説明

硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法

【課題】LED等の発光素子に使用される励起光を吸収し発光する硫化物蛍光体粒子の被覆層の形成において、蛍光強度の低下がなく、かつ耐水性が著しく改善された表面被覆層を効率的に形成する方法を提供する。
【解決手段】表面に下地層としてアルミニウム有機金属化合物を吸着させた硫化物蛍光体粒子(A)を得る第1工程と、硫化物蛍光体粒子(A)の下地層の表面に有機金属化合物(a)を吸着させた硫化物蛍光体粒子(B)を得る第2工程と、前記有機金属化合物(a)を加水分解させた有機金属化合物膜を形成させた硫化物蛍光体粒子(C)を得る第3工程と、硫化物蛍光体粒子(C)を加熱処理に付し、硫化物蛍光体粒子(D)を得る第4工程を含み、かつ第2工程と第3工程とに個別の処理槽を設け、この工程間を繰返すことにより、被覆層の主層の膜厚を200〜500nmに調整することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法に関し、さらに詳しくは、LED等の発光素子に使用される励起光を吸収し発光する硫化物蛍光体粒子の被覆層の形成において、蛍光強度の低下がなく、かつ耐水性が著しく改善された表面被覆層を効率的に形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
照明用途での使用の拡大が期待されている白色LEDは、高輝度型と高演色型に大別される。例えば、組成式:SrSiO:Eu、又はSrSiO:Euで表される化合物相からなる酸化物蛍光体は、高輝度型に使用される蛍光体であり、青色LEDからの励起光の一部を吸収することにより黄色発光され、さらに青色励起光と混ざり合うことにより白色光を得ている。一方、組成式:CaS:Eu、SrS:Eu、(Ca、Sr)S:Eu、又はSrGa:Euで表される化合物相からなる硫化物蛍光体は、高演色型に用いられ、赤や緑に発色することで演色性を高めている。
【0003】
この中で、特に、前記硫化物蛍光体は、空気中の水蒸気又は水によって表面に水和物の生成が発生し、分解劣化することが知られており、大気中で長時間の使用、又は励起光による温度上昇によって、輝度の低下及び色調の変化が起こるという問題があった。
このような蛍光体の耐水性改善策として、次の方法が提案されているが、問題点が残されていた。
(1)粒子表面に、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリカ、ケイ酸亜鉛、シリコーンオイル等による表面被覆層を設けることが行なわれており、これにより、初期発光強度の低下がなく、かつ耐湿性が改善されるとしている(例えば、特許文献1参照。)。
この方法では、回転させながら被覆材を噴霧し、乾燥させる簡便な方法ではあるが、微細な粉末全周を均一に被覆すること、或いは膜厚を制御することが容易ではないという問題があった。また、シリコーンオイルや樹脂類を用いた場合、乾燥が進まず、粉末の流動性が低下してしまうため、これを強制的に乾燥すると、粒子は凝集してしまい、LED樹脂中に練り混むことができなくなるという問題があった。
【0004】
特に硫化物蛍光体の耐水性改善策としては、
(2)シラン有機金属化合物としてアルコキシシランを用いて、厚さが20〜150nmである非連続のガラス層を形成する方法(例えば、特許文献2参照。)が効果的であるとしているが、この方法では、硫化物蛍光体粒子にアルコキシシランと加水分解用の水を同時に加えるために、耐水性の低い粉末、例えば、組成式:SrS:Euで表される化合物相からなる粒子を用いた場合、水分の影響で劣化が著しく、加熱温度を高くすると劣化がさらに激しくなり、粒子自体が溶解してしまうという問題があった。また、得られる被覆層の膜厚も200nm以下であるため、十分な耐水性が得られていない。
(3)硫化物蛍光体の表面に、メルカプト基シランカップリング剤を表面改質剤として用い、さらに、その上に、シラン有機金属化合物としてアルコキシシランを用い、アンモニア水で加水分解・縮合させ、高分子被膜を形成する方法(例えば、特許文献3参照。)では、アンモニア水を用いてpHを制御してアルコキシシランを加水分解反応させるが、粒子表面を被覆する前に、シラン同士が反応を起こして微粒子を生成してしまう。そのため、微粒子を堆積させても被膜は緻密なものとならず、また、遊離した微粒子が凝集して、粒子内に混ざることにより、発光特性全体が低下するという問題があった。これを回避するために、反応速度を緩和する処置も採られるが、処理時間がその分長くなるために生産性が劣ることになる。
【0005】
しかしながら、上記のような硫化物蛍光体の耐湿性改善策で得られた蛍光体の耐湿性を耐水試験又は耐湿試験で評価した結果、それらの被膜による改善が十分とはいえず、例えば、高温加湿した雰囲気中に、被覆層を有する蛍光体を投入すると、湿度の影響で蛍光体表面から溶出物が生じて水和物又は炭酸塩が生成し、発光特性は大きく低下することとなった。特に、これらの傾向は、硫化物蛍光体粒子で著しいことが分かった。ところで、このように蛍光体自体の耐湿性が改善されていない場合には、特に、LED発光素子を、照明及び自動車用途等、屋外で使用した場合に直ちに劣化することになる。これら劣化の多くの原因は膜質にある。
すなわち、膜質を決定する因子としては、被覆条件や被覆材に依存するが、それ以外に膜中の欠陥も大きく影響する。例えば、粒子表面に被膜を形成した場合でも、加熱処理により有機物を分解する際に、膜の欠陥が生成され、水分や湿気を通して粒子が劣化する。
これを回避するため、通常、被覆層の膜厚を厚くすることが行われている。しかしながら、最も一般的に行われるアルコキシシランを加水分解して被覆する方法では、高々100nmほどの膜厚しか得ることができない。
【0006】
この理由としては、硫化物粒子と加水分解したアルコキシシランの界面での結合が弱く被膜形成されにくいこと、及びアルコキシシランの反応制御に関わることが挙げられる。例えば、アルコキシシランの反応性を上げるため処理温度を高めると、アルコキシシランは、蒸気圧により溶媒とともに揮発してしまい、被覆層への固着分が低下する。さらに、加水分解反応を利用した湿式法(例えば、特許文献2、3の方法)では、多量の水分を投入するため、硫化物蛍光体と水分との反応が少なからず起こってしまう。これにより、硫化物蛍光体は劣化を起こし、発光強度が極端に低下する。
以上の状況下、硫化物蛍光体粒子の表面上に、耐水性が著しく改善された表面被覆層を効率的に形成する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−187797号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】特開2007−308537号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献3】特開2006−188700号公報(第1頁、第2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、LED等の発光素子に使用される励起光を吸収し発光する硫化物蛍光体粒子の被覆層の形成において、蛍光強度の低下がなく、かつ耐水性が著しく改善された表面被覆層を効率的に形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために、硫化物蛍光体粒子の表面に有機金属化合物を用いて被覆層を形成する方法について、鋭意研究を重ねた結果、特定の条件で、その表面に下地層としてアルミニウム有機金属化合物を吸着させた硫化物蛍光体粒子(A)を得る第1工程と、特定の条件で、第1工程で得た硫化物蛍光体粒子(A)の下地層の表面に有機金属化合物(a)を吸着させた硫化物蛍光体粒子(B)を得る第2工程と、特定の条件で、第2工程で得た硫化物蛍光体粒子(B)の表面に吸着した有機金属化合物(a)を加水分解させた有機金属化合物膜を形成させた硫化物蛍光体粒子(C)を得る第3工程と、第3工程で得た硫化物蛍光体粒子(C)を加熱処理に付し、その表面に有機成分を含む非晶質の無機化合物膜からなる被覆層を形成した硫化物蛍光体粒子(D)を得る第4工程とを含み、かつ第2工程と第3工程とに個別の処理槽を設け、この工程間を繰返すことにより、被覆層の主層の膜厚を200〜500nmに調整する方法を採用したところ、蛍光強度の低下がなく、かつ耐水性が著しく改善された表面被覆層を効率的に形成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、硫化物蛍光体粒子の表面に有機金属化合物を用いて被覆層を形成する方法であって、
下記の第1〜4工程を含み、かつ第2工程と第3工程とに個別の処理槽を設け、この工程間を繰返すことにより、被覆層の主層の膜厚を200〜500nmに調整することを特徴とする硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法が提供される。
第1工程:有機溶媒中に硫化物蛍光体粒子を添加し分散処理に付した溶液に、アルミニウム有機金属化合物を配合して撹拌混合に付し、次いで真空濾過に付し、有機溶媒を分離し、その表面に下地層としてアルミニウム有機金属化合物を吸着させた硫化物蛍光体粒子(A)を得る。
第2工程:被覆層の主層を形成する有機金属化合物(a)と、触媒として作用するアルミニウム有機金属化合物とを配合して混合した有機溶媒中に、第1工程で得た硫化物蛍光体粒子(A)を投入し、密封下に撹拌混合に付し、該粒子表面に有機金属化合物(a)を吸着させ、次いで真空濾過に付し、有機溶媒を分離し、前記下地層の表面に有機金属化合物(a)を吸着した硫化物蛍光体粒子(B)を得る。
第3工程:第2工程で得た硫化物蛍光体粒子(B)を加水分解用の水を配合した有機溶媒中に投入し、密封下に撹拌混合に付し、その表面に吸着した有機金属化合物(a)を加水分解させ、次いで真空濾過に付し、有機溶媒を分離し、表面に加水分解させた有機金属化合物膜を形成した硫化物蛍光体粒子(C)を得る。
第4工程:第3工程で得た硫化物蛍光体粒子(C)を加熱処理に付し、前記有機金属化合物膜中の有機物を熱分解し、その表面に有機成分を含む非晶質の無機化合物膜からなる被覆層を形成した硫化物蛍光体粒子(D)を得る。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記第1工程において、前記有機溶媒は、エタノール又はイソプロピルアルコールを、及び前記アルミニウム有機金属化合物は、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを用い、かつ、硫化物蛍光体粒子、有機溶媒及びアルミニウム有機金属化合物の配合割合は、質量比で、硫化物蛍光体粒子:有機溶媒=1:10〜1:50、かつ硫化物蛍光体粒子:アルミニウム有機金属化合物=1:0.1〜1:1であり、前記分散処理、撹拌混合及び真空濾過は、それぞれ下記の(イ)〜(ハ)の要件を満足することを特徴とする硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法が提供される。
(イ)分散処理は、28〜48kHzの超音波分散処理を10〜30分間行なう。
(ロ)撹拌混合は、18〜60℃の温度で0.5〜2時間撹拌する。
(ハ)真空濾過は、0.05〜0.1MPaの真空度で濾過を行なう。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記第2工程において、前記有機溶媒は、エタノール又はイソプロピルアルコールを、前記アルミニウム有機金属化合物は、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを、及び前記有機金属化合物(a)はアルミニウム有機金属化合物、シラン有機金属化合物、又はジルコニウム有機金属化合物から選ばれる少なくとも一種を用いるとともに、前記配合後の有機溶媒中の有機溶媒、アルミニウム有機金属化合物及び有機金属化合物(a)の配合割合は、質量比で、有機溶媒:有機金属化合物(a)=10:1〜10:3、かつ有機溶媒:アルミニウム有機金属化合物=100:1〜100:5であり、及び硫化物蛍光体粒子(A)と有機金属化合物(a)との配合割合は、質量比で、硫化物蛍光体粒子(A):有機金属化合物(a)=1:1〜1:3であり、かつ前記分散処理、撹拌混合及び真空濾過は、それぞれ下記の(ニ)、(ホ)の要件を満足することを特徴とする硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法が提供される。
(ニ)撹拌混合は、18〜60℃の温度で0.5〜2時間撹拌する。
(ホ)真空濾過は、0.05〜0.1MPaの真空度で濾過を行なう。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、前記シラン有機金属化合物は、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、又はグリシドキシプロピルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも一種であり、ジルコニウム有機金属化合物は、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)であることを特徴とする硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、前記第3工程において、前記有機溶媒は、エタノール又はイソプロピルアルコールを用いるとともに、該有機溶媒、前記水及び前記硫化物蛍光体粒子(B)の配合割合は、質量比で、水:有機溶媒=1:1〜1:4、及び硫化物蛍光体粒子(B):有機溶媒=1:10〜1:50であり、かつ前記撹拌混合及び真空濾過は、それぞれ下記の(ヘ)、(ト)の要件を満足することを特徴とする硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法が提供される。
(ヘ)撹拌混合は、18〜60℃の温度で0.5〜2時間撹拌する。
(ト)真空濾過は、0.05〜0.1MPaの真空度で濾過を行なう。
【0015】
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、前記第4工程において、加熱処理は、大気下に、200〜400℃の温度で0.5〜3時間加熱することを特徴とする硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6いずれかの発明において、前記硫化物蛍光体粒子は、その構成元素として、イオウ(S)とユーロピウム(Eu)の他に、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)又はガリウム(Ga)から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法では、被覆層の形成に際し、まず、硫化物粒子表面に結合しやすくかつ被膜形成後は有機金属化合物(a)の吸着を容易にさせ、また加水分解用の水分からの劣化を抑制することができるアルミニウム有機金属化合物を用いて、下地層を形成し、その上に、例えば、有機金属化合物(a)として、アルミニウム有機金属化合物、シラン有機金属化合物、又はジルコニウム有機金属化合物を吸着させ、次いでそれらの加水分解縮合物を形成し、しかも、第2工程と第3工程とに個別の処理槽を設け、この工程間を繰返して、有機金属化合物(a)の吸着と加水分解を複数回行なうことにより、緻密性が高く、かつ200nm以上の膜厚に厚膜化した被覆層を形成することが達成される。
【0018】
これにより、得られた被覆層は、その後の乾燥、焼成において、急激な加水分解・縮合反応、及び有機物の加熱分解で生じるガス成分による膨張にも耐えうることができる。これにより被覆膜を形成した後においても、得られた硫化物蛍光体粒子は、発光強度が変わることなく、かつ耐水性及び耐湿性が著しく改善され、さらに、有機金属化合物を含む有機溶媒が装入された吸着処理槽と水を含む有機溶媒が装入された加水分解処理槽を撹拌しながら、交互に投入を繰り返すことにより、厚膜化した被覆層を形成するので、短時間の被覆処理と前記有機溶媒の繰り返し使用ができるため、原料歩留まりが向上して製造コストを削減することできるので、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法を詳細に説明する。
本発明の硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法は、硫化物蛍光体粒子の表面に有機金属化合物を用いて被覆層を形成する方法であって、下記の第1〜4工程を含み、かつ第2工程と第3工程とに個別の処理槽を設け、この工程間を繰返すことにより、被覆層の主層の膜厚を200〜500nmに調整することを特徴とする硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法ことを特徴とする。
第1工程:有機溶媒中に硫化物蛍光体粒子を添加し分散処理に付した溶液に、アルミニウム有機金属化合物を配合して撹拌混合に付し、次いで真空濾過に付し、有機溶媒を分離し、その表面に下地層としてアルミニウム有機金属化合物を吸着した硫化物蛍光体粒子(A)を得る。
第2工程:被覆層の主層を形成する有機金属化合物(a)と、触媒として作用するアルミニウム有機金属化合物とを配合して混合した有機溶媒中に、第1工程で得た硫化物蛍光体粒子(A)を投入し、密封下に撹拌混合に付し、該粒子表面に有機金属化合物(a)を吸着させ、次いで真空濾過に付し、有機溶媒を分離し、前記下地層の表面に有機金属化合物(a)を吸着した硫化物蛍光体粒子(B)を得る。
第3工程:第2工程で得た硫化物蛍光体粒子(B)を加水分解用の水を配合した有機溶媒中に投入し、密封下に撹拌混合に付し、その表面に吸着した有機金属化合物(a)を加水分解させ、次いで真空濾過に付し、有機溶媒を分離し、表面に加水分解させた有機金属化合物膜を形成した硫化物蛍光体粒子(C)を得る。
第4工程:第3工程で得た硫化物蛍光体粒子(C)を加熱処理に付し、前記有機金属化合物膜中の有機物を熱分解し、その表面に有機成分を含む非晶質の無機化合物膜からなる被覆層を形成した硫化物蛍光体粒子(D)を得る。
【0020】
本発明において、本発明において、第1工程で、硫化物蛍光体粒子の表面にアルミニウム有機金属膜を吸着させて下地層として形成すること、及び該下地層の上に有機金属化合物(a)を吸着させる第2工程と該有機金属化合物(a)を加水分解させる第3工程とに個別の処理槽とを設け、この工程間を繰返すことにより、被覆層の膜厚を200〜500nmに調整することに重要な技術的意義がある。
【0021】
すなわち、アルミニウム有機金属化合物を用いて下地層を形成することにより、有機金属化合物(a)の吸着を容易にさせ、また加水分解用の水分からの劣化を抑制することができる。
一方、第2工程と第3工程とに、それぞれ有機金属化合物を吸着させる吸着処理槽と吸着した有機金属化合物を加水分解し縮合させる加水分解処理槽とを個別に設けることにより、各工程で使用する有機溶媒は、それぞれ独立した反応槽に貯留されるので、粒子表面に吸着した有機金属化合物以外は水分の影響を受けることがないため、再使用が可能となり、有機溶剤の使用量、及び廃棄量の低減に有効であり、生産性改善のみならず環境的にも有利な方法といえる。さらに、この工程間を交互に繰返すことにより、被覆層が積層され、膜厚を200〜500nmの所望値に調整することができる。
【0022】
さらに、本発明の利点としては、吸着させた有機金属化合物(a)を急激に加水分解することにより、耐水性の高い膜質を得ることができることも挙げられる。すなわち、硫化物蛍光体粒子表面のみに有機金属化合物(a)を吸着させ、次いで真空濾過に付して有機溶媒を分離し、得られた有機金属化合物(a)を吸着した硫化物蛍光体粒子を多量の水分を含む加水分解処理槽に投入ことにより、有機金属化合物膜は該粒子表面で直ちに加水分解と縮合反応を起こして良質な膜を形成することができる。この際、前記有機金属化合物膜は、急激な加水分解の影響により、ゲル質の膜を形成している。この膜は、その都度硫化物蛍光体粒子表面に吸着した有機金属化合物(a)により形成されるので、第2工程と第3工程の繰返しによる複数回の被覆で、有機物の飛散等により生成する膜中の欠陥は非連続となり、より耐水性の高い膜が得られる。
【0023】
また、急激な加水分解縮合反応を利用して繰返し膜形成するため、数時間で処理が終了するので、被覆処理時間が削減される。これに対し、例えば、一般的に用いられる湿式法による被覆方法として、水又は非水溶媒に酸アルカリ触媒を添加し、pHを制御してアルコキシシランを加水分解し縮合反応させる方法では、アルコキシシランをゆっくりと加水分解し縮合反応させて粒子表面に析出物を堆積させるため、その処理で要する時間は1日ほどである。また、ここで、希薄液中での処理となるため、1バッチ当たり少量の被覆しかできずコスト高となる。
【0024】
(1)硫化物蛍光体粒子
上記方法において原料として用いる硫化物蛍光体粒子としては、特に限定されるものではなく、各種の硫化物蛍光体粒子が用いられるが、その中で、その構成元素として、イオウ(S)とユーロピウム(Eu)の他に、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)又はガリウム(Ga)から選ばれる少なくとも1種の元素を含有するものが好ましい。また、さらに、その組成式が、特に限定されるものではないが、CaS:Eu、SrS:Eu、(Ca、Sr)S:Eu、又はSrGa:Euから選ばれる少なくとも1種で表される化合物相を有するものが好ましい。
【0025】
また、その平均粒径が、マイクロトラック法による積算粒度分布のD50で1〜50μmであるものが好ましい。すなわち、D50で50μmを超えると、LED等の発光素子に使用した際、発光強度が低下する。
【0026】
(2)第1工程
上記方法の第1工程は、有機溶媒中に硫化物蛍光体粒子を添加し分散処理に付した溶液に、アルミニウム有機金属化合物を配合して撹拌混合に付し、次いで真空濾過に付し、有機溶媒を分離し、その表面に下地層としてアルミニウム有機金属化合物を吸着した硫化物蛍光体粒子(A)を得る工程である。
ここで、硫化物蛍光体粒子の表面にアルミニウム有機金属膜を吸着させ、下地層を形成することが重要である。これによって、表面の被覆が均一に行われるようになる。すなわち、活性なアルミニウム有機金属化合物が、直ちに粒子表面に吸着することで水酸基を多く有する下地層が形成されるため、その後に被覆される主層がより形成されやすくなることによる。
なお、上記手順に代えて、有機溶媒とアルミニウム有機金属化合物を混合し、次いで得られた溶液に硫化物蛍光体粒子を添加し撹拌混合に付した後、分散処理に付し、最後に再度撹拌混合に付すこともできる。
【0027】
ただし、硫化物蛍光体粒子と下地層との界面の密着性は高めておくためには、下地層の形成後、一旦有機溶媒を除去しておくことが必要である。この除去は、真空濾過により溶媒を分離することで行われる。これにより、粒子界面で結合に寄与しない有機溶媒が除去され、粒子表面とアルミニウム有機金属化合物間の結合が強化される。
その後、下地層の形成時の約半分の有機溶媒を添加して、洗浄に付すこともできる。この洗浄操作は、アルミニウム有機金属化合物の添加濃度が高い場合に有効であり、洗浄により、遊離のアルミニウム有機金属化合物が排出されるため、乾燥後の凝集固化がなくなるので好ましい。また、有機溶媒の分離により、硫化物蛍光体粒子と下地層との界面の密着性及び結合性が高まるので、第2工程で、有機溶媒中に投入しても下地層が溶解したり、或いは剥がれ落ちることがなくなる。なお、下地層がなくなると、主層となる有機金属化合物の加水分解縮合物が安定被覆されず、耐水性は上がらない。
【0028】
また、下地層の形成の効果としては、主層を形成する際に、加水分解用の水から劣化を抑制することが挙げられる。すなわち、主層は短時間で処理するため、被覆形成時に低温加熱を行う。この際、下地層がないと、水と熱により硫化物は分解して蛍光特性が低下することになる。
【0029】
上記第1工程に用いる有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、一般式:ROH(ここで、Rは、炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表す。)で表されるメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコールが用いられるが、この中で、特にエタノール、又はイソプロピルアルコールが好ましい。
【0030】
上記第1工程に用いるアルミニウム有機金属化合物としては、特に限定されるものではなく、一般式:ROH(ここで、Rは、炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表す。)で表されるアルコールに対して相溶性があり、酸化物及び硫化物蛍光体粒子の表面への吸着力が高いものが望ましく、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、オクチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロプレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)等のアルキル基を含有するアルミニウムキレート化合物が好ましい。この中で、エタノール及びイソプロピルアルコールとの相溶性が高いエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートがより好ましい。
【0031】
なお、アルキル基を含有するアルミニウムキレート化合物は、粒子表面の水酸基、又は溶媒中の水分により、アルキル基が加水分解され、粒子表面と水素結合することにより吸着される。そのため、加水分解・縮合反応を促進させるため、別の有機金属をごく少量添加することもできる。この際の有機金属としては、シラン有機金属化合物、及びジルコニウム有機金属化合物が用いられる。前記シラン有機金属化合物としては、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシラン、また、前記ジルコニウム有機金属化合物としては、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)等が挙げられる。これらの有機金属の少なくとも一種以上を、ごく少量加えることにより、アルミニウムキレート化合物の加水分解・縮合反応がより促進され、下地層としての吸着効果が高まる。
【0032】
上記第1工程において、硫化物蛍光体粒子、有機溶媒及びアルミニウム有機金属化合物の配合割合としては、特に限定されるものではなく、例えば、質量比で、硫化物蛍光体粒子:有機溶媒=1:10〜1:50、かつ硫化物蛍光体粒子:アルミニウム有機金属化合物=1:0.1〜1:1であることが好ましい。これ以上にアルミニウム有機金属化合物を配合すると、有機溶媒の分離時に硫化物蛍光体粒子の凝集が起こりやすい。
【0033】
上記第1工程において、分散処理、撹拌混合及び真空濾過としては、特に限定されるものではないが、それぞれ下記の(イ)〜(ハ)の要件を満足することが好ましい。
(イ)分散処理は、28〜48kHzの超音波分散処理を10〜30分間行なう。
(ロ)撹拌混合は、18〜60℃の温度で0.5〜2時間撹拌する。
(ハ)真空濾過は、0.05〜0.1MPaの真空度で濾過を行なう。
【0034】
上記分散処理としては、28〜48kHzの超音波発信器を有する超音波ホモジナイザー等を用いて行うことができる。ここで、超音波処理することにより、原料粒子の凝集が解砕されるので、下地層の形成において、粒子全体を被膜が覆うことが可能となる。さらに、被覆前に粒子表面を超音波処理することにより、被覆を阻害する表面に付着する異物又は微粒子を排除することができるため、より均一な下地層を形成することができるようになる。
また、上記撹拌混合としては、撹拌羽、スターラ等の撹拌機による方法、或いはホモジナイザー等を用いる方法で行われる。
【0035】
上記第1工程で得られる下地層の厚さとしては、特に限定されるものではなく、乾燥時の粒子間の凝集や膜剥離が生じなければ十分であるが、下地層としての作用を十分に発現するためには、その膜厚が10nm以上であることが望ましく、特に10〜30nmであることが好ましい。
【0036】
(3)第2工程
上記方法の第2工程は、被覆層の主層を形成する有機金属化合物(a)と、触媒として作用するアルミニウム有機金属化合物とを配合して混合した有機溶媒中に、第1工程で得た硫化物蛍光体粒子(A)を投入し、密封下に撹拌混合に付し、該粒子表面に有機金属化合物(a)を吸着させ、次いで真空濾過に付し、有機溶媒を分離し、前記下地層の表面に有機金属化合物(a)を吸着した硫化物蛍光体粒子(B)を得る工程である。
【0037】
上記第2工程において、被覆層の主層を形成する有機金属化合物(a)と、触媒として作用するアルミニウム有機金属化合物とを配合して撹拌混合に付した有機溶媒を装入した吸着処理槽に、第1工程で得た硫化物蛍光体粒子(A)を投入し、撹拌により粒子表面に有機金属化合物(a)を吸着させる。なお、硫化物蛍光体粒子(A)は、一旦粒子表面を外気に晒すことで、外気の水分等により適度な反応が行われる。その後、有機金属化合物(a)の吸着は第2工程である吸着処理槽で行われる。被覆する際、溶媒が揮発しないように密閉し、攪拌はこぼれない程度に強攪拌を行う。これを真空濾過して、溶液を完全に分離する。
【0038】
上記第2工程において、アルミニウム有機金属化合物は、それが有している硫化物蛍光体粒子を分散させる分散剤的な機能とシラン有機金属化合物の縮合を促進させる機能を応用し、シラン有機金属化合物の加水分解・縮合反応を活発化させるための触媒的な機能を利用するものである。上記アルミニウム有機金属化合物としては、特に限定されるものではなく、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートが好ましい。
【0039】
なお、例えば、シラン有機金属化合物の加水分解・縮合反応の触媒としては、従来、一般的に酸アルカリ触媒が使用されている。しかしながら、硫化物蛍光体粒子に酸アルカリ触媒を用いると問題が生じる。すなわち、酸触媒として酢酸又は塩酸を添加すると、例えば組成式:CaS:Eu又はSrS:Euで表される化合物相は、酸と反応し、時間経過と共に粒子の劣化或いは粒子自体の溶解が起こる。また、アルカリ触媒としては、乾燥時に残査のないアンモニア水が用いられるが、前述したように、粒子表面に被膜として形成されなくなる。また、他の有機金属触媒、例えば錫、チタンの有機金属化合物も一般的には使用しているが、被覆材の作製時の安定性からアルミニウム有機金属化合物が最も好ましい。
【0040】
上記第2工程で用いる有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、一般式:ROH(ここで、Rは、炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表す。)で表されるメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコールが用いられるが、この中で、特にエタノール、又はイソプロピルアルコールが好ましい。
【0041】
上記第2工程で用いる有機金属化合物(a)としては、アルミニウム有機金属化合物、シラン有機金属化合物、又はジルコニウム有機金属化合物から選ばれる少なくとも一種が選ばれる。
上記アルミニウム有機金属化合物としては、第1工程と同様のものが用いられるが、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートが好ましい。
上記シラン有機金属化合物としては、特に限定されるものではなく、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、又はグリシドキシプロピルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも一種が用いられる。
上記ジルコニウム有機金属化合物としては、特に限定されるものではなく、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、又はジルコニウムトリブトキシビスモノアセチルアセテートが適用できるが、この中で、エタノール及びイソプロピルアルコールとの相溶性が高いジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)が好ましい。
【0042】
上記第2工程で用いる前記撹拌混合及び真空濾過としては、特に限定されるものではなく、それぞれ下記の(ニ)、(ホ)の要件を満足することが好ましい。
(ニ)撹拌混合は、質量比で、有機溶媒:有機金属化合物(a)=10:1〜10:3、かつ有機溶媒:アルミニウム有機金属化合物=100:1〜100:5で、有機金属化合物(a)とアルミニウム有機金属化合物とを配合して混合した有機溶媒中に、第1工程で得た硫化物蛍光体粒子(A)を、質量比で、硫化物蛍光体粒子(A):有機金属化合物(a)=1:1〜1:3の配合割合で投入し、密封下に、18〜60℃の温度で0.5〜2時間撹拌する。ここで、有機溶媒量がこれを超えて多いと、粒子表面での吸着が劣り、これ未満では、混合が不均一となる。また、温度としては、液寿命や溶媒揮発も小さく扱いやすい25〜50℃がより好ましい。なお、低温加熱では、被膜の形成に時間が掛かるが、表面粗度や緻密性は高い膜質が得られる。
(ホ)真空濾過は、0.05〜0.1MPaの真空度で濾過を行なう。
【0043】
上記撹拌混合としては、撹拌羽、スターラ等の撹拌機による方法、或いは超音波ホモジナイザー等を用いる方法で行われる。
【0044】
(4)第3工程
上記第3工程は、第2工程で得た硫化物蛍光体粒子(B)を加水分解用の水を配合した有機溶媒中に投入し、密封下に撹拌混合に付し、その表面に吸着した有機金属化合物(a)を加水分解させ、次いで真空濾過に付し、有機溶媒を分離し、表面に加水分解させた有機金属化合物膜を形成した硫化物蛍光体粒子(C)を得る工程である。
【0045】
上記第3工程で用いる有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、一般式:ROH(ここで、Rは、炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表す。)で表されるメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコールが用いられるが、この中で、特にエタノール、又はイソプロピルアルコールが好ましい。
また、上記第3工程で用いる水としては、導電率が4μS/cm以下であるイオン交換水が好ましい。
【0046】
上記第3工程において、水、有機溶媒、硫化物蛍光体粒子(B)の配合割合としては、特に限定されるものではないが、質量比で、水:有機溶媒=1:1〜1:4で配合した有機溶媒中に、第2工程で得た硫化物蛍光体粒子(B)を、硫化物蛍光体粒子(B):有機溶媒=1:10〜1:50の配合割合で投入することが好ましい。ここで、水分量が多すぎると、乾燥が進まずに水滴として残留し、真空濾過でも溶媒除去が不完全となり、第2工程である吸着処理槽内に戻す際、溶液中に水分が混入することがある。一方、水分量が少ないと、膜形成が不十分となり、膜厚が減少するだけでなく膜質も悪化する。
【0047】
上記第3工程で用いる前記撹拌混合及び真空濾過としては、特に限定されるものではなく、それぞれ下記の(へ)、(ト)の要件を満足することが好ましい。
(へ)撹拌混合は、質量比で、水:有機溶媒=1:1〜1:4で配合した有機溶媒中に、第2工程で得た硫化物蛍光体粒子(A)を、硫化物蛍光体粒子(B)を、硫化物蛍光体粒子(B):有機溶媒=1:10〜1:50の配合割合で投入し、密封下に、18〜60℃の温度で0.5〜2時間撹拌する。より好ましくは、25〜50℃の温度が、液寿命や溶媒揮発も小さく扱いやすい。
(ト)真空濾過は、0.05〜0.1MPaの真空度で濾過を行なう。
【0048】
上記撹拌混合としては、撹拌羽、スターラ等の撹拌機による方法、或いは超音波ホモジナイザー等を用いる方法で行われる。
【0049】
(5)被覆層の厚膜化
上記被覆層の厚膜化としては、第2工程と第3工程とに個別の処理槽を準備し、この間を繰返すことにより、被覆層の主層の膜厚が200〜500nmになるように調整することにより行なう。なお、主層の膜厚が200nm未満では、耐水性が十分に得られない。一方、主層の膜厚が500nmを超えると、良好な膜質の厚膜を得ることが難しい。
ここで、吸着物は毎回薄層で加水分解されるために、一度に厚膜化した場合より熱処理時の有機物残査が少なくなるため、緻密質な組織が得られやすい。また、有機物が熱分解して発生する各層の欠陥は断続的となるために、耐水性は一掃強化される利点がある。
なお、第2工程及び第3工程では、所定の攪拌時間を経過し、各工程終了後に行う溶媒除去の際、加熱すると、次工程で被膜が形成されなくなる。これは加熱により膜の表面状態が変わるためである。
【0050】
ところで、第2工程の吸着処理槽及び第3工程の加水分解処理槽での液寿命については、有機金属化合物は、水分により加水分解・縮合反応するため、その水分量の制御が液寿命に大きく影響するが、上記方法においては、吸着処理槽と加水分解処理槽に分けて水分量を制御することにより、有機金属化合物が必要以上に反応を起こすことを防止している。
また、水分量を制御するため、各槽の撹拌時の密封方法、有機溶媒中に含まれる水分量の管理が望ましい。すなわち、有機金属化合物は、水分により加水分解・縮合反応するので、その水分量制御が前記反応の安定性に大きく影響する。そのため、例えば、ここで使用する容器としては、ビーカ口にシリコンゴム製のパッキンを設けて、出し入れ時以外の外気の侵入を極力防いだテフロン(登録商標)製ビーカを用いるか、外気を遮断したグローブボックス内等で作業することが好ましい。また、有機溶媒中に含まれる水分量を制御するために、市販の脱水有機溶媒、及び蒸留直後の有機溶媒を使用することもできるが、コスト高となってしまう。なお、有機溶媒中に含まれる水分量としては、カールフィッシャ水分計で0.4g/L以下が好ましい。
【0051】
さらに、水分の影響は使用する有機金属化合物の種類によっても変わる。例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)にやや反応性の劣るシラン化合物を添加して、水分の影響を受けにくくすることができる。例えば、TEOSにメチルトリメトキシシラン又はグリシドキシプロピルトリメトキシシランを、質量比で、6:1の割合で添加することができる。しかし、第3工程で加水分解反応させる際、添加した分だけ反応が鈍くなるため、得られる膜厚は低下する傾向にある。
以上の水分量の制御により、第2、3工程の繰返し可能な回数としては、液構成や組成にもよるが、繰返し4バッチ(1バッチ当たり4回繰返しの場合)までは、極端な膜厚の低下がなく使用することができる。
【0052】
(5)第4工程
上記方法の第4工程は、第3工程で得た硫化物蛍光体粒子(C)を加熱処理に付し、前記有機金属化合物膜中の有機物を熱分解し、その表面に有機成分を含む非晶質の無機化合物膜からなる被覆層を形成した硫化物蛍光体粒子(D)を得る工程である。これにより、湿度の透過をより効果的に抑制することができ、耐湿性は向上する。
【0053】
上記第4工程で用いる加熱処理の雰囲気としては、特に限定されるものではなく、大気中、不活性ガス中、真空中、またはこれらの複数の雰囲気下に行なわれる。すなわち、大気中での酸化の影響を緩和するため、酸素の少ない不活性ガス中、真空中で処理することもできる。例えば、低温域で大気中処理して有機物を大方除去した後、これらの無酸素雰囲気を使って高温処理する方法が採られる。
【0054】
上記第4工程で用いる加熱処理の温度としては、特に限定されるものではなく、硫化物蛍光体粒子の耐熱性に依存するものであるが、200〜400℃が好ましく、200〜350℃がより好ましい。すなわち、加熱温度が高いほど膜が強固となり耐湿性が向上する傾向にあるが、硫化物蛍光体粒子は大気に接触すると高温で分解が生じやすく、例えば、Euを含む蛍光体では、前記温度が400℃を超えると、酸素が存在する雰囲気、特に大気中で、Euが酸化し、2価から3価に変化してしまう。一方、有機金属化合物の熱分解温度である200℃以上が用いられる。
【0055】
上記第4工程で用いる加熱処理の時間としては、特に限定されるものではなく、例えば、大気下に、200〜400℃の温度で加熱する際、0.5〜2時間が好ましい。これによって、アルミニウム有機金属化合物からなる下地層、及び有機金属化合物膜からなる主層の有機物が熱分解し、無機質化して、結果として、例えば、若干の有機溶媒成分と非晶質のシラン化合物が含まれた、有機物を含む非晶質の無機化合物を主成分とする無機化合物膜が形成される。
【0056】
(6)表面被覆層を有する硫化物蛍光体粒子
本発明の硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法になる硫化物蛍光体粒子は、励起光を吸収し発光する硫化物蛍光体粒子であって、硫化物蛍光体粒子の表面に、膜厚が10〜30nmであり、かつアルミニウム(Al)及び酸素(O)を含有する下地層と、その上に膜厚が200〜500nmであり、かつアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)又ジルコニウム(Zr)は及び酸素(O)を含有する主層とから構成され、かつ有機成分を含む非晶質の無機化合物膜からなる被覆層を有することを特徴とするものであり、LED等の発光素子に使用される硫化物蛍光体粒子としては、蛍光強度の低下がなく、かつ耐水性及び耐湿性が著しく改善されたものである。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた膜厚及び耐水性(導電率変化及び発光強度変化率)の評価方法は、以下の通りである。
(1)被覆層の膜厚の評価:エポキシ樹脂中に粒子を埋め込み、硬化後に断面を加工してSEM観察を行う。ここで、得た画像から被覆層(n=5)の寸法を測定し、主層の平均膜厚を求めた。この際、被覆層は組成差によるコントラストに濃淡ができるため、2次電子像及び反射電子像で鮮明に観察できる。
【0058】
(2)耐水性の評価:耐水性の評価として、粒子を水中に投入して導電率変化を求めた。すなわち、耐水性に劣る硫化物蛍光体粒子であると、粒子表面から成分が水中に溶出され、導電率は浸漬時間と共に上昇する。例えば、SrGa:Eu粒子では、80℃の温水100mL中に粒子0.1gを投入し、20分間撹拌後の導電率変化を測定した。また、SrS:Eu、又はCaS:Eu粒子では、25℃の温水100mL中に粒子0.1gを投入し、20分間撹拌後の導電率変化を測定した。また、被覆処理前後の発光強度を測定し、発光強度変化率:[(初期強度−浸水20分後の強度)/初期強度]を求めた。なお、測定時の励起光は、ピーク発光波長(SrGa:Euが460nm、SrS:Euが550nm、及びCaS:Euが590nm)を用いた。
【0059】
また、実施例及び比較例で用いた有機溶媒は、予め乾燥したモレキュラーシーブ 3A500gを有機溶媒10L中に入れて水分除去後に使用した。なお、本発明の実施例で使用したIPA中の水分量はカールフィッシャ水分計で0.1g/Lであった。
【0060】
(実施例1)
下記の第1〜4工程を行い、得られた硫化物蛍光体粒子(D)を評価した。
第1工程:アルミニウム有機金属化合物による下地層の形成
イソプロピルアルコール(IPA:関東化学社製鹿1級)4000gに、ストロンチウムチオガレートユーロピウム(SrGa:Eu、D50=9.7μm)200gを添加し、28kHzの超音波洗浄器で10分間分散させた。この分散液に、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(川研ファインケミカル社製、ALCH S75P:濃度75質量%)200gを添加し、25℃で3時間撹拌混合した。その後、液を0.05〜0.1MPaの真空度で真空濾過し、濾過した粉末をIPA200g中に投入し、軽く撹拌して洗浄を行い、再度、前記と同条件で真空濾過を行って、下地層としてアルミニウム有機金属化合物を吸着させた硫化物蛍光体粒子(A)を回収した。
【0061】
第2工程:吸着処理槽での有機金属化合物吸着処理
第2工程では、第1工程とは別の吸着処理槽を用意して、イソプロピルアルコール(IPA)100gに、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(川研ファインケミカル株式会社製、ALCH S75P)3gとテトラエトキシシラン(関東化学製)17gを添加し、25℃で攪拌混合に付した。この混合液中に、第1工程で得た下地層形成した硫化物蛍光体粒子(A)10gを添加し、密封中で1時間攪拌混合に付し、粒子表面にテトラエトキシシランを吸着させた。その後、処理液を前記と同条件で真空濾過に付し、硫化物蛍光体粒子(B)を回収した。
【0062】
第3工程:加水分解処理槽での加水分解処理
第3工程用に用意した加水分解処理槽に、まず、イソプロピルアルコール(IPA)80gとイオン交換水20gを混合した溶液を準備した。この中に。硫化物蛍光体粒子(B)10gを投入し、密封して25℃で1時間攪拌混合し、加水分解反応を進行させた。この処理液を、前記と同条件で真空濾過に付し、第1〜3工程の処理を施した硫化物蛍光体粒子(C1)を回収した。
次いで、硫化物蛍光体粒子(C1)を第2工程の吸着処理槽に、再度投入し、第2工程と第3工程の順に同条件にて3回繰り返し、硫化物蛍光体粒子(C3)を回収した。
【0063】
第4工程:焼成処理
硫化物蛍光体粒子(C3)を、110℃で1時間加熱乾燥した後、200℃で1時間焼成処理し、被覆層を形成した硫化物蛍光体粒子(D)を得た。
その後、上記膜厚及び耐水性(導電率変化及び発光強度変化率)の評価方法により、上記硫化物蛍光体粒子(D)を評価した。結果を表1に示す。
【0064】
(実施例2)
第2工程で、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(川研ファインケミカル株式会社製、ALCH S75P)の添加量が5gであったこと、及びテトラエトキシシランの代わりに、メチルトリエトキシシラン(東レダウコーニング製、Z6383)20gを添加したこと、さらに、第2工程と第3工程の繰り返し処理を5回としたこと以外は、実施例1と同様の条件で、第1工程から第4工程を行い、硫化物蛍光体(D)を得た。
その後、上記膜厚及び耐水性(導電率変化及び発光強度変化率)の評価方法により、上記硫化物蛍光体粒子(D)を評価した。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例3)
第2工程で、テトラエトキシシラン(関東化学製)の代わりに、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)(マツモトファインケミカル社製、ZC580)17gを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で、第1工程から第4工程を行い、硫化物蛍光体(D)を得た。
その後、上記膜厚及び耐水性(導電率変化及び発光強度変化率)の評価方法により、上記硫化物蛍光体粒子(D)を評価した。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例4)
第2工程で、イソプロピルアルコール(IPA)100gに、メチルトリエトキシシラン(東レダウコーニング社製、Z6383)7g、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)(マツモトファインケミカル社製、ZC580)10g、及びグリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レダウコーニング社製、SH6040)3gを添加したこと、及び、第2工程と第3工程の繰返し処理を5回としたこと以外は、実施例1と同様の条件で、第1工程から第4工程を行い、硫化物蛍光体(D)を得た。
その後、上記膜厚及び耐水性(導電率変化及び発光強度変化率)の評価方法により、上記硫化物蛍光体粒子(D)を評価した。結果を表1に示す。
【0067】
(実施例5)
第2工程で、テトラエトキシシラン(関東化学製)の代わりに、メチルトリエトキシシラン(東レダウコーニング社製Z6383)17gとグリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レダウコーニング社製、SH6040)1gを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で、第1工程から第4工程を行い、硫化物蛍光体(D)を得た。
その後、上記膜厚及び耐水性(導電率変化及び発光強度変化率)の評価方法により、上記硫化物蛍光体粒子(D)を評価した。結果を表1に示す。
【0068】
(実施例6)
さらに、実施例5の第2工程に使用し、最終的に真空濾過により回収したイソプロピルアルコール(IPA)を、第2工程でそのまま使用したこと、及び実施例5の第3工程に使用し、最終的に真空濾過により回収した水を含んだイソプロピルアルコール(IPA)を、第3工程でそのまま使用したこと以外は、実施例5と同様の条件で、第1工程から第4工程を行い、硫化物蛍光体(D)を得た。ここで、イソプロピルアルコールの繰返しは、2バッチ(1バッチ当たり3回繰返し)である。
その後、上記膜厚及び耐水性(導電率変化及び発光強度変化率)の評価方法により、上記硫化物蛍光体粒子(D)を評価した。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例7)
さらに、実施例6の第2工程に使用し、最終的に真空濾過により回収したイソプロピルアルコール(IPA)を、第2工程でそのまま使用したこと、及び実施例6の第3工程に使用し、最終的に真空濾過により回収した水を含んだイソプロピルアルコール(IPA)を、第3工程でそのまま使用したこと以外は、実施例5と同様の条件で、第1工程から第4工程を行い、硫化物蛍光体(D)を得た。ここで、イソプロピルアルコールの繰返しは、3バッチ(1バッチ当たり3回繰返し)である。
その後、上記膜厚及び耐水性(導電率変化及び発光強度変化率)の評価方法により、上記硫化物蛍光体粒子(D)を評価した。結果を表1に示す。
【0070】
(比較例1)
まず、ストロンチウムチオガレートユーロピウム(SrGa:Eu、D50=9.7μm)10gと、エタノール(関東化学社製鹿特級)50gと、3−メルカプトプロピルトリエトシシラン(東レダウコーニング社製、Z−6911)0.02gとを、25℃の温度で2時間撹拌混合した。続いて、この混合液に、テトラエトキシシラン(東レダウコーニング社製、Z−6697)5gと、イオン交換水2gを添加して、25℃の温度に保持しながら、スターラで強撹拌した。この後、アルカリ触媒としてアンモニア水を添加し、液全体をpH10に調整し、密封状態で25℃の温度で1時間撹拌混合した。次いで、この液を真空濾過し、粒子を回収した。
最後に、得た粒子を110℃の温度で1時間加熱乾燥した後、200℃の温度で1時間焼成処理し、被覆層を形成した硫化物蛍光体粒子を得た。
その後、上記膜厚及び耐水性(導電率変化及び発光強度変化率)の評価方法により、得られた硫化物蛍光体粒子を評価した。結果を表1に示す。
【0071】
(比較例2)
ストロンチウムチオガレートユーロピウム(SrGa:Eu、D50=9.7μm)を被覆処理せずに、200℃の温度で1時間焼成処理した。
その後、上記膜厚及び耐水性(導電率変化及び発光強度変化率)の評価方法により、得られた硫化物蛍光体粒子を評価した。結果を表1に示す。
【0072】
(比較例3)
イソプロピルアルコール(IPA:関東化学社製鹿1級)1000gに、ストロンチウムチオガレートユーロピウム(SrGa:Eu、D50=9.7μm)10gを添加し、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(川研ファインケミカル社製、ALCH S75P:濃度75質量%)20gを添加し、25℃で3時間撹拌混合した。分散液を真空濾過して硫化物蛍光体粒子を回収した。最後に、得た粒子を110℃の温度で1時間加熱乾燥した後、200℃の温度で1時間焼成処理し、被覆層を形成した硫化物蛍光体粒子を得た。
その後、上記膜厚及び耐水性(導電率変化及び発光強度変化率)の評価方法により、得られた硫化物蛍光体粒子を評価した。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例4)
イソプロピルアルコール(IPA:関東化学社製鹿1級)1000gに、ストロンチウムチオガレートユーロピウム(SrGa:Eu、D50=9.7μm)10gを添加し、28kHzの超音波洗浄器で10分間分散させた。この分散液に、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(川研ファインケミカル社製、ALCH S75P:濃度75質量%)20gを添加し、25℃で3時間撹拌混合した。
この分散液を12℃に冷却後、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセとアセテート)(マツモトファインケミカル社製、ZC580)56gとイオン交換水32gを添加して8時間撹拌混合した後、室温に戻してさらに6時間攪拌混合した。分散液を真空濾過して硫化物蛍光体粒子を回収した。最後に、得た粒子を110℃の温度で1時間加熱乾燥した後、200℃の温度で1時間焼成処理し、被覆層を形成した硫化物蛍光体粒子を得た。
その後、上記膜厚及び耐水性(導電率変化及び発光強度変化率)の評価方法により、得られた硫化物蛍光体粒子を評価した。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1より、実施例1〜7では、硫化物蛍光体粒子の表面にシラン有機金属化合物を用いて被覆層を形成する方法において、所定の条件で、その表面に下地層としてアルミニウム有機金属化合物を吸着させた硫化物蛍光体粒子(A)を得る第1工程と、所定の条件で、第1工程で得た硫化物蛍光体粒子(A)の下地層の表面に有機金属化合物(a)を吸着させた硫化物蛍光体粒子(B)を得る第2工程と、所定の条件で、第2工程で得た硫化物蛍光体粒子(B)の表面に吸着した有機金属化合物(a)を加水分解させた有機金属化合物膜を形成させた硫化物蛍光体粒子(C)を得る第3工程と、第3工程で得た硫化物蛍光体粒子(C)を加熱処理に付し、硫化物蛍光体粒子(D)を得る第4工程を含み、かつ第2工程と第3工程とに個別の処理槽を設け、この工程間を繰返すことにより、被覆層の主層の膜厚を200〜500nmに調整する方法により、本発明の方法に従って行われたので、LED等の発光素子に使用される硫化物蛍光体粒子の被覆層の形成において、その膜厚が200〜500nmであり、蛍光強度の低下が小さく、かつ耐水性が著しく改善された表面被覆層を有する硫化物蛍光体粒子を効率的に製造することができることが分かる。さらに、実施例6、7では、有機溶媒は、それぞれ個別の処理槽に貯留されるので、有機溶媒の繰返し再使用が可能であることが確認された。
これに対して、比較例1〜4では、被覆処理又はアルミニウム有機金属化合物による下地層の形成のいずれかにおいて、これらの条件に合わないので、耐水性によって満足すべき結果が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上より明らかなように、本発明の硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法は、蛍光強度の低下がなく、かつ耐水性が著しく改善された表面被覆層を効率的に形成することができるので、特にLED等の発光素子分野で利用される硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物蛍光体粒子の表面に有機金属化合物を用いて被覆層を形成する方法であって、
下記の第1〜4工程を含み、かつ第2工程と第3工程とに個別の処理槽を設け、この工程間を繰返すことにより、被覆層の主層の膜厚を200〜500nmに調整することを特徴とする硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法。
第1工程:有機溶媒中に硫化物蛍光体粒子を添加し分散処理に付した溶液に、アルミニウム有機金属化合物を配合して撹拌混合に付し、次いで真空濾過に付し、有機溶媒を分離し、その表面に下地層としてアルミニウム有機金属化合物を吸着させた硫化物蛍光体粒子(A)を得る。
第2工程:被覆層の主層を形成する有機金属化合物(a)と、触媒として作用するアルミニウム有機金属化合物とを配合して混合した有機溶媒中に、第1工程で得た硫化物蛍光体粒子(A)を投入し、密封下に撹拌混合に付し、該粒子表面に有機金属化合物(a)を吸着させ、次いで真空濾過に付し、有機溶媒を分離し、前記下地層の表面に有機金属化合物(a)を吸着した硫化物蛍光体粒子(B)を得る。
第3工程:第2工程で得た硫化物蛍光体粒子(B)を加水分解用の水を配合した有機溶媒中に投入し、密封下に撹拌混合に付し、その表面に吸着した有機金属化合物(a)を加水分解させ、次いで真空濾過に付し、有機溶媒を分離し、表面に加水分解させた有機金属化合物膜を形成した硫化物蛍光体粒子(C)を得る。
第4工程:第3工程で得た硫化物蛍光体粒子(C)を加熱処理に付し、前記有機金属化合物膜中の有機物を熱分解し、その表面に有機成分を含む非晶質の無機化合物膜からなる被覆層を形成した硫化物蛍光体粒子(D)を得る。
【請求項2】
前記第1工程において、前記有機溶媒は、エタノール又はイソプロピルアルコールを、及び前記アルミニウム有機金属化合物は、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを用い、かつ、硫化物蛍光体粒子、有機溶媒及びアルミニウム有機金属化合物の配合割合は、質量比で、硫化物蛍光体粒子:有機溶媒=1:10〜1:50、かつ硫化物蛍光体粒子:アルミニウム有機金属化合物=1:0.1〜1:1であり、前記分散処理、撹拌混合及び真空濾過は、それぞれ下記の(イ)〜(ハ)の要件を満足することを特徴とする請求項1に記載の硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法。
(イ)分散処理は、28〜48kHzの超音波分散処理を10〜30分間行なう。
(ロ)撹拌混合は、18〜60℃の温度で0.5〜2時間撹拌する。
(ハ)真空濾過は、0.05〜0.1MPaの真空度で濾過を行なう。
【請求項3】
前記第2工程において、前記有機溶媒は、エタノール又はイソプロピルアルコールを、前記アルミニウム有機金属化合物は、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを、及び前記有機金属化合物(a)はアルミニウム有機金属化合物、シラン有機金属化合物、又はジルコニウム有機金属化合物から選ばれる少なくとも一種を用いるとともに、前記配合後の有機溶媒中の有機溶媒、アルミニウム有機金属化合物及び有機金属化合物(a)の配合割合は、質量比で、有機溶媒:有機金属化合物(a)=10:1〜10:3、かつ有機溶媒:アルミニウム有機金属化合物=100:1〜100:5であり、及び硫化物蛍光体粒子(A)と有機金属化合物(a)との配合割合は、質量比で、硫化物蛍光体粒子(A):有機金属化合物(a)=1:1〜1:3であり、かつ前記分散処理、撹拌混合及び真空濾過は、それぞれ下記の(ニ)、(ホ)の要件を満足することを特徴とする請求項1に記載の硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法。
(ニ)撹拌混合は、18〜60℃の温度で0.5〜2時間撹拌する。
(ホ)真空濾過は、0.05〜0.1MPaの真空度で濾過を行なう。
【請求項4】
前記シラン有機金属化合物は、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、又はグリシドキシプロピルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも一種であり、ジルコニウム有機金属化合物は、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)であることを特徴とする請求項3に記載の硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法。
【請求項5】
前記第3工程において、前記有機溶媒は、エタノール又はイソプロピルアルコールを用いるとともに、該有機溶媒、前記水及び前記硫化物蛍光体粒子(B)の配合割合は、質量比で、水:有機溶媒=1:1〜1:4、及び硫化物蛍光体粒子(B):有機溶媒=1:10〜1:50であり、かつ前記撹拌混合及び真空濾過は、それぞれ下記の(ヘ)、(ト)の要件を満足することを特徴とする請求項1に記載の硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法。
(ヘ)撹拌混合は、18〜60℃の温度で0.5〜2時間撹拌する。
(ト)真空濾過は、0.05〜0.1MPaの真空度で濾過を行なう。
【請求項6】
前記第4工程において、加熱処理は、大気下に、200〜400℃の温度で0.5〜3時間加熱することを特徴とする請求項1に記載の硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法。
【請求項7】
前記硫化物蛍光体粒子は、その構成元素として、イオウ(S)とユーロピウム(Eu)の他に、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)又はガリウム(Ga)から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の硫化物蛍光体粒子の表面被覆層の形成方法。