説明

硬化型有機金属組成物及び有機金属ポリマー材料並びに光学部品

【課題】体積硬化収縮率が小さく、かつ硬化物が、高い屈折率及び優れた耐熱性を有する硬化型有機金属組成物及びそれを硬化させた有機金属ポリマー材料並びにそれを用いた光学部品を得る。
【解決手段】−M−O−M−結合(Mは金属原子)及びアリール基を有する有機金属重合体と、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有するフルオレン系化合物とを含むことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気配線用基板、機械部品用材料、反射防止膜及び表面保護膜等の各種コーティング材料、光送受信モジュール及び光スイッチ等の光通信デバイス、光導波路、光ファイバー、及びレンズアレイ等の光伝搬路構造、及びそれらを含む光ビームスプリッタ等の光デバイス、インテグレータレンズ、マイクロレンズアレイ、反射板、導光板、投射用スクリーン等の表示デバイス(ディスプレイまたは液晶プロジェクタ等)関連光学素子、眼鏡、CCD用光学系、デジタルスチルカメラや携帯電話用カメラ等に用いられるレンズ、光学フィルタ、回折格子、干渉計、光結合器、光合分波器、光センサー、ホログラム光学素子、その他光学部品用材料、光起電力素子、コンタクトレンズ、医療用人工組織、発光ダイオード(LED)のモールド材等に用いることができる硬化型有機金属組成物、及びそれを硬化させた有機金属ポリマー材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンズを含め光学素子の材料には、ガラスやプラスチックが主に用いられてきている。ガラスは種類が多く、光学特性のバリエーションが豊富なため、光学設計が容易であり、さらに無機系材料であるため信頼性が高い。また、研磨により高精度な光学素子が得られる。
【0003】
しかしながら、ガラスは、高コストであり、また平面や球面以外の非球面形状は特殊な研磨装置を用いるか、あるいは低温で変形が可能なガラス材を高価な耐熱性の高い金型(セラミック製など)で成形する、いわゆるモールド法により成形しなければならず、製造コストが高くなる。
【0004】
一方、合成樹脂材料(プラスチック材料)を用いた光学素子は、射出成形やキャスト法により安価に製造可能であるが、耐熱性が低い、熱膨張が大きい、屈折率等の光学特性の選択の幅がせまい、信頼性が低い等の課題がある。
【0005】
上記の課題を解決する方法として、ガラス基材上に樹脂層を積層することにより、所望の特性を得ようとする複合型の光学素子が提案されている。特許文献1においては、平面のガラス基板の上に有機高分子の層を形成したローパスフィルタが開示されている。特許文献2及び特許文献3においては、ガラスレンズ基材の上に非球面形状を有する樹脂層を形成した、いわゆる複合型非球面レンズが開示されている。
【0006】
複合型非球面レンズは、樹脂レンズと比較して、樹脂部分が数100μm程度と薄いため、温度などの影響による形状変化が小さいという特徴を有している。携帯電話や液晶プロジェクタに使用される複合型非球面レンズには、高い耐環境性が要求され、150℃程度の耐熱性が要求される。
【0007】
また、ガラスレンズ上に樹脂層を金型で転写する工程において、スループットの向上のために樹脂層を形成する材料は光硬化性樹脂であることが好ましい。
【0008】
さらに、機器の小型化、薄型化のためには、樹脂自体の屈折率自体を高くする必要があり、同時に金型の形状を高精度に転写するために、光硬化前後の体積硬化収縮率が小さいことが必要である。
【0009】
樹脂の屈折率を高くする方法として、高い屈折率を有する酸化物微粒子を樹脂中に混合させる方法がある。アルコキシシラン、金属酸化物の粒子及びアクリル樹脂を用いた樹脂組成物が特許文献4に開示されている。特許文献4においては、アルコキシシランを原料とする有機無機ハイブリッド材料が耐熱性に優れていることが記載されている。しかしながら、複合型非球面レンズにおける硬化収縮率や耐熱性等については具体的に開示されていない。
【0010】
プラスチックレンズ用の高屈折率樹脂として、固体のフルオレン系アクリレートを、アクリレートモノマー等のビニル化合物のモノマーに溶解した後、熱または光によりラジカル重合させて硬化させることが特許文献5に開示されている。
【0011】
しかしながら、溶解に用いているアクリレートモノマー等のビニル化合物は、重合の際に8〜10%程度の大きな体積硬化収縮を伴う。このため、金型による成形の際に精度低下を招くとともに、ガラス等の母材上に樹脂層を形成する複合型非球面レンズにおいては、樹脂層の収縮により、樹脂層が母材から剥離するという問題が発生する。
【0012】
特許文献5に開示されているような全体がプラスチックからなるレンズにおいては、剥離の問題がなく、特許文献5に開示されている眼鏡用のレンズの要求精度は数10μm程度であり、形状精度的にも、CCD及びCMOSセンサーを用いた携帯電話やデジタルカメラ用の要求精度(1μm程度)と比べて1桁以上緩い基準となっている。
【0013】
以上のように、小型及び薄型のカメラ付き携帯電話などに用いる複合型非球面レンズにおいて要求される低い硬化収縮率、高い屈折率、耐熱性、光硬化性、及び透明性(白濁による散乱防止)などを同時に満たす光学部品用樹脂は現状において得られていない。
【特許文献1】特開昭54−6006号公報
【特許文献2】特開昭52−25651号公報
【特許文献3】特開平6−222201号公報
【特許文献4】国際公開2002/088255号パンフレット
【特許文献5】特開平4−325508号公報
【特許文献6】特開平6−11601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、体積硬化収縮率が小さく、かつ硬化物が、高い屈折率及び優れた耐熱性等を有する硬化型有機金属組成物及びそれを硬化させた有機金属ポリマー材料並びにそれを用いた光学部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の硬化型有機金属組成物は、−M−O−M−結合(Mは金属原子)及びアリール基を有する有機金属重合体と、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有するフルオレン系化合物とを含むことを特徴としている。
【0016】
本発明における有機金属重合体には、アリール基が含まれており、このアリール基とフルオレン系化合物中のアリール基を構成するπ電子雲の重なりにより結合力が発生し、これによって、有機金属重合体とフルオレン系化合物との親和性が高まる、これによって、有機金属重合体とフルオレン系化合物との分離が抑制され、高い透明性を得ることができる。
【0017】
本発明においては、フルオレン系化合物に有機金属重合体を混合しているので、体積硬化収縮率を小さくすることができる。上述のように、有機金属重合体とフルオレン系化合物との親和性が高いため、有機金属重合体とフルオレン系化合物を任意の割合で混合することができ、混合比を変化させても体積硬化収縮率はほぼ一定であり、小さな値にすることができる。
【0018】
また、本発明においては、有機金属重合体及びフルオレン系化合物がそれぞれアリール基を有しているので、高い屈折率を有する硬化物とすることができる。また、耐熱性に優れた硬化物とすることができる。
【0019】
また、本発明においては、有機金属重合体とフルオレン系化合物の混合比を変化させることにより屈折率を制御することができる。従って、上述のように、有機金属重合体とフルオレン系化合物の混合比を変化させても、体積硬化収縮率を小さくすることができ、体積硬化収縮率が小さく、かつ硬化物が高い屈折率を有する硬化型有機金属組成物とすることができる。
【0020】
本発明の有機金属ポリマー材料は、上記本発明の硬化型有機金属組成物の硬化物であり、上記本発明の硬化型有機金属組成物を重合することにより得ることができるものである。
【0021】
本発明において、有機金属重合体の−M−O−M−結合におけるMは、好ましくは、Si、Nb、Ti、及びZrのうちの少なくとも1つである。Mは特に好ましくは、Siである。MがSiである場合、有機金属重合体は、例えばシリコン樹脂から形成することができる。
【0022】
本発明における有機金属重合体は、例えば、少なくとも2つの加水分解可能な基を有する有機金属化合物の加水分解及び重縮合反応により合成することができる。MがSiである場合、このような有機金属化合物としては、例えば、有機基を含有するトリアルコキシシランまたはジアルコキシシランが挙げられる。有機基としては、アルキル基、アリール基、アリール含有基などが挙げられる。アリール基またはアリール含有基などを有する有機金属化合物を用いることにより、有機金属重合体にアリール基を導入することができる。アリール基としては、フェニル基が好ましい。フェニル基を有する有機金属化合物としては、フェニルトリアルコキシシラン、ジフェニルジアルコキシシランが挙げられ、より具体的には、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0023】
また、上記有機金属化合物として、加熱及び/またはエネルギー線照射により架橋する官能基を有する有機金属化合物が含有されていることが好ましい。これにより、加熱及び/またはエネルギー線照射により、有機金属化合物の分子同士の結合を形成することができるとともに、有機金属重合体とフルオレン系化合物の間の結合を形成し、有機金属組成物を硬化させて、本発明の有機金属ポリマー材料にすることができる。
【0024】
エネルギー線としては、紫外線、電子線などを挙げることができる。このような架橋をする官能基としては、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、エポキシ基、チオール基、及びビニル基が挙げられる。従って、これらの官能基を有するトリアルコキシシラン、またはジアルコキシシランが好ましく用いられる。(メタ)アクリロイル基を有するアルコキシシランとしては、具体的には、3−メタクリロキシプロピルメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。また、ビニル基を含有するアルコキシシランとしては、ビニルトリエトキシシランが挙げられる。チオール基を有するアルコキシシランとしては、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0025】
また、架橋する官能基として、スチリル基を用いる場合は、スチリル基を有する有機金属化合物を用いることにより、有機金属重合体にアリール基を導入することができる。
【0026】
(メタ)アクリロイル基、スチリル基及びビニル基などのラジカル重合性官能基を含有する場合には、ラジカル系の重合開始剤が本発明の有機金属組成物中に含まれていることが好ましい。
【0027】
ラジカル系重合開始剤としては、例えば、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、オキシ−フェニル−アセチックアシッド2−〔2−オキソ−2−フェニル−アセトキシ−エトキシ〕−エチル−エステル、オキシ−フェニル−アセチックアシッド2−〔2−ヒドロキシ−エトキシ〕−エチル−エステル、及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0028】
本発明において、架橋する官能基を有する有機金属化合物と、官能基を有しない有機金属化合物を混合して用いる場合、混合割合は重量比(官能基を有する有機金属化合物:官能基を有しない有機金属化合物)で、5〜95:95〜5であることが好ましい。
【0029】
本発明において用いるフルオレン系化合物としては、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有するフルオレン系化合物が用いられる。このようなフルオレン系化合物としては、9,9−ジフェニルフルオレン骨格を有するフルオレン系(メタ)アクリレートが挙げられる。このようなフルオレン系アクリレートの具体例としては、以下の一般式で示されるフルオレン系アクリレートが挙げられる。
【0030】
【化1】

(式中、m及びnは、0〜5の整数である。)
なお、本発明において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの総称であり、(メタ)アクリロイルは、アクリロイルとメタクリロイルの総称である。また、アクリロキシ基とアクリロイル基、メタクリロキシ基とメタクリロイル基は同じ意味で用いている。
【0031】
本発明の硬化型有機金属組成物においては、必要に応じて、熱や光等のエネルギー照射で硬化させる前の液の粘度や、硬化物の硬度等の機械的特性、屈折率、アッベ数等の光学的特性の調整を目的として、1官能、すなわち単官能の(メタ)アクリレートを添加してもよい。また、複数の官能基を有する多官能(メタ)アクリレートを添加してもよい。
【0032】
単官能(メタ)アクリレートの例としては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンチル(メタ)アクリレート、α−ナフチル(メタ)アクリレート、β−ナフチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートボロニル、(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0033】
多官能(メタ)アクリレートの例としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−プロピオネートのジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、2,2′−ジ(ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパンのジ(メタ)アクリレート、2,2′−ジ(ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールのジ(メタ)アクリレート、2,2′−ジ(グリシジルオキシフェニル)プロパンのジ(メタ)アクリル酸付加物等の2官能(メタ)アクリレート、さらに、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメリット酸のトリ(メタ)アクリレート、トリアリルトリメリット酸、トリアリルイソシアヌレートトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシプロピル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0034】
本発明の硬化型有機金属組成物においては、必要に応じて、1つ以上のアリール基を有する(メタ)アクリレートがさらに含まれていてもよい。1つ以上のアリール基を有する(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリロイロキシエチルフタレート、クレゾール(メタ)アクリレート、パラクミルフェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、フタル酸ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンベンゾエート(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート等、及びこれらのエチレンオキシド付加(EO変性)物、プロピレンオキシド付加(PO変性)物、エチルシクロヘキサン付加(ECH変性)物、などが挙げられる。
【0035】
また、本発明の硬化型有機金属組成物においては、芳香族ウレタンアクリレートオリゴマーがさらに含まれていてもよい。芳香族ウレタンアクリレートオリゴマーとしては、ダイセルサイテック社製商品名「Ebecry1210」、「同220」、野村事務所社製商品名「Uvithanc782」、「同783」、BASF社製商品名「Laromer LR8983」、及びこれらをトリプロピレングリコールジアクリレート等の(メタ)アクリレートで希釈したもの(ダイセルサイテック社製商品名「Ebecry1205」等)が挙げられる。
【0036】
本発明の硬化型有機金属組成物においては、加水分解可能な基を1つだけ有する金属アルコキシド及び/またはその加水分解物がさらに含まれていてもよい。この金属アルコキシド及び/またはその加水分解物は、有機金属重合体に結合していない状態で含有されていてもよいし、結合した状態で含有されていてもよい。また、金属アルコキシドの加水分解物は、加水分解物の重縮合物であってもよい。
【0037】
上記の加水分解可能な基を1つだけ有する金属アルコキシド及び/またはその加水分解物を含有させることにより、有機金属重合体の分子の末端に発生したOH基に、上記アルコキシド及び/またはその加水分解物を反応させて、−OH基を消滅させることができる。これにより、−OH基が原因となる吸水率の低減、1450〜1550nmの波長範囲における光吸収の低減、高温状態で−OH基同士が徐々に縮合することにより発生する体積収縮を抑制することができる。このような体積収縮は、樹脂層の剥離や精度低下の原因となっているので、体積収縮を抑制することにより、樹脂層の剥離や精度の低下を抑制することができる。
【0038】
本発明における加水分解可能な基を1つだけ有する金属アルコキシドとしては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリプロピルメトキシシラン、トリプロピルエトキシシラン、ベンジルジメチルメトキシシラン、ベンジルジメチルエトキシシラン、ジフェニルメトキシメチルシラン、ジフェニルエトキシメチルシラン、アセチルトリフェニルシラン、エトキシトリフェニルシランが挙げられる。
【0039】
本発明の硬化型有機金属組成物においては、無水有機酸及び/または有機酸がさらに含有されていることが好ましい。無水有機酸は、水分を吸収し、加水分解するので、無水有機酸が含まれていることにより、有機金属重合体中の水分を減少させることができる。これにより、水分が原因となる光の吸収の減少や、水分が蒸発するために発生する形状の変化を抑制することができる。
【0040】
また、有機金属重合体中に含有された有機酸は、シラノール基等の反応を促進する。このため、シラノール基が消滅するのを促進することができる。例えば、有機金属重合体中の分子末端のシラノール基同士の反応も促進することができる。また、加水分解可能な基を1つだけ有する金属アルコキシドの加水分解物が、有機金属重合体の分子の末端に発生した−OH基と反応し、−OH基を消滅させる反応が促進される。
【0041】
上記無水有機酸の具体例としては、無水トリフルオロ酢酸、無水酢酸、無水プロピオン酸などが挙げられる。特に好ましくは、無水トリフルオロ酢酸が用いられる。上記有機酸の具体例としては、トリフルオロ酢酸、酢酸、プロピオン酸などが挙げられる。特に好ましくは、トリフルオロ酢酸が用いられる。
【0042】
本発明の硬化型有機金属組成物において、有機金属重合体の含有量は、5〜95重量%であることが好ましく、さらに好ましくは、20〜75重量%であり、さらに好ましくは、20〜50重量%である。有機金属重合体の含有量が少な過ぎると、フルオレン系化合物の特性に近づくため、屈折率の温度依存性が大きくなると共に、高温環境下での形状変化も大きくなり、さらに硬化する前の粘度が高く、特に金型等で複合型非球面レンズ等の光学部品に必要な100μm程度の厚みに高精度に成型することが困難になる。また、逆に、有機金属重合体の含有量が多過ぎると、屈折率が低下してしまう。
【0043】
本発明の硬化型有機金属組成物において、フルオレン系化合物の含有量は、5〜95重量%であることが好ましく、さらに好ましくは、30〜80重量%である。フルオレン系化合物の含有量が少な過ぎると、屈折率が低下する傾向にある。特に、フルオレン化合物の含有量の下限値を25重量%以上とすることにより、屈折率を1.58以上にすることが容易になり、さらには35重量%以上とすることにより、屈折率を1.59以上にすることが容易になる。また、逆に、フルオレン系化合物の含有量が多過ぎると、フルオレン系化合物の特性に近づくため、屈折率の温度依存性が大きくなると共に、高温環境下での形状変化も大きくなり、さらに硬化する前の粘度が高く、特に金型等で複合型非球面レンズ等の光学部品に必要な100μm程度の厚みに高精度に成型することが困難になる。特に、室温での取り扱いが容易な低粘度とするためには、フルオレン系化合物の含有量は、70重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは、50重量%以下である。
【0044】
本発明の硬化型有機金属組成物において、上記の単官能または多官能の(メタ)アクリレートの含有量の上限値は、40重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは30重量%以下であり、さらに好ましくは25重量%以下である。また、下限値は、5重量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは10重量%以上であり、さらに好ましくは、15重量%以上である。これらの(メタ)アクリレートは、粘度調整や、硬化物の硬度等の調整の目的で添加されるものであるので、これらの含有量が少な過ぎると、粘度調整や硬化物の硬度等の調整が不十分となる場合がある。また、これらの(メタ)アクリレートの含有量が多過ぎると、これらの(メタ)アクリレートの硬化時の収縮率が大きいため、硬化型有機金属組成物の体積硬化収縮率が大きくなり過ぎてしまうおそれがある。
【0045】
本発明の硬化型有機金属組成物において、加水分解可能な基を1つだけ有する金属アルコキシド及び/またはその加水分解物の含有量は、有機金属重合体100重量部に対し、0.1〜15重量部であることが好ましく、さらに好ましくは、0.2〜2.0重量部である。上記金属アルコキシドまたはその加水分解物の含有量が少な過ぎると、OH基が残留することで、1450〜1550nmの波長範囲における吸収が増加したり、吸水率が高くなり、劣化しやすくなる。逆に、上記金属アルコキシドまたはその加水分解物の含有量が多過ぎると、高温環境において、過剰な上記金属アルコキシドまたはその加水分解物が材料中から脱離することでクラック発生の要因となる。
【0046】
また、無水有機酸または有機酸の含有量は、有機金属重合体100重量部に対し、0.1〜10重量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜5重量部である。無水有機酸または有機酸の含有量は少な過ぎると、金属アルコキシドの加水分解が十分に促進されず、逆に無水有機酸または有機酸の含有量が多過ぎると、高温環境において、過剰な無水有機酸または有機酸自体が材料中から脱離することで、クラック発生の要因となる。
【0047】
また、本発明の硬化型有機金属組成物においては、金属、金属酸化物、及び金属窒化物のうちの少なくとも1種からなる微小粒子が含有されていることが好ましい。また、微小粒子のサイズは100nm以下であることが好ましい。
【0048】
金属粒子としては、金、銀、鉄などが挙げられる。
【0049】
金属酸化物粒子としては、酸化ケイ素、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化チタニウム、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化ランタンなどが挙げられる。これらの中でも、特に酸化ケイ素、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム及び酸化チタニウムが好ましく用いられる。
【0050】
金属窒化物粒子としては、窒化アルミニウム、窒化ジルコニウム、窒化チタニウムなどが挙げられる。
【0051】
上記微小粒子として屈折率の低いものを添加することにより、有機金属ポリマー材料の屈折率が低くなるように制御することができる。また、上記微小粒子として屈折率の高い微小粒子を含有させることにより有機金属ポリマー材料の屈折率を高くなるように制御することができる。屈折率を高めることができる金属酸化物粒子としては、酸化ニオブ(Nb25)粒子、酸化ジルコニウム(ZrO2)粒子、酸化チタニウム(TiO2)粒子が挙げられる。また、屈折率を低くすることができる微小粒子としては、酸化ケイ素(SiO2)粒子が挙げられる。
【0052】
微小粒子の含有量としては、有機金属組成物全体に対して5〜50重量%の範囲であることが好ましい。
【0053】
本発明の硬化型有機金属組成物には、酸化防止剤、HALS(Hindered Amine Light Stabilizer)等の光安定剤や、紫外線吸収剤等を添加してもよい。
【0054】
本発明の有機金属ポリマー材料は、上記本発明の硬化型有機金属組成物の硬化物であり、上記硬化型有機金属組成物を重合させることにより得ることができるものである。
【0055】
本発明の光学部品は、上記本発明の有機金属ポリマー材料を用いて光透過領域を形成したことを特徴としている。
【0056】
本発明の光学部品の具体例としては、例えば、透光性のガラス、セラミック、またはプラチックなどの母材の上に、本発明の有機金属ポリマー材料を用いて光透過領域を形成したものが挙げられる。厚みの薄い光学部品を作製する場合には、母材として、高屈折率ガラスや高屈折率透光性セラミックなどを用いることが好ましい。
【0057】
本発明の光学部品としては、複合型非球面レンズを挙げることができる。複合型非球面レンズは、ガラスなどからなる球面レンズの上に、透光性樹脂層からなる光透過領域を形成し、非球面レンズとしたものである。
【0058】
本発明の有機金属ポリマー材料は、上記本発明の硬化型有機金属組成物を硬化させて得られるものであるので、硬化の際の体積硬化収縮率が小さい。このため、ガラスなどからなる透光性の母材の上に、硬化型有機金属組成物の層を設け、これを硬化させることにより、光透過領域を形成した際に、光透過領域が母材から剥離するのを防止することができ、密着性の良い光透過領域を設けることができる。また、本発明の有機金属ポリマー材料は、上述のように、高い屈折率及び優れた耐熱性を有するものであるので、高い屈折率を有し、かつ優れた耐熱性を有する複合型非球面レンズとすることができる。
【0059】
本発明の光学装置は、上記本発明の光学部品を備えることを特徴としている。本発明の光学装置として、上記複合型非球面レンズを備えるカメラモジュールが挙げられる。このようなカメラモジュールは、携帯電話や車載用バックモニターなどに用いることができる。
【0060】
本発明の光学装置としては、さらに液晶プロジェクタなどのプロジェクタや、有機金属ポリマー材料を用いて形成したコア層及び/またはクラッド層からなる光導波路などが挙げられる。
【0061】
また、本発明の光学装置としては、光スイッチ、光送受信モジュール、光カプラなどの光通信デバイス;液晶デバイス、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、映写機などの表示装置;デジタルカメラ等の写真機、ビデオカメラなどの撮像装置、CCDカメラモジュール、CMOSカメラモジュールなどの撮影モジュール;望遠鏡、顕微鏡、虫眼鏡などの光学機器などが挙げられる。
【発明の効果】
【0062】
本発明の硬化型有機金属組成物は、−M−O−M−結合及びアリール基を有する有機金属重合体と、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有するフルオレン系化合物とを含むものであり、体積硬化収縮率が小さく、かつ硬化物が高い屈折率及び優れた耐熱性を有している。また、高い透明性が得られるとともに、有機金属重合体とフルオレン系化合物の混合比を任意の割合で変化させることができるので、これによって屈折率やアッベ数などの光学特性を制御することができる。
【0063】
体積硬化収縮率が小さいので、硬化型有機金属組成物を硬化させて有機金属ポリマー材料を形成した際における有機金属ポリマー材料の剥離を抑制することができ、精度の高い成形を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
フルオレン系化合物として、上記化1に示す構造を有し、m及びnが1であるフルオレンアクリレートを用いた。
【0066】
<粘性液体A>
フルオレンアクリレート:10gと、
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン:0.2gと、
HALS(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Tinuvin292):0.05gと、
紫外線吸収剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Tinuvin400):0.15g
と、
ベンジルメタクリレート:1.43gとを、
60℃で加熱しながら混合することにより、粘性液体Aを得た。
【0067】
<粘性液体B>
有機金属化合物A:3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン15.3mlと、
有機金属化合物B:ジフェニルジメトキシシラン:6.3mlと、
反応触媒としての塩酸を含む水溶液(濃度2Nの塩酸:3.8ml)と、
エタノール:40mlとを、
混合した後、24時間放置することにより、有機金属化合物A及び有機金属化合物Bを加水分解し、重縮合させた。
【0068】
得られた重縮合物を含む液を窒素ガス雰囲気下で、100℃に加熱することにより、エタノールを蒸発除去し、粘性液体を得た。得られた粘性液体を1g取り、
金属アルコキシドX:トリメチルエトキシシラン:3mlと、
有機酸Y:無水トリフルオロ酢酸:0.8mlとを、
混合し、24時間放置した後、窒素ガス雰囲気下で110℃で加熱乾燥することにより、過剰の金属アルコキシドX及び有機酸Yを蒸発除去し、粘性液体Bを得た。
【0069】
<粘性液体C>
上記の粘性液体Aと粘性液体Bを所定の割合で60℃で加熱しながら、混合攪拌することにより、粘性液体Cを得た。
【0070】
粘性液体Cを、厚さ1mmの石英ガラス板の間に挟み、中心波長365nmの紫外線ランプで約30mW/cmの強度の紫外線を15分間照射し、硬化させた。
【0071】
硬化させる際の体積硬化収縮率、並びに硬化物の屈折率及びアッベ数を測定した。
【0072】
体積硬化収縮率rは、硬化前の液体組成物の比重dLを、JIS K 5400の4.6.2に従い測定し、硬化後の比重dSを、JIS Z 8807の4に従い測定し、
r=1−dL/dSの式により算出した。
【0073】
屈折率及びアッベ数については、株式会社アタゴのDR−M2型アッベ屈折計を用いて測定した。なお、屈折率は、特に断らない限り、D線(589nm)で25℃での測定値である。
【0074】
なお、屈折率及びアッベ数は、Metricon社製MODEL2010プリズムカプラなどを用いて測定してもよい。
【0075】
(比較例1)
実施例1の有機金属重合体を含有する粘性液体Bに代えて、ペンタエリスリトールトリアクリレートを用い、実施例1と同様にしてこれを硬化させ、体積硬化収縮率、屈折率、及びアッベ数を測定した。
【0076】
実施例1及び比較例1において、有機金属重合体またはペンタエリスリトールトリアクリレートの含有量は、0重量%、20重量%、29重量%、50重量%、70重量%及び100重量%となるようにしている。
【0077】
図4は、有機金属重合体またはペンタエリスリトールトリアクリレートの添加量と、体積硬化収縮率との関係を示す図である。実施例1では、いずれの添加量の場合においても、体積硬化収縮率は5〜6%と低くなっており、有機金属重合体の添加量(横軸)が変化しても大きく変化していない。
【0078】
これに対し、比較例1では、ペンタエリスリトールトリアクリレートの添加量が20重量%の場合においても、体積硬化収縮率は7%を超えており、さらに添加量の増加に伴って体積硬化収縮率が増加することがわかる。
【0079】
図5は、有機金属重合体の添加量と、光硬化後の硬化物の屈折率との関係を示す図である。図5に示すように、有機金属重合体の添加量を調整することにより、屈折率が約1.53〜1.61程度まで大きく制御できることがわかる。特に、有機金属重合体の添加量が、20重量%及び29重量%の場合、屈折率は1.59〜1.60、アッベ数は30以下であり、ポリカーボネート樹脂なみの高い屈折率と低いアッベ数が得られている。アッベ数が小さいと、屈折率の波長依存性が大きくなるので、アッベ数の大きなガラスまたは樹脂等の光学材料と組み合わせて光学系を構成することで、色収差の補正が可能となる。
【0080】
図6は、実施例1において調製した硬化型有機金属組成物を硬化して得られる有機金属ポリマー材料のアッベ数と、波長589nmでの屈折率との関係を示す図である。図6に示すように、実施例1の材料では、屈折率と同様にアッベ数も大きく変化させることが可能である。従って、本発明の硬化型有機金属組成物を用いることにより、複数のレンズを組み合わせたカメラモジュールの設計など光学デバイスの設計に大きな自由度を与えることが可能である。
【0081】
図7は、実施例1における有機金属重合体の添加量と、硬化物の屈折率の温度係数との関係を示す図である。
【0082】
図7に示すように、有機金属重合体の添加量が増加するとともに、屈折率の温度係数が低下していることがわかる。
【0083】
これは、有機金属重合体の屈折率の温度係数が約−0.8×10−4と小さいことによるものと思われる。なお、比較例1において有機金属重合体の代わりに用いているペンタエリスリトールトリアクリレートの硬化物の屈折率の温度係数は、約−2.8×10−4である。
【0084】
〔高温放置試験〕
実施例1及び比較例1で作製した組成物の高温環境下での形状の安定性を評価した。厚さ約2mm、直径約6mmの錠剤状のサンプルをそれぞれ作製し、120℃のオーブンで48時間加熱した後の厚みの減少量を測定した。120℃の高温で材料が収縮することにより厚みが減少するので、本試験においてはこの厚みの減少量を測定している。評価結果を表1に示す。なお、表1においては、比較として、実施例1の粘性液体Aのみを用いた場合の測定結果も示している。
【0085】
【表1】

表1に示すように、実施例1においては、有機金属重合体の添加量を増加させると、収縮量が減少することがわかる。一方、比較例1においては、ペンタエリスリトールトリアクリレートの添加量を多くすると、収縮量が大きくなっており、高温での形状安定性が悪くなることがわかる。
【0086】
(実施例2)
実施例1において、有機金属重合体の添加量を29重量%とし、粘性液体A中にベンジルメタアクリレートを含有させない以外は、実施例1と同様にして硬化型有機金属組成物を調製し、これを硬化させて硬化物の体積硬化収縮率、屈折率、アッベ数、及び屈折率の温度係数を測定した。
【0087】
体積硬化収縮率は、約5.1%であり、屈折率は約1.60であり、アッベ数は約28であり、屈折率の温度係数は約−1.6×10−4であった。
【0088】
(比較例2)
実施例1において、有機金属重合体の代わりに、トリメチロールプロパントリアクリレートを用いた。この結果、比較例1と同様に、トリメチロールプロパントリアクリレートの添加量が多くなるにつれて、体積硬化収縮率が上昇する結果が得られた。
【0089】
(比較例3)
実施例1の粘性液体Bの調製において、フェニル基を有する有機金属化合物Bを用いずに、有機金属化合物Aのみを20.8ml用いる以外は、実施例1と同様にして粘性液体Aと粘性液体Bを混合して、硬化型有機金属組成物を調製した。
【0090】
しかしながら、粘性液体Aと粘性液体Bを混合した時点において、白濁が発生し、透明な組成物が得られなかった。これは、粘性液体Bにおける有機金属重合体が、アリール基を有していないものであるため、フルオレンアクリレートとの親和性が不十分となり、白濁したものと思われる。
【0091】
(実施例3)
実施例1において、粘性液体Bを作製するのに用いる有機金属化合物Aとして、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを用いて粘性液体Bを調製した。有機金属化合物Aの含有量を9.8mlとし、有機金属化合物Bの含有量を6.3mlとし、濃度2Nの塩酸を3.8mlとし、エタノールの量を40mlとした。これらを混合し、24時間放置することにより、有機金属化合物A及び有機金属化合物Bを加水分解し、重縮合させた。
【0092】
得られた重縮合物を含む液を窒素ガス雰囲気下で、100℃に加熱することにより、エタノールや反応で生じたメタノールを蒸発除去し、得られた液体を粘性液体Bとして用い、有機金属重合体の添加量が29重量%となるように、粘性液体Aと混合して硬化型有機金属組成物を調製した。
【0093】
得られた硬化型有機金属組成物を、上記と同様にして硬化し、硬化物の体積硬化収縮率、屈折率、アッベ数、及び屈折率の温度係数を測定した。
【0094】
体積硬化収縮率は、約6.4%であり、屈折率は約1.61であり、アッベ数は約28であり、屈折率の温度係数は約−1.7×10−4であった。
【0095】
(実施例4)
実施例1の粘性液体Aでベンジルメタクリレートを用いず調製したものを粘性液体Aとして用い、この粘性液体Aと粘性液体Bとトリメチロールプロパントリアクリレートを混合した。この際、有機金属重合体の添加量が20重量%、トリメチロールプロパントリアクリレートの量が20重量%となるように混合し、硬化型有機金属組成物を調製した。
【0096】
得られた有機金属組成物を硬化させ、硬化物の体積硬化収縮率、屈折率、アッベ数、及び屈折率の温度係数を測定した。
【0097】
体積硬化収縮率は、約7%であり、屈折率は約1.59であり、アッベ数は約30であり、屈折率の温度係数は約−1.5×10−4であった。
【0098】
(実施例5)
酸化チタンの微小粒子(平均粒径6nm)がイソプロピルアルコール中に約10重量%分散した粒子分散液を調製し、実施例1の粘性液体Bに添加した後、100℃で加熱乾燥することにより、イソプロピルアルコールを蒸発除去し、粘性液体Dを得た。
【0099】
粘性液体Dを実施例1の粘性液体Aと種々の割合で混合し、これを光硬化させて硬化物を作製し、硬化物の屈折率及びアッベ数を測定した。
【0100】
上記粒子分散液の添加量を調整することにより、硬化物の屈折率を約1.62に調整したもののアッベ数は約26であり、体積硬化収縮率は約6.5%であった。
【0101】
(実施例6)
酸化ニオブの微小粒子(平均粒径10nm)がエタノール中に約10重量%分散した粒子分散液を調製し、実施例1の粘性液体B1gにペンタエリスリトールトリアクリレート0.2gを添加したものに、この粒子分散液を添加攪拌した後、100℃で加熱乾燥することにより、エタノールを蒸発除去し、粘性液体Eを得た。
【0102】
粘性液体Eを、実施例1と同様に粘性液体Aと種々の割合で混合し、これを光硬化させて硬化物の屈折率及びアッベ数を測定した。
【0103】
上記粒子分散液の添加量を調整することにより、硬化物の屈折率を約1.64に調整したものは、アッベ数は約24であり、体積硬化収縮率は約7%であった。
【0104】
(実施例7)
実施例1の粘性液体Cを用いて、複合型非球面レンズを作製した。複合型非球面レンズとは、ガラスや樹脂製の球面レンズまたは平板を母材として用い、この母材の光学面上に非球面の樹脂層等を形成することにより、作製した非球面レンズである。
【0105】
図1(a)に示すように、直径5mm、最大厚み1mmのガラス球面レンズ10(母材ガラス)の上に、粘性液体11を滴下した。粘性液体11は、実施例1の粘性液体Cである。次に、図1(b)に示すように、内面に非球面形状を有するニッケル製金型12をガラス球面レンズ10上の粘性液体11に押し当て、次に図1(c)に示すようにガラス球面レンズ10側から紫外線14を照射して、粘性液体11を硬化させて有機金属ポリマー材料からなる樹脂層13を形成した。
【0106】
次に、図1(d)に示すように、金型12を取り外し、図1(e)に示すように、ガラス球面レンズ10と樹脂層13からなる複合型非球面レンズ15を得た。
【0107】
次に、得られた複合型非球面レンズと、樹脂層を形成していない球面レンズについて、図2に示す装置を用いて球面収差を観察した。メッシュパターンが形成されたスクリーン18と、CCDカメラ16の間に、レンズ17を配置し、CCDカメラ16により、スクリーン18上のメッシュパターンを拡大して観察した。スクリーン18上のメッシュパターンは、図2に示すような間隔0.5nmのメッシュパターン19である。
【0108】
レンズ17として、ガラス球面レンズ10を用いた場合には、球面レンズ特有の球面収差により、図3(b)に示すような歪んだメッシュパターンの画像が観察された。これに対して、上記のように作製した複合型非球面レンズ15をレンズ17として用いた場合には、図3(a)に示すような、メッシュパターンが忠実に拡大された画像が得られた。
【0109】
実施例1以外の他の実施例で得られた粘性液体を用いて、上記と同様にして複合型非球面レンズを作製した場合も上記と同様の結果が得られた。
【0110】
(実施例8)
<高屈折率透過性セラミックの母材としての使用>
母材として、高屈折率透過性セラミック(屈折率約2.1)を用いる以外は、実施例7と同様にして、複合型非球面レンズを作製した。
【0111】
得られた複合型非球面レンズについて評価したところ、実施例7と同様にメッシュパターンが忠実に拡大された画像が得られた。
【0112】
(実施例9)
母材として、高屈折率ガラス(株式会社オハラ社製、商品名「S−LAH79」、屈折率約2.0)を用いる以外は、実施例7と同様にして、複合型非球面レンズを作製した。
【0113】
得られた複合型非球面レンズについて評価したところ、実施例7と同様にメッシュパターンが忠実に拡大された画像が得られた。
【0114】
なお、高屈折率ガラスとして、株式会社オハラ社製の商品名「S−NPH1」(屈折率約1.81)、「S−NPH2」(屈折率約1.92)、「S−TIH53」(屈折率約1.85)、「S−TIH6」(屈折率約1.80)、「S−LAL7」(屈折率約1.65)を用いた場合でも同様の結果が得られた。
【0115】
(実施例10)
図8は、従来のカメラモジュールの一例を示す断面図である。図8に示すように、撮像素子25の上には、2枚のプラスチック非球面レンズ21及び22と、2枚のガラス球面レンズ23及び24が設けられており、これらのレンズは、オートフォーカス機構26により保持されている。カメラモジュール20は、4枚のレンズ22〜24を有するものであり、携帯電話用の2〜5メガピクセルのカメラモジュールとして用いることができるものである。複数のレンズを組み合わせることにより、必要な倍率を確保するとともに、撮影カメラ用のレンズに必須の色収差を含む各種の収差補正を行っている。例えば、図8に示す例においては、球面レンズ23及び24の少なとも一片のアッベ数を大きく、プラスチック非球面レンズ21及び22の少なくとも一方のアッベ数を小さく設定することにより、色収差を相殺する設計が行われている。
【0116】
図9は、本発明に従う実施例のカメラモジュールを示す断面図である。図9においては、図8におけるレンズ23及び24のどちらかに本発明の複合型非球面レンズ(樹脂層の屈折率:約1.59、アッベ数:約30)を用いることにより、アッベ数の小さい樹脂層と、プラスチック非球面レンズ21及び22の少なくとも一方による色収差補正が可能となり、レンズを1枚削除することができる。この結果として、カメラモジュールの高さを約1mm低くすることができる。図8に示す従来のカメラモジュールの高さは約10mmであり、図9に示す本実施例のカメラモジュールの高さは約9mmである。
【0117】
図10は、カメラモジュールを配置した2つ折りタイプの携帯電話を示す断面図である。上方部には、カメラモジュール20が備えられており、TVチューナー31、ハードディスクドライブ32、及びディスプレイ33などが内蔵されている。下方部には、キーボード34及び電池35などが内蔵されている。
【0118】
カメラモジュール20として、従来のカメラモジュールを用いた場合には、上方部の高さh及び下方部の高さhは、それぞれ12.5mmとなり、携帯電話全体の高さHは25mmとなる。しかしながら、本発明に従い、カメラモジュール20として、図9に示す実施例のカメラモジュールを用いることにより、高さhを約1mm薄くすることができ、これにより全体の高さHも約1mm薄くすることができる。
【0119】
本実施例においては、ガラスレンズの上に樹脂層を設けた複合型非球面レンズとしているが、本発明においては、プラスチックレンズの上に樹脂層を設けた複合型非球面レンズであってもよい。この場合のプラスチックレンズの材料としては、例えば、日本ゼオン社製商品名「ZEONEX樹脂」、JSR社製商品名「ARTON樹脂」などのポリオレフィン系樹脂、大阪ガスケミカル社製商品名「OKP4」などのフルオレン系ポリエステル樹脂などが挙げられる。また、その他の樹脂として、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、フッ素樹脂、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドなどの樹脂を用いることができる。
【0120】
(実施例11)
また、図9に示すカメラモジュールは車載用バックモニターのカメラモジュールとしても用いることができるものである。車載用のカメラモジュールにおいては、高度な耐熱性が必要とされ、実施例9の非球面レンズを用いることができる。また、実施例9の非球面レンズは、高い屈折率を有しているので、視野角を広くすることができる。
【0121】
(実施例12)
本発明の有機金属ポリマー材料は、各種電子機器の基板内配線や基板間配線に使用することができ、また光導波路素子に応用することもできる。
【0122】
図11は、本発明の光導波路の一実施例を示す断面図である。図11に示すように、ガラス基板43の上にクラッド層42が設けられ、クラッド層42の中にコア層41が形成されている。コア層41の高さは約70μmであり、コア層41間の距離は約500μmである。コア層41の上方には約100μmの厚みのクラッド層42が存在し、コア層41の下方にも約100μmの厚みのクラッド層42が存在している。
【0123】
本実施例においては、光硬化後の固体の屈折率が約1.53となるように調整したものを用いてコア層41を形成している。また、屈折率が約1.51となるように調整したものを用いてクラッド層42を形成している。コア層41の断面は約70μm角である。また、ガラス基板43としては、厚さ1mmのテンパックスガラス基板を用いている。
【0124】
光導波路の一方の端面から波長650nm、830nm、及び850nmの光を入射したところ、他方の端面からそれぞれの光の出射が確認された、カットバック法により光伝搬損失の測定を行った結果、0.5dB/cm以下であった。
【0125】
図12(a)は、図11に示すコア層41及びクラッド層42の両側を、フレキシブルな基板である厚さ70μmのポリイミドフィルム44で挟んだ構造の光導波路を示す図である。
【0126】
また、図12(b)は、クラッド層42の周囲を厚さ70μmとなるようにポリイミドでモールドしてモールド層45を形成した光導波路を示す断面図である。
【0127】
図12(a)及び(b)のようにフレキシブルな基板を用いた場合、例えば曲率半径10mm程度に曲げることができた。
【0128】
図13は、本発明に従う光導波路の他の実施例を示す断面図である。
【0129】
図13(a)においては、コア層41の側方に直径150μmの電力用銅配線46が設けられている。クラッド層42の両側は、フレキシブルな基板である厚さ70μmのポリイミドフィルム44で挟まれている。
【0130】
図13(b)の実施例においては、上方のポリイミドフィルム44中に電力用銅配線46が配置されている。
【0131】
図13に示すように、本発明の光導波路には、電力用配線が設けられていてもよい。このように電力用配線を設けることにより、情報信号と電力の供給を1つの素子で行うことが可能になる。
【0132】
電力用銅配線46は、矩形の断面形状を有していてもよい。
【0133】
(実施例13)
図14は、液晶プロジェクターを示す模式的断面図である。光源53の上には、照明光学系52が設けられており、照明光学系52は、レンズ52a及び52bから構成されている。光源53から出射された光は、ハーフミラー54に当り、ハーフミラー54を透過した光はミラー58で反射され、レンズ60及び液晶パネル63を通りクロスプリズム59に入射する。
【0134】
一方、ハーフミラー54で反射された光は、ハーフミラー55に照射され、ハーフミラー55で反射された光は、レンズ61及び液晶パネル64を通りクロスプリズム59に入射する。
【0135】
ハーフミラー55を透過した光は、ミラー56で反射され、さらにミラー57で反射されて、レンズ62及び液晶パネル64を通り、クロスプリズム59に入射する。
【0136】
液晶パネル65は赤(R)用の液晶パネルであり、液晶パネル64は緑(G)用の液晶パネルであり、液晶パネル63は青(B)用の液晶パネルである。これらの液晶パネルを通過した光は、クロスプリズム59で合成され、投影光学系51を通り、外部に出射される。投影光学系51は、レンズ51a、51b、及び51cから構成されている。
【0137】
光源53は、例えばメタルハライドランプ、水銀ランプ、LED等から構成される。
【0138】
光源53は、発熱源であるため、従来は投影光学系51のレンズ51a〜51cを、光源53からある程度の距離だけ離す必要があった。
【0139】
しかしながら、本発明の光学部品は、上述のように良好な耐熱性を有する有機金属ポリマー材料から形成されているので、光源53の近くに配置することができる。
【0140】
図15は、本発明に従う液晶プロジェクターの一実施例を示す模式的断面図である。
【0141】
図15に示す実施例においては、投影光学系51のレンズ51a〜51cに実施例9のレンズを用いている。このため、図15に示すように光源53の位置を投影光学系51に近づけるように配置することができる。このため、液晶プロジェクター50を小型化することができる。
【0142】
図15に示す液晶プロジェクターにおいて、光源53から出射された光は、照明光学系52を通り、ハーフミラー54に照射され、ハーフミラー54で反射された光は、レンズ60及び液晶パネル63を通りクロスプリズム59に入射される。ハーフミラー54を透過した光はミラー58で反射され、ハーフミラー55に向う。ハーフミラー55で反射された光はレンズ61及び液晶パネル64を通り、クロスプリズム59に入射される。ハーフミラー55を透過した光はミラー56で反射され、さらにミラー57で反射され、レンズ62及び液晶パネル65を通りクロスプリズム59に入射される。液晶パネル63、64及び65を透過した光はクロスプリズム59で合成され、投影光学系51を通り外部に出射される。
【0143】
図14及び図15に示す液晶プロジェクターは、RGBを独立した液晶パネルで表示する3板式透過型プロジェクターであるが、RGBを合成した液晶パネルを1枚使用した単板式の透過型プロジェクターでも同様の効果を得ることができる。
【0144】
図16に示す液晶プロジェクターにおいては、さらに小型化を図るため、光源53として白色LEDを用いている。図16に示すように、光源53から出射された光は照明光学系52を通り、レンズ60、液晶パネル63を通り、さらに投影光学系51を通り外部に出射される。
【0145】
図16に示すように、光源53から投影光学系51までを直線上に配置することができる。このような場合、投影光学系51のレンズ51a、51b及び51cに実施例9のレンズを用いることにより、焦点距離を短くすることができるので、液晶プロジェクター全体の長さを短くすることができる。
【0146】
(実施例14)
図17に示す複合型非球面レンズを作製した。図17に示す複合型非球面レンズ5は、直径3mm、最大厚み1.5mmのレンズ母材1の第2面1bの上に、本発明の有機金属ポリマー材料から形成された樹脂層2が形成されており、樹脂層2の上にAR膜(反射防止膜)3が形成されている。レンズ母材1の反対側の第1面1aの上にはAR膜4が形成されている。レンズ母材1の第1面1aの曲率半径は4mmであり、第2面1bの曲率半径は1.7mmである。
【0147】
樹脂層2を形成する有機金属ポリマー材料は、以下の組成からなる硬化型有機金属組成物から形成した。
【0148】
フルオレンアクリレート:40重量%
有機金属重合体:40重量%
フェノキシエチルアクリレート(PhEA):20重量%
有機金属重合体は3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(MPTES)とジフェニルジメトキシシラン(DPhDMS)をモル比で50:50となるように混合して形成している。
【0149】
具体的には、以下のようにして調製して粘性液体Aと粘性液体Bを60℃で加熱し、混合することにより、硬化型有機金属組成物を調製した。
【0150】
<粘性液体A>
フルオレンアクリレート:6.4gと、
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン:0.2gと、
HALS(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Tinuvin292):0.05gと、
紫外線吸収剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Tinuvin400):0.15g
と、
PhEA:3.2gとを、
60℃で加熱しながら混合することにより、粘性液体Aを得た。
【0151】
<粘性液体B>
MPTES:12.3mlと、DPhDMS:10.3mlと、反応触媒としての塩酸を含む水溶液(濃度2Nの塩酸:3.8ml)と、エタノール40mlとを混合した後、24時間放置することにより、加水分解し、重縮合させた。
【0152】
得られた重縮合物を含む液を窒素ガス雰囲気下で、100℃に加熱することにより、エタノールを蒸発除去し、粘性液体を得た。得られた粘性液体を1g取り、
金属アルコキシドX:トリメチルエトキシシラン:3mlと、
有機酸Y:無水トリフルオロ酢酸:0.8mlとを、
混合し、24時間放置した後、窒素ガス雰囲気下で110℃で加熱乾燥することにより、過剰の金属アルコキシドX及び有機酸Yを蒸発除去し、粘性液体Bを得た。
【0153】
以下の実施例では、この粘性液体Bを用いた。
【0154】
以上のようにして得られた硬化型有機金属組成物をレンズ母材の上に滴下し、樹脂層2を形成した。
【0155】
次に、樹脂層2の上及びレンズ母材1の第1面1aの上に、AR膜3及び4をそれぞれ形成した。AR膜は、電子ビーム蒸着法により、酸化ケイ素膜と酸化チタン膜を交互に積層することにより作製する。設計波長λを500nmとし、まず母材に下地層として酸化ケイ素膜を膜厚λで形成した後、特開平6−11601号公報に開示されている通り母材側より酸化チタン膜0.04λ、酸化ケイ素膜0.1λ、酸化チタン膜0.5λ、酸化ケイ素膜0.24λの順で積層した。
【0156】
複合型非球面レンズとしては、ガラス母材を用いたものとプラスチック母材を用いたもの2種類を作製した。
【0157】
ガラス母材としては、オハラ社製S−FPL51を用いた。また、プラスチック母材としては、日本ゼオン社製ZEONEX樹脂からなるレンズ母材を用いた。
【0158】
レンズ母材1としてガラス母材を用いた場合の樹脂層2の曲率半径は3.01mmとし、プラスチック母材を用いた場合の樹脂層2の曲率半径は4.43mmとした。
【0159】
〔熱ショック試験〕
以上のようにして作製した2種類の複合型非球面レンズについて、熱ショック試験を行った。図18は、熱ショック試験を行った装置を示す模式的断面図である。測定対象であるサンプル8は、容器7内に入れられ、容器7が、−40℃の恒温槽5と、85℃の恒温槽6の間を図19に示す周期で往復することにより、熱ショックがサンプル8に与えられる。
【0160】
上記の熱ショック試験を行った結果、ガラス母材を用いた複合型非球面レンズにおいては、500サイクル後において、樹脂層及びAR膜に剥離やクラックは生じなかった。しかしながら、プラスチック母材を用いたものでは、100サイクル後において、AR膜にクラックが生じた。
【0161】
実施例1の硬化型有機金属組成物(有機金属重合体添加量20重量%)を用いて、上記と同様にして、ガラス母材とプラスチック母材の複合型非球面レンズをそれぞれ作製し、熱ショック試験を行った。その結果、100サイクル後において、ガラス母材及びプラスチック母材のいずれにおいても、樹脂層及びAR膜にクラックが発生した。従って、実施例1において用いたベンジルアクリレート(BzMA)よりも本実施例において用いたフェノキシエチルアクリレート(PhEA)の方がクラック発生防止に効果があることがわかる。アクリレートとして、PhEAを用いる場合の、PhEAの含有量は、10〜30重量%の範囲であることが好ましい。
【0162】
(実施例15)
アクリレートとして、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)を用い、以下の組成の硬化型有機金属組成物を調製した。
【0163】
フルオレンアクリレート:55重量%
有機金属重合体:25重量%
PETA:15重量%
硬化型有機金属組成物は、以下のようにして調製した粘性液体Aと、実施例14の粘性液体Bを60℃で加熱しながら混合攪拌することにより調製した。
【0164】
<粘性液体A>
フルオレンアクリレート:8.8gと、
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン:0.2gと、
HALS(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Tinuvin292):0.05gと、
紫外線吸収剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Tinuvin400):0.15g
と、
PETA:4gとを、
60℃で加熱しながら混合することにより、粘性液体Aを得た。
【0165】
調製した硬化型有機金属組成物を用いて、上記実施例14と同様にしてガラス母材及びプラスチック母材の複合型非球面レンズを作製し、熱ショック試験を行った。
【0166】
プラスチック母材の複合型非球面レンズにおいては、500サイクル後において、樹脂層及びAR膜ともに剥離やクラックは生じなかった。しかしながら、ガラス母材の複合型非球面レンズにおいては、100サイクル以内において樹脂層及びAR膜にクラックが発生した。アクリレートとして、PETAを用いる場合、PETAの含有量は、5〜25重量%の範囲であることが好ましい。
【0167】
(実施例16)
アクリレートとして、上記のPETAと、ウレタンアクリレート(ダイセルサイテック社製商品名「Ebecryl210」)を用い、以下の組成の硬化型有機金属組成物を調製した。
【0168】
フルオレンアクリレート:45重量%
有機金属重合体:30重量%
PETA:10重量%
ウレタンアクリレート:15重量%
粘性液体Aは、以下のようにして調製した。
【0169】
<粘性液体A>
フルオレンアクリレート:7.2と、
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン:0.2gと、
HALS(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Tinuvin292):0.05gと、
紫外線吸収剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Tinuvin400):0.15g
と、
PETA:1.6g及びウレタンアクリレート:2.4gとを、
60℃で加熱しながら混合することにより、粘性液体Aを得た。
【0170】
以上のようにして調製した硬化型有機金属組成物を用いて、上記実施例14と同様にして、ガラス母材及びプラスチック母材の複合型非球面レンズを作製し、熱ショック試験を行った。
【0171】
プラスチック母材及びガラス母材のいずれにおいても、100サイクル後において、樹脂層及びAR膜に剥離やクラックは発生しなかった。
【0172】
しかしながら、硬化型有機金属組成物の粘度はやや高かった。また、ガラス母材の複合型非球面レンズにおいては、250サイクルで樹脂層にクラックが生じた。アクリレートとしてウレタンアクリレートを用いる場合、ウレタンアクリレートの含有量は、5〜10重量%の範囲であることが好ましい。
【0173】
(実施例17)
アクリレートとして、上記のPETAと、ビスフェノールAのEO変性ジアクリレート(東亜合成社製商品名「M−210」)を用いて、以下の組成の硬化型有機金属組成物を調製した。
【0174】
フルオレンアクリレート:45重量%
有機金属重合体:35重量%
PETA:10重量%
ビスフェノールジアクリレート:10重量%
粘性液体Aは以下のようにして調製した。
【0175】
<粘性液体A>
フルオレンアクリレート:7.2gと、
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン:0.2gと、
HALS(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Tinuvin292):0.05gと、
紫外線吸収剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Tinuvin400):0.15g
と、
PETA:1.6g及びビスフェノールジアクリレート:1.6gとを、
60℃で加熱しながら混合することにより、粘性液体Aを得た。
【0176】
得られた硬化型有機金属組成物を用いて、上記実施例14と同様にして、ガラス母材及びプラスチック母材の複合型非球面レンズを作製し、熱ショック試験を行った。
【0177】
プラスチック母材の複合型非球面レンズにおいては、500サイクル後において、樹脂層及びAR膜ともに剥離やクラックは生じなかった。これに対し、ガラス母材のものにおいては、100サイクル後において、樹脂層及びAR膜にクラックが発生した。なお、本実施例における硬化型有機金属組成物は、実施例16の硬化型有機金属組成物よりも粘度の低いものであった。
【0178】
本実施例においては、EO変性のビスフェノールジアクリレートを用いているが、これ以外に、PO変性、テトラメチレンオキサイド変性のものも用いることができる。また、ビスフェノールFジアクリレートなどのように、ビスフェノール基と(メタ)アクリル基を有する他の(メタ)アクリレートも使用可能である。アクリレートとして、ビスフェノールジアクリレートを用いる場合、ビスフェノールジアクリレートの含有量は、15〜40重量%の範囲であることが好ましい。
【0179】
(実施例18)
アクリレートとして、上記PETAと、ヒドロキシエチル化o−フェニルフェノールメタクリレート(新中村化学社製商品名「NKエステルL−4」)(PhPhMA)を用いて、以下の組成の硬化型有機金属組成物を調製した。
【0180】
フルオレンアクリレート:40重量%
有機金属重合体:20重量%
PETA:10重量%
PhPhMA:30重量%
粘性液体Aは、以下のようにして調製した。
【0181】
<粘性液体A>
フルオレンアクリレート:7.2gと、
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン:0.2gと、
HALS(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Tinuvin292):0.05gと、
紫外線吸収剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Tinuvin400):0.15g
と、
PETA:1.6g及びPhPhMA:4.8gとを、
60℃で加熱しながら混合することにより、粘性液体Aを得た。
【0182】
得られた硬化型有機金属組成物を用いて、上記実施例14と同様にして、ガラス母材及びプラスチック母材の複合型非球面レンズを作製し、熱ショック試験を行った。
【0183】
プラスチック母材の複合型非球面レンズにおいては、500サイクル後において、樹脂層及びAR膜ともに剥離やクラックは生じなかった。しかしながら、ガラス母材においては、100サイクル後において、樹脂層及びAR膜にクラックが生じた。
【0184】
なお、本実施例の硬化型有機金属組成物の粘度は、実施例16の硬化型有機金属組成物よりも低い粘度であった。
【0185】
本実施例においては、ヒドロキシエチル化o−フェニルフェノールメタクリレートを用いているが、これに代えて、o−フェニルフェノールグリシジルエーテルアクリレート(新中村化学社製商品名「NKエステル401B」)などのように、フェニルフェノール基と(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリレートを使用することができる。アクリレートとして、フェニルフェノール(メタ)アクリレートを用いる場合、フェニルフェノール(メタ)アクリレートの含有量は、10〜40重量%の範囲であることが好ましい。
【0186】
以上のことから、実施例17及び実施例18のように、ビスフェノール基やフェニルフェノール基などのように、2個以上のフェニル基を有する(メタ)アクリレートを用いて硬化型有機金属組成物を希釈することにより、高屈折率を維持しつつ、粘度を下げることができる。
【0187】
実施例1及び実施例14〜18において調製した硬化型有機金属組成物の粘度並びにそれらの硬化物の屈折率及びアッベ数を表2に示す。
【0188】
【表2】

BzMA、PhEA、PhPhMAは、1官能のアクリレートであり、ウレタンアクリレート及びビスフェノールアクリレートは2官能のアクリレートであり、PETAは3官能のアクリレートである。
【0189】
(実施例19)
実施例14において作製したガラス母材の複合型非球面レンズについて、焦点距離を測定したところ、波長486nm及び656nmのいずれにおいても、焦点距離は3.79mmであった。
【0190】
(実施例20)
実施例17におけるプラスチック母材の複合型非球面レンズについて、焦点距離を測定した。波長486nm及び656nmのいずれの波長においても、焦点距離は4.92mmであった。
【0191】
上記実施例19及び20においては、1枚の複合型非球面レンズで色消しを実現したが、複数枚のレンズからなるレンズ系のうちの1枚以上のレンズを、本発明の硬化型有機金属組成物からなる樹脂層を有する複合型レンズとしても、色消しが可能であることはいうまでもない。
【0192】
(実施例21)
図20は、本発明の光学部品である複合型非球面レンズ5を用いた光送受信モジュールを示す模式的断面図である。
【0193】
光送受信モジュール70内には、光ファイバー71の一方端71aが挿入されており、光ファイバー71の一方端71aと対向する位置に、発光素子73が設けられている。発光素子73の前方には、本発明に従う複合型非球面レンズ5が設けられており、複合型非球面レンズ5と光ファイバー71の端部71aとの間に45°傾斜させて波長選択フィルタ72が設けられている。波長選択フィルタ72の下方には、レンズ74を介して受光素子75が設けられている。
【0194】
発光素子73から出射された光は、複合型非球面レンズ5を通り、波長選択フィルタ72を通過して端部71aから光ファイバー71内に入り、伝送される。
【0195】
また、光ファイバー71から送られてきた光は、端部71aを通り、波長選択フィルタ72で反射され、レンズ74を通り、受光素子75が受光される。
【0196】
本実施例の光送受信モジュールにおいては、本発明に従う複合型非球面レンズ5を用いているので、焦点距離を短くすることができ、小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】本発明の光学部品である複合型非球面レンズを製造する工程の一例を示す模式的断面図。
【図2】複合型非球面レンズの球面収差を観測するための装置を示す模式図。
【図3】ガラス球面レンズ及び複合型非球面レンズを用いて観察した際のメッシュパターン図を示す図。
【図4】本発明に従う実施例における有機金属重合体の添加量と体積硬化収縮率との関係を示す図。
【図5】本発明に従う実施例における有機金属重合体の添加量と、光硬化後の屈折率との関係を示す図。
【図6】本発明に従う実施例におけるアッベ数と波長589nmでの屈折率との関係を示す図。
【図7】本発明に従う実施例における有機金属重合体の添加量と屈折率の温度係数との関係を示す図。
【図8】従来のカメラモジュールの一例を示す模式的断面図。
【図9】本発明に従う実施例のカメラモジュールを示す模式的断面図。
【図10】2つ折りの携帯電話を示す模式的断面図。
【図11】本発明に従う一実施例の光導波路を示す断面図。
【図12】本発明に従う他の実施例の光導波路を示す断面図。
【図13】本発明に従うさらに他の実施例の光導波路を示す断面図。
【図14】液晶プロジェクタの実施例を示す模式的断面図。
【図15】本発明に従う液晶プロジェクタの一実施例を示す模式的断面図。
【図16】本発明に従う液晶プロジェクタの他の実施例を示す模式的断面図。
【図17】本発明に従う実施例の複合型非球面レンズを示す断面図。
【図18】本発明の実施例において行った熱ショック試験に用いた装置を示す模式的断面図。
【図19】熱ショック試験における85℃恒温槽及び−40℃恒温槽のインターバルを示す図。
【図20】本発明に従う光送受信モジュールの一実施例を示す模式的断面図。
【符号の説明】
【0198】
1…レンズ母材
1a…レンズ母材の第1面
1b…レンズ母材の第2面
2…樹脂層2
3,4…AR膜
5…複合型非球面レンズ
10…ガラス球面レンズ
11…粘性液体
12…金型
13…樹脂層
14…紫外線
15…複合型非球面レンズ
16…CCDカメラ
17…レンズ
18…メッシュパターン付きスクリーン
19…メッシュパターン
20…カメラモジュール
21,22,23,24…非球面レンズ
25…撮像素子
30…携帯電話
31…TVチューナー
32…ハードディスクドライブ
33…ディスプレイ
34…キーボード
35…電池
40…光導波路
41…コア層
42…クラッド層
43…基板
44…ポリイミドフィルム
45…ポリイミドモールド層
46…電力用配線
50…液晶プロジェクター
51…投影光学系
52…照明光学系
53…光源
54,55…ハーフミラー
56,57,58…ミラー
59…クロスプリズム
60,61,62…レンズ
63,64,65…液晶パネル
70…光送受信モジュール
71…光ファイバー
71a…光ファイバーの一方端
72…波長選択フィルタ
73…発光素子
74…レンズ
75…受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−M−O−M−結合(Mは金属原子)及びアリール基を有する有機金属重合体と、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有するフルオレン系化合物とを含むことを特徴とする硬化型有機金属組成物。
【請求項2】
2以上の官能基を有する(メタ)アクリレートがさらに含まれていることを特徴とする請求項1に記載の硬化型有機金属組成物。
【請求項3】
1つ以上のアリール基を有する(メタ)アクリレートがさらに含まれていることを特徴とする請求項1に記載の硬化型有機金属組成物。
【請求項4】
芳香族ウレタンアクリレートオリゴマーがさらに含まれていることを特徴とする請求項2または3に記載の硬化型有機金属組成物。
【請求項5】
加水分解可能な基を1つだけ有する金属アルコキシド及び/またはその加水分解物がさらに含まれていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬化型有機金属組成物。
【請求項6】
無水有機酸及び/または有機酸がさらに含まれていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化型有機金属組成物。
【請求項7】
前記有機金属重合体の金属原子Mが、Si、Nb、Ti、及びZrのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の硬化型有機金属組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の硬化型有機金属組成物を重合することにより得られる有機金属ポリマー材料。
【請求項9】
請求項8に記載の有機金属ポリマー材料を用いて光透過領域を形成したことを特徴とする光学部品。
【請求項10】
透光性の部材の上に、前記光透過領域を形成した複合型非球面レンズであることを特徴とする請求項9に記載の光学部品。
【請求項11】
請求項9または10に記載の光学部品を備えることを特徴とする光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−291321(P2007−291321A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267255(P2006−267255)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】