説明

碍子の表面処理方法および碍子

【課題】 既設の碍子に対して塵埃などを付着しにくくすることが可能な碍子の表面処理方法を提供する。
【解決手段】 碍子1の釉薬層3の表面に、投射材Sを衝突させてピッチPが0.5μm以下である凹凸31を形成する。碍子1に付着する付着物Mよりも小さいピッチPの凹凸31が形成されているため、塵埃などの付着物Mは釉薬層1と点接触し、付着、堆積しにくくなり、雨などによって容易に洗浄・浄化される。しかも、釉薬層3の表面に投射材Sを衝突させるだけでよいため、既設の碍子1に対しても容易かつ現実的に表面処理することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、碍子に関し、特に、表面に塵埃などを付着しにくくする碍子の表面処理方法および、表面に塵埃などが付着しにくい碍子に関する。
【背景技術】
【0002】
碍子は、電線とその支持体である電柱や鉄塔などとの間を絶縁するものであり、高い電気的絶縁性を確保するために、磁器製のものが多く使用されている。しかし、磁器製の碍子は表面が平滑であるため、塵埃や塩の結晶などの付着物が表面に付着、堆積しやすく、塵埃などが付着すると碍子の絶縁特性が低下したり、局部的なアークが発生したりする原因となる。このため、碍子の表面を定期的に水洗いすることが望ましいが、作業に多大な労力と時間とを要する。このような事情から、碍子の基体の表面にシリコーンを含む表面層を形成し、塵埃などを付着しにくくした碍子が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、碍子をシリコーンゴムなどで構成し、塵埃などを付着しにくくしたポリマ碍子(有機碍子)が知られている。
【特許文献1】特開平10−214530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、わが国では、基体が磁器製でその表面に釉薬層が形成された碍子が、既に多く配設されている。一方、上記特許文献1に記載されたシリコーンを含む表面層を形成するには、碍子の表面にコーティング組成物を塗布し、熱処理や紫外線照射などによってコーティング組成物を硬化させる必要がある。従って、既設の碍子の表面に塵埃などが付着しにくくする(浄化作用を改善する)には、このような塗布、硬化作業を行わなければならないが、電柱や鉄塔などに配設されている既設の碍子に対して、このような作業を行うことは現実的に不可能である。また、すべての既設の碍子を、シリコーンを含む表面層が形成された碍子やポリマ碍子に置き換えるには、膨大な設備費と、時間、労力とを要する。
【0004】
そこでこの発明は、既設の碍子に対して塵埃などを付着しにくくすることが可能な碍子の表面処理方法および、表面に塵埃などが付着しにくい碍子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、基体が磁器製でその表面に釉薬層が形成された碍子の表面処理方法であって、前記釉薬層の表面に、前記碍子に付着する付着物よりも小さいピッチの凹凸を形成することを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の碍子の表面処理方法において、前記凹凸のピッチが0.5μm以下であることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の碍子の表面処理方法において、微粒子を前記釉薬層の表面に衝突させて前記凹凸を形成することを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、基体が磁器製でその表面に釉薬層が形成された碍子において、前記釉薬層の表面に、前記碍子に付着する付着物よりも小さいピッチの凹凸が形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の碍子において、前記凹凸のピッチが0.5μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1および4に記載の発明によれば、釉薬層の表面に、付着物よりも小さいピッチの凹凸が形成されているため、塵埃などの付着物は釉薬層の表面の凸部とのみ接触する、つまり釉薬層と点接触することになる。このため、釉薬層の表面に塵埃などが付着、堆積しにくく、付着しても雨などによって容易に洗浄・浄化される。しかも、請求項1に記載の発明によれば、釉薬層の表面に凹凸を形成するだけでよいため、既設の碍子に対しても、塵埃などを付着しにくくする表面処理を施すことが可能となる。
【0011】
請求項2および5に記載の発明によれば、釉薬層の表面の凹凸のピッチが0.5μm以下となっている。これは、碍子に付着する塵埃や塩の結晶などの付着物の大きさ(一辺の長さ)が、主に0.5μm以上であることを本発明者が見出したことによるものであり、これにより、付着物のほとんどを釉薬層の表面に付着しにくくすることが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、微粒子を釉薬層の表面に衝突させて凹凸を形成するため、例えば既存(市販)のショットブラスト装置で凹凸を形成することが可能となり、既設の碍子に対してより現実的かつ容易に表面処理することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0014】
図1〜4は、この発明の実施の形態に係る碍子の表面処理方法を示す図である。この表面処理方法は、本体部(基体)2が磁器製でその表面に釉薬層3が形成された碍子1に、塵埃や塩の結晶などの付着物Mが付着、堆積しにくくなるように表面処理する方法であり、この実施の形態では、電柱4に既に配設されている碍子1を処理対象とする。
【0015】
まず、図1に示すように、電柱4に落下物防止シート5を取り付ける。この落下物防止シート5は、電柱4上での作業の際に、工具などが地上に落下するのを防止するための落下物防止網と同等の構成であり、網の代わりにシートが配設された傘のような構造で、折り畳み(開閉)自在となっている。このような落下物防止シート5を取り付けることで、後述する投射材(ブラスト材)Sが地上に落下するのを防止して、回収しやすくするものである。
【0016】
この状態で、投射材(微粒子)Sを碍子1の釉薬層3の表面に衝突させて、碍子1に付着する付着物Mよりも小さいピッチPの凹凸31、すなわち、ピッチPが0.5μm以下の凹凸31を形成する。具体的には、作業者が、高所作業車のブーム(クレーン)の先端に配設されたバケットに乗り、図2に示すように、ブラスト機のノズル6を碍子1に向け、ブラスト機によって投射材Sを碍子1の表面に衝突させる。ここで、ブラスト機は、可搬型で、一般に広く市販、使用されているショットブラスト装置であり、圧縮空気によって投射材Sを投射する空気式(乾式)、水などに投射材Sを混合して噴射する湿式、あるいは遠心力などを利用して投射材Sを投射する機械式のいずれでもよく、作業環境や処理対象物などに応じて選択すればよい。この実施の形態では、空気式のブラスト機を使用し、集塵機が接続されており、集塵機によって投射材Sや粉塵などを回収できるようになっている。
【0017】
また、投射材Sの材質としては、釉薬層3の表面に上記のような凹凸31が形成できれば、鋳鉄や鋳鋼などの金属系や、アルミナや炭化珪素などのセラミック系、あるいはガラス粉末やナイロンなどのいずれでもよく、釉薬層3の材質、硬度や作業性などに応じて選択すればよい。さらに、使用する投射材Sは、数μmから0.数μm程度の微粒子で、その大きさは、釉薬層3の表面にピッチPが0.5μm以下の凹凸31が形成される大きさであればよく、形成される凹凸31の深さなどによって選択すればよい。例えば、球状の投射材Sの場合に、釉薬層3の硬度が低く、あるいは投射材Sの衝突力が強く、深い凹凸31が形成される(釉薬層3に投射材Sが深く食い込む)場合には、直径が小さい投射材Sを選択する。一方、釉薬層3の硬度が高く、あるいは投射材Sの衝突力が弱く、浅い凹凸31が形成される(釉薬層3に投射材Sが浅く食い込む)場合には、直径が大きい投射材Sを選択してもよい。
【0018】
このような投射材Sをブラスト機によって碍子1に衝突させる(投射する)ことで、図3に示すように、碍子1の釉薬層3の表面に凹凸31を形成する。このとき、凹凸31のピッチPが0.5μm以下になるようにブラスト時間(投射時間)を調整する。すなわち、ブラスト時間が長すぎると釉薬層3の表面が平坦になり凹凸31がなくなってしまうため、ブラスト機から投射される投射材Sの単位時間あたりの投射量などに応じて、ブラスト時間を調整する。また、凹凸31は、釉薬層3の全面に形成してもよいし、付着物Mが付着しやすい箇所、面範囲のみに形成してもよい。
【0019】
このような表面処理を施すことによって、釉薬層3の表面に、図4に示すような凹凸31が形成される。すなわち、凸部(山)と凸部との距離、あるいは凹部(谷)と凹部との距離であるピッチPが0.5μm以下である凹凸31が、釉薬層3の表面に形成される。そして、このような凹凸31が形成されることで、塵埃や塩の結晶などの付着物Mが碍子1に付着、堆積しにくくなる。
【0020】
すなわち、本発明者が調査した結果によると、碍子1に付着する付着物Mとして、大気中の煙じん(煙じん汚損、工業汚損)と、海面からの飛来海塩粒子(海塩汚損)とが主として挙げられる。さらに、煙じんの大きさ(一辺の長さ)は、主として0.5〜2μm程度であり、海塩粒子の大きさは、主として3〜18μm程度であり、塩害を起こすものは10μm以上と考えられる。この結果、凹凸31のピッチP(0.5μm以下)は、碍子1に付着する主たる付着物Mよりも小さく、図4に示すように付着物Mは、凹凸31の凸部とのみ接触する、つまり釉薬層3と点接触することになる。このため、釉薬層3の表面に煙じんなどの付着物Mが付着、堆積しにくく、付着しても雨などによって容易に洗浄・浄化される。すなわち、従来では、煙じんなどによる表面汚損がはなはだしい(付着が強い、あるいは堆積が大きい)場合に、降雨による雨洗作用だけでは十分に釉薬層3の表面を洗浄(付着物Mを除去)することができず、付着物Mが残存して次の付着によってさらに付着物Mが堆積してしまう。しかしながら、この実施の形態によれば、付着物Mが釉薬層3と点接触するため、付着物Mが付着しにくく、あるいはその付着力が弱く、堆積もしにくくなり、風力や雨洗作用によって十分に釉薬層3の表面を洗浄することが可能となる。この結果、碍子1の表面を水洗いする作業を削減することが可能となる。
【0021】
また、この表面処理方法によれば、釉薬層3の表面に凹凸31を形成するだけでよいため、上記のようにして、既設の碍子1に対しても塵埃などを付着しにくくする表面処理を施すことが可能となる。具体的には、投射材Sを釉薬層3の表面に衝突させて凹凸31を形成するため、広く市販されているブラスト機で凹凸31を形成することが可能となり、既設の碍子1に対してより現実的かつ容易に表面処理することが可能となる。さらに、上記のように、投射材Sは数μmから0.数μm程度の微粒子であるため、図2に示す碍子1のキャップ部やピン部などの金物部1aに投射材Sが衝突しても、金物部1aの亜鉛メッキなどのメッキ層に剥離や損傷を与えるおそれが極めて少ない。むしろ、投射材Sの衝突によるショットピーニング効果によって、メッキ層に圧縮残留応力が付与され、メッキ層の表面が保護強化される。
【0022】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、この実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、電柱4に既に配設されている碍子1を処理対象としているが、その他の既設の碍子、例えば変電所に配設されている碍子に対しても、適用できることは勿論である。また、電柱4や変電所などに配設されていない既存の碍子、例えば在庫として保管されている碍子に対して上記のような表面処理を施すことで、既存の通常の碍子を付着物Mが付着、堆積しにくい碍子に改変することができる。さらに、上記の実施の形態では、投射材Sを釉薬層3に衝突させるショットブラストによって凹凸31を形成しているが、微粒子を釉薬層3の表面に吹き付ける(付着させる)ことで凹凸31を形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の実施の形態に係る碍子の表面処理方法を示す全体正面図である。
【図2】図1の表面処理方法でのショットブラスト状態を示す正面図である。
【図3】図2のA部拡大断面図である。
【図4】図1の表面処理方法で処理された碍子の釉薬層の表面を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 碍子
1a 金物部
2 本体部(基体)
3 釉薬層
31 凹凸
4 電柱
5 落下物防止シート
6 ノズル
S 投射材(微粒子)
M 付着物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体が磁器製でその表面に釉薬層が形成された碍子の表面処理方法であって、
前記釉薬層の表面に、前記碍子に付着する付着物よりも小さいピッチの凹凸を形成することを特徴とする碍子の表面処理方法。
【請求項2】
前記凹凸のピッチが0.5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の碍子の表面処理方法。
【請求項3】
微粒子を前記釉薬層の表面に衝突させて前記凹凸を形成することを特徴とする請求項1に記載の碍子の表面処理方法。
【請求項4】
基体が磁器製でその表面に釉薬層が形成された碍子において、
前記釉薬層の表面に、前記碍子に付着する付着物よりも小さいピッチの凹凸が形成されていることを特徴とする碍子。
【請求項5】
前記凹凸のピッチが0.5μm以下であることを特徴とする請求項4に記載の碍子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−134972(P2009−134972A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309714(P2007−309714)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】