説明

硫酸コバルト溶液からマンガンを除去する方法

【課題】 硫酸コバルト溶液中に含まれるマンガン不純物を酸化し沈殿させて除去する方法において、実質的にコバルトを共沈させることなく、マンガンを除去し得る方法の提供を課題とする。
【解決手段】 硫酸コバルト溶液のpHを2.5〜6の範囲に調整し、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを加え、標準水素電極に対して1100〜1300mVの範囲の酸化還元電位とし、マンガンを沈殿させ、沈殿させたマンガンを硫酸コバルト溶液から除去する方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫酸コバルト溶液からマンガンを除去する方法に関し、特に硫酸コバルト溶液中に含まれるマンガン不純物を酸化して沈殿させることによってマンガンを除去し、精製された硫酸コバルト溶液を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルトのような有価金属の需要は、近年多くの産業分野で増大しているが、高純度のコバルトを鉱物源から抽出することは困難であるため、その価値は極めて高い。コバルトの主要源はラテライト鉱又は酸化鉱であり、ニッケル、亜鉛、銅、マンガン等の種々の元素を不純物として含有する。
【0003】
ある種の元素はコバルトに似た化学特性を有するため、それらをコバルトから分離するのは困難を伴う。中でも分離が困難な不純物の1つがマンガンである。産業上要求される純度のコバルトを得るためには、コバルト精製プロセスにおいてマンガンを除去する必要がある。
【0004】
マンガンを除去する方法の1つは、原材料を酸性溶液に溶解し、溶液中のコバルトとマンガンを化学処理する方法である。
【0005】
例えば、非特許文献1には、次亜塩素酸ナトリウムを用いて硫酸亜鉛溶液中に含まれる低濃度のコバルトとマンガンを除去する方法が開示されている。しかし、実験結果によれば、99.9%以上のマンガンとともに33〜99.7%のコバルトも除去される。すなわち、この方法によるマンガン除去は、かなりの量のコバルト共沈なしには困難であり、共沈したコバルトを分離採取することも困難であるため、産業規模で実施するには有効な方法とはいえない。
【0006】
また、例えば、非特許文献2には、コバルト及びニッケル中のマンガンを亜硫酸ガスと酸素を用いて酸化し沈殿させる方法が開示されている。しかし、コバルト及びニッケルを共沈させることなく、マンガンのみを沈殿除去することは困難であった。
【0007】
一方、例えば、特許文献1には、ニッケル及びコバルト以外にマンガン、マグネシウム、カルシウム等の多くの不純物を含むラテライト鉱浸出液からニッケル及びコバルトを回収する方法が開示されている。この方法ではビス−2−ピコリルアミン樹脂によるイオン交換法が用いられ、ニッケル及びコバルトはかなり選択的に回収されるが、マンガンの選択的除去は困難であった。
【0008】
また、例えば、特許文献2には、塩化コバルト及び/又は硫酸コバルト溶液からコバルトを選択的に抽出する方法として電気分解とイオン交換を組み合わせた方法と装置が開示されている。しかし、この方法でもマンガンのみを選択的に除去することは困難であった。
【0009】
更に、特許文献3には、使用済みニッケル水素二次電池からの有価金属の回収方法が開示されている。この方法によれば、ニッケル及びコバルトを含有する硫酸溶液に、水酸化ニッケル及び/又は水酸化コバルトを酸化剤として加えて、マンガンを酸化して沈殿させて除去し、ニッケル及びコバルトを回収する。しかしながら、この方法においても、ニッケル及びコバルトを共沈させることなく、マンガンのみを沈殿除去することは困難であった。
【特許文献1】欧州特許公報1159461号
【特許文献2】欧州特許公報1305455号
【特許文献3】特開2002−241856号公報
【非特許文献1】Fonseca et al, Proceedings of the International Symposium on Electrometallurgical Plant Practice, Montreal, Quebec, Canada, Oct.21-24, 1990
【非特許文献2】Zhang et al, Hydrometallurgy, Vol.63, pp127-135, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、硫酸コバルト溶液中に含まれるマンガン不純物を酸化し沈殿させて除去する方法において、実質的にコバルトを共沈させることなく、マンガンを除去し得る方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定の酸化還元電位を得るために硫酸コバルト溶液に特定の酸化剤を加えて、マンガンを沈殿させて除去することにより、コバルトの共沈を抑えることができるとともに、実質的にマンガンを含まない精製硫酸コバルト溶液を得ることができることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、少なくともコバルトイオンとマンガンイオンを含有する硫酸コバルト溶液からマンガンイオンを除去する方法であって、硫酸コバルト溶液のpHを2.5〜6の範囲に調整し、得られた溶液に酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを加え、標準水素電極に対して1100〜1300mVの範囲の酸化還元電位とし、マンガンを沈殿させ、沈殿させたマンガンを硫酸コバルト溶液から除去する方法に関する(請求項1)。
【0013】
この方法により、実質的にコバルトを共沈させることなく、硫酸コバルト溶液中のマンガンを選択的かつほぼ完全に除去することができる。
【0014】
また、酸化剤を加えてマンガンを沈殿させる工程における硫酸コバルト溶液のpHを1.5〜2.5の範囲に調整する場合には、コバルトの酸化を抑制しつつ効率的にマンガンを沈殿させることができる点で好ましい(請求項2)。
【0015】
さらに、酸化剤を加えてマンガンを沈殿させる工程における硫酸コバルト溶液の温度を20〜100℃の範囲に調整する場合には、マンガンの酸化反応が促進される点で好ましい(請求項3)。
【0016】
また、次亜塩素酸ナトリウムを硫酸コバルト溶液1リットル当り0.01〜0.05グラム/分の速度で加える場合には、溶液中のマンガンがほぼ完全に酸化されるだけでなく大きなサイズの沈殿粒子が得られるため、その後の、例えば濾過による分離を効率的に行うことができる(請求項4)。
【0017】
さらに、沈殿させたマンガンを固液分離手段、好ましくは濾過により除去する場合には、マンガンを固体沈殿物として速やかに除去できるので、直ちに精製されたコバルト含有液を得ることができる点から好ましい(請求項5及び6)。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、硫酸コバルト溶液に酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを加え、標準水素電極に対して1100〜1300mVの範囲の酸化還元電位とし、硫酸コバルト溶液中に含まれるマンガンを酸化し沈殿させることができる。
【0019】
これにより、コバルトの共沈を抑制することができるとともに、マンガンを選択的にかつほぼ完全に除去できるため、コバルトをロスすることなく実質的にマンガンを含まない(10ppm以下)精製硫酸コバルト溶液を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明においては、少なくともコバルトイオンとマンガンイオンを含有する硫酸コバルト溶液(以下、出発溶液という)は、酸化還元電位(以下、ORPという)の測定及び/又は制御装置を備えた反応器に供給される。出発溶液はpHを調整され、次いで酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムが添加されることにより所定の範囲のORPが得られて、コバルトイオンは酸化されずに、マンガンイオンのみがマンガン酸化物(Mn2O3及び/又はMnO2)に酸化される。生成したマンガン酸化物は沈殿を形成する。得られた沈殿を含む懸濁液は固液分離手段好ましくは濾過により処理され、マンガンは固体沈殿物として溶液から分離除去され、コバルトは濾過溶液(濾液)中に残留する。こうして得られる溶液はマンガン含有率が10ppm以下に精製された硫酸コバルト溶液である。溶液は、その後必要な追加的処理を経て、精製コバルトが好ましい形で得られる。
【0021】
本発明において使用される出発溶液は、少なくともコバルトイオンとマンガンイオンを含有する硫酸コバルト溶液である。出発溶液として、コバルトイオンとマンガンイオンを含有する限り、いずれの硫酸コバルト溶液でも使用することができる。硫酸コバルト溶液は、例えば酸化鉱や硫化鉱に含まれるコバルト成分を硫酸中に溶出させることによって得ることができる。鉱石はいずれのラテライト鉱(酸化鉱)又は硫化鉱でもよく、ラテライト鉱にはサプロナイト鉱やリモナイト鉱が含まれる。
【0022】
例えば、以下の1次(天然由来)コバルト源を使用することができる:
−ニッケル/コバルト比が通常10/1のラテライト鉱。
この鉱が用いられる第一義的な目的はニッケル回収にあり、コバルトは副産物である。
−ニッケル/コバルト比が通常100/1の硫化鉱。
この鉱の場合もコバルトはニッケル回収の副産物である。
−海底団塊(太平洋の特定地域の海底に堆積)。
目的はニッケルとコバルトの回収、及びおそらくはマンガンの回収。
−ある種の銅鉱。
特にコンゴとザンビア産出のものはコバルトが豊富である。
【0023】
上記の最初の3つの鉱石からは、湿式冶金処理により多くの不純物元素を含む比較的希釈なニッケル−コバルト溶液が得られる。続いてニッケルとコバルトが分離され濃縮されるが、しばしばニッケルとコバルトに選択的な試薬を用いて溶媒抽出とイオン交換が行われる。例えば、ニッケルとコバルトがある程度の不純物元素とともに有機相又はイオン交換樹脂に抽出され、続いて、例えば硫酸中に溶出され、より高純度、高濃度の溶液が得られる。場合によりコバルトが少量の不純物とともに最初に選択的に抽出され、溶出液中に濃縮される。
【0024】
本発明の方法は、このような硫酸溶液又は更に1段階又は数段階精製された溶液中に含まれるマンガンを除去するために使用することができる。
【0025】
また、上記の銅鉱は、まず硫酸銅−硫酸を含む電解液中に必要成分を溶出させる。銅は電解により回収され、電解液の一部は更に精製され濃縮されて、マンガン等の少量の不純物を含有する高濃度硫酸コバルト溶液が得られる。本発明の方法は、このような硫酸コバルト溶液中に含まれるマンガンを除去するために使用することができる。
【0026】
上記の1次コバルト源に加えて、更に、コバルトは種々の廃棄物や回収物、例えば使用済みニッケル水素(Ni/MH)電池、使用済みリチウムイオン電池又は他のコバルト含有電池に含まれる。高磁性合金やある種の廃棄電子部品にもコバルトは含まれる。これらを硫酸中に溶出させ、ある程度精製/濃縮すれば、少量の不純物を含むかなり高濃度の硫酸コバルト溶液が得られる。
【0027】
本発明の方法は、このような硫酸コバルト溶液中に含まれるマンガンを除去するために使用することもできる。
【0028】
このように、本発明の方法は、コバルトとマンガンを含む種々の原材料から得られる硫酸コバルト溶液に対して使用することができる。なお、本発明の方法は、硫酸コバルト溶液に対して使用する時に本発明の前記効果を十分に発揮するのであって、硫酸以外の他の酸、例えば塩酸や硝酸により得られるコバルト溶液は、本発明の方法による処理に使用するには硫酸コバルト溶液ほどに好ましいとはいえない。
【0029】
本発明の方法は、いずれの方法により得られた硫酸コバルト溶液に対しても、それがコバルトとマンガンを含む限り使用することができるが、他の不純物、例えばニッケル、亜鉛、ランタン、ネオジム、アルミニウム、マグネシウム、銅、カルシウム、鉛、カドミウム等を含んでいてもよい。出発溶液は、本発明による処理の前に、不純物を除くため又は溶液中に固体物が含まれていればそれを除くため、公知の方法で前処理されてもよい。例えば、イオン交換法、溶媒抽出法、沈殿法等の方法で前処理され、本発明によるマンガンの酸化的沈殿生成処理の前にある種の不純物は除去される。
【0030】
本発明の方法によれば、出発溶液中のコバルト、マンガン及び他の不純物の含有量にかかわらず、マンガンを除去することができる。出発溶液中のコバルト濃度は硫酸コバルトの溶解限度以下であれば特に制限されない。ただ、コバルト濃度が高くなれば、溶液の粘度が増大し、硫酸コバルトの結晶が析出する可能性も生じるため、コバルト濃度は好ましくは120g/L以下である。
【0031】
一方、コバルト濃度が低すぎると、処理効率が低下する。好ましいコバルト濃度は5g/L以上であり、より好ましくは50g/L以上、最も好ましくは90g/L以上で110g/L以下である。
【0032】
出発溶液中のマンガン濃度は特に制限されないが、マンガン濃度が高すぎると、これに比例してコバルト共沈の程度が増大する可能性がある。好ましいマンガン濃度は5g/L以下であり、より好ましくは1g/L以下、最も好ましくは0.1g/L以下である。
【0033】
出発溶液中のマンガン以外の上記不純物の濃度は、特に制限されない。
【0034】
出発溶液のpHは、酸化剤を加える前に、2.5以上6以下の範囲に前調整される。pHのより好ましい範囲は3.5〜5.5、最も好ましい範囲は4〜5である。出発溶液のpHがこの範囲にあると、酸化剤を加えることによってORPが所定の電位に達すると直ちにマンガンが効率的に沈殿する。出発溶液のpHがこの範囲に調整されると、酸化剤の添加により溶液のpHはマンガンの沈殿に好ましいpH1.5〜2.5の範囲に低下するからである。
【0035】
pHの調整された出発溶液は、酸化還元電位を所定の範囲に調節し維持するORP測定/制御装置を装備した反応器に供給される。
【0036】
本発明によれば、出発溶液が反応器に供給された後、酸化剤が添加される。酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)を使用する。本酸化剤は、容易かつ安価に入手可能で、環境的に受け入れられた反応剤でもあり、出発溶液中に含まれるマンガンを酸化して沈殿させるのにきわめて有効である。他の酸化剤、例えば亜硫酸ガス及び空気或いは酸素、オゾン、過硫酸塩又はカロ酸の使用は、コスト高で、はるかに複雑なプロセスを必要とする。そのため、過硫酸塩等の使用は酸化的沈殿形成の処理効率を低下させる。
【0037】
NaOClは、溶液中のMn(II)イオンをMn(III)及び/又はMn(IV)に酸化し、酸化物は沈殿を形成し、沈殿は本発明の方法によって容易に除去される。
【0038】
溶液に加える酸化剤の量は、酸化還元電位(ORP)が沈殿生成中所定の範囲内に維持される量であればよく、特に制限されない。酸化剤の量が少なすぎると、酸化されるマンガン量が減少し、固液分離後に得られるコバルト液中のマンガン不純物レベルが高くなる。一方、酸化剤の量が多すぎると、マンガンとともにコバルトも酸化され、共沈するコバルトの一定量が固液分離により除去されることになる。
【0039】
所定の範囲のORP値を得るために溶液に添加する酸化剤の量を調節することによって、溶液中に含まれるほぼすべてのマンガン量が酸化され、かつコバルトのマンガンとの共沈は抑制される。生成したマンガン沈殿物は固液分離により除去され、得られた濾液中に含まれるマンガン量はほぼゼロ(10ppm以下)である。
【0040】
酸化剤として使用されるNaOClは、市場で入手し得るNaOCl溶液を好ましくは水で10g/L程度の濃度に希釈して使用することができる。
【0041】
酸化剤の添加は溶液のpHを低下させる。沈殿反応は水素イオンの放出を伴い、これがpHを低下させるからである。溶液のpHが高すぎるとORPを望ましいレベルに上げることが困難となるため、酸化剤を添加して沈殿を生成させる工程における溶液のpHは1.5〜2.5の範囲に維持されるのが好ましい。沈殿生成中のpH調整はマンガン除去を望ましく達成するために必要とされる。pHが1.5未満であるとマンガンの沈殿が不完全となるため、溶液のpHが酸性側に行きすぎると、塩基性化合物を加えてpHを1.5以上に上げることが好ましい。一方、pHが2.5を超えるとCo(OH)2の沈殿が生じるため、酸性化合物を加えてpHを2.5以下に下げることが好ましい。
【0042】
酸化により沈殿を生成させる時、酸化剤を添加することによりORPは標準水素電極(SHE)に対して1100mV以上に調節される。ORPは1150mV以上がより好ましく、1200mV以上が最も好ましい。ORPが1100mV未満であると、マンガンの酸化が不完全となるため、固液分離によりマンガン含量が10ppm以下の精製コバルト溶液を得るのが困難となる。
【0043】
一方、ORPが1300mVを超えると、コバルトの共沈の割合が高くなる。そのため、ORPは標準水素電極(SHE)に対して1300mV以下に調節されるのが好ましく、1250mV以下がより好ましい。
【0044】
酸化剤を添加して沈殿を生成させる工程における溶液の温度は、酸化反応が進むのであれば特に制限されない。溶液温度が低すぎると、マンガン酸化効率が低下するため、好ましい温度は20℃以上、より好ましい温度は40℃以上である。一方、溶液温度が高すぎて沸点に達すると、硫酸コバルトの結晶が析出しやすいため、溶液温度は好ましくは100℃以下であり、より好ましくは60℃以下である。
【0045】
酸化されたマンガンは酸化反応中に沈殿し懸濁液を生成する。懸濁液を固液分離する時の分離を速やかに行うため、マンガン沈殿物は凝集させて粒子サイズを大きくするのが好ましい。酸化剤の添加速度が大きすぎると、マンガン沈殿物の粒子サイズは望ましい分離速度を達成するほどの大きさにならない。そのため、固液分離後に得られる溶液が10ppm以上のマンガンを含むことになるだけでなく、濾過に長い時間がかかることになり、分離効率が低下する。一方、酸化剤の添加速度が遅すぎると、プロセス自身の効率が低下するため、より大きな反応器が必要になる。
【0046】
酸化剤の添加は、例えばコバルト200g、マンガン0.1gを含む硫酸コバルト溶液2Lに対して、NaOCl1gを10〜40分の時間で添加するのが好ましい。溶液中のマンガンがほぼ完全に酸化されるとともに、凝集したマンガン沈殿物のサイズが分離の速度及び効率を促進するに十分な大きさとなるからである。これにより、得られた濾液中のマンガン濃度は10ppm以下となり、濾過時間も短縮される。酸化剤としてのNaOClの好ましい添加速度は、硫酸コバルト溶液1L当り0.01〜0.05g/分であり、最も好ましくは0.015〜0.02g/分である。
【0047】
マンガン酸化後、得られた懸濁液は固液分離される。固液分離の方法として、濾過又は遠心分離等の公知の手段を使用することができる。
【0048】
本発明では濾過を使用することが好ましい。懸濁液の濾過には、従来使われているフィルター材料を使用することができる。
【0049】
濾過により、マンガンは固体沈殿物として溶液から除去される。マンガンはフィルターケーキとして集められ、出発溶液中に含まれたほぼすべてのマンガン量が濾過により除去される。濾液には出発溶液中に含まれた実質的にすべてのコバルト量が残存し、かつマンガン量は10ppm以下である。すなわち、本発明の方法により酸化プロセスの中でコバルトの酸化は抑制され、濾過によりマンガンとともに除去されるコバルト量は極めて少量であり、通常1%以下である。
【0050】
本発明は、バッチプロセス又は連続プロセスのいずれでも実施することができる。連続プロセスで実施する場合は、好ましくは2つ以上の反応器を使用し、最後の反応器から出てくる生成懸濁液は続いて固液分離手段により処理すればよい。
【実施例】
【0051】
以下に本発明の内容を更に具体的に実施例により説明するが、本発明は実施例の内容に限定されることはない。
[実施例1]
試験は、邪魔板(4枚)、攪拌装置、レドックス電極、pH電極及び温度制御装置を備えた2Lの反応器を用いて行った。
【0052】
100g/L濃度のコバルト及び50mg/L濃度のマンガンを含有するpH5の硫酸コバルト溶液を、各々の炭酸塩の相当量を硫酸に溶解させて調製した。
【0053】
反応器にpH5に調整した2Lの硫酸コバルト溶液を入れ、50℃の操作温度に加熱した。その後、NaOClの希釈水溶液(10g/L)を表1に示す所定量だけ溶液中に加えた。硫酸コバルト溶液のORP(mV)は表1に示すように変動した。
【0054】
ORPを所定のレベルに調節した後、生じた懸濁液をブフナ−漏斗を使って減圧濾過し、得られた濾液中のマンガン含量を分析した。試験No.3〜5については、コバルトの共沈の程度を調べるため、フィルターケーキを酸に溶解して溶解液中のコバルト及びマンガン量を分析した。反応溶液のpHは調節せずに反応による低下のままに任せた。表1に示されるpH値は酸化プロセス終了時の測定値である。
【0055】
結果を表1に示した。
【0056】
【表1】

【0057】
上記の結果から、マンガン除去の程度とコバルト共沈の程度はORPに影響され、マンガン除去の効果はORPが1100mV以上で顕著となり、一方コバルト共沈量はORPが1300mVを超えると増加することがわかる。
【0058】
また、操作温度を変えて同様の試験を行ったところ、マンガン除去の程度は50℃とほぼ同じレベルであった。
[実施例2]
試験は、NaOClの希釈水溶液(10g/L)100mLを表2に示す各時間をかけて添加することにより行い、沈殿するマンガン酸化物の粒子サイズ、濾過時間及び濾液中マンガン濃度への影響を調べた。NaOCl水溶液の全量を添加後、直ちに懸濁液を取り出し、実施例1で使ったのと同じフィルターを使用して減圧濾過した。濾過後、フィルターケーキの粒子サイズをMicrotrac製の粒径分析装置を使用して測定した。
【0059】
結果を表2に示した。
【0060】
【表2】

【0061】
上記の結果から、NaOClの添加速度が遅くなると、沈殿の粒子サイズは大きくなり濾過時間は短縮されることがわかる。また、NaOClの添加によりマンガンは極めて速やかに酸化されて沈殿したことから、本発明の方法はバッチ式にも連続式にも適することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともコバルトイオンとマンガンイオンを含有する硫酸コバルト溶液からマンガンイオンを除去する方法であって、硫酸コバルト溶液のpHを2.5〜6の範囲に調整する第1工程、得られた溶液に酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを加え、標準水素電極に対して1100〜1300mVの範囲の酸化還元電位とし、マンガンを沈殿させる第2工程及び沈殿させたマンガンを硫酸コバルト溶液から除去する第3工程を備える方法。
【請求項2】
前記第2工程における硫酸コバルト溶液のpHを1.5〜2.5の範囲に調整する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2工程における硫酸コバルト溶液の温度を20〜100℃の範囲に調整する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2工程において、次亜塩素酸ナトリウムを硫酸コバルト溶液1リットル当り0.01〜0.05グラム/分の速度で加える請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第3工程において、沈殿させたマンガンを固液分離手段により除去する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記固液分離手段として濾過を用いる請求項5に記載の方法。