説明

碍子洗浄装置

【課題】 水洗いによる地絡事故を確実に防止する。
【解決手段】 ブッシング101を洗浄するために圧力水Wを噴射する方向を洗浄方向とし、洗浄方向以外の方向を非洗浄方向とし、圧力水Wを噴射する噴射口20を有するノズル2と、圧力水Wが供給されない状態では、ノズル2を非洗浄方向に向けて支持し、圧力水Wが供給されるに伴って、ノズル2を洗浄方向に向けていく制御シリンダ3と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無停電で碍子を水洗する碍子洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
沿岸地域で塩害の影響を受けやすい発変電所などでは、開閉装置のブッシング(碍子)に塩水や塵埃が付着することにより、地絡事故(絶縁不良事故)が発生するおそれがある。このため、台風が通過した後などに、無停電(活線状態)でブッシングを水洗いする活線碍子水洗が行われている。具体的には、図6に示すように、開閉装置100のブッシング101の充電部101aに向けて、ノズル110が設置され、加圧した水Wをノズル110から噴射することで、ブッシング101の充電部101aなどを洗浄するものである。さらに、この活線碍子水洗は、電力施設の稼動を停止せずに行うため、碍子に噴射する水の固有抵抗を測定するなど、水質管理を十分に行うことで、地絡事故の発生を防止している。
【0003】
また、碍子の外面の汚損状態を判定する汚損状態判定装置から散水装置へ、碍子の洗浄を指示し、散水装置に設けられたノズルから洗浄水を碍子に噴射する洗浄装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−353964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、活線碍子水洗は、台風が通過した後などに行われ、長期間行わない場合があり、長期間放置されることで、ノズルの先端に塩や塵埃が堆積する。このため、碍子を洗浄する水の水質を厳重に管理しても、ノズルから噴射される水には、塩や塵埃が混入してしまう。一方、図6に示す活線碍子水洗装置や特許文献1の洗浄装置では、ノズルが碍子に向けて固定されているため、洗浄開始当初に、塩や塵埃が混入した水が碍子に噴射されてしまい、地絡事故を誘引するおそれがある。また、洗浄開始時から急に充電部101aに水が噴射されることで、塩分濃度が高い水がブッシング101の表面に垂れ落ち、地絡事故を誘引するおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、水洗いによる地絡事故を確実に防止することが可能な碍子洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、加圧された水である圧力水を碍子に噴射することで、前記碍子を洗浄する碍子洗浄装置であって、前記碍子を洗浄するために前記圧力水を噴射する方向を洗浄方向とし、前記洗浄方向以外の方向を非洗浄方向とし、前記圧力水を噴射する噴射口を有するノズルと、前記圧力水が供給されない状態では、前記ノズルを前記非洗浄方向に向けて支持し、前記圧力水が供給されるに伴って、前記ノズルを前記洗浄方向に向けていく方向制御手段と、を備えることを特徴とする碍子洗浄装置である。
【0008】
この発明によれば、圧力水が供給されない状態では、方向制御手段によってノズルが非洗浄方向に向き、ノズルと方向制御手段に圧力水が供給されると、ノズルの噴射口から圧力水が噴射されるとともに、方向制御手段によってノズルが徐々に洗浄方向に向いていく。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の碍子洗浄装置において、前記圧力水が供給されない状態では、少なくとも前記ノズルの噴射口を覆い、前記圧力水が供給されることで前記覆いを解除する開閉手段を備えることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、圧力水が供給されない状態では、開閉手段によってノズルの噴射口が覆われ、ノズルと開閉手段に圧力水が供給されると、開閉手段によってノズルの噴射口の覆いが解除され、ノズルの噴射口から圧力水が噴射される。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、圧力水を噴射しながら、ノズルが徐々に非洗浄方向から洗浄方向に向うため、ノズルに塩や塵埃が付着していたとしても、洗浄方向に向くまでの間に、塩や塵埃を含む水が噴射、排出される。このため、塩や塵埃を含む水が、洗浄方向、つまり碍子洗浄のために圧力水を噴射すべき方向に噴射されることがなく、清浄な水により碍子が洗浄され、水洗いによる地絡事故を確実に防止することが可能となる。しかも、ノズルの向きを制御する方向制御手段の動力源が圧力水であり、電力などの他の動力を要しないため、電気などが供給できない場所や場合においても、ノズルの向きを制御することが可能となる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、碍子の洗浄作業を行わないときは、ノズルの噴射口が開閉手段で覆われるため、ノズルの噴射口に塩や塵埃などが付着せず、清浄な水だけを碍子に噴射することが可能となる。しかも、ノズルの噴射口の覆いを解除する開閉手段の動力源が圧力水であり、電力などの他の動力を要しないため、電気などが供給できない場所や場合においても、碍子の洗浄作業を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係わる碍子洗浄装置を示す正面図である。
【図2】図1の碍子洗浄装置で碍子を洗浄している状態を示す概観図である。
【図3】図1の碍子洗浄装置の洗浄開始当初の状態を示す正面図である。
【図4】図1の碍子洗浄装置の洗浄開始前の状態を示す正面図である。
【図5】図1の碍子洗浄装置で碍子以外に向けて圧力水を噴射している状態を示す概観図である。
【図6】従来の活線碍子水洗を示す概観図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、この発明の実施の形態について、図面を用いて詳しく説明する。
【0015】
図1ないし図5は、この実施の形態を示している。図2は、碍子洗浄装置1が碍子200に圧力水Wを噴射して洗浄している状態を示しており、この実施の形態では、開閉装置100の上方に突出したブッシング(碍子)101を洗浄対象とする。
【0016】
この実施の形態に係る碍子洗浄装置1は、開閉装置100に設けられた設置台102に設置され、図1に示すように、主として、ノズル2と、制御シリンダ(方向制御手段)3と、開閉体(開閉手段)4とを備えている。
【0017】
ノズル2は、耐腐食性が高い材料、例えばステンレス鋼で構成され、噴射部21と、筒体部22とを備えている。噴射部21は、円錐台状で複数の噴射口20が形成され、ノズル2に供給された圧力水Wを外部に向けて放射状に噴射可能となっている。
【0018】
筒体部22は、円筒状で噴射部21と一体的に形成され、筒内に装着された連結管51に対して、軸方向にスライド自在に配設されている。このような筒体部22と連結管51とは、ノズルケース50内に収容され、ノズルケース50内には、一端部が筒体部22の他端部(反噴射部21部)に係合されたスライド用バネ52が配設されている。そして、このスライド用バネ52により、筒体部22が常に連結管51に押圧・付勢されている。
【0019】
また、連結管51には、屈曲自在な高圧ゴムホース60の一端部が接続され、高圧ゴムホース60の他端部は、母管80に接続されている。さらに、母管80は、図示しないポンプを介して水タンクに接続され、ポンプの起動によって、水タンク内の水が、圧力水Wとして母管80に供給されるようになっている。そして、母管80に供給された圧力水Wが、高圧ゴムホース60を介して連結管51に圧送され、スライド用バネ52の力に抗して、ノズル2が開閉体4側にスライドするようになっている。なお、母管80には、母管80内の水を排出するための排水弁(逆止弁)81が設けられている。
【0020】
制御シリンダ3は、円筒状で、ピストン31が軸方向に往復動自在に配設され、ピストン31の下面側には、ピストン31を上方向に押圧・付勢する圧縮バネ32が配設されている。また、制御シリンダ3の上部には、取水ポート33と排出弁(逆止弁)34とが設けられ、取水ポート33には、給水ホース90を介して母管80が接続されている。ここで、給水ホース90には、制御シリンダ3への圧力水Wの流量を制御するオリフィス91が配設されている。
【0021】
一方、ノズルケース50の開閉体4側には、下方に突出した第1の支持部50aが形成され、この第1の支持部50aが、設置台102に設置された支持台70に対して回動自在に支持されている。さらに、ノズルケース50の反開閉体4側には、下方に突出しスライド孔50cを有する第2の支持部50bが形成され、ピストン31の先端に設けられたスライドピン35が、スライド自在にスライド孔50cに装着されている。
【0022】
そして、制御シリンダ3に圧力水Wが供給されない状態では、図4に示すように、圧縮バネ32によってピストン31が押し上げられて上死点に位置し、ノズルケース50の第2の支持部50b側が押し上げられ、ノズル2が下方に向いた状態となる。ここで、ブッシング101を洗浄するために圧力水Wを噴射すべき方向、具体的には充電部101aに向く方向を洗浄方向(目的の方向)、洗浄方向以外の方向を非洗浄方向とし、図4の状態では、ノズル2が非洗浄方向に向いている。また、制御シリンダ3に圧力水Wが供給されていくと、圧縮バネ32の力に抗してピストン31が押し下げられ、第1の支持部50aを中心にしてノズルケース50が回動し、ノズルケース50の開閉体4側が上方に向いていく。そして、ピストン31が下死点に達すると、図1に示すように、ノズルケース50の開閉体4側が斜め上方を向き、この向きが洗浄方向に設定されている。
【0023】
開閉体4は、ノズル2に圧力水Wが供給されない状態では、ノズル2の噴射口20を覆い、圧力水Wが供給されることでその覆いを解除するものであり、開閉カバー40、41と、開閉バネ42とを備えている。
【0024】
開閉カバー40、41は、耐腐食性が高い材料、例えばステンレス鋼で構成され、ともに略半球形で、その基部40a、41aを中心に回動自在に、ノズルケース50に取り付けられている。このような開閉カバー40、41の自由端部(反基部40a、41a)側を連結するように、圧縮コイルバネである開閉バネ42が取り付けられ、ノズル2に圧力水Wが供給されない状態では、開閉バネ42によって開閉カバー40、41が閉じ、ノズル2の先端部(噴射口20)がカバーされる。また、ノズル2に圧力水Wが供給されて、上記のようにノズル2が開閉体4側にスライドすると、開閉カバー40、41の内面40b、41bが押され、開閉バネ42の力に抗して開閉カバー40、41が開き、ノズル2の先端部が開放されるようになっている。
【0025】
次に、このような構成の碍子洗浄装置1の作用について説明する。
【0026】
まず、ブッシング101の洗浄を行わない待機状態では、母管80には圧力水Wが供給されず、図4に示すように、圧縮バネ32によってピストン31が押し上げられ、ノズル2が下方に向いている。さらに、開閉バネ42によって開閉カバー40、41が閉じ、ノズル2の先端部がカバーされており、これにより、長時間経過しても、ノズル2の先端部に塩や塵埃などが付着しないようになっている。
【0027】
次に、台風が通過した後に、あるいは定期的に、ブッシング101を洗浄する場合には、まず、ポンプを起動して、水タンク内の水を圧力水Wとして母管80に供給する。これにより、圧力水Wが高圧ゴムホース60を介して連結管51に圧送され、図3に示すように、ノズル2が開閉体4側にスライドし、開閉カバー40、41が開いて、ノズル2の先端部が開放される。そして、ノズル2の噴射口20から、圧力水Wの噴射が開始される。このとき、図5に示すように、圧力水Wは、下向きつまりブッシング101の根元側に向けて噴射される。
【0028】
続いて、圧力水Wが母管80に供給されると、ピストン31が押し下げられ、ノズルケース50が回動して、ノズル2の先端部が上方、つまりブッシング101の充電部101a側に向いていく。このように、噴射口20から圧力水Wを噴射しながら、ブッシング101の根元側から充電部101a側に、ノズル2の向きが徐々に変わっていく。そして、ピストン31が下死点に達した時点で、図1、2に示すように、ノズル2の先端部がブッシング101の充電部101aに向き、充電部101aに圧力水Wが集中的に噴射される状態となる。
【0029】
このような洗浄を所定時間行うことで、充電部101aを含むブッシング101に付着した塩や塵埃などが洗い落とされる。そして、洗浄終了後に、ポンプを停止することで、圧力水Wの圧力が下がり、母管80内の水が排水弁81から排出されるとともに、圧縮バネ32によってピストン31が押し上げられて、制御シリンダ3内の水が排出弁34から排出される。これにより、連結管51への圧力水Wの供給が停止し、スライド用バネ52によってノズル2が反開閉体4側に後退して、開閉バネ42によって開閉カバー40、41が閉じる。また、ピストン31の上昇に伴って、第1の支持部50aを中心にしてノズルケース50が回動し、ピストン31が上死点に達した時点で、ノズルケース50の開閉体4側、つまりノズル2の先端部が下方に向く。すなわち、上記の待機状態に戻るものである。
【0030】
以上のように、この碍子洗浄装置1によれば、圧力水Wを噴射しながら、ノズル2を徐々に目的の方向に向けていくため、ノズル2に塩や塵埃などが付着していたとしても、目的の方向に向くまでの間に、塩や塵埃などを含む水が噴射、排出される。このため、塩や塵埃などを含む水が、目的の方向に噴射されることがなく、清浄な水によりブッシング101が洗浄され、水洗いによる地絡事故を確実に防止することが可能となる。しかも、ブッシング101の根元側から充電部101a側に向けて、ノズル2の向きを変えていくため、急に充電部101a側に向けて噴射することで、塩分濃度が高い水がブッシング101の表面に垂れ落ちて地絡事故を誘引する、ということもない。
【0031】
さらに、ブッシング101の洗浄作業を行わないときは、ノズル2の先端部が開閉カバー40、41で覆われるため、ノズル2の先端部に塩や塵埃などが付着せず、清浄な水だけをブッシング101に噴射し、より確実に地絡事故を防止することが可能となる。また、ノズル2の向きの変更や、開閉カバー40、41の開閉は、ともに圧力水Wを動力源とするため、電力などの他の動力を要せず、電気などが供給できない場所や場合においても、適正にブッシング101の洗浄を行うことが可能となる。
【0032】
以上、この発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、制御シリンダ3のピストン31の往復動によってノズル2の向きを制御しているが、揺動シリンダによってノズル2の向きを変えるようにしてもよい。また、ノズル2を下向きから上向きへ上下方向に変える構成としているが、水平方向・横方向にノズル2の向きを変える構成としてもよい。さらに、圧力水Wを駆動源とするアクチュエータ(ピストン・シリンダなど)で、開閉カバー40、41を開閉する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 碍子洗浄装置
2 ノズル
20 噴射口
3 制御シリンダ(方向制御手段)
31 ピストン
32 圧縮バネ
4 開閉体(開閉手段)
40、41 開閉カバー
42 開閉バネ
50 ノズルケース
51 連結管
52 スライド用バネ
80 母管
100 開閉装置
101 ブッシング(碍子)
W 圧力水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧された水である圧力水を碍子に噴射することで、前記碍子を洗浄する碍子洗浄装置であって、
前記碍子を洗浄するために前記圧力水を噴射する方向を洗浄方向とし、前記洗浄方向以外の方向を非洗浄方向とし、
前記圧力水を噴射する噴射口を有するノズルと、
前記圧力水が供給されない状態では、前記ノズルを前記非洗浄方向に向けて支持し、前記圧力水が供給されるに伴って、前記ノズルを前記洗浄方向に向けていく方向制御手段と、
を備えることを特徴とする碍子洗浄装置。
【請求項2】
前記圧力水が供給されない状態では、少なくとも前記ノズルの噴射口を覆い、前記圧力水が供給されることで前記覆いを解除する開閉手段を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の碍子洗浄装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate