説明

硫化鉱からの銅及び金の浸出方法

【課題】銅及び金の分離効率を向上させることの可能な硫化鉱からの銅及び金の浸出方法を提供する。
【解決手段】硫化鉱物中の銅及び金を浸出する方法であって、塩素イオン、銅イオン及び鉄イオンを含有し、臭素イオンを含有しない第一の酸性水溶液を酸化剤の供給下で硫化鉱物に接触させて、硫化鉱物中の銅成分を浸出する工程1と、工程1によって得られた浸出反応液を固液分離によって浸出残渣と浸出後液に分離する工程2と、塩素イオン、臭素イオン、銅イオン及び鉄イオンを含有する第二の酸性水溶液を酸化剤の供給下で工程2によって得られた浸出残渣に接触させて、当該残渣中の金成分を浸出する工程3とを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫化鉱からの銅及び金の浸出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の乾式法に替わり、硫化鉱から湿式法によって銅を回収する技術が注目されている。そして、硫化鉱には微量ながら金などの貴金属を含有する場合も多く、銅に加えて貴金属を経済的に回収する方法が求められている。
【0003】
このような問題に取り組んだ技術として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩化物及び臭化物と、銅及び鉄の塩化物又は臭化物とを使用し、銅浸出工程後の残渣に対して金浸出工程を実施する方法が知られている(特開2009−235519号公報)。この方法によれば、特別な酸化剤を使用することなく、空気を使用するだけで、硫化銅鉱中の銅及び金を高い浸出率で浸出し、回収することができるとされている。
【0004】
また、銅浸出工程後の残渣中の銅品位が7.9%以下になった時点で金浸出が行われることを利用し、銅浸出工程後の残渣中の銅品位を7.9%以下に低下させてから金浸出工程を実施する方法も知られている(特開2009−235525号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−235519号公報
【特許文献2】特開2009−235525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記文献に記載の技術は、硫化鉱からの湿式法による銅及び金の回収方法に関して商業上実施可能な技術を提案するものであるが、銅及び金の分離効率の向上や金の回収率向上については未だ改善の余地は残されている。そこで、本発明は、銅及び金の分離効率及び金の回収率を向上させることの可能な硫化鉱物からの銅及び金の浸出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究の結果、従来の湿式法では、銅浸出工程において金が相当程度浸出しており、銅と金の分離効率を押し下げていることを見出した。すなわち、銅浸出工程においては目的とする銅が十分に浸出される一方で、金は浸出されないことが望ましいのであるが、銅の浸出が進行していくにつれて酸化還元電位が徐々に上昇していくと、銅が十分に浸出し終わらないうちに金の浸出が始まってしまい、銅と金が共に浸出される酸化還元電位のオーバーラップ領域が存在する。このため、銅の浸出効率を高めようとして銅浸出工程における終点の酸化還元電位を高めに設定すると金までが銅浸出工程で浸出してしまうのである。一方で、銅浸出工程において金の浸出を抑制しようとすると今度は銅浸出工程における終点の酸化還元電位を低くする必要があり、この場合は金の浸出は抑制されるものの、銅の浸出が不十分な状態で金浸出工程に移行することとなり、銅と金の分離効率は不十分となる。
【0008】
銅浸出工程において金が浸出した場合、浸出後液から金を回収することも考えられるが、金回収工程を別途設ける必要が出てくるためコスト高となる。そこで、銅浸出工程においては銅を十分に浸出する一方で金浸出を極力抑制する手段を検討したところ、銅浸出工程において臭素イオンを含有せず、塩素イオンを含有する特定の浸出液を使用する一方で、金浸出工程においては臭素イオン及び塩素イオンの両方を含有する特定の浸出液を使用することが有効であることを見出し、当該知見に基づいて本発明を完成させた。
【0009】
本発明は一側面において、硫化鉱物中の銅及び金を浸出する方法であって、
塩素イオン、銅イオン及び鉄イオンを含有し、臭素イオンを含有しない第一の酸性水溶液を酸化剤の供給下で硫化鉱物に接触させて、硫化鉱物中の銅成分を浸出する工程1と、
工程1によって得られた浸出反応液を固液分離によって浸出残渣と浸出後液に分離する工程2と、
塩素イオン、臭素イオン、銅イオン及び鉄イオンを含有する第二の酸性水溶液を酸化剤の供給下で工程2によって得られた浸出残渣に接触させて、当該残渣中の金成分を浸出する工程3と、
を含む方法である。
【0010】
本発明に係る硫化鉱物中の銅及び金を浸出する方法は一実施態様において、工程1は、銅の浸出率が90質量%以上、且つ、金の浸出率が10質量%以下の条件を満たしたときに終了する。
【0011】
本発明に係る硫化鉱物中の銅及び金を浸出する方法は別の一実施態様において、工程1は、酸化還元電位(vs Ag/AgCl)が450〜500mVの間で終了する。
【0012】
本発明に係る硫化鉱物中の銅及び金を浸出する方法は更に別の一実施態様において、第一の酸性水溶液の工程1の開始時の酸化還元電位(vs Ag/AgCl)が500mV以上であり、第二の酸性水溶液の工程2の開始時の酸化還元電位(vs Ag/AgCl)が550mV以上である。
【0013】
本発明に係る硫化鉱物中の銅及び金を浸出する方法は更に別の一実施態様において、第二の酸性水溶液中の塩素イオンに対する臭素イオンの重量濃度比が1以上である。
【0014】
本発明に係る硫化鉱物中の銅及び金を浸出する方法は更に別の一実施態様において、工程1及び工程2で使用する酸化剤が空気である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、硫化鉱物からの銅及び金の浸出方法において、銅浸出工程に臭素イオンを含有しない浸出液を使用することで経済的に銅及び金の分離効率を向上させることが可能となると共に、その後の金浸出工程において臭素イオンを含有する浸出液を使用することで高い金の回収率が得られるという格別の技術的効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ORP(vs Ag/AgCl)と銅及び金の浸出率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<工程1:銅浸出工程>
工程1では、塩素イオン、銅イオン及び鉄イオンを含有し、臭素イオンを含有しない浸出液(第一の酸性水溶液)を酸化剤の供給下で硫化鉱物に接触させて、硫化鉱物中の銅成分を浸出する。すなわち、工程1では浸出液として塩化浴を使用することで硫化鉱中の銅を浸出することを基本としており、更に硫化鉱中に一般的に含まれる銅イオン及び鉄イオンを浸出液中に存在させておくことで、銅の浸出反応の促進を狙っている。浸出液と硫化鉱物の接触方法としては特に制限はなく、噴霧や浸漬などの方法があるが、反応効率の観点から、浸出液中に硫化鉱物を浸漬し、撹拌する方法が好ましい。硫化鉱物としては特に制限はないが、典型的には金を含有する一次硫化銅鉱や金を含むケイ酸鉱を含有する硫化銅鉱が挙げられる。
【0018】
塩素イオンの供給源としては特に制限はなく、例えば塩化水素、塩酸、塩化金属及び塩素ガス等が挙げられるが、経済性や安全性を考慮すれば塩化金属の形態で供給するのが好ましい。塩化金属としては、例えば塩化銅(塩化第一銅、塩化第二銅)、塩化鉄(塩化第一鉄、塩化第二鉄)、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム)の塩化物、アルカリ土類金属(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム)の塩化物が挙げられ、経済性や入手容易性の観点から、塩化ナトリウムが好ましい。また、銅イオン及び鉄イオンの供給源としても利用できることから、塩化銅及び塩化鉄を利用することも好ましい。
【0019】
銅イオン及び鉄イオンは、これらの塩の形態で供給するのが通常であり、例えばハロゲン化塩の形態で供給することができる。塩化物イオンの供給源としても利用できる観点から銅イオン及び鉄イオンは塩化銅及び塩化鉄として供給されるのが好ましい。塩化銅及び塩化鉄としては酸化力の観点から塩化第二銅(CuCl2)及び塩化第二鉄(FeCl3)をそれぞれ使用するのが望ましいが、塩化第一銅(CuCl)及び塩化第一鉄(FeCl2)を使用しても浸出液に酸化剤を供給することで、塩化第二銅(CuCl2)及び塩化第二鉄(FeCl3)にそれぞれ酸化されるため、大差はない。
【0020】
工程1で使用する浸出液(第一の酸性水溶液)中の塩素イオンの濃度は、銅の溶解反応を高い効率で実現する観点から、70g/L以上であることが好ましく、140g/L以上であることがより好ましい。
【0021】
硫化鉱物から銅の浸出効率を高めるために、浸出液は酸性とすべきであり、塩化物イオンの供給源としても利用できることから、塩酸酸性とするのが好ましい。浸出液のpHは浸出した銅の溶解度を確保する理由から、0〜3程度とするのが好ましく、1.0〜2.0程度とするのがより好ましい。また、工程1の開始時における浸出液の酸化還元電位(vs Ag/AgCl)は、銅浸出を促進する観点から500mV以上とするのが好ましく、550mV以上とするのがより好ましい。
【0022】
工程1で使用する浸出液(第一の酸性水溶液)は臭素イオンを含有しない。臭素イオンが浸出液中に含まれると、金浸出が開始する酸化還元電位が低下するため、銅の浸出が十分に進行しない間に金の浸出が開始するオーバーラップ領域が大きくなるからである。換言すれば、本発明においては工程1で使用する浸出液(第一の酸性水溶液)は臭素イオンを含有しないため、金の浸出を抑制しながら、銅浸出工程の終点における酸化還元電位を高くして、銅の浸出効率を高めることができる。
【0023】
従って、本発明の好適な実施形態においては、工程1における浸出液(第一の酸性水溶液)として、塩酸、塩化第二銅、塩化第二鉄及び塩化ナトリウムの混合液を使用することができる。
【0024】
工程1の銅浸出工程は酸化剤を供給しながら実施することで、酸化還元電位を管理する。酸化剤を添加しなければ途中で酸化還元電位が低下してしまい、浸出反応が進行しない。酸化剤としては特に制限はないが、例えば酸素、空気、塩素及び過酸化水素などが挙げられる。ただし、酸化剤として臭素化合物を使用するのは好ましくない。極端に高い酸化還元電位をもつ酸化剤は必要なく、空気で十分である。経済性や安全性の観点からも空気が好ましい。
【0025】
工程1に使用する浸出液の温度は浸出効率や装置の材質の観点から、60℃以上とするのが好ましく、70〜90℃とするのがより好ましい。浸出効率を高めることを目的として工程1を加圧下で実施することも可能であるが、大気圧下で十分である。銅浸出を促進するため、処理対象となる硫化鉱物を予め粉砕・摩鉱しておくことが好ましい。
【0026】
代表的な銅の硫化鉱であるカルコパイライトを例にすると、工程1では次のような反応式に従って銅の浸出が起きていると考えられる。
CuFeS2+3CuCl2→4CuCl+FeCl2+2S (1)
CuFeS2+3FeCl3→CuCl+4FeCl2+2S (2)
酸化剤として空気を使用した場合、式(1)又は式(2)の反応が進行することと併行して、これらの浸出反応の結果生成した塩化第一銅及び塩化第一鉄が次のような反応でそれぞれ塩化第二銅及び塩化第二鉄に酸化される。
CuCl+(1/4)O2+HCl→CuCl2+(1/2)H2O (3)
FeCl2+(1/4)O2+HCl→FeCl3+(1/2)H2O (4)
式(3)及び式(4)で生成する化学種は式(1)及び式(2)の酸化剤として浸出に再利用できる。この結果、浸出率は更に高くなる。式(3)及び式(4)式の反応は浸出液中に吹込む空気中の酸素で進行するため、浸出反応中に空気を吹込むことで、原料より溶出した塩化第一銅や塩化第一鉄を酸化して生じた塩化第二銅又は塩化第二鉄を利用して銅浸出反応を継続できる。
【0027】
工程1に使用する浸出液は当初高い酸化還元電位(vs Ag/AgCl)を有している(例:500mV以上)が、硫化鉱物と接触させて浸出反応を開始すると、酸化還元電位は急落する。その後、酸化還元電位は酸化剤の供給下で銅の浸出反応が進行するにつれて徐々に上昇していく。臭素イオンを含まない上記の浸出液の場合、酸化還元電位(vs Ag/AgCl)が450mV以上であれば銅は十分に浸出する。一方で、酸化還元電位が高くなると今度は金の浸出も始まるが、臭素イオンを含まない上記の浸出液の場合、酸化還元電位(vs Ag/AgCl)が500mV以下であれば金はほとんど浸出しない。従って、酸化還元電位(vs Ag/AgCl)が450〜500mV、好ましくは450〜475mVの範囲にあるときに工程1の銅浸出反応を終了することで、銅及び金の高い分離効率が得られるようになる。
【0028】
その結果、本発明の好ましい実施態様においては、工程1は、銅の浸出率が90質量%以上、且つ、金の浸出率が10質量%以下の条件を満たしたときに終了することができ、より好ましい実施態様においては、工程1は、銅の浸出率が95質量%以上、且つ、金の浸出率が10質量%以下の条件を満たしたときに終了することができる。
【0029】
<工程2:固液分離工程>
工程2では、工程1によって得られた浸出反応液を固液分離によって浸出残渣と浸出後液に分離する。固液分離方法は特に制限はないが、フィルタープレスやシックナーを使用することができる。浸出残渣には金が残留しており、浸出後液には銅が溶解している。
【0030】
工程1は銅浸出工程を一段階で実施することもできるが、硫化鉱物中の銅の浸出を十分に行うために銅浸出工程を複数段で実施することも可能である。複数段を利用した銅浸出工程は、具体的には、一段目における銅浸出操作を終了後に、フィルタープレスやシックナーなどによって固液分離し、浸出残渣に対して次段の銅浸出操作を行うことにより実施することができる。典型的には、銅浸出工程は2〜4段階で構成することができる。この場合、各浸出段で実施している固液分離操作が工程2に該当する。
【0031】
<工程3:金浸出工程>
工程3では、塩素イオン、臭素イオン、銅イオン及び鉄イオンを含有する浸出液(第二の酸性水溶液)を酸化剤の供給下で工程2によって得られた(工程1を複数段で行い、工程2が複数回実施されるときは最終的に得られた)浸出残渣に接触させて、当該残渣中の金成分を浸出する。金の浸出は、溶出した金が塩素イオン又は臭素イオンと反応し、金の塩化錯体又は金の臭化錯体を生成することにより進行する。臭素イオンを併用することで、より低電位の状態で錯体を形成するため、金の浸出効率の向上を図ることができる。また、鉄イオンは酸化剤の供給下で酸化した3価の鉄イオン又は当初より3価の鉄イオンが、金を酸化する働きをする。銅イオンは直接反応に関与しないが、銅イオンが存在することで鉄イオンの酸化速度が速くなる。
【0032】
浸出液と残渣の接触方法としては特に制限はなく、噴霧や浸漬などの方法があるが、反応効率の観点から、浸出液中に残渣を浸漬し、撹拌する方法が好ましい。
【0033】
塩素イオンの供給源としては、特に制限はないが、例えば塩化水素、塩酸、塩化金属及び塩素ガス等が挙げられ、経済性や安全性を考慮すれば塩化金属の形態で供給するのが好ましい。塩化金属としては、例えば塩化銅(塩化第一銅、塩化第二銅)、塩化鉄(塩化第一鉄、塩化第二鉄)、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム)の塩化物、アルカリ土類金属(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム)の塩化物が挙げられ、経済性や入手容易性の観点から、塩化ナトリウムが好ましい。また、銅イオン及び鉄イオンの供給源としても利用できることから、塩化銅及び塩化鉄を利用することも好ましい。
【0034】
臭素イオンの供給源としては、特に制限はないが、例えば臭化水素、臭化水素酸、臭化金属及び臭素ガス等が挙げられ、経済性や安全性を考慮すれば臭化金属の形態で供給するのが好ましい。臭化金属としては、例えば臭化銅(臭化第一銅、臭化第二銅)、臭化鉄(臭化第一鉄、臭化第二鉄)、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム)の臭化物、アルカリ土類金属(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム)の臭化物が挙げられ、経済性や入手容易性の観点から、臭化ナトリウムが好ましい。また、銅イオン及び鉄イオンの供給源としても利用できることから、臭化銅及び臭化鉄を利用することも好ましい。
【0035】
銅イオン及び鉄イオンの供給源としては、これらの塩の形態で供給するのが通常であり、例えばハロゲン化塩の形態で供給することができる。塩素イオン及び/又は臭素イオンの供給源としても利用できる観点から銅イオンは塩化銅及び/又は臭化銅、鉄イオンは塩化鉄及び/又は臭化鉄として供給されるのが好ましい。塩化銅及び塩化鉄としては酸化力の観点から塩化第二銅(CuCl2)及び塩化第二鉄(FeCl3)を使用するのがそれぞれ望ましいが、塩化第一銅(CuCl)及び塩化第二鉄(FeCl2)を使用しても浸出液に酸化剤を供給することで、塩化第二銅(CuCl2)及び塩化第二鉄(FeCl3)にそれぞれ酸化されるため、大差はない。
【0036】
工程3で使用する浸出液(第二の酸性水溶液)中の塩素イオンの濃度は、第一の酸性水溶液よりも低くても良く、30g/L〜125g/Lであることがより好ましい。工程3で使用する浸出液(第二の酸性水溶液)中の臭素イオンの濃度は、反応速度や溶解度の観点から、1g/L〜100g/Lであることが好ましく、経済性の観点から、10g/L〜40g/Lであることがより好ましい。また、金の浸出効率の観点からは、第二の酸性水溶液中の塩素イオンに対する臭素イオンの重量濃度比が1以上であることが好ましいが、金の濃度が十分に低いため、特段の配慮は必要としない。
【0037】
工程3の開始時における浸出液の酸化還元電位(vs Ag/AgCl)は、金浸出を促進する観点から550mV以上とするのが好ましく、600mV以上とするのがより好ましい。
【0038】
従って、本発明の好適な実施形態においては、工程3における浸出液(第二の酸性水溶液)として、塩素イオン及び臭素イオンの両方を含有するように選択することを条件に、塩酸及び臭素酸の少なくとも一方と、塩化第二銅及び臭化第二銅の少なくとも一方と、塩化第二鉄及び臭化第二鉄の少なくとも一方と、塩化ナトリウム及び臭化ナトリウムの少なくとも一方とを含む混合液を使用することができる。
【0039】
工程3の金浸出工程は酸化剤を供給しながら実施することで、酸化還元電位を管理する。酸化剤を添加しなければ途中で酸化還元電位が低下してしまい、浸出反応が進行しない。酸化剤としては特に制限はないが、例えば酸素、空気、塩素、臭素、及び過酸化水素などが挙げられる。極端に高い酸化還元電位をもつ酸化剤は必要なく、空気で十分である。経済性や安全性の観点からも空気が好ましい。
【0040】
<その他の工程>
(銅回収)
工程1によって得られた浸出後液は銅成分を多量に含んでいるので、浸出後液から銅を回収することができる。銅の回収方法としては特に制限はないが、例えば溶媒抽出、イオン交換、卑な金属との置換析出及び電解採取などを利用することができる。浸出後液中の銅は1価及び2価の状態が混在しているが、溶媒抽出やイオン交換を円滑に行うために、全部が2価の銅イオンとなるように予め酸化しておくことが好ましい。酸化の方法は特に制限はないが空気や酸素を浸出後液中に吹き込む方法が簡便である。
【0041】
(金回収)
工程3によって得られた浸出反応液には金が溶解しており、当該浸出反応液から金を回収することができる。金の回収方法としては特に制限はないが、活性炭吸着、電解採取、溶媒抽出、及びイオン交換などを利用することができる。浸出反応の途中で金を回収することで浸出反応液中の金濃度を低下させ、金の浸出率を高めることもできる。
【実施例】
【0042】
<試験1>
硫化鉱物として、Cu:16質量%、Fe:26質量%、S:28質量%を含有し、Auを63g/t含有する銅精鉱を粉砕したものを用意した。表1に示す組成を有する浸出液(第一の酸性水溶液)16Lを70〜85℃に加温後、当該銅精鉱480gを投入し、浸出液への空気吹き込み(0.2L/min)と撹拌を継続しながら浸出試験を実施した。なお、金属の分析は、ICP発光分光分析法で行った。
【0043】
【表1】

*全塩化物イオン及び全臭化物イオンは、浸出液の成分が完全に電離していると仮定し、臭素イオンは臭化ナトリウムで添加し、全塩素イオン濃度が180g/Lとなるよう塩化ナトリウムで調整した。
【0044】
上記試験によって得られた、浸出時の酸化還元電位ORP(vs Ag/AgCl)とCu及びAuの浸出率との関係を表2及び図1に示す。浸出率は硫化鉱物中の含有量を100%とし、浸出残渣中の含有量から逆算で算出した。表2及び図1より、Cuは浸出液A及びBの間で浸出率に変化はなく、ORPが450mVで浸出率は90質量%程度に到達し、ORPが500mVで99質量%以上の浸出率となった。一方、Auは、臭素イオンを含有しない浸出液Aを使用した場合、ORPが450mVまではほとんど浸出せず、500mVで15質量%程度浸出された。臭素イオンを含有する浸出液Bを使用した場合、ORPが450mVで20質量%程度が浸出し、500mVでは約40質量%に達した。
【0045】
【表2−1】

【0046】
【表2−2】

【0047】
上記試験では銅浸出工程と金浸出工程の間の固液分離を実施していないが、上記の結果から、臭化物イオンを含有しない浸出液Aを銅浸出工程に使用することで、銅浸出中における金の浸出を抑制する一方で、臭化物イオンを含有する浸出液Bを金浸出工程に使用することで金の浸出率を高めることができることが理解できる。例えば、浸出液Aを用いて銅浸出工程の終点となるORPを450〜500mVの間に設定し、固液分離後、浸出液Bに切り替えて金浸出工程を実施することで、銅及び金を高い分離効率で分離するとともに、金を高い回収率で回収できることが理解できる。また、銅浸出工程は、銅の浸出率が95質量%以上、且つ、金の浸出率が10質量%以下の条件で終了させることも可能であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化鉱物中の銅及び金を浸出する方法であって、
塩素イオン、銅イオン及び鉄イオンを含有し、臭素イオンを含有しない第一の酸性水溶液を酸化剤の供給下で硫化鉱物に接触させて、硫化鉱物中の銅成分を浸出する工程1と、
工程1によって得られた浸出反応液を固液分離によって浸出残渣と浸出後液に分離する工程2と、
塩素イオン、臭素イオン、銅イオン及び鉄イオンを含有する第二の酸性水溶液を酸化剤の供給下で工程2によって得られた浸出残渣に接触させて、当該残渣中の金成分を浸出する工程3と、
を含む方法。
【請求項2】
工程1は、銅の浸出率が90質量%以上、且つ、金の浸出率が10質量%以下の条件を満たしたときに終了する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程1は、酸化還元電位(vs Ag/AgCl)が450〜500mVの間で終了する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第一の酸性水溶液の工程1の開始時の酸化還元電位(vs Ag/AgCl)が500mV以上であり、第二の酸性水溶液の工程2の開始時の酸化還元電位(vs Ag/AgCl)が550mV以上である請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
第二の酸性水溶液中の塩素イオンに対する臭素イオンの重量濃度比が1以上である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程1及び工程2で使用する酸化剤が空気である請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−184462(P2012−184462A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47087(P2011−47087)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】