この回転軸を中心にバレル研磨槽10を回転させると、内容物は回転とともにバレル研磨槽10の内壁面に沿って鉛直上方に移動し、所定の高さまで上がると崩れるように下方へ移動する。この際、内容物は激しく流動し、ワーク40と研磨用メディア1との間には衝撃力や摩擦力が生じる。その結果、ワーク40の表面が研磨される。
【0056】
バレル研磨槽10に入れるワーク40と研磨用メディア1の比率は、特に限定されないが、一般的にはワーク40の体積に対して研磨用メディア1の体積が多くなるように設定される。一例として、ワーク40の体積を1としたとき、研磨用メディア1の体積が1.5以上10以下程度に設定すればよい。
なお、バレル研磨は、乾式でも湿式でもよい。
【0057】
また、バレル研磨槽10には、必要に応じてその他の添加物50が入れられる。その他の添加物50としては、例えば、水、有機溶剤のような液体、洗浄剤(コンパウンド)等が挙げられる。
以上、本発明を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば、本発明の研磨方法には、任意の目的の工程が追加されてもよい。
【実施例】
【0058】
1.研磨用メディアの製造
(実施例1)
[1]まず、平均粒径3μmのタングステン粉末と、平均粒径0.5μmのアルミナ粉末と、体積比で4:1となるように混合して混合粉末を得た。次いで、得られた混合粉末とバインダーとを、体積比で55:45となるよう秤量して混合し、混合原料を得た。なお、バインダーとしてはポリプロピレンとワックスとを用いた。また、添加剤としてステアリン酸を添加した。それぞれの混合量は、混合粉末100質量部に対して、ポリプロピレン5質量部、ワックス5質量部、ステアリン酸2質量部とした。
続いて、得られた混合原料を混練機で混練し、コンパウンドを得た。
【0059】
[2]次いで、得られたコンパウンドを以下に示す成形条件で射出成形機により成形し、成形体を得た。
<成形条件>
・材料温度:150℃
・射出圧力:11MPa(110kgf/cm
・成形形状:底面の直径0.5mm、高さ0.5mmの円柱
【0060】
[3]次いで、得られた成形体に対して、以下に示す脱脂条件で熱処理(脱脂処理)を施し、脱脂体を得た。
<脱脂条件>
・加熱温度 :500℃
・加熱時間 :2時間
・加熱雰囲気:窒素ガス
【0061】
[4]次に、得られた脱脂体を、以下に示す焼成条件で焼成した。これにより、焼結体(研磨用メディア)を得た。
<焼成条件>
・焼成温度 :1400℃
・焼成時間 :3時間
・加熱雰囲気:減圧(300Pa)
【0062】
得られた焼結体は、金属組織とセラミックス組織とが混在したものであった。
そこで、焼結体の切断面を走査型電子顕微鏡で観察し、金属組織の平均粒径を1としたときのセラミックス組織の平均粒径を求めた。その結果を表1に粒径比として示す。
また、切断面全体において金属組織が占める面積を1としたときのセラミックス組織が占める面積を求めた。その結果を表1に面積比として示す。
【0063】
(実施例2〜17)
研磨用メディアの製造条件を表1に示すように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体(研磨用メディア)を得た。
(実施例18〜20)
金属粉末として平均粒径の異なる2種類のタングステン粉末を用いるとともに、その他の製造条件を表1に示すように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体(研磨用メディア)を得た。なお、2種類の粉末の混合比は、体積比で1:1とした。
【0064】
(実施例21〜23)
セラミックス粉末としてジルコニア粉末を用いるとともに、その他の製造条件を表1に示すように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体(研磨用メディア)を得た。
(実施例24、25)
研磨用メディアの形状を円錐に変更するとともに、その他の製造条件を表1に示すように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体(研磨用メディア)を得た。なお、円錐の寸法は、底面の直径を0.5mmとし、高さを0.5mmとした。
【0065】
(実施例26、27)
成形方法を圧粉成形法に変更するとともに、その他の製造条件を表1に示すように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体(研磨用メディア)を得た。なお、圧粉成形の条件は、以下の通りである。
<成形条件>
・造粒方法 :転動造粒法(平均粒径30μm)
・成形方法 :プレス成形
・成形圧力 :500MPa
・材料温度 :90℃
【0066】
(実施例28、29)
金属粉末としてモリブデン粉末を用いるとともに、その他の製造条件を表1に示すように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体(研磨用メディア)を得た。
(実施例30〜32)
金属粉末としてフェライト系ステンレス鋼粉末(SUS430)を用いるとともに、その他の製造条件を表1に示すように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして焼結体(研磨用メディア)を得た。
【0067】
(比較例1)
研磨用メディアとして、底面の直径0.5mm、高さ0.5mmの円柱状アルミナビーズメディア(新東ブレーター株式会社製、比重3.5、モース硬度9)を用いる。
(比較例2)
研磨用メディアとして、底面の直径0.5mm、高さ0.5mmの円柱状ステンレス(SUS430)ピン(新東ブレーター株式会社製、比重0.79)を用いる。
【0068】
(比較例3)
セラミックス粉末の添加を省略した以外は、実施例1と同様にして焼結体(研磨用メディア)を得た。
(比較例4)
まず、平均粒径1.4μmの粉末状のCo系メタルボンドを用意し、これに、比率が20質量%になるように粒径10〜20μmのダイヤモンド砥粒を加え、混合して混合粉末を得た。次いで、これにポリビニルアルコールを加えて砥材層用組成物を調製した。
【0069】
次いで、得られた砥材層用組成物と、比較例3で得られた焼結体とを転動造粒装置内に入れ、造粒した。これにより、焼結体の表面に平均厚さ0.2mmの砥材層用被膜を得た。
次いで、これを焼成皿に載せ、水素雰囲気中において900℃、3時間の焼成を行った。これにより、比較例3の焼結体が平均厚さ0.15mmの砥材層で覆われてなる研磨用メディアを得た。
【0070】
2.研磨処理の評価
2.1.比重(密度)の評価
各実施例および各比較例で得られた研磨用メディアについて、任意の100個を取り出し、そのうちの10個を一組としてその比重(密度)をアルキメデス法により評価した。これを残る90個についても10個ずつ行い、10組分の測定値を平均した。これを各研磨用メディアの比重とした。
【0071】
2.2.研磨精度の評価
まず、縦5mm×横5mmの立方体状の透光性アルミナ製ワーク(表面粗さRa:2μm)を用意した。なお、このワークには、一つの面の中央に、直径3mm、深さ3mmの円柱状の穴が開いている。
次いで、回転バレル研磨装置のバレル研磨槽中にワーク1000cmと研磨用メディア4000cmとを入れた。また、併せて、水と、コンパウンド(木村石鹸製、トリーストンL−5)とを入れた。なお、コンパウンドの濃度は、水との混合液中で2質量%とした。また、水の投入量は、5000cmとし、全内容物の装入量はバレル研磨槽容積の55%とした。
【0072】
そして、20rpmの回転数で60時間回転させ、バレル研磨を行った。
その後、バレル研磨槽から任意のワーク100個を取り出し、それぞれについて触針式粗さ測定器によりJIS B 0601に規定する表面粗さRaを測定した。なお、測定箇所は、立方体状ワークの六面のうちの前記穴が開いていない面上とした。そして、100個の測定値の平均値を求め、これを各実施例および各比較例における表面粗さRaとした。
【0073】
2.3.研磨均一性の評価
次いで、2.2で測定した表面粗さRaについて、標準偏差を算出した。次いで、比較例1で求めた標準偏差を1とし、これに対する各標準偏差の相対値を、表面粗さRaの均一性の指標とした。そして、この指標を、以下の評価基準にしたがって評価した。
<研磨均一性の評価基準>
A:指標が0.5未満である
B:指標が0.5以上0.7未満である
C:指標が0.7以上0.9未満である
D:指標が0.9以上1未満である
E:指標が1以上である
【0074】
2.4.メディアの外観の評価
次いで、2.2でバレル研磨に使用した研磨用メディア10個を光学顕微鏡で観察し、その外観を確認した。そして、以下の評価基準にしたがって評価した。
<メディアの外観の評価基準>
A:割れおよび欠損のあるメディアが0個である
B:割れおよび欠損のあるメディアが1個である
C:割れおよび欠損のあるメディアが2〜3個である
D:割れおよび欠損のあるメディアが4〜5個である
E:割れおよび欠損のあるメディアが6個以上である
以上、2.1〜2.4の評価結果を表1に示す
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示すように、各実施例で得られた研磨用メディアは、いずれもワークの表面粗さRaが非常に小さく、研磨結果が良好であることが認められた。また、凹部内についても同様に良好な研磨が施されていた。なお、いくつかの研磨評価においては、60時間の研磨中、10時間ごとに研磨を停止し、研磨の進行度合いの推移を確認した。その結果、比重が10を超えているメディアによる研磨では、30時間を過ぎると、研磨量が抑えられ、研磨が完了していることが認められた。このような場合、最終的には表面粗さRaが十分に小さくなっていることが認められた。
【0077】
また、各実施例で得られた研磨用メディアによれば、研磨均一性に優れるとともに、メディアの外観が比較的良好に保たれていた。これは、各実施例で得られた研磨用メディアが、研磨力が高く、かつ耐久性に優れているため、短期間で研磨を完了させることができ、これにより研磨均一性を相対的に高くすることができ、かつ、長期間使用した場合でも摩耗や欠損等が生じ難いことに起因する結果であると推察される。
【0078】
一方、各比較例の研磨用メディアでは、表面粗さRaを十分に小さくすることができない場合、および、研磨均一性が不十分な場合があった。また、表面粗さをある程度小さくすることができた場合であっても、研磨均一性やメディアの外観に問題が認められた。
なお、各実施例で得られた研磨用メディアを切断し、その切断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、金属組織とセラミックス組織とが混在している様子が認められた。また、各組織の平均粒径を測定したところ、使用した粉末の平均粒径とほぼ同等であることが認められた。
なお、実施例30〜32で得られた研磨用メディアを、磁気バレル研磨装置にも使用してみたところ、回転バレル研磨装置と同等の研磨力を示すことが認められた。
【符号の説明】
【0079】
1……研磨用メディア 2……金属組織 3……セラミックス組織 10……バレル研磨槽 40……ワーク 50……添加物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属組織とセラミックス組織とが混在した焼結体で構成されていることを特徴とする研磨用メディア。
【請求項2】
当該研磨用メディアの横断面において、前記金属組織が占める面積を1としたとき、前記セラミックス組織が占める面積は、0.1以上1未満である請求項1に記載の研磨用メディア。
【請求項3】
当該研磨用メディアは、柱状または錐状をなしている請求項1または2に記載の研磨用メディア。
【請求項4】
前記セラミックス組織は、酸化アルミニウムで構成されている請求項1ないし3のいずれかに記載の研磨用メディア。
【請求項5】
前記金属組織は、タングステンで構成されている請求項1ないし4のいずれかに記載の研磨用メディア。
【請求項6】
前記セラミックス組織は、金属酸化物で構成されており、
前記金属組織に含まれる金属元素の酸化反応の標準生成自由エネルギーが、前記金属酸化物に含まれる金属元素の酸化反応の標準生成自由エネルギーより大きい請求項1ないし5のいずれかに記載の研磨用メディア。
【請求項7】
前記焼結体は、金属粉末とセラミックス粉末との混合粉末を、射出成形法により成形し、得られた成形体を焼結してなるものである請求項1ないし6のいずれかに記載の研磨用メディア。
【請求項8】
金属粉末とセラミックス粉末との混合粉末を、射出成形法により成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼結し、焼結体を得る工程と、を有することを特徴とする研磨用メディアの製造方法。
【請求項9】
セラミックス組織と金属組織とが混在した焼結体で構成された研磨用メディアと、被研磨物と、をバレル研磨槽中で撹拌することを特徴とする研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−206220(P2012−206220A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74394(P2011−74394)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】