説明

硬化性粉体塗料

【解決手段】反応性基を有する主剤樹脂成分(A)と、この反応性基と架橋反応する官能性化合物(b−1)及び/又は光重合開始剤(b−2)とからなる硬化剤成分(B)と、芳香族系炭化水素樹脂(C)とからなることを特徴とする硬化性粉体塗料である。さらに、芳香族系炭化水素樹脂(C)が、α−メチルスチレン、イソプロペニルトルエン、インデンからなる群から選択される、少なくとも一種類の芳香族系単量体を必須の単量体として構成されることを特徴とする硬化性粉体塗料である。
【効果】本発明の硬化性粉体塗料は、優れた外観特性と、これに加えて、従来にない特に優れた機械特性、化学特性を有する硬化塗膜を与えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた外観特性(平滑性、アンチクレーター性等)、機械特性(耐擦傷性等)、化学特性(耐酸性、耐溶剤性等)を有する硬化塗膜を得ることのできる硬化性粉体塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
有害VOC(Volatile Organic Compounds)排出による環境汚染が極めて小さい粉体塗料は、熱可塑性粉体塗料から熱硬化性粉体塗料、さらには紫外線(UV)硬化性粉体塗料へと進化し、現在はこれら後者2つを代表例とする硬化性粉体塗料が主流となっている。硬化性粉体塗料は、一般に、架橋反応により硬化し得る反応性基を有する主剤樹脂成分、及びこの反応性基を架橋させる為の硬化剤成分の2つを主成分としてなる組成物として設計・調製されているが、最終的に要求される硬化塗膜の特性、用途等に応じてこれら2つの主成分は様々に選択される。また、硬化性粉体塗料には、これら2つの主成分の他に、得られる粉体塗料、さらに硬化塗膜の特性を改善する目的で、種々の添加剤類が使用される。例えば、着色を目的とした酸化チタン等の顔料、粉体塗料の粉体としての流動性を改善できるヒュームドシリカ等、硬化塗膜中の残存気泡を除去させる脱ガス剤としてのベンゾイン等、硬化塗膜の耐候性を改善する紫外線吸収剤、光安定化剤等がある。
【0003】
このような添加剤類の中で、特に重要なものの一つとして流動調整剤がある。流動調整剤は、一般的に主剤樹脂成分に対して、より低い表面張力を有する樹脂ポリマー類が使用されている。例えば、アクリル樹脂ポリマー系流動調整剤では、常温で液状のもの(特許文献1)、固体の樹脂に担持あるいは吸収させて固形化・粉状化したもの(特許文献2)、また、シリコンあるいはフッ素系化合物または樹脂により変性されたアクリル樹脂ポリマー系流動調整剤(特許文献3)、更に、ポリシロキサン樹脂ポリマー系流動調整剤等も多数使用されている。尚、流動調整剤は表面調整剤、流動制御剤、クレーター防止剤、レベリング剤等とも呼ばれている。しかし、これら従来の流動調整剤は硬化塗膜の外観特性に改善は見られるものの、機械特性(耐擦傷性等)、化学特性(耐酸性、耐溶剤性等)は不十分であった。
【特許文献1】特開平8−325480号公報
【特許文献2】特開平6−218274号公報
【特許文献3】特開2004−43804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の流動調整剤の主機能、すなわち塗膜表面のクレーター抑制と平滑化という外観特性の改善に加え、新たに、塗膜表面の機械特性(耐擦傷性等)、化学特性(耐酸性、耐溶剤性等)を改善できる新規な流動調整剤、およびこれを含有する硬化性粉体塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を達成するために鋭意検討を続けた結果、特定の原料組成を有する芳香族系炭化水素樹脂が、従来のアクリル樹脂ポリマー系流動調整剤やポリシロキサン樹脂ポリマー系流動調整剤等と同様に、塗膜表面のクレーター抑制と平滑化の機能を有し、さらに、硬化塗膜の機械特性(耐擦傷性等)、化学特性(耐酸性、耐溶剤等)を改善できる事を見出し、本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明は、反応性基を有する主剤樹脂成分(A)と、この反応性基と架橋反応する官能性化合物(b−1)及び/又は光重合開始剤(b−2)とからなる硬化剤成分(B)と、芳香族系炭化水素樹脂(C)とからなることを特徴とする硬化性粉体塗料である。さらに、芳香族系炭化水素樹脂(C)が、α−メチルスチレン、イソプロペニルトルエン、インデンからなる群から選択される、少なくとも一種類の芳香族系単量体を必須の単量体として構成されることを特徴とする硬化性粉体塗料である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る硬化性粉体塗料は、従来の流動調整剤で改善可能であった塗膜の外観特性、すなわち塗膜表面のクレーター抑制と平滑化を達成し、加えて、新たに塗膜表面の機械特性(耐擦傷性等)、化学特性(耐酸性、耐溶剤性等)が飛躍的に改善された硬化塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0009】
主剤樹脂成分(A)
本発明に使用する主剤樹脂成分(A)は、反応性基を有する樹脂成分であり、熱硬化性粉体塗料、紫外線(UV)硬化性粉体塗料として一般的に用いられる樹脂である。これらの具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、カルボキシル基、水酸基からなる群からなる選択される少なくとも一種類の官能基を有するポリエステル樹脂、グリシジル基、カルボキシル基、および水酸基からなる群から選択される少なくとも一種類の官能基を有するアクリル樹脂、ビニル基を有する不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステルアクリレート樹脂、アクリルアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂等が挙げられる。これらは単独あるいは複数を併用して用いることができる。また、グリシジル基に類似のβ−メチルグリシジル基や、同じオキシラン環に分類されるオキセタン構造を官能性基として有する樹脂であっても構わない。また、ビニル基は、同じく紫外線(UV)硬化性を有するビニルエーテル基であっても構わない。また、これらの樹脂は常温で固体の樹脂類が好ましい。
【0010】
硬化剤成分(B)
本発明に使用する硬化剤成分(B)は、官能性化合物(b−1)、及び/又は光重合開始剤(b−2)を含む。
官能性化合物(b−1)は、反応性基を有する主剤樹脂成分(A)と架橋反応する官能性化合物であり、分子内に平均1.0個を超える反応性官能基を有する化合物である。これらの具体例としては、ジシアンジアミド等のアミノ化合物、トリメリット酸等の芳香族ポリカルボン酸類またはその脱水縮合無水物類、テトラヒドロフタル酸等の脂環式ポリカルボン酸またはその脱水縮合無水物類、ドデカンニ酸等の脂肪族ポリカルボン酸類またはその脱水縮合無水物類、トリグリシジルイソシアヌレート等の多官能グリシジル化合物類、β−ヒドロキシアルキルアミド化合物類、イソシアネート化合物類、メトキシメチルグリコールウリル化合物類等を用いることができる。これらは単独あるいは複数を併用しても用いることができる。尚、イソシアネート化合物類の有するイソシアネート基はブロックされていてもよく、またウレトジオン構造を有していても構わない。これら化合物は常温で固体の化合物類が好ましい。
【0011】
光重合開始剤(b−2)は、主剤樹脂成分(A)が有する反応性基を利用し、これを架橋反応させることにより硬化する目的で使用されるものであり、紫外線(UV)励起のカチオン重合用光重合開始剤、または紫外線(UV)励起のフリーラジカル重合用光重合開始剤などが好適に使用できる。
【0012】
紫外線(UV)励起のカチオン重合用光重合開始剤としては、アリールスルホニウム、アリールヨードニウム等をカチオン種とするヘキサフルオロアンチモネート塩、ペンタフルオロヒドロキシアンチネート塩、ヘキサフルオロホスフェート塩、ヘキサフルオロアルゼネート塩等を使用でき、一方、紫外線(UV)励起のフリーラジカル重合用光重合開始剤としては、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール等のベンジルケタール類、2−ヒドロキシ−2―メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のヒドロキシアルキルフェノール類、ジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン類、等を用いることができ、これらは単独あるいは複数を併用しても用いることができる。光重合開始剤(b−2)を使用する場合の使用量は、主剤樹脂成分(A)100重量部に対して、0.1〜5.0重量部であることが好ましく、特に0.5〜3.0重量部であることが好ましい。
【0013】
芳香族系炭化水素樹脂(C)
本発明に使用される芳香族系炭化水素樹脂(C)は、流動調整剤として使用されるものであり、これらはα−メチルスチレン、イソプロペニルトルエン、インデンからなる群から選択される、少なくとも一種類の芳香族系単量体を必須として構成される。これらの中でイソプロペニルトルエン、インデンからなる群が好ましく、更に、イソプロペニルトルエンが好ましい。また、本発明では、これらα−メチルスチレン、イソプロペニルトルエン、インデンに加え、本発明の目的を損なわない範囲において他の単量体を使用することもできる。他の単量体としては、スチレン系単量体としてスチレン、ビニルトルエン等、インデン系単量体としてはメチルインデン、エチルインデン等のアルキル置換インデン、さらに、石油精製、分解時に副生する炭素数4から5の不飽和炭化水素を含む留分から得られる単量体、アクリル酸エステル系単量体、メタクリル酸エステル系単量体等が挙げられる。尚、ここで炭素数5の不飽和炭化水素の例としてはイソプレン、ピペリレン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン等が挙げられる。これら他の単量体の含有率は、単量体の種類によって異なるが、芳香族系炭化水素樹脂(C)のおよそ20モル%以下の範囲であれば、本願発明の効果を損なうことなく使用可能である。
【0014】
また、芳香族系炭化水素樹脂(C)のガラス転移温度(Tg)、軟化点(Tm)、分子量、溶融粘度等については特には制限がないが、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分で最初の変極点として測定されるガラス転移温度(Tg)が約15℃〜約90℃で、JIS K2207に準拠した方法で測定される軟化点(Tm)が約70℃〜約150℃、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリスチレン換算で測定される数平均分子量(Mn)が約500〜約2,000、同じく重量平均分子量(Mw)が約500〜約3,500、ブルックフィールド型粘度計により200℃で測定される溶融粘度が約10〜約3,500mPa・sである場合が好ましい。このように、常温で固体の芳香族系炭化水素樹脂を使用したほうが好ましい理由は、粉体塗料の原材料のほとんどが常温で固体であるため液状原料の使用は塗料製造の作業性を悪化させる場合が多く、さらには、最終的に得られる粉体塗料粒子が固結・凝集(ブロッキング)を生じるという問題をも緩和・解消できるためである。
【0015】
本発明の硬化性粉体塗料中の芳香族系炭化水素樹脂(C)の使用量は、流動調整剤の主機能であるクレーター抑制の効果または硬化塗膜の光沢性の点で、主剤樹脂成分(A)と硬化剤成分(B)の合計100重量部に対し、0.01〜5.0重量部であり、好ましくは0.01〜2.0重量部である。
【0016】
アミドワックス(D)
さらに、芳香族系炭化水素樹脂(C)は、その使用量の0.01〜50%の、常温で固体のアミドワックス(D)と予め溶融状態で混合(マスターバッチ化)されてから用いられることが好ましい。この予混合操作により、芳香族系炭化水素樹脂(C)の塗膜表層への「移動」が塗膜面で均質になりやすく、その作用効果が安定的に発揮される。加えて従来のアクリル樹脂ポリマー系流動調整剤やポリシロキサン樹脂ポリマー系流動調整剤に見られなかった脱ガス作用をも加味できる。
【0017】
アミドワックス(D)の例としてはN,N’−エチレンビス(ステアロアミド)が特に好ましい。但し、このアミドワックス(D)の使用量が芳香族系炭化水素樹脂(C)の重量に対して50%を超える場合には、逆にクレーター発生を助長したり、塗膜表面の化学特性(耐酸性、耐溶剤性等)を極端に悪化させる場合があり、好ましくない。芳香族系炭化水素樹脂(C)とアミドワックス(D)との加熱・溶融状態での予混合操作は、加熱ロール機、加熱ニーダー機、押出機(エクストルーダー)等を用いて比較的短時間の加熱で機械的に混合する方法でも行えるし、比較的長時間の加熱を要する加熱容器中であっても、酸化による変質を抑制できる窒素雰囲気下で行いさえすれば、簡単な攪拌混合操作によっても容易に実施できる。
【0018】
本発明では、上記の硬化性粉体塗料の原材料に加え、通常の塗料に添加される、その他の目的に応じた種々の添加剤類も適宜使用できる。具体的には、顔料、染料、チクソ剤(チクソトロピー調整剤)、帯電調整剤、ブロッキング防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、脱ガス剤、酸化防止剤等を適宜配合してもよい。
【0019】
次に、本発明の硬化性粉体塗料の製造方法について説明する。原材料として必須の主剤樹脂成分(A)、硬化剤成分(B)、芳香族系炭化水素樹脂(C)と、必要に応じて使用するアミドワックス(D)との予混合物(マスターバッチ)、さらに目的に応じて任意に使用できるその他の添加剤類の全ては、一端、常温下に乾式混合機を用いて乾式混合される。その後、加熱下に機械的に溶融混練する工程を経て粉体塗料として調製されることが一般的である。溶融混練する為の機器とその温度等の運転条件の選定は、実質的に均質な粉体塗料を調製できれば特に制限されない。溶融混練機としては、通常、加熱ロール機、加熱ニーダー機、押出機(エクストルーダー)等が使用でき、これらの運転条件(温度、溶融若しくは非溶融、回転数、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気等)を適宜設定することで充分に均一な溶融混練操作が行える。溶融混練操作に続く冷却・固化操作を経た硬化性粉体塗料からなる塊状(粗)粉体塗料は、次いでハンマーミル等の一般的な粉砕装置により、平均粒径10〜90μm程度の微粉末状に粉砕され、硬化性粉体塗料として完成されるが、その粉砕方法もこれに限定されるものではない。
【0020】
粉砕により完成された硬化性粉体塗料は、静電塗装法、流動浸漬法等の公知の塗装方法によって、塗装対象物基材に付着せしめ、加熱により一端熱溶融させて成膜し、次いでそのまま加熱により熱硬化を完了させるか、あるいは紫外線(UV)照射して紫外線(UV)硬化を完了させるか等の方法で硬化塗膜を形成させる。加熱だけで硬化までを完了させる熱硬化性粉体塗料の場合、通常、約120℃〜約200℃、より好ましくは約130℃〜約180℃の温度において約10分間〜約60分間加熱を行うことより硬化塗膜を完成させることができる。一方、紫外線(UV)硬化性粉体塗料の場合では、通常約100℃〜約170℃の温度において約5〜約30分間の予備加熱により一端熱溶融させて成膜し、然る後に、通常、約1〜60秒間、紫外線(UV)を照射することで硬化塗膜を完成させることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により説明するが、製造実施例、製造比較例とその態様は、発明の内容の理解を支援するためのものであって、本発明がなんら限定される性質のものではない。説明中「部」及び「%」は、説明のない限り重量基準の値である。
【0022】
[製造実施例−1]
主剤樹脂成分(A)としてグリシジル基を有するアクリル樹脂「アルマテックスPD7610」(三井化学社製;エポキシ当量537g/eq)670.7部、硬化剤成分(B)となる官能性化合物(b−1)としてドデカンニ酸129.3部、紫外線吸収剤としてチバスペシャリティーケミカルズ社製「チヌビン405」16.0部、光安定化剤としてチバスペシャリティーケミカルズ社製「チヌビン144」8.0部、脱ガス剤としてベンゾイン8.0部、及び芳香族系炭化水素樹脂(C)としてイソプロペニルトルエンホモポリマーである「FTR8120」(三井化学社製;Tg=60℃、Tm=120℃、溶融粘度340mPa・s、Mn=920、Mw=1420)7.0部の全てを乾式混合機である三井鉱山社製ヘンシェルミキサ(FM20C/I型)に投入し、十分に粉砕・混合した後、混合粉を一軸溶融混練機であるコペリオン社製コニーダー(TCS−30型)を用いて、バレル設定温度115℃、軸回転速度280rpmにて溶融混練し、次いで冷却ロールにより冷却固化することで、熱硬化粉体塗料組成物からなる粉体塗料フレークを製造した。これを、機械粉砕機としてホソカワミクロン社製バンタムミル(AP−B型)を用いて粉砕し、さらに200メッシュ(目開き75μm)の金網を用いて、これを通過しない粗粉を除去した。得られた熱硬化性粉体塗料の体積平均粒子径は29μmであった。
【0023】
[製造実施例−2]
芳香族系炭化水素樹脂(C)としてイソプロペニルトルエンとインデンとの共重合樹脂である、三井化学社製「FMR0150」(Tg=75℃、Tm=145℃、溶融粘度2600mPa・s、Mn=1190、Mw=2040)10.0部を使用した以外は全て[製造実施例−1]と同様の操作を実施し、熱硬化性粉体塗料を完成した。得られた熱硬化性粉体塗料の体積平均粒子径は22μmであった。
【0024】
[製造実施例−3]
芳香族系炭化水素樹脂(C)として、石油精製、分解時に副生する炭素数5の不飽和炭化水素を含む留分から得られる単量体20モル%以下とイソプロペニルトルエン、α−メチルスチレン、および石油精製、分解時に副生する炭素数5の不飽和炭化水素を含む留分、とからなる共重合樹脂である三井化学社製「FTR7125」(Tg=60℃、Tm=125℃、溶融粘度660mPa・s、Mn=1290、Mw=2140)24.0部を使用した以外は、全て[製造実施例−1]と同様の操作を実施し、熱硬化性粉体塗料を完成した。得られた熱硬化性粉体塗料の体積平均粒子径は23μmであった。
【0025】
[製造実施例−4]
製造実施例−3で脱ガス剤として使用したベンゾイン8.0部を全く使用せず、さらに三井化学社製「FTR7125」24.0部を8.0部とした以外は全て製造実施例−3と同様の操作を実施した。得られた熱硬化性粉体塗料の体積平均粒子径は31μmであった。
【0026】
[製造実施例−5]
芳香族系炭化水素樹脂(C)として、石油精製、分解時に副生する炭素数5の不飽和炭化水素を含む留分から得られる単量体20モル%以下とイソプロペニルトルエンおよびα−メチルスチレンとからなる共重合樹脂である三井化学社製「FTR7125」(Tg=60℃、Tm=125℃、溶融粘度660mPa・s、Mn=1290、Mw=2140)90部とN,N’−エチレンビス(ステアロアミド)10部とを予め一軸溶融混練機であるコペリオン社製コニーダー(TCS−30型)を用いて、バレル設定温度115℃、軸回転速度280rpmにて溶融混練し、次いで冷却ロールにより冷却固化することで溶融混合物(マスターバッチ)を得た。芳香族系炭化水素樹脂(C)として「FTR7125」を90重量%含有するこの溶融混合物8.0部を使用したこと以外は、全て製造実施例−4と同様の操作を実施し、熱硬化性粉体塗料を完成した。得られた硬化性粉体塗料の体積平均粒子径は29μmであった。
【0027】
[製造実施例−6]
主剤樹脂(A)としてカルボキシル基を主たる反応性基として含有するポリエステル樹脂「Uralack P865」(DSM社製;酸当量1603g/eq.)665.1部、硬化剤成分(B)として官能性化合物(b−1)としてβ−ヒドロシキアルキルアミド化合物である「Primid XL552」(EMSプリミド社製;水酸基当量84.1g/eq.)34.9部、紫外線吸収剤としてチバスペシャリティーケミカルズ社製「チヌビン405」14.0部、光安定化剤としてチバスペシャリティーケミカルズ社製「チヌビン144」7.0部、脱ガス剤としてベンゾイン2.1部、及び芳香族系炭化水素樹脂(C)としてイソプロペニルトルエンホモポリマーである「FTR8120」(三井化学社製;Tg=60℃、Tm=120℃、溶融粘度340mPa・s、Mn=920、Mw=1420)6.5部の全てを乾式混合機である三井鉱山社製ヘンシェルミキサ(FM20C/I型)に投入し、十分に粉砕・混合した後、混合粉を一軸溶融混練機であるコペリオン社製コニーダー(TSC−30型)を用いて、バレル設定温度120℃、軸回転速度280rpmにて溶融混練し、次いで冷却ロールにより冷却固化することで、熱硬化粉体塗料組成物からなる粉体塗料フレークを製造した。これを、機械粉砕機としてホソカワミクロン社製バンタムミル(AP−B型)を用いて粉砕し、さらに、200メッシュ(目開き75μm)の金網を用いて、これを通過しない粗粉を除去した。得られた熱硬化性粉体塗料の体積平均粒子径は30μmであった。
【0028】
[製造実施例−7]
撹拌機、熱電対、窒素導入管、窒素排出管を備えたオートクレーブに、キシレン350部を仕込み、気相部を窒素導入管、窒素排出管を用いて完全に窒素雰囲気に置換した後、オートクレーブを完全に閉止し、次いでキシレンを150℃まで加熱昇温した。ここに、スチレン140部、メチルメタクリレート300部、グリシジルメタクリレート140部、イソブチルメタクリレート35部、ヒドロキシエチルメタクリレート84部、ジターシャリーアミルペルオキシド32部からなる均一溶液を5時間に渡りフィードし、その後100℃まで降温して、さらに10時間保持した。得られた重合溶液から真空脱溶剤操作によりキシレンを留去し、常温で固形のアクリル樹脂を得た。得られたアクリル樹脂の主たる官能基であるグリシジル基についてエポキシ当量は732g/eq.であった。次いで、主剤樹脂成分(A)としてこのアクリル樹脂588部、硬化剤成分(B)となる光重合開始剤(b−2)として紫外線(UV)励起のカチオン重合用光重合開始剤「SarCat CD1012」(Sartomer社製;[4-[(2-ヒドロキシテトラデシル)オキシ]フェニル]フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート)12部、脱ガス剤としてベンゾイン3部、及び芳香族系炭化水素樹脂(C)としてイソプロペニルトルエンとインデンとの共重合樹脂である、三井化学社製「FMR0150」(Tg=75℃、Tm=145℃、溶融粘度2600mPa・s、Mn=1190、Mw=2040)9部の全てを乾式混合機である三井鉱山社製ヘンシェルミキサ(FM20C/I型)に投入し、十分に粉砕・混合した後、混合粉を一軸溶融混練機であるコペリオン社コニーダー(TCS−30型)を用いて、バレル設定温度105℃、軸回転速度280rpmにて溶融混練し、次いで冷却ロールにより冷却固化することで、紫外線(UV)カチオン硬化性粉体塗料からなる粉体塗料フレークを製造した。これを、機械粉砕機としてホソカワミクロン社製バンタムミル(AP−B型)を用いて粉砕し、さらに、200メッシュ(目開き75μm)の金網を用いて、これを通過しない粗粉を除去した。得られた紫外線(UV)カチオン硬化性粉体塗料の体積平均粒子径は26μmであった。
【0029】
[製造比較例−1]
[製造実施例−1]で、芳香族系炭化水素樹脂(C)を使用せず、その他の流動調整剤も一切使用しなかった以外は全て[製造実施例−1]と同様の操作を実施した。得られた熱硬化性粉体塗料の体積平均粒子径は33μmであった。
【0030】
[製造比較例−2]
[製造実施例−1]で、芳香族系炭化水素樹脂(C)7.0部に代えて、常温で液状のアクリル樹脂ポリマー系流動調整剤「レジミックスRL−4」(三井化学社製)8.0部を使用した以外は全て[製造実施例−1]と同様の操作を実施した。得られた熱硬化性粉体塗料の体積平均粒子径は30μmであった。
【0031】
[製造比較例−3]
撹拌機、温度計、還流コンデンサ−及び窒素導入管を備えた4ッ口フラスコにキシレン66.7部を仕込み、還流温度まで昇温した。次いで、連続的に窒素導入することで気相を窒素置換しつつ、常圧下にイソブチルメタクリレート96部、グリシジルメタクリレート4部、ターシャリーブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート1.2部とからなる均一溶液を5時間に渡りフィードし、その後、100℃まで降温して、さらに5時間保持した。得られた重合溶液から真空脱溶剤操作によりキシレンを留去し、常温で固形の、ガラス転移温度52℃のアクリル樹脂ポリマー系流動調整剤を得た。次いで、[製造実施例−1]で、芳香族系炭化水素樹脂(C)7.0部に代えて、ここで得られた固体アクリル樹脂ポリマー系流動調整剤8.0部を使用した以外は全て[製造実施例−1]と同様の操作を実施した。得られた熱硬化性粉体塗料の体積平均粒子径は31μmであった。
【0032】
[製造比較例−4]
[製造実施例−6]で、芳香族系炭化水素樹脂(C)として使用したイソプロペニルトルエンホモポリマー「FTR8120」(三井化学社製)6.5部に代えて、常温で液状のポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン樹脂ポリマー系流動調整剤である、BYKケミー社製「BYK−307」1.1部を使用した以外は全て[製造実施例−6]と同様の操作を実施した。得られた熱硬化性粉体塗料の体積平均粒子径は30μmであった。
表1に[製造実施例−1〜7]、また、表2に[製造比較例−1〜4]
について、その内容を一括して整理する。
【0033】
[各種硬化性粉体塗料からの硬化塗膜の形成方法]
このようにして得られた硬化性粉体塗料を、ポリエステル−メラミン架橋システムの
黒色溶剤系塗料が平均膜厚20μmとなるように塗装され、さらに170℃、30分間、十分に焼付けされて得られた厚さ0.8mmのリン酸亜鉛処理ボンデライト鋼板基材上に塗装して評価した。それぞれの硬化性粉体塗料を、この基材上に硬化後の膜厚が60μm±3μmとなるよう静電粉体塗装し、次いで完全に硬化させた。硬化方法は、表3に示すように、熱硬化性粉体塗料については、160℃で30分間、または175℃で20分間、熱風乾燥機内で塗装板を加熱して硬化塗膜を得た。一方、紫外線(UV)カチオン硬化性粉体塗料については、塗装板を一端熱風乾燥機内で125℃、15分間予備加熱することで粉体塗料を溶融して成膜させ、次いでUV照射装置(日本電池社製「3灯UVコンベア」;メタルハライドランプ(MAL250NL型;3kW)3灯)内で10秒間UV照射し、さらに続いて熱風乾燥機内で125℃、15分間後加熱することで完全に硬化させた。また、この静電粉体塗装から硬化完了までの一連の操作は、外気環境からの汚染によるクレーター発生数への影響を最小化する目的で、全て、ホソカワミクロン社製の乱流方式型クリーンルーム(清浄度クラス10,000)内で実施した。
【0034】
[各種性能評価]
性能評価は次の要領で実施した。
(a) 塗膜の光沢
JIS K5400に準拠したスガ試験機社製ハンデイー光沢計(HG−268型)を用い、60゜の鏡面光沢度を測定。値が大きい程、高光沢を示す。
(b) 塗膜の平滑度(ユズ肌)
BYKガードナー社製「ウェーブスキャン プラス」によりLw値として測定。値が小さい程、平滑で、ユズ肌が少ないことを示す。
(c)塗膜のクレーター発生数
塗膜上、肉眼で特定できるクレーター数を5名で別々にカウントし、その平均値を0.1平方メートル当たりの個数に換算。
(d) 塗膜上の脱ガス性
塗膜上、肉眼で特定できる残存気泡を観察して、次の◎〜×の指標で判定した。
◎ 気泡の残存が全く見られない
○ 僅かに気泡の残存が見られる
× 顕著に気泡の残存が見られる
(e) 塗膜の硬度試験
鉛筆引っ掻き試験(JIS K5400 6.14)により評価した。表示は鉛筆硬度記号で示した。
(f) 塗膜の擦傷性
塗膜表面を3%の研磨剤水懸濁液を用いて、回転速度、押付け荷重を固定した回転ブラシで一定時間摩擦して傷をつけ、この摩擦前後の20°光沢値の変化をその保持率(%)で表示。値が大きい程、傷による光沢低下が少なく良好。
(g) 塗膜の耐酸性試験
10容積%の硫酸を塗膜表面に滴下し、室温にて1日放置した。その後、硫酸液滴を拭き取り、外観を観察して、次の◎〜×の指標で判定した。
◎ 痕跡なし
○ 非常にわずかに痕跡がある
× 明確な痕跡あり
(h) 塗膜の耐溶剤性
キシレンを含浸させたガーゼで塗膜表面を往復5回擦った後、その塗膜を観察して、次の◎〜×の指標で判定した。
◎ 痕跡なし
○ 非常にわずかに痕跡がある
× 明確な痕跡あり
(i) 完成粉体塗料の凝集性試験
完成粉体塗料6.0gを内径20mmの円筒形容器に入れて密閉し、30℃で7日間貯蔵した後に取り出し、ブロッキング状態を目視及び指触にて評価し、次の◎〜×の指標で判定した。
◎ 凝集が全く見られない
○ 僅かに凝集が見られる
× 顕著に凝集が見られる
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
[評価結果]
表3に、[製造実施例−1〜7]とこれに関連する「製造比較例−1〜4」から得られた完成粉体塗料の各々について、塗膜の硬化方法と各種評価結果を一括して整理・総括する。塗膜の光沢、平滑度、およびクレーター発生数については、本願発明の芳香族系炭化水素樹脂(C)が従来の流動調整剤と同様の改善効果を有することを示している。さらに、塗膜の機械特性(擦傷性)、化学特性(耐酸性、耐溶剤性)については、本願発明の芳香族系炭化水素樹脂(C)が、従来の流動調整剤を凌ぐ高い改善効果を示す事を示している。また、製造例で示したように常温で固体の流動調整剤を選定・使用した場合の方が、粉体塗料粒子が固結・凝集(ブロッキング)するという問題をも解消できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性基を有する主剤樹脂成分(A)、この反応性基と架橋反応する官能性化合物(b−1)及び/又は光重合開始剤(b−2)とからなる硬化剤成分(B)と、芳香族系炭化水素樹脂(C)とからなることを特徴とする硬化性粉体塗料。
【請求項2】
芳香族系炭化水素樹脂(C)が、α−メチルスチレン、イソプロペニルトルエン、インデンからなる群から選択される、少なくとも一種類の芳香族系単量体を必須の単量体として構成されることを特徴とする請求項1に記載の硬化性粉体塗料。
【請求項3】
芳香族系炭化水素樹脂(C)の使用量が、主剤樹脂成分(A)と硬化剤成分(B)との合計100重量部に対し、0.01〜5.0重量部であることを特徴とする請求項1に記載の硬化性粉体塗料。
【請求項4】
芳香族系炭化水素樹脂(C)が、アミドワックス(D)と予め溶融状態で混合されている請求項1に記載の硬化性粉体塗料。
【請求項5】
主剤樹脂成分(A)が有する反応性基が、カルボキシル基、水酸基、グリシジル基、ビニル基からなる群から選択される、少なくとも一種類である事を特徴とする請求項1に記載の硬化性粉体塗料。
【請求項6】
官能性化合物(b−1)が、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基、グリシジル基、イソシアネート基、アルコキシメチル基からなる群から選択される少なくとも一種類の反応性基を有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載の硬化性粉体塗料。

【公開番号】特開2007−153974(P2007−153974A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348905(P2005−348905)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】