硫酸化処理された固体酸触媒およびその使用
【課題】
酸触媒反応に有効な固体酸触媒を提供することを課題とする。
即ち、シクロアルカノンオキシム化合物からベックマン転位反応により対応するラクタム化合物を製造するに際し、温和な反応条件下において高収率でラクタム化合物を製造するための固体酸触媒の簡便な調製法を提供することを課題とする。
【解決手段】
硫酸化処理を行った複合酸化物で、X線回折パターン(Cu−Kα線)において2θ=2.0〜2.5°の範囲にヘキサゴナル構造のd100に帰属されるピークを有し、窒素吸着等温線におけるP/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量が全吸着量の20〜60%である固体酸触媒により達成できる。
酸触媒反応に有効な固体酸触媒を提供することを課題とする。
即ち、シクロアルカノンオキシム化合物からベックマン転位反応により対応するラクタム化合物を製造するに際し、温和な反応条件下において高収率でラクタム化合物を製造するための固体酸触媒の簡便な調製法を提供することを課題とする。
【解決手段】
硫酸化処理を行った複合酸化物で、X線回折パターン(Cu−Kα線)において2θ=2.0〜2.5°の範囲にヘキサゴナル構造のd100に帰属されるピークを有し、窒素吸着等温線におけるP/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量が全吸着量の20〜60%である固体酸触媒により達成できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸触媒反応に高い活性を有する、環境に優しい固体酸触媒およびその使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルキル化反応、エステル化反応、ベックマン転位反応等の酸触媒反応には、硫酸、塩化アルミニウム、フッ化水素、リン酸等の酸触媒が用いられている。しかし、これらの酸触媒は分離回収が困難であり、また装置の腐食や廃酸処理の問題があった。
この問題を解決する酸触媒として、例えば、アルミナ、チタニア等の単独金属酸化物、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、アルミナ−ボリア等の複合酸化物、ZSM−5、β−ゼオライト(ベータゼオライト)等のゼオライト、モンモリロナイト等の粘土鉱物等、多くの固体酸触媒が知られている(例えば非特許文献1参照)。しかし、これらの固体酸触媒は酸強度が比較的弱いために、反応系によっては固体酸触媒として十分な活性を示さない場合があった。
これに対し、強酸性を有する固体酸触媒として、周期律表第IV族金属水酸化物もしくは酸化物を5〜20倍重量の0.01〜5モル濃度の硫酸根含有溶液と接触させた後350〜800℃の温度範囲で焼成して硫酸化した、酸強度(H0)が−10.6より強い固体酸触媒が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかし、この酸触媒は、強酸点を有するものの、細孔の大きさが均一でないため、例えばゼオライト触媒やメソ多孔質触媒で認められるような、細孔を活用した形状選択的な触媒反応を期待することはできない。また、比表面積が小さいため、触媒を構成する全IV族金属量のうち表面に露出しているIV族金属量の割合が小さい。これは、高価な全IV族金属の一部しか触媒活性点として機能していないことになり、資源の有効利用、環境保護、触媒コストの観点から好ましく無い。
こうした中で、近年、強酸性質を有する固体酸触媒において、その物性を高度に制御する試みがなされている。しかし、以下に述べるように、触媒調製法において未だ多くの課題が残されており、物性を設計どおりに付与するには至っていないのが現状である。
例えば、比表面積を大きくするために高比表面積メソ多孔質ゼオライトを担体として使用し、これに金属酸化物および硫酸根を担持した固体酸触媒が提案されている(例えば特許文献2参照)。しかし、予め合成した担体に対して活性金属種を担持するこの方法は、調製が簡便である反面、活性金属種粒子が担体の細孔を閉塞する場合がある。これにより、これにより、元々担体が有していた高比表面積が大きく低下してしまう。例えば、特許文献2において、約1200m2/gの担体を使用したにもかかわらず、水酸化ジルコニウムおよび硫酸根担持後には約300m2/gへと激減することが示されている。
また、高比表面積で、かつ活性金属種の分散性も向上させた固体酸触媒を調製する方法として、高比表面積複合酸化物に対して硫酸根を担持する試みもなされている(例えば非特許文献2参照)。しかし、非特許文献2では硫酸根原料として、硫酸化に一般的に用いられる硫酸を使用しており、硫酸化処理によって表面積が約800m2/gから約400m2/gへと大きく低下している。この調製方法は、高比表面積複合酸化物の構造変化を招き、結果として、活性金属種の高分散性および高比表面積といった優れた性質を損なってしまう。
【0003】
一方、シクロヘキサノンオキシムの転位によるε−カプロラクタムの工業的製造では、酸触媒として発煙硫酸が使用されている。しかし、この方法ではε−カプロラクタムを分離回収するために、通常、硫酸等の強酸をアンモニアで中和する必要があり、大量の硫酸アンモニウムが副生する。また、上述のように、装置の腐食など工程上の問題も多く、効率的な転位用触媒の開発が期待されている。
【0004】
そこで、硫酸触媒を使用しない液相でのベックマン転位反応に関し、均一系触媒或いは不均一系触媒について種々の検討が行われてきている。しかし、均一系触媒は、触媒の分離が煩雑となるため、工業的には触媒分離が容易な不均一系触媒がより好ましい。
不均一系触媒に関してはレニウム化合物を触媒として使用する方法、亜鉛を含有したベータゼオライトを触媒とする方法、酸化ジルコニウムや酸化チタン、酸化アルミニウム等のIV属、III属金属の酸化物を担体にパラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等のVIII属金属を担持した触媒を使用する方法、イミニウムイオンを担持したゼオライトを触媒とする方法、固体触媒存在下、誘電率が6〜60の範囲にある化合物を共存させて反応を行う方法等が提案されている。
しかしながら、レニウム化合物を触媒とした方法(例えば特許文献3参照)では、カプロラクタム選択率が極めて低い。更に反応温度も200℃以上と高い。
同様レニウム化合物を触媒とした方法(例えば特許文献4参照)は転化率100%、カプロラクタム収率81.4モル%と高いが、ピリジン等の含窒素複素環化合物を併用するため、反応系が複雑になっている。
亜鉛を含有したベータゼオライトを触媒とする方法(例えば特許文献5参照)では、反応温度130℃で転化率47モル%、カプロラクタム選択率72モル%(収率では34モル%)といずれも低い。
酸化ジルコニウムや酸化チタン、酸化アルミニウム等のIV属、III属金属の酸化物を担体にパラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等のVIII属金属を担持した触媒を使用する方法(例えば特許文献6参照)は転化率、収率ともに高いが、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等の貴金属も高価で価格変動も大きく、工業的に実施するには満足しうるものではない。
イミニウムイオンを担持したゼオライトを触媒とする方法(例えば特許文献7参照)は、触媒調製法が複雑であるうえ、シクロヘキサノンオキシム転化率が34%と低い。
固体酸触媒存在下、誘電率が6〜60の範囲にある化合物を共存させて反応を行う方法(例えば特許文献8参照)は、誘電率が6〜60の範囲にある化合物の共存効果は認められるものの、使用している固体酸触媒の触媒能が不十分であるため、カプロラクタム収率が低くとどまっている。例えば、誘電率が6〜60の範囲にある化合物として脱水ベンゾニトリルを使用した場合、固体酸触媒がベータゼオライトのときカプロラクタム収率53%、Zn含有ベータゼオライトのとき同33%、Y型ゼオライトのとき同61%、SiO2担持ヘテロポリ酸のとき同36%、Al含有メソポーラス触媒のとき同26%である。
【0005】
【非特許文献1】触媒の辞典(朝倉書店)236ページ
【非特許文献2】Materials Letters 57(2003)2572−2579
【特許文献1】特公昭59−6181号公報
【特許文献2】特開2000−42416号公報
【特許文献3】特開平08−151362号公報
【特許文献4】特開平09−301952号公報
【特許文献5】特開2001−19670号公報
【特許文献6】特開昭62−169769号公報
【特許文献7】特開平09−40641号公報
【特許文献8】特開2001−72657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、酸触媒反応に有効な、メソ孔を有する硫酸化された固体酸触媒を提供することを課題とする。
特に、シクロアルカノンオキシム化合物からベックマン転位反応により対応するラクタム化合物を製造するに際し、温和な反応条件下において高収率でラクタム化合物を製造する触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、硫酸化処理を行った複合酸化物で、X線回折パターン(Cu−Kα線)において2θ=2.0〜2.5°の範囲にヘキサゴナル構造のd100に帰属されるピークを有し、窒素吸着等温線におけるP/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量が全吸着量の20〜60%である固体酸触媒により達成できる。
さらに、この固体酸触媒を用いれば、強酸不在下でも、シクロアルカノンオキシム化合物のベックマン転位反応が効率よく進行し、副生オリゴマーも少なく、対応するラクタム化合物が有利に製造できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の触媒を用いることで、酸触媒反応を効率よく進行させることができる。特に、シクロアルカノンオキシム化合物からラクタム化合物を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の硫酸化処理とは、硫酸イオンあるいは三酸化硫黄で複合酸化物を処理する工程であり、使用する硫酸化処理剤は、硫黄を含むものならば特に制限されない。これらの硫黄含有化合物として、例えば、SO2、SO3、SnOn(n=5〜8)、H2SO4、発煙硫酸、(NH4)2SO4、H2SO3、H2S2On(n=3〜7)、FSO3H、CF3SO3H,ClSO3H、SOCl2、SO2Cl2、TiSO4等の金属硫酸塩が挙げられる。これらは単独でも混合して使用しても良い。
これらの化合物のうち、常温で気体の化合物は、そのままあるいは不活性ガスに希釈して、酸化あるいは熱分解させてあるいは熱分解させた後に酸化して、三酸化硫黄として使用できる。常温で固体あるいは液体の化合物は、そのままあるいは気化してあるいは熱分解して使用できる。気化あるいは熱分解した場合は、そのままあるいは不活性ガスに希釈してあるいは酸化して三酸化硫黄として使用できる。
好ましくは、常温で気体の二酸化硫黄(SO2)を酸化した三酸化硫黄(SO3)が使用され、二酸化硫黄の場合、例えば不活性ガス等で希釈したものが使用できる。
二酸化硫黄の酸化は、通常酸素にて酸化されるが、オゾンあるいは過酸化物などの酸化剤も使用することができる。
酸素酸化については、特に制限されず、純酸素、空気、または不活性ガス等で希釈したもの等が使用できる。ただし、いずれも含有水分量が少ないものが好ましい。具体的には、導入する気体の水分量は、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは100ppm、さらに好ましくは10ppm以下、最も好ましくは、1ppm以下に制御したものである。
酸化触媒は、二酸化硫黄を酸化する能力を有する触媒であれば特に制限されないが、例えば、バナジウム、銅、鉄、コバルト、ニッケルのいずれか1種以上を含有する触媒が好適に使用できる。好ましくはバナジウムである。
これらの酸化触媒は、その役割から通常は、複合酸化物の上流部に充填される。
【0010】
本発明で使用する硫酸化処理する前の複合酸化物は、X線回折パターン(Cu−Kα線)において2θ=2.0〜2.5°の範囲にヘキサゴナル構造のd100に帰属されるピークを有し、窒素吸着等温線のP/P0=0.2〜0.6の範囲において、多量の窒素吸着が認められるものであればいずれも使用できる。例えば、HMS、MCM−41等のヘキサゴナル構造を有する多孔性酸化物に金属を導入したものが挙げられる。
比表面積は、特に制限はないが、好ましくは500m2/gより大きく、より好ましくは600m2/g以上、更に好ましくは800〜1200m2/gである。
【0011】
複合酸化物を構成する元素は、具体的には、第4〜14族(族番号に1−18の通し番号を用いる1989年改訂のIUPAC無機化学命名法に従う)による族番号からなる群より選ばれる1種以上(ただし炭素は除く)が挙げられる。
第4〜14族から選ばれる少なくとも1元素としては、4族のチタン、ジルコニウム、ハフニウム、5族のバナジウム、ネオビウム、タンタル、6族のクロム、モリブデン、タングステン、7族のマンガン、レニウム、8族の鉄、ルテニウム、オスミウム、9族のコバルト、ロジウム、イリジウム、10族のニッケル、パラジウム、白金、11族の銅、銀、金、12族の亜鉛、カドミウム、水銀、13族のホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、14族の珪素、ゲルマニウム、スズ、鉛が挙げられる。好ましくは、チタン、ジルコニウム、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛および珪素である。より好ましくはジルコニウム、アルミニウム、ガリウムおよび珪素である。
これらの元素は2種以上さらには3種以上を混合して使用しても何ら、問題はない。
【0012】
複合酸化物に対する硫酸化処理の形態は特に制限されない。例えば三酸化硫黄を気相で直接接触させてもよい。或いは、二酸化硫黄(または硫黄含有化合物)、酸素および上記記載の酸化触媒共存下で気相接触させることもできる。該気相接触させる方法の一例としては、石英管の下層部に複合酸化物を、その上層部に酸化触媒をそれぞれ充填し、二酸化硫黄(または硫黄含有化合物)と酸素を含有するガスと100〜800℃、好ましくは200〜700℃の温度で、10分〜1000時間の範囲内で気相接触させる。なおこの場合は、ガスを上層部から下層部方向へ流通させる。ガス中で生成する三酸化硫黄の濃度は特に制限されないが、全硫黄含有化合物供給量が複合酸化物1gに対し0.1ミリモル〜100モルが好ましい。酸素濃度も特に制限されないが、気体の硫黄含有化合物に対し0.1〜1000倍モル量が好ましい。
【0013】
三酸化硫黄と気相で接触処理する前の複合酸化物(酸化物或いは水酸化物の形態もありうる。)には、水や有機物が付着している場合もあるため、前処理として空気中又は不活性ガス雰囲気下(好ましくは空気又は不活性ガスを流通させながら)焼成することもできる。
また、硫酸化処理した複合酸化物の触媒表面に弱く物理吸着した硫黄含有化合物を除くため、後処理として空気中又は不活性ガス雰囲気下(好ましくは空気又は不活性ガスを流通させながら)焼成することが好ましい。前処理と後処理の焼成温度と焼成時間は特に制限されず、場合に応じて選択できるが、好ましくは100〜800℃、1分〜100時間である。
【0014】
このようにして得られた本発明の固体酸触媒は、硫酸化処理後、焼成を行った複合酸化物で、X線回折パターン(Cu−Kα線)において2θ=2.0〜2.5°の範囲にヘキサゴナル構造のd100に帰属されるピークを保持し、窒素吸着等温線におけるP/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量が全吸着量の20〜60%のものである。
なお、P/P0=0.2〜0.6の範囲は、メソ孔の存在を示唆するものである。
また、焼成を行った複合酸化物の比表面積も、好ましくは500m2/gより大きく、より好ましくは600m2/g以上、更に好ましくは800〜1200m2/gを保持したものである。
また、硫黄含有量としては、5重量%未満で十分であり、好ましくは、1〜4重量%である。
上記の物性値の範囲外でも、触媒作用に特別大きな影響は与えないが、上記範囲内であれば、経済的であり効率的でもある。
このような物性を有する固体酸触媒は、種々の触媒反応に効果的に使用できる。
【0015】
例えばアルキル化、アシル化、オリゴマー化、異性化、水和、脱水、エーテル化、エステル化、水素化分解、有機化合物のニトロ化、転位などの反応に使用でき、特に、シクロアルカノンオキシム化合物からベックマン転位反応により対応するラクタム化合物を製造する際の触媒として効果的に使用される。
【0016】
本発明で使用するシクロアルカノンオキシム化合物は、好ましくは炭素数5〜12個を有する環状脂肪族炭化水素オキシム化合物である。具体的には、シクロペンタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、シクロヘプタノンオキシム、シクロオクタノンオキシム、シクロノナノンオキシム、シクロデカノンオキシム、シクロウンデカノンオキシム、シクロドデカノンオキシムが挙げられる。好ましくは、シクロヘキサノンオキシム、シクロドデカノンオキシムである。
これらシクロアルカノンオキシムは、塩の形で使用することもできる。塩としては、塩酸塩や硫酸塩で使用される。
また、これらのシクロアルカノンオキシム化合物は、単独での使用ならびに2種以上を混合して使用しても何ら問題はない。
【0017】
本発明で得られる対応するラクタム化合物の具体例としては、シクロペンタノンオキシムからはバレロラクタム、シクロヘキサノンオキシムからはカプロラクタム、シクロヘプタノンオキシムからはエナントラクタム、シクロドデカノンオキシムからはラウロラクタムが挙げられる。
【0018】
本発明のベックマン転位反応は、特に制限されず、気相反応、トリクル反応および液相反応にて実施されるが、好ましくは液相反応である。
液相反応では、必ずしも溶媒を使用する必要はない。溶媒を使用する場合の具体例としては、例えばベンゾニトリル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、カプロニトリル、アジポニトリル、トルニトリル等のニトリル化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、メトキシベンゼン等の芳香族炭化水素化合物、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ドデカン等の脂肪族炭化水素化合物、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、マロン酸ジメチル等のエステル化合物、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール化合物、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド化合物、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル化合物、クロロベンゼン等の含ハロゲン炭化水素化合物等を挙げることができ、これらを単独でも混合しても使用できる。好ましくはニトリル化合物である。 これら溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、シクロアルカノンオキシム化合物に対し、0.1〜10000重量倍、好ましくは1〜1000重量倍、さらに好ましくは2〜100重量倍、より好ましくは3〜50重量倍である。
【0019】
上述の方法によって製造した固体酸触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、シクロアルカノンオキシム化合物に対し0.000001〜10重量倍用いることができる。
【0020】
本発明の好ましい形態である液相中でのベックマン転位反応は、通常、シクロアルカノンオキシム化合物、固体酸触媒を、適当な溶媒に導入後、加熱することによって行われる。反応は、通常空気または転位反応に不活性なガスの存在下、好ましくは転位反応に不活性なガスの存在下で行う。転位反応に不活性なガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。反応温度は、通常30〜350℃、好ましくは50〜250℃、さらに好ましくは60〜200℃で実施される。反応圧力は、特に限定されるものではなく、常圧下、加圧下いずれでも実施される。
転位反応温度が低すぎると、反応がほとんど進行しない。また、反応温度が高すぎると副反応が進行し、目的物のラクタムの収率が減少し、好ましくない。
反応形式はバッチ反応、連続流通反応いずれでも良く、また縣濁床、固定床、流動床のいずれでも実施される。反応時間或いは滞留時間は反応条件により異なるが、1分〜24時間で実施される。
【0021】
得られるラクタム化合物は、晶析、蒸留操作等により分離・精製される。
【0022】
(複合酸化物合成例)
次に、本発明において使用した複合酸化物の合成方法を説明する。
なお、複合酸化物の構成成分原子比はICP−AES測定装置(ICAP−575II型;日本ジャーレル・アッシュ社製)を用いるICP分析により、比表面積は高速比表面積・細孔径分布測定装置(NOVA−1200;ユアサアイオニクス社製)を用いる窒素吸着によるBET比表面積測定(120℃真空下で30分間前処理)により、X線回折パターン(Cu−Kα線)は粉末X線回折装置(RAD−RX:理学電機社製)を用いてそれぞれ測定した。
【0023】
(複合酸化物合成例1)
テトラエチルオルトシリケート200mmolと70wt%ジルコニウムプロポキシド/プロパノール溶液10mmolを混合し室温で1分攪拌した。得られた溶液(1)を、ドデシルアミン60mmolとエタノール1.3molと水7.2molの混合液(2)に加えて室温で1時間激しく攪拌した。生成した白色ゲルを室温で113時間熟成させた後、白色固体を濾取して水及びエタノールで洗浄し、105℃で24時間乾燥した。次いで、空気中、室温から600℃まで5℃/分で昇温して、600℃で1時間焼成した。
窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の27%であった。また、BET比表面積は993m2/gであった。更に、X線回折測定(Cu−Kα線)より、2θ=2.3°付近に六角形細孔を有する多孔体に特徴的なヘキサゴナル構造のd100に帰属される鋭い回折ピークが観察されたことから、得られた複合酸化物が六角形細孔を有するメソ多孔体であることが確認された。窒素吸着等温線を図1に、X線回折パターン(XRDスペクトルと記載することもある。)を図2にそれぞれ示す。この複合酸化物についてICP分析を行ったところ、Si/Zr(原子比)=16であった。以下、これをZr−MS−16と略記する。
【0024】
(複合酸化物合成例2)
テトラエチルオルトシリケート200mmolとエタノール1.3molとイソプロパノール200mmolを混合し、これに硝酸ガリウム4.0mmolを加えて室温で20分攪拌した。得られた混合液(1)を、ドデシルアミン60mmolと水7.2molの混合液(2)に加えて室温で1時間激しく攪拌した。生成した白色ゲルを室温で113時間熟成させた後、白色固体を濾取して水及びエタノールで洗浄し、105℃で24時間乾燥した。次いで、空気中、室温から600℃まで5℃/分で昇温して、600℃で1時間焼成した。
窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の30%であった。また、BET比表面積は921m2/gであった。更に、X線回折測定(Cu−Kα線)より、得られた複合酸化物が六角形細孔を有するメソ多孔体であることが確認された。窒素吸着等温線を図3に、X線回折パターンを図4にそれぞれ示す。ICP分析より、Si/Ga(原子比)=50であった。以下、これをGa−MS−50と略記する。
【0025】
(複合酸化物合成例3)
テトラエチルオルトシリケート200mmolとエタノール1.3molとイソプロパノール200mmolを混合し、これにアルミニウムイソプロポキシド4.0mmolを加えて70℃で20分攪拌した。得られた混合液(1)を、ドデシルアミン60mmolと水7.2molの混合液(2)に加えて室温で1時間激しく攪拌した。生成した白色ゲルを室温で113時間熟成させた後、白色固体を濾取して水及びエタノールで洗浄し、105℃で24時間乾燥した。次いで、空気中、室温から600℃まで5℃/分で昇温して、600℃で1時間焼成した。
窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の35%であった。また、BET比表面積は1020m2/gであった。更に、X線回折測定(Cu−Kα線)より、得られた複合酸化物が六角形細孔を有するメソ多孔体であることが確認された。窒素吸着等温線を図5に、X線回折パターンを図6にそれぞれ示す。ICP分析より、Si/Al(原子比)=50であった。以下、これをAl−MS−50と略記する。
【実施例】
【0026】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、固体酸触媒の硫黄含有量を全自動蛍光X線分析装置(PW−2400型:PHILIPS社製)を用いて測定した。シクロアルカノンオキシム化合物の転化率およびラクタム化合物の収率は、反応液を液体クロマトグラフィーで分析し、算出した。
【0027】
実施例1
石英製ガラス管の下層にZr−MS−16(複合酸化物)を0.6g、上層に7wt%五酸化バナジウム/シリカ触媒(酸化触媒)8gを充填し、40ml/分の窒素ベース5000ppmSO2ガスと100ml/分のG2グレード純空気(JFP製品規格)の混合ガスと、420℃において18時間接触させた。なお、前処理として空気(100ml/分)気流下600℃で30分、後処理として空気(100ml/分)気流下420℃で1時間焼成をそれぞれ行った。
得られた固体酸触媒について分析を行ったところ、窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の27%であった。また、BET比表面積は828m2/gであった。更に、X線回折測定(Cu−Kα線)より、2θ=2.3°付近に六角形細孔を有する多孔体に特徴的なヘキサゴナル構造のd100に帰属される鋭い回折ピークが観察されたことから、メソ孔を保持していることが確認された。窒素吸着等温線を図7に、X線回折パターンを図2にそれぞれ示す。なお、触媒の硫黄含有量は、2.2重量%であった。以下、これをZr−MS−16−SO3と略記する。
なお、複合酸化物と接触した後の混合ガス(排ガス)を水と1時間接触させ、その水に含まれる硫酸イオンおよび亜硫酸イオンをイオンクロマト分析にて行ったところ、硫酸イオンおよび亜硫酸イオンをそれぞれ0.058mmol、0.019mmol検出した。
Zr−MS−16−SO30.05gと50℃で12時間減圧乾燥処理をしたシクロドデカノンオキシム2.5mmolとベンゾニトリル5.0gを50mlガラス製フラスコに充填し、90℃で4時間反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は89.6モル%、ラウロラクタムの収率は83.0モル%であった。
【0028】
比較例1
Zr−MS−16の2gを10mlの1規定H2SO4水溶液に浸し、濾過した後、105℃で24時間乾燥した。この乾燥物を空気中、室温から400℃まで5℃/分で昇温して、400℃で3時間焼成した。
得られた固体酸触媒について分析を行ったところ、窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の17%であった。また、BET比表面積は579m2/gであった。窒素吸着等温線を図8に示す。以下、これをZr−MS−16−H2SO4と略記する。
Zr−MS−16−H2SO4を用いて、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は66.8モル%、ラウロラクタムの収率は60.2モル%であった。
【0029】
比較例2
触媒をZr−MS−16に変えたほかは、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は26.1モル%、ラウロラクタムの収率は19.3モル%であった。
【0030】
実施例2
複合酸化物をGa−MS−50に変えたほかは、実施例1と同様に触媒を調製した。
得られた固体酸触媒について分析を行ったところ、窒素吸着によるBET比表面積測定よ
り、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の30%であった。また、BET比表面積は830m2/gであった。更に、X線回折測定(Cu−Kα線)より、2θ=2.3°付近に六角形細孔を有する多孔体に特徴的なヘキサゴナル構造のd100に帰属される鋭い回折ピークが観察されたことから、メソ孔を保持していることが確認された。窒素吸着等温線を図9に、X線回折パターンを図4にそれぞれ示す。なお、触媒の硫黄含有量は、2.1重量%であった。以下、これをGa−MS−50−SO3と略記する。
Ga−MS−50−SO3を用いて、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は97.8モル%、ラウロラクタムの収率は93.3モル%であった。
【0031】
比較例3
複合酸化物をGa−MS−50に変えたほかは、比較例1と同様に触媒の調製を行った。
得られた固体酸触媒について分析を行ったところ、窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の19%であった。また、BET比表面積は851m2/gであった。窒素吸着等温線を図10に示す。以下、これをGa−MS−50−H2SO4と略記する。
Ga−MS−50−H2SO4を用いて、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は55.3モル%、ラウロラクタムの収率は48.2モル%であった。
【0032】
比較例4
触媒をGa−MS−50に変えたほかは、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は18.7モル%、ラウロラクタムの収率は12.3モル%であった。
【0033】
実施例3
複合酸化物をAl−MS−50に変えたほかは、実施例1と同様に触媒の調製を行った。
得られた固体酸触媒について分析を行ったところ、窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の30%であった。また、BET比表面積は900m2/gであった。更に、X線回折測定(Cu−Kα線)より、2θ=2.3°付近に六角形細孔を有する多孔体に特徴的なヘキサゴナル構造のd100に帰属される鋭い回折ピークが観察されたことから、メソ孔を保持していることが確認された。窒素吸着等温線を図11に、X線回折パターンを図6にそれぞれ示す。なお、触媒の硫黄含有量は、2.0重量%であった。以下、これをAl−MS−50−SO3と略記する。
Al−MS−50−SO3を用いて、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は90.9モル%、ラウロラクタムの収率は86.4モル%であった。
【0034】
比較例5
酸化物をAl−MS−50に変えたほかは、比較例1と同様に触媒の調製を行った。
得られた固体酸触媒について分析を行ったところ、窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の14%であった。また、BET比表面積は879m2/gであった。窒素吸着等温線を図12に示す。以下、これをAl−MS−50−H2SO4と略記する。
Al−MS−50−H2SO4を用いて、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は33.4モル%、ラウロラクタムの収率は32.0モル%であった。
【0035】
比較例6
触媒をAl−MS−50に変えたほかは、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は27.9モル%、ラウロラクタムの収率は27.3モル%であった。
【0036】
比較例7
7wt%五酸化バナジウム/シリカ触媒を充填しなかったほかは、実施例1と同様に触媒を調製した。
得られた触媒の物性値は実施例1と同等であった。
該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は18.5モル%、ラウロラクタムの収率は14.8モル%であった。
酸化触媒が存在しないと、SO2をSO3に酸化できず、固体酸触媒としての機能が発現しないことがわかった。
【0037】
以上、実施例1〜3および比較例1〜6をまとめて表1に示した。
【0038】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】Zr−MS−16の窒素吸着等温線を示したものである。
【図2】Zr−MS−16およびZr−MS−16−SO3のXRDスペクトルを示したものである。
【図3】Ga−MS−50の窒素吸着等温線を示したものである。
【図4】Ga−MS−50およびGa−MS−50−SO3のXRDスペクトルを示したものである。
【図5】Al−MS−50の窒素吸着等温線を示したものである。
【図6】Al−MS−50およびAl−MS−50−SO3のXRDスペクトルを示したものである。
【図7】Zr−MS−16−SO3の窒素吸着等温線を示したものである。
【図8】Zr−MS−16−H2SO4の窒素吸着等温線を示したものである。
【図9】Ga−MS−50−SO3の窒素吸着等温線を示したものである。
【図10】Ga−MS−50−H2SO4の窒素吸着等温線を示したものである。
【図11】Al−MS−50−SO3の窒素吸着等温線を示したものである。
【図12】Al−MS−16−H2SO4の窒素吸着等温線を示したものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸触媒反応に高い活性を有する、環境に優しい固体酸触媒およびその使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルキル化反応、エステル化反応、ベックマン転位反応等の酸触媒反応には、硫酸、塩化アルミニウム、フッ化水素、リン酸等の酸触媒が用いられている。しかし、これらの酸触媒は分離回収が困難であり、また装置の腐食や廃酸処理の問題があった。
この問題を解決する酸触媒として、例えば、アルミナ、チタニア等の単独金属酸化物、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、アルミナ−ボリア等の複合酸化物、ZSM−5、β−ゼオライト(ベータゼオライト)等のゼオライト、モンモリロナイト等の粘土鉱物等、多くの固体酸触媒が知られている(例えば非特許文献1参照)。しかし、これらの固体酸触媒は酸強度が比較的弱いために、反応系によっては固体酸触媒として十分な活性を示さない場合があった。
これに対し、強酸性を有する固体酸触媒として、周期律表第IV族金属水酸化物もしくは酸化物を5〜20倍重量の0.01〜5モル濃度の硫酸根含有溶液と接触させた後350〜800℃の温度範囲で焼成して硫酸化した、酸強度(H0)が−10.6より強い固体酸触媒が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかし、この酸触媒は、強酸点を有するものの、細孔の大きさが均一でないため、例えばゼオライト触媒やメソ多孔質触媒で認められるような、細孔を活用した形状選択的な触媒反応を期待することはできない。また、比表面積が小さいため、触媒を構成する全IV族金属量のうち表面に露出しているIV族金属量の割合が小さい。これは、高価な全IV族金属の一部しか触媒活性点として機能していないことになり、資源の有効利用、環境保護、触媒コストの観点から好ましく無い。
こうした中で、近年、強酸性質を有する固体酸触媒において、その物性を高度に制御する試みがなされている。しかし、以下に述べるように、触媒調製法において未だ多くの課題が残されており、物性を設計どおりに付与するには至っていないのが現状である。
例えば、比表面積を大きくするために高比表面積メソ多孔質ゼオライトを担体として使用し、これに金属酸化物および硫酸根を担持した固体酸触媒が提案されている(例えば特許文献2参照)。しかし、予め合成した担体に対して活性金属種を担持するこの方法は、調製が簡便である反面、活性金属種粒子が担体の細孔を閉塞する場合がある。これにより、これにより、元々担体が有していた高比表面積が大きく低下してしまう。例えば、特許文献2において、約1200m2/gの担体を使用したにもかかわらず、水酸化ジルコニウムおよび硫酸根担持後には約300m2/gへと激減することが示されている。
また、高比表面積で、かつ活性金属種の分散性も向上させた固体酸触媒を調製する方法として、高比表面積複合酸化物に対して硫酸根を担持する試みもなされている(例えば非特許文献2参照)。しかし、非特許文献2では硫酸根原料として、硫酸化に一般的に用いられる硫酸を使用しており、硫酸化処理によって表面積が約800m2/gから約400m2/gへと大きく低下している。この調製方法は、高比表面積複合酸化物の構造変化を招き、結果として、活性金属種の高分散性および高比表面積といった優れた性質を損なってしまう。
【0003】
一方、シクロヘキサノンオキシムの転位によるε−カプロラクタムの工業的製造では、酸触媒として発煙硫酸が使用されている。しかし、この方法ではε−カプロラクタムを分離回収するために、通常、硫酸等の強酸をアンモニアで中和する必要があり、大量の硫酸アンモニウムが副生する。また、上述のように、装置の腐食など工程上の問題も多く、効率的な転位用触媒の開発が期待されている。
【0004】
そこで、硫酸触媒を使用しない液相でのベックマン転位反応に関し、均一系触媒或いは不均一系触媒について種々の検討が行われてきている。しかし、均一系触媒は、触媒の分離が煩雑となるため、工業的には触媒分離が容易な不均一系触媒がより好ましい。
不均一系触媒に関してはレニウム化合物を触媒として使用する方法、亜鉛を含有したベータゼオライトを触媒とする方法、酸化ジルコニウムや酸化チタン、酸化アルミニウム等のIV属、III属金属の酸化物を担体にパラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等のVIII属金属を担持した触媒を使用する方法、イミニウムイオンを担持したゼオライトを触媒とする方法、固体触媒存在下、誘電率が6〜60の範囲にある化合物を共存させて反応を行う方法等が提案されている。
しかしながら、レニウム化合物を触媒とした方法(例えば特許文献3参照)では、カプロラクタム選択率が極めて低い。更に反応温度も200℃以上と高い。
同様レニウム化合物を触媒とした方法(例えば特許文献4参照)は転化率100%、カプロラクタム収率81.4モル%と高いが、ピリジン等の含窒素複素環化合物を併用するため、反応系が複雑になっている。
亜鉛を含有したベータゼオライトを触媒とする方法(例えば特許文献5参照)では、反応温度130℃で転化率47モル%、カプロラクタム選択率72モル%(収率では34モル%)といずれも低い。
酸化ジルコニウムや酸化チタン、酸化アルミニウム等のIV属、III属金属の酸化物を担体にパラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等のVIII属金属を担持した触媒を使用する方法(例えば特許文献6参照)は転化率、収率ともに高いが、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等の貴金属も高価で価格変動も大きく、工業的に実施するには満足しうるものではない。
イミニウムイオンを担持したゼオライトを触媒とする方法(例えば特許文献7参照)は、触媒調製法が複雑であるうえ、シクロヘキサノンオキシム転化率が34%と低い。
固体酸触媒存在下、誘電率が6〜60の範囲にある化合物を共存させて反応を行う方法(例えば特許文献8参照)は、誘電率が6〜60の範囲にある化合物の共存効果は認められるものの、使用している固体酸触媒の触媒能が不十分であるため、カプロラクタム収率が低くとどまっている。例えば、誘電率が6〜60の範囲にある化合物として脱水ベンゾニトリルを使用した場合、固体酸触媒がベータゼオライトのときカプロラクタム収率53%、Zn含有ベータゼオライトのとき同33%、Y型ゼオライトのとき同61%、SiO2担持ヘテロポリ酸のとき同36%、Al含有メソポーラス触媒のとき同26%である。
【0005】
【非特許文献1】触媒の辞典(朝倉書店)236ページ
【非特許文献2】Materials Letters 57(2003)2572−2579
【特許文献1】特公昭59−6181号公報
【特許文献2】特開2000−42416号公報
【特許文献3】特開平08−151362号公報
【特許文献4】特開平09−301952号公報
【特許文献5】特開2001−19670号公報
【特許文献6】特開昭62−169769号公報
【特許文献7】特開平09−40641号公報
【特許文献8】特開2001−72657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、酸触媒反応に有効な、メソ孔を有する硫酸化された固体酸触媒を提供することを課題とする。
特に、シクロアルカノンオキシム化合物からベックマン転位反応により対応するラクタム化合物を製造するに際し、温和な反応条件下において高収率でラクタム化合物を製造する触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、硫酸化処理を行った複合酸化物で、X線回折パターン(Cu−Kα線)において2θ=2.0〜2.5°の範囲にヘキサゴナル構造のd100に帰属されるピークを有し、窒素吸着等温線におけるP/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量が全吸着量の20〜60%である固体酸触媒により達成できる。
さらに、この固体酸触媒を用いれば、強酸不在下でも、シクロアルカノンオキシム化合物のベックマン転位反応が効率よく進行し、副生オリゴマーも少なく、対応するラクタム化合物が有利に製造できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の触媒を用いることで、酸触媒反応を効率よく進行させることができる。特に、シクロアルカノンオキシム化合物からラクタム化合物を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の硫酸化処理とは、硫酸イオンあるいは三酸化硫黄で複合酸化物を処理する工程であり、使用する硫酸化処理剤は、硫黄を含むものならば特に制限されない。これらの硫黄含有化合物として、例えば、SO2、SO3、SnOn(n=5〜8)、H2SO4、発煙硫酸、(NH4)2SO4、H2SO3、H2S2On(n=3〜7)、FSO3H、CF3SO3H,ClSO3H、SOCl2、SO2Cl2、TiSO4等の金属硫酸塩が挙げられる。これらは単独でも混合して使用しても良い。
これらの化合物のうち、常温で気体の化合物は、そのままあるいは不活性ガスに希釈して、酸化あるいは熱分解させてあるいは熱分解させた後に酸化して、三酸化硫黄として使用できる。常温で固体あるいは液体の化合物は、そのままあるいは気化してあるいは熱分解して使用できる。気化あるいは熱分解した場合は、そのままあるいは不活性ガスに希釈してあるいは酸化して三酸化硫黄として使用できる。
好ましくは、常温で気体の二酸化硫黄(SO2)を酸化した三酸化硫黄(SO3)が使用され、二酸化硫黄の場合、例えば不活性ガス等で希釈したものが使用できる。
二酸化硫黄の酸化は、通常酸素にて酸化されるが、オゾンあるいは過酸化物などの酸化剤も使用することができる。
酸素酸化については、特に制限されず、純酸素、空気、または不活性ガス等で希釈したもの等が使用できる。ただし、いずれも含有水分量が少ないものが好ましい。具体的には、導入する気体の水分量は、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは100ppm、さらに好ましくは10ppm以下、最も好ましくは、1ppm以下に制御したものである。
酸化触媒は、二酸化硫黄を酸化する能力を有する触媒であれば特に制限されないが、例えば、バナジウム、銅、鉄、コバルト、ニッケルのいずれか1種以上を含有する触媒が好適に使用できる。好ましくはバナジウムである。
これらの酸化触媒は、その役割から通常は、複合酸化物の上流部に充填される。
【0010】
本発明で使用する硫酸化処理する前の複合酸化物は、X線回折パターン(Cu−Kα線)において2θ=2.0〜2.5°の範囲にヘキサゴナル構造のd100に帰属されるピークを有し、窒素吸着等温線のP/P0=0.2〜0.6の範囲において、多量の窒素吸着が認められるものであればいずれも使用できる。例えば、HMS、MCM−41等のヘキサゴナル構造を有する多孔性酸化物に金属を導入したものが挙げられる。
比表面積は、特に制限はないが、好ましくは500m2/gより大きく、より好ましくは600m2/g以上、更に好ましくは800〜1200m2/gである。
【0011】
複合酸化物を構成する元素は、具体的には、第4〜14族(族番号に1−18の通し番号を用いる1989年改訂のIUPAC無機化学命名法に従う)による族番号からなる群より選ばれる1種以上(ただし炭素は除く)が挙げられる。
第4〜14族から選ばれる少なくとも1元素としては、4族のチタン、ジルコニウム、ハフニウム、5族のバナジウム、ネオビウム、タンタル、6族のクロム、モリブデン、タングステン、7族のマンガン、レニウム、8族の鉄、ルテニウム、オスミウム、9族のコバルト、ロジウム、イリジウム、10族のニッケル、パラジウム、白金、11族の銅、銀、金、12族の亜鉛、カドミウム、水銀、13族のホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、14族の珪素、ゲルマニウム、スズ、鉛が挙げられる。好ましくは、チタン、ジルコニウム、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛および珪素である。より好ましくはジルコニウム、アルミニウム、ガリウムおよび珪素である。
これらの元素は2種以上さらには3種以上を混合して使用しても何ら、問題はない。
【0012】
複合酸化物に対する硫酸化処理の形態は特に制限されない。例えば三酸化硫黄を気相で直接接触させてもよい。或いは、二酸化硫黄(または硫黄含有化合物)、酸素および上記記載の酸化触媒共存下で気相接触させることもできる。該気相接触させる方法の一例としては、石英管の下層部に複合酸化物を、その上層部に酸化触媒をそれぞれ充填し、二酸化硫黄(または硫黄含有化合物)と酸素を含有するガスと100〜800℃、好ましくは200〜700℃の温度で、10分〜1000時間の範囲内で気相接触させる。なおこの場合は、ガスを上層部から下層部方向へ流通させる。ガス中で生成する三酸化硫黄の濃度は特に制限されないが、全硫黄含有化合物供給量が複合酸化物1gに対し0.1ミリモル〜100モルが好ましい。酸素濃度も特に制限されないが、気体の硫黄含有化合物に対し0.1〜1000倍モル量が好ましい。
【0013】
三酸化硫黄と気相で接触処理する前の複合酸化物(酸化物或いは水酸化物の形態もありうる。)には、水や有機物が付着している場合もあるため、前処理として空気中又は不活性ガス雰囲気下(好ましくは空気又は不活性ガスを流通させながら)焼成することもできる。
また、硫酸化処理した複合酸化物の触媒表面に弱く物理吸着した硫黄含有化合物を除くため、後処理として空気中又は不活性ガス雰囲気下(好ましくは空気又は不活性ガスを流通させながら)焼成することが好ましい。前処理と後処理の焼成温度と焼成時間は特に制限されず、場合に応じて選択できるが、好ましくは100〜800℃、1分〜100時間である。
【0014】
このようにして得られた本発明の固体酸触媒は、硫酸化処理後、焼成を行った複合酸化物で、X線回折パターン(Cu−Kα線)において2θ=2.0〜2.5°の範囲にヘキサゴナル構造のd100に帰属されるピークを保持し、窒素吸着等温線におけるP/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量が全吸着量の20〜60%のものである。
なお、P/P0=0.2〜0.6の範囲は、メソ孔の存在を示唆するものである。
また、焼成を行った複合酸化物の比表面積も、好ましくは500m2/gより大きく、より好ましくは600m2/g以上、更に好ましくは800〜1200m2/gを保持したものである。
また、硫黄含有量としては、5重量%未満で十分であり、好ましくは、1〜4重量%である。
上記の物性値の範囲外でも、触媒作用に特別大きな影響は与えないが、上記範囲内であれば、経済的であり効率的でもある。
このような物性を有する固体酸触媒は、種々の触媒反応に効果的に使用できる。
【0015】
例えばアルキル化、アシル化、オリゴマー化、異性化、水和、脱水、エーテル化、エステル化、水素化分解、有機化合物のニトロ化、転位などの反応に使用でき、特に、シクロアルカノンオキシム化合物からベックマン転位反応により対応するラクタム化合物を製造する際の触媒として効果的に使用される。
【0016】
本発明で使用するシクロアルカノンオキシム化合物は、好ましくは炭素数5〜12個を有する環状脂肪族炭化水素オキシム化合物である。具体的には、シクロペンタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、シクロヘプタノンオキシム、シクロオクタノンオキシム、シクロノナノンオキシム、シクロデカノンオキシム、シクロウンデカノンオキシム、シクロドデカノンオキシムが挙げられる。好ましくは、シクロヘキサノンオキシム、シクロドデカノンオキシムである。
これらシクロアルカノンオキシムは、塩の形で使用することもできる。塩としては、塩酸塩や硫酸塩で使用される。
また、これらのシクロアルカノンオキシム化合物は、単独での使用ならびに2種以上を混合して使用しても何ら問題はない。
【0017】
本発明で得られる対応するラクタム化合物の具体例としては、シクロペンタノンオキシムからはバレロラクタム、シクロヘキサノンオキシムからはカプロラクタム、シクロヘプタノンオキシムからはエナントラクタム、シクロドデカノンオキシムからはラウロラクタムが挙げられる。
【0018】
本発明のベックマン転位反応は、特に制限されず、気相反応、トリクル反応および液相反応にて実施されるが、好ましくは液相反応である。
液相反応では、必ずしも溶媒を使用する必要はない。溶媒を使用する場合の具体例としては、例えばベンゾニトリル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、カプロニトリル、アジポニトリル、トルニトリル等のニトリル化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、メトキシベンゼン等の芳香族炭化水素化合物、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ドデカン等の脂肪族炭化水素化合物、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、マロン酸ジメチル等のエステル化合物、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール化合物、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド化合物、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル化合物、クロロベンゼン等の含ハロゲン炭化水素化合物等を挙げることができ、これらを単独でも混合しても使用できる。好ましくはニトリル化合物である。 これら溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、シクロアルカノンオキシム化合物に対し、0.1〜10000重量倍、好ましくは1〜1000重量倍、さらに好ましくは2〜100重量倍、より好ましくは3〜50重量倍である。
【0019】
上述の方法によって製造した固体酸触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、シクロアルカノンオキシム化合物に対し0.000001〜10重量倍用いることができる。
【0020】
本発明の好ましい形態である液相中でのベックマン転位反応は、通常、シクロアルカノンオキシム化合物、固体酸触媒を、適当な溶媒に導入後、加熱することによって行われる。反応は、通常空気または転位反応に不活性なガスの存在下、好ましくは転位反応に不活性なガスの存在下で行う。転位反応に不活性なガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。反応温度は、通常30〜350℃、好ましくは50〜250℃、さらに好ましくは60〜200℃で実施される。反応圧力は、特に限定されるものではなく、常圧下、加圧下いずれでも実施される。
転位反応温度が低すぎると、反応がほとんど進行しない。また、反応温度が高すぎると副反応が進行し、目的物のラクタムの収率が減少し、好ましくない。
反応形式はバッチ反応、連続流通反応いずれでも良く、また縣濁床、固定床、流動床のいずれでも実施される。反応時間或いは滞留時間は反応条件により異なるが、1分〜24時間で実施される。
【0021】
得られるラクタム化合物は、晶析、蒸留操作等により分離・精製される。
【0022】
(複合酸化物合成例)
次に、本発明において使用した複合酸化物の合成方法を説明する。
なお、複合酸化物の構成成分原子比はICP−AES測定装置(ICAP−575II型;日本ジャーレル・アッシュ社製)を用いるICP分析により、比表面積は高速比表面積・細孔径分布測定装置(NOVA−1200;ユアサアイオニクス社製)を用いる窒素吸着によるBET比表面積測定(120℃真空下で30分間前処理)により、X線回折パターン(Cu−Kα線)は粉末X線回折装置(RAD−RX:理学電機社製)を用いてそれぞれ測定した。
【0023】
(複合酸化物合成例1)
テトラエチルオルトシリケート200mmolと70wt%ジルコニウムプロポキシド/プロパノール溶液10mmolを混合し室温で1分攪拌した。得られた溶液(1)を、ドデシルアミン60mmolとエタノール1.3molと水7.2molの混合液(2)に加えて室温で1時間激しく攪拌した。生成した白色ゲルを室温で113時間熟成させた後、白色固体を濾取して水及びエタノールで洗浄し、105℃で24時間乾燥した。次いで、空気中、室温から600℃まで5℃/分で昇温して、600℃で1時間焼成した。
窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の27%であった。また、BET比表面積は993m2/gであった。更に、X線回折測定(Cu−Kα線)より、2θ=2.3°付近に六角形細孔を有する多孔体に特徴的なヘキサゴナル構造のd100に帰属される鋭い回折ピークが観察されたことから、得られた複合酸化物が六角形細孔を有するメソ多孔体であることが確認された。窒素吸着等温線を図1に、X線回折パターン(XRDスペクトルと記載することもある。)を図2にそれぞれ示す。この複合酸化物についてICP分析を行ったところ、Si/Zr(原子比)=16であった。以下、これをZr−MS−16と略記する。
【0024】
(複合酸化物合成例2)
テトラエチルオルトシリケート200mmolとエタノール1.3molとイソプロパノール200mmolを混合し、これに硝酸ガリウム4.0mmolを加えて室温で20分攪拌した。得られた混合液(1)を、ドデシルアミン60mmolと水7.2molの混合液(2)に加えて室温で1時間激しく攪拌した。生成した白色ゲルを室温で113時間熟成させた後、白色固体を濾取して水及びエタノールで洗浄し、105℃で24時間乾燥した。次いで、空気中、室温から600℃まで5℃/分で昇温して、600℃で1時間焼成した。
窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の30%であった。また、BET比表面積は921m2/gであった。更に、X線回折測定(Cu−Kα線)より、得られた複合酸化物が六角形細孔を有するメソ多孔体であることが確認された。窒素吸着等温線を図3に、X線回折パターンを図4にそれぞれ示す。ICP分析より、Si/Ga(原子比)=50であった。以下、これをGa−MS−50と略記する。
【0025】
(複合酸化物合成例3)
テトラエチルオルトシリケート200mmolとエタノール1.3molとイソプロパノール200mmolを混合し、これにアルミニウムイソプロポキシド4.0mmolを加えて70℃で20分攪拌した。得られた混合液(1)を、ドデシルアミン60mmolと水7.2molの混合液(2)に加えて室温で1時間激しく攪拌した。生成した白色ゲルを室温で113時間熟成させた後、白色固体を濾取して水及びエタノールで洗浄し、105℃で24時間乾燥した。次いで、空気中、室温から600℃まで5℃/分で昇温して、600℃で1時間焼成した。
窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の35%であった。また、BET比表面積は1020m2/gであった。更に、X線回折測定(Cu−Kα線)より、得られた複合酸化物が六角形細孔を有するメソ多孔体であることが確認された。窒素吸着等温線を図5に、X線回折パターンを図6にそれぞれ示す。ICP分析より、Si/Al(原子比)=50であった。以下、これをAl−MS−50と略記する。
【実施例】
【0026】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、固体酸触媒の硫黄含有量を全自動蛍光X線分析装置(PW−2400型:PHILIPS社製)を用いて測定した。シクロアルカノンオキシム化合物の転化率およびラクタム化合物の収率は、反応液を液体クロマトグラフィーで分析し、算出した。
【0027】
実施例1
石英製ガラス管の下層にZr−MS−16(複合酸化物)を0.6g、上層に7wt%五酸化バナジウム/シリカ触媒(酸化触媒)8gを充填し、40ml/分の窒素ベース5000ppmSO2ガスと100ml/分のG2グレード純空気(JFP製品規格)の混合ガスと、420℃において18時間接触させた。なお、前処理として空気(100ml/分)気流下600℃で30分、後処理として空気(100ml/分)気流下420℃で1時間焼成をそれぞれ行った。
得られた固体酸触媒について分析を行ったところ、窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の27%であった。また、BET比表面積は828m2/gであった。更に、X線回折測定(Cu−Kα線)より、2θ=2.3°付近に六角形細孔を有する多孔体に特徴的なヘキサゴナル構造のd100に帰属される鋭い回折ピークが観察されたことから、メソ孔を保持していることが確認された。窒素吸着等温線を図7に、X線回折パターンを図2にそれぞれ示す。なお、触媒の硫黄含有量は、2.2重量%であった。以下、これをZr−MS−16−SO3と略記する。
なお、複合酸化物と接触した後の混合ガス(排ガス)を水と1時間接触させ、その水に含まれる硫酸イオンおよび亜硫酸イオンをイオンクロマト分析にて行ったところ、硫酸イオンおよび亜硫酸イオンをそれぞれ0.058mmol、0.019mmol検出した。
Zr−MS−16−SO30.05gと50℃で12時間減圧乾燥処理をしたシクロドデカノンオキシム2.5mmolとベンゾニトリル5.0gを50mlガラス製フラスコに充填し、90℃で4時間反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は89.6モル%、ラウロラクタムの収率は83.0モル%であった。
【0028】
比較例1
Zr−MS−16の2gを10mlの1規定H2SO4水溶液に浸し、濾過した後、105℃で24時間乾燥した。この乾燥物を空気中、室温から400℃まで5℃/分で昇温して、400℃で3時間焼成した。
得られた固体酸触媒について分析を行ったところ、窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の17%であった。また、BET比表面積は579m2/gであった。窒素吸着等温線を図8に示す。以下、これをZr−MS−16−H2SO4と略記する。
Zr−MS−16−H2SO4を用いて、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は66.8モル%、ラウロラクタムの収率は60.2モル%であった。
【0029】
比較例2
触媒をZr−MS−16に変えたほかは、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は26.1モル%、ラウロラクタムの収率は19.3モル%であった。
【0030】
実施例2
複合酸化物をGa−MS−50に変えたほかは、実施例1と同様に触媒を調製した。
得られた固体酸触媒について分析を行ったところ、窒素吸着によるBET比表面積測定よ
り、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の30%であった。また、BET比表面積は830m2/gであった。更に、X線回折測定(Cu−Kα線)より、2θ=2.3°付近に六角形細孔を有する多孔体に特徴的なヘキサゴナル構造のd100に帰属される鋭い回折ピークが観察されたことから、メソ孔を保持していることが確認された。窒素吸着等温線を図9に、X線回折パターンを図4にそれぞれ示す。なお、触媒の硫黄含有量は、2.1重量%であった。以下、これをGa−MS−50−SO3と略記する。
Ga−MS−50−SO3を用いて、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は97.8モル%、ラウロラクタムの収率は93.3モル%であった。
【0031】
比較例3
複合酸化物をGa−MS−50に変えたほかは、比較例1と同様に触媒の調製を行った。
得られた固体酸触媒について分析を行ったところ、窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の19%であった。また、BET比表面積は851m2/gであった。窒素吸着等温線を図10に示す。以下、これをGa−MS−50−H2SO4と略記する。
Ga−MS−50−H2SO4を用いて、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は55.3モル%、ラウロラクタムの収率は48.2モル%であった。
【0032】
比較例4
触媒をGa−MS−50に変えたほかは、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は18.7モル%、ラウロラクタムの収率は12.3モル%であった。
【0033】
実施例3
複合酸化物をAl−MS−50に変えたほかは、実施例1と同様に触媒の調製を行った。
得られた固体酸触媒について分析を行ったところ、窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の30%であった。また、BET比表面積は900m2/gであった。更に、X線回折測定(Cu−Kα線)より、2θ=2.3°付近に六角形細孔を有する多孔体に特徴的なヘキサゴナル構造のd100に帰属される鋭い回折ピークが観察されたことから、メソ孔を保持していることが確認された。窒素吸着等温線を図11に、X線回折パターンを図6にそれぞれ示す。なお、触媒の硫黄含有量は、2.0重量%であった。以下、これをAl−MS−50−SO3と略記する。
Al−MS−50−SO3を用いて、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は90.9モル%、ラウロラクタムの収率は86.4モル%であった。
【0034】
比較例5
酸化物をAl−MS−50に変えたほかは、比較例1と同様に触媒の調製を行った。
得られた固体酸触媒について分析を行ったところ、窒素吸着によるBET比表面積測定より、P/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量は全吸着量の14%であった。また、BET比表面積は879m2/gであった。窒素吸着等温線を図12に示す。以下、これをAl−MS−50−H2SO4と略記する。
Al−MS−50−H2SO4を用いて、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は33.4モル%、ラウロラクタムの収率は32.0モル%であった。
【0035】
比較例6
触媒をAl−MS−50に変えたほかは、実施例1と同様に反応を行った。その結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は27.9モル%、ラウロラクタムの収率は27.3モル%であった。
【0036】
比較例7
7wt%五酸化バナジウム/シリカ触媒を充填しなかったほかは、実施例1と同様に触媒を調製した。
得られた触媒の物性値は実施例1と同等であった。
該調製触媒を用いてベックマン転位反応を行った結果、シクロドデカノンオキシムの転化率は18.5モル%、ラウロラクタムの収率は14.8モル%であった。
酸化触媒が存在しないと、SO2をSO3に酸化できず、固体酸触媒としての機能が発現しないことがわかった。
【0037】
以上、実施例1〜3および比較例1〜6をまとめて表1に示した。
【0038】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】Zr−MS−16の窒素吸着等温線を示したものである。
【図2】Zr−MS−16およびZr−MS−16−SO3のXRDスペクトルを示したものである。
【図3】Ga−MS−50の窒素吸着等温線を示したものである。
【図4】Ga−MS−50およびGa−MS−50−SO3のXRDスペクトルを示したものである。
【図5】Al−MS−50の窒素吸着等温線を示したものである。
【図6】Al−MS−50およびAl−MS−50−SO3のXRDスペクトルを示したものである。
【図7】Zr−MS−16−SO3の窒素吸着等温線を示したものである。
【図8】Zr−MS−16−H2SO4の窒素吸着等温線を示したものである。
【図9】Ga−MS−50−SO3の窒素吸着等温線を示したものである。
【図10】Ga−MS−50−H2SO4の窒素吸着等温線を示したものである。
【図11】Al−MS−50−SO3の窒素吸着等温線を示したものである。
【図12】Al−MS−16−H2SO4の窒素吸着等温線を示したものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸化処理を行った複合酸化物で、X線回折パターン(Cu−Kα線)において2θ=2.0〜2.5°の範囲にヘキサゴナル構造のd100に帰属されるピークを有し、窒素吸着等温線におけるP/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量が全吸着量の20〜60%である固体酸触媒。
【請求項2】
比表面積が500m2/gを超える請求項1に記載の固体酸触媒。
【請求項3】
硫黄含有量が5重量%未満である請求項1または2に記載の固体酸触媒。
【請求項4】
複合酸化物が、第4〜14族(族番号に1−18の通し番号を用いる1989年改訂のIUPAC無機化学命名法に従う)による族番号からなる群より選ばれる1種以上の元素(ただし炭素は除く)を含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の固体酸触媒。
【請求項5】
請求項4に記載の元素がジルコニウム、アルミニウム、ガリウムおよび珪素である固体酸触媒。
【請求項6】
硫酸化処理が、三酸化硫黄を含む気体と接触させることである請求項1〜5いずれか1項に記載の固体酸触媒。
【請求項7】
酸触媒反応における、請求項1〜6いずれか1項に記載の固体酸触媒の使用。
【請求項8】
請求項1〜6いずれか1項に記載の固体酸触媒存在下、シクロアルカノンオキシム化合物からベックマン転位反応により対応するラクタム化合物を製造することを特徴とするラクタム化合物の製造方法。
【請求項9】
反応を
(1)液相にて、
(2)反応温度30〜350℃で、
おこなうことを特徴とする請求項8に記載のラクタム化合物の製造方法。
【請求項10】
シクロアルカノンオキシム化合物が、シクロドデカノンオキシム及び/又はシクロヘキサノンオキシムである請求項8〜9いずれか1項に記載のラクタム化合物の製造方法。
【請求項1】
硫酸化処理を行った複合酸化物で、X線回折パターン(Cu−Kα線)において2θ=2.0〜2.5°の範囲にヘキサゴナル構造のd100に帰属されるピークを有し、窒素吸着等温線におけるP/P0=0.2〜0.6の範囲の窒素吸着量が全吸着量の20〜60%である固体酸触媒。
【請求項2】
比表面積が500m2/gを超える請求項1に記載の固体酸触媒。
【請求項3】
硫黄含有量が5重量%未満である請求項1または2に記載の固体酸触媒。
【請求項4】
複合酸化物が、第4〜14族(族番号に1−18の通し番号を用いる1989年改訂のIUPAC無機化学命名法に従う)による族番号からなる群より選ばれる1種以上の元素(ただし炭素は除く)を含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の固体酸触媒。
【請求項5】
請求項4に記載の元素がジルコニウム、アルミニウム、ガリウムおよび珪素である固体酸触媒。
【請求項6】
硫酸化処理が、三酸化硫黄を含む気体と接触させることである請求項1〜5いずれか1項に記載の固体酸触媒。
【請求項7】
酸触媒反応における、請求項1〜6いずれか1項に記載の固体酸触媒の使用。
【請求項8】
請求項1〜6いずれか1項に記載の固体酸触媒存在下、シクロアルカノンオキシム化合物からベックマン転位反応により対応するラクタム化合物を製造することを特徴とするラクタム化合物の製造方法。
【請求項9】
反応を
(1)液相にて、
(2)反応温度30〜350℃で、
おこなうことを特徴とする請求項8に記載のラクタム化合物の製造方法。
【請求項10】
シクロアルカノンオキシム化合物が、シクロドデカノンオキシム及び/又はシクロヘキサノンオキシムである請求項8〜9いずれか1項に記載のラクタム化合物の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−272217(P2006−272217A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97242(P2005−97242)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
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