説明

硝酸性溶液の還元方法及び還元触媒

【解決手段】硝酸性窒素を含む混合溶液と、磁性材料とを混合し、反応させて、硝酸性窒素を窒素に還元することを特徴とする硝酸性溶液の還元方法。
【効果】本発明により、分解困難な硝酸性窒素を環境汚染することなく、しかも電気や熱を使用しないで容易に分解することができる。
また、磁性材料である合金として、鉄よりも還元性が強い希土類成分を含んだ磁性材料、更に好ましくは、触媒作用を持つコバルトを含んだ磁性材料を使用することで、硝酸性溶液、特に高濃度の硝酸性窒素を含む排水をより短時間で窒素に分解し除去することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸性窒素を窒素に還元することを特徴とする硝酸性溶液の還元方法及びこれに用いる還元触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、窒素性廃棄物の処理が問題になっており、工場等から排出する排水から窒素を除去する必要性が高まっている。
従来、硝酸性窒素を含む排水の処理方法としては、アンモニアとの還元(特開平8−309335号公報:特許文献1)や電解処理、微生物処理等が知られているが、高温高圧条件や電力コスト、処理容積と時間を要するなど諸問題があり、必ずしも効率的な処理ができなかった。
また、硝酸性窒素を含む排水に鉄を添加して窒素を除去する方法が特開平10−244279号公報(特許文献2)に記載されているが、硝酸イオンについてはその55〜100%がアンモニアに置換されており、窒素として完全に除去されにくく、時間も最大100時間を要するなどの問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開平8−309335号公報
【特許文献2】特開平10−244279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、硝酸性窒素を効率よく、しかも電気や熱等のコストを使用せずに短時間で分解除去できる硝酸性溶液の還元方法及びこれに用いる還元触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、硝酸性窒素を含む混合溶液と、磁性材料、特に還元作用を持つ特定の磁性材料とを混合し、接触、反応させることで、硝酸性窒素を容易に窒素に分解除去できることを知見し、本発明をなすに至った。
【0006】
即ち、本発明は以下の硝酸性溶液の還元方法及びこれに用いる還元触媒を提供する。
(1)硝酸性窒素を含む混合溶液と、磁性材料とを混合し、反応させて、硝酸性窒素を窒素に還元することを特徴とする硝酸性溶液の還元方法。
(2)磁性材料が、該材料原料を溶解・凝固して得られる磁性材料合金であることを特徴とする(1)記載の還元方法。
(3)磁性材料の成分が、R−M−B系、R−M−N系又はR−Co系(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種であり、MはFe又はFe及びCoである。)であることを特徴とする(1)又は(2)記載の還元方法。
(4)上記混合溶液が、排水であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の還元方法。
(5)希土類(Yを含む。)元素、鉄及びホウ素を含有する磁性材料からなる還元触媒。
(6)上記磁性材料が、R−M−B系材料(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種であり、MはFe又はFe及びCoであり、各元素の含有割合が、5質量%≦R≦40質量%、50質量%≦Fe≦90質量%、0質量%≦Co≦15質量%、0.2質量%≦B≦8質量%である。)である(5)記載の還元触媒。
(7)希土類(Yを含む。)元素、鉄及び窒素を含有する磁性材料からなる還元触媒。
(8)上記磁性材料が、R−M−N系材料(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種であり、MはFe又はFe及びCoであり、各元素の含有割合が、10質量%≦R≦40質量%、1質量%≦N≦10質量%、残部Mである。)である(7)記載の還元触媒。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、分解困難な硝酸性窒素を環境汚染することなく、しかも電気や熱を使用しないで容易に分解することができる。
また、磁性材料である合金として、鉄よりも還元性が強い希土類成分を含んだ磁性材料、更に好ましくは、触媒作用を持つコバルトを含んだ磁性材料を使用することで、硝酸性溶液、特に高濃度の硝酸性窒素を含む排水をより短時間で窒素に分解し除去することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の硝酸性混合溶液、特には水溶液(硝酸性窒素を含む排水)は、硝酸イオンを含む排水で、その状態は硝酸でも硝酸塩の状態でもよい。硝酸イオンの濃度は、0.001g/L〜200g/Lと広範囲で処理可能であるが、効率性を考慮するとより高濃度、1g/L〜100g/Lの範囲が望ましい。
【0009】
一方、上記溶液と反応させる磁性材料には、フェライト系や希土類系の磁石材料が挙げられ、その中でも希土類系磁性材料が好ましく、磁石製造工程で発生する磁性材料(原料を溶解、凝固して得られる磁性材料合金)の粉体や合金塊を使用することができる。また、その中でも、溶液への分散状態を効率的にするのであれば、粉体状態で用いることが好ましい。また、着磁されて使用した磁石も、加熱等の脱磁を行い、必要により解砕処理(粉砕)して粉体化し、本発明に使用することが可能である。
【0010】
磁性材料の成分は、希土類元素(R)を含む磁性材料であればよく、R−M−B系、R−M−N系、R−Co系が挙げられる。R−M(Fe−Co)−B系やR−M(Fe−Co)−N系が特に有効であり、Rとしては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの内から選択される一種もしくは二種以上が使用される。Mは、Fe又はFe及びCoである。
【0011】
R−M−B系では、R、M(Fe、Co)及びBの含有量は、それぞれ5質量%≦R≦40質量%、50質量%≦Fe≦90質量%、0質量%≦Co≦15質量%、0.2質量%≦B≦8質量%の範囲が好ましい。より好ましくは20質量%≦R≦40質量%、60質量%≦Fe≦80質量%、0.1質量%≦Co≦10質量%、2質量%≦B≦8質量%の範囲である。
R−M−N系では、10質量%≦R≦40質量%、1質量%≦N≦10質量%、残部M(Fe又はFe及びCo)の範囲、特に、20質量%≦R≦30質量%、2質量%≦N≦4質量%、残部M(Fe及びCoを含む。)の範囲が挙げられ、また磁性材料には、その他の金属(Alや遷移金属等)及びO、C、N等の不純物を微量含有していても構わない。特に、Rの含有量が上記範囲を外れると、硝酸分解反応が遅くなる場合がある。
【0012】
また、磁性材料の形状は、表面積の大きい粉状であるのが好ましいが、表面積の小さい磁性材料塊も解砕することで使用可能となり、その特性値として平均粒径が0.5〜1000μm、好ましくは0.5〜50μmが望ましい。粉体の粒径が小さすぎると取り扱い時に粉塵が飛散し、着火の危険が生じる場合があり、大きすぎると粉体の中心部(芯)まで反応しない場合があり、反応効率が悪い場合がある。なお、粒径の測定は、粒度分布測定器(例えば、レーザ回折散乱式粒度分布装置等)によって行うことができる。
【0013】
これらの磁性材料は、特に粉体であれば製法には限定されない。磁性材料は、所望の組成になるように、各原料金属を溶解させ、凝固させる粉末冶金法、メカニカルアロイング法、アトマイズ法やストリップキャスト法により、合金を作製することができる。得られた合金は薄帯や塊で、該合金をジョークラッシャー、スタンプミル、ジェットミル、水素化粉砕、ブラウンミル、ボールミル等の粉砕方法で粉体化させる。このようにして得られた粉体を本発明では用い、更に、該粉体を成形加工、焼結加工、切削加工及び着磁工程等の磁石製造工程で得られる磁石粉を用いても構わない。また、使用済の磁石を脱磁して使用しても構わない。
【0014】
上記の磁性材料の粉体は、強い還元力を有しているので硝酸性溶液と接触させることで硝酸を窒素に還元、分解できる。反応に用いた磁性材料は、酸化物もしくは水酸化物となり、濾過等で篩分け、又は磁石等で吸着して除去すればよく、窒素はN2となって大気中に分散されて、NOx等の環境悪化物質を発生させることはない。
【0015】
具体的には、硝酸性窒素含有溶液と磁性材料の粉体との混合は、磁性材料の粉体を水でスラリー化した状態にし、これに硝酸性溶液を投入する。硝酸性排水のpHが低い強酸状態の場合は、一気に投入すると通常の硝酸による金属の溶解反応が進行してしまうため、アルカリ性物質(NaOH等)を添加するなどしてpHを3以上に予め中和してから投入するか、pHが3以下にならない速度で時間をかけて徐々に投入することが好ましい。液温は特に加温する必要はなく、常温(25℃)〜80℃でよいが、反応が進行するにつれて反応熱による昇温が発生するので、必要であれば冷却措置を講ずるとよい。
【0016】
また、磁性材料の投入量は、予め溶液(排水)の硝酸性窒素濃度を測定して、硝酸性窒素のモル比で3〜10倍程度、好ましくは3〜5倍程度が望ましい。磁性材料の投入量が多すぎると、未反応成分が残留し、乾燥時に発熱や着火する場合があり、少なすぎると未反応の硝酸が残留し、目的の溶液(排水)濃度以下に達しない場合がある。
【0017】
反応時間は2時間〜48時間、好ましくは4時間〜24時間が望ましい。反応時のpHは2〜11、好ましくは5〜7が望ましく、pHが2未満となると溶解反応が進み、pHが11を超えると反応が遅延するため効率が悪くなる場合がある。
【0018】
反応終了後は、磁性材料の粉体等を遠心分離機、フィルタープレス等の濾過装置により回収する。濾液はpH6〜8とほぼ中性ではあるが、微量の磁石成分が溶解している可能性があるため、後工程として金属除去処理が必要となる。
【0019】
本発明の排水処理方法により、溶液(排水)中の硝酸性窒素の濃度を0〜10g/L、特に0〜1g/Lまで低減することができ、溶液(排水)中の70質量%以上、特に95質量%以上の硝酸性窒素を除去することができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0021】
[実施例1]
粉末冶金法により所望の磁石組成になるように作製した磁性材料塊をジョークラッシャー、更にジェットミルで粉砕したNd−Fe−Co−B系研削粉(Fe67質量%、Nd21質量%、Co3質量%、B4質量%;平均粒径50μm)100gに純水を120ml添加してスラリー状とした。これに硝酸性窒素を4g/Lを含むpH8の硝酸性排水1リットルを投入した。24時間撹拌後に濾過して濾液中の硝酸性窒素をイオンクロマトグラフィー法により測定したところ<0.01g/Lとなった。
【0022】
[実施例2]
実施例1と同じ研削粉120gに純水を120ml添加してスラリーとした。これに硝酸性窒素を50g/Lを含み、酸濃度が1mol/LでpH0.1の硝酸性排水1リットルをpH3以下にならない速度で撹拌しながら滴下投入した。3時間撹拌後のpHは7となり、濾過して濾液中の硝酸性窒素をイオンクロマトグラフィー法により測定したところ8gの硝酸性窒素が残留しており、84%にあたる42gの硝酸が除去されていた。また磁石成分の溶解量は平均3質量%程度であった。
【0023】
[実施例3]
実施例1と同じ組成で作製した磁性材料塊を、ジョークラッシャーで粉砕した平均粒径が200μm研削粉120gに純水を120ml添加してスラリーとした。これに硝酸性窒素を50g/Lを含み、酸濃度が1mol/LでpH0.1の硝酸性排水1リットルをpH3以下にならない速度で撹拌しながら滴下投入した。3時間撹拌後のpHは7となり、濾過して濾液中の硝酸性窒素をイオンクロマトグラフィー法により測定したところ10gの硝酸性窒素が残留しており、80%にあたる40gの硝酸が除去されていた。また磁石成分の溶解量は平均1質量%程度であった。
【0024】
[実施例4]
実施例1と同じ研削粉10kgに純水を添加して30Lスラリーとした。これに硝酸性窒素を30g/L、アンモニアを10g/L含み、pHが1の硝酸性排水100リットルをpHが3以下にならない速度で撹拌しながら投入した。4時間撹拌後のpHは6.5となり、濾過して濾液中の硝酸性窒素をイオンクロマトグラフィー法で測定したところ1.7g/Lの硝酸性窒素が残留しており、92%にあたる2.8kgの硝酸が除去されていた。一方、アンモニア濃度をインドフェノール法で測定したところ、9.8g/Lでほとんど除去されていなかった。また磁石成分の溶解量は<0.1質量%であった。
【0025】
[実施例5]
粉末冶金法により所望の磁石組成になるように作製した磁性材料塊をジョークラッシャー、更にジェットミルで粉砕したSm−Fe−N系研削粉(Fe75質量%、Sm22質量%、N3質量%;平均粒径50μm)100gに純水を120ml添加してスラリー状とした。これに硝酸性窒素を50g/Lを含み、酸濃度が1mol/LでpH0.1の硝酸性排水1リットルをpH3以下にならない速度で撹拌しながら滴下投入した。3時間撹拌後のpHは7となり、濾過して濾液中の硝酸性窒素をイオンクロマトグラフィー法により測定したところ5gの硝酸性窒素が残留しており、90%にあたる45gの硝酸が除去されていた。また磁石成分の溶解量は平均2質量%程度であった。
【0026】
[比較例1]
磁石材料の代わりに鉄ブロック(縦10mm、横6mm、厚み2mm)100gに純水を120ml添加して撹拌した。これに硝酸性窒素を4g/Lを含むpH8の硝酸性排水1リットルを投入した。24時間撹拌後に濾過して濾液中の硝酸性窒素をイオンクロマトグラフィー法で測定したところ3.8g/Lであり希釈率を考慮するとほとんど硝酸性窒素は減っていなかった。
【0027】
[比較例2]
実施例2と同様の条件で磁性材料粉の代わりに鉄粉(平均粒径50μm)を120gに純水を120ml添加してスラリーとした。これに硝酸性窒素を50g/L含み、pHが0.1の硝酸性排水1リットルをpHが3以下にならない速度で撹拌しながら滴下投入した。3時間撹拌後のpHは7となり、濾過して濾液中の硝酸性窒素をイオンクロマトグラフィー法により測定したところ44gの硝酸性窒素が残留しており、12%にあたる6gしか硝酸が除去されていなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸性窒素を含む混合溶液と、磁性材料とを混合し、反応させて、硝酸性窒素を窒素に還元することを特徴とする硝酸性溶液の還元方法。
【請求項2】
磁性材料が、該材料原料を溶解・凝固して得られる磁性材料合金であることを特徴とする請求項1記載の還元方法。
【請求項3】
磁性材料の成分が、R−M−B系、R−M−N系又はR−Co系(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種であり、MはFe又はFe及びCoである。)であることを特徴とする請求項1又は2記載の還元方法。
【請求項4】
上記混合溶液が、排水であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の還元方法。
【請求項5】
希土類(Yを含む。)元素、鉄及びホウ素を含有する磁性材料からなる還元触媒。
【請求項6】
上記磁性材料が、R−M−B系材料(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種であり、MはFe又はFe及びCoであり、各元素の含有割合が、5質量%≦R≦40質量%、50質量%≦Fe≦90質量%、0質量%≦Co≦15質量%、0.2質量%≦B≦8質量%である。)である請求項5記載の還元触媒。
【請求項7】
希土類(Yを含む。)元素、鉄及び窒素を含有する磁性材料からなる還元触媒。
【請求項8】
上記磁性材料が、R−M−N系材料(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種であり、MはFe又はFe及びCoであり、各元素の含有割合が、10質量%≦R≦40質量%、1質量%≦N≦10質量%、残部Mである。)である請求項7記載の還元触媒。

【公開番号】特開2008−188558(P2008−188558A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27784(P2007−27784)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】