説明

硬化性組成物及びそれを接着に用いた構造体

【課題】 有機溶剤を使用することなく、従来の酢酸ビニル溶剤系接着剤と同等以上の接着性能を有し、さらに使用後の容器が廃棄物とならない硬化性組成物を提供する。
【解決手段】 セメント、再乳化樹脂粉末、炭酸カルシウムを含有することを特徴とする硬化性組成物を用いる。従来の酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤と同等以上の性能を有しながら、産業廃棄物の発生や有機溶剤使用の問題が発生することないため、モルタル等のアルカリ性無機下地へ木レンガ等の木質材料系被着体を施工する際に好適に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にアルカリ性無機下地に木質材料等の被着体を接着する際に有用な硬化性組成物及び前記硬化性組成物を用い、アルカリ性無機下地に被着体が接着された構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤は酢酸ビニル樹脂をメタノール等の有機溶剤に溶解させたものであり、垂れにくい、初期の納まりが良い、肉厚に塗布できるため不陸調整ができる等の特徴を有している。そこで、例えば建築現場において垂直なモルタル面に木れんがを施工する際の接着剤として利用されてきた。
【0003】
一方、溶剤系接着剤は引火性や人体への有害性等の点から、保管や取扱いの際には一定の設備や対策が必要であったり、施工後に有機溶剤を放散することがいわゆるシックハウス症候群の一因となる場合があるため、特に住宅への使用は避けられるようになり、各分野において溶剤型接着剤から水系接着剤への転換が図られてきた。
【0004】
ところが、木レンガを施工する際に水系のアクリル樹脂系エマルション形接着剤を用いると、内部乾燥に多大な時間を要するため肉厚に塗布できず、不陸調整が十分にできないという問題が発生する。また、酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤及びアクリル樹脂系エマルション形接着剤の両者に共通する問題として、使用後の容器(通常、金属缶やプラスチック缶が用いられ、使用後は樹脂が付着・残存する)が産業廃棄物となってしまうという点が挙げられる。
【0005】
特許文献1には水性マスチック型接着剤組成物が開示されているが、該組成物は性状を考慮すると金属やプラスチックが一部使用された容器で供給されると考えるのが妥当である。従って、使用後の容器は産業廃棄物となってしまう。
【0006】
また、特許文献2には変成シリコーン系接着剤が提案されており、酢酸ビニル溶剤系接着剤よりも各種基材への接着性が優れているとの記載がされている。一方、変成シリコーン樹脂は耐アルカリ性が十分ではなく、基材がコンクリートやモルタル等のアルカリ性無機材料の場合は耐久性が十分ではない。また、湿気により硬化が進行するタイプの接着剤であり、金属缶やプラスチック缶等の容器が使用されているため、使用後に産業廃棄物となる問題があった。
【特許文献1】特開2002−265921号
【特許文献2】特開2000−239645号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は有機溶剤を使用することなく、従来の酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤と同等以上の接着性能を有し、さらに使用後の容器が廃棄物とならない硬化性組成物や、それを接着に用いた構造体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはセメントに再乳化樹脂粉末や各種骨材を配合したモルタルについて検討を行ったが、硬化物がもろいため木質材料等の被着体の寸法変化に追従できず、容易にはく離してしまう問題があった。検討を重ねた結果、モルタルを調製する際にセメント、再乳化樹脂粉末の他、さらに炭酸カルシウムを配合することにより、硬化物の物性が改善されて被着体の寸法変化に追従できるようになり、酢酸ビニル溶剤型接着剤を代替できる性能を有することを見出した。即ち、本発明はセメント、再乳化樹脂粉末、炭酸カルシウムを含有することを特徴とする硬化性組成物及び前記硬化性組成物を用いてアルカリ性無機下地に木レンガ等の木質材料系の被着体が接着された構造体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の硬化性組成物は有機溶剤を使用していないため、保管が容易で作業時も安全である他、施工後に有機溶剤を放散しないため住宅にも安心して使用できる。さらに、本発明の硬化性組成物を構成する各材料は紙袋形態で供給され、セメントの調合と同じような作業で調製できるため、使用後には紙袋が出るのみで樹脂が付着した金属やプラスチックのような産業廃棄物が発生しない。また、優れた不陸調整力や耐アルカリ性を有するため、特にアルカリ性無機下地に木レンガ等の木質材料系の被着体を施工する接着剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の硬化性組成物に用いるセメントは、建設業界において広く使用されており容易に入手することができる。セメントの種類は特に限定されないが、通常はポルトランドセメントを用いればよく、必要に応じて適切なセメントを選択する。
【0011】
再乳化粉末樹脂は、乳化重合により得られる各種樹脂エマルジョンの水分を噴霧乾燥することにより粉末化して得られる樹脂である。具体的にはアクリル樹脂、アクリル−ベオバ共重合樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル−ベオバ−アクリル共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、酢酸ビニル−ベオバ共重合樹脂、スチレン−ブタジエン共重合樹脂等を噴霧乾燥して得られた粉末状の再乳化粉末樹脂が使用できる。中でも、耐アルカリ性の点から、アクリル樹脂、アクリル−ベオバ共重合樹脂、酢酸ビニル−ベオバ−アクリル共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、酢酸ビニル−ベオバ共重合樹脂、スチレン−ブタジエン共重合樹脂が好ましい。セメント100重量部に対する再乳化粉末樹脂の配合量は10〜200重量部が好ましい。10重量部未満の場合、被着体への付着力が十分に発現しないため好ましくない。200重量部を超えると、セメントの硬化速度や硬化物の耐水性能が低下するため好ましくない。
【0012】
本発明の硬化性組成物は、セメント及び再乳化樹脂粉末に加えて、さらに炭酸カルシウムを配合することを特徴とする。炭酸カルシウムを配合することにより、硬化物に柔軟性が付与される。セメント100重量部に対する炭酸カルシウムの配合量は10〜200重量部が好ましい。この範囲内において、硬化物の柔軟性と密着性が両立できる。
【0013】
硬化性組成物には、前記各材料の他、通常モルタルを調製する際に用いられる、硅砂、石膏等の各種骨材や、消泡剤、ケイ酸ソーダ等の硬化促進剤、メチルセルロース等の増粘剤等を配合することができる。
【0014】
硬化性組成物は、前記各材料および水を混合することにより得られる。混合方法は特に制限はなく、ハンドミキサーやコテ等を使用し、均一になるまで充分に攪拌すればよい。
【0015】
本発明の硬化性組成物は、従来、酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤が使用されていたような各種用途に使用することができる。また、優れた不陸調整力や耐アルカリ性を有するため、特にアルカリ性無機下地へ木レンガ等を施工する接着剤として有用である。
【0016】
以下に、実施例、比較例により本発明について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
普通ポルトランドセメント35重量部、再乳化粉末樹脂(日本エヌエスシー株式会社製、商品名AP300S、酢酸ビニル−ベオバ−アクリル共重合樹脂)15重量部、炭酸カルシウム(備北粉化工業株式会社製、商品名BF−200)35重量部、7号硅砂30重量部、水40重量部を混合し、実施例1の硬化性組成物を得た。表1記載の配合に基づき同様に実施例2、3、比較例1、2の硬化性組成物を調製した。比較例3として酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤(金属缶入り)を用い、比較例4としてアクリル樹脂系エマルション形接着剤(金属缶入り)を用いた。各硬化性組成物について、以下の方法に従って性能を評価した。
【0018】
試験方法
ずれ
JISA5537の5.3「ずれ」の試験方法に準拠して行った。ずれが5mm以内のものを○と評価した。
接着強さ
JISA5537の5.2.5「引張割裂接着強さ」の試験方法に準拠して行った。接着強さが20N/mm以上のものを○、20N/mm未満のものを×と評価した。
不陸調整力
上記接着強さ試験において、接着層の厚さを5mmとし、養生時間を7日間とした他は接着強さ試験と同様に行った。接着強さが20N/mm以上のものを○、20N/mm未満のものを×と評価した。なお、前記接着強さが×評価となったものは本試験においても×評価となることが明らかであり、測定を行わなかった。
作業環境
有機溶剤を含有していないものを○、含有しているものを×と評価した。
産業廃棄物発生
包装形態として紙袋が用いられており、使用後に産業廃棄物とならないものを○と評価した。包装形態として金属やプラスチックが用いられており、使用後に産業廃棄物が発生するものを×と評価した。
【0019】
【表1】

【0020】
実施例の硬化性組成物は、各性能とも良好であった。比較例1、2では接着強さが不十分であった。比較例3は有機溶剤を含有しているため作業環境が悪く、容器が産業廃棄物となる点も不適であった。比較例4は不陸調整力が不足しており、容器が産業廃棄物となる点も不適であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、再乳化樹脂粉末、炭酸カルシウムを含有することを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
請求項1記載の硬化性組成物を用い、アルカリ性無機下地に被着体が接着されていることを特徴とする構造体。
【請求項3】
前記被着体が木質材料であることを特徴とする請求項2記載の構造体。

【公開番号】特開2008−222820(P2008−222820A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61689(P2007−61689)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】