説明

研磨装置

【課題】 ワークに対して荷重をかけすぎず、また強度を維持または向上させ、ワークの品質向上をはかることができるコスト安の研磨装置を提供する。
【解決手段】 研磨装置は下定盤31と、下定盤に対向して形成される上定盤21と、上定盤を昇降させる昇降装置13を有する構成である。上定盤21は定盤本体の上面に断面凹形の溝状の切り欠き部21bが複数形成された構成であり、切り欠き部21b間に補強部21eが形成されている。当該補強部21eは定盤の外周側と内周側の堤部21a間をつなぐ構成となっている。前記切り欠き部21bは蓋体21fにより閉鎖されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶、半導体材料等を研磨する研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、水晶振動デバイスに用いる水晶振動板は、人工水晶から切断工程や研磨工程を経て得ることができる。研磨工程においては相対向する側に研磨面を有する一対の定盤(上下定盤)を用いた平行平面研磨を行い、この定盤間にワーク(水晶振動板)を挟持状態で介在させる。この状態で砥粒を含む液体からなる研磨液を適宜供給し、定盤に対してワークが相対的に移動することにより、ワークが研磨される。
【0003】
以上のように平行平面研磨では定盤の重量がワークに対する荷重となり研磨が進められるが、ワークが薄いなど機械的強度が低い場合、上記荷重により研磨作業中にワークが破損することがあった。上記例示した水晶振動板は、ATカット水晶振動板が代表的に用いられている。このATカット水晶振動板はその周波数が板厚によって決定されるが、最近の周波数制御デバイスの高周波数化要求により、ATカット水晶振動片も極めて薄いものが求められている。この場合、水晶振動板の研磨等の加工において荷重制御が必要となり、必要以上の荷重をかけた場合、水晶振動片が破損することがあった。
【0004】
このような問題を解決するために、研磨工程時においてワークにかかる荷重を制御し、ワークの破損等を防止することが検討されている。例えば特開2006−35355号(特許文献1)は、一定盤側のワーク(ウェハ)への荷重を一定にさせる逆圧制御機構を研磨装置に設け、ワークに対し必要以上の荷重をかけないような提案がなされていた。しかしながら、逆圧制御機構は複雑な制御が必要であり、高精度の制御を行う場合、高コストの制御装置が必要になる可能性があった。
【0005】
また、ワークに対して荷重をかける定盤は鋳鉄、ステンレス等を主体とする材料を用いているが、この定盤の厚さを薄くし軽量化することにより、ワークに対する荷重を軽減する手法も検討されている。しかしながらこのように厚さの薄い定盤を用いると、研磨時の応力が研磨面に生じ研磨面の平坦性が適切に保たれなくなることがあり、このような場合、研磨加工を行ったワークにおいてその研磨面の面精度が著しく低下することがあった。このような場合、水晶振動デバイスにおいては周波数ばらつきが生じ、またスプリアス発生等、特性も低下するという問題があった。
【特許文献1】特開2006−35355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、ワークに対して荷重をかけすぎず、また強度を維持または向上させ、ワークの品質向上をはかることができるコスト安の研磨装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、定盤自体の強度を保ちながら、その重量を軽量化した研磨装置であって、次のような構成を特徴とするものである。
【0008】
請求項1に示すように、研磨面が対向配置された上定盤と下定盤と、前記各定盤間に配置され、ワーク保持部を有するキャリアと、前記ワーク保持部に収納されるワークとからなり、前記ワークを前記各定盤間で研磨を行う研磨装置であって、前記上定盤の一部であって研磨面以外において質量減少部を有していることを特徴とするものである。
【0009】
前記質量減少部は、請求項2に示すように、定盤に形成した切り欠き部であってもよい。この切り欠き構成は、定盤に対して周状の溝(切り欠き)を形成するような構成でもよいし、平面視で円形または角形の有底状切り欠きを複数形成してもよい。さらには定盤の外周部分や内周部分を切り欠いた構成のような、部分的に薄肉化した構成であってもよい。さらには上記各切り欠き部について切り欠き部分に傾斜部を設けた構成であってもよい。なお、定盤に形成した切り欠きは、研磨面以外の面(研磨面の対向面や側面)に形成することができる。
【0010】
上記切り欠き部の内部に補強部を形成した構成であってもよい。補強部は切り欠き部によって形成される堤部間をつなぐ梁状構成であってもよいし、この堤部が切り欠き部内にマトリクス状に形成されていてもよい。
【0011】
さらに請求項3に示すように、切り欠き部の一部または全部を蓋体により閉鎖されている構成であってもよい。このように切り欠き部を閉鎖することにより、定盤の表面をフラットにすることができ、これにより定盤の取り扱いを容易にすることができる。また切り欠き部に対して蓋体を取着することにより、中空構成あるいはそれに類する構成を得ることができ、定盤を軽量化するとともに、強度も向上させることができる。
【0012】
なお、質量減少部は上述の構成に限定されるものではなく、例えば、定盤を多層構成とし、研磨面以外の層については強化樹脂材等の軽量化材料を用いてもよい。さらに上述の多層構成において、上述の切り欠き部を研磨面の層やその他の層に形成してもよい。もちろんこの場合研磨面自体について切り欠き部を設けることは好ましくない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ワークに対して荷重をかけすぎず、また強度を維持または向上させ、ワークの品質向上をはかることができるコスト安の研磨装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明による実施の形態について図面を参照して説明する。図1は研磨装置の構成を示す斜視図、図2は上定盤の分解斜視図、図3は図2の上定盤を組み立てた状態でのA−A断面図である。
【0015】
図1に示すように、研磨装置は下定盤31と、下定盤に対向して形成される上定盤21と、上定盤を昇降させる昇降装置13を有する構成である。図1は下定盤31に対して上定盤21が離隔され、両定盤間に位置するキャリア等が現れた状態を示している。
【0016】
研磨装置には直立アーム11が上方に向かって伸長しており、直立アーム11の上部に横アーム12が取り付けられている。横アーム12は取り付け部分から略水平方向であって、後述の下定盤設置領域の上部に伸びている。横アーム12の先端部分には昇降装置13が取り付けられている。昇降装置13は例えばエアシリンダからなり、後述の上定盤等を上下方向に動作させることができる。昇降装置13の下方には保持部14が設けられている。当該保持部14は昇降装置による上下動に対応して動作し、上定盤を保持、あるいは保持解除することとあいまって上定盤を上下動させる。
【0017】
昇降装置により上下動する上定盤21は鋳鉄、ステンレス等の金属体からなり、中央部に貫通孔を有する円板形状すなわちドーナツ様の形状を有している。当該上定盤の上面には複数の保持バー23が直立して設けられ、当該保持バー23の上部に供給リング22が形成されている。供給リング22は上方に開口したリング状の溝を有し、当該溝に後述する研磨液が溜まる構成となっている。リング中心の貫通部分は保持部14につながる接続部が通っている。また供給リング22はチューブ25により第2供給管24につながっており、第2供給管24から上定盤内に研磨液が供給される構成となっている。
【0018】
なお、上定盤には図示していないが、内部に複数の上下貫通孔を有しており、研磨液が研磨面(上定盤の下面)に漏出する構成となっている。また研磨面には所定の浅溝が形成され、前記漏出した研磨液が研磨面全体に行き渡るよう構成されている。
【0019】
また研磨装置は研磨液供給装置41を有している。研磨液はワークの研磨に用いるもので、例えばGreen Silicon Carbide、White Fused Alumina、Emery、セロックス等の研磨材と防錆剤からなる砥粒を含む液体からなり、砥粒の種類、サイズは研磨を行う工程によって適宜選択される。通常は複数の研磨工程を実施するが、工程毎に漸次砥粒サイズを細かくすることにより研磨精度を向上させている。研磨液供給装置は研磨液を常時撹拌させると共に、所定量を前記供給リング22に対して供給している。具体的には研磨液供給装置41の研磨液は、チューブ42を介して供給リング上に設けられた第1供給管43に導かれ、第1供給管43から供給リング22の溝に滴下される。
【0020】
上定盤の下方に位置する下定盤31は鋳鉄、ステンレス等の金属体からなる円板形状であり、中央部分に貫通孔が設けられているとともに、上面(研磨面)に平坦面を有している。当該上面にキャリア34が複数枚配置されている。キャリア34は薄型の円板形状でその外周にギア(図示せず)が形成されている。キャリアには複数の貫通孔が形成されワーク保持部を形成している。
【0021】
なおキャリアの厚さはワークの厚さよりも薄いものが用いられる。前記下定盤31において、前記中央部分の貫通孔には研磨装置本体から突出した駆動部32が配置されている。当該駆動部32はキャリアと同じ高さの位置にサンギア32aが設けられ、前記キャリア34のギアと噛合する構成となっている。また下定盤の外周部分には下定盤と独立したインターナルギア33が配置され、当該インターナルギア33とキャリアのギアが噛合する構成となっている。
【0022】
図2に示すように、上定盤21は定盤本体の上面に断面凹形の溝状の切り欠き部21bが複数形成された構成であり、切り欠き部21b間に補強部21eが形成されている。当該補強部21eは定盤の外周側と内周側の堤部21a間をつなぐ構成となっており、本実施の形態では3ヶ所の補強部21eが各々円周に均等配置されている。なお、補強部は上記例に限定されるものではなく、1以上形成することにより、切り欠き部形成による定盤の強度低下を抑制し、強度向上効果を得ることができる。
【0023】
前記切り欠き部21bは蓋体21fにより閉鎖されている。具体的には前記上定盤と平面視同形状でり、平面視で中央部分に貫通孔21gを有するドーナツ形状の蓋体21fを上定盤の上面に接合する。図3は図2において蓋体により閉鎖した状態でのA−A断面図であるが、当該断面図から明らかなとおり、前記切り欠き部21bは定盤において中空部を形成し、定盤の軽量化をはかることができる。
【0024】
なお、蓋体21fには1つまたは複数の小貫通孔が形成され、当該小貫通孔に第2供給管24が挿入されている。また図示していないが切り欠き部の溝底面には複数の微小貫通孔が形成され、前記第2供給管から供給された研磨液が当該微小貫通孔を経て研磨面に漏出するよう構成されている。
【0025】
上記上定盤の構成は補強部および蓋体を設けた構成であるが、補強部および蓋体を有しない切り欠き部のみを有する構成であってもよい。この場合、上定盤のコストを低減することができるという効果を奏する。
【0026】
また、上記実施の形態等において切り欠き部の幅を一部可変させてもよい。このような構成により、切り欠き部によって形成される堤部の厚さが、相対的に厚肉部と薄肉部を有する構成となる。蓋体を用いない構成においては、厚肉部に前記保持バーを取り付けてもよい。
【0027】
― 研磨装置の動作説明 ―
次に水晶振動板の研磨を例示して、研磨装置の動作について説明する。
各ワーク(被研磨物である水晶振動板)はキャリアの各ワーク保持部34a内に収納される。キャリア34は下定盤の上面に設置され、キャリア外周にあるギア(図示せず)が前記サンギア32aとインターナルギア33に各々噛合するように配される。通常キャリア34は下定盤上に複数設置され、複数のワークに対して研磨を行う。キャリア34を配置した後、昇降装置13により上定盤21を下降させることにより、当該キャリアに上定盤を当接させ、上定盤による荷重をワーク等に対して与える。
【0028】
この状態で駆動部のサンギア32aとインターナルギア33を回転させる。回転方向はサンギア、インターナルギアともに同方向であるが、ギア比の違いによりキャリアに対して回転力が与えられ、キャリアに保持されたワークが上下定盤間で研磨される。
【0029】
なお、上記回転駆動構成は上定盤と下定盤を固定して、キャリアのみを回転させる構成であるが、上記回転駆動に加えて上定盤あるいは下定盤のいずれか一方に回転力を与えたり、あるいは上記回転駆動に加えて上定盤と下定盤の両方に回転力を与えることにより、より効率的な研磨を行うことができる。なお、上定盤と下定盤の両方に回転力を与える場合は、両者の回転方向を逆にすればよい。
【0030】
研磨液供給装置41からは研磨液がチューブ42を介して第1供給管43に供給される。第1供給管43からは、供給リング22に研磨液が断続的に滴下され、供給リング22からチューブ25を介して第2供給管24に供給される。さらに第2供給管から上定盤内に研磨液が供給され、前述したように上定盤内部に設けられた複数の上下貫通孔を介して、研磨液が研磨面に漏出する構成となっている。また研磨面には所定の浅溝が形成され、前記漏出した研磨液が研磨面全体に行き渡るよう構成されている。
【0031】
以上の構成により、適量の研磨液を定盤の研磨面に供給しながら、キャリアに回転動作を与えて、上下定盤による平行平面研磨を行う。なお、研磨にかかる時間、キャリアの回転速度等については、研磨液に用いる砥粒の材料、サイズやワークにかける荷重等によって適宜調整される。
【0032】
上記実施の形態においては上定盤の構成に特徴があり、補強部21eで仕切られた3つの切り欠き部21bと切り欠き部を閉鎖する蓋体21fにより、上定盤の内部に中空部を設けた構成となっている。このような構成により従来の金属体からなる定盤に対して軽量化をはかることができる。この軽量化の実現により、ワーク(被研磨物)に対する荷重を軽減することができ、ワークが薄型化して機械的強度が低下した場合であっても、研磨によるワークの破損率を低下させることができる。
【0033】
さらに前記中空部は補強部21eを有する構成であり、また蓋体を有する構成でもあるので、定盤自体において軽量化に伴う強度低下を抑制することができる。背景技術の項でも説明したとおり、強度が低下した場合は、研磨実施時の摩擦等によって定盤自体に歪みが生じ、定盤の研磨面が変形することがあるが、上記補強部や蓋体の存在により、定盤の強度を向上させ変形を抑制することができる。よって、定盤の変形によるワークの面精度低下等を抑制することができ、例えばワークがATカット水晶振動板であり、これを複数個一括に研磨を行った場合でも、それぞれの周波数ばらつきを抑制することができ、また各水晶振動板においても面精度がよいため、スプリアス(不要振動)の発生が抑制されるなど諸特性を向上させることができる。
【0034】
本発明による上定盤の構成は上述の実施形態に限定されるものではなく、例えば図4各図に示すような構成を例示することができる。図4各図は中央部分に貫通孔を有するドーナツ状の上定盤の一部分の断面図を示している。図4(a)は2重の切り欠きを周状に設けた構成であり、中央部分に補強部51eが周状に形成された構成である。このような構成では周状の補強部を形成することにより、切り欠きによる定盤の強度低下を抑制することができ、軽量化と強度維持をはかることができる。なお、このような構成に外周側と内周側の堤部をつなぐような補強部を更に形成してもよい。
【0035】
図4(b)は切り欠き52bの底部にさらに切り欠き52eを設けた構成で、切り欠きが2段階で形成された構成となっている。切り欠き52eは切り欠き52bより細幅になっており、より進んだ軽量化を実現できる。もちろん前記補強部等を組みあわせてもよい。
【0036】
図4(c)は切り欠き53bが上面に形成されるとともに、定盤の側面に切り欠き53eを形成した構成である。このような構成では切り欠き面積を増加させ、定盤の軽量化をはかるとともに、強度を維持させることができる。
【0037】
図4(d)は切り欠き54bが上面に形成されるとともに、切り欠きの内側壁に傾斜部54eを形成した構成である。傾斜部は直線上であってもよいし、曲線状や面取り構成であってもよい。このような構成では切り欠き部形成による定盤の強度低下を抑制することができる。
【0038】
図4(e)は切り欠き53bが上面の端部(外周端部と内周端部)に形成された構成で、端部が薄肉部55e、中央部分が厚肉部55aになった構成である。
【0039】
図4(f)は定盤の上面を一部斜めに切り欠くことにより、傾斜部56aを設けた構成であり、定盤の厚さが漸次薄くなった構成を例示している。漸次厚さを変えた構成により、ワークに対して荷重が急激に変化することを防止することができる。
【0040】
以上、図4においては切り欠き部の変形例を例示したが、このような変形例は第1の実施の形態を含んで相互に組みあわせることが可能である。また第1の実施形態で示した補強部や蓋体を図4各図の構成に設けることも可能である。
【0041】
また、蓋体を用いた場合、定盤の研磨面に用いる金属材料より軽量の材料を用いてもよい。例えば、アルミニウム等の金属材料や樹脂材あるいは母材料に強化繊維等の補強材を含有した材料を用いてもよい。
【0042】
なお、本発明は、その精神や主旨または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、水晶、半導体材料等を研磨する研磨装置に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】研磨装置の概略斜視図である。
【図2】本発明による上定盤の分解斜視図である。
【図3】図2を組み立てた際のA−A断面図である。
【図4】上定盤の変形例を示す断面図。
【符号の説明】
【0045】
21 上定盤
31 下定盤
32 駆動部
32a サンギア
33 インターナルギア
21b、51b、52b、53b、54b、55b 切り欠き部
21a,51a,52a,53a,54a 堤部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨面が対向配置された上定盤と下定盤と、前記各定盤間に配置され、ワーク保持部を有するキャリアと、前記ワーク保持部に収納されるワークとからなり、前記ワークを前記各定盤間で研磨を行う研磨装置であって、
前記上定盤の一部であって研磨面以外において質量減少部を有していることを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
質量減少部が定盤に形成した切り欠き部であることを特徴とする請求項1記載の研磨装置。
【請求項3】
切り欠き部の一部または全部が蓋体により閉鎖されていることを特徴とする請求項2記載の研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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