説明

硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法

【課題】大型化した設備や、大型の設備を必要とすることなく、硫化水素の発生を有効に抑制できる硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法を提供することにある。
【解決手段】少なくとも1槽の生物反応タンク1中に、硫黄系COD成分を含有する廃水2を流入させ、生物学的に処理する方法であって、前記生物反応タンク1のうち、前記廃水2が最初に流入する第1の生物反応タンク1中の廃水2のpHを8.0超えに調整することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法、特に、微生物が固定化された担体を用いて、硫黄系COD成分を含有する廃水を生物学的に処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉から排出された高炉スラグは、CaOや、SiO2 を主成分としているが、高炉内は強還元雰囲気であることから、鉄鉱石やコークスに含有されていた硫黄の大半がスラグに移行し、高炉スラグは1〜2質量%程度の硫黄を含有している。前記高炉から排出された溶融状態の前記高炉スラグは、通常、スラグ冷却場(スラグヤード)で所定の温度となるまで冷却・固化させた後、ブルドーザーや、パワーショベルなどによって掘り起こされ、一旦、仮置きされた後に、人口砕石、地盤改良材などの土木建築材料として利材化されている。
【0003】
ここで、前記冷却中に冷却水が前記高炉スラグに接触する場合や、前記仮置き中に雨水が高炉スラグに接触する場合に、前記高炉スラグ中に含有される硫黄等の成分が接触した水へと浸出することが知られている。また、前記高炉スラグと同様に、転炉スラグや溶銑脱硫スラグなどの製鋼スラグにおいても、前記硫黄等の成分が雨水や冷却水中へと浸出することが知られている。前記硫黄等の成分が浸出した水のことを、ここでは「浸出水」と呼ぶ。
【0004】
この浸出水中に含有される硫黄成分は、硫化物イオン(S2−)、チオ硫酸イオン(S2O32−)又は亜硫酸イオン(SO32−)等の形態で存在し、これらは人体に有害であることから、排水基準の中で、COD(Chemical Oxygen Demand:化学的酸素要求量:過マンガン酸カリウムを用いて定量)として計測され、基準を満足できない場合には、前記浸出水を放流することができず、酸化処理して硫酸イオン(SO42−)としたり、Ca(OH)2と反応させて石膏(CaSO4)として回収することが必要となる。
【0005】
また、前記浸出水中の硫黄系成分を処理する別の方法として、硫黄酸化細菌などの細菌を用いて生物学的に処理する方法、例えば、特許文献1に開示されているように、カルシウムを配合した、硫黄酸化細菌に好適な固定化担体に、硫黄酸化細菌を馴養・増殖し、この固定化担体からなる固定床型バイオリアクターを用いて生物学的に処理する方法が挙げられる。さらに、特許文献2に開示されているように、pHが中性の条件下で硫黄酸化機能を有するシュードモナス属の細菌を用いて処理する方法や、特許文献3に開示されているように、廃水を生物学的に処理するための設備の曝気槽に活性汚泥混合水を入れ、この曝気槽に硫黄系COD成分を含む廃水と有機化合物とを供給し、曝気槽内の酸化還元電位(ORP)を指標にして曝気槽の曝気を制御し、且つ、曝気槽内のpHを4.0〜7.5の範囲に制御して、硫黄酸化細菌を馴養・増殖させながら、廃水を処理する方法や、特許文献4に開示されているように、硫黄酸化細菌の有機栄養源として、米糠又はフイチン酸含有有機化合物を定期的に添加しながら、硫黄酸化細菌によって廃水を処理する方法などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−15294号公報
【特許文献2】特開平8−323390号公報
【特許文献3】特開平6−106187号公報
【特許文献4】特開平7−251195号公報
【0007】
しかしながら、特許文献1〜4の硫黄系COD成分を含む廃水の処理方法では、前記廃水を、硫黄酸化菌の活性が高い弱酸性から中性(pH:4.0〜7.5程度)の範囲に調整して処理を行う必要があるため、前記廃水中の硫化物濃度が高い場合には、廃水中の水素イオンと、前記廃水中の硫化物イオンが反応し、有毒な硫化水素(H2S)が発生するという問題があった。一方、前記廃水のpHがアルカリ側となるように処理をした場合、硫化水素の発生量は低減できるものの、生物活性が低下し、処理能力が著しく低下するため、反応装置が大型化してしまうという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、大型の設備を必要とすることなく、硫化水素の発生を有効に抑制できる硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、少なくとも1槽の生物反応タンク中に、前記廃水を流入させ、前記生物反応タンクのうち、前記廃水が最初に流入する第1の生物反応タンク中の廃水のpHを、硫化水素が発生しない条件の中で最も微生物が活性となる8.0超えに調整すること、又は、前記廃水中の硫化物濃度、若しくは前記生物タンクから発生するガス中の硫化水素濃度を測定し、その濃度によって制御することにより、硫化水素の発生の抑制と、硫黄系COD成分の処理との両立が可能となることを見出し、さらに、前記第1の生物反応タンク中の廃水のpHの上限を調整したり、前記第1生物反応タンクの下流側に複数の生物反応タンクを設け、前記下流側の各生物反応タンク中の廃水のpHを、前記微生物が活性となるようにより低く調整することで、大型の設備を必要とすることなくCOD成分を処理できることを見出した。
【0010】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)微生物が固定化された担体を用いた少なくとも1槽の生物反応タンク中に、硫黄系COD成分を含有する廃水を流入させ、生物学的に処理する方法であって、前記生物反応タンクのうち、前記廃水が最初に流入する第1の生物反応タンク中の廃水のpHを8.0超えに調整することを特徴とする硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法。
【0011】
(2)微生物が固定化された担体を用いた少なくとも1槽の生物反応タンク中に、硫黄系COD成分を含有する廃水を流入させ、生物学的に処理する方法であって、前記生物反応タンク内のpHは、前記生物反応タンクに流入する前の前記廃水中の硫化物濃度を測定し、その濃度によって制御すること、及び/又は、前記生物反応タンクから発生するガス中の硫化水素濃度を測定し、その濃度によって制御することを特徴とする硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法。
【0012】
(3)前記生物反応タンクは、複数槽で構成され、該複数層の生物反応タンクは、上流側から下流側に向かって、各生物反応タンク中の廃水のpHを低く調整する上記(1)又は(2)記載の硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法。
【0013】
(4)前記生物反応タンクは、前記第1の生物反応タンクと、該第1の生物反応タンクの下流側に位置する第2の生物反応タンクの2槽で構成され、前記第1の生物タンク中の廃水のpHが、8.0超え、9.0以下の範囲であり、前記第2の生物反応タンク中の廃水のpHが、6.0以上、8.0以下の範囲である上記(3)記載の硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大型の設備を必要とすることなく、硫化水素の発生を有効に抑制できる硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による生物反応タンクの側断面である。
【図2】本発明の担体の形状を示した斜視図であり、 (a)は、図1の生物反応タンクで用いられる担体の形状、(b)は、他の生物反応タンクで用いられる担体の形状を示す。
【図3】本発明による生物反応タンクの側断面である。
【図4】本発明による生物反応タンクを複数並べた状態を示す斜視図である。
【図5】本発明による生物反応タンクを用いて廃水処理をした際の、経過時間(分)と、生物反応タンク中の廃水のpHと、生物反応タンクからガスとして発生した硫化水素濃度(volppm)と、試験的に製造した廃水中の硫化物イオン濃度(mg/L)の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図を参照して、本発明の構成と限定理由を説明する。
図1は、本発明による生物反応タンクの側断面を模式的に示した図である。
また、図2(a)は、図1の生物反応タンクで用いられる担体の形状を示した斜視図であり、図2(b)は、他の生物反応タンクで用いられる担体の形状を示した斜視図である。
【0017】
本発明による硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法は、微生物が固定化された担体3を用いて、前記廃水2を生物学的に処理する方法である。
【0018】
本発明に用いられる担体3は、COD成分を処理するための微生物が固定化できるものであれば特に限定はされないが、例えば図2(a)及び(b)に示すように、ひも状の担体3a(図2(a))や、粒状の担体3b(図2(b))のものなどが挙げられる。また、前記担体3に用いられる材料としては、特に限定はされないが、例えば、プラスチック系や、セルロース系、スポンジ系の材料を用いることができる。
【0019】
また、前記担体3に固定される微生物は、前記硫黄系COD成分を処理できる微生物であればよく、主に、硫黄酸化細菌等が挙げられる。前記微生物の前記担体3への固定は、例えば、COD成分を含有する廃水中に、前記担体3を一定期間接触させることにより、自然発生的に前記微生物を固定化するか、前記担体3に、直接、前記微生物の培養液等を接触させることにより固定化する方法などを用いればよい。
【0020】
そして、本発明による硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法は、図1に示すように、少なくとも1槽の生物反応タンク1中に、前記廃水2を流入させ、前記生物反応タンク1のうち、前記廃水が最初に流入する第1の生物反応タンク1中の廃水2のpHを8.0超えに調整することを特徴とする。
【0021】
本発明の生物反応タンク1は、図1に示すように、前記微生物が固定化された担体3を具え、ポンプ等の廃水流入手段4を用いて流量を調整しながら、前記廃水2を前記反応タンク1中に流入させる。また、生物反応タンク1は、前記微生物に酸素を供給するためのブロワー等の酸素供給手段5と、タンク1内の廃水2のpHを測定するためのpH計6をさらに具え、必要に応じて、pH調整剤7を加えることで廃水2のpHの調整を行う。なお、前記酸素供給手段5による酸素の供給は、図1に示すように、前記生物反応タンク1の下部の1部分から供給してもよいし、下部全体から供給しても構わない。また、前記pH調整剤7の添加は、所定のpH範囲とすることができれば特に限定はしないが、例えば図1に示すように、pH計6により前記廃水2のpHを測定し、その情報を元に制御装置11により必要量のpH調整剤7を前記生物反応タンク1内へと加えるという方法を用いることができる。
【0022】
前記第1の生物反応タンク1中の廃水のpHを8.0超えに調整するのは、前記8.0以下の場合、前記微生物による硫黄系COD成分の分解は早くなるものの、pH調整剤として前記廃水2に加えた酸(硫酸、塩酸など)の水素イオン(H)が、硫化物イオン(S2−)と反応し、硫化水素(H2S)が発生し、この硫化水素の発生量が許容量を超えるためである。一方、前記pHが高すぎる(9.0超え)場合には、前記微生物によるCOD成分の分解速度が遅くなるため、前記廃水2のpHは、8.0超え、9.0以下の範囲に調整することが好ましい。
【0023】
また、前記生物反応タンク1の容積は、前記廃水2の流量や、pH等の条件によって、必要とされる大きさが異なるが、大型化した設備を必要としないという観点から、小型のタンクであることが好ましい。さらに、前記タンク1に流入させる廃水2の流入速度についても、前記廃水2中のCOD成分の濃度や、硫化物濃度、反応タンクの容積、前記COD成分の処理速度(微生物による分解速度)等によって、任意の速度に調整することができる。例えば、一時的に硫化物濃度の高い流入水が流入するような場合には、前記生物反応タンク1中の廃水2のpHを高めに設定する必要があるため、生物反応タンクの容積を大きめに設計したり、前記反応タンク1への流入水の流入速度を低下させることができる。また、運転開始初期や、長期休止後の再稼動時などは、生物が十分に馴致されていないため、pH8.0超え、9.0以下で処理を行っても硫化水素が発生する恐れがある。このような場合の対策として、反応タンク上部を覆蓋するなどして、前記反応タンクに吹き込まれたガスを収集し、ガス中に含まれる硫化水素を処理する設備を設けることが好ましい。硫化水素の処理設備としては、例えば、アルカリ吸収設備、アルカリ性次亜塩素酸ナトリウムによる処理設備又は生物脱硫設備等の既存の技術を用いることができる。
【0024】
また、本発明による硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法は、図3(a)に示すように、前記生物反応タンク1に流入する前の前記廃水2中の硫化物濃度を、硫化物濃度計9等を用いて測定し、その濃度によって制御するか、又は、図3(b)に示すように、前記生物反応タンク1から発生するガス中の硫化水素濃度を、硫化水素濃度計12等を用いて測定し、その濃度によって、前記生物反応タンク1内のpHを制御することを特徴とする。前記廃水2中の硫化物濃度又は発生ガス中の硫化水素濃度を測定することで、前記生物反応タンク1中の廃水2のpHを決めれば、流入する廃水2の急激な硫化物濃度の変化に起因した硫化水素の発生を最小限に抑えることができることに加えて、硫化物濃度が低く、前記生物反応タンク1中の廃水2のpHを低く設定しても硫化水素が発生しない場合には、前記廃水2のpHを下げて、迅速なCOD成分の処理を行うことができるためである。
【0025】
ここで、図3(b)の構成の装置に対して、硫化物イオン濃度が2mg/Lの廃水を原水とし、これに硫化ナトリウムを添加して、硫化物濃度を段階的に増加させた廃水を試験的に供給した。生物反応タンク1から発生するガス中の硫化水素濃度を硫化水素検出器12でモニタリングし、硫化水素が1volppm以上検出された場合に、前記生物反応タンク1中の廃水のpHを徐々に上昇させ、硫化水素濃度が減少に転じた段階で、生物反応タンク1中の廃水のpHを固定値(その時点の値)に変更するように制御して廃水処理を行った。このときの、経過時間(分)と、生物反応タンク中の廃水のpHと、生物反応タンクからガスとして発生した硫化水素濃度(volppm)と、調整した廃水中の硫化物濃度(mg/L)との関係を示したグラフを、図5に示す。実際の処理おいては、供給水の組成や、水温、滞留時間や反応タンクの形状、生物の馴致具合等の多くの要因によって硫化水素の発生状況は変化するが、図5から、生物反応タンク1から発生した硫化水素検出時に当該タンク1中の廃水のpHを上昇させることによって、硫化水素の発生量を低減できることや、生物反応タンク1から発生する硫化水素濃度をモニタリングし、その値によって生物反応タンク1の廃水のpHを変更するように制御することが有効であることがわかる。なお、pHの制御値をどの程度の幅、速度で変更するかについては、実装置の特性を考慮して最適な値を決めるか、又は、PDI制御等の既存の制御技術を適用すればよい。
【0026】
さらに、前記生物反応タンク1は、少なくとも1槽設ければよいが、図4に示すように、複数槽(図4では2槽1、10)で構成され、該複数槽の生物反応タンク1、10は、上流側から下流側に向かって、各生物反応タンク中の廃水のpHを低く調整することが好ましい。上流側の生物反応タンク1では前記廃水2のpHが高い(8.0超え)ために、硫化水素ガスの気散発生を抑制しつつ、前記微生物によって硫化物の分解処理が行われ、その後、下流側の生物反応タンク10においてpHを低く設定することにより、前記微生物の活性が高まり、前記硫化物を除く硫黄系COD成分(チオ硫酸化合物や、亜硫酸化合物など)に対して高い処理能を得ことができるとともに、上流側の反応タンク1で硫化物の分解がほぼ終わっていることから、硫化水素の気散発生は極僅かとなるためである。そのため、前記生物反応タンク1、10全体として、前記硫黄系COD成分に対する処理速度の向上が可能となり、前記生物反応タンク1、10の小型化にも寄与できるためである。
【0027】
さらに、前記生物反応タンクは、図4に示すように、前記第1の生物反応タンク1と、該第1の生物反応タンク1の下流側に位置する第2の生物反応タンク10の2槽で構成され、前記第1の生物タンク1中の廃水2のpHを、8.0超え、9.0以下の範囲に制御し、前記第2の生物反応タンク10中の廃水2のpHを、6.0以上、8.0以下の範囲に制御することがより好適である。
前記第1の生物反応タンク1中の廃水2のpH範囲を8.0超え、9.0以下としたのは、上述したように、8.0未満の場合には硫化水素が気散発生する可能性が高く、9.0超えの場合には、処理速度が低下するためである。また、前記第2の生物反応タンク10中の廃水2のpH範囲を6.0以上、8.0以下としたのは、6.0未満では過度な酸性環境となるため、前記微生物の活性が低下し、十分な硫黄系COD成分の分解を行うことができないためであり、さらに、一般の公共用水域の廃水基準は、pH5.8〜8.6であり、pHが低すぎる場合にはpH調整のためのアルカリを添加しなければならないからである。一方、8.0超えの場合、pHが高すぎるため、所望の前記廃水1の処理速度を得ることができないためである。なお、前記生物反応タンクを2槽としたのは、3槽以上ある場合でも、効果の点ではほぼ同等であり、2槽構造としたほうが経済的に有利となるためである。
【0028】
さらに、図4に示すように、前記生物反応タンクを複数層設ける場合(図4では2槽)には、前記第1の生物反応タンク1と前記第2の生物反応タンク10との間には、開口部8aを有する仕切り壁8を設け、前記開口部8aを通して、前記廃水2を上流側から下流側へと移送する。なお、前記開口部8aは、常時開口したままでも、必要に応じて開閉するものでも構わない。
【0029】
なお、前記硫化物の酸化反応や、前記チオ硫酸イオンの酸化反応は、反応生成物として硫酸ができる反応であり、反応の進行とともにpHは徐々に低下する。このため、廃水2によっては上流側の前記生物反応タンク1中のpHを調整するだけで、下流側の前記生物反応タンク10中のpHが自然に上述した6.0〜8.0の範囲に入る場合もある。さらに、イオウ系COD成分濃度が高く、アルカリ度が小さい廃水2の場合には、生物反応の進行とともにpHが大きく低下し、前記下流側の生物反応タンク10中の廃水のpHが一般的な放流基準である5.8未満や、微生物活性が低下するpH4.0以下にまで低下する可能性がある。このような場合には、放流基準を満足するように、下流側の生物反応タンク10ではアルカリ液(水酸化ナトリウム等)を添加すればよいが、上流側の生物反応タンク1で添加するpH調整用の酸を少なめに設定することが好ましい。
【0030】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0031】
本発明の実施例について説明する。
(実施例1〜5及び比較例1〜3)
実施例1〜5及び比較例1〜3は、図1に示すように、硫黄酸化細菌が固定化されたヒモ状の担体を具える、1槽の生物反応タンク1(容積:30L)中に、COD値が34mg/L、硫化物イオン濃度が6mg/Lである廃水2を流入(流入速度:15L/時)させ、前記第1の生物反応タンク1中の廃水2のpHを、表1に示す値に調整して、2時間処理を行った。なお、前記反応タンク中の水温は、18℃とし、空気量は5NL空気/分とした。
【0032】
(実施例6)
実施例6は、前記生物反応タンク1中の廃水2のpHを8.1に制御して、3日間処理を行ったこと以外は、実施例1と同様の条件で前記廃水2の処理を行った。
【0033】
(実施例7)
実施例7は、前記生物反応タンク1中の廃水2のpHが7.0の状態で6時間、10.0の状態で6時間処理を行うサイクルを3日間繰り返した後、前記生物反応タンク1中の廃水2のpHを8.1に調整し、実施例1と同様の条件で前記廃水2の処理を3時間行った。なお、実施例7は、前記廃水2の硫化物濃度及び発生する硫化水素濃度を測定し、その濃度に応じてpHを7.0〜10.0の範囲内で制御することをシミュレートしたものである。
【0034】
(実施例8、9)
実施例8は、図3 (a)に示すように、前記生物反応タンク1に流入する前の前記廃水2中の硫化物濃度を、硫化物濃度計9を用いて測定し、硫化物イオン濃度が10mg/L以下の場合には前記生物反応タンク1内の廃水のpHを8.0に、濃度が10mg/L超え、20mg/L以下の場合には前記生物反応タンク1内の廃水のpHを8.3に、濃度が20 mg/L超え、40mg/L以下の場合には前記生物反応タンク1内の廃水のpHを8.6に、濃度が40 mg/L超え、60mg/L以下の場合には前記生物反応タンク1内の廃水のpHを8.8に、濃度が60 mg/L超えの場合には前記生物反応タンク1内の廃水のpHを9.0に制御し、その他の生物反応タンク1の条件は実施例1と同様の条件により、廃水処理を10時間行った。
なお、本実施例に用いた廃水2は、硫化水素濃度が10mg/L以下の廃水を原水とし、この原水に硫化ナトリウムを添加し、硫化物イオン濃度が10mg/Lから、100mg/Lまで、10時間かけて段階的に上昇するように調整した処理液を用いている。
また、実施例9は、前記生物反応タンク1に流入する前の前記廃水2中の硫化物濃度を、硫化物濃度計9を用いて測定し、前記生物反応タンク1内の廃水のpHを、常に9.0に維持したこと以外は、実施例8と同様の条件で廃水処理を行った。
【0035】
(比較例4)
比較例4は、前記生物反応タンク1に流入する前の前記廃水2中の硫化物濃度を、硫化物濃度計9を用いて測定し、前記生物反応タンク1内の廃水のpHを、常に8.0に維持したこと以外は、実施例8と同様の条件で廃水処理を行った。
【0036】
各実施例及び各比較例の結果について評価を行った。
【0037】
(評価方法)
(1)各実施例及び各比較例について、処理中に排出されたガスを全て収集し、検知管を用いて排出ガス中の硫化水素濃度(volppm)を測定した。測定結果を表1に示す。
(2)各実施例及び各比較例について、生物反応タンク1に通過させた後の前記廃水2(処理水)を回収し、COD濃度(mg/L)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果から、2時間廃水処理を行った実施例1〜5と、比較例1〜3を比較すると、pH が8.0を超える実施例1〜6は、pHの低い比較例1〜3に比べて、硫化水素濃度が低く、有効に発生を抑制できていることがわかった。また、実施例の中でもpHの低い実施例1(pH:8.1)については、pHが低い比較例1〜3と同等のCOD成分の処理能力があることがわかった。
また、3日間廃水処理を行った実施例6と、実施例7とを比較すると、前記廃水のpHを7と10で変化させて処理した場合と、8.1で一定にして処理した場合と、COD処理能力は同等であり、流入水の硫化物濃度や硫化水素の発生状況により、pHの範囲を変更することは可能であることがわかった。
さらに、廃水の濃度を変化させた実施例8〜9及び比較例4については、実施例8の廃水処理では、硫化水素濃度の発生を抑制するとともに、高いCOD成分の処理能力が発揮できていることがわかり、実施例9の廃水処理では、pH8.0を超える条件であるため、高濃度の硫化物を含有した廃水に対しても硫化水素ガスの発生を十分に抑制できることがわかった。一方、比較例4の廃水処理では、pH8.0での条件であるため、処理水後のCODは良好であるものの、硫化水素ガスの発生を十分に抑制できないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、大型の設備を必要とすることなく、硫化水素の発生を有効に抑制できる硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法を提供することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1、10 生物反応タンク
2 廃水
3 担体
4 廃水流入手段
5 酸素供給手段
6 pH計
7 pH調整剤
8 仕切り壁
9 硫化物濃度計
11 制御装置
12 硫化水素濃度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物が固定化された担体を用いた少なくとも1槽の生物反応タンク中に、硫黄系COD成分を含有する廃水を流入させ、生物学的に処理する方法であって、
前記生物反応タンクのうち、前記廃水が最初に流入する第1の生物反応タンク中の廃水のpHを8.0超えに調整することを特徴とする硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法。
【請求項2】
微生物が固定化された担体を用いた少なくとも1槽の生物反応タンク中に、硫黄系COD成分を含有する廃水を流入させ、生物学的に処理する方法であって、
前記生物反応タンク内のpHは、前記生物反応タンクに流入する前の前記廃水中の硫化物濃度を測定し、その濃度によって制御すること、及び/又は、前記生物反応タンクから発生するガス中の硫化水素濃度を測定し、その濃度によって制御することを特徴とする硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法。
【請求項3】
前記生物反応タンクは、複数槽で構成され、該複数層の生物反応タンクは、上流側から下流側に向かって、各生物反応タンク中の廃水のpHを低く調整する請求項1又は2記載の硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法。
【請求項4】
前記生物反応タンクは、前記第1の生物反応タンクと、該第1の生物反応タンクの下流側に位置する第2の生物反応タンクの2槽で構成され、前記第1の生物タンク中の廃水のpHが、8.0超え、9.0以下の範囲であり、前記第2の生物反応タンク中の廃水のpHが、6.0以上、8.0以下の範囲である請求項3記載の硫黄系COD成分を含有する廃水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−255054(P2009−255054A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35563(P2009−35563)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】