説明

硬化型水性樹脂組成物

【課題】
常温乾燥の条件でも耐水性、仕上がり性に優れ、且つ厳しい環境でも塗装初期の外観を維持することが可能な硬化性の非常に良好な硬化型水性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
(A)脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a)、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b)及びその他の重合性不飽和モノマー(c)を含むモノマー混合物(I)を水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られるモノマー乳化物を重合することにより製造される水性脂肪酸変性樹脂分散体並びに(B)カルボキシル基と反応可能な官能基を1分子中に2個以上有する化合物を含有し、(A)中のカルボキシル基1モルに対して化合物(B)中のカルボキシル基と反応可能な官能基が、0.1〜3.0モルの範囲内にあることを特徴とする硬化型水性樹脂組成物、該硬化型水性樹脂組成物を含む水性塗料組成物及び塗装方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温乾燥の条件でも硬化性が非常に良好で、仕上がり性、耐水性の良好な塗膜を形成するのに適する硬化型水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料の分野においては、環境問題への対応や、作業環境改善の要求から、水性化への試みがなされている。一般に仕上がり性、塗膜性能の点などにおいて溶剤系塗料と比較すると水性塗料は劣る傾向にあり、特に常温乾燥又は強制乾燥するタイプの水性塗料においては、乾燥段階における塗膜表面のレベリング性や塗膜中の架橋反応が加熱硬化型の場合と比較すると不十分であるために、仕上がり性や塗膜物性を溶剤系塗料に近づけることは困難である。
【0003】
一方、市場では汎用性の点から一液型塗料が望まれており、一液型で常温乾燥又は強制乾燥の条件でも仕上がり性、塗膜性能が良好な水性塗料の開発が望まれている。
【0004】
常乾型の水性塗料として例えば、特許文献1には、架橋性カルボニル基を含むエマルジョン粒子とジヒドラジド化合物を含む組成物が開示されている。該組成物は、貯蔵性に優れ、耐水性等の物性にも優れた塗膜が形成できるが、塗膜の光沢が十分とはいえない場合がある。
【0005】
光沢の優れた架橋塗膜を常温乾燥の条件でも形成可能な一液型水性塗料として、脂肪酸変性アクリル樹脂を塗膜形成成分とする水性塗料が知られている。
【0006】
例えば、特許文献2には、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー及び他の重合性不飽和モノマーを含むモノマー混合物を、水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られる乳化物を重合させることを特徴とする分散樹脂の平均粒子径が500nm以下である水性樹脂分散体を含む水性塗料組成物が記載されている。
【0007】
該水性塗料によれば、常温でも架橋でき、耐水性、肉もち感を有する仕上がりの塗膜を形成できるものであるが、頻繁に水や油が接触するような厳しい環境では塗膜のはがれが起こることがあるという問題点を有している。
【0008】
【特許文献1】特開平4−249587号公報
【特許文献2】WO2004/074327号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、常温乾燥の条件でも耐水性、仕上がり性に優れ、且つ厳しい環境でも塗装初期の外観を維持することが可能な硬化性の非常に良好な硬化型水性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記した課題に対して鋭意検討した結果、今回、特定の製造方法により製造されるカルボキシル基を有する水性脂肪酸変性樹脂分散体に、カルボキシル基と反応可能な官能基を分子中に2個以上有する化合物を特定量含むことを特徴とする硬化型水性樹脂組成物が上記した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち本発明は、
1. (A)脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a)、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b)及びその他の重合性不飽和モノマー(c)を含むモノマー混合物(I)を水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られるモノマー乳化物を重合することにより製造される水性脂肪酸変性樹脂分散体並びに(B)カルボキシル基と反応可能な官能基を1分子中に2個以上有する化合物を含有し、(A)中のカルボキシル基1モルに対して化合物(B)中のカルボキシル基と反応可能な官能基が、0.1〜3.0モルの範囲内にあることを特徴とする硬化型水性樹脂組成物、
2. モノマー(a)、モノマー(b)及びモノマー(c)の使用割合が、モノマー(a)、モノマー(b)及びモノマー(c)の合計量を基準にして、モノマー(a)が5〜70質量%、モノマー(b)が0.1〜30質量%、モノマー(c)が0を超えて〜94.9質量%の範囲内である1項に記載の硬化型水性樹脂組成物。
3. カルボキシル基と反応可能な官能基を1分子中に2個以上有する化合物(B)が、ポリカルボジイミド化合物及び/又はポリオキサゾリン化合物である1項または2項に記載の硬化型水性樹脂組成物、
4. 1項ないし3項のいずれか1項に記載の硬化型水性樹脂組成物を含む水性塗料組成物、
5. 被塗面に、4項に記載の水性塗料組成物を塗装することを特徴とする塗膜形成方法、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の硬化型水性樹脂組成物によれば、特定の脂肪酸変性樹脂分散体を塗膜形成成分とし、該樹脂分散体と相溶性が良好で且つ反応可能な官能基を有する化合物を含有しているので、塗膜形成過程において、樹脂組成物中の不飽和脂肪酸基が架橋反応すると共に、カルボキシル基と該カルボキシル基と反応可能な官能基との架橋反応が進行し、強靭であり且つ肉もち感を有する仕上がり性に優れた架橋塗膜を常温乾燥の条件でも形成することができる。また、塗膜形成過程において架橋反応が進行するに伴い塗膜中から親水性基であるカルボキシル基を減少させることができ、塗膜の耐水性を格段に向上させることができる利点を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a)
本発明において使用される脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a)は、水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)を安定に製造させることができ、最終的に得られる硬化型水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜に肉持ち感を付与し、水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)粒子に酸化硬化基を導入することができるものであり、脂肪酸由来の炭化水素鎖の末端に重合性不飽和基を有する重合性不飽和モノマーが包含される。ここで、重合性不飽和基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などを挙げることができ、特に(メタ)アクリロイル基が好適である。
【0013】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a)としては、例えば、脂肪酸(a1)をエポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a2)又は水酸基含有重合性不飽和モノマー(a3)と反応させることにより得られるものを挙げることができる。
【0014】
脂肪酸(a1)としては、炭化水素鎖の末端にカルボキシル基が結合した構造を有しているものが挙げられ、例えば、乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸、不乾性油脂肪酸を挙げることができる。乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸は、厳密に区別できるものではないが、通常、乾性油脂肪酸はヨウ素化が130以上の不飽和脂肪酸であり、半乾性油脂肪酸はヨウ素化が100以上かつ130未満の不飽和脂肪酸である。他方、不乾性油脂肪酸は、通常、ヨウ素価が100未満である脂肪酸である。
【0015】
乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸としては、例えば、魚油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ケシ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸、ハイジエン酸脂肪酸等が挙げられ、また、不乾性油脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸、水添ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。さらに、これらの脂肪酸は、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等と併用することができる。
【0016】
本発明においては、形成塗膜の初期耐水性の点から、脂肪酸(a1)として乾性油脂肪酸及び/又は半乾性油脂肪酸が好適である。
【0017】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a)を製造するために上記脂肪酸(a1)と反応させうるエポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a2)としては、1分子中に1個のエポキシ基と1個の重合性不飽和基を有する化合物が包含され、具体的には例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0018】
上記脂肪酸(a1)とエポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a2)は、脂肪酸(a1)中のカルボキシル基とエポキシ基含有モノマー(a2)中のエポキシ基との当量比が0.75:1〜1.25:1、好ましくは0.8:1〜1.2:1の範囲内となるような割合で反応させることができる。
【0019】
上記脂肪酸(a1)とエポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a2)との反応は、通常、重合禁止剤の存在下に、ゲル化などの反応上の問題を起こすことなく、脂肪酸成分中のカルボキシル基とエポキシ基含有重合性不飽和モノマー中のエポキシ基とが円滑に反応できる条件下で行うことができ、通常、約100〜約180℃の温度で約0.5〜約10時間加熱することにより行うのが適している。
【0020】
この反応において、N,N−ジメチルアミノエタノール等の3級アミン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム等の4級アンモニウム塩等のエステル化反応触媒を用いることができ、さらに、反応に対して不活性な有機溶剤を使用してもよい。
【0021】
上記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロカテコール、p−tert−ブチルカテコールなどのヒドロキシ化合物;ニトロベンゼン、ニトロ安息香酸、o−,m−又はp−ジニトロベンゼン、2,4−ジニトロトルエン、2,4−ジニトロフェノール、トリニトロベンゼン、ピクリン酸などのニトロ化合物;p−ベンゾキノン、ジクロロベンゾキノン、クロルアニル、アンスラキノン、フェナンスロキノンなどのキノン化合物;ニトロソベンゼン、ニトロソ−β−ナフトールなどのニトロソ化合物等のそれ自体既知のラジカル重合禁止剤が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0022】
また、脂肪酸変性重合性モノマー(a)は、上記脂肪酸(a1)を水酸基含有重合性不飽和モノマー(a3)とエステル化反応させることによっても得ることができる。かかる水酸基含有重合性不飽和モノマー(a3)としては、1分子中に1個の水酸基と1個の重合性不飽和基を有する化合物が包含され、具体的には例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC2〜C8ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコ−ル、上記C2〜C8ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体などの水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0023】
カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b)
本発明において、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b)は、後述の化合物(B)の反応相手となりうる官能基であり、また、得られる水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)粒子の水性媒体中における安定性や機械安定性を確保することができ、また、それを含有する硬化型水性樹脂組成物をエナメル塗料に適用した場合において、塗料の調色性を向上させることができるものである。
【0024】
その具体例としては、(メタ)アクリル酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート、無水マレイン酸、無水イタコン酸等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0025】
その他の重合性不飽和モノマー(c)
本発明における水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)において、その他の重合性不飽和モノマー(c)は、上記脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a)及びカルボキシル基含有重合性不飽和モノマーと共重合可能な重合性不飽和モノマーであり、分子中に1個以上好ましくは1個の重合性不飽和基を含有する化合物を挙げることができる。重合性不飽和基としては、ビニル基及び(メタ)アクリロイル基が挙げられ、その他の重合性不飽和モノマー(b)として具体的には、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、「イソステアリルアクリレート」(大阪有機化学社製)、シクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、シクロドデシル(メタ)アクリレ−ト等のアルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート等のイソボルニル基を有する重合性不飽和モノマー;アダマンチル(メタ)アクリレート等のアダマンチル基を有する重合性不飽和モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシリル基含有重合性不飽和モノマー;ポリジメチルシロキサンマクロモノマー等のシロキサンマクロモノマー;パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィン等のアルキルフッ素基含有する重合性不飽和モノマー;マレイミド基等の光重合性官能基を有する重合性不飽和モノマー;N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等のビニル化合物;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、さらにグリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物等の含窒素重合性不飽和モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸の炭素数2〜8個の水酸基を含有するアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコ−ル、上記炭素数2〜8のヒドロキシ(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体などの水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等の水酸基含有重合性不飽和モノマー:分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレート及びそのナトリウム塩やアンモニウム塩等のスルホン酸基含有重合性不飽和モノマー;2−ヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−(3−アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノンなど2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2',4−トリヒドロキシベンゾフェノンなどのヒドロキシベンゾフェノン類とグリシジル(メタ)アクリレートとの付加反応生成物、或いは2−(2'−ヒドロキシ−5'−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収性官能基を有する重合性不飽和モノマー;4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の紫外線安定性官能基を有する重合性不飽和モノマー;アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えばビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等のカルボニル基含有重合性不飽和モノマー;アリル(メタ)アクリレ−ト、エチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、テトラエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,3−ブチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリ(メタ)アクリレ−ト、1,4−ブタンジオ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ネオペンチルグリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,6−ヘキサンジオ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ペンタエリスリト−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ペンタエリスリト−ルテトラ(メタ)アクリレ−ト、グリセロ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレ−ト、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレ−ト、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレ−ト、トリアリルイソシアヌレ−ト、ジアリルテレフタレ−ト、ジビニルベンゼン等の1分子中に少なくとも2個の重合性不飽和基を有する多ビニル化合物等;等が挙げられ、これらは所望の性能に応じて単独でもしくは2種以上を適宜使用される。
【0026】
上記モノマー(a)、モノマー(b)モノマー(c)の使用割合は、特に制限されるものではないが、後述の化合物(B)との相溶性の点から、そして本発明の硬化型水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の仕上がり性、硬化性の点から、一般には、モノマー(a)、モノマー(b)及びモノマー(c)の合計量を基準にして、
モノマー(a)は5〜70質量%、好ましくは10〜70質量%
モノマー(b)は、0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜29.5質量%
モノマー(c)は、0を超えて且つ94.9質量%、好ましくは0.5〜89.5質量%
の範囲内とすることができる。
【0027】
上記脂肪酸変性樹脂分散体(A)において、上記カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b)およびその他の重合性不飽和モノマー(c)としては、モノマー(b)及びモノマー(c)の(共)重合体の理論ガラス転移温度が0〜100℃、好ましくは10〜80℃の範囲内となるように選択することが望ましい。
【0028】
本発明において、ガラス転移温度(絶対温度)は、下記式により算出される値である。
1/Tg=W1/T1+W2/T2+…Wn/Tn
式中、W1、W2…Wnは各モノマーの質量%〔=(各モノマーの配合量/モノマー全質量)×100〕であり、T1、T2…Tnは各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(絶対温度)である。なお、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度は、Polymer Hand Book (Second Edition,J.Brandrup・E.H.Immergut 編)による値であり、該文献に記載されていないモノマーのガラス転移温度は、該モノマーのホモポリマーを重量平均分子量が5万程度になるようにして合成し、そのガラス転移温度を示差走査型熱分析により測定したときの値を使用する。
【0029】
使用するモノマー(b)及びモノマー(c)の(共)重合体の理論ガラス転移温度が上記範囲内となるようにすることにより、硬化型水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の造膜性、耐水性等の塗膜物性とを両立させることができる。
【0030】
また、その他の重合性不飽和モノマー(c)は、その少なくとも一部として、炭素数が4以上の直鎖状、分岐状もしくは環状で飽和又は不飽和の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(c1)を、モノマー(a)、モノマー(b)及びモノマー(c)の合計質量を基準にして、30〜90質量%、好ましくは35〜85質量%、さらに好ましくは45〜80質量%の範囲内で含んでなることが望ましい。
【0031】
炭素数が4以上の直鎖状、分岐状もしくは環状で飽和又は不飽和の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(c1)としては、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、「イソステアリルアクリレート」(大阪有機化学社製)、シクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、シクロドデシル(メタ)アクリレ−ト等のアルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート等のイソボルニル基を有する重合性不飽和化合物;アダマンチル(メタ)アクリレート等のアダマンチル基を有する重合性不飽和化合物;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物等を挙げることができる。かかる炭素数が4以上の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(c1)の使用により、硬化型水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の耐水性を向上させることができる。
【0032】
また、その他の重合性不飽和モノマー(c)は、その少なくとも一部として、炭素数が6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(c2)を、モノマー(a)、モノマー(b)及びモノマー(c)の合計質量を基準にして、1〜30質量%、好ましくは5〜20質量%、さらに好ましくは6〜18質量%含んでなることが望ましい。
【0033】
炭素数が6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(c2)としては、例えば、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、「イソステアリルアクリレート」(大阪有機化学社製)等を挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0034】
その他の重合性不飽和モノマー(c)の少なくとも一部として、炭素数が6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(c2)を使用することにより、水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)の製造において上記カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b)及びその他の重合性不飽和モノマー(c)を脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a)と共に微粒化した場合におけるモノマー乳化物の重合安定性を保持することができ、しかも、硬化型水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の耐水性を向上させることができる。
【0035】
また、その他の重合性不飽和モノマー(c)は、その少なくとも一部として、シクロアルキル基含有重合性不飽和モノマー(c3)を含んでなることが望ましい。シクロアルキル基含有重合性不飽和モノマー(c3)としては、1分子中に1個の炭素数が6以上のシクロアルキル基と1個の重合性不飽和結合を有する化合物が好適であり、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、シクロドデシル(メタ)アクリレ−ト等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、シクロヘキシル(メタ)アクリレートが好適である。
【0036】
その他の重合性不飽和モノマー(c)の少なくとも一部として、シクロアルキル基含有重合性不飽和モノマー(c3)を含んでなるものを使用することにより、硬化型水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の耐候性を向上させることができる。その含有量は、モノマー(a)、モノマー(b)及びモノマー(c)の合計質量を基準にして、1〜70質量%、好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは25〜45質量%の範囲内が好適である。
【0037】
また、その他の重合性不飽和モノマー(c)は、その少なくとも一部として、芳香族ビニルモノマー(c4)を含んでなることが望ましい。芳香族ビニルモノマー(c5)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。かかる芳香族ビニルモノマー(c4)の使用により、モノマー(a)、モノマー(b)及びモノマー(c)の共重合性を高めることができ、未反応のモノマーを最小限にすることができ、そして耐水性など形成塗膜の物性を向上させることができる。
【0038】
該芳香族ビニルモノマー(c4)は、一般に、モノマー(a)、モノマー(b)及びモノマー(c)の合計質量を基準にして、1〜50質量%、好ましくは5〜45質量%、さらに好ましくは12〜35質量%の範囲内で使用するのが好適である。
【0039】
また、その他の重合性不飽和モノマー(c)は、水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)における重合段階又は貯蔵段階における粒子の安定性を確保するために、水酸基含有(メタ)アクリレート(c5)を含んでなることもできる。水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、前記で例示したものが挙げられ、その使用割合は、一般に、モノマー(a)、モノマー(b)及びモノマー(c)の合計量を基準にして、1〜50質量%、好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは1〜10質量%の範囲内とすることができる。
【0040】
水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)
本発明において、上記モノマー混合物(I)は、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a)、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b)及びその他の重合性不飽和モノマー(c)を必須成分として含有してなり、さらに、実質的に重合性不飽和基を含有しない化合物を含有することもでき、これにより、水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)粒子が、該化合物を内包することもできる。
【0041】
かかる実質的に重合性不飽和基を含有しない化合物としては、例えば、紫外線吸収剤、紫外線安定剤及び金属ドライヤー等の塗料用添加剤;イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、メラミンなどの硬化剤;アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、ポリオルガノシロキサン等の樹脂;顔料、染料等の着色剤等を挙げることができる。
【0042】
上記モノマー混合物(I)は、水性媒体に微分散するに際して、必要に応じて、乳化剤を併用してもよい。該乳化剤としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤が好適であり、該アニオン性乳化剤としては、例えば、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸などのナトリウム塩やアンモニウム塩が挙げられ、また、ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられる。
【0043】
また、1分子中にアニオン性基とポリオキシエチレン基やポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基を有するポリオキシアルキレン基含有アニオン性乳化剤や、1分子中に該アニオン性基と重合性不飽和基とを有する反応性アニオン性乳化剤を使用してもよい。
【0044】
該乳化剤は使用される全モノマーの合計量を基準にして0.1〜15質量%、好ましくは0.5〜12質量%の範囲内で使用することができる。
【0045】
また、モノマー混合物(I)は、得られる水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)の分子量を調整する目的で、連鎖移動剤を含んでいてもよい。該連鎖移動剤としては、メルカプト基を有する化合物が包含され、具体的には例えば、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルへキシル、2−メチル−5−tert−ブチルチオフェノール、メルカプトエタノ−ル、チオグリセロ−ル、メルカプト酢酸(チオグリコ−ル酸)、メルカプトプロピオネート、n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート等が挙げられる。該連鎖移動剤の使用量は、一般に、全モノマーの合計量を基準にして、0.05〜10質量%、特に0.1〜5質量%の範囲内が好適である。
【0046】
本発明における水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)は、上記脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a)等により、重合段階においてモノマー(b)及びモノマー(c)の水性媒体への拡散を抑制することができ、安定に製造されるものであるが、必要に応じてモノマー混合物(I)に、ヘキサデカン等の長鎖飽和炭化水素系溶剤、ヘキサデカノール等の長鎖アルコール系溶剤等の一般にミニエマルション重合で使用される疎水性有機溶剤を配合してもよい。
【0047】
以上に述べたモノマー混合物(I)は水性媒体中に微分散させることにより脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a)、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b)及びその他の重合性不飽和モノマー(c)を含有する粒子分散物であるモノマー乳化物(以下「モノマー乳化物」と略することがある)が形成せしめられる。
【0048】
上記モノマー混合物(I)の水性媒体中における濃度は、形成されるモノマー乳化物の微粒化適性、重合段階における安定性、水性塗料に適用したときの実用性などの観点から、一般に、10〜70質量%、好ましくは20〜60質量%の範囲内が好適である。
【0049】
上記水性媒体としては、水、又は水を主体としてこれに水溶性有機溶媒などの有機溶媒を混合してなる水−有機溶媒混合溶液などを挙げることができる。
【0050】
モノマー混合物(I)の水性媒体中への微分散は、通常、高エネルギーせん断能力を有する分散機を用いて行うことができる。その際に使用しうる該分散機としては、例えば、高圧乳化装置、超音波乳化機、高圧コロイドミル、高圧ホモジナイザー等が挙げられる。これらの分散機は、通常、10〜1000MPa、好ましくは50〜300MPa程度の高圧下で操作することができる。また、該機械にて分散を行う前に、該モノマー混合物(I)をあらかじめディスパー等で予備乳化してもよい。
【0051】
モノマー混合物(I)を上記手法により水性媒体中に微分散させることにより得られるモノマー乳化物中の分散粒子の平均粒子径は、形成塗膜の透明性、耐水性等の点から、500nm以下、好ましくは80〜400nm、さらに好ましくは100〜300nmの範囲内が適している。平均粒子径が500nmを超えると、本発明の硬化型水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の仕上がり性、貯蔵安定性が劣り、実用性が低下するので好ましくない。
【0052】
尚、本明細書において、平均粒子径は「SALD−3100」(商品名、島津製作所社製、レーザー回折式粒度分布測定装置)にて、試料を脱イオン水にて希釈して、20℃にして測定した時の値であり、また、微粒化されたモノマー混合物(I)の乳化物又は樹脂分散体の平均粒子径の測定は、それぞれ製造後30分経過した時点で行うものとする。
【0053】
かくして得られるモノマー乳化物の重合は、例えば、ミニエマルション重合法に従い、微分散後のモノマー乳化物を撹拌機を備えた反応器に全量仕込み、重合開始剤を添加し、攪拌しながら加熱することにより行うことができる。
【0054】
上記重合開始剤としては、油溶性、水溶性のいずれのタイプのものであってもよく、例えば、ベンゾイルパーオキシド、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ステアロイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、tert−ブチルパーオキシド、tert−ブチルパーオキシラウレート、 tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、 tert−ブチルパーオキシアセテート、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキシド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビス(2−メチルプロピオンニトリル)、アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、4、4'−アゾビス(4−シアノブタン酸)、ジメチルアゾビス(2−メチルプロピオネート)、アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]−プロピオンアミド}等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩等が挙げられる。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて用いることができる。また、上記重合開始剤に、必要に応じて、糖、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、鉄錯体等の還元剤を併用し、レドックス重合系としてもよい。
【0055】
上記重合開始剤の使用量は、一般に、モノマー(a)、モノマー(b)及びモノマー(c)の合計質量を基準にして、0.1〜5質量%、特に0.2〜3質量%の範囲内が好ましい。該重合開始剤の添加方法は、特に制限されるものではなく、その種類や量などに応じて適宜選択することができる。例えば、予めモノマー混合物(I)又は水性媒体に含ませてもよく、或いは重合時に一括して添加してもよく又は滴下してもよい。
【0056】
本発明においては、得られる水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)の粒子の機械的安定性を向上させるために、該水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)のカルボキシル基を中和剤により中和することが望ましい。該中和剤としては、カルボキシル基を中和できるものであれば特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメチルアミン、ジメチルアミノエタノール、2−メチル−2−アミノ−1−プロパノール、トリエチルアミン、アンモニア水などが挙げられ、これらの中和剤は、中和後の水性樹脂分散体のpHが6.5〜9.0程度となるような量で用いることが望ましい。
【0057】
上記水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)は、水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の耐候性、耐水性及び仕上がり性の点から、一般に、1万〜50万、特に3万〜20万の範囲内の重量平均分子量を有することが望ましい。ここで、重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィにより測定した分子量をポリスチレンの分子量を基準にして換算した値である。該ゲルパーミュエーションクロマトグラフィに用いるカラムとしては、「TSKgel G−4000H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製)を挙げることができる。
【0058】
上記水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)において、分散樹脂の平均粒子径は、分散樹脂の平均粒子径が500nm以下、特に100〜300nmの範囲内にすることができる。
【0059】
上記製造方法により得られる水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)は、安定に製造でき、該樹脂分散体(A)を後述の化合物(B)と組み合わせることで形成される硬化塗膜は造膜性に優れ、良好な仕上がり性、塗膜物性を発揮することができる。
【0060】
カルボキシル基と反応可能な官能基を1分子中に2個以上有する化合物(B)
本発明においてカルボキシル基と反応可能な官能基を1分子中に2個以上有する化合物(B)の具体例としては、ポリカルボジイミド化合物及びポリオキサゾリン化合物を挙げることができる。
【0061】
ポリカルボジイミド化合物としては、分子中に2個以上のカルボジイミド基を有する化合物が好適であり、特に限定されるものではないが、水溶性又は水分散性であることが望ましく、カルボジイミド当量が100〜800、好ましくは200〜600の範囲内にある化合物であることが望ましい。
【0062】
その具体例としては、「カルボジライトV−02」、「カルボジライトV−04」、「カルボジライトV−06」、「カルボジライトE−01」、「カルボジライトE−04」(以上商品名、日清紡株式会社製)等の市販品を挙げることができる。これらは単独でも2種以上の混合物でも使用できる。
【0063】
ポリオキサゾリン化合物としては、分子中に2個以上のオキサゾリン基を有する化合物が好適であり、例えば、2,2'−p−フェニレン−ビス−(1,3−オキサゾリン)、2,2'−テトラメチレン−ビス−(1,3−オキサゾリン)、2,2'−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)の如き低分子量のポリ(1,3−オキサゾリン)化合物;さらには、2−イソプロペニル−1,3−オキサゾリンの如き1,3−オキサゾリン基含有ビニル系単量体の単独重合体もしくはこれと共重合可能な各種のビニル系単量体とを共重合せしめて得られる、1,3−オキサゾリン基を含有するビニル系重合体を挙げることができ、オキサゾリン基当量が、100〜800、好ましくは200〜600の範囲内にある化合物であることが望ましい。
【0064】
かかるポリオキサゾリン化合物の市販品としては、日本触媒化学工業(株)製の「エポクロスK−1000」、「エポクロスK−1020E」、「エポクロスK−1030E」、「エポクロスK−2010E」、「エポクロスK−2020E」、「エポクロスK−2030E」、「WS−500」、「WS−700」などを挙げることができる。
【0065】
硬化型水性樹脂組成物
本発明の硬化型水性樹脂組成物は、上記水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)及びカルボキシル基と反応可能な官能基を1分子中に2個以上有する化合物(B)を必須成分として含有するものであり、その配合割合は厳密に制限されるものではないが、(A)中のカルボキシル基1モルに対して該化合物(B)中のカルボキシル基と反応可能な官能基が、0.1〜3.0好ましくは0.2〜2.0モルの範囲内にあることを特徴とする。
【0066】
カルボキシル基1モルに対する化合物(B)中の官能基が0.1モル未満では、硬化性及び耐水性向上効果が不十分であり、一方3.0モルを超えると、本発明の硬化型水性樹脂組成物の貯蔵安定性、形成塗膜の仕上がり性、耐水性が不十分となり、好ましくない。
【0067】
また、上記硬化型水性樹脂組成物は、酸化硬化を促進させるための触媒として金属ドライヤーを含有することもできる。かかる金属ドライヤーとしては、例えば、アルミニウム、カルシウム、セリウム、コバルト、鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、ジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と酸との塩が挙げられ、該酸としては、例えば、カプリン酸、カプリル酸、イソデカン酸、リノレン酸、ナフテン酸、ネオデカン酸、オクテン酸、オレイン酸、パルミチン酸、樹脂酸、リシノール酸、大豆油脂肪酸、ステアリン酸、トール油脂肪酸等が挙げられる。
【0068】
上記金属ドライヤーの配合量は、水性脂肪酸変性樹脂分散体(A)樹脂固形分を基準にして、0.001〜10質量%、特に0.02〜5質量%の範囲内が望ましい。
【0069】
上記硬化型水性樹脂組成物は、必要に応じて、水溶性あるいはエマルション型のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂等の樹脂;ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子;シェラック、ロジン等の天然樹脂;等の改質樹脂;イソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂等の硬化剤;湿潤剤、消泡剤、可塑剤、造膜助剤、有機溶剤、増粘剤、防腐剤、防かび剤、pH調整剤、硬化触媒、表面調整剤などを適宜選択し組合わせて含有することができる。
【0070】
かくして、上記硬化型水性樹脂組成物は、建築用、自動車外板用、自動車部品用、自動車補修用、PCM用等の塗料用途や印刷インキ等の被覆材、塗料用添加剤、不織布用等の接合剤、接着剤、充填剤、成形材料、レジスト等の種々の用途に使用することができる。また、硬化型樹脂組成物として一液化が可能であるという利点を有する。
【0071】
水性塗料組成物
本発明の水性塗料組成物は、以上に述べた硬化型水性樹脂組成物を含んでなるものである。
【0072】
上記硬化型水性樹脂組成物を水性塗料組成物に適用した場合においては、クリヤー塗料、エナメル塗料のいずれにも適用できる。
【0073】
エナメル塗料として適用する場合には、顔料分として、従来公知の着色顔料,光輝性顔料、体質顔料、防錆顔料等を配合することができる。
【0074】
上記水性塗料組成物においては、上記成分の他に顔料分散剤、界面活性剤、表面調整剤、可塑剤、沈降防止剤、帯電防止剤、抗菌剤、香料、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、硬化触媒、分散剤、消泡剤、増粘剤、造膜助剤、防腐剤、防カビ剤、凍結防止剤、pH調整剤、フラッシュラスト抑止剤、アルデヒド捕捉剤、層状粘度鉱物、粉状もしくは微粒子状の活性炭、光触媒酸化チタン等の添加剤を適宣選択し組み合わせて含有することができる。
【0075】
本発明は、被塗面に上記水性塗料組成物を塗装する塗装方法である。
【0076】
被塗面としては、例えば、石膏ボード、コンクリート面、モルタル面、スレート板、PC板、ALC板、セメント珪酸カルシウム板、木材、石材等の無機質基材;プラスチック等の有機質基材;鉄、アルミニウム、ステンレス等の金属基材;などの基材面、これら基材上に設けられたアクリル樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、ポリウレタン樹脂系、フッ素樹脂系、シリコンアクリル樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、エポキシ樹脂系などの塗膜面を挙げることができる。
【0077】
上記水性塗料組成物の塗装は、ローラー、エアスプレー、エアレススプレー、リシンガン、万能ガン、ハケ、静電塗装などの方法を用いて行うことができる。また、乾燥方法としては、加熱乾燥、強制乾燥、常温乾燥のいずれであってもよい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、「部」及び「%」は「質量部」及び「質量%」である。
【0079】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマーの製造
製造例1
反応容器に下記の成分を入れ、攪拌しながら反応温度140℃、5時間で反応させ、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a−1)を得た。
サフラワー油脂肪酸 280部
グリシジルメタクリレート 142部。
【0080】
製造例2
反応させる成分を下記のものに変更する以外は製造例1と同様にして、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a−2)を得た。
亜麻仁油脂肪酸 280部
グリシジルメタクリレート 142部。
【0081】
水性脂肪酸変性樹脂分散体の製造
製造例3
ガラスビーカーに下記成分を入れ、ディスパーにて2000rpmで15分間攪拌し、予備乳化液を製造した後、この予備乳化液を、高圧エネルギーを加えて流体同士を衝突させる高圧乳化装置にて100MPaで高圧処理することにより、分散粒子の平均粒子径が190nmのモノマー乳化物を得た。
モノマー乳化物組成
脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a−1) 30.15部
スチレン 15部
2−ヒドロキシエチルメタクリレート 4.5部
i―ブチルメタクリレート 20.35部
t−ブチルメタクリレート 20部
2−エチルヘキシルアクリレート 8部
メタクリル酸 2部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 0.3部
「Newcol707SF」(注1) 10部
脱イオン水 85部
次いで上記モノマー乳化物をフラスコへ移し、脱イオン水にて固形分濃度が45%となるように希釈した。その後85℃まで昇温させ、「VA−086」(注2)2部を脱イオン水10部に溶解させた開始剤水溶液をフラスコに投入し、該温度を保持しながら3時間攪拌した。その後、「VA−086」(注2)0.5部を脱イオン水10部に溶解させた開始剤水溶液をフラスコに添加し、該温度を保持しながら1時間攪拌した後40℃まで冷却し、ジメチルアミノエタノールでpHを8.0に調整し、固形分濃度40%、分散樹脂の平均粒子径が165nmの水性脂肪酸変性樹脂分散体(I−1)を得た。
(注1)「Newcol707SF」:商品名、日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性乳化剤、有効成分30%、
(注2)「VA−086」:商品名、和光純薬社製、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]。
【0082】
製造例4
モノマー乳化物の配合組成を表1に記載のとおりに変更する以外は上記製造例3と同様にして、水性脂肪酸変性樹脂分散体(I−2)を得た。
【0083】
【表1】

【0084】
(注*)ガラス転移温度:明細書記載の定義に準じて算出。
【0085】
不飽和脂肪酸変性されていない水性樹脂分散体の製造
製造例5
脱イオン水36部、「Newcol707SF」(注1)0.36部の入ったフラスコを、窒素置換後、80℃まで加温した。内液を80℃に維持しながら0.1部の過硫酸アンモニウムを加えてから下記組成の単量体エマルションを3時間にわたって滴下した。
脱イオン水 52.4部
スチレン 18部
メチルメタクリレート 40部
n−ブチルアクリレート 40部
メタクリル酸 2部
「Newcol707SF」(注1) 10部
過硫酸アンモニウム 0.2部
滴下終了後30分より、0.1部の過硫酸アンモニウムを1部の脱イオン水に溶かした開始剤水溶液を30分かけて滴下し、さらに2時間80℃に保った。ジメチルアミノエタノールでpHを8.0に調整し、固形分濃度50%、重量平均分子量15万、ガラス転移温度20.0℃の平均粒子径が185nmの水性樹脂分散体(I−3)を得た。
【0086】
水性樹脂組成物の製造
実施例1〜14及び比較例1〜4
下記表2に記載の配合組成により、水性樹脂組成物を得た。各水性樹脂組成物について下記試験に供した。結果を表2にあわせて示す。
【0087】
【表2】

【0088】
(注3)「カルボジライト V−02」:商品名、日清紡社製、水溶性ポリカルボジイミド、カルボジイミド当量590、有効成分40%、
(注4)「カルボジライト V−04」:商品名、日清紡社製、水溶性ポリカルボジイミド、カルボジイミド当量334、有効成分40%、
(注5)「カルボジライト E−01」:商品名、日清紡社製、水分散性ポリカルボジイミド、カルボジイミド当量425、有効成分40%、
(注6)「カルボジライト E−04」:商品名、日清紡社製、水分散性ポリカルボジイミド、カルボジイミド当量270、有効成分40%、
(注7)「エポクロスK−2020E」:商品名、ポリオキサゾリン、オキサゾリン基当量550、有効成分40%、
(注8)「WS−500」:商品名、ポリオキサゾリン、オキサゾリン基当量220、有効成分40%、
(注9)「TEXANOL」:商品名、イーストマンケミカル社製、2,2,4−トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート、造膜助剤、
(注10)「DICNATE1000W」:商品名、大日本インキ化学工業社製、金属ドライヤー、Co含有率3.6%。
【0089】
(*1)貯蔵安定性
上記で得られた各水性樹脂組成物を100ccのサンプル瓶に夫々70g入れ、常温で10日間保持した。その後内容物の状態を目視で評価した。
〇:変化なし、△:若干増粘あり、×:増粘著しい。
(*2)硬化性
上記で得られた各水性樹脂組成物を乾燥膜厚で40μmになるようにアプリケーターでポリプロピレン板に塗装し、25℃で10日間養生させた後、膜をはがしてフリー塗膜を作成した後、4×4cmの大きさにカットし、試験片とした。得られた試験片を、アセトン中で常温24時間浸漬した。抽出前後の塗膜質量から溶剤抽出残分を下記の通り算出した。値が大きいほど良好である。
溶剤抽出残分(%)=(抽出した後の膜の質量/抽出前の膜の質量)×100(%)
(*3)相溶性
上記で得られた各水性樹脂組成物を乾燥膜厚で40μmになるようにアプリケーターでガラス板に塗装し、25℃で10日間養生させて膜を作成し、下記評価基準で目視評価した。
○:透明、△:ブルーイング、×:半透明。
(*4)耐水性
上記相溶性評価で使用した試験塗板を上水に20℃で7日間浸漬した後、塗面状態を観察し、下記基準にて評価した。
◎:非常に良好、○:良好、△:一部ブリスター発生、×:全面にブリスター発生。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a)、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b)及びその他の重合性不飽和モノマー(c)を含むモノマー混合物(I)を水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られるモノマー乳化物を重合することにより製造される水性脂肪酸変性樹脂分散体並びに(B)カルボキシル基と反応可能な官能基を1分子中に2個以上有する化合物を含有し、(A)中のカルボキシル基1モルに対して化合物(B)中のカルボキシル基と反応可能な官能基が、0.1〜3.0モルの範囲内にあることを特徴とする硬化型水性樹脂組成物。
【請求項2】
モノマー(a)、モノマー(b)及びモノマー(c)の使用割合が、モノマー(a)、モノマー(b)及びモノマー(c)の合計量を基準にして、モノマー(a)が5〜70質量%、モノマー(b)が0.1〜30質量%、モノマー(c)が0を超えて且つ94.9質量%の範囲内である請求項1に記載の硬化型水性樹脂組成物。
【請求項3】
カルボキシル基と反応可能な官能基を1分子中に2個以上有する化合物(B)が、ポリカルボジイミド化合物及び/又はポリオキサゾリン化合物である請求項1または2に記載の硬化型水性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の硬化型水性樹脂組成物を含む水性塗料組成物。
【請求項5】
被塗面に、請求項4に記載の水性塗料組成物を塗装することを特徴とする塗膜形成方法。

【公開番号】特開2007−297491(P2007−297491A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125932(P2006−125932)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】